説明

発光測定用容器

【課題】 容器内壁での反射によるシグナル増強、容器を構成する熱可塑性樹脂本体が出す自己発光によるバックグランドの低減、不定のノイズを排除するための遮光性の全てを同時に達成し得る発光測定用容器を提供すること。
【解決の手段】 内壁が0.5から10重量%の光反射性成分を配合した熱可塑性樹脂からなり、内壁以外が0.01から5重量%の光吸収性成分を配合した熱可塑性樹脂からなる、発光測定用容器により、前記課題を解決することができた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は発光測定に用いられる発光測定用容器に関するものである。さらに詳しくは、本発明は優れたシグナル増強効果、自己発光などのノイズ低減効果、優れた遮光効果を同時に達成し得る、化学発光測定用などの測定用容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
今日の臨床検査などの分野では、蛍光測定、化学発光測定、生物発光測定などの種々の発光測定を利用して、例えば特定の疾病に関連するマーカー物質の血中濃度を測定することで、前記疾病の早期発見・治療に利用している。前記測定で使用される発光測定用容器の材質としては、量産が容易である点、安価である点、形状・寸法などに融通が利く点などから、一般に熱可塑性樹脂が用いられる。
【0003】
発光測定用容器の内外壁の色は、目的や用途に応じて概ね無着色、黒色、白色を使い分けている。蛍光物質、発光物質などから発する光を容器内壁で反射させることでシグナルを増強した方が測定感度の向上などのために有利な場合には、光反射性成分である白色顔料を配合した(練り込んだ)熱可塑性樹脂製の白色容器が用いられる。容器を構成する熱可塑性樹脂自体から発する自己発光によるバックグランドを低減する必要がある場合には、容器由来の励起光を反射または吸収するために、光反射性成分である白色顔料または光吸収性成分である黒色顔料を配合した(練り込んだ)、白色または黒色の熱可塑性樹脂製容器が使用される。外部からくる不定のノイズ(例えば外乱光、隣接する容器から漏れる発光など)を排除すること(いわゆるクロストークの回避)でS/N(シグナル/ノイズ)比を向上し、高感度化を図る場合には、外乱光の遮光性に富む、光吸収性成分である黒色顔料を配合した(練り込んだ)黒色の熱可塑性樹脂製容器が使用される。例として特許文献1では、試料に励起光を照射する発光(蛍光)測定において、容器を構成する熱可塑性樹脂が励起光によって励起され蛍光を出すことでバックグランドが上昇するのを防止するために、白色または黒色の顔料を配合することを開示している。また特許文献2では、発光測定用容器において、バックグランドを低減するためにその内壁の一部を白色以外の色に着色することを開示している。
【0004】
発光測定における測定感度を高めるには、前述したように、測定用容器内壁での反射によるシグナル増強や測定用容器を構成する熱可塑性樹脂本体が出す自己発光によるバックグランドの低減に加えて、ノイズ成分を低減して測定系のS/N比を向上させることが重要である。特にノイズ成分の中でも測定系の外部からくる不定のノイズを排除するためには、発光測定用容器の遮光性を向上させることが重要である。ここでいう不定のノイズの例として、発光測定用容器としてマイクロプレートを用いた場合、測定対象ウェルの発光が微小、かつ隣接するウェルの発光が強大なときに、隣接するウェルからの光が測定対象ウェルに漏れ出すことに由来するノイズをあげることができる。
【0005】
しかしながら、特許文献1は測定用容器として熱可塑性樹脂に黒色または白色顔料を配合することしか開示しておらず、バックグランドの低減、容器内壁での反射によるシグナル増強、遮光性の全てを満足させることができない。というのも、黒色顔料を練り込んだ場合、容器内壁での反射によるシグナル増強が課題として残り、逆に白色顔料を配合した場合、黒色顔料を配合した場合と比較すると十分な遮光性が得られないからである。特許文献2は、容器内壁を白色以外の色、好ましくは黒色に着色しているため、バックグランドの低減を期待することはできるものの、容器内壁での反射によるシグナル増強は不十分という課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平3−40818号公報
【特許文献2】特開2006−119011号公報
【特許文献3】特開2005−77142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、容器内壁での反射によるシグナル増強、容器を構成する熱可塑性樹脂本体が出す自己発光によるバックグランドの低減、不定のノイズを排除するための遮光性の全てを同時に達成し得る発光測定用容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するためになされた本発明は、以下の発明を包含する:
第一の発明は、内壁が0.5から10重量%の光反射性成分を配合した熱可塑性樹脂からなり、内壁以外が0.01から5重量%の光吸収性成分を配合した熱可塑性樹脂からなる、発光測定用容器である。
【0009】
第二の発明は、前記光反射性成分が白色顔料である、第一の発明に記載の発光測定用容器である。
【0010】
第三の発明は、前記白色顔料が二酸化チタンである、第二の発明に記載の発光測定用容器である。
【0011】
第四の発明は、前記光吸収性成分が黒色顔料である、第一の発明に記載の発光測定用容器である。
【0012】
第五の発明は、前記黒色顔料がカーボンブラックである、第四の発明に記載の発光測定用容器である。
【0013】
第六の発明は、
発光を測定するための開口部を有した発光測定用容器であって、
前記容器に発光溶液を入れたときに前記開口部から検出される光量(A)[cps]、
及び前記容器に発光溶液を入れ前記開口部を遮光性材料で覆ったときに前記容器から漏れ出た光量(B)[cps]から式(1)
[{(A)−(B)}÷(A)]×100・・・式(1)
により計算される遮光率が99.99%以上であり、反射率が黒色容器より大きいことを特徴とする、内壁が光反射性成分を配合した熱可塑性樹脂からなり、内壁以外が光吸収性成分を配合した熱可塑性樹脂からなる発光測定用容器である。
【0014】
第七の発明は、発光測定用容器の反射率が、1重量%の黒色顔料を配合した熱可塑性樹脂製容器より大きいことを特徴とする、第六の発明の発光測定用容器である。
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
本発明における発光は、化学発光や生物発光などの化学反応により基底状態にあった分子がエネルギーを吸収して高エネルギー状態の励起状態に遷移し、元の基底状態に戻る際に生じる可視光であって、蛍光発光または燐光発光以外のものである。また発光は、測定対象物から直接的に放出される可視光に限定されず、例えば、反応場に共存する蛍光物質などにエネルギーを一旦受け渡すことで、その蛍光物質が励起状態となり、そこから基底状態に戻る際に放出される可視光であってもよい。ここで蛍光発光とは、紫外光や可視光を励起光として照射することで、励起光を吸収した発光体が電子励起されて中間励起状態に落ち、そこから基底状態に戻るときに発する励起光より長波長の発光をいい、燐光発光とは、電子励起三重項に遷移した電子が基底状態にもどるときに発する発光をいう。
【0017】
本発明の容器は、その内壁を光反射性成分を配合した熱可塑性樹脂とすることで、発光シグナルを容器内壁の反射により増強させ、内壁以外を光吸収性成分を配合した熱可塑性樹脂とすることで、不定のノイズを排除するための遮光性を持たせている。本発明の容器の寸法は、発光反応によって生じる発光を測定するための開口部を有していれば、特に限定されない。しかしながら、一般に、容器の肉厚が薄いと遮光性が低下し、光吸収性成分を配合しても不定のノイズを排除するために十分な遮光性を持たせることができない可能性があるため、内壁以外の部分が少なくとも1mm程度(0.5mmから1.5mm)の肉厚を確保した容器が好ましい。なお、内壁の肉厚は、発光シグナルを容器内壁で反射可能な厚さであればよく、光反射性成分の配合率にもよるが数十μm程度の薄膜であってもよい。本発明の容器の形状としては、例えばチューブ、カップ、キュベットなどの、個別独立した凹状のもの、マイクロプレートのような凹状のものが複数個連結されたものが例示できる。容器を構成する熱可塑性樹脂は、光反射性成分または光吸収性成分として機能する顔料または染料が配合できるものであれば特に制限はなく、例えば、オレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、ビニル系樹脂、カーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂またはポリアミド系樹脂などを例示することができるがこれらに限定されない。例示した熱可塑性樹脂の中でも、既に発光測定用容器を構成するものとしての実績に富むオレフィン系ホモポリマーやコポリマーは特に好ましい熱可塑性樹脂である。より具体的には、例えば、低密度、中密度または高密度のポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン−1、ポリ4−メチルペンテン−1、プロピレン−エチレン共重合体、アイオノマー、エチレン−アクリル共重合体またはエチレン−酢酸ビニル共重合体などを例示することができる。
【0018】
本発明の容器のうち、内壁を構成する熱可塑性樹脂に配合する光反射性成分は、容器内壁での反射によるシグナル増強、および前記反射による熱可塑性樹脂本体の励起を防止することによる自己発光に由来したバックグランドを低減させるためのものである。従って、全波長にわたって光を反射する白色系の顔料または染料、測定しようとする発光の特定の波長を反射する色の顔料または染料が、光反射性成分として例示できる。中でも顔料は、特に好ましい光反射性成分である。より具体的には、白色顔料としては、二酸化チタン、亜鉛華、鉛白、炭酸カルシウム、タルク、マイカなどを例示することができる。中でも二酸化チタンは、熱可塑性樹脂を容器形状に成形する際の分散性や隠蔽性が良好かつ安全性も高いため、特に好ましい顔料である。なお二酸化チタンの中でも、光触媒作用の小さい結晶型のもの、または水酸化アルミニウムやアルミナなどで被覆処理することで光触媒作用を抑制したものが特に好ましい。測定しようとする発光の特定の波長を反射する色の顔料としては、例えば、前記特定の波長が450nm付近であれば、ウルトラマリン青、プロシア青、フタロシアニン青またはアントラキノンなどの青色の顔料を、前記特定の波長が550nm付近であれば、フタロシアニン緑、ぺリレンまたはニトロソ化合物などの緑色の顔料を、前記特定の波長が650nm付近であれば、ニッケルチタン黄、ストロンチウム黄、黄鉛、クロム黄、亜鉛黄、ベンジジン黄、キノフタロン、イソインドリノンまたはイミダゾロンなどの黄色の顔料を例示することができる。以上に説明した光反射性成分は、一種類のものを単独で配合してもよいし、二種以上のものを組み合わせて配合してもよい。二種以上のものを組み合わせる場合には、同一色の顔料を二種以上組み合わせること以外に、異なる色の顔料を二種以上組み合わせることも含む。
【0019】
本発明の容器のうち、内壁以外を構成する熱可塑性樹脂に配合する光吸収性成分は、容器を構成する熱可塑性樹脂本体が出す自己発光に由来したバックグランドを低減、および不定のノイズを排除するための遮光性を持たせるためのものである。従って、全波長に対し光を吸収する黒色の顔料または染料が例示できる。中でも黒色顔料は特に好ましい光吸収性成分である。より具体的には、黒色顔料としては、カーボンブラック、チタンブラック、アセチレンブラック、ランプブラック、アニリンブラック、酸化鉄(Fe)または還元鉄などを例示することができる。これらは単独で配合することもできるし、二種以上を組み合わせて配合することができる。
【0020】
本発明の容器のうち、内壁を構成する熱可塑性樹脂に配合する光反射性成分の配合率は、0.5から10重量%の範囲であれば、容器内壁での反射によるシグナル増強、および前記反射による熱可塑性樹脂本体の励起を防止することによる自己発光に由来したバックグランドの低減の効果が得られ、特に1から6重量%の範囲の配合率とすると好ましい。本発明の容器のうち、内壁以外を構成する熱可塑性樹脂に配合する光吸収性成分の配合率は、0.01から5重量%の範囲であれば、容器を構成する熱可塑性樹脂本体が出す自己発光に由来したバックグランドの低減、および不定のノイズを排除するための遮光性を持たせることができ、特に0.02から1重量%の範囲の配合率とすると好ましい。
【0021】
光学特性から見た本発明の容器は、発光溶液を入れたときに発光を測定するための開口部から検出される光量(A)[cps]を測定し、発光溶液を入れ前記開口部を遮光性材料で覆ったときに容器から漏れ出た光量(B)[cps]を測定後、式(1)
[{(A)−(B)}÷(A)]×100・・・式(1)
により計算した遮光率が99.99%以上であり、反射率が黒色容器より大きい、内壁が光反射性成分を配合した熱可塑性樹脂からなり、内壁以外が光吸収性成分を配合した熱可塑性樹脂からなる容器である。遮光率を測定する際は、外部光によるノイズを減らすため、前記容器が遮光性容器に収容された状態で測定するのが好ましい。なお、前記容器が図1の容器やマイクロプレートのように凹状のものが複数個連結した(開口部を複数有した)容器の場合は、開口部を除く容器全体をアルミブロックなどの遮光性容器に収容後、開口部のうちの一つに発光溶液を入れ他の開口部を遮光性材料で覆ったときに発光溶液を入れた開口部から検出される光量を前記式(1)における(A)の光量、開口部のうちの一つに発光溶液を入れ遮光性材料で前記開口部を覆った後、前記開口部に隣接した開口部から検出される光量を前記式(1)における(B)の光量として遮光率を計算すればよい。遮光率を計算する際に用いる開口部を覆う遮光性材料としては、アルミ箔など当業者が通常用いる材料を用いればよい。反射率については、測定しようとする発光の特定の波長に対する反射率が黒色容器と比較し高ければよく、分光測色計(例えばコニカミノルタ製CM−700dなど)を用いることで反射率を直接比較することが可能である。また、検体中の微量成分を生物学的特異反応を利用して複合体として固相に捕捉し、複合体の標識成分を発光反応に導いて容器内で発光測定する操作において、前記微量成分の濃度と発光量との関係(レスポンスカーブ)の傾きを黒色容器内で発光測定したときの傾きと比較することで実験的に反射率を比較してもよい。なお、前記黒色容器は、1重量%の黒色顔料(好ましくはカーボンブラック)を配合した熱可塑性樹脂製容器が有する反射率と同等以下の容器であればよい。
【0022】
本発明の容器は、
(1)二色成形により内壁部分と内壁以外の部分を一体に成形して製造してもよいし、
(2)内壁部分と内壁以外の部分とで分けて製造後、内壁部分を内壁以外の部分に嵌合させて製造してもよい。
前記(1)の方法で製造した場合、内壁部分と内壁以外の部分が密着しているため容器間差の小さい容器を製造することができる。また、前記(2)の方法で製造した場合、測定しようとする発光の特定の波長にそれぞれ対応した内壁部分を用意することで、内壁部分を前記波長に応じた最適なものに交換して測定することができる。
【0023】
本発明の容器は、発光測定用のものである。しかし、容器を構成する熱可塑性樹脂は従来から免疫反応や生化学反応といった各種反応のための反応容器としても用いられている。このことは、本発明の容器を単に発光測定の段階に限らず、その前段階である各種反応を生じさせる容器として使用することが可能であることを意味するものである。例えば、血液や血清中の微量成分を、生物学的特異反応を利用して複合体として固相に捕捉し、固相に捕捉された成分(Bound)と捕捉されなかった成分(Free)を分けるB/F分離を行なったのち、複合体中の標識成分を発光反応に導いて発光測定する一連の操作において、前記生物学的特異反応を生じさせるための容器としても、本発明の容器は使用可能である。さらに、前記生物学的特異反応のための試薬を予めアルミ箔などでシールしておけば、本発明の容器は、生物学的特異反応試薬の保存容器として、そして、測定のための試料を添加することで前記生物学的特異反応を開始させ、結果として生じる発光を測定する試薬キットの一部とすることができる。ここで、生物学的特異反応としては、抗原抗体反応、ビオチン−ストレプトアビジン反応、ビオチン−アビジン反応、核酸−核酸相互反応、リガンド−リセプター反応などを例示できる。
【0024】
生物学的特異反応として抗原抗体反応を用いる2ステップサンドイッチ反応の試薬を例に具体的に説明すると、本発明の発光測定用容器に、一回の反応を生じさせるのに必要な量の、抗体を固定化した担体を含む溶液を分注して凍結乾燥したものが該当する。この容器とは別の容器に一回の測定を実施するのに必要な量の、アルカリ性ホスファターゼなどの酵素で標識した抗体またはアクリジニウムなどの発光物質で標識した抗体の溶液を分注して凍結乾燥しておく。血液や血清などの検体を、担体を含む容器に分注し、凍結乾燥成分の溶解と第一の抗原抗体反応を行ない、第一のB/F分離を行なう。別の容器にも溶解液を分注して標識抗体を溶解し、溶解した標識抗体をB/F分離を完了した容器に分注して第二の抗原抗体反応を行なう。第二の抗原抗体反応終了後に第二のB/F分離を行ない、続いて必要により酵素基質を分注し、発光量を測定して抗原抗体反応の対象物の濃度に換算する。この例では、本発明の発光測定用容器は、免疫反応試薬の保存のための容器、抗原抗体反応用容器、発光測定用容器として共通に使用することになる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の発光測定用容器は、容器内壁を光反射性成分を配合した熱可塑性樹脂で、容器内壁以外を光吸収性成分を配合した熱可塑性樹脂で構成することにより、光吸収性成分の配合によって達成されるバックグランドの低減と遮光性、そして光反射性成分の配合によって達成されるバックグランドの低減と容器内壁での反射によるシグナル増強の全てを同時かつ効果的に達成するものである。
【0026】
本発明の発光測定用容器は、発光溶液を入れたときに開口部から検出される光量(A)[cps]、及び発光溶液を入れ前記開口部を遮光性材料で覆ったときに容器から漏れ出た光量(B)[cps]から式(1)
[{(A)−(B)}÷(A)]×100・・・式(1)
により計算される遮光率が99.99%以上あり、その高い遮光性により、
(ア)発光検出器内にコンタミ成分由来の発光があっても、これを取り込まないようにすることができ、
(イ)測定対象物質が超低濃度から高濃度まで含まれる種々の未知試料である場合でも、これをマイクロプレート形状とした本発明の発光測定用容器などを用いて測定すれば、ウェル間のクロストークを回避したうえで測定でき、
(ウ)発光測定用容器を多連式のチューブ形状とし、一の容器中に保持された発光物質と反応する試薬を隣接する他のチューブに分注して測定を行なう場合でも、発光物質分注時の飛沫混入により発生するノイズ光の漏れを回避できる効果を有する。
そのため、発光測定において低濃度の測定対象物を高感度に測定する場合、測定値の信頼性を高めるのに有効である。
【0027】
また本発明の発光測定用容器は、容器内壁が光反射性成分を配合した熱可塑性樹脂からなっているため、前述した効果に加え、低いバックグランドを実現する既存の黒色の容器に比べて、容器内壁での反射によるシグナル増強も期待できる、
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実施例で用いた黒色容器(a)、白色容器(b)、白黒容器(c)を示す図。
【図2】発光測定用容器に関する遮光率を説明するための図。
【図3】表1における黒色容器を用いて測定したTSHのレスポンスカーブを示した図。
【図4】表1における白黒容器を用いて測定したTSHのレスポンスカーブを示した図。
【実施例】
【0029】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、これら実施例は本発明を限定するものではない。
【0030】
実施例1
本発明の発光測定用容器の遮光性を評価した。
(1)内壁11(発光基質溶液が接触する部分)が光反射性成分(二酸化チタン)を配合した均質な熱可塑性樹脂からなり、内壁以外12が光吸収性成分(カーボンブラック)を配合した均質な熱可塑性樹脂からなる、二槽タイプの発光測定用容器10(白黒容器、図1(c))を二色成形により作製した。なお、対照として前記容器と同じタイプの無着色容器、黒色容器(図1(a))、白色容器(図1(b))を作製した。
(2)前記発光測定用容器10のうち、一方の槽13Aには空の状態のまま開口部をアルミ箔20でシールし、もう一方の槽13Bには10ng/mLのアルカリ性ホスファターゼ(ALP)10μLと0.4mMのALP用化学発光基質溶液(特許文献3参照)100μLからなる酵素反応液30を分注後、37℃で5分間反応させ、発光量(A)を酵素反応液30が入った槽13Bの開口部上方から発光検出器40で検出した(図2(a))。
(3)(2)と同じ発光測定用容器10を新たに用意し、一方の槽13Bに(2)に記載の酵素反応液30を分注後、開口部をアルミ箔20でシールした。37℃で5分間反応後、発光検出器40を、その受光面が、空の状態である、もう一方の槽13Aの開口部上方に位置するようにセットし、酵素反応液30が入った槽13Bから最短箇所で約1mmの隔壁を透過して空の槽へ漏れ出た光量を測定した。
(4)下記式により遮光率を計算した。
【0031】
遮光率[%]=
((酵素反応液側の光量(A)[cps]−空の槽に漏れ出た光量(B)
[cps])÷酵素反応液側の光量(A)[cps])×100
各容器における遮光率の結果を表1に示す。
【0032】
【表1】

遮蔽性の良好な二酸化チタンを光反射性成分として用い、顔料の練り込み率を成形濃度限界近くである6.00%に上げた容器(白色容器2)であっても、漏れ光量は944105cpsと高く、遮光率は93.6774%しか得られなかった。一方、黒色容器(光吸収性成分であるカーボンブラックの配合率は1.00%)や白黒容器(容器内壁部における二酸化チタンの配合率は6.00%、容器内壁以外の部分におけるカーボンブラックの配合率は1.00%)では、それぞれ空槽への漏れ光量が30および32cpsと、使用した発光検出器40のダークカウントと同等であり、遮光率もそれぞれ99.9977および99.9998%と良好な値を示した。以上の結果から、容器内壁11が白色で容器内壁以外12が黒色からなる発光測定用容器10(図1(c))は、黒色容器と同等の遮光性(すなわち99.99%以上)が得られることが分かった。一方、ALPの酵素反応による発光量の増強効果においては、白黒容器は白色容器と同等の高いシグナル増強効果が得られた。なお、白色容器1および白色容器2は高いシグナル増強効果が得られたが遮光性が悪く発光が漏れやすいため、容器外からのノイズ光の漏れ込みによって測定値が偽高値化するおそれがあることが分かる。
【0033】
実施例2
実施例1において観察された容器外からのノイズ光の漏れ込みが、実際の発光測定においてどの程度の偽高値に相当するのかを評価するために、実施例1で評価した容器のうち、無着色容器、黒色容器、白色容器2、白黒容器を用いて実際に甲状腺刺激ホルモン(TSH)の発光測定を行なった。
【0034】
1.抗TSH抗体固定化粒子の調製
1.5mLのチューブにカルボキシル化微粒子(粒子表面にカルボキシ基を有する、直径約4.0μmの微粒子)を10mg取り、1mLの10mM MES緩衝液(pH6.0)で洗浄後、10%N―エチル―N’−(ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)を含む10mM MES緩衝液(pH6.0)を1mL添加して室温で振盪撹拌した。上清を除去後、1mLの10mM MES緩衝液(pH6.0)にて洗浄し、超音波処理後、1mg/mLの抗TSH抗体溶液を100μL添加し、室温にて振盪撹拌した。0.1%アジ化ナトリウムを含む1mLの0.1M Tris塩酸緩衝液(pH8.0)にて洗浄後、0.1%BSAおよび0.1%アジ化ナトリウムを含む0.1M Tris塩酸緩衝液(pH8.0)にてブロッキングし、同緩衝液中に保存した。
【0035】
2.TSHの測定
0.4%抗TSH抗体固定化粒子10μL、TSH試料10μL、および界面活性剤を含んだ精製水40μLを発光測定用容器10に入れ、撹拌後、37℃にて5分間、2ステップサンドイッチ法における第1反応を行なった。反応液を吸引除去した後、10mMのTris塩酸緩衝液(150mM NaCl、0.05% Tween20、1mM MgCl、0.1%アジ化ナトリウムを含む)(pH8.0)を用いて第1洗浄を行なった。次に、2.8μg/mLのALP標識抗TSH抗体を50μL添加し、撹拌後、37℃で第2反応を行なった。第1洗浄と同様に第2洗浄を行なった後、0.4mMのALP用化学発光基質溶液を100μL添加して撹拌し、37℃で5分間反応させ、エンドポイント測光した。
【0036】
TSH濃度とカウント値の比較を表2に示す。また、黒色容器および白黒容器を用いたTSHのレスポンスカーブを図3および図4にそれぞれ示す。
【0037】
【表2】

本実施例では、試料に測定下限界濃度付近の低濃度TSH試料を用いた。実施例1の結果における漏れ光量において、遮光率99.99%未満の容器である白色容器2の944105cpsはTSH濃度で1.37μIU/mL以上のプラス誤差(0.0021[μIU/mL]×944105÷(2284−839)=1.372[μIU/mL])となることが分かる。当然のことながら、容器の外で光るノイズ光には上限がなく、光量が多ければ測定値のプラス誤差となる程度も高くなる。このように遮光率99.99%未満の容器を用いると制御できないノイズ光が突発的に漏れ込み測定値が変動するため、特に低濃度域の測定の信頼性が低下することが分かる。
【0038】
TSHのレスポンスカーブ(図3および4)を比較したところ、白黒容器を用いたレスポンスカーブ(図4)の傾きの方が黒色容器を用いたカーブ(図3)よりも約5.3倍大きくなり、白黒容器黒色容器と比較し反射率が向上していることが分かる。また、TSHの検出下限界濃度(MDC)を、2SD法、すなわちゼロ濃度試料を複数回測定して計算した標準偏差(SD)および検量線の傾きから算出する方法により黒色容器および白黒容器を用いて求めた結果、黒色容器を用いた場合が0.00017μIU/mL、白黒容器を用いた場合が0.000045μIU/mLとなった。この結果から、白黒容器の方が約3.8倍高感度に測定できることが分かり、99.99%以上の遮光率を有し、かつ1重量%のカーボンブラックを配合した黒色容器より高い反射率を有した白黒容器を発光測定用容器として使用することにより、超低濃度のTSHを高い信頼性で測定することが可能となる。
【符号の説明】
【0039】
10:発光測定用容器
11:容器内壁
12:容器内壁以外の部分
13:槽
20:アルミ箔シール
30:酵素反応液
40:発光検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内壁が0.5から10重量%の光反射性成分を配合した熱可塑性樹脂からなり、内壁以外が0.01から5重量%の光吸収性成分を配合した熱可塑性樹脂からなる、発光測定用容器。
【請求項2】
前記光反射性成分が白色顔料である、請求項1の発光測定用容器。
【請求項3】
前記白色顔料が二酸化チタンである、請求項2の発光測定用容器。
【請求項4】
前記光吸収性成分が黒色顔料である、請求項1の発光測定用容器。
【請求項5】
前記黒色顔料がカーボンブラックである、請求項4の発光測定用容器。
【請求項6】
発光を測定するための開口部を有した発光測定用容器であって、
前記容器に発光溶液を入れたときに前記開口部から検出される光量(A)[cps]、
及び前記容器に発光溶液を入れ前記開口部を遮光性材料で覆ったときに前記容器から漏れ出た光量(B)[cps]から式(1)
[{(A)−(B)}÷(A)]×100・・・式(1)
により計算される遮光率が99.99%以上であり、反射率が黒色容器より大きいことを特徴とする、内壁が光反射性成分を配合した熱可塑性樹脂からなり、内壁以外が光吸収性成分を配合した熱可塑性樹脂からなる発光測定用容器。
【請求項7】
発光測定用容器の反射率が、1重量%の黒色顔料を配合した熱可塑性樹脂製容器より大きいことを特徴とする、請求項6の発光測定用容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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