説明

発光色が変化する蛍光ランプ装置

【目的】 簡単な回路で封入ガスが放射する紫外線の分光分布を変更して蛍光ランプの発光色を変化させる。
【構成】 発光色が変化する蛍光ランプ装置は、電源1と蛍光ランプ2とを備える。電源1は、パルス発振手段3と連続波発生手段4とを備える。蛍光ランプ2は、励起波長によって発光色が変化する蛍光体を塗布している。蛍光ランプ2は、放電状態によって放射する紫外線の分光分布が変化する一種または複数種のガスを封入している。蛍光ランプ2の封入ガスを、パルス波と連続波で放電させて、放射する紫外線の分光分布を変更し、これによって蛍光ランプの発光色を変化する。
【効果】 パルス波と連続波に切り換えて、蛍光ランプの発光色を変化できる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、放電状態を変更して発光色を変えることができる蛍光ランプ装置に関する。
【0002】
【従来の技術】蛍光ランプは、蛍光体を刺激光(通常は紫外線)で照射して励起し、可視光を放射して発光する。蛍光ランプの発光色は、蛍光体の放射の分光分布曲線の形によって決まる。蛍光体の放射の分光分布曲線は、CaWO4など小数のもの以外は蛍光体の種類によって決まる。CaWO4などは励起波長によって発光の分光分布が変化する。
【0003】以下、具体例で蛍光ランプの発光色を説明する。図1は、3.5MgO・0.5MgF2・GeO2:Mn蛍光体の励起スペクトル(刺激光から受光できる波長範囲と感度を与える)を示し、図2は、発光スペクトル(放射の分光分布曲線)を示している。3.5MgO・0.5MgF2・GeO2:Mn蛍光体は、水銀の波長253.7nmの紫外線によって効率よく励起されて赤色に発光する。
【0004】図3は蛍光体Y2SiO5:Ceの励起スペクトルを、図4はこの蛍光体の発光スペクトルを示す。図3に示すように、Y2SiO5:Ce蛍光体は、253.7nmの紫外線よりも、波長が200nmや365nmの紫外線で効率よく励起されて青色に発光する。
【0005】従来の蛍光ランプは、刺激光の分光分布を変えることができないので、3.5MgO・0.5MgF2・GeO2:Mnと、Y2SiO5:Ceを混合し塗布していても、それらの混合比で決まる合成色の1色のみにしか発光させることができない。したがって、蛍光ランプの発光色を変更することはできない。
【0006】一般照明用の蛍光ランプには、部屋の用途に応じて最適の照明が得られるように、JISのZ9112では昼光色、昼白色、白色、温白色および電球色の5色を制定している。従来の蛍光ランプは決まった色にしか発光できないため、照明の色を変えようとすると、いちいちランプを取り替えなくてはならない。部屋の用途を変えるたびにランプを取り替えることは不便で実際的でない。そのため、蛍光ランプには用途に応じた発光色があることすら一般には知られていないのが実情である。
【0007】この欠点を解決するために、蛍光ランプの内面に、蛍光体を励起する紫外線の強度比を変更して発光色を変化させる蛍光ランプ装置が開発されている(特公平2−2266号公報)。この公報に記載される装置は、独得の蛍光ランプと電源とを備えている。蛍光ランプは、ガラス管の内面に、励起スペクトルと、発光スペクトルが異なる複数種の蛍光体を塗布している。蛍光体を異なる波長の紫外線で励起するために、ガラス管には、異なる波長の紫外線を放射できるガスを封入している。さらに、封入ガスが放射する紫外線の強度比を変更するために、電源は、印加電圧波形の立ち上がり傾斜を制御できる構造としている。
【0008】この構造の蛍光ランプ装置は、印加電圧の立ち上がりの傾斜を制御して、ガスが放射する紫外線の強度比を変更する。紫外線の強度比が変化すると、これに刺激される蛍光体の発光色が変化する。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】したがって、この構造の蛍光ランプ装置は、1本の蛍光ランプを使用して、発光色を変化できる特長がある。しかしながら、この構造の蛍光ランプは、発光色を簡単に、しかも、大幅に変更することが難しい欠点がある。それは、電源の立ち上がり傾斜を変更することによっては、封入ガスから放射される紫外線の強度比を大きく変えることが難しいことが理由である。
【0010】本発明は、さらにこの欠点を解決することを目的に開発されたもので、本発明の重要な目的は、封入ガスが放射する紫外線の分光分布を大幅に変更して、簡単に蛍光体の発光色を変更できる発光色が変化する蛍光ランプ装置を提供するにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】本発明の装置は、前述の目的を達成するために下記の構成を備える。すなわち、本発明は、蛍光ランプと、蛍光ランプの電源とを備え、蛍光ランプは、ガラス管の内面に、励起スペクトルと発光スペクトルが共に異なる複数種の蛍光体を塗布している。さらに、ガラス管内には、放電状態によって放射される紫外線の分光分布が変化する複数種のガスを封入している。
【0012】さらに、本発明の蛍光ランプ装置は、電源に、パルス発振手段と、連続波発生手段とを装備する。パルス発振手段は、所定の周期の休止時間のある波形を発生する。連続波発生手段は、休止時間のない矩形波、サイン波、直流を発生する。休止時間のあるパルス発振手段と、休止時間のない連続波発生手段とで封入ガスが放射する紫外線の分光分布を変更して、異種の蛍光体を選択的に励起し、これによって蛍光体の発光色を変化させるように構成されている。
【0013】
【作用】本発明の発光色が変化する蛍光ランプ装置は、休止時間のあるパルス発振手段と、休止時間のない連続波発生手段とで封入ガスを励起して、蛍光体の発光色を変化させる。以下、封入ガスとして、水銀とキセノンの混合気体を例にして説明する。図5と図6とに、水銀とキセノンのエネルギ−準位の概略を示している。図5に示すように、水銀の波長2537オングストローム(253.7nm)の紫外線を放射させるには約5eVあればよい。これに対して、キセノンの波長1470オングストロームの紫外線を放射させるには、図6に示すように、約8.5eVのエネルギ−を必要とする。8.5eV以上のエネルギーをHgとキセノンに与えると、水銀からは2537オングストロームよりも3650オングストロームの紫外線の放射が強くなり、キセノンからは1470オングストロームの紫外線が放射される。しかしながら、Hgとキセノンに与えるエネルギーを8.5eVよりも弱くすると、水銀は励起されて低準位の2537オングストロームの紫外線を強く放射するが、高準位の3650オングストロームの放射は弱く、キセノンは励起されず1470オングストロームの紫外線は放射されない。
【0014】本発明の装置は、原子(分子)を衝突によって励起する電子のエネルギ−を変更するために、電源に、連続波発生手段とパルス発振手段とを使用する。図7R>7と図8の分光分布に示すように、水銀とキセノンを封入したランプに連続波としてサイン波を印加すると、電子のエネルギ−は小さく、図7に示すように水銀の2537オングストロームが強く放射され、パルス波を印加すると、電子のエネルギ−が大きくなり、図8に示すように水銀の3650オングストロームやキセノンが強く放射される。したがって、パルス発振手段と連続波発生手段とで放電状態を変更して、封入ガスから放射される紫外線の分光分布を変更し、これに励起される蛍光体の発光色を変更することができる。ただし、図7と図8とにおいて、2537オングストロームの放射強度は1/10に縮小している。また図7は、28.6kHzの連続サイン波で励起した状態、図8はパルス幅10μs、繰り返し周期100Hzのパルスで励起した状態を示している。
【0015】
【実施例】以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施例は、本発明の技術思想を具体化するための装置を例示するものであって、本発明の装置は、構成部品の材質、形状、構造、配置を下記の構造に特定するものでない。本発明の装置は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0016】図9に示す発光色が変化する蛍光ランプ装置は、電源1と蛍光ランプ2とを備えている。電源1は、パルス発振手段3と連続波発生手段4と、両発振回路の出力を切り換える切換手段5と、出力を電力増幅する出力アンプ6とを内蔵している。パルス発振手段3には、例えば無安定マルチバイブレーターが使用できる。パルス発振手段3は、パルス幅の時間と、繰り返し周期とを調整し、休止時間と励起時間とを調整する。
【0017】パルス放電では、パルスの立ち上がりに電子のエネルギーが大きくなり、そのままパルス幅を広くすると電子のエネルギーが小さくなる。したがって、大きい電子のエネルギーを得ようとするとパルス幅を狭くすればよい。しかしながら、反面、パルス幅を狭くすると放電時間が短くなるから放電は弱くなる。パルス幅を広くすると電子のエネルギーは小さくなるが明るくなる。パルスの繰り返し周期を短くすると、前のパルスからの残留イオンや励起原子(分子)が多いため放電が容易に起こるので電気のエネルギーは大きくならない。しかし繰り返し周期が短いほど単位時間当りの放電回数が多いために明るい。したがって、ランプ出力、形状、発光色等に応じて、所望する紫外線の強度と分光分布を得るために最適のパルス幅と繰り返し周期を選択する。
【0018】これらのことを考慮して、パルス幅は、例えば3μs〜300μs、好ましくは、5μs〜50μsの間に調整される。パルスの繰り返し周波数は、例えば、40Hz〜50kHz、好ましくは40〜5kHzの範囲に調整される。
【0019】連続波発生手段4は、連続してサイン波を発振するCR発振回路が使用でき、例えば、1kHz〜100kHzのサイン波を発振する。
【0020】切換手段5は、パルス発振手段3と連続波発生手段4の出力と、出力アンプ6の入力側の間に接続されて、出力アンプ6に、パルス発振手段3と連続波発生手段4の出力を切り換えて入力する。1周期内のパルス波と連続波の放電期間の割合を、切換手段5により切り換えると、蛍光ランプの発光色を連続的に変えることができる。この図に示す切換手段5は、スイッチ5Aと、このスイッチ5Aを切り変えるスイッチ切換制御回路5Bとで構成されている。スイッチ5Aは、スイッチ切換制御回路5Bから入力される信号で、出力側をパルス発振手段と連続波発生手段の何れかの出力側に切り変える。
【0021】出力アンプ6は、入力されたパルス波またはサイン波を電力増幅して、蛍光ランプ2に供給する。出力アンプ6は、蛍光ランプ2を点灯できる電力に入力信号を増幅する。このように、電源1は、単一の出力アンプ6でパルス発振手段3と連続波発生手段4の両方の出力を増幅できる。図示しないが、パルス発振手段と連続波発振手段のそれぞれに出力アンプを内蔵させ、その出力を切換手段で切り換えて蛍光ランプに供給することもできる。
【0022】蛍光ランプ2は、ガラス管の内面に、3.5MgO・0.5MgF2・GeO2:Mn(日亜化学工業株式会社製 NP−320)蛍光体と、Y2SiO5:Ce(日亜化学工業株式会社製 NP−1047)蛍光体とを同じ重量比で塗布し、内部に水銀とキセノンとを封入している。ガラス管は、管径14mmφ、長さ150mmである。3.5MgO・0.5MgF2・GeO2:Mn蛍光体は、図2に示すように赤色に発光する。Y2SiO5:Ce蛍光体は、図4に示すように、青色に発光する。これ等の蛍光体は、図1と図3とに示すように、励起スペクトルの分光分布が異なり、ガラス管の内部に放射される紫外線の波長によって、両蛍光体は選択的に励起される。
【0023】図10は、蛍光ランプ2の発光色が変化する状態を示している。この図に示すように、蛍光ランプ2は、蛍光ランプ2の電極にパルス波を加えると、□で示す青紫色に発光し、連続サイン波で放電させると、■で示すピンク色に発光する。ただし、パルス波はパルス幅を10μs、繰り返し周波数を3kHzとし、サイン波は周波数を28.6kHzとした。また、蛍光ランプ2の電極に印加する電圧は、パルス波のピーク電圧を1040V、ピーク電流を42mA、連続サイン波のピーク電圧を360V、ピク電流を15mAとした。さらに切換手段5によりパルス波と連続サイン波の割合を、時分割的に変えると発光色は鎖線で示す軌跡に沿って変化した。さらに、この図において、○と●は、Y2SiO5:Ce(日亜化学工業株式会社製 NP−1047)蛍光体のみを塗布した蛍光ランプの発光色を示し、△と▲とは、3.5MgO・0.5MgF2・GeO2:Mn(日亜化学工業株式会社製 NP−320)蛍光体のみを塗布した蛍光ランプの発光色を示している。ただし、○と△とは、□と同じ条件のパルス波で放電させ、●と▲は、■と同じ連続サイン波で放電したときの発光色を示している。このように、蛍光体を選択し、また、パルス波と連続波とを選択して、破線で示す軌跡の発光色とすることができる。
【0024】以上の実施例は、ガラス管の内面に発光色が異なる2種の蛍光体を塗布している。ただ、本発明は、ガラス管の内面に、CaWO4のように、励起波長を変えると発光色が変化する1種の蛍光体を塗布して、発光色を変えることも可能である。したがって、本発明の発光色が変化する蛍光ランプ2装置は、ガラス管の内面に1種の蛍光体を塗布したものも含むものとする。
【0025】
【発明の効果】本発明の発光色が変化する蛍光ランプ装置は、前記のように、パルス波と連続波とに切り換えて、ガラス管に封入されたガスが放射する紫外線の分光分布を変更している。パルス波と連続波で放電させると、電子のエネルギーの大きさが異なり、放射する紫外線の分光分布を変化させる。パルス波では、前パルスからの残留イオンや励起電子(分子)が少ないために、電子は大きなエネルギーを得る。したがって、パルス波では電子と衝突する原子(分子は)高いエネルギ−準位に励起される。これに対して、連続波ではイオンや励起原子(分子)多いので、電子は小さいエネルギーで放電を持続する。したがって、連続波では電子によって励起される原子(分子)のエネルギ−準位が低くなる。エネルギ−準位が異なる原子(分子)は、異なる分光分布の紫外線を放出する。紫外線の分光分布が異なると励起される蛍光体が異なり、蛍光ランプの発光色が変化する。
【0026】このように、パルス波と連続波とに切り換えて、蛍光体を選択的に励起する本発明の装置は、ガスが放射する紫外線の分光分布を変化させて、発光色を大幅に変更できることに加えて、簡単な回路構成で、発光色を変化できる特長も実現する。それは、波形の立ち上がりの傾斜を調整する回路のように、複雑で調整が難しい回路を使用することなく、パルス発振手段と連続波発生手段とを設けてこれを切り換え、あるいは時分割的にパルス波と連続波を調整して発光色を変更できるからである。
【図面の簡単な説明】
【図1】3.5MgO・0.5MgF2・GeO2:Mn蛍光体の励起帯を示すグラフ
【図2】3.5MgO・0.5MgF2・GeO2:Mn蛍光体の発光スペクトルを示すグラフ
【図3】Y2SiO5:Ce蛍光体の励起帯を示すグラフ
【図4】Y2SiO5:Ce蛍光体の発光スペクトルを示すグラフ
【図5】水銀のエネルギ−準位を示すグラフ
【図6】キセノンのエネルギ−準位を示すグラフ
【図7】連続波サイン波で放電させたときの封入ガスが放射する紫外線の分光特性を示すグラフ
【図8】パルス波で放電させたときの封入ガスが放射する紫外線の分光特性を示すグラフ
【図9】本発明の一実施例を示す発光色が変化する蛍光ランプ装置のブロック線図
【図10】図7に示す発光色が変化する蛍光ランプ装置の発光色のカラーポイントを示す色度図
【符号の説明】
1…電源
2…蛍光ランプ
3…パルス発振手段
4…連続波発生手段
5…切換手段
6…出力アンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】 蛍光ランプと、蛍光ランプの電源とを備え、蛍光ランプは、ガラス管の内面に、励起スペクトルと発光スペクトルが共に異なる複数種の蛍光体が塗布されており、さらに、ガラス管内には、放電状態によって放射される紫外線の分光分布が変化する、1種または複数種のガスが封入されている蛍光ランプ装置において、電源が休止期間を持つパルス発振手段と、休止期間のない連続波発生手段とを備えており、パルス発振手段と連続波発生手段とで放電状態を変更して、封入ガスが放射する紫外線の分光分布を変更して、蛍光体を選択的に励起し、これによって蛍光ランプの発光色を変化させるように構成された発光色が変化する蛍光ランプ装置。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【図3】
image rotate


【図4】
image rotate


【図7】
image rotate


【図10】
image rotate


【図5】
image rotate


【図6】
image rotate


【図8】
image rotate


【図9】
image rotate


【公開番号】特開平6−60853
【公開日】平成6年(1994)3月4日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−231449
【出願日】平成4年(1992)8月5日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成4年7月20日 社団法人照明学会・社団法人応用物理学会主催の「第7回光源物性とその応用研究会」において文書をもって発表
【出願人】(000226057)日亜化学工業株式会社 (993)
【出願人】(593091566)