説明

発声補助器具

【課題】声帯のやや下方近傍に開口した気管切開口を有する患者であっても自発呼吸による自然な会話を可能にするとともに、異物等の肺への侵入を防止可能で安全性が高い発声補助器具を提供する。
【解決手段】気管切開口から気管内に挿入される気管内チューブと、気管内チューブに設けられるカフと、患者の発声用気体を導く発声用導管とを備える気管挿入カニューレに連結され、患者の自発呼吸よる発声を補助する発声補助器具であって、前記気管内チューブの他端に連結されて、前記気管内チューブに吸気を導く呼吸用導管と、患者の吸気時に前記呼吸用導管を大気に連通させ、呼気時に前記呼吸用導管と大気とを遮断する一方弁と、前記呼吸用導管内の圧力が所定の圧力に達すると、前記呼吸用導管を大気に連通させるリリーフバルブと、前記発声用導管の他端側を前記呼吸用導管に連通接続させる接続部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、声帯より下方に気管切開を施され、その気管切開口を介して吸引等の気管内処置が必要な患者の自発呼吸による発声を補助するための発声補助器具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば重篤な肺炎となり自発呼吸ができなくなった患者に対しては、上述した気管切開を施し、その気管切開口から気管挿入カニューレ等の気管挿入用チューブを挿入し、その気管挿入用チューブに人工呼吸装置を連結して肺に酸素を送気する等による呼吸支援を行う。
【0003】
このような患者の回復期において、人工呼吸装置による呼吸支援は必要なくなり自発呼吸が可能になったものの、肺の炎症が残ったままの症状が継続する。そして、肺の炎症により発生する痰等を自力で吐き出せない患者に対しては、気管挿入用チューブ等を気管切開口から挿入し、気管挿入用チューブから痰吸引等の気管内処置を施す必要がある。そのため、このような患者にとって気管切開口を開口した状態を余儀なくされる。
【0004】
このように、自発呼吸可能な程度まで回復した患者であっても気管切開口を開口した状態の患者は、その気管切開口から呼気が漏れて声帯まで呼気が届かないため、自発呼吸による自然な発声が困難という問題があった。そのため、このような回復期の患者にとって、自発呼吸により会話ができないことがストレスとなってイライラする等の精神状態が不安定になるという問題があった。
【0005】
このような患者に対して、自発呼吸による発声を補助する様々な提案がされている。
例えば、気管切開孔から挿入される管状物で、開口部の一端は気管切開孔の体外部に、もう一端の開口部は気管内に位置し、体外部の開口部には患者吸気は通過可能で、患者呼気は遮断する一方弁を備え、該一方弁で遮断された患者呼気の一部を大気に放出する発声補助器具であって、管状物の気管内に挿入される部分の側壁に声帯側への通気孔を有し、しかも管状物の気管内に挿入される部分にカフを備えるものが知られている。(例えば特許文献1参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−50020号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1によれば、管状物の気管内に挿入される部分の側壁に声帯側への通気孔を有するため、例えば誤嚥によって気管側に流れてきた流動物等の異物が通気孔から肺の方に侵入して誤嚥性肺炎を引き起こす虞があるという問題があった。この問題は、例えば高齢者等の誤嚥を起こし易い患者にとっては特に切実な問題である。
【0008】
そこで、本発明は、上記従来の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、気管切開口を有する患者であっても自発呼吸による自然な会話を可能にするとともに、誤嚥等によって異物が気管内に侵入してきても肺への侵入を防止可能で安全性が高い発声補助器具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明は、患者の声帯のやや下方近傍に開口した気管切開口から一端側を気管内に挿入される気管内チューブと、前記気管内チューブに設けられるカフと、一端側を前記気管切開口から気管内に挿入されて患者の発声用気体を導く発声用導管とを備える気管挿入カニューレに連結され、患者の自発呼吸よる発声を補助する発声補助器具であって、前記気管内チューブの他端に連結されて、前記気管内チューブに吸気を導く呼吸用導管と、患者の吸気時に前記呼吸用導管を大気に連通させ、呼気時に前記呼吸用導管と大気とを遮断する一方弁と、前記呼吸用導管内の圧力が所定の圧力に達すると、前記呼吸用導管を大気に連通させるリリーフバルブと、前記発声用導管の他端側を前記呼吸用導管に連通接続させる接続部とを備え、患者の呼気を前記発声用気体とする、発声補助器具である。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1に記載の発明において、前記接続部は、前記呼吸用導管から分岐する分岐管を含むことを特徴とする。
【0011】
請求項3の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、前記発声用導管と前記呼吸用導管とは逆止弁を介して連通接続され、前記逆止弁は患者の呼気時に前記呼吸用導管と前記発声用導管とを連通させ、吸気時に前記呼吸用導管と前記発声用導管とを遮断することを特徴とする。
【0012】
請求項4の発明は、患者の声帯のやや下方近傍に開口した気管切開口から気管内に挿入されて患者の自発呼吸による発声を補助する発声補助器具であって、一端側を前記気管切開口から気管内に挿入される気管内チューブと、前記気管内チューブに設けられるカフとを備える気管挿入部と、前記気管内チューブの他端に連結されて、前記気管内チューブに吸気を導く呼吸用導管と、患者の吸気時に前記呼吸用導管を大気に連通させ、呼気時に前記呼吸用導管と大気とを遮断する一方弁と、前記呼吸用導管内の圧力が所定の圧力に達すると、前記呼吸用導管を大気に連通させるリリーフバルブと、一端側を前記気管切開口から気管内に挿入されて患者の発声用気体を導く発声用導管とを備える発声補助部とからなり、前記発声用導管の他端側が前記呼吸用導管に連通接続され、患者の呼気を前記発声用気体とする、発声補助器具である。
【0013】
請求項5の発明は、請求項4に記載の発明において、前記発声用導管の他端側は、前記呼吸用導管に着脱自在に連通接続されることを特徴とする。
【0014】
請求項6の発明は、請求項4又は5に記載の発明において、前記呼吸用導管から分岐する分岐管を含み、前記他端側は前記分岐管を介して前記呼吸用導管に連通接続されることを特徴とする。
【0015】
請求項7の発明は、請求項4〜6のいずれかに記載の発明において、前記他端側は逆止弁を介して前記呼吸用導管に連通接続され、前記逆止弁は患者の呼気時に前記呼吸用導管と前記発声用導管とを連通させ、吸気時に前記呼吸用導管と前記発声用導管とを遮断することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、患者の声帯のやや下方近傍に開口した気管切開口から一端側を気管内に挿入される気管内チューブと、前記気管内チューブに設けられるカフと、一端側を前記気管切開口から気管内に挿入されて患者の発声用気体を導く発声用導管とを備える気管挿入カニューレに連結され、患者の自発呼吸よる発声を補助する発声補助器具であって、前記気管内チューブの他端に連結されて、前記気管内チューブに吸気を導く呼吸用導管と、患者の吸気時に前記呼吸用導管を大気に連通させ、呼気時に前記呼吸用導管と大気とを遮断する一方弁と、前記呼吸用導管内の圧力が所定の圧力に達すると、前記呼吸用導管を大気に連通させるリリーフバルブと、前記発声用導管の他端側を前記呼吸用導管に連通接続させる接続部とを備え、患者の呼気を前記発声用気体とする構成であるから、患者の呼気が発声用導管に導かれて声帯に向かうので患者の自発呼吸による自然な会話を可能にするとともに、誤嚥により異物が気管内に侵入してきてもカフによって肺への侵入を防ぐことができ、安全性が高い発声補助器具を提供できる。
【0017】
また、前記接続部は、前記呼吸用導管から分岐する分岐管を含む構成であるから、簡単な構造で安価に発声補助器具を提供できる。
【0018】
また、前記発声用導管と前記呼吸用導管とは逆止弁を介して連通接続され、前記逆止弁は患者の呼気時に前記呼吸用導管と前記発声用導管とを連通させ、吸気時に前記呼吸用導管と前記発声用導管とを遮断する構成であるから、吸気時に逆止弁によって発声用導管と呼吸用導管とが遮断されるので、発声用導管内を介した肺への流動物等の侵入を防止できるためさらに安全性が高い発声補助器具を提供できる。
【0019】
また、患者の声帯のやや下方近傍に開口した気管切開口から気管内に挿入されて患者の自発呼吸による発声を補助する発声補助器具であって、一端側を前記気管切開口から気管内に挿入される気管内チューブと、前記気管内チューブに設けられるカフとを備える気管挿入部と、前記気管内チューブの他端に連結されて、前記気管内チューブに吸気を導く呼吸用導管と、患者の吸気時に前記呼吸用導管を大気に連通させ、呼気時に前記呼吸用導管と大気とを遮断する一方弁と、前記呼吸用導管内の圧力が所定の圧力に達すると、前記呼吸用導管を大気に連通させるリリーフバルブと、一端側を前記気管切開口から気管内に挿入されて患者の発声用気体を導く発声用導管とを備える発声補助部とからなり、前記発声用導管の他端側が前記呼吸用導管に連通接続され、患者の呼気を前記発声用気体とする構成であるから、患者の呼気が発声用導管に導かれて声帯に向かうので患者の自発呼吸による自然な会話を可能にするとともに、誤嚥により異物が気管内に侵入してきてもカフによって肺への侵入を防ぐことができ、安全性が高い発声補助器具を提供できる。
【0020】
また、前記発声用導管の他端側は、前記呼吸用導管に着脱自在に連通接続される構成であるから、発声用導管の他端側を呼吸用導管から外せば、発声用導管の他端側から気管内を吸引することも可能となり、例えばカフの上方に溜まった流動物等を吸引できる等、実用性が高い発声補助器具を提供できる。
【0021】
また、前記呼吸用導管から分岐する分岐管を含み、前記他端側は前記分岐管を介して前記呼吸用導管に連通接続される構成であるから、簡単な構造で安価に発声補助器具を提供できる。
【0022】
また、前記他端側は逆止弁を介して前記呼吸用導管に連通接続され、前記逆止弁は患者の呼気時に前記呼吸用導管と前記発声用導管とを連通させ、吸気時に前記呼吸用導管と前記発声用導管とを遮断する構成であるから、吸気時に逆止弁によって発声用導管と呼吸用導管とが遮断されるので、発声用導管を介した肺への流動物等の侵入を防止できるためさらに安全性が高い発声補助器具を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1実施形態に係る発声補助器具を説明する斜視図である。
【図2】図1の要部縦断面図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る発声補助器具の使用例を示す断面説明図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係る発声補助器具の要部縦断面図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係る発声補助器具の使用例を示す断面説明図である。
【図6】本発明の第3実施形態に係る発声補助器具の要部縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の好適な実施形態について図を用いて説明する。
まず、本発明の第1実施形態に係る発声補助器具について図1〜図3を用いて説明する。
本実施形態の発声補助装置は、患者の声帯のやや下方近傍に開口した気管切開口から一端側を気管内に挿入される気管内チューブと、前記気管内チューブの側面に設けられるカフと、一端側を前記気管切開口から気管内に挿入されて患者の発声用気体を導く発声用導管とを備える気管挿入カニューレに連結され、患者の自発呼吸よる発声を補助する発声補助器具であって、前記気管内チューブの他端に連結されて、前記気管内チューブに吸気を導く呼吸用導管と、患者の吸気時に前記呼吸用導管を大気に連通させ、呼気時に前記呼吸用導管と大気とを遮断する一方弁と、前記呼吸用導管内の圧力が所定の圧力に達すると、前記呼吸用導管を大気に連通させるリリーフバルブと、前記発声用導管の他端側を前記呼吸用導管に連通接続させる接続部とを備え、患者の呼気を前記発声用気体とするものである。
【0025】
本実施形態の要部である発声補助器具10の説明の前に、発声補助器具10が連結される気管挿入カニューレ40について図3を用いて説明する。図3によれば、気管挿入カニューレ40が気管切開口13から気管内15に挿入された様子がわかる。
本実施形態の気管挿入カニューレ40は、例えば公知のカフ有りカニューレ等で構成され、図3に示すように、気管内チューブ42と、カフ44と、発声用導管46と、カフ44を膨張収縮させる手動空気ポンプ48とを備える。
まず、気管内チューブ42は、図3に示すように、例えば気管切開口13よりやや小さい内径を有する合成樹脂製で略L字状のチューブで形成される。ここで、気管切開口13は、声帯11のやや下方近傍に開口するが、患者の年齢や喉の太さ等に応じて概ね8mm〜15mm程度の直径の円状孔で形成される。そして、気管内チューブ42は、図3に示すように、気管切開口13から一端側を患者の気管内15に挿入され患者の気道を確保する。
なお、気管内チューブ42は、図3に示すように、薄板状のストッパ47を備えている。気管内チューブ42を所定の長さ気管内15に挿入したところで、図3に示すように、ストッパ47が喉部分に当接して気管内チューブ42の侵入を規制する。また、気管内チューブ42は、図3に示すように、後述するカフ44のやや上方に小孔45を有するが、この小孔45については再述する。
【0026】
次に、カフ44は例えば薄いシリコン樹脂膜で形成された膨張収縮可能な風船体からなり、図3に示すように、気管内チューブ42の一端側の外壁に設けられる。そして、カフ44は、図3に示すように手動空気ポンプ48と接続され、手動空気ポンプ48でカフ44を膨張させることにより気管内チューブ42の外壁と気管内壁との間を閉鎖できる構成となっている。
【0027】
次に、発声用導管46は、例えば気管内チューブ42の内径の5分の1〜10分の1程度の内径で柔軟性を有する合成樹脂製のフレキシブルチューブで形成することができる。そして、発声用導管46は、図3に示すように、その一端側を気管切開口13から気管内15に挿入される。
詳しくは、発声用導管46の一端側は、図3に示すように、ストッパ47近傍から気管内チューブ42内に挿入され、上述したカフ44のやや上方位置の気管内チューブ42に設けられた小孔45に、発声用導管46の一端である開放端を連結させている。したがって、後述のように発声用導管46によって導かれる発声用気体(呼気)は、小孔45から気管内15に進入し、カフ44に堰きとめられて肺側には送気されず、声帯11に向けて送気される。
また、発声用導管46の他端には、図3に示すように、他のチューブ等と連結させるための公知の円筒状継手等からなる第1連結手段36を備える。
【0028】
なお、本実施形態の発声用導管46は、上述の態様で気管内チューブ42に取り付けられているが、気管内チューブ42の外壁に長さ方向に沿って接着させて取り付けてもよい。その場合、気管内チューブ42に導かれた発声用気体(呼気)は、前記一端である開放端から気管内15に侵入する。
【0029】
次に、本実施形態の発声補助器具10について、図1〜図3を用いて説明する。
図1及び図2に示すように、本実施形態の発声補助器具10は、呼吸用導管12と、一方弁14と、リリーフバルブ16と、接続部20とを備える。
呼吸用導管12は、図1〜図3に示すように、気管内チューブ42と略同じ内外径を有する合成樹脂製で両端が開放した管体で形成される。そして、呼吸用導管12は、図3に示すように、呼吸用導管12の一端17が気管内チューブ42の他端19に嵌合して連結される。このように、呼吸用導管12内と気管内チューブ42内とが連通し、気管内チューブ42に吸気を導く。なお、気管内チューブ42と呼吸用導管12との連結は、公知の接続フェルーレや円筒状の継手管等の連結手段を介して連通連結してもよい。
【0030】
次に、一方弁14は、図2に示すように、弁箱21と、弁体22とを備える。本実施形態の弁体22は、例えば医療現場等で用いられる公知の弁体からなる。
具体的には、弁体22は、図2に示すように、例えばシリコン樹脂製の薄い弾性体からなり、リング状の円盤体24と、円盤体24の内円から中空円錐状に突設される中空円錐状部25と、その中空円錐状部25の略中心を通過して弾性体を貫通する一つ又は複数のスリット23を設けて形成される。
【0031】
次に、弁箱21は、図1及び図2に示すように、弁体22を収納可能な円筒体で形成され、その円筒体の上面26及び底面27にそれぞれ開口28,29を備える。そして、弁箱21は、図2に示すように、例えば開口29が呼吸用導管12の他端30に連通し、開口28が大気に連通する態様で呼吸用導管12と連結する。また、弁体22は、図2に示すように、上述した中空円錐状部25の先端を開口29側(呼吸用導管12側)に向けた状態で配置され、円盤体24が弁箱21に設けられた挟持部43で挟持される態様で弁箱21に支持される。
このように構成される一方弁14は、図1及び図2に示すように、呼吸用導管12の他端30に、例えば溶着等で連結される。
【0032】
従って、一方弁14は、大気圧より呼吸用導管12内の圧力が低下すると、すなわち吸気時に中空円錐状部25が呼吸用導管12側に引き込まれることでスリット23が開いて呼吸用導管12を大気に連通させる(図3(a)参照)。一方、大気圧より呼吸用導管12側の圧力が上昇すると、すなわち呼気時に中空円錐状部25が大気側に押されることでスリット23が閉じて呼吸用導管12と大気とを遮断する(図3(b)参照)。
なお、一方弁は本実施形態の構成に限るものではなく、吸気時に大気圧より呼吸用導管12側の圧力が低下することで開状態となり、呼気時に呼吸用導管12側の圧力が大気より上昇することで閉状態となるものであれば、弁体がスイングするスイング逆止弁等で構成してもよい。
【0033】
次に、リリーフバルブ16は、例えば公知の安全弁等を用いることができ、図2に示すように、呼吸用導管12から分岐連通する管で形成される分岐路31の開放端に設けられる。そして、リリーフバルブ16は、呼吸用導管12内の圧力が所定の圧力に達すると作動してバルブ(図示しない)が開き、分岐路31を介して呼吸用導管12内を大気に連通させる。なお、リリーフバルブ16は、前記バルブが作動する所定の圧力、すなわち開放圧力を無段階で調節可能な構成のものが好ましい。患者の体調等の細かな状況に応じて呼気時の息苦しさを調節できるためであり、この点については後述する。
【0034】
次に、本実施形態の接続部20は、図1及び図2に示すように、分岐管32と、接続管33とを含む。
分岐管32は、例えば呼吸用導管12の内径の3分の1〜5分の1程度の内径で両端が開放した円筒体で形成される。そして、分岐管32は、図1及び図2に示すように、呼吸用導管12の側部に開孔した開孔34に一端側を例えば溶着等で連通接続され、呼吸用導管12の中途から分岐する。
【0035】
次に、接続管33は、図3に示すように、発声用導管46と略同じ内外径を有するフレキシブルチューブで形成され、その一端に分岐管32と連結させる第2連結手段35を備える。本実施形態の第2連結手段35は、図2及び図3に示すように、例えば略お椀状でお椀の底に開孔を有する椀体で形成され、接続管33の一端が椀体の開孔に接続される。そして、図2及び図3に示すように、椀体の椀側部分を分岐管32に嵌合させて、接続管33と分岐管32とが連通連結する。
【0036】
このように、分岐管32と接続管33とを第2連結手段35により連結させるとともに、第1連結手段36により発声用導管46の他端側と接続管33とを連結させることで、発声用導管46と呼吸用導管12とを連通接続する。すなわち接続部20は、発声用導管46の他端側を呼吸用導管12に連通接続させる構成となっているのである。
なお、第2連結手段35は、本実施形態の椀体に限るものでなはく、例えば分岐管32の内側に差込める程度の筒状体で形成されてもよい。
【0037】
なお、接続部は、本実施形態の構成に限るものではなく、例えば発声補助器具10を気管内チューブ42に連結した場合に呼吸用導管12の他端側が分岐管32に届く長さであれば接続管33を省略した構成でもよい。
また、例えば発声補助器具10を気管内チューブ42に連結した際に、呼吸用導管12の他端側を上述した開孔34に直接連結できる場合は、接続部は開孔34からなる構成であってもよい。
【0038】
次に、本実施形態の発声補助器具10の使用例について図3を用いて説明する。図3(a)は、患者の吸気時の動作説明図であり、図3(b)は、患者の呼気時の動作説明図である。
先ず、図3に示すように、気管挿入カニューレ40に発声補助器具10を連結する。より詳しくは、気管内チューブ42に呼吸用導管12を連結し、発声用導管46に接続管33を連結する。そして、図3に示すように、ストッパ47が喉に当接するまで気管挿入カニューレ40を気管切開口13に挿入し、カフ44を膨張させる。
【0039】
この状態で、患者は自発呼吸を行うことができる。
すなわち図3(a)に示すように、吸気の際に肺を膨らませると呼吸用導管12内の圧力が大気よりやや下がるため一方弁14が開き、大気側から空気が呼吸用導管12及び気管内チューブ42に侵入して肺に吸い込まれる。その際、カフ44より上方の気管内15の空気も、小孔45、発声用導管46、接続管33、分岐管32を介して呼吸用導管12内に侵入するが、呼吸用導管12より細い発声用導管46、接続管33による空気の管路抵抗のため、肺に侵入する空気は一方弁14から侵入した空気が大部分となる。
【0040】
次に、図3(b)に示すように、呼気の際に肺からの呼気は気管内チューブ42を通過して呼吸用導管12に侵入すると、一方弁14とリリーフバルブ16で堰きとめられて接続部20へ向かう。そして、呼気は、発声用導管46を通過して小孔45から気管内15に侵入するが、カフ44に堰きとめられて声帯11へと向かい、発声用気体となる。図3(b)において、符号49は、声帯に向かう呼気を示す。すなわち、発声用導管46は発声用気体としての呼気を導く管である。
このように、本実施形態の発声補助器具10は、患者の自発呼吸による発声を補助するのである。
その際、例えば発声用導管46等の内径が細いために管路抵抗が高くて、呼気が肺から抜け難くて息苦しく感じる場合は、リリーフバルブ16の開放圧力を調節して呼気の一部をリリーフバルブ16から大気側へとリリーフすればよい(図3(b)参照)。
【0041】
次に、本発明の第2実施形態に係る発声補助器具50について図4及び図5を用いて説明するが、第1実施形態と同じ部材には同じ符号を付しその説明を省略する。ここで、図5(a)は、患者の吸気時の動作説明図であり、図5(b)は、患者の呼気時の動作説明図である。
第2実施形態と第1実施形態との相違点は、図4に示すように、逆止弁51を備える点である。すなわち、本実施形態の発声補助器具50は、図4に示すように、呼吸用導管12と、一方弁14と、リリーフバルブ16と、逆止弁51と、接続部20´とを備える。
【0042】
本実施形態の逆止弁51は、例えば上述した一方弁14と同じ構成の一方弁を用いることができる。具体的には、逆止弁51は、図4に示すように、一方弁14の弁体22よりやや小さい弁体22´と、弁箱21よりやや小さい弁箱21´とを備える。また、弁体22´は、リング状の円盤体24´と、中空円錐状部25´と、スリット23´を含む。また、弁箱21´は、開口28´,29´を備える。
本実施形態において、逆止弁51は、図4に示すように、弁体22´の中空円錐状部25´の先端を呼吸用導管12と反対側に向けた状態で、上述した分岐管32よりやや長い分岐管32´の中間に配置される。
【0043】
また、本実施形態の接続部20´は、図4に示す様に、分岐管32´と、接続管33とを含み、分岐管32´の先端に接続管33が連結される。
そして、使用時には図5に示すように、上述と同様に発声用導管46が接続管33に連結される。このように、発声用導管46と呼吸用導管12とは逆止弁51を介して連通接続される。
したがって、図5(a)に示すように、吸気時に呼吸用導管12内の圧力が発声用導管46内より低下するのでスリット23´が閉じて逆止弁51が閉状態となり、呼吸用導管12と発声用導管46とが遮断される。そして、吸気は、上述した様に、開状態となった一方弁14を介して大気から導かれる。
一方、図5(b)に示すように、呼気時に呼吸用導管12内の圧力が発声用導管46内より上昇するのでスリット23´が開いて逆止弁51が開状態となり呼吸用導管12と発声用導管46とが連通して、呼気49が声帯11に向かう。
【0044】
このように、逆止弁51を設けることにより、吸気時に逆止弁51によって発声用導管46と呼吸用導管12とが遮断されるので、例えば誤嚥によって流動物等が気管内に侵入することがあっても、発声用導管46の一端、すなわち本実施形態においては上述した小孔45から流動物等が発声用導管46に侵入しない。従って、発声用導管46を介した肺への流動物等の侵入を防止できるためさらに安全性が高い発声補助器具50を提供できる。
【0045】
次に、本発明の第3実施形態に係る発声補助器具60について主に図6を用いて説明するが、第1実施形態及び第2実施形態と同じ部材には同じ符号を付しその説明を省略する。
本実施形態の発声補助器具60は、図6に示すように、患者の声帯11のやや下方近傍に開口した気管切開口13から気管内15に挿入されて患者の自発呼吸による発声を補助する発声補助器具60であって、気管挿入部61と、発声補助部62とからなる。
【0046】
本実施形態の気管挿入部61は、図6に示すように、気管内チューブ42と、カフ44と、発声用導管63と、手動空気ポンプ48と、ストッパ47とを備える。
本実施形態の発声用導管63は、上述した発声用導管46を例えば略2倍に延長させたフレキシブルチューブで形成される。そして、発声用導管63の一端側は、図6に示すように、ストッパ47近傍から気管内チューブ42内に挿入され、上述したカフ44のやや上方位置の気管内チューブ42に設けられた小孔45に、発声用導管63の一端である開放端を連結させている。また、発声用導管63は、図6に示すように、その他端に上述した第2連結手段35を備える。
【0047】
次に、発声補助部62は、図6に示すように、呼吸用導管12と、一方弁14と、リリーフバルブ16と、分岐管32´と、逆止弁51とを備える。
本実施形態の呼吸用導管12は、図5に示すように、気管内チューブ42の他端から延長させる態様で気管内チューブ42と一体に形成される。気管内チューブ42と呼吸用導管12とは一体に形成されるものに限らず、例えば公知の接続フェルーレや円筒状の継手管等の連結手段によって連結形成されてもよい。
【0048】
本実施形態の発声補助器具60を使用する際は、図6に示すように、例えば気管切開口から気管挿入部61を気管内に挿入し、カフ44を膨張させ、第2連結手段35を介して分岐管32と発声用導管63とを連通させる。
したがって、吸気時に、一方弁14から呼吸用導管12に侵入した空気が気管内チューブ42を介して肺へと侵入する。一方、呼気は、発声用導管63によって導かれて小孔45から気管内15に侵入し、カフ44に堰きとめられて肺側には送気されず、声帯11に向けて送気され、発声用気体となる(図5参照)。
【0049】
このように、本実施形態の発声用導管63は、一端側を気管切開口13から気管内15に挿入されるとともに他端側が呼吸用導管12に連通接続され、患者の発声用気体としての呼気を導く構成となっているのである。
また、発声用導管63の他端側は、呼吸用導管12に分岐管32´を介して着脱自在に連通接続されるため、発声用導管63の他端側を分岐管32´から外せば、前記他端側から気管内を吸引することも可能となり、例えばカフ44の上方に溜まった流動物等を吸引できる等、実用性が高い発声補助器具を提供できる。
【0050】
これまで述べてきたように、本実施形態の発声補助器具10,50,60によれば、気管切開口を有する患者であっても自発呼吸による自然な会話を可能にするとともに、誤嚥によって異物が気管側に侵入してきても肺への侵入を防止可能で安全性が高い発声補助器具を提供できる。
【0051】
以上、本発明の実施形態のうちのいくつかを図面に基づいて詳細に説明したが、これらはあくまでも例示であり、当業者の知識に基づいて種々の変形、改良を施した他の形態で本発明を実施することが可能である。
【符号の説明】
【0052】
10,50,60 発声補助器具
11 声帯
12 呼吸用導管
13 気管切開口
14 一方弁
16 リリーフバルブ
20,20´ 接続部
32,32´ 分岐管
40 気管挿入カニューレ
42 気管内チューブ
44 カフ
46,63 発声用導管
51 逆止弁
61 気管挿入部
62 発声補助部



【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の声帯のやや下方近傍に開口した気管切開口から一端側を気管内に挿入される気管内チューブと、前記気管内チューブに設けられるカフと、一端側を前記気管切開口から気管内に挿入されて患者の発声用気体を導く発声用導管とを備える気管挿入カニューレに連結され、患者の自発呼吸よる発声を補助する発声補助器具であって、
前記気管内チューブの他端に連結されて、前記気管内チューブに吸気を導く呼吸用導管と、
患者の吸気時に前記呼吸用導管を大気に連通させ、呼気時に前記呼吸用導管と大気とを遮断する一方弁と、
前記呼吸用導管内の圧力が所定の圧力に達すると、前記呼吸用導管を大気に連通させるリリーフバルブと、
前記発声用導管の他端側を前記呼吸用導管に連通接続させる接続部とを備え、患者の呼気を前記発声用気体とすることを特徴とする発声補助器具。
【請求項2】
前記接続部は、前記呼吸用導管から分岐する分岐管を含むことを特徴とする請求項1に記載の発声補助器具。
【請求項3】
前記発声用導管と前記呼吸用導管とは逆止弁を介して連通接続され、前記逆止弁は患者の呼気時に前記呼吸用導管と前記発声用導管とを連通させ、吸気時に前記呼吸用導管と前記発声用導管とを遮断することを特徴とする請求項1又は2に記載の発声補助器具。
【請求項4】
患者の声帯のやや下方近傍に開口した気管切開口から気管内に挿入されて患者の自発呼吸による発声を補助する発声補助器具であって、
一端側を前記気管切開口から気管内に挿入される気管内チューブと、
前記気管内チューブに設けられるカフとを備える気管挿入部と、
前記気管内チューブの他端に連結されて、前記気管内チューブに吸気を導く呼吸用導管と、
患者の吸気時に前記呼吸用導管を大気に連通させ、呼気時に前記呼吸用導管と大気とを遮断する一方弁と、
前記呼吸用導管内の圧力が所定の圧力に達すると、前記呼吸用導管を大気に連通させるリリーフバルブと、
一端側を前記気管切開口から気管内に挿入されて患者の発声用気体を導く発声用導管とを備える発声補助部とからなり、
前記発声用導管の他端側が前記呼吸用導管に連通接続され、患者の呼気を前記発声用気体とすることを特徴とする発声補助器具。
【請求項5】
前記発声用導管の他端側は、前記呼吸用導管に着脱自在に連通接続されることを特徴とする請求項4に記載の発声補助器具。
【請求項6】
前記呼吸用導管から分岐する分岐管を含み、前記他端側は前記分岐管を介して前記呼吸用導管に連通接続されることを特徴とする請求項4又は5に記載の発声補助器具。
【請求項7】
前記他端側は逆止弁を介して前記呼吸用導管に連通接続され、前記逆止弁は患者の呼気時に前記呼吸用導管と前記発声用導管とを連通させ、吸気時に前記呼吸用導管と前記発声用導管とを遮断することを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載の発声補助器具。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−55472(P2012−55472A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−200979(P2010−200979)
【出願日】平成22年9月8日(2010.9.8)
【出願人】(510242510)
【Fターム(参考)】