説明

発声補助装置

【課題】気管切開を施されて人工呼吸装置を装着した患者が呼吸の度に煩雑な操作をする必要もなく、人の自然な発声に近い状態での会話を可能とする発声補助装置を提供する。
【解決手段】前記患者の吸気用気体を供給する気体供給部と、気管内チューブと、前記気体供給部と前記気管内チューブとを連通させる呼吸用導管と、前記呼吸用導管を大気に分岐連通させる開閉弁とを備える人工呼吸装置と、一端側を前記気管切開口から気管内に挿入される発声用導管と、前記発声用気体の供給源にその一端側を連通させる導入管と、前記導入管と前記発声用導管とを連通させるバルブであって、そのバルブに連結される管内の圧力によって作動する開閉バルブと、前記開閉バルブに連結され、前記開閉バルブを作動させるための作動用管とを備える発声用装置とからなり、前記作動用管が前記呼吸用導管の中途に連通する、発声補助装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気管切開の手術を施され人工呼吸装置により呼吸を維持している患者の発声を補助するための発声補助装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、人間が言葉を発声するための器官は、肺、気管、声帯、咽喉部、口腔部などがあり、呼気時に肺から放出される呼気流が声帯の振動と協働して音源となり咽喉部や口腔部で共鳴や増幅されて口から発せられる音となる。
しかし、声帯より下方に気管切開口を設けられ、その気管切開口からカニューレ等の気管内チューブを挿入し、その気管内チューブに接続された人工呼吸装置を介して呼吸を行わざるを得ない患者にとっては、呼気流が声帯に流れないためあるいは声帯に流れる呼気流の量が少ないため等の理由により発声が困難な状態となっている。
【0003】
このような、患者の発声を補助するためにいくつかの提案がなされている。
例えば、カニューレと一体もしくは別体に設けて気管切開口から上気道に通じる送気用チューブに会話用の空気や酸素等を送るための送気ライン連結し、送気ラインに流れる会話用の空気や酸素等の流量を調節する送気流量調節機構を備えるものが知られている。(例えば特許文献1参照)
【特許文献1】特公平2−44228号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1によれば、人工呼吸装置を付けた患者が手元のスイッチシステムの流量設定ボリュームを自分で所定値に調節した後、手元スイッチに設けられた会話用送気ラインの開閉スイッチを患者がON,OFFさせることにより声帯に向けて会話用の空気や酸素を送ることで、発声を補助するものである。
【0005】
したがって、特許文献1によれば開閉用のスイッチがON状態にある場合は、患者は呼気時や吸気時にかかわらず常に発声が可能となる。しかし、人の発声は上述したように呼気時に行われるのが自然で、呼気時や吸気時にかかわらず常に発声する行為は患者にとって生理的な抵抗感が大きい虞があるという問題がある。特に、思春期等の敏感な年頃の患者にとっては生理的な抵抗感が更に大きくなることが懸念される。そのため、このような患者が他人との面会を敬遠して閉じこもってしまうという虞があった。
【0006】
そこで、特許文献1によれば、患者が呼気時に開閉用のスイッチをON状態にし、吸気時に開閉用スイッチをOFF状態にすることを繰り返しながら自然な発声に近い状態で会話することも考えられる。しかし、この場合、患者は呼気時及び吸気時に毎回開閉用スイッチのON,OFFを繰り返す動作をせざるを得ないため、患者にとっては開閉スイッチ操作の煩雑性や負担が高まる虞があるという問題があった。また、例えば手足が不自由な患者は使用できない虞があるという問題や自発呼吸が困難な患者にとっては呼気時や吸気時を捉え難いため使用し難い虞があるという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、上記従来の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、気管切開を施されて人工呼吸装置を装着した患者が呼吸の度に煩雑な操作をする必要もなく、人の自然な発声に近い状態での会話を可能とする発声補助装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明は、声帯のやや下方近傍に気管切開口を設けた患者の発声を補助する発声補助装置であって、患者の吸気用気体を供給する気体供給部と、前記気管切開口に挿入される気管内チューブと、前記気体供給部と前記気管内チューブとを連通させる呼吸用導管と、前記呼吸用導管を大気に分岐連通させる開閉弁とを備える人工呼吸装置と、一端側を前記気管切開口から気管内に挿入され、発声用気体を導く発声用導管と、前記発声用導管の他端側に接続する管であって、前記発声用気体の供給源にその一端側を連通させる導入管と、前記導入管と前記発声用導管とを連通させるバルブであって、このバルブに連結する作動用管内の圧力に応じて作動する開閉バルブとを備える発声用装置とからなり、しかも前記作動用管が前記呼吸用導管の中途に連通し、患者の吸気時においては、前記呼吸用導管内が加圧されることにより前記作動用管を介して前記開閉バルブが閉塞し、患者の呼気時においては、前記呼吸用導管内の圧力が低下することにより前記作動用管を介して前記開閉バルブが開放して前記発生用気体を気管内に送気可能とする、発声補助装置である。
【0009】
請求項2の発明は、声帯のやや下方近傍に気管切開口を設けた患者の発声を補助する発声補助装置であって、患者の吸気用気体を供給する気体供給部と、前記気管切開口に挿入される気管内チューブと、前記気体供給部と前記気管内チューブとを連通させる呼吸用導管と、前記呼吸用導管を大気に分岐連通させる開閉弁であって、この開閉弁に連結する作動用加減圧管内の圧力に応じて作動する圧力開閉弁と、前記作動用加減圧管内を加圧又は減圧させる加減圧部とを備える人工呼吸装置と、一端側を前記気管切開口から気管内に挿入され、発声用気体を導く発声用導管と、前記発声用導管の他端側に接続する管であって、前記発声用気体の供給源にその一端側を連通させる導入管と、前記導入管と前記発声用導管とを連通させるバルブであって、このバルブに連結する作動用管内の圧力に応じて作動する開閉バルブとを備える発声用装置とからなり、しかも前記作動用管が前記作動用加減圧管の中途に連通し、患者の吸気時においては、前記作動用加減圧管内が加圧されることにより前記作動用管を介して前記開閉バルブが閉塞し、患者の呼気時においては、前記作動用加減圧管内の圧力が低下することにより前記作動用管を介して前記開閉バルブが開放して前記発生用気体を気管内に送気可能とする、発声補助装置である。
【0010】
請求項3の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、前記発声用装置は、前記導入管の他端側に連通接続されて前記導入管から流入する前記発声用気体の流路を第1の分岐路と第2の分岐路とに分岐させる分岐管と、前記第2の分岐路に設けられて前記分岐管を大気に連通させるリリーフバルブとを更に備え、前記開閉バルブは前記第1の分岐路と連結し前記第1の分岐路を開閉することを特徴とする。
【0011】
請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれかに記載の発明において、前記発声用装置は、前記導入管に設けられて発声用気体の流量を調節する流量調節部を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明によれば、声帯のやや下方近傍に気管切開口を設けた患者の発声を補助する発声補助装置であって、患者の吸気用気体を供給する気体供給部と、前記気管切開口に挿入される気管内チューブと、前記気体供給部と前記気管内チューブとを連通させる呼吸用導管と、前記呼吸用導管を大気に分岐連通させる開閉弁とを備える人工呼吸装置と、一端側を前記気管切開口から気管内に挿入され、発声用気体を導く発声用導管と、前記発声用導管の他端側に接続する管であって、前記発声用気体の供給源にその一端側を連通させる導入管と、前記導入管と前記発声用導管とを連通させるバルブであって、このバルブに連結する作動用管内の圧力に応じて作動する開閉バルブとを備える発声用装置とからなり、しかも前記作動用管が前記呼吸用導管の中途に連通し、患者の吸気時においては、前記呼吸用導管内が加圧されることにより前記作動用管を介して前記開閉バルブが閉塞し、患者の呼気時においては、前記呼吸用導管内の圧力が低下することにより前記作動用管を介して前記開閉バルブが開放して前記発生用気体を気管内に送気可能とする構成であるから、前記開閉バルブが前記呼吸用導管内の圧力に応じて作動することにより、患者の呼気時にのみ発声用気体を気管内に導くことが可能となり、気管切開を施されて人工呼吸装置を装着した患者が呼吸の度に煩雑な操作をする必要もなく、人の自然な発声に近い状態での会話を可能とする発声補助装置を提供できる。
【0013】
また、請求項2に係る発明によれば、声帯のやや下方近傍に気管切開口を設けた患者の発声を補助する発声補助装置であって、患者の吸気用気体を供給する気体供給部と、前記気管切開口に挿入される気管内チューブと、前記気体供給部と前記気管内チューブとを連通させる呼吸用導管と、前記呼吸用導管を大気に分岐連通させる開閉弁であって、この開閉弁に連結する作動用加減圧管内の圧力に応じて作動する圧力開閉弁と、前記作動用加減圧管内を加圧又は減圧させる加減圧部とを備える人工呼吸装置と、一端側を前記気管切開口から気管内に挿入され、発声用気体を導く発声用導管と、前記発声用導管の他端側に接続する管であって、前記発声用気体の供給源にその一端側を連通させる導入管と、前記導入管と前記発声用導管とを連通させるバルブであって、このバルブに連結する作動用管内の圧力に応じて作動する開閉バルブとを備える発声用装置とからなり、しかも前記作動用管が前記作動用加減圧管の中途に連通し、患者の吸気時においては、前記作動用加減圧管内が加圧されることにより前記作動用管を介して前記開閉バルブが閉塞し、患者の呼気時においては、前記作動用加減圧管内の圧力が低下することにより前記作動用管を介して前記開閉バルブが開放して前記発生用気体を気管内に送気可能とする構成であるから、前記開閉バルブが前記作動用加減圧管の圧力に応じて作動することにより、患者の呼気時にのみ発声用気体を気管内に導くことが可能となり、気管切開を施されて人工呼吸装置を装着した患者が呼吸の度に煩雑な操作をする必要もなく、人の自然な発声に近い状態での会話を可能とする発声補助装置を提供できるとともに、作動用管は、患者の体内に流入する吸気用気体の流路となる呼吸用導管との連通箇所がない状態で設けられており、発声補助装置の安全性が高まる。
【0014】
また、請求項3に係る発明によれば、請求項1又は2に記載の発明において、前記発声用装置は、前記導入管の他端側に連通接続されて前記導入管から流入する前記発声用気体の流路を第1の分岐路と第2の分岐路とに分岐させる分岐管と、前記第2の分岐路に設けられて前記分岐管を大気に連通させるリリーフバルブとを更に備え、前記開閉バルブは前記第1の分岐路と連結し前記第1の分岐路を開閉する構成であるから、例えば第1の分岐路を閉塞している間に分岐路内の圧力が上昇することがあっても、リリーフバルブが作動する圧力を所定の値に設定しておけば、分岐管内の圧力が前記所定の圧力に上昇した時にリリーフバルブが作動して分岐管内が大気に連通することにより分岐管内並びに当該分岐管に連通する導入管内の圧力が過剰に上昇することがなくなり、発声補助装置の安全性が高まる。
【0015】
また、請求項4に係る発明によれば、請求項1ないし3のいずれかに記載の発明において、前記発声用装置は、前記導入管に設けられて発声用気体の流量を調節する流量調節部を備える構成であるから、発声用気体の供給源から供給される発声用気体の流量を、患者の発声に最適な流量に調節可能な発声補助装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
本実施形態の発声補助装置は、声帯のやや下方近傍に設けられた気管切開口を設けた患者の発声を補助する発声補助装置であって、患者の気管内に所定量の吸気用気体を供給する一方、前記供給が完了して次の供給を開始する間に患者の肺から排出される気体を前記気管切開口を介して体外に排出可能とする人工呼吸装置と、前記人工呼吸装置に連動して作動する発声用装置とからなり、気管切開を施されて人工呼吸装置を装着した患者が呼吸の度に煩雑な操作をする必要もなく、人の自然な発声に近い状態での会話を可能とする発声補助装置である。
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態の例について図を用いて説明する。
まず、本発明の第1実施形態の発声補助装置1について、図1〜図3を用いて説明する。図1及び図2は、本実施形態の発声補助装置1を説明する概略系統図である。図3は、図1及び図2の一部を拡大した拡大説明図である。
図1に示すように、本実施形態の発声補助装置1は、人工呼吸装置100と発声用装置10とよりなる。人工呼吸装置100は、気管切開口を設けた患者の呼吸用の装置である。図1では、人工呼吸装置100が吸気用気体(空気又は酸素)の供給源としての例えば病院等に設置されて空気等を供給する供給管103に接続された様子を示している。吸気用気体の供給源は、これに限るものではなく、在宅介護等で用いられる公知のエアポンプ等であってもよい。図1は患者の呼気時に対応する図であり、図2は患者の吸気時に対応する図である。
【0018】
本実施形態の人工呼吸装置100は公知の人工呼吸装置を用いることができ、図1に示すように、気体供給部102と、気管内チューブ114と、呼吸用導管106と、加減圧部108と、作動用加減圧管124と、圧力開閉弁110と、気体供給部102や加減圧部108等を制御する例えばCPU(図示せず)、プログラムメモリ(図示せず)、ワーキングメモリ(図示せず)、タイマ(図示せず)等を備える。図1において、104は気体供給部102や加減圧部108等を収納する箱状の人工呼吸装置本体であり、操作用パネル(図示しない)等も備える。また、105は後述する呼吸用導管106内の圧力をモニタするための管である。
【0019】
まず、気体供給部102は、例えば公知のエアコンプレッサ(図示せず)等を備えており、上述するCPU等に制御されて患者の一回の呼吸に必要な所定の体積量の吸気用気体(空気又は酸素等)を所定の時間をかけて供給する。
【0020】
次に、気管内チューブ114は、図1及び図3に示すように、患者の声帯50のやや下方近傍に設けられた気管切開口116から気管内に挿入されて患者の気道を確保する。本実施形態の気管内チューブ114はカフ有りカニューレとよばれ、図3に示すように、チューブの途中にカフ120と呼ばれる風船が設けられている。そして、気管内チューブ114を気管内に挿入した後に、手動ポンプ122でカフ120を膨らませることにより、肺から排出される気体が口の方に逃げることを防止している。なお、図3において127は、呼吸用導管106と気管内チューブ114とを連通連結させる連結管である。
【0021】
前記呼吸用導管106は、気体供給部102と気管内チューブ114とを連通させる管であり、図1に示すように、気体供給部102から供給される吸気用気体の流路となっている。本実施形態において呼吸用導管106は、例えば柔軟性を有する2本のチューブ106a,106bを凸字状継手管113及び連結管27(図1参照)で連結して形成される。具体的には、凸字状継手管113は、両端部の開口端121,123及び上端部の開口端112を有する。また、連結管27も、凸字状継手管113と同様に、両端部の開口端37,31及び上端部の開口端33を有する。そして、凸字状継手管113と連結管27とは、開口端123と開口端37とが連通する態様で連結される。さらに、凸字状継手管113の開口端121に前記チューブ106aを連通連結させ、連結管27の開口端31に前記チューブ106bを連通連結させる。このようにして形成された呼吸用導管106は、図1及び図3に示すように、その一端を気管内チューブ114と連通し、他端側を気体供給部102に連通する。したがって、気体供給部102から供給される吸気用気体は、呼吸用導管106を介して気管内チューブ114へと導かれる。このように、呼吸用導管106は、気体供給部102と気管内チューブ114とを連通させるのである。
【0022】
次に、圧力開閉弁110は、上述した開口端112の開閉手段であり、例えば公知のエアバルブのように空気圧等の気体の圧力によって作動するバルブで形成される。
詳しくは、圧力開閉弁110は、図1に示すように、弁箱115と、弁箱115内で可動する弁体117とを備えている。そして、圧力開閉弁110は、その弁箱115が開口端112を収納する態様で凸字状継手管113と連結する。また、前記弁体117は、後述する作動用加減圧管124内の圧力によって可動し、開口端112を開閉する。なお、弁箱115には大気連通孔119(図1)が設けられており、弁体117が開口端112を開放すると、呼吸用導管106は大気に分岐連通する。
具体的には、弁体117は、後述する作動用加減圧管124内が加圧されると、開口端112を閉塞し(図2参照)、作動用加減圧管124内が減圧されると開口端112を開放(図2参照)する態様で可動する。
このように、圧力開閉弁110は、呼吸用導管106を大気に分岐連通させる開閉弁であって、圧力開閉弁110に連結する作動用加減圧管124内の圧力に応じて作動する構成となっているのである。
【0023】
次に、作動用加減圧管124は、例えば柔軟性を有する合成樹脂製のフレキシブルチューブ等で形成されており、図1に示すように、一端側を圧力開閉弁110に連結し、他端側を後述する加減圧部108に連通する。そして、上述したように、圧力開閉弁110は作動用加減圧管124内の圧力に応じて作動する。
【0024】
次に、加減圧部108は、加圧吸引が可能な例えば公知のエアコンプレッサを備えており、作動用加減圧管124内を加圧又は減圧する。より詳しくは、加減圧部108は、例えば上述するCPUからの指示により、前記吸気用気体の供給が開始されてから前記供給が完了するまで作動用加減圧管124内を加圧し、前記供給が完了して次の供給を開始する間は作動用加減圧管124内を減圧する。
【0025】
ここで、人工呼吸装置100の概略動作について、図1及び図2を用いて説明する。
まず、気体供給部102から吸気用気体の送気が開始されると、上述したように加減圧部108によって作動用加減圧管124内が加圧されるので、作動用加減圧管124に接続する圧力開閉弁110が作動して開口端112を閉塞する(図2参照)。そして、吸気用の気体は呼吸用導管106及び気管内チューブ114を介して患者の気管内118に供給される、すなわち患者の吸気時となる。
次に、吸気用気体の送気が完了すると、加減圧部108によって作動用加減圧管124内も減圧されるので、作動用加減圧管124に接続する圧力開閉弁110が作動して開口端112が開放される(図1参照)。開口端112が開放されると、患者の肺に充満した気体が呼吸用導管106を通って開口端112から排出される、すなわち患者の呼気時となる。
【0026】
本実施形態において、呼吸用導管106を大気に分岐連通させる開閉弁(以下「呼気用弁」という。)は、上述した圧力開閉弁110(エアバルブ)で構成されるが、前記呼気用弁はこれに限るものではなく、例えば公知の電磁弁のように圧力によらずに電気信号によって作動する弁で形成されていてもよい。例えば上述するCPUによって前記電磁弁が制御され、前記吸気用気体の供給が開始されてから前記供給が完了するまで前記開口端112を閉塞し、前記供給が完了して次の供給を開始する間は前記開口端112を開放する構成であってもよい。
【0027】
次に、本実施形態の発声用装置10は、図1に示すように、発声用導管24と、導入管12と、流量調節部13と、分岐管14と、リリーフバルブ16と、開閉バルブ18と、作動用管26とを備える。そして、発声用装置10は、後述するように人工呼吸装置100と連動して作動し、発声用気体を患者の気管内に送り込む流路を患者の呼気時にのみ形成する。ここで、発声用気体は患者の声帯を通過する際に声帯の振動と協働して音源となる気体であり、空気等を用いることができる。
【0028】
まず、発声用導管24は、例えば柔軟性を有する合成樹脂製のフレキシブルチューブで形成することができ、発声用気体を導く管である。そして、発声用導管24は、図1に示すように、その一端側を気管切開口116から気管内118に挿入される。
詳しくは、発声用導管24の一端側は、図3に示すように、気管切開口116近傍から気管内チューブ114内に挿入され、上述したカフ120のやや上方位置の気管内チューブ114に設けられた小孔36に発声用導管24の開放端を連結させている。したがって、発声用導管24によって導かれる発声用気体は、小孔36から気管内118に進入し、カフ120に堰きとめられて肺側には送気されず、声帯50に向けて送気される。
また、発声用導管24の他端側は、後述するように分岐管14及び開閉バルブ18を介して導入管12に連通するが、その説明は後で詳述する。
【0029】
次に、導入管12は、前述した発声用導管24と同様なフレキシブルチューブで形成することができ、図1に示すように、発声用気体の供給源30に一端側を連通させる。したがって、供給源30から導入管12内に発声用気体が流入する。一方、導入管12の他端側は、後述する分岐管14、開閉バルブ18及び接続管21を介して発生用導管24に接続される。
本実施形態の供給源30は、上述した供給管(103)で形成され、発声用気体が常時供給される。なお、前記発声用気体の供給源は空気等を供給可能なエアポンプであってもよい。在宅の患者であっても本実施形態の発声補助装置1を用いることができるからである。
また、導入管12は、上述のフレキシブルチューブのみならず例えば導入管12内の圧力がある程度上昇しても変形しない程度の剛性を有する金属製又は合成樹脂製のチューブで形成されてもよい。
【0030】
次に、流量調節部13は、気体の流量を調節可能な流量調節弁で形成され、発声用気体の流量を調節する。そして、流量調節部13は、図1に示すように、導入管12の途中に設けられる。なお、流量調節部13は、発声用気体の流量をモニタできる流量計を備えていてもよい。
【0031】
次に、本実施形態の分岐管14は、上述した導入管12の他端に連通接続されて導入管12から流入する発声用気体の流路を第1の分岐路22と第2の分岐路20との二方向に分岐させる流路分岐手段であり、図1に示すように、例えば略T字状の連結管等で形成することができる。より詳しくは、本実施形態の分岐管14は、図1に示すように、導入管12の他端との連通箇所28近傍を起点として一方の分岐路である第1の分岐路22と他方の分岐路である第2の分岐路20とを備える。したがって、導入管12から流入する発声用気体の流路を第1の分岐路22と第2の分岐路20とに分岐可能となっている。図1において34は第1の分岐路22の開口端であり、17は第2の分岐路20の開口端である。
分岐管14の形状は、前記略T字状に限るものではなく、少なくとも2方向に分岐するものであれば、例えば略Y字状、略H字状、略コ字状等の任意の形状とすることができる。
【0032】
次に、リリーフバルブ16は、例えば公知の安全弁等を用いることができ、図2に示すように、前記第2の分岐路20の開口端17に設けられる。そして、分岐管14内の圧力が所定の圧力を超えると作動して分岐管14内を大気に連通させる。ここでリリーフバルブ16が作動する前記所定の圧力は、例えば分岐管14内の圧力が上昇することにより後述する開閉バルブ18の弁体A32が押圧されて開かない程度の圧力に設定するとよい。そうすることにより、分岐管14内の圧力が上昇しても開閉バルブ18(後述)が開く前にリリーフバルブ16が作動して分岐管14内が大気に連通し、発声用気体を確実に大気に流出させることができる。
【0033】
次に、本実施形態の開閉バルブ18は、例えば空気圧によって弁体が可動する公知の医療用バルブ等で形成され、上述した第1の分岐路22と連結する。
詳しくは、開閉バルブ18は、図1に示すように、ケース19と、ケース19内で可動する弁体A32とを備え、そのケース19が開口端34を収納する態様で第1の分岐路22と連結する。
そして、開閉バルブ18は、後述する作動用管26に連結され、作動用管26内の圧力によって弁体A32が作動し開口端34を開閉する。すなわち、開閉バルブ18は、当該開閉バルブ18に連結する作動用管26の圧力に応じて作動する。具体的には、開閉バルブ18は、作動用管26内の圧力が上昇すると開口端34を閉塞し、作動用管26内の圧力が下降すると開口端34を開放するように作動する。このように、開閉バルブ18は第1の分岐路22を開閉する。
【0034】
さらに、開閉バルブ18のケース19は、図1に示すように、ケース外に連通する連通孔25を備えており、その連通孔25が接続管21を介して上述した発声用導管24の他端側に連通接続される。したがって、弁体A32が開口端34を開放することにより、導入管12と発声用導管24とが連通する。このように、開閉バルブ18は第1の分岐路22を開閉することにより、導入管12と発声用導管24とを連通させるバルブとして機能するのである。
【0035】
次に、作動用管26は、例えば合成樹脂製のフレキシブルチューブ等で形成することができ、開閉バルブ18を作動させるための管である。作動用管26は、図1に示すように、その一端を上述した開閉バルブ18に連結され、その他端側は、凸字状継手管113の下手側に設けられた連結管27の開口端33に連通連結される。このように、作動用管26が連結管27を介して呼吸用導管106の中途に連通するのである。したがって、作動用管26内の圧力は、呼吸用導管106内の圧力に応じて上昇又は下降する。なお、作動用管26と呼吸用導管106との連通は、本実施形態の連結管27を介する構成に限るものではなく、例えば作動用管26の他端を呼吸用導管106の途中に溶着して連通させてもよい。
【0036】
なお、本実施形態の発声用装置10は、上述したように分岐管14及びリリーフバルブ16を備えるが、これらを備えていない構成であってもよい。
具体的には、開閉バルブ(18)を例えば空気圧等によって作動するストップバルブのように、気体流路を開閉可能な開閉バルブで構成し、当該開閉バルブを介して導入管12と発声用導管24とを連通連結する。そして、上述したと同様に前記開閉バルブに作動用管26を連結するとともに作動用管26を呼吸用導管106に連通させ、呼吸用導管106内の圧力に応じて前記開閉バルブを作動させる構成とすることができる。
【0037】
次に、本実施形態の発声補助装置1の動作について、図1〜図3を用いて説明する。
まず、気体供給部102から吸気用気体の送気が開始されると、加減圧部108によって作動用加減圧管124内が加圧されるので、作動用加減圧管124に接続する圧力開閉弁110が作動して開口端112を閉塞する(図2参照)。
【0038】
次に、吸気用の気体は呼吸用導管106及び気管内チューブ114を介して患者の気管内に送気されるが、この気管内に進入した吸気用気体は上述したカフ120に堰きとめられて口の方に逃げないので患者の肺内に充満して呼吸用導管106内も加圧される。呼吸用導管106内が加圧されると、呼吸用導管106に連通する作動用管26内の圧力も上昇して開閉バルブ18が第1の分岐路22を閉塞する。第1の分岐路22が閉塞されると、導入管12から分岐管14に進入した発声用気体によって分岐管14内の圧力が上昇し、前記所定の圧力を超えた時点でリリーフバルブ16が作動して発声用気体が大気に放出される。そして、吸気用気体の送気が完了するまで開閉バルブ18が第1の分岐路22を閉塞する。したがって、発声用気体は患者の気管内118に流れ込まない。
【0039】
次に、吸気用気体の送気が完了すると、加減圧部108によって作動用加減圧管124内が減圧されるので、作動用加減圧管124に接続する圧力開閉弁110が作動して開口端112が開放される(図1参照)。開口端112が開放すると、患者の肺に充満した気体が呼吸用導管106を通って開口端112から排出される、すなわち患者の呼気時となる。そうすると、呼吸用導管106内も略大気圧まで減圧され、呼吸用導管106に連通する作動用管26内の圧力も下降する。作動用管26内の圧力が下降すると、作動用管26に接続する開閉バルブ18が第1の分岐路22を開放し、導入管12から分岐管14に進入した発声用気体は第1の分岐路22側に流れ、ケース19及び接続管21を通って発声用導管24へと導かれる。さらに、発声用気体は、発声用導管24を通って気管内に進入し声帯50に向けて送気される。そして、次の吸気用気体の送気が開始されるまでこの状態が維持される。
このように、本実施形態の発声補助装置1は、患者の吸気時においては、呼吸用導管106内が加圧されることにより作動用管26を介して開閉バルブ18が閉塞し、患者の呼気時においては、呼吸用導管106内が大気に連通して管内圧力が低下することにより作動用管26を介して開閉バルブ18が開放して発生用気体を患者の気管内に送気可能とするのである。
したがって、患者は呼吸の度に煩雑な操作をする必要もなく呼気時に発声することができ、人の自然な発声に近い状態での会話を可能とする。
【0040】
次に、本発明の第2実施形態について、図4及び図5を用いて説明する。
第2実施形態と第1実施形態との相違点は、作動用管26を上述した作動用加減圧管124に連通連結した点にある。したがって、開閉バルブ18は、作動用加減圧管124の圧力に応じて作動する。
図4及び図5は、第2実施形態に係る発声補助装置2を説明する概略系統図である。詳しくは、図4は患者の吸気時に対応する図であり、図5は患者の吸気時に対応する図である。
【0041】
本実施形態において作動用加減圧管124は、図4に示すように、2本のチューブ124a,124bを連結管27を介して連通連結されて形成される。そして、作動用管26は、図4に示すように、その一端を上述した開閉バルブ18に連結され、その他端側を連結管27を介して作動用加減圧管124と連結する。このように、作動用管26は連結管27を介して作動用加減圧管124の中途に連通するのである。したがって、作動用管26内の圧力は、作動用加減圧管124内の圧力に応じて上昇又は下降する。
【0042】
次に、第2実施形態に係る発声補助装置2の動作について、図3〜図5を用いて説明する。
まず、気体供給部102から吸気用の気体の送気が開始されると、加減圧部108によって作動用加減圧管124内が加圧されるので、作動用加減圧管124に接続する圧力開閉弁110が作動して開口端112を閉塞する(図5参照)。そして、吸気用の気体は呼吸用導管106及び気管内チューブ114を介して患者の気管内に送気される。この時、作動用加減圧管124に連通する作動用管26内の圧力も上昇する。そうすると、作動用管26に接続する開閉バルブ18が第1の分岐路22を閉塞するので、導入管12から分岐管14に進入した発声用気体によって分岐管14内の圧力が高まり、所定の圧力を超えるとリリーフバルブ16が作動して発声用気体が大気に放出される(図5参照)。そして、吸気用気体の送気が完了するまで開閉バルブ18が第1の分岐路22を閉塞する。したがって、発声用気体は患者の気管内118に流れ込まない。
【0043】
次に、吸気用気体の送気が完了すると、加減圧部108によって作動用加減圧管124内が減圧されるので、作動用加減圧管124に接続する圧力開閉弁110が作動して開口端112が開放される(図4参照)。開口端112が開放すると、患者の肺に充満した気体が呼吸用導管106を通って開口端112から排出される、すなわち患者の呼気時となる。この時、作動用加減圧管124に連通する作動用管26内の圧力も下降するので、作動用管26に接続する開閉バルブ18が第1の分岐路22を開放し、導入管12から分岐管14に進入した発声用気体は第1の分岐路22側に流れ、ケース19及び接続管21を通って発声用導管24へと導かれる(図4参照)。さらに、発声用気体は、発声用導管24を通って気管内に進入し声帯50に向けて送気される。そして、次の吸気用気体の送気が開始されるまでこの状態が維持される。
このように、本実施形態の発声補助装置2は、患者の吸気時においては、作動用加減圧管124内が加圧されることにより作動用管26を介して開閉バルブ18が閉塞し、患者の呼気時においては、作動用加減圧管124内が減圧されて管内圧力が低下することにより作動用管26を介して開閉バルブ18が開放して発生用気体を患者の気管内に送気可能とするのである。
したがって、患者は呼吸の度に煩雑な操作をする必要もなく呼気時に発声することができ、人の自然な発声に近い状態での会話を可能とする。
【0044】
本実施形態によれば、作動用管26は作動用加減圧管124に連通していることにより、上述した開閉バルブ18が圧力開閉弁110と略同時に作動するので、発声用装置10は、発声用気体を患者の気管内に送り込む流路をより迅速に形成可能となり、患者の呼気時の会話をより円滑化する。
また、本実施形態によれば、作動用管26は、患者の体内に流入する吸気用気体の流路となる呼吸用導管106との連通箇所がない状態で設けられており、発声補助装置2の安全性が高まる。
【0045】
これまで述べてきたように、本実施形態の発声補助装置1,2によれば、気管切開を施されて人工呼吸装置を装着した患者が呼吸の度に煩雑な操作をする必要もなく、人の自然な発声に近い状態での会話を可能とする発声補助装置を提供できる。
【0046】
以上、本発明の実施形態のうちのいくつかを図面に基づいて詳細に説明したが、これらはあくまでも例示であり、当業者の知識に基づいて種々の変形、改良を施した他の形態で本発明を実施することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の第1実施形態に係る発声補助装置を説明する概略系統図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る発声補助装置を説明する概略系統図である。
【図3】図1及び図2の一部を拡大した拡大説明図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係る発声補助装置を説明する概略系統図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係る発声補助装置を説明する概略系統図である。
【符号の説明】
【0048】
1、2 発声補助装置
10 発声用装置
12 導入管
13 流量調節部
14 分岐管
16 リリーフバルブ
18 開閉バルブ
20 第2の分岐路
22 第1の分岐路
24 発声用導管
26 作動用管
30 供給源
50 声帯
100 人工呼吸装置
102 気体供給部
106 呼吸用導管
108 加減圧部
110 圧力開閉弁
114 気管内チューブ
116 気管切開口
124 作動用加減圧管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
声帯のやや下方近傍に気管切開口を設けた患者の発声を補助する発声補助装置であって、
患者の吸気用気体を供給する気体供給部と、
前記気管切開口に挿入される気管内チューブと、
前記気体供給部と前記気管内チューブとを連通させる呼吸用導管と、
前記呼吸用導管を大気に分岐連通させる開閉弁とを備える人工呼吸装置と、
一端側を前記気管切開口から気管内に挿入され、発声用気体を導く発声用導管と、
前記発声用導管の他端側に接続する管であって、前記発声用気体の供給源にその一端側を連通させる導入管と、
前記導入管と前記発声用導管とを連通させるバルブであって、このバルブに連結する作動用管内の圧力に応じて作動する開閉バルブとを備える発声用装置とからなり、
しかも前記作動用管が前記呼吸用導管の中途に連通し、
患者の吸気時においては、前記呼吸用導管内が加圧されることにより前記作動用管を介して前記開閉バルブが閉塞し、
患者の呼気時においては、前記呼吸用導管内の圧力が低下することにより前記作動用管を介して前記開閉バルブが開放して前記発生用気体を気管内に送気可能とすることを特徴とする発声補助装置。
【請求項2】
声帯のやや下方近傍に気管切開口を設けた患者の発声を補助する発声補助装置であって、
患者の吸気用気体を供給する気体供給部と、
前記気管切開口に挿入される気管内チューブと、
前記気体供給部と前記気管内チューブとを連通させる呼吸用導管と、
前記呼吸用導管を大気に分岐連通させる開閉弁であって、この開閉弁に連結する作動用加減圧管内の圧力に応じて作動する圧力開閉弁と、
前記作動用加減圧管内を加圧又は減圧させる加減圧部とを備える人工呼吸装置と、
一端側を前記気管切開口から気管内に挿入され、発声用気体を導く発声用導管と、
前記発声用導管の他端側に接続する管であって、前記発声用気体の供給源にその一端側を連通させる導入管と、
前記導入管と前記発声用導管とを連通させるバルブであって、このバルブに連結する作動用管内の圧力に応じて作動する開閉バルブとを備える発声用装置とからなり、
しかも前記作動用管が前記作動用加減圧管の中途に連通し、
患者の吸気時においては、前記作動用加減圧管内が加圧されることにより前記作動用管を介して前記開閉バルブが閉塞し、
患者の呼気時においては、前記作動用加減圧管内の圧力が低下することにより前記作動用管を介して前記開閉バルブが開放して前記発生用気体を気管内に送気可能とすることを特徴とする発声補助装置。
【請求項3】
前記発声用装置は、前記導入管の他端側に連通接続されて前記導入管から流入する前記発声用気体の流路を第1の分岐路と第2の分岐路とに分岐させる分岐管と、前記第2の分岐路に設けられて前記分岐管を大気に連通させるリリーフバルブとを更に備え、前記開閉バルブは前記第1の分岐路と連結し前記第1の分岐路を開閉することを特徴とする請求項1又は2に記載の発声補助装置。
【請求項4】
前記発声用装置は、前記導入管に設けられて発声用気体の流量を調節する流量調節部を備えることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の発声補助装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−153775(P2009−153775A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−336313(P2007−336313)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【特許番号】特許第4116069号(P4116069)
【特許公報発行日】平成20年7月9日(2008.7.9)
【出願人】(501174974)
【Fターム(参考)】