説明

癌疾患修飾抗体

本発明は、新規スクリーニング規範を用いて、患者癌疾患修飾抗体を生産するための方法に関する。終点として癌細胞の細胞障害性を用いて抗癌抗体を分離することで、そのプロセスは治療および診断目的のための抗癌抗体の生産を可能にする。そのような抗体は、癌の病期分類および診断を助け、原発腫瘍および腫瘍転移の処置に用いられる。抗癌抗体を毒素、抗体、放射性化合物、および造血性細胞と結合(コンジュゲート)させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、癌疾患修飾抗体(CDMAB)の単離および生産と、該CDMABを必要に応じて化学療法と組み合わせながら治療および診断プロセスで使用することに関する。本発明はさらに、本発明のCDMABを利用する結合アッセイに関する。
【背景技術】
【0002】
癌を呈する各々の個体は、ユニークであり、その人の個性と同程度に他の癌とは異なる癌を有する。これにもかかわらず、現在の治療は、同一種類の癌を持つすべての患者を、同一の病期に同一の方法で処置する。これらの患者の少なくとも30%が一次治療に失敗するので、さらなる処置段階をもたらし、処置の失敗、転移、および究極的には死に至る確率が高くなる。処置に対する優れた取り組みは、特定の個人に対する治療をカスタマイズすることである。現在の方法でそれ自体がカスタマイズに適合する唯一の方法は、手術である。化学療法および放射線治療は、患者に合うように調整することはできず、また、多くの場合、手術それ自体が治癒を生ずるには不十分である。
モノクローナル抗体の出現で、カスタマイズ化された治療を開発するための方法の可能性がより現実的になった。なぜなら、各抗体が単一のエピトープを標的にすることができるからである。さらに、特定の個々の腫瘍を一意的に定めるエピトープの立体配座を標的にする抗体の組み合わせを生産することが可能である。
【0003】
開発する癌細胞と正常細胞との著しい違いが、癌化した細胞に特異的である抗原を癌細胞が含むことであるという認識を持つことで、科学界では、それらの癌抗原に対して特異的に結合することで癌化細胞を特異的に標的化するモノクローナル抗体を設計することができると、長い間、考えられていたため、モノクローナル抗体が「魔法の弾丸」として用いることができるという信仰が生み出された。
即座に開示された発明の教示にもとづいて単離されるモノクローナル抗体は、患者にとって有益な方法で、例えば、全身腫瘍組織量を減少させることによって、癌疾患プロセスを修飾することが示され、本明細書では癌疾患修飾抗体(cancerous disease modifiying antibodies (CDMAB))または「抗癌(anti−cancer)」抗体として、様々に呼ばれる。
【0004】
現在のところ、癌患者は通常、処置に関する選択肢をほとんどもっていない。癌治療に対する規格化されたアプローチによって、全体的な生存率および罹患率の改善が得られている。しかし、特定の個人に対しては、これらの改善された統計値が個人的状況の改善と必ずしも相関するというわけではない。
したがって、同一の同齢集団(コホート)の他の患者とは独立して各腫瘍を開業医が処置することを可能にする方法論が提案された場合、このことはまさにその一人の人間に対する治療をテーラーメイドするユニークなアプローチを可能とする。そのような治療過程は、理想的には、治癒率を高め、良好な結果をもたらし、それによって長い間の切実な要求が満たす。
従来、ポリクローナル抗体の使用は、ヒト癌の処置では、ある程度の成功を収めながら活用されていた。リンパ腫および白血病に対しては、ヒト血漿を用いた治療が施されていたが、ほとんど長期寛解または反応がなかった。さらにまた、再現性に欠け、化学療法と比較して何ら付加的な利点がなかった。乳癌、黒色腫、および腎細胞癌等の固形腫瘍もまた、ヒト血液、チンパンジー血清、ヒト血漿、および馬血清によって処置されており、これらは一致して予測不可能かつ無効な結果を伴っていた。
【0005】
固形腫瘍に対するモノクローナル抗体の臨床試験が数多くなされた。1980年代に、特異的抗原に対する抗体を用いて、または組織選択性に基づいてヒト乳癌に関する少なくとも4通りの臨床試験がおこなわれたが、少なくとも47人の患者のうち応答者は一人だけであった。1998年になって、シスプラチンと併用してヒト化抗her2抗体を用いた臨床試験が成功した。この臨床試験では、37人の患者について反応の評価がおこなわれ、約1/4が部分的反応率を有し、残りの部分が軽度または安定した病態の進行を有していた。
結腸直腸癌を調べる臨床試験は、糖タンパク質標的および糖脂質標的の両方に対する抗体を必要とする。抗体(例えば、腺癌に対して多少なりとも特異性を持つ17−1A)の第2相臨床試験を60人を越える患者に対しておこなったところ、部分的寛解が生じたのはたったの1人であった。他の治験では、17−1A添加を用いることで、添加されたシクロホスファミドを活用するプロトコールでは患者52人中、完全寛解が生じたのはたったの1人であり、やや有効であったのは2人だけであった。17−1Aが関与する他の治験でも類似の結果が得られた。画像化が最初に認められたヒト化マウス・モノクローナル抗体を用いても腫瘍退縮が生じなかった。現在まで、結腸直腸癌に対して有効な抗体は存在していなかった。同様に、肺癌、脳癌、卵巣癌、膵癌、前立腺癌、および胃癌に対しても、好ましくない結果が等しく得られていた。黒色腫に対して抗GD3モノクローナル抗体を用いることで、ある程度の成功が収められている。このように、ヒト臨床試験の必要条件である小動物を用いた研究の成功にもかかわらず、試験された抗体のほとんどに効果が認められなかったことがわかる。
【0006】
先行特許
米国特許第5,750,102号(特許文献1)は、患者の腫瘍から得た細胞にMHC遺伝子(該患者の細胞または組織からクローニングしたものであってもよい)によるトランスフェクションをおこなう方法を開示されている。そのため、このようなトランスフェクション細胞を用いて患者に予防接種がおこなわれる。
米国特許第4,861,581号(特許文献2)が開示しているプロセスは、新生および正常細胞の細胞内構成要素に対しては特異的ではあるが、細胞外構成要素に対しては非特異的であるモノクローナル抗体を得るステップと、該モノクローナル抗体を標識するステップと、標識された抗体を、新生細胞を殺す治療を受けた哺乳類の組織と接触させるステップと、変性していく新生細胞の細胞内構成要素に対する標識抗体の結合を測定することによって、治療の効果を決定するステップと、を含む。ヒト細胞内抗原を標的とする抗体を調製する際に、悪性細胞がそのような抗原の好都合な源を代表することを特許権者が認識している。
米国特許第5,171,665号(特許文献3)は、新規抗体とその生産のための方法とを提供する。具体的には、本特許は、ヒト腫瘍(例えば、大腸および肺)に関連したタンパク質抗原に強固に結合する一方で、正常細胞に対してはかなり低い度合いで結合する特性を持つモノクローナル抗体の形成を教示している。
米国特許第5,484,596号(特許文献4)が提供する方法は、癌治療の方法であって、ヒト癌患者から外科的に腫瘍組織を除去することと、その腫瘍組織を処置して複数の腫瘍細胞を得ることと、これらの腫瘍細胞に放射線を照射して、生存可能ではあるが非腫瘍形成性とすることと、これらの細胞を用いて、原発腫瘍の再発を阻害する一方で同時に転移を阻害することが可能な、患者に対するワクチンを調製することとを含む。この特許は、腫瘍細胞の表面抗原に反応性を示すモノクローナル抗体の開発を教示する。第4段落第45行(以下参照)で述べられているように、特許権者は、ヒト新形成での積極的な特異的免疫療法で自所性腫瘍細胞を利用する。
米国特許第5,693,763号(特許文献5)は、ヒト癌腫に特有ではあるが、その源である上皮組織に依存しない糖タンパク質抗原を教示している。
米国特許第5,783,186号(特許文献6)では、Her2発現細胞(その抗体を生産するハイブリドーマ細胞系)でアポトーシスを誘導する抗Her2抗体と、該抗体を用いる癌処置法と、上記抗体を含有する医薬組成物とが述べられている。
米国特許第5,849,876号(特許文献7)では、腫瘍源と非腫瘍組織源とから精製されたムチン抗原に対するモノクローナル抗原を生産するための新規なハイブリドーマ細胞系について、記述されている。
米国特許第5,869,268号(特許文献8)では、所望の抗原に特異的な抗体を生産するヒトリンパ球の生成方法、モノクローナル抗体を生産するための方法、ならびにその方法によって生産されたモノクローナル抗体について記述されている。この特許は、特に、癌の診断および処置にとって有用な抗HDヒト・モノクローナル抗体の生産について記述されている。
米国特許第5,869,045号(特許文献9)は、抗体、抗体フラグメント、抗体コンジュゲート、およびヒト癌細胞に対して反応性を示す単鎖抗毒素に関する。これらの抗体が働く機能は、それらの分子が、ヒト癌腫の表面で細胞膜抗原に反応性を示す点と、さらにまた、結合の後、それらの抗体が癌細胞内に内在化する能力を有する点とから2重(two−fold)であり、そのような機能によって、抗体と薬物とのコンジュゲートあるいは抗体と毒素とのコンジュゲートを形成するのに特に有用である。それらの非修飾形態では、上記抗体もまた、特定の濃度で細胞障害性の特性を呈する。
米国特許第5,780,033号(特許文献10)は、腫瘍の治療および予防のための自己抗体の使用を開示している。しかし、この抗体は、老いた哺乳類に由来する抗細胞核自己抗体である。この場合、自己抗体は免疫系で見いだされる自然抗体の一種であると言われている。自己抗体が「加齢哺乳類(aged mammal)」に由来することから、自己抗体が実際に、処置されている患者に由来するものである必要性はない。また、この特許は、加齢哺乳類から得られる天然かつモノクローナルである抗細胞核自己抗体と、モノクローナル抗細胞核自己抗体を生産するハイブリドーマ細胞系とを開示している。
【特許文献1】米国特許第5,750,102号公報
【特許文献2】米国特許第4,861,581号公報
【特許文献3】米国特許第5,171,665号公報
【特許文献4】米国特許第5,484,596号公報
【特許文献5】米国特許第5,693,763号公報
【特許文献6】米国特許第5,783,186号公報
【特許文献7】米国特許第5,849,876号公報
【特許文献8】米国特許第5,869,268号公報
【特許文献9】米国特許第5,869,045号公報
【特許文献10】米国特許第5,780,033号公報
【発明の開示】
【0007】
本発明者らは、以前に、癌疾患の処置に有用である個々にカスタマイズされた抗癌抗体を選択するためにプロセスを対象とする「個々の患者に特異的な抗癌抗体(“Individualized Patient Specific Anti−Cancer Antibodies)」と題された米国特許第6,180,357号を授与している。この出願の目的のために、用語「抗体」および「モノクローナル抗体」(mAb)を同義的に用いることが可能であり、これらはハイブリドーマによって産生された無傷の免疫グロブリン、免疫複合体(コンジュゲート)、さらに必要に応じて、キメラおよびヒト化免疫グロブリン等の免疫グロブリンに由来する免疫グロブリン・フラグメントおよび組換え体タンパク質、F(ab’)およびF(ab’)2フラグメント、単鎖抗体、組換え体免疫グロブリン可変領域(Fv)等のことをいう。さらに、さらに、標準的な化学療法の種類(例えば放射性核種)と本発明のCDMABとを組み合わせることで、上記化学療法の使用に重点を置くことは、この発明の範囲内である。CDMABもまた、毒素、細胞障害性部分、もしくは酵素(例えば、ビオチン複合酵素)とコンジュゲートさせることができる。
この出願は、癌疾患修飾モノクローナル抗体をコードするハイブリドーマ細胞系を単離するための’357特許に教示されたように、患者特異的抗癌抗体の生産方法を利用する。これらの抗体を一つ腫瘍に対して特異的に作製することができるので、癌治療をカスタマイズすることが可能となる。この出願の文脈の中で、細胞致死(cell killing)(細胞傷害性(cytotoxic))または細胞増殖抑制(cell−growth inhibiting)(細胞増殖抑制性(cytostatic))のいずれかの特性を持つ抗癌抗体を、今後、細胞障害性(cytotoxic)と呼ぶ。これらの抗体を癌の病期分類および診断の補助として用いることができ、また腫瘍転移の処置に用いることができる。
【0008】
個別的抗癌処置の見通しは、患者を管理する方法の変化をもたらす。可能性がある臨床シナリオは、腫瘍細胞を提示時に得て積み上ることである。この試料から、既存する癌疾患修飾抗体のパネルから癌を類型化することができる。患者は従来通りに病期分類されるが、さらに病期分類する際に、入手可能な抗体を用いることができる。患者は、ただちに既存の抗体による処置を受けることができ、さらに/あるいは、腫瘍に対して特異的な抗体のパネルを、本明細書で概説される方法を用いて、もしくは本明細書に開示したスクリーニング方法と組み合わせたファージ・ディスプレイ・ライブラリーの使用を介して、生成することができる。生成された全ての抗体を抗癌抗体のライブラリーに添加する。なぜなら、他の腫瘍が、処置されているものと同様のエピトープのいくつかを持ち得る可能性が存在するからである。この方法にもとづいて生産された抗体は、これらの抗体に結合する癌を持つ不特定多数の患者の癌疾患を処置する上で、有用であると思われる。
米国特許第6,180,370号(特許文献11)のプロセスを実質的に用いることで、患者の肺腫瘍生検由来の細胞でマウスを免疫化した後にマウス・モノクローナル抗体H460−16−2を得た。このH460−16−2抗原を、異なる組織に由来する多種多様なヒト培養細胞株の細胞表面上で、発現させた。乳癌培養細胞株MDA−MB−231(MB−231)は、試験した2つの培養細胞株のうちのわずか1つであり、H460−16−2の細胞障害性に影響されやすかった。培養下でのMB−231細胞に対するH460−16−2細胞障害性の結果は、マウスに移植した際にMB−231細胞に向けられたその抗腫瘍活性によって、さらに広げられた。乳癌の生体内(in vivo)モデルでは、特定の免疫細胞が欠如していることでヒト腫瘍細胞を拒絶することができないことから、免疫不全マウスの首筋にある皮膚下にヒトMB−231細胞を移植した。前臨床異種移植腫瘍モデルは、治療有効性の妥当な予測手段である。マウスの異種移植片は、間質、中心壊死、および新生脈管構造を生ずる固形腫瘍として成長する。免疫不全マウスの生体内(in vivo)異種移植モデルとして、乳房腫瘍培養細胞株MB−231の評価をおこなった。MB−231腫瘍の良好な移植または「テーク・レート(take rate)」と、標準的化学療法剤に対する腫瘍の感度とによって、それが適当なモデルとして特徴づけられた。親培養細胞株および該細胞株の変異体が、広範囲にわたる治療薬の評価に対する異種移植腫瘍モデルで用いられた。
【特許文献11】米国特許第6,180,370号公報
【0009】
ヒト乳癌の生体内(in vivo)予防モデルでは、腫瘍細胞移植の前日にマウスに対してH460−16−2を与え、さらに7週間にわたって毎週注射した。H460−16−2処置は、処置期間中の腫瘍増殖を抑制する点で、アイソタイプ対照抗体(構造および大きさがH460−16−2と同一ではあるがMB−231細胞に結合することができない)よりも有意であった(p<0.0001)。処置期間終了時に、H460−16−2投与マウスは、対照群の1.3パーセントにしか増殖しない腫瘍を有した。後処理追跡期間中、H460−16−2の処置効果が維持され、測定期間終了に至るまで処置群の平均腫瘍容積が対照群よりも有意に低い状態に保たれた。抗体効力の尺度として生存性を用いることで、H460−16−2処置群での致死リスクが処置後70日目で抗体緩衝液対照群の約71パーセント(p=0.028)であると推定した。これらのデータによって、対照処置群と比較してH40−16−2処置が生存利点を与えることが示された。いかなる毒性の兆候(例えば、体重減少および臨床的不快感)を示さなかったことから、H460−16−2処置の安全性が明らかになった。したがって、H460−16−2処置は、樹立ヒト乳癌モデルで、対照処置群と比べて腫瘍の増殖を抑えるとともに生存性を高めることから、有効であった。これらの結果も再現性があった。なぜなら、類似の知見がこの種の別の研究が観察され、癌を持つヒトの処置に対する関連性および利点を示唆するからである。
その上、乳癌の生体内(in vivo)樹立腫瘍モデルでの予防に加えて、H460−16−2は、生体内(in vivo)腫瘍モデルでMB−231細胞に対する抗腫瘍活性を示した。この異種移植腫瘍モデルでは、抗体処置前に腫瘍が臨界寸法に達するように、免疫不全マウスに対してMB−231乳癌細胞を皮下移植した。H460−16−2による処置を、標準的化学療法剤であるシスプラチンと比較したところ、シスプラチンおよびH460−16−2処置群の平均腫瘍容積が、抗体希釈緩衝液またはアイソタイプ対照抗体によって処置された群と比較して、有意に小さい(p<0.001)ことが示された。H460−16−2は、化学療法剤で観察されるものの約3分の2である腫瘍抑制を媒介したけれども、有意な体重減少がなく(p<0.003)、またシスプラチンで観察された臨床的苦悩もなかった。
【0010】
後処置期間では、H460−16−2での致死リスクが処置後70日未満でのアイソタイプ処置抗体群の致死リスクの約半分であったことから、H460−16−2は有意な生存効果(survival benefit)(p<0.02)を示した。観察された生存効果は、67パーセントであったH460−16−2処置群と比較して、アイソタイプ対照およびシスプラチン処置マウスの100パーセントが致死した後処置120日目まで、持続した。H460−16−2は、アイソタイプ対照抗体群と比較して、26パーセントまで腫瘍増殖を遅らせることによって、腫瘍抑制を維持した。後処理31日目で、H460−16−2は、アイソタイプ対照群と比較して、48パーセントまで腫瘍増殖を減少させることで、腫瘍の大きさを制限し、このことは処置終了時に観察された49パーセント減少と同等である。樹立乳癌腫瘍モデルでは、これらの結果は処置期間にわたって腫瘍抑制を維持するH460−16−2の潜在的能力を示しており、また哺乳類での全身腫瘍組織量を減少させて生存を高める抗体の能力を示している。
免疫組織化学(IHC)染色によって、多数の器官から得たマウス組織切片をH460−16−2によって染色し、種々の組織の個々の細胞型にH460−16−2抗原を局在化した。生体内(in vivo)でのMB−231細胞に対するH460−16−2の腫瘍抑制効果と合致して、MB−231細胞が皮下移植された未処置のマウスから得た腫瘍切片で、H460−16−2抗原が強く発現した。正常マウス組織でのH460−16−2抗原発現は、H460−16−2に対する毒性の適当なモデルとして、そのマウスを飼育する上で必要とされる。H460−16−2抗原は上記マウスの腎臓および卵巣のみで発現されることから、その抗原が限定された発現様式を有することが観察された。そのようなマウスを適当な毒性モデルとして確認するために、正常ヒト組織で類似の抗原発現となる必要がある。
【0011】
臨床試験のために、また毒性についての適当な動物モデルを確認するために、正常ヒト組織に対するH460−16−2の特異性を決定した。H460−16−2によるIHC染色によって、生命に欠くことのできない器官(例えば、肝臓、腎臓、心臓、および肺)を含む大部分の組織でH460−16−2抗原の発現が見られなかった。H460−16−2は、皮膚、尿管、胃、および前立腺を染色し、さらに唾液腺を強く染色した。組織染色の結果によれば、H460−16−2は種々の細胞型に対する結合が制限されている一方で湿潤マクロファージ、リンパ球、および線維芽細胞に対する結合を呈した。したがって、データは、おそらく上記マウスが毒性モデルとしては最良ではないことを示している。なぜなら、H460−16−2組織発現がマウスおよびヒトの両方で制限されることが示されており、これら2つの種間で染色が陽性であった組織が異なる。
乳癌患者でのH460−16−2抗原およびその有病率の局在化は、患者に対するH460−16−2免疫療法の有益性を評価する上で、また効果的な臨床試験を設計する上で重要である。癌患者から得た乳癌でのH460−16−2抗原発現に対処するために、50人の乳癌患者から得た腫瘍組織をH460−16−2抗原の発現についてスクリーニングした。上記研究の結果は、組織試料の64パーセントがH460−16−2抗原に対して陽性に染色されたことを示した。染色が悪性細胞に限られていることから、患者試料でのH460−16−2発現が癌細胞に特異的であるのは明らかであった。対照的に、乳癌患者から得た正常細胞の9つの試料のうち2つだけがH460−1−2によって染色された。H460−16−2抗原の乳房腫瘍発現が主に悪性細胞の細胞膜に局在化して治療のための魅力的な標的となることが明らかになった。さらに、乳房腫瘍の発症、処置、および予後で重要な役割を担うホルモン(エステロゲンおよびプロゲステロン)に対する受容体が乳房腫瘍に発現することに基づいて、H460−16−2発現の評価をおこなった。H460−16−2抗原の発現とエストロゲンまたはプロゲステロンのいずれかに対する受容体の発現とのあいだに相関がないことは、明らかであった。腫瘍の分析をその腫瘍の病期または癌進行の度合いに基づいておこなった場合、結果はより高い腫瘍病期でより強い陽性の発現が生ずる傾向があることを示唆したが、そのような結果はサンプルサイズが小さいことによって限定されたものであった。
【0012】
H460−16−2の潜在的な治療的有用性を拡大するために、種々のヒト癌組織での抗原の頻度および局在化の測定をおこなった。乳房を除くいくつかの癌型は、H460−16−2抗原に対して陽性であった。陽性のヒト癌型として、皮膚(1/2)、肺(4/4)、肝臓(2/3)、胃(4/5)、および腎臓(3/3)が含まれた。上記癌の発現は、卵巣(0/3)、副腎(0/2)、および小腸(0/1)を含むいくつかの癌では見られなかった。ヒト乳房腫瘍と同様に、局在化は膜腫瘍細胞上に主に生じた。したがって、生体外(in vitro)での癌培養細胞株に対するH460−16−2抗体結合に加えて、この抗体がヒトで発現し、種々の型の癌で発現する証拠がある。全体として、このデータは、H460−16−2抗原が癌結合抗原であり、ヒトで発現され、さらに病理学的に関連性のある癌標的であることを示している。さらに、このデータは、ヒト癌組織に対するH460−16−2抗体の結合も示しており、診断用、治療の予測用、または予後用となり得るアッセイに適切に用いられる。加えて、この抗原の細胞膜局在化は、大部分の非悪性細胞での抗原発現の欠如による細胞の癌状態を示しており、このような観察は、そのような抗原、該抗原の遺伝子もしくは誘導体、該抗原のタンパク質もしくは変異体が、診断、治療の予測、または予後をおこない得るアッセイに適切に用いられることを可能にしている。
予備データは、H460−16−2によって認識される抗原が96kDa熱ショックタンパク質(gp96)として知られている癌退縮抗原の変異体と思われることを示している。このことは、gp96に反応するモノクローナル抗体がH460−16−2結合タンパク質を特定することを示している生化学的研究によって支持される。H460−16−2および抗gp96抗体を用いたマウス組織のIHC分析によって、gp96抗原がH460−16−2抗原よりもよりいっそう広範囲に発現することが明らかになった。これらの結果は、gp96抗原に比べてより小さな細胞集団でH460−16−2抗原が発現することから、正常ヒト組織のIHC染色に関する結果に類似していた。ヒト乳房腫瘍組織のIHC分析は、抗gp96抗体によって約84パーセントの試料が陽性に染色されることから、gp96抗原がより一般的であることを示している。gp96抗原の発現も、細胞質および細胞膜の両方で高い局在化を示したことから、H460−16−2とは異なった。したがって、これらの結果はH460−16−2がgp96の変異体であるかもしれないことを示唆している。
【0013】
全体で、この発明は治療薬の標的としてH460−16−2抗原を用いることを教示しており、投与された際に、ほ乳類で該抗原を発現する癌の全身腫瘍組織量を減らすことができ、また処置されたほ乳類を延命させることもできる。この発明はまた、CDMAB(H460−16−2)の使用、さらにはその誘導体を使用することで、それの抗原を標的化し、ほ乳類で該抗原を発現する癌の全身腫瘍組織量を減らし、この抗原を発現する腫瘍を持つほ乳類を延命させることを教示する。さらにまた、この発明は、H460−16−2抗原を発現する腫瘍を持つほ乳類の診断、治療予測、および予後に有用であり得る癌細胞でのH460−16−2抗原検出を用いることも教示する。
治療の初期過程に対して患者が不応である場合もしくは転移が生ずる場合、再処置のために腫瘍に対して特異的な抗原を生ずるプロセスを繰り返すことができる。さらにまた、上記抗癌抗体を上記患者から得た赤血球に結合させ、転移を処置するために再注入することができる。転移癌に対して有効な処置がほとんどなく、転移は通常、死に至る転帰不良の前兆となる。しかし、転移癌は一般に、かなり血管新生化し、赤血球による抗癌抗体の送達は腫瘍部位に抗体を集中させる効果を奏することができる。転移前であっても、大部分の癌細胞は宿主の血液供給に依存して生存しており、同様に、赤血球に結合した抗癌抗体が元位置(in situ)腫瘍に対して有効である。
【0014】
抗体には5つの種類があり、各々が重鎖によって与えられる機能と関係している。一般に、裸の抗体による癌細胞殺害が抗体依存型細胞媒介細胞障害性(ADCC)または補体依存型細胞障害性(CDC)のいずれかを通じて媒介されると考えられている。例えば、マウスIgMおよびIgG2a抗体は補体系のC−1成分と結合することでヒトの補体を活性化させることができ、それによって腫瘍細胞溶解を生じ得る補体活性の古典経路が活性化される。ヒト抗体に関して、最も有効な補体活性化抗体はIgMおよびIgG1である。IgGaおよびIgG3アイソタイプのマウス抗体は、単球、マクロファージ、顆粒球、および特定のリンパ球による細胞殺害をもたらすFc受容体を持つ細胞障害性細胞の補充に有効である。IgG1およびIgG3アイソタイプのヒト抗体はADCCの媒介となる。
他の可能性ある抗体媒介癌殺害メカニズムは、細胞膜にある種々の化学結合の加水分解触媒として機能する抗体ならびにその関連糖タンパク質もしくは糖脂質、いわゆる触媒抗体を用いることによっておこなわれるものと考えられる。
より広く認められている抗体媒介癌細胞殺害のメカニズムがさらに2つ存在する。一つは、抗体をワクチンとして使用して、癌細胞に存在すると一般に考えられている抗原に対する免疫応答を生ずるように体を誘導することである。二つめは、増殖受容体を標的とし、その機能が効果的に喪失するように、該受容体の機能に対する干渉もしくは該受容体に対する下方制御をおこなうことである。
【0015】
したがって、本発明の目的は、ハイブリドーマ培養細胞株、対応する単離モノクローナル抗体、および上記ハイブリドーマ培養細胞株がコード化されたその抗原結合フラグメントを単離するために、癌細胞に関して細胞障害性であると同時に非癌細胞に関して比較的に非毒性である特定の個体に由来する細胞から癌疾患修飾抗体を産生する方法を利用することである。
本発明のさらなる目的は、CDMABとその抗原結合フラグメントとを教示することである。
本発明のさらなる目的は、細胞障害性がADCCを通して媒介されるCDMABを生産することである。
本発明のさらに別の目的は、細胞障害性がCDCを通して媒介されるCDMABを生産することである。
本発明のさらに別の目的は、細胞障害性が細胞化学結合の加水分解を触媒する機能であるCDMABを生産することである。
本発明のさらに別の目的は、癌の診断、予後、およびモニタリングをおこなうための結合アッセイで役立つCDMABを生産することである。
この発明の他の目的および利点は、それらが図および実施例(この発明の特定の実施形態)によって説明される以下の説明から明らかになる。
【0016】
(図面の簡単な説明)
特許または出願書類は、少なくとも1つの彩色された図面を含む。カラー図面を有するこの特許または特許出願公報は、要望することによって、または必要手数料を支払うことによって特許庁から得られる。
図1は、ヒストグラムは、本研究継続中にわたる異なる処置群の平均体重を示す。データは、各々の時点での各群の平均値±SEMとして示されている。
図2は、予防的MB−231乳癌モデルでの腫瘍増殖に対するH460−16−2の効果。破線は、抗体が投与された期間を示す。データ・ポイントは、平均値±SEMを表す。
図3は、H460−16−2、緩衝液、およびアイソタイプ対照抗体による処置後の腫瘍保持マウスの生存。処置後70日以上にわたって、生存についてマウスを観察した。
図4は、確立されているMDA−MB−231乳癌モデルでの腫瘍増殖に対するH460−16−2の効果。破線は、抗体が投与された期間を示す。データ・ポイントは、平均値±SEMを表す。
図5は、ARH460−16−2およびシスプラチンの処置効力または抗腫瘍効果のグラフ表示。増殖阻害を、処置群対アイソタイプ対照処置群の腫瘍容積中央値の比率として算出し、パーセントで表した。すなわち、T/C×100、式中、TはX日での処置群の腫瘍容積中央値、CはX日での対照群の腫瘍容積中央値である。破線は、処置期間を示す。
図6は、処置期間前後での研究群の動物の平均体重。
図7は、H460−16−2、シスプラチン、またはアイソタイプ対照抗体による処置後の腫瘍保持マウスの生存。処置後60日以上にわたって、生存についてマウスを観察した。
図8は、SCIDマウスから外植されたヒトMB−231乳癌。A:抗ビメンチン。B:H460−16−2。C:抗gp96。矢印は、細胞質および斑点状染色を呈する細胞を指し示す。倍率は100倍である。
図9は、マウス肝臓。A:抗ビメンチン。B:H460−16−2。C:抗gp96。肝細胞が抗gp96によって陽性染色されていることに注目。倍率は100倍である。
図10は、マウス腎臓。A:抗ビメンチン。B:H460−16−2。矢印は、尿細管細胞の先端染色を指し示す。C:抗gp96。矢印は、尿細管細胞の拡散染色を指し示す。倍率は100倍である。
図11は、マウス卵巣。A:抗ビメンチン。B:H460−16−2。矢印は、濾胞内の卵子の細胞質染色を指し示す。C:抗gp96。矢印は、顆粒膜細胞を指し示す。倍率は100倍である。
図12は、乳癌腫瘍(浸潤性導管癌)に対するH460−16−2結合の典型的な顕微鏡写真。図面内の黄色矢印および橙色矢印は、それぞれ間質細胞と悪性細胞の層とを示す。倍率は100倍である。
図13は、乳癌組織群に由来する浸潤性導管癌の組織切片でのH460−16−2(A)および抗gp96抗体(B)によって得られた結合パターンを示す典型的な顕微鏡写真。青矢印は、抗原標的の細胞局在を示す。倍率は200倍である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
【実施例1】
【0018】
ブタペスト条約にもとづいて、ハイブリドーマ培養細胞株H460−16−2を寄託番号PTA−4621として2002年9月4日付で米国菌培養収集所(米国20110−2209バージニア州マナッサス大学通り10801)に寄託した。37CFR1.808にもとづいて、寄託者は、寄託資料の公開利用に課せられた全ての制限が特許の付与によって最終的に取り除かれることを確約する。
CL−1000フラスコ(BDバイオサイエンス、カナダ・オンタリオ州オークビル)で週二回回収および再播種しながらハイブリドーマを培養することによって、H460−16−2モノクローナル抗体を生産し、プロテインGセファロース4ファースト・フロー(アマシャム・バイオサイエンス、ケベック州バイエド・ウルフェ)による標準的抗体精製法にもとづいて精製した。
【0019】
生体内(in vivo)予防的腫瘍実験
図1および図2に示すデータに関して、4ないし8週齢の雌SCIDマウスに500万個のMB−231ヒト乳癌細胞を含む100マイクロリットルの生理食塩水を首筋に皮下注射することで移植した。マウスをランダムに10匹ずつ3つの処置群に分けた。20mg/kgのH460−16−2試験抗体を移植する前の日に、抗体緩衝液またはアイソタイプ対照抗体(MB−231細胞に結合しないことが知られている)を、2.7mMKCl、1mMKH2PO4、137mMNaCl、および20mMNaHPOを含む希釈液によって貯蔵濃度のものを希釈した後に300マイクロリットルの容量で、腹腔内投与した。同様にして、次に抗体を7週間にわたり週1回投与した。
腫瘍増殖の概略的測定は、最大10週間、あるいは個々の動物がカナダ動物愛護協会(CCAC)のエンド・ポイント(すなわち120日)に達するまで、カリパスを用いて7日毎におこなった。研究期間中、動物の体重を記録した。研究終了時、CCACガイドラインに沿って全ての動物を安楽死させた。
この研究で示されたデータは、時系列データ・セットの一典型例である。一般に、そのようなデータ・セットでは、時点間の相関性が高く、より近い時点間ではさらに高い相関性が観察される。このため、分散反復測定分析(Rep.ANOVA)を用いて処置間の差を決定し、差が生じた場合に共分散分析法を用いて時点を決定した。後者は、各時点で群間での差が群によるものではなく以前の時点によるものにすぎない場合に適切な方法である。
この研究期間中、毒性の臨床兆候はみられなかった。隔週で測定された体重は、良好な状態および成育障害を反映するものであった。図1は、研究期間全体にわたって3つの群のマウス平均体重を表す。各群内での体重が時間とともに増加した。分散反復測定分析(Rep.ANOVA)によれば、群間での有意差はなく、アイソタイプ対照抗体緩衝液またはH460−16−2で処置した群に関して、複数の時点での平均値のプロファイルに変化はみられなかった。
【0020】
実験全体に対して分散反復測定分析(Rep.ANOVA)を用いることで、以下の結果が際立った。分散反復測定分析(Rep.ANOVA)法は、群の平均値に差があること(p<0.001)のみならず、平均値のプロファイルの形状が互い異なることを示した。図2に示すように、処置群H460−16−2は他の群に比べて優れた効果を呈するように思えた。また、アイソタイプ対照処置群と抗体緩衝液処置群との差は、統計学的な有意差ではなかった。共分散分析では、最初に有意差が生じたのは18日目であり、アイソタイプおよび緩衝液処置群とH460−16−2処置群とのあいだに差が生じた。53日目(処置中断後の最初の腫瘍容積測定)で、H460−16−2処置群の腫瘍容積は、抗体対照処置群の1.3%であった(p<0.0001)。これによって、全身腫瘍組織量を抑える上で有効であることが示された。H460−16−2による処置によって対応の生存効果(図3)もみられた。生存上昇は、有効性の有益な指標である。処置後70日間以上、3群全てを追跡調査した。コックス比例危険試験によれば、ARH460−16−2群の死亡危険性は緩衝液対照群の約71%(p=0.028)であると推定された。これらのデータは、試験抗体での処置が対照処置群と比較して生存効果を与えることを示している。対照群は、移植後71〜84日間で50%死亡率に達した。対照的に、処置群は研究終了後に50%死亡率に達しなかった(処置後120日)。アイソタイプ対照群処置群は、移植後74日までに100%死亡率に達した。対照的に、H460−16−2処置動物は、研究終了時に60%生存を示した。
要約すると、H460−16−2抗体処置は、全身腫瘍組織量を抑え、よく認識されたヒト癌疾患モデルで、対照抗体と比較して生存が上昇した。これらの結果は、ヒトを含む他の哺乳類の治療として、この抗体(H1460−16−2)に薬理学的および製薬的利点が潜在的にあることを示唆している。
【実施例2】
【0021】
生体内(in vivo)樹立腫瘍実験
雌SXIDマウス(5ないし6週齢)に500万MB−231ヒト乳癌細胞を含む100マイクロリットルの生理食塩水を首筋に皮下注射することで移植した。腫瘍増殖を、毎週、カリパスで測定した。コホートの大部分が処置後34日で100mm(範囲70〜130mm)の腫瘍容積に達した場合、マウス12匹をランダムに4つの処置群にわけた。H460−16−2またはアイソタイプ対照抗体(MB−231細胞に結合しないことが知られている)の投与は、2.7mMKCl、1mMKHPO、137mMNaCl、および20mMNaHPOを含む希釈液によって 貯蔵濃度のものを希釈した後に、150マイクロリットルの容量で15mg/kg/回でおこなった。シスプラチンの投与は、300マイクロリットルで9mg/kg/回(生理食塩水で希釈)でおこなった。次に、同様にして抗体を週3回投与し、移植後48日までに合計で10回投与した。シスプラチンの投与は3回分を4日毎におこなった。腫瘍増殖の測定を、研究期間中にわたって、もしくは個々の動物がCCACエンド・ポイントに達するまで、カリパスを用いてほぼ7日目毎におこなった。研究期間中、動物の体重を記録した。研究終了時、CCACガイドラインに沿って全ての動物を安楽死させた。
ランダム化の時点で、各群の平均腫瘍容積および標準偏差は類似した。すなわち、アイソタイプ対照(97.60±18.33)、H460−16−2(95.25±16.82)、シスプラチン(98.00±18.93)である。このことは、真のランダム化がおこったことを示した。図4に示すように、抗体H460−16−2は、処置期間3週の終わりに腫瘍増殖を著しく抑制することができた。群間での違いを見せた3つの群のあいだでの平均腫瘍容積の比較は、著しく有意であった(表1)。
【0022】
【表1】

有効性のさらなる評価では、増殖阻害を反映するT/C(パーセントで表した処置腫瘍容積中央値(T)対アイソタイプ対照腫瘍容積中央値(C))比を計算することによって評価がおこなわれる。H460−16−2抗体は、49%に達するT/C腫瘍容積中央値のエンド・ポイントを達成した(図5)。さらに図4は、H460−16−2処置が、アイソタイプ対照と比較した場合に腫瘍増殖の著しい抑制をもたらし、該抑制が最大耐量(MTD)で与えられるシスプラチンによる抑制の2/3ではあるがシスプラチンに伴う毒性または死を生ずることはなかったことを示している。
実験期間中にわたって毎週記録した体重を安全性および毒性の評価にとって代わるものとして使用した。表2に概説し、かつ図6に示したように、アイソタイプ対照群またはH460−16−2によって処置した群について最小の体重差があった。それとは対照的に、治療期間中、シスプラチン群で観察された悪液質は有意であった(p=0.0005)。この群では、体重の減少が初期体重の19.2%に達し、臨床苦痛のさらなる証拠(例えば、絨毛の乱れ、脱水による皮膚テンティング、および嗜眠)が生じた。シスプラチン処置群で観察された2匹の死亡とは対照的に、H460−16−2処理群では死亡がみられなかった。
【0023】
【表2】

H460−16−2は、アイソタイプ対照群に比べて、生存効果がみられた(図7)。170日目(処理後約120日)までに、H460−16−2処理群の33パーセントが生存し続け、それとは対照的にシスプラスチンおよびアイソタイプ対照群の両方については0パーセントであった。
要約すると、H460−16−2は、SCIDマウス乳癌の樹立腫瘍移植モデルでの腫瘍増殖を抑制する点で、アイソタイプ対照抗体よりも著しく効果的である。3週間の治療期間にわたって、H460−16−2は対照と比較して50%未満のT/C腫瘍容積中央値のエンド・ポイントを達成した。加えて、H460−16−2は、化学療法剤で観察される毒性の兆候または死を招くことなく、MTDで与えられるシスプラスチンの3分の2である抑制をもたらした。
したがって、H460−16−2による処置は、対照抗体と比較して樹立腫瘍の全身腫瘍組織量を有意に減少させ、周知のヒト癌疾患モデルで生存効果を示すことから、この抗体がヒトを含む他の哺乳類での治療に対して薬理学的および製薬的利点を有することが示唆される。
【実施例3】
【0024】
正常マウス組織染色
H460−16−2抗原の分布をマウス組織で調べ、gp96抗原と比較した。追実験の条件を定めるために、IHC最適化の検討をおこなった。H460−16−2モノクローナル抗体の生産および精製を上述通りにおこなった。
MB−231腫瘍細胞を皮下移植された未処置のマウスを、移植後74日目に安楽死させた。腫瘍組織および主要器官の組織を切り出し、10%中性緩衝ホルマリンに48時間さらして固定した。固定後、上記組織を70%エタノールに移して処理し、パラフィン包埋して切片にし、染色用スライド・ガラスに載せた。スライドを60℃、1時間にわたりオーブンで乾燥させることで、パラフィンを取り除き、コプリン・ジャーでキシレンに4回5分間ずつ浸漬することで脱脂した。一連の段階的なエタノール洗浄(100%〜75%)による処理をおこなった後、切片を水で再水和させた。スライドをpH6の10mMクエン酸緩衝液(ダコ、カナダ・オンタリオ州トロント)に浸漬し、出力を高、中、および低にそれぞれ5分間ずつ設定してマイクロウェーブ処理し、最終的に冷PBSに浸漬した。つぎに、スライドを3%過酸化水素溶液に6分間浸漬し、PBSによる洗浄を3回、5分間ずつおこない、室温で5分間にわたりユニバーサル・ブロッキング溶液(ダコ、カナダ・オンタリオ州トロント)でインキュベートし、乾燥させた。H460−16−2、単クローン性マウス抗ビメンチン(ダコ、カナダ・オンタリオ州トロント)、および抗gp96として知られている抗grp94(ストレスゲン・バイオテクノロジー、カナダ・ブリティッシュコロンビア州ビクトリア)を抗体希釈緩衝液(ダコ、カナダ・オンタリオ州トロント)で作用濃度(各抗体に関して2.5μg/mL、5μg/mL、または10μg/mL)に希釈し、4℃の加湿チェンバーで一晩インキュベートした。スライドの洗浄を、PBSで3回、それぞれ5分間にわたっておこなった。一次抗体の免疫反応性を、供給されたままの状態のHRPコンジュゲート二次抗体(ダコ・エンビジョン・システム、カナダ・オンタリオ州トロント)によって、室温で30分間にわたり、検出/視覚化した。このステップの後、スライドをPBSで3回、それぞれ5分間ずつ洗浄し、室温で10分間、免疫ペルオキシダーゼ染色用のDAB(3,3’−ジアミノベンジジンテトラヒドロクロリド、ダコ、カナダ・オンタリオ州トロント)発色基質を添加することで呈色反応を生じさせた。スライドを水道水で洗浄して発色反応を停止ささせた。マイヤーのヘマトキシリン(シグマ・ダイアグノスティックス、カナダ・オンタリオ州オークビル)による対比染色後、スライドを段階的エタノール処理(75〜100%)により脱水し、キシレンでクリアにした。封入剤(ダコ・ファラマウント、カナダ・オンタリオ州トロント)を用い、スライドにカバーガラスを付けた。アキシオバート(Axiovert)200(ツアイス・カナダ、カナダ・オンタリオ州トロント)を用いて上記スライドの顕微鏡観察をおこない、ノーザン・エクリプス・イメージング・ソフトウェア(Northern Eclipse Imaging Software))(ミシソーガ、カナダ・オンタリオ州)を用いてデジタル画像の取得および保存をおこなった。結果を病理学者が読み取り、点数化および解釈をおこなった。
陽性(抗gp96)および陰性の対照抗体(抗ビメンチン)について期待される結果を生ずる濃度を最適濃度とした。抗ビメンチン抗体は、マウス組織では陽性であったが、ヒト組織では陰性であった。抗gp96抗体は、マウスおよびヒトの組織で陽性であることが以前に示されている。これらの研究では、高濃度および低濃度のいずれも対照抗体では期待される結果が得られなかったけれども、5μg/mL濃度では得られた。
【0025】
【表3】

SCIDマウス組織および移植されたヒト乳癌であるMB−231のIHC調査の結果(表3)は、陰性対照抗体抗ビメンチンがマウス組織に対しては陰性であるけれども、ヒト組織に対しては陽性であることを示している。抗ビメンチン(図8A)は、強い細胞質および多少の膜質の染色を示している。H460−16−2は強い膜質の染色(図8B)を示しており、また抗gp96は副次的に陽性の点状および細胞質染色細胞(図8C)を示している。抗ビメンチン(図9A)およびH460−16−2(図9B)は、マウス肝臓を染色しなかったけれども、抗gp96は肝細胞を強く染色した(図9C)。抗ビメンチン(図10A)は、マウス腎臓を染色しなかった。H460−16−2(図10B)が、遠位および近位尿細管の先端染色を示す一方で、抗gp96が細胞質および点状のパターンで同様の細胞の拡散染色を生じた(図10C)。抗ビメンチン(図11A)は、マウス卵巣を染色しなかった。H460−16−2(図11B)が卵巣のみで細胞質および核染色を示す一方で、抗gp96は卵巣の拡散性細胞質および核染色を生じ、顆粒膜細胞の点状染色を生じた(図11C)。
【0026】
抗ビメンチン陰性対照抗体は、ヒト組織では期待された染色が得られ、マウス組織では染色がみられなかった(図8ないし図11参照)。H460−16−2抗原がgp96の癌変異体である可能性があることから、抗gp96抗体を陽性対照として用いた。抗gp96抗体は、乳癌によるgp96発現との関連性とは矛盾しないMB−231細胞の染色(図8)を示した。Gp96もまた、タンパク質合成に関与する多くの細胞型(例えば、肝細胞、脾臓のランゲルハンス島細胞、卵巣顆粒膜細胞、および卵管粘膜上皮)の細胞質でも発現した(表3)。このことは、小胞体シャペロン・タンパク質としてのgp96に対する推定上の役割と完全に整合している。
H460−16−2抗体は、対応する主要モデルでの生体内(in vivo)効果と整合しているMB−231細胞を染色した。加えて、それはマウス卵子(図11)と同様にマウス腎臓(表3)のDCTおよびPCTを染色した。このようなマウス組織標本抽出から、H460−16−2抗体がヒト細胞だけに制限されるのではなく、抗体がその抗原を認識し得るようにマウスでも発現されると思われる。有意に、正常マウス腎臓組織の染色によって示されるように、H460−16−2およびgp96抗原の発現で差があり、H460−16−2では先端染色が得られ、拡散染色は抗gp96にみられた(図10)。これの別の例が抗gp96による卵子の追加染色である(図11)。決定的な違いは、H460−16−2染色が肝臓では起こらず、一方gp96染色がかなり広範囲にわたる(図9)。
上述の実験を進めるために、H460−16−2、抗gp96(H460−16−2との対比を目的とする)と抗ビメンチン(負の対照)とを用いて、正常マウス組織群を染色した(イムジェネックス、米国カリフォルニア州サンディエゴ)。用いた染色法は上述のものと同様であった。表4にまとめたように、抗ビメンチンは試験した組織のいずれも染色しなかった。H460−16−2は再び卵巣および腎臓のみを染色した一方で、抗gp96はより広範囲のマウス組織を染色し続けた。これらの結果は上記したものと整合しており、再びH460−16−2発現がヒト細胞に制限されないことを、またその発現が正常マウス組織に制限され、かつ特異的であることを示している。それはまた、H460−16−2が抗gp96と同様の組織を染色しているが、抗gp96はより広範囲の組織を染色し続けていることも裏付けており、H460−16−2抗原がgp96のサブセットかもしれないという考えが支持される。
【0027】
【表4】

【実施例4】
【0028】
正常ヒト組織染色
ヒトでのH460−16−2抗原の分布を特徴づけるために、IHC検査を実施した。それをgp96に対する抗体と比較した。なぜなら、生化学的方法によって既に測定されたように、H460−16−2抗原がgp96の癌変異体であると考えられるからである。60個のヒト正常組織に対する抗原の結合を、ヒト正常器官組織群(イムジェネックス、米国カリフォルニア州サンディエゴ)を用いて実施した。全ての一次抗体(H460−16−2、抗grp94(抗gp96としても公知、ストレスゲン・バイオテクノロジー、カナダ・ブリティッシュコロンビア州ビクトリア)ならびにマウスIgG1陰性対照群(ダコ、カナダ・オンタリオ州トロント)を抗体希釈緩衝液(ダコ、カナダ・オンタリオ州トロント)で希釈して濃度を5μg/mlにした(最適化ステップで最適濃度であることがわかる)。陰性対照抗体は、製造元によって全ての哺乳類組織で陰性であることが示されている。実施例3のIHCを以下の手順でおこなった。
【0029】
表5は、一連の正常ヒト組織に対するH460−16−2染色の結果の概要を示す。表によれば、組織染色には3つのカテゴリーがある。第1の組織群は完全に陰性であった。これらの組織として、正常なヒト、腎臓、脳、脾臓、乳房、精巣、卵巣、および胎盤が挙げられる。第2の組織群は、染色が陽性である組織から構成された。これらのもとして、皮膚、尿管、胃、および前立腺が含まれていた。唾液腺はこの抗体で最も強い染色を示した。第3の組織群として、組織切片で染色が陽性となった組織が挙げられたけれども、浸透マクロファージ、リンパ球、および線維芽細胞に限られていた。このことは、肺、肝臓、胃、小腸、および大腸のマクロファージ、さらには脾臓および胆嚢のリンパ球が含まれた。留意すべきことは、肝臓、腎臓、心臓、および肺を含む生命の維持に重要な器官に抗原が存在しないことである。抗体はマクロファージおよびリンパ球に結合せず、その存在は切片化された臓器のいくつかで観察される。比較として、抗gp96に対して陰性である組織として、皮下脂肪、骨格筋、肺、心臓、胃、平滑筋、膀胱、子宮筋、卵巣、臍の緒、脳(白質および灰白質)、小脳、および脊髄が含まれた。子宮筋を除いては、これらの組織の全てもまた、H460−16−2染色に対して陰性であった。これらの結果は、H360−16−2が抗gp96抗体によって認識されたよりわずかな組織に対して結合することを示唆している。このことは、マウス組織検査と整合しており、抗gp96が、H460−16−2にも結合した2つの組織、すなわち腎臓および卵巣に加えて、肝臓、脾臓、脳、およびファローピウス管に結合した。これらの結果は、H460−16−2に対する抗体が正常組織で幅広く発現することはないこと、ならびに抗体が限られた数のヒト組織に結合することを示唆している。
【0030】
【表5】

gp96とH460−16−2抗原との分布の違いを描写するために、抗原が発現される細胞型を表6に一覧にして示した。表によれば、抗gp96抗体はH460−16−2よりも広範囲の細胞型に結合することが明らかである。さらに、H460−16−2が最も強く結合したものは、線維芽細胞、腺上皮、およびリンパ球であった。マクロファージ、ケラチノサイト、平滑筋、粘膜上皮、および甲状腺胞状細胞に対する結合は弱かった。抗gp96が新たな15の細胞型に結合し、H460−16−2抗原を発現した各々の細胞型に結合した。このことは、gp96抗原を発現しなかったH460−16−2を発現した細胞がなかったことから、H460−16−2抗原がgp96の一部であることを示唆している。
【0031】
【表6】

これらの組織調査は、H460−16−2抗原が、生命の維持に重要な器官を含む正常組織でかなり限られた分布を呈することを示した。また、実験は抗gp96がH460−16−2に比べて、より広範囲の組織に結合した。H460−16−2は、抗gp96よって結合された組織の一部および限られた細胞型に結合する。H460−16−2陽性ではあるがgp96陽性ではない組織で、H460−16−2はマクロファージおよび線維芽細胞(一般にgp96を発現した細胞型)のみに結合した。マウスおよびヒト組織調査間での違いもまた、ヒトでは関連性があり、発現が非常に限られていることから正常マウスでは重要性が限られている抗原をH460−16−2が認識することを指摘している。H460−16−2抗体それ自体は、抗原のヒト型を認識することからヒトで適用可能である。
【実施例5】
【0032】
ヒト腫瘍組織染色
ヒト乳癌とのH460−16−2抗原の癌関連性を決定し、またH460−16−2抗体がヒト癌を認識するかどうかを決定するために、IHC検査を実施した。抗gp96抗体およびアスペルギラス・ニガー・グルコース・オキシダーゼに対する抗体(ヒト組織では存在もしくは誘導がなされない酵素)(負の対照)について、比較をおこなった。50人の乳癌患者と、乳癌患者の非新生生物の乳房組織由来の9つの試料とに由来する乳癌組織を用いた(イムジェネックス社、米国カリフォルニア州サンディエゴ)。以下の情報を各患者について得た。すなわち、年齢、性別、対癌米国合同委員会(AJCC)が定めた腫瘍の病期、リンパ節、エストロゲン・レセプター(ER)、およびプロゲステロン・レセプター(PR)の状態である。実施例3のIHCに対する手順に従った。全ての抗体を作用濃度5μg/mlで用いた。
【0033】
表7および8は、乳癌組織群に対するH460−16−2および抗gp96抗体の結合についてまとめたものである。各配列は、50人の患者から得た腫瘍試料を含んだ。全体的に、試験した50人の患者のうち64パーセントがH460−16−2抗原に対して陽性であったのに対して、gp96では84パーセントであった。H460−16−2およびgp96抗原については、乳癌患者から得た9つの正常乳房試料のうちの2つのみが陽性であった。エストロゲン・レセプターとプロゲステロン・レセプターとのあいだのはっきりとした相互関係は明白ではなかった。より高い腫瘍病期でH460−16−2抗原の陽性発現が高くなる傾向があるように思えた。H460−16−2染色は、間質細胞があきらかに陰性であり、悪性細胞層がかなり陽性である図12に示されるように、正常細胞よりも癌細胞に対してかなり特異的であった。H460−16−2抗原で見られる細胞局在パターンは、多くの例で細胞膜に限定されていた。抗gp96抗体はより多くの乳癌試料を染色したが、実質的な細胞質局在化と同様に一貫した膜を示した(図13)。抗gp96抗体は、H460−16−2と同様の乳癌患者由来の正常組織試料を染色した。これらの結果は、H460−16−2の抗原が乳癌患者のほぼ3分の2で発現される可能性があることを示唆している。染色パターンは、患者試料で上記抗体が悪性細胞に対する特異性が高く、H460−16−2抗原が細胞膜に局在していることから、それを魅力的なドラッグアブル(druggable)な標的にしている。
【0034】
【表7】

【0035】
【表8】

乳房以外にも他のヒト腫瘍組織でH460−16−2抗原が発現するかどうかを判断するために、H460−16−12を多重ヒト腫瘍組織アレイ(multiple human tumor tissue array)(イムジェネックス、米国カリフォルニア州サンディエゴ)上で用いた。以下の情報を各患者について得た。すなわち、年齢、性別、器官、および診断である。実施例3と同様の染色法を用いた。ビメチンを陽性対照抗体として用い、上記ヒト乳癌組織アレイに関して記載したものと同様の陰性対照抗体を用いた。全ての抗体は、作用濃度5μg/mlで用いた。
【0036】
表9に概要を示すように、H460−16−2は乳房を除く多数の様々なヒト癌を染色した。以下の腫瘍型は、H460−16−2に対して常に陽性であった(度合いが異なるにもかかわらず)。すなわち、リンパ節(2/2)、骨(2/2)、肺(4/4)、腎臓(3/3)、子宮(3/3)、および甲状腺(2/2)は、H460−16−2(程度が異なるとはいえ)に対して常に陽性であった。胃(4/5)、肝臓(2/3)、および耳下腺(2/3)もまた、比較的一貫して染色に対して陽性を示した。いくつかの他の腫瘍型でもしばしば陽性に染色せれた。乳癌で見られるように、H460−16−2染色は癌細胞膜上に主に局在した。
したがって、H460−16−2抗原が乳癌の膜上に単独で見いだされるだけではなく、多種多様な腫瘍型の膜でも見いだされると思われる。これらの結果は、H460−16−2が乳房に加えて多種多様な腫瘍型で治療薬としての可能性があることを示している。
【0037】
【表9】

【0038】
この明細書で言及される全ての特許および刊行物は、本発明が関係する当業者のレベルを示す。あたかも個々の刊行物が具体的かつ独立して援用される場合と同一程度に、全ての特許および刊行物が本明細書の一部を構成するものとして援用される。
本発明の一定の形態が例証される一方で、本明細書に説明および表示した特定の形態または複数の部分の配置に限定されるものではないことが理解される。当業者は、種々の変更が本発明の範囲から逸脱することなくおこなわれ、また本発明が明細書に表示および説明したものに限定されて考慮されるものではないことを、容易に理解する。当業者は、本発明が本明細書に固有であるものと同様に、目的を実施するために、また言及した結果および利点を得るために十分に適していると、理解する。本明細書に記述したいかなるオリゴヌクレオチド、ペプチド、ポリペプチド、生物学的に関連した化合物、方法、手順、および技術は、現時点で好ましい実施形態を代表するものであり、例示的であることが意図され、本発明の範囲に対して制限を加えることを意図したものではない。その範囲での変更および多の用途は、本発明の精神の範囲内で、添付した請求の範囲の範囲によって定義される当業者に想到されるものである。本発明は、特定の好ましい実施形態に関連して説明されたが、クレームされた発明はそのような実施形態を過度に制限すべきものではないことを理解しなければならない。実際、本発明を実施するための上記した形態の種々の修飾はした当業者にとって明らかなものであり、以下の請求の範囲の範囲内にあることを意図している。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】ヒストグラムは、本研究継続中にわたる異なる処置群の平均体重を示す。データは、各々の時点での各群の平均値±SEMとして示されている。
【図2】予防的MB−231乳癌モデルでの腫瘍増殖に対するH460−16−2の効果。破線は、抗体が投与された期間を示す。データ・ポイントは、平均値±SEMを表す。
【図3】H460−16−2、緩衝液、およびアイソタイプ対照抗体による処置後の腫瘍保持マウスの生存。処置後70日以上にわたって、生存についてマウスを観察した。
【図4】確立されているMDA−MB−231乳癌モデルでの腫瘍増殖に対するH460−16−2の効果。破線は、抗体が投与された期間を示す。データ・ポイントは、平均値±SEMを表す。
【図5】ARH460−16−2およびシスプラチンの処置効力または抗腫瘍効果のグラフ表示。増殖阻害を、処置群対アイソタイプ対照処置群の腫瘍容積中央値の比率として算出し、パーセントで表した。すなわち、T/C×100、式中、TはX日での処置群の腫瘍容積中央値、CはX日での対照群の腫瘍容積中央値である。破線は、処置期間を示す。
【図6】処置期間前後での研究群の動物の平均体重。
【図7】H460−16−2、シスプラチン、またはアイソタイプ対照抗体による処置後の腫瘍保持マウスの生存。処置後60日以上にわたって、生存についてマウスを観察した。
【図8】SCIDマウスから外植されたヒトMB−231乳癌。A:抗ビメンチン。B:H460−16−2。C:抗gp96。矢印は、細胞質および斑点状染色を呈する細胞を指し示す。倍率は100倍である。
【図9】マウス肝臓。A:抗ビメンチン。B:H460−16−2。C:抗gp96。肝細胞が抗gp96によって陽性染色されていることに注目。倍率は100倍である。
【図10】マウス腎臓。A:抗ビメンチン。B:H460−16−2。矢印は、尿細管細胞の先端染色を指し示す。C:抗gp96。矢印は、尿細管細胞の拡散染色を指し示す。倍率は100倍である。
【図11】マウス卵巣。A:抗ビメンチン。B:H460−16−2。矢印は、濾胞内の卵子の細胞質染色を指し示す。C:抗gp96。矢印は、顆粒膜細胞を指し示す。倍率は100倍である。
【図12】乳癌腫瘍(浸潤性導管癌)に対するH460−16−2結合の典型的な顕微鏡写真。図面内の黄色矢印および橙色矢印は、それぞれ間質細胞と悪性細胞の層とを示す。倍率は100倍である。
【図13】乳癌組織群に由来する浸潤性導管癌の組織切片でのH460−16−2(A)および抗gp96抗体(B)によって得られた結合パターンを示す典型的な顕微鏡写真。青矢印は、抗原標的の細胞局在を示す。倍率は200倍である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳類のヒト腫瘍を処置する方法であって、
前記腫瘍が、寄託番号PTA−4621としてATCCに寄託されたクローンをコードするモノクローン抗体の同定特徴を持つモノクローナル抗体もしくは該モノクローナル抗体の抗原結合フラグメントに対して特異的に結合する抗原を発現するもので、前記哺乳類の全身腫瘍組織量を減少させるのに有効な量の前記モノクローナル抗体を前記哺乳類に投与する、哺乳類のヒト腫瘍を処置する方法。
【請求項2】
前記抗体が細胞障害性部分に結合している、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記細胞障害性部分が放射性同位体である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記抗体が補体を活性化させる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記抗体が抗体依存型細胞細胞障害性を媒介する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記抗体がマウス抗体である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記抗体がヒト化抗体である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記抗体がキメラ抗体である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
PTA−4621としてATCCに寄託されたクローンによってコードされる、単離モノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項10】
前記単離抗体またはその抗原結合フラグメントがヒト化されている、請求項9に記載の単離抗体またはその抗原結合フラグメント
【請求項11】
細胞障害性部分、酵素、放射性化合物、および造血性細胞からなる群から選択される成分と結合する、請求項9の単離抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項12】
前記単離抗体またはその抗原結合フラグメントがキメラ抗体である、請求項9の単離抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項13】
前記単離抗体またはその抗原結合フラグメントがマウス抗体である、請求項9の単離抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項14】
PTA−4621としてATCCに寄託された単離クローン。
【請求項15】
ヒト腫瘍から選択された組織試料中の癌細胞の存在を測定する結合アッセイであって、
前記ヒト腫瘍から組織試料を提供すること、
PTA−4621としてATCCに寄託されたクローンによってコードされた単離モノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントを提供すること、
前記単離モノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントを前記組織試料と接触させること、ならびに、
前記単離モノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントと前記組織試料との結合を測定すること、
を含むことで、前記組織試料中での前記癌細胞の存在を示す、結合アッセイ。
【請求項16】
前記ヒト腫瘍組織試料が、大腸、卵巣、肺、および乳房の組織からなる群から選択される組織に由来する腫瘍から得たものである、請求項15に記載の結合アッセイ。
【請求項17】
ヒト腫瘍から選択された組織試料中の癌細胞を単離またはスクリーニングする方法であって、
前記ヒト腫瘍由来のヒト試料を提供すること、
PTA−4621としてATCCに寄託されたクローンによってコードされた単離モノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントを提供すること、
前記単離モノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントを前記組織試料と接触させること、ならびに、
前記単離モノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントと前記組織試料との結合を測定すること、
を含むことで、前記癌細胞が前記結合によって単離され、前記組織中での前記癌細胞の存在が確認される、方法。
【請求項18】
前記ヒト腫瘍組織試料が、大腸、卵巣、肺、および乳房の組織からなる群から選択される組織に由来する腫瘍から得たものである、請求項17に記載の結合アッセイ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公表番号】特表2007−523851(P2007−523851A)
【公表日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−515581(P2006−515581)
【出願日】平成16年6月8日(2004.6.8)
【国際出願番号】PCT/CA2004/000845
【国際公開番号】WO2004/112834
【国際公開日】平成16年12月29日(2004.12.29)
【出願人】(504236592)アリアス リサーチ、インコーポレイテッド (28)
【Fターム(参考)】