説明

癌診断および治療のための標的であるN−カドヘリン

本発明は、診断方法を提供し、前立腺および膀胱癌を含むN−カドヘリンを発現する癌の処置のための予後診断および治療標的を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2008年11月10日に出願されたUSSN12/268,302(出典明示によりその全体を包含させる)の利益を主張する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
序文
前立腺癌は、最も一般的な悪性腫瘍であり、アメリカ男性において癌関連死の第2位の原因である。前立腺癌は、生物学的および臨床的に多様な疾患である。この悪性腫瘍を有する男性の大部分は、個体の自然寿命に影響し得ない増殖遅延型腫瘍を有しているが、他は急速進行性転移性腫瘍にかかる。PSAスクリーニングは、特異性の欠如およびどの患者がホルモン抵抗性転移性疾患を発症する危険性があるかを予測することができないことにより制限される。診断のためにより小さいPSA域値を主張する最近の研究は、前立腺癌診断の数を増加させ、無痛性癌患者 対 侵襲性癌患者の同定をさらに複雑にし得る(Pungliaら., N Engl J Med, 349: 335-342 (2003))。臨床結果と相関するか、または侵襲性疾患の可能性がある患者を同定する新規血清および組織マーカーが、早急に必要である(Welshら., Proc Natl Acad Sci U S A, 100: 3410-3415 (2003))。
【0003】
最近の発現プロファイリング研究は、転移性腫瘍 対 非転移性腫瘍に関する発現特性が原発性腫瘍に存在し得ることを示唆する(Ramaswamyら., Nat Genet, 33: 49-54 (2003); Sotiriouら., Proc Natl Acad Sci U S A, 100: 10393-10398 (2003))。腫瘍が特定の臓器へ転移しやすくなるさらなる特徴は、ある頻度で原発性腫瘍に存在することでもある(Kangら., Cancer Cell, 3: 537-549 (2003))。これらの最近の観察は、前転移性または前ホルモン抵抗性前立腺癌の新規マーカーが初期段階の疾患において同定され得ることを示唆する。これらのマーカーは、また、転移性またはホルモン抵抗性前立腺癌の進行の生物学において役割を果たし得る。結果と相関し、前立腺癌の進行の生物学において役割を果たす原発性腫瘍に存在する遺伝子の最近の例は、EZH2およびLIMキナーゼを含む(Varamballyら., Nature, 419: 624-629 (2002); Yoshiokaら., Proc Natl Acad Sci U S A, 100: 7247-7252 (2003))。しかしながら、これら2つの遺伝子のいずれもが分泌されない。
【0004】
今回、本発明者らは、癌細胞においてN−カドヘリンタンパク質が正常または低レベルで発現するか、または一部の癌細胞により発現し、過剰発現しない癌患者を処置または診断する方法を記載する。本発明者らは、また、試験組織サンプルにおけるN−カドヘリンタンパク質の存在もしくは非存在または量を測定することにより、癌幹細胞を同定する方法を報告する。
【発明の概要】
【0005】
発明の概要
第1の局面において、本発明は、癌患者を処置する方法であって、N−カドヘリンタンパク質を発現する癌を有する危険性がある個体由来の試験組織サンプルを得て、癌に対して陰性であることが知られている個体由来のコントロール組織サンプルと比較して、試験組織サンプルにおけるN−カドヘリンタンパク質の存在もしくは非存在または量を測定し、それにより、N−カドヘリンタンパク質を発現する該癌を診断し、ここで、N−カドヘリンタンパク質は正常または低レベルで発現するか、または一部の細胞により発現し、N−カドヘリンタンパク質は過剰発現しない、そして、有効量のN−カドヘリン抗体またはそのフラグメントを、N−カドヘリンタンパク質を発現する癌を有する危険性がある個体に投与する工程を含む方法を提供する。
【0006】
他の局面において、本発明は、癌幹細胞を同定する方法であって、N−カドヘリンタンパク質を発現する癌を有する危険性がある個体由来の試験組織サンプルを得て、癌に対して陰性であることが知られている個体由来のコントロール組織サンプルと比較して、試験組織サンプルにおける癌幹細胞の存在または非存在を測定する、ここで、N−カドヘリンタンパク質は正常または低レベルで発現するか、または一部の幹細胞により発現し、過剰発現しない工程を含む方法を提供する。
【0007】
1つの態様において、該組織サンプルは、前立腺または膀胱組織である。他の態様において、該癌は、前立腺癌である。他の態様において、該癌は、膀胱癌である。他の態様において、該癌は、ホルモン抵抗性前立腺癌である。他の態様において、該癌は、転移性癌である。他の態様において、該抗体は、モノクローナル抗体である。他の態様において、フラグメントは、scFvである。他の態様において、フラグメントは、ダイアボディである。
【0008】
上記局面および態様のいずれかにおいて、処置される組織、癌、対象または患者はヒトまたは哺乳動物である。上記局面および態様のいずれかにおいて、癌はアンドロゲン非依存性癌であり得る。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】(a)N−カドヘリンがほんの一部の細胞のみにより発現することを示す、アンドロゲン非依存性LAPC9前立腺癌の免疫組織化学的染色、(b)コントロールPBSまたはN−カドヘリン抗体1H7およびEC4でのアンドロゲン依存性および非依存性LAPC−9腫瘍の処理。
【図2】N−カドヘリンに対してそれぞれ100%および0%陽性であった細胞集団を得て、N−カドヘリン陽性および陰性細胞を分類した。
【図3】純粋にN−カドヘリン陽性および陰性細胞 対 分類されていないコントロール集団から増殖した腫瘍のFACS分析。
【図4】純粋にN−カドヘリン陽性および陰性細胞 対 分類されていないコントロール集団から増殖した腫瘍のFACS分析。
【図5】N−カドヘリン配列。
【図6】N−カドヘリン配列。
【発明を実施するための形態】
【0010】
発明の詳細な説明
本発明者らは、本明細書において、ホルモン抵抗性前立腺癌および膀胱癌において発現される遺伝子産物の同定、特性化および検証について報告する。これらの遺伝子産物は、N−カドヘリンである。
【0011】
処置および診断のための標的であるN−カドヘリンが、正常組織と比較して過剰発現する必要がない。それは、低レベルで発現され得、また、一部の細胞のみにより発現されることもある。データは、わずか5%の前立腺癌細胞におけるN−カドヘリンの標的化が、去勢抵抗性への前立腺癌の進行を阻止するために十分であることを示す。
【0012】
N−カドヘリンは、癌幹細胞における標的である。5%以下の細胞におけるN−カドヘリンの標的化が腫瘍の進行を阻止するために十分であることを示すデータは、N−カドヘリンが癌幹細胞のマーカーであり、これらの幹細胞上のN−カドヘリンの阻害が全体として腫瘍の増殖を阻止するために十分であるという仮説と一致する。
【0013】
癌幹細胞マーカーであることと一致するN−カドヘリン発現細胞が、N−カドヘリン非発現細胞よりもさらに腫瘍形成性である.N−カドヘリン陽性細胞は、N−カドヘリン陰性細胞を生じることができ、また、N−カドヘリンが癌幹細胞の新規マーカーであるという理論と一致する。最後に、腫瘍は、増殖するために、N−カドヘリンを上方制御するか、または獲得しなければならない。すなわち、腫瘍幹細胞は、腫瘍形成性になるために、上皮間葉転換の特性を獲得しなければならない。
【0014】
したがって、N−カドヘリンは、前立腺および膀胱癌を含むが、これらに限定されない癌治療のための、とりわけ有望な治療標的である。それは、細胞表面上に見出され、多数の上皮性腫瘍において過剰発現し、浸潤性、転移性および恐らくアンドロゲン非依存性と関連する。本発明において示されるとおり、癌幹細胞は、N−カドヘリンの正常または低発現を示す。したがって、N−カドヘリンに対する抗体は、限定はしないが上皮性、泌尿生殖器癌(膀胱、前立腺)を含む癌、さらに特に、それらの浸潤性または転移性形態の処置における使用のために特に好ましい物質である。いくつかの態様において、N−カドヘリンの細胞外ドメインに対するモノクローナル抗体が好ましい。さらなる態様において、N−カドヘリンの第1の細胞外ドメイン(EC1)、第1および第2のドメインの部分、または第4の細胞外ドメインが、これらの癌の処置において好ましい。いくつかの態様において、細胞外ドメイン4が、機能調整性および浸潤性の可能性において重要であることが見出されているため(Kimら, J Cell Biol. 151(6):1193-206 (2000)参照、種々のN−カドヘリンドメインの定義に関して、その全体を出典明示により包含させる)、細胞外ドメイン4に対する抗体の使用が、これらの処置において特に好ましい。
【0015】
N−カドヘリン発現は、前立腺および膀胱癌浸潤および転移ならびにホルモン抵抗性疾患への前立腺癌の進行の一因となり得る。N−カドヘリンは、単独ならびにmTORおよびEGFRの他の小分子阻害剤と組み合わせての両方で治療的に標的化することができる。N−カドヘリンの標的化は、浸潤性および転移性前立腺癌を予防または制御することを助けることができる。
【0016】
定義
「N−カドヘリン」は、(1)本明細書に記載されている、例えば、図5および6のそれぞれに記載されているそれぞれの参照核酸によってコードされるポリペプチドまたはアミノ酸配列に対し、好ましくは少なくとも約25、50、100、200、500、1000またはそれ以上のアミノ酸の領域にわたって、約60%以上のアミノ酸配列同一性、65%、70%、75%、80%、85%、90%、好ましくは91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%またはそれ以上のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を有する、(2)図5および6のそれぞれに記載されている参照アミノ酸配列を含む免疫原、それらのそれぞれの免疫原性フラグメント、およびそれらのそれぞれの保存的に修飾された変異体に対する抗体、例えば、ポリクローナル抗体に特異的に結合する、(3)ストリンジェントハイブリダイゼーション条件下で、図5および6のそれぞれに記載されている参照アミノ酸配列をコードする核酸、およびそれらのそれぞれの保存的に修飾された変異体に特異的にハイブリダイズする、(4)図5および6のそれぞれに示されている参照核酸配列に対し、好ましくは少なくとも約25、50、100、150、200、250、500、1000またはそれ以上のヌクレオチドの領域にわたって、約95%以上の、好ましくは約96%、97%、98%、99%またはそれ以上の核酸配列同一性を有する核酸配列を有する、核酸、例えば、遺伝子、pre−mRNA、mRNAおよびポリペプチド、多型変異体、対立遺伝子、変異体ならびに種間相同体を示す。ポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列は、一般的に、霊長類、例えば、ヒト、齧歯動物、例えば、ラット、マウス、ハムスター、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジを含むが、これらに限定されない、哺乳動物または他の哺乳動物由来である。本発明の核酸およびタンパク質は、天然または組換え分子の両方を含む。
【0017】
「癌」は、ヒト癌および癌腫、肉腫、腺癌、リンパ腫、白血病など、例えば、固形腫瘍およびリンパ癌、腎臓、乳房、肺、腎臓、膀胱、大腸、卵巣、前立腺、膵臓、胃、脳、頭頸部、皮膚、子宮、精巣、食道および肝臓癌、非ホジキンおよびホジキンリンパ腫を含むリンパ腫、白血病および多発性骨髄腫を示す。「泌尿生殖器癌」は、腎臓、膀胱、尿路、尿道、前立腺、陰茎、精巣、外陰、膣、子宮頸および卵巣組織を含むが、これらに限定されない、尿路および生殖器組織のヒト癌を示す。
【0018】
本明細書において処置される癌は、N−カドヘリンの低または正常発現(過剰発現ではない)により特徴付けられる物であり得る。本発明の1つの態様において、診断または予後アッセイは、患者の癌がN−カドヘリンの低または正常発現により特徴付けられるか否かを測定するために実施される。このような発現を測定するための種々のアッセイが考慮され、免疫組織化学、FISHおよびshed抗原アッセイ、サザンブロット法またはPCR技術を含む。さらに、N−カドヘリン発現または増幅は、インビボ診断アッセイを使用して、例えば、検出する分子に結合し、検出可能な標識(例えば、放射性同位体)で標識される分子(例えば、抗体)を投与し、外部から標識の局在に関して患者をスキャンすることにより、評価され得る。いくつかの態様において、処置される癌または癌幹細胞は、まだ浸潤性でないが、N−カドヘリンを発現する。
【0019】
「治療耐性」癌、腫瘍細胞および腫瘍は、化学療法、ホルモン治療、放射線治療および免疫療法を含む、アポトーシス−介在(例えば、死受容体細胞シグナル伝達、例えば、Fasリガンド受容体、TRAIL受容体、TNF−R1、化学療法剤、放射線を介する)および非アポトーシス介在(例えば、毒性薬剤、化学物質)癌治療のいずれか、または両方に耐性または難治性となっている癌を示す。
【0020】
「低または正常発現」は、コントロール組織サンプルにおけるN−カドヘリンのRNAまたはタンパク質発現とほぼ同じか、またはより少ない、試験組織サンプルにおけるN−カドヘリンのRNAまたはタンパク質発現を示す。1つの態様において、組織サンプルは自己である。
【0021】
「N−カドヘリンを発現する癌」および「N−カドヘリンの発現と関連する癌」なる用語は、互換的に、上記定義にしたがってN−カドヘリンを発現する癌細胞または組織を示す。
【0022】
「癌関連抗原」または「腫瘍特異的マーカー」または「腫瘍マーカー」なる用語は、互換的に、正常細胞と比較して、癌細胞において優先的に発現される分子(一般的に、タンパク質、炭水化物または脂質)を示し、これは、癌細胞に対する薬理学的物質の優先的標的化のために有用である。マーカーまたは抗原は、細胞表面上で、または細胞内に発現させることができる。しばしば、癌関連抗原は、正常細胞と比較して、癌細胞において最小分解で、例えば、正常細胞と比較して2倍過剰発現、3倍過剰発現またはそれ以上で過剰発現されるか、または安定化している分子である。しばしば、癌関連抗原は、癌細胞において不適当に合成される分子、例えば、正常細胞上で発現される分子と比較して、欠失、付加または変異を含む分子である。しばしば、癌関連抗原は、もっぱら癌細胞において発現され、正常細胞において合成または発現されない。典型的な細胞表面腫瘍マーカーは、乳癌に対してタンパク質c−erbB−2およびヒト上皮細胞増殖因子受容体(HER)、前立腺癌に対してPSMA、ならびに乳房、卵巣および結腸直腸を含む多数の癌において炭水化物ムチンを含む。典型的な細胞内腫瘍マーカーは、例えば、変異した腫瘍抑制遺伝子または細胞周期タンパク質、例えば、p53を含む。
【0023】
「アゴニスト」は、本発明のポリペプチドまたはポリヌクレオチドに結合し、本発明のポリペプチドまたはポリヌクレオチドの活性または発現を刺激するか、増加するか、活性化するか、促進するか、活性化を増強するか、増感するか、または上方調節する物質を示す。
【0024】
「アンタゴニスト」は、本発明のポリペプチドまたはポリヌクレオチドの発現を阻害するか、またはそれらに結合し、本発明のポリペプチドまたはポリヌクレオチドの活性を部分的または全体的に刺激を阻止するか、減少するか、防止するか、活性化を遅延するか、不活性化するか、鈍感にするか、または下方調節する物質を示す。
【0025】
発現または活性の「阻害剤」、「活性剤」および「調節剤」は、それぞれ、発現または活性に関してインビトロおよびインビボアッセイを使用して同定される阻害、活性化、または調節分子、例えば、リガンド、アゴニスト、アンタゴニストならびにそれらの相同体および模擬体を示すために使用される。「調節剤」なる用語は、阻害剤および活性剤を含む。阻害剤は、例えば、本発明のポリペプチドまたはポリヌクレオチドの発現を阻害するか、または結合して、本発明のポリペプチドまたはポリヌクレオチドの活性を部分的または全体的に刺激または酵素活性を阻止するか、減少するか、防止するか、活性化を遅延するか、不活性化するか、鈍感にするか、または下方調節する物質、例えば、アンタゴニストを示す。活性剤は、例えば、本発明のポリペプチドまたはポリヌクレオチドの発現を誘導するか、もしくは活性化するか、または結合して、本発明のポリペプチドまたはポリヌクレオチドの活性または発現を刺激するか、増加するか、開くか、活性化するか、促進するか、活性化または酵素活性を増強するか、増感するか、または上方調節する物質、例えば、アゴニストを示す。調節剤は、天然および合成リガンド、アンタゴニスト、アゴニスト、小化学分子などを含む。阻害剤および活性剤を同定するためのアッセイは、例えば、本発明のポリペプチドまたはポリヌクレオチドの存在または非存在下で細胞に推定調節剤化合物を与え、次に本発明のポリペプチドまたはポリヌクレオチド活性における機能効果を測定することを含む。可能性のある活性剤、阻害剤または調節剤で処理される本発明のポリペプチドまたはポリヌクレオチドを含むサンプルまたはアッセイは、効果の程度を試験するために、阻害剤、活性剤または調節剤なしのコントロールサンプルと比較する。コントロールサンプル(調節剤で未処理)は、100%の相対活性値を割り当てる。阻害は、本発明のポリペプチドまたはポリヌクレオチドの活性値が、コントロールと比較して、約80%、所望により50%または25−1%であるとき、達成される。活性化は、本発明のポリペプチドまたはポリヌクレオチドの活性値が、コントロールと比較して、110%、所望により150%、所望により200−500%または1000−3000%以上であるとき、達成される。
【0026】
本明細書において使用される「試験化合物」または「薬剤候補」または「調節剤」または文法的な同等物なる用語は、天然または合成のいずれかのあらゆる分子、例えば、タンパク質、オリゴペプチド(例えば、約5から約25アミノ酸長、好ましくは約10から20または12から18アミノ酸長、好ましくは12、15または18アミノ酸長)、有機小分子、多糖類、脂質、脂肪酸、ポリヌクレオチド、RNAi、siRNA、抗体、オリゴヌクレオチドなどを表す。試験化合物は、十分な範囲の多様性を提供する試験化合物のライブラリー、例えば、コンビナトリアルまたはランダムライブラリーの形態であり得る。試験化合物は、所望により、融合パートナー、例えば、標的化化合物、レスキュー(rescue)化合物、二量化化合物、安定化化合物、アドレス可能な化合物および他の官能基に結合させる。通常、有用な特性を有する新規化学物質は、例えば活性を阻害する、いくつかの所望の特性または活性を有する試験化合物(「リード(lead)化合物」と呼ばれる)を同定し、リード化合物の変異体を創造し、これらの変異体化合物の特性および活性を評価することにより生産される。しばしば、ハイスループット・スクリーニング(HTS)方法が、このような分析のために使用される。
【0027】
「有機小分子」は、約50ダルトンを越え約2500ダルトン未満、好ましくは約2000ダルトン未満、好ましくは約100から約1000ダルトン、さらに好ましくは約200から約500ダルトンの分子量を有する、天然または合成のいずれかの有機分子を示す。
【0028】
細胞毒性剤は、「細胞周期特異的」または「抗有糸分裂」または「細胞骨格−相互作用」薬剤を含む。これらの用語は、互換的に、有糸分裂において細胞を阻止するあらゆる薬理学的物質を示す。このような薬剤は化学療法に有用である。一般的に、細胞周期特異的薬剤は、細胞骨格タンパク質チューブリンに結合し、チューブリンが微小管に重合する能力を阻止し、中期で細胞分裂の停止をもたらす。典型的な細胞周期特異的薬剤は、ビンカアルカロイド、タキサン類、コルヒチンおよびポドフィロトキシンを含む。典型的なビンカアルカロイドは、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシンおよびビノレルビンを含む。典型的なタキサン類は、パクリタキセルおよびドセタキセルを含む。細胞骨格相互作用剤の他の例は、2−メトキシエストラジオールを含む。
【0029】
「siRNA」または「RNAi」は、siRNAが遺伝子または標的遺伝子と同じ細胞中で発現したとき、二本鎖RNAが遺伝子または標的遺伝子の発現を減少させるか、または阻害する能力を有する、二本鎖RNAを形成する核酸を示す。したがって、「siRNA」または「RNAi」は、相補鎖により形成される二本鎖RNAを示す。二本鎖分子を形成するためにハイブリダイズするsiRNAの相補部分は、一般的に、実質的または完全同一性を有する。1つの態様において、siRNAは、標的遺伝子と実質的または完全同一性を有し、二本鎖siRNAを形成する核酸を示す。一般的に、siRNAは、少なくとも約15−50ヌクレオチド長である(例えば、二本鎖siRNAのそれぞれの相補配列は、15−50ヌクレオチド長であり、二本鎖siRNAは、約15−50塩基対長、好ましくは約20−30塩基ヌクレオチド、好ましくは約20−25または約24−29ヌクレオチド長、例えば、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29または30ヌクレオチド長である)。
【0030】
siRNA分子およびベクターの設計および作製は、当業者によく知られている。例えば、適当なsiRNAを設計するための有効なプロセスは、mRNA転写産物のAUG開始コドンで開始し、AAジヌクレオチド配列に対してスキャンすることである(Elbashirら. EMBO J 20: 6877-6888 (2001)参照)。それぞれのAAおよび3’隣接ヌクレオチドは、siRNA標的部位の可能性がある。隣接部位配列の長さはsiRNAの長さを決定する。例えば、19個の隣接部位は、21ヌクレオチド長のsiRNAを与える。UUジヌクレオチド3’オーバーハングを有するsiRNAが、しばしば、非常に有効である。このアプローチは、また、ヘアピンsiRNAを転写するためにRNA pol IIIの使用が可能である。RNA pol IIIは、4−6個のヌクレオチドポリ(T)地域で転写を終了し、短ポリ(U)テイルを有するRNA分子を創造する。しかしながら、他の3’末端ジヌクレオチドオーバーハングを有するsiRNAは、また、有効にRNAiを誘導することができ、該配列は、経験的に選択され得る。選択性に関して、他のコード配列と16−17個以上の隣接する塩基対の相同性を有する標的配列は、BLASTサーチ(www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST参照)を行うことにより回避することができる。
【0031】
siRNAは、直接投与することができ、またはRNAiを誘導するために使用することができるsiRNA発現ベクターを、異なる設計基準で有することができる。ベクターは、短スペーサー配列により分離される2つの逆方向反復および転写を終わらせるために働くたくさんのTを有する末端を挿入することができる。発現されるRNA転写産物は、短ヘアピンsiRNAに折りたたまれることが予期される。siRNA標的配列の選択、推定ヘアピンのステムをコードする逆方向反復の長さ、逆方向反復の順序、ヘアピンのループをコードするスペーサー配列の長さおよび組成物、ならびに5’−オーバーハングの存在または非存在は、変化することができる。siRNA発現カセットの好ましい順序は、センス鎖、短スペーサーおよびアンチセンス鎖である。これらの種々のステム長(例えば、15から30)を有するヘアピンsiRNAが適当であり得る。ヘアピンsiRNAのセンスおよびアンチセンス鎖に連結しているループの長さは、種々の長さ(例えば、3から9ヌクレオチドまたはそれ以上)を有し得る。ベクターは、siRNAをコードするヌクレオチド配列に作動可能に連結したプロモーターおよび発現エンハンサーまたは他の調節エレメントを含み得る。「コントロール配列」なる表現は、特定の宿主生物において作動可能に連結したコード配列の発現のために必要であるDNA配列を示す。原核生物に適当であるコントロール配列は、例えば、プロモーター、所望によりオペレーター配列およびリボソーム結合部位を含む。真核細胞は、プロモーター、ポリアデニル化シグナル、およびエンハンサーを利用することが知られている。調節エレメントが応答性である外部要因を加えるか、または制御することにより、遺伝子の発現をオンまたはオフにすることを臨床医が可能にするように、これらの制御エレメントは設計され得る。
【0032】
所望の治療遺伝子コードおよびコントロール配列を含む適当なベクターの構築は、当該分野でよく知られている標準ライゲーションおよび制限技術を使用する(Maniatisら., in Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, New York (1982)参照)。単離されたプラスミド、DNA配列または合成オリゴヌクレオチドは、開裂され、調整され、所望の形態に再結合される。
【0033】
核酸は、他の核酸配列と機能的な関係に置かれているとき、「作動可能に連結した」である。例えば、ポリペプチドの分泌に関係するプレタンパク質として発現されるとき、プレ配列または分泌リーダーに対するDNAは、ポリペプチドに対するDNAに作動可能に連結しており、配列の転写に影響するとき、プロモーターまたはエンハンサーは、コード配列に作動可能に連結しており、または、翻訳を促進するように位置しているとき、リボソーム結合部位は、コード配列に作動可能に連結している。一般的に、「作動可能に連結した」は、連結されているDNA配列が互いに近く、分泌リーダーの場合、隣接しており、リーディング相にあることを意味する。しかしながら、エンハンサーは隣接していなくてもよい。連結は、便利な制限酵素認識部位でライゲーションにより達成される。このような部位が存在しないとき、合成オリゴヌクレオチドアダプターまたはリンカーを慣用の形式にしたがって使用する。
【0034】
「機能効果を測定すること」は、間接的または直接的に本発明のポリヌクレオチドまたはポリペプチドの影響下でパラメーターを増加または減少させる化合物についてアッセイすること、例えば、物理化学的または表現型効果を測定することを示す。このような機能効果は、当業者に知られている任意の手段、例えば、タンパク質に対する分光学的(例えば、蛍光、吸光度、屈折率)、流体力学的(例えば、形)、クロマトグラフまたは溶解度特性の変化、タンパク質の誘導マーカーまたは転写活性化を測定すること、結合活性または結合アッセイ、例えば、抗体への結合を測定すること、リガンド結合親和性における変化を測定すること、カルシウム流入の測定、本発明のポリペプチドの酵素生成物の蓄積または基質の枯渇の測定、酵素活性、例えば、キナーゼ活性における変化、本発明のポリペプチドのタンパク質レベルにおける変化の測定、RNA安定性の測定、G−タンパク質結合、GPCRリン酸化または脱リン酸化、シグナル変換、例えば、受容体−リガンド相互作用、セカンド・メッセンジャー濃度(例えば、cAMP、IP3または細胞内Ca2+)、例えば、化学発光、蛍光、比色反応、抗体結合、誘導マーカーおよびリガンド結合アッセイを介する、下流またはレポーター遺伝子発現の同定(CAT、ルシフェラーゼ、β−gal、GFPなど)により測定することができる。
【0035】
可能性のある活性剤、阻害剤または調節剤で処理される本明細書に記載されている核酸またはタンパク質を含むサンプルまたはアッセイは、阻害の程度を試験するために、阻害剤、活性剤または調節剤なしのコントロールサンプルと比較する。コントロールサンプル(阻害剤で未処理)は、100%の相対タンパク質活性値を割り当てる。阻害は、活性値が、コントロールと比較して、約80%、好ましくは50%、さらに好ましくは25−0%であるとき、達成される。活性化は、活性値が、コントロール(活性剤で未処理)と比較して、110%、さらに好ましくは150%、さらに好ましくは200−500%(すなわち、コントロールと比較して、2から5倍高い)、さらに好ましくは1000−3000%以上であるとき、達成される。
【0036】
「生物学的サンプル」は、組織学的目的のために採取した組織切片、例えば、生検および解剖検体、および凍結切片を含む。このようなサンプルは、血液および血液分画または産物(例えば、血清、血漿、血小板、赤血球など)、唾液、組織、培養細胞、例えば、初代培養物、移植片、および形質転換細胞、ふん便、尿などを含む。生物学的サンプルは、一般的に、真核生物、より好ましくは哺乳動物、例えば、霊長類、例えば、チンパンジーまたはヒト、ウシ、イヌ、ネコ、齧歯動物、例えば、モルモット、ラット、マウス、ウサギ、または鳥類、は虫類、または魚類から得られる。
【0037】
「生検」は、診断または予後評価のための組織サンプルを取り出すプロセス、および組織標本自体を示す。当該分野で知られているあらゆる生検技術を、本発明の診断および予後診断方法に適用することができる。適用される生検技術は、数ある因子のなかでも、評価される組織型(すなわち、前立腺、リンパ節、肝臓、骨髄、血球)、腫瘍のサイズおよび型(すなわち、固形または懸濁(すなわち、血液または腹水))に依存する。典型的な生検技術は、切除生検、切開生検、針生検、外科生検および骨髄生検を含む。「切除生検」は、周囲のほんのわずかの正常組織と共に全腫瘍塊を取り出すことを示す。「切開生検」は、腫瘍の断面直径を含むくさび形の組織の取り出しを示す。内視鏡検査または蛍光透視法により行われる診断または予後診断は、腫瘍塊の「コア針生検」または一般的に腫瘍塊内から細胞懸濁を得る「細針吸引生検」を必要とし得る。生検技術は、例えば、Harrison's Principles of Internal Medicine, Kasperら編、第16版、2005, Chapter 70, およびPart Vに記載されている。
【0038】
2つ以上の核酸またはポリペプチド配列との関係において、「同一」または「同一性」なる用語は、下記のデフォルトパラメーターを用いるBLASTまたはBLAST2.0配列比較アルゴリズムを使用して、または手動アラインメントおよび目視検査により測定される場合(例えば、NCBIウェブサイト http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/など参照)、同一の2つ以上の配列または部分配列、または同じアミノ酸残基またはヌクレオチドを特定のパーセント有する2つ以上の配列または部分配列(すなわち、比較ウィンドウまたは指定領域にわたって最大に対応するように比較およびアラインした場合に、特定の領域にわたって、約60%同一性、好ましくは65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の同一性)を示す。次に、このような配列は、「実質的に同一」であると言う。この定義は、また、試験配列について示すか、または適用され得る。該定義は、また、欠失および/または付加を有する配列、ならびに置換を有する配列を含む。以下に記載されているとおり、好ましいアルゴリズムは、ギャップなどを説明することができる。好ましくは、同一性は、少なくとも約25アミノ酸またはヌクレオチド長である領域にわたって、さらに好ましくは50−100アミノ酸またはヌクレオチド長である領域にわたって存在する。
【0039】
配列比較のために、一般的に1つの配列が参照配列として作用し、それに対して試験配列を比較する。配列比較アルゴリズムを使用する場合、試験および参照配列をコンピュータに入力し、必要ならば、部分座標を指定し、配列アルゴリズムプログラムパラメーターを指定する。好ましくは、デフォルトプログラムパラメーターを使用できるか、または代わりのパラメーターを指定することができる。次に、配列比較アルゴリズムが、プログラムパラメーターに基づいて、参照配列と比較した試験配列に対する配列同一性パーセントを計算する。
【0040】
本明細書において使用される「比較ウィンドウ」は、2つの配列を最適にアラインした後、1つの配列が同数の連続位置の参照配列と比較され得る、20から600、通常、約50から約200、さらに通常、約100から約150からなる群から選択される連続位置の数のいずれか1つのセグメントに対する言及を含む。比較のための配列のアラインメントの方法は、当該分野でよく知られている。比較のための配列の最適アラインメントは、例えば、Smith & Waterman, Adv. Appl. Math. 2:482 (1981)の局所的相同性アルゴリズム、Needleman & Wunsch, J. Mol. Biol. 48:443 (1970)の相同性アラインメントアルゴリズム、Pearson & Lipman, Proc. Nat'l. Acad. Sci. USA 85:2444 (1988)の類似性検索方法、これらのアルゴリズムのコンピューターでの手段(Wisconsin Genetics Software Package, Genetics Computer Group, 575 Science Dr., Madison, WIのGAP、BESTFIT、FASTAおよびTFASTA)、または手動アラインメントおよび目視検査(例えば、Current Protocols in Molecular Biology (Ausubelら編. 1995 supplement)参照)により行うことができる。
【0041】
配列同一性パーセントおよび配列類似性を決定するために適当なアルゴリズムの好ましい例は、BLASTおよびBLAST2.0アルゴリズムであり、これらはそれぞれAltschulら., Nuc. Acids Res. 25:3389-3402 (1977)およびAltschulら., J. Mol. Biol. 215:403-410 (1990)に記載されている。本発明の核酸およびタンパク質に対する配列同一性パーセントを決定するために、BLASTおよびBLAST2.0を、本明細書に記載されているパラメーターを用いて使用する。BLAST分析を実施するためのソフトウェアは、National Center for Biotechnology Information(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)から公的に入手できる。このアルゴリズムは、最初に、データベース配列中の同じ長さのワードとアラインしたとき、ある正の値の閾値スコアTとマッチするか、または満足させるいずれかである検索配列における長さWの短いワードを同定することにより、高いスコアリング配列ペア(HSP)を同定することを含む。Tは、近隣ワードスコア閾値(Altschulら.,(上記)参照)と呼ばれる。これらの最初の近隣ワードヒットが、それらを含有するより長いHSPを見つけるための検索を開始するための種として作用する。このワードヒットは、累積アラインメントスコアを増加することができる限り、それぞれの配列に沿って両方向に延長される。累積スコアは、核酸配列について、パラメーターM(マッチする残基のペアに対するリワードスコア(reward score)、常に>0)およびN(マッチしない残基に対するペナルティースコア(penalty score)、常に<0)を使用して計算する。アミノ酸配列について、スコアリングマトリクスを使用して累積スコアを計算する。それぞれの方向でのワードのヒットの延長は、累積アラインメントスコアがその到達した最大値から数量Xまで低下したとき、累積スコアが1つ以上の負のスコアリング残基のアラインメントの累積によってゼロもしくはそれ以下になったとき、または、いずれかの配列の末端に達したときに停止する。BLASTアルゴリズムパラメーターW、TおよびXは、アラインメントの感度およびスピードを決定する。BLASTNプログラム(核酸配列に対して)は、デフォルトとしてワード長(W)11、期待値(E)10、M=5、N=−4および両方の鎖の比較を使用する。アミノ酸配列について、BLASTPプログラムは、デフォルトとしてワード長3および期待値(E)10を、そしてBLOSUM62スコアリング・マトリックス(Henikoff & Henikoff, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:10915 (1989)参照)は、アラインメント(B)50、期待値(E)10、M=5、N=−4、および両方の鎖の比較を使用する。
【0042】
「核酸」は、一もしくは二本鎖形態のいずれかにおけるデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドおよびそれらのポリマー、およびそれらの相補体を示す。該用語は、合成、天然または非天然であり、参照核酸と同様の結合特性を有し、参照ヌクレオチドと同様の方法において代謝される既知のヌクレオチド類似体または修飾された骨格残基もしくは連結を含む核酸を包含する。このような類似体の例は、ホスホロチオエート、ホスホロアミダート、メチルホスホナート、キラル−メチルホスホナート、2−O−メチルリボヌクレオチド、ペプチド−核酸(PNA)を含むが、これらに限定されない。
【0043】
他に記載のない限り、特定の核酸配列は、また、それらの保存的に修飾された変異体(例えば、縮重コドン置換)および相補配列、ならびに明白に示されている配列を暗に含む。具体的には、縮重コドン置換は、1つ以上の選択された(または全ての)コドンの第3の位置が混合塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換されている配列を生産することにより、達成され得る(Batzerら., Nucleic Res. 19:5081 (1991); Ohtsukaら., J. Biol. Chem. 260:2605-2608 (1985); Rossoliniら., Mol. Cell. Probes 8:91-98 (1994))。核酸なる用語は、遺伝子、cDNA、mRNA、オリゴヌクレオチドおよびポリヌクレオチドと互換的に使用される。
【0044】
特定の核酸配列は、また、「スプライス変異体」を暗に含む。同様に、核酸によってコードされる特定のタンパク質は、核酸のスプライス変異体によってコードされる任意のタンパク質を暗に含む。「スプライス変異体」は、その用語が示唆するように、遺伝子の選択的スプライシングの産物である。転写後、最初の核酸転写産物は、異なる(別の)核酸スプライス産物が異なるポリペプチドをコードするようにスプライスされ得る。スプライス変異体の生産のためのメカニズムは変化するが、エクソンの選択的スプライシングを含む。リードスルー(read-through)転写により同じ核酸に由来する別のポリペプチドもまた、この定義により包含される。スプライス産物の組換え形態を含むスプライシング反応の全ての産物が、この定義に含まれる。カリウムチャネルスプライス変異体の例は、Leicherら., J. Biol. Chem. 273(52):35095-35101 (1998)に記載されている。
【0045】
「ポリペプチド」、「ペプチド」および「タンパク質」なる用語は、本明細書で互換的に使用され、アミノ酸残基のポリマーを示す。該用語は、1個以上のアミノ酸残基が対応する天然アミノ酸の人工化学模擬体であるアミノ酸ポリマー、ならびに天然アミノ酸ポリマーおよび非天然アミノ酸ポリマーに適用する。
【0046】
「アミノ酸」なる用語は、天然および合成アミノ酸、ならびに天然アミノ酸と同様の様式で機能するアミノ酸類似体およびアミノ酸模擬体を示す。天然アミノ酸は、遺伝子コードによってコードされるもの、ならびに後に修飾されたアミノ酸、例えば、ヒドロキシプロリン、γ−カルボキシグルタミン酸およびO−ホスホセリンである。アミノ酸類似体は、天然アミノ酸と同じ基本的な化学構造を有する、すなわち、水素、カルボキシル基、アミノ基およびR基に結合しているα炭素を有する化合物、例えば、ホモセリン、ノルロイシン、メチオニンスルホキシド、メチオニンメチルスルホニウムを示す。このような類似体は、修飾されたR基(例えば、ノルロイシン)または修飾されたペプチド骨格を有するが、天然アミノ酸と同じ基本的な化学構造を維持している。アミノ酸模擬体は、アミノ酸の一般的な化学構造とは異なる構造を有するが、天然アミノ酸と同様の様式で機能する化学化合物を示す。
【0047】
アミノ酸は、IUPAC-IUB Biochemical Nomenclature Commissionにより推奨される、一般的に知られている3文字記号または1文字記号のいずれかにより、本明細書に記載され得る。同様に、ヌクレオチドも、一般的に受け入れられている1文字記号により記載され得る。
【0048】
「保存的に修飾された変異体」は、アミノ酸および核酸配列の両方に適用する。特定の核酸配列に関して、保存的に修飾された変異体は、同一または実質的に同一のアミノ酸配列をコードする核酸を示し、または核酸がアミノ酸配列をコードしていないとき、実質的に同一の配列を意味する。遺伝子コードの縮重のため、多くの機能的に同一の核酸が、任意の所定のタンパク質をコードする。例えば、コドンGCA、GCC、GCGおよびGCUはすべて、アミノ酸アラニンをコードする。したがって、アラニンがコドンにより特定される全ての位置で、そのコドンは、コードするポリペプチドを変化させることなく、記載されている対応するコドンのいずれかに変化させることができる。このような核酸変異は、保存的に修飾された変異の1種である「サイレント変異」である。ポリペプチドをコードする本明細書の全ての核酸配列は、また、核酸の全ての可能なサイレント変異を意味する。当業者は、核酸のそれぞれのコドン(通常メチオニンのための唯一のコドンであるAUG、および通常トリプトファンのための唯一のコドンであるTGGを除く)を、機能的に同一の分子を得るために修飾することができることを理解している。したがって、ポリペプチドをコードする核酸のそれぞれのサイレント変異は、実際のプローブ配列に対してではなく、発現産物に対して、それぞれの記載されている配列に潜在している。
【0049】
アミノ酸配列について、当業者は、コードされた配列中の1つのアミノ酸または数パーセントのアミノ酸を変化、付加または欠失する核酸、ペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質配列に対する個々の置換、欠失または付加が「保存的に修飾された変異体」であることを理解している(ここで、該変化は化学的に類似のアミノ酸でのアミノ酸の置換をもたらす)。機能的に類似のアミノ酸を提供する保存的置換表は、当該分野でよく知られている。このような保存的に修飾された変異体は、さらに、本発明の多型変異体、種間相同体および対立遺伝子を除外しない。
【0050】
下記8個のグループは、それぞれ、互いに保存的置換であるアミノ酸を含む。1)アラニン(A)、グリシン(G)、2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q)、4)アルギニン(R)、リジン(K)、5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V)、6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W)、7)セリン(S)、スレオニン(T)、および8)システイン(C)、メチオニン(M)(例えば、Creighton, Proteins (1984)参照)。
【0051】
「標識」または「検出可能部分」は、分光学的、光化学的、生化学的、免疫化学的、化学的または他の物理的手段により検出可能な組成物である。例えば、有用な標識は、32P、蛍光色素、高電子密度試薬、酵素(例えば、一般的にELISAにおいて使用されるもの)、ビオチン、ジゴキシゲニンまたはハプテンおよび、例えば、放射性標識をペプチドに組み込むことにより検出可能にできるか、またはペプチドと特異的に反応性である抗体を検出するために使用できるタンパク質を含む。
【0052】
「組換え」なる用語は、例えば、細胞、または核酸、タンパク質、またはベクターに関して使用されるとき、該細胞、核酸、タンパク質またはベクターが異種核酸もしくはタンパク質の導入または天然核酸もしくはタンパク質の変化により修飾されているか、または該細胞がそのように修飾された細胞由来であることを示す。したがって、例えば、組換え細胞は、細胞の天然(非組換え)形態内で見出されない遺伝子を発現するか、または天然遺伝子を発現しても異常に発現するか、もしくは全く発現しない。
【0053】
「異種」なる用語は、核酸の部分に関して使用されるとき、核酸が本来は互いに同じ関係において見出されない2つ以上の部分配列を含むことを示す。例えば、一般的に、新規機能性核酸を作るために配置された関係のない遺伝子由来の2つ以上の配列、例えば、1つの起源由来のプロモーターおよび別の起源由来のコード領域を有する核酸が、組換え的に生産される。同様に、異種タンパク質は、タンパク質が本来は互いに同じ関係において見出されない2つ以上の部分配列を含むことを示す(例えば、融合タンパク質)。
【0054】
「ストリンジェントハイブリダイゼーション条件」なる用語は、プローブが、一般的に核酸の複合混合物中で、その標的部分配列にハイブリダイズするが、他の配列にハイブリダイズしない条件を示す。ストリンジェント条件は配列依存性であり、異なる状況において異なる。より長い配列は、より高い温度で特異的にハイブリダイズする。核酸のハイブリダイゼーションのための大規模なガイドは、Tijssen, Techniquess in Biochemistry and Molecular Biology--Hybridization with Nucleic Probes, “Overview of principles of Hybridization and the strategy of nucleic acid assays”(1993)において見出される。一般的に、ストリンジェント条件は、規定のイオン強度pHにて特定の配列に対する熱融点(T)より約5−10℃低く選択される。Tは、標的に相補的なプローブの50%が平衡状態で標的配列にハイブリダイズする温度(規定のイオン強度、pHおよび核酸濃度下で)である(標的配列が過剰に存在するとき、Tで、50%のプローブが平衡状態で占有される)。ストリンジェント条件は、また、脱安定化剤、例えば、ホルムアミドの添加で達成され得る。選択的または特異的ハイブリダイゼーションに関して、陽性シグナルは、バックグラウンドの少なくとも2倍、バックグラウンドの好ましくは10倍のハイブリダイゼーションである。典型的なストリンジェントハイブリダイゼーション条件は、以下のとおりであり得る。50%のホルムアミド、5×SSCおよび1%のSDS、42℃でインキュベーション、または5×SSC、1%のSDS、65℃でインキュベーション、および65℃で0.2×SSCおよび0.1%のSDSで洗浄。
【0055】
ストリンジェント条件下で互いにハイブリダイズしない核酸は、それらがコードするポリペプチドが実質的に同一であるとき、まだ実質的に同一である。これは、例えば、核酸のコピーが遺伝子コードで認められている最大コドン縮重を使用して創造されるとき、起こる。このような場合、核酸は、一般的に、中程度のストリンジェントハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズする。典型的な「中程度のストリンジェントハイブリダイゼーション条件」は、40%のホルムアミド、1MのNaCl、1%のSDSのバッファー中で37℃でハイブリダイゼーション、および1×SSC中で45℃での洗浄を含む。陽性ハイブリダイゼーションは、バックグラウンドの少なくとも2倍である。当業者は、代わりのハイブリダイゼーションおよび洗浄条件を、同様のストリンジェンシーの条件を提供するために利用できることを容易に理解している。ハイブリダイゼーションパラメーターを決定するためのさらなるガイドラインは、多数の文献、例えば、Current Protocols in Molecular Biology, ed. Ausubelら., John Wiley & Sonsにおいて提供される。
【0056】
PCRに関して、約36℃の温度が低ストリンジェンシー増幅のために典型的であるが、アニーリング温度は、プライマー長に依存して約32℃から48℃の間で変化し得る。高ストリンジェンシーPCR増幅に関して、約62℃の温度が典型的であるが、高ストリンジェンシーアニーリング温度は、プライマー長および特異性に依存して約50℃から約65℃で変化し得る。高および低ストリンジェンシー増幅の両方のために典型的なサイクル条件は、変性期90℃−95℃で30秒−2分、アニーリング期30秒−2分持続、および伸長期約72℃で1−2分を含む。低および高ストリンジェンシー増幅反応のためのプロトコールおよびガイドラインは、例えば、Innisら. (1990) PCR Protocols, A Guide to Methods and Applications, Academic Press, Inc. N.Y.で提供される。
【0057】
「抗体」は、抗原に特異的に結合し、認識する免疫グロブリン遺伝子由来のフレームワーク領域を含むポリペプチドまたはそのフラグメントを示す。認識されている免疫グロブリン遺伝子は、カッパ、ラムダ、アルファ、ガンマ、デルタ、エプシロンおよびミュー定常領域遺伝子、ならびに無数の免疫グロブリン可変領域遺伝子を含む。軽鎖は、カッパまたはラムダのいずれかとして分類される。重鎖は、ガンマ、ミュー、アルファ、デルタまたはエプシロンとして分類され、これらは順に、それぞれ、免疫グロブリンクラス、IgG、IgM、IgA、IgDおよびIgEを定義する。一般的に、抗体の抗原結合領域は、結合の特異性および親和性において非常に重要である。
【0058】
典型的な免疫グロブリン(抗体)の構造単位は、テトラマーを含む。それぞれのテトラマーは、それぞれの対が1つの「軽」(約25kD)および1つの「重」鎖(約50−70kD)を有する2つの同一の対のポリペプチド鎖からなる。それぞれの鎖のN−末端は、主に抗原認識を担う約100から110またはそれ以上のアミノ酸の可変領域を定義する。可変軽鎖(V)および可変重鎖(V)なる用語は、それぞれ、これらの軽鎖および重鎖を示す。
【0059】
抗体は、例えば、無傷の免疫グロブリンまたは種々のペプチダーゼでの消化により生産される多くの十分に特徴付けられた断片として存在する。したがって、例えば、ペプシンは、ヒンジ領域におけるジスルフィド結合より下流で抗体を消化し、それ自体、ジスルフィド結合によりV−C1に結合した軽鎖であるFabのダイマーであるF(ab)’を生産する。F(ab)’は、穏やかな条件下で還元されて、ヒンジ領域におけるジスルフィド結合を破壊し、それにより、F(ab)’ダイマーをFab’モノマーに変換し得る。Fab’モノマーは、本質的にヒンジ領域の一部を有するFabである(Fundamental Immunology (Paul ed., 3d ed. 1993)参照)。種々の抗体フラグメントが無傷抗体の消化に関して定義されているが、当業者は、このようなフラグメントが化学的に、または組換えDNA方法論を使用することによりデノボ合成され得ることを理解している。したがって、本明細書において使用される抗体なる用語は、また、全抗体の修飾により生産された抗体フラグメント、または組換えDNA方法論を使用してデノボ合成されたもの(例えば、一本鎖Fv)、またはファージディスプレイライブラリーを使用して同定されたものを含む(例えば、McCaffertyら., Nature 348:552-554 (1990)参照)。
【0060】
本発明の適当な抗体の製造および本発明による、例えば、組換え、モノクローナルまたはポリクローナル抗体の使用のために、当該分野で知られている多数の技術を使用することができる(例えば、Kohler & Milstein, Nature 256:495-497 (1975); Kozborら., Immunology Today 4: 72 (1983); Coleら., pp. 77-96 in Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss, Inc. (1985); Coligan, Current Protocols in Immunology (1991); Harlow & Lane, Antibodies, A Laboratory Manual (1988);およびGoding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice (2d ed. 1986)参照)。興味ある抗体の重鎖および軽鎖をコードする遺伝子を細胞からクローニングすることができ、例えば、モノクローナル抗体をコードする遺伝子をハイブリドーマからクローニングし、組換えモノクローナル抗体を生産するために使用することができる。モノクローナル抗体の重鎖および軽鎖をコードする遺伝子ライブラリーも、ハイブリドーマまたは血漿細胞から作製することができる。重鎖および軽鎖遺伝子産物のランダムな組合せは、異なる抗原特異性を有する抗体の大きなプールを生産する(例えば、Kuby, Immunology (3rd ed. 1997)参照)。一本鎖抗体または組換え抗体の生産のための技術(米国特許第4,946,778号、米国特許第4,816,567号)を、本発明のポリペプチドに対する抗体を生産するために適応させることができる。また、トランスジェニックマウス、または他の生物、例えば、他の哺乳動物をヒト化またはヒト抗体を発現させるために使用し得る(例えば、米国特許第5,545,807号;第5,545,806号;第5,569,825号;第5,625,126号;第5,633,425号;第5,661,016号、Marksら., Bio/Technology 10:779-783 (1992); Lonbergら., Nature 368:856-859 (1994); Morrison, Nature 368:812-13 (1994); Fishwildら., Nature Biotechnology 14:845-51 (1996); Neuberger, Nature Biotechnology 14:826 (1996);およびLonberg & Huszar, Intern. Rev. Immunol. 13:65-93 (1995)参照)。あるいは、ファージディスプレイ技術を、選択された抗原に特異的に結合する抗体およびヘテロマーFabフラグメントを同定するために使用することができる(例えば、McCaffertyら., Nature 348:552-554 (1990); Marksら., Biotechnology 10:779-783 (1992)参照)。抗体は、また、二重特異性、すなわち、2つの異なる抗原を認識することができるように作製することができる(例えば、WO93/08829、Trauneckerら., EMBO J. 10:3655-3659 (1991);およびSureshら., Methods in Enzymology 121:210 (1986)参照)。抗体は、また、ヘテロ接合体、例えば、共有結合した2つの抗体、または免疫毒素(例えば、米国特許第4,676,980号、WO91/00360;WO92/200373;およびEP03089参照)であることもできる。
【0061】
非ヒト抗体をヒト化または霊長類化(primatizing)する方法は、当該分野でよく知られている。一般的に、ヒト化抗体は、非ヒトである供給源から導入される1個以上のアミノ酸残基を有する。これらの非ヒトアミノ酸残基は、しばしば、一般的に輸入(import)可変ドメインから得られる輸入残基と称される。ヒト化は、本質的に、Winterらの方法(例えば、Jonesら., Nature 321:522-525 (1986); Riechmannら., Nature 332:323-327 (1988); Verhoeyenら., Science 239:1534-1536 (1988)およびPresta, Curr. Op. Struct. Biol. 2:593-596 (1992)参照)にしたがって、齧歯動物CDRをヒト抗体の対応する配列の代わりに用いることにより行うことができる。したがって、このようなヒト化抗体は、無傷のヒト可変ドメインより実質的に小さいなものが非ヒト種由来の対応する配列により置換されているキメラ抗体(米国特許第4,816,567号)である。実際には、ヒト化抗体は、一般的に、いくつかのCDR残基および恐らくいくつかのFR残基が齧歯動物抗体の類似部位由来の残基により置換されているヒト抗体である。
【0062】
「キメラ抗体」は、(a)抗原結合部位(可変領域)が、異なる、もしくは変化したクラス、エフェクター機能および/もしくは種の定常領域、またはキメラ抗体に新規特性を与える全く異なる分子、例えば、酵素、毒素、ホルモン、増殖因子、薬剤などに連結するように、定常領域またはその部分が変化しているか、置換されているか、または交換されている、または(b)可変領域またはその部分が、異なる、もしくは変化した抗原特異性を有する可変領域で変化しているか、置換されているか、もしくは交換されている、抗体分子である。本発明の好ましい抗体および本発明の使用のための好ましい抗体は、ヒト化および/またはキメラモノクローナル抗体を含む。
【0063】
1つの態様において、抗体は、「エフェクター」部分に接合する。エフェクター部分は、標識部分、例えば、放射性標識または蛍光標識を含む多数の分子であり得るか、または治療部分であり得る。1つの局面において、抗体は、タンパク質の活性を調節する。このようなエフェクター部分は、抗腫瘍剤、毒素、放射性医薬品、サイトカイン、二次抗体または酵素を含むが、これらに限定されない。さらに、本発明は、本発明の抗体がプロドラッグを細胞毒性剤に変換する酵素に連結している態様を提供する。
【0064】
免疫抱合体を、エフェクター部分をN−カドヘリン陽性細胞、特に、N−カドヘリンまたはLy6タンパク質を発現する細胞に標的化するために使用することができる。このような違いは、試験およびコントロールサンプルでほぼ同様に負荷されたゲルのバンドを見たとき、容易に明らかにできる。細胞毒性剤の例は、リシン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、タキソール、臭化エチジウム、マイトマイシン、エトポシド、テノプシド(tenoposide)、ビンクリスチン、ビンブラスチン、コルヒチン、ジヒドロキシアントラセンジオン、アクチノマイシンD、ジフテリア毒素、緑膿菌外毒素(PE)A、PE40、アブリンおよびグルココルチコイドおよび他の化学療法剤、ならびに放射性同位体を含むが、これらに限定されない。適当な検出可能マーカーは、放射性同位体、蛍光化合物、生物発光化合物、化学発光化合物、金属キレート剤または酵素を含むが、これらに限定されない。
【0065】
いくつかの態様において、本発明は、N−カドヘリンに対する抗体を提供する。N−カドヘリン抗体は、癌(例えば、前立腺または膀胱癌)を処置するために、単独で、またはエフェクター部分と接合して全身的に使用され得る。毒物、例えば、リシンと接合させたN−カドヘリン抗体、ならびに非接合抗体は、N−カドヘリン含有前立腺癌細胞に自然に標的化される有用な治療剤であり得る。このような抗体は、浸潤の阻止において有用であり得る。本発明の使用のための適当なN−カドヘリン抗体は、to、EC4、1H7、1F12、2B3、ならびにUSSN61/113,042および61/113,054(これら全体を出典明示により本明細書に包含させる)に記載されている抗体を含むが、これらに限定されない。
【0066】
さらに、本発明のモノクローナル抗体のいずれかの抗原結合領域を含む本発明の組換えタンパク質は、癌を処置するために使用することができる。このような条件において、組換えタンパク質の抗原結合領域は、治療活性を有する第2のタンパク質の少なくとも機能的に活性な部分に結合される。第2のタンパク質は、酵素、リンホカイン、オンコスタチンまたは毒素を含むことができるが、これらに限定されない。適当な毒素は、ドキソルビシン、ダウノルビシン、タキソール、臭化エチジウム、マイトマイシン、エトポシド、テノプシド、ビンクリスチン、ビンブラスチン、コルヒチン、ジヒドロキシアントラセンジオン、アクチノマイシンD、ジフテリア毒素、緑膿菌外毒素(PE)A、PE40、リシン、アブリン、グルココルチコイドおよび放射性同位体を含む。
【0067】
抗体に治療剤を接合するための技術は、よく知られている(例えば、Arnonら., “Monoclonal Antibodies For Immunotargeting Of Drugs In Cancer Therapy”, in Monoclonal Antibodies And Cancer Therapy, Reisfeldら. (eds.), pp. 243-56 (Alan R. Liss, Inc. 1985); Hellstromら., “Antibodies For Drug Delivery”in Controlled Drug Delivery (2nd Ed.), Robinsonら. (eds.), pp. 623-53 (Marcel Dekker, Inc. 1987); Thorpe, “Antibody Carriers Of Cytotoxic Agents In Cancer Therapy: A Review” in Monoclonal Antibodies '84: Biological And Clinical Applications, Pincheraら. (eds.), pp. 475-506 (1985);およびThorpeら., “The Preparation And Cytotoxic Properties Of Antibody-Toxin Conjugates”, Immunol. Rev., 62:119-58 (1982)参照)。
【0068】
タンパク質またはペプチドに言及する場合、抗体に「特異的に(または選択的に)結合する」、または「特異的に(または選択的に)免疫反応性」なるフレーズは、しばしばタンパク質および他の生物学的物質の不均一な集団中で、そのタンパク質の存在を決定する結合反応を示す。したがって、指定された免疫測定法条件下で、特定の抗体は、バックグラウンドの少なくとも2倍、より一般的にバックグラウンドの10から100倍以上で特定のタンパク質に結合する。このような条件下での抗体への特異的結合は、特定のタンパク質に対する特異性に関して選択される抗体を必要とする。例えば、ポリクローナル抗体は、選択された抗原と特異的に免疫反応性であり、他のタンパク質と特異的に免疫反応性ではないポリクローナル抗体のみを得るように、選択することができる。この選択は、他の分子と交差反応する抗体を減ずることにより達成され得る。種々の免疫測定法形式が、特定のタンパク質と特異的に免疫反応性である抗体を選択するために使用され得る。例えば、固相ELISA免疫測定法は、タンパク質と特異的に免疫反応性である抗体を選択するために日常的に使用される(特異的な免疫反応を測定するために使用することができる免疫測定法フォーマットおよび条件の記載に関して、例えば、Harlow & Lane, Using Antibodies, A Laboratory Manual (1998)参照)。
【0069】
本明細書における「治療有効用量または量」は、投与する目的の効果を生じる用量を意味する。正確な用量および処方は、処置の目的に依存し、既知の技術を使用して当業者により確かめることができる(例えば、Lieberman, Pharmaceutical Dosage Forms (vols. 1-3, 1992); Lloyd, The Art, Science and Technology of Pharmaceutical Compounding (1999); Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 20th Edition, Gennaro, Editor (2003)およびPickar, Dosage Calculations (1999)参照)。
【0070】
「薬学的に許容される塩」または「薬学的に許容される担体」なる用語は、本明細書に記載されている化合物に見出される特定の置換基に依存して、比較的に非毒性の酸または塩基で製造される活性化合物の塩を含むことを意味する。本発明の化合物が比較的に酸性の官能基を含むとき、塩基付加塩は、溶媒を用いずに、または適当な不活性溶媒中で、このような化合物の中性型を十分な量の所望の塩基と接触させることにより得ることができる。薬学的に許容される塩基付加塩の例は、ナトリウム、カリウム、カルシウム、アンモニウム、有機アミノまたはマグネシウム塩または同様の塩を含む。本発明の化合物が比較的に塩基性の官能基を含むとき、酸付加塩は、溶媒を用いずに、または適当な不活性溶媒中で、このような化合物の中性型を十分な量の所望の酸と接触させることにより得ることができる。薬学的に許容される酸付加塩の例は、塩酸、臭化水素酸、硝酸、炭酸、炭酸一水素酸、リン酸、リン酸一水素酸、リン酸二水素酸、硫酸、硫酸一水素酸、ヨウ化水素酸または亜リン酸などのような無機酸由来の塩、ならびに酢酸、プロピオン酸、イソ酪酸、マレイン酸、マロン酸、安息香酸、コハク酸、スベリン酸、フマル酸、乳酸、マンデル酸、フタル酸、ベンゼンスルホン酸、p−トリルスルホン酸、クエン酸、酒石酸、メタンスルホン酸などのような比較的に非毒性の有機酸由来の塩を含む。アルギネート(arginate)などのようなアミノ酸の塩、ならびにグルクロン酸またはガラクツロン酸(galactunoric acid)などのような有機酸の塩も含む(例えば、Bergeら., Journal of Pharmaceutical Science 66:1-19 (1977)参照)。本発明の特定の化合物は、化合物を塩基または酸付加塩のいずれかに変換することが可能な塩基性および酸性官能基の両方を含む。当業者に知られている他の薬学的に許容される担体は、本発明に適当である。
【0071】
化合物の中性型は、慣用の方法において、塩を塩基または酸と接触させ、親化合物を単離することにより再生され得る。化合物の親形態は、特定の物理的特性、例えば、極性溶媒中の溶解度において種々の塩形態と異なるが、それ以外は、該塩は、本発明の目的のための化合物の親形態と同等である。
【0072】
塩形態に加えて、本発明は、プロドラッグ形態である化合物を提供する。本明細書に記載されている化合物のプロドラッグは、生理学的条件下で容易に化学変化して、本発明の化合物を提供する化合物である。さらに、プロドラッグは、エキソビボ環境下で化学的または生化学的方法により本発明の化合物に変換され得る。例えば、プロドラッグは、適当な酵素または化学試薬と共に経皮的パッチリザーバー中に置かれたとき、本発明の化合物にゆっくり変換され得る。
【0073】
本発明の特定の化合物は、非溶媒和物形態ならびに水和物形態を含む溶媒和物形態で存在することができる。一般的に、溶媒和物形態は、非溶媒和物形態と同等であり、本発明の範囲内に包含されることを意図される。本発明の特定の化合物は、多結晶または非結晶形態で存在し得る。一般的に、全ての物理的形態は、本発明により考えられる使用のための同等であり、本発明の範囲内であると意図される。
【0074】
本発明の特定の化合物は、不斉炭素原子(光学中心)または二重結合を有する。ラセミ体、ジアステレオマー、幾何異性体および個々の異性体は、全て、本発明の範囲内に包含されることを意図される。
【0075】
上皮間葉転換(EMT)は、上皮性腫瘍細胞による間質特性の獲得を示す。癌において、EMTは、浸潤性および運動性行動と関連し、転移の基礎を成す中心プロセスであり得る。EMTは、予後不良と関連し、多重転写因子、例えば、SNAIL、SLUGおよびTWISTが介在する。
【0076】
詳細な態様
本発明は、N−カドヘリンタンパク質またはmRNA転写産物を発現する癌、特に前立腺および/または膀胱癌を含む泌尿生殖器癌の危険性がある個体に対する診断方法および予後診断を提供する。該方法は、一般的に、N−カドヘリンタンパク質またはmRNA転写産物を発現する癌を有する危険性がある個体由来の試験組織サンプルを、N−カドヘリンタンパク質に特異的に結合する抗体と接触させ、N−カドヘリンタンパク質またはmRNA転写産物を発現する癌に対して陰性であることが知られている個体由来のコントロール組織サンプルと比較して、試験組織サンプルにおけるN−カドヘリンタンパク質の存在または非存在を測定することを含む。一般的に、組織サンプルは血清であるが、生検由来の組織、特に前立腺組織または膀胱組織を含む泌尿生殖器組織でもあり得る。通常、該抗体はモノクローナル抗体である。癌を有さないことが知られている個体由来のコントロール組織サンプルと比較して、より高いレベル、例えば、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、2倍、3倍、4倍またはそれ以上のN−カドヘリンタンパク質が試験組織サンプル中で検出されるとき、N−カドヘリンタンパク質またはmRNA転写産物を発現する癌に対する陽性診断が示される。検出方法は、例えば、当該分野で知られている標準ELISA技術(Gosling, Immunoassays: A Practical Approach, 2000, Oxford University Pressに概説される)を使用して実施することができる。検出は、一次抗体または二次抗体を、例えば、放射性同位体、蛍光標識、酵素または当該分野で知られている他のあらゆる検出可能な標識で標識化することにより達成される。
【0077】
他の態様において、本発明は、N−カドヘリンタンパク質またはmRNA転写産物を発現する癌を有する危険性がある個体由来の試験組織サンプルを、N−カドヘリン核酸にそれぞれ特異的にハイブリダイズする第1のオリゴヌクレオチドおよび第2のオリゴヌクレオチドのプライマーセットと接触させ、サンプルにおけるN−カドヘリン核酸を増幅させ、N−カドヘリンタンパク質またはmRNA転写産物を発現する癌に対して陰性であることが知られている個体由来のコントロール組織サンプルと比較して、試験組織サンプルにおけるN−カドヘリン核酸の存在または非存在を測定することによる、N−カドヘリンタンパク質またはmRNA転写産物を発現する癌、特に前立腺または膀胱癌の危険性がある個体に対する診断方法および予後診断を提供する方法を提供する。また、通常、組織サンプルは血清であるが、生検由来の組織、特に前立腺または膀胱組織を含む泌尿生殖器組織でもあり得る。癌を有さないことが知られている個体由来のコントロール組織サンプルと比較して、より高いレベルのN−カドヘリン転写RNAが試験組織サンプル中で検出されるとき、N−カドヘリンタンパク質またはmRNA転写産物を発現する癌に対する陽性診断が示される。
【0078】
本発明は、また、癌腫瘍組織の細胞上のN−カドヘリン受容体それぞれへのN−カドヘリンタンパク質の結合を阻害する治療有効量の化合物を投与することにより、N−カドヘリンタンパク質またはmRNA転写産物を発現する癌における癌治療に対する応答を改善するための方法を提供する。いくつかの態様において、受容体へのN−カドヘリンの結合を阻害する方法は、例えば、耐性の逆転、腫瘍の進行および転移のための既知の化学療法、免疫療法および放射線治療を含む他の抗癌治療と同時に行う。
【0079】
本発明は、さらに、腫瘍組織の細胞上のN−カドヘリン受容体それぞれへのN−カドヘリンタンパク質の結合を阻害することを含む、N−カドヘリンタンパク質を発現する腫瘍の増殖を阻害し、退縮を促進する方法を提供する。該方法は、N−カドヘリン受容体それぞれへのN−カドヘリンタンパク質の結合を阻害する十分な量の化合物をそれを必要とする個体に投与することにより行うことができる。いくつかの態様において、該化合物は、N−カドヘリンタンパク質に特異的に結合する。いくつかの態様において、該化合物は、N−カドヘリン受容体に特異的に結合する。いくつかの態様において、該化合物は、N−カドヘリンタンパク質の転写または翻訳を妨げる。該方法は、前立腺および膀胱癌の処置における特定の使用を見いだす。いくつかの態様において、該化合物は、抗体またはN−カドヘリンポリペプチドの類似体もしくはフラグメントを含むポリペプチドを含む。
【0080】
該方法は、前立腺および膀胱癌の診断、予後診断および処置における特定の適用を見出す。1つの態様において、該方法は、ホルモン抵抗性または治療耐性癌に適用される。特定の態様において、該方法は、転移性癌に適用される。例えば、N−カドヘリンタンパク質および/またはmRNAの差次的発現の比較を、N−カドヘリンタンパク質またはmRNA転写産物を発現する癌を有する個体の癌の段階を決定するために使用することができる。
【0081】
処置は、一般的に、許容される投与経路、例えば、静脈内注射(IV)を介する抗N−カドヘリン抗体、免疫抱合体、阻害剤およびsiRNA製造物の有効用量での反復投与を含む。用量は、癌の型、および癌の重症度、グレードまたは段階、使用される薬剤の結合親和性および半減期、患者におけるN−カドヘリン発現の程度、循環性シェッド(shed)N−カドヘリン抗原の程度、所望の定常状態の抗体濃度レベル、処置の頻度ならびに本発明の処置方法と組み合わせて使用される化学療法剤の影響を含むが、これらに限定されない当業者により一般的に理解されている種々の因子に依存する。典型的な1日用量は、約0.1から100mg/kgの範囲であり得る。1週あたり10−500mgの範囲のmAbまたは免疫抱合体の用量が有効であり、耐容性良好であり得るが、より高い1週用量でさえ有効であり、および/または耐容性良好であり得る。適当な用量の定義における主な決定因子は、特定の情況において治療的に有効であるために必要な特定の薬剤の量である。反復投与が、腫瘍阻害または退縮を達成するために必要であり得る。最初の負荷用量がより高くてもよい。最初の負荷用量は注入として投与され得る。周期的な維持用量が同様に投与されてよく、但し、最初の用量は耐容性良好である。
【0082】
薬剤の直接投与も可能であり、特定の情況において利点を有し得る。例えば、膀胱癌腫の処置のために、薬剤は膀胱に直接注射され得る。膀胱に直接投与された薬剤は迅速に患者から排出されるため、抗原性の重大な合併症を伴うことなく、有効に非ヒトまたはキメラ抗体を使用することが可能であり得る。
【0083】
本発明は、さらに、N−カドヘリンタンパク質またはそのフラグメントを含むように製剤化されたワクチンを提供する。抗癌治療おいて使用するための体液性および細胞性免疫を産生するためのワクチンにおける腫瘍抗原の使用は、当該分野でよく知られており、例えば、ヒトPSMAおよび齧歯動物PAP免疫原を使用して、前立腺癌に利用されている(Hodgeら., 1995, Int. J. Cancer 63: 231-237; Fongら., 1997, J. Immunol. 159: 3113-3117)。このような方法は、N−カドヘリンタンパク質もしくはそのフラグメントまたはN−カドヘリンをコードする核酸分子およびN−カドヘリン免疫原を発現し、適切に提示することができる組換えベクターを使用することにより、容易に実施することができる。
【0084】
例えば、ウイルス性遺伝子送達系は、N−カドヘリンをコードする核酸分子を送達するために使用され得る。本発明のこの局面の実施において使用することができる種々のウイルス性遺伝子送達系は、ワクシニア、鶏痘、カナリア痘、アデノウイルス、インフルエンザ、ポリオウイルス、アデノ随伴ウイルス、レンチウイルスおよびシンドビス・ウイルス(sindbus virus)を含むが、これらに限定されない(Restifo, 1996, Curr. Opin. Immunol. 8: 658-663)。非ウイルス性送達系もまた、抗腫瘍応答を誘導するように患者に(例えば、筋肉内に)導入されるN−カドヘリンタンパク質またはそのフラグメントをコードする裸のDNAを使用することにより、使用され得る。1つの態様において、全長ヒトN−カドヘリンcDNAが使用され得る。他の態様において、特異的細胞毒性Tリンパ球(CTL)エピトープをコードするN−カドヘリン核酸分子が使用され得る。CTLエピトープは、特定のHLA対立遺伝子に最適に結合することができるN−カドヘリンタンパク質内のペプチドを同定するための特定のアルゴリズム(例えば、エピマー、Brown University)を使用して決定することができる。
【0085】
種々のエキソビボ戦略も使用され得る。1つのアプローチは、患者の免疫系へN−カドヘリン抗原を提示するための樹状細胞の使用を含む。樹状細胞は、MHCクラスIおよびII、B7共刺激分子およびIL−12を発現し、したがって高度に特殊化された抗原提示細胞である。前立腺癌において、N−カドヘリンのペプチドを適用された自己樹状細胞は、前立腺癌患者の免疫系を刺激するために使用することができる(Tjoaら., 1996, Prostate 28: 65-69; Murphyら., 1996, Prostate 29: 371-380)。樹状細胞は、MHCクラスIおよびII分子との関連でT細胞へN−カドヘリンペプチドを提示するために使用することができる。1つの態様において、自己樹状細胞に、MHC分子に結合することができるN−カドヘリンペプチドを適用する。他の態様において、樹状細胞に、完全N−カドヘリンタンパク質を適用する。さらに他の態様は、当該分野で既知の種々の実施されているベクター、例えば、アデノウイルス(Arthurら., 1997, Cancer Gene Ther. 4: 17-25)、レトロウイルス(Hendersonら., 1996, Cancer Res. 56: 3763-3770)、レンチウイルス、アデノ随伴ウイルス、DNAトランスフェクション(Ribasら., 1997, Cancer Res. 57: 2865-2869)および腫瘍由来RNAトランスフェクション(Ashleyら., 1997, J. Exp. Med. 186: 1177-1182)を使用して、樹状細胞におけるN−カドヘリン遺伝子の発現を操作することを含む。
【0086】
抗イディオタイプ抗N−カドヘリン抗体は、また、それぞれ、N−カドヘリンタンパク質を発現する細胞に対する免疫応答を誘導するためのワクチンとして抗癌治療において使用することができる。具体的には、抗イディオタイプ抗体の生産は、当該分野でよく知られており、N−カドヘリンタンパク質上のエピトープをそれぞれ模倣する抗イディオタイプ抗N−カドヘリン抗体を生産するために容易に適応させることができる(例えば、Wagnerら., 1997, Hybridoma 16: 33-40; Foonら., 1995, J Clin Invest 96: 334-342; Herlynら., 1996, Cancer Immunol Immunother 43: 65-76参照)。このような抗イディオタイプ抗体は、腫瘍抗原に対する他の抗イディオタイプ抗体で現在実施されているとおりに抗イディオタイプ治療において使用することができる。
【0087】
遺伝子免疫方法は、N−カドヘリンを発現する癌細胞に対する予防的または治療的体液性および細胞性免疫応答を産生するために使用され得る。本明細書に記載されているN−カドヘリンをコードするDNA分子を使用して、N−カドヘリンタンパク質/免疫原をコードするDNAおよび適当な調節配列を含む構築物は、筋肉または皮膚の細胞が該構築物を取り込み、コードされるN−カドヘリンタンパク質/免疫原を発現するように、個体の筋肉または皮膚に直接注射され得る。N−カドヘリンタンパク質/免疫原は、細胞表面タンパク質として発現されるか、または分泌され得る。N−カドヘリンタンパク質/免疫原の発現は、前立腺癌に対する予防または治療的体液性および細胞性免疫の産生をもたらす。当該分野で知られている種々の予防および治療的遺伝子免疫技術が使用され得る(検討のために、インターネットアドレスwww.genweb.comで公開されている情報および参考文献参照)。
【0088】
本発明は、さらに、細胞表面上に多重N−カドヘリン抗原を発現する細胞の細胞活性(例えば、細胞増殖、活性化または繁殖)を阻害するための方法を提供する。該方法は、細胞表面上のN−カドヘリン抗原が本発明の免疫抱合体との複合体を形成するように、該免疫抱合体(例えば、異種または同種混合物)を細胞と反応させることを含む。細胞表面上のN−カドヘリン抗原の数が多いほど、それぞれ使用することができるN−カドヘリン抗体複合体の数が多い。N−カドヘリン抗体複合体の数が多いほど、阻害される細胞活性が大きい。
【0089】
異種混合物は、異なるか、または同じエピトープを認識するN−カドヘリン抗体を含み、それぞれの抗体は同じか、または異なる治療剤と抱合体形成している。同種混合物は、同じエピトープを認識する抗体を含み、それぞれの抗体は、同じ治療剤と抱合体形成している。
【0090】
本発明は、さらに、N−カドヘリンがその受容体へ結合することをそれぞれ阻止することにより、N−カドヘリンの生物学的活性を阻害するための方法を提供する。該方法は、N−カドヘリン−免疫抱合体またはN−カドヘリン−抗体複合体を可能にする条件下で、ある量のN−カドヘリンを本発明の抗体または免疫抱合体と接触させ、それにより、N−カドヘリンがそのリガンドへ結合することをそれぞれ阻止し、N−カドヘリンの活性を阻害することを含む。
【0091】
いくつかの態様において、本発明は、癌細胞の増殖を阻害するために有効な量で、N−カドヘリンタンパク質を認識し、結合する抗体またはそのフラグメントで対象を処置するか、あるいは該抗体またはそのフラグメントと癌細胞とを接触させることにより、癌、特にN−カドヘリンを発現する癌を処置するか、またはN−カドヘリンタンパク質を発現する癌細胞の増殖を阻害する方法を提供する。いくつかの態様において、癌細胞は、前立腺癌細胞または膀胱癌細胞である。該接触する抗体は、モノクローナル抗体および/またはキメラ抗体であり得る。いくつかの態様において、キメラ抗体は、ヒト免疫グロブリン定常領域を含む。いくつかの態様において、抗体は、ヒト抗体であるか、またはヒト免疫グロブリン定常領域を含む。さらなる態様において、抗体フラグメントは、Fab、F(ab)またはFvを含む。他の態様において、フラグメントは、抗原結合領域を有する組換えタンパク質を含む。
【0092】
他の態様において、本発明は、細胞を阻害するために十分な量で、本発明の免疫抱合体のいずれか1つまたは組合せを細胞と反応させることにより、癌、特に、N−カドヘリンを発現する癌を処置するか、またはN−カドヘリン抗原を発現する細胞を選択的に阻害するための方法を提供する。このような量は、細胞を殺すための量または細胞成長もしくは増殖を阻害するために十分な量を含む。上記のとおり、用量および投与レジメンは、N−カドヘリンと関連する処置される疾患または障害の性質、その個体数、抗体が指向される部位、特定の免疫毒素の特性および患者に依存する。例えば、免疫抱合体の量は、0.1から200mg/kg患者体重の範囲であり得る。該免疫抱合体は、治療剤に連結した抗N−カドヘリン抗体またはそのフラグメントを含むことができる。該治療剤は、細胞毒性剤であり得る。該細胞毒性剤は、リシン、リシンA鎖、ドキソルビシン、ダウノルビシン、タキソール、臭化エチジウム、マイトマイシン、エトポシド、テノプシド、ビンクリスチン、ビンブラスチン、コルヒチン、ジヒドロキシアントラセンジオン、アクチノマイシンD、ジフテリア毒素、緑膿菌外毒素(PE)A、PE40、アブリン、アルブリンA鎖(arbrin A chain)、モデシンA鎖、アルファ−サルシン、ゲロニン、ミトゲリン(mitogellin)、レトストリクトシン(retstrictocin)、フェノマイシン、エノマイシン、キュリシン(curicin)、クロチン、カリケアマイシン、サボンソウ(sapaonaria officinalis)阻害剤、マイタンシノイドおよびグルココルチコイドリシンからなる群から選択することができる。該治療剤は、放射性同位体であり得る。該治療同位体は、212Bi、131I、111In、90Yおよび186Reからなる群から選択することができる。
【0093】
上記態様のいずれかにおいて、化学療法剤および/または放射線療法をさらに施すことができる。いくつかの態様において、患者は、また、ホルモンアンタゴニスト治療を受ける。患者の抗体または抗体フラグメントとの接触は、患者の静脈内に、腹腔内に、筋肉内に、腫瘍内に、または皮内に抗体を投与することにより可能である。いくつかの態様において、患者は、泌尿生殖器癌(例えば、膀胱癌、前立腺癌)を有する。上記のいくつかの態様において、患者は、前立腺癌を罹患し、所望により、さらに、患者にホルモン除去治療を受けさせる。いくつかの態様において、接触は、抗体を癌または転移癌に直接投与することを含む。
【0094】
いくつかの態様において、免疫抱合体は、小分子である細胞毒性剤を有する。毒素、例えば、メイタンシン、マイタンシノイド、サポリン、ゲロニン、リシンまたはカリケアマイシンおよびそれらの類似体または誘導体も適当である。抗N−カドヘリン抗体と抱合体形成し得る他の細胞毒性剤は、BCNU、ストレプトゾシン、ビンクリスチンおよび5−フルオロウラシルを含む。酵素的に活性な毒素およびそのフラグメントも使用することができる。放射性エフェクター部分は、既知の方法で抱合体に組み込まれ得る(例えば、二官能性リンカー、融合タンパク質)。本発明の抗体は、また、プロドラッグを活性な化学療法剤に変換する酵素であるエフェクター部分と抱合体形成し得る。WO88/07378、米国特許第4,975、278号および米国特許第6,949,245号参照。該抗体または免疫抱合体を、所望により、非タンパク質ポリマー(例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシアルキレン、またはポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールとのコポリマー)に連結してもよい。
【0095】
抗体および細胞毒性剤の抱合体は、当該分野でよく知られている方法を使用して作製され得る(米国特許第6,949,245号参照)。例えば、抱合体は、種々の二官能性タンパク質カップリング剤、例えば、N−スクシニミジル−3−(2−ピリジルジチオール)プロピオナート(SPDP)、スクシニミジル−4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシラート、イミノチオラン(IT)、イミドエステルの二官能性誘導体(例えば、アジピミド酸ジメチルHCL)、活性エステル(例えば、スベリン酸ジスクシンイミジル)、アルデヒド(例えば、グルタルアルデヒド)、ビス−アジド化合物(例えば、ビス(p−アジドベンゾイル)ヘキサンジアミン)、ビス−ジアゾニウム誘導体(例えば、ビス−(p−ジアゾニウムベンゾイル)−エチレンジアミン)、ジイソシアネート(例えば、トルエン2,6−ジイソシアネート)、およびビス−活性フッ素化合物(例えば、1,5−ジフルオロ−2,4−ジニトロベンゼン)を使用して作製され得る。例えば、リシン免疫毒素は、Vitettaら. Science 238: 1098 (1987)に記載されているとおりに製造することができる。炭素−14−標識1−イソチオシアナトベンジル−3−メチルジエチレントリアミンペンタ酢酸(MX−DTPA)は、放射性ヌクレオチドと抗体との抱合体形成のための典型的なキレート剤である。WO94/11026参照。該リンカーは、細胞中の細胞毒性剤の放出を促進する「開裂可能なリンカー」であり得る。例えば、酸不安定性リンカー、ペプチダーゼ感受性リンカー、ジメチルリンカーまたはジスルフィド含有リンカー(Chariら. Cancer Research 52: 127-131 (1992))が使用され得る。
【0096】
投与方法および製剤
抗N−カドヘリン抗体または免疫抱合体は、既知の方法、例えば、静脈内投与にしたがって、例えば、ボーラスとして、または一定期間にわたる連続的な注入により、筋肉内、腹腔内、脳脊髄内、皮下、関節内、滑液嚢内、髄腔内、経口、局所的または吸入経路により、ヒト患者に投与される。該抗体の静脈内または皮下投与が好ましい。該投与は、局所的または全身的であってよい。
【0097】
投与のための組成物は、一般的に、薬学的に許容される担体、好ましくは水性担体中に溶解された、本明細書に記載されている物質(例えば、N−カドヘリン阻害剤、N−カドヘリン抗体および免疫抱合体、N−カドヘリンsiRNAおよびそのベクター)を含む。種々の水性担体、例えば、緩衝食塩水などを使用することができる。これらの溶液は、滅菌され、一般的に望ましくない物質を含まない。これらの組成物は、慣用のよく知られている滅菌技術により滅菌され得る。該組成物は、適当な生理学的条件に必要な薬学的に許容される補助物質、例えば、pH調節剤および緩衝剤、毒性調節剤など、例えば、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、乳酸ナトリウムなどを含み得る。これらの製剤における活性剤の濃度は、広範に変化することができ、選択される特定の投与経路および患者の必要性にしたがって、主に液量、粘性、体重などに基づいて選択される。
【0098】
したがって、静脈内投与のための典型的な医薬組成物は、該物質にしたがって変化し得る。非経口的に投与することができる組成物を製造するための実際の方法は、当業者に知られ明らかであり、より詳細にはRemington's Pharmaceutical Science, 15th ed., Mack Publishing Company, Easton, Pa. (1980)のような文献に記載されている。
【0099】
医薬組成物は、投与の方法に依存して種々の単位投与形態において投与することができる。例えば、経口投与に適当な単位投与形態は、粉末、錠剤、丸剤、カプセルおよびトローチ剤を含むが、これらに限定されない。経口的に投与されるとき、抗体は消化から保護されるべきであることが理解される。これは、一般的に、該分子を、酸および酵素加水分解に対する耐性を与える組成物と複合体化することによるか、または適当な耐性担体、例えば、リポソームまたは防護壁中に該分子をパッケージングすることによるかのいずれかで達成される。消化から薬剤を保護する方法は、よく当該分野で知られている。
【0100】
特に、本発明で使用するための抗体および免疫抱合体および阻害剤の医薬製剤は、所望の純度を有する抗体を任意の薬学的に許容される担体、賦形剤または安定剤と混合することにより製造することができる。このような製剤は、凍結乾燥製剤または水性溶液であり得る。許容される担体、賦形剤または安定剤は、使用される用量および濃度でレシピエントに非毒性である。許容される担体、賦形剤または安定剤は、酢酸塩、リン酸塩、クエン酸塩および他の有機酸塩、抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸)、防腐剤、低分子量ポリペプチド、タンパク質、例えば、血清アルブミンまたはゼラチン、または親水性ポリマー、例えば、ポリビニルピロリドン、およびアミノ酸、単糖類、二糖類および他の炭水化物、例えば、グルコース、マンノースまたはデキストリン、キレート剤、および、イオンおよび非イオン界面活性剤(例えば、ポリソルベート)、塩形成対イオン、例えば、ナトリウム、金属錯体(例えば、Zn−タンパク質錯体)、および/または非イオン界面活性剤であり得る。該抗体は、0.5−200mg/ml、または10−50mg/mlの濃度で製剤化され得る。
【0101】
該製剤は、また、化学療法剤、細胞毒性剤、サイトカイン、増殖阻害剤および抗ホルモン剤を含むさらなる活性化合物を提供し得る。該活性成分は、また、持続放出製剤(例えば、固体疎水性ポリマー(例えば、ポリエステル、ヒドロゲル(例えば、ポリ(2−ヒドロキシエチル−メタクリレート)またはポリ(ビニルアルコール))、ポリラクチドの半透過性マトリックスとして製造され得る。該抗体および免疫抱合体は、また、例えば、コアセルベーション技術または界面重合化により製造されるマイクロカプセル、例えば、ヒドロキシメチルセルロースまたはゼラチンマイクロカプセルおよびポリ−(メタクリル酸メチル)マイクロカプセル各々により、コロイド薬剤送達系(例えば、リポソーム、アルブミン小球体、マイクロエマルジョン、ナノ粒子およびナノカプセル)またはマクロエマルジョンに包含され得る。
【0102】
組成物は、治療または予防処置のために投与することができる。治療適用において、組成物を、疾患(例えば、癌)に罹患している患者に「治療有効用量」で投与する。この使用のための有効量は、疾患の重症度および患者の全身健康状態に依存する。組成物の単回または複数回投与は、患者が必要とし、耐えられる用量および頻度に依存して投与され得る。本発明の目的のための「患者」または「対象」は、ヒトおよび他の動物、特に哺乳動物の両方を含む。したがって、該方法は、ヒト治療および獣医適用の両方に適用することができる。好ましい態様において、患者は哺乳動物、好ましくは霊長類であり、最も好ましい態様において、患者はヒトである。他の既知の癌治療を、本発明の方法と組み合わせて使用することができる。例えば、本発明の使用のための組成物は、また、他の癌治療剤、例えば、5FU、ビンブラスチン、アクチノマイシンD、シスプラチン、メトトレキサートなどに対して細胞を標的化または増感するために使用され得る。
【0103】
他の態様において、本発明の方法は、他の癌治療(例えば、前立腺全摘出術)、放射線療法(体外照射または近接照射療法)、ホルモン治療(例えば、睾丸摘出、テストステロン生産を抑制するためのLHRH−類似体治療、抗−アンドロゲン治療)または化学療法と共に使用される。前立腺全摘出術は、前立腺全体およびいくつかの周辺組織の除去を含む。この処置は、癌が該組織以外に広がっていないと考えられるときに一般的に使用される。放射線療法は、一般的に、未だ前立腺に限定されるか、または近くの組織に広がっている前立腺癌を処置するために使用される。疾患がさらに進行しているとき、放射線が腫瘍のサイズを減少させるために使用され得る。ホルモン治療は、しばしば、前立腺癌が前立腺以外に広がっているか、または再発している患者のために使用される。ホルモン治療の目的は、男性ホルモン、アンドロゲンの量を低くするためであり、それにより、前立腺癌を縮小させるか、または増殖をより遅くする。黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)アゴニストは、テストステロンの生産を減少させる。これらの薬剤は、1月以上に1回注射され得る。かかる2つの類似体は、ロイプロリドおよびゴセレリンである。抗アンドロゲン(例えば、フルタミド、ビカルタミドおよびニルタミド)もまた、使用され得る。全アンドロゲン遮断は、睾丸摘出またはLHRH類似体と組み合わせた抗アンドロゲンの使用を示し、s組合せと呼ばれる。化学療法は、前立腺癌が前立腺の外側に広がっている患者およびホルモン治療が不成功であった患者のための選択肢である。全ての癌細胞を破壊することは予期されないが、腫瘍増殖を遅延させ、疼痛を減少させ得る。ホルモン治療での処置後に再発するか、または増殖し広がり続ける前立腺癌の処置において使用されるいくつかの化学療法剤は、ドキソルビシン(アドリアマイシン)、エストラムスチン、エトポシド、ミトキサントロン、ビンブラスチンおよびパクリタキセルを含む。2またはそれ以上の薬剤は、しばしば、癌細胞が化学療法に対して耐性になる可能性を減少させるために併用投与される。小細胞癌腫は、ホルモン治療よりも化学療法により応答しやすい前立腺癌の珍しい型である。
【0104】
いくつかの態様において、「心臓保護剤」も、また、本発明の使用のために、N−カドヘリン抗体、N−カドヘリン結合阻害剤またはN−カドヘリンsiRNA分子と共に投与される(米国特許第6,949,245号参照)。心臓保護剤は、患者への薬物、例えば、アントラサイクリン抗生物質の投与と関連する心筋機能障害(すなわち、心筋症および/または鬱血性心不全)を予防するか、または減少させる化合物または組成物である。心臓保護剤は、例えば、フリーラジカル介在心臓毒性作用を阻止するか、または減少させ得る、および/または酸化ストレス傷害を防止するか、または減少させ得る。本定義により包含される心臓保護剤の例は、鉄キレート剤、デクスラゾキサン(ICRF−187)(Seifertら. The Annals of Pharmacotherapy 28:1063-1072 (1994));脂肪低下剤および/または抗酸化剤、例えば、プロブコール(Singalら. J. Mol. Cell Cardiol. 27:1055-1063 (1995));WR−2721とも呼ばれるアミホスチン(アミノチオール2−[(3−アミノプロピル)アミノ]エタンチオール二水素ホスフェートエステル、およびWR−1065と呼ばれるその脱リン酸化細胞摂取形態)およびS−3−(3−メチルアミノプロピルアミノ)プロピルホスホロ−チオ酸(WR−151327)、Greenら. Cancer Research 54:738-741 (1994)、参照;ジゴキシン(Bristow, M. R. In: Bristow M R, ed. Drug-Induced Heart Disease. New York: Elsevier 191-215 (1980));ベータ遮断薬、例えば、メトプロロール(Hjalmarsonら. Drugs 47:Suppl 4:31-9 (1994);およびShaddyら. Am. Heart J. 129:197-9 (1995));ビタミンE;アスコルビン酸(ビタミンC);フリーラジカルスカベンジャー、例えば、オレアノール酸、ウルソル酸およびN−アセチルシステイン(NAC);スピントラップ化合物、例えば、アルファ−フェニル−tert−ブチルニトロン(PBN);(Paracchiniら., Anticancer Res. 13:1607-1612 (1993));有機セレン化合物、例えば、P251(Elbesen)などを含む。
【0105】
組合せ投与は、別々の製剤または単一の医薬製剤を使用する共投与、および、いずれかの順序での連続投与(好ましくは両方の(または全ての)活性剤が同時にそれらの生物学的活性を発揮する間に一定の期間がある)を意図する。
【0106】
N−カドヘリンタンパク質の発現および/または機能を間接的または直接的に調節する同定された分子および化合物は、N−カドヘリンを発現するそれぞれの癌の処置に有用であり得る。N−カドヘリンタンパク質調節剤は、単独で投与され得るか、または慣用の化学療法、放射線治療または免疫療法ならびに現在開発されている治療と組み合わせて共投与され得る。
【0107】
経口投与に適当な製剤は、(a)液体溶液、例えば、希釈剤、例えば、水、塩水またはPEG400中に懸濁された、有効量のパッケージされた核酸;(b)液体、固体、顆粒またはゼラチンとして所定の量の活性成分をそれぞれ含むカプセル、サシェ(sachet)または錠剤;(c)適当な液体中の懸濁液;および(d)適当なエマルジョンからなることができる。錠剤形態は、1つ以上のラクトース、スクロース、マンニトール、ソルビトール、リン酸カルシウム、トウモロコシデンプン、ジャガイモデンプン、微結晶セルロース、ゼラチン、コロイド状二酸化ケイ素、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸および他の賦形剤、着色剤、増量剤、結合剤、希釈剤、緩衝剤、湿潤剤、防腐剤、香味剤、着色剤、崩壊剤および薬学的に適合性の担体を含むことができる。トローチ(lozenge)剤形態は香味剤、例えば、スクロース中に活性成分を含むことができ、ならびに、トローチ(pastille)は不活性基剤、例えば、ゼラチンおよびグリセリンまたはスクロースおよびアカシアエマルジョン中に活性成分を含むことができ、ゲルなどは、活性成分に加えて、当該分野で知られている担体を含むことができる。
【0108】
最適な化合物は、単独または他の適当な成分と組み合わせて、吸入を介して投与されるエアロゾル製剤(すなわち、それらは「噴霧する」ことができる)に作ることができる。エアロゾル製剤は、加圧された許容される高圧ガス、例えば、ジクロロジフルオロメタン、プロパン、窒素などの中に置くことができる。
【0109】
経直腸投与のための適当な製剤は、例えば、坐薬基剤でパッケージされた核酸からなる坐薬を含む。適当な坐薬基剤は、天然または合成トリグリセリドまたはパラフィン炭化水素を含む。加えて、最適な化合物と基剤、例えば、液体トリグリセリド、ポリエチレングリコールおよびパラフィン炭化水素の組合せからなるゼラチン経直腸カプセルを使用することも可能である。
【0110】
例えば、関節内(関節中)、静脈内、筋肉内、腫瘍内、皮内、腹腔内および皮下経路による、非経口投与に適当な製剤は、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤および意図されるレシピエントの血液で製剤を等張にする溶質を含むことができる水性および非水性等張滅菌注射溶液、ならびに懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定剤および防腐剤を含むことができる水性および非水性滅菌懸濁液を含む。本発明の実施において、組成物は、例えば、静脈内注入により、経口的に、局所的に、腹腔内に、膀胱内にまたは髄腔内に投与することができる。非経口投与、経口投与および静脈内投与は、好ましい投与方法である。化合物の製剤は、密閉された容器、例えば、アンプルおよびバイアルで、単回用量または複数回用量で存在させることができる。
【0111】
注射溶液および懸濁液は、以前によく記載されている滅菌粉末、顆粒および錠剤から製造することができる。エキソビボ治療のために核酸により形質導入された細胞を、また、上記のとおりに静脈内に、または非経口的に投与することができる。
【0112】
医薬製剤は、好ましくは単位投与形態である。このような形態において、製剤は、適当な量の活性成分を含む単位用量にさらに分割される。単位投与形態は、パッケージされた製剤であり得、該パッケージは、分離量の製剤、例えば、パック入り錠剤、カプセルおよびバイアルまたはアンプル中の粉末を含む。また、単位投与形態は、それ自体、カプセル、錠剤、カシェ剤またはトローチ剤であってよく、または、それはパッケージされた形態における適当な数の任意のこれらのものであってよい。組成物は、また、所望の場合、他の適合性治療剤を含むことができる。
【0113】
好ましい医薬製剤は、持続放出製剤中で、所望により1つ以上の化学療法剤および免疫療法剤と組み合わせて、1つ以上の活性なN−カドヘリンタンパク質調節剤を送達する。一般的に、N−カドヘリン調節剤は、化学療法、放射線療法、免疫療法およびホルモン治療を含む他の細胞毒性癌治療に対する腫瘍細胞の感受性を増加させる増感剤として治療的に投与される。
【0114】
癌の処置のための治療的使用において、本発明の医薬的方法に利用されるN−カドヘリン調節剤または阻害剤は、1日に約0.001mg/kgから約1000mg/kgの初期用量で投与される。約0.01mg/kgから約500mg/kg、または約0.1mg/kgから約200mg/kg、または約1mg/kgから約100mg/kg、または約10mg/kgから約50mg/kgの1日用量範囲を使用することができる。しかしながら、該用量は、患者の必要性、処置される状態の重症度、および使用される化合物に依存して変化し得る。例えば、用量は、特定の患者において診断される癌の型および段階を考慮して、経験的に決定することができる。患者に投与される用量は、本発明の文脈において、時間をかけて患者において有益な治療応答をもたらすために十分であるべきである。用量サイズは、また、経験、性質および特定の患者における特定のベクターまたは形質導入細胞型の投与に付随するあらゆる副作用の程度により決定される。特定の状態に対する適当な用量の決定は、医師の範囲内である。一般的に、処置は、化合物の最適な用量よりも少ない用量で開始される。その後、用量は、状況下で最適な効果に達するまで、少しずつ増加される。便宜上、全1日用量は、所望により、1日中で部分的に分割し、投与してもよい。
【0115】
本発明の使用のための医薬製剤(例えば、N−カドヘリンsiRNA、N−カドヘリン抗体、N−カドヘリンワクチン、N−カドヘリン阻害剤および免疫抱合体)は、一般的に、ヒトおよび非ヒト哺乳動物を含む哺乳動物に送達される。本方法を使用して処置される非ヒト哺乳動物は、飼育化した動物(すなわち、イヌ、ネコ、マウス、齧歯動物およびウサギ)および農業用動物(ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ)を含む。
【0116】
N−カドヘリンタンパク質の調節剤のためのアッセイ
N−カドヘリンタンパク質の調節および対応する細胞、例えば、腫瘍細胞の増殖の調節は、細胞ベースのモデルを含む種々のインビトロおよびインビボアッセイを使用して評価することができる。このようなアッセイは、N−カドヘリンタンパク質の阻害剤および活性剤、ならびに、結果として、化学療法感受性および毒性の調節剤を含む細胞増殖の阻害剤および活性剤に対して試験するために使用することができる。このようなN−カドヘリンタンパク質の調節剤は、病理学的細胞増殖に関連する障害、例えば、癌を処置するために有用である。N−カドヘリンタンパク質の調節剤は、組換えまたは天然のいずれかのN−カドヘリン、好ましくはヒトN−カドヘリンを使用して試験する。
【0117】
組換えまたは天然のいずれかのN−カドヘリンタンパク質またはN−カドヘリンタンパク質を発現する細胞を用いる細胞増殖調節の測定は、本明細書に記載されているように、種々のインビトロ、インビボおよびエキソビボアッセイを使用して行うことができる。活性、例えば、酵素活性、例えば、キナーゼ活性、細胞増殖、またはリガンド結合(例えば、N−カドヘリンタンパク質受容体)に影響を及ぼす適当な物理化学的または表現型の変化は、本発明のポリペプチドに対する試験化合物の影響を評価するために使用することができる。無傷な細胞または動物を使用して機能効果を測定する場合、種々の効果、例えば、リガンド結合、キナーゼ活性、既知の遺伝子マーカー、および特性化されていない遺伝子マーカーの両方に対する転写の変化(例えば、ノーザンブロット)、細胞代謝の変化、細胞増殖に関連する変化、細胞表面マーカー発現、DNA合成、マーカーおよび色素希釈アッセイ(例えば、GFPおよび細胞トラッカーアッセイ)、接触阻止、ヌードマウスにおける腫瘍増殖などを測定することができる。
【0118】
インビトロアッセイ
N−カドヘリン調節活性を有する化合物を同定するためのアッセイは、インビトロで行うことができる。このようなアッセイは、全長N−カドヘリンタンパク質またはその変異体(例えば、それぞれ図6および7参照)またはそれらの変種またはN−カドヘリンタンパク質のフラグメントを使用することができる。精製された組換えまたは天然N−カドヘリンタンパク質は、本発明のインビトロ方法において使用することができる。精製されたN−カドヘリンタンパク質に加えて、組換えまたは天然N−カドヘリンタンパク質は、細胞溶解物または細胞膜の一部であり得る。以下に記載されているとおり、結合アッセイは、固体状態または可溶性状態のいずれかであり得る。好ましくは、タンパク質または膜は、固体支持体に共有結合または非共有結合されている。しばしば、本発明のインビトロアッセイは、非競合的または競合的のいずれかの基質またはリガンド結合または親和性アッセイである。他のインビトロアッセイは、タンパク質の分光学的(例えば、蛍光、吸光度、屈折率)、流体力学的(例えば、形状)、クロマトグラフまたは溶解度特性の変化を測定することを含む。他のインビトロアッセイは、酵素活性アッセイ、例えば、リン酸化または自己リン酸化アッセイを含む。
【0119】
1つの態様において、N−カドヘリンタンパク質またはそのフラグメントを可能性のある調節剤と接触させ、適当な時間インキュベートするハイスループット結合アッセイを行う。1つの態様において、可能性のある調節剤を固体支持体に結合させ、N−カドヘリンタンパク質を加える。他の態様において、N−カドヘリンタンパク質を固体支持体に結合させる。以下に記載されているとおり、有機小分子、ペプチド、抗体およびN−カドヘリンリガンド類似体を含む多種多様の調節剤を使用することができる。標識タンパク質−タンパク質結合アッセイ、電気泳動移動度シフト、免疫測定法、酵素アッセイ、例えば、キナーゼアッセイなどを含む多種多様のアッセイを、N−カドヘリン調節剤結合を同定するために使用することができる。いくつかの場合において、候補調節剤の結合は、既知のリガンドまたは基質の結合への干渉が可能性のある調節剤の存在下で測定される競合結合アッセイの使用を介して測定される。
【0120】
1つの態様において、最初に、マイクロタイタープレートをN−カドヘリンタンパク質またはN−カドヘリンタンパク質受容体のいずれかで被覆し、次に、N−カドヘリンタンパク質受容体へのN−カドヘリンタンパク質の結合を阻害することができる可能性のある1つ以上の試験化合物に暴露する。次に、被覆されたN−カドヘリンタンパク質受容体またはN−カドヘリンタンパク質のいずれかのタンパク質の標識(すなわち、蛍光、酵素、放射性同位体)結合パートナーを、該被覆されたタンパク質および試験化合物に暴露する。必要に応じて、非結合タンパク質を、N−カドヘリンタンパク質、N−カドヘリンタンパク質受容体または試験化合物への曝露間に洗い流す。検出可能シグナルの非存在は、試験化合物がN−カドヘリンタンパク質とそれぞれのN−カドヘリンタンパク質受容体との結合相互作用を阻害したことを示す。検出可能シグナル(すなわち、蛍光、比色、放射能)の存在は、試験化合物がN−カドヘリンタンパク質とそれぞれのN−カドヘリンタンパク質受容体との結合相互作用を阻害しなかったことを示す。検出可能シグナルの存在または非存在を、非阻害シグナルを示す試験化合物に曝露されなかったコントロールサンプルと比較する。いくつかの態様において、結合パートナーは、標識されていないが、結合パートナーに特異的に結合する標識抗体に暴露される。
【0121】
細胞ベースインビボアッセイ
他の態様において、N−カドヘリンタンパク質を細胞中で発現させ、機能、例えば、物理化学的または表現型の変化をN−カドヘリンおよび細胞増殖、例えば、腫瘍細胞増殖の調節剤を同定するためにアッセイする。N−カドヘリンタンパク質を発現する細胞は、また、結合アッセイおよび酵素アッセイにおいて使用することができる。任意の適当な機能効果は、本明細書に記載されているとおりに測定することができる。例えば、細胞形態学(例えば、細胞容積、核容積、細胞周囲および核周囲)、リガンド結合、キナーゼ活性、アポトーシス、細胞表面マーカー発現、細胞増殖、GFP陽性および色素希釈アッセイ(例えば、細胞膜に結合する色素での細胞トラッカーアッセイ)、DNA合成アッセイ(例えば、H−チミジンおよび蛍光DNA結合色素、例えば、FACS分析でのBrdUまたはHoechst色素)は、全て、細胞ベースの系を使用して可能性のある調節剤を同定するために適当なアッセイである。このような細胞ベースのアッセイのために適当な細胞は、本明細書に記載されている原発性癌または腫瘍細胞および細胞系の両方、例えば、A549(肺)、MCF7(乳房、p53野生型)、H1299(肺、p53ヌル)、Hela(子宮頸)、PC3(前立腺、p53変異体)、MDA−MB−231(乳房、p53野生型)を含む。癌細胞系は、p53変異体、p53ヌルであってよく、また野生型p53を発現してもよい。N−カドヘリンタンパク質は、天然または組換えであり得る。また、N−カドヘリンのフラグメントまたはキメラN−カドヘリンタンパク質も、細胞ベースのアッセイにおいて使用することができる。
【0122】
細胞N−カドヘリンポリペプチドレベルを、タンパク質またはmRNAのレベルを測定することにより決定することができる。N−カドヘリンタンパク質またはN−カドヘリンに関連するタンパク質のレベルは、N−カドヘリンポリペプチドまたはそのフラグメントへそれぞれ選択的に結合する抗体を使用する免疫測定法、例えば、ウエスタンブロッティング、ELISAなどを使用して測定される。mRNAの測定のために、例えばPCR、LCRを使用する増幅、またはハイブリダイゼーションアッセイ、例えば、ノーザンハイブリダイゼーション、RNAse保護、ドットブロッティングが好ましい。タンパク質またはmRNAのレベルは、本明細書に記載されているように、直接または間接的標識検出剤、例えば、蛍光または放射性標識核酸、放射性または酵素標識抗体などを使用して検出される。
【0123】
あるいは、N−カドヘリン発現は、レポーター遺伝子系を使用して測定することができる。このような系は、レポーター遺伝子、例えば、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、ホタルルシフェラーゼ、細菌ルシフェラーゼ、βガラクトシダーゼおよびアルカリホスファターゼに作動可能に連結したN−カドヘリンタンパク質プロモーターを使用して考案することができる。さらに、興味あるタンパク質は、第2のレポーター、例えば、赤色または緑色蛍光タンパク質への結合を介する間接的レポーターとして使用することができる(例えば、Mistili & Spector, Nature Biotechnology 15:961-964 (1997)参照)。該レポーター構築物を、一般的に、細胞にトランスフェクトする。可能性のある調節剤での処理後、レポーター遺伝子の転写、翻訳または活性の量を、当業者に既知の標準技術にしたがって測定する。
【0124】
動物モデル
細胞増殖の動物モデルは、また、細胞増殖の調節剤に対するスクリーニングにおける使用を見出す。同様に、例えば、適当な遺伝子標的化ベクターでの相同組換えまたは遺伝子過剰発現の結果として、遺伝子ノックアウト技術を含むトランスジェニック動物技術は、N−カドヘリンタンパク質の発現の欠失または増加をもたらす。同じ技術は、また、ノックアウト細胞を作製するために適用することができる。所望により、N−カドヘリンタンパク質の組織特異的発現またはノックアウトが必要であり得る。このような方法により生産されるトランスジェニック動物は、細胞増殖の動物モデルとしての使用を見出し、さらに細胞増殖の調節剤に対するスクリーニングにおいて有用である。
【0125】
ノックアウト細胞およびトランスジェニックマウスは、相同組換えを介するマウスゲノムにおける内因性N−カドヘリン遺伝子部位へのマーカー遺伝子または他の異種遺伝子の挿入により作製することができる。このようなマウスは、また、内因性N−カドヘリンをそれぞれのN−カドヘリン遺伝子の変異バージョンと置き換えることにより、または、例えば、発癌物質への暴露により、それぞれの内因性N−カドヘリンを変異することにより作製することができる。
【0126】
DNA構築物を胚幹細胞の核に導入する。新規に操作された遺伝子損傷を含む細胞を宿主マウス胚に注射し、レシピエント雌に再移植する。これらの胚のいくつかは、部分的に変異体細胞系に由来する生殖細胞を有するキメラマウスに発達する。したがって、キメラマウスを交配することにより、導入された遺伝子損傷を含む新規マウス系を得ることが可能である(例えば、Capecchiら., Science 244:1288 (1989)参照)。キメラ標的(targeted)マウスは、Hoganら., Manipulating the Mouse Embryo: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory (1988), Teratocarcinomas and Embryonic Stem Cells: A Practical Approach, Robertson, ed., IRL Press, Washington, D.C., (1987)およびPinkert, Transgenic Animal Technology: A Laboratory Handbook, Academic Press (2003)にしたがって得ることができる。
【0127】
典型的なアッセイ
軟寒天増殖または懸濁液中のコロニー形成
正常細胞は、付着および増殖するために固体基質が必要である。該細胞が形質転換されたとき、それらはこの表現型を失い、該基質と無縁に増殖する。例えば、形質転換細胞は、撹拌懸濁培養において、または半固体培地、例えば、半固体または軟寒天中で増殖することができる。腫瘍抑制遺伝子でトランスフェクトされたとき、形質転換細胞は、正常表現型を再生し、付着および増殖するために固体基質が必要である。
【0128】
軟寒天培養または懸濁液中のコロニー形成アッセイは、N−カドヘリン調節剤を同定するために使用することができる。一般的に、形質転換宿主細胞(例えば、軟寒天上で増殖する細胞)は、該アッセイにおいて使用される。例えば、RKOまたはHCT116細胞系を使用することができる。軟寒天培養または懸濁液中のコロニー形成アッセイのための技術は、Freshney, Culture of Animal Cells a Manual of Basic Technique, 3rd ed., Wiley-Liss, New York (1994)(出典明示により本明細書に包含させる)に記載されている。Garkavtsevら. (1996)(上記)(出典明示により本明細書に包含させる)の方法の部も参照。
【0129】
増殖の接触阻害および密度制限
正常細胞は、一般的に、それらが他の細胞に接触するまで、ペトリ皿中で平らかつ組織的なパターンで増殖する。該細胞が互いに接触したとき、それらは、接触阻害され、増殖を停止する。しかしながら、細胞が形質転換されたとき、該細胞は、接触阻害されず、無秩序なフォーカス(foci)において高い密度にまで増殖し続ける。したがって、該形質転換細胞は、正常細胞よりも高い飽和密度にまで増殖する。これは、正常周囲細胞の規則的なパターン内のフォーカスにおける細胞の混乱した単層または球状の細胞の形成により、形態学的に検出することができる。あるいは、飽和密度での[H]−チミジンでの標識率を使用して、増殖の密度制限を測定することができる。Freshney (1994)(上記)参照。形質転換細胞が細胞増殖調節剤と接触した場合、正常表現型を再生し、接触阻害されるようになり、より低い密度に増殖するであろう。
【0130】
増殖の接触阻害および密度制限アッセイは、宿主細胞における異常増殖および形質転換を阻害することができるN−カドヘリン調節剤を同定するために使用することができる。一般的に、形質転換宿主細胞(例えば、接触阻害されない細胞)を該アッセイに使用する。例えば、RKOまたはHCT116細胞系を使用することができる。該アッセイにおいて、飽和密度での[H]−チミジンでの標識率が増殖の密度制限を測定する好ましい方法である。形質転換宿主細胞を可能性のあるN−カドヘリン調節剤と接触させ、非制限培地条件下で飽和密度で24時間増殖させる。[H]−チミジンで標識された細胞の割合は、オートラジオグラフィで測定する。Freshney (1994)(上記)参照。N−カドヘリン調節剤と接触した宿主細胞は、コントロール(例えば、インサートを欠いているベクターでトランスフェクトされた形質転換宿主細胞)と比較して、低い標識率が得られるであろう。
【0131】
増殖因子または血清依存
増殖因子または血清依存は、N−カドヘリン調節剤を同定するためのアッセイとして使用することができる。形質転換細胞は、それらの正常対応物よりも低い血清依存を有する(例えば、Temin, J. Natl. Cancer Insti. 37:167-175 (1966); Eagleら., J. Exp. Med. 131:836-879 (1970)); Freshney(上記)参照)。これは、1つには、形質転換細胞による種々の増殖因子の放出による。形質転換細胞がN−カドヘリン調節剤と接触したとき、該細胞は、血清依存を再び獲得し、低いレベルで増殖因子を放出するであろう。
【0132】
腫瘍特異的マーカーレベル
腫瘍細胞は、それらの正常対応物よりも増加した量の特定の因子(以下「腫瘍特異的マーカー」)を放出する。例えば、プラスミノーゲン活性剤(PA)は、ヒト神経膠腫から、正常脳細胞よりも高いレベルで放出される(例えば、Gullino, Angiogenesis, tumorvascularization, and potential interference withtumor growth. In Mihich (ed.): “BiologicalResponses in Cancer.” New York, Academic Press, pp. 178-184 (1985)参照)。同様に、腫瘍血管形成因子(TAF)は、腫瘍細胞において、それらの正常対応物よりも高いレベルで放出される。例えば、Folkman, Angiogenesis and cancer, Sem cancer Biol. (1992))参照。
【0133】
腫瘍特異的マーカーを、宿主細胞からのこれらのマーカーの放出レベルを減少させるN−カドヘリン調節剤を同定するためにアッセイすることができる。一般的に、形質転換または発癌性宿主細胞を使用する。これらの因子の放出を測定する種々の技術は、Freshney (1994)(上記)に記載されている。Unklessら. , J. Biol. Chem. 249:4295-4305 (1974); Strickland & Beers, J. Biol. Chem. 251:5694-5702 (1976); Whurら., Br. J. Cancer42:305-312 (1980); Gulino, Angiogenesis, tumorvascularization, and potential interference withtumor growth. In Mihich, E. (ed): “BiologicalResponses in Cancer.” New York, Plenum (1985); Freshney Anticancer Res. 5:111-130 (1985)も参照。
【0134】
マトリゲル(Matrigel)中への浸潤性
マトリゲルまたはいくつかの他の細胞外マトリックス構成物質中への浸潤性の程度は、異常細胞増殖および腫瘍増殖を阻害することができるN−カドヘリン調節剤を同定するためのアッセイとして使用することができる。腫瘍細胞は、悪性腫瘍とマトリゲルまたはいくつかの他の細胞外マトリックス構成物質中への細胞の浸潤性との間の良好な相関関係を示す。該アッセイにおいて、発癌性細胞は、一般的に、宿主細胞として使用される。したがって、N−カドヘリン調節剤は、可能性のある調節剤の導入前後の宿主細胞間の浸潤性のレベルの変化を測定することにより同定することができる。化合物がN−カドヘリンを調節する場合、発癌性宿主細胞におけるその発現は、浸潤性に影響を及ぼすであろう。
【0135】
Freshney (1994)(上記)に記載されている技術を使用することができる。簡潔には、宿主細胞の浸潤レベルは、マトリゲルまたはいくつかの他の細胞外マトリックス構成物質で被覆されたフィルターを使用することにより測定することができる。ゲルへの、またはフィルターの遠位側への浸透を、浸潤性として評価し、細胞数および移動距離により、または細胞を125Iで前標識し、フィルターの遠位側または皿の底における放射能を計測することにより組織学的に評価する。例えば、Freshney (1984)(上記)参照。
【0136】
インビボでの腫瘍増殖
細胞増殖に対するN−カドヘリン調節剤の影響は、トランスジェニックまたは免疫抑制マウスにおいて試験することができる。内因性N−カドヘリン遺伝子が破壊されたノックアウトトランスジェニックマウスを作製することができる。このようなノックアウトマウスは、例えば、癌モデルとして、N−カドヘリンを調節する化合物に関するインビボアッセイの手段として、N−カドヘリンの効果を研究し、野生型または変異体N−カドヘリンをノックアウトマウスに戻す効果を試験するために使用することができる。
【0137】
ノックアウト細胞およびトランスジェニックマウスは、相同組換えを介するマウスゲノムにおける内因性N−カドヘリン遺伝子部位へのマーカー遺伝子または他の異種遺伝子の挿入により作製することができる。このようなマウスは、また、内因性N−カドヘリンをN−カドヘリンの変異バージョンと置き換えることにより、または、例えば、発癌物質への暴露により、内因性N−カドヘリンを変異させることにより作製することができる。
【0138】
DNA構築物を胚幹細胞の核に導入する。新規に操作された遺伝子損傷を含む細胞を宿主マウス胚に注射し、レシピエント雌に再移植する。これらの胚のいくつかは、部分的に変異体細胞系から由来する胚細胞を有するキメラマウスに発達する。したがって、キメラマウスを交配することにより、導入された遺伝子損傷を含む新規マウス系を得ることが可能である(例えば、Capecchiら., Science 244:1288 (1989)参照)。キメラ標的マウスは、Hoganら., Manipulating the Mouse Embryo: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory (1988)およびTeratocarcinomas and Embryonic Stem Cells: A Practical Approach, Robertson, ed., IRL Press, Washington, D.C., (1987)にしたがって得ることができる。これらのノックアウトマウスは、種々のN−カドヘリン調節剤の細胞増殖における効果を試験するために宿主として使用することができる。
【0139】
あるいは、種々の免疫抑制または免疫不全宿主動物を使用することができる。例えば、遺伝的胸腺欠損「ヌード」マウス(例えば、Giovanellaら., J. Natl. Cancer Inst. 52:921 (1974)参照)、SCIDマウス、胸腺摘出マウスまたは放射線照射マウス(例えば、Bradleyら., Br. J. Cancer 38:263 (1978); Selbyら., Br. J. Cancer 41:52 (1980)参照)を宿主として使用することができる。同系宿主に注射された移植可能な腫瘍細胞(一般的に約10細胞)は、高い比率で浸潤性腫瘍を生産するが、同様の起源の正常細胞は生産しない。宿主を、例えば、注射により、N−カドヘリン調節剤で処置する。適当な時間、好ましくは4−8週間後、腫瘍増殖を測定し(例えば、体積により、またはその大の二次元寸法により)、コントロールと比較する。統計的に有意な減少を有する(例えば、スチューデントT検定を使用して)腫瘍は、増殖が阻害されたと言える。アッセイとして腫瘍サイズの減少を使用して、例えば、異常な細胞増殖を阻害することができるN−カドヘリン調節剤を同定することができる。
【0140】
スクリーニング方法
本発明は、また、N−カドヘリン受容体それぞれへのN−カドヘリンタンパク質の結合を阻害する化合物(ここに、該化合物は、N−カドヘリンタンパク質を発現する腫瘍、例えば、泌尿生殖器癌腫瘍、例えば、前立腺または膀胱癌腫瘍の増殖を阻害し、退縮を促進する使用を見出す)を同定する方法を提供する。
【0141】
本明細書に記載されているアッセイを使用して、N−カドヘリン受容体それぞれへのN−カドヘリンタンパク質の結合を減少させ、阻害する能力について種々の化合物および化合物の混合物をスクリーニングすることにより、治療的に有効な調節剤である化合物を同定するためのさらなる試験に適当であるリード(lead)化合物を同定することができる。興味ある化合物は、合成または天然のいずれかであり得る。
【0142】
スクリーニングアッセイは、インビトロまたはインビボで実施することができる。一般的に、最初のスクリーニングアッセイは、インビトロで実施し、細胞ベースのアッセイまたは動物モデルを使用してインビボで確認することができる。例えば、再生遺伝子ファミリーのタンパク質は、細胞増殖に関与する。したがって、N−カドヘリン受容体それぞれへのN−カドヘリンタンパク質の結合を阻害する化合物は、試験化合物に暴露されていない細胞と比較して、この結合相互作用に起因する細胞増殖を阻害することができる。また、N−カドヘリン受容体それぞれへのN−カドヘリンタンパク質の結合は、組織損傷応答、炎症および異形成に関与する。動物モデルにおいて、受容体それぞれへのN−カドヘリンタンパク質の結合を阻害する化合物は、例えば、試験化合物に暴露されていない動物と比較して、創傷治癒または異形成の進行を阻害することができる。例えば、Zhangら., World J Gastroenter (2003) 9:2635-41参照。
【0143】
通常、N−カドヘリン受容体それぞれへのN−カドヘリンタンパク質の結合を阻害する化合物は合成である。スクリーニング方法は、アッセイ工程を自動化し、任意の都合のよい供給源由来の化合物を、一般的に並行して行われるアッセイに提供することにより(例えば、ロボットアッセイにおけるマイクロタイタープレート上のマイクロタイターフォーマットにおいて)、巨大な化学ライブラリーをスクリーニングするように設計される。
【0144】
本発明は、ハイスループットフォーマットにおける受容体へのN−カドヘリン結合の阻害に関するインビトロアッセイを提供する。記載されているアッセイフォーマットのそれぞれに関して、調節剤を含まない「調節剤なし」コントロール反応は、受容体へのN−カドヘリン結合相互作用のバックグラウンドレベルを提供する。本発明のハイスループットアッセイにおいて、1日に数千個までの異なる調節剤をスクリーニングすることができる。特に、マイクロタイタープレートのそれぞれのウェルを、選択された可能性のある調節剤に対する別々のアッセイを行うために使用することができ、または、濃度またはインキュベーション時間効果を観察する場合、5−10ウェル毎に単一の調節剤を試験することができる。したがって、単一の標準マイクロタイタープレートは、約100(96)個の調節剤をアッセイすることができる。1536個のウェルプレートを使用する場合、単一のプレートで約100−約1500個の異なる化合物を容易にアッセイすることができる。1日に多数の異なるプレートをアッセイすることが可能である。約6,000−20,000、さらに約100,000−1,000,000個の異なる化合物に関するアッセイスクリーニングが、本発明の統合システムを使用して可能である。標識、試薬の添加、流体変化および検出の工程は、例えば、プログラム可能なロボットシステムまたは例えば、BioTX Automation, Conroe, TX; Qiagen, Valencia, CA; Beckman Coulter, Fullerton, CA;およびCaliper Life Sciences, Hopkinton, MAから市販されている「統合システム」を使用して完全自動化に適合可能である。
【0145】
本質的に任意の化学化合物を、本発明の方法において使用するための受容体に対するN−カドヘリン結合の可能性のある阻害剤として試験することができる。一般的に、水溶液または有機(とりわけ、DMSOベースの)溶液に溶解することができる化合物が最も好ましい。Sigma (St. Louis, MO)、Aldrich (St. Louis, MO)、Sigma-Aldrich (St. Louis, MO)、Fluka Chemika-Biochemica Analytika (Buchs Switzerland)を含む化学化合物の多数の供給業者、ならびにChembridge Corp. (San Diego, CA)、Discovery Partners International (San Diego, CA)、Triad Therapeutics (San Diego, CA)、Nanosyn (Menlo Park、CA)、Affymax (Palo Alto, CA)、ComGenex (South San Francisco, CA)、およびTripos, Inc. (St. Louis, MO) を含むスクリーニング用の有機小分子およびペプチドライブラリーの提供業者が存在することが認識される。
【0146】
1つの好ましい態様において、N−カドヘリン受容体結合相互作用の阻害剤を、多数の可能性のある治療化合物(可能性のある調節剤化合物)を含む組み合わせライブラリーをスクリーニングすることにより同定する。このような「組み合わせ化学またはペプチドライブラリー」は、本明細書に記載されているような、1つ以上のアッセイにおいてスクリーニングし、所望の特有の活性を示すライブラリーメンバー(特定の化学種またはサブクラス)を同定することができる。かくして、同定された化合物は、慣用の「リード化合物」として役立てることができるか、またはそれ自体を可能性のある、または実際の治療薬として使用することができる。
【0147】
組み合わせ化学ライブラリーは、多くの化学的「構成要素」、例えば、試薬を組み合わせることにより、化学合成または生物学的合成のいずれかにより生産される多様な化学化合物の収集物である。例えば、線状組み合わせ化学ライブラリー、例えば、ポリペプチドライブラリーは、所定の化合物の長さ(すなわち、ポリペプチド化合物におけるアミノ酸の数)について可能な全ての方法における化学的構成要素(アミノ酸)のセットを組み合わせることにより形成される。何百万個もの化学化合物を、化学的構成要素のこのような組み合わせ混合を介して合成することができる。
【0148】
組み合わせ化学ライブラリーの製造およびスクリーニングは、当業者によく知られている。このような組み合わせ化学ライブラリーは、ペプチドライブラリー(例えば、米国特許5,010,175、Furka, Int. J. Pept. Prot. Res. 37:487-493 (1991)およびHoughton et al., Nature 354:84-88 (1991)参照)を含むが、これらに限定されない。化学的多様性ライブラリーを生産するための他の化学も使用することができる。このような化学は、ペプトイド(PCT公開WO91/19735)、コード化ペプチド(PCT公開WO93/20242)、ランダムバイオオリゴマー(PCT公開WO92/00091)、ベンゾジアゼピン(米国特許第5,288,514号)、ダイバーソマー(diversomer)、例えば、ヒダントイン、ベンゾジアゼピンおよびジペプチド(Hobbsら., Proc. Nat. Acad. Sci. USA 90:6909 6913 (1993))、ビニローグポリペプチド(Hagiharaら., J. Amer. Chem. Soc. 114:6568 (1992))、β−D−グルコース足場を有する非ペプチド性ペプチド模擬体(Hirschmannら., J. Amer. Chem. Soc. 114:9217 9218 (1992))、小化合物ライブラリーの類似の有機合成(Chenら., J. Amer. Chem. Soc. 116:2661 (1994))、オリゴカルバメート(oligocarbamate)(Choら., Science 261:1303 (1993))、および/またはホスホン酸ペプチジル(Campbellら., J. Org. Chem. 59:658 (1994))、核酸ライブラリー(Ausubel、BergerおよびSambrook全て上記、参照)、ペプチド核酸ライブラリー(例えば、米国特許5,539,083参照)、抗体ライブラリー(例えば、Vaughnら., Nature Biotechnology, 14(3):309-314 (1996)およびPCT/US96/10287参照)、炭水化物ライブラリー(例えば、Liangら., Science, 274:1520-1522 (1996)および米国特許5,593,853参照)、有機小分子ライブラリー(例えば、ベンゾジアゼピン、Baum C&EN, Jan 18, page 33 (1993);イソプレノイド、米国特許5,569,588;チアゾリジノンおよびメタチアザノン、米国特許5,549,974;ピロリジン、米国特許5,525,735および5,519,134;モルホリノ化合物、米国特許5,506,337;ベンゾジアゼピン、5,288,514など参照)を含むが、これらに限定されない。
【0149】
組み合わせライブラリーの製造のための装置は市販されている(例えば、357 MPS, 390 MPS, Advanced Chem. Tech, Louisville KY, Symphony, Rainin, Woburn, MA, 433A Applied Biosystems, Foster City, CA, 9050 Plus, Millipore, Bedford, MA参照)。
【0150】
siRNA技術
siRNA分子およびベクターの設計および作製は、当業者によく知られている。例えば、適当なsiRNAを設計するための有効な過程は、mRNA転写産物のAUG開始コドンで開始し(例えば、図7、8、9参照)、AAジヌクレオチド配列に関してスキャンすることである(Elbashirら. EMBO J 20: 6877-6888 (2001)参照)。それぞれのAAおよび3’隣接ヌクレオチドが可能性のあるsiRNA標的部位である。隣接部位配列の長さは、siRNAの長さを決定する。例えば、19個の隣接部位は、21ヌクレオチド長のsiRNAを与える。3’オーバーハングUUジヌクレオチドを有するsiRNAは、しばしば最も有効である。該アプローチは、また、ヘアピンsiRNAを転写するためのRNA pol IIIの使用に適合する。RNA pol IIIは、4−6個のヌクレオチドポリ(T)領域で転写を終わらせ、短ポリ(U)テールを有するRNA分子を作出する。しかしながら、他の3’末端ジヌクレオチドオーバーハングを有するsiRNAは、また、RNAiを有効に誘導することができ、該配列は、経験的に選択され得る。選択性に関して、他のコード配列に相同な16−17個を越える隣接する塩基対を有する標的配列は、BLASTサーチを実施することにより回避することができる(www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST参照)。
【0151】
RNAiを誘導するためのsiRNA発現ベクターは、異なる設計基準を有し得る。ベクターに、短スペーサー配列により分離された2つの逆方向反復および転写を終結させるために役立つ一連のTを有する末端を挿入することができる。発現されるRNA転写産物は、短ヘアピンsiRNAに折りたたまれることが予想される。siRNA標的配列の選択、推定ヘアピンのステムをコードする逆方向反復の長さ、逆方向反復の順序、ヘアピンのループをコードするスペーサー配列の長さおよび組成、ならびに5’オーバーハングの存在または非存在は、変化し得る。siRNA発現カセットの好ましい順序は、センス鎖、短スペーサーおよびアンチセンス鎖である。これらの種々のステム長(例えば、15から30)を有するヘアピンsiRNAが適当であり得る。ヘアピンsiRNAのセンスおよびアンチセンス鎖を連結するループの長さは、種々の長さ(例えば、3から9個のヌクレオチドまたはより長い)を有することができる。ベクターは、siRNAをコードするヌクレオチド配列に作動可能に連結したプロモーターおよび発現エンハンサーまたは他の調節エレメントを含み得る。これらの制御エレメントは、臨床医が調節エレメントが応答する外部因子を加えるか、または制御することにより、遺伝子の発現をオフまたはオンにすることができるように設計され得る。
【0152】
いくつかの態様において、本発明は、癌細胞の増殖を阻害するために有効な量で、タンパク質を認識し、結合する抗体またはそのフラグメントを癌細胞と接触させることにより、N−カドヘリンタンパク質を発現する癌細胞の増殖を阻害する方法を提供する。いくつかの態様において、癌細胞は、前立腺癌細胞または膀胱癌細胞である。該接触する抗体は、モノクローナル抗体および/またはキメラ抗体であり得る。いくつかの態様において、キメラ抗体は、ヒト免疫グロブリン定常領域を含む。いくつかの態様において、抗体は、ヒト抗体であるか、またはヒト免疫グロブリン定常領域を含む。さらなる態様において、抗体フラグメントは、Fab、F(ab)またはFvを含む。他の態様において、フラグメントは、抗原結合領域を有する組換えタンパク質を含む。さらに他の態様において、抗体またはフラグメントは、治療剤に連結した抗体またはフラグメントを含む免疫抱合体である。該治療剤は、細胞毒性剤であり得る。該細胞毒性剤は、リシン、リシンA鎖、ドキソルビシン、ダウノルビシン、タキソール、臭化エチジウム、マイトマイシン、エトポシド、テノプシド、ビンクリスチン、ビンブラスチン、コルヒチン、ジヒドロキシアントラセンジオン、アクチノマイシンD、ジフテリア毒素、緑膿菌外毒素(PE)A、PE40、アブリン、アルブリンA鎖、モデシンA鎖、アルファ−サルシン、ゲロニン、ミトゲリン、レトストリクトシン、フェノマイシン、エノマイシン、キュリシン、クロチン、カリケアマイシン、サボンソウ阻害剤、マイタンシノイドおよびグルココルチコイドリシンからなる群から選択され得る。該治療剤は、放射性同位体であり得る。該治療同位体は、212Bi、131I、111In、90Yおよび186Reからなる群から選択され得る。上記態様のいずれかにおいて、化学療法剤および/または放射線療法をさらに施す。いくつかの態様において、患者は、また、ホルモンアンタゴニスト治療を受ける。抗体または抗体フラグメントと患者の接触は、患者の静脈内に、腹腔内に、筋肉内に、腫瘍内に、または皮内に抗体を投与することによりできる。いくつかの態様において、患者は、泌尿生殖器癌(例えば、膀胱癌、前立腺癌)を有する。上記のいくつかの態様において、患者は、前立腺癌に罹患しており、所望によりさらに患者にホルモン除去治療を与える。いくつかの態様において、接触は、癌または転移癌に直接、抗体を投与することを含む。
【0153】
いくつかの態様において、免疫抱合体は、小分子である細胞毒性剤を有する。毒素、例えば、メイタンシン、マイタンシノイド、サポリン、ゲロニン、リシンまたはカリケアマイシンおよびそれらの類似体または誘導体も適当である。N−カドヘリン抗体に連結し得る他の細胞毒性剤は、BCNU、ストレプトゾシン、ビンクリスチンおよび5−フルオロウラシルを含む。酵素的に活性な毒素およびそのフラグメントも使用することができる。放射性または他の標識は、既知の方法で抱合体に組み込まれ得る(例えば、二官能性リンカー、融合タンパク質)。本発明の抗体は、また、プロドラッグを活性な化学療法剤に変換する酵素に連結され得る。WO88/07378および米国特許第4,975、278号参照。該抗体または免疫抱合体を、所望により、非タンパク質ポリマー(例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシアルキレン、またはポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールとのコポリマー)に連結してもよい。
【0154】
投与のための組成物は、一般的に、薬学的に許容される担体、好ましくは水性担体中に溶解された、本明細書に記載されている物質を含む。種々の水性担体、例えば、緩衝食塩水などを使用することができる。これらの溶液は、滅菌され、一般的に望ましくない物質を含まない。これらの組成物は、慣用のよく知られている滅菌技術により滅菌され得る。該組成物は、適当な生理学的条件に必要な薬学的に許容される補助物質、例えば、pH調節剤および緩衝剤、毒性調節剤など、例えば、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、乳酸ナトリウムなどを含み得る。これらの製剤における活性剤の濃度は、広範に変化することができ、選択される特定の投与経路および患者の必要性にしたがって、主に液量、粘性、体重などに基づいて選択される。
【0155】
したがって、静脈内投与のための典型的な医薬組成物は、約0.1から100mg/患者/日で提供され得る。0.1から約100mg/患者/日の用量が使用され得る。実質的に高い用量が局所投与において可能である。非経口的に投与可能な組成物を製造するための実際の方法は、当業者に知られているか、または明らかであり、Remington's Pharmaceutical Science, 15th ed., Mack Publishing Company, Easton, Pa. (1980)のような刊行物により詳細に記載されている。
【0156】
医薬組成物は、投与の方法に依存して種々の単位投与形態において投与することができる。例えば、経口投与に適当な単位投与形態は、粉末、錠剤、丸剤、カプセルおよびトローチ剤を含むが、これらに限定されない。経口的に投与されるとき、抗体は消化から保護されるべきであることが理解される。これは、一般的に、該分子を、酸および酵素加水分解に対する耐性を与える組成物と複合体化することによるか、または適当な耐性担体、例えば、リポソームまたは防護壁中に該分子をパッケージングすることによるかのいずれかで達成される。消化から薬剤を保護する方法は、よく当該分野で知られている。
【0157】
特に、本発明で使用するための抗体および免疫抱合体および阻害剤の医薬製剤は、所望の純度を有する抗体を任意の薬学的に許容される担体、賦形剤または安定剤と混合することにより製造することができる。このような製剤は、凍結乾燥製剤または水性溶液であり得る。許容される担体、賦形剤または安定剤は、使用される用量および濃度でレシピエントに非毒性である。許容される担体、賦形剤または安定剤は、酢酸塩、リン酸塩、クエン酸塩および他の有機酸塩、抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸)、防腐剤、低分子量ポリペプチド、タンパク質、例えば、血清アルブミンまたはゼラチン、または親水性ポリマー、例えば、ポリビニルピロリドン、およびアミノ酸、単糖類、二糖類および他の炭水化物、例えば、グルコース、マンノースまたはデキストリン、キレート剤、および、イオンおよび非イオン界面活性剤(例えば、ポリソルベート)、塩形成対イオン、例えば、ナトリウム、金属錯体(例えば、Zn−タンパク質錯体)、および/または非イオン界面活性剤であり得る。該抗体は、0.5−200mg/ml、または10−50mg/mlの濃度で製剤化され得る。
【0158】
該製剤は、また、化学療法剤、細胞毒性剤、サイトカイン、増殖阻害剤および抗ホルモン剤を含むさらなる活性化合物を提供し得る。該活性成分は、また、持続放出製剤(例えば、固体疎水性ポリマー(例えば、ポリエステル、ヒドロゲル(例えば、ポリ(2−ヒドロキシエチル−メタクリレート)またはポリ(ビニルアルコール))、ポリラクチドの半透過性マトリックスとして製造され得る。該抗体および免疫抱合体は、また、例えば、コアセルベーション技術または界面重合化により製造されるマイクロカプセル、例えば、ヒドロキシメチルセルロースまたはゼラチンマイクロカプセルおよびポリ−(メタクリル酸メチル)マイクロカプセル各々により、コロイド薬剤送達系(例えば、リポソーム、アルブミン小球体、マイクロエマルジョン、ナノ粒子およびナノカプセル)またはマクロエマルジョンに包含され得る。
【0159】
本発明の阻害剤および薬剤(例えば、抗体)を含む組成物は、治療または予防処置のために投与することができる。治療適用において、組成物を、疾患(例えば、癌)に罹患している患者に「治療有効用量」で投与する。この使用のための有効量は、疾患の重症度および患者の全身健康状態に依存する。組成物の単回または複数回投与は、患者が必要とし、耐えられる用量および頻度に依存して投与され得る。本発明の目的のための「患者」または「対象」は、ヒトおよび他の動物、特に哺乳動物の両方を含む。したがって、該方法は、ヒト治療および獣医適用の両方に適用することができる。好ましい態様において、患者は哺乳動物、好ましくは霊長類であり、最も好ましい態様において、患者はヒトである。他の既知の癌治療を、本発明の方法と組み合わせて使用することができる。例えば、Wntシグナル伝達の阻害剤は、また、他の癌治療剤、例えば、5FU、ビンブラスチン、アクチノマイシンD、シスプラチン、メトトレキサートなどに対して細胞を標的化または増感するために使用され得る。他の態様において、本発明の方法は、放射線療法などで使用することができる。
【実施例】
【0160】
実施例
以下の実施例は、説明のために提供するが、本発明を限定しない。
【0161】
実施例1
図1のデータは、N−カドヘリンがアンドロゲン非依存性細胞のほんの一部で発現されるが、抗体での処置がアンドロゲン非依存性腫瘍の増殖および進行を遅延させるために十分であることを示す(桃色および黄色曲線)。これらのデータは、N−カドヘリン細胞集団がアンドロゲン非依存性腫瘍形成に必要であり、それの阻止が腫瘍の進行を遅延するために十分であることを示唆する。これらのデータは、N−カドヘリンがアンドロゲン非依存性幹細胞の集団をマークするという解釈と一致する。幹細胞の増殖の阻止は、腫瘍の増殖を阻止するために十分である。これらのデータは、また、抗体が正常レベルまたは低レベルのN−カドヘリンを発現する細胞上で働き得ることを示す。
【0162】
図2に示されるとおり、細胞を去勢マウスに注射すると、N−カドヘリン陽性細胞は陰性集団よりも迅速かつ効率的に腫瘍を形成したことから、N−カドヘリン陽性細胞が増殖利点を有するか、またはそれらが幹細胞特性を有し、陰性集団よりも腫瘍形成性であることが示唆された。分類されていない細胞は、N−カドヘリン陽性細胞と同様に増殖する。
【0163】
図3および4に示されるとおり、100%N−cad陽性細胞由来の腫瘍は、N−カドヘリンに対して41.25%のみ陽性であり、これらの細胞がN−カドヘリンヌル細胞を生み出すことを示唆する。これは、N−カドヘリン陽性細胞がさらに分化したN−カドヘリン陰性細胞を生み出すことができる幹細胞であるという仮説と一致する。それと同時に、N−カドヘリン陰性集団は、分類されていない細胞と同様に9%のN−カドヘリン陽性である腫瘍を生み出す。これは、これらの細胞の増殖が、アンドロゲン非依存性腫瘍を形成するために、幹様集団を獲得するか、またはN−カドヘリンが上方制御される必要があることを示唆する。腫瘍形成の遅延は、アンドロゲン非依存性腫瘍を生み出すためのN−カドヘリンの必要性に起因する。
【0164】
本明細書に記載されている実施例および態様が説明の目的のみであり、それらを考慮すると、それらに種々の修飾または変化が当業者に示唆され、本出願の精神および範囲ならびに特許請求の範囲内に包含されると理解される。本明細書に引用されている全ての文献、特許および特許出願は、ここに、全ての目的のためにそれら全体を出典明示により包含される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌患者を処置する方法であって、
(a)N−カドヘリンタンパク質を発現する癌を有する危険性がある個体由来の試験組織サンプルを得て、
(b)癌に対して陰性であることが知られている個体由来のコントロール組織サンプルと比較して、試験組織サンプルにおけるN−カドヘリンタンパク質の存在もしくは非存在または量を測定し、それにより、N−カドヘリンタンパク質を発現する該癌を診断し、ここで、N−カドヘリンタンパク質は正常または低レベルで発現するか、または一部の細胞により発現し、N−カドヘリンタンパク質は過剰発現しない、
(c)有効量のN−カドヘリン抗体またはそのフラグメントを、N−カドヘリンタンパク質を発現する癌を有する危険性がある個体に投与する
工程を含む方法。
【請求項2】
該組織サンプルが前立腺または膀胱組織である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該癌が前立腺癌である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
該癌が膀胱癌である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
該癌がホルモン抵抗性前立腺癌である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
該癌が転移性癌である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
該抗体がモノクローナル抗体である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
フラグメントがscFvである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
フラグメントがダイアボディである、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
該抗体がホルモン抵抗性前立腺癌を阻止する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
該抗体が癌幹細胞を阻止する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
癌幹細胞を同定する方法であって、
(a)N−カドヘリンタンパク質を発現する癌を有する危険性がある個体由来の試験組織サンプルを得て、
(b)癌に対して陰性であることが知られている個体由来のコントロール組織サンプルと比較して、試験組織サンプルにおける癌幹細胞の存在または非存在を測定する、ここで、N−カドヘリンタンパク質は正常または低レベルで発現するか、または一部の幹細胞により発現し、過剰発現しない
工程を含む方法。
【請求項13】
該組織サンプルが前立腺または膀胱組織である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
該癌が前立腺癌である、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
該癌が膀胱癌である、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
該癌がホルモン抵抗性前立腺癌である、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
該癌が転移性癌である、請求項12に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図4】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図5−3】
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【図5−4】
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【図5−5】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【図6−3】
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【図6−4】
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【図6−5】
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【公表番号】特表2012−508259(P2012−508259A)
【公表日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−535771(P2011−535771)
【出願日】平成21年11月10日(2009.11.10)
【国際出願番号】PCT/US2009/063921
【国際公開番号】WO2010/054397
【国際公開日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(592130699)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア (364)
【氏名又は名称原語表記】The Regents of The University of California
【Fターム(参考)】