説明

発泡プラスチック保護シート

【課題】 少ない添加量でも高い帯電防止効果を有して、かつ、ブリードアウトによる精密電子機器等に用いる板体への汚れの付着が殆どなく、しかも、板体の表面に付着した異物も、水洗いや水を含んだ布で拭うだけで簡単に除去することができる発泡プラスチック保護シートを提供すること。
【解決手段】 熱可塑性プラスチック材料を押出成形してなるシート状部材であって、
当該プラスチック材料に発泡剤を添加して、シート内部に少なくとも独立気泡を有するようにする一方、同プラスチック材料には高分子型帯電防止剤とイオン液体またはジェミニ型構造の界面活性剤を添加するという技術的手段を採用した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保護シート材の改良、更に詳しくは、少ない添加量でも高い帯電防止効果を有して、かつ、ブリードアウトによる精密電子機器等に用いる板体への汚れの付着が殆どなく、しかも、板体の表面に付着した異物も、水洗いや水を含んだ布で拭うだけで簡単に除去することができる発泡プラスチック保護シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
周知のとおり、薄型テレビのディスプレイ等に使用するガラス基板などの電子精密機器は、表面において高い非汚染性が必要であるため、汚れの付着を防止すべく、運搬や保管の際には、これら複数のガラス基板の間にそれぞれシート材を挟み込んで包装および保護している。
【0003】
従来、このシート材としては、ポリオレフィン系等の熱可塑性プラスチック材料に発泡剤を混入して押出成形してなる気泡緩衝構造を備えた保護シートが使用されており、この保護シートは静電気を帯電し易いため、帯電防止性能を高めることにより、汚れの原因となる空気中の塵埃の付着を防ぐために、高分子型帯電防止剤を添加するものが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、かかる従来の保護シートにおいては、材料に含有される添加剤や原材料が原因で、ブリードアウト(浮き出し)物質が保護シートの表面にブリードアウトすることがあり、この保護シートで電子精密機器を包装すると、このブリードアウト物質による汚れが電子精密機器に転写されて、電子精密機器の表面を汚してしまうというおそれがあった。
【0005】
したがって、保護シート等の包装材料を取り外した後には、表面を水で洗浄したり、水を含んだシートで拭くことにより、付着した塵埃やブリードアウト物質などの異物を除去するのであるが、保護シート材に含有される添加剤の種類や含有量によっては、この除去作業の負担が大きく左右されてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−262409号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来の保護シート材に上記のような問題があったことに鑑みて為されたものであり、その目的とするところは、少ない添加量でも高い帯電防止効果を有して、かつ、ブリードアウトによる精密電子機器等に用いる板体への汚れの付着が殆どなく、しかも、板体の表面に付着した異物も、水洗いや水を含んだ布で拭うだけで簡単に除去することができる発泡プラスチック保護シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者が上記課題を解決するために採用した手段を添付図面を参照して説明すれば次のとおりである。
【0009】
即ち、本発明は、熱可塑性プラスチック材料を押出成形してなるシート状部材であって、当該プラスチック材料に発泡剤を添加して、シート内部に少なくとも独立気泡を有するようにする一方、同プラスチック材料には高分子型帯電防止剤とイオン液体を含有する帯電防止剤とを添加するという技術的手段を採用したことによって、発泡プラスチック保護シートを完成させた。
【0010】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、イオン液体を、少なくともアルキルアンモニウムおよび硫酸エステルを含有するようにするという技術的手段を採用した。
【0011】
また、本発明は、熱可塑性プラスチック材料を押出成形してなるシート状部材であって、当該プラスチック材料に発泡剤を添加して、シート内部に少なくとも独立気泡を有するようにする一方、同プラスチック材料には高分子型帯電防止剤とジェミニ型構造の界面活性剤を含有する帯電防止剤とを添加するという技術的手段を採用したことによって、発泡プラスチック保護シートを完成させた。
【0012】
また、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、高分子型帯電防止剤を、アルカリ金属を含むアイオノマー樹脂、または親水性樹脂を主成分とするものにするという技術的手段を採用した。
【0013】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、高分子型帯電防止剤の数平均分子量を、2000以上にするという技術的手段を採用した。
【0014】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、シート本体1の厚みを0.2〜2.0mmにするという技術的手段を採用した。
【0015】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、熱可塑性プラスチック材料の100重量部に対して、帯電防止剤を0.1〜7.5重量部の割合で添加するという技術的手段を採用した。
【発明の効果】
【0016】
本発明にあっては、熱可塑性プラスチック材料を押出成形してなるシート状部材であって、当該プラスチック材料には発泡剤を添加して、シート内部に少なくとも独立気泡を有するようにする一方、同プラスチック材料には高分子型帯電防止剤とイオン液体またはジェミニ型構造の界面活性剤を添加することによって、少ない添加量でも高い帯電防止効果を有して、かつ、ブリードアウトによる精密電子機器等に用いる板体への汚れの付着が殆どなく、しかも、板体の表面に付着した異物も、水洗いや水を含んだ布で拭うだけで簡単に除去することができることから、実用的利用価値は頗る高いものがあると云える。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態のシート材を表わす斜視図である。
【図2】本発明の実施形態のシート材の使用状態を表わす断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明を実施するための形態を、具体的に図示した図面に基づいて更に詳細に説明すると、次のとおりである。
【0019】
本発明の実施形態を図1および図2に基づいて説明する。図1中、符号1で指示するものはシート本体であり、このシート本体1の内部には少なくとも独立気泡11・11…を有している。
【0020】
また、本実施形態の精密電子機器Pには、例えば、電子製品、精密機器、回路基盤、シリコン半導体、ディスプレイ用ガラス基板などが含まれ、図2に示すように、精密機器用板体P・Pの間にそれぞれシート本体1を挟み込むことができる。
【0021】
しかして、本実施形態の発泡プラスチック保護シートは、熱可塑性プラスチック材料を押出成形してなるシート状部材であって、構成するにあっては、まず、当該プラスチック材料(本実施形態では、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂)に発泡剤を添加して、シート内部に少なくとも独立気泡11・11…を形成する。
【0022】
本実施形態では、発泡剤として、例えば、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン、ノルマルヘキサン、イソヘキサン等の脂肪族炭化水素、シクロペンタン、シクロヘキサン等の脂環式炭化水素、塩化メチル、塩化エチル等の塩化炭化水素、1,1,1,2−テトラフロロエタン、1,1−ジフロロエタン等のフッ化炭化水素、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、エチルエーテル等のエーテル類、その他、ジメチルカーボネート、メタノール、エタノール等の有機系物理発泡剤、酸素、窒素、二酸化炭素、空気、水等の無機系発泡剤が挙げられ、これらの発泡剤は、単独または2種以上を混合して使用することができる。
【0023】
これらのうち、ポリオレフィン系樹脂との相溶性、発泡性の観点から有機系物理発泡剤が好ましく、中でもノルマルブタン、イソブタン、またはこれらの混合物を主成分とするものが好適である。なお、物理発泡剤ではないがアゾジカルボンアミド等の分解型発泡剤も使用することができる。
【0024】
また、上記発泡剤の添加量は、発泡剤の種類、目的とする保護シートの密度に応じて調整する。本実施形態では、発泡剤としてイソブタンなどの物理発泡剤を採用することができ、その配合比率は、プラスチック材料100重量部当たり4〜35重量部、好ましくは5〜30重量部、より好ましくは6〜25重量部である。
【0025】
また、保護シートを製造する際には、押出成形機に供給されるプラスチック材料(ポリオレフィン系樹脂)中には、通常、気泡調整剤を添加し、この気泡調整剤としては有機系(ポリテトラフルオロエチレンなど)または無機系を採用することができる。
【0026】
また、必要に応じて、保護シートの製造には、適宜、着色剤、紫外線防止剤、酸化防止剤など一般に使用される種々の添加剤を配合することもできる。
【0027】
まず、前記プラスチック材料には、高分子型帯電防止剤を添加する。本実施形態の高分子型帯電防止剤には、例えば、カリウム、ルビジウム、セシウム等のアルカリ金属を含むアイオノマー樹脂、またはポリエーテルエステルアミドやポリエーテル等の親水性樹脂を主成分とするものを採用することができる。
【0028】
この際、高分子型帯電防止剤は、シート状部材の材料であるポリオレフィン系樹脂との相溶性を向上させて優れた帯電防止効果を得ることができるとともに、帯電防止剤を添加することによる物性の低下を抑制する効果を得るために、ポリオレフィン系樹脂をブロック共重合させた樹脂を用いることが好ましい。
【0029】
また、本実施形態の高分子型帯電防止剤の数平均分子量(Mn)は、2000以上のものを採用し、より好ましくは2000〜100000であり、界面活性剤からなる帯電防止剤とは区別される。なお、高分子型帯電防止剤の数平均分子量の上限は約500000である。
【0030】
なお、本実施形態における高分子型帯電防止剤の融点は、70〜270℃であり、より好ましくは80〜200℃であるとともに、表面抵抗値が1.0×1012(Ω)未満の樹脂からなる。
【0031】
本実施形態における高分子帯電防止剤は、単独または複数で使用することができる。製品の具体例として、三洋化成工業株式会社製「ペレスタット300」(ポリエーテル−ポリプロピレンブロック共重合体:融点136℃、数平均分子量14000、密度990g/L)、三井・デュポンポリケミカル株式会社製「SD100」などを採用することができる。
【0032】
また、本実施形態では、更に添加する帯電防止剤として、イオン液体を採用することができ、このイオン液体として、少なくともアルキルアンモニウムおよび硫酸エステルを含有するものを採用することができる。
【0033】
このイオン液体の具体的な物性としては、熱減量:270℃まで安定、粘度:1400mPa・s(20℃)、密度:1.07g/cm−3(20℃)であり、水に溶解するものである。
【0034】
イオン液体については、通常の塩は、食塩のように常温下では固体だが、塩を構成するイオンを比較的サイズの大きなある種の有機イオンに置換したことにより、融点が低くなり、室温付近(25℃)でも液体状態で存在するものをいう。
【0035】
なお、イオン液体は、陽イオンの種類で、ピリジン系、脂環族アミン系、脂肪族アミン系の3つに大別される。これに組み合わせる陰イオンの種類を選択することで、多様な構造を合成できる。用いられる陽イオンには、イミダゾリウム塩類・ピリジニウム塩類などのアンモニウム系、ホスホニウム系イオン、無系イオンなどがある一方、陰イオンには、臭化物イオンやトリフラートなどのハロゲン系、テトラフェニルボレートなどのホウ素系、ヘキサフルオロホスフェートなどのリン系などがある。
【0036】
また、本実施形態では、前記プラスチック材料に添加する帯電防止剤として、ジェミニ型構造の界面活性剤(二量体界面活性剤)を採用することもできる。ジェミニ型構造とは、一鎖一親水基型からなり界面活性剤2分子がスペーサーを介して共有結合で連結されている構造をいう。
【0037】
一般に、ジェミニ型構造界面活性剤は、少なくとも2つの疎水性鎖、少なくとも2つのイオン性または極性基、およびスペーサーを含む。ジェミニ構造は、対称である(テールが同一、ヘッドが同一であるもの)であるか、または非対称である。
【0038】
前記極性基としては、ポリエーテルおよび糖が含まれる。イオン性基の例としては、陽イオンおよび陰イオンが含まれる。イオン性基の特殊な例としては、アンモニウム、ホスフェート、スルフェート、およびカルボキシレートイオンなども含まれる。
【0039】
また、前記スペーサーとしては、極性または無極性の基が含まれる。スペーサー基の特殊な例としては、アミド基、短いまたは長いメチレン基、スチルベン基、ポリエーテル基、脂肪族基、芳香族基が含まれる。
【0040】
このジェミニ型構造の界面活性剤は、通常のイオン性界面活性剤に比べて、ミセル形成性能と界面活性能が格段に優れており、少量の添加で機能を発現するので環境にも優しく、更に、炭素数が多いがクラフト点が低いという特徴がある。
【0041】
そして、本実施形態では、熱可塑性プラスチック材料の100重量部に対して、帯電防止剤を0.1〜7.5(より好ましくは5.0)重量部の割合で添加することが好適である。なお、この帯電防止剤は、上記したようにイオン液体のものとジェミニ型構造の界面活性剤とをそれぞれ単独で使用することもできるし、あるいは混合して使用することもできる。
【0042】
そして、押出成形機に低密度ポリエチレン(LDPE)および、前述の帯電防止剤を供給し、シリンダーの途中より揮発性ガス(ブタン)を圧入し、溶融混練して口部先端に装着されたサーキュラーダイスにより、常圧化に放出し、環状冷却装置で所定の円周になるまで延伸する。
【0043】
然る後、これを押出方向に沿って切り開き、厚さ0.4mmのシートを作製した。本実施形態では、シート本体1の厚みを0.2〜2.0mmにすることができる。
【0044】
このようにして、本発明の保護シートを完成させることができ、図2に示すように、精密機器用板体P・Pの間にそれぞれシート本体1を挟み込んで使用することができる。そして、保護シートを外した後は、板体の表面に付着した異物も、水洗いや水を含んだ布で拭うだけで簡単に除去することができる。
【実施例】
【0045】
本実施形態の発泡プラスチック保護シートの物性試験の結果を以下の表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
なお、本試験では、本実施形態の発泡プラスチック保護シートをガラス基板に貼り付けておき、当該シートを剥離した直後を「洗浄前」とし、剥離後にガラス基板の表面を軽く水洗いしたものを「洗浄後」とした。
【0048】
また、パーティクル数は、実施例1〜3および比較例1、2においては、2.0×2.5mmの四角領域において存在する2.6μm以上のパーティクル(粒子)の数を、画像処理ソフトを用いてカウントしたものである一方、比較例3、4においては、2.0×2.5mmの四角領域において存在する10μm以上のパーティクル(粒子)の数を、目視によりカウントしたものである。
【0049】
本試験において、汚れ付着性の品質を満足する基準の数値は、洗浄後の接触角が5.0度未満、洗浄後のパーティクル数が2.6μm以上のものであれば100個未満、10μm以上のものであれば25個未満、表面の固有抵抗値が1.0×1012未満である。
【0050】
試験結果より、本発明の実施例1〜3では、何れのものも汚れ付着性の品質の基準数値内を満足する製品が得られたが、比較例1〜4では必要基準を満たさない数値項目があった(表中記号▲は基準外数値)。
【0051】
本発明は、概ね上記のように構成されるが、図示の実施形態に限定されるものでは決してなく、「特許請求の範囲」の記載内において種々の変更が可能であって、例えば、高分子型帯電防止剤とともに適宜添加する界面活性剤は、ジェミニ構造を有するものであれば良く、また、配合比率も用途に応じて変更することができる。
【0052】
また、イオン液体は、アルキルアンモニウムおよび硫酸エステルを含有するものに限らず、他のイオン液体を採用することもでき、これら何れのものも本発明の技術的範囲に属する。
【符号の説明】
【0053】
1 シート本体
11 気泡
P 精密機器用板体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性プラスチック材料を押出成形してなるシート状部材であって、
当該プラスチック材料には発泡剤が添加されており、シート内部に少なくとも独立気泡を有する一方、
同プラスチック材料には高分子型帯電防止剤とイオン液体を含有する帯電防止剤とが添加されていることを特徴とする発泡プラスチック保護シート。
【請求項2】
イオン液体が少なくともアルキルアンモニウムおよび硫酸エステルを含有することを特徴とする請求項1記載の発泡プラスチック保護シート。
【請求項3】
熱可塑性プラスチック材料を押出成形してなるシート状部材であって、
当該プラスチック材料には発泡剤が添加されており、シート内部に少なくとも独立気泡を有する一方、
同プラスチック材料には高分子型帯電防止剤とジェミニ型構造の界面活性剤を含有する帯電防止剤とが添加されていることを特徴とする発泡プラスチック保護シート。
【請求項4】
高分子型帯電防止剤が、アルカリ金属を含むアイオノマー樹脂、または親水性樹脂を主成分とすることを特徴とする請求項1〜3の何れか一つに記載の発泡プラスチック保護シート。
【請求項5】
高分子型帯電防止剤の数平均分子量が、2000以上であることを特徴とする請求項1〜4の何れか一つに記載の発泡プラスチック保護シート。
【請求項6】
シート本体(1)の厚みが0.2〜2.0mmであることを特徴とする請求項1〜5の何れか一つに記載の発泡プラスチック保護シート。
【請求項7】
熱可塑性プラスチック材料の100重量部に対して、帯電防止剤が0.1〜7.5重量部の割合で添加されていることを特徴とする請求項1〜6の何れか一つに記載の発泡プラスチック保護シート。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−92331(P2012−92331A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−218219(P2011−218219)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(592093958)酒井化学工業株式会社 (13)
【出願人】(000226161)日華化学株式会社 (208)
【Fターム(参考)】