説明

癌細胞特異的抗癌剤

【課題】RRM2遺伝子の発現を抑制する化合物を有効成分として含有する、癌細胞特異的なアポトーシス誘導剤もしくは癌細胞特異的な抗癌剤を提供することを課題とする。
【解決手段】RRM2遺伝子の発現を抑制することによって、正常細胞には作用せず、癌細胞に対して特異的にアポトーシスの誘導が引き起こされることが明らかとなった。RRM2遺伝子の発現を抑制する化合物は、癌細胞特異的なアポトーシス誘導剤、もしくは癌細胞特異的な抗癌剤となるものと考えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RRM2遺伝子の発現を抑制する化合物を有効成分として含有する、癌細胞に対し特異的に作用するアポトーシス誘導剤、並びに、該アポトーシス誘導剤を成分とする癌細胞特異的抗癌剤に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、作用機序の一部としてリボヌクレオチドレダクターゼ(RNR)を阻害する癌治療薬が使われている。これらには、hydroxyurea、gemcitabine、fludarabineが含まれる。gemcitabineとfludarabineはRNRに対する特異的阻害薬ではなく、治療は重大な副作用を引き起こし、一方hydroxyureaはRNRの可逆的な阻害薬で、効果には比較的高濃度を必要とする。従って、RNRを標的とした極めて有効な癌治療薬は知られていない。
【0003】
RNRはribonucleoside 5’-diphosphates (ADP, GDP, UDP, CDP)から、2’-deoxyribonucleotides (dADP, dGDP, dUDP, dCDP)を合成する反応を触媒する。このステップは、DNA複製に必要な2’-deoxyribonucleoside 5’-triphosphatesの生産における律速段階反応である(非特許文献1参照)。ヒトRNRは2つのタンパク質R1とR2から構成され、R1は分子量160 kDaの二量体であり、R2は分子量78 kDaの二量体である。R1遺伝子とR2遺伝子の両方の発現RNRの酵素活性には必要であるが、興味深いことに、R1遺伝子とR2遺伝子は別々の染色体上に位置する異なる遺伝子によってコードされ、それぞれのmRNAは細胞周期を通じて特異的に発現する(非特許文献2および3参照)。その結果、R1タンパク質の発現レベルは細胞周期を通じて比較的安定しており、一方R2タンパク質は、DNA複製が起こるG1期の後期からS期の初期にかけてのみ発現する。
【0004】
最近のR2に関する研究結果は、RNRが癌治療薬の標的として有効であることを示唆する。例えば、R2の発現上昇は癌細胞の薬剤耐性を上昇させることが見出され(非特許文献4、5および6参照)、一方、R2に対するアンチセンスの発現は薬剤耐性の低下を引き起こし、その結果癌細胞の増殖が低下することが明らかとなった(非特許文献4参照)。これらの結果から、RNRの構成因子であるR2は癌治療のための分子標的として重要であり、実際にR2に対するアンチセンス(AS-ODN)が癌治療薬として開発されている。GTI-2040はin vitroとin vivoで有効性が認められているAS-ODNであるが、in vitro細胞レベルでのR2の発現抑制効果には200 nMのAS-ODNが必要であり、したがって、in vivoでも多量のAS-ODN (5 mg/kg)を投与しなければならない(非特許文献7参照)。
【0005】
RNA干渉(RNAi)はmRNAを標的とした転写後における発現制御機構であり(非特許文献8参照)、細胞に導入された21-25塩基の短い二重鎖RNA分子(siRNA)が標的mRNAと相互作用することにより、配列特異的に切断や翻訳阻害を引き起こす現象である(非特許文献9および10参照)。siRNAは細胞質でAgo2、TRBP、DicerなどとRNA-induced silencing complex(RISC)を形成することにより、標的mRNAを認識して酵素反応的にRNAiを引き起こすので(非特許文献11参照)、AS-ODNと比較してより低濃度で標的遺伝子の発現を抑制することができる。siRNAを用いてR2遺伝子の発現を抑制することにより、gemcitabineの有する抗癌活性が増強されることが報告されているが(非特許文献12参照)、siRNAによるR2遺伝子の発現抑制そのものが癌細胞の増殖に与える影響については不明である。また、R2を標的としたAS-ODN やsiRNA による正常細胞に対する影響は不明であり、副作用の観点から更なる検証が必要である。
【0006】
【非特許文献1】Cory JG.著、「Purine and pyrimidine nucleotide metabolism.」、Devlin T. eds.、Biochemistry with Clinical Correlations、4th ed.、p.489-523、Wiley-Liss New York、1997年
【非特許文献2】Tonin PN. 外6名著、「Chromosomal assignment of amplified genes in hydroxyurea-resistant hamster cells.」、Cytogenet. Cell Genet.、1987年、Vol.45、p.102-108
【非特許文献3】Engstrom Y. 外5名著、「Cell cycle-dependent expression of mammalian ribonucleotide reductase.」、J. Biol. Chem.、1985年、Vol.260、p. 9114-9116
【非特許文献4】Huang A. 外3名著、「Ribonucleotide reductase R2 gene expression and changes in drug sensitivity and genome stability.」、Cancer Res.、1997年、Vol.57、p. 4876-4881
【非特許文献5】Goan Y. 外4名著、「Overexpression of ribonucleotide reductase as a mechanism of resistance to 2,2-defluorodeoxycyctidine in the human KB cancer cell line.」、Cancer Res.、1999年、Vol.59、p. 4204-4207
【非特許文献6】Zhou BS. 外4名著、「Overexpression of ribonucleotide reductase in transfected human KB cells increases their resistance to hydroxyurea: M2 but not M1 is sufficient to increase resistance to hydroxyurea in transfected cells.」、Cancer Res.、1995年、Vol.55、p. 1328-1333
【非特許文献7】Lee Y. 外10名著、「GTI-2040, an Antisense Agent Targeting the Small Subunit Component (R2) of Human Ribonucleotide Reductase, Shows Potent Antitumor Activity against a Variety of Tumors.」、Cancer Res.、2003年、Vol.63、p. 2802-2811
【非特許文献8】Lee Y. 外5名著、「Potent and specific genetic interference by double-stranded RNA in Caenorhabditis elegans.」、Nature、1998年、Vol.391、p. 806-811
【非特許文献9】Elbashir SM. 外5名著、「Duplexes of 21-nucleotide RNAs mediate RNA interference in cultured mammalian cells.」、Nature、2001年、Vol.411、p. 494-498
【非特許文献10】Elbashir SM. 外2名著、「RNA interference is mediated by 21- and 22-nucleotide RNAs.」、Genes Dev.、2001年、Vol.15、p. 188-200
【非特許文献11】Gregory RI. 外3名著、「Human RISC couples microRNA biogenesis and posttranscriptional gene silencing.」、Cell、2005年、Vol.123、p. 631-640
【非特許文献12】Duxbury MS. 外4名著、「RNA interference targeting the M2 subunit of ribonucleotide reductase enhances pancreatic adenocarcinoma chemosensitivity to gemcitabine.」、Oncogene、2004年、Vol.23、p. 1539-1548
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ある化合物について癌細胞増殖抑制作用を有することが分かった場合であっても、正常細胞に対する増殖抑制作用の有無が不明な化合物は、効果的な医薬品とはならない。該化合物が正常細胞に対しても増殖抑制作用が見られる場合、副作用の危険を伴うからである。実際にこれまでのところ、種々の抗癌剤が副作用を有することを示す知見が報告されている(例えば、Komarov P. G. et al., Science Vol.285, 1733-1737, 1999; Kamarova E. A. and Gudkov A. V. Biochemistry (Moscow) Vol.65, 41-48, 2000; Botchkarev V. A. Cancer Research Vol.60, 5002-5006, 2000)。細胞増殖抑制作用が癌細胞特異的なものであり、正常細胞には作用しないような薬剤を開発することができれば、副作用の少ない非常に有用な抗癌剤となることが期待される。
【0008】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、正常細胞には作用せず、癌細胞に対して特異的に作用する抗癌剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行なった。本発明者らは、ヒトのRRM2遺伝子について、その発現を抑制する機能を有するsiRNAを用いて、RRM2遺伝子の発現抑制が癌細胞の増殖に及ぼす影響を検討した。その結果、本発明者らは、RRM2遺伝子の発現を抑制することにより、癌細胞において細胞死が誘導される効果(アポトーシス誘導効果)が観察されるものの、これらの効果は正常細胞(ヒト網膜色素上皮細胞株ARPE19)では認められないことを見出した。即ち、本発明者らは、RRM2遺伝子の発現を抑制することによって癌細胞特異的に細胞死を誘導する効果が見られることを初めて見出した。従って、RRM2遺伝子は非常に優れた副作用の少ない制癌剤のターゲット分子となるものと考えられる。また本発明者らは、癌細胞に対して特異的に細胞のアポトーシス誘導効果を有するsiRNA分子を見出すことに成功した。該分子を含む薬剤は、癌治療において副作用の少ない有効な医薬となることが期待される。
【0010】
上述のように、既存の抗癌剤の多くは副作用を有するものであることを勘案すると、本願のRRM2遺伝子に対するsiRNA分子のように、癌細胞の細胞死誘導作用を有する分子が正常細胞には作用しないということを予め予想することは、非常に困難であるものと言える。即ち、本発明によって提供されるsiRNA分子は、当業者であっても予測できないような有利な効果(正常細胞には作用せず、癌細胞特異的な細胞死誘導効果)を有するものと言える。
【0011】
また、本発明のRRM2遺伝子に対するsiRNAは、多くの細胞において90%の発現抑制効果が20nM以下であり、さらに50%増殖抑制(IC50)は、0.5〜10nMの範囲であることが見出された。即ち、本発明のsiRNAは、より低濃度で癌細胞殺傷能力を有することが示された。
【0012】
RRM2遺伝子の発現を抑制する化合物は、癌細胞特異的に細胞死誘導効果(アポトーシス誘導効果)を有するものと考えられ、該化合物は副作用の少ない抗癌剤となり得る。例えば、RRM2のmRNA配列に基づいたsiRNA等のRRM2遺伝子の発現を抑制する化合物は副作用の少ない制癌剤として期待される。
【0013】
即ち、本発明は、RRM2遺伝子の発現を抑制する化合物、特に、RRM2遺伝子に対するsiRNAを有効成分として含有する、癌細胞特異的なアポトーシス誘導剤、並びに、癌細胞特異的抗癌剤に関し、より具体的には、
〔1〕 RRM2遺伝子の発現を抑制する化合物を有効成分として含有する、癌細胞特異的アポトーシス誘導剤、
〔2〕 RRM2遺伝子の発現を抑制する化合物が、RRM2遺伝子に対してRNAi効果を有する二本鎖RNAである、〔1〕に記載の癌細胞特異的アポトーシス誘導剤、
〔3〕 二本鎖RNAが、RRM2遺伝子のmRNAにおける連続する任意の15〜30塩基と相同な配列からなるセンスRNAおよび該センスRNAに相補的な配列からなるアンチセンスRNAからなる二本鎖RNAである、〔2〕に記載の癌細胞特異的アポトーシス誘導剤、
〔4〕 RRM2遺伝子に対してRNAi効果を有する二本鎖RNAを発現し得るDNAを有効成分として含有する、癌細胞特異的アポトーシス誘導剤、
〔5〕 二本鎖RNAが、配列番号:3〜10のいずれかに記載のDNAによってコードされるRNA(配列番号:11〜18のいずれかに記載の配列)と、該RNAと相補的な配列からなるRNAとがハイブリダイズした構造を含む二本鎖RNAである、〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の癌細胞特異的アポトーシス誘導剤、
〔6〕 RRM2遺伝子の発現を抑制する化合物が以下の(a)または(b)である、〔1〕に記載の癌細胞特異的アポトーシス誘導剤、
(a)RRM2遺伝子の転写産物、またはその一部に対するアンチセンス核酸
(b)RRM2遺伝子の転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有する核酸
〔7〕 〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の癌細胞特異的アポトーシス誘導剤を有効成分とする癌細胞特異的抗癌剤、
〔8〕 癌細胞が、肝癌細胞、肺癌細胞、乳癌細胞、卵巣癌細胞、または子宮頚部癌細胞である、〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の薬剤、
を、提供するものである。
また、本発明の好ましい態様においては、以下を提供する。
〔9〕 前記二本鎖RNAを有効成分として含有する、癌細胞特異的細胞増殖抑制剤。
〔10〕 50%増殖抑制(IC50)が10 nM以下であることを特徴とする、〔9〕に記載の薬剤。
〔11〕 50%増殖抑制(IC50)が0.5 nM以下であることを特徴とする、〔10〕に記載の薬剤。
〔12〕 ヒト網膜色素上皮細胞ARPE19に対して実質的に作用しないことによって特徴付けられる、〔1〕〜〔11〕のいずれかに記載の薬剤。
【発明の効果】
【0014】
本発明のRRM2遺伝子の発現を抑制する化合物は、癌細胞選択的なアポトーシス誘導作用を有する。該化合物を含む医薬は、アポトーシス誘導作用を機序とする副作用の少ない抗癌剤となるものと考えられる。本発明によって、RRM2を標的としたアポトーシス誘導作用を機序とする癌細胞特異的な抗癌剤が提供された。
【0015】
ある化合物についてアポトーシス誘導作用を有することが分かった場合であっても、正常細胞に対するアポトーシス誘導作用の有無が不明な化合物は、医薬品として使用することは難しい。該化合物が正常細胞においてもアポトーシス誘導作用が見られる場合、副作用の危険を伴うからである。即ち、アポトーシス誘導作用が癌細胞特異的なものでなければ、実際に医薬品として使用することは、通常困難である。本発明の薬剤(化合物)は、アポトーシス誘導作用が癌細胞特異的である点で、非常に実用的かつ実効性の高い薬剤であると言える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明者らによって、RRM2遺伝子の発現を抑制することにより、癌細胞(腫瘍細胞)に対して特異的に細胞死が誘導(アポトーシスが誘導)されることが見出された。従って、本発明はまず、RRM2遺伝子の発現を抑制する化合物を有効成分として含有する、アポトーシス誘導剤を提供する。
【0017】
本発明のアポトーシス誘導剤は、特に癌細胞に対して選択的にアポトーシス誘導作用を有する。即ち、本発明の好ましい態様においては、RRM2遺伝子の発現を抑制する化合物を有効成分とする癌細胞選択的(特異的)なアポトーシス誘導作用を有する薬剤を提供する。
【0018】
アポトーシスとは一般的に、生理的条件下で細胞自らが積極的に引き起こす細胞死を言う。アポトーシスの形態としては、例えば、細胞核の染色体凝集、細胞核の断片化、細胞表層微絨毛の消失、細胞質の凝集等が挙げられる。従って、本発明におけるアポトーシス誘導作用とは、例えば、細胞において上記のアポトーシスの形態を誘導する作用を指すが、必ずしも、上記の形態の誘導のみに限定されるものではない。当業者においては、細胞のアポトーシス誘導が起こっているか否かについて、適宜、判断することが可能である。
【0019】
本発明の、癌細胞に対するアポトーシス誘導剤は、例えば、アポトーシス誘導作用を機序とする抗癌剤(制癌剤)となるものと考えられる。
【0020】
なお、本発明におけるアポトーシス誘導剤は、細胞増殖を抑制する作用を有することから、RRM2遺伝子の発現を抑制する化合物を含有する本発明の薬剤は、「癌細胞特異的な細胞増殖抑制剤」と表現することも可能である。
【0021】
本発明において「癌細胞特異的」とは、癌細胞に対して作用するが、正常細胞に対しては実質的に作用しない(効果的な作用を示さない)ことを言う。正常細胞に対する作用が、癌細胞に対する作用よりも有意に低い場合も、本発明における「癌細胞特異的」に含まれる。例えば、被検化合物(siRNA等)が、癌細胞に対しては効果を示すが、正常細胞であるヒト網膜色素上皮細胞ARPE19に対して、実質的にアポトーシスを誘導しない、あるいは細胞増殖を抑制しない場合に、該化合物は癌細胞特異的である(正常細胞に対して実質的に作用しない)ものと判定される。
【0022】
RRM2遺伝子の塩基配列に関する情報は、当業者においては、公共の遺伝子データベース(例えば、GenBank等)から容易に取得することができる。RRM2遺伝子のGenBankのアクセッション番号は、例えばNM_001034(配列番号:1)である。
【0023】
また、本発明のRRM2遺伝子によってコードされるタンパク質のアミノ酸配列についても、当業者においては、例えば、上記のアクセッション番号を基に、容易に取得することができる。本発明のRRM2遺伝子によってコードされるタンパク質のアミノ酸配列を配列番号:2に示す。
【0024】
また、本発明のRRM2遺伝子のmRNAの配列に関する情報は、例えば、アクセッション番号AK123010.1、NM_001034.1、CR625489.1、CR625440.1、CR621427.1、CR620509.1、CR618451.1、CR618451.1、CR614990.1、CR609838.1、CR608076.1、CR604378.1、CR603569.1、CR603461.1、CR602150.1、CR602054.1、CR596700.1、CR590959.1、S40301.1、BC001886.1、BC030154.1、BC028932.1、AK092671.1、または、X59618.1によって取得することができる。
【0025】
通常、RRM2遺伝子は、塩基配列中の多型の有無等により、同一の遺伝子であっても複数のアクセッション番号が付与されている場合がある。この「多型」とは、一塩基の置換、欠失、挿入変異からなる一塩基多型(SNPs)に限定されず、連続する数塩基の置換、欠失、挿入変異も含まれる。従って、RRM2遺伝子の塩基配列としては、必ずしも上記のアクセッション番号によって取得される配列に限定されない。同様に、RRM2遺伝子によってコードされるタンパク質のアミノ酸配列も、配列番号:2に記載されたアミノ酸配列に特に限定されない。即ち、本発明の上記タンパク質は、配列番号:2に記載されたアミノ酸配列に限定されず、該アミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸残基が付加、欠失、置換、挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、配列番号:2に記載されたタンパク質と機能的に同等なタンパク質が含まれる。
【0026】
本発明のRRM2遺伝子は特に制限されるものではないが、通常、動物由来であり、より好ましくは哺乳動物由来であり、最も好ましくはヒト由来である。
【0027】
本発明のRRM2遺伝子の発現を抑制する化合物としては、例えば、RRM2遺伝子に対してRNAi(RNA interferance;RNA干渉)効果を有する二本鎖RNAを好適に挙げることができる。一般的にRNAiとは、標的遺伝子のmRNA配列と相同な配列からなるセンスRNAおよびこれと相補的な配列からなるアンチセンスRNAとからなる二本鎖RNAを細胞内に導入することにより、標的遺伝子mRNAの破壊を誘導し、標的遺伝子の発現が阻害される現象を言う。RNAi機構の詳細については未だに不明な部分もあるが、DICERといわれる酵素(RNase III核酸分解酵素ファミリーの一種)が二本鎖RNAと接触し、二本鎖RNAがsmall interfering RNAまたはsiRNAと呼ばれる小さな断片に分解されるものと考えられている。本発明におけるRNAi効果を有する二本鎖RNAには、このsiRNAも含まれる。
【0028】
さらに、本発明の二本鎖RNAを発現し得るDNAもまた、本発明に含まれる。即ち本発明は、本発明の二本鎖RNAを発現し得るDNA(ベクター)を提供する。本発明の上記二本鎖RNAを発現し得るDNA(ベクター)は、通常、該二本鎖RNAの一方の鎖をコードするDNA、および該二本鎖RNAの他方の鎖をコードするDNAが、それぞれ発現し得るようにプロモーターと連結した構造を有するDNAである。本発明の上記DNAは、当業者においては、一般的な遺伝子工学技術により、容易に作製することができる。より具体的には、本発明のRNAをコードするDNAを公知の種々の発現ベクターへ適宜挿入することによって、本発明の発現ベクターを作製することが可能である。
【0029】
RNAiのために使用されるRNAは、RRM2遺伝子もしくは該遺伝子の部分領域と完全に同一(相同)である必要はないが、完全な同一(相同)性を有することが好ましい。
【0030】
本発明のRNAi効果を有する二本鎖RNAは、通常、RRM2遺伝子のmRNAにおける連続する任意のRNA領域と相同な配列からなるセンスRNA、および該センスRNAに相補的な配列からなるアンチセンスRNAからなる二本鎖RNAである。上記「連続する任意のRNA領域」の長さは、通常15〜30塩基であり、好ましくは18〜23塩基であり、より好ましくは19〜21塩基である。
【0031】
しかしながら、そのままの長さではRNAi効果を有さないような長鎖のRNAであっても、細胞においてRNAi効果を有するsiRNAへ分解されることが期待されるため、本発明における二本鎖RNAの長さは、特に制限されない。また、RRM2遺伝子のmRNAの全長もしくはほぼ全長の領域に対応する長鎖二本鎖RNAを、例えば、予めDICERで分解させ、その分解産物を本発明のアポトーシス誘導剤として利用することが可能である。この分解産物には、RNAi効果を有する二本鎖RNA分子(siRNA)が含まれることが期待される。この方法によれば、RNAi効果を有することが期待されるmRNA上の領域を、特に選択しなくともよい。即ち、RNAi効果を有するRRM2 mRNA上の領域は、必ずしも正確に規定される必要はない。
【0032】
また、通常、末端に数塩基のオーバーハングを有する二本鎖RNAは、RNAi効果が高いことが知られており、本発明の二本鎖RNAは、末端に数塩基のオーバーハングを有することが望ましい。このオーバーハングを形成する塩基の長さは特に制限されないが、好ましくは、2塩基のオーバーハングである。本発明においては例えば、TT(チミンが2個)、UU(ウラシルが2個)、その他の塩基のオーバーハングを有する二本鎖RNA(最も好ましくは19塩基の二本鎖RNAと2塩基(TT)のオーバーハングを有する分子)を好適に用いることができる。本発明の二本鎖RNAには、このようにオーバーハングを形成する塩基がDNAであるような分子も含まれる。
【0033】
本発明の上記「RRM2遺伝子に対してRNAi効果を有する二本鎖RNA」は、当業者においては、該二本鎖RNAの標的となるRRM2遺伝子の塩基配列を基に、適宜作製することができる。RRM2遺伝子の塩基配列は、上述のように公共の遺伝子データベースから容易に取得することができる。一例を示せば、配列番号:1に記載の塩基配列を基に、本発明の二本鎖RNAを作製することができる。即ち、配列番号:1に記載の塩基配列を基に、該配列の転写産物であるmRNAの任意の連続するRNA領域を選択し、この領域に対応する二本鎖RNAを作製することは、当業者においては、容易に行い得ることである。
【0034】
また、本発明の二本鎖RNAの基となる遺伝子(標的遺伝子)の配列は、必ずしも遺伝子全長の塩基配列が判明している必要はない。選択すべき任意の連続するRNA領域(例えば、20〜30塩基)が判明していればよい。従って、EST(Expressed Sequence Tag)等のようにmRNAの一部は判明しているが、全長が判明していない遺伝子断片からも、該断片の塩基配列を基に本発明の二本鎖RNAを作製することが可能である。以下に、GenBankデータベースにおいて、ヒトRRM2遺伝子と高い相同性を示したEST配列のアクセッションナンバーを記載する。
【0035】
AA094084.1、AA186365.1、CA429554.1、BM475087.1、BM754277.1、N76870.1、BM083451.1、BM848372.1、BQ027564.1、BM786810.1、BM833906.1、BP221862.1、CN415562.1、AA127256.1、AA204976.1、BM127222.1、BM480340.1、BM755077.1、BG954896.1、BM126660.1、BM904603.1、BQ028455.1、BM786872.1、BM835133.1、BP222111.1、CN415557.1、AA127257.1、BU658251.1、BM127511.1、BM551743.1、BG825108.1、BG958492.1、BM126937.1、BM914217.1、BQ028516.1、BM787561.1、BM835562.1、BP222286.1、CN415558.1、AA187351.1、BU959902.1、BM473101.1、BM751662.1、BI091738.1、BM015454.1、BM842882.1、W88898.1、BM799479.1、BM827449.1、BP207087.1、BP222840.1、CN415572.1、AA826373.1、AA188218.1、CA419309.1、BM474799.1、BM754016.1、BI092877.1、BM018808.1、BM845508.1、BQ010940.1、BM786357.1、BM828128.1、BP207238.1、CN415570.1、AL557148.3、AL573077.3、AL576833.2、BG282941.1、BG744609.1、BI253052.1、BM480168.1、BU152903.1、AA361706.1、AA629694.1、BF568838.1、AW977653.1、BE314935.1、BP249614.1、BP254096.1、BP244700.1、BP245886.1、AI273823.1、AI650508.1、AA994536.1、CB108818.1、CB126489.1、AW749733.1、CN415564.1、BE088525.1、BP204469.1、BP351319.1、BP234718.1、BP244842.1、BP245953.1、AI336455.1、AI655667.1、AI032997.1、CB110990.1、CB112432.1、AW751351.1、CN415565.1、BE208774.1、BP248095.1、BP351367.1、BP314074.1、BP244919.1、BP246057.1、AI365040.1、AI694417.1、AI038609.1、CB136026.1、CB112378.1、AW778796.1、CN415566.1、BE295916.1、BE396359.1、BI223692.1、BM478409.1、BI199406.1、BQ646216.1、BF127577.1、BF216684.1、BF982621.1、AL553978.3、BU183341.1、BQ683965.1、AA769009.1、BE297013.1、BE293922.1、BP273979.1、BP364756.1、BP353616.1、BP353745.1、BP353986.1、BP269638.1、BP271922.1、BP356225.1、BP272868.1、BP368606.1、CX762099.1、BE297225.1、BE397292.1、BI224638.1、BG768269.1、BI160471.1、BE782828.1、AW503980.1、BF064157.1、BF979032.1、AL556907.3、BU175565.1、BQ679086.1、AA779414.1、BE297738.1、BE397747.1、BI225970.1、BG768969.1、BI117053.1、BE747871.1、CX164367.1、H68517.1、BF903781.1、AL557149.3、BU176388.1、BQ678088.1、AA720701.1、BE903398.1、BE882873.1、BU602221.1、BG470005.1、BU176295.1、BE409497.1、AU151102.1、BF214391.1、BF751656.1、AL543697.3、BU196616.1、CA437803.1、BP225094.1、BF204807.1、AU153745.2、BF176214.1、BG779952.1、BF245824.1、BF309257.1、BG396020.1、BG478634.1、H89828.1、AL543005.3、BU196941.1、AA304649.1、BP225284.1、BF309790.1、BQ944530.1、BF310954.1、BG468604.1、BF307751.1、BQ649415.1、AU143080.1、BF216232.1、BG111064.1、AL544543.3、BU189053.1、BQ775344.1、BP224670.1、BF309892.1、BE960928.1、BE908414.1、BG469589.1、BE613857.1、BE407493.1、AU150331.1、BG765924.1、H90680.1、AL543726.3、BU196785.1、CA437784.1、BP224988.1、BG107001.1、BG341583.1、BQ053518.1、BG744471.1、BM450401.1、BE734621.1、BQ652796.1、AU159941.2、AL518380.3、BG436580.1、AL518978.3、BQ050629.1、AA354118.1、BG252097.1、BM557889.1、BE314791.1、BI088287.1、BM019873.1、BE741285.1、BE514224.1、AA714766.1、BG261296.1、BG337606.1、AA046748.1、BQ308701.1、AA609191.1、BG253420.1、BM556299.1、BE269399.1、BE298019.1、BG489316.1、BU522011.1、BQ680820.1、BF666674.1、BG260991.1、BG328502.1、AA046672.1、BQ316883.1、AA676787.1、BG282383.1、BQ646138.1、BI195477.1、BE298410.1、BI917729.1、BU145685.1、BE541841.1、BG528450.1、BF791726.1、AL571522.3、AA053592.1、BQ434668.1、AA703221.1、BG336333.1、BQ644828.1、BI226758.1、BG766947.1、BG574383.1、BU184934.1、BE559506.1、H67307.1、BF918116.1、AL569735.2、BQ917991.1、BQ651088.1、AA703261.1、BG339698.1、BQ438024.1、BI226132.1、BG823002.1、BI252222.1、BE797114.1、BF304007.1、BF697219.1、BF917109.1、AL569614.3、BQ962144.1、BQ652223.1、AA742288.1、BG761676.1、BF304478.1、BF759899.1、H89781.1、H89719.1、BF800392.1、BG390482.1、AU160057.1、BF754342.1、AL542773.3、BQ049797.1、AA353332.1、BP225296.1、BM801827.1、BE292916.1、BG106527.1、BG828895.1、BM012575.1、BU501593.1、BF304796.1、BG528943.1、BF573536.1、AL579024.2、AA053076.1、BQ432126.1、AA702992.1、BM806123.1、BM550681.1、BE270705.1、BI087738.1、BG490398.1、BU542336.1、CV803503.1、BF669524.1、BG250427.1、AU160617.1、BG120466.1、BQ431090.1、AA702787.1、BM811373.1、BG389514.1、BE269901.1、BG764199.1、BM017566.1、BU535476.1、CV800246.1、BG575761.1、BF568529.1、BG290489.1、BG114600.1、BQ364941.1、AA702000.1、BM917545.1、BE278429.1、BE257685.1、BG762602.1、BG480595.1、BU183729.1、BE513582.1、BF217825.1、AL517225.3、BG341968.1、BQ776157.1、BQ218653.1、AA604650.1、BM918027.1、BM563011.1、BE294663.1、BE293995.1、BG480280.1、CB960014.1、BQ675657.1、H61911.1、AL517226.3、BG422948.1、BQ775908.1、BQ217045.1、AA602545.1、BM918030.1、BM563587.1、BE295232.1、BG750760.1、BG479636.1、BE739878.1、BF205136.1、H61707.1、AL517462.3、AU160223.1、AL518381.3、BQ213038.1、AA403012.1、BM918156.1、BG423226.1、BQ053281.1、BG747159.1、BG472847.1、BU185073.1、BQ670934.1、T29749.1、AL517463.3、BG434210.1、AL518977.3、BQ050789.1、AA355709.1、BP271513.1、BP273022.1、BP273399.1、BE903357.1、R95695.1、AU128879.1、CX751227.1、BE830026.1、BE886060.1、BP355321.1、BP272233.1、BP366395.1、BP265612.1、BP271582.1、BP273047.1、BP273540.1、BE906402.1、BF035045.1、AU129434.2、CX781925.1、BE830047.1、DN996697.1、BP355360.1、BP272324.1、BP366788.1、BP265939.1、BP271651.1、BP273073.1、BP273618.1、BE909012.1、AV713503.1、AU132159.1、BE706813.1、DN601944.1、BE894008.1、BP355373.1、BP272423.1、BP366921.1、BP266003.1、BP271678.1、BP273095.1、BP273740.1、BE940495.1、DR763426.1、BP353016.1、BE738120.1、AV696005.1、BE898168.1、BP355533.1、BP272625.1、BP366938.1、BP266232.1、BP283225.1、BE297806.1、BP273159.1、BP274045.1、BE940503.1、AU123375.1、AU132640.1、BE747810.1、BE865500.1、BP354968.1、BP272088.1、BP272937.1、BP339086.1、BP283622.1、BE387242.1、BP273222.1、BP278069.1、BE966236.2、AU124108.1、BF204140.1、BE748237.1、BE870132.1、BP354990.1、BP272106.1、BP365079.1、BP339425.1、BP283830.1、BE537207.1、BP273286.1、BP278819.1、BF000645.1、H49073.1、BE548123.1、BE793326.1、AU309741.1、BP355079.1、BP272135.1、BP365181.1、BP339530.1、BP284693.1、BE537223.1、BP273324.1、BP278893.1、R95694.1、AU127970.1、BE561964.1、BE827576.1、BE884862.1、BP355268.1、BP272136.1、BP365433.1、BP265408.1、BP335547.1、BP273140.1、BP273859.1、BE940497.1、AU123283.1、BP353699.1、BP353827.1、BP354610.1、BE901264.1、BP355658.1、BP272698.1、BP367765.1、BE149906.1、BP337409.1、BP356310.1、BP273886.1、BP363805.1、BP353170.1、BP353708.1、BP353829.1、BP354786.1、BP271747.1、BP355689.1、BP272784.1、BP367830.1、AV660647.1、BP359473.1、BP359415.1、BP274002.1、BP352079.1、BP353654.1、BP353748.1、BP354529.1、BP269714.1、BP271997.1、BP272018.1、BP338298.1、BP368629.1、CX783545.1、BP363587.1、BP363792.1、BP274037.1、BP352866.1、BP353659.1、BP353787.1、BP354555.1、BP271744.1、BP272011.1、BP272052.1、BP338487.1、BP373608.1、AV718498.1、BP380680.1、BP356425.1、BP273965.1、BP364202.1、BP353253.1、BP353734.1、BP353938.1、BP354906.1、BP271787.1、BP355922.1、BP272797.1、BP368203.1、BE695292.1、BP870515.1、BP248367.1、BP351743.1、BP314841.1、BP244943.1、BP246236.1、AI417572.1、AI753917.1、AI074626.1、CB136337.1、CB112478.1、AW778803.1、CN415567.1、BP870818.1、BP248392.1、BP351848.1、BP315028.1、BP245052.1、BP246398.1、AI436182.1、AI754744.1、AI080735.1、CF995485.1、CB125984.1、AW780306.1、CN415568.1、BP870918.1、BP248416.1、BP225349.1、BP315107.1、BP245121.1、BP246972.1、AI444936.1、AI831084.1、AI088527.1、AW473401.1、CB151237.1、AW794142.1、CN415569.1、BP871026.1、BP248472.1、BP225623.1、BP316119.1、BP245387.1、BP246973.1、AI469118.1、AI890682.1、AI124036.1、AW627422.1、CB114676.1、CK818741.1、BX392647.2、BP871314.1、BP248595.1、BP239100.1、BP320571.1、BP245491.1、BP247139.1、AI492879.1、BX336811.2、AI139965.1、AU076836.1、CB140681.1、AW859845.1、BX414048.2、BP871972.1、BP249202.1、BP239394.1、BP351091.1、BP245649.1、AA693611.1、AI635911.1、BX343885.2、BX100416.1、AW673307.1、AW382889.1、CN273231.1、BX422341.2、BQ059298.1、BQ423940.1、BG743927.1、BG398442.1、BF305681.1、BQ647878.1、BE561732.1、AU142691.1、BG025654.1、AL545988.3、BU158710.1、BQ775273.1、BP224652.1、BQ063601.1、BQ420848.1、BE299374.1、BG391401.1、BE299426.1、BQ647625.1、BE561047.1、AU142564.1、BG026517.1、AL548535.3、BU521963.1、BQ684648.1、BP224594.1、BU564642.1、BU928178.1、BM452056.1、BM554330.1、BI086340.1、BI197975.1、BM836045.1、BM921315.1、BQ049572.1、BM787638.1、BM835747.1、BP222532.1、CN415559.1、BU565046.1、BU934459.1、BM459151.1、BM561640.1、BI087945.1、N87596.1、BM837158.1、AL709979.1、BM755105.1、BM787927.1、BM835904.1、BP222605.1、CN415560.1、BU599934.1、BU940357.1、BM460735.1、BM665945.1、BI089412.1、BI459086.1、BM838795.1、BM994533.1、BM755205.1、BM787939.1、BP205722.1、BP222653.1、CN415561.1、BU629073.1、BU945477.1、BM468712.1、BM751497.1、BI091692.1、BI869607.1、BM842041.1、W88654.1、BM765121.1、BM822250.1、BP206619.1、BP222769.1、CN415571.1、BU632372.1、BU942304.1、BM466981.1、BM711362.1、BI091677.1、BI869293.1、BM839903.1、BQ001135.1、BM760239.1、BM799436.1、BP206211.1、BP222715.1、CN415563.1、BX448886.2、BX475462.1、CD642473.1、AW104792.1、CF134504.1、BP431563.1、CF529871.1、AW263167.1、AW378124.1、BP281190.1、BP282964.1、BP282865.1、BX462242.2、BX462243.2、AI970574.1、BX476561.1、AL120944.1、CF127296.1、AI065118.1、BP429510.1、AW239036.1、AW378095.1、BP280092.1、BP282491.1、BP282827.1、BX448885.2、CF593489.1、BF310804.1、BF315940.1、BG468671.1、BF308613.1、BQ649660.1、AU143543.1、AU142857.1、BF794784.1、AL544519.3、BU190680.1、BQ775671.1、BP224781.1、T17364.1、BE247251.1、BP249290.1、BP249640.1、BP244436.1、BP245693.1、AI240268.1、AI635928.1、BX343886.2、CB108764.1、CB125849.1、AW675660.1、AW960352.1
【0036】
即ち、本発明の好ましい態様においては、配列番号:1に記載の遺伝子もしくは上記各ESTに対応するmRNAにおける、連続するRNA領域を一方の鎖とするRNAi効果を有する二本鎖RNA、を含む癌細胞特異的アポトーシス誘導剤を提供する。
【0037】
上述のようにRRM2遺伝子には、同一の遺伝子であっても種々の多型が含まれている場合がある。当業者においては、配列番号:1に記載の配列もしくは上記のEST配列に対し、例えば、RRM2遺伝子に関する公共の多型データベースからの情報を加味し、RNAi効果を有することが期待されるRNAの配列を適宜設計することができる。このようなRNAを含むアポトーシス誘導剤もまた本発明に含まれる。また、当業者においては、複数種作製された本発明の二本鎖RNAから、最適なRNAi効果を有するRNAを適宜選択してアポトーシス誘導剤とすることも可能である。
【0038】
本発明の上記「RNAi効果を有する二本鎖RNA」の具体例としては、以下に示すDNAによってコードされるRNAと、該RNAの相補鎖RNAがハイブリダイズした構造の二本鎖RNA分子(siRNA)を挙げることができる。
【0039】
5'- CCATGTTCTGGCTTTCTTT -3' (配列番号:3)
5'- GCAAGCGATGGCATAGTAA -3' (配列番号:4)
5'- GGAGGAGAGAGTAAGAGAA -3' (配列番号:5)
5'- GGAGCGATTTAGCCAAGAA -3' (配列番号:6)
5'- CCATCGGAGGAGAGAGTAA -3' (配列番号:7)
5'- GCACTCTAATGAAGCAATA -3' (配列番号:8)
5'- GGAGTGATGTCAAGTCCAA -3' (配列番号:9)
5'- CCCGAGGAGAGATATTTTA -3' (配列番号:10)
【0040】
なお、上記の配列番号:3〜10のDNAによってコードされるRNAの配列を、それぞれ配列番号:11〜18に記載する。
【0041】
例えば、配列番号:3に記載のDNA配列(5'- CCATGTTCTGGCTTTCTTT -3')によってコードされるRNAと、該RNAの相補鎖RNAがハイブリダイズした構造の二本鎖RNA分子(siRNA)とは、以下のような構造のRNA分子を例示することができる。(「I」は水素結合を表す。)
5'- CCAUGUUCUGGCUUUCUUU -3'(配列番号:11)
IIIIIIIIIIIIIIIIIII
3'- GGUACAAGACCGAAAGAAA -5'(配列番号:19)
【0042】
なお、上記RNA分子において一方の端が閉じた構造の分子、例えば、ヘアピン構造を有するsiRNA(shRNA)も本発明に含まれる。即ち、分子内において二本鎖RNA構造を形成し得る分子もまた本発明に含まれる。
例えば、
5'- CCAUGUUCUGGCUUUCUUU (配列番号:11) (xxxx)n AAAGAAAGCCAGAACAUGG (配列番号:19)-3' のような分子もまた本発明に含まれる。(上記「(xxxx)n」は任意塩基および配列数からなるポリヌクレオチドを表す。)
【0043】
本発明におけるsiRNAの好ましい態様においては、RRM2遺伝子の発現をRNAi効果により抑制し得るRNA(siRNA)であって、配列番号:3〜10のいずれかに記載のDNAによってコードされるRNAと、該RNAと相補的な配列からなるRNAとがハイブリダイズした構造からなる二本鎖RNAを好適に示すことができる。即ち本発明の一つの態様としては、前記の「RNAi効果を有する二本鎖RNA」が、配列番号:3〜10のいずれかに記載のDNAによってコードされるRNA(配列番号:11〜18)と、該RNAと相補的な配列からなるRNAとがハイブリダイズした構造を含む二本鎖RNAである、癌細胞アポトーシス誘導剤である。
【0044】
ただし、上記二本鎖RNAの末端において、例えば、1もしくは複数のRNAが付加もしくは欠失された構造の二本鎖RNAもまた、本発明に含まれる。その場合、二本鎖を形成するRNAは、RRM2遺伝子の部分配列と相同性を有することが好ましい。本発明のsiRNAにおいて二本鎖を形成する領域のRNAの長さは、好ましくは15〜30 bp程度の長さであり、より好ましくは18〜21bpの長さであり、最も好ましくは19 bp(例えば、配列番号:11〜18のいずれかに記載のRNAを一方の鎖とするsiRNA)の長さであるが、必ずしもこれらの長さに限定されない。
【0045】
また、本発明におけるsiRNAは、必ずしも全てのヌクレオチドがリボヌクレオチド(RNA)でなくともよい。即ち、本発明において、siRNAを構成する1もしくは複数のリボヌクレオチドは、対応するデオキシリボヌクレオチドであってもよい。この「対応する」とは、糖部分の構造は異なるものの、同一の塩基種(アデニン、グアニン、シトシン、チミン(ウラシル))であることを指す。例えば、アデニンを有するリボヌクレオチドに対応するデオキシリボヌクレオチドとは、アデニンを有するデオキシリボヌクレオチドのことを言う。また、前記「複数」とは特に制限されないが、好ましくは2〜5個程度の少数を指す。
【0046】
本発明の上記「RRM2遺伝子に対してRNAi効果を有する二本鎖RNA」は、当業者においては、本明細書によって開示された塩基配列を基に、適宜作製することができる。具体的には、配列番号:3〜10のいずれかに記載のDNA配列を基に、本発明の二本鎖RNAを作製することができる。一方の鎖(例えば、配列番号:3〜10のいずれかに記載のDNAによってコードされるRNA)が判明していれば、当業者においては容易に他方の鎖(相補鎖)の塩基配列を知ることができる。本発明のsiRNAは、当業者においては市販の核酸合成機を用いて適宜作製することが可能である。また、所望のRNAの合成については、一般の合成受託サービスを利用することが可能である。
【0047】
本発明のsiRNA(例えば、配列番号:3〜10のいずれかに記載の塩基配列を一方の鎖とする二本鎖RNA分子)は、癌細胞特異的な細胞アポトーシス誘導作用(細胞増殖抑制作用)を有することから、本発明は、本発明のsiRNAを有効成分として含有する癌細胞特異的アポトーシス誘導剤を提供する。
【0048】
本発明のsiRNAは、効果的に癌細胞の増殖を抑制することができる。本発明の薬剤は好ましくは、50%増殖抑制(IC50)が10nM以下であり、より好ましくは1nM以下であり、最も好ましくは0.5nM以下であることを特徴とする。
【0049】
また、上述のsiRNAの他に、本発明のRRM2遺伝子の発現を抑制する化合物としては、以下の(a)または(b)を挙げることができる。
(a)RRM2遺伝子の転写産物、またはその一部に対するアンチセンス核酸
(b)RRM2遺伝子の転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有する核酸
【0050】
本発明における「核酸」とはRNAまたはDNAを意味する。特定の内在性遺伝子の発現を阻害(抑制)する方法としては、アンチセンス技術を利用する方法が当業者によく知られている。アンチセンス核酸が標的遺伝子の発現を阻害する作用としては、以下のような複数の要因が存在する。すなわち、三重鎖形成による転写開始阻害、RNAポリメラーゼによって局部的に開状ループ構造が作られた部位とのハイブリッド形成による転写阻害、合成の進みつつあるRNAとのハイブリッド形成による転写阻害、イントロンとエキソンとの接合点におけるハイブリッド形成によるスプライシング阻害、スプライソソーム形成部位とのハイブリッド形成によるスプライシング阻害、mRNAとのハイブリッド形成による核から細胞質への移行阻害、キャッピング部位やポリ(A)付加部位とのハイブリッド形成によるスプライシング阻害、翻訳開始因子結合部位とのハイブリッド形成による翻訳開始阻害、開始コドン近傍のリボソーム結合部位とのハイブリッド形成による翻訳阻害、mRNAの翻訳領域やポリソーム結合部位とのハイブリッド形成によるペプチド鎖の伸長阻害、および核酸とタンパク質との相互作用部位とのハイブリッド形成による遺伝子発現阻害などである。このようにアンチセンス核酸は、転写、スプライシングまたは翻訳など様々な過程を阻害することで、標的遺伝子の発現を阻害する(平島および井上著、新生化学実験講座2 核酸IV遺伝子の複製と発現、日本生化学会編、東京化学同人、1993年、 p.319-347)。
【0051】
本発明で用いられるアンチセンス核酸は、上記のいずれの作用によりRRM2遺伝子の発現を阻害してもよい。一つの態様としては、RRM2遺伝子のmRNAの5'端近傍の非翻訳領域に相補的なアンチセンス配列を設計すれば、遺伝子の翻訳阻害に効果的と考えられる。また、コード領域もしくは3'側の非翻訳領域に相補的な配列も使用することができる。このように、RRM2遺伝子の翻訳領域だけでなく非翻訳領域の配列のアンチセンス配列を含む核酸も、本発明で利用されるアンチセンス核酸に含まれる。使用されるアンチセンス核酸は、適当なプロモーターの下流に連結され、好ましくは3'側に転写終結シグナルを含む配列が連結される。また臨床応用を考慮する場合、使用されるアンチセンス核酸は、通常、合成オリゴマーであり、ヌクレアーゼ分解に対する感受性を減らし、且つアンチセンス核酸としての活性を維持するために、リン酸エステル結合部のO(酸素)をS(硫黄)に置換したSオリゴ(ホスホロチオエート型オリゴヌクレオチド)の利用が一般に知られている。このSオリゴは現在ではアンチセンス薬として、直接患部に注入される臨床試験が行なわれている。本発明においてもこのSオリゴを好適に使用することができる。アンチセンス核酸の配列は、標的遺伝子またはその一部と相補的な配列であることが好ましいが、遺伝子の発現を有効に抑制できる限り、完全に相補的でなくてもよい。転写されたRNAは、標的遺伝子の転写産物に対して好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の相補性を有する。アンチセンス核酸を用いて標的遺伝子の発現を効果的に抑制するには、アンチセンス核酸の長さは少なくとも15塩基以上であり、好ましくは100塩基以上であり、さらに好ましくは500塩基以上である。
【0052】
また、RRM2遺伝子の発現の阻害は、リボザイム、またはリボザイムをコードするDNAを利用して行うことも可能である。リボザイムとは触媒活性を有するRNA分子を指す。リボザイムには種々の活性を有するものが存在し、RNAを部位特異的に切断するリボザイムの設計も可能である。リボザイムには、グループIイントロン型やRNase Pに含まれるM1 RNAのように400ヌクレオチド以上の大きさのものもあるが、ハンマーヘッド型やヘアピン型と呼ばれる40ヌクレオチド程度の活性ドメインを有するものもある(小泉誠および大塚栄子、蛋白質核酸酵素、1990年、35、2191)。
【0053】
例えば、ハンマーヘッド型リボザイムの自己切断ドメインは、G13U14C15という配列のC15の3'側を切断するが、その活性にはU14とA9との塩基対形成が重要とされ、C15の代わりにA15またはU15でも切断され得ることが示されている(Koizumi, M.ら著、FEBS Lett、1988年、228、228.)。基質結合部位が標的部位近傍のRNA配列と相補的なリボザイムを設計すれば、標的RNA中のUC、UUまたはUAという配列を認識する制限酵素的なRNA切断リボザイムが作出できる(Koizumi, M.ら著、FEBS Lett, 1988年、239, 285.、小泉誠および大塚栄子、蛋白質核酸酵素、1990年、35, 2191.、Koizumi, M.ら著、Nucl Acids Res、1989年、17, 7059.)。
【0054】
また、ヘアピン型リボザイムも本発明の目的に有用である。このリボザイムは、例えばタバコリングスポットウイルスのサテライトRNAのマイナス鎖に見出される(Buzayan, JM., Nature, 1986年、323, 349.)。ヘアピン型リボザイムからも、標的特異的なRNA切断リボザイムを作出できることが示されている(Kikuchi, Y. & Sasaki, N., Nucl Acids Res, 1991, 19, 6751.、菊池洋, 化学と生物, 1992, 30, 112.)。このように、リボザイムを用いて本発明におけるRRM2遺伝子の転写産物を特異的に切断することで、該遺伝子の発現を阻害することができる。
【0055】
さらに本発明は、RRM2遺伝子によってコードされるタンパク質(本明細書では、「RRM2タンパク質」と略記する場合あり)の機能(活性)を抑制する化合物を有効成分として含有するアポトーシス誘導剤に関する。
【0056】
本発明のRRM2タンパク質には、該タンパク質のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含む、RRM2タンパク質の変異タンパク質もしくはホモログタンパク質であって、RRM2タンパク質と機能的に同等なタンパク質も含まれる。ここで「機能的に同等なタンパク質」とは、RRM2タンパク質における活性と同様の活性を備えたタンパク質である。あるいはRRM2タンパク質のアミノ酸配列に対して、たとえば90%以上、望ましくは95%以上、更に望ましくは99%以上の相同性を有するタンパク質を、RRM2タンパク質と機能的に同等なタンパク質として示すことができる。
【0057】
本発明のRRM2遺伝子の発現を抑制する化合物は、天然または人工の化合物のいずれであってもよい。通常、当業者に公知の方法を用いることによって製造または取得・単離可能な化合物である。例えば、有機化合物、無機化合物、核酸、タンパク質、ペプチド、糖などの単一化合物、あるいは、化合物ライブラリー、遺伝子ライブラリーの発現産物、細胞抽出物、細胞培養上清、発酵微生物産生物、海洋生物抽出物、植物抽出物等もしくは該抽出物から単離精製される化合物を挙げることができる。
【0058】
本発明の、癌細胞特異的なアポトーシス誘導剤は、例えば、アポトーシス誘導作用を機序とする抗癌剤(制癌剤)となることが期待される。本発明は、本発明の癌細胞特異的アポトーシス誘導剤(細胞増殖抑制剤)を有効成分として含有する抗癌剤(癌治療のための医薬組成物)を提供する。
【0059】
即ち本発明の好ましい態様としては、RRM2遺伝子に対するsiRNAを有効成分として含有する癌細胞特異的抗癌剤を提供する。
【0060】
本発明の薬剤は、薬学上許容される担体と混合された状態として、提供されることも可能である。これら薬学上許容される担体として、例えば界面活性剤、賦形剤、着色料、着香料、保存料、安定剤、緩衝剤、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤等が挙げられるが、これらに制限されず、その他常用の担体を適宜使用することができる。
【0061】
本発明の薬剤の製剤化にあたっては、常法に従い、必要に応じて上記担体を添加することができる。具体的には、軽質無水ケイ酸、乳糖、結晶セルロース、マンニトール、デンプン、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、白糖、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等を挙げることができる。
【0062】
上記薬剤の剤型の種類としては、例えば経口剤として錠剤、粉末剤、丸剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、軟・硬カプセル剤、フィルムコーティング剤、ペレット剤、舌下剤、ペースト剤等、非経口剤として注射剤、坐剤、経皮剤、軟膏剤、硬膏剤、外用液剤等が挙げられ、当業者においては投与経路や投与対象等に応じた最適の剤型を選ぶことができる。
【0063】
RRM2遺伝子を抑制する本発明のsiRNAを発現するDNAを生体内に投与する場合、レトロウイルス、アデノウイルス、センダイウイルスなどのウイルスベクターやリポソームなどの非ウイルスベクターを利用することができる。また、RRM2遺伝子を抑制する本発明の合成siRNAを生体内に投与する場合、リポソーム、高分子ミセル、カチオン性キャリアなどの非ウイルスベクターを利用することができる。投与方法としては、例えばin vivo法およびex vivo法を挙げることができる。
【0064】
本発明には、癌細胞特異的アポトーシス誘導作用を有する上記の医薬組成物も含まれる。本発明の薬剤または医薬組成物の投与量は、剤型の種類、投与方法、患者の年齢や体重、患者の症状等を考慮して、最終的には医師の判断により適宜決定することができる。
【0065】
なお、本発明においてアポトーシス誘導効果、細胞増殖抑制作用、あるいは抗癌作用が期待される癌の種類としては、特に制限されないが、例えば、肝癌、肺癌、乳癌、卵巣癌、子宮癌等を例示することができる。
【0066】
なお本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【実施例】
【0067】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、これに限定されるものではない。
【0068】
〔実施例1〕 細胞培養
癌細胞として、肝癌由来細胞株であるKIM1、KYN2、KYN3、HepG2、肺癌由来細胞株であるA549、NCI-H460、NCI-H522、NCI-H23、NCI-H292、NCI-H596、NCI-H661、乳癌由来細胞株であるMCF7、MDA-MB435、BT549、卵巣癌由来細胞株であるOVACAR-5、PA-1、SK-OV3、TOV-21G、TOV-112D、Hs 38.T、子宮頚部癌由来細胞株であるHeLaおよび正常細胞としてヒト網膜色素上皮細胞であるARPE19を使用した。
【0069】
HeLa細胞、KIM1細胞、KYN2細胞、KYN3細胞、HepG2細胞、A549細胞、MCF7細胞、OVCAR-5細胞、PA-1細胞そしてHs.38T細胞を10%の牛胎児血清、50μg/mlゲンタマイシンを含むDulbecco’s modified Eagle’s mediumで培養した。NCI-H460細胞、NCI-H522細胞、NCI-H23細胞、NCI-H292細胞、NCI-H596細胞、NCI-H661細胞、MDA-MB435細胞そしてBT549細胞を10%の牛胎児血清、50μg/mlゲンタマイシンを含むRPMI1640 mediumで培養した。TOV-21G細胞およびTOV-112D細胞を10%の牛胎児血清、50μg/mlゲンタマイシンを含むMCDB105とmedium199の混合培地で培養した。SK-OV3細胞を10%の牛胎児血清、50μg/mlゲンタマイシンを含むMcCoy's 5A mediumで培養した。ARPE19細胞を10%の牛胎児血清、50μg/mlゲンタマイシンを含むDulbecco’s modified Eagles mediumとHam’s F12 medium の混合培地で培養した。また、全ての細胞を37℃、5% CO2条件下で培養した。
【0070】
〔実施例2〕 RRM2遺伝子の発現抑制が癌細胞の増殖に及ぼす影響の検討
RRM2遺伝子に対するsiRNAの合成は、ニッポンイージーティー (富山)において行われた。
RRM2遺伝子のsiRNA配列(一方の鎖のRNA配列)を図1に示す。なお、配列表にはセンス鎖のみ記載し、対応するアンチセンス鎖は配列表から省略した。
【0071】
これらsiRNAを培養細胞に導入した。具体的には、siRNAのトランスフェクションを行う24時間前に、24ウエルプレートに培養細胞を播種して生着させ、20−50%コンフレントの状態でトランスフェクションを行った。トランスフェクション試薬として、Oligofectoamine(Invitrogen)とLipofectamine2000(Invitorogen)を使用し、添付のマニュアルに従ってトランスフェクションを行った。導入48時間後にRRM2遺伝子のmRNAの発現をTaqman PCRにより定量した。
【0072】
詳しくは、siRNAをトランスフェクション後、30時間の細胞から、RNeasy Mini Kit(Qiagen)を用いて、全RNAを抽出した。定量的PCRには、ABI PRISM 7000 Sequence Detection System(Applied Biosystems)を用いた。RRM2遺伝子および、β-アクチン遺伝子のRT-PCR用プライマーおよびTaqManプローブを、Applied Biosystemsより購入した。RT-PCR反応試薬として、TaqMan One-Step RT-PCR Master Mix Reagents Kit (Applied Biosysytems)を用い、添付のマニュアルに従いRT-PCRを行った。β-アクチンを標準として用いて、比較定量を行った。
【0073】
コントロールRNA(NS)を導入した細胞における各mRNAの発現を100%として、RRM2 siRNAを導入した細胞におけるRRM2 mRNAの発現を比較したところ、図1の「HeLa_RT」および「ARPE_RT」の列に示すように、RRM2遺伝子に対するsiRNAは各細胞におけるRRM2 mRNA発現を効率的に抑制した。
【0074】
〔実施例3〕 RRM2 siRNAの生存率に及ぼす影響
RRM2遺伝子に対するsiRNAをHeLa細胞(癌細胞)およびARPE19細胞(正常細胞)に導入し、導入4日後の細胞生存率をMTTアッセイにより調べた。導入96時間後の増殖値を生細胞数測定試薬SF(ナカライテスク)を用いて測定し、コントロールRNA(NS)を導入した細胞における増殖値を100%として、RRM2 siRNAを導入した細胞における増殖値と比較して生存率を計算した。
【0075】
その結果、図2の「HeLa_MTT」に示すように、検討した8つのRRM2 siRNA(配列番号:11〜18)はHeLa細胞の生存を強く抑制した。また「HeLa_MTT」と「ARPE_MTT」の列を比較することにより、配列番号:11〜13の3つのRRM2 siRNAをそれぞれ導入したHeLa細胞ではARPE19細胞と比べて、顕著な生存率の低下が認められた。
【0076】
〔実施例4〕 RRM2 siRNAの癌細胞(HeLa細胞)および正常細胞(ARPE19)に対するアポトーシス誘導効果
RRM2遺伝子に対するsiRNAを導入したHeLa細胞における生存率の低下がアポトーシスによるものかどうかを調べた。RRM2遺伝子に対するsiRNA(配列番号:12)を、HeLa細胞(癌細胞)およびARPE19細胞(正常細胞)に導入し、TUNEL法を用いて導入72時間後の各細胞におけるアポトーシス誘導を検討した。
【0077】
その結果、図3の写真に示すように、RRM2遺伝子に対するsiRNA(40nM)を導入したHeLa細胞において、顕著にアポトーシスの誘導が認められた。一方、コントロールRNA(NS)が導入されたHeLa細胞ではアポトーシスの誘導は認められなかった。
また、図4の写真に示すように、RRM2遺伝子に対するsiRNA(40nM)を導入した正常細胞のARPE19においては、アポトーシス誘導が見られなかった。
即ち、本発明のRRM2遺伝子の発現を抑制することによって、癌細胞特異的に効果的なアポトーシスの誘導が起こることが明らかとなった。
【0078】
〔実施例5〕RRM2 siRNAの癌細胞(HeLa)および正常細胞(ARPE19)の細胞周期に対する影響
細胞周期は細胞核のDNA量と相関関係にあるため、核酸を特異的に染色するPIで処理を行うことにより、細胞周期の分布を知ることが出来る。詳しくは、siRNAをトランスフェクション後36時間で細胞を回収し、氷冷メタノールでの固定、PI(ヨウ化プロピディウム)染色をしたのち、フローサイトメータで測定を行った。
【0079】
コントロールRNA (NS)を導入した細胞と比較することにより、細胞周期に対するRRM2 siRNAの及ぼす影響を知ることが出来る。図5に示すように、RRM2 siRNA(配列番号:12)を導入したHeLa細胞では、細胞周期がG1/S期に停止した。一方、図6に示すように、ARPE19細胞ではS期における遅滞が僅かに認められたが、その他には顕著な変化は観察されなかった。このことにより、RRM2 siRNAは癌細胞特異的に細胞周期をG1/S期に停止させ、アポトーシスを引き起こすことが明らかとなった。
【0080】
〔実施例6〕各種癌細胞におけるRRM2 siRNAの50%増殖抑制
肝癌細胞、肺癌細胞、乳癌細胞、子宮癌細胞、および子宮頸部癌細胞の各種癌細胞について、RRM2遺伝子に対するsiRNA(配列番号12)の「50%増殖抑制」作用を検討した。0.2 nM、2.0 nM、20 nMそして40 nMのRRM2 siRNAを各癌細胞株にトランスフェクションし、導入96時間後の増殖をMTTアッセイにより調べた。コントロールRNA(NS)を導入した細胞における増殖値を100%として、RRM2 siRNAを導入した細胞における生存率を計算し、得られた生存率をsiRNAの濃度毎にプロットして50%増殖抑制(IC50)を求めた。
【0081】
その結果を以下の表1、および図7−1〜図7−21に示す。
【0082】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】図1は、RRM2遺伝子に対するsiRNA、各siRNA配列に対応する配列番号、各siRNA配列のRRM2遺伝子上の位置、HeLa細胞およびARPE19細胞に導入した場合のRT-PCRの結果を示す図である。
【図2】図2は、RRM2遺伝子に対するsiRNAをHeLa細胞およびARPE19細胞に導入した場合のMTTアッセイの結果を示す図である。
【図3】図3は、癌細胞(HeLa細胞)におけるRRM2遺伝子のmRNA発現の抑制によるアポトーシスの誘導効果を示す写真である。RRM2遺伝子に対するsiRNAをHeLa細胞に導入し、TUNEL法を用いて導入72時間後のHeLa細胞におけるアポトーシス誘導を検討した結果を示す。上段の写真はコントロール(NS)の結果を示し、下段の写真はRRM2の siRNAを導入した結果を示す。左列はTUNEL陽性を示すFITC染色の画像、中央列は細胞核を示すTO-PRO3染色の画像、右列はこれらをマージした画像(重ね合わせ像)である。
【図4】図4は、正常細胞(ARPE19)におけるRRM2遺伝子のmRNA発現の抑制によるアポトーシスの誘導効果を示す写真である。RRM2遺伝子に対するsiRNAをARPE19細胞に導入し、TUNEL法を用いて導入72時間後のARPE19におけるアポトーシス誘導を検討した結果を示す。上段の写真はコントロール(NS)の結果を示し、下段の写真はRRM2の siRNAを導入した結果を示す。左列はTUNEL陽性を示すFITC染色の画像、中央列は細胞核を示すTO-PRO3染色の画像、右列はこれらをマージした画像である。
【図5】図5は、RRM2に対する siRNAをHeLa細胞に導入して36時間後の細胞周期を調べた結果を示すグラフである。左のグラフはコントロール(NS)を導入した結果、右のグラフはRRM2に対するsiRNAを導入した結果を示す。
【図6】図6は、RRM2 に対するsiRNAをARPE19細胞に導入して36時間後の細胞周期を調べた結果を示すグラフである。左のグラフはコントロール(NS)を導入した結果、右のグラフはRRM2に対するsiRNAを導入した結果を示す。
【図7−1】図7−1は、肝癌細胞株のKIM1について、本発明のsiRNAによる細胞増殖抑制効果を示す図である。50%細胞増殖抑制(IC50)は、2.8 nMである。
【図7−2】図7−2は、肝癌細胞株のKYN2について、本発明のsiRNAによる細胞増殖抑制効果を示す図である。50%細胞増殖抑制(IC50)は、1.0 nMである。
【図7−3】図7−3は、肝癌細胞株のKYN3について、本発明のsiRNAによる細胞増殖抑制効果を示す図である。50%細胞増殖抑制(IC50)は、1.8 nMである。
【図7−4】図7−4は、肝癌細胞株のHepG2について、本発明のsiRNAによる細胞増殖抑制効果を示す図である。50%細胞増殖抑制(IC50)は、0.5 nMである。
【図7−5】図7−5は、肺癌細胞株のA549について、本発明のsiRNAによる細胞増殖抑制効果を示す図である。50%細胞増殖抑制(IC50)は、0.8 nMである。
【図7−6】図7−6は、肺癌細胞株のNCI-H460について、本発明のsiRNAによる細胞増殖抑制効果を示す図である。50%細胞増殖抑制(IC50)は、0.7 nMである。
【図7−7】図7−7は、肺癌細胞株のNCI-H522について、本発明のsiRNAによる細胞増殖抑制効果を示す図である。50%細胞増殖抑制(IC50)は、3.1 nMである。
【図7−8】図7−8は、肺癌細胞株のNCI-H23について、本発明のsiRNAによる細胞増殖抑制効果を示す図である。50%細胞増殖抑制(IC50)は、1.2 nMである。
【図7−9】図7−9は、肺癌細胞株のNCI-H292について、本発明のsiRNAによる細胞増殖抑制効果を示す図である。50%細胞増殖抑制(IC50)は、1.8 nMである。
【図7−10】図7−10は、肺癌細胞株のNCI-H596について、本発明のsiRNAによる細胞増殖抑制効果を示す図である。50%細胞増殖抑制(IC50)は、0.6 nMである。
【図7−11】図7−11は、肺癌細胞株のNCI-H661について、本発明のsiRNAによる細胞増殖抑制効果を示す図である。50%細胞増殖抑制(IC50)は、<0.2 nMである。
【図7−12】図7−12は、乳癌細胞株のMCF7について、本発明のsiRNAによる細胞増殖抑制効果を示す図である。50%細胞増殖抑制(IC50)は、0.3 nMである。
【図7−13】図7−13は、乳癌細胞株のMDA-MB435について、本発明のsiRNAによる細胞増殖抑制効果を示す図である。50%細胞増殖抑制(IC50)は、7.2 nMである。
【図7−14】図7−14は、乳癌細胞株のBT549について、本発明のsiRNAによる細胞増殖抑制効果を示す図である。50%細胞増殖抑制(IC50)は、<0.2 nMである。
【図7−15】図7−15は、子宮癌細胞株のOVACAR-5について、本発明のsiRNAによる細胞増殖抑制効果を示す図である。50%細胞増殖抑制(IC50)は、0.8 nMである。
【図7−16】図7−16は、子宮癌細胞株のPA-1について、本発明のsiRNAによる細胞増殖抑制効果を示す図である。50%細胞増殖抑制(IC50)は、4.5 nMである。
【図7−17】図7−17は、子宮癌細胞株のSK-OV3について、本発明のsiRNAによる細胞増殖抑制効果を示す図である。50%細胞増殖抑制(IC50)は、0.5 nMである。
【図7−18】図7−18は、子宮癌細胞株のTOV-21Gについて、本発明のsiRNAによる細胞増殖抑制効果を示す図である。50%細胞増殖抑制(IC50)は、1.8 nMである。
【図7−19】図7−19は、子宮癌細胞株のTOV-112Dについて、本発明のsiRNAによる細胞増殖抑制効果を示す図である。50%細胞増殖抑制(IC50)は、0.2 nMである。
【図7−20】図7−20は、子宮癌細胞株のHs 38.Tについて、本発明のsiRNAによる細胞増殖抑制効果を示す図である。50%細胞増殖抑制(IC50)は、2.7 nMである。
【図7−21】図7−21は、子宮頚部癌細胞株のHeLaについて、本発明のsiRNAによる細胞増殖抑制効果を示す図である。50%細胞増殖抑制(IC50)は、1.0 nMである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
RRM2遺伝子の発現を抑制する化合物を有効成分として含有する、癌細胞特異的アポトーシス誘導剤。
【請求項2】
RRM2遺伝子の発現を抑制する化合物が、RRM2遺伝子に対してRNAi効果を有する二本鎖RNAである、請求項1に記載の癌細胞特異的アポトーシス誘導剤。
【請求項3】
二本鎖RNAが、RRM2遺伝子のmRNAにおける連続する任意の15〜30塩基と相同な配列からなるセンスRNAおよび該センスRNAに相補的な配列からなるアンチセンスRNAからなる二本鎖RNAである、請求項2に記載の癌細胞特異的アポトーシス誘導剤。
【請求項4】
RRM2遺伝子に対してRNAi効果を有する二本鎖RNAを発現し得るDNAを有効成分として含有する、癌細胞特異的アポトーシス誘導剤。
【請求項5】
二本鎖RNAが、配列番号:3〜10のいずれかに記載のDNAによってコードされるRNAと、該RNAと相補的な配列からなるRNAとがハイブリダイズした構造を含む二本鎖RNAである、請求項1〜4のいずれかに記載の癌細胞特異的アポトーシス誘導剤。
【請求項6】
RRM2遺伝子の発現を抑制する化合物が以下の(a)または(b)である、請求項1に記載の癌細胞特異的アポトーシス誘導剤。
(a)RRM2遺伝子の転写産物、またはその一部に対するアンチセンス核酸
(b)RRM2遺伝子の転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有する核酸
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の癌細胞特異的アポトーシス誘導剤を有効成分とする癌細胞特異的抗癌剤。

【図1】
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【図2】
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【図7−1】
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【図7−2】
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【図7−3】
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【図7−4】
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【図7−5】
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【図7−6】
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【図7−7】
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【図7−8】
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【図7−9】
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【図7−10】
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【図7−11】
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【図7−12】
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【図7−13】
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【図7−14】
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【図7−15】
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【図7−16】
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【図7−17】
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【図7−18】
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【図7−19】
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【図7−20】
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【図7−21】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−161664(P2007−161664A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−361415(P2005−361415)
【出願日】平成17年12月15日(2005.12.15)
【出願人】(502028430)株式会社ジーンケア研究所 (14)
【Fターム(参考)】