説明

発泡シート及びその製造方法

【課題】高密度ポリエチレンを製造する際に使用する触媒を選択することで、当該高密度ポリエチレン自身の特性を改良し、発泡に適する温度範囲が広く、発泡状態のコントロールが容易であると共に、ブリードアウトやべたつきが少なく且つ優れた低臭性を有し、耐熱性、耐衝撃性を向上することができる発泡シート及びその製造方法を提供する。
【解決手段】メタロセン触媒を使用して重合した高密度ポリエチレンを含有してなる発泡シートである。メタロセン触媒を使用してエチレンを重合した高密度ポリエチレンを押出機に供給し、当該高密度ポリエチレンに揮発性ガスを圧入し、溶融混練する工程と、前記溶融混練された混練物を前記押出機から放出する工程と、前記放出された混練物を延伸する工程を備えた発泡シートの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、高密度ポリエチレンからなる様々な発泡シートやその製造方法が紹介されている。例えば、密度0.945g/cm3以上の高密度ポリエチレン95〜50重量%と、ポリブテン−1を5〜50重量%との混合組成物100重量部に対して核形成物質0.01〜5重量部を添加した混合物を押出機内で溶融可塑化し、揮発性発泡剤5〜50重量部と均一に混合した後、冷却しつつ低圧帯へ押出すポリエチレン系発泡体の製造方法が紹介されている。(例えば、特許文献1参照)
【0003】
また、密度0.935g/cm3以上、融点117℃以上の高密度ポリエチレンから形成された径0.05〜3mmの微細気泡の集合体からなり、見かけ比重0.012〜0.10、引張比強度150Kg/cm3以上、圧縮回復率80%以上、加熱収縮率50%以下である多泡質材料が紹介されている。(例えば、特許文献2参照)
【0004】
そしてまた、密度0.935g/cm3以上、融点117℃以上の高密度ポリエチレンから形成された径0.05〜3mmの微細気泡の集合体からなり、見かけ比重0.0067以上、0.012未満、引張比強度150Kg/cm3以上、圧縮回復率80%以上、加熱収縮率50%以下である多泡質材料が紹介されている。(例えば、特許文献3参照)
【0005】
さらにまた、1−ブテン重合体80〜99重量%、エチレン重合体20〜1重量%、及び発泡剤から構成される無架橋発泡体用組成物が紹介されている。(例えば、特許文献4参照)
【0006】
また、高密度ポリエチレン20〜95重量%と、ポリブテン−1を5〜80重量%と、前記高密度ポリエチレンとポリブテン−1との合計100重量部に対して3〜30重量部の発泡剤とを含有する組成物からなる高密度ポリエチレン架橋発泡体も紹介されている。(例えば、特許文献5参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭54−152068号公報
【特許文献2】特開昭58−208328号公報
【特許文献3】特開昭59−168038号公報
【特許文献4】特開昭63−213531号公報
【特許文献5】特開平3−143932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1〜5に開示されている従来技術は、高密度ポリエチレンを製造する際に使用する触媒を選択することで、当該高密度ポリエチレン自身の特性を改良し、高密度ポリエチレン発泡体の発泡状態を容易にコントロールできるようにしたり、ブリードアウトやべたつきが少なく、低臭性、耐熱性、耐衝撃性を向上した発泡体を製造することについては何ら検討がなされていない。
【0009】
また、従来の高密度ポリエチレン発泡体は、通常、チーグラー触媒を使用して重合した高密度ポリエチレンを発泡させることで製造されているが、この従来の高密度ポリエチレンは、発泡に適した温度範囲が狭く、発泡状態のコントロールが困難である。また、チーグラー触媒を使用して重合した高密度ポリエチレンは、分子量分布が広く、低分子量が多いため、その成分がブリードアウトし易く、改良が望まれている。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、高密度ポリエチレンを製造する際に使用する触媒を選択することで、当該高密度ポリエチレン自身の特性を改良し、発泡に適する温度範囲が広く、発泡状態のコントロールが容易であると共に、ブリードアウトやべたつきが少なく且つ優れた低臭性を有し、耐熱性、耐衝撃性を向上することができる発泡シート及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的を達成するため本発明は、メタロセン触媒を使用して重合した高密度ポリエチレンを含有してなる発泡シートを提供するものである。この構成を備えた発泡シートは、主鎖の均一性及び側鎖の分岐度を調整し易いため、発泡に適する温度範囲が広く、発泡状態を容易にコントロールすることができる。また、メタロセン触媒を使用して重合した高密度ポリエチレンは、例えば、従来のチーグラー触媒を使用して重合した高密度ポリエチレンに比べ、分子量分布が狭く、低分子量成分が少ないため、低分子量成分がブリードアウトすることを抑制することができる。また、べたつきが少なく、ブロッキングし難いと共に、ポリエチレン臭が少ない等、低臭性に優れた発泡シートを提供することができる。また、メタロセン触媒を使用して重合した高密度ポリエチレンは、ラメラが小さくタイ分子が大きいので、発泡シートの耐熱性、耐衝撃性を向上することができる。
【0012】
また、本発明に係る発泡シートは、前記メタロセン触媒を使用して重合した高密度ポリエチレンのメルトテンションが、1〜15gであることが好ましい。メルトテンションが、1g未満であると、気泡サイズが大きくなると共に、良好な発泡を行うことが困難になる虞がある。一方、メルトテンションが、15gを超えると、押出機に負荷がかかり易くなる等、製造が困難になる虞がある。
【0013】
また、本発明に係る発泡シートは、前記メタロセン触媒を使用して重合した高密度ポリエチレンのMFRが、1.5〜10g/10minであることが好ましい。MFRが、1.5g/10min未満であると、発泡シートの製造時に圧力が高くなり、押出機に負荷がかかり易くなる等、製造が困難になる虞がある。一方、MFRが、10g/10minを超えると、発泡シートの強度が低くなる等、物性が低下する虞がある。
【0014】
さらにまた、本発明に係る発泡シートは、発泡倍率が、2〜50倍であることが好ましい。発泡倍率が、2倍未満であると、発泡シートが硬くなり過ぎて、用途にもよるが、緩衝性が低下する虞がある。一方、発泡倍率が、50倍を超えると、発泡シートが柔らかくなり過ぎて、用途にもよるが、破れ易くなる等、物性が低下する虞がある。
【0015】
そしてまた、本発明に係る発泡シートは、低密度ポリエチレンと、前記メタロセン触媒を使用して重合した高密度ポリエチレンとを溶融混練した混合物を含有してもよい。このように前記両ポリエチレンを溶融混練した混合物を含有することで、発泡シートの成形性が改善される。なお、低密度ポリエチレンを混合する場合は、発泡シートの物性を良好に維持するため、低密度ポリエチレンの混合率を40%以下にすることが好ましい。
【0016】
そしてまた、本発明に係る発泡シートは、密度が、0.935〜0.96g/cm3である。密度が、0.935g/cm3未満であると、発泡シートの可撓性が高くなり過ぎて、当該発泡シートの腰が弱くなり、用途にもよるが、扱い難くなる虞がある。一方、密度が、0.96g/cm3を超えると、発泡シートの可撓性が低くなり過ぎて、当該発泡シートの腰が強くなり、用途にもよるが、扱い難くなる虞がある。
【0017】
また、本発明は、メタロセン触媒を使用した高密度ポリエチレンを押出機に供給し、当該高密度ポリエチレンに揮発性ガスを圧入し、溶融混練する工程と、前記溶融混練された混練物を前記押出機から放出する工程と、前記放出された混練物を延伸する工程と、を備えた発泡シートの製造方法を提供するものである。
【0018】
メタロセン触媒を使用して重合した高密度ポリエチレンは、例えば、従来のチーグラー触媒を使用して重合した高密度ポリエチレンに比べ、分子量分布が狭く、低分子量成分が少ないため、低分子量成分がブリードアウトすることを抑制することができる。また、べたつきが少なく、ブロッキングし難いと共に、ポリエチレン臭が少ない等、低臭性に優れている。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る発泡シートは、メタロセン触媒を使用して重合した高密度ポリエチレンを含有しているため、発泡に適する温度範囲が広く、発泡状態のコントロールが容易であると共に、ブリードアウトやべたつきが少なく且つ優れた低臭性を有し、耐熱性、耐衝撃性を向上することができる。
【0020】
本発明に係る発泡シートの製造方法によれば、発泡状態を容易にコントロール可能であり、ブリードアウトやべたつきが少なく、低臭性に優れ、耐熱性、耐衝撃性を向上した発泡シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施例5に係る発明品5と比較例5に係る比較品5のヘッドスペース・ガスクロマトグラフ(HSGC)による無極性成分のデータを示すグラフである。
【図2】本発明の実施例5に係る発明品5と比較例5に係る比較品5のヘッドスペース・ガスクロマトグラフ(HSGC)による極性成分のデータを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明の実施形態に係る発泡シート及びその製造方法について説明する。
【実施例1】
【0023】
メタロセン触媒を使用して重合した高密度ポリエチレンを押出機に供給し、シリンダーの途中より揮発性ガス(ブタン)を圧入し、約230℃で溶融混練し、当該押出機の口部先端に装着されたサーキュラダイスにより常圧下に放出し、環状冷却装置で所定の円周(実施例1では、幅が1100mm)になるまで延伸した。その後、これを押出し方向に沿って切り開き、厚さ約1mm、発泡倍率30倍の発泡シート(発明品1)を製作した。なお、発明品1の特性を表1に示す。
【実施例2】
【0024】
メタロセン触媒を使用して重合した高密度ポリエチレンと、密度0.925g/cm3、メルトインデックス5.0の低密度ポリエチレン(LDPE)を、それぞれ70:30の割合で押出機に供給し、シリンダーの途中より揮発性ガス(ブタン)を圧入し、約230℃で溶融混練して口部先端に装着されたサーキュラダイスにより、常圧下に放出し、環状冷却装置で所定の円周(実施例2では、幅が1100mm)になるまで延伸した。その後、これを押出方向に沿って切り開き、厚さ約2mm、発泡倍率15倍の発泡シート(発明品2)を作製した。なお、発明品2の特性を表1に示す。
【実施例3】
【0025】
メタロセン触媒を使用して重合した高密度ポリエチレンと、帯電防止剤(三洋化成工業:ペレスタット300)を90:10の割合で押出機に供給し、シリンダーの途中より揮発性ガス(ブタン)を圧入し、約230℃で溶融混練して口部先端に装着されたサーキュラダイスにより、常圧下に放出し、環状冷却装置で所定の円周(実施例3では、幅が1100mm)になるまで延伸した。その後、これを押出方向に沿って切り開き、厚さ約0.5mm、25倍の発泡シート(発明品3)を作製した。なお、発明品3の特性を表1に示す。
【実施例4】
【0026】
メタロセン触媒を使用して重合した高密度ポリエチレンと、密度0.925g/cm3、MFR5.0の低密度ポリエチレン(LDPE)と、帯電防止剤(三洋化成工業:ペレスタット300)を、それぞれ60:30:10の割合で押出機に供給し、シリンダーの途中より揮発性ガス(ブタン)を圧入し、約230℃で溶融混練して口部先端に装着されたサーキュラダイスにより、常圧下に放出し、環状冷却装置で所定の円周(実施例4では、幅が1100mm)になるまで延伸した。その後、これを押出方向に沿って切り開き、厚さ約1mm、発泡倍率10倍の発泡シート(発明品4)を作製した。なお、発明品4の特性を表1に示す。
【0027】
[比較例1]
チーグラー触媒を使用して重合した高密度ポリエチレンを使用し、実施例1と同様の条件で発泡シートを製造することを試みたが、正常な特性を有する発泡シート(比較品1)を得ることができなかった。なお、比較品1の特性を表1に示す。
【0028】
[比較例2〜4]
メタロセン触媒を使用して重合した高密度ポリエチレンを使用し、実施例1と同様の条件で発泡シートを製造することを試みたが、正常な特性を有する発泡シート(比較品2〜4)を得ることができなかった。なお、比較品2〜4の特性を表1に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
表1から、発明品1〜4は、成形性に優れ、良好な発泡倍率を得ることができ、比較品1〜4は、発泡させることができず、発泡シートとしての機能を付与することができないことが判る。
【0031】
次に、発明品1の加熱収縮率をJIS K 6767に準拠して測定した。なお、この測定の際に、発明品1は表2に示す温度で加熱した。また、加熱収縮率は、マシン方向(MD)及び幅方向(TD)について測定した。この結果を表2に示す。
【0032】
また、発明品1について、ヘッドスペース・ガスクロマトグラフ(HSGC)により、無極性成分のデータ及び極性成分のデータを測定した。なお、測定は、サンプル量を1g重量換算とし、サンプルを80℃で1時間加熱した後に発生した揮発物質を、島津キャピラリガスクロマトシステム(GC−2014)により測定し、ピークエリアを算出することで行った。この結果を図1及び図2に各々示す。
【0033】
[比較例5]
次に、比較として、密度0.925g/cm3、MFR5.0の低密度ポリエチレンを押出機に供給し、シリンダーの途中より揮発性ガス(ブタン)を圧入し、約160℃で溶融混練し、当該押出機の口部先端に装着されたサーキュラダイスにより常圧下に放出し、環状冷却装置で所定の円周(比較例5では、幅が1100mm)になるまで延伸した。その後、これを押出し方向に沿って切り開き、厚さ約1mm、発泡倍率30倍の発泡シート(比較品5)を製作した。
【0034】
次に、比較品5について、発明品1と同様の方法で加熱収縮率を測定した。この結果を表2に示す。表2から、発明品1は、比較品5に比べ、加熱収縮率が小さく、寸法安定性に優れていることが判る。
【0035】
【表2】

【0036】
また、比較品5について、発明品1と同様に、ヘッドスペース・ガスクロマトグラフ(HSGC)により、無極性成分のデータ及び極性成分のデータを測定した。この結果をこの結果を図1及び図2に各々示す。
【0037】
図1及び図2から、発明品1は、比較品5に比べ、アウトガスが少ないことが判る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタロセン触媒を使用して重合した高密度ポリエチレンを含有してなる発泡シート。
【請求項2】
前記高密度ポリエチレンのメルトテンションが、0.5〜15gであり、且つ、MFRが、1.5〜10g/10minである請求項1記載の発泡シート。
【請求項3】
発泡倍率が、2〜50倍である請求項1または請求項2記載の発泡シート。
【請求項4】
前記高密度ポリエチレンと、低密度ポリエチレンとを溶融混練した混合物を含有してなる請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の発泡シート。
【請求項5】
メタロセン触媒を使用してエチレンを重合して得た高密度ポリエチレンを押出機に供給し、当該高密度ポリエチレンに揮発性ガスを圧入し、溶融混練する工程と、
前記溶融混練された混練物を前記押出機から放出する工程と、
前記放出された混練物を延伸する工程と、
を備えた発泡シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−168737(P2011−168737A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−35783(P2010−35783)
【出願日】平成22年2月22日(2010.2.22)
【出願人】(592093958)酒井化学工業株式会社 (13)
【Fターム(参考)】