説明

癒着防止用の断片化重合体ヒドロゲルおよびそれらの調製

【課題】架橋重合体組成物、および組織癒着防止および他の目的のためのこのような組成物の提供。
【解決手段】完全に水和したとき、0.05mm〜5mmの範囲のサブユニットサイズ;
400%〜1300%の平衡膨潤;および湿潤組織環境にて、1日〜1年の範囲のインビボ分解時間を有する生体適合性架橋ヒドロゲルを含有する断片化重合体組成物であって、1つの実施形態において、0.01mm〜1.5mmの範囲の粒径および20重量%未満の水分含量を有する乾燥粉末を含有し、別の実施形態において、平衡膨潤での水和が50%〜95%の範囲の水和度を有する部分水和ヒドロゲルを含有する、組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、一般に、架橋重合体組成物、および組織癒着防止および他の目的のためのこのような組成物の使用に関する。
【0002】
組織癒着は、手術に続いて頻繁に起こり、易感染性の手術結果および術後合併症の原因となりまたはそれらを引き起こすおそれがある。組織癒着は、不要なまたは余分な傷跡組織から生じ、種々の身体領域(骨盤組織、腹腔組織、脊髄組織、腱組織、眼部組織、泌尿
器組織、胸部組織および心臓血管組織を含めて)で起こり得、正常組織が、手術中に外傷
を受けたまたは損傷した内臓表面に結合するとき、形成される。このような癒着は、通常は分離されている臓器または他の身体組織を合体させ得る。癒着の処置には、さらに手術を行う必要がある場合があり、患者に、余分な費用、危険および/または不快をもたらす

【0003】
本願に特に関係があることとしては、組織癒着は、しばしば、脊髄手術後に、脊髄神経と隣接下部組織との間の傷跡組織形成の結果として、起こる。このような傷跡組織の形成は、神経根を圧縮し得、神経合併症(例えば、持続性の腰痛および坐骨神経痛)を生じる。現在、硬膜周囲の傷跡組織は、さらに手術して処置しなければならない。
【0004】
術後癒着を最小にするかまたはなくすために、多数の手順および物質が提案されている。このような手順には、標的部位に隔膜物質(例えば、金属、重合体、および天然物質)を導入することが挙げられる。再生セルロースの織布材料は、この目的で、Interceed(登録商標)の商標で、Johnson & Johnsonから現在販売されている。しかしながら、この製品は、下部組織によくなじまない。この目的で試行されている他の重合体物質には、ナイロン、セロファン、PTFE、ポリエチレン、シロキサン、エラストマーおよびポリ乳酸共重合体フィルムが挙げられる。これらの材料の多くは、生物分解性ではなく、従って、体内に残留して、予測できない望ましくない結果を生じる可能性がある。
【0005】
術後脊髄癒着の低減および防止は、特に問題である。種々の永久移植装置(例えば、米
国特許第5,437,672号および第4,013,078号に記述のもの)が提案されている。しかしながら、永久移植片の使用は望ましくない。再吸収性の隔膜およびフィルムの使用もまた、提案されている。しかしながら、このような隔膜およびフィルムの配置もまた、問題である。隣接椎骨間の領域は、アクセスが難しくなり、隔膜およびフィルムを正しく配置し固定化することは、非常に困難である。非固形の非癒着物質の使用もまた、このような物質が、組織が治癒するまで空間内に残留する程に充分に粘性かつ残留性でありつつ、処置される領域に入り順応する程に充分な液状でなければならないので、問題である。これらの目的は、さらに、この非癒着組成物の生体適合性および再吸収性の要件と均衡しなければならない。
【0006】
これらの理由のために、手術および他の外傷に続く組織癒着の形成を防止する改良された組成物、方法および製品を提供することが望まれている。特に、椎弓切開術および脊柱上の他の手術法に続いた硬膜周辺癒着を防止し抑制するためのこのような組成物をインビボで導入する組成物および方法を提供することが望まれている。さらに、このような組成物が、体内のどこかの癒着を防止または抑制し、および、他のインビボ目的(例えば、組織空隙(例えば、組織生検または他のブラント(blunt)組織の外傷から生じる窪み)の充填剤、移植片(例えば、胸部移植片)の充填、経皮貫入の封鎖および/または止血、および患者の体内の他の圧迫領域の充填および補填)に有用であるかどうかが望まれている。さらに、本発明の組成物および方法は、これらの組成物を移植した領域と隣接する組織表面への薬剤および他の生体活性物質の送達に適合可能であるはずである。これらの目的の少なくとも一部は、これ以下で述べる本願発明の実施態様により、満たされる。
【背景技術】
【0007】
背景技術の説明
脊髄癒着および他の癒着を防止するかまたは抑制するのに使用されている隔膜フィルムおよび物質は、特許文献1;特許文献2;特許文献3;特許文献4;特許文献5;特許文献6;特許文献7;特許文献8;特許文献9;特許文献10;特許文献11;および非特許文献1に記述されている。特許文献12および特許文献13は、それぞれ、患者の脊髄に沿った永久移植片として残留する椎骨間保護装置を記述している。
【0008】
コラーゲンおよび他の重合体プラグ(plug)(経皮貫入(例えば、大腿動脈のアクセスにより作られた組織路)を封鎖することを意図したもの)は、多くの特許(特許文献14;特許文献15;特許文献16;特許文献17;特許文献18;特許文献19;および特許文献20を含めて)に記述されている。
【0009】
機械的に破壊されてその物理的特性を変えるコラーゲン含有組成物は、特許文献21;特許文献22;および特許文献23に記述されている。これらの特許は、一般に、繊維状および不溶コラーゲンに関する。注射可能コラーゲン組成物は、特許文献24に記述されている。注射可能骨/軟骨組成物は、特許文献25に記述されている。5μm〜850μmの粒径範囲の乾燥粒子(これは、水に懸濁でき、そして特定の表面電荷密度を有する)を含有するコラーゲンベースの送達マトリックスは、特許文献26に記述されている。創傷包帯を形成するためのエアロゾル噴霧として有用な1μm〜50μmの粒径を有するコラーゲン調製物は、特許文献27に記述されている。
【0010】
架橋でき注射器で注射できる重合体状の非腐食性ヒドロゲルは、特許文献28に記述されている。癒着を抑制するポリオキシアルキレン重合体は、特許文献5に記述されている。
【0011】
以下の係属中の出願は、本願の譲渡人に譲渡されているが、関連した主題を含む:特許文献29(1997年6月18日に出願);特許文献30(1996年8月27日に出願);特許文献31(1996年6月19日に出願);特許文献32(1996年2月20日に出願);特許文献33(1996年11月7日に出願);特許文献34(1996年11月7日に出願);特許文献35(1996年11月7日に出願);および特許文献36(1995年6月7日に出願)。これらの各出願の詳細な開示内容は、本明細書中で参考として援用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第5,350,173号明細書
【特許文献2】米国特許第5,140,016号明細書
【特許文献3】米国特許第5,135,751号明細書
【特許文献4】米国特許第5,134,229号明細書
【特許文献5】米国特許第5,126,141号明細書
【特許文献6】米国特許第5,080,893号明細書
【特許文献7】米国特許第5,017,229号明細書
【特許文献8】米国特許第5,007,916号明細書
【特許文献9】国際公開第95/21354号パンフレット
【特許文献10】国際公開第92/1574号パンフレット
【特許文献11】国際公開第86/00912号パンフレット
【特許文献12】米国特許第5,437,672号明細書
【特許文献13】米国特許第4,013,078号明細書
【特許文献14】米国特許第5,540,715号明細書
【特許文献15】米国特許第5,531,759号明細書
【特許文献16】米国特許第5,478,352号明細書
【特許文献17】米国特許第5,275,616号明細書
【特許文献18】米国特許第5,192,300号明細書
【特許文献19】米国特許第5,108,421号明細書
【特許文献20】米国特許第5,061,274号明細書
【特許文献21】米国特許第5,428,024号明細書
【特許文献22】米国特許第5,352,715号明細書
【特許文献23】米国特許第5,204,382号明細書
【特許文献24】米国特許第5,204,382号明細書
【特許文献25】米国特許第5,516,532号明細書
【特許文献26】国際公開第96/39159号パンフレット
【特許文献27】米国特許第5,196,185号明細書
【特許文献28】国際公開第96/06883号パンフレット
【特許文献29】米国特許出願公開第60/050,437号明細書
【特許文献30】米国特許出願公開第08/704,852号明細書
【特許文献31】米国特許出願公開第08/673,710号明細書
【特許文献32】米国特許出願公開第60/011,898号明細書
【特許文献33】米国特許出願公開第60/006,321号明細書
【特許文献34】米国特許出願公開第60/006,322号明細書
【特許文献35】米国特許出願公開第60/006,324号明細書
【特許文献36】米国特許出願公開第08/481,712号明細書
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Boyersら Fert.Ster. 1988年 第49巻 p.1066−1070
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明によって、以下が提供される:
(1)以下を有する生体適合性架橋ヒドロゲルを含有する断片化重合体組成物:
完全に水和したとき、0.05mm〜5mmの範囲のサブユニットサイズ;
400%〜1300%の平衡膨潤;および
湿潤組織環境にて、1日〜1年の範囲のインビボ分解時間。
(2)0.01mm〜1.5mmの範囲の粒径および20重量%未満の水分含量を有する乾燥粉末を含有する、項目1に記載の組成物。
(3)平衡膨潤での水和が50%〜95%の範囲の水和度を有する部分水和ヒドロゲルを含有する、項目1に記載の組成物。
(4)95%を超える水和度を有する完全水和ヒドロゲルを含有する、項目1に記載の組成物。
(5)前記ヒドロゲルが架橋後に破壊されている、項目1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
(6)前記ヒドロゲルが架橋前に破壊されている、項目1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
(7)ポリエチレングリコール、ソルビトールおよびグリセロールからなる群から選択される可塑剤をさらに含有する、項目1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
(8)前記可塑剤が、前記重合体成分の組成物の0.1重量%〜30重量%で存在する、項目7に記載の組成物。
(9)さらに、活性剤を含有する、項目1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
(10)前記活性剤が、止血剤である、項目9に記載の組成物。
(11)前記活性剤が、トロンビンである、項目10に記載の組成物。
(12)前記分子架橋ゲルが、架橋タンパク質ヒドロゲルを含有する、項目1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
(13)前記タンパク質が、ゼラチン、可溶性コラーゲン、アルブミン、ヘモグロビン、フィブロゲン(fibrogen)、フィブリン、カゼイン、フィブロネクチン、エラスチン、ケラチン、ラミニン、およびそれらの誘導体および組合せからなる群から選択される、項目12に記載の組成物。
(14)前記分子架橋ゲルが、架橋多糖類を含有する、項目1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
(15)前記多糖類が、グリコサミノグリカン、デンプン誘導体、セルロース誘導体、ヘミセルロース誘導体、キシラン、アガロース、アルギン酸塩、キトサン、およびそれらの誘導体および組合せからなる群から選択される、項目14に記載の組成物。
(16)前記分子架橋ゲルが、架橋非生物性重合体を含有する、項目1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
(17)前記重合体が、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリビニル樹脂、ポリラクチド−グリコリド、ポリカプロラクトン、ポリオキシエチレン、およびそれらの誘導体および組合せからなる群から選択される、項目16に記載の組成物。
(18)前記再吸収可能な分子架橋ヒドロゲルが、架橋タンパク質、架橋多糖類および架橋非生物性重合体からなる群から選択される少なくとも2個の成分を含有する、項目1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
(19)前記分子架橋ヒドロゲルが、重合体および架橋剤を含有し、該重合体および該架橋剤が、重合体分子の架橋を生じる条件下にて反応させられている、項目1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
(20)前記分子架橋ヒドロゲルが、重合体分子の架橋を生じる条件下にて、該重合体の照射により、生成される、項目1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
(21)前記分子架橋ヒドロゲルが、重合体分子の架橋を生じる条件下にて、モノ不飽和モノマーおよびポリ不飽和モノマーの反応により、生成される、項目1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
(22)重合体組成物を製造する方法であって、該方法は、以下を包含する:
生体適合性で再吸収可能な重合体を提供する工程;
該重合体を水性緩衝液と配合して、ゲルを形成する工程;
該ゲルを架橋する工程;および
該架橋ゲルを破壊する工程。
(23)重合体組成物を製造する方法であって、該方法は、以下を包含する:
生体適合性で再吸収可能な重合体を提供する工程;
該重合体を破壊する工程;
該破壊された重合体を架橋する工程;および
該架橋した破壊された重合体を水性緩衝液と配合する工程。
(24)前記架橋工程が、前記重合体を放射線に暴露することを包含する、項目22または23に記載の方法。
(25)前記架橋組成物を、殺菌放射線に暴露したとき前記重合体の変性を抑制するのに効果的な一定量の安定剤を配合する工程をさらに包含する、項目24に記載の方法。
(26)前記安定剤が、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸の他の塩、または酸化防止剤である、項目25に記載の方法。
(27)組織路を封鎖する方法であって、該方法は、該組織路を、項目1に記載の組成物で少なくとも一部満たす工程を包含する。
(28)患者の体内の標的部位での出血を抑制する方法であって、該方法は、項目1に記載の組成物を、出血を抑制するのに充分な量で、該標的部位に送達する工程を包含する。
(29)患者の体内の標的部位に生体活性物質を送達する方法であって、該方法は、該生体活性物質と組み合わせて、項目1に記載の組成物を該標的部位に送達する工程を包含する。
(30)膨潤可能組成物を、組織の標的部位に送達する方法であって、該方法は、項目1に記載の組成物を提供する工程、および該組成物を該標的部位に適用する工程を包含し、該組成物は、その平衡膨潤未満で水和されており、それは、平衡膨潤値まで膨潤する。
(31)以下を包含するキット:
無菌の生体適合性で再吸収可能な分子架橋ゲルを含有する組成物;
該ゲルを組織の標的部位に適用するための説明書;および
該組成物および該説明書を保持する容器。
(32)前記ゲルが、脱水されている、項目31に記載のキット。
(33)前記ゲルが、水和されている、項目31に記載のキット。
(34)重合体組成物を、患者の体内の標的部位に適用する方法であって、該方法は、以下を包含する:
生体適合性で再吸収可能な分子架橋ヒドロゲルを提供する工程;および
該ゲルを、該標的部位でオリフィスを通して押し出す工程。
(35)前記押出工程が、前記ヒドロゲルを、0.01mm〜5.0mmの範囲のオリフィスサイズを
有する注射器を通して手動で送達する工程を包含する、項目34に記載の方法。
(36)前記ヒドロゲルが、前記押出工程前に破壊されている、項目34に記載の方法。
(37)前記標的部位が、筋肉、皮膚、上皮組織、結合または支持組織、神経組織、眼部および他の感覚器官の組織、血管および心臓組織、消化管器官およびその組織、胸膜および他の肺組織、腎臓、内分秘腺、男性および女性生殖器、脂肪組織、肝臓、膵臓、リンパ腺、軟骨、骨、口蓋組織、および粘膜組織、および脾臓および他の腹部臓器からなる群から選択した組織に存在する、項目34に記載の方法。
(38)前記標的部位が、前記選択した組織内の空孔領域である、項目37に記載の方法。
(39)前記空孔領域が、組織窪み、組織路、椎骨内空間および体腔からなる群から選択される、項目38に記載の方法。
(40)さらに、前記ゲルを押し出した後、前記空孔上に、隔膜層を固定化する工程を包含する、項目38に記載の方法。
(41)前記押出工程が、0.05mm〜3.0mmの範囲の大きさを有するサブユニットへの、前記
ヒドロゲルの破壊を引き起こす、項目33に記載の方法。
(42)分子架橋ヒドロゲルを含有するアプリケータであって、該アプリケータは、以下を包含する:
内部レセプタクル容量および押出オリフィスを有するアプリケータ本体;および
該内部レセプタクル内の一定量の生体適合性で再吸収可能な分子架橋ヒドロゲル。
(43)前記アプリケータ本体が、0.01mm〜5.0mmの範囲のオリフィスサイズを有する注射
器である、項目42に記載のアプリケータ。
(44)以下を含有する無菌パッケージ:
密封内部を有する容器;および
項目42または43のいずれかに記載のアプリケータであって、該アプリケータは、該容器内にて、無菌状態で維持される。
【0015】
発明の要旨
本発明は、改良された生体分解性重合体組成物、およびこのような組成物を患者の体内の標的部位に適用する方法を提供する。この方法および組成物は、手術および外傷に続いた組織癒着(例えば、脊髄組織の癒着)の形成を防止または抑制するのに、特に有用である。加えて、この組成物および方法はまた、特に適切な止血剤(例えば、トロンビン、フィブリノーゲン、凝固因子など)と組み合わせたとき、出血の停止または抑制(止血)にて、用途を見出すことができる。これらの組成物は、さらに、特に、筋肉、皮膚、上皮組織、結合または支持組織、神経組織、眼部および他の感覚器官の組織、血管および心臓組織、消化管器官およびその組織、胸膜および他の肺組織、腎臓、内分秘腺、男性および女性生殖器、脂肪組織、肝臓、膵臓、リンパ腺、軟骨、骨、口蓋組織、および粘膜組織に存在する軟および硬組織領域(窪み、路、体腔、他を含めて)を充填するために、組織を補填するのに有用である。本発明の組成物は、さらに、その物質が細胞/酵素不浸透性隔膜または被覆により劣化から保護されている場合に、軟らかい移植可能デバイス(例えば、胸部移植片)を充填するのに、有用である。これらの組成物は、さらに、限定された空間を、生体分解性で再吸収性の重合体物質で満たすのが望ましい他の手順にて、有用である。加えて、これらの組成物は、薬剤または他の生物学的活性剤(この薬剤が、時間の経過に従って、その標的部位で放出できる場合)と組み合わせてもよい。
【0016】
本発明の組成物は、分子架橋したヒドロゲルを含有し、これは、再吸収可能であり、このゲルの流動性(例えば、注射器を通って押し出すことができる性能)およびこのゲルを組織上または組織内の部位(組織表面および限定空隙、例えば、椎骨間空間、組織の窪み、穴、ポケットなどを含む)に流して順応させる性能を高める大きさおよび他の物理的特性を有する小サブユニットを含有する。特に、これらのサブユニットは、この組成物が閾値以上の応力に曝されたとき(例えば、オリフィスまたはカニューレを通して押し出したとき、またはスパチュラなどを用いて送達部位にパックしたとき)、流動できるような大きさに作られる。この閾値応力は、典型的には、3×10 Pa〜5×10 Paの範囲である。しかしながら、これらの組成物は、一般に、閾値未満のレベルの応力に曝されたときは、不動の状態のままである。
【0017】
これらの組成物は、乾燥、部分水和または完全水和であり得、水和の程度に依存して、0%〜100%の膨潤度を示す。完全に水和した物質は、およそ50%〜およそ500%、通常、およそ50%〜およそ250%の範囲のサブユニットの個々の粒子の直径および幅のほんのわずかの増加に対応して、重量あたり、約400%〜約1300%の水または水性緩衝液を吸収する。それゆえ、乾燥粉末出発物質(水和前)の粒径は、(以下で記述の要因に依存して)、このサブユニットの部分水和または完全水和サイズを決定する。この乾燥粒子および完全に水和したサブユニットの代表的な好ましいサイズ範囲は、以下である:
粒子/サブユニットサイズ
【0018】
【表1A】

【0019】
本発明の組成物は、通常、乾燥粉末、部分水和ゲルまたは完全水和ゲルの形状である。この乾燥粉末(20重量%未満の水分含量を有する)は、以下で記述のように、ヒドロゲルの調製の出発物質として有用である。この部分水和ゲルは、典型的には、50%〜80%の水和度を有するが、この物質が、湿潤標的部位(例えば、組織窪み)に適用すると、さらに膨潤するのが望ましい場合の用途に、有用である。この完全水和形状は、その場での膨潤が望ましくない場合の用途(例えば、脊柱、および神経および他の感覚構造が存在する他の領域での用途)に有用である。
【0020】
これらのサブユニットの寸法は、種々の方法で得ることができる。例えば、標的範囲(
以下で規定する)よりも大きい寸法を有する架橋ヒドロゲルは、製造プロセス中に、種々
の点で機械的に破壊されるおそれがある。特に、この組成物は、例えば、完全または部分水和物質または乾燥微粒子粉末として、(1)重合体出発物質の架橋の前または後および(2)この架橋または非架橋重合体出発物質の水和の前または後で、破壊される場合がある。「乾燥」との用語は、その水分含量が充分に低く、典型的には、水分20重量%未満であり、その結果、その粉末が自由に流動し、かつ個々の粒子が凝集していないことを意味する。「水和」との用語は、その水分含量が充分に高く、典型的には、平衡水和レベルの50%より多く、通常、平衡水和レベルの80%〜95%の範囲であり、その結果、この物質がヒドロゲルとして作用することを意味する。
【0021】
この重合体物質の乾燥状態での機械的な破壊は、その粒径および/または粒径分布を制
御するのが望ましい場合には、好ましい。乾燥粒子は、水和ヒドロゲル物質よりも、粉末化を制御するのが容易であり、それゆえ、得られた小さい粒径は、容易に調整される。逆に、水和した架橋ヒドロゲルの機械的な破壊は、一般に、簡単であって、乾燥重合体出発物質の粉末化より、関与する工程が少ない。それゆえ、水和ゲルの破壊は、最終的なゲルサブユニットのサイズおよび/またはサイズ分布が重要ではないときに、好ましいことであり得る。
【0022】
第一の代表的な製造方法では、乾燥非架橋の重合体出発物質(例えば、乾燥ゼラチン粉
末)は、通常のユニット操作(例えば、均質化、摩砕、コアセルベーション、ミリング、ジェットミリングなど)により、機械的に破壊される。この粉末は、その生成物を部分水和または完全水和したとき、所望範囲のヒドロゲルサブユニットサイズを生じるような乾燥粒径を得るのに充分に、破壊される。この乾燥粒径と完全水和サブユニットサイズとの関係は、以下でさらに規定するように、この重合体物質の膨潤度に依存する。
【0023】
他方、この微粒子重合体出発物質は、噴霧乾燥により形成できる。噴霧乾燥プロセスは、溶液を小オリフィス(例えば、ノズル)に流して小滴(これは、向流または並流の気体流、典型的には、加熱気体流に放出される)を形成することに頼っている。この気体は、液体出発物質(これは、溶液、分散液などであり得る)から溶媒を蒸発させる。乾燥粉末出発物質を形成するために噴霧乾燥を使用することは、この出発物質の機械的な破壊の代替法である。その噴霧乾燥操作により、通常、非常に均一な粒径を有する非架橋乾燥粉末生成物が生じる。これらの粒子は、次いで、以下で記述のように、架橋できる。
【0024】
多くの場合には、この機械的な破壊操作は、所望範囲内の粒径および粒径分布の両方を得るのに充分に制御できる。しかしながら、より正確な粒径分布が必要な他の場合には、破壊した物質は、例えば、ふるい分け、凝集などにより、さらに処理または選択されて、所望の粒径分布が得られ得る。機械的に破壊した重合体出発物質は、次いで、以下でさらに詳細に記述するように架橋され、そして乾燥される。乾燥した物質は、使用直前に再水和または膨潤できる場合には、所望の最終生成物であり得る。他方、機械的に破壊した架橋物質は、再水和でき、再水和した物質は、保存およびそれに続く使用のために、包装される。これらの物質を包装し使用する特定の方法は、以下で記述する。
【0025】
断片化したヒドロゲルのサブユニットサイズがそれ程重要ではない場合、乾燥重合体出発物質は、適切な緩衝液に水和、溶解または懸濁され、そして機械的破壊前に架橋できる。予備成形ヒドロゲルの機械的な破壊は、典型的には、このヒドロゲルをオリフィスに通すことにより達成され、この場合、このオリフィスのサイズおよび押出し力は、共に、その粒径および粒径分布を決定する。この方法は、しばしば、水和および架橋前の乾燥重合体粒子の機械的な破壊よりも、操作上簡単であるものの、そのゲル粒径を制御する性能は、正確さにずっと劣る。
【0026】
予備成形ゲルの機械的破壊の特定の局面では、これらのゲルは、機械的破壊前に、注射器または他のアプリケータに充填できる。これらの物質は、次いで、以下でさらに詳細に述べるように、注射器を通して組織標的部位に適用されるにつれて、機械的に破壊される。他方、破壊されていない架橋重合体物質は、使用前に、乾燥形状で保存できる。この乾燥物質は、次いで、注射器または他の適切なアプリケータに装填され、このアプリケータ内で水和され、この物質が標的部位に送達されるにつれて、また、典型的には、オリフィスまたは小管状ルーメンを通って、機械的に破壊できる。
【0027】
この重合体は、以下でさらに詳細に記述のように、架橋され水和されて、ヒドロゲルを形成できる。代表的な重合体には、ゼラチン、コラーゲン(例えば、可溶性コラーゲン)、アルブミン、ヘモグロビン、フィブリノーゲン、フィブリン、フィブロネクチン、エラスチン、ケラチン、ラミニン、カゼインおよびそれらの誘導体および組合せから選択されるたんぱく質が挙げられる。他方、この重合体は、多糖類、例えば、グリコサミノグリカン、デンプン誘導体、セルロース誘導体、ヘミセルロース誘導体、キシラン、アガロース、アルギン酸塩、キトサン、およびそれらの組合せを包含できる。別の代替物としては、この重合体は、非生物性ヒドロゲル形成重合体、例えば、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリビニル重合体、ポリラクチド−グリコリド、ポリカプロラクトン、ポリオキシエチレン、およびそれらの誘導体および組合せを包含できる。
【0028】
この重合体の架橋は、いずれかの通常の様式で達成できる。例えば、タンパク質の場合には、架橋は、適切な架橋剤(例えば、アルデヒド、過ヨウ素酸ナトリウム、エポキシ化
合物など)を用いて、達成できる。他方、架橋は、放射線(例えば、γ−放射線または電子ビーム放射線)への暴露により、誘導できる。多糖類および非生物性重合体もまた、適切な架橋剤および放射線を用いて架橋できる。加えて、非生物性重合体は、架橋重合体および共重合体として、合成できる。例えば、モノ不飽和モノマーとポリ不飽和モノマーとの間の反応の結果、架橋度を制御した合成重合体が生じ得る。典型的には、その重合体分子は、それぞれ、20 kD〜200 kDの範囲の分子量を有し、そのネットワーク内にて、別の重合体分子との少なくとも1個の連結、しばしば、1個〜5個の連結を有し、この場合、実際の架橋レベルが部分的に選択されて、以下で示した範囲で、所望の生物分解速度が得られる。
【0029】
この重合体の架橋の程度は、このヒドロゲルのいくつかの機能的特性(押出性、周囲の
生体液の吸収性、凝集性、空間を満たす能力、膨潤能および組織部位に付着する能力を含めて)に対する効果がある。この重合体ゲル組成物の架橋の程度は、架橋剤の濃度、架橋
放射線への暴露の制御、モノ−およびポリ不飽和モノマーの相対量の変更、反応条件の変更などを調整することにより、制御できる。典型的には、架橋度は、架橋剤の濃度を調整することにより、制御される。
【0030】
放射線(例えば、γ−放射線)への暴露はまた、包装の前または後に、この組成物を無菌化するために、行うことができる。この組成物が放射線感受性物質から構成されているとき、この組成物を殺菌放射線から保護する必要がある。例えば、ある場合には、遊離ラジカル機構から物質のさらなる架橋を抑制するために、アスコルビン酸を添加するのが望ましい。
【0031】
本発明のヒドロゲル組成物は、典型的には、1重量%〜70重量%の範囲、好ましくは、5重量%〜20重量%の範囲、さらに好ましくは、5重量%〜16重量%の範囲の固形分含量を有する。高い固形分含量(典型的には、16重量%以上)を有するゲルについては、典型的には、0.1重量%〜30重量%、好ましくは、1重量%〜5重量%で、この組成物に、可塑剤を含有させるのが好ましい。適切な可塑剤には、ポリエチレングリコール、ソルビトール、グリセロールなどが挙げられる。
【0032】
本発明の架橋重合体の平衡膨潤は、一般に、意図した用途に依存して、400%〜1300%、好ましくは、500%〜1100%の範囲である。このような平衡膨潤は、架橋度を変えることにより制御でき、この架橋度の変更は、今度は、架橋条件(例えば、架橋方法のタイプ、架橋剤への暴露の持続期間、架橋剤の濃度、架橋温度など)を変えることにより、達成される。
【0033】
平衡膨潤値が約400%〜1300%を有する物質を調製し、以下の実験の項で記述する。異なる平衡膨潤値を有する物質は、異なる用途で、異なる挙動を示すことが分かった。例えば、肝臓の窪みモデルにおいて、止血する能力は、700%〜950%の範囲の膨潤を有する架橋ゼラチン物質を用いて、最も容易に得られた。大腿動脈プラグに対しては、500%〜600%の範囲のより低い平衡膨潤値がよりうまくいく。それゆえ、架橋および平衡膨潤を制御する能力により、本発明の組成物は、多様な用途に対して、最適化できる。
【0034】
平衡膨潤に加えて、標的部位への送達直前に、この物質の水和を制御することもまた、重要である。水和および平衡膨潤は、もちろん、密接に関連している。水和が0%の物質は、膨潤していない。水和が100%の物質は、その平衡含水量の状態である。0%と100%の間の水和は、最小量と最大量の間の膨潤に相当する。実用的な問題としては、本発明による多くの乾燥非膨潤物質は、通常、いくらかの残留含水量、20重量%未満、より一般的には、8重量%〜15重量%を有する。本明細書中で、「乾燥」との用語を使用するとき、個々の粒子が自由に流動していて、一般に、膨潤していない場合に、低い含水量を有する物質を規定する。
【0035】
水和は、使用前に、乾燥したまたは部分的に水和した架橋物質に添加する水性緩衝液の量を制御することにより、非常に簡単に調整できる。通常、最小限、注射器または他の送達デバイスを通した押出を可能にするのに充分な水性緩衝液を導入するのが、望ましい。しかしながら、他の場合には、さらに少ない流体物質を送達するスパチュラまたは他のアプリケータを使用するのが望ましい場合がある。意図している用途もまた、所望の水和度を決定するのに役立つ。湿潤した空洞を満たすかまたは封鎖するのが望ましい場合には、一般に、その標的部位から水分を吸収することにより、この空洞を膨潤し満たすことができる部分水和ゲルを使用することが、望まれている。逆に、脳、脊髄近傍での適用、および神経近傍の標的部位および配置後膨潤により損傷を受け得る他の敏感な身体構造への適用には、完全にまたは実質的に完全に水和したゲルが好ましい。また、過剰の緩衝液を用いて本発明のゲル組成物を調製することも可能であり、完全水和ゲルおよび遊離緩衝液相を有する2相組成物が得られる。
【0036】
本発明による好ましいヒドロゲル物質は、平衡水和での700%〜950%の膨潤が得られるまで架橋したゼラチンである。この物質は、部位に適用する前に、0.01mm〜1.5mmの範囲、好ましくは、0.05mm〜0.5mmの範囲のゲル粒径を有するように破壊され、好ましくは、70%〜100%の平衡膨潤を得るのに充分なレベルで水和される。
【0037】
ある場合には、本発明のヒドロゲル組成物は、2種またはそれ以上の異なる物質の組合せ、例えば、タンパク質および多糖類および/または非生物性重合体の組合せ、ならびに
、各重合体タイプに由来の2個またはそれ以上の個々の物質(例えば、2種またはそれ以
上のタンパク質、多糖類など)の組合せを含有できる。
【0038】
本発明の重合体組成物はまた、上記の破壊した架橋重合体ヒドロゲルおよび非架橋重合体物質の組合せを含有できる。破壊した架橋重合体ヒドロゲルは、調製方法により決定したサイズを有する複数のサブユニットからなる。このサイズは、以下で記述の流動性および生物分解速度の両方を有しつつ、限定容量を充填するのに有用であるように選択される。しかしながら、架橋サブユニットの別個の性質により、空孔領域が残り、これは、非架橋重合体物質と組み合わせて満たすことができる。この非架橋重合体物質または他の充填物質は、上で列挙した重合体物質のいずれかを包含でき、必要に応じて(必須ではないが)、架橋し機械的に破壊したゲルを形成するために架橋した同じ重合体物質であり得る。架橋重合体および非架橋重合体の相対量は、任意の機械的な破壊および標的部位への送達後、典型的には、20:1〜1:1の範囲、通常、10:1〜2:1の範囲、好ましくは、5:1〜2:1の範囲の(架橋重合体:非架橋重合体)重量比で、比較的に連続した(空孔のない)組成物を与えるように選択される。
【0039】
本願のヒドロゲルは、注射器、スパチュラ、ブラシ、スプレーを用いて、手動で圧迫して、または任意の他の通常の手法により、適用できる。通常、このゲルは、オリフィス、開口、針、管または他の通路を通してこのゲルを押し出すことができる注射器または類似のアプリケータを用いて適用でき、物質のビーズ、層または類似の部分が形成される。このゲルの機械的破壊は、このゲルが、典型的には、0.01mm〜5.0mmの範囲、好ましくは、0.5mm〜2.5mmの範囲のサイズを有しつつ、注射器または他のアプリケータのオリフィスを通って押し出されるにつれて、起こり得る。しかしながら、好ましくは、この重合体ヒドロゲルは、最初に、所望の粒径を有する粉末(これは、水和すると、必要なサイズのヒドロゲルサブユニットを生じる)から調製されるか、または最終押出工程または他の適用工程前に、必要なサイズまで、部分的にまたは完全に機械的に破壊される。
【0040】
この組成物は、水和度を変えて適用でき、通常(必須ではないが)、少なくとも部分的に水和されている。非水和形態で適用するなら、この組成物は、その完全な平衡膨潤値(すなわち、上で述べたように、約400%〜約1300%)まで膨潤される。その平衡水和レベルで適用すると、この組成物は、実質的に平衡な水和を示し、組織に適用すると、殆どまたは全く膨潤しない。非水和または部分水和組成物の膨潤は、この組成物が適用される組織またはその周囲からの水分の吸収から生じる。
本発明は、さらになお、任意の上記の水和または非水和ゲル物質を、このゲルを組織の標的部位に適用する上記方法のいずれかを述べた使用説明書(IFU)と組み合わせて含むキットを提供する。この組成物および説明書は、共に、通常の容器(例えば、箱、ジャー、パウチ、トレイなど)に入れられる。この説明書は、紙または他の材料の別個のシートに印刷され、この容器上または容器内に包装されるかまたはこの容器上に印刷できる。通常、この組成物は、別個の無菌ボトル、ジャー、バイアルなどに入れて、提供される。このゲル物質が非水和のとき、そのキットは、必要に応じて、水和用の適切な水性緩衝液を入れた別の容器を含んでいてもよい。他の系の構成要素(例えば、アプリケータ、例えば、注射器)もまた、提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】図1は、術後脊椎癒着を防止するための、手術でできた椎体内の欠陥への本発明の分子架橋重合体ゲルの適用を例示する。
【図2】図2Aおよび2Bは、軟組織内の欠陥への本発明の分子架橋重合体ゲル組成物の適用を例示し、この場合、この欠陥をこの重合体組成物で満たした後、治療領域は、必要に応じて、保護パッチで覆われる。
【図3】図3Aおよび3Bは、血管への経皮組織貫入(例えば、脈管内カテーテル法の一部として形成した組織路)を満たすための、本発明の分子架橋重合体組成物の使用を例示する。
【図4】図4は、本発明の分子架橋重合体組成物を含むアプリケータ用の無菌パッケージを含むキットを例示する。
【図5】図5は、重合体ゲルの膨潤パーセントと固形分パーセントとの間の相関を例示する。
【発明を実施するための形態】
【0042】
特定の実施態様の説明
本発明による組成物は、再吸収可能な生体分解性分子架橋ヒドロゲルを含有する。「生体分解性」とは、物質が、the International Organization for Standardization(NAMSA、Northwood、Ohio)により公表された標準 # ISO 10993−1の規準を満たすことを意味する。「再吸収可能」とは、その組成物が、患者の体内の標的部位に直接配置する(そして、胸部移植片のような移植装置内で保護されていない)とき、1年以下、通常、1日〜1年、さらに一般的には、1日〜120日の期間にわたって、分解または溶解することを意味する。再吸収および分解を測定する特定のプロトコルは、この後の実験の項で述べる。「分子架橋」とは、物質が、元素、基または化合物いずれかから構成されるブリッジにより結合した重合体分子(すなわち、個々の鎖)を含有し、この場合、この重合体分子の骨格原子は、主要な化学結合により連結されていることを意味する。架橋は、以下でさらに詳細に述べるように、多様な様式で起こり得る。
【0043】
「ヒドロゲル」とは、以下でさらに詳細に定義するように、この組成物が、生物性重合体または非生物性重合が水または水性緩衝液を吸収する単一相水性コロイドを含有することを意味する。このヒドロゲルは、多数のサブネットワークを含有し、各サブネットワークは、水和度に依存し上で述べた範囲内の寸法を有する分子架橋ヒドロゲルである。好ましくは、このヒドロゲルは、殆どまたは全く遊離の水を有しない。すなわち、簡単な濾過により、このヒドロゲルから水を取り除くことはできない。
【0044】
「膨潤パーセント」とは、乾燥重量を湿潤重量から差し引き、乾燥重量で割り、そして100を掛けたことを意味し、この場合、湿潤重量は、例えば、濾過により、この物質の外部から湿潤剤をできるだけ完全に取り除いた後に測定され、乾燥重量は、湿潤剤をエバポレートさせるのに充分な時間にわたって、高温に曝した後(例えば、120℃で2時間)、測定される。
【0045】
「平衡膨潤」は、重合体物質を含水量が一定となるのに充分な時間(典型的には、18〜24時間)にわたって湿潤剤に浸漬した後の平衡状態の膨潤パーセントとして定義される。
【0046】
「標的部位」とは、このゲル物質を分配されるべき位置である。通常、標的部位は、問題の組織位置であるが、ある場合には、例えば、この物質がインサイチュで膨潤して問題の位置を覆うとき、このゲルは、問題の位置の近くの位置に投与または分配できる。
【0047】
本発明のヒドロゲルは、生物性重合体および非生物性重合体から形成できる。適切な生物性重合体には、タンパク質、例えば、ゼラチン、溶解性コラーゲン、アルブミン、ヘモグロビン、カゼイン、フィブリノーゲン、フィブリン、フィブロネクチン、エラスチン、ケラチン、ラミニン、およびそれらの誘導体および組合せが挙げられる。ゼラチンまたは溶解性の非繊維状コラーゲンの使用は、特に好ましく、ゼラチンは、さらに好ましく、代表的なゼラチン調合物は、以下に示す。他の適切な生物性重合体には、多糖類、例えば、グリコサミノグリカン、デンプン誘導体、キシラン、セルロース誘導体、ヘミセルロース誘導体、アガロース、アルギン酸塩、キトサン、およびそれらの誘導体および組合せが挙げられる。適切な非生物性重合体は、以下の2個の機構のいずれかにより分解できるように、選択される:すなわち、(1)その重合体骨格の分解または(2)水溶解性を生じる側鎖の分解。代表的な非生物性ヒドロゲル形成重合体には、合成物、例えば、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリビニル樹脂、ポリラクチド−グリコリド、ポリカプロラクトン、ポリオキシエチレン、およびそれらの誘導体および組合せが挙げられる。
【0048】
この重合体分子は、本発明に従って水性ヒドロゲルを形成するのに適切な任意の様式で、架橋できる。例えば、重合体分子は、2個またはそれ以上の重合体分子鎖に共有結合する二官能性または多官能性架橋剤を用いて、架橋できる。代表的な二官能性架橋剤には、アルデヒド、エポキシド、スクシンイミド、カルボジイミド、マレイミド、アジド、カーボネート、イソシアネート、ジビニルスルホン、アルコール、アミン、イミデート、無水物、ハロゲン化物、シラン、ジアゾアセテート、アジリジンなどが挙げられる。あるいは、架橋は、この重合体上の側鎖または部分が他の側鎖または部分と反応して架橋結合を形成し得るように、それらを活性化する酸化剤および他の試薬(例えば、過酸化物)を用いることにより、達成できる。さらなる架橋方法は、この重合体を放射線(例えば、ガンマ線)に曝露して架橋反応を可能にするように重合体を活性化することを包含する。脱水素熱架橋法もまた、適切である。ゼラチンの脱水素熱架橋は、高温(典型的には、120℃)で少なくとも8時間保持することにより、達成できる。平衡状態での膨潤パーセントの低下で明らかなように、架橋度の増加は、保持温度を高めるか、保持持続時間を伸ばすか、または両方の組合せにより、達成できる。減圧下での操作は、この架橋反応を促進できる。ゼラチン分子を架橋する好ましい方法を、以下に記述する。
【0049】
必要に応じて、この分子架橋ヒドロゲルは、その可鍛性、可撓性およびゲル分解速度を高めるために、可塑剤を含有できる。この可塑剤は、アルコール、例えば、ポリエチレングリコール、ソルビトールまたはグリセロールであり得、好ましくは、約200〜1000 Dの範囲、好ましくは、約400 Dの範囲の分子量を有するポリエチレングリコールである。この可塑剤は、この組成物中にて、この組成物の約0.1重量%〜約30重量%、好ましくは、約1重量%〜5重量%で存在する。この可塑剤は、高固形分含量、典型的には、この組成物の10重量%以上(可塑剤を除いて)のゲルを用いた用途に、特に有益である。
【0050】
分子架橋ゼラチンを生成する代表的な方法は、以下である。ゼラチンが得られ、典型的には、1重量%〜70重量%、通常、3重量%〜10重量%の固形分含量を有する非架橋ゲルを形成するために、水性緩衝液に配置される。このゼラチンは、典型的には、グルタルアルデヒド(例えば、0.01%〜0.05% w/w、水性緩衝液中にて0℃〜8℃で一晩)、過ヨウ素酸ナトリウム(例えば、0.05 M、0℃〜8℃で48時間保持)または1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(「EDC」)(例えば、0.5%〜1.5% w/w、室温で一晩)に曝すことにより、または約0.3〜3メガラドのガンマ線または電子線に曝露することにより、架橋される。あるいは、ゼラチン粒子は、1重量%〜70重量%、通常、3重量%〜10重量%の固形分含量で、アルコール(好ましくは、メチルアルコールまたはエチルアルコール)に懸濁でき、そして架橋剤(典型的には、グルタルアルデヒド(例えば、0.01%〜0.1% w/w、室温で一晩))に曝すことにより、架橋される。グルタルアルデヒドで架橋するとき、この架橋は、ホウ水素化ナトリウムでの引き続く処理により安定化できるシッフ塩基を介して、形成される。アルデヒドの場合には、そのpHは、約6〜11、好ましくは、7〜10に保持すべきである。架橋後、得られた顆粒は、蒸留水で洗浄され、必要に応じて、アルコールですすがれ、乾燥され、そして所望の緩衝液およびpHを有する水性媒体中にて、所望の水和度まで再懸濁できる。次いで、得られたヒドロゲルは、以下でさらに詳細に記述するように、本発明のアプリケータに装填できる。あるいは、このヒドロゲルは、以下でさらに詳細に記述するように、架橋前または架橋後に機械的に破壊してもよい。
【0051】
約400%〜約1300%の範囲、好ましくは、600%〜950%の範囲の平衡膨潤パーセントを有する分子架橋ゼラチン組成物を生成する代表的な方法は、以下である。ゼラチンが得られ、溶液(典型的には、グルタルアルデヒド、好ましくは、0.01%〜0.1% w/wの濃度)中で、架橋剤を含有する水性緩衝液(典型的には、6〜11のpH、好ましくは、7と10の間のpH)に配置されて、典型的には、1重量%〜70重量%、通常、3重量%〜10重量%の固形分含量を有するゲルが形成される。このゲルはよく混合され、架橋が起こるとき、0℃〜8℃で一晩保持される。それは、次いで、脱イオン水で3回すすがれ、アルコール(好ましくは、メチルアルコール、エチルアルコールまたはイソプロピルアルコール)で2回すすがれ、そして室温で乾燥される。必要に応じて、このゲルは、ホウ水素化ナトリウムで処理されて、この架橋がさらに安定化できる。
【0052】
本発明の組成物は、さらに、他の物質および成分(例えば、患者に分配できる生体活性
成分(単数または複数)、粘度改良剤(例えば、炭水化物およびアルコール)、および再吸収速度を制御するというような他の目的を意図した他の物質)と組み合わせてもよい。代表的な生体成分には、タンパク質、炭水化物、核酸、および無機および有機生体活性分子(例えば、酵素、抗生物質、抗腫瘍剤、静菌剤、殺菌剤、抗ウイルス剤、止血薬、局所麻酔薬、抗炎症剤、ホルモン、抗血管形成剤、抗体、神経伝達物質、精神活性薬、生殖器に影響を与える薬剤、およびオリゴヌクレオチド(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド))が挙げられるが、これらに限定されない。このような生体活性成分は、典型的には、比較的に低い濃度、典型的には、この組成物の10重量%未満、通常、5重量%未満、しばしば、1重量%未満で存在する。
【0053】
代表的な止血薬には、トロンビン、フィブリノーゲンおよび凝固因子が挙げられる。トロンビンのような止血薬は、ゲル1mlあたり、50〜10,000単位の範囲のトロンビン濃度、好ましくは、ゲル1mlあたり、約100〜約1000単位の範囲のトロンビン濃度で、添加できる。
【0054】
本発明の分子架橋ヒドロゲルは、オリフィスまたは他の流れ絞りに通す押出により標的部位に分配した時点で、機械的に破壊できるか、または標的部位に分配する前に、バッチ法で機械的に破壊できる。この機械的破壊工程の主要な目的は、それを分配した空間を満たし詰める性能を高めるサイズを有するヒドロゲルの複数サブユニットを作ることにある。この機械的破壊の他の目的は、このゲルが、小さな直径の管、カニューレおよび/または他のアプリケータを通って標的部位に至るのを促進することにある。機械的破壊なしでは、この分子架橋ヒドロゲルは、治療すべき不規則な標的空間(例えば、脊柱内の脈管内空間、組織窪み、経皮組織路など)に順応しそれを満たすのが困難である。このゲルを、より小さい大きさのサブユニットに分解することにより、このような空間は、架橋ゲルの機械的完全性(mechanical integrity)および粘り強さ(persistence)(これらは、それが癒着防止剤、組織充填剤などとして作用するのに、必須である)を保持しつつ、さらにより効率的に充填できる。驚くべきことに、典型的には、0.01mm〜5.0mmの範囲、好ましくは、0.1mm〜2.5mmの範囲のサイズのオリフィスを有する注射器を用いて、この組成物を手動で押し出すことにより、好ましい量の機械的破壊が得られ、上記のようなゲル特性が高まることが見出されている。
【0055】
他方、本発明のゲル組成物は、その最終使用または送達前に、機械的に破壊してもよい。このゲルの重合体鎖の分子架橋は、その機械的破壊の前または後に行うことができる。このゲルは、そのゲル組成物が上述の0.01mm〜5.0mm範囲のサイズを有するサブユニットに分解される限り、バッチ操作(例えば、混合)で機械的に破壊できる。このゲル組成物が使用前に破壊されるとき、このゲルは、例えば、スパチュラ、スプーンなどを用いて、押出以外の手法により、適用または投与できる。他のバッチ機械的破壊方法には、ホモジナイザーまたはミキサーまたはポンプを通したポンプ上げ(これは、このヒドロゲルの破壊降伏応力を超えるレベルまで、このゲルを圧縮、伸長またはせん断する)が挙げられる。ある場合には、この重合体組成物の押出により、このゲルは、実質的に連続的なネットワーク(すなわち、初期ゲル塊の寸法をわたるネットワーク)から、上で述べた範囲の寸法を有するサブネットワークまたはサブユニットの集まりへと転化される。他の場合には、注射器または他のアプリケータに包装する前に、このゲル組成物を部分的に破壊するのが望ましくあり得る。このような場合には、このゲル物質は、最終押出前に、所望のサブユニットサイズを達成する。
【0056】
現在好ましい実施態様では、この重合体は、架橋前(しばしば、通常、水和してゲルを
形成する前)に、まず、(例えば、噴霧乾燥により)調製され、および/または機械的に破壊してもよい。この重合体は、細かく分割したまたは粉末化した乾燥固形物として提供でき、これは、さらに粉末化することにより機械的に破壊して、所望サイズ(これは、通常、小さな範囲内で、狭く規定される)を有する粒子が得られる。別のサイズ選択および変性工程(例えば、ふるい分け、サイクロン分級など)を行うこともできる。以下で記述の代表的なゼラチン物質について、その乾燥粒径は、好ましくは、0.01mm〜1.5mmの範囲、さらに好ましくは、0.05mm〜1.0mmの範囲である。代表的な粒径分布は、これらの粒子の95重量%より多い量が、0.05mm〜0.7mmの範囲にあるような値である。この重合体出発物質を粉末化する方法には、均質化、摩砕、コアセルベーション、ミリング、ジェットミリングなどが挙げられる。粉末化した重合体出発物質はまた、噴霧乾燥により形成できる。その粒径分布は、通常の方法(例えば、ふるい分け、凝集、追加の摩砕など)により、さらに制御および改良できる。
【0057】
この乾燥粉末化固形物は、次いで、本明細書中の他の箇所で記述のように、水性緩衝液に懸濁され、そして架橋できる。他の場合には、この重合体は、水性緩衝液に懸濁され、架橋され、次いで、乾燥できる。この架橋した乾燥重合体は、次いで、破壊でき、破壊した物質は、引き続いて、水性緩衝液に再懸濁される。いずれの場合にも、得られた物質は、上で述べた寸法を有する分離したサブネットワークを有する架橋ヒドロゲルを含む。
【0058】
本発明の組成物は、機械的破壊後、再吸収される。すなわち、それは、その初期適用に続いて、1年未満の期間、通常、1〜120日間、好ましくは、1〜90日間、さらに好ましくは、2〜30日間で、患者の体内で生物分解する。このことは、この物質を術後および他の癒着を防止するのに使用するときに、特にあてはまり、この場合、その組織が治癒する限りにおいてのみ、治癒組織表面間において、隔膜が必要である。再吸収に必要な時間の長さを測定する手法は、以下の実験の項の実施例11に示す。他の場合(例えば、この組成物が移植可能デバイス(例えば、胸部インプラント)内に含まれるとき)には、この物質の再吸収は、この組成物を取り囲む膜または他の機械的隔膜(この隔膜の完全性が失われないなら)により、防止される。
【0059】
図1を参照すると、椎弓切開術後の癒着を防止する方法が記述されている。本発明の再吸収可能な分子架橋ゲルを含有する注射器10は、露出した全ての硬膜が被覆されるような様式で、このゲルを適用するように使用される。通常、このゲルは、7〜60日の範囲の期間にわたって、再吸収される。
【0060】
図2Aおよび2Bを参照すると、本発明の分子架橋ヒドロゲルはまた、軟組織T内の窪みDを満たすために、使用できる。バレル52、プランジャー54およびカニューレ56を含む注射器50は、このバレル52の内部に、分子架橋ヒドロゲルを含有する。ヒドロゲルGは、通常の様式でプランジャー54を押し下げることにより、カニューレ56を通って押し出される。図2Bに示すように、窪みを満たすために十分なゲルが押し出される。好ましくは、湿った組織環境に曝すとさらに膨潤する部分水和ヒドロゲルが使用される。図2Bに示すように、このゲルの露出表面上にパッチPを置くことが望ましい場合がある。このパッチは、接着剤または他の通常の自己固定パッチであり得る。しかしながら、好ましくは、このパッチは、コラーゲン、ゼラチン、または公開PCT出願 WO 96/07355およびWO 92/14513に記述のように、エネルギー(例えば、光学エネルギーまたは高周波エネルギー)を適用することにより固定化できる他のフィルムを含む。
【0061】
図3Aおよび3Bを参照すると、本発明の組成物および方法はまた、経皮組織路TT(これは、血管BVにアクセスする上部組織により形成された)を満たすために、使用できる。隔膜要素70は、組織路TTの遠位端にて、この血管の内壁に沿って配置できる。隔膜要素70を一定位置に保持するためには、フィラメント72が使用できる。次いで、本発明の分子架橋ヒドロゲル物質を隔膜要素70上の組織路に押し出すためには、バレル76、プランジャー78およびカニューレ80を含む注射器74が使用される。図3Bに示すように、組織路TTの全内部容量を満たすためには、ヒドロゲルGが使用され、好ましくは、部分的に水和されて、上記のような配置後膨潤が可能となる。必要に応じて、この組織路の露出表面には、パッチまたは他のカバー(図示せず)が配置できる。隔膜要素70は、次いで、取り除いてもよい。
【0062】
図4を参照すると、本発明は、通常、使用説明書と共に、適切な容器に包装した上記水和、部分水和および/または非水和重合体組成物を含むキットを包含する。例えば、この
組成物は、本発明の予備押出した分子架橋ヒドロゲルを含有するアプリケータ90に包装できる。このアプリケータは、多様な形状(先に記述した注射器を含めて)をとり得る。図4では、アプリケータ90は、押出オリフィスを規定するネック94を有する管92を包含する。このゲルは、この管内に含有され、この管を絞ることにより、ネック94を通って押し出すことができる。アプリケータ90は、好ましくは、無菌パッケージ96内に含まれる。この無菌パッケージは、種々の形状をとり、裏打ちシートおよび透明プラスチックカバーを含むエンベロープとして、図示されている。このようなパッケージは、通常の様式で無菌化できる。必要に応じて、このヒドロゲルを架橋するのに使用する放射線はまた、この全パッケージを無菌化するのにも使用できる。その使用説明は、この包装上に印刷されているか、またはこのパッケージに置いた別のシート上に書かれている。
【0063】
本発明はまた、擦傷したまたは損傷した組織表面(例えば、肝臓、脾臓、心臓、腎臓、
腸、血管、血管臓器などを含めた任意の臓器表面)の出血を抑制する(止血を行う)のに使用できる。このゲルを、擦傷したまたは損傷した組織部位に適用するためには、再吸収可能な分子架橋ゲルを止血剤と組み合わせて含有する注射器が使用される。このゲルは、激しく出血している擦傷または損傷領域が、この再吸収可能な分子架橋ゲルで完全に被覆されるように、適用される。適切な止血剤には、例えば、米国特許第5,411,885号;第4,627,879号;第4,265,233号;第4,298,598号;第4,362,567号;第4,377,572号;および第4,442,655号に記述のように、トロンビン、フィブリノーゲン、および他の凝固因子が挙げられ、これらの特許の開示内容は、本明細書中で参考として援用されている。好都合には、この止血剤(例えば、トロンビン)の触媒成分は、それらを合わせた活性が、組織に適用するまで保存されるように、使用直前に、注射器中で配合できる。
【0064】
神経および他の感覚身体構造を取り囲んでいる領域で使用するとき、包囲環境での膨潤に由来する神経に対する損傷を回避するために、完全水和ヒドロゲル(すなわち、平衡膨
潤にて、95%を超える水和度を有する)を使用するのが好ましい。
【実施例】
【0065】
以下の実施例は、限定ではなく、例示により、示されている。
実験
実施例1:断片化重合体生成物を製造するための物質および方法
断片化重合体組成物は、一般に、以下のようにして調製する:
発熱源のないガラス器および蒸留水を終始使用して、固形分10%の食品等級ゼラチン(300 Bloom、Woburn Co.、Woburn、MA.)を、0.1 N水酸化ナトリウム水溶液および0.05 M過ヨウ素酸ナトリウムで膨潤させ、そして0℃〜8℃で、2〜3日間保持した。膨潤した顆粒を、そのpHが8に達するまで、蒸留水で洗浄した。中和した膨潤顆粒を、層状フローフードにて乾燥し、そして0.05 Mリン酸ナトリウム、0.15 M塩化ナトリウム(pH 7.2 +/− 0.2)で10%固形分で再懸濁した。次いで、この組成物を3.0 cc注射器に充填し、そして3.0メガラドで、電子線を照射して、無菌化した。
実施例2:断片化重合体生成物を製造するための物質および方法
ゼラチン(Woburn)を、1〜10%固形分で、水性緩衝液(例えば、0.05 Mリン酸ナトリウム、0.15 M塩化ナトリウム、pH 7.2 +/− 0.2)にて膨潤させ、そしてグルタルアルデヒド(0.01〜0.05%、w/w、一晩、室温)、過ヨウ素酸ナトリウム(0.05 M、0℃〜8℃、48時間)または0.3〜3.0メガラドのガンマ線または電子線照射のいずれかにより、架橋した。次いで、このゲルを、通常の手動圧を用いて、注射器から押し出した。
実施例3:断片化重合体生成物を製造するための物質および方法
ゼラチン(Woburn)を、5℃まで冷却した1〜10%固形分(w/w)で、蒸留水中で膨潤させた。得られたゲルを、モーターにより駆動する羽根車で撹拌することにより、断片化した。次いで、過ヨウ素酸ナトリウムおよび水酸化ナトリウムを添加し、そして混合して、0.05 M過ヨウ素酸ナトリウムおよび0.10 M水酸化ナトリウムを達成した。この冷却混合物を、0℃〜8℃で、2〜3日間保持した。次いで、この架橋ゲル断片を5℃の水で洗浄して、pH 8を得た。最後に、このゲル断片を水性緩衝液(例えば、0.05 Mリン酸ナトリウム、0.15 M塩化ナトリウム、pH 7.2 +/− 0.2)で洗浄し、そして0℃〜8℃の状態にして、この緩衝液で平衡にした。この断片化ゲル塊から、遊離緩衝液をデカントし、そのゲル粒子を注射器に充填し、そして電子線またはガンマ線を3.0メガラドで照射して、無菌化した。次いで、このような無菌化断片化ゲルを、この注射器から直接押し出して、さらに断片化を行った。
実施例4:術後脊椎癒着の防止のための物質および方法
本研究では、断片化重合体組成物が、椎弓切開術後の傷跡形成を防止または低減する有効性を立証した。この研究には、体重約3.0〜4.0 kgのニュージーランド白ウサギ(R&R、Rabbitry、Stanwood、WA)を使用した。キシラジンと組み合わせたケタミン塩酸塩の筋肉内注射で、麻酔を導入した。各ウサギに、5 mg/kgの用量で、筋肉内に、Baytril(登録商標)を注射した。各ウサギの背中を、中央胸郭のレベル(約T−10)から尾部まで、毛を剃り落とした。剃り落とした領域は、腹側に充分に伸長しており、充分な皮膚試料を得ることができた。このウサギを、胸骨横臥の状態で、循環水加熱パッド上に置いた。小さなタオルを腹部に置くと、僅かな腰部屈曲を生じた。腰仙領域の皮膚を、ヨードフォアスクラブで調製し、そして70%アルコールですすいだ。
【0066】
L−1〜L−5で、正中皮膚切開をして、腰仙筋膜まで切開した。機械的圧縮および電気メスの組合せで、止血を達成した。この筋膜を切開して、棘突起の先端を露出させた。パラスピノス筋を、骨膜起子を用いて、この棘突起およびL−4薄片から離して切断した。次いで、これらの筋を、自己保持開創器(self−retaining retractor)を用いて、離して保持した。骨鉗子を用いた棘突起の除去および薄片の乳頭部ベースまでの両側への慎重な切除により、L−4の全体的な背部椎弓切開術を行った。
【0067】
脊髄または馬尾への損傷を回避するために、注意を払った。この椎弓切開術の欠陥を無菌生理食塩水で灌注し、いずれの残留骨断片も除去した。黄色靭帯および硬膜脂肪を除去して、椎弓切開術の期間にわたって露出した清浄硬膜を残した。
【0068】
このL−4部位での操作が完了したとき、L−2レベルでも、同じ椎弓切開術を行った。この間、このL−4部位を、無菌生理食塩水を浸したガーゼスポンジで、乾燥から保護した。L−3空間は、これらの2個の処理領域の間の柔軟な組織隔膜を与えるために、処理しなかった。一旦、両方の部位を調製すると、これらの部位を、以下のランダム化キーに従って、試験物質で処理するかまたは対照として残した。
【0069】
ウサギを実験群に割り振り、椎弓切開術を行った後、以下の処理を実施した。腰部部位の露出硬膜を、実施例1の断片化ゼラチン組成物0.5〜0.9mlで処理した。この物質を、全ての露出硬膜がこの試験物質で覆われるような様式で置いた。異なる腰部部位の露出硬膜には、処理を施さなかった。
【0070】
創傷は、さらに灌注することなく、層状に閉じた。腰仙筋膜は、簡単な中断様式にて、適当な大きさ(例えば、4〜0)の吸収可能縫合で、閉じた。皮下組織は、簡単な連続様式にて、吸収可能縫合で閉じ、そして皮膚は、適当な縫合材料および外科用クリップで閉じた。
【0071】
術後最初の5日間、これらの動物に、1日2回、筋肉内に、5 mg/kgの用量で、Baytril(登録商標)を与えた。
【0072】
動物を安楽死させ、術後7日間または28日間のいずれかで、検死を行った。手術切開により自由に解剖し、椎弓領域を検査した。
【0073】
硬膜癒着を、範囲および程度に従って、以下のようにして採点し点数をつけた:
硬膜癒着:脊柱管内の骨または深部傷跡と硬膜との間の結合組織の付着は、骨と硬膜の間にプローブを挿入して、これらの2個の構造を分離することにより、評価した。
【0074】
【表2A】

【0075】
この断片化ゼラチン組成物を適用した場合には、術後癒着が発生したケースはなかった。しかしながら、対照部位の71%には、癒着が起こった。試験した全ての動物部位から得た結果を組合せて、以下の表1に要約する。
【0076】
【表1】

【0077】
実施例5:血管閉鎖(vessel plug)
本研究では、組織血管を封鎖する断片化重合体組成物の有効性を立証した。農場等級のハンプシャー/ヨークシャー交配ブタ(Pork Power Farms、Turlock、California)の大腿動脈を同定し、そして針(SmartNeedle(登録商標)、CardioVascular Dynamics、Irvine、California)を用いて、カニューレ挿入した。そのガイドワイヤを配置した後、9フレンチ拡張器を用いて、血管へのトンネルを形成し、そしてこの大腿動脈の開口部を拡大した。この拡張器を取り除き、この大腿動脈に、7フレンチシース(sheath)を導入した。次いで、このガイドワイヤを取り除いた。このシースの側腕に血液を引き出すことにより、位置をチェックした。この皮膚切開にて、シースの導入時点で、拍動動脈流もまた観察した。このシースを取り除いて、皮下注射器に取り付けた18ゲージテフロン(登録商標)カテーテルチップを用いて、このトンネルに、実施例1の断片化ゼラチン組成物を挿入した。出口では、出血は認められず、このことは、この断片化ゼラチン組成物が血管穿刺部位および周囲組織を封鎖する際の有効性を立証している。
【0078】
実施例6:キャリアーとしての断片化重合体組成物
本研究では、肝臓の組織窪みを満たし封鎖するキャリアーとしての、実施例1の断片化重合体組成物の有効性を立証した。農場等級のハンプシャー/ヨークシャー交配ブタ(Pork Power Farms、Turlock、CA)の肝臓にて、3個の創傷(2個の組織窪みおよび1個の組織穿刺)を作り出した。
【0079】
肝臓組織窪み#1は、手術による組織窪みの形成に続いて、激しく出血した。およそ500 Uのトロンビン(500〜1000単位/ml)を含有するおよそ1mlの断片化ゼラチン組成物を、注射器から押出し、そしてこの組織欠陥を完全に満たすように適用した。2〜3分後、血液凝固が形成され、出血が即座に中断した。適用した組成物を鉗子で挟んだとき、それは、この組織に極めてよく付着しているように見え、良好な完全性を有していた。この封鎖剤は、手で適用し(manually challenged)、それ以上の出血は認められなかった。
【0080】
肝臓組織窪み#2は、手術による組織窪みの形成に続いて、激しく出血した。トロンビン(およそ500単位/ml)を含有するおよそ1mlの断片化ゼラチン組成物を、注射器から押出し、そしてこの組織欠陥を完全に満たすように適用した。アルゴンビーム凝固器(Valleylab、Boulder、Colorado、またはBirtcher Medical Systems、Irvine、California)を用いて、Rapiseal(登録商標)パッチ(Fusion Medical Technologies、Inc.、Mountain View、CA)を適用した。出血は、即座に中断した。
【0081】
肝臓組織窪み#1は、手術による鈍い穿刺の形成に続いて、激しく出血した。トロンビン(およそ500単位/ml)を含有するおよそ0.8mlの断片化ゼラチン組成物を、注射器から押出し、そしてこの組織欠陥を完全に満たすように適用した。この断片化ゼラチン組成物の送達のおよそ2分後、全ての出血は停止した。
【0082】
脾臓穿刺#1は、手術による鈍い穿刺の形成に続いて、激しく出血した。トロンビン(
およそ500単位/ml)を含有するおよそ0.8mlの断片化ゼラチン組成物を、注射器から押出し、そしてこの組織欠陥を完全に満たすように適用した。この断片化ゼラチン組成物の送達のおよそ2分後、全ての出血は停止した。
【0083】
上記の4個の例では、使用した送達系は、3 ccの注射器(Becton Dickinson、Franklin Lakes、New Jersey)であった。それは、実施例1の断片化ゼラチン組成物を含有していた。
【0084】
組織窪みおよび他の欠陥を満たすための本発明による物質は、以下のようにして調製できる。流動可能ゲル4.5mlに、トロンビン溶液(0.5ml;4,000〜10,000単位/ml)を添加して、400〜1000 U/mlのトロンビンを含有するゲル5mlを生成する。このゲルは、任意の便利な量(例えば、0.5ml〜5ml)で使用できる。
【0085】
実施例7:組織充填剤および吻合封鎖剤としての断片化重合体組成物
本研究では、組織欠陥を満たし封鎖する創傷閉鎖系としての断片化ゼラチン組成物の有効性を立証した。農場等級のハンプシャー/ヨークシャー交配ブタ(Pork Power Farms、Turlock、CA)にて、4個の組織窪み(tissue divots)(肺に1個、肝臓に2個、そして脾臓に1個)を手術で作り出した。
【0086】
肺では、手術による組織窪みの形成に続いて、空気漏れを観察した。およそ1mlの実施例1の断片化ゼラチン組成物を、注射器から押出して、この組織欠陥を完全に満たすように適用した。アルゴンビーム凝固器(Valleylab、Boulder、Colorado、またはBirtcher Medical Systems、Irvine、California)を用いて、Rapiseal(登録商標)パッチ(Fusion Medical Technologies、Inc.、Mountain View、CA)を適用した。空気漏れは、即座に停止した。適用したパッチを鉗子で挟んだとき、それは、この組織に極めてよく付着しているように見え、良好な完全性を有していた。この断片化ゼラチン組成物は、肺を28 cmの水圧まで換気することにより適用した。空気漏れは認められなかった。
【0087】
肝臓では、手術による組織窪みの形成に続いて、過剰な出血が認められた。およそ1mlの断片化ゼラチン組成物を、注射器から押出して適用し、この組織欠陥を完全に満たすように適用した。この断片化組成物は膨潤し、一部の滲出出血が認められたものの、出血を充分に停止した。
【0088】
肝臓では、手術による組織窪みの形成に続いて、過剰な出血が認められた。およそ1mlの断片化ゼラチン組成物を、注射器から押出して適用し、この組織欠陥を完全に満たすように適用した。アルゴンビーム凝固器(Valleylab、Boulder、Colorado、またはBirtcher Medical Systems、Irvine、California)を用いて、Rapiseal(登録商標)パッチ(Fusion Medical Technologies、Inc.、Mountain View、CA)を適用した。出血は、即座に中断した。適用したパッチを鉗子で挟んだとき、それは、この組織に極めてよく付着しているように見え、良好な完全性を有していた。
【0089】
脾臓穿刺#1は、手術による鈍い穿刺の形成に続いて、激しく出血した。およそ0.8mlの断片化ゼラチン組成物を、注射器から押出し、そしてこの組織欠陥を完全に満たすように適用した。この断片化ゼラチン組成物の送達のおよそ2分後、全ての出血は停止した。
【0090】
メスの若年の農業等級ヤギ(Clovertop Dairy、Madera、California)を、適当な麻酔下にて使用した。その右頚動脈(right cartoid artery)を露出させた。この血管を慎重に切断して、任意の結合組織を除去した。この血管を、無外傷性血管クランプを用いて固定し、およそ2〜3 cmの距離で分離した。この血管を、標準的なメス刃を用いて切断して、2個の遊離の血管末端を露出させた。中断様式での6−0プロレン縫合を用いて、末端間吻合を形成した。この吻合の完成に続いて、このクランプを解除した。この吻合部位での出血を観察した。トロンビン(およそ500単位/ml)を含有するおよそ2 ccの断片化ゼラチン組成物を、この吻合の回りで、注射器から押し出した。この組成物に対して、ガーゼを置いた。この断片化ゼラチン組成物の適用後およそ3分で、全ての出血は、停止したことが認められた。この切開を適当に閉鎖し、この動物を、次の追跡検査のために、回復させた。
実施例8:術後腹部癒着を防止する物質および方法
本研究は、単独で、またはRapiSealTMパッチ(Fusion Medical Technologies、Inc.、Mountain View、CA)と組み合わせて使用したとき、腹部空洞で癒着発生を防止/低減する際の断片化ゼラチン組成物の有効性を立証した。
【0091】
Sprague Dawleyラット(Harris、E.S.(1995) 「Analysis of the kinetics of peritoneal adhesion formation in the rat and evaluation of potential anti−adhesive agents」 Surgery 117:663−669)を用いて、手術癒着を評価するための
標準的な動物モデルを開発した。このモデルでは、単一の特定の癒着を、客観的に測定できる。
【0092】
本研究のために、15匹のSDラットを使用した。キシラジンと組み合わせたケタミン塩酸塩の筋肉内注射で、麻酔を誘導した。麻酔および適切な手術用準備に続いて、正中切開を行った。腹部体壁の欠陥を、この正中切開に対して、およそ1cm側方に形成した。この欠陥は、筋肉の表層を含めた壁側腹膜の1×2cm部分を切除することにより、形成した。次いで、1×2cm欠陥を、盲腸の漿膜表面上に作製した。次いで、盲腸を、メスで掻き出して摩滅させた。その結果、摩滅表面上に、点状出血の出欠表面が形成された。次いで、盲腸を上昇させ、閉鎖時には、盲腸が腹壁欠陥と接触するように配置した。この腹壁欠陥も同様に、摩滅させた。両摩滅領域を、空気に10分間曝した。
【0093】
以下の3個の実験群を評価した。各群は、5匹の動物を有した。
【0094】
1群:対照(control)/閉鎖前には処理なし
2群:閉鎖前に、実施例1の断片化ゼラチン組成物を、腹壁と盲腸欠陥との間に配置した。
【0095】
3群:閉鎖前に、盲腸欠陥上に、(実施例1の)断片化ゼラチン組成物+RapiSealTMパッチを配置した。
【0096】
この正中切開を、4−0吸収可能縫合糸で閉鎖し、皮膚を、4−0シルク縫合糸で閉鎖した。全ての動物を手術から回復させ、そして7日間観察した。
【0097】
術後7日目には、これらのラットを安楽死させ、その腹部を開いて、手術により形成された欠陥を評価した。腹壁欠陥と盲腸欠陥との間の癒着は、もし存在すれば、2個の組織を引き離すことにより、粘り強さおよび強度について評価された。張力計を用いて、これらの癒着を破壊するのに必要な力を測定した。
【0098】
この断片化ゼラチン組成物単独の処理およびRapiSealパッチと組み合わせた処理の両方の結果、対照群と比較したとき、癒着を伴う動物の数が減少した。癒着を有する各群の動物のパーセントを、以下の表2に示す。
【0099】
【表2】

【0100】
実施例9:照射前に、ゲルにアスコルビン酸塩を添加した物質および方法
ゼラチン粒子(300 Bloom、Woburn Co.、Woburn、MA)を、0.01重量%〜0.1重量%のグルタルアルデヒド(Sigma、St.Louis、MO)を含有するメチルアルコール(Aldrich、Milwaukee、Wisconsin)に、5重量%〜15重量%で懸濁させ、そして室温で一晩撹拌した。あるいは、ウシ皮の抽出物から得たゼラチン粒子(Spears Co.、PA)を、0.01重量%〜0.1重量%のグルタルアルデヒドを含有するpH 9の水性緩衝液(Sigma)に、5重量%〜15重量%で懸濁させてゲルを形成し、それを充分に混合し、一晩冷蔵した。次いで、架橋ゼラチン断片をアルコールで3回すすぎ、そして室温で乾燥した。次いで、すすいだ架橋ゼラチンの平衡膨潤度を測定し、この物質の0.5g〜1.0g部分を、5 cc注射器に充填した。架橋ゼラチンを含有する注射器に、第二の注射器および三方コックを用いて、注射器に外部の空気を導入しないように注意を払って、アスコルビン酸およびアスコルビン酸塩を含有する水性緩衝液(例えば、0.02 Mリン酸ナトリウム(J.T.Baker、Phillipsburg、New Jersey)、0.15 M塩化ナトリウム(VWR、West Chester、Pennsylvania)、0.005 Mアスコルビン
酸ナトリウム(Aldrich)、pH 7.0)3.0ml〜4.5mlを添加して、数個の注射器内に、ヒドロゲルを形成した。あるいは、アスコルビン酸またはアスコルビン酸塩を含有しないが、そのほかは、同様の組成およびpHである水性緩衝液を、架橋ゼラチンを含有する他の注射器に添加して、それらの内部に、ヒドロゲルを形成した。次いで、これらのヒドロゲル含有注射器に、冷却状態にて、3.0±0.3メガラドで、ガンマ線を照射した。照射後、これらの注射器内に含有されたヒドロゲルについて、平衡膨潤を測定した。アスコルビン酸またはアスコルビン酸塩を含有する緩衝液を用いて形成したヒドロゲルは、一般に、照射の際に、照射前の値の±20%、そして通常、±10%内の平行膨潤値を維持したのに対して、アスコルビン酸またはアスコルビン酸塩を含有しない緩衝液を用いて形成されたゲルは、照射前のその値の25〜30%の平衡膨潤の低下に見舞われた。
【0101】
実施例10:架橋の材料および方法ならびに膨潤パーセントの測定
ゼラチン粒子を、架橋剤(例えば、0.005〜0.5重量%のグルタルアルデヒド)を含有する水性緩衝液(例えば、0.2 Mリン酸ナトリウム、pH 9.2)中で膨潤させた。この反応混合物を、冷蔵して一晩維持し、次いで、脱イオン水で3回、エチルアルコールで2回すすぎ、そして室温で乾燥させた。乾燥し架橋したゼラチンを、一定期間にわたって、室温で、低固形分濃度(2〜3%)で、水性緩衝液に再懸濁させた。緩衝液は、平衡膨潤に必要な濃度より過剰であり、そして2相(ヒドロゲル相および緩衝液)が存在していた。次いで、湿潤ヒドロゲルを含有する懸濁液のアリコートを、0.8μmみかけカットオフフィルター膜(Millipore、Bedford、Massachusetts)上で真空を適用することにより、濾過した。外部緩衝液を除去した後、維持された湿潤ヒドロゲルおよび湿潤フィルター膜を合わせた重量を記録した。次いで、ヒドロゲルおよび膜を、およそ120℃で少なくとも2時間乾燥し、乾燥ヒドロゲル残留物および乾燥フィルター膜を合わせた重量を記録した。ヒドロゲル残留物なしの湿潤フィルター膜の試料およびヒドロゲルなしの乾燥フィルター膜の試料の測定もまた数回行い、湿潤ヒドロゲルおよび乾燥ヒドロゲルの正味重量を推定するのに使用した。次いで、以下のようにして、「膨潤パーセント」を測定した:
【0102】
【数1】

【0103】
膨潤測定は、一定のゼラチン試料について、3連で行い、そして平均をとった。湿潤重量測定前に18〜24時間、緩衝液に再懸濁した試料についての膨潤パーセントの値を、「平衡膨潤」として規定した。
【0104】
得られた架橋ゼラチン物質は、400%〜1300%の範囲の平衡膨潤値を示した。平衡膨潤の程度は、架橋方法および架橋度に依存していた。
【0105】
実施例11:分解
30匹のウサギ(15匹の未処理の対照動物および15匹の断片化ゼラチン組成物で処置した動物)に手術を施し、脾臓傷害および出血を模倣した。6mmの生検パンチで制御した創傷を作ることにより、脾臓上の外傷を形成した。「処置された」群では、実験的に形成された傷害を、直ちに、断片化ゼラチン組成物で処置して、創傷の止血をした。「対照」群の動物は、最初の7.5分間は処置せずに、この外傷から生じる出血量を実証した。次いで、この外傷が起こった時点から7.5分で、この外傷からの出血を止めて動物の自然失血および死亡を防止するために、断片化ゼラチン組成物を使用した。全ての動物を、回復させた。10匹の動物を、それぞれ、術後14日目および28日目で安楽死させた。残りの動物の最終検死日を、28日目の動物を評価した後に、決定した。28日目の時点で採集した動物では、総合検査によっては、試験物質が存在するかどうかを決定するのは困難であり、従って、残留動物の半分は、42日目に採集し、残りの半分は、56日目に採集した。検死時点では、脾臓外傷部位および腹腔は、肉眼で評価した。配置部位から離れた腹腔における断片化ゼラチン組成物の存在が認められ、脾臓外傷におけるその存在または非存在と同様に、評価した。脾臓外傷部位での術後癒着の存在または非存在もまた評価し、そして認められた。脾臓を注意深く解剖し、そして生体適合性および生物分解性の組織学的な評価のために、処理した。
【0106】
脾臓に外科的に形成した創傷に対し、断片化ゼラチン組成物を適用した結果、良好な止血タンポン法が得られた。手術時における断片化ゼラチン組成物の適用に続いて、ウサギは、術後、14日間、28日間、42日間および56日間生存させた。1匹のウサギは、術後5日目に、無関係の肺炎で死亡したため、その脾臓を組織病理学的な検査のために採集できなかった。
【0107】
検死では、脾臓外傷部位だけでなく、腹腔全般も、総合的に評価した。配置部位から離れた腹腔における断片化ゼラチン組成物の存在は、脾臓部位での断片化ゼラチン組成物の存在または非存在と同様に、評価した。脾臓外傷部位での癒着の存在または非存在を評価し、記述した。脾臓を注意深く切断し、組織学的な評価のために、処理した。
【0108】
総合的に見て、脾臓外傷部位は、すべての時点で、全ての動物に見られた。肉眼では、断片化ゼラチン組成物は、10匹の14日目の動物のうち2匹では、存在しなかった。他の全ての時点では、断片化ゼラチン組成物を肉眼で確認することは、不可能であった。このウサギモデルで測定されたヒドロゲル物質の肉眼での非存在は、ヒドロゲルの分解を規定し、この用語は、本明細書および請求の範囲で使用される。
【0109】
術後14日目で屠殺した10匹の動物のうちの3匹では、その腹腔にて、少量の断片化ゼラチン組成物が自由に流動して見出された。このことは、脾臓外傷の配置部位から移動した過剰の物質を示している可能性が非常に高い。脾臓外傷から離れてこの物質が見出された場合のいずれも、臓側表面または網に由来の組織反応の形跡はなかった。他のいずれの時点で採集した動物でも、脾臓外傷部位から離れて、物質は見出されなかった。
【0110】
いずれの動物でも、断片化ゼラチン組成物物質に付随した術後癒着は認められなかった。全ての動物で、予想されたように、脾臓外傷部位に付着した網が存在していた。脾臓に関与する他の癒着は稀であり、認められる場合は、偶発的であり、通常、体壁の切開に関連していた。
【0111】
断片化ゼラチン組成物は、肉眼および顕微鏡観察では、14日目時点からの10匹の動物のうちの2匹において、非存在であった。インプラント後28日目では、断片化ゼラチン組成物は、総合的な観察では認められなくなり、また、顕微鏡観察では、検査した10匹のウサギのうちの5匹では、完全に非存在であり、残りの動物では、最小量で存在しており、このことは、断片化ゼラチン組成物が、28日目までに、本質的に生分解したことを示す。断片化ゼラチン組成物は、インプラント後42日目では、検査した5匹の動物の全てにおいて、非存在であり、移植後56日目では、検査した4匹のウサギのうちの1匹だけに、最小量で見出された。脾臓創傷の治癒は、42日目では、通常の様式で進行し、また、56日目では、さらに進行した。
【0112】
上述の発明は、理解を明確にする目的上、例示および実施例によって、ある程度詳細に記述されているものの、添付の請求の範囲の範囲内において、一定の変更および改良を実施できることは、明らかである。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
出血を抑制するための組成物であって、該組成物は、押出可能な、断片化された生体適合性再吸収可能単一相水性コロイドを含有し、該単一相水性コロイドが、少なくとも部分的に水和し、また、約400%〜約1300%の範囲内の平衡膨潤を有する、組成物。
【請求項2】
前記押出可能な、断片化された生体適合性再吸収可能単一相水性コロイドが、完全に水和したとき、約0.01mm〜5mmの範囲内の大きさを有するサブユニットを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記押出可能な、断片化された生体適合性再吸収可能単一相水性コロイドが、湿潤組織環境にて、約1日〜約1年の範囲内のインビボ分解時間を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記押出可能な、断片化された生体適合性再吸収可能単一相水性コロイドが、架橋ゼラチン重合体を含有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
非架橋ゼラチン重合体をさらに含有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記押出可能な、断片化された生体適合性再吸収可能単一相水性コロイドが、別個のサブユニット中に存在する架橋ゼラチン重合体を含有し、該架橋ゼラチン重合体の別個のサブユニットは、前記非架橋ゼラチン重合体で充填される空孔領域を提供する、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
請求項6に記載の組成物であって、前記架橋ゼラチン重合体および非架橋ゼラチン重合体が、5:1〜2:1の範囲内の重量比で該組成物中に存在する、組成物。
【請求項8】
前記架橋ゼラチン重合体および非架橋ゼラチン重合体が、押出オリフィスを有するアプリケータ中に存在する、請求項6に記載の組成物。
【請求項9】
前記断片化された生体適合性再吸収可能単一相水性コロイドは、機械的破壊により断片化された、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記押出可能な、断片化された生体適合性再吸収可能単一相水性コロイドが、押出オリフィスを有するアプリケータ中に存在する、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
前記単一相水性コロイドが、活性剤を含有する水性媒体で少なくとも部分的に水和した、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
前記活性剤が、凝固剤である、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記凝固剤が、トロンビンである、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
トロンビンを送達するための組成物であって、該組成物は、以下の:
押出可能な、断片化された生体適合性再吸収可能単一相水性コロイドであって、該単一相水性コロイドが、少なくとも部分的に水和し、また、別個のサブユニット中に存在する架橋ゼラチン重合体を含有する、単一相水性コロイド;ならびに
非架橋ゼラチン重合体
を含有し、ここで、該架橋ゼラチン重合体の別個のサブユニットが、該非架橋ゼラチン重合体で充填される空孔領域を提供する、組成物。
【請求項15】
明細書中に記載の処置の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−46749(P2011−46749A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−274135(P2010−274135)
【出願日】平成22年12月8日(2010.12.8)
【分割の表示】特願2009−187571(P2009−187571)の分割
【原出願日】平成9年8月14日(1997.8.14)
【出願人】(591013229)バクスター・インターナショナル・インコーポレイテッド (448)
【氏名又は名称原語表記】BAXTER INTERNATIONAL INCORP0RATED
【出願人】(501453189)バクスター・ヘルスケヤー・ソシエテ・アノニム (289)
【氏名又は名称原語表記】BAXTER HEALTHCARE S.A.
【Fターム(参考)】