説明

発泡組成物および発泡組成物よりなる光学部材

【課題】 気泡微細化を可能にした光酸分解発泡法において、不活性ガスであり、かつ無臭性である二酸化炭素ガスを発生させることにより所望の厚さ、形状、及び発泡構造を有する発泡組成物を得る方法を提供する。
【解決手段】
活性エネルギー線の作用によって酸を発生する酸発生剤、および、発生した酸と反応して二酸化炭素を分解脱離する分解発泡性官能基を有する発泡性化合物を含有する発泡組成物において、該発泡性化合物が下記官能基(I):
【化1】


(ただし、R1は及びR2は水素または1価の有機残基を表し、R2は同種または異種のものが複数置換していて良い)
で表されるカルバミン酸エステル構造を含む分子量1000未満の低分子化合物、あるいは上記カルバミン酸エステル構造を繰り返し単位の一部に含む分子量1000以上の高分子化合物を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、独立した複数の気泡および/または連続している複数の微細気泡を発生させた微細気泡発泡体を得ることができる発泡組成物に関するものである。一般に、微細気泡発泡体とは気泡径10μm以下の発泡体をさすことが多い。本発明の発泡組成物から得られる発泡体は、光散乱性、光反射性、隠蔽性、白色性、不透明性、波長選択的反射および透過性、軽量性などの特性を自在に制御できる素材である。
【背景技術】
【0002】
慣用の発泡体は、ウレタンフォームや発泡スチロール、発泡ポリエチレンのような有機物材料からなるものが多い。有機材料からなる発泡体には、高分子材料をベースとした発泡プラスチックが多く、高分子材料の発泡時点では液状であり、かつ適度な粘性を有するという特性を活用したものが多い(非特許文献1または非特許文献2)。
種々の方法により製造した発泡体の特性として、断熱機能、緩衝およびクッション機能、軽量および浮揚機能、吸振動機能などが挙げられる。これらの有用な特性は、冷蔵庫や建築材料、食品用トレイ、サーマル記録紙、包装材料、サーフボード、音響機器など、幅広い分野で利用されている。さらに発泡体が連続気泡を有する場合は、表面積が著しく増加するため、ガス材料又は液体材料に対して、吸着機能および貯蔵機能、担体機能および触媒機能、並びに透過機能およびろ過機能などが発現し、家庭用スポンジや医療用分離膜などに利用されている。
【0003】
発泡体プラスチックの代表的な製造方法には、高分子材料中に発泡剤を混入する方法が大半を占めているが、延伸処理により発生する内部剥離を利用する方法(特許文献1)、高分子材料の架橋密度差から発生する相分離を利用する方法(特許文献2)なども用いられている。発泡剤を混入する方法に関しては、非常に多くの報告がなされており、大別すると化学的発泡剤と物理的発泡剤に分類される。
化学的発泡剤には、熱分解型と光分解型がある。熱分解型発泡剤は、熱分解して一種類以上の気体、例えば窒素や二酸化炭素などを放出する。アゾジカルボンアミドやアゾビスイソブチロニトリルなどに代表されるアゾ系化合物、p,p’−オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジドなどに代表されるスルホニルヒドラジド系化合物などの有機化合物および重炭酸ナトリウムなどの無機化合物が知られている。熱分解型発泡剤を用いた発泡法は、発泡剤の分解温度以下の温度領域で軟化させた高分子に混練又は溶解した後に、発泡剤の分解温度以上の温度領域に加熱するもので、広く実用化されている。必要に応じて発泡助剤、架橋剤、安定剤なども併用される。光分解型発泡剤は、紫外線や電子線などの活性エネルギー線により分解して例えば窒素等のガスを放出する。p−アジドベンズアルデヒドなどのアジド基を有する化合物およびp−ジアゾジフェニルアミンなどのジアゾ基を持つ化合物などがあげられる。光分解発泡剤を利用した発泡法は、エネルギー線照射で発泡、または照射後に加熱して発泡させるものである。また一般に高分子重合過程で気体を発生する有機化合物も化学的発泡剤に包含され、その代表的な材料にはポリウレタンなどがあげられる。ポリウレタンは、ポリオール(アルコール性水酸基である−OH基を2個以上持つオリゴマー)とポリイソシアネート(分子中にイソシアネート基である−NCO基を2個以上持つもの)との重合物であり、重合反応過程でCO2ガスが発生して発泡体を形成する。
【0004】
物理的発泡剤としては、低沸点揮発性物質、例えばブタンやペンタンなどに代表される揮発性飽和炭化水素系物質、並びにフルオロエタンなどに代表される揮発性フッ化炭化水素系物質などが挙げられる。物理的発泡剤としては、常温では液体であるが、50〜100℃で揮発して気体になる低沸点揮発性物質が多く用いられており、これらをその沸点以下の温度において高分子材料中に含浸し、これを、物理的発泡剤の沸点以上に加熱することにより発泡体を形成することができる。また、常温常圧で気体状態である不活性ガス、例えば二酸化炭素及び窒素などを、物理的発泡剤として利用することもできる。この場合、気体状態にある不活性ガスを、適度な圧力・温度に制御された溶融状態の高分子材料中に溶解させた後、この混合系を常温・常圧状態に開放させることによって、液相物質が急激に気相化し、膨張して発泡体が得られる。他の発泡剤として、熱可塑性高分子材料を外殻として、その中に低沸点揮発性物質を封止して製造されたカプセル状発泡剤も知られている。
【0005】
本出願人らは、活性エネルギー線の作用によって酸を発生する酸発生剤または塩基を発生する塩基発生剤を含み、さらに酸または塩基と反応して一種類以上の低沸点揮発性物質を分解脱離する分解発泡性官能基を有する分解発泡性化合物を含む発泡性組成物を提案した。この発泡性組成物によれば、微小気泡を有する微細発泡体が得られる(特許文献3)。この微細発泡体は、薄物化や微小化できるところに特長があるだけでなく、気泡微小化に伴い光学物性に顕著な効果があらわれることを見出している(特許文献4)。この方法による発泡組成物に製造上、発泡体の気泡分布を位置選択的に制御することも可能であるため、光反射性や光透過性、光散乱指向性など光学物性を部分的にもたせられるメリットがある。
【特許文献1】特開平11−174213号公報
【特許文献2】特開平10−504582号公報
【特許文献3】特開2004−002812号公報
【特許文献4】特開2005−055883号公報
【非特許文献1】「発泡体・多孔質体技術と用途展開(発行:東レリサーチセンター、1996年)」
【非特許文献2】「樹脂の発泡成形技術(技術情報協会発行、2001年)」
【非特許文献3】K.Ichimura et al.,Chemistry Letters,551−552(1995)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献4の方法は、分解発泡性脱離基により生じる低沸点揮発性物質が可燃性・有臭性である場合、発泡時に生じた低沸点揮発性物質を完全に除去することが実用的に困難である。そこで、本発明が解決しようとする課題は、気泡微細化を可能にした光酸分解発泡法において、不活性ガスであり、かつ無臭性である二酸化炭素ガスを発生させるような発泡組成物を得ること、およびその発泡組成物を利用し所望の厚さ、形状、及び発泡構造を有する発泡体を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は以下(1)〜(4)の態様を含む。
(1) 活性エネルギー線(例えば紫外線)の作用によって酸を発生する酸発生剤、および、発生した酸と反応して二酸化炭素を分解脱離する分解発泡性官能基を有する発泡性化合物を含有する発泡組成物において、該発泡性化合物が下記官能基(I):
【0008】
【化1】

(ただし、R1は及びR2は水素または1価の有機残基を表し、R2は同種または異種のものが複数置換していて良い)
で表されるカルバミン酸エステル構造を含む分子量1000未満の低分子化合物、あるいは上記カルバミン酸エステル構造を繰り返し単位の一部に含む分子量1000以上の高分子化合物であることを特徴とする発泡組成物。
【0009】
(2)上記(1)記載の発泡組成物において、官能基(I)で記載されるカルバミン酸エステル構造のR1置換基が、水素、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アラルキル基、置換されたあるいは無置換の芳香族基であり、R2置換基が水素、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アラルキル基、置換されたあるいは無置換の芳香族基、ヒドロキシ基、アルキルオキシ基、ハロゲン原子、アルキルオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基であることを特徴とする発泡組成物。
【0010】
(3)上記(1)、(2)記載の発泡組成物において、官能基(I)で記載されるカルバミン酸エステル構造が下記構造式(II):
【0011】
【化2】

(ただし、R1,R2は(1)または(2)の態様に記載の通り)
で表されるようにさらにSO2基で置換されていることを特徴とする発泡組成物。
【0012】
(4)上記(1)から(3)の何れかに記載の発泡組成物を基材に塗布し、活性エネルギーを照射し、さらに加熱して発泡させて得られることを特徴とする光学部材。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、可燃性ガスの発生または含有のない、かつ、臭気が無いか大幅に低減された優れた発泡組成物を提供することが可能になる。これにより、該発泡組成物を射出成型や押出成型などによりシート化を行い、微細発泡体の光学物性を活かした光学部材を提供することが可能となる。可燃性ガスの発生または含有のない、かつ、臭気が無いか大幅に低減されたことから、密閉、高温条件下での使用適用範囲が広がる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
<発泡性組成物>
(発泡性組成物の種類)
本発明の発泡組成物はその主要な構成成分として、(A)活性エネルギー線の作用によって酸を発生する酸発生剤、および、(B)発生した酸と反応して二酸化炭素を分解脱離する分解発泡性官能基を有する発泡性化合物を含んでいる。
(A)酸発生剤
本発明に用いられる酸発生剤としては、一般的に化学増幅型フォトレジスト、及び光カチオン重合などに利用されている光酸発生剤を用いることができる。
好適な光酸発生剤としては、
(1)ジアゾニウム塩系化合物
(2)アンモニウム塩系化合物
(3)ヨードニウム塩系化合物
(4)スルホニウム塩系化合物
(5)オキソニウム塩系化合物
(6)ホスホニウム塩系化合物
などから選ばれた芳香族もしくは脂肪族オニウム化合物のPF6、AsF6、SbF6、CF3SO3塩を挙げることができる。その具体例を下記に列挙する。
【0015】
ビス(フェニルスルホニル)ジアゾメタン、
ビス(シクロヘキシルスルホニル)ジアゾメタン、
ビス(tert−ブチルスルホニル)ジアゾメタン、
ビス(p−メチルフェニルスルホニル)ジアゾメタン、
ビス(4−クロロフェニルスルホニル)ジアゾメタン、
ビス(p−トリルスルホニル)ジアゾメタン、
ビス(4−tert−ブチルフェニルスルホニル)ジアゾメタン、
ビス(2,4−キシリルスルホニル)ジアゾメタン、
ベンゾイルフェニルスルホニルジアゾメタン、
【0016】
トリフルオロメタンスルホネート、
トリメチルスルホニウムトリフルオロメタンスルホネート、
トリフェニルスルホニウムトリフルオロメタンスルホネート、
トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、
2,4,6−トリメチルフェニルジフェニルスルホニウムトリフルオロメタンスルホネート、
p−トリルジフェニルスルホニウムトリフルオロメタンスルホネート、
4−フェニルチオフェニルジフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、
4−フェニルチオフェニルジフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、
1−(2−ナフトイルメチル)チオラニウムヘキサフルオロアンチモネート、
1−(2−ナフトイルメチル)チオラニウムトリフルオロメタンスルホネート、
4−ヒドロキシ−1−ナフチルジメチルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、
4−ヒドロキシ−1−ナフチルジメチルスルホニウムトリフルオロメタンスルホネート、
(2−オキソ−1−シクロヘキシル)(シクロヘキシル)メチルスルホニウムトリフルオロメタンスルホネート、
(2−オキソ−1−シクロヘキシル)(2−ノルボルニル)メチルスルホニウムトリフルオロメタンスルホネート、
ジフェニル−4−メチルフェニルスルホニウムパーフルオロメタンスルホネート、
ジフェニル−4−tert−ブチルフェニルスルホニウムパーフルオロオクタンスルホネ
ート、
ジフェニル−4−メトキシフェニルスルホニウムパーフルオロブタンスルホネート、
【0017】
ジフェニル−4−メチルフェニルスルホニウムトシレート、
ジフェニル−4−メトキシフェニルスルホニウムトシレート、
ジフェニル−4−イソプロピルフェニルスルホニウムトシレート
【0018】
ジフェニルヨードニウム、
ジフェニルヨードニウムトシレート、
ジフェニルヨードニウムクロライド、
ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロアルセネート、
ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロフォスフェート、
ジフェニルヨードニウムナイトレート、
ジフェニルヨードニウムパークロレート、
ジフェニルヨードニウムトリフルオロメタンスルホネート、
【0019】
ビス(メチルフェニル)ヨードニウムトリフルオロメタンスルホネート、
ビス(メチルフェニル)ヨードニウムテトラフルオロボレート、
ビス(メチルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロフォスフェート、
ビス(メチルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、
ビス(4−tert−ブチルフェニル)ヨードニウムトリフルオロメタンスルホネート、
ビス(4−tert−ブチルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロフォスフェート、
ビス(4−tert−ブチルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、
ビス(4−tert−ブチルフェニル)ヨードニウムパーフルオロブタンスルホネート、
【0020】
2−メチル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−1,3,5−トリアジン、
2,4,6−トリ(トリクロロメチル)−1,3,5−トリアジン、
2−フェニル−4,6−ジトリクロロメチル−1,3,5−トリアジン、
2−(p−メトキシフェニル)−4,6−ジトリクロロメチル−1,3,5−トリアジン、
2−ナフチル−4,6−ジトリクロロメチル−1,3,5−トリアジン、
2−ビフェニル−4,6−ジトリクロロメチル−1,3,5−トリアジン、
2−(4’−ヒドロキシ−4−ビフェニル)−4,6−ジトリクロロメチル−1,3,5−トリアジン、
2−(4’−メチル−4−ビフェニル)−4,6−ジトリクロロメチル−1,3,5−トリアジン、
2−(p−メトキシフェニルビニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−1,3,5−トリアジン、
2−(4−クロロフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−1,3,5−トリアジン、
2−(4−メトキシフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−1,3,5−トリアジン、
2−(4−メトキシ−1−ナフチル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−1,3,5−トリアジン、
2−(ベンゾ[d][1,3]ジオキソラン−5−イル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−1,3,5−トリアジン、
2−(4−メトキシスチリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−1,3,5−トリアジン、
2−(3,4,5−トリメトキシスチリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−1,
3,5−トリアジン、
2−(3,4−ジメトキシスチリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−1,3,5−トリアジン、
2−(2,4−ジメトキシスチリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−1,3,5−トリアジン、
2−(2−メトキシスチリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−1,3,5−トリアジン、
2−(4−ブトキシスチリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−1,3,5−トリアジン、
2−(4−ペンチルオキシスチリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−1,3,5−トリアジン、
【0021】
2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルピリリウムトリフロオロメタンスルホネート、
トリメチルオキシニウムテトラフロオロボレート、
トリエチルオキシニウムテトラフロオロボレート、
N−ヒドロキシフタルイミドトリフルオロメタンスルホネート、
N−ヒドロキシナフタルイミドトリフルオロメタンスルホネート、
(α−ベンゾイルベンジル)p−トルエンスルホネート、
(β−ベンゾイル−β−ヒドロキシフェネチル)p−トルエンスルホネート、
1,2,3−ベンゼントリイルトリスメタンスルホネート、
(2,6−ジニトロベンジル)p−トルエンスルホネート、
(2−ニトロベンジル)p−トルエンスルホネート、
(4−ニトロベンジル)p−トルエンスルホネート、
これらの中でも、ヨードニウム塩系化合物、スルホニウム塩系化合物が好ましい。
【0022】
また、前記オニウム化合物以外にも、酸発生能を有するフルオレン化合物誘導体も使用できる。例えば、2−[2,2,3,3,4,4,4−ヘプタフルオロ−1−(ノナフルオロブチルスルフォニルオキシイミノ)−ブチル]フルオレンや、2−[2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロ−1−(ノナフルオロブチルスルフォニルオキシイミノ)−ペンチル]フルオレンなどがあり、また、活性エネルギー線照射によりスルホン酸を光発生するスルホン化物、例えば2−フェニルスルホニルアセトフェノン、活性エネルギー線照射によりハロゲン化水素を光発生するハロゲン化物、例えば、フェニルトリブロモメチルスルホン、及び1,1−ビス(4−クロロフェニル)−2,2,2−トリクロロエタン、並びに活性エネルギー線照射により燐酸を光発生するフェロセニウム化合物、例えば、ビス(シクロペンタジエニル)フェロセニウムヘキサフルオロフォスフェート、及びビス(ベンジル)フェロセニウムヘキサフルオロフォスフェートなどを用いることができる。
【0023】
さらには、下記に挙げる酸発生能を有するイミド化合物誘導体も使用できる。
N−(フェニルスルホニルオキシ)スクシンイミド、
N−(トリフルオロメチルスルホニルオキシ)スクシンイミド、
N−(10−カンファースルホニルオキシ)スクシンイミド、
N−(トリフルオロメチルスルホニルオキシ)フタルイミド、
N−(トリフルオロメチルスルホニルオキシ)−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボキシイミド、
N−(トリフルオロメチルスルホニルオキシ)ナフタルイミド、
N−(10−カンファースルホニルオキシ)ナフタルイミド。
【0024】
また、光酸発生剤を活性化させる光エネルギーの波長領域をシフトまたは拡大するために、適宜光増感剤を併用してもよい。例えば、オニウム塩化合物に対する光増感剤には、アクリジンイエロー、ベンゾフラビン、アクリジンオレンジなどが挙げられる。
必要な酸を生成しながらも酸発生剤の添加量や光エネルギーを最小限に抑制するために、酸増殖剤(K.Ichimura et al.,Chemistry Letters,551−552(1995)、特開平8−248561号公報参照 )を酸発生剤とともに用いることができる。酸増殖剤は、常温付近で熱力学的に安定であるが、酸によって分解し、自ら強酸を発生し、酸触媒反応を大幅に加速させる。この反応を利用することにより、酸の発生効率を向上させて、発泡生成速度や発泡構造をコントロールすることも可能である。
【0025】
(B)発生した酸と反応して二酸化炭素を分解脱離する分解発泡性官能基を有する発泡性化合物
発泡性化合物は、下記官能基(I):
【0026】
【化3】

(ただし、R1及びR2は水素または1価の有機残基を表し、R2は同種または異種のものが複数置換していて良い)
で表されるカルバミン酸エステル構造を含んでいる分子量1000未満の低分子化合物、あるいは上記構造を繰り返し単位の一部に含む分子量1000以上の高分子化合物である。
より詳しくは、官能基(I)で表されるカルバミン酸エステル構造のR1置換基が、水素、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アラルキル基、置換されたあるいは無置換の芳香族基であり、R2置換基が水素、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アラルキル基、置換されたあるいは無置換の芳香族基、ヒドロキシ基、アルキルオキシ基、ハロゲン原子、アルキルオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基である低分子化合物あるいは高分子化合物である。
【0027】
特に好ましいのは官能基(I)で記載されるカルバミン酸エステル構造が下記構造式(II):
【0028】
【化4】

(ただし、R1,R2は上記記載の通り)
で表されるようにさらにSO2基で置換されている低分子化合物または高分子化合物である。
この構造の特徴は、カルバミン酸エステルの部分がいわゆる広義のベンジル構造をとっていることにある。ここが広義のベンジル構造ではないアルキル基が結合したアルキルエステル、ベンゼンや置換ベンゼンが直に結合したアリルエステル、あるいはベンジル基のようにメチレン基がひとつではなく、二つはいったフェネチル基を有するカルバミン酸エステルでは、上記(A)の活性エネルギー線の作用によって酸を発生する酸発生剤を作用させ、光照射、加熱を行っても二酸化炭素ガスが発生しない。
この極めて構造特異的な現象の理由は必ずしも明確ではないが、いわゆる広義のベンジル構造を有するカルバミン酸が、酸発生剤の攻撃を受けて分解する過程で生じるベンジルカチオンの特異な共鳴構造による安定性が、他の構造に比べ大きく高いことに起因するものと考えられる。その意味では上記のベンジル構造はナフチルメチル構造やアントラセンメチル構造であっても同様の機能を有する。
上記官能基(I)または(II)を有する具体的な化合物としては以下のようなものがあげられる。
【0029】
(B-1)分子量1000未満の低分子化合物
分子量1000未満の低分子化合物としては例えば具体的には以下を挙げることができる。
【0030】
【化5】

【0031】
【化6】

【0032】
(B-2)分子量1000以上の高分子化合物を得るのに必要な当該カルバミン酸エステルを含んだモノマー
分子量1000以上の高分子化合物を得るのに必要な当該カルバミン酸エステルを含んだモノマーとしては例えば具体的には以下を挙げることができる。
【0033】
【化7】

【0034】
【化8】

【0035】
(B-3)分子量1000以上の高分子化合物
発泡性の高分子化合物としては、以下に示す高分子共重合体を挙げることができる。
前記No.17〜27化合物の何れか少なくとも1つとメチルアクリレート共重合体、
前記No.17〜27化合物の何れか少なくとも1つとメチルメタクリレート共重合体、
前記No.17〜27化合物の何れか少なくとも1つとエチルアクリレート共重合体、
前記No.17〜27化合物の何れか少なくとも1つとエチルメタクリレート共重合体、
前記No.17〜27化合物の何れか少なくとも1つとアクリロニトリル共重合体、
前記No.17〜27化合物の何れか少なくとも1つとヒドロキシエチルメタクリレート共重合体、
前記No.17〜27化合物の何れか少なくとも1つと塩化ビニル共重合体、
前記No.17〜27化合物の何れか少なくとも1つとスチレン共重合体。
【0036】
共重合の形式は、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合などの任意の形式をとることができる。また、非発泡性モノマーの共重合比は、発泡性モノマーとあわせたモノマー全量に対して5〜90質量%であることが好ましく、10〜80質量%がより好ましい。また、発泡性の高分子化合物を構成する発泡性モノマーおよび非発泡性モノマーはそれぞれ一種ずつ単独でまたは2種以上併用したいわゆるターポリマーとして使用してよい。その場合の発泡性モノマーと非発泡性モノマーの質量比は上記共重合体における質量比に準じる。
【0037】
(その他の樹脂)
発泡性化合物からなる発泡性組成物は、さらに一般の樹脂を混合する必要がある場合がある。即ち、低分子の発泡性化合物群を用いる場合は単独では成形できないので、下記の本質的に発泡構造を持たない一般に用いられる樹脂と混合して用いる必要がある。また高分子型の発泡性化合物の場合も、さらに力学的強度、発泡の速度、効果を改善するために一般の樹脂を混合して使用する場合がある。これら一般樹脂は、低分子、または分解性化合物と混合した時に相溶でも非相溶でもどちらでもかまわない。
一般の樹脂としてはポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリオレフィン系複合樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリブタジエン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、アクリロイル樹脂、ABS樹脂、フッ素樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリサルホン樹脂、塩化ビニル樹脂、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、でんぷん、ポリビニルアルコール、ポリアミド樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、及びシリコーン樹脂など一般に用いられる樹脂から適宜選択して用いることができる。また、分解性化合物から分解してガス化する低沸点揮発性物質を成形体内に内在させることを目的として、ガスバリヤ性樹脂を用いることもできる。ガスバリヤ性樹脂は、混合しても被覆または積層してもよく、低沸点揮発性物質を成形体内により内在させるには、成形体表面に被覆または積層するのが好ましい。
【0038】
(添加物)
本発明に使用する発泡性組成物は、必要により、酸発生剤と発泡性化合物以外の添加物を含ませることができる。添加物とは、無機系または有機系化合物充填剤、並びに各種界面活性剤などの分散剤、多価イソシアネート化合物、エポキシ化合物、有機金属化合物などの反応性化合物および酸化防止剤、シリコーンオイルや加工助剤、紫外線吸収剤、蛍光増白剤、スリップ防止剤、帯電防止剤、ブロッキング防止剤、防曇剤、光安定剤、滑剤、軟化剤、有色染料、その他の安定剤等を一種類以上含ませてもよい。添加剤を用いることにより、成形性や発泡性、光学的物性(とくに白色顔料の場合)、電気および磁気的特性(とくにカーボン等の導電性粒子の場合)などの向上が期待できる。
【0039】
無機系化合物充填剤の具体例としては、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化珪素、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム、珪酸カルシウム、水酸化アルミニウム、クレー、タルク、シリカ等の顔料、ステアリン酸亜鉛のような金属石鹸、並びに各種界面活性剤などの分散剤、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、カオリン、珪酸白土、珪藻土、酸化亜鉛、酸化珪素、水酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、アルミナ、マイカ、アスベスト粉、ガラス粉、シラスバルーン、ゼオライトなどが遂げられる。
有機系化合物充填剤としては、例えば、木粉、パルプ粉などのセルロース系粉末、ポリマービーズなどが挙げられる。ポリマービーズとしては、例えばアクリル樹脂、スチレン樹脂又はセルロース誘導体、ポリビニル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリウレタン及びポリカーボネート、架橋用モノマーなどから製造されたものが使用できる。
これらの充填剤は、1種単独で用いることができるが、2種類以上混合したものであってもよい。
【0040】
紫外線吸収剤の具体例としては、サリチル酸系、ベンゾフェノン系、またはベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤から選ばれる。サリチル酸系紫外線吸収剤としては、フェニルサリシレート、p−t−ブチルフェニルサリシレート、p−オクチルフェニルサリシレートなどが挙げられる。ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノンなどが挙げられる。ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−5’−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾールなどが挙げられる。
【0041】
酸化防止剤の具体例としては、モノフェノール系、ビスフェノール系、高分子型フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、リン系酸化防止剤などが挙げられる。光安定剤の代表的なものとしては、ヒンダードアミン系化合物が挙げられる。
軟化剤は、成形性または成形体の加工性を向上させる目的で使用でき、具体的には、エステル化合物類、アミド化合物類、側鎖を有する炭化水素重合体類、鉱油類、流動パラフィン類、ワックス類などが挙げられる。
【0042】
(光散乱性微粒子)
発泡性組成物には、輝度向上や輝度ムラ抑制のために、補助的に光散乱性微粒子を添加しても良い。光散乱性微粒子としては、例えば、アクリル系、スチレン−アクリル系、ポリエチレン系の有機架橋ポリマービーズや、シリコンビーズ、中空粒子などが挙げられる。また、光散乱微粒子をナノスケールで相分離させてもよく、その場合、発泡性組成物から形成される気泡の微小化や数密度増加の効果が得られる。
【0043】
発泡性組成物は、一般的な混練機を用いて調製することができる。例えば、二本ロール、三本ロール、カウレスデゾルバー、ホモミキサー、サンドグラインダー、プラネタリーミキサー、ボールミル、ニーダー、高速ミキサー、ホモジナイザーなどである。また超音波分散機などを使用することもできる。
【0044】
<発泡体の製造方法>
本発明を構成する発泡体は、上記発泡性組成物に活性エネルギー線(例えば紫外線)および熱エネルギーを付与して発泡させたものである。発泡性組成物から発泡体を製造する製造方法は、発泡性組成物を成形体とする成形工程と、前記成形体に放射線エネルギー及び熱エネルギーを付与して発泡させる発泡工程とを備える。
【0045】
(成形工程)
発泡性組成物の成形工程は、発泡性組成物を所望の形状の成形体に成形する工程である。成形体の形状に特に限定はなく、発泡体の使用目的によって適宜決められる。一般的な形状としては、シート状物(フィルム状を含む)、ファイバー状物、ロッド状物などが挙げられる。シート状物においては、支持体を用いない独立のシートであっても支持体上に密着したシート層であってもよい。
【0046】
シート状物の成形方法は、特開2004−2812号公報や、特開2005ー54176号公報、特開2005−55883号公報に記載される方法を用いることができる。一般的には、溶融押出成形や射出成形、塗工成形、プレス成形が好ましい。特に、塗工成形は、光拡散体自身の薄型化が可能となり、また透光性樹脂支持体の表面上にも容易に積層できるので好ましい。
また、バッチ式でも連続式でもかまわない。発泡性組成物が溶液の場合は、溶剤の乾燥処理を加えてもよい。また、複数の成形体を積層することも可能である。
【0047】
塗工成形の場合、支持体に塗工ヘッドを用いて発泡性組成物を塗工した後、発泡性組成物が溶剤等で希釈された溶液ならば、乾燥器にて溶剤分を除去し、支持体上に発泡性組成物からなるシート層を得る。このとき、支持体からシート層を剥離することで、発泡性組成物からなる単独のシート状物を得ることもできる。塗工方法には、バーコート法、エアードクターコート法、ブレードコート法、スクイズコート法、エアーナイフコート法、ロールコート法、グラビアコート法、トランスファーコート法、コンマコート法、スムージングコート法、マイクログラビアコート法、リバースロールコート法、マルチロールコート法、ディップコート法、ロッドコート法、キスコート法、ゲートロールコート法、落下カーテンコート法、スライドコート法、ファウンテンコート法、およびスリットダイコート法などがあげられる。
【0048】
支持体の具体例としては、紙、合成紙、プラスチック樹脂シート、金属シート、金属蒸着シート等が挙げられ、これらは単独で用いられてもよく、或は、互いに積層されていてもよい。プラスチック樹脂シートは、例えば、ポリスチレン樹脂シート、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂シート、並びにポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂シート等の汎用プラスチックシートやポリイミド樹脂シート、ABS樹脂シート、ポリカーボネート樹脂シート等のエンジニアリングプラスチックシートなどが挙げられ、また金属シートを構成する金属としては、アルミニウムおよび銅などが挙げられる。金属蒸着シートとしては、アルミ蒸着シート・金蒸着シート・銀蒸着シートなどが挙げられる。このとき支持体としては、透光性支持体であることが好ましく、さらには透光性樹脂シートであることが好ましい。透光性の光透過特性は、使用により適切に調整されたものであれば限定はされないが、可視光領域での光透過率で90%以上であることが好ましい。
また、光反射シートや導光シート(あるいは導光板)、プリズムシートのような光学機能シートを支持体とすれば、発泡体からなる光拡散部とこれらの機能性シートとの一体化を容易に行うことができる。
【0049】
押出成形の場合、スクリュー状の押出軸を用いた一般の押出成形法、ピストン状押出軸を用いたラム押出成形法などがあげられる。例えば、押出成形機から押出された発泡性組成物はダイから押出されロールなどを介してシート状物を得ることができる。
【0050】
発泡性組成物は、組成によって、例えば150℃以上の加熱により分解してしまう場合もある。そのため、発泡工程の前に正味の発泡性能を失わないよう留意する必要がある。
例えば、押出成形において、樹脂の溶融粘度まで加熱してしまうと発泡性能が損なわれる場合、塗工成形と同様に溶媒を用いて発泡性組成物の溶液を調整し、常温で成形する溶液キャスト法のような方法をとることもできる。
【0051】
(発泡工程)
発泡工程は、成形体に活性エネルギー線と熱エネルギーとを与えて発泡させる工程である。発泡工程は、成形体に活性エネルギー線を照射する活性エネルギー線照射工程と、成形体を加熱する加熱工程とを含み、微細な気泡のみを作るときには、活性エネルギー線照射工程後に加熱工程が行われることが好ましい。活性エネルギー線照射工程と加熱工程とを順次行うことにより、安定した発泡体が形成できる。これは、発泡性化合物が分解し二酸化炭素を生成し発泡するという機構であるためである。発泡性組成物は比較的低い温度で気泡核を多数発生させ、更に温度を上げて気泡を成長させると微細な気泡が均一にできる。しかし、初めから高温にしておきそこに活性エネルギー線を当てると、大きな気泡ができやすいという傾向がある。
なお、各工程は、連続的に行っても不連続的に行ってもよい。
【0052】
(活性エネルギー線照射工程)
活性エネルギー線照射工程で使用する放射線としては、電子線、紫外線、可視光線、γ線等の電離性放射線などが好ましい。これらの中では紫外線を用いることが特に好ましい。
紫外線を照射する場合は、半導体・フォトレジスト分野や紫外線硬化分野などで一般的に使用されている紫外線ランプを用いることができる。一般的な紫外線ランプとしては、例えば、ハロゲンランプ、ハロゲンヒーターランプ、キセノンショートアークランプ、キセノンフラッシュランプ、超高圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、中圧水銀ランプ、ディープUVランプ、メタルハライドランプ、希ガス蛍光ランプ、クリプトンアークランプ、エキシマランプなどがあり、近年では、極短波長(214nmにピーク)を発光するY線ランプもある。これらのランプには、オゾン発生の少ないオゾンレスタイプもある。これらの紫外線は、散乱光であっても、直進性の高い平行光であってもよい。
【0053】
気泡分布の位置制御を特に精度よく行う要求がある場合は、放射線として平行光を用いることが好ましい。紫外線照射には、ArFエキシマーレーザー、KrFエキシマーレーザーや、非線形光学結晶を含む高調波ユニットを介したYAGレーザーなどに挙げられる種々のレーザーや、紫外発光ダイオードを用いることもできる。紫外線ランプやレーザー、紫外発光ダイオードの発光波長は、発泡性組成物の発泡性を妨げないものであれば限定はないが、好ましくは、光酸発生剤が酸を効率よく発生させられる発光波長がよい。すなわち、使用する光酸発生剤の感光波長領域と重なる発光波長が好ましい。さらには、それら発生剤の感光波長領域における極大吸収波長または最大吸収波長と重なる発光波長が、発生効率が高くなるためより好ましい。紫外線のエネルギー照射強度は、発泡性組成物によって適宜決められる。
【0054】
種々の水銀ランプやメタルハライドランプなどに代表される照射強度が高い紫外線ランプを使用すれば、生産性を高めることができる。その時の照射強度(ランプ出力)は30W/cm以上が好ましい。紫外線の積算照射光量(J/cm2)は、エネルギー照射強度に照射時間を積算したものであり、発泡性組成物および所望の気泡分布によって適宜決められる。酸発生剤の吸光係数に応じて設定することもある。安定かつ連続的に製造する上では、1.0mJ/cm2〜20J/cm2の範囲が好ましい。
紫外線ランプを使用する場合は、照射強度が高いため、照射時間を短縮することができる。エキシマーランプやエキシマーレーザーを使用する場合は、その照射強度は弱いが、ほぼ単一光に近いため、発光波長が発生剤の感光波長に最適化したものであれば、より高い発生効率および発泡性が可能となる。照射光量を多くした場合、紫外線ランプによっては熱の発生が発泡性を妨げる場合がある。そのときは、コールドミラーなどの冷却処置を行なうことができる。
【0055】
(加熱工程)
加熱工程で用いることのできる加熱器に特に制限はないが、接触加熱、誘導加熱、抵抗加熱、誘電加熱(およびマイクロ波加熱)、赤外線加熱により加熱ができるもの等が例示できる。具体的には、放射熱を利用した電気あるいはガス式の赤外線ドライヤーや、電磁誘導を利用したロールヒーター、油媒を利用したオイルヒーター、電熱ヒーター、およびこれらの熱風を利用した熱風ドライヤーなどが挙げられる。成形体に加熱体を接触させて加熱する接触加熱では、金属ブロック、金属板、金属ロールなどの加熱体が使用できる。接触加熱では加圧しながら加熱してもよい。この場合、プレス成形の際に使用する加熱プレス機を用いることができる。
さらに、一般の熱記録用プリンターに使用されている加熱方式も利用できる。例えば、
電流を流すことで発熱する感熱ヘッドやレーザー熱転写が挙げられ、熱の書き込みによって同パターンの発泡体を得ることができる。高精細や高解像度を得るときは、感熱ヘッドよりもレーザー熱転写の方が好ましい。
【0056】
<不均一発泡体>
本発明により得られる発泡体には、白色発泡部や気泡分布を位置制御した不均一発泡体も含まれる。気泡径や気泡密度の不均一な分布の代表的形態としては、部分発泡や傾斜発泡が挙げられる。気泡分布を位置制御する方法としては、
(a)前記発泡組成物の成形体に付与する活性エネルギー線のエネルギー、
(b)前記発泡組成物の成形体に付与する熱エネルギー、
(c)前記発泡組成物の成形体中の発泡性化合物濃度、
(d)前記発泡組成物の成形体中の酸発生剤の濃度
のいずれか1以上を、所定の不均一分布とすることにより得られる。
【0057】
<気泡径>
発泡体の気泡径は、分布の全範囲を通じて0.005〜10μmであることが好ましく、さらに0.005〜1μmであることが特に好ましい。気泡径が0.005μmより小さいと発泡体ゆえの機能が発現され難いことがあり、100μmよりも大きいと発泡のムラが目立ち、外観が不良となったり、機能が損じたりする場合もある。
【0058】
<気泡密度>
発泡体の気泡密度にとくに制限はないが、発泡体の機能を充分に発現させるためには、気泡数密度にして109個/cm3以上の範囲であることが好ましい。この値を、発泡体断面の観察画像から画像解析して求めた気泡占有面積率(%)で換算すると、例えば、気泡径1μmであれば、気泡占有面積率にして0.8%以上であることが好ましい。
【0059】
<発泡体からなる液晶用光学部材>
本発明の発泡性組成を発泡処理してなる光学部材は、発泡体の光学特性を活かしたものである。特に該光学部材は、非自発光型の液晶表示装置に必須な面発行装置の光反射部材、光拡散部材、導光部材に好適である。面光源装置には、バックライトやフロントライトなどが挙げられ、さらにバックライトには、光源を導光板の一端面に光源を備えたエッジ型バックライト、あるいは、光源を導光板の直下に備えた直下型バックライトが含まれる。
各光学部材に適した発泡体について述べる。光反射部材であれば、気泡微小化による光散乱効率の向上効果を利用して、その微小気泡の数密度を高めた発泡体から形成できる。さらに詳しくは、波長550nmの可視光を効率良く反射するための気泡径は、0.1〜10μmが好ましく、さらには0.2〜0.5μmが好ましい。このように気泡径を最適化することで、従来よりも高反射性のある光反射部材を得ることができる。その他として、光拡散部材は、気泡を低密度に制御して光散乱性および光透過性の両物性をもたせた発泡体から得られる。さらには、気泡径や気泡数密度を連続的に制御して透過性と散乱性のバランスを適切に制御することで面発光の核となる導光部材を得ることも可能である。前述の光反射部材、光拡散部材、導光部材は、前記発泡組成物およびその発泡体からすべて形成させることができるので、従来では困難であった複数の光学部材を一体化することも容易になり、省部材化や製造工程簡略化へのメリットも大きい。
【実施例】
【0060】
本発明を下記実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。また、特に断らない限り、例中の「部」および「%」は各々「質量部」および「質量%」を表す。
【0061】
(合成例1:低分子量型発泡性化合物の合成)
N−(p−トルエンスルホニル)カルバミン酸ベンジルエステル(化合物10)の合成
ベンジルアルコール5.40gに脱水トルエン50mlを加える。p−トルエンスルホニルイソシアナート9.9gを室温で少しずつ加え、80℃で2時間加熱撹拌を行う。反応後の溶液を冷却すると、白色固体が沈殿するので、吸引濾過を行い、ヘキサンで洗浄を行うことで白色固体のN−(p−トルエンスルホニル)カルバミン酸ベンジルエステルを得た。収率90%。融点102℃。
NMR(CDCl3)δ 7.89−7.87(2H)、7.76(1H)、7.33−7.29(5H)、7.27−7.22(4H)、5.08(2H)、2.43(3H)
【0062】
(合成例2:カルバミン酸エステル構造を含んだモノマー)
N−(2−メタクリロイルエチル)カルバミン酸(p−イソプロピルベンジル)エステル(化合物20)の合成
4−イソプロピルベンジルアルコール6.0gに脱水トルエン10mlを加える。これにメタクリル酸−2−イソシアナトエチルエステル6.20gを少しずつ加え、70℃で20時間加熱撹拌を行う。反応後の溶液を冷却し、溶媒を留去、減圧乾燥することで無色透明のN−(2−メタクリロイルエチル)カルバミン酸(p−イソプロピルベンジル)エステルを得た。収率85%。
NMR(CDCl3)δ 7.29−7.27(2H)、7.20−7.13(2H)、6.14−6.10(1H)、5.57−5.56(1H)、5.07(3H)、4.23−4.21(2H)、3.52−3.48(2H)、2.95−2.85(1H)1.93(3H)、1.25−1.20(6H)
【0063】
(合成例3:カルバミン酸エステル構造を含んだ高分子化合物)
ポリ(N−(2−メタクリロイルエチル)カルバミン酸(p−イソプロピルベンジル)エステル)の合成
合成例2記載のN−(2−メタクリロイルエチル)カルバミン酸(p−イソプロピルベンジル)エステル(化合物20)を3.0gに、アゾビスイソブチロニトリル0.30g、酢酸エチル2.52g、3−ブタノン4.48gを加え、固体を溶解させる。窒素気流と真空で10回置換を行った後、70℃で3時間加熱を行うことで、ポリ(メタクリル酸エチルアミノカルボニルオキシベンジル−イソプロピル)の酢酸エチル/2−ブタノン溶液(固形分濃度30%)を得た。
【0064】
(比較合成例1:ベンジル構造を持たないカルバミン酸エステルの合成1)
N−(p−トルエンスルホニル)カルバミン酸メチルエステルの合成
メチルアルコール1.28gに脱水トルエン10mlを加える。p−トルエンスルホニルイソシアナート7.88gを室温で少しずつ加え、60℃で2時間加熱撹拌を行う。反応後の溶液を冷却すると、白色固体が沈殿するので、吸引濾過を行い、ヘキサンで洗浄を行うことでp−トルエンスルホニルアミノカルボキシオキシベンジルを得た。収率90%。
【0065】
(比較合成例2:ベンジル構造を持たないカルバミン酸エステルの合成2)
N−(p−トルエンスルホニル)カルバミン酸フェニルエステルの合成
フェノール3.76gに脱水トルエン10mlを加え、溶解させる。p−トルエンスルホニルイソシアナート7.88gを室温で少しずつ加え、60℃で2時間加熱撹拌を行う。反応後の溶液を冷却すると、白色固体が沈殿するので、吸引濾過を行い、ヘキサンで洗浄を行うことでp−トルエンスルホニルアミノカルボキシオキシベンジルを得た。収率95%。
【0066】
<実施例1>
(1)発泡性組成物のシート化
低分子発泡性化合物である合成例1に記載のN−(p−トルエンスルホニル)カルバミン酸ベンジルエステル100部に対しヨードニウム塩系酸発生剤としてビス(4−tert−ブチルフェニル)ヨードニウムパーフルオロブタンスルホネート(BBI−109、ミドリ化学製)100部を混合、これにポリメタクリル酸メチルを加え、それらを溶解させた酢酸エチル溶液を調製した(固形分含有量:25%)。この溶液を、シリコンPETシート(ルミラーSP−PET−01−75BU、パナック製)のシリコン処理表面上に塗布厚200μmのアプリケーターバー(ドクターブレードTD型、YOSHIMITSU SEIKI製)を用いてコーティングした後、温度110℃の恒温乾燥機内で溶媒を蒸発除去し、無色透明な塗布層を得た。この塗布層を、シリコンPETシートから剥離させて、厚さ35μmの発泡性シートを得た。
(2)平板成形
前記工程(1)で作成した発泡性シートを、縦50mm・横50mmの寸法に切り出し、それを3枚重ねて、表面平滑な平押し金型(寸法;縦50mm・横35mm)に挟み、ハンドプレス機(TOYOSEIKI製 MiniTEST PRESS−10)を用いて加熱プレスした(プレス圧力;6MPa、プレス温度;150℃3分)。その後、図5の(c)に示すように、常圧に戻して、40℃まで空冷したところで、金型を取り去り、無色透明な発泡性シートを得た。
(3)紫外線照射
前記工程(2)で得られた発泡性シートの上面に紫外線照射した。紫外線は、メタルハライドランプ(紫外線硬化用マルチメタルランプM03−L31、アイグラフィック(株)製)を光源として用い、照射線量1000mJ/cm2となるように照射した。工程(1)と同様の無色透明な発泡性シートを得た。
(4)加熱発泡
前記工程(3)で紫外線照射した発泡性シートを、平押し金型に挟みハンドプレス機で加熱プレスしながら発泡させた(プレス圧力;4MPa、プレス温度;130℃2分)。その後、加圧したまま直ちに金型内部に冷却水を循環させて50℃にまで急冷した。続いて、常圧に戻し40℃まで空冷したところで、金型を取り去り、発泡体からなる光拡散体を得た。得られた光拡散体は、厚さが均一な平板シート状であり、その厚さは100μmであった。厚さ測定はマイクロメーター(Mitutoyo製 MCD−25M)を用いた。
(5)発泡性組成物の評価
前記工程(4)で加熱発泡させた発泡性シートについて微細発泡性の評価については以下のように行った。
良好 : 気泡径10μm以下の発泡が多数発生している
不良 : 発泡は見られないか、もしくは1mm以上の気泡がまだらに生じる
実施例1の微細発泡性は良好であった。
【0067】
<実施例2>
発泡性化合物として合成例2に記載のN−(2−メタクリロイル)エチルカルバミン酸(p−イソプロピルベンジル)エステルを用いた以外は実施例1と同様に評価した。
実施例2の評価は良好であった。
【0068】
<実施例3>
(1)発泡性組成物のシート化
発泡性化合物として合成例3に記載のポリ(N−(2−メタクリロイルエチル)カルバミン酸(p−イソプロピルベンジル)エステル)固形分換算100部に対しヨードニウム塩系酸発生剤としてビス(4−tert−ブチルフェニル)ヨードニウムパーフルオロブタンスルホネート(BBI−109、ミドリ化学製)3部を混合、それらを溶解させ、固形分含有量が25%になるように酢酸エチルを添加し溶液を調製した。この溶液を、シリコンPETシート(ルミラーSP−PET−01−75BU、パナック製)のシリコン処理表面上に塗布厚200μmのアプリケーターバー(ドクターブレードTD型、YOSHIMITSU SEIKI製)を用いてコーティングした後、温度110℃の恒温乾燥機内で溶媒を蒸発除去し、無色透明な塗布層を得た。この塗布層を、シリコンPETシートから剥離させて、厚さ35μmの発泡性シートを得た。
(1)の工程以外は前記実施例1に記載の(2)〜(5)と同様に評価した。
実施例3の評価は良好であった。
【0069】
<比較例1>
発泡性化合物としてN−(p−トルエンスルホニル)カルバミン酸ベンジルエステルのかわりに比較合成例1に記載のN−(p−トルエンスルホニル)カルバミン酸メチルエステルを用いた以外は実施例1と同様に評価した。
比較例1の微細発泡性は紫外線照射後、加熱しても発泡が起こず評価は不良であった。
【0070】
<比較例2>
発泡性化合物としてN−(p−トルエンスルホニル)カルバミン酸ベンジルエステルのかわりに比較合成例2に記載のN−(p−トルエンスルホニル)カルバミン酸フェニルエステルを用いた以外は実施例1と同様に評価した。
比較例2の微細発泡性は紫外線照射後、加熱しても発泡が起こらず評価は不良であった。
【0071】
<比較例3>
発泡性組成物を調成する際、光酸発生剤であるビス(4−tert−ブチルフェニル)ヨードニウムパーフルオロブタンスルホネート(BBI−109、ミドリ化学製)を混合しない以外は実施例1と同様にして得られた発泡組成物を実施例1の記載の方法で評価した。
比較例3の微細発泡性は紫外線照射後、加熱しても発泡が起こらず評価は不良であった。
【0072】
<実施例のまとめ>
上記実施例に示されるように、本発明に規定する特定構造を持つカルバミン酸エステル類は低分子化合物として使用しても、高分子化合物として使用しても、活性エネルギー線(紫外光)の作用によって酸を発生する酸発生剤と混合して使用した場合、活性エネルギー線(紫外光)を照射し、その後適切な加熱を行うことにより良好な発泡が見られた。これにより得られた発泡体は種々の用途へのポテンシャルを有するものであった。
一方、本発明に規定する特定構造を持たないカルバミン酸エステル類(比較合成例1,2)を用いると、活性エネルギー線(紫外光)の作用によって酸を発生する酸発生剤と混合し、活性エネルギー線(紫外光)を照射し、その後適切な加熱を行っても発泡がみられず、所望の発泡体を得ることは出来なかった(比較例1,2)。
また、本発明の特定構造を持つカルバミン酸エステル類を低分子化合物として使用した場合でも、活性エネルギー線の作用によって酸を発生する酸発生剤を使用しない場合は(比較例3)、活性エネルギー線(紫外光)を照射し、その後適切な加熱を行っても発泡は見られなかった。これにより、活性エネルギー線(紫外光)の作用によって酸を発生する酸発生剤が本発明を構成する必須成分であることがわかる。
実施例記載のようにして得られた発泡体は、光散乱性、光反射性、隠蔽性、白色性、不透明性、波長選択的反射および透過性、軽量性などの特性を自在に制御できる素材であり、幅広い産業分野での用途がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性エネルギー線の作用によって酸を発生する酸発生剤、および、発生した酸と反応して二酸化炭素を分解脱離する分解発泡性官能基を有する発泡性化合物を含有する発泡性組成物において、該発泡性化合物が下記官能基(I):
【化1】

(ただし、R1及びR2は水素または1価の有機残基を表し、R2は同種または異種のものが複数置換していて良い)
で表されるカルバミン酸エステル構造を含む分子量1000未満の低分子化合物、あるいは上記カルバミン酸エステル構造を繰り返し単位の一部に含む分子量1000以上の高分子化合物であることを特徴とする発泡性組成物。
【請求項2】
請求項1記載の発泡性組成物において、官能基(I)で表されるカルバミン酸エステル構造のR1置換基が、水素、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アラルキル基、置換されたあるいは無置換の芳香族基であり、R2置換基が水素、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アラルキル基、置換されたあるいは無置換の芳香族基、ヒドロキシ基、アルキルオキシ基、ハロゲン原子、アルキルオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基であることを特徴とする発泡性組成物。
【請求項3】
請求項1または2記載の発泡性組成物において、官能基(I)で記載されるカルバミン酸エステル構造が下記構造式(II):
【化2】

(ただし、R1、R2は請求項1または2に記載の通り)
で表されるようにさらにSO2基で置換されていることを特徴とする発泡性組成物。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れかに記載の発泡性組成物を基材に塗布し、活性エネルギー線を照射し、さらに加熱して発泡させて得られることを特徴とする光学部材。

【公開番号】特開2010−53276(P2010−53276A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−221021(P2008−221021)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】