説明

発泡体用糖類含有組成物、発泡体の製造方法、及び発泡体

【課題】発泡体用糖類含有組成物とポリイソシアネート化合物とを混合・反応させることにより、耐燃焼性に優れた発泡体を形成し得る発泡体用糖類含有組成物、該発泡体用糖類含有組成物を使用した発泡体の製造方法、及び該製造方法により製造される発泡体を提供すること。
【解決手段】糖類、触媒及び水を含み、ポリイソシアネート化合物と混合・反応させて発泡体を形成する発泡体用糖類含有組成物であって、前記糖類合計100重量部に対して水を20〜70重量部含有することを特徴とする発泡体用糖類含有組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた耐燃焼性を有する発泡体を形成し得る糖類含有組成物、該組成物を使用した発泡体の製造方法、及び発泡体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、断熱材、構造材として建築用途、冷蔵庫等の家電製品、自動車等に使用される発泡体の代表的なものとして硬質ポリウレタンフォームがある。かかる硬質ポリウレタンフォームは建築現場においていわゆる現場発泡法による方法、また生産工場においてライン発泡装置等による方法等によって製造される。通常、硬質ポリウレタンフォームは、イソシアネート基を含有するポリイソシアネート化合物とポリオール組成物とを混合・反応させることにより製造される。
【0003】
近年、市場において、硬質ポリウレタンフォームの難燃性を向上するのみならず、優れた耐燃焼性を有する硬質ポリウレタンフォームが要求されている。一般に、硬質ポリウレタンフォームの耐燃焼性を向上する手段として、難燃剤の使用量の増量、無機充填剤等の添加、あるいは硬質ポリウレタンフォーム内に分解温度の高いイソシアヌレート結合等を導入する方法等がある。
【0004】
しかし、近年の環境問題を考慮すると、ハロゲンやリンを含有する難燃剤の使用量を増量することは好ましくない。また、無機充填剤、例えばSbを添加した場合、硬質ポリウレタンフォームの耐燃焼性は向上するものの、毒性を考慮するとSbの使用は好ましくなく、一方、例えばAl(OH)は多量に添加しないと硬質ポリウレタンフォームの耐燃焼性の向上に寄与しないため、ポリオール組成物の粘度上昇やフォームの発泡阻害を引き起こす等の問題が発生する。また、例えば硬質ポリウレタンフォーム内にイソシアヌレート結合等を導入する方法は、製造条件の制御に高度な技術と設備が必要である。加えて、ポリオール組成物とポリイソシアネート化合物とを反応させて得られる、主としてウレタン結合を有する硬質ポリウレタンフォームは基本的に燃焼し易いため、難燃剤の増量、無機充填剤の添加、あるいはイソシアヌレート結合等を導入する方法等によっても、硬質ポリウレタンフォームの耐燃焼性を向上することは極めて困難であった。
【0005】
下記特許文献1には、分子中にヒドロキシル基を少なくとも2つ含有する生分解性物質を溶解状態で含むポリオール組成物とポリイソシアネート化合物と無機充填剤とを含有する混合物を水の存在下で反応させて硬質ポリウレタンフォームを製造することにより、耐熱性及び難燃性に優れた硬質ポリウレタンフォームが得られることを開示している。しかし、かかる硬質ポリウレタンフォームにおいても、耐燃焼性が充分に向上するものではない。
【0006】
【特許文献1】特開2005−350638号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、発泡体用糖類含有組成物とポリイソシアネート化合物とを混合・反応させることにより、耐燃焼性に優れた発泡体を形成し得る発泡体用糖類含有組成物、該発泡体用糖類含有組成物を使用した発泡体の製造方法、及び該製造方法により製造される発泡体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、以下に示す発泡体用糖類含有組成物により上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明に係る発泡体用糖類含有組成物は、糖類、触媒及び水を含み、ポリイソシアネート化合物と混合・反応させて発泡体を形成する発泡体用糖類含有組成物であって、前記糖類合計100重量部に対して水を20〜70重量部含有することを特徴とする。
【0010】
かかる糖類含有組成物を使用すれば、ポリイソシアネート化合物と混合・反応させて発泡体を形成した場合、コーンカロリー試験による不燃材料の認定を取得可能である、極めて耐燃焼性に優れた発泡体が得られる。
【0011】
ここで、このような耐燃焼性に優れた発泡体が得られる理由としては、通常の硬質ポリウレタンフォームのように、ポリオール化合物とポリイソシアネート化合物との反応により発泡体中にウレタン結合が主として形成されるのではなく、かかる発泡体においては水とイソシアネートとの反応により、発泡体中に主としてウレア結合が形成されるためであると推測される。加えて、糖類中の水酸基の一部は、発泡体形成後もイソシアネート基と反応せず、発泡体中に残存するため、発泡体が燃焼する際、糖類の水酸基が脱水縮合することで燃焼が抑制される。その結果、極めて耐燃焼性に優れた発泡体が得られるものと推測される。
【0012】
糖類含有組成物に含まれる水の量は、糖類合計100重量部に対して20〜70重量部であり、得られる発泡体の耐燃焼性をより向上し、発泡体の収縮等の問題を抑制するためには、糖類合計100重量部に対して30〜60重量部が好ましく、糖類合計100重量部に対して40〜55重量部がより好ましい。
【0013】
上記の発泡体用糖類含有組成物において、前記糖類は、スクロース、フルクトース、グルコース及びマルトースからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0014】
かかる糖類を含有する組成物を使用することにより、より耐燃焼性に優れた発泡体が得られる。耐燃焼性に優れた発泡体を得るためには、糖類含有組成物中の糖類がスクロースであることがさらに好ましい。
【0015】
別の本発明に係る発泡体の製造方法は、上記の発泡体用糖類含有組成物とポリイソシアネート化合物とを混合して発泡原液組成物とし、前記発泡原液組成物を反応させて発泡体とすることを特徴とする。
【0016】
上記の製造方法によれば、コーンカロリー試験による不燃材料の認定を取得可能である、極めて耐燃焼性に優れた発泡体が得られる。かかる製造方法により得られる発泡体は、通常の硬質ポリウレタンフォームの各種用途において使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明において使用される糖類としては、例えば、スクロース、ラクトース、トレハロース、イソトレハロース、コージビオース、ソホロース、ニゲロース、ラミナリビオース、マルトース、セロビオース、イソマルトース、ゲンチオビオース等の二糖類、セドヘプツロース、コリオース等のヘプトース類、グルコース、フルクトース、アロース、タロース、グロース、アルトロース、マンノース、ガラクトース、イドース、プシコース、ソルボース、タガトース等のヘキソース類、リボース、リキソース、キシロース、アラビノース、アピオース、リブロース、キシルロース等のペントース類等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの糖類は、単独で使用しても良く、2種類以上の糖類を併用しても良い。また、これらの糖類は、水に予め溶かした水溶液として組成物中に添加しても良い。
【0018】
得られる発泡体の耐燃焼性を考慮した場合、上記の糖類の中では二糖類及びヘプトース類が好ましく、スクロース、フルクトース、グルコース及びマルトースがより好ましい。
【0019】
触媒としては、公知の硬質ポリウレタンフォーム用のイミダゾール系触媒、第3級アミン系触媒、有機金属系触媒等の触媒が限定なく使用可能である。
【0020】
イミダゾール系触媒としては、N置換イミダゾール化合物であって、触媒活性を有する化合物は限定なく使用可能であり、具体的には、1−イソブチル−2−メチルイミダゾール、1−メチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、1−メチル−2−プロピルイミダゾール、1−n−ブチル−2−メチルイミダゾール等が例示される。
【0021】
第3級アミン系触媒としては、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミンやN,N,N’,N’−テトラメチルヘキサメチレンジアミン(カオライザーNo.1)、N,N,N’,N’,N”−ペンタメチルジエチレントリアミン(カオライザーNo.3)等のN−アルキルポリアルキレンポリアミン類、ジアザビシクロウンデセン(DBU)、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン(ポリキャット−8)、トリエチレンジアミン、N−メチルモルホリン、NIAX−A1等が例示される。
【0022】
有機金属系触媒としては、ジブチル錫ジラウレート、オクチル酸錫等の錫化合物が例示される。有機金属系触媒は、水により徐々に加水分解される傾向があり、本発明においては、イミダゾール系触媒の使用がより好ましい。
【0023】
糖類含有組成物と混合、反応させて発泡体を形成するポリイソシアネート化合物としては、取扱の容易性、反応の速さ、得られる発泡体の物理特性が優れていること、低コストであること等から、液状MDIを使用する。液状MDIとしては、粗製MDI(c−MDI)(スミジュール44V−10、スミジュール44V−20等(住化バイエルウレタン)、ミリオネートMR−200(日本ポリウレタン工業))、ウレトンイミン含有MDI(ミリオネートMTL(日本ポリウレタン工業))等が使用される。液状MDIに加えて、他のポリイソシアネート化合物を併用してもよい。併用するポリイソシアネート化合物としては、ポリウレタンの技術分野において公知のポリイソシアネート化合物は限定なく使用可能である。
【0024】
本発明においては、上記の化合物に加えて、本発明の特徴を損なわない範囲でポリオール化合物を添加してもよい。具体的には、例えば、エチレングリコール、トリエチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、平均分子量が150〜500のポリオキシエチレングリコール等のグリコールから選択される1種以上と芳香族ポリカルボン酸との芳香族ポリエステルポリオール;芳香族ジアミンを開始剤としてエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等の環状エーテル化合物、好ましくはプロピレンオキサイドのみ、又はプロピレンオキサイドとエチレンオキサイドを開環付加させた実質的に四官能の第三級アミノ基を有する芳香族アミンポリオール;ヒドロキノン、ビスフェノールA、キシリレングリコール等の芳香族化合物を開始剤とした芳香族ポリエーテルポリオール;ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、グリセリン等の脂肪族多官能アルコールにエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等の環状エーテル化合物、好ましくはプロピレンオキサイドのみ、又はプロピレンオキサイドとエチレンオキサイドを開環付加させた脂肪族ポリエーテルポリオール;トリエタノールアミンやエチレンジアミン等の脂肪族ポリアミンを開始剤とした脂肪族アミンポリオール化合物等を添加してもよい。これらのポリオール化合物の添加量は、得られる発泡体の耐燃焼性を損なわない程度であれば、特に限定されるものではない。
【0025】
本発明の発泡体の製造に際しては、上記成分の他に、公知の整泡剤、難燃剤、着色剤、酸化防止剤等が使用可能である。
【0026】
整泡剤としては、硬質ポリウレタンフォームの技術分野において使用される公知の整泡剤が限定なく使用可能である。具体的には、B−8465(ゴールドシュミット)、TY−19、SH−193、S−824−02、SZ−1704(東レダウコーニングシリコン)等の整泡剤を使用することができる。整泡剤は2種以上を使用してもよい。整泡剤の添加量は糖類合計100重量部に対して0.5〜5重量部以下であり、1〜3重量部であることが好ましい。
【0027】
難燃剤としては、ハロゲン含有化合物、有機リン酸エステル類、水酸化アルミニウム等の金属化合物が例示される。
【0028】
上記の有機リン酸エステル類としては、リン酸のハロゲン化アルキルエステル、アルキルリン酸エステルやアリールリン酸エステル、ホスホン酸エステル等が使用可能であり、具体的にはトリス(β−クロロエチル)ホスフェート(CLP、大八化学製)、トリス(β−クロロプロピル)ホスフェート(TMCPP、大八化学製)、トリブトキシエチルホスフェート(TBXP、大八化学製)、トリエチルホスフェート(TEP、大八化学製)、トリブチルホスフェート、クレジルフェニルホスフェート、ジメチルメチルホスホネート等が例示でき、これらの1種以上が使用可能である。有機リン酸エステル類の添加量は糖類合計100重量部に対して5〜50重量部以下であり、15〜35重量部であることが好ましい。
【0029】
本発明における発泡体の製造方法においては、例えば糖類を水に溶解した水溶液に触媒を添加した糖類含有組成物と、ポリイソシアネート化合物に難燃剤及び整泡剤を添加した組成物とを、公知のミキサー、発泡機等を用いて混合・反応させることにより発泡体を製造することができる。かかる製造方法により製造される発泡体の自由発泡密度は、10〜30kg/mであり、好ましくは10〜20kg/mである。
【実施例】
【0030】
表1の上段に記載した組成にて糖類含有組成物及びポリイソシアネート化合物含有組成物を調製した。使用した原料の内容、特性は以下の通りである。
【0031】
(糖類含有組成物)
a)糖類
(A)スクロース(ナカライテスク社製;水酸基価=1310)
(B)グルコース及びフルクトース水溶液(コーヒーシロップ;上島珈琲社製)
b)水
c)触媒
イミダゾール系触媒 1−イソブチル−2−メチルイミダゾール(Kao−No.120;花王社製)
【0032】
(ポリイソシアネート化合物含有組成物)
d)ポリイソシアネート化合物
粗製MDI(スミジュール44V−20;住化バイエルウレタン社製;粘度200mPa・s)
e)難燃剤
トリエチルホスフェート(TEP;大八化学社製)
f)整泡剤
ポリオキシアルキレン、ジメチルポリシロキサンコポリマー(TY−19;東レダウコーニング社製)
【0033】
(評価)
1)フォーム密度(kg/m
作製した発泡体から、100mm×100mm,厚さ100mmの発泡体サンプルを切り出し、重量測定を行って密度を算出した。
【0034】
2)耐燃焼性(コーンカロリー試験)
作製した発泡体サンプルから100mm×100mm、厚さ20mmの評価サンプルを切り出し、ISO−5660に準拠し、放射熱強度50kW/mにて20分間加熱したときの最大発熱速度(発熱速度、HRR)及び総発熱量(THR)を測定した。この測定方法は、建築基準法施行令第108条の2に規定される公的機関である建築総合試験所にて、コーンカロリーメーター法による基準に対応するものとして規定された試験法である。この試験において、上記条件の下、HRRが200kW/mを超えず、20分間のTHRが8MJ/m未満の場合、不燃材料として合格であり(表1において、○で表す)、HRRとTHRのいずれか、又は両方が前記範囲の範囲外である場合、不燃材料として不合格である(表1において、×で表す)。
【0035】
(実施例)
各化合物を表1上段の配合量に従い混合して糖類含有組成物及びポリイソシアネート化合物含有組成物を調整し、この糖類含有組成物とポリイソシアネート化合物含有組成物との液比が100/80、糖類含有組成物及びポリイソシアネート化合物含有組成物の液温が共に25℃となるように調整した後、糖類含有組成物とポリイソシアネート化合物含有組成物とをラボミキサーにて撹拌混合(8000rpm−3秒間)することにより、発泡原液組成物を調整した。かかる発泡原液組成物を、幅1000mm、長さ400mm、高さ170mmのモールドに投入し、50℃で60秒間キュアすることにより、発泡体サンプルを得た。結果を表1下段に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
実施例1及び2で得られた発泡体は、コーンカロリー試験において発泡体が燃焼することなく、不燃材料の認定が取得可能である、極めて耐燃焼性に優れたものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖類、触媒及び水を含み、ポリイソシアネート化合物と混合・反応させて発泡体を形成する発泡体用糖類含有組成物であって、
前記糖類合計100重量部に対して水を20〜70重量部含有することを特徴とする発泡体用糖類含有組成物。
【請求項2】
前記糖類は、スクロース、フルクトース、グルコース及びマルトースからなる群より選択される少なくとも1種である請求項1記載の発泡体用糖類含有組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載の発泡体用糖類含有組成物とポリイソシアネート化合物とを混合して発泡原液組成物とし、前記発泡原液組成物を反応させて発泡体とする発泡体の製造方法。
【請求項4】
請求項3記載の方法により製造される発泡体。

【公開番号】特開2009−73927(P2009−73927A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−243992(P2007−243992)
【出願日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】