説明

癌ワクチン中のアジュバントとしてのラクトフェリン

【課題】癌を処置する方法の提供。
【解決手段】ラクトフェリン(LF)組成物を癌ワクチンと共に投与することによって癌を処置することに関する。特には、DNAワクチンとアジュバントとを投与する治療において用いられるアジュバント用のラクトフェリン組成物。ラクトフェリンが、ヒトラクトフェリンであるり、N末端ラクトフェリン変異体を含む。癌は、Her2+乳癌であるもの、また癌免疫療法が、HER-2/neu p185の細胞外ドメイン(ECD)によるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は米国仮特許出願第60/476,318号(2003年6月6日出願)および第60/498,236号(2003年8月27日出願)に基づく優先権を主張し、前記特許出願はそれぞれ参照によりそのまま本明細書に組み入れられる。
【0002】
(技術分野)
本発明は、ラクトフェリン(LF)の組成物を癌ワクチンと組み合わせて投与することにより、癌を処置する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
現在、多くの一般的癌タイプの処置にとって有効な選択肢はわずかしかない。与えられた個体に関する処置の経過は、診断、疾患の進行段階、ならびにその患者の年齢、性別、および全般的健康状態などの因子に依存する。癌処置の最も一般的な選択肢は外科手術、放射線療法、および化学療法である。外科手術は癌の診断および処置に中心的役割を果たしている。典型的には、生検および癌成長の除去には、外科的アプローチが必要である。しかし、癌が転移した後で広範囲に及ぶ場合は、外科手術が治癒をもたらすとは考えられず、代替的アプローチをとらなければならない。外科手術の副作用には、構造機能または器官機能の減少、および感染、出血、または凝固関連合併症の危険の増加が包含される。放射線療法、化学療法、生物療法および免疫療法は、癌の外科的処置に代わる選択肢である(非特許文献1〜3:Mayer,1998、Ohara,1998,Hoら,1998)。これらの代替療法の多くは欠点として副作用を持ち、その副作用には、骨髄抑制、皮膚刺激、嚥下困難、口内乾燥、悪心、下痢、脱毛、体重減少、および活力喪失が包含されうる(非特許文献4〜5:Curran,1998、Brizel,1998)。
【0004】
癌に対する免疫応答の分子的基礎の理解に著しい進歩があったことは、細胞性免疫の基本的機序の理解が深まったことと相まって、癌患者の有効な免疫療法を開発する新しい機会を開いた(非特許文献6:Dudleyら,2002)。免疫療法は、様々な腫瘍タイプを処置する潜在能力を有する先天免疫応答と特異的免疫応答との両方を含む。免疫療法的アプローチによる腫瘍抗原特異的Tリンパ球または非特異的マクロファージおよびナチュラルキラー(NK)細胞の活性化は、腫瘍細胞の破壊をもたらしうる(非特許文献7:Curielら,2002)。癌ワクチンは特異的免疫応答の誘導を伴う。しかし腫瘍抗原だけを投与したのでは適当な免疫応答を刺激するには十分でないことが多い。ワクチンレジメンに免疫アジュバントを組み込むと、しばしば、抗腫瘍活性が改善される(非特許文献8:Dredgeら,2002)。
【0005】
ラクトフェリンは一本鎖金属結合糖タンパク質である。単球、マクロファージ、リンパ球、および腸刷子縁細胞など、多くの細胞タイプは、ラクトフェリン受容体を持つことが知られている。ラクトフェリンはBリンパ球とTリンパ球のどちらにとっても不可欠な成長因子であるだけでなく、ラクトフェリンは宿主一次防御機構に関係する多様な機能を持っている。例えばラクトフェリンは、ナチュラルキラー(NK)細胞を活性化し、コロニー刺激活性を誘導し、多形核好中球(PMN)を活性化し、顆粒球形成を調節し、抗体依存性細胞傷害を増進し、リンホカイン活性化キラー(LAK)細胞活性を刺激し、マクロファージ活性を増強すると報告されている。
【0006】
組換えヒトラクトフェリンは、アスペルギルス(特許文献1:米国特許第6,080,559号)、ウシ(特許文献2:米国特許第5,919,913号)、イネ、トウモロコシ、サッカロミセス(特許文献3:米国特許第6,228,614号)およびピキア・パストリス(Pichia pastoris)(特許文献4〜6:米国特許第6,455,687号、第6,277,817号、第6,066,469号)を含むさまざまな原核生物および真核生物で発現させた後、精製されたと記載されている。完全長ヒトラクトフェリンを発現させるための発現系も記載されている(例えば特許文献7:米国特許第6,100,054号)。いずれの場合も、完全長cDNAの発現と、リーダーペプチドのプロセシング後にアミノ酸グリシンをN末端に持つ完全なタンパク質の精製とが、その教示内容の一部になっている。Nuijensら(特許文献8:米国特許第6,333,311号)は、別途、ヒトラクトフェリンの変異体を記載しているが、彼らの視点は、ラクトフェリンのN末端ドメインに見いだされるアルギニン残基の欠失または置換に限定されている。
【0007】
最近、ウシラクトフェリン(bLF)が、腫瘍形成および/または定着腫瘍の予防薬として使用された。本発明は、腫瘍を防止(予防)または処置(治療)するための癌ワクチンアジュバントとして、ラクトフェリンを初めて使用するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第6,080,559号
【特許文献2】米国特許第5,919,913号
【特許文献3】米国特許第6,228,614号
【特許文献4】米国特許第6,455,687号
【特許文献5】米国特許第6,277,817号
【特許文献6】米国特許第6,066,469号
【特許文献7】米国特許第6,100,054号
【特許文献8】米国特許第6,333,311号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Mayer,Radiat Oncol Investig. 6:281-8,1998
【非特許文献2】Ohara,Acta Oncol. 37:471-4,1998
【非特許文献3】Hoら,1998
【非特許文献4】Curran,1998
【非特許文献5】Brizel,1998
【非特許文献6】Dudley Mら,Science. 2002,298(5594):850-4
【非特許文献7】Curiel Tら,J. Clin. Invest. 2002,109:311-312
【非特許文献8】Dredge Kら,Cancer Immunol. Immunother. 2002,51(10):521-31
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は癌を防止または処置する方法に関する。この処置方法は、ラクトフェリンおよび癌免疫療法、例えば癌ワクチンの投与を伴う。したがってラクトフェリンは癌免疫療法のアジュバントとして使用することができると考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
薬学的に許容できる担体に分散されたラクトフェリン組成物はラクトフェリンを含むか、少なくともN末端グリシン残基が切除または置換されているN末端ラクトフェリン変異体を含む。ラクトフェリンは哺乳類ラクトフェリンであり、より具体的には、ラクトフェリンはヒトまたはウシラクトフェリンである。さらにまた、ラクトフェリンは組換えラクトフェリンである。N末端ラクトフェリン変異体には、少なくともN末端グリシン残基を欠く変異体またはN末端グリシン残基が置換されている変異体が含まれる。置換は、天然または人工アミノ酸残基によるN末端グリシン残基の置換を含むことができる。例えば置換は、正荷電アミノ酸残基もしくは負荷電アミノ酸残基によるN末端グリシン残基の置換、またはグリシン以外の中性アミノ酸残基によるN末端グリシン残基の置換を含むことができる。他のN末端ラクトフェリン変異体には、1以上のN末端残基を欠くラクトフェリン、またはN末端に1以上の置換を持つラクトフェリンが含まれる。特定の実施形態では、N末端ラクトフェリン変異体が、ラクトフェリン組成物の少なくとも1%、ラクトフェリン組成物の少なくとも5%、ラクトフェリン組成物の少なくとも10%、ラクトフェリン組成物の少なくとも25%、ラクトフェリン組成物の少なくとも50%、またはその中間にある任意の範囲を占める。
【0012】
投与されるラクトフェリンの量は1日あたり約1mg〜約100g、より好ましくは約10mg〜約100gである。より具体的には、本組成物は、約0.01%〜約100%のラクトフェリン濃度を持つ溶液剤、カプセル剤または錠剤である。
【0013】
本発明のもう一つの実施形態は、対象に癌免疫療法をアジュバントと共に投与するステップを含む癌処置方法であって、前記アジュバントが、対象における癌の改善をもたらすのに十分な量で投与されるラクトフェリン組成物である方法を含む。さらにまた、本方法は、化学療法、免疫療法、外科手術、生物療法、放射線療法またはそれらの組合せを追加的に投与することを、さらに含むことができる。
【0014】
ラクトフェリン組成物は経口投与、非経口投与または局所投与することができると考えられる。非経口投与は、皮下投与、筋肉内投与、腹腔内投与、静脈内投与、動脈内投与、心筋内投与、経心内膜投与、または髄腔内を包含するが、これらに限定されるわけではない。経口投与の場合は、ラクトフェリン組成物と組み合わせて制酸薬を投与することができる。ラクトフェリン組成物は遅延放出製剤に製剤化することができる。さらにまた、放出が小腸または大腸で起こるようにラクトフェリン組成物を製剤化することもできる。
【0015】
特定の実施形態では、癌が新生物を含む。新生物は、黒色腫、非小細胞肺、小細胞肺、肺、肝癌腫、網膜芽細胞腫、星状細胞種、膠芽腫、白血病、神経芽細胞腫、扁平上皮細胞、頭部、頸部、歯肉、舌、胸部、膵臓、前立腺、腎臓、骨、精巣、卵巣、中皮腫、肉腫、子宮頚部、胃腸、リンパ腫、脳、結腸、および膀胱からなる群より選択される。より具体的には、新生物は造血系新生物である。例示的な造血系新生物には、骨髄性白血病、急性リンパ芽球性白血病、骨髄異形成症候群、慢性骨髄単球性白血病、若年性骨髄単球性白血病、多発性骨髄腫、および慢性リンパ性白血病などがあるが、これらに限定されるわけではない。
【0016】
一定の実施形態では、免疫療法が抗原提示細胞を含む。より具体的には、ラクトフェリン組成物を抗原提示細胞にエクスビボ(ex vivo)で投与してから、その細胞を対象に投与する。細胞は同種異系または同系である。
【0017】
さらにまた、免疫療法は、対象への腫瘍抗原の投与、または対象への、癌抗原を発現させる核酸配列の投与を含む。特定の実施形態では、核酸配列がベクターに含まれる。
【0018】
さらにまた、免疫療法は、対象への、免疫調節性サイトカインを発現させる核酸配列を含有するベクターの投与を含む。
【0019】
さらにまた、免疫療法は、対象への、癌抗原の認識を促進するタンパク質または核酸の投与を含む。
【0020】
一定の実施形態では、ラクトフェリン組成物が免疫療法と同時におよび/または逐次的に投与される。
【0021】
本発明のもう一つの方法は、癌免疫療法およびアジュバントを対象に投与するステップを含む、癌を患っている対象または癌にかかりやすい対象における免疫系を強化する方法であって、そのアジュバントがラクトフェリン組成物である方法を含む。より具体的には、ラクトフェリンは経口投与される。
【0022】
一定の実施形態では、ラクトフェリンがインターロイキン18、GM-CSF、またはMIP-3アルファの産生を刺激する。さらにまた、インターロイキン18、GM-CSFまたはMIP-3アルファは、免疫細胞(例えばTリンパ球、ナチュラルキラー細胞、樹状細胞、抗原提示細胞または前駆細胞)の産生、成熟、移動または活性を刺激する。より具体的には、Tリンパ球は、CD4+、CD8+およびCD3+細胞からなる群より選択される。
【0023】
上記の説明は、以下に述べる本発明の詳細な説明がより良く理解されうるように、本発明の特徴および技術的利点をかなり大まかに概説したものである。本発明の特許請求の範囲の主題を形成する本発明のさらなる特徴および利点を、以下に説明する。本明細書に開示する概念および特定の実施形態は、それらと同じ本発明の目的を実施するために、それらに変更を加えたり、他の構造を設計したりするための基礎として、容易に利用できることを理解すべきである。また、そのような等価な構築物が、本願特許請求の範囲に記載する発明から逸脱しないことも理解すべきである。その構成と作動方法の両方について本発明に特有であると考えられる新規な特徴は、以下の説明を添付の図面と結びつけて考察すれば、より良く理解されるだろう。ただし、各図は例示と説明のために提供されるのであって、本発明の限界を定義するつもりでないことは、明確に理解すべきである。
【0024】
本発明がより完全に理解されるように、添付の図面について以下に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】ラクトフェリンの経口投与を伴う場合および伴わない場合の癌腫細胞腫瘍成長を表す。
【図2】マウスの粘膜免疫に対するrhLFの作用を表す。
【図3】ECD-TMワクチン接種および経口LFスケジュールを表す。
【図4A】BALB-neuTマウスにおける発癌に対する、ECD-TMワクチンと組み合わされた経口LFの作用を表す。
【図4B】BALB-neuTマウスにおける発癌に対する、ECD-TMワクチンと組み合わされた経口LFの作用を表す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本願に開示する発明には、本発明の範囲および精神から逸脱することなく、様々な実施形態および変更を加えうることは、当業者には明白である。
【0027】
(I.定義)
本明細書において、特許請求の範囲および/または明細書で「含む(comprising)」という用語と共に「ある/1つの/一(aまたはan)」という単語を使用する場合、それは「1(one)」を意味しうるが、「1以上(one or more)」「少なくとも1(at least one)」および「1または1を超える(one or more than one)」という意味も持ちうる。さらにまた、「持つ(having)」「包含する(including)」「含有する(containing)」および「含む(comprising)」という用語は可換的に用いられ、当業者は、これらの用語が非限定的用語であることを認識している。
【0028】
本明細書で使用する用語「アジュバント」は、医薬品製剤に添加される物質であって、活性成分の活性を強化または増強することによって活性成分の作用に影響を及ぼす物質を指す。アジュバントには、伝統的処置および/または療法の作用を強化または増強または拡張するために、伝統的処置および/または療法に追加されるか、それらと併用される処置および/または療法も包含される。
【0029】
本明細書で使用する用語「同種異系」は、抗原的に異なる細胞タイプまたは組織を指す。例えば同じ種から移植された細胞または組織は抗原的に異なりうる。
【0030】
本明細書で使用する用語「抗原」は、免疫応答を惹起する分子と定義される。この免疫応答は、抗体産生もしくは特異的免疫適格細胞の活性化、またはその両方を伴いうる。抗原は、生物、タンパク質/抗原のサブユニット、死滅させたまたは不活化した全細胞または溶解物に由来しうる。したがって、事実上全てのタンパク質またはペプチドを含む任意の高分子が抗原として働きうることは、当業者には理解される。さらにまた、抗原は組換えDNAまたはゲノムDNAにも由来しうる。病原性ゲノムのヌクレオチド配列もしくは部分ヌクレオチド配列または免疫応答を引き出すタンパク質の遺伝子もしくはそのような遺伝子の断片を含有する任意のDNAが抗原の合成をもたらすことは、当業者には理解される。
【0031】
本明細書で使用する用語「抗原提示細胞」は、抗原または抗原性組成物に対する免疫応答(すなわち免疫系のT細胞系またはB細胞系によるもの)を強化する任意の細胞である。
【0032】
本明細書で使用する用語「樹状細胞」または「DC」は、骨髄に由来する抗原提示細胞の一例と定義される。樹状細胞は分岐した形態または樹枝状の形態を持ち、T細胞応答の最も強力な刺激因子である。
【0033】
本明細書で使用する用語「エクスビボ(ex vivo)」は、身体の「外側」を指す。エクスビボ(ex vivo)とインビトロとを可換的に使用できることは、当業者には知られている。
【0034】
本明細書で使用する用語「非経口投与」には、腸を介した吸収を伴わずに化合物が対象に吸収される、あらゆる形式の投与が包含される。本発明で使用される例示的な非経口投与には、筋肉内投与、静脈内投与、腹腔内投与、腫瘍内投与、眼内投与、または関節内投与などがあるが、これらに限定されるわけではない。
【0035】
本明細書で使用する用語「経口投与」には、経口投与、口腔粘膜投与、経腸投与または胃内投与が包含される。
【0036】
本明細書で使用する用語「局所投与」には、真皮、表皮、皮下または粘膜表面への適用が包含される。
【0037】
本明細書で使用する用語「薬学的に許容できる担体」には、ありとあらゆる溶媒、分散媒、被覆材、抗細菌剤および抗真菌剤、等張化剤および吸収遅延剤などが包含される。薬学的活性物質へのそのような媒質および薬剤の使用は当技術分野ではよく知られている。好都合な媒質または薬剤が本発明のベクターまたは細胞と適合しない場合を除き、治療組成物にはその使用が見込まれる。補助活性成分も、本組成物に組み込むことができる。
【0038】
本明細書で使用する用語「ラクトフェリン組成物」は、ラクトフェリン、ラクトフェリンの一部もしくは部分、N末端ラクトフェリン変異体、またはそれらの組合せを指す。
【0039】
本明細書で使用する用語「ラクトフェリン」または「LF」は、天然または組換えラクトフェリンを指す。天然ラクトフェリンは哺乳類の乳汁もしくは初乳または他の天然源からの精製によって得ることができる。組換えラクトフェリン(rLF)は、遺伝子改変した動物、植物、真菌、細菌、または他の原核生物種もしくは真核生物種における組換え発現または直接生産によって製造するか、化学合成によって製造することができる。
【0040】
本明細書で使用する用語「ヒトラクトフェリン」または「hLF」は、天然または組換えヒトラクトフェリンを指す。天然ヒトラクトフェリンはヒト乳汁もしくは初乳または他の天然源からの精製によって得ることができる。組換えヒトラクトフェリン(rhLF)は、遺伝子改変した動物、植物、真菌、細菌、または他の原核生物種もしくは真核生物種における組換え発現または直接生産によって製造するか、化学合成によって製造することができる。
【0041】
本明細書で使用する用語「ウシラクトフェリン」または「bLF」は、天然または組換えウシラクトフェリンを指す。天然ウシラクトフェリンはウシ乳汁からの精製によって得ることができる。組換えウシラクトフェリン(rbLF)は、遺伝子改変した動物、植物、真菌、細菌、または他の原核生物種もしくは真核生物種における組換え発現または直接生産によって製造するか、化学合成によって製造することができる。
【0042】
本明細書で使用する用語「N末端ラクトフェリン変異体」は、少なくともN末端グリシンが切除および/または置換されているラクトフェリンを指す。N末端ラクトフェリン変異体には、1以上のN末端アミノ酸残基、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、または16個のN末端アミノ酸残基の欠失および/または置換も包含されるが、これらに限定されるわけではない。したがってN末端ラクトフェリン変異体は、少なくとも1〜16個のN末端アミノ酸残基の欠失もしくは切除および/または置換を含む。ラクトフェリンの少なくともN末端グリシンの欠失および/または置換は、例えば様々なサイトカイン(例えばIL-18、MIP-3α、GM-CSFまたはIFN-γ)の産生を刺激すること、様々なサイトカイン(例えばIL-2、IL-4、IL-5、IL-10、またはTNF-α)を阻害すること、および対象が持つ癌の医学的処置に関して対象の幸福を増進または強化する他のパラメータを改善することなどにより、完全長ラクトフェリンと同じ生物学的効果をもたらし、かつ/または、ラクトフェリンの生物学的活性を強化しうる。その一例として、どんな期間であれ対象の寿命の延長、疾患の新生物発生の減少または遅延、過剰増殖の減少、腫瘍成長の減少、転移の遅延、癌細胞、腫瘍細胞または他の任意の過剰増殖細胞の増殖速度の低下、任意の処置細胞または処置細胞の影響を受ける任意の細胞におけるアポトーシスの誘導、および対象の状態に起因すると考えることができる対象の痛みの減少が挙げられるが、これらに限るわけではない。
【0043】
本明細書で使用する用語「対象」は、ヒトまたはウシラクトフェリン組成物が本明細書に記載する方法に従って経口投与、局所投与および/または非経口投与される任意の哺乳動物対象を意味すると解釈される。特定の実施形態では、本発明の方法が、ヒト対象を処置するために使用される。もう一つの実施形態には、癌を患っているヒト対象を処置することが包含される。
【0044】
本明細書で使用する用語「同系」は、遺伝子型を持つ細胞、組織または動物を指す。例えば一卵性双生児または同じ同系交配株の動物。同系(syngeneic)と同遺伝子系(isogeneic)は可換的に用いることができる。
【0045】
本明細書で使用する用語「T細胞」は、様々な細胞性免疫反応に関与する胸腺由来細胞と定義される。
【0046】
本明細書で使用する用語「治療有効量」は、疾患または状態の症状の改善または矯正をもたらす量を指す。
【0047】
本明細書で使用する用語「処置する」および「処置」は、治療有効量のラクトフェリン組成物を、対象の疾患が改善されるように、対象に投与することを指す。改善は症状の任意の改善または矯正である。改善は観察可能なまたは測定可能な改善である。したがって、処置は疾患状態を改善しうるが、疾患の完全な治癒ではない場合もあることは、当業者には理解される。
【0048】
本明細書で使用する用語「ワクチン」は、その物質を投与することによって免疫応答(例えば抗体の産生)を惹起し、その結果として免疫を付与するために用いられる物質と定義される。したがってワクチンは抗原性および/または免疫原性組成物である。
【0049】
(II.ラクトフェリン)
本発明に従って使用されるラクトフェリンは、例えば哺乳動物の乳汁など(ただしこれに限定されるわけではない)の天然源からの単離および精製によって得ることができる。ラクトフェリンは、好ましくは、ウシまたはヒトラクトフェリンなどの哺乳類ラクトフェリンである。好ましい実施形態では、ラクトフェリンは、遺伝子改変した動物、植物または真核生物における組換え発現または直接生産など、当技術分野でよく知られよく使用されている遺伝子工学技術を使って組換え的に製造されるか、または化学合成によって製造される。例えば、参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,571,896号、第5,571,697号および第5,571,691号を参照されたい。
【0050】
一定の態様では、本発明は、生物学的活性、例えばサイトカインまたはケモカインを刺激および/または阻害する能力が、天然LFまたはrLFよりも強化されているラクトフェリン変異体を提供する。特に本発明は、少なくともN末端グリシン残基が置換および/または切除されているラクトフェリンの変異体を提供する。N末端ラクトフェリン変異体は自然に存在する場合もあるし、1以上のアミノ酸の置換または欠失によって修飾することもできる。
【0051】
欠失変異体は、参照により本明細書に組み入れられる米国特許第6,333,311号に記載されているように、ラクトフェリンのタンパク質分解および/または切除型ラクトフェリンをコードするポリヌクレオチドの発現によって製造することができる。
【0052】
置換変異体または交換変異体(replacement variant)では、通例、タンパク質内の1以上の部位で、あるアミノ酸が別のアミノ酸と交換されている。置換は保存的であることができる。すなわち、あるアミノ酸が、類似する形状および電荷を持つアミノ酸で置き換えられる。保存的置換は当技術分野ではよく知られており、例えばアラニンからセリンへの変化、アルギニンからリジンへの変化、アスパラギンからグルタミンまたはヒスチジンへの変化、アスパラギン酸からグルタミン酸への変化、システインからセリンへの変化、グルタミンからアスパラギンへの変化、グルタミン酸からアスパラギン酸への変化、グリシンからプロリンへの変化、ヒスチジンからアスパラギンまたはグルタミンへの変化、イソロイシンからロイシンまたはバリンへの変化、ロイシンからバリンまたはイソロイシンへの変化、リジンからアルギニンへの変化、メチオニンからロイシンまたはイソロイシンへの変化、フェニルアラニンからチロシン、ロイシンまたはメチオニンへの変化、セリンからスレオニンへの変化、スレオニンからセリンへの変化、トリプトファンからチロシンへの変化、チロシンからトリプトファンまたはフェニルアラニンへの変化、およびバリンからイソロイシンまたはロイシンへの変化などが、これに包含される。
【0053】
そのような改変を行うにあたって、アミノ酸のハイドロパシー指標(hydropathic index)を考慮することができる。タンパク質に相互作用的な生物学的機能を付与する際のハイドロパシーアミノ酸指標(hydropathic amino acid index)の重要性は、当技術分野では広く理解されている(KyteおよびDoolittle,1982)。アミノ酸の相対的ハイドロパシー特性(relative hydropathic character)は、結果として得られるタンパク質の二次構造に寄与し、それが結果として、タンパク質と、例えば酵素、基質、受容体、DNA、抗体、抗原などの他の分子との相互作用を特徴づけることは、一般的に受け入れられている。
【0054】
各アミノ酸には、その疎水性および電荷特徴に基づいて、ハイドロパシー指標が以下のように割り当てられている(KyteおよびDoolittle,1982):イソロイシン(+4.5)、バリン(+4.2)、ロイシン(+3.8)、フェニルアラニン(+2.8)、システイン/シスチン(+2.5)、メチオニン(+1.9)、アラニン(+1.8)、グリシン(−0.4)、スレオニン(−0.7)、セリン(−0.8)、トリプトファン(−0.9)、チロシン(−1.3)、プロリン(−1.6)、ヒスチジン(−3.2)、グルタミン酸(−3.5)、グルタミン(−3.5)、アスパラギン酸(−3.5)、アスパラギン(−3.5)、リジン(−3.9)およびアルギニン(−4.5)。
【0055】
一定のアミノ酸を、類似するハイドロパシー指標またはハイドロパシースコアを持つ他のアミノ酸で置換しても、類似する生物学的活性を持つタンパク質が得られること、すなわち生物学的機能が等価なタンパク質が得られることは、当技術分野では知られている。そのような改変を行なう際には、±2以内のハイドロパシー指標を持つアミノ酸同士を置換することが好ましく、±1以内のハイドロパシー指標を持つアミノ酸同士の置換はより好ましく、±0.5以内のハイドロパシー指標を持つアミノ酸同士の置換はより一層好ましい。
【0056】
類似するアミノ酸同士の置換を親水性に基づいて効果的に行いうることも、当技術分野では理解されている。参照により本明細書に組み入れられる米国特許第4,554,101号には、隣接アミノ酸の親水性によって決定されるタンパク質の最大局所平均親水性が、そのタンパク質の生物学的性質と相関関係にあることが述べられている。米国特許第4,554,101号に詳述されているように、以下の親水性値がアミノ酸残基に割り当てられている:アルギニン(+3.0)、リジン(+3.0)、アスパラギン酸(+3.0±1)、グルタミン酸(+3.0±1)、セリン(+0.3)、アスパラギン(+0.2)、グルタミン(+0.2)、グリシン(0)、スレオニン(−0.4)、プロリン(−0.5±1)、アラニン(−0.5)、ヒスチジン(−0.5)、システイン(−1.0)、メチオニン(−1.3)、バリン(−1.5)、ロイシン(−1.8)、イソロイシン(−1.8)、チロシン(−2.3)、フェニルアラニン(−2.5)およびトリプトファン(−3.4)。
【0057】
さらにまた、あるアミノ酸を、類似する親水性値を持つ別のアミノ酸の代わりに使用しても、生物学的に等価でありかつ免疫学的に等価であるタンパク質が得られると考えられる。そのような改変では、±2以内の親水性値を持つアミノ酸同士を置換することが好ましく、±1以内の親水性値を持つアミノ酸同士の置換はより好ましく、±0.5以内の親水性値を持つアミノ酸同士の置換はより一層好ましい。
【0058】
したがって本発明では、例えば参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,220,007号、第5,284,760号、第5,354,670号、第5,366,878号、第5,389,514号、第5,635,377号、第5,789,166号および第6,333,311号に開示されている部位特異的突然変異誘発法などの標準的な突然変異誘発技術を使って、置換変異体または交換変異体(replacement)を製造することができる。少なくともN末端グリシンアミノ酸残基は、20種類の天然アミノ酸のいずれか、例えば正荷電アミノ酸(アルギニン、リジン、またはヒスチジン)、中性アミノ酸(アラニン、アスパラギン、システイン、グルタミン、グリシン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン)および/または負荷電アミノ酸(アスパラギン酸またはグルタミン酸)と交換または置換することができると考えられる。さらにまた、N1〜N16の範囲内にある任意のアミノ酸残基を交換または置換することができると考えられる。当該タンパク質が、種々のサイトカイン(例えばIL-2、IL-4、IL-5、IL-10、またはTNF-α)を阻害しかつ/または対象が持つ癌の医学的処置に関して対象の幸福を増進または強化する他のパラメータを改善することによって種々のサイトカイン(例えばIL-18、MIP-3α、GM-CSFまたはIFN-γ)の産生を刺激している、その生物学的および/または機能的活性を保っている限り、N末端アミノ酸残基の少なくとも16個までを交換または置換することができると考えられる。その一例として、どんな期間であれ対象の寿命の延長、疾患の新生物発生の減少または遅延、過剰増殖の減少、腫瘍成長の減少、転移の遅延、癌細胞、腫瘍細胞または他の任意の過剰増殖細胞の増殖速度の低下、任意の処置細胞または処置細胞の影響を受ける任意の細胞におけるアポトーシスの誘導、および対象の状態に起因すると考えることができる対象の痛みの減少が挙げられるが、これらに限るわけではない。したがって本発明のN末端ラクトフェリン変異体は、ラクトフェリンの機能的等価物であるとみなされる。
【0059】
機能等価物に関して、許容できるレベルの等価な生物学的活性を持つ分子を維持し、かつ/またはラクトフェリン分子の生物学的活性を強化しながら、その分子の所定の部分内に加えることができる改変の数には限界があるという概念が、「生物学的に機能等価な」タンパク質の定義に内在していることは、当業者にはよく理解されている。したがって本明細書では、生物学的機能等価物は、選ばれたアミノ酸(またはコドン)が置換されていてもよいタンパク質と定義される。機能的活性は、種々のサイトカインまたはケモカインを刺激または阻害しかつ/または対象が持つ癌の医学的処置に関して対象の幸福を増進または強化するパラメータを改善するというラクトフェリンの能力と定義される。例えば、どんな期間であれ対象の寿命の延長、疾患の新生物発生の減少または遅延、過剰増殖の減少、腫瘍成長の減少、転移の遅延、癌細胞、腫瘍細胞または他の任意の過剰増殖細胞の増殖速度の低下、任意の処置細胞または処置細胞の影響を受ける任意の細胞におけるアポトーシスの誘導、および対象の状態に起因すると考えることができる対象の痛みの減少。
【0060】
さらにまた、N末端アミノ酸残基は、修飾および/または異常アミノ酸で置換することもできる。例示的な修飾および/または異常アミノ酸を以下の表に示すが、これらに限定されるわけではない。
【0061】
【表1】

【0062】
ラクトフェリン調製物(ラクトフェリン組成物)中のN末端ラクトフェリン変異体(欠失体および/または置換体)の存在と、その相対的割合は、標準的な方法を使ってエドマン分解法でN末端アミノ酸配列を決定することによって確認することができる。N末端ラクトフェリン変異体の相対的割合は、ラクトフェリン組成物の少なくとも1%、ラクトフェリン組成物の少なくとも5%、ラクトフェリン組成物の少なくとも10%、ラクトフェリン組成物の少なくとも25%、ラクトフェリン組成物の少なくとも50%、またはその中間にある任意の範囲を占める。
【0063】
この方法では、タンパク質を、塩基性条件下でアミノ末端にあるアミノ酸残基と反応してフェニルチオカルバミル誘導体(PTC-タンパク質)を形成するフェニルイソチオシアネート(PITC)と反応させる。次に、トリフルオロ酢酸を使って第1アミノ酸をアニリノチアゾリノン誘導体(ATZ-アミノ酸)として切り離すと、次の分解サイクルに利用される新しいアミノ末端が残る。
【0064】
N末端ラクトフェリン変異体のパーセンテージは、ダンシル化反応を使って、より正確に決定することもできる。簡単に述べると、塩化ダンシルをタンパク質とアルカリ条件(pH10)で反応させることによって、タンパク質をダンシル化する。ダンシル化に続いて、反応混合物を乾燥してペレット状にした後、6N HCl中で完全に加水分解する。RP HPLCにより、インライン蛍光計を使って、既知のダンシル化アミノ酸から構成される標品と比較して、N末端アミノ酸の割合を決定する。
【0065】
(III.薬学的組成物)
本発明は、薬学的担体中に分散させたラクトフェリンを含む組成物に向けられる。本発明の組成物中に含まれるラクトフェリンは、ラクトフェリンまたは少なくともN-1末端グリシン残基が切除もしくは置換されているN末端ラクトフェリン変異体を含む。N末端ラクトフェリン変異体には、少なくともN末端グリシン残基を欠くか、N末端グリシン残基の位置に置換を有する変異体が包含される。置換は、天然または人工アミノ酸残基によるN末端グリシン残基の置換を含むことができる。例えば置換は、N末端グリシン残基を正荷電アミノ酸残基もしくは負荷電アミノ酸残基で置換すること、またはN末端グリシン残基をグリシン以外の中性アミノ酸残基で置換することを含みうる。他のN末端ラクトフェリン変異体には、1以上のN末端残基を欠くラクトフェリン、またはN末端に1以上の置換を持つラクトフェリンが含まれる。N末端ラクトフェリン変異体は、組成物の少なくとも1%、組成物の少なくとも5%、組成物の少なくとも10%、組成物の少なくとも25%、組成物の少なくとも50%、またはその中間にある任意の範囲を占める。
【0066】
さらに本発明によれば、不活性希釈剤を含むまたは不活性希釈剤を含まない薬学的に許容できる担体に入った、投与に適した本発明の組成物が、提供される。担体は同化可能であるべきであり、担体には液状、半固形、例えばペースト、または固形担体が包含される。通常の媒質、薬剤、希釈剤または担体が受容者にとって、またはそこに含まれる組成物の治療有効性にとって有害である場合を除いて、本発明の方法を実施するための投与可能な組成物におけるその使用は適切である。担体または希釈剤の例には、脂肪、油、水、塩溶液、脂質、リポソーム、樹脂、結合剤、充填剤など、またはそれらの組合せが包含される。
【0067】
本発明によれば、組成物は、任意の便利で実用的な方法により、例えば溶解、懸濁、乳化、混合、封入、吸収などにより、担体と混和される。そのような作業は当業者にとっては日常的である。
【0068】
本発明の特定実施形態では、組成物を半固形または固形担体と十分に混和または混合する。この混合は摩砕などの任意の便利な方法で行うことができる。組成物が治療活性を失わないように、例えば胃内で変性しないように、混合工程で安定剤を添加することもできる。本組成物に使用される安定剤の例には、緩衝剤、グリシンおよびリジンなどのアミノ酸、デキストロース、マンノース、ガラクトース、フルクトース、ラクトース、スクロース、マルトース、ソルビトール、マンニトールなどの糖質、タンパク質分解酵素阻害剤などが包含される。さらにまた、EDTAなどの二価金属キレート剤も、本発明の組成物を安定化するために使用することができると考えられる。より好ましくは、経口投与される組成物の場合は、安定剤が胃酸の分泌に対するアンタゴニストも含むことができる。
【0069】
本発明のラクトフェリン組成物の投与は、任意の一般的な経路により、経口的、非経口的、または局所的に行なわれるだろう。例示的な経路には、経口、鼻腔、口腔粘膜、直腸、膣、非経口、筋肉内、腹腔内、静脈内、動脈内、腫瘍内、局所または皮膚経路などがあるが、これらに限定されるわけではない。このような組成物は通常、本明細書に記載の薬学的に許容できる組成物として投与されるだろう。
【0070】
半固形または固形担体と混和される経口投与用組成物は、さらに硬または軟ゼラチンカプセル剤、錠剤、または丸剤に製剤化することができる。より好ましくは、ゼラチンカプセル剤、錠剤または丸剤は、腸溶コーティングされる。腸溶コーティングは、pHが酸性である胃または腸上部で組成物が変性するのを防止する。例えば米国特許第5,629,001号を参照されたい。小腸に到達すると、そこでの塩基性pHがコーティングを溶解することにより、ラクトフェリン組成物は放出され、例えば腸上皮細胞およびパイエル板M細胞などの専門細胞によって吸収されることが可能になる。
【0071】
もう一つの実施形態では、粉状組成物を、安定剤を含むまたは安定剤を含まない液体担体、例えば水または塩溶液などと混和する。
【0072】
本発明の組成物は中性の形態または塩の形態で製剤化することができる。薬学的に許容できる塩には、例えば塩酸もしくはリン酸などの無機酸、または酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸などの有機酸を使って形成される酸付加塩(タンパク質の遊離アミノ基を使って形成されるもの)が包含される。また、遊離カルボキシル基を使って形成される塩も、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム、または水酸化第二鉄などの無機塩基、およびイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジン、プロカインなどの有機塩基から得ることができる。
【0073】
滅菌注射可能溶液は、必要量のラクトフェリンを、適当な溶媒に、必要に応じて上に列挙した様々な他の成分と共に組み込んだ後、濾過滅菌することによって製造される。一般に、分散液は、基礎分散媒と上に列挙したものから選択される他の必要な成分とを含有する滅菌賦形剤に、様々な滅菌活性成分を組み込むことによって製造される。滅菌注射可能溶液を製造するための滅菌粉末の場合、好ましい製造方法は、活性成分と所望する他の任意の成分との粉末を、前もって滅菌濾過しておいたそれらの溶液から生じさせる、減圧乾燥および凍結乾燥技術である。
【0074】
また、半固形担体と混和された局所投与用組成物を、さらにゲル軟膏に製剤化することができる。ゲル軟膏を形成させるための好ましい担体はゲルポリマーである。本発明のゲル組成物を製造するために使用される好ましいポリマーには、カーボポール、カルボキシメチルセルロース、およびプルロニックポリマーなどがあるが、これらに限定されるわけではない。具体的に述べると、皮膚上または皮膚下の癌を処置するために皮膚に適用する場合は、粉状ラクトフェリン組成物を、濃度0.01%〜5%重量/体積の重合剤、例えばカーボポール980を含有する水性ゲルと混和する。
【0075】
本発明におけるラクトフェリンの量は、ラクトフェリン約1mgから約100gまで、より好ましくは1日あたり1mgから100gまで変動しうる。好ましい実施形態では、本発明の組成物は、約0.01%〜約100%のラクトフェリン濃度を含む。ラクトフェリン組成物は、ラクトフェリン、または少なくともN-1末端グリシン残基が切除および/または置換されているN末端ラクトフェリン変異体を含みうる。
【0076】
製剤化したら、その投与製剤に適合する方法により、症状の改善または矯正をもたらすのに治療的に有効であるような量で、溶液を投与する。製剤は、例えば摂取可能な溶液、薬物放出カプセル剤などのさまざまな剤形で、容易に投与される。処置される対象の状態に応じて、投与量には多少の変動が起こりうる。いずれにせよ、投与責任者は個々の対象に適した投与量を決定することができる。さらにまた、ヒトに投与する場合、調製物は、FDA生物製剤局の基準が要求する滅菌性、一般安全性および純度基準を満たす。
【0077】
(IV.癌の処置)
本発明によれば、上記薬学的担体のいずれかに入れて提供されるラクトフェリン組成物は、癌免疫療法または癌ワクチンと組み合わせて、癌の疑いがある対象または癌を持つ対象に投与される。したがって、ラクトフェリンがアジュバントとして働いていることは、当業者には理解される。この方法では、本発明のラクトフェリン組成物および免疫療法剤または複数の因子を同時に投与する。これは、両方の薬剤(ラクトフェリンおよび癌ワクチン)を含む単一の組成物または薬学的製剤を投与することによって、または2つの異なる組成物または製剤(一方の組成物はラクトフェリン組成物を含み、他方は癌ワクチンを含むもの)を同時に、もしくはこの作用の重なりが起こるように十分に近接した時間に投与することによって、達成することができる。ラクトフェリン組成物および癌ワクチンは逐次的に投与することもできると考えられる。
【0078】
癌には新生物が包含されるが、これに限定されるわけではない。新生物は、一般に細胞増殖により、正常組織成長よりも迅速に成長する独特な塊を形成する、異常な組織成長である。新生物は、構造的組織化および正常組織との機能的協調の部分的または完全な欠如を示す。これらは3つの主要タイプに大別することができる。上皮構造物から生じる悪性新生物は癌腫と呼ばれ、筋肉、軟骨、脂肪または骨などの結合組織から派生する悪性新生物は肉腫と呼ばれ、免疫系の成分を含む造血構造物(血球の形成に関係する構造物)を冒す悪性腫瘍を白血病、リンパ腫および骨髄腫と呼ぶ。腫瘍は癌疾患の新生物性成長である。本明細書において「新生物」は「腫瘍」ともいい、固形新生物だけでなく造血系新生物も包含するものとする。新生物の例には、黒色腫、非小細胞肺、小細胞肺、肺、肝癌腫、網膜芽細胞腫、星状細胞種、膠芽腫、歯肉、舌、白血病、神経芽細胞腫、頭部、頸部、胸部、膵臓、前立腺、腎臓、骨、精巣、卵巣、中皮腫、肉腫、子宮頚部、胃腸、リンパ腫、脳、結腸、膀胱、骨髄腫、または他の悪性もしくは良性新生物が包含されるが、これらに限定されるわけではない。
【0079】
より具体的には、新生物は、急性骨髄性白血病、急性リンパ芽球性白血病、骨髄異形成症候群、慢性骨髄単球性白血病、若年性骨髄単球性白血病、多発性骨髄腫、および慢性リンパ性白血病からなる群より選択される造血系新生物である。
【0080】
〈A.免疫療法〉
免疫療法剤は、一般に、免疫エフェクター細胞および免疫エフェクター分子の使用による癌細胞のターゲティングおよび破壊に依拠している。免疫エフェクターは、例えば、腫瘍細胞表面上の何らかのマーカーに特異的な抗体であることができる。抗体単独で治療のエフェクターとして役立つ場合もあるし、抗体が他の細胞を動員して、細胞の殺滅を実際に達成する場合もある。抗体は薬物または毒素(化学療法剤、放射性核種、リシンA鎖、コレラ毒素、百日咳毒素など)にコンジュゲートして、単なるターゲティング剤として役立たせることもできる。もう一つの選択肢として、エフェクターは、腫瘍細胞標的と直接的または間接的に相互作用する表面分子を保持するリンパ球であることもできる。様々なエフェクター細胞には細胞傷害性T細胞およびNK細胞が包含される。
【0081】
腫瘍関連抗原の同定における改善は新しいワクチン戦略の発生を刺激した(Sabelら,2002)。これらの戦略は2つのカテゴリーに分類することができる。すなわち、腫瘍抗原が同定されており、分子的に定義されたワクチンを開発するためにその腫瘍抗原を単離することができる抗原特異的ワクチンと、腫瘍特異的抗原は未知であるがワクチンの生成に使用される材料内に存在すると推定される細胞ワクチンまたは非抗原特異的ワクチンである(Borrelloら,2002)。腫瘍特異的抗原は4つのカテゴリーに分類することができる。すなわち、突然変異の産物であるユニークな腫瘍特異的抗原、ウイルス関連癌におけるウイルス抗原、組織特異的分化抗原、および腫瘍選択的抗原である(D.Pardoll,2002)。
【0082】
癌に対する能動的免疫化は、腫瘍特異的ペプチドワクチンを、炎症を誘導し免疫を刺激するように意図された免疫アジュバントと共に患者に送達することによって、達成することができる(Machielsら,2002)。これに代わるもう一つのアプローチは、細胞ワクチンの使用である。自家細胞ワクチンは生物学的に適当な抗原を免疫系に提示するが、これはワクチンを製造するのに十分な腫瘍を持つ個体に限定される(Changら,2003)。同種異系細胞ワクチンは、腫瘍関連抗原が多数の患者間で共通であり、したがって培養細胞株から製造されたワクチンが多くの患者で抗腫瘍免疫応答を刺激しうるという事実に基づいている(Vaishampayanら,2002)。ワクチン療法の他のいくつかのアプローチには、なかんずく、ガングリオシドワクチン(Knutson,2002)、ウイルス癌溶解物(viral oncolysate)(Horvathら,1999)、抗イディオタイプ抗体(Alfonsoら,2002)、サイトカイン遺伝子改変腫瘍細胞ワクチン(Forniら,2000)、樹状細胞ワクチン(Curielら,2002)、およびDNAワクチン(Bronte,2001)などがある。
【0083】
そのようなワクチンには、ペプチドワクチンまたは樹状細胞ワクチンが包含される。ペプチドワクチンには、細胞傷害性Tリンパ球によって認識される任意の腫瘍特異的抗原を含めることができる。さらにまた、樹状細胞ワクチン接種が、ペプチドまたは抗原をパルスした樹状細胞を含むこと、およびパルスされた樹状細胞が患者に投与されることは、当業者には理解される。
【0084】
〈B.処置〉
本発明は癌の処置を企図する。本発明は、癌免疫療法をラクトフェリン組成物と組み合わせて使用するにあたり、癌を持つ対象を、処置の結果としてこれらの対象に治療上の利益が付与されるように処置することに関すると考えられる。したがって治療上の利益とは、対象が持つ癌の医学的処置に関して対象の幸福を増進または強化するような結果を指す。その一例として、どんな期間であれ対象の寿命の延長、疾患の新生物発生の減少または遅延、過剰増殖の減少、腫瘍成長の減少、転移の遅延、癌細胞、腫瘍細胞または他の任意の過剰増殖細胞の増殖速度の低下、任意の処置細胞または処置細胞の影響を受ける任意の細胞におけるアポトーシスの誘導、および対象の状態に起因すると考えることができる対象の痛みの減少が挙げられるが、これらに限るわけではない。
【0085】
処置レジメンも様々であり、使用する癌ワクチン、腫瘍タイプ、腫瘍の位置、疾患の進行、ならびに患者の健康状態および年齢に、しばしば依存する。一定の腫瘍タイプが攻撃的な処置を必要とし、それと同時に、一定の患者は負担の重いプロトコールを認容できないことは、明らかである。治療製剤の既知の効力および毒性(毒性がある場合)に基づいてそのような決定を行なうのは、臨床家が最適だろう。
【0086】
本発明の好ましい実施形態では、腫瘍の成長を減少、低下、阻害、または阻止するための免疫療法の作用を増強するために、ラクトフェリンを有効な量で投与する。ラクトフェリン組成物の量は、ラクトフェリン約1mgから約100gまで変化しうる。
【0087】
特定の実施形態では、ラクトフェリン組成物が単回投与量または複数回投与量で与えられる。単回投与量は日に1回、または日に複数回、または週に複数回、または月に1回、または月に複数回投与することができる。さらなる実施形態では、ラクトフェリン組成物が一連の投与量で与えられる。一連の投与量は、日に1回、または日に複数回、または週に1回、または週に複数回、または月に1回、または月に複数回投与することができる。
【0088】
具体的に述べると、本発明は、抗原特異的ワクチンの作用を増強するために、抗原特異的ワクチンおよび/またはDNAワクチンを、有効量のラクトフェリンと組み合わせて、細胞に提供しようとするものである。抗原特異的ワクチンの議論は参照によりこの項に組み入れられる。したがって、インビボおよびエクスビボ(ex vivo)状況で、遺伝子送達および/またはDNA送達を適用する方法は、当業者にはよく知られている。
【0089】
考えられるもう一つの治療法は、形質導入された抗原提示細胞および/または樹状細胞ワクチンの投与である。抗原提示細胞および/または樹状細胞に、インビトロまたはエクスビボ(ex vivo)で、抗原特異的DNAを形質導入する。次に、形質導入された抗原提示細胞および/または受容細胞を、ラクトフェリン組成物と組み合わせて投与する。
【0090】
さらにまた、本発明は、癌を患っている対象または癌にかかりやすい対象における免疫応答を強化する方法であって、DNAワクチンを含有する抗原提示細胞を、ラクトフェリン組成物と組み合わせて投与するステップを含む方法を包含する。抗原提示細胞は、対象の血液または対象の骨髄から得ることができる。一定の好ましい実施形態では、抗原提示細胞が骨髄から単離される。好ましい実施形態では、抗原提示細胞が同じ対象または異なる対象(例えば同じドナーまたは異なるドナー)に投与される。好ましい実施形態では、対象が癌を持つか、癌を持つと疑われる。
【0091】
本発明のさらにもう一つの実施形態は、癌を処置する方法であって、消化管中および/または体循環中のラクトフェリン組成物の量を増加させることによって、粘膜免疫系または全身免疫系を補足するステップを含む方法である。
【0092】
さらにまた、もう一つの実施形態は、対象の消化管における粘膜免疫応答を強化する方法であって、前記対象にヒトラクトフェリンを経口投与するステップを含む方法である。ヒトラクトフェリンは消化管中のインターロイキン18を刺激し、それが免疫細胞を強化すると考えられる。例えばインターロイキン18はTリンパ球またはナチュラルキラー細胞を強化する。特定の実施形態では、インターロイキン18(IL-18)がCD4+、CD8+およびCD3+細胞を強化する。IL-18が、インターロイキン12およびインターロイキン2と相乗的に作用してリンパ球IFN-γ産生を刺激するTh1サイトカインであることは、当業者には知られている。他のサイトカイン、例えばIL-1bまたはIL-12もしくはIFN-ガンマなど(ただしこれらに限定されるわけではない)も強化することができる。ヒトラクトフェリンは、経口投与後にインターロイキン18を刺激し、それが血管新生を阻害し、その結果、新血管形成に依存する腫瘍細胞に対する活性を持つことも考えられる。
【0093】
(V.組合せ処置)
癌ワクチン/アジュバント(本発明のラクトフェリン組成物)の有効性を増加させるために、本発明の癌ワクチン/アジュバント組成物を、例えば抗癌剤、または外科手術などの、癌の処置に有効な他の薬剤と組み合わせることが望ましいかもしれない。「抗癌」剤は、例えば癌細胞を殺すこと、癌細胞のアポトーシスを誘導すること、癌細胞の成長速度を低下させること、転移の発生率もしくは発生数を減少させること、腫瘍サイズを減少させること、腫瘍成長を阻害すること、腫瘍もしくは癌細胞への血液供給を減少させること、癌細胞もしくは腫瘍に免疫応答を強化すること、癌の進行を防止もしくは阻害すること、または癌患者の寿命を延ばすことなどにより、対象内の癌に負の影響を及ぼす能力を持つ。抗癌剤には、生物学的薬剤(生物療法)、化学療法剤、および放射線療法剤が包含される。より一般的には、これら他の組成物は、細胞を殺すか細胞の増殖を阻害するのに有効な全体量で与えられるだろう。このプロセスは、癌ワクチン/本発明のアジュバント組成物および薬剤または複数の因子を同時に投与することを含みうる。これは、両方の薬剤を含む単一の組成物または薬学的製剤を投与することによって、または2つの異なる組成物または製剤(一方の組成物は癌ワクチン/アジュバント組成物を含み、他方は第2の薬剤を含むもの)を同時に、もしくはこの作用の重なりが起こるように十分に近接した時間に投与することによって、達成することができる。
【0094】
あるいは、癌ワクチン/本発明のアジュバント組成物を、他の抗癌剤処置に先だって、または他の抗癌剤処置に続いて、数分〜数週間の間隔を置いて行なうこともできる。他の抗癌剤および癌ワクチン/アジュバント組成物が細胞に個別に投与または適用される実施形態では、一般的には、薬剤およびラクトフェリン組成物が細胞に対して有利に組み合わされた作用を発揮することができるように、各送達時の間にあまり期間を置かないことが保証されるだろう。そのような場合は、互いに1〜14日以内に、より好ましくは互いに約12〜24時間以内に、細胞を両方をモダリティーと接触させるか、細胞に両方のモダリティーを投与することが考えられる。しかし、状況によっては、処置期間をかなり延ばすことが望ましい場合もあり、その場合は数日(2、3、4、5、6または7)〜数週間(2、3、4、5、6、7または8)が、各投与の間に経過する。
【0095】
〈A.化学療法〉
癌療法には様々な化学物質に基づく処置も包含される。化学療法剤の一例には、抗生物質化学療法剤、例えばドキソルビシン、ダウノルビシン、アドリアマイシン、マイトマイシン(ムタマイシンおよび/またはマイトマイシンCとも呼ばれる)、アクチノマイシンD(ダクチノマイシン)、ブレオマイシン、プリコマイシン(Plicomycin)、植物アルカロイド、例えばタキソール、ビンクリスチン、ビンブラスチン、その他の薬剤、例えばシスプラチン(CDDP)、エトポシド(VP16)、腫瘍壊死因子、およびアルキル化剤、例えばカルムスチン、メルファラン(アルケラン、L-フェニルアラニンマスタード、フェニルアラニンマスタード、L-PAM、またはL-サルコリシンとも呼ばれる(ナイトロジェンマスタードのフェニルアラニン誘導体))、シクロホスファミド、クロラムブシル、ブスルファン(ミレランとも呼ばれる)、ロムスチンなどが包含されるが、これらに限定されるわけではない。
【0096】
他の薬剤の一例には、カルボプラチン、プロカルバジン、メクロルエタミン、イリノテカン、トポテカン、イホスファミド、ニトロソ尿素、エトポシド(VP16)、タモキシフェン、ラロキシフェン、トレミフェン、イドキシフェン、ドロロキシフェン、TAT-59、ジンドキシフェン、トリオキシフェン、ICI182,780、EM-800、エストロゲン受容体結合剤、ゲムシタビン、ナベルビン、ファルネシルタンパク質トランスフェラーゼ阻害剤、トランスプラチナム(Transplatinum)、5-フルオロウラシル、過酸化水素、およびメトトレキセート、テマゾロミド(Temazolomide)(DTICの水性型)、マイロターグ、ドラスタチン10、ブリオスタチン、または上記の任意の類似体もしくは誘導体変異体が包含されるが、これらに限定されるわけではない。
【0097】
〈B.放射線療法剤〉
放射線療法剤および放射線療法因子には、DNA損傷を誘発する放射線および波動、例えばγ照射、X線、UV照射、マイクロ波、電子放出、放射性核種などが包含される。治療は、局在化した腫瘍部位に、上述した形態の放射線を照射することによって達成することができる。これらの因子はいずれも、DNA、DNAの前駆体、DNAの複製および修復、ならびに染色体の集合および維持に、広範囲にわたる損傷をもたらすと思われる。
【0098】
X線の用量範囲は、長期間(3〜4週間)にわたる50〜200レントゲンの1日線量から、2000〜6000レントゲンの1回線量までにわたる。放射性同位体の用量範囲は広範囲に変化し、同位体の半減期、放出される放射線の強さおよびタイプ、ならびに新生物細胞による取り込みに依存する。
【0099】
〈C.外科手術〉
癌を持つ人々の約60%は、保存的、診断的または病期判定的、治癒的および姑息的外科手術を含む何らかのタイプの外科手術を受けるだろう。治癒的外科手術は、例えば本発明の処置、化学療法、放射線療法、ホルモン療法、遺伝子療法、免疫療法および/または代替療法などの他の治療法と併用することのできる癌処置である。
【0100】
治癒的外科手術には、癌組織の全部または一部を物理的に除去、切開および/または破壊する切除が包含される。腫瘍切除とは、腫瘍の少なくとも一部の物理的除去を指す。腫瘍切除の他に、外科手術による処置には、レーザー手術、凍結手術、電気外科、および顕微鏡手術(モース術)などが包含される。さらに、本発明は表在癌、前癌、または付帯的な量の正常組織の除去と共に使用することができると考えられる。
【0101】
癌細胞、癌組織、または腫瘍の一部または全部を切開すると、体内に空洞が生じうる。処置は、追加の抗癌療法によるその領域の灌流、直接注入または局所的適用によって達成することできる。そのような処置は、例えば1、2、3、4、5、6、もしくは7日ごとに、または1、2、3、4、および5週間ごとに、または1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、または12ヶ月ごとに、繰り返すことができる。これらの処置は、様々な投与量で行なうことができる。
【0102】
〈D.他の生物療法剤〉
処置の治療効力を改善するために他の生物学的薬剤を本発明と組み合わせて使用することができると考えられる。これらの追加薬剤には、例えば細胞表面受容体のアップレギュレーションおよびギャップジャンクションに影響を及ぼす薬剤、細胞分裂抑制剤および分化剤、細胞接着の阻害剤、アポトーシス誘導剤に対する過剰増殖細胞の感受性を増加させる薬剤、または他の生物学的薬剤、ならびに例えば温熱療法などの生物療法が包含されるが、これらに限定されるわけではない。
【0103】
温熱療法は、患者の組織を高温(106°Fまで)にさらす手法である。局所、局部または全身温熱療法の適用には外部または内部加熱装置が関わりうる。局所温熱療法では、腫瘍などの小領域に熱が適用される。熱は、体外の装置からの腫瘍を標的とする高周波によって、外から発生させることができる。内部熱には、細い加熱ワイヤまたは温水を充填した中空管、植込まれたマイクロ波アンテナ、またはラジオ波電極を含む滅菌プローブが関わりうる。
【0104】
局部療法の場合は患者の器官または四肢を加熱する。これは、高エネルギーを生成する磁石などの装置を使って達成される。あるいは、患者の血液の一部を取り出し、それを加熱してから、内部的に加熱される領域に注入することもできる。癌が体中に拡がっている場合は、全身加熱も実行しうる。この目的には、温水ブランケット、熱ワックス、誘導コイル、および温熱室を使用することができる。
【0105】
ホルモン療法も本発明と共に使用することができる。ホルモンの使用は、乳癌、前立腺癌、卵巣癌、または子宮頸癌などの一定の癌の処置に、一定のホルモン、例えばテストステロンまたはエストロゲンなどのレベルを低下させるか、その作用を遮断するために使用することができ、これはしばしば転移の危険を低下させる。
【0106】
アジュバント療法も本発明と共に使用することができる。アジュバントまたは免疫調節剤の使用には、腫瘍壊死因子、インターフェロン-アルファ、ベータ、およびガンマ、IL-2および他のサイトカイン、F42Kおよび他のサイトカイン類似体、またはMIP-1、MIP-1ベータ、MCP−1、RANTES、ならびに他のケモカインが包含されるが、これらに限定されるわけではない。
【実施例】
【0107】
本発明の好ましい実施形態を例示するために、以下に実施例を記載する。下記の実施例で開示する技術は、本発明の実施に際してうまく機能することを本発明者らが見いだした技術を表し、したがって本発明の好ましい実施の形態を構成するとみなしうることを、当業者は理解すべきである。しかし、ここに開示する特定の実施形態には多くの変更を施すことができ、それでもなお本発明の精神および範囲から逸脱することなく同様のまたは同等の結果が得られることを、当業者は、本明細書の開示に照らして、理解すべきである。
【0108】
〔実施例1〕
(経口LFはHer-2/neu可移植癌腫(TUBO)の成長を阻害する)
簡単に述べると、BALB/Cマウスの左脇腹中央の皮下(s.c.)に、1×105個のTUBO細胞を含有する単細胞懸濁液0.2mlをチャレンジした。TUBO注射の2日前および3週間(週5回、合計15回の処置)にわたって、経口rhLFまたは偽薬を投与した(1日1回につき1000mg/kg)。実験中は腫瘍を週に2回測定した。図1は、経口rhLFで処置したマウス(4匹/群)が有意な腫瘍阻害を示したのに対して(偽薬または対照に対してp<0.05)、偽薬で処置したマウスまたは処置しなかったマウスには活性が観察されなかったことを示している。
【0109】
この研究で得られた結果は、経口投与されたrhLFがHer-2/neu(r-p185)癌遺伝子を過剰発現させる可移植癌腫の腫瘍成長を有意に(p<0.05)阻害することを示している。さらに、これらの結果に基づいて、経口ラクトフェリンは腫瘍特異的抗原(Her-2/neu)に対する免疫細胞活性を強化することによって腫瘍に影響を及ぼすと考えられる。
【0110】
〔実施例2〕
(TUBOの予防におけるp185 DNAワクチンのアジュバントとしてのrhLFの評価)
DNAワクチン接種と組み合わされた経口LFのアジュバント効果を評価する。DNAワクチンと組み合わされた経口LFが、BALB/Cマウスにおいて、p185を発現させる同系癌腫細胞(TUBO)の致死的チャレンジに対する完全な保護を引き出すかどうかを決定する。DNAワクチンはラットp185(r-p185)の膜貫通(TM)ドメインおよび細胞外ドメイン(ECD)をコードするプラスミドからなる。p185の過剰発現はヒト癌でしばしば起こり、特有の攻撃性と相関する(Gullickら,1991)。
【0111】
p185ベクターは以下のように構築される。pCMVベクターは、pcDNA3プラスミド(Invitrogen、カリフォルニア州サンディエゴ)から、SV40プロモーター、ネオマイシン耐性遺伝子、およびSV40ポリ(A)を欠失させることによって得られる。ECDの配列および突然変異型r-p185のECDおよびTMドメインの配列は、Amiciら(Cancer Immunol. Immunother.,1998)が記載しているように、それぞれ、プライマー配列番号1:3'-CGCAAGCTTCATCATGGAGCTGGC-5'および配列番号2:3'-CGGAATTCGGGCTGGCTCTCTGCTC-5'、ならびにプライマー配列番号3:3'-CGCAAGCTTCATGGAGCTGGC-5'および配列番号4:3'-ATGAATTCTTTCCGCATCGTGTACTTCTTCCGG-5'を使って生成させる。予想サイズのPCR産物をアガロースゲル電気泳動によって単離し、HindIIIおよびEcoRIで消化し、pCMVプラスミドのマルチクローニング部位にクローニングすることにより、この研究で使用する2つのプラスミド(ECDおよびECD-TMプラスミド)を得る。β-ガラクトシダーゼをコードするpCMVb(Clontech Laboratories、カリフォルニア州パロアルト)を対照プラスミド(β-galプラスミド)として使用する。大腸菌DH5a株をECD、ECD-TM、およびβ-galプラスミドで形質転換した後、ルリア・ベルターニ培地(Sigma、ミズーリ州セントルイス)で生育する。プラスミドの大量調製は、Endofree Qiagen Plasmid-Gigaキット(Qiagen、カリフォルニア州チャッツワース)を使ったアルカリ溶解によって行なう。次に、DNAを沈殿させ、滅菌食塩水中に1mg/mlの濃度で懸濁させ、後に免疫化プロトコールで使用するために小分けして−20℃で保存した。
【0112】
免疫処置の間に14日の間隔を開けて、TUBOチャレンジの7日前および7日後に、ECD-TMプラスミドの筋肉内(i.m.)投与により、BALB/Cマウスを2回免疫処置した。プラスミド(100mg/注射)を28ゲージ針注射器により、大腿四頭筋に注射する。経口ラクトフェリン(1000mg/Kg)をTUBOチャレンジの7日前から開始して3週間に渡って毎日投与して、毎週5回、合計15回の処置を行なう。対照動物は経口偽薬およびDNAワクチン接種で処置し、対照動物にはrhLFを投与しない。
【0113】
実験中および実験終了時に固形腫瘍サイズを測定することによって処置の効力を評価する。腫瘍塊の直交する2つの直径をキャリパーで2週間に1回測定する。平均直径が3mmを越えた漸進的に成長する塊を腫瘍とみなす。成長は腫瘍が平均直径10mmを越えるまでモニターし、その時点で人道的理由からマウスを屠殺する。
【0114】
CD4およびCD8Tリンパ球、多形核細胞(PMN)、マクロファージ、NKおよび樹状細胞を表す腫瘍浸潤の形態学的解析により、免疫応答を測定する。内皮細胞接着分子の発現も腫瘍容器中で解析する。腫瘍および免疫細胞浸潤から得られるサイトカインプロファイルは、作用機序への洞察をさらに与える。TUBOに対する抗体応答を検出するために、抗r-p185抗体も、経口LFで処置したECD-TMワクチン接種マウスの血清中で解析する。対照群と比較して、経口LFで処置しECD-TM免疫処置したマウスの脾臓におけるTUBO細胞に対するCTL活性も解析する。
【0115】
〔実施例3〕
(TUBOの処置におけるp185 DNAワクチンのアジュバントとしてのrhLFの評価)
この研究では、BALB/Cマウスにおいてp185(TUBO)を発現させる定着した癌腫の成長を阻害するためのDNAワクチン接種と組み合わされた経口LFのアジュバント効果を、評価する。
【0116】
実験中および実験終了時に固形腫瘍サイズを測定することによって処置の効力を評価する。腫瘍塊の直交する2つの直径をキャリパーで2週間に1回測定する。平均直径が3mmを越えた漸進的に成長する塊を腫瘍とみなす。成長は腫瘍が平均直径10mmを越えるまでモニターし、その時点で人道的理由からマウスを屠殺する。
【0117】
CD4およびCD8Tリンパ球、多形核細胞(PMN)、マクロファージ、NKおよび樹状細胞を表す腫瘍浸潤の形態学的解析により、免疫応答を測定する。内皮細胞接着分子の発現も腫瘍容器中で解析する。腫瘍および免疫細胞浸潤から得られるサイトカインプロファイルは、作用機序への洞察をさらに与える。TUBOに対する抗体応答を検出するために、抗r-p185抗体も、経口LFで処置したECD-TMワクチン接種マウスの血清中で解析する。対照群と比較して、経口LFで処置しECD-TM免疫処置したマウスの脾臓におけるTUBO細胞に対するCTL活性も解析する。
【0118】
〔実施例4〕
(自然発生癌の阻害における経口LF)
5週目から20週目までは、毎週5日で3週間の処置クール後に1週間の休止期間をおいて、LFを毎日経口投与した(合計5クールの処置)。対照マウスには経口偽薬を同じスケジュールで投与し、対照動物にはLFを投与しない。
【0119】
5週齢から開始して、各マウスの乳腺を毎週1回検査し、塊の直交する2つの直径をキャリパーで測定する。無腫瘍マウス(%)およびマウス1匹あたりの平均腫瘍数を記録する。10個の乳腺全てに漸進的に成長する塊を示すマウスおよび33週齢に達したマウスを屠殺し、形態学的に検査した。
【0120】
処置に関する情報を与えずに経時的に乳腺の組織学的検査を行なうと、処置マウスにおけるHER-2/neu発癌の進行が明らかになる。非定型的過形成の発生(10週目)および原位置癌腫の数(15週目)により、DNAワクチン接種と組み合わされた経口LFによって誘導される抗腫瘍活性が示される。腫瘍進行は、動物の組織学的解析によって明らかな新血管形成、浸潤性CD8+、およびそれほどでないがCD4、リンパ球の欠如を伴う。LFで処置した腫瘍における血管形成およびT細胞浸潤のレベルが、経口LFの活性を明らかにする。
【0121】
経口LFに対する応答におけるCD8T細胞の役割を評価するために、経口LFで処置(上記と同じスケジュール)したBALB-NeuTマウスを4週齢で胸腺摘除し、200μgの抗CD8抗体を腹腔内投与する。5週齢から開始して各マウスの乳腺を週に1回検査し、塊の直交する2つの直径をキャリパーで測定する。
【0122】
〔実施例5〕
(自然発生癌腫の阻害における経口LFおよびDNAワクチン接種)
この研究では、DNAワクチン接種と組み合わされた経口LFの、BALB-NeuTマウスの全ての乳腺で起こる攻撃的な発癌を阻止する能力を評価する。
【0123】
BALB-NeuTマウスを14週齢時および16週齢時にECD-TMプラスミドで免疫処置し、6週目から30週目までは、毎週5日で3週間の処置クール後に1週間の休止期間をおいて、経口LF(1000mg/Kg)で処置した(合計7クール)(図3)。対照マウスにはECD-TMワクチン接種、経口FL、経口偽薬(7クール)を与えるか、処置しなかった。腫瘍の発生および成長を追跡するためにマウスを毎週検査することによって、個別処置および組合せ処置の効力を評価した。腫瘍塊の直交する2つの直径をキャリパーで測定し、無腫瘍マウス(%)およびマウス1匹あたりの平均腫瘍数を記録した。10個の乳腺の全てに漸進的に成長する塊を示すマウスを人道上の理由から屠殺した。
【0124】
図4は、10個の乳腺全てに触診可能な塊を持たない割合がECD-TMをワクチン接種したマウスの20%でしかない34週の時点で、ECD-TMと組み合わされた経口LFで処置したマウスの80%は無腫瘍だったことを示している(図4A)。腫瘍多重度の有意な低下も明白だった(図4B)。
【0125】
15匹の無処置群(●)、15匹のワクチン接種群(○)、5匹の偽薬処置群(□)、5匹のLF処置群(■)および5匹のLF処置+ワクチン接種マウス群(◆)における第1腫瘍の出現時間(図4A)およびマウス1匹あたりの触診可能な乳癌腫の平均数(図4B)。
【0126】
処置に関する情報を与えずに経時的に乳腺の組織学的検査を行なうと、処置マウスにおけるHER-2/neu発癌の進行が明らかになる。非定型的過形成の発生(10週目)および原位置癌腫の数(15週目)により、DNAワクチン接種と組み合わされた経口LFによって誘導される抗腫瘍活性が示される。腫瘍進行は、動物の組織学的解析によって明らかな新血管形成、浸潤性CD8+、およびそれほどではないがCD4、リンパ球の欠如を伴う。LFで処置した腫瘍における血管形成およびT細胞浸潤のレベルが、経口LFの活性を明らかにする。
【0127】
経口LFおよびDNAワクチン接種に対する応答におけるCD8T細胞の役割を評価するために、ECD-TMプラスミドで免疫処置し経口LFで処置(上記と同じスケジュール)したBALB-NeuTマウスを4週齢で胸腺摘除し、200μgの抗CD8抗体を腹腔内投与する。5週齢から開始して各マウスの乳腺を週に1回検査し、塊の直交する2つの直径をキャリパーで測定する。無腫瘍マウス(%)およびマウス1匹あたりの平均腫瘍数を記録する。
【0128】
〔実施例6〕
(自然発生癌腫の阻害における腫瘍細胞ワクチン接種と組み合わされた経口LF)
同種異系腫瘍ワクチン接種と組み合わされた経口LFの、HER-2/neuトランスジェニックマウスにおける乳癌発生を阻止する能力を評価する。
【0129】
BALB-NeuTマウスに、p185neuおよびH-2qクラスI分子を高い表面レベルで発現させる同種異系乳癌腫細胞(New/H-2q)(Nanniら,2001)をワクチン接種し、経口LFで処置する。マウスが6週齢になった時から開始して、それらにNeu/H-2q細胞を第1週および第2週に週2回投与した後、1週間休止した。1週間の休止後に、この処置クールを33週目まで繰り返す。マウスには、経口LF(300mg/Kg)による処置も、週5日で3週間の処置クール後に1週間の休止期間をおいて、5週目から20週目まで毎日行なう(合計5クール)。対照マウスは経口偽薬および同種異系腫瘍細胞ワクチン接種スケジュールに付す。腫瘍の発生および成長を追跡するためにマウスを毎週検査することによって、個別処置および組合せ処置の効力を評価する。腫瘍塊の直交する2つの直径をキャリパーで測定し、無腫瘍マウス(%)およびマウス1匹あたりの平均腫瘍数を記録する。10個の乳腺の全てに漸進的に成長する塊を示すマウスおよび33週齢に達したマウスを屠殺し、形態学的に検査する。
【0130】
処置に関する情報を与えずに経時的に乳腺の組織学的検査を行なうと、処置マウスにおけるHER-2/neu発癌の進行が明らかになる。非定型的過形成の発生(10週目)および原位置癌腫の数(15週目)により、DNAワクチン接種と組み合わされた経口LFによって誘導される抗腫瘍活性が示される。腫瘍進行は、動物の組織学的解析によって明らかな新血管形成、浸潤性CD8+、およびそれほどではないがCD4、リンパ球の欠如を伴う。LFで処置した腫瘍における血管形成およびT細胞浸潤のレベルが、経口LFの活性を明らかにする。
【0131】
〔実施例7〕
(患者における癌ワクチンと組み合わされたhLFの経口投与)
腫瘍成長を阻害するために組換えヒトラクトフェリンをヒト患者に癌ワクチンと組み合わせて経口投与する。癌ワクチンはHER-2/neuである。この研究で使用した以下のペプチドは、HER-2/neuペプチド、p369-384、配列番号5:KIFGSLAFLPESFDGDPA(Disisら,2000)、p688-703、配列番号6:RRLLQETELVEPLTPS(Disisら,2000)、p971-984、配列番号7:ELVSEFSRMARDPQ(Disisら,2000)、p369-377、配列番号8:KIFGSLAFL(Fiskら,1995)、p689-697、配列番号9:RLLQETELV(Peoplesら,1995)、およびp971-979、配列番号10:ELVSEFSRM(Ioannidesら,1993)である。
【0132】
簡単に述べると、rhLFを、4.5g/日(朝3g、夜1.5gを、14日実行、14日休止のサイクルで最大5サイクル)またはrhLF 9g/日(1日2回各4.5gを、14日実行、14日休止のサイクルで、最大5サイクル)の用量で、転移HER-2/neu過剰発現癌を持つ患者に投与する。この投与量は経口投与される。
【0133】
患者には、それぞれに推定HLA-A2結合モチーフを内包する3つの15アミノ酸HER-2/neu由来ペプチドにより、月1回の予防接種も行なう(Knutsonら,2001)。500μgの各ペプチド(1.5マイクログラムの総ペプチド投与量)を同じ流入領域リンパ節に2回の皮内注射により、6ヶ月間投与する。
【0134】
CTスキャンと、利用可能であれば腫瘍マーカーとによって、腫瘍サイズ進行をモニターする。CTスキャンはベースライン時に行なうと共に、処置を開始した後は8週間ごとに行なう。腫瘍マーカーは4週間ごとに測定する。HLA-A2ペプチドに対する平均ペプチド特異的T細胞前駆体頻度を測定するために、血液試料を収集する。ペプチド特異的T細胞殺滅も評価する。循環IL-18、IL-1、IL-2、およびIL-4、IL-5、IL-10、IL-12およびIFN-γを測定するために、血漿、血清および血球抽出物試料を収集する。
【0135】
〔実施例8〕
(マウスにおける粘膜免疫に対するrhLFの作用)
BALBcマウスに、様々な用量の生弱毒ネズミチフス菌(Ty21a)を経口胃管によって投与した。動物にはTy21a投与の前日および当日に経口rhLF(65mg/kg)も与えた。Ty21a投与の19日後に糞便試料を収集し、糞便EspA特異的sIgA抗体を測定することによって粘膜免疫を評価した。結果は、rhLFが10,000倍低い力価で同様の免疫を誘導することを示している(図2)。
【0136】
(引用文献)
本明細書で言及したすべての特許および刊行物は、本発明が関係する技術分野の当業者の水準を示すものである。すべての特許および刊行物は、あたかも個々の刊行物が参照により本明細書に組み入れられることを個別に明示したかのごとく、参照により本明細書に組み入れられるものとする。
【0137】
米国特許第5,629,001号
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【0138】
本発明およびその利点を詳細に説明したが、これには、本願特許請求の範囲によって定義される発明の精神および範囲から逸脱することなく、さまざまな変更、置換および改変を施すことができると理解すべきである。さらに、本願の範囲は、本明細書に記載したプロセス、機械、製造、組成物、手段、方法およびステップの特定の実施形態に限定されないものとする。当業者には本発明の開示からすぐに理解されるだろうが、既存のまたは今後開発されるプロセス、機械、製造、組成物、手段、方法、またはステップであって、本明細書に記載の対応する実施形態と実質的に同じ機能を果たすか、または実質的に同じ結果をもたらすものは、本発明に従って利用することができる。したがって、本願特許請求の範囲は、そのようなプロセス、機械、製造、組成物、手段、方法、またはステップを、その範囲に包含するものとする。
【0139】

【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌治療の為のアジュバント用ラクトフェリン組成物であって、
該治療は、癌免疫療法の為に、DNAワクチンおよびアジュバントを対象に投与する工程を包含し、ここで、該アジュバントは経口投与用である、ラクトフェリン組成物。
【請求項2】
薬学的に許容できる担体に分散される、請求項1記載のラクトフェリン組成物。
【請求項3】
前記ラクトフェリンが、ヒトラクトフェリンである、請求項1または2記載のラクトフェリン組成物。
【請求項4】
前記ラクトフェリン組成物が、N末端ラクトフェリン変異体を含む、請求項3記載のラクトフェリン組成物。
【請求項5】
前記N末端ラクトフェリン変異体が、少なくともN−末端のグリシン残基を欠く、請求項4記載のラクトフェリン組成物。
【請求項6】
前記N末端ラクトフェリン変異体が、ラクトフェリン組成物に含まれるラクトフェリンの1%から50%を占める、請求項4記載のラクトフェリン組成物。
【請求項7】
前記ラクトフェリンの量が、1日あたり10mg〜100g投与されるものである、請求項1から6までのいずれか1項記載のラクトフェリン組成物。
【請求項8】
前記免疫療法が、腫瘍抗原を対象に投与することを含む、請求項1から7までのいずれか1項記載のラクトフェリン組成物。
【請求項9】
前記免疫療法が、腫瘍抗原を発現する核酸配列を対象に投与することを含む、請求項1から8までのいずれか1項記載のラクトフェリン組成物。
【請求項10】
前記癌免疫療法のDNAワクチンと同時に投与される、請求項1から9までのいずれか1項記載のラクトフェリン組成物。
【請求項11】
前記癌免疫療法のDNAワクチンと逐次的に投与される、請求項1から9までのいずれか1項記載のラクトフェリン組成物。
【請求項12】
前記ラクトフェリンが、組換えラクトフェリンである、請求項1から11までのいずれか1項記載のラクトフェリン組成物。
【請求項13】
前記癌が、Her2+乳癌である、請求項1から12までのいずれか1項記載のラクトフェリン組成物。
【請求項14】
前記癌免疫療法が、HER-2/neu p185の細胞外ドメイン(ECD)によるものである、請求項1から13までのいずれかに記載のラクトフェリン組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【公開番号】特開2012−97109(P2012−97109A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−289864(P2011−289864)
【出願日】平成23年12月28日(2011.12.28)
【分割の表示】特願2006−533575(P2006−533575)の分割
【原出願日】平成16年6月7日(2004.6.7)
【出願人】(505098694)エイジェニックス インコーポレイテッド (5)
【Fターム(参考)】