説明

発泡成形体の製造方法及び発泡成形体

【課題】 二酸化炭素を含浸させた熱可塑性樹脂を射出発泡成形することにより、発泡成形体を簡便かつ効率的に製造する方法、及びその発泡成形体を提供すること。
【解決手段】 30℃以下かつ6.5MPa以下の条件下で、熱可塑性樹脂に二酸化炭素を0.2〜2.9質量%含浸させた後、該二酸化炭素含浸樹脂を射出成形機のシリンダーの最上流部に供給して、発泡成形することを特徴とする肉厚が1mmを越える発泡成形体の製造方法、及びその方法により得られた発泡成形体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡成形体の製造方法及び発泡成形体に関し、詳しくは、二酸化炭素を含浸させた熱可塑性樹脂を射出発泡成形することにより、発泡成形体を効率的に製造する方法、及びその発泡成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般電子機器、ハンディパソコン、携帯電話等のモバイル電子機器、及び複写機等のシャーシー部品や内部機構部品等においては、特に高い寸法精度と取扱い時の各種強度が要求されると共に、より一層の薄肉軽量化が要望されている。この要望に応えるためには、溶融樹脂の流動性を高め、発泡成形体とすることが考えられる。
溶融樹脂の流動性は、熱可塑性樹脂の射出成形において、金型キャビティへの充填容易性を決めるだけでなく、充填後に金型キャビティ内、特に樹脂流動末端の薄肉部の樹脂に十分な圧力が伝わるか否かを左右し、その結果として成形品の寸法精度にも影響を与える重要な因子である。
【0003】
熱可塑性樹脂の流動性を表す指標の一つとして、溶融粘度がある。熱可塑性樹脂は溶融粘度が高く、成形材料として流動性に劣るため、薄肉の部品では樹脂が完全に充填できなくなったり、転写性が不十分となることも多い。
溶融樹脂の粘度を下げて流動性を向上させる方法として、成形温度を上げる方法がある。しかし、成形温度を上げると、樹脂組成物によっては樹脂自身の熱分解や添加剤等の熱分解が起こり、成形体の強度のみならず、樹脂劣化物による異物の発生、金型汚れ、着色(変色)などの問題が生じる。また、金型内の樹脂の冷却速度が遅くなり、成形サイクル時間が長くなるという問題もある。
【0004】
一方、二酸化炭素等のガスを溶解させた溶融樹脂を用いて、発泡成形品を得ることが知られている。例えば、特許文献1及び2には、二酸化炭素を発泡剤として用い、押出機のシリンダーの途中で二酸化炭素を溶融樹脂中に供給し、微細で高度に発泡したマイクロセルラーフォームを成形する方法(Mucell法)が開示されている。
しかしながら、この方法は、耐圧性シリンダーや二酸化炭素供給装置等の特別な設備を必要とする。また、二酸化炭素と溶融樹脂との接触時間が短いため、気泡径を微細に制御することができず、均一な微細発泡成形品を量産し得るまでには至っていない。
【0005】
特許文献3には、界面活性剤を添加したペレット状材料を圧力容器に供給し、超臨界状態下でガスを浸透させた後、圧縮することによりタブレット状とし、これをシリンダに移送してプランジャで加圧しながら瞬時に溶融状態とした後、型内に押出して発泡成形する発泡構造体の製造方法が開示されている。しかしながら、この方法も、タブレット成形装置や高周波誘電加熱装置等の特別な設備を必要とし、また超臨界状態にする必要がある。
特許文献4には、圧力容器内で超臨界状態とした不活性流体を熱可塑性樹脂粉粒体に3〜10重量%含浸せしめた後、成形機に投入し成形、発泡させる樹脂発泡体の製造方法が開示されている。しかしながら、この方法も超臨界状態にする必要がある。
かかる状況から、二酸化炭素を用いた、より簡便で効率的な射出成形による発泡成形体の製造方法が望まれていた。
【0006】
【特許文献1】国際公開第89/00918号パンフレット
【特許文献2】米国特許第5334356号明細書
【特許文献3】特開平8−85129号公報
【特許文献4】特開平2003−261707号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の現状に鑑み、二酸化炭素を含浸させた熱可塑性樹脂を射出発泡成形することにより、発泡成形体を簡便かつ効率的に製造する方法、及びその発泡成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、温和な条件下で、比較的少量の二酸化炭素を予め含浸させて、射出発泡成形を行うことにより、上記課題を解決しうることを見出した。
すなわち、本発明は、
(1)30℃以下かつ6.5MPa以下の条件下で、熱可塑性樹脂に二酸化炭素を0.2〜2.9質量%含浸させた後、該二酸化炭素含浸樹脂を射出成形機のシリンダーの最上流部に供給して、発泡成形することを特徴とする肉厚が1mmを越える発泡成形体の製造方法、及び
(2)前記(1)に記載の方法により得られた発泡成形体、
を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明方法によれば、均一な微細発泡成形体を簡便かつ効率的に製造することができる。また、二酸化炭素含浸により樹脂の流動性が向上するため、成形加工時のトルク負荷を低減することができ、金型内の樹脂流動長を10〜25%程度増加することができる。さらに、成形温度を通常の温度域から10℃程度低下させることができるため、加熱による成形体の着色を抑制することができる。
また、本発明方法は、シャットオフノズルを装備した既存の射出成形機を用いることができ、特殊な設備を用いる必要がない。
さらに、得られる発泡成形体は均一な微細発泡成形体であり、成形加工性、低バリ性、寸法安定性、電気的特性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の発泡成形体の製造方法は、(i)30℃以下かつ6.5MPa以下の条件下で、熱可塑性樹脂に二酸化炭素を0.2〜2.9質量%含浸させること、及び(ii)該二酸化炭素含浸樹脂を射出成形機のシリンダーの最上流部に供給して、発泡成形することが大きな特徴である。
本発明において発泡成形体を構成する熱可塑性樹脂としては、一般にフィルム、シート、基板等の各種成形体材料として用いられ、二酸化炭素を含浸することができる樹脂であれば、特に制限はなく、非晶性熱可塑性樹脂、結晶性熱可塑性樹脂のいずれも使用することができる。
【0011】
非晶性熱可塑性樹脂としては、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリメタクリル系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂等が挙げられる。
ポリスチレン系樹脂としては、汎用ポリスチレン(GPPS)、ゴム強化ポリスチレン(HIPS)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS)アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)、スチレンーイソプレンースチレン共重合体(SIS)、スチレンーエチレン/ブチレンースチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−メチルメタクリレート共重合体、スチレン−メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体、スチレンーブタジエンゴム(SBR)等が挙げられる。ポリスチレン系樹脂の質量平均分子量(Mw)は50,000〜400,000が好ましい。
ポリカーボネート系樹脂としては、ビス(4−ヒドロキシフェニル)、ビス(3,5−ジアルキル−4−ヒドロキシフェニル)、又はビス(3,5−ジハロ−4−ヒドロキシフェニル)置換を有する炭化水素誘導体を有するポリカーボネートが好ましく、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)を有するビスフェノールA型ポリカーボネートが特に好ましい。ポリカーボネート系樹脂の質量平均分子量(Mw)は10,000〜50,000が好ましい。
【0012】
ポリメタクリル系樹脂としては、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、メチルメタクリレート−スチレン共重合体等が挙げられる。メタクリル系樹脂の質量平均分子量(Mw)は50,000〜600,000が好ましい。
シクロ(環状)オレフィン系樹脂としては、日本ゼオン株式会社製のシクロオレフィンポリマー、商品名「ZEONOR」、「ZEONEX」、三井化学株式会社製のエチレン・テトラシクロドデセン共重合体、商品名「アペル」等が好ましい。
ポリ塩化ビニル系樹脂としては、ポリ塩化ビニル(PVC)、塩化ビニル−エチレン共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。塩化ビニル系樹脂の質量平均分子量(Mw)は40,000〜200,000が好ましい。
その他の非晶性熱可塑性樹脂としては、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンオキサイド(PPO)、ポリアリレート(PAR)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアミドイミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ四フッ化エチレン、ポリビニルアセテート、ポリ塩化ビニリデン、液晶熱可塑性樹脂、及び生分解性樹脂等を挙げることができる。
【0013】
生分解性樹脂としては、脂肪族ポリエステル、ポリビニールアルコール(PVA)、セルロース誘導体等が挙げられる。脂肪族ポリエステルとしては、ポリ乳酸(PLA)樹脂及びその誘導体、ポリヒドロキシブチレート(PHB)及びその誘導体、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリエチレンアジペート(PEA)、ポリテトラメチレンアジペート、ポリグリコール酸(PGA)、ジオールとジカルボン酸の縮合物等が挙げられ、セルロース類としてはアセチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース等が挙げられる。
これらの中では、ポリ乳酸樹脂が好ましい。ポリ乳酸樹脂は、乳酸又はラクチドの重縮合物である。ポリ乳酸樹脂にはD体、L体、DL体の光学異性体があるが、それらの単独物又は混合物を含む。ポリ乳酸樹脂の質量平均分子量(Mw)は100,000〜400,000が好ましい。
【0014】
一方、結晶性熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン樹脂、特殊ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、飽和ポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)等が挙げられる。
ポリオレフィン樹脂としては、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−メタクリレート共重合体等のポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン、プロピレン−エチレン共重合体等の重量平均分子量(Mw)が30,000〜600,000のポリプロピレン樹脂、アイオノマー、ポリブテン、及び特殊ポリオレフィン樹脂等が挙げられる。
特殊ポリオレフィン樹脂としては、超高分子量ポリエチレン、超高分子量ポリプロピレン、シンジオタクチックポリプロピレン(ポリプロピレン単独重合体、プロピレン−エチレン共重合体、プロピレン−1−ブテン共重合体等)、ポリ4−メチル−ペンテン−1、環状ポリオレフィン系樹脂等が挙げられる。
【0015】
特殊ポリスチレン系樹脂としては、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)、α−メチルスチレン共重合体等が挙げられる。
ポリアミド系樹脂としては、ナイロン6、ナイロン66、芳香族ポリアミド、芳香族・脂肪族ポリアミド共重合体等が挙げられる。
飽和ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等が挙げられる。
ポリアセタール樹脂としては、ホモポリオキシメチレン、ポリオキシメチレン共重合体等が挙げられる。
その他の結晶性熱可塑性樹脂としては、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルニトリル、サーモトロピック液晶性樹脂(主鎖骨格中にパラオキシ安息香酸、芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸、ナフタレン環等の分子構造を含有するもの)等が挙げられる。
【0016】
上記の樹脂の中では、非晶性樹脂としては、特に、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリメタクリル系樹脂、及びシクロオレフィン系樹脂が好ましい。また、結晶性樹脂の中では、特に、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド系樹脂、及びポリフェニレンサレファイド樹脂が好ましい。
前記の熱可塑性樹脂は、一種単独で又は二種以上を混合して使用することができる。また、強度・耐熱性の付与、寸法精度の向上等を目的として、無機系又は有機系の充填剤を配合することができる。さらに添加剤として、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、着色剤等を配合することができる。
【0017】
熱可塑性樹脂は、射出成形機に供給する前に、予め二酸化炭素を0.2〜2.9質量%含浸させることが重要である。該樹脂に含浸させる二酸化炭素量が0.2質量%未満であると、成形体全体として均一な微細発泡成形体とすることができず、2.9質量%を超えると発泡成形性の制御が困難となるため、好ましくない。二酸化炭素の含浸量が、0.2〜2.9質量%、特に0.5〜2.6質量%の範囲であれば、射出成形機による成形体の発泡状態を制御することが容易になる。
また、成形体の肉厚が1mm以下の場合は、二酸化炭素の含浸量を2.0質量%未満にすると発泡しないか、又は発泡しても不均一な発泡体しか得られない。従って、本発明方法を採用する際は、成形体の肉厚が1mmを越えるようにすることが必要である。肉厚が1mmを超えていれば、二酸化炭素の含浸量が0.2重量%以上で均一な発泡体を得ることができる。
二酸化炭素の含浸方法に特に制限はない。例えば、熱可塑性樹脂の粉粒体を圧力容器に入れ、この圧力容器内に二酸化炭素を供給し、30℃(又は室温)以下で、かつ6.5MPa以下の条件下で所定時間保持して、樹脂粉粒体に二酸化炭素を含浸することができる。さらに、二酸化炭素の含浸は、30℃(又は室温)以下0℃までの範囲で好適に行うことができる。
【0018】
ここで、樹脂粉粒体とは、前記樹脂の粉末、粒、ペレット、タブレットなどの粉粒体を指称し、射出成形の原料として供給できる形態であれば特に制限されない。
含浸処理方式としては、バッチ式や、樹脂粉粒体を二酸化炭素の処理帯域に導入して連続的に処理する方式等を採用できる。
二酸化炭素は、窒素等よりも樹脂に対する浸透性に優れ、安価である点で可塑剤として最も好ましい。しかし,窒素は樹脂に対する溶解度は低いものの,発泡成形体の気泡径を小さくすることができる特徴がある。その為,二酸化炭素を窒素に変えても樹脂含浸による方法が採用できる。さらに,射出成形機による発泡に必要なガス量は0.2重量%以上あれば良い。ところで,二酸化炭素の含浸において、助剤として有機溶媒を0.05〜1質量%程度添加することもできる。
【0019】
用いることのできる有機溶媒としては特に制限はなく、アルコール系溶媒、ケトン系溶
媒、エーテル系溶媒の他、ベンゼン、トルエン、ポリオール等が挙げられる。
アルコール系溶媒としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、第3級ブタノール、イソブタノール、ジアセトンアルコール等が挙げられる。ケトン系溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。エーテル系溶媒としては、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、環状エーテル等が挙げられる。これらの中では、エタノール、プロパノール等のアルコール系溶媒、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒が特に好ましい。
【0020】
二酸化炭素の含浸は、好ましくは、室温下かつ1〜6MPa、特にボンベ圧(5.4〜5.7MPa)で二酸化炭素を圧力容器内に供給し、樹脂粉粒体を必要に応じて適宜撹拌しながら4〜6時間保持することにより行う。次いで、圧力容器を開放し、内部の樹脂粉粒体を取り出す。この際、樹脂粉粒体に含浸された二酸化炭素の一部、及び必要に応じて添加した有機溶媒が気体として樹脂粉粒体から放散されてゆくが、圧力解放後、常温で5時間以内であれば、含浸されている二酸化炭素の約2質量%程度が樹脂粉粒体内部に残存している。
そこで、得られた二酸化炭素の含浸した樹脂粉粒体に、二酸化炭素未含浸の樹脂粉粒体を混合して、二酸化炭素含浸量を樹脂粉粒体の0.2〜2.9質量%、好ましくは0.5〜2.6質量%に調整する。
【0021】
次に、この樹脂粉粒体を速やかに射出成形機のシリンダーの最上流部に供給して、射出成形を行う。射出成形機への樹脂粉粒体の供給は、射出成形機の通常の原料供給口に投入することにより行うことができる。射出成形機のシリンダー内の圧力、温度は、通常、二酸化炭素の超臨界状態の圧力、温度以上となっているので、シリンダー内で溶融樹脂に溶解した二酸化炭素が放散することはない。
射出成形は、樹脂粉粒体をなす熱可塑性樹脂の種類に応じた成形条件とするが、その際、射出成形機の金型において、溶融樹脂の圧力が開放されることで、溶融樹脂に含浸されている二酸化炭素が気化し、この気化した二酸化炭素の圧力により溶融樹脂が発泡して、種々の形状の発泡成形体とすることができる。
【0022】
本発明方法によれば、通常の射出成形機がそのまま使用でき、その成形条件は通常の条件となるので、成形効率が低下することもない。また、得られる発泡成形体は、発泡重量減少率が3〜20%、平均発泡セル径が10〜300μm、平均セル密度が5×108〜1×1011個/cm3の範囲にある、均一な微細発泡成形体であり、成形加工性、低バリ性、寸法安定性に優れている。
さらに、得られる発泡成形体には、二酸化炭素が殆ど残らないので、電気的特性が良好であり、アゾジカルボンアミドなどの化学発泡剤を使用して製造した発泡成形体のように、化学発泡剤の分解物が残って誘電特性などの電気的特性が低下するなどの不都合もない。
【実施例】
【0023】
次に、本発明を実施例によってさらに詳細に説明するが、本発明はこれによりなんら限定されるものではない。
【0024】
実施例1
市販のポリカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製、商品名:HL−4000、Mw:12,000)のペレットを90℃で5時間乾燥した後、このペレット(以下、「PCペレット−1」という)100gをステンレス金網製円筒状ロッド(45mmφ、長さ135mm)内に入れ、容量300mLのオートクレーブ(耐圧工業株式会社製)内に設置後、室温下、ボンベ圧5.5MPaで10時間二酸化炭素処理を行った。その後、オートクレーブ内の二酸化炭素を10分間かけて脱圧した。以下に示す質量法から算出したPCペレットの二酸化炭素(CO2)含浸量は8.6質量%であった。
CO2溶解量(質量%)={[CO2含浸後の円筒状ロッド+CO2含浸後のペレット質量(g)]−[CO2含浸前の円筒状ロッド質量(g)+CO2含浸前のペレット質量(g)]/含浸前のペレット質量(g)}×100
得られた二酸化炭素含浸PCペレット 100gと二酸化炭素未含浸のPCペレット−300gの混合物400gを、射出成形機(株式会社日本製鋼所製、商品名:J35ELIII−F)の原料供給口(シリンダーの最上流部)に直接投入した。なお、ペレット混合物の二酸化炭素含浸量は2.15質量%であった。
シリンダーの口系:25mm、スクリュー回転数:50rpm
射出条件:射出速度30mm/秒、120MPa、1.5秒、型締め20トン
保圧条件:25MPa、1.5秒、背圧:5MPa
成形温度:原料供給口250℃、ノズル280℃
金型温度:80℃
上記の射出成形条件下でダンベル試験片金型(ダンベル試験形状:厚み2mm、長さ103mm、試料片中心部幅5mm)を使用して発泡成形を行った。その結果、ゲートから試験片末端まで全体が均一に発泡した成形品が得られた。
得られた試験片発泡体の成形品重量は1.5765g(未発泡体の成形品重量は1.7953g)、密度は0.902(未発泡体の密度は1.128)であり、発泡減少率は14.2%、平均発泡セル径は30〜250μm、平均セル密度は5〜10×109個/cm3であった。
このポリカーボネート発泡体は、下記比較例2に記載のMucell法よりも成形品自体の均一発泡性に優れていた。
【0025】
実施例2
前記PCペレット−1 800gをステンレス金網製円筒状ロッド(98mmφ、長さ230mm)内に入れ、容量2000mLのオートクレーブ(耐圧工業株式会社製)内に設置後、室温下、ボンベ圧5.8MPaで22時間二酸化炭素処理を行った。その後、オートクレーブ内の二酸化炭素を15分間かけて脱圧した。このPCペレットの二酸化炭素含浸量を算出した結果、10.1質量%であった。
得られた二酸化炭素含浸PCペレット 100gと二酸化炭素未含浸のPCペレット−300gの混合物400gを、射出成形機(株式会社日本製鋼所製、商品名:J35ELIII−F)の原料供給口(シリンダーの最上流部)に直接投入した。なお、ペレット混合物の二酸化炭素含浸量は2.53質量%であった。
シリンダーの口系:25mm、スクリュー回転数:50rpm
射出条件:射出速度30mm/秒、100MPa、1.2秒、型締め20トン
保圧条件:25MPa、1.0秒、背圧:5MPa
成形温度:原料供給口250℃、ノズル270℃
金型温度:80℃
実施例1よりもノズル温度を10℃下げて、上記条件で成形した。成形機の回転力(トルク)は28%を示し、温度を下げても可塑化への影響は実施例1と変わらなかった。
上記の射出成形条件下でダンベル試験片金型(ダンベル試験形状:厚み2mm、長さ103mm、試料片中心部幅5mm)を使用して発泡成形を行った。その結果、ゲートから試験片末端まで全体が均一に発泡した成形品が得られた。
得られた試験片発泡体の重量は1.5009g(未発泡体の成形品重量は1.8371g)、発泡減少率は18.3%、平均発泡セル径は30〜200μm、平均セル密度は1〜10×1010個/cm3であった。
このポリカーボネート発泡体は、下記比較例2に記載のMucell法よりも成形品自体の均一発泡性に優れていた。
【0026】
比較例1
実施例1において、ボンベ圧5.6MPaで1時間二酸化炭素処理を行った以外は、実施例1と同様に行った。得られたPCペレットの二酸化炭素含浸量を算出した結果、3.14質量%であった。
このPCペレット40gと未処理PCペレット360gを混合したペレット400g(二酸化炭素含浸量0.31質量%)を用いて、実施例1と同様の条件下でダンベル試験片の発泡成形を行った。その結果、試験片内の発泡はゲート付近から試験片中央部まで大きな泡径(1mm以上)を有する低発泡体、中央から試験片末端は高発泡体となり、密度が異なる不均質な発泡体が得られた。
【0027】
比較例2
前記PCペレット−1を用いて、射出成形機のシリンダーの途中で二酸化炭素を溶融樹脂中に供給し、発泡体を製造した(Mucell法)。
シリンダーの口径:25mm、スクリュー回転数:50rpm,使用ガス:CO2
射出条件:射出速度10mm/秒、25MPa、1.25秒、型締め20トン
二酸化炭素圧力:15MPa、計量:20mm、切換:8mm
保圧条件:5MPa、1.5秒、背圧:5MPa,
成形温度:原料供給口250℃、ノズル290℃
金型温度:80℃
上記の射出成形条件下でダンベル試験片金型(ダンベル試験形状:厚み2mm、長さ103mm、試料片中心部幅5mm)を使用して発泡成形を行った。その結果、試験片末端部に比べ、ゲート付近から試験片の中央部にかけて発泡性が低下する傾向にあり、均一な発泡体を得るまでに至らなかった。
このポリカーボネート発泡体の発泡重量減少率は9.6%、平均発泡セル径は20〜200μm、平均セル密度1〜5×108個/cm3であった。
【0028】
実施例3
市販のポリプロピレン(日本ポリケム株式会社製、商品名:ノバテック、MI=4)のペレット(以下、「PPペレット−1」という)800gをステンレス金網製円筒状ロッド(98mmφ、長さ230mm)内に入れ、容量2000mLのオートクレーブ(耐圧工業株式会社製)内に設置後、室温下、ボンベ圧5.8MPaで24時間二酸化炭素処理を行った。その後、オートクレーブ内の二酸化炭素を10分間かけて脱圧した。このPPペレットの二酸化炭素含浸量を算出した結果、2.58質量%であった。
得られた二酸化炭素含浸PPペレット 500gを、射出成形機(株式会社日本製鋼所製、商品名:J35ELIII−F)の原料供給口(シリンダーの最上流部)に直接投入した。
シリンダーの口系:25mm、スクリュー回転数:100rpm
射出条件:射出速度20mm/秒、50MPa、2.0秒、型締め20トン
保圧条件:30MPa、10秒、背圧:7MPa
成形温度:原料供給口190℃、ノズル230℃
金型温度:50℃
上記の射出成形条件下でダンベル試験片金型(ダンベル試験形状:厚み2mm、長さ103mm、試料片中心部幅5mm)を使用して発泡成形を行った。その結果、ゲートから試験片末端まで全体が均一に発泡した成形品が得られた。
得られた試験片発泡体の成形品重量は1.1306g(未発泡体の成形品重量は1.3360g)、密度は0.902(未発泡体の密度は1.128)、発泡減少率は15.4%、平均発泡セル径は30〜200μm、平均セル密度は5〜10×109個/cm3であった。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の製造方法によれば、発泡成形体を簡便かつ効率的に製造することができる。また、得られる発泡成形体は、均一な微細発泡成形体であり、成形加工性、低バリ性、寸法安定性に優れている。このため、電子機器材料分野、自動車分野等における電子機器の部品、コネクター、ギア等として好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
30℃以下かつ6.5MPa以下の条件下で、熱可塑性樹脂に二酸化炭素を0.2〜2.9質量%含浸させた後、該二酸化炭素含浸樹脂を射出成形機のシリンダーの最上流部に供給して、発泡成形することを特徴とする肉厚が1mmを越える発泡成形体の製造方法。
【請求項2】
二酸化炭素を含浸させた熱可塑性樹脂を、射出成形機の原料供給口に投入する請求項1に記載の発泡成形体の製造方法。
【請求項3】
熱可塑性樹脂が、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリメタクリル系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド系樹脂、及びポリフェニレンサルファイド樹脂から選ばれる一種又は二種以上のものである請求項1又は2に記載の発泡成形体の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の方法により得られた発泡成形体。
【請求項5】
発泡重量減少率が3〜20%、平均発泡セル径が10〜300μm、平均セル密度が5×108〜1×1011個/cm3である請求項4に記載の発泡成形体。


【公開番号】特開2006−328319(P2006−328319A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−157905(P2005−157905)
【出願日】平成17年5月30日(2005.5.30)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(599100198)財団法人 滋賀県産業支援プラザ (12)
【出願人】(591252622)新生化学工業株式会社 (3)
【Fターム(参考)】