説明

発泡ゴム製軌道パッドの製造方法

【課題】全体として均一な厚みを有し、表面に凹凸やキズの少ない、軌道パッドに適した物性を有する平板状のゴム材の製造を可能とする方法
【解決手段】発泡剤及び加硫剤を含むゴムコンパウンドを用意し;該ゴムパウンドを、シート状に圧延し、矩形状のゴム生地とし;これを複数枚重ねて圧着し板状のゴム生地とし、これを第1及び第2金型にて順次加熱し、発泡及び加硫を行う。第1金型から取り出されて第2金型に入れられる板状のゴム材は、その容積が第2金型の成型空所の容積の90%以上とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道のまくらぎとレールの間、まくらぎ上に固定されるタイプレートとレールとの間、又は、タイプレートやまくらぎの下などに設定される発泡ゴム製軌道パッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
軌道パッドは主に緩衝を目的として使用されるゴム製の矩形状又は平板状のパッドである。近年鉄道の高速化に伴い大きな振動及び騒音が発生しやすくなってきており、これを解消するために軌道パッドのばね定数をなるべく小さくすることが必要とされている。
【0003】
従来は、天然ゴム又は合成ゴムのパッドに溝等の凹みをつけ、この凹みの大きさ及び数を調整することによりばね定数を調整してきたが、この凹みのために機械的強度、耐久性が低下するために、バネ定数を低くすることには限界があるとされてきた。
【0004】
これに対して、発泡ゴムを使用することによりバネ定数を低くすることが提案なされている(例えば、特許文献1参照)。この発泡ゴムを用いた軌道パッドは、レール継目に用いられるもので、レール継目に敷かれるパッドを車両入り側と車両出側とに分け、車両出側の軌道パッドに発泡ゴムを用いてそのばね定数を車両入り側の軌道パッドより低く設定することにより一定の低振動/低騒音効果を奏し、かつバラストの沈下量を低減する効果があるとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−247104号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、発泡ゴムによる軌道パッドの製造には、次のような問題があることが分かった。(1)金型の平板状の成形空所に発泡剤を混ぜたゴム材を入れて加熱加圧して軌道パッドを作ろうとすると、成形空所の縁の部分では、金型の上下面と縁側面の三方から加熱されるのに対して、成形空所の縁から離れた部分では金型の上下面からの加熱だけとなるので、この縁から離れた部分よりも縁に近い部分では、発泡よりも加硫が速く進みやすく、このために成形された製品の縁の部分の肉厚が薄くなるために、金型から取り出したゴム材は、その肉厚が薄くなった周縁部分を切り落とさねばならず材料のロスが非常に大きくなりコスト高となる。(2)また、上述のようにして軌道パッドを製造すると、表面の凸凹、キズ等の外観不良が生じやすく、また、材料への気泡の混入による製品の膨らみなどが生じやすい。(3)発泡成形終了後に、製品の縮み、変形を防止するために恒温槽に入れてアニーリングを行うがアニーリング後も数ヶ月の間縮み続けて製品の寸法が小さくなる場合がある。
【0007】
本発明は、このような問題を解消する発泡ゴム製軌道パッドの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、
発泡剤及び加硫剤を含むゴムコンパウンドを用意するステップと;
該ゴムコンパウンドを圧延してシート状のゴム生地とするステップと、
シート状のゴム生地を複数枚の矩形状のゴム生地に切り出すステップと、
矩形状ゴム生地を複数枚重ねて圧着して平板状のゴム生地とするステップと、
平板状のゴム生地を、第1金型の平板状の第1成形空所に加圧充填した状態に設定するステップと;
第1金型を加熱してゴム生地での発泡及び加硫を行うステップと、
第1金型からゴム生地を取り出すステップと、
第1金型から取り出したゴム生地を第2金型の成形空所に設定して加熱して発泡及び加硫を進めるステップと、
第2金型からゴム生地を取り出すステップと
を有する発泡ゴム製軌道パッドの製造方法を提供する。
【0009】
この方法では、金型に入れるゴム生地を上述のように圧延によりシート状にしたものを、矩形状ゴム生地とし、これを数枚重ねて平板状にするようにしているために、ゴム生地へのエアの混入や、ゴム生地表面の凹凸やキズを最小限にすることができる。このため、第2金型から取り出されるゴム板は、表面の凹凸やキズが少なく、また、内部に含まれるエアも最小限にすることができ、エアによる膨らみなども無いものとすることができ、従って、このゴム板を使った良質の発泡ゴム製軌道パッドの製造を可能とする。
【0010】
更に、本発明に係る製造方法では、第2金型の成形空所に設定されるゴム生地の容量が、該第2金型の成形空所の容量の90%以上となるようにすることを特徴とする。このようにすることにより、第2金型におけるゴム生地の膨張を少なくすることができる。本発明に係る製造方法で作られた軌道パッドは、製品化後の縮みが極めて少ないことが確認されているが、これは上記特徴によるものと考えられる。
【0011】
また、本発明では、第1金型を加熱する前記ステップにおける加熱温度を、ゴム生地の前記発泡剤の分解による発泡を進め且つ同ゴム生地の前記加硫剤による加硫を抑制する温度とすることができる。すなわち、第1金型においては、加硫よりも、発泡を促進することにより、ゴム生地全体が均一に発泡するようにするものであり、これにより、前述した、ゴム生地周縁部分での肉厚が他の部分に較べて薄くなることを防ぐことが可能となる。
【0012】
また、本発明では、上記の如き第1金型の加熱による処理に続き、第2金型の加熱により、ゴム生地の発泡及び加硫が略完了するようにすることができる。このようにすることにより、ゴム生地全体が均一に発泡した状態で加硫が行われ、全体が均質な発泡ゴムとすることが可能となる。
【0013】
具体的には、第2金型の加熱温度を、第1金型の加熱温度よりも高くする。
【0014】
本発明では更に、第2金型から取り出した平板状のゴム材を一定温度でアニーリングするステップを更に有するようにすることができる。このようにすることにより、ゴム板内で略完了していた発泡及び加硫を最終的に完了させ、当該ゴム材の状態を安定したものとすることができる。
【0015】
本発明の別の態様では、上述の板状のゴム生地を作るのに、次のようなステップを更に有するようにすることができる。すなわち、
天然ゴム又は合成ゴムを主成分とし、ナイロンキャンバス、硫黄、カーボン、加硫剤等を含み、加硫完了時に超硬質ゴムとなる超硬質ゴムコンパウンドを用意するステップと、
該超硬質ゴムコンパウンドを圧延してシート状の超硬質ゴム生地とするステップと、
該シート状の超硬質ゴム生地を、前記矩形状のゴム生地と同じ縦及び横のサイズを有する矩形状の超硬質ゴム生地に切り出すステップと、
該矩形状の超硬質ゴム生地を、前記矩形状に切り出された複数のゴム生地と共に重ねて圧着して平板状のゴム生地とし、該超硬質ゴム生地が当該平板状のゴム生地の最上部層となるようにするステップと、
を有する。この該超硬質ゴム生地を有する該平板状のゴム生地を前記第1金型及び前記第2金型にて加熱処理するようにして所要の軌道パッドの製造を行う。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係る方法によって、高さ×縦×横が12×300×380mmの平板状発泡ゴム材を製造する具体例について説明する。
【0017】
先ず、EPDM系ポリマーを主成分とし、カーボン、加硫剤、加硫促進剤、発泡剤、発泡促進剤、その他を適度に添加したしゴムコンパウンドを用意する。
【0018】
このゴムコンパウンドは、先ず、回転する2本のロールの一方に巻きつかせ、1mm〜3mmの厚さのシート状になるまで圧延して、表面のキズや混入されていたエアを最小限する。その後、ロールから外したシート状の生地を矩形状に切り出し、矩形状にされた生地を4−6枚重ね合わせて一対の圧着ローラ間を通すことにより圧着し、第1金型の成形空所より僅かに大きい容量の平板状の生地を作る。このような作業により、エア混入、表面のキズ、シワを最小限にした生地を用意することができる。
【0019】
金型は、それぞれ、上型と下型からなる第1段金型及び第2段金型を用意する。第1段金型及び第2段金型は、それぞれ、10×265×335mm及び12.5×300×380mmの平板状の成形空所を有するものとする。
【0020】
上記のようにして用意した平板状のゴム生地を第1金型に、その成形空所を充填するように設定して加圧し、約120〜180℃(本具体例では160℃)において約5〜20分(本具体例では約10分)加熱する。この加熱温度及び時間は、発泡剤による発泡を促進するとともに、加硫は十分には進まないようにするものである。
【0021】
第1金型から取り出したゴム生地は、これを第2金型の成形空所内に設定する。ここで重要なことは、第1金型から取り出したゴム生地が、第1金型による加圧状態から解放されることにより膨張し、第2金型内に設定するときの該ゴム生地の容量が、第2金型の成型空所の容量の少なくとも90%以上となるようにすることである。上述した第1金型の成型空所の容積、加熱温度及び時間は、このような点を考慮して決定されるものである。
【0022】
第2金型に入れられたゴム生地は、約150℃〜230℃(本具体例では180℃)で約5〜20分(本具体例では約10分)加熱する。この加熱温度及び時間は、発泡を実質的に完了させると共に、加硫をも実質的に完了させるためのものである。
【0023】
第2金型から取り出した材料は、約70℃に保たれた恒温室にて約24時間放置し、アニーリングを行う。アニーリングは、発泡成形終了後に、製品の縮み、変形を防止するために行う。アニーリングが終了して室温まで冷却した時点で厚みがほぼ12.0mm〜12.6mmの厚さとなり、その後は製品の縮みが殆ど無いことが確認された。
【0024】
以上のようにして製造した平板状のゴム板は、その全体にわたり発泡が十分に行われているために、前述した周縁部分での厚さの減少は殆ど無く、また、表面の凹凸やキズ、膨らみなどが殆ど無い。従って、これを最終製品としての軌道パッドとすることも、またこの矩形状のゴム板から所要寸法の軌道パッドを切り出すこともできる。たとえ該平板状のゴム板の周縁部分の厚さが減少したとしても僅かであり、そのような減少が生じた場合には、必要に応じてその厚さが減少した僅かな部分を切り落とし、その後、必要サイズの軌道パッドを切り出せばよい。
【0025】
本発明に係る製造方法の第2の実施形態としては、本願出願人の特許出願(特願2005‐81389号:特開2006−265841号)で開示した超硬質ゴムを表層材として有する軌道パッドに応用したものがある。すなわち、この出願に係る軌道パッドは、加硫完了時に硬度がA98Hs以上とされた超硬質ゴムの層を当該軌道パッドの表層材とし、従来、耐摩耗性等を向上させるために鋼板製プレートを表面に取り付けていた鋼板製プレート付き軌道パッドに代わるものとして開発されたものであり、鋼板製プレートが軌道パッドから剥がれて飛散するなどの事故を防止することができるとして評価されているものである。本発明に係る第2の実施形態では、この超硬質ゴムの層を上述した発泡ゴム製軌道パッドの表層材として一体成形するものである。上述の第1の実施形態においては、発泡剤を含むゴムコンパウンドをシート状とし、これから切り出した矩形状ゴム生地を重ねて圧着し板状のゴム生地とし、これを第1及び第2金型にて加熱処理するようにしたが、第2実施形態においては、この板状のゴム生地を加圧及び加熱処理をする。
【0026】
具体的には、天然ゴム又は合成ゴムを主成分とし、ナイロンキャンバス、硫黄、カーボン、加硫剤等を含み、加硫完了時に超硬質ゴムとなる超硬質ゴムコンパウンドを用意するステップと、該超硬質ゴムコンパウンドを圧延してシート状の超硬質ゴム生地とするステップと、該シート状の超硬質ゴム生地を、前記矩形状のゴム生地と同じ縦及び横のサイズを有する矩形状の超硬質ゴム生地に切り出すステップと、該矩形状の超硬質ゴム生地を、前記矩形状に切り出された複数のゴム生地と共に重ねて圧着して平板状のゴム生地とし、該超硬質ゴム生地が当該平板状のゴム生地の最上部層となるようにするステップと、を有し、該超硬質ゴム生地を有する該平板状のゴム生地を前記第1金型及び前記第2金型にて加圧及び加熱処理をするようにする。超硬質ゴムの矩形状生地は一枚若しくは数枚とすることができる。超硬質ゴムとしては、具体的には、(木製まくらぎへのレールの食込み防止パッド用に規定されていた)JIS−E1112による第1種軌道パッド(硬質ゴム)よりも高度が高い(好ましくはA98Hs以上)ものとされ、例えば新日本エスライト工業株式会社で開発され、同社製品の鉄道用調整パッキン(レール面のレベル調整のためにレールとまくらぎとの間、レールとタイプレートとの間に挿入設定されるパッキン)の材料などとして使用されている商品名EB材(超硬質)ゴム(A100Hs)を使用することが好ましい。
【0027】
このようにして用意された超硬質ゴム生地を最上層に備える板状のゴム生地を第1及び第2金型により、上述と同様にして加圧及び加熱処理することにより、超硬質ゴムの最上層を備えた発泡ゴム製軌道パッドを製造することができる。この超硬質ゴム付きの発泡ゴム製軌道パッドは、発泡ゴムにより、従来の軌道パッドでバネ定数を小さくするために必要とされていた凹部を設けずに、所要の小さなバネ定数で柔軟な軌道パッドとすることができるとともに、その表面に超硬質ゴムからなる低摩擦係数で高い機械的強度を備え、従来の鋼板に代わる層を有する軌道パッドとすることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発泡剤及び加硫剤を含むゴムコンパウンドを用意するステップと;
該ゴムコンパウンドを圧延してシート状のゴム生地とするステップと、
シート状のゴム生地を複数枚の矩形状のゴム生地に切り出すステップと、
矩形状ゴム生地を複数枚重ねて圧着して平板状のゴム生地とするステップと、
平板状のゴム生地を、第1金型の平板状の第1成形空所に加圧充填した状態に設定するステップと;
第1金型を加熱してゴム生地での発泡及び加硫を行うステップと、
第1金型からゴム生地を取り出すステップと、
第1金型から取り出したゴム生地を第2金型の成形空所に設定して加熱して発泡及び加硫を進めるステップと、
第2金型からゴム生地を取り出すステップと
を有する発泡ゴム製軌道パッドの製造方法。
【請求項2】
第2金型の成形空所に設定されるゴム生地の容量が、該第2金型の成形空所の容量の90%以上となるようにする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
第1金型を加熱する前記ステップにおける加熱温度を、ゴム生地の前記発泡剤の分解による発泡を進め且つ同ゴム生地の前記加硫剤による加硫を抑制する温度とする請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
第2金型の加熱により、ゴム生地の発泡及び加硫が略完了するようにする請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
第2金型の加熱温度を、第1金型の加熱温度よりも高くする請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
第2金型から取り出したゴム材を一定温度でアニーリングするステップを更に有する請求項1乃至5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
天然ゴム又は合成ゴムを主成分とし、カーボンを含み、加硫完了時に超硬質ゴムとなる超硬質ゴムコンパウンドを用意するステップと、
該超硬質ゴムコンパウンドを圧延してシート状の超硬質ゴム生地とするステップと、
該シート状の超硬質ゴム生地を、前記矩形状のゴム生地と同じ縦及び横のサイズを有する矩形状の超硬質ゴム生地に切り出すステップと、
該矩形状の超硬質ゴム生地を、前記矩形状に切り出された複数のゴム生地と共に重ねて圧着して平板状のゴム生地とし、該超硬質ゴム生地が当該平板状のゴム生地の最上部層となるようにするステップと、
を有し、該超硬質ゴム生地を有する該平板状のゴム生地を前記第1金型及び前記第2金型にて加熱処理するようにした請求項1乃至6のいずれかに記載の製造方法。



【公開番号】特開2013−2256(P2013−2256A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−138029(P2011−138029)
【出願日】平成23年6月22日(2011.6.22)
【出願人】(303059071)独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構 (64)
【出願人】(597034059)エスライト技研株式会社 (5)
【Fターム(参考)】