説明

発光素子

【課題】
発光効率や駆動電圧は損なわずに、耐久性に優れた発光素子を提供すること。
【解決手段】
陽極と陰極の間に少なくとも発光層と正孔阻止層と電子輸送層が存在し、発光層と正孔阻止層と電子輸送層がこの順に接して積層され、電気エネルギーにより発光する発光素子であって、該正孔阻止層が下記一般式(1)で表されるピレン骨格を有する化合物を含有することを特徴とする発光素子。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気エネルギーを光に変換できる発光素子であって、表示素子、フラットパネルディスプレイ、バックライト、照明、インテリア、標識、看板、電子写真機および光信号発生器などの分野に利用可能な発光素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
陰極から注入された電子と陽極から注入された正孔が両極に挟まれた有機蛍光体内で再結合する際に発光するという有機薄膜発光素子の研究が、近年活発に行われている。この発光素子は、薄型でかつ低駆動電圧下での高輝度発光と、蛍光材料を選ぶことによる多色発光が特徴であり、注目を集めている。
【0003】
この研究は、コダック社のC.W.Tangらが有機薄膜素子が高輝度に発光することを示して以来、多くの研究機関が検討を行っている。コダック社の研究グループが提示した有機薄膜発光素子の代表的な構成は、ITOガラス基板上に正孔輸送性のジアミン化合物、発光層である8−ヒドロキシキノリンアルミニウム、そして陰極としてMg:Agを順次設けたものであり、10V程度の駆動電圧で1,000cd/mの緑色発光が可能であった(非特許文献1参照)。
【0004】
また、有機薄膜発光素子は、発光層に種々の蛍光材料を用いることにより、多様な発光色を得ることが可能であることから、ディスプレイなどへの実用化研究が盛んである。三原色の発光材料の中では緑色発光材料の研究が最も進んでおり、現在は赤色発光材料と青色発光材料において、特性向上を目指して鋭意研究がなされている。特に、青色発光においては発光効率と耐久性の向上、および駆動電圧の低下を満足する材料は少なく、これらの改善のため様々な発光材料が検討されている(例えば、特許文献1〜2参照)。
【0005】
一方、有機薄膜発光素子の発光効率と耐久性の向上、および駆動電圧の低下のために、材料面だけでなく、素子構成の面からも検討されている。例えば、発光層に正孔を閉じこめることを目的として、発光層と電子輸送層の間に正孔阻止層を積層することが検討されている。正孔阻止層を用いることで、発光層中での正孔と電子の再結合確率を向上させ、発光効率の向上を期待することができる。また、電子輸送層への正孔の進入を阻止することで、正孔による電子輸送層の劣化を抑えて耐久性の向上を期待する事もできる。
【0006】
正孔阻止材料としては、フェナントロリン誘導体やトリアゾール誘導体などが提案されている(特許文献3〜4参照)。また、青色ホスト材料を有機リン光素子の正孔阻止層として使用する技術も提案されている(特許文献5参照)。また、電子輸送材料と正孔輸送材料を特定の材料とする技術も提案されている(特許文献6参照)。また、アントラセン誘導体を正孔阻止バッファ層として用いる技術も提案されている(特許文献7〜8参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開WO2007/29798号パンフレット
【特許文献2】国際公開WO2008/108256号パンフレット
【特許文献3】特開平10−233284号公報
【特許文献4】特開2001−267080号公報
【特許文献5】特開2006−49570号公報
【特許文献6】特開2005−93425号公報
【特許文献7】特表2007−507107号公報
【特許文献8】国際公開WO2004/75603号パンフレット
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】“Applied Physics Letters”,(米国),1987年,51巻,12号,p.913−915
【非特許文献2】“Applied Physics Letters”,(米国),1999年,74巻,3号,p.442−444
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1〜2のような方法では、RGBすべての発光について発光効率などを改良するためには、各発光材料ごとに改良が必要になる。また、特許文献3〜8のような従来技術を用いた場合であっても耐久性の面で十分な効果が得られておらず、発光効率、耐久性、低駆動電圧のすべてを満足する発光素子は達成されていなかった。そこで、本発明はかかる従来技術の問題を解決し、発光効率や駆動電圧は損なわずに、耐久性に優れた発光素子を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、陽極と陰極の間に少なくとも発光層と正孔阻止層と電子輸送層が存在し、発光層と正孔阻止層と電子輸送層がこの順に接して積層され、電気エネルギーにより発光する発光素子であって、該正孔阻止層が下記一般式(1)で表されるピレン骨格を有する化合物を含有することを特徴とする発光素子である。
【0011】
【化1】

【0012】
(R〜R18はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、水素、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン、カルボニル基、カルボキシル基、オキシカルボニル基、カルバモイル基、アミノ基、シリル基および−P(=O)R1920からなる群より選ばれる。R19およびR20はアリール基またはヘテロアリール基である。R〜R18は隣接する置換基同士で環を形成してもよい。nは1〜3の整数である。Xは−O−、−S−および−NR21−からなる群より選ばれる。R21は水素、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基およびアミノ基からなる群より選ばれる。R21はR11またはR18と結合し環を形成してもよい。Aは単結合、アリーレン基およびヘテロアリーレン基からなる群より選ばれる。R〜R10のうちいずれかn個およびR11〜R21のうちいずれか1つはAとの連結に用いられる。但し、R、R、Rのうち少なくとも1つはRと異なる基である。)
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、優れた耐久性を有する発光素子が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の発光素子の実施の形態について詳細に説明する。本発明の発光素子は、陽極と陰極、およびそれら陽極と陰極の間に介在する発光素子材料からなる有機層とで基本的に構成されている。発光素子材料とは、自ら発光するもの、またはその発光を助けるもののいずれかに該当し、発光に関与している化合物を指すものであり、具体的には、正孔輸送材料、発光材料、正孔阻止材料および電子輸送材料などが該当する。
【0015】
本発明の発光素子は、有機層が発光素子材料からなる層により形成され、陽極と陰極の間に、発光素子材料からなる少なくとも発光層と正孔阻止層と電子輸送層が存在する。有機層の構成例としては、1)正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層、および、2)発光層/正孔阻止層/電子輸送層などの積層構成が挙げられる。また、上記各層は、それぞれ単一層からなってもよいし、複数層からなってもよい。本発明の正孔阻止層は、陽極から発光層を経由して移動してくる正孔を発光層内に閉じこめることを目的とする。この働きにより、正孔による電子輸送層の劣化を抑制することができる。
【0016】

本発明の正孔阻止層は、下記一般式(1)で表されるピレン骨格を有する化合物を含有することが特徴である。
【0017】
【化2】

【0018】
〜R18はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、水素、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン、カルボニル基、カルボキシル基、オキシカルボニル基、カルバモイル基、アミノ基、シリル基および−P(=O)R1920からなる群より選ばれる。R19およびR20はアリール基またはヘテロアリール基である。R〜R18は隣接する置換基同士で環を形成してもよい。nは1〜3の整数である。Xは−O−、−S−および−NR21−からなる群より選ばれる。R21は水素、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基およびアミノ基からなる群より選ばれる。R21はR11またはR18と結合し環を形成してもよい。Aは単結合、アリーレン基およびヘテロアリーレン基からなる群より選ばれる。R〜R10のうちいずれかn個およびR11〜R21のうちいずれか1つはAとの連結に用いられる。但し、R、R、Rのうち少なくとも1つはRと異なる基である。
【0019】
これらの置換基のうち、アルキル基とは、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基などの飽和脂肪族炭化水素基を示し、これは置換基を有していても有していなくてもよい。置換されている場合の追加の置換基には特に制限は無く、例えば、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基等を挙げることができ、この点は、以下の記載にも共通する。また、アルキル基の炭素数は特に限定されないが、入手の容易性やコストの点から、通常1以上20以下、より好ましくは1以上8以下の範囲である。
【0020】
シクロアルキル基とは、例えば、シクロプロピル、シクロヘキシル、ノルボルニル、アダマンチルなどの飽和脂環式炭化水素基を示し、これは置換基を有していても有していなくてもよい。アルキル基部分の炭素数は特に限定されないが、通常、3以上20以下の範囲である。
【0021】
複素環基とは、例えば、ピラン環、ピペリジン環、環状アミドなどの炭素以外の原子を環内に有する脂肪族環を示し、これは置換基を有していても有していなくてもよい。複素環基の炭素数は特に限定されないが、通常、2以上20以下の範囲である。
【0022】
アルケニル基とは、例えば、ビニル基、アリル基、ブタジエニル基などの二重結合を含む不飽和脂肪族炭化水素基を示し、これは置換基を有していても有していなくてもよい。アルケニル基の炭素数は特に限定されないが、通常、2〜20の範囲である。
【0023】
シクロアルケニル基とは、例えば、シクロペンテニル基、シクロペンタジエニル基、シクロヘキセニル基などの二重結合を含む不飽和脂環式炭化水素基を示し、これは置換基を有していても有していなくてもよい。
【0024】
アルキニル基とは、例えば、エチニル基などの三重結合を含む不飽和脂肪族炭化水素基を示し、これは置換基を有していても有していなくてもよい。アルキニル基の炭素数は特に限定されないが、通常、2〜20の範囲である。
【0025】
アルコキシ基とは、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などのエーテル結合を介して脂肪族炭化水素基が結合した官能基を示し、この脂肪族炭化水素基は置換基を有していても有していなくてもよい。アルコキシ基の炭素数は特に限定されないが、通常、1以上20以下の範囲である。
【0026】
アルキルチオ基とは、アルコキシ基のエーテル結合の酸素原子が硫黄原子に置換されたものである。アルキルチオ基の炭化水素基は置換基を有していても有していなくてもよい。アルキルチオ基の炭素数は特に限定されないが、通常、1以上20以下の範囲である。
【0027】
アリールエーテル基とは、例えば、フェノキシ基など、エーテル結合を介した芳香族炭化水素基が結合した官能基を示し、芳香族炭化水素基は置換基を有していても有していなくてもよい。アリールエーテル基の炭素数は特に限定されないが、通常、6以上40以下の範囲である。
【0028】
アリールチオエーテル基とは、アリールエーテル基のエーテル結合の酸素原子が硫黄原子に置換されたものである。アリールエーテル基における芳香族炭化水素基は置換基を有していても有していなくてもよい。アリールエーテル基の炭素数は特に限定されないが、通常、6以上40以下の範囲である。
【0029】
アリール基とは、例えば、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、アントラセニル基、フェナントリル基、ターフェニル基、ピレニル基、フルオレニル基などの芳香族炭化水素基を示す。アリール基は、置換基を有していても有していなくてもよい。アリール基の炭素数は特に限定されないが、通常、6〜40の範囲である。
【0030】
ヘテロアリール基とは、ピリジル基、キノリニル基、ピラジニル基、ナフチリジル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチオフェニル基、カルバゾリル基などの炭素以外の原子を一個または複数個環内に有する環状芳香族基を示し、これは無置換でも置換されていてもかまわない。ヘテロアリール基の炭素数は特に限定されないが、通常、2〜30の範囲である。ヘテロアリール基の連結位置はどの部分でもよく、例えばピリジル基の場合、2−ピリジル基、3−ピリジル基または4−ピリジル基のいずれでもよい。
【0031】
ハロゲン原子とは、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素を示す。カルボニル基、カルボキシル基、オキシカルボニル基、カルバモイル基、アミノ基、ホスフィンオキサイド基は、置換基を有していても有していなくてもよく、置換基としては例えばアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基などが挙げられ、これら置換基はさらに置換されてもよい。
【0032】
シリル基とは、例えば、トリメチルシリル基などのケイ素原子への結合を有する官能基を示し、これは置換基を有していても有していなくてもよい。シリル基の炭素数は特に限定されないが、通常、3〜20の範囲である。また、ケイ素数は、通常、1〜6である。
【0033】
アリーレン基とは、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、フェナントリル基、ターフェニル基、ピレニル基などの芳香族炭化水素基から導かれる2価の基を示し、これは置換基を有していても有していなくてもよい。アリーレン基の炭素数は特に限定されないが、通常、6〜40の範囲である。一般式(1)のAがアリーレン基の場合、該アリーレン基は置換基を有していても有していなくてもよいが、置換基も含めて炭素数は6〜30の範囲である。
【0034】
ヘテロアリーレン基とは、ピリジル基、キノリニル基、ピラジニル基、ナフチリジル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチオフェニル基、カルバゾリル基などの炭素以外の原子を一個または複数個環内に有する環状芳香族基から導かれる2価の基を示し、これは置換基を有していても有していなくてもよい。ヘテロアリーレン基の炭素数は特に限定されないが、通常、置換基も含めて2〜30の範囲である。
【0035】
隣接する置換基同士で環を形成する場合、任意の隣接2置換基(例えば一般式(1)のRとR)が互いに結合して共役または非共役の縮合環を形成できる。縮合環の構成元素として、炭素以外にも窒素、酸素、硫黄、リン、ケイ素原子を含んでいてもよいし、さらに別の環と縮合してもよい。
【0036】
本発明の一般式(1)で表されるピレン化合物は、HOMO(最高被占有分子軌道)が5.6eV〜6.5eVを有するため発光層からの正孔をブロックするのに最適であり、また、ピレンが有する高い電子注入・輸送能のため電子を発光層に供給することができ、発光層内での正孔と電子の再結合確率が増えるため、発光効率が向上する。
【0037】
本発明の一般式(1)で表されるピレン化合物は、分子中にピレン骨格と立体的に嵩高い置換基であるジベンゾフラン、ジベンゾチオフェン、カルバゾールの中から選ばれる基を1〜3個有することにより、高い薄膜安定性と優れた耐熱性を有する。さらに、R,R,Rの少なくとも1つがRと異なる基であることにより、分子の対称性が低下し、良質なアモルファス薄膜を形成でき、さらに耐久性が向上する。
【0038】
本発明の一般式(1)で表されるピレン化合物は、Rがアリール基であり、Aの少なくとも1つがRもしくはRの位置で連結することにより、ガラス転移温度が向上し高い薄膜安定性が得られると同時に、発光材料とのエキサイプレックス形成などの相互作用が抑制され、発光効率の低下を防ぐことが可能となるため好ましい。また、Rがアルキル基もしくはシクロアルキル基であっても同様の効果が得られ、好ましい。
【0039】
本発明の一般式(1)で表される化合物の中でも、原料入手の都合上、または合成が容易であることから一般式(2)もしくは(3)で表されるピレン化合物が好ましい。
【0040】
【化3】

【0041】
40〜R56はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、水素、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン、カルボニル基、カルボキシル基、オキシカルボニル基、カルバモイル基、アミノ基、シリル基および−P(=O)R5758からなる群より選ばれる。R57およびR58はアリール基またはヘテロアリール基である。R40〜R58は隣接する置換基同士で環を形成してもよい。Arはアリーレン基またはヘテロアリーレン基である。但し、R42およびR44の少なくとも1つがアリール基またはヘテロアリール基であるか、もしくはR43がアルキル基またはシクロアルキル基である。
【0042】
これら置換基の説明は、上記一般式(1)の説明と同様である。
【0043】
【化4】

【0044】
60〜R75はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、水素、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン、カルボニル基、カルボキシル基、オキシカルボニル基、カルバモイル基、アミノ基、シリル基および−P(=O)R7677からなる群より選ばれる。R76およびR77はアリール基またはヘテロアリール基である。R60〜R75は隣接する置換基同士で環を形成してもよい。Arはアリーレン基またはヘテロアリーレン基である。但し、R62およびR64の少なくとも1つがアリール基またはヘテロアリール基であるか、もしくはR63がアルキル基またはシクロアルキル基である。
【0045】
これら置換基の説明は、上記一般式(1)の説明と同様である。
【0046】
本発明に用いられる一般式(1)〜(3)で表されるピレン化合物は、ピレン骨格の有する高い電子輸送能に加えて、電子輸送層からの電子を効率よく受け取るために少なくとも1つは電子受容性窒素を有するヘテロアリール基を含有していることで低駆動電圧が可能となり、さらに、正孔ブロック能が高まることで発光効率が高まるため好ましい。
【0047】
中でも、本発明の一般式(2)の形態の場合、R42およびR44の少なくとも1つが電子受容性窒素を有するヘテロアリール基であるか、もしくはR43がアルキル基またはシクロアルキル基であり、R47が電子受容性窒素を有するヘテロアリール基であることが、より好ましい。また、本発明の一般式(3)の形態の場合、R62およびR64の少なくとも1つが電子受容性窒素を有するヘテロアリール基であるか、もしくはR43がアルキル基またはシクロアルキル基であり、R67が電子受容性窒素を有するヘテロアリール基であることが、より好ましい。
【0048】
なお、本発明における電子受容性窒素とは、隣接原子との間に多重結合を形成している窒素原子を表す。窒素原子が高い電子陰性度を有することから、この多重結合は電子受容的な性質を有する。
【0049】
電子受容性窒素を有するヘテロアリール基としては、例えば、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、キノリン、キノキサリン、ナフチリジン、ピリミドピリミジン、ベンゾキノリン、フェナントロリン、トリアジン、イミダゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、トリアゾール、チアゾール、チアジアゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾール、ベンズイミダゾールおよびフェナンスロイミダゾールなどが挙げられる。中でも、ピリジン、ピリミジン、キノリン、トリアジンなどが、より低駆動電圧が可能となるため好ましい。
【0050】
上記のようなピレン化合物として、特に限定されるものではないが、具体的には以下のような例が挙げられる。
【0051】
【化5】

【0052】
【化6】

【0053】
【化7】

【0054】
【化8】

【0055】
【化9】

【0056】
【化10】

【0057】
【化11】

【0058】
【化12】

【0059】
【化13】

【0060】
【化14】

【0061】
【化15】

【0062】
【化16】

【0063】
【化17】

【0064】
【化18】

【0065】
【化19】

【0066】
【化20】

【0067】
【化21】

【0068】
【化22】

【0069】
【化23】

【0070】
【化24】

【0071】
【化25】

【0072】
【化26】

【0073】
【化27】

【0074】
【化28】

【0075】
【化29】

【0076】
【化30】

【0077】
【化31】

【0078】
【化32】

【0079】
一方、電子輸送層は、電子受容性窒素を有する複素芳香環からなる化合物を含有し、該複素芳香環からなる化合物が共有結合のみで形成される化合物であることが好ましく、さらに炭素、水素、窒素、酸素、ケイ素、リンの中から選ばれる元素で構成されるヘテロアリール環構造を有する化合物を含有することが好ましい。電子受容性窒素の説明は上記の通りである。電子受容性窒素を有する複素芳香環は、高い電子親和性を有する。電子輸送層に含まれる化合物が有する電子受容性窒素を有する複素芳香環としては、例えば、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、キノリン環、キノキサリン環、ナフチリジン環、ピリミドピリミジン環、ベンゾキノリン環、フェナントロリン環、イミダゾール環、オキサゾール環、オキサジアゾール環、トリアゾール環、チアゾール環、チアジアゾール環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンズイミダゾール環およびフェナンスロイミダゾール環などが挙げられる。
【0080】
また、炭素、水素、酸素、硫黄、ケイ素およびリンの中から選ばれる一種以上の原子で構成される芳香環もしくは複素芳香環としては、ベンゼン環、ナフタレン環、フェナンスレン環、アントラセン環、ピレン環、クリセン環などの炭化水素系芳香環、フラン環、チオフェン環、シロール環などの複素芳香環およびその縮合環などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0081】
例えば、ベンズイミダゾール誘導体、ベンズオキサゾール誘導体、ベンズチアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、ピラジン誘導体、フェナントロリン誘導体、キノキサリン誘導体、キノリン誘導体、ベンゾキノリン誘導体、ピリジン誘導体、ビピリジンやターピリジンなどのオリゴピリジン誘導体、キノキサリン誘導体およびナフチリジン誘導体などが好ましい化合物として挙げられる。中でも、トリス(N−フェニルベンズイミダゾール−2−イル)ベンゼンや2−[4−(9,10−ジナフタレン−2−イル−アントラセニル)フェニル]−1−フェニル−1H−ベンゾイミダゾールなどのイミダゾール誘導体、1,3−ビス[(4−tert−ブチルフェニル)1,3,4−オキサジアゾリル]フェニレンなどのオキサジアゾール誘導体、N−ナフチル−2,5−ジフェニル−1,3,4−トリアゾールなどのトリアゾール誘導体、バソクプロインや1,3−ビス(2−フェニル−1,10−フェナントロリン−9−イル)ベンゼンなどのフェナントロリン誘導体、2,2’−ビス(ベンゾ[h]キノリン−2−イル)−9,9’−スピロビフルオレンなどのベンゾキノリン誘導体、1,3−ビス(4’−(2,2’:6’2”−ターピリジニル))ベンゼンなどのターピリジン誘導体、ビス(1−ナフチル)−4−(1,8−ナフチリジン−2−イル)フェニルホスフィンオキサイドなどのナフチリジン誘導体、または本発明で用いられる正孔阻止材料のうち電子受容性窒素を有する複素芳香環からなる化合物を含有する材料などが、電子輸送能の観点から好ましく用いられる。
【0082】
本発明における正孔阻止層および電子輸送層は、それぞれ一種または二種以上を積層、混合するか、電子輸送材料と高分子粘着剤の混合物により形成される。これらの層に電子輸送能を向上させるためにアルカリ金属、アルカリ金属を含有する無機塩、アルカリ金属と有機物との錯体、アルカリ土類金属、アルカリ土類金属を含有する無機塩またはアルカリ土類金属と有機物との錯体などを添加して用いてもよい。アルカリ金属、アルカリ土類金属の好ましい種類としては、低仕事関数で電子輸送能向上の効果が大きいリチウム、ナトリウム、セシウムといったアルカリ金属や、マグネシウム、カルシウムといったアルカリ土類金属が挙げられる。また、真空中での蒸着が容易で取り扱いに優れることから、金属単体よりも無機塩、あるいは有機物との錯体の状態であることが好ましい。さらに、大気中での取扱を容易にし、添加濃度の制御のし易さの点で、有機物との錯体の状態にあることがより好ましい。無機塩の例としては、LiO、Li2O等の酸化物、窒化物、LiF、NaF、KF等のフッ化物、Li2CO3、Na2CO3、K2CO3、Rb2CO3、Cs2CO3等の炭酸塩などが挙げられる。また、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の好ましい例としては、原料が安価で合成が容易な点から、リチウムが挙げられる。また、有機物との錯体における有機物の好ましい例としては、キノリノール、ベンゾキノリノール、フラボノール、ヒドロキシイミダゾピリジン、ヒドロキシベンズアゾール、ヒドロキシトリアゾールなどが挙げられる。中でも、アルカリ金属と有機物との錯体が好ましく、リチウムと有機物との錯体がより好ましく、リチウムキノリノールが特に好ましい。また、電子輸送層中のドーピング割合が適切であると、陰極または電子注入層からの電子輸送層への電子の注入割合が増加し、陰極と電子注入層間または電子注入層と電子輸送層間でのエネルギー障壁が軽減され低駆動電圧化する。好適なドーピング濃度は材料やドーピング領域の膜厚によっても異なるが、有機化合物とドナー性化合物のモル比100:1〜1:100の範囲が好ましく、10:1〜1:10がより好ましい。
【0083】
電子輸送層にドーピングして電子輸送能を向上させる方法は、薄膜層の膜厚が厚い場合に特に効果を発揮するものである。電子輸送層および発光層の合計膜厚が50nm以上の場合に特に好ましく用いられる。例えば、発光効率を向上させるために干渉効果を利用する方法があるが、これは発光層から直接放射される光と、陰極で反射された光の位相を整合させて光の取り出し効率を向上させるものである。この最適条件は光の発光波長に応じて変化するが、電子輸送層および発光層の合計膜厚が50nm以上となり、赤色などの長波長発光の場合には100nm近くの厚膜になる場合がある。
【0084】
ドーピングする電子輸送層の膜厚は、電子輸送層の一部分または全部のどちらでも構わないが、電子輸送層全体の膜厚が厚いほどドーピングする濃度も濃い方がよい。一部分にドーピングする場合、少なくとも電子輸送層/陰極界面にはドーピング領域を設けることが望ましく、陰極界面付近にドーピングするだけでも低電圧化の効果は得られる。一方、発光層にドーピングされると発光効率を低下させる悪影響を及ぼす場合には、発光層/電子輸送層界面にノンドープ領域を設けることが望ましい。
【0085】
本発明で用いられる陽極は、正孔を有機層に効率よく注入できる材料、かつ光を取り出すために、透明または半透明であれば酸化錫、酸化インジウム、酸化錫インジウム(ITO)などの導電性金属酸化物、あるいは金、銀、クロムなどの金属、ヨウ化銅、硫化銅などの無機導電性物質、ポリチオフェン、ポリピロールおよびポリアニリンなどの導電性ポリマなど、特に限定されるものでないが、ITOガラスやネサガラスを用いることが特に望ましい。
【0086】
透明電極の抵抗は、発光素子の発光に十分な電流が供給できればよいので限定されないが、発光素子の消費電力の観点からは低抵抗であることが望ましい。例えば、300Ω/□以下のITO基板であれば素子電極として機能するが、現在では10Ω/□程度の基板の供給も可能になっていることから、低抵抗品を使用することが特に望ましい。ITOの厚みは抵抗値に合わせて任意に選ぶ事ができるが、通常100〜300nmの間で用いられることが多い。
【0087】
また、発光素子の機械的強度を保つために、発光素子を基板上に形成することが好ましい。基板は、ソーダガラスや無アルカリガラスなどのガラス基板が好適に用いられる。ガラス基板の厚みは、機械的強度を保つのに十分な厚みがあればよいので、0.5mm以上あれば十分である。ガラスの材質については、ガラスからの溶出イオンが少ない方がよいので無アルカリガラスの方が好ましい。または、SiOなどのバリアコートを施したソーダライムガラスも市販されているのでこれを使用することができる。さらに、陽極が安定に機能するのであれば、基板はガラスである必要はなく、例えば、プラスチック基板上に陽極を形成しても良い。ITO膜形成方法は、電子線ビーム法、スパッタリング法および化学反応法など特に制限を受けるものではない。
【0088】
本発明で用いられる陰極は、電子を有機層に効率良く注入できる物質であれば特に限定されないが、一般に白金、金、銀、銅、鉄、錫、亜鉛、アルミニウム、インジウム、クロム、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム、カルシウムおよびマグネシウムなどが挙げられる。電子注入効率をあげて素子特性を向上させるためには、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム、カルシウム、マグネシウムまたはこれら低仕事関数金属を含む合金が有効である。しかしながら、これらの低仕事関数金属は、一般に大気中で不安定であることが多く、例えば、有機層に微量のリチウム、セシウムやマグネシウム(真空蒸着の膜厚計表示で1nm以下)をドーピングして安定性の高い電極を使用する方法が好ましい例として挙げることができるが、フッ化リチウム、フッ化セシウム、酸化リチウムおよび酸化セシウムのような無機塩の使用も可能であることから特にこれらに限定されるものではない。更に、電極保護のために白金、金、銀、銅、鉄、錫、アルミニウムおよびインジウムなどの金属、またはこれら金属を用いた合金、そしてシリカ、チタニアおよび窒化ケイ素などの無機物、ポリビニルアルコール、塩化ビニル、炭化水素系高分子化合物などを、保護膜層として陰極上に積層することが、好ましい例として挙げられる。ただし、陰極側から光を取り出す素子構造(トップエミッション構造)の場合は、保護膜層は可視光領域で光透過性のある材料から選択される。これらの電極の作製法も、抵抗加熱、電子線ビーム、スパッタリング、イオンプレーティングおよびコーティングなど、導通を取ることができれば特に制限されない。
【0089】
正孔輸送層は、正孔輸送材料の一種または二種以上を積層、混合するか、正孔輸送材料と高分子結着剤の混合物により形成される。また、正孔輸送材料に塩化鉄(III)のような無機塩を添加して層を形成してもよい。正孔輸送材料は、電界を与えられた電極間において正極からの正孔を効率良く輸送することが必要で、正孔注入効率が高く、注入された正孔を効率良く輸送することが望ましい。そのためには適切なイオン化ポテンシャルを持ち、しかも正孔移動度が大きく、さらに安定性に優れ、トラップとなる不純物が製造時および使用時に発生しにくい物質であることが要求される。正孔輸送材料としては、例えば、N,N’−ジフェニル−N,N’−ジ(3−メチルフェニル)−4,4’−ジフェニル−1,1’−ジアミン、N,N’−ジナフチル−N,N’−ジフェニル−4,4’−ジフェニル−1,1’−ジアミン、4,4’,4”−トリス(3−メチルフェニル(フェニル)アミノ)トリフェニルアミンなどのトリフェニルアミン誘導体、ビス(N−アリルカルバゾール)またはビス(N−アルキルカルバゾール)などのビスカルバゾール誘導体、ピラゾリン誘導体、スチルベン系化合物、ヒドラゾン系化合物、ベンゾフラン誘導体やチオフェン誘導体、オキサジアゾール誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体などの複素環化合物、フラーレン誘導体、ポリマー系では前記単量体を側鎖に有するポリカーボネートやスチレン誘導体、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリフルオレン、ポリビニルカルバゾールおよびポリシランなどが好ましいが、発光素子の作製に必要な薄膜を形成し、陽極から正孔が注入できて、さらに正孔を輸送できる化合物であれば特に限定されるものではない。
【0090】
さらにp型Si、p型SiC等の無機化合物も使用できる。また、下記一般式(4)で表される化合物、テトラフルオロテトラシアノキノジメタン(4F−TCNQ)または酸化モリブデンも用いることができる。
【0091】
【化33】

【0092】
80〜R85はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、ハロゲン、スルホニル基、カルボニル基、ニトロ基、シアノ基、トリフルオロメチル基からなる群より選ばれる。
【0093】
中でも、化合物(5)(1,4,5,8,9,12−ヘキサアザトリフェニレンヘキサカルボニトリル)が正孔輸送層または正孔注入層に含まれると、より低電圧駆動となるため好ましい。
【0094】
【化34】

【0095】
本発明において、発光層は単一層でも複数層からなってもどちらでもよく、それぞれ発光材料(ホスト材料、ドーパント材料)により形成され、これはホスト材料とドーパント材料との混合物であっても、ホスト材料単独であっても、いずれでもよい。すなわち、本発明の発光素子では、発光層の各層において、ホスト材料もしくはドーパント材料のみが発光してもよいし、ホスト材料とドーパント材料がともに発光してもよい。電気エネルギーを効率よく利用し、高色純度の発光を得るという観点からは、発光層はホスト材料とドーパント材料の混合からなることが好ましい。また、ホスト材料とドーパント材料は、それぞれ一種類であっても、複数の組み合わせであっても、いずれでもよい。ドーパント材料はホスト材料の全体に含まれていても、部分的に含まれていても、いずれであってもよい。ドーパント材料は積層されていても、分散されていても、いずれであってもよい。ドーパント材料は発光色の制御ができる。ドーパント材料の量は、多すぎると濃度消光現象が起きるため、ホスト材料に対して20重量%以下で用いることが好ましく、さらに好ましくは10重量%以下である。ドーピング方法は、ホスト材料との共蒸着法によって形成することができるが、ホスト材料と予め混合してから同時に蒸着してもよい。
【0096】
本発明で用いられるドーパント材料としては、特に限定されるものではなく、既知の化合物を用いることができ、所望の発光色に応じて様々な材料の中から選択することができる。
【0097】
具体的には、これに限定されるものではないが、青〜青緑色ドーパント材料としては、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナンスレン、ピレン、クリセン、トリフェニレン、ペリレン、フルオレン、インデンなどの芳香族炭化水素化合物やその誘導体、フラン、ピロール、チオフェン、シロール、9−シラフルオレン、9,9’−スピロビシラフルオレン、ベンゾチオフェン、ベンゾフラン、インドール、ジベンゾチオフェン、ジベンゾフラン、イミダゾピリジン、フェナントロリン、ピラジン、ナフチリジン、キノキサリン、ピロロピリジン、チオキサンテンなどの芳香族複素環化合物やその誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、スチルベン誘導体、アルダジン誘導体、クマリン誘導体、イミダゾール、チアゾール、チアジアゾール、カルバゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、トリアゾールなどのアゾール誘導体およびその金属錯体およびN,N’−ジフェニル−N,N’−ジ(3−メチルフェニル)−4,4’−ジフェニル−1,1’−ジアミンに代表される芳香族アミン誘導体、ビス(アジニル)アゼン骨格を有するホウ素錯体などが挙げられる。
【0098】
また、緑〜黄色ドーパント材料としては、クマリン誘導体、フタルイミド誘導体、ナフタルイミド誘導体、ペリノン誘導体、ピロロピロール誘導体、ピロメテン誘導体、シクロペンタジエン誘導体、アクリドン誘導体、キナクリドン誘導体およびルブレンなどのナフタセン誘導体などが挙げられ、さらに上記青〜青緑色ドーパント材料として例示した化合物に、アリール基、ヘテロアリール基、アリールビニル基、アミノ基、シアノ基など長波長化を可能とする置換基を導入した化合物も好適な例として挙げられる。
【0099】
さらに、橙〜赤色ドーパント材料としては、ビス(ジイソプロピルフェニル)ペリレンテトラカルボン酸イミドなどのナフタルイミド誘導体、ペリノン誘導体、アセチルアセトンやベンゾイルアセトンとフェナントロリンなどを配位子とするEu錯体などの希土類錯体、4−(ジシアノメチレン)−2−メチル−6−(p−ジメチルアミノスチリル)−4H−ピランやその類縁体、マグネシウムフタロシアニン、アルミニウムクロロフタロシアニンなどの金属フタロシアニン誘導体、ローダミン化合物、デアザフラビン誘導体、クマリン誘導体、キナクリドン誘導体、フェノキサジン誘導体、オキサジン誘導体、キナゾリン誘導体、ピロロピリジン誘導体、ピロメテン誘導体、スクアリリウム誘導体、ビオラントロン誘導体、フェナジン誘導体、フェノキサゾン誘導体およびチアジアゾロピレン誘導体など挙げられ、さらに上記青〜青緑色および緑〜黄色ドーパント材料として例示した化合物に、アリール基、ヘテロアリール基、アリールビニル基、アミノ基、シアノ基など長波長化を可能とする置換基を導入した化合物も好適な例として挙げられる。さらに、トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム(III)に代表されるイリジウムや白金を中心金属としたリン光性金属錯体も好適な例として挙げられ、青〜赤色ドーパントとして用いることができる。
【0100】
本発明で用いられるホスト材料としては、特に限定されるものではないが、以前から発光体として知られていたアントラセンやピレンなどの縮合環誘導体、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム(III)をはじめとする金属キレート化オキシノイド化合物、ビススチリルアントラセン誘導体やジスチリルベンゼン誘導体などのビススチリル誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、インデン誘導体、クマリン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピロロピリジン誘導体、ペリノン誘導体、シクロペンタジエン誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアジアゾロピリジン誘導体、ピロロピロール誘導体、ポリマー系では、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリチオフェン誘導体が好適に用いられる。
【0101】
また、リン光発光を示す発光層のホスト材料としては、特に限定されるものではないが、4,4’−ビス(カルバゾリル−N−イル)ビフェニルやN,N’−ジフェニル−3,3’−ビスカルバゾールなどのカルバゾール誘導体、N,N’−ジフェニル−N,N’−ジ(3−メチルフェニル)−4,4’−ジフェニル−1,1’−ジアミン、N,N’−ジナフチル−N,N’−ジフェニル−4,4’−ジフェニル−1,1’−ジアミンなどのトリフェニルアミン誘導体、インドール誘導体、トリアゾール、オキサジアゾール、イミダゾールなどのアゾール誘導体、フェナントロリン誘導体、キノリン誘導体、キノキサリン誘導体、ナフチリジン誘導体、ビピリジンおよびターピリジンなどのオリゴピリジン誘導体、ジベンゾフラン誘導体、インドロカルバゾール誘導体などが挙げられる。
【0102】
発光素子を構成する上記各層の形成方法は、抵抗加熱蒸着、電子ビーム蒸着、スパッタリング、分子積層法、コーティング法など特に限定されるものではないが、通常は、素子特性の点から抵抗加熱蒸着または電子ビーム蒸着が好ましい。
【0103】
有機層の厚みは、発光物質の抵抗値にもよるので限定することはできないが、1〜1,000nmであることが好ましい。正孔輸送層、発光層、正孔阻止層、電子輸送層の膜厚はそれぞれ、好ましくは1nm以上200nm以下であり、さらに好ましくは5nm以上100nm以下である。膜厚は通常、水晶発振式膜厚測定装置などで測定できる。
【0104】
本発明の発光素子は、電気エネルギーを光に変換できる機能を有する。ここで電気エネルギーとは主に直流電流を指すが、パルス電流や交流電流を用いることも可能である。電流値および電圧値は特に制限はないが、素子の消費電力や寿命を考慮すると、できるだけ低いエネルギーで最大の輝度が得られるよう選ばれるべきである。
【0105】
本発明の発光素子は、例えば、マトリクスおよび/またはセグメント方式で表示するディスプレイとして好適に用いられる。
【0106】
本発明におけるマトリクスとは、表示のための画素が格子状やモザイク状など二次元的に配置されたものをいい、画素の集合で文字や画像を表示する。画素の形状やサイズは用途によって決まる。例えば、パソコン、モニター、テレビの画像および文字表示には、通常一辺が300μm以下の四角形の画素が用いられ、また、表示パネルのような大型ディスプレイの場合は、一辺がmmオーダーの画素を用いることになる。モノクロ表示の場合は、同じ色の画素を配列すればよいが、カラー表示の場合には、赤、緑、青の画素を並べて表示させる。この場合、典型的にはデルタタイプとストライプタイプがある。そして、このマトリクスの駆動方法としては、線順次駆動方法やアクティブマトリックスのどちらでもよい。線順次駆動の方が構造が簡単であるという利点があるが、動作特性を考慮した場合、アクティブマトリックスの方が優れる場合があるので、これも用途によって使い分けることが必要である。
【0107】
本発明におけるセグメント方式(タイプ)とは、予め決められた情報を表示するようにパターンを形成し、決められた領域を発光させることになる。例えば、デジタル時計や温度計における時刻や温度表示、オーディオ機器や電磁調理器などの動作状態表示および自動車のパネル表示などが挙げられる。そして、前記マトリクス表示とセグメント表示は同じパネルの中に共存していてもよい。
【0108】
本発明の発光素子は、各種機器等のバックライトとしても好ましく用いられる。バックライトは、主に自発光しない表示装置の視認性を向上させる目的に使用され、液晶表示装置、時計、オーディオ装置、自動車パネル、表示板および標識などに使用される。特に、液晶表示装置、中でも薄型化が課題となっているパソコン用途のバックライトとしては、従来方式のものが蛍光灯や導光板からなっているため薄型化が困難であることを考えると、本発明における発光素子を用いたバックライトは薄型で軽量が特徴になる。
【実施例】
【0109】
以下、実施例をあげて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0110】
実施例1
ITO透明導電膜を150nm堆積させたガラス基板(ジオマテック(株)製、11Ω/□、スパッタ品)を38×46mmに切断し、エッチングを行った。得られた基板を “セミコクリーン56”(商品名、フルウチ化学(株)製)で15分間超音波洗浄してから、超純水で洗浄した。この基板を素子を作製する直前に1時間UV−オゾン処理し、真空蒸着装置内に設置して、装置内の真空度が5×10−4Pa以下になるまで排気した。抵抗加熱法によって、まず正孔注入材料として、銅フタロシアニンを10nm、正孔輸送材料として、4,4’−ビス(N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ)ビフェニルを50nm蒸着した。次に、発光材料に、ホスト材料として化合物(H−1)を、ドーパント材料として化合物(D−1)をドープ濃度が2%になるようにして40nmの厚さに蒸着した。次に、正孔阻止材料として化合物(1E−1)を10nmの厚さに積層した。次に、電子輸送材料として化合物(2E−1)を10nmの厚さに積層した。次に、フッ化リチウムを0.5nm蒸着した後、アルミニウムを1000nm蒸着して陰極とし、5×5mm角の素子を作製した。ここで言う膜厚は、水晶発振式膜厚モニター表示値である。この発光素子を10mA/cmで直流駆動したところ、駆動電圧5.40V、外部量子効率3.42%の高効率青色発光が得られた。この発光素子を40mA/cmの直流で連続駆動したところ、輝度半減時間は200時間であった。
【0111】
実施例2〜9
ホスト材料、ドーパント材料、正孔阻止材料および電子輸送材料として表1に記載した材料を用いた以外は、実施例1と同様にして発光素子を作製した。各実施例の結果は表1に示した。
【0112】
比較例1
正孔阻止層を設けずに、電子輸送層として2E−1を用い、厚さを20nmとしたこと以外は、実施例1と同様にして発光素子を作製した。この発光素子を10mA/cmで直流駆動したところ、駆動電圧5.45V、外部量子効率3.21%の高効率青色発光が得られた。この発光素子を40mA/cmの直流で連続駆動したところ、輝度半減時間は100時間であった。
【0113】
比較例2〜6
ホスト材料、ドーパント材料、正孔阻止材料および電子輸送材料として表1に記載した材料を用いた以外は、実施例1と同様にして発光素子を作製した。各比較例の結果は表1に示した。
【0114】
なお、表1中の化合物は以下に示すものである。
【0115】
【化35】

【0116】
【表1】

【0117】
実施例10
ITO透明導電膜を165nm堆積させたガラス基板(ジオマテック(株)製、11Ω/□、スパッタ品)を38×46mmに切断し、エッチングを行った。得られた基板を “セミコクリーン56”(商品名、フルウチ化学(株)製)で15分間超音波洗浄してから、超純水で洗浄した。この基板を素子を作製する直前に1時間UV−オゾン処理し、真空蒸着装置内に設置して、装置内の真空度が5×10−4Pa以下になるまで排気した。抵抗加熱法によって、まず正孔注入材料として、1,4,5,8,9,12−ヘキサアザトリフェニレンヘキサカルボニトリルを10nm、正孔輸送材料として、4,4’−ビス(N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ)ビフェニルを50nm蒸着した。次に、発光材料に、ホスト材料として化合物(H−4)を、ドーパント材料として化合物(D−3)をドープ濃度が5%になるようにして40nmの厚さに蒸着した。次に、正孔阻止材料として化合物(1E−5)を10nmの厚さに積層した。次に、電子輸送材料として化合物(2E−2)を10nmの厚さに積層した。次に、フッ化リチウムを0.5nm蒸着した後、アルミニウムを1000nm蒸着して陰極とし、5×5mm角の素子を作製した。ここで言う膜厚は、水晶発振式膜厚モニター表示値である。この発光素子を10mA/cmで直流駆動したところ、駆動電圧4.3V、外部量子効率5.1%の高効率青色発光が得られた。この発光素子を40mA/cmの直流で連続駆動したところ、輝度半減時間は1000時間であった。
【0118】
実施例11〜21
ホスト材料、ドーパント材料、電子輸送材料として表2に記載した材料を用いた以外は、実施例10と同様にして発光素子を作製した。各実施例の結果は表2に示した。
【0119】
比較例7〜9
ホスト材料、ドーパント材料、電子輸送材料として表2に記載した材料を用いた以外は、実施例10と同様にして発光素子を作製した。各比較例の結果は表2に示した。
【0120】
なお、表2中の化合物は以下に示すものである。
【0121】
【化36】

【0122】
【化37】

【0123】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と陰極の間に少なくとも発光層と正孔阻止層と電子輸送層が存在し、発光層と正孔阻止層と電子輸送層がこの順に接して積層され、電気エネルギーにより発光する発光素子であって、該正孔阻止層が下記一般式(1)で表されるピレン骨格を有する化合物を含有することを特徴とする発光素子。
【化1】

(R〜R18はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、水素、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン、カルボニル基、カルボキシル基、オキシカルボニル基、カルバモイル基、アミノ基、シリル基および−P(=O)R1920からなる群より選ばれる。R19およびR20はアリール基またはヘテロアリール基である。R〜R18は隣接する置換基同士で環を形成してもよい。nは1〜3の整数である。Xは−O−、−S−および−NR21−からなる群より選ばれる。R21は水素、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基およびアミノ基からなる群より選ばれる。R21はR11またはR18と結合し環を形成してもよい。Aは単結合、アリーレン基およびヘテロアリーレン基からなる群より選ばれる。R〜R10のうちいずれかn個およびR11〜R21のうちいずれか1つはAとの連結に用いられる。但し、R、R、Rのうち少なくとも1つはRと異なる基である。)
【請求項2】
がアリール基であり、Aの少なくとも1つがRもしくはRの位置で連結することを特徴とする請求項1記載の発光素子。
【請求項3】
がアルキル基またはシクロアルキル基であり、Aの少なくとも1つがRもしくはRの位置で連結することを特徴とする請求項1記載の発光素子。
【請求項4】
正孔阻止層が下記一般式(2)で表されるピレン化合物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の発光素子。
【化2】

(R40〜R56はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、水素、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン、カルボニル基、カルボキシル基、オキシカルボニル基、カルバモイル基、アミノ基、シリル基および−P(=O)R5758からなる群より選ばれる。R57およびR58はアリール基またはヘテロアリール基である。R40〜R58は隣接する置換基同士で環を形成してもよい。Arはアリーレン基またはヘテロアリーレン基である。但し、R42およびR44の少なくとも1つがアリール基またはヘテロアリール基であるか、もしくはR43がアルキル基またはシクロアルキル基である。)
【請求項5】
42およびR44の少なくとも1つが電子受容性窒素を有するヘテロアリール基である請求項4記載の発光素子。
【請求項6】
正孔阻止層が下記一般式(3)で表されるピレン化合物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の発光素子。
【化3】

(R60〜R75はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、水素、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン、カルボニル基、カルボキシル基、オキシカルボニル基、カルバモイル基、アミノ基、シリル基および−P(=O)R7677からなる群より選ばれる。R76およびR77はアリール基またはヘテロアリール基である。R60〜R75は隣接する置換基同士で環を形成してもよい。Arはアリーレン基またはヘテロアリーレン基である。但し、R62およびR64の少なくとも1つがアリール基またはヘテロアリール基であるか、もしくはR63がアルキル基またはシクロアルキル基である。)
【請求項7】
62およびR64の少なくとも1つが電子受容性窒素を有するヘテロアリール基である請求項6記載の発光素子。
【請求項8】
電子輸送層が電子受容性窒素を有する複素芳香環からなる化合物を含有し、該複素芳香環からなる化合物が共有結合のみで形成される化合物であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか記載の発光素子。

【公開番号】特開2009−246354(P2009−246354A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−56024(P2009−56024)
【出願日】平成21年3月10日(2009.3.10)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】