説明

発熱シートの製造方法

【課題】塗布液を、不必要な箇所に塗布することを防止することができ、所望の品質の発熱シートを安定して製造することができる発熱シートの製造方法を提供すること。
【解決手段】被酸化性磁性金属粉末及び繊維材料を含有するシート状の中間体2Aに、電解質を含む塗布液を塗布してなるシート状発熱体2と、その両面を被覆するシート11A,12Aを具備する発熱シート10の製造方法であって、複数の中間体2Aを、流れ方向に近接させた状態で第1搬送手段4により搬送しつつ、中間体2Aに塗布液を塗布する第1工程と、塗布液の塗布により得られるシート状の発熱体2を、第1搬送手段より搬送速度が速い第2搬送手段6に、磁石62の磁力により引き寄せて転移させ、その転移の際に、発熱体2の流れ方向の間隔を拡大させる第2工程と、第2工程後に、発熱体2における第2搬送手段6側に向いた面とは反対側の面にシート12Aを合流させる第3工程を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発熱シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の使い捨てカイロとして、粉末状の発熱剤を挟んだ2枚のシート間を該発熱剤の周囲においてシールしてなるものが知られている。
また、そのような使い捨てカイロを製造する装置として、磁性粉を含有する発熱剤を収容するホッパーと、外周に計量凹部が形成された計量ドラムと、計量ドラムにより搬送された発熱剤が計量凹部から転移される転移ドラムとを備え、計量ドラムの内側のホッパーに対応する位置に磁石を設け、該磁石の磁力により、ホッパー内の発熱剤を計量凹部内に収容させるようにした使い捨てカイロの製造装置が提案されている(特許文献1)。
【0003】
また、本出願人は、鉄粉等の被酸化性金属粉末及び繊維材料を含有するシート状の中間体に、電解質水溶液を含有させることにより、空気中の酸素と該被酸化性金属との酸化反応により発熱するシート状の発熱体を製造する方法を提案している。
例えば、本出願人は、被酸化性金属粉末、繊維材料、水及び保水剤を含み且つ水の含有量が40〜75重量%である塗布液を支持体上に塗布して含水成形体を形成し、該含水成形体を所定の含水率まで脱水した後、脱水された該含水成形体を所定の含水率まで加熱乾燥させて中間成形体を得、然る後、該中間成形体に電解質水溶液を所定量付与して発熱成形体となす発熱成形体の製造方法を提案した(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−248719号公報
【特許文献2】特開2004−143232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、シート状の中間体(製造中間体)に電解質を含む塗布液を含有させてシート状発熱体を製造する場合、塗布液を塗布する際のシート状の中間体が、製品に組み込まれる寸法に既に切断された毎葉の中間体であると、流れ方向における該中間体どうし間の隙間を介して、該中間体の下に配された搬送手段やシートに塗布液が付着し易い。塗布液が搬送手段等の中間体以外の場所に付着すると、設備のメンテナンスの負担が増大したり、塗布液の含有量が変化し所望の品質の発熱体が得られなくなる等の不都合がある。他方、塗布液がシートに付着すると、該シートを他のシートに熱融着等により接合する際にシール不良を生じる原因ともなる。
【0006】
ところで、複数の被搬送物を連続的に搬送しつつ、被搬送物間の間隔を拡大する方法として、一の搬送手段から他の搬送手段に被搬送物を移行させる際に、両搬送手段の搬送速度に速度差を設けておく方法が広く知られている。しかし、塗布液が塗布されたシート状発熱体の場合には、当該他の搬送手段に被搬送物を移し替える際に作用させる吸引力等により、塗布液の含有量が変化し、所望の品質の発熱体が得られなくなる恐れがある。
【0007】
したがって本発明の課題は、前述した従来技術が有する欠点を解消し得る発熱シートの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、被酸化性磁性金属粉末及び繊維材料を含有するシート状の中間体に、電解質を含む塗布液を塗布してなるシート状発熱体と、その両面を被覆するシートを具備する発熱シートの製造方法であって、複数の前記中間体を、流れ方向に近接させた状態で第1搬送手段により搬送しつつ、該中間体に前記塗布液を塗布する第1工程と、前記塗布液の塗布により得られるシート状の発熱体を、第1搬送手段より搬送速度が速い第2搬送手段に、磁石の磁力により引き寄せて転移させ、その転移の際に、前記発熱体の流れ方向の間隔を拡大させる第2工程と、第2工程後に、前記発熱体における第2搬送手段側に向いた面とは反対側の面にシートを合流させる第3工程を具備する、発熱シートの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の発熱シートの製造方法によれば、塗布液を、不必要な箇所に塗布することを防止することができ、所望の品質の発熱シートを安定して製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、本発明の一実施態様で製造する発熱シートの一例を示す図であり、(a)は一部破断平面図、(b)は(a)のA−A線模式断面図である。
【図2】図2は、本発明の実施に好ましく用いられる発熱シートの製造装置の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき図面を参照して説明する。
本発明の一実施態様においては、以下に示す各工程を経て、図1に示す構成の発熱シート10を製造する。図1に示す発熱シート10は、シート状発熱体2(以下、単に発熱体2ともいう)と、その両面を被覆する第1シート11及び第2シート12を具備し、第1シート11と第2シート12との間が、シート状発熱体2の周囲において互いに接合されている。シート状発熱体2は、被酸化性磁性金属粉末、繊維材料及び電解質を含有し、空気中の酸素と被酸化性磁性金属粉末との酸化反応に伴う発熱により発熱する。
図2に示す発熱シートの製造装置1は、本発明の実施に好ましく用いられる発熱シートの製造装置の一例である。
【0012】
〔毎葉の中間体製造工程〕
本実施態様においては、図2に示すように、帯状のシート状の中間体2’を、公知の搬送手段(図示せず)により連続的に搬送して、発熱シートの製造装置1に導入し、該シート状の中間体2’を、切断手段3により、順次、所定長さに切断して毎葉の中間体2Aを得る。
【0013】
本実施態様に用いた帯状シート状の中間体2’は、被酸化性磁性金属粉末及び繊維材料を含有する帯状のシート状物であり、シート状発熱体2の製造中間体であり、後述する塗布液の塗布工程において、電解質を含む塗布液を塗布することで、シート状発熱体2となる。
【0014】
切断手段3としては、帯状のシート状の中間体2’を、幅方向に亘って切断し得る各種公知の切断手段を用いることができる。切断手段3は、例えば、図2に示すように、周面に軸長方向に延びる複数のカッター刃31を有するカッターロール32と受けロール33とを備えており、シート状の中間体2’が、両ロール間32,33を通過することで切断が行なわれる。
受けロール33は、切断により生じた毎葉の中間体2Aを周面に保持しつつ搬送可能であることが好ましい。そのような受けロール33としては、例えば、その周面における、カッター刃31に対応する各部位に該カッター刃31を受ける刃受け部(平滑部)を有し、且つ周方向における刃受け部間に中間体2Aを吸着保持するための吸引口を有しているもの等が挙げられる。
切断により生じた毎葉の中間体2Aは、好ましくは、図2に示すように、受けロール33の周面に保持された状態で、第1搬送手段4まで搬送される。
【0015】
切断手段3としては、切断後の中間体2Aどうし間に隙間をできるだけ生じないようにする観点から、ロータリーダイ、レーザー、ウォータージェットなどを用いることが好ましい。
【0016】
〔塗布液の塗布工程(第1工程)〕
本実施態様の第1工程においては、前述のようにして製造した毎葉の中間体2Aを、図2に示すように、第1搬送手段4により、その流れ方向に近接させた状態で搬送しつつ、該中間体に液塗布手段5により塗布液を塗布する。
第1搬送手段4としては、複数枚のシート状中間体2Aを、流れ方向に実質的に連続させた状態で搬送し得る各種公知の搬送手段を用いることができる。好ましい第1搬送手段は、図2に示すように、矢印方向に周回するワイヤメッシュの無端状の搬送ベルト41を備えている。また、搬送ベルト41を挟んで受けロール33と対向する位置にサクションボックス(図示せず)を有し、搬送ベルト41を挟んで、液塗布手段5のノズル51と対向する位置にも、サクションボックス(図示せず)を備えている。これらのサクションボックスは、不連続のものであっても良いし、搬送方向に延びる一つのサクションボックスであっても良い。サクションボックスの作動により、受けロール33から搬送ベルト41上への中間体2Aの転移及びその後の搬送を安定化させることができる。
【0017】
液塗布手段5としては、塗布液を塗布し得る各種公知の液塗布手段を用いることができる。例えば、液塗布手段5による塗布方法としては、ノズルによる滴下又は噴霧、ブラシによる塗布、ダイコーティング等が用いられるが、周囲への塗布液の飛散やそれによる製造設備の汚染防止等の点からノズルによる滴下もしくは噴霧することが好ましい。図2には、第1搬送手段4の搬送ベルト41に向かって開口する複数のノズル51から、塗布液を、滴下又は噴霧する様子を示した。
中間体2A’に、塗布液を塗布することによりシート状発熱体2が得られる。
【0018】
毎葉の中間体2Aに対する塗布液の塗布を、中間体2Aを、その流れ方向(X方向)に近接させた状態で行うことにより、中間体2Aどうし間の隙間を介して、塗布液が、中間体2Aの下に配された搬送手段4(特に搬送ベルト41)に付着することを防止ないし軽減することができる。
ここで、中間体2Aを流れ方向に近接させた状態は、中間体2Aの端部同士が接している状態、又は中間体2Aの同士が平面視スリット状の隙間を介して隣り合っている状態が好ましい。平面視スリット状の隙間は、流れ方向における中間体2Aどうし間の間隔L1が5mm以下、特に1mm以下であることが好ましい。
【0019】
〔間隔拡大工程(第2工程)〕
本実施態様の第2工程においては、前述のようにして中間体2Aに塗布液を塗布して得られるシート状発熱体2を、図2に示すように、第1搬送手段4より搬送速度が速い第2搬送手段6によって搬送される第1シート11Aに、該第1シート11Aの裏面側に配した磁石62の磁力により引き寄せて転移させ、その転移の際に、発熱体2の流れ方向(X方向)の間隔を拡大させる。
ここで、第1シート11Aは、シート状発熱体2と当接する面が表面、それとは反対側の面が裏面である。また、後述する搬送ベルト61については、第1シート11A又は発熱体2と当接する面が表面、それとは反対側の面が裏面である。第1シート11Aの裏面側には、搬送ベルト61の裏面側も含まれる。
【0020】
図2に示す第2搬送手段6は、矢印方向に周回する無端状の搬送ベルト61を備えている。第2搬送手段6の搬送ベルト61は、発熱体2の搬送方向(X方向)の上流側の一部が、第1搬送手段4の搬送ベルト41と相対向している。また、第2搬送手段6の搬送ベルト61上には、公知の搬送手段(図示せず)により第1シート11Aが導入されるようになっている。
また、搬送ベルト61の裏面側には、磁石62が配置されている。磁石62は、搬送ベルト61が動いても移動しないように特定の箇所に固定されている。また、磁石62は、搬送ベルト61の裏面側に設けられており、また、搬送ベルト61の当該裏面に近接させて配置されている。
【0021】
そして、シート状発熱体2は、第1搬送手段4により、第2搬送手段6の搬送ベルト61に対向する位置まで搬送された後、磁石62の磁力によって引き付けられ、それによって、搬送ベルト61上に配された第1シート11A上に移行する。
また、第1搬送手段4の搬送速度(より具体的には搬送ベルト41のX方向への移動速度)よりも、第2搬送手段6の搬送速度(より具体的には搬送ベルト61のX方向への移動速度)が速いことによって、発熱体2の流れ方向の間隔が拡大する。
間隔拡大後の発熱体2の間隔L2は、製造する発熱シート10において、シート状発熱体2の周囲に形成するシート11,12間の接合部の幅等に応じて適宜に決定することができ、特に制限はない。
【0022】
搬送ベルト61は、通気性のないベルトからなるものであっても良いし、第1搬送手段の搬送ベルト41と同様に、ワイヤメッシュや吸引孔のある平ベルト等からなる通気性の搬送ベルトであっても良い。通気性の搬送ベルトを用いる場合には、該搬送ベルトの裏側にサクションボックスを配置し、第1シート11Aを、該搬送ベルト上に吸着しつつ搬送しても良い。この場合、磁石62は、搬送ベルトによる第1シート11Aの吸引を阻害しないように、搬送ベルトの幅方向において発熱体2Aが通る位置(発熱体2Aにおける幅方向端部またはその内側の位置)に設けることが好ましい。第1シート11Aを、吸引しつつ搬送することにより、第1シート11Aと搬送ベルト61の間にずれが生じることを効果的に防止することができる。
磁石としては、フェライト磁石、ネオジム磁石、サマリウムコバルト磁石等の永久磁石を用いても良いし、電磁石を用いても良いが、永久磁石を用いることが、停電トラブルや生産休止時などの非通電時にも発熱体2Aを保持できる点から好ましい。
【0023】
〔第2シート合流工程(第3工程)〕
本実施態様の第3工程においては、磁力によって、第2搬送手段6の搬送ベルト61上に保持されている状態の発熱体2に対して、第3搬送手段7により帯状の第2シート12Aを合流させる。第2シート12Aは、発熱体2における第1シート11A側に向いた面とは反対側の面に合流させる。
図2に示す第3搬送手段7は、矢印方向に周回する無端状の搬送ベルト71を備えている。搬送ベルト71は、通気性のないベルトからなるものであっても良いし、第1搬送手段の搬送ベルト41と同様に、ワイヤメッシュや吸引孔のある平ベルト等からなる通気性の搬送ベルトであっても良い。通気性の搬送ベルトを用いる場合には、該搬送ベルトの裏側にサクションボックスを配置し、第2シート12Aを、該搬送ベルト上に吸着しつつ搬送しても良い。
【0024】
第3工程においては、磁力によって第1シート11A上に保持されていた発熱体2が、自重により第2シート12A上に落下するようにしても良い。或いは第1シート11A上に保持されていた発熱体2を、第1シート11A及び第2シート12Aを介して搬送ベルト61及び搬送ベルト71間に狭持させることで、第2シート12Aに当接して移動するようにしても良い。後者の方が、第2シート12Aにおける発熱体2の位置ずれが起きにくく、好ましい。
【0025】
第3工程においては、第1シート11Aに対する発熱体2の配置位置を維持しつつ、第2シート12Aを合流させることが好ましい。発熱体2に含まれる電解質や薬剤等の塗布液の一部が、第2搬送手段6上において第1シート11Aに移行することがあるが、第1シート11Aに対する発熱体2の配置位置をずらさないことにより、更なる移行を抑制することができ、また、第2シート12Aとの接合の際のシール不良等も防止することができる。
【0026】
〔外周シール工程(第4工程)〕
本実施態様の第4工程においては、発熱体2を、第1シート11A及び第2シート12A間に挟んだ構成の積層体を、外周接合手段8まで搬送し、外周接合手段8により、発熱体2の周縁から延出した第1シート11Aと第2シート12Aとの間を接合する。
外周接合手段8による接合方法は、熱融着(ヒートシール)であることが好ましく、例えば、一対の加熱ロール81間を通過させ、発熱体2の周縁から延出した両シート11A,12Aの延出部分をヒートシールする。
【0027】
〔分離工程〕
そして、カッターロール等の適宜の切断手段9により、外周部を接合された積層体を所定長さに切断することで、目的とする発熱シート10が得られる。
【0028】
本実施形態で用いる各種材について説明する。
シート状の中間体2’,2A及び発熱体2に含ませる被酸化性磁性金属粉末の金属としては、例えば、鉄、コバルト、ニッケルが挙げられる。また、被酸化性磁性金属粉末の粒径は、例えば0.1〜300μm程度とすることができる。磁石により引き寄せることのできる磁性金属粉末に加えて、磁石に引き寄せられない被酸化性金属粉末を併存させることもできる。発熱体2(中間体2A)の坪量は、例えば、200〜2000g/m2であることが好ましく、当該坪量の発熱体2(中間体2A)において、被酸化性磁性金属粉末の配合量は、10%以上であることがより好ましく、発熱特性も考慮すると、該配合量は50〜85%であることが更に好ましい。
【0029】
シート状の中間体2’,2A及び発熱体2に含ませる繊維状物としては、例えば、天然のセルロース繊維、セルロースの化学繊維としては、合成繊維等が挙げられる。天然のセルロース繊維としては、各種の植物繊維、木材パルプ、非木材パルプ、木綿、麻、麦藁、ヘンプ、ジュート、カポック、やし、いぐさ等を用いることができる。これらの天然セルロース繊維のうち、容易に入手できる等の観点から、木材パルプを用いることが好ましい。セルロースの化学繊維としては、例えばレーヨン及びアセテートを用いることができる。
【0030】
シート状の中間体2’,2Aの形態としては、例えば、湿式抄造により得られたシート状物や、発熱粉体を紙等で挟持してなる積層体等が挙げられる。そのようなシート状物は、例えば本出願人の先の出願に係る特開2003−102761号公報に記載の湿式抄造法や、ダイコーターを用いたエクストルージョン法を用いて製造することができる。
シート状の中間体2’,2Aには、必要に応じ、更に、保水剤(例えば、バーミキュライト、ケイ酸カルシウム、シリカゲル、シリカ系多孔質物質、アルミナ、パルプ、木紛、吸水ポリマー等)、反応促進剤(例えば、活性炭、カーボンブラック、黒鉛等)等を含有させることができる。
【0031】
塗布液に含む電解質としては、被酸化性磁性金属粉末の表面に形成された酸化物の溶解が可能なものが用いられる。その例としてはアルカリ金属、アルカリ土類金属又は遷移金属の硫酸塩、炭酸塩、塩化物又は水酸化物等が挙げられる。これらの中でも、導電性、化学的安定性、生産コストに優れる点からアルカリ金属、アルカリ土類金属又は遷移金属の塩化物が好ましく用いられ、特に塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化第一鉄、塩化第二鉄が好ましく用いられる。
【0032】
塗布液には電解質以外にも薬剤を含ませることもできる。塗布液が含む薬剤としては、例えば発熱シートの発熱によって放出され、皮膚から吸収され、局所及び全身への生理活性作用を奏するもの等が好ましく用いられる。具体的には、化粧品用・医薬用に一般に用いられている経皮吸収性薬剤である、カンフル、リモネン、ゲラニオール、セドロール、シトロネロールなどの香料類、ハッカ油、ペパーミント油、ラベンダー油、ユーカリ油、ジンジャー油などの精油類、l−メントール及びdl−メントールのようなメントール、メントール誘導体などの冷感剤、トウガラシチンキ、ノニル酸ワニリルアミド、カプサイシンなどの温感剤、酢酸トコフェロール、ニコチン酸トコフェロール、ニコチン酸ベンジルなどの血行促進剤、アルブチン、コウジ酸、L−アスコルビン酸、L-アスコルビン酸誘導体などの美白剤、レチノールなどの抗シワ剤、リドカイン、テトラカインなどの局所麻酔剤、サリチル酸メチル、サリチル酸グリコール、インドメタシン、ジクロフェナック、フェルビナク、ケトプロフェンなどの非ステロイド系消炎鎮痛剤、塩酸エペリゾンなどの骨格筋弛緩薬、ミコナゾール、クロトリマゾール等の抗真菌剤、エストラジオールやテストステロン等のホルモン剤、クロニジン等の降圧剤、ニトログリセリンや硝酸イソソルビド等の血管拡張剤、ニコチン等の禁煙補助剤、ツロブテール等の気管支拡張剤、スコポラミン等の鎮痙薬、フェンタニルなどの癌性疼痛用薬剤が挙げられる。
【0033】
中でも、メントール、メントール誘導体、カンフル、リモネン及びゲラニオール、シトロネロール等のモノテルペンや、セドロール等のセスキテルペンや、これらを含むハッカ油及びペパーミント油等や、サリチル酸メチル及びサリチル酸グリコール等のサリチル酸エステルが好ましい。
【0034】
液塗布工程で塗布する塗布液は、例えば、親水性の異なる複数種の流体を混合して調製され、その複数種の流体のうちの1種は、電解質水溶液であり、他の1種は、メントール等の前述した薬剤を含有する溶剤(以下、メントール油剤ともいう)である。これら2種の流体に加えて更に、別の1種の流体として活性剤溶液を用い、これら3種の流体を混合して塗布液を調製しても良い。電解質水溶液は、前述した、発熱体2における空気中の酸素と被酸化性磁性金属との酸化反応の触媒であり、塩化ナトリウム等の電解質及び水を含む。メントールは、主として、発熱体2(発熱シート)を人体に装着して使用した場合の清涼感を得るために用いられるもので、常温で水に微溶の固体であるため、親水性の低い(親油性の高い)溶剤に分散又は溶解させて用いられる。前記メントール油剤には、必要に応じ、メントールの溶解助剤として界面活性剤を含有させることができる。界面活性剤としては、公知のものを特に制限無く用いることができ、例えば、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等が挙げられる。メントール油剤における界面活性剤の含有率は、好ましくは2〜50質量%である。
また、電解質水溶液との混合が困難な場合、電解質水溶液と薬剤を個別に塗布しても良い。
【0035】
第1シート11A,11および第2シート12A,12としては、各種公知のシート材を用いることができ、例えば、各種製法による不織布、樹脂フィルム、これらの積層体等が用いられる。第1シート11Aと第2シート12Aは、発熱体に酸素を取り込むために、少なくとも一方が通気性材料であることが好ましく、他方は通気性材料であっても非通気性材料であってもよい。通気性材料の通気度は製品の性能を満たすように適宜選ばれる。また、一方に非通気性材料を用いる場合は、塗布工程で塗布した塗布液が発熱体2の表面に残っていた場合に通気性材料に付着して通気を妨害しないように、第1のシート11Aに非通気性材料を用いたほうが好ましい。
さらに、塗布液が肌へ作用する電解質溶液以外の薬剤を含む場合、両方が通気性材料のときは通気性が高いシートを肌側に用いた方が好ましく、一方が非通気性材料のときは通気性材料を肌側に用いた方が好ましい。安定した発熱が長時間にわたって維持される観点から、通気度(JIS P8117 B型)は、1〜50,000秒/(100ml・6.42cm2)、特に10〜40,000秒/(100ml・6.42cm2)であることが好ましい。
なお、第1シート11Aが、通気性シートである場合、第2搬送手段6に、空気を吸入する吸引孔が設けられていても、その吸引孔が、当該シートによって覆われるため、発熱体2を、第1シート11A上に吸着保持させることは困難である。しかし、本願発明においては、磁力を用いているため、第1シート11Aが、そのようなシートの場合であっても、該シート上に発熱体2を保持することができる。
【0036】
本実施形態の発熱シートの製造方法によって製造された発熱シート10は、例えば、そのまま、若しくは、肌触りの良い不織布等からなる包材に包んだ後、人体に直接適用されるか、又は衣類に適用されて、人体の加温に好適に用いられる。人体における適用部位としては例えば肩、首、目、腰、肘、膝、太腿、下腿、腹、下腹部、手、足裏などが挙げられる。また、人体のほかに、各種の物品に適用されてその加温や保温等にも好適に用いられる。
また、本発明により製造される発熱シート10は、上記のような加温具の発熱部に用いられる他、他の構成の発熱具や、他の用途に用いることもできる。
【0037】
本実施態様の発熱シートの製造方法によれば、前述したように、中間体2Aどうしを近接させた状態で塗布液の塗布を行うため、塗布液が、該中間体2Aを搬送する搬送手段4(特に搬送ベルト41)に付着することを防止ないし軽減することができる。そのため、搬送手段4が塗布液で汚染されることによる、設備のメンテナンス負担を軽減することができる。
また、中間体2Aどうしを近接させた状態で塗布液の塗布を行うため、第3搬送手段7における搬送速度よりも低速で搬送しながらの塗布が可能であり、中間体2Aへの塗布量の精度がよく、塗布液を塗布することによる発熱性能や薬剤等の効果が安定して得られる。これにより、発熱シートの製造効率を向上させることができる。
また、第2工程においては、第2搬送手段6により第1シート11Aを搬送し、発熱体2は、第1シート11Aの裏面側に配された磁石62により第1シート11A上に転移されるため、塗布液が発熱シート内に留まることとなり、発熱シート毎の塗布量の精度がよく、塗布液を塗布することによる発熱性能や薬剤等の効果が更に安定して得られる。
また、第2搬送手段6及び第3搬送手段7は、それぞれ第1シート11A又は第2シート12Aを介して、発熱体2等を搬送するため、搬送手段6,7が、発熱体2に含まれる電解質や薬剤等の塗布液によって汚染されにくい。
【0038】
また、中間体2Aに対する塗布液の塗布を、第1搬送手段4上において、第1及び第2シート11A及び12Aが存在しない状態下に行うため、第1及び第2シート11A及び12A、特に第2シート12Aに塗布液が付着することを防止でき、外周シール工程において、両シート間の接合箇所にシール不良が生じることも防止することができる。
また、シート状発熱体を用いるため、発熱シート10中に粉の偏りを防止することができる。
【0039】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。
例えば、帯状のシート状の中間体2’を、1本のみ、上述した製造装置1に導入し、該1本の中間体2’のみに対して上述した各工程の処理を行ってもよいし、帯状のシート状の中間体2’を、複数本並行させて、上述した製造装置1に導入し、複数本の該中間体2’のそれぞれに対して上述した各工程の処理を行ってもよい。
【0040】
また、図2に示す例では、第2搬送手段6に保持されて搬送されている発熱体2に対して第2シート12Aを合流させたが、第2搬送手段6による保持を解除された後の発熱体2に第2シート12Aを合流させても良い。また、発熱体2の周縁より延出した第1シート11Aと第2シート12Aとの接合は、超音波シールや高周波シール、接着剤との併用等により行うこともできる。
【0041】
また、必ずしも、第2搬送手段6に第1シートを搬送させなくてもよく、第1シートを伴わない第2搬送手段6に発熱体2を直接転移してもよい。
その場合、発熱体2を第3搬送手段に搬送される第2シート上に載せた後に発熱体2における第2シート側の面とは反対側の面に第1シートを合流させてもよい。或いは、第3搬送手段に搬送される幅広な第2シート上に発熱体2を載せた後に、幅方向に該第2シートを2つ折りまたは3つ折りにして発熱体2を被覆し、第2シートのみで、発熱体の表裏面ないし全体を被覆し、発熱シートを得ても良い。
【符号の説明】
【0042】
1 発熱シートの製造装置
2 シート状発熱体
2’ 帯状のシート状中間体
2A 毎葉のシート状中間体
3 切断手段
32 カッターロール
33 受けロール
4 第1搬送手段
41 搬送ベルト
5 液塗布手段
51 ノズル
6 第2搬送手段
61 搬送ベルト
7 第3搬送手段
71 搬送ベルト
8 外周接合手段
9 切断手段
10 発熱シート
11 第1シート
11A 帯状の第1シート
12 第2シート
12A 帯状の第2シート
62 磁石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被酸化性磁性金属粉末及び繊維材料を含有するシート状の中間体に、電解質を含む塗布液を塗布してなるシート状発熱体と、その両面を被覆するシートを具備する発熱シートの製造方法であって、
複数の前記中間体を、流れ方向に近接させた状態で第1搬送手段により搬送しつつ、該中間体に前記塗布液を塗布する第1工程と、前記塗布液の塗布により得られるシート状の発熱体を、第1搬送手段より搬送速度が速い第2搬送手段に、磁石の磁力により引き寄せて転移させ、その転移の際に、前記発熱体の流れ方向の間隔を拡大させる第2工程と、第2工程後に、前記発熱体における第2搬送手段側に向いた面とは反対側の面にシートを合流させる第3工程を具備する、発熱シートの製造方法。
【請求項2】
第2工程においては、第2搬送手段により、前記シートとしての第2シートとは別の第1シートを搬送し、前記発熱体を、第1シートの裏面側に配された磁石により、第1シート上に転移させる、請求項1記載の発熱シートの製造方法。
【請求項3】
第3工程においては、第1シートに対する前記発熱体の配置位置を維持しつつ、第2シートを合流させる、請求項2記載の発熱シートの製造方法。
【請求項4】
第1シート及び第2シートは、少なくとも一方が通気性のシートである、請求項2又は3に記載の発熱シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−130381(P2012−130381A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−282856(P2010−282856)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】