説明

発泡体およびその製造方法

【課題】本発明は、微細な発泡セルを有する樹脂発泡体を安価に提供することを目的とする。
【解決手段】それぞれ、ガラス転移温度(Tg)を適切に選択された樹脂(A)および樹脂(B)を成分とする樹脂混合物であって、樹脂(A)中に適切な粒子径の樹脂(B)の粒子を分散させた樹脂混合物を溶融し、更に発泡剤を溶解して溶融樹脂組成物とし、連続押出することより、気泡を内包する微細な樹脂粒子を有する発泡体を製造する。このとき、押出機のダイス圧力、ダイスリップ間隔などを適切に選択して、かつ得られる発泡体の厚さを1mm以下とすることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂の発泡体の製造方法に関する。具体的に本発明は、二種類の樹脂を含む溶融樹脂組成物から、連続押出方法を用いて発泡体を製造する方法、およびその方法で得られた発泡体に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂の発泡体とは、多数の相互に連絡している小空孔(連通気泡)または連絡のない小気泡(独立気泡)が全体に均一に分布している密度の小さいプラスチックをいう。発泡体の小空孔や小気泡を「発泡セル」という。実用化されている発泡体としては、ポリスチレン発泡体、ABS発泡体、ポリエチレン発泡体、ポリプロプレン発泡体などがある。
【0003】
発泡体は、その樹脂の性質に応じて種々の用途に用いられる。例えば、緩衝材、断熱材、防音材、包装材、電気絶縁材、光反射材などがある。特に、マイクロ単位の小空孔や小気泡を有する発泡体は可視光反射材として用いられ、非常に高い反射率を示す。しかしながら、従来の発泡方法では気泡セルが100μm以上に大きくなるため、ほとんどの手法によっては厚みが1mmを超えるシートしか得られず、またシートの外観を平滑にすることも困難である。気泡セルが大きいと、特に反射特性は十分ではなく、実用レベルではない。
発泡体以外にも、無機又は有機フィラーを添加した延伸多孔フィルムも光反射材として用いられている。しかしながら、無機又は有機フィラーを添加したフィルムは、焼却時に多量の残渣を生じさせる。
【0004】
発泡体、特に微細な発泡セルを有する発泡体の製法は、バッチ方法、射出成形方法、連続押出方法に大別される。
バッチ方法(例えば特許文献1〜8参照)は、耐圧容器内に固体状態の樹脂組成物を配置して;その固体状態の樹脂組成物に発泡剤を高圧下に浸透させ;その後、前記容器内の圧力を急激に下げて、固体状態の樹脂組成物中に溶解している発泡剤を過飽和の状態にすることにより発泡させ、発泡体を得る方法か、または容器から取り出して、更に加熱して発泡させ、発泡体を得る方法である。バッチ方法によれば、固体状態の樹脂組成物が発泡するため、微細な発泡セルを有する発泡体を製造することができるなどの利点がある。一方、バッチ方法の場合、減圧速度に限界があるため、特に薄いフィルムでは発泡する前にガスがフィルム系外に拡散してしまい、薄膜状の発泡体を得ることが困難である。
【0005】
射出成形方法は、金型内に発泡剤を含む溶融樹脂組成物を射出して成形する方法である。射出成形方法による発泡では、金型内への射出によって比較的簡単に冷却固化がなされる点は有利であるが、外観を良好にするために発泡しないスキン層を形成することが不可欠である。そのため、金型内に射出した際は高圧力を保持して発泡させず、一旦スキン層を金型壁面に沿って形成し、その後直ちに金型内の圧力をコアバック法(金型の稼動側をバックさせて型内容積を増やす)等により低下させて発泡させることが必要となる。
【0006】
一方、連続押出方法(例えば特許文献9〜11参照)は、樹脂混合物を、押出機にて可塑化溶融させながら、発泡剤を高圧下に溶解させ;ダイスを通して連続してシートまたはフィルム状に押し出し、これにより、高圧から瞬時に大気圧に減圧する。前記バッチ方法と同様に、溶融樹脂組成物中に溶解している発泡剤を過飽和の状態にすることにより発泡させ、発泡体を得る。連続押出方法によれば、生産コスト、大量生産し易い点で優れており、かつ瞬時に減圧できるので、発泡セルの元になる発泡核の数を増やせる、溶融樹脂組成物中の発泡剤が拡散して溶融樹脂組成物中の外に放出される前に発泡し易くなる、などの点で優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第4473665号公報
【特許文献2】米国特許第5158986号公報
【特許文献3】特開2006−146120号公報
【特許文献4】特開2003−89727号公報
【特許文献5】特開2006−95944号公報
【特許文献6】特開2003−121616号公報
【特許文献7】特開2003−49018号公報
【特許文献8】特開2002−69223号公報
【特許文献9】特開2006−45259号公報
【特許文献10】特開平11−300814号公報
【特許文献11】特許第3555986号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述の通り発泡体の製法は、バッチ方法、射出成形方法および連続押出方法に大別される。バッチ方法は、固体状態で発泡するため発泡セルの微細な発泡体を製造することができるなどの利点があるが、大量生産には不向きで、コスト面で不利になることがある。また、連続押出方法に比べて減圧速度が遅いため、発泡体の形状、とりわけ大きさや厚さに制約を受けることがある。
【0009】
一方、連続押出方法は、樹脂混合物を溶融状態で押出し発泡させるため、発泡セルの成長を制御することが極めて難しく、また製造条件を精密に制御することも困難であるとされてきた。
【0010】
そのため、発泡セルの大きさが小さい発泡体の製造に関する数多くの先行技術が提案されているが、そのほとんどの実施例はバッチ方法によるものである。これまでのところ、発泡セルの直径(セル径)が10μm以下の発泡体(マイクロセルラー)が、連続押出方法によって工業化された例は見られない。実際には、連続押出方法によりマイクロセルラーを実現する技術は実現されていないものと思われる。特許文献8には、発泡セルの微細な発泡体を製造する方法として、押出機による方法が例示されているものの、押出方法の条件について具体的な記載がなく、バッチ方法による具体的製造条件が記載されている。本発明者の検討により、バッチ方法の発泡条件と連続押出方法の発泡条件は大きく異なり、樹脂の種類によって発泡セルの大きさも全く異なること、つまり発泡セルを微細化する条件も異なることがわかった。
【0011】
また射出成形方法では、得られる成形体の多くは、肉厚が1mmを超える成形体であり、肉厚の大きい成型体の発泡成形体は、厚み方向の中心部の気泡成長を十分に抑えることができずに気泡が大きくなる傾向がみられる。
【0012】
本発明の課題は、気泡を内包する微細な樹脂粒子を有する発泡体を、押出機を用いて、連続押出法にて簡便かつ大量に製造することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、気泡を内包する微細な樹脂粒子を有する発泡体を、連続押出方法により製造することを検討した。気泡とは、つまり「発泡セル」である。その結果、適切に選択された2種以上の樹脂を含む樹脂混合物に、発泡剤を溶解させ溶融樹脂組成物とした後、連続押出成形することにより、気泡を内包する微細な樹脂粒子を有する発泡体を製造することができることを見出した。
【0014】
特に、樹脂混合物に含まれる2種以上の樹脂(樹脂(A)と樹脂(B))それぞれのガラス転移温度Tg;溶融樹脂組成物中に分散された樹脂の分散状態;押出機のダイス圧力やダイスのリップ間隔などの押出条件;得られる発泡体の厚さ;などを適切に制御することにより、本発明はなされた。
【0015】
すなわち本発明の第一は、以下に示す発泡体の製造方法に関する。
[1] 樹脂(A)と、前記樹脂(A)中に非相溶に分散混合されている粒子状の樹脂(B)と、発泡剤と、を含む溶融樹脂組成物を準備するステップと、前記溶融樹脂組成物を連続的に押出発泡して発泡体を得るステップと、を含み、
前記押出発泡において、前記樹脂(B)において発泡剤を発泡させて、気泡を内包し、粒子径が10μm以下である粒子状の樹脂(B)を形成する、発泡体の製造方法。
[2] 前記樹脂(A)のガラス転移温度は50℃よりも高く、かつ、前記樹脂(B)のガラス転移温度は、前記樹脂(A)のガラス転移温度よりも50℃以上低い、[1]に記載の発泡体の製造方法。
[3] 前記樹脂(A)は、ポリスチレン樹脂または環状ポリオレフィン樹脂であり、前記樹脂(B)は、ポリプロピレン樹脂またはポリエチレン樹脂またはエラストマーである、[1]または[2]に記載の発泡体の製造方法。
[4] 前記樹脂(B)の平均粒径は、1μm以下である、[1]〜[3]のいずれかに記載の発泡体の製造方法。
[5] 前記発泡剤は、超臨界状態の物理発泡剤である、[1]〜[4]のいずれかに記載の発泡体の製造方法。
[6] 前記溶融樹脂組成物を連続的に押出発泡する押出機の、ダイス内部の圧力が20MPa以上、かつダイスのリップ間隔が0.2mm以下である、[1]〜[5]のいずれかに記載の発泡体の製造方法。
[7] 前記発泡体は、1mm以下の厚さの樹脂シートまたはフィルムである、[1]〜[6]のいずれかに記載の発泡体の製造方法。
[8] 前記気泡を内包する粒子状の樹脂(B)の直径の平均値が0.1μm以上10μm以下であり、かつ発泡セルの密度が10個/cm以上1016個/cm以下である、[1]〜[7]のいずれかに記載の発泡体の製造方法。
【0016】
本発明の第二は、以下に示す発泡体に関する。
[9] [1]〜[8]のいずれかに記載の製造方法で製造される、厚みが10μm以上1mm以下のシートまたはフィルム状の発泡体。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、気泡を内包する微細な樹脂粒子を有する発泡体が、安価に提供される。発泡セルが微細化された発泡体は、断熱シート、低誘電率シート、光反射材等に好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】タンデム型押出機を示す図である。
【図2】実施例の評価結果を示す表である。
【図3】比較例の評価結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
1.発泡体の製造方法について
本発明の発泡体の製法は、
1)樹脂(A)と、樹脂(A)中に非相溶に分散混合されている粒子状の樹脂(B)と、発泡剤とを含む溶融樹脂組成物を準備するステップと、
2)前記溶融樹脂組成物を、押出機を用いて連続的に押出発泡して発泡体を得るステップと、を含む。
【0020】
前述のとおり、発泡体の製法は、一般的にバッチ方法、射出成形方法、連続押出方法に大別されうる。従来の連続押出方法によれば、製造される発泡体の発泡セルを微細化することは困難であったにも係わらず、一方、本発明によれば、押出機を用いた連続押出方法により、微細な発泡セルを有する樹脂発泡体が製造される。
【0021】
溶融樹脂組成物の原料となる樹脂混合物には、樹脂(A)と樹脂(B)が含まれる。樹脂(A)と樹脂(B)は、互いに非相溶である樹脂であることが好ましい。樹脂(A)と樹脂(B)が互いに非相溶であると、樹脂(A)中に樹脂(B)の粒子が分散する、いわゆる海島構造を取ることができる。
【0022】
互いに非相溶である樹脂(A)と樹脂(B)を、ガラス転移温度や粘度等を考慮して適時選択することで(ガラス転移温度、粘度については後述)、樹脂(B)の粒子を樹脂(A)中に分散させることができる。更に樹脂(B)を微粒子の状態で分散させるために、二軸押出機を用いて混練することが好ましい。混練するための二軸押出機は、より強練りが可能な同方向噛み合い型の二軸押出機が推奨され、高いせん断応力になるように押出温度を調整すれば尚よい。また更に、二軸押出機でも樹脂(B)を細かく分散しにくい場合には、公知の相溶化剤を添加すれば微細に分散することが可能となる。樹脂(B)はなるべく小さい粒子で分散しているとよく、樹脂(B)の粒子の長径の平均値が1μm以下であるとより好ましい。
【0023】
樹脂(A)と樹脂(B)は、互いにガラス転移温度が相違する。まず、樹脂(A)のガラス転移温度(Tg)は、50℃を超えることが好ましい。樹脂(A)のガラス転移温度は、50℃を超えて250℃以下であることがより好ましく、70℃以上250℃以下であることがさらに好ましい。樹脂(A)のガラス転移温度が低すぎると、溶融樹脂組成物を発泡させるときに、樹脂(B)での気泡の成長が抑止されず、発泡セルが大きくなりすぎる。この抑止のメカニズムについては後述する。樹脂(A)のガラス転移温度(Tg)は、前記のようなガラス転移温度を有する樹脂を選択することの他にも、例えば樹脂(A)を架橋させる等によって調整されうる。
【0024】
また、樹脂(B)のガラス転移温度(Tg)は、樹脂(A)のガラス転移温度(Tg)よりも低いことが好ましく、50℃以上低いことがより好ましい。樹脂(B)のガラス転移温度は、樹脂(A)のガラス転移温度(Tg)よりも50℃以上300℃以下低いことがさらに好ましく、100℃以上250℃以下低いことが特に好ましい。このようなガラス転移温度(Tg)を有する樹脂(A)と樹脂(B)を組み合わせることで、押出発泡するときに、樹脂(B)において選択的に発泡剤が発泡して、気泡を内包する樹脂(B)の粒子が形成されるからである(詳細は後述)。一方、樹脂(A)のガラス転移温度と、樹脂(B)のガラス転移温度の差が小さいと、押出発泡させるときの樹脂(A)の粘度と樹脂(B)の粘度との差が小さくなるため、樹脂(B)で選択的に発泡させることが困難になる。
【0025】
樹脂(A)の好ましい例には、ポリスチレン系樹脂(ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体)、環状ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリアリレート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリメタクリル酸メチル、ポリオキシメチレン、飽和ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等)、ポリ乳酸、ポリアミド、ポリイミドなどが含まれる。特にスチレン系樹脂や環状ポリオレフィン樹脂が好ましく使用される。
【0026】
樹脂(B)は、ガラス転移温度(Tg)が室温以下の樹脂であることが好ましく、その例には、エチレン−プロピレンゴム、プロピレン−ブテンゴム、スチレン−ブタジエンジブロック共重合体の水素添加物、スチレン−ブタジエン−スチレントリブロック共重合体の水素添加物、スチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体の水素添加物、スチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体の水素添加物、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリブテン等のエラストマー、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂などが含まれる。
【0027】
樹脂(A)と樹脂(B)とは、別個の樹脂である必要はない。つまり、樹脂(A)と樹脂(B)とは、共重合体の構成成分として一種類の樹脂に含まれていても構わない。例えば、ABS樹脂は、アクリロニトリルとブタジエンとスチレンの共重合体であり、1種類の樹脂であるが、その構造はブタジエンのゴムドメインが、アクリロニトリル−スチレン共重合体中に分散して、海島構造となっている。ここで、ブタジエンのゴムドメインが樹脂(B)に相当し、アクリロニトリル−スチレン共重合体が樹脂(A)に相当する。
【0028】
また樹脂(A)は、それ自体の微細セル化能力が高い方がよい。微細セル化能力とは、発泡剤を含有させて発泡させたときに、発泡セルの大きさを小さくできることをいう。微細セル化能力が高い樹脂とは、一般的には、メルトテンションや伸長粘度等により評価される「歪硬化性」の高い樹脂である。樹脂の歪硬化性を更に高めるためには、重合段階で樹脂の分子量分布を広くしたり、二段階の分子量分布としたり、あるいは各種架橋剤を用いて架橋構造としたりすればよい。
「歪硬化性」とは、ある条件下で樹脂を発泡させようとしたとき、発泡セルが破れて発泡倍率を落としたり、会合して大きくなったり、更に発生した1個の発泡セルが巨大化する等の現象を抑止して、発泡セルを小さく制御できる特性を、溶融樹脂の粘性挙動で表したものである。一般的には歪硬化性が高い樹脂は、微細セル化能力も高い場合が多い。より具体的には、ダイスから押出された溶融樹脂が、どれだけ発泡セルの成長を制御できるかを示す指標である。すなわち、歪硬化性の高い樹脂は、微細セル化能力が潜在的に高いといえる。
【0029】
樹脂(A)の粘度と樹脂(B)の粘度とは異なることが好ましい。樹脂(A)の粘度よりも、樹脂(B)の粘度が小さいと、樹脂(B)において発泡剤が発泡しやすくなるので、気泡が内包する樹脂(B)の粒子を形成しやすい。
【0030】
樹脂(A)と樹脂(B)のメルトフローレート(MFR)はいずれも、190℃において0.1〜70(g/10min.)であることが好ましい。メルトフローレート(MFR)は、ASTM D1238に準拠して測定される。また本発明の樹脂(A)と樹脂(B)のMFRを、同じ温度、荷重で比較した場合、「樹脂(B)のMFR>樹脂(A)のMFR」となることが好ましい。
【0031】
これらの樹脂から、互いに非相溶で、ガラス転移温度が50℃以上異なる樹脂を選択して、樹脂(A)と樹脂(B)として組み合わせればよい。樹脂(A)と樹脂(B)は、各々複数種類の樹脂を含んでいてもよい。
【0032】
押出発泡される溶融樹脂組成物に含まれる樹脂(A)と樹脂(B)の比率は、樹脂(A)が、樹脂(B)よりも相対的に多いことが好ましい。樹脂(A)中に、樹脂(B)の粒子を分散させるためである。具体的には、樹脂(A)と樹脂(B)の合計質量に対して、樹脂(B)の質量比が5%以上30%以下であることが好ましく、10%以上30%以下であることがより好ましい。
【0033】
押出発泡される溶融樹脂組成物において、樹脂(B)は、樹脂(A)中に非相溶に分散されている。樹脂(B)は、樹脂(A)中に微細に分散されていることが好ましく、具体的には、粒径1μm以下の粒子状の樹脂(B)が樹脂(A)中に分散されている。樹脂(B)が微細に分散されていれば、押出発泡により形成される発泡セルも微細にすることができ、例えば発泡セルの径を10μm以下(マイクロセルラー)にすることができる。
【0034】
前記のとおり、樹脂(A)中に分散する樹脂(B)の粒子の平均粒径が、1μm以下であることが好ましい。樹脂混合物における樹脂(B)の粒子の分散状態は、樹脂混合物サンプルをトリミングして面出しをして;四酸化ルテニウム(RuO)染色により樹脂(B)の粒子が形成するドメインを染色して;薄片化およびカーボン補強をして測定サンプルとする。得られた測定サンプルを、透過型電子顕微鏡(株式会社日立製作所:H-7000)で観察し、少なくとも30個の樹脂(B)の粒子が形成するドメインの長径の平均を求めて、樹脂(B)の粒子の平均粒径とすることが好ましい。
【0035】
押出発泡での加熱により、粒子状の樹脂(B)において発泡剤が発泡して、粒子状の樹脂(B)に気泡が内包される。したがって、溶融樹脂組成物において分散された樹脂(B)の粒子径が大きいと、気泡を含む粒子となったときの粒径が大きくなりすぎる。つまり、得られる発泡体の発泡セルの直径を10μm以下とすることが困難になる。樹脂(B)の気泡を含む粒子が、発泡体の発泡セルとなるので、微細な発泡セルを得るためには、溶融樹脂組成物において分散された樹脂(B)の粒子径を小さくすることが好ましい。
【0036】
粒子状の樹脂(B)を、樹脂(A)中に分散させるには、例えば、樹脂(A)と樹脂(B)との混合物を二軸押出機により溶融混練することが好ましい。溶融混練の条件を調整すれば、樹脂(B)を微細化する(例えば、粒径1μm以下の粒子状の樹脂(B)とする)ことができる。例えば、二軸押出機で強練りをすればよい。また、相溶化剤を添加すると、樹脂(B)の微細化が促進されうる。相溶化剤とは、例えばスチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)などが含まれる。もちろん、樹脂(A)と樹脂(B)とを適切に選択して、互いの相溶化指数を制御することも、樹脂(B)の微細化に有効である。
【0037】
樹脂(A)と樹脂(B)と任意の他の樹脂(例えば相溶化剤)とを含む樹脂混合物には、さらに発泡剤を添加し、好ましくは溶解させる。発泡剤は、炭酸水素ナトリウムやジアゾアミノベンゼン等のいわゆる化学発泡剤ではなく、物理発泡剤であることが好ましい。物理発泡剤の例には、二酸化炭素や窒素が含まれ、超臨界状態の物理発泡剤であることがさらに好ましい。いずれにしても、樹脂混合物に含まれる樹脂(B)に対する溶解度が高い発泡剤を選択することが好ましい。
【0038】
溶融した樹脂混合物に添加する発泡剤の添加量は、発泡剤の種類によっても異なるが、二酸化炭素を発泡剤として用いた場合には、樹脂(A)と樹脂(B)とを含む樹脂混合物の重量に対して0.1重量%以上50重量%以下であることが好ましい。溶融樹脂組成物中の発泡剤の濃度を高めると、得られる発泡体の発泡セルを微細化することができ、かつ発泡セル密度を高めることができる。
【0039】
発泡剤の溶解は、加圧雰囲気下で行うことが好ましい。樹脂(A)と樹脂(B)と任意の他の樹脂とを含む溶融した樹脂混合物に、発泡剤を溶解させるときの圧力は、約8MPa以上40MPa以下であることが好ましい。また、発泡剤を溶解させるときの樹脂の温度は、約150℃以上300℃以下(例えば250℃程度)とすることが好ましい。
【0040】
発泡剤の樹脂(A)への溶解度と、発泡剤の樹脂(B)への溶解度のどちらが高くてもよい。樹脂(B)を選択的に発泡させ易くする点などから、発泡剤の樹脂(A)への溶解度よりも、発泡剤の樹脂(B)への溶解度が高いことが好ましい。ただし、樹脂が発泡するかどうかは、発泡剤の(樹脂への)溶解度よりも、溶融樹脂の粘度に依存する。つまり、発泡剤の樹脂(B)への溶解度のほうが、発泡剤の樹脂(A)への溶解度より高くても、押出発泡時の樹脂(B)の粘度が、樹脂(A)の粘度よりも高ければ、樹脂(B)は発泡しない。これとは逆に、樹脂(B)の粘度が、樹脂(A)の粘度よりも低ければ、樹脂(B)は発泡する。したがって、押出発泡時の樹脂(A)の粘度が、樹脂(B)の粘度よりも大きいことが好ましい。押出発泡時のダイス温度(80〜240℃)における、樹脂(A)の粘度は、1000〜100000Pa・sであることが好ましく、樹脂(B)の粘度は、100〜10000Pa・sであり、かつ樹脂(A)の粘度よりも低いことが好ましい。樹脂の粘度は、キャピラリー方式の溶融粘度測定装置または各種粘弾性測定装置により測定される。
【0041】
発泡剤を溶解する溶融樹脂組成物は、ダイスから押し出されて、相対的に減圧された雰囲気下に吐出される。溶融樹脂組成物がダイスから押し出されると、溶融樹脂組成物に溶解している発泡剤が、瞬時に過飽和の状態となり、直ちに発泡を開始して発泡セルが形成され、樹脂が固化することにより発泡セルが固定化されて発泡体が製造される。
【0042】
前記のとおり、溶融樹脂組成物には、樹脂(A)と、樹脂(A)中に分散した樹脂(B)粒子が含まれており;樹脂(A)のガラス転移温度が50℃を超えており、樹脂(B)のガラス転移温度が樹脂(A)のTgよりも50℃以上低い。そのため、溶融樹脂組成物を発泡させた時に、樹脂(A)では発泡がおこらず、選択的に樹脂(B)で発泡させることができる。
【0043】
溶融樹脂組成物において、発泡剤は樹脂(A)中にも樹脂(B)中にも存在するが、連続的に押出発泡させる過程で、樹脂(B)中の発泡剤が選択的に発泡する。発泡により樹脂(B)の発泡剤の溶解量が変化すると、樹脂(A)中の発泡剤の一部が樹脂(B)中に移動し、樹脂(B)で発泡すると考えられる。
【0044】
このように発泡体の発泡セルは、樹脂(B)の粒子(ドメイン)で選択的に形成されるが、樹脂(B)の粒子は樹脂(A)に覆われている。そのため、発泡セルは大きくなりすぎず、樹脂(B)の中に気泡が閉じ込められた構造となる。つまり、樹脂(B)の粒子を樹脂(A)が覆っているので、樹脂(B)の粒子に溶解した発泡剤が発泡して発泡セルを形成しようとするときに、ガラス転移温度の高い樹脂(A)が発泡セルの成長を抑制すると考えられる。それにより、発泡セルを含む微細な樹脂(B)粒子が形成される。
【0045】
製造される発泡体の厚さを、1mm以下とすることが好ましい。発泡体の厚さが大きすぎると、ダイスから押出された樹脂を均一に冷却することができず、発泡セルの大きさも、分散状態も均一になりにくい。つまり発泡体の厚さが大きすぎると、直径(セル径)が10μm以下の発泡セルが均一に分散した発泡体(マイクロセルラー)が得られにくくなる。
【0046】
製造される発泡体の形状や発泡セル構造は、ダイスの種類を適切に選択することによっても制御される。例えば、1mm以下の厚さのシート状の発泡体を製造するには、ダイスをサーキュラー(環状)ダイスとして、そのダイスリップ間隔を0.005mm以上0.2mm以下とすればよく、好ましくは0.01mm以上0.2mm以下とする。ダイスリップ間隔が0.005mm未満であると、均等な厚さのシート状の発泡体を得られないからである。また、ダイスリップ間隔を調整することで、ダイス内部の圧力を制御することができる。ダイスリップ間隔とは、ダイス出口のクリアランスをいう。
【0047】
また、ダイス温度は80〜240℃程度に設定することが好ましく、ダイス内部の圧力は20MPa以上に調整することが好ましく、20MPa以上50MPa以下が更に好ましい。ダイス内部の圧力が50MPaよりも高くすることは、設備面で困難だからである。ダイスの温度を上げるか、ダイスの内部の圧力を高めると、製造される発泡体の発泡セルが微細化され、かつ発泡セルの密度も高まりうる。
【0048】
樹脂(A)と樹脂(B)と発泡剤とを含む溶融樹脂組成物を樹脂原料として、連続押出発泡させる(後述)ことにより、微細化された発泡セルを有する発泡体が得られる。その理由は、例えば以下のメカニズムで説明されうるが、特に限定されない。
【0049】
例として、樹脂(A)を環状ポリオレフィンとして、樹脂(B)をエチレン−プロピレンゴムとした場合を説明する。まず、樹脂(A)の環状ポリオレフィンは、それ自身の発泡性がよく、発泡セルを小さくしやすい樹脂である。環状ポリオレフィンは、ガラス転移温度が約150℃と高いため、発泡時に溶融状態から固体状態へ速やかに相転移することができ、歪硬化性が高いからであると考えられる。
【0050】
一方、樹脂(B)のエチレン−プロピレンゴムは、ガラス転移温度が非常に低い。そのため、エチレン−プロピレンゴムへの発泡剤の溶解度は比較的高いにも係わらず、エチレン−プロピレンゴムの発泡性は一般的に非常に悪い。エチレン−プロピレンゴムの歪硬化性は極端に低いため、発泡過程で発泡セルが破れたり、発泡セル同士が結合したり、発泡剤が樹脂中から逃げやすく発泡倍率が上がらない、などの問題があるからである。
【0051】
しかしながら、エチレン−プロピレンゴムが、環状ポリオレフィン中にドメインとして分散している場合、環状ポリオレフィンが、エチレン−プロピレンゴム中で発生した発泡セルの極端な成長を抑止することができると考えられる。
【0052】
したがって、本発明の発泡体の製造方法におけるより好ましい発泡条件は、溶融樹脂組成物が樹脂(A)(ここでは環状ポリオレフィン)単独であった場合には、ほとんど発泡させない条件であり;かつ、溶融樹脂組成物が樹脂(B)(ここではエチレン−プロピレンゴム)単独であった場合には、十分に発泡させる条件である。それにより、瞬時に発泡しようとするエチレン−プロピレンゴムと、発泡を抑止しようとする環状ポリオレフィンとの力がほぼつりあい、微細な発泡セルが形成されると考えられる。
【0053】
前述の通り、連続押出方法による本発明の発泡体の製法は、1)樹脂(A)と樹脂(B)とを含む樹脂混合物の製造、2)溶融した樹脂混合物への発泡剤の注入、3)発泡剤を溶解する溶融樹脂組成物の、ダイスを通しての吐出、というステップを含むが、これらの一連の操作は、樹脂混合物の製造以外はダイスを装着された押出機によって行なわれることが好ましい。
【0054】
押出機の種類には、一軸押出機、二軸押出機、押出機を直列につないだタンデム押出機などがあり、一般に市販されている押出機から任意に選択して用いることができる。
【0055】
押出機の樹脂供給部に樹脂混合物(樹脂(A)と樹脂(B)とを含む)を供給し、押出機内の加熱されたシリンダ部におけるスクリューの回転により、供給された樹脂混合物を溶融する。押出機の温度は、溶融した樹脂混合物が押出に耐えうる溶融粘度となるように設定すればよいが、具体的には80℃以上260℃以下とすることが好ましい。押出機のスクリューは、注入する発泡剤の性質に応じて最適なものを用いればよい。スクリューの形状は、二酸化炭素や窒素等の発泡剤を供給する部分で、樹脂を溶融できる構造であればよく、特に制限されない。
【0056】
溶融した樹脂混合物に発泡剤を注入して、溶解させる。注入した発泡剤の全てを、溶融した樹脂混合物に溶解させることが好ましい。溶解しない発泡剤が残存すると、得られる発泡体に大きな気泡が形成され、発泡セルを微細化しにくかったり、樹脂混合物に溶解していない発泡剤がダイスから噴出したりするなどの問題が発生することがある。
【0057】
発泡剤は、超臨界流体として、溶融した樹脂混合物に注入されるか;または溶融した樹脂混合物に注入された発泡ガスを、濾過工程に至るまでに超臨界流体とすることが好ましい。超臨界流体とは、ある物質の臨界温度以上であって、かつ臨界圧力以上の状態にある流体であり、気体と液体の中間の物理的性質を示す。超臨界流体の発泡剤は、通常の気体と比較して、溶融した樹脂混合物に対する溶解度が高い。
【0058】
発泡剤を溶解した溶融樹脂組成物を、必要に応じてフィルターに通して濾過して、異物、変性ポリマーを除去してもよい(濾過工程)。
【0059】
発泡剤を溶解した溶融樹脂組成物は、加熱された流路(押出機のバレル内や連結部内等)内を通してダイスに導かれる。ダイスへ溶融樹脂組成物を一定に供給するために、ギアポンプを設けてもよい。ダイスに導かれたポリマーは、ダイス内部で必要な幅に拡幅され、ダイスから吐出される。
【0060】
押出機における圧力は、ダイス部直前までの間、溶融樹脂組成物から発泡剤が発泡しないように高圧力に維持される。押出機における圧力が、ダイス部直前までの間に低下するとダイス内で発泡剤が発泡し、発泡セルが成長し大きくなるため、発泡セルの微細化にとって好ましくない。押出機における溶融樹脂組成物の圧力を、ダイス部直前まで高く維持するため、ダイス部の直前部分に、圧力調整弁を設けることが好ましい。
【0061】
押出機内において発泡剤を溶解した溶融樹脂組成物は、ダイスから吐出されて成形され、それと同時に溶解された発泡剤が発泡する。溶融樹脂組成物は、吐出直後に急冷固化されることが重要である。急冷しないと発泡セルが著しく成長し、微細な発泡セルが得られない。ダイスで発泡剤を適切に発泡させるには、ダイス内部の圧力損出が極力少ない方が好ましく、またダイス内部での圧力を20MPa以上にすることが好ましい。
【0062】
本発明の発泡体は、任意の押出機で製造されうるが、好ましくは、2台以上の押出機を直列に連結したタンデム式の押出機で製造される。タンデム式の押出機では、溶融した樹脂混合物中に発泡剤を溶解するための時間を十分に確保しやすく、また2台目の押出機でダイスに近づくにしたがって樹脂温度を下げやすい。一般に、溶融した樹脂混合物への発泡剤の溶解量が増すと、溶融樹脂組成物の粘度が低下する。ダイスに近づくにしたがって樹脂温度を下げることにより、溶融樹脂組成物の粘度の低下を抑制する(ダイス圧力を保持する)ことができる。
【0063】
タンデム押出機を用いる場合、1台目の押出機の、発泡剤(たとえば二酸化炭素)を圧入する位置よりも樹脂供給側の位置に、発泡剤の逆流を防ぐリングとシール機構が設けられることが好ましい。発泡剤(二酸化炭素)を圧入する位置よりも、樹脂供給側の位置の圧力が低いため、このようなシール機構を設けて発泡剤の逆流を防止する。
【0064】
ダイスから吐出されてシート状またはフィルム状に成形された発泡体は、一方向または二方向に延伸処理されてもよい。ダイスから吐出された発泡体は実質的に非晶無配向であるが、延伸処理により配向性を付与することができる。延伸処理は、公知の技術である逐次二軸延伸や、チューブラー法や、テンター法による同時二軸延伸を用いて行なうことができる。
また、サーキュラーダイスから押出された発泡体を、マンドレルを介して引きとる場合に、マンドレル径をダイス出口径よりも大きくすることで横延伸を生じさせ、かつ引取速度を上げていくことにより、実質的には縦延伸を行うこととなる。
【0065】
ダイスから吐出されてシート状またはフィルム状に成形された発泡体は、必要に応じてプレス(面プレス)されてもよい。これにより、発泡体のシート表面の粗さ等の表面状態を調整できる。
【0066】
2.発泡体について
本発明の発泡体は、前述の製法によって得られる発泡体であり、樹脂(A)および樹脂(B)を含む樹脂混合物の発泡体である。発泡体において、樹脂(B)は、樹脂(A)中に分散しており、かつ気泡を内包する粒子径10μm以下の粒子状である。発泡体の小空隙や小気泡を、発泡セルという。
【0067】
前記のとおり、樹脂(A)と樹脂(B)は互いに非相溶な樹脂である。互いに非相溶であると海島構造をとりやすく、樹脂(B)に対する樹脂(A)の含有比率を高めることで、樹脂(A)中に樹脂(B)の粒子を分散させることができる。
【0068】
また前記のとおり、樹脂(A)のガラス転移温度(Tg)は、50℃を超えることが好ましく;樹脂(B)のガラス転移温度(Tg)は、樹脂(A)のガラス転移温度(Tg)よりも、50℃以上低いことが好ましい。このようなガラス転移温度(Tg)を有する樹脂(A)と樹脂(B)を組み合わせることで、樹脂(B)に存在する発泡剤が発泡して、気泡を内包する樹脂(B)の粒子が形成される。
【0069】
本発明の発泡体の発泡セルは、粒子状の樹脂(B)中に存在する。発泡セルを含む樹脂(B)の粒子は微細であることが好ましい。微細とは、発泡セルを含む樹脂(B)の粒子の長径の平均値が、10μm以下であることを意味し、好ましくは5μm以下、さらに好ましくは4μm以下であることをいう。発泡セルを含む樹脂(B)の粒子を微細化すれば、発泡体の光反射率や拡散率が高まるので、光反射材として用いることができる。
【0070】
発泡体の発泡セルを含む樹脂(B)の粒子の長径の平均値は、フィルム状またはシート状の発泡体のTD(traverse direction)方向の切断面を、走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社:JSM-6380)で2000倍観察し;任意に選択された少なくとも30個のセルの長径の平均値とすればよい。
【0071】
発泡セルは樹脂(B)中に存在するため、発泡セルの周囲は樹脂(B)の膜で覆われている。つまり本発明の発泡体は、気泡、樹脂(B)、樹脂(A)の3層構造となる。そのため本発明の発泡体は、単に樹脂中に発泡セルが分散している発泡体よりも機械強度、特に破断強度特性に優れる。
その理由は、気泡を内包する樹脂(B)の大きさが10μm以下と小さく、かつ、本来は機械特性の面からは欠陥点となる気泡を、比較的軟質の樹脂(B)が取り囲んでいるためであると考えられる。
【0072】
また発泡体における発泡セルの密度(セル密度)は、好ましくは1×10個/cm以上、さらに好ましくは1010個/cm以上である。上限に制限はないが、通常は1016個/cm以下である。セル密度とは、発泡体中に占める単位体積当たりの発泡セルの個数である。発泡セルは樹脂(B)の粒子中に存在するが、樹脂(B)の一粒子に、複数の発泡セルが存在する可能性もある。したがって、発泡セルの個数とは、樹脂(B)の粒子の数とは限らず、実際の発泡セルの個数である。発泡セルの密度が高まれば、例えば発泡体の光反射率や拡散率がさらに向上する。発泡セルの密度は、発泡倍率とセル径とを用いて、以下の式で求められる。
【0073】
(3/4)×(1/3.14)×(2/セル径)×(1−1/発泡倍率)×1012
【0074】
上記式においてセル径は、発泡セルの長径の平均値とすればよい。発泡セルの長径の平均値の測定は、前述の発泡セルを含む樹脂(B)粒子の長径の平均値の測定と同様に行えばよい。また、発泡倍率はMIRAGE型電子比重計(MD−200S)を用いて、非発泡体の比重(T)と、発泡体の比重(T)とを測定し、T/Tとすればよい。
【0075】
本発明の発泡体の形状は特に限定されないが、本発明の発泡セルを安定して形成し、且つ小さくするという観点から、厚みが10μm以上1mm以下が好ましく、20μm以上0.6mm以下が更に好ましい。発泡体の厚さは、発泡体の薄膜のTD方向の切断面を、走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社:JSM-6380)で100倍観察して求めればよい。
【0076】
このように、本発明の発泡体の発泡セルは、樹脂(B)の粒子中に形成されている。これは、樹脂(A)と、樹脂(A)中に微粒子として分散させた樹脂(B)のガラス転移温度が、適切に選択されているためである。
【0077】
本発明の発泡体は、任意の用途に用いることができる。たとえば、緩衝材、断熱材、防音材、包装材、電気絶縁材、光反射材などとして用いてもよい。特に本発明の発泡体は、その発泡セルを微細構造にすることができ、かつ発泡セル密度を高めることができるので、光反射材として用いることが好ましい。樹脂層と空気層との界面が多いと、光線反射率が高まり、光拡散性能が高まる。
【実施例】
【0078】
以下において、本発明を、実施例を参照してより詳細に説明する。本発明の範囲は、これらの実施例によって限定して解釈されてはならない。
【0079】
発泡体を製造するための装置として、図1に示されるタンデム型の押出機を準備した。タンデム型の押出機は、第1押出機1と、第2押出機3と、それらを互いに連結する連結管2とを有する。第2押出機3の吐出口には圧力制御サーキュラーダイス4が設けられ、ダイス4から発泡体5が吐出される。圧力制御サーキュラーダイス4の径を800mmとした。
【0080】
第1押出機1にはホッパー6が設けられる。ホッパー6を通じて第1押出機1に、混合機7で混合された樹脂8が供給される。また第1押出機1には、発泡剤供給部9が設けられる。発泡剤供給部9を通じて第1押出機1に、発泡剤ボンベ14に収容された発泡剤が供給される。発泡剤ボンベ14から発泡剤供給部9への経路には、冷媒循環機13、発泡剤用定量ポンプ12、保圧弁11、直接質量流量計10が配置される。
【0081】
第1押出機1は単軸押出機(L/D=30)であって、スクリュー径は50mmである。第2押出機3は単軸押出機(L/D=25)であって、スクリュー径は65mmである。
【0082】
樹脂混合物を、ホッパーから第1押出機に供給し、第1押出機内部のスクリューを稼動して可塑化溶融するとともに、冷媒循環機で冷却した液化二酸化炭素を、定量ポンプで制御しながら第1押出機途中のバレル内に供給した。第1押出機から第2押出機に移動する間に、発泡剤の二酸化炭素を十分に溶解させた。次いで、第2押出機の内部のスクリューを稼動して、溶融樹脂組成物を、押出機の内部圧力を維持しながら圧力制御サーキュラーダイスに導き、更にダイス出口より押出して発泡させ、発泡体フィルムを得た。
【0083】
さらに得られた発泡体フィルムを面プレス加工した。
【0084】
原料として用いた樹脂の種類と重量比率;溶融樹脂の重量に対する、溶融樹脂に溶解した二酸化炭素の重量の割合;ダイスのリップ間隔;ダイスの温度;ダイスの圧力などを表1(図2および図3)に示した。各実施例または比較例で用いた樹脂は以下の通りである。
【0085】
各樹脂のガラス転移温度(Tg)は、市販の示差走査熱量計(DSC)を用い、10℃/分の速度にて昇温したときの吸熱ピーク位置をもって、Tgと定義した。測定装置は、セイコーインスツル(株)製の示差走査熱量計(EXSTAR DSC6220)とした。各樹脂のムーニー粘度は、JISK6300−1、ムーニー粘度計による粘度およびスコーチタイムの求め方に準拠し、125℃の値とした。
【0086】
樹脂A1:環状ポリオレフィン(三井化学(株)製アペル6015T)
260℃MFR:7(g/10min.)
Tg:145℃
樹脂A2:ポリスチレン(日本ポリスチレン(株)製GPPS、G590)
200℃MFR:3.5(g/10min.)
Tg:95℃
【0087】
樹脂B1:エチレン−プロピレンゴム(三井化学(株)製タフマーP−480)
220℃MFR:1.8(g/10min.)
Tg:−60℃
樹脂B2:エチレン−プロピレンゴム(三井化学(株)製EPT X−3012P)
125℃ムーニー粘度:8
Tg:−70℃
【0088】
ポリプロピレン(日本ポリプロ(株)製ノバテックPP BC−4)
230℃MFR:5(g/10min.)
Tg:5℃
【0089】
[実施例1]
樹脂(A)として、環状ポリオレフィン(アペル6015T)を;樹脂(B)として、エチレン−プロピレンゴム(タフマーP−480)を用いた。樹脂(A):樹脂(B)=90:10(重量部)とした。樹脂(A)と樹脂(B)との混合物を、(株)プラスチック工学研究所社製の30mmφの同方向噛み合い型の二軸押出機BT−30−Sを用いて、温度250℃、吐出量8kg/hで押出し、樹脂(B)が樹脂(A)中に微分散した樹脂混合物(ペレット)を得た。なお、ダイスリップ間隔を0.1mmとし、かつダイス圧力を28MPaとした。
【0090】
[実施例2]
ダイスリップ間隔を0.2mmとし、かつダイス圧力を20MPaとした以外は実施例1と同様にして、樹脂(B)が樹脂(A)中に微分散した樹脂混合物(ペレット)を得た。
【0091】
[実施例3]
ダイスリップ間隔を0.05mmとし、かつダイス圧力を30MPaとした以外は実施例1と同様にして、樹脂(B)が樹脂(A)中に微分散した樹脂混合物(ペレット)を得た。
【0092】
[実施例4]
樹脂(A)と樹脂(B)の混合比を、樹脂(A):樹脂(B)=80:20(重量部)とし、かつダイス温度およびダイス圧力を微調整した以外は実施例1と同様にして、樹脂(B)が樹脂(A)中に微分散した樹脂混合物(ペレット)を得た。
【0093】
[実施例5]
樹脂(A)として、ポリスチレン(GPPS、G590)を;樹脂(B)として、エチレン−プロピレンゴム(タフマーP−480)を用いた。樹脂(A):樹脂(B)=90:10(重量部)とした。樹脂(A)と樹脂(B)の混合物を、(株)プラスチック工学研究所社製の30mmφの同方向噛み合い型の二軸押出機を用いて、温度210℃、吐出量9kg/hで押出し、樹脂(B)が樹脂(A)中に微分散した樹脂混合物(ペレット)を得た。
【0094】
[実施例6]
樹脂(A)として、ポリスチレン(GPPS、G590)を;樹脂(B)として、エチレン−プロピレンゴム(EPT X−3012P)を用いて、樹脂(A):樹脂(B)=80:20(重量部)とし、かつダイス温度およびダイス圧力を微調整した以外は、実施例5と同様にして、樹脂(B)が樹脂(A)中に微分散した樹脂混合物(ペレット)を得た。
【0095】
[実施例7]
樹脂(B)として、ポリプロピレン(PP BC−4)を用いて、かつダイス圧力を微調整した以外は実施例1と同様にして、樹脂(B)が樹脂(A)中に微分散した樹脂混合物(ペレット)を得た。
【0096】
[比較例1〜2]
比較例1では、環状ポリオレフィン(アペル6015T)を単独で;比較例2では、ポリスチレン(GPPS、G590)を単独で用いた。ダイス圧力とダイス温度を微調整したこと以外は、実施例と同様の条件で押出発泡した。
【0097】
[比較例3]
ダイス圧力を下げて(28MPa→14MPa)、かつダイス温度を微調整したこと以外は、実施例1と同様に実施した。
【0098】
[比較例4]
実施例1と同様の比率の樹脂(A)と樹脂(B)の混合物を、二軸押出機で混練するのではなく、そのままペレットの状態で、手作業でブレンドした。得られた混合物を直接押出機に供給し、分散粒子(樹脂(B)の粒子)の径(ドメイン分散径)が大きい(0.2μm→4.2μm)樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を、ダイス圧力とダイス温度を微調整したこと以外は、実施例1と同様の条件で押出発泡した。
【0099】
[比較例5]
実施例1と同様の樹脂組成物を、ダイスリップ間隔を大きくして(0.1mm→0.3mm)、かつダイス圧力とダイス温度を微調整したこと以外は、実施例1と同様の条件で押出発泡した。
【0100】
[比較例6]
樹脂(A)として、ポリプロピレン(PP BC−4)を;樹脂(B)として、エチレン−プロピレンゴム(タフマーP−480)を用いた。「樹脂(A):樹脂(B)=90:10(重量部)」とした。ダイス圧力とダイス温度を微調整したこと以外は、実施例1と同様の条件で押出発泡した。
【0101】
[参考例]
発泡成形されていない、環状ポリオレフィン(アペル6015T)のシートである。
【0102】
表1(図2参照)および表2(図3参照)には、得られた発泡体の物性として、発泡セル径、発泡倍率、発泡体の厚さ、破断強度が示される。各物性値は、前述の測定手順により算出した。破断強度は、得られた発泡シートを10×100mmの大きさに裁断し;市販の引張試験機を用いて23℃の温度にて、裁断したシートの破断時の応力を測定し、破断強度とした。測定におけるチャック間距離を50mmとし、ヘッドスピードを500mm/分とした。
【0103】
実施例1〜7で得られた発泡体の発泡セル径(発泡セルを含有する樹脂(B)の微粒子の径)は、いずれも10μm以下であり、中でも実施例1および3〜6で得られた発泡体の発泡セル径は、4μm以下である。一方、樹脂(A)のみを用いた比較例1および2で得られた発泡体の発泡セル径は、10μmを超えている。さらに、実施例と同様の樹脂を用いた比較例3〜6で得られた発泡セル径も、10μmを超えている。また、実施例1〜7で得られた発泡体の破断強度も、比較例1〜6で得られた発泡体よりも高い。
【0104】
これらの結果から、ガラス転移温度を適切に選択した樹脂(A)および樹脂(B)を成分とし、樹脂(A)中に適切な粒子径の樹脂(B)の粒子が分散された樹脂組成物を、押出機のダイス圧力や、ダイスリップ間隔などを適切に選択して発泡させれば、発泡セルを微細化できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明の発泡体は、連続押出方法により製造されるのでコスト面でも優れる。また従来の発泡体では、気泡セルが機械強度における欠陥点となっていたが、その欠点も本発明により克服され、十分に機械強度が保持された発泡体が得られる。さらに本発明の発泡体は、その発泡セルが微細化され、かつ発泡セルの密度を高められるので、光反射材として用いることができる。
【符号の説明】
【0106】
1 第1押出機
2 連結管
3 第2押出機
4 圧力制御サーキュラーダイス
5 発泡体
6 ホッパー
7 混合機
8 樹脂
9 発泡剤供給部
10 直接質量流量計
11 保圧弁
12 発泡剤用定量ポンプ
13 冷媒循環器
14 発泡剤ボンベ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂(A)と、前記樹脂(A)中に非相溶に分散混合されている粒子状の樹脂(B)と、発泡剤と、を含む溶融樹脂組成物を準備するステップと、
前記溶融樹脂組成物を連続的に押出発泡して発泡体を得るステップと、を含み、
前記押出発泡において、前記樹脂(B)において発泡剤を発泡させて、気泡を内包し、粒子径が10μm以下である粒子状の樹脂(B)を形成する、発泡体の製造方法。
【請求項2】
前記樹脂(A)のガラス転移温度は50℃よりも高く、かつ、
前記樹脂(B)のガラス転移温度は、前記樹脂(A)のガラス転移温度よりも50℃以上低い、請求項1に記載の発泡体の製造方法。
【請求項3】
前記樹脂(A)は、ポリスチレン樹脂または環状ポリオレフィン樹脂であり、
前記樹脂(B)は、ポリプロピレン樹脂またはポリエチレン樹脂またはエラストマーである、請求項1または2に記載の発泡体の製造方法。
【請求項4】
前記樹脂(B)の平均粒径は、1μm以下である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の発泡体の製造方法。
【請求項5】
前記発泡剤は、超臨界状態の物理発泡剤である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の発泡体の製造方法。
【請求項6】
前記溶融樹脂組成物を連続的に押出発泡する押出機の、ダイス内部の圧力が20MPa以上、かつダイスのリップ間隔が0.2mm以下である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の発泡体の製造方法。
【請求項7】
前記発泡体は、1mm以下の厚さの樹脂シートまたはフィルムである、請求項1〜6のいずれか一項に記載の発泡体の製造方法。
【請求項8】
前記気泡を内包する粒子状の樹脂(B)の直径の平均値が0.1μm以上10μm以下であり、かつ発泡セルの密度が10個/cm以上1016個/cm以下である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の発泡体の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の製造方法で製造される、厚みが10μm以上1mm以下のシートまたはフィルム状の発泡体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−138391(P2010−138391A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−258994(P2009−258994)
【出願日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】