説明

発券装置

【課題】乗車券等を発券する発券装置において、磁気情報の書き込み/読み取りを行う機構部の、保守員による調整の効率化を図る。
【解決手段】磁気情報を読込んだ時のパルス間隔のデータをグラフ化し、磁気媒体の印刷面に対し長手方向いっぱいに図示のように印刷させる。印刷された媒体を磁気書き込み部/読み取り部にあてがうことにより、磁気媒体の搬送速度の変動要因を簡単に割り出すことができる。また、発券装置自身で速度変動要因を分析し、グラフに合わせて印刷することにより保守員/組立て工員に調整ポイントを指示し、経験の足りない保守員/組立て工員に対しても調整ポイントが判るようにしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発券装置に係り、特に、磁気書き込み部/読み取り部への媒体の搬送速度変動の要因を解析する機能を備えた乗車券等を発行する発券装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道旅客の乗車券等のうち、磁気化券は、記録すべき情報の増加に伴い高密度な磁気情報の記録が行われている。磁気情報を乗車券等の磁気媒体に高精度に書き込み/読み取りを行うためには、磁気書き込み/読み取りを行う磁気ヘッドと磁気媒体との密着性を高めて、磁気媒体への記録や、記録された情報の読み取り性能を上げる必要がある。また、読み取ったアナログ波形をデジタルデータに変換する際には、基準となる一定時間内の信号(アナログ波形のピーク)の有無によりデジタルデータを生成するため、磁気書き込み/読み取り部における磁気媒体の搬送に速度変動が生じると、アナログ波形のピーク間の時間が狂ってしまい、正しいデジタルデータの生成を行うことができなくなってしまう。このようなことを防止するため、磁気書き込み/読み取り部における磁気媒体の搬送速度の変動を極力小さくする必要がある。
【0003】
磁気媒体の搬送速度の変動を小さくするため、従来の発券装置は、磁気ヘッドとこれに対向するプラテンローラとの隙間に対して、厳しい調整を行ったり、磁気媒体がこの隙間に突入する衝撃を吸収する機構を設けたりして、磁気媒体と磁気ヘッドとの密着性を高めつつ、搬送速度の変動が極力小さくなるように配慮されている。
【0004】
また、従来の発券装置は、磁気ヘッド近傍の搬送ローラが、磁気媒体を確実に挟持し搬送ローラの搬送力を確実に磁気媒体に伝える一方、搬送ローラに媒体が突入したり、抜け出たりする際の衝撃が、磁気記録精度に影響しないようにも配慮されている。
【0005】
さらに、従来の発券装置は、磁気ヘッド周辺の搬送ガイド等の構造物も、磁気媒体の姿勢の制御を行いつつ、媒体の搬送速度変動が発生しないように考慮されており、このほかにも、搬送モータ、ベルトやギア等の駆動系においても、媒体に速度変動を発生させないように考慮されている。
【0006】
しかし、従来の発券装置は、生産時の部品の公差、組付け公差、装置を使用していく上での経年変化等により調整の狂いが生じるため、生産時及び定期点検時に調整及び性能の確認が必要となる。
【0007】
これに対し、磁気媒体から磁気情報を読み取る際に読み取ったアナログ波形から複数個のピーク値の最大値、最小値等から読み取り状態、書き込み状態を判定し保守作業に役立たせる方法が、例えば、特許文献1等に記載されて提案されている。また、運賃改定時等に、発券装置の印刷機構を利用し、データ内容を印刷することにより、データの確認を簡単に行うことができる方法が、例えば、特許文献2等に記載されて提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−235512号公報
【特許文献2】特開平10−149458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
乗車券等を発行する発券装置において、磁気書き込み部/読み取り部における状態のうち媒体の搬送速度の変動については、発券装置が、磁気媒体に磁気書き込み/読み取りを行い、読み取ったアナログ波形の1つ1つのピーク間の時間間隔(以下、パルス間隔という)を並べてグラフ化することにより、磁気書き込み/読み取り時の磁気媒体の速度変動を目視化することができる。また、予め正確な搬送速度で磁気情報を記録した磁気媒体を準備し、この磁気媒体を発券装置の読み取り部に読み取らせることにより、読み取り部のみにおける磁気媒体の速度変動を目視化することができ、書き込み部/読み取り部の速度変動を分離して調べることができる。
【0010】
前述したような磁気媒体の速度変動をグラフにして目視化することにより、どの位置で磁気媒体を搬送しているときに媒体の速度に変動が生じているかを、グラフ形状より経験的に判断することができる。
【0011】
しかし、前述したようなグラフ化には専用の冶具が必要である。発券装置の生産工程のある現場では、専用冶具によりグラフ化を行い、媒体の搬送速度の変動を確認することができるが、納品された券売機を使用する設置個所での保守点検時には、専用の冶具を使用することが困難であり、一般的な調整基準に照らし合わせて部品の取付け位置を確認・調整することができるのみである。そして、調整基準どおりに調整しても磁気情報の書き込み/読み取りの性能を回復することができない場合、部品交換、装置交換により対応することとなっている。また、生産工程においても、専用の冶具を用いてグラフ化を行うことができるものの、作業者の経験によってグラフから不具合箇所を読み取り、不具合箇所を特定しているため、作業者の経験/知識が足りない場合、調整を行うことが困難となっている。
【0012】
一方、特許文献1に記載の従来技術は、FM方式の磁気書き込み部/読み取り部の保守作業に役立たせる方法として、磁気媒体から磁気情報を読み取る際に読み取ったアナログ信号波形から複数個のピーク値の最大値、最小値等から読み取り状態、書き込み状態を判定するという方法が提案されているが、この従来技術による方法は、より高密度なMFM方式を用いて磁気情報の書き込み/読み取りを行おうとすると、搬送速度の変動による影響がより大きくなるため、十分な方法とは言えないものである。
【0013】
また、特許文献2には、発券装置の印刷機構を用いてデータを印刷する方法が提案されている。この引用文献2に記載の従来技術は、特許文献1に記載の方法と併せて読み取りレベルから判定した情報を磁気媒体の印刷面に印刷すれば、専用の冶具を必要としない方法を得ることができるが、搬送速度の変動を小さくするような調整のために利用するには十分とはいうことのできないものである。
【0014】
さらに、生産工程で用いている専用冶具のグラフ化の機能を発券装置に組み込んで、発券装置の印刷機能を用いて磁気媒体に印刷することも考えられる。この場合、搬送速度の変動の要因を特定する一助にはなるものの、単にグラフを印刷しただけでは、経験により装置の状態を読み取る必要があり、保守性をより向上させるには不十分である。
【0015】
本発明の目的は、前述したような点に鑑み、発券装置の印刷機能を利用して、磁気媒体の速度変動のグラフを印刷させ、保守等で発券装置の磁気書き込み部/読み取り部の調整に役立てることを可能とした発券装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明によれば前記目的は、磁気媒体の原紙に磁気情報を書き込むと共に、前記原紙に所定の印刷を行って、乗車券等の発行を行う発券装置において、該発券装置は、磁気書き込み部と、磁気媒体に書き込まれた磁気情報を読込む磁気読み取り部と、読み取った磁気情報を解析する制御部と、磁気媒体の印刷面に印刷を行う印刷部とを備えて構成され、前記磁気媒体に磁気情報を書き込んだ後に、磁気情報の読み取りを行い、前記制御部は、読み取った磁気情報のアナログ信号のピーク間隔であるパルス間隔を読み取りの経過時間に沿って並べたグラフを生成して、前記磁気媒体の印刷面に前記印刷部により印刷させることにより達成される。
【0017】
また、前記目的は、磁気媒体の原紙に磁気情報を書き込むと共に、前記原紙に所定の印刷を行って、乗車券等の発行を行う発券装置において、該発券装置は、予め磁気情報を記録した磁気媒体を取り込む挿入部と、磁気書き込み部と、磁気媒体に書き込まれた磁気情報を読込む磁気読み取り部と、読み取った磁気情報を解析する制御部と、磁気媒体の印刷面に印刷を行う印刷部とを備えて構成され、前記磁気読み取り部は、前記挿入部から取り込まれた磁気媒体に正確に記録された磁気情報を読み取り、前記制御部は、読み取った結果を解析して前記磁気読み取り部での磁気媒体の搬送速度変動の情報を計算すると共に、発券装置自身の前記磁気書き込み部が、前記磁気媒体に磁気情報を書き込んだ後に、前記磁気読み取り部で磁気情報の読み取りを行った場合の前記磁気書き込み部での磁気媒体の搬送速度変動と、前記磁気読み取り部での磁気媒体の搬送速度変動とが混合された状態の速度速度変動の情報を計算し、前記計算した2つの速度速度変動の情報の差分をとり、前記磁気読み取り部と前記磁気書き込み部との速度変動を分離し、別々に変動要因を推測し、前記磁気媒体の印刷面に、搬送速度変動のグラフ及び推定要因を前記印刷部により印刷させることにより達成される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、発券装置自身が、磁気書き込み/読み取り時の磁気媒体の速度変動を目視化することができ、これにより、専用の冶具を用いることなく、保守員や組立て工員が、磁気書き込み/読み取り部の媒体搬送の速度変動に関る調整に役立てることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態による発券装置が印刷したパルス間隔のグラフの例を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態による発券装置の構成を示すブロック図である。
【図3】磁気書き込み部と磁気読み取り部との構造を概略的に示した磁気書き込み/読み取り部の構成図である。
【図4】磁気情報の記録方式の1つであるMFM方式を用い、理想状態で磁気書き込み/読み取りを行った場合の、縦軸にパルス間隔、横軸に経過時間をとって読み取った磁気情報のパルス間隔を並べたグラフを示す図である。
【図5】磁気情報の記録方式の1つであるMFM方式を用い、通常の状態で磁気書き込み/読み取りを行った場合の、縦軸にパルス間隔、横軸に経過時間をとって読み取った磁気情報のパルス間隔を並べたグラフを示す図である。
【図6】本発明の実施形態による発券装置の印刷機能を用いてパルス間隔のグラフの印刷を行う際の発券装置での処理動作を説明するフローチャートである。
【図7】グラフが印刷された磁気媒体を、実際の磁気書き込み部、読み取り部にあてがった状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明による発券装置の実施形態を図面により詳細に説明する。以下に説明する本発明の実施形態は、鉄道旅客システム等で、乗車券等を発券する発券装置に関する実施形態である。
【0021】
なお、以下の本発明の実施形態の説明は、磁気媒体の搬送速度変動の要因を解析する動作について行い、実際に乗車券を発券する動作についての説明を省略している。
【0022】
図2は本発明の一実施形態による発券装置の構成を示すブロック図であり、まず、この図2を参照して、発券装置の概略の構成と動作とを説明する。
【0023】
発券装置1は、磁気媒体10を持つ乗車券等の原券が収納されているホッパ部2と、ホッパ部2から原券を1枚ずつ分離・繰り出しを行う繰り出し部3と、磁気情報の書き込みを行う磁気書き込み部4と、書き込まれた磁気情報を読み取る磁気読み取り部5と、磁気媒体の印刷面に券面の印刷を行う印刷部6と、磁気媒体の排出を行う排出部7と、磁気媒体を装置内に取り込む挿入部8と、前述した各機構を制御する制御部9とから構成されている。
【0024】
前述において、発券装置1に指示を出す図示しない上位装置からの発券指示や、保守員等の操作による保守モードでの発券指示が出されると、ホッパ部2に収納されている磁気媒体10が繰り出し部3の分離・繰り出し機構により発券装置の搬送路内に繰り出される。繰り出された磁気媒体10は、磁気書き込み部4に搬送され指定の磁気情報が書き込まれる。次に、磁気媒体10は、そのまま続けて磁気読み取り部5に搬送され、書き込まれた磁気情報が読み取られ、指定の磁気情報通りに磁気媒体に情報が書き込まれているかが照合されると共に、磁気書き込みの精度が良好か否かが判断される。正常に磁気情報が書き込まれていれば、磁気媒体10は印刷部6に搬送されて、印刷情報を元に磁気媒体の印刷面に情報が印刷される。その後、磁気媒体10は、排出部7に排出され、係員や保守員が磁気媒体10を受け取ることになる。
【0025】
また、発券された乗車券等の控除(返却)を行う場合、媒体挿入部8に磁気媒体10が挿入される。媒体挿入部8に磁気媒体10が挿入されると、磁気媒体10は、装置内部に取り込まれ、磁気読み取り部5に搬送されて、磁気媒体10に書き込まれている磁気情報が読み取られる。読み取られた情報は、上位の装置に送信され、実際に控除を行うことが決定されると、磁気書き込み部4は、磁気情報の消去を行った後、磁気媒体10を印刷部6に搬送して、廃券印刷を行わせた後、排出部7に排出させる。
【0026】
図2に示して説明した本発明の実施形態による発券装置1は、乗車券等として利用する磁気媒体10をカット紙としてホッパ部2に収納している構成を例としているが、本発明は、乗車券等として利用する磁気媒体をロール状のものを収納し、発券時にカットして使用するような形態のものにも適用することができる。
【0027】
図3は磁気書き込み部4と磁気読み取り部5との構造を概略的に示した磁気書き込み/読み取り部の構成図である。
【0028】
図3に示すように、磁気書き込み/読み取り部は、駆動用のモータ16と、該モータ16によりベルトを介して駆動されるプラテンローラ13a、13bと、該プラテンローラ13a、13bからベルトを介して駆動される搬送ローラ14a〜14fと、磁気媒体10の搬送時のガイドを行う搬送ガイド15a〜15dと、プラテンローラ13aに対向している書き込みヘッド11と、プラテンローラ13bに対向している読み取りヘッド12とにより構成されている。
【0029】
前述において、磁気媒体10への磁気情報の書き込みは、一定の間隔に調整された磁気書き込みヘッド11とプラテンローラ13aとの間に磁気媒体10を搬送し、磁気書き込みヘッド11により行われる。同様に、磁気媒体10からの磁気情報の読み取りは、一定の間隔に調整された磁気読み取りヘッド12とプラテンローラ13bとの間で磁気媒体を搬送し、磁気読み取りヘッド12により行われる。磁気書き込み部/読み取り部での磁気媒体10の搬送は、プラテンローラ13a、13bや搬送ローラ14a〜14fを搬送モータ16により駆動することにより行われ、また、磁気媒体10は、搬送ガイド15a〜15dにより姿勢が制御されてジャム等が防止される。
【0030】
図4は磁気情報の記録方式の1つであるMFM方式を用い、理想状態で書き込み/読み取りを行った場合において、縦軸にパルス間隔、横軸に経過時間をとって読み取った磁気情報のパルス間隔を並べたグラフを示す図である。
【0031】
MFM方式による磁気情報の記録は、記録された情報を読み取ったときのアナログ信号のピーク間隔(以下、パルス間隔という)が、基準パルス間隔を時間tとしたとき、読み取った信号のパルス間隔が、t、1.5t、2tの3種類となるように行われ、これらの3種のパルス間隔の並び方の組み合わせにより情報の内容を表現するものである。
【0032】
図4に示す例は、理想的な状態に磁気書き込み/読み取り部を調整して、テストデータの書き込み/読み取りが行われた場合の分散グラフの例を示している。前述で説明したように、MFM方式で磁気書き込み/読み取りを行った場合、読み取ったデータは、図4に示しているように、基準となるパルス間隔tのデータ21aと、基準パルス間隔tの1.5倍のパルス間隔のデータ22aと、基準パルス間隔tの2倍のパルス間隔のデータ23aとにより構成される。このため、一般的にMFM方式のデータを、縦軸に読み取ったパルス間隔、横軸にそのパルスを読込んだタイミング(経過時間であり、それまでのパルス間隔の累積時間である)で表すと図4に示すように描画された点により3本の横線が描かれたようなグラフとなる。なお、図4の基準となるパルス間隔tのデータ21aの時間軸方向の両端に示している太線は、ヌルビットを示している。
【0033】
図5は磁気情報の記録方式の1つであるMFM方式を用い、通常の状態で書き込み/読み取りを行った場合において、縦軸にパルス間隔、横軸に経過時間をとって読み取った磁気情報のパルス間隔を並べたグラフを示す図である。
【0034】
図4に示して説明した例は、理想状態で磁気の書き込み/読み取りが行われた場合の例であるが、実際には、磁気書き込み/読み取り部において、磁気媒体に速度変動が発生するため、磁気情報を書き込む際に磁気媒体の搬送速度が遅くなると、磁気媒体の一定時間に進む距離が短くなるため、磁気媒体上に記録されるパルス間の距離が短くなる。このような磁気媒体上の記録データを読み取ると、記録されているパルス間の距離が短いため、パルス間隔が短くなり、グラフ上に描画する点が下側にずれることになる。逆に、磁気情報を読込む際に、磁気媒体の速度変動により媒体の搬送速度が遅くなると、正確な間隔で書き込まれた情報であっても、情報を読込む時間が掛かるため、パルス間隔が長くなり、グラフ上に描画される点が上側にずれることとなる。
【0035】
前述したような磁気媒体の速度変動の積み重ねにより、実際の読み取り時のパルス間隔をグラフにすると、図5に示すグラフのように線が乱れた状態になり、各パルス間隔のデータは、基準となるパルス間隔tのデータ21bと、基準パルス間隔tの1.5倍のパルス間隔のデータ22bと、基準パルス間隔tの2倍のパルス間隔のデータ23bとに示すようなものとなる。
【0036】
図1は本発明の実施形態による発券装置が印刷したパルス間隔のグラフの例を示す図である。この図1に示すグラフは、図5に示している基準パルス間隔tの1.5倍のパルス間隔のデータ22bのパルス間隔を1.5で割った値、及び、基準パルス間隔tの2倍のパルス間隔のデータ23bのパルス間隔を2で割った値を、基準となるパルス間隔tのデータ21bに重ねて印刷したものであり、次に、図1に示すようなグラフの印刷を行う方法について説明する。
【0037】
一般に、発券装置は、磁気書き込み/読み取りの精度を高めるため、磁気ヘッドとプラテンローラとの隙間の調整を主に周囲の搬送路ローラ、搬送ガイドの調整を行うこととなる。これらの調整により、大半は発券装置が目指す磁気書き込み/読み取りの精度を満たすこととなるが、中には装置の調整値どおりに調整しても精度が足りず、磁気情報を読み取る際に誤読を起こす場合もある。また、一旦磁気書き込み/読み取りの精度を達成していても、状態が不安定で使用中の調整の狂いで精度が足りなくなる場合もある。前述のような事例に対してパルス間隔のグラフを利用することにより、磁気媒体に速度変動を生じさせずに安定しているか、速度変動がある場合はどのような変動になっているかを知ることができる。
【0038】
図6は本発明の実施形態による発券装置の印刷機能を用いてパルス間隔のグラフの印刷を行う際の発券装置での処理動作を説明するフローチャートであり、次に、これについて説明する。
【0039】
(1)保守員等の操作により、発券装置1を保守モードとして、発券指示の操作を行うと、発券装置1は、ホッパ部2に収納されている長さA(mm)の磁気媒体10を繰り出し部3により繰り出す(ステップ30)。
【0040】
(2)繰り出された磁気媒体10は、磁気書き込み部4に送られて搬送速度V(mm/s)で保守用の磁気情報が書き込まれ、その後、磁気読み取り部5に送られて同じく搬送速度V(mm/s)で磁気情報が読み出される。ここで、搬送速度Vは、実際の運用で磁気媒体を搬送している速度である。このとき、磁気情報全体を読込む時間はA/V(s)かかることとなる(ステップ31)。
【0041】
(3)印刷部6は、磁気媒体10の長さ方向全体を使ってパルス間隔のグラフを印刷することを目指すため、制御部9によりグラフ情報の編集を行う。印刷部6での印刷密度をD(ドット/mm)とすると、グラフの横軸に対しては磁気媒体の長さ方向全体ではA・D(ドット)の印刷領域があることになる。磁気媒体の長さ全体=A・D(s)に対して磁気情報全体の読込み時間=A/V(s)を印刷するため、1ドット当りでは(A/V)/(A・D)=1/VDに当る時間を印刷すればよい。すなわち、あるパルスのパルス時間を描画する際の横軸方向の位置は、当パルスを読込んだ時の経過時間をSとするとS/(1/VD)=SVDとなり、磁気媒体の長手方向にSVD(小数点以下切り上げ)番目のドット(ライン)に印刷することになる。具体的には、印刷するのが何番目のパルスかを示す変数nを1に初期化した後、グラフ全体を券面の長手方向いっぱいに印刷する縮尺で、変数nで示されるn番目のパルスの横方向の位置を計算する(ステップ311、32)。
【0042】
(4)次に、1.5倍、2倍のパルス間隔のデータを基準間隔データへ重ね合わせる処理を行う。本発明の実施形態では、縦軸に対しては、対象とするシステムの基準パルス間隔がPであるとし、磁気媒体の幅Wの中央にグラフの中心を描くとすると(W・D)/2のドットを中心として、読み取ったデータの大小に比例させてドットをずらして印刷することとなる。また、本発明の実施形態では、基準パルス間隔の125%以下のパルス間隔は基準パルス間隔のデータとして扱い、基準パルス間隔の125%を超える長さのパルス間隔は1.5倍のパルス間隔のデータとして扱い、また、基準パルスの間隔の175%を超える長さのパルス間隔は2倍のパルス間隔のデータとして扱うものとする。そして、1.5倍のパルス間隔のデータは、読み取ったパルス間隔÷1.5を計算し、2倍のパルス間隔のデータは、読み取ったパルス間隔÷2を計算することにより、基準パルス間隔のデータに換算する(ステップ33)。
【0043】
(5)ステップ33での換算により、基本的に読み取りデータは、0.75×P〜1.25×Pの値となり、0.5×Pの領域で増減するデータとなる。磁気媒体の幅方向Wいっぱいに印刷するとすると、1ドットあたり(0.5P)/(W・D)に当たる時間を表現すれものとして、印刷するドットをずらせばよい。具体的には、変数で示されるn番目に読み取って換算したパルス間隔がPn(s)であったとすると、縦軸方向には、
{(WD/2)+B・(Pn−P)/(0.5P/WD)}(小数点以下四捨五入)
の式で示される位置のドット(ライン)に印刷することとなる。この式において、Bは縮尺であり、磁気媒体の幅方向いっぱいに印刷する場合、B=1とし、後述する文言を同時に印刷する場合、0<B<1として計算することによりスペースを確保して印刷することとなる(ステップ34)。
【0044】
(6)次に、変数nに1を加え、その結果の変数の値が最後のパルスデータを示す値と一致するか否かを判定することにより、磁気媒体の1つの磁気トラックに対し、データの最初から最後まで処理を終了しているか否かを判定し、処理すべきデータが残っていた場合、ステップ32からの処理の戻って処理を続ける(ステップ341、35)。
【0045】
(7)ステップ35の判定で、全てのデータに対する処理が終了していた場合、縦軸、横軸等のグラフとしての体裁を整えた後に印刷データ化し、印刷部6により磁気媒体10にグラフを印刷して、排出部7から磁気媒体を排出する(ステップ37、38)。
【0046】
(8)実際には、磁気媒体10の長さと、その磁気媒体10に印刷することができる印刷領域の長さとには差があり、先端と後端とのギリギリまで印刷することはできないため、ステップ37の処理の前に、データの最初と最後とを印刷領域に合わせてカットする。本発明の実施形態では、印刷領域に合わせて縮尺を変化させることはせず、媒体の長さ方向に関してはあくまで媒体全体にわたって印刷を行う縮尺として、印刷領域を超えた分をカットして印刷しないものとする(ステップ36)。
【0047】
図6に示して前述で説明した処理を行うことにより、図1に示しているような磁気媒体にパルス間隔のグラフを印刷したものを得ることができる。図1に示す例では、磁気情報の書き込み/読み取りを行った磁気媒体40の印刷領域41内の42として示す領域にパルス間隔のデータがグラフ化して印刷されている。
【0048】
前述した本発明の実施形態は、保守用の磁気情報を書き込んだ後に読み出しを行ってパルス間隔のデータをグラフ化して印刷するとして説明したが、保守用の磁気情報としては、基準となるパルス間隔tのデータと、基準パルス間隔tの1.5倍のパルス間隔のデータと、基準パルス間隔tの2倍のパルス間隔のデータとを含んで構成されたものであっても、特定のパルス間隔だけを含んで構成されたものであってもよく、さらに、実際に使用されているデータを流用してもよい。
【0049】
図7は図1に示すようにグラフが印刷された磁気媒体40を、実際の磁気書き込み部4、読み取り部5にあてがった状態を示す図であり、以下に、図7を参照して、印刷されたグラフの利用方法について説明する。
【0050】
保守員は、局所的に速度変動があるかないかを、印刷されたパルス間隔のグラフをみて判断することができる。すなわち、保守員は、図1に示すグラフにおいて、グラフが2本の精度の参考線44の間から大きく外れたデータが、例えば、図1に丸で囲んだ1、2に示すように存在していた場合、その部分に局所的な速度変動があると判断する。
【0051】
そして、このような局所的に速度変動がある場合、このグラフの横軸の値が0の方向を装置の排出部側への搬送方向に向け、かつ、グラフが局所的に変動している部分を磁気ヘッド12または磁気ヘッド11の中心に合わせて、図7に示しているように実際の発券装置にあてがってみる。グラフが局所的に変動している場所は、速度変動が発生している場所であるため、速度変動が発生しているときに磁気媒体の先端及び後端がどの位置にあるかを知ることができる。磁気媒体の速度変動は、主に磁気媒体が磁気ヘッドへの突入した時、磁気媒体の先端が搬送ローラへ突入した時及び後端が搬送ローラから外れたとき、磁気媒体の先端が搬送ガイドに当ったときに生ずる。
【0052】
このため、図7に示しているように、グラフを実際の発券装置にあてがってみると、速度変動が生じているときに磁気媒体の先端及び後端が発券装置のどの位置にあるかを知ることができる。保守員は、これにより、発券装置のどの部品が影響して速度変動が発生しているかを知ることができ、装置の調整作業の効率化を図ることができる。この場合、磁気ヘッドとしては、磁気書き込みヘッド11と磁気読み取りヘッド12とがあるため、両ヘッドのそれぞれに対して判断を行うこととなる。
【0053】
本発明の実施形態は、さらに、予め発券装置の搬送ローラ、搬送ガイドの位置を記憶しておき、基準パルス間隔から一定の割合以上の差があるデータを制御部9により割り出し、その位置がどの搬送ローラ、搬送ガイドに当るかを判断して、この情報をパルス間隔のグラフに合わせて、所定の領域43に「搬送ガイド3の調整を実施してください。」等の印刷を行うようにすることにより保守員等が速度変動の要因を絞り込むための手助けをすることが可能となる。
【0054】
また、本発明の実施形態は、前述した局所的な速度変動の他に、磁気ヘッドへの突入による速度変動は、データの先頭にのみ速度変動が現れるため、これを元に磁気ヘッドとプラテンローラのギャップ調整を促す文言を印刷するようにすることもできる。さらに、本発明の実施形態は、速度変動が局所的ではなく、全体にわたって発生している場合、磁気媒体の先端や後端と発券装置内の部品が原因で速度変動が発生しているのではなく、磁気媒体全体にわたって搬送負荷を発生させる状態となっていると判断する、例えば、搬送ガイド15cと搬送ガイド15dの隙間が媒体の厚さより狭くなっている等が原因であると判断することできるため、これらの原因を磁気媒体40の原因/ポイント等を印刷する所定の領域43に印刷するようにすることができる。
【0055】
さらに、本発明の実施形態は、パルス間隔のグラフに目指す精度に当る位置に参考線44を入れることにより、調整された装置のマージンを知ることができ、経時変化による調整の狂いから発生する障害を未然に防ぐことが可能となる。
【0056】
また、本発明の実施形態は、印刷部6インクリボンを使用しない直接サーマル印刷(磁気媒体が感熱紙)で、赤黒等の2色同時発色が可能な発券装置の場合、黒印刷と赤印刷との印刷位置ズレが発生しないため、グラフの横軸、縦軸等を赤色で、データのドットを黒色で印刷するようにして、ーしより分かり易い印刷を行うことが可能である。
【0057】
前述した本発明の実施形態は、磁気の書き込みと読み取りとを連続して行う場合について説明したが、本発明は、予め正確な間隔で磁気情報を書き込んだ磁気媒体を読み取らせることにより、磁気読み取り部のみの調整状態を把握し、調整作業に役立てることが可能となる。また、連続して磁気情報を読み書きする場合と、読み取りのみを行わせる場合の速度変動の差分から、磁気書き込み部の調整作業に役立つ情報を印刷することも可能である。
【0058】
さらに、前述した本発明の実施形態は、発券装置の運用中に発生した磁気書き込み部、読み取り部のリトライや障害の発生情報を統計処理することにより、磁気書き込み部、読み取り部の調整作業の緊急度の高低を判断し、印刷に付加することも可能であり、また、同時に発券装置全体の障害情報から、特定部位の障害発生の頻度から、当該部位の保守作業を促す印刷を行うことも可能である。
【0059】
前述で説明したように、本発明の実施形態によれば、磁気情報の書き込み/読み取りを行う乗車券等の発券装置において、保守モードによる発券動作で磁気媒体の原券に対する磁気情報の書き込み/読み取り性能を、読み取ったアナログ波形からパルス間隔を並べてグラフ化したものを、発券装置の印刷機能を用いて磁気媒体の印刷面に印刷することにより、磁気書き込み/読み取り時の磁気媒体の速度変動を目視化することができる。これにより、専用の冶具を用いることなく、保守員や組立て工員が、磁気書き込み/読み取り部の媒体搬送の速度変動に関る調整に役立てることができる。
【0060】
さらに、本発明の実施形態によれば、発券装置自身が、速度変動の情報から、磁気書き込み/読み取り部の速度変動を起こす要因の分析を行い、結果を前述のグラフに併せて印刷することができ、これより、保守員や組立て工員が要因分析のための特別な知識を持たなくとも、速度変動の要因を特定し磁気書き込み/読み取り部の媒体搬送の速度変動に関る調整に役立てることができる。
【0061】
また、本発明の実施形態によれば、磁気媒体に発券装置が磁気情報を書き込む代わりに、予め正確な間隔で磁気情報が書き込まれた磁気媒体を準備し、発券装置による磁気情報の書き込みを行わずに磁気情報の読み取りだけを行った後、別の磁気媒体の印刷面にグラフと速度変動要因を印刷することにより、磁気読み取り部の速度変動の要因を示すことができ、磁気読み取り部の調整に役立てることができる。これにより書き込み、読み取りを行った場合の速度変動の要因の分析の複雑化を回避することができる。
【0062】
さらに、本発明の実施形態によれば、磁気情報の書き込みと読み取りとの両方を実施した場合の速度変動結果と、予め正確な間隔で磁気情報が書き込まれた磁気媒体の読み取りを行った場合の速度変動情報の差分を取ることにより、磁気書き込み時の速度変動とこれを元にした速度変動の要因を判断することが可能となり、この情報を磁気媒体の印刷面に印刷することにより、磁気書き込み部のみの速度変動の要因を示すことができ、磁気書き込み部の調整に役立てることができる。
【0063】
さらに、また、本発明の実施形態によれば、発券装置の実運用中の障害情報を記憶して統計処理を行い、発生頻度の高い障害内容を前述の印刷に付加して印刷することにより、発券装置の総合的な保守作業の効率化を図ることも可能となる。
【符号の説明】
【0064】
1 発券装置
2 ホッパ部
3 繰り出し部
4 磁気書き込み部
5 磁気読み取り部
6 印刷部
7 排出部
8 挿入部
9 制御部
10 磁気媒体
11 磁気書き込みヘッド
12 磁気読み取りヘッド
13a、13b プラテンローラ
14a〜14f 搬送ローラ
15a〜15d 搬送ガイド
16 駆動用モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気媒体の原紙に磁気情報を書き込むと共に、前記原紙に所定の印刷を行って、乗車券等の発行を行う発券装置において、
該発券装置は、磁気書き込み部と、磁気媒体に書き込まれた磁気情報を読込む磁気読み取り部と、読み取った磁気情報を解析する制御部と、磁気媒体の印刷面に印刷を行う印刷部とを備えて構成され、前記磁気媒体に磁気情報を書き込んだ後に、磁気情報の読み取りを行い、
前記制御部は、読み取った磁気情報のアナログ信号のピーク間隔であるパルス間隔を読み取りの経過時間に沿って並べたグラフを生成して、前記磁気媒体の印刷面に印刷部により印刷させることを特徴とする発券装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記生成したグラフから前記磁気媒体の搬送速度変動及び変動要因を推測し、前記磁気媒体の印刷面に前記搬送速度変動に対する推測した変動要因を前記印刷部により印刷させることを特徴とする請求項1記載の発券装置。
【請求項3】
磁気媒体の原紙に磁気情報を書き込むと共に、前記原紙に所定の印刷を行って、乗車券等の発行を行う発券装置において、
該発券装置は、予め磁気情報を記録した磁気媒体を取り込む挿入部と、磁気書き込み部と、磁気媒体に書き込まれた磁気情報を読込む磁気読み取り部と、読み取った磁気情報を解析する制御部と、磁気媒体の印刷面に印刷を行う印刷部とを備えて構成され、
前記磁気読み取り部は、前記挿入部から取り込まれた磁気媒体に正確に記録された磁気情報を読み取り、
前記制御部は、読み取った結果を解析して前記磁気読み取り部での磁気媒体の搬送速度変動の情報を計算すると共に、発券装置自身の前記磁気書き込み部が、前記磁気媒体に磁気情報を書き込んだ後に、前記磁気読み取り部で磁気情報の読み取りを行った場合の前記磁気書き込み部での磁気媒体の搬送速度変動と、前記磁気読み取り部での磁気媒体の搬送速度変動とが混合された状態の速度速度変動の情報を計算し、
前記計算した2つの速度速度変動の情報の差分をとり、前記磁気読み取り部と前記磁気書き込み部との速度変動を分離し、別々に変動要因を推測し、前記磁気媒体の印刷面に、搬送速度変動のグラフ及び推定要因を前記印刷部により印刷させることを特徴とする発券装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−257405(P2010−257405A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−109660(P2009−109660)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【出願人】(504373093)日立オムロンターミナルソリューションズ株式会社 (1,225)
【Fターム(参考)】