発熱体
【課題】機械的強度が高く、かつ、通電発熱性を有し、抵抗発熱体として好適に使用可能であること。
【解決手段】発熱体1は、金属アルミニウム粉2と、アルミニウム2の溶融点より低い温度では溶融しない炭素粉3と、アルミナ及びシリカ、アルミナとシリカとの複合酸化物、並びに、アルミニウムのケイ酸塩のうちの少なくとも1種を含有する無機酸化物材料の粉4と、有機化合物5と、水及び/またはバインダ6とが混合されてなる焼結原料混合物7を、圧力を加えて成形し、アルミニウム2の溶融点より高い温度で焼成してなるものであり、金属アルミニウム(Al)、金属シリコン(Si)、アルミナ(Al2O3)、シリカ(SiO2)、並びに、アルミナとシリカとの複合酸化物またはアルミニウム酸化物とケイ素酸化物との複合酸化物を主成分とし、5%〜50%の範囲内の空隙を有する多孔質材料に形成してなるものである。
【解決手段】発熱体1は、金属アルミニウム粉2と、アルミニウム2の溶融点より低い温度では溶融しない炭素粉3と、アルミナ及びシリカ、アルミナとシリカとの複合酸化物、並びに、アルミニウムのケイ酸塩のうちの少なくとも1種を含有する無機酸化物材料の粉4と、有機化合物5と、水及び/またはバインダ6とが混合されてなる焼結原料混合物7を、圧力を加えて成形し、アルミニウム2の溶融点より高い温度で焼成してなるものであり、金属アルミニウム(Al)、金属シリコン(Si)、アルミナ(Al2O3)、シリカ(SiO2)、並びに、アルミナとシリカとの複合酸化物またはアルミニウム酸化物とケイ素酸化物との複合酸化物を主成分とし、5%〜50%の範囲内の空隙を有する多孔質材料に形成してなるものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原料に金属アルミニウムを用いて焼成した発熱体に関するもので、特に、通電による抵抗発熱性を有し、抵抗発熱体として好適に使用可能な発熱体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属や金属酸化物・窒化物等の粉末を焼成してなる焼結体は、その緻密性から様々な分野での利用可能性があり、従来から多くの技術が開発されてきていた。
特に、金属材料としてのアルミニウム材料は、軽量かつ安価であり、加工性も良いことから、従来から焼結体を製造する原材料としてアルミニウム材料が検討されてきた。
しかし、アルミニウム材料は極めて酸化し易くてその表面に安定で硬い酸化皮膜が形成され易いため、これをそのまま焼結させても機械的強度の高い焼結体を得ることは困難である。
【0003】
ここで、本出願人は、先に、金属アルミニウム粉を使用した焼結体の発明に係る特許出願をした(特許文献1)。この特許文献1に記載の焼結体の発明は、アルミニウム微粒子とゼオライト微粒子と有機バインダ及び/または無機バインダとを含有し、これらが均一に混合された混合物を、常温でプレス成形し、非酸化雰囲気において1200℃〜1800℃の範囲内の温度で焼結したものであり、これによって、優れた機械的強度を有する焼結体が得られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特願2010−179397
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献1の発明においては、1200℃〜1800℃の範囲内の温度で焼結したことから、得られる焼結体は主にアルミナ質であると予測され、通電発熱はなく、抵抗体、抵抗発熱体等の用途に適した導電性は備えられていなかった。このため、アルミニウム材料を使用した焼結体として応用分野の拡大を図ることはできなかった。
【0006】
ところで、従来から使用されている発熱体として、ニクロム合金、カンタル合金等の金属材料や、炭化ケイ素(SiC)等のセラミック材料からなるものが開発されている。
しかし、金属材料からなる発熱体は、液体加熱用の発熱体等として使用する場合において、金属の周囲にマグネシア等の絶縁物を配設し、更に、全体を金属シースで包む必要があることから、また、金属線によって面放熱させていたことから、発熱効率が低かった。一方、セラミック材料からなる発熱体においては、脆くて急激な温度変化による熱衝撃にも弱く、急速加熱や急速冷却が困難であった。
【0007】
そこで、本発明は、かかる不具合を解決すべくなされたものであって、機械的強度が高く、かつ、通電発熱性を有し、抵抗発熱体として好適に使用可能な発熱体の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発熱体は、金属アルミニウム(Al)、金属シリコン(Si)、アルミナ(Al2O3)、シリカ(SiO2)、並びにアルミナとシリカとの複合酸化物またはアルミニウム酸化物とケイ素酸化物との複合酸化物を主成分とし、5%〜50%の範囲内の空隙を有する多孔質材料に形成してなるものである。
【0009】
ここで、上記5%〜50%の範囲内の空隙は、形成した乾燥状態の発熱体の体積及び重量を測定し、水を含浸させた状態の重量を測定し、再び乾燥させて重量を測定し、その重量の変化を気孔率に置き換えたものである。及び「パラフィン浸透装置(ULVAC DA−15D)」により真空に脱気したところにパラフィンを含浸させて、その重さの変化から算出したものも、結果的に大きな差は生じなかった。したがって、ここでは前者、後者の区別なく説明する。
【0010】
上記5%〜50%の範囲内の空隙は、体積率で5%〜50%の範囲内の空隙を有することを意味し、この5%〜50%との数値は、本発明者らが、鋭意実験研究を重ねた結果、空隙が5%〜50%の範囲内においては、抵抗発熱体としての使用において、十分な強度及び通電発熱性を確保できることを見出し、この知見に基づいて設定されたものである。なお、上記5%〜50%の範囲内は、厳格に5%〜50%の範囲内であることを要求するものではなく、通常、約5%〜約50%の範囲内で使用するのが望ましいという値である。当然、誤差を含む概略値であり、数割の誤差を否定するものではない。
【0011】
請求項2の発熱体の前記多孔質材料は、金属アルミニウム粉(粉末)と、前記アルミニウムの溶融点より低い温度では溶融しない炭素粉と、アルミナ及びシリカ、アルミナ及びシリカの複合酸化物、並びに、アルミニウムのケイ酸塩のうちの少なくとも1種を含有する無機酸化物材料からなる粉末とが混合されてなる混合物を、前記アルミニウムの溶融点より高い温度で焼成することによって得られるものである。
【0012】
ここで、上記金属アルミニウム粉は、通常、アトマイズ法(噴霧式)によって製造された不規則な形状(針状、紡錘形状等)のものが使用される。
また、上記炭素粉は、通常、熱伝導率が低く、高温下でも前記金属アルミニウム粉とは反応しないものであるが、ここでは、前記金属アルミニウム粉の溶融点(668℃)より低い温度では溶融しないものであればよく、例えば、黒鉛、カーボンブラック、活性炭、炭素繊維等の粉状物が挙げられる。
更に、上記無機酸化物材料からなる粉末は、アルミナ(Al2O3)及びシリカ(SiO2)、アルミナとシリカとの複合酸化物、並びに、アルミニウムのケイ酸塩のうちの少なくとも1種を含有するものであり、例えば、アルミナ粉末及びシリカ粉末が一緒に使用されたり、アルミナ及びシリカやこれらの化合物を含有する鉱物粉末等が使用されたりする態様がある。即ち、上記無機酸化物材料の粉末には、アルミナ粉及びシリカ粉の併用態様の他に、アルミニウム酸化物及びケイ素酸化物、前記アルミニウム酸化物と前記ケイ素酸化物の複合酸化物、アルミニウムのケイ酸塩のうちの少なくとも1種を含有する陶磁器用の粘土粉等の単独使用の態様があり、本発明を阻害する成分でなければ、他の成分が含まれていてもよい。
【0013】
請求項3の発熱体は、前記炭素粉が黒鉛粉であるものである。
ここで、上記黒鉛(グラファイト、石墨)は、常圧で安定な炭素同素体の鉱物であり、炭素6員環が連なる層状構造を有し、融点が非常に高いものである。粉末化した黒鉛粉には、天然黒鉛を用いるのが一般的で、中でも鱗状黒鉛を用いるのが最も一般的であるが、その他にも土状黒鉛等の天然黒鉛や鱗状天然黒鉛粉を長柱状に造粒した長柱状造粒黒鉛等の使用も可能である。
【0014】
請求項4の発熱体は、前記アルミナ及びシリカ、アルミナとシリカとの複合酸化物、並びにアルミニウムのケイ酸塩のうちの少なくとも1種を含有する無機酸化物材料として、粘土質鉱物を用いたものである。
【0015】
請求項5の発熱体は、前記多孔質材料が、前記混合物を圧力を加えて所望形状に成形した後、焼成することによって得られたものである。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の発明に係る発熱体は、金属アルミニウム(Al)、金属シリコン(Si)、アルミナ(Al2O3)、シリカ(SiO2)、並びに、アルミナとシリカとの複合酸化物またはアルミニウム酸化物とケイ素酸化物との複合酸化物を主成分とし、5%〜50%の範囲内の空隙を有する多孔質材料に形成してなる。
【0017】
金属アルミニウムの粉末を使用し、これを焼成することによって、二次元または三次元的に構成し、機械的強度が高く、かつ、通電発熱性を有し抵抗発熱体として使用可能なものは、これまでに存在していない。
本発明者らは、鋭意実験研究の結果、金属アルミニウムの粉末等を使用し特殊な製造方法によって、かかる特性を有する発熱体を製造することに成功した。そして、この発熱体は、金属アルミニウム(Al)、金属シリコン(Si)、アルミナ(Al2O3)、シリカ(SiO2)、並びに、アルミナとシリカとの複合酸化物またはアルミニウム酸化物とケイ素酸化物との複合酸化物を主成分とし、空隙を有する多孔質材料からなるものである。
【0018】
ここで、多孔質材料の空隙が5%未満であると、抵抗値が小さく、通電による発熱性が損なわれる。一方、空隙が50%を超えると、抵抗発熱体としての使用において、強度が足りず、また、通電性も損なわれる。したがって、多孔質材料の空隙は5%〜50%の範囲内であることが必要である。
このような構成の多孔質材料からなる発熱体は、機械的強度が高く、また、通電により抵抗発熱し、抵抗発熱体として使用可能である。
特に、本発明者らが発明した発熱体は、体積が大きい割には通電による昇温速度及び通電解除による降温速度が速くて、急激な温度変化による熱衝撃にも強く、急速加熱や急速冷却が可能である。また、この発熱体は、直接抵抗加熱であり、しかも多孔質であることから、熱効率を高めることが可能である。また、酸等の化学的にも強靭である。
したがって、抵抗発熱体としての使用に好適であり、特に、面で加熱する発熱体等の使途に適する。
【0019】
請求項2の発明に係る発熱体の前記多孔質材料は、金属アルミニウム粉と、前記アルミニウムの溶融点より低い温度では溶融しない炭素粉と、アルミナ及びシリカ、アルミナとシリカとの複合酸化物、並びに、アルミニウムのケイ酸塩のうちの少なくとも1種を含有する無機酸化物材料の粉とが混合されてなる混合物を、前記アルミニウムの溶融点より高い温度で焼成することによって得られる。
【0020】
ここで、炭素粉が混合されていることによって、アルミニウム粉が炭素粉に覆われ、炭素粉が燃焼することでアルミニウムの周囲は還元雰囲気に近い状態となるため、アルミニウムの酸化が防止され、また、アルミニウムの溶融点(660.4℃)に達しても、アルミニウムが溶融して表面に噴出することがなく、焼成によって上記混合物が複合化される。
これによって、金属アルミニウム(Al)、金属シリコン(Si)、アルミナ(Al2O3)、シリカ(SiO2)、並びに、アルミナとシリカとの複合酸化物またはアルミニウム酸化物とケイ素酸化物との複合酸化物を主成分とし、5%〜50%の範囲内の空隙を有する発熱体となる。
【0021】
そして、この発明に係る発熱体によれば、原料の粒度分布や寸法形状や配合量、焼成温度等を調節することによって抵抗値を制御することができる。
したがって、請求項1の効果に加えて、製造過程における抵抗制御が容易にできる。
【0022】
請求項3の発明に係る発熱体によれば、前記炭素粉は黒鉛粉であり、炭素粉としての黒鉛粉は、金属アルミニウム粉の表面に付着しやすいことから、焼成過程において、溶融したアルミニウムが表面に噴出する焼結不良が確実に抑制される。したがって、請求項1または請求項2に記載の効果に加えて、安定した高強度や通電発熱性等の性能を確保でき、高い品質を確保することができる。
【0023】
請求項4の発明に係る発熱体によれば、前記アルミナ及びシリカ、アルミナとシリカとの複合酸化物、並びにアルミニウムのケイ酸塩のうちの少なくとも1種を含有する無機酸化物材料として、粘土質鉱物を用いたことから、請求項1乃至請求項3に記載の効果に加えて、成形性や保形性等が向上し、所望形状の形成が容易にできる。
【0024】
請求項5の発明に係る発熱体によれば、前記多孔質材料は、前記混合物を圧力を加えて所望形状に成形した後、焼成することによって得られたものである。
ここで、金属アルミニウム粉と、炭素粉と、無機酸化物材料の粉とが混合されてなる混合物を、圧力を加えて成形することによって、これらの混合物は強固で緻密な固形状態となる。そして、この状態で焼成することによって、より高強度の発熱体を得ることができる。また、成形時の圧力調節等をすることにより、容易に抵抗値を制御できることから、製造過程における抵抗制御も容易である。
更には、成型時の金型形状等による成形形状の調節、成形時の充填量の調節、成形時の部分的な圧力調節等で発熱体の抵抗分布を調節することによって、特定部位を特定の温度に発熱させることも可能である。
したがって、請求項1乃至請求項4に記載の効果に加えて、強度の向上を図ることができる。また、抵抗制御がより容易に可能である
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は本発明の実施の形態1に係る発熱体の製造方法を示すフローチャートである。
【図2】図2は本発明の実施の形態1に係る発熱体の成形例を示すもので、図2(a)は直方体状の発熱体であり、図2(b)は円筒状の発熱体の斜視図である。
【図3】図3は本発明の実施の形態1に係る発熱体のX線回析(発熱体を粉砕して測定)によるスペクトル図である。
【図4】図4は本発明の実施の形態1に係る厚み15mmの発熱体のSEM−EDX(エネルギ分散型X線分光法)によるBSE(反射電子顕微鏡)写真におけるスペクトルの検出位置を示す図(a)、同じく厚み15mmの発熱体のSEM−EDXによるSEM写真(走査型電子顕微鏡)におけるスペクトルの検出位置を示す図(b)である。
【図5】図5は図4(a)のBSE写真及び図4(b)のSEM写真におけるスペクトルの検出位置から検出したスペクトルを示す図である。
【図6】図6は本発明の実施の形態1に係る厚み15mmの発熱体のSEM−EDXによるSEM写真におけるスペクトルの検出位置を示す図である。
【図7】図7は図6のSEM写真におけるスペクトルの検出位置から検出したスペクトルを示す図である。
【図8】図8は本発明の実施の形態1に係る厚み30mmの発熱体のSEM−EDXによるSEM写真におけるスペクトルの検出位置を示す図(a)及びBSE写真におけるスペクトルの検出位置を示す図(b)である。
【図9】図9は図8(a)のSEM写真及び図8(b)のBSE写真におけるスペクトルの検出位置から検出したスペクトルを示す図である。
【図10】図10は本発明の実施の形態1に係る厚み30mmの発熱体のSEM−EDXによるSEM写真におけるスペクトルの検出位置を示す図(a)及びBSE写真におけるスペクトルの検出位置を示す図(b)である。
【図11】図11は図10(a)のSEM写真及び図10(b)のBSE写真のSEM写真におけるスペクトルの検出位置から検出したスペクトルを示す図である。
【図12】図12(a)のSEM写真及び図12(b)のBSE写真は本発明の実施の形態1に係る厚み30mmの発熱体のSEM−EDXによるSEM写真におけるスペクトルの検出位置を示す図(a)及びBSE(反射電子顕微鏡)写真におけるスペクトルの検出位置を示す図(b)である。である。
【図13】図13は図12のSEM写真におけるスペクトルの検出位置から検出したスペクトルを示す図である。
【図14】図14は本発明の実施の形態1に係る厚み30mmの発熱体のBSE写真におけるスペクトルの検出位置を示す図である。
【図15】図15は図14のBSE写真におけるスペクトルの検出位置から検出したスペクトルを示す図である。
【図16】図16は本発明の実施の形態1に係る厚み30mmの発熱体のSEM−EDXによるSEM写真におけるスペクトルの検出位置を示す図である。
【図17】図17は図16のSEM写真におけるスペクトルの検出位置から検出したスペクトルを示す図である。
【図18】図18は本発明の実施の形態1に係る厚み30mmの発熱体のSEM−EDXによるSEM写真におけるスペクトルの検出位置を示す図である。
【図19】図19は図18のSEM写真におけるスペクトルの検出位置から検出したスペクトルを示す図である。
【図20】図20は本発明の実施の形態1に係る発熱体の微細構造を示すSEM写真であり、厚み15mmの実施物の発熱体の割断面を示す両端スケール間を1mmとする図(a)、同じくSEM写真であり、厚み15mmの実施物の発熱体の割断状態を示す両端スケール間を100μmとする図(b)である。
【図21】図21は本発明の実施の形態1に係る発熱体の微細構造を示すSEM写真であり、厚み15mmの実施物の発熱体の割断面を示す両端スケール間を100μmとする図(a)、BSE写真であり、厚み15mmの実施物の発熱体の割断状態を示す両端スケール間を100μmとした写真の図(b)である。
【図22】図22は本発明の実施の形態1に係る発熱体の微細構造を示すSEM写真であり、厚み15mmの実施物の発熱体の割断面を示す両端スケール間を50μmとする図(a)、同じくSEM写真であり、厚み15mmの実施物の発熱体の割断状態を示す両端スケール間を50μmとした写真の図(b)である。
【図23】図23は本発明の実施の形態1に係る発熱体の微細構造を示すSEM写真であり、厚み15mmの実施物の発熱体の割断面を示す両端スケール間を20μmとする図(a)、同じくSEM写真であり、厚み15mmの実施物の発熱体の割断状態を示す両端スケール間を3μmとした写真の図(b)である。
【図24】図24は本発明の実施の形態1に係る発熱体の微細構造を示すSEM写真であり、厚み30mmの実施物の発熱体の割断状態を示す両端スケール間を500μmとする図(a)、同じくSEM写真であり、厚み30mmの実施物の発熱体の割断状態を示す両端スケール間を50μmとした写真の図(b)である。
【図25】図25は本発明の実施の形態1に係る発熱体の微細構造を示すBSE写真であり、厚み30mmの実施物の発熱体の割断面を示す両端スケール間を50μmとする図(a)、SEM写真であり厚み30mmの実施物の発熱体の割断状態を示す両端スケール間を30μmとした写真の図(b)である。
【図26】図26は本発明の実施の形態1に係る発熱体の微細構造を示すSEM写真であり、厚み30mmの実施物の発熱体の割断面を示す両端スケール間を20μmとする図(a)、同じくSEM写真であり、厚み30mmの実施物の発熱体の割断状態を示す両端スケール間を20μmとした写真の図(b)である。
【図27】図27は本発明の実施の形態1に係る発熱体の通電による温度変化を示すグラフ及びその下は電気特性値を示す表(a)であり、また、通電解除による温度変化を示すグラフ(b)である。
【図28】図28は、本発明の実施の形態1に係る発熱体の実施物として、プレス成形してなる平板状の発熱体の通電による発熱温度分布を示す写真(サーモグラフィ)である。
【図29】図29は、本発明の実施の形態1に係る発熱体の実施物として、長さ方向の中央部と両端部で厚みに差をつけた発熱体の写真(a)と、その通電による発熱温度分布を示す写真(サーモグラフィ)(b)である。
【図30】図30は本発明の実施の形態2に係る発熱体の製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
なお、各実施の形態において、同一の記号及び同一の符号は同一または相当する機能部分を意味し、各実施の形態相互の同一の記号及び同一の符号は、それら実施の形態に共通する機能部分であるから、ここでは重複する詳細な説明を省略する。
【0027】
[実施の形態1]
以下、本発明の実施の形態に係る発熱体について、図面を参照しながら説明する。なお、実施の形態において、同一記号及び同一符号は、実施の形態の同一または相当する機能部分を意味し、実施の形態相互との同一記号及び同一符号は、それら実施の形態に共通する機能部分であるから、ここでは重複する詳細な説明を省略する。
まず、本発明の実施の形態1に係る発熱体について、図1乃至図29を参照して説明する。
最初に本発明の実施の形態1に係る発熱体の製造方法について説明する。
本実施の形態1に係る発熱体1は、金属アルミニウム粉2、炭素粉3、及び、無機酸化物材料の粉4を主に使用して製造されたものである。
【0028】
具体的には、本発明の実施の形態1においては、図1のフローチャートに示されるように、最初に、焼結原料混合工程にて、金属アルミニウム粉2、炭素粉3、無機酸化物材料の粉4、更には、有機化合物粉5、水及び/またはバインダ6が混合され、焼結原料混合物7となる(ステップS1)。
【0029】
ここで、金属アルミニウム粉2としては、市販の金属アルミニウム粉末を用いることができ、このような金属アルミニウム粉は、ミナルコ(株)、日本軽金属(株)、東洋アルミニウム(株)、大和金属粉工業(株)等から発売されている。また、金属アルミニウム粉2には、100%アルミニウムでなく、無機物等の不純物が僅かに含まれたものや、リサイクルのアルミニウムでも使用可能であり、更には、鉄や銅等の金属を僅かに含有したアルミニウム合金の粉末等を使用することも可能である。
【0030】
なお、この金属アルミニウム粉2には、レーザ回折・散乱法によって測定した中位径が30μm〜75μmの範囲内であり、ふるい試験法によって測定した粒子径が150μm未満であるものを用いるのが好ましい。つまり、小径粒子と大径粒子の取合せによって充填性を向上させるためである。また、金属アルミニウム粉2の中位径が30μm未満であると、焼成過程において金属アルミニウム粉2が低温で溶融しやすくて表面に噴出する恐れがあり、一方、金属アルミニウム粉2の中位径が75μmを超えると、炭素粉3に覆われない部分が増大して酸化され易くなり、通電発熱性が損なわれる可能性がある。金属アルミニウム粉2のふるい試験法によって測定した粒子径が150μm以上の場合においても、炭素粉3に覆われない部分が増大して酸化され易くなり、通電発熱性が損なわれる可能性がある。より好ましくは、レーザ回折・散乱法によって測定した金属アルミニウム粉2の中位径が35μm〜65μmの範囲内であり、ふるい試験法によって測定した粒子径が100μm未満である。
【0031】
因みに、JIS Z 8901「試験用粉体及び試験用粒子」の本文及び解説の用語の定義によれば、中位径とは、粉体の粒径分布において、ある粒子径より大きい個数(または質量)が、全粉体のそれの50%を占めるときの粒子径(直径)、即ち、オーバサイズ50%の粒径であり、通常、メディアン径または50%粒子径といいD50と表わされる。定義的には、平均粒子径と中位径で粒子群のサイズを表現されるが、ここでは、商品説明の表示、レーザ回折・散乱法によって測定した値である。
そして、この「レーザ回折・散乱法によって測定した中位径」とは、レーザ回折式粒度分布測定装置を用いてレーザ回折・散乱法によって得られた粒度分布において積算重量部が50%となる粒子径(D50)をいう。
【0032】
炭素粉3は、金属アルミニウム粉2の溶融点より低い温度では溶融しないものであり、本実施の形態1においては、炭素粉3として、黒鉛粉を用いた。この黒鉛粉には、市販の黒鉛粉を用いることができ、このような黒鉛粉は、西村黒鉛(株)、日本黒鉛工業(株)、伊藤黒鉛工業(株)、(株)中越黒鉛工業所等から発売されている。市販の黒鉛粉には、鱗状(鱗片状)黒鉛や土状黒鉛等の天然黒鉛、鱗状天然黒鉛粉を長柱状に造粒した長柱状造粒黒鉛等の人造黒鉛が存在するが、中でも、一般的に純度が高いとされる天然の鱗状黒鉛を用いるのが好ましい。鱗状黒鉛を用いることで、金属アルミニウム粉2に絡んで付着し易く、金属アルミニウムの溶融により金属アルミニウム粉2が表面に噴出する焼結不良を効果的に抑制することができるからである。
【0033】
なお、この炭素粉3には、レーザ回折・散乱法によって測定した中位径が60μm〜90μmの範囲内であり、ふるい試験法によって測定した粒子径が200μm未満であるものを用いるのが好ましい。小径粒子と大径粒子の取合せによって充填性が向上するからである。また、炭素粉3の中位径が60μm未満であると、焼成過程において炭素粉3が液状化し易くて、アルミニウムが表面に噴出し易くなる。一方、炭素粉3の中位径が90μmを超えると、炭素粉3が均一に分散混合され難くなって、金属アルミニウム粉2において炭素粉3に覆われない部分が増大して酸化され易くなり、通電発熱性が損なわれる。炭素粉3のふるい試験法によって測定した粒子径が200μm以上の場合においても、金属アルミニウム粉2において炭素粉3に覆われない部分が増大して酸化され易くなり、通電発熱性が損なわれる。より好ましくは、レーザ回折・散乱法によって測定した炭素粉3の中位径が70μm〜80μmの範囲内であり、ふるい試験法によって測定した粒子径が150μm未満である。
【0034】
なお、本発明を実施する場合には、炭素粉3としては、金属アルミニウム粉2の溶融点より低い温度では溶融しないものであればよく、黒鉛粉の他に、例えば、カーボンブラック、炭素繊維、活性炭等の粉末が挙げられる。しかし、黒鉛粉は、金属アルミニウム粉2の表面に付着しやすい(絡みやすい)ため、焼成過程において、溶融したアルミニウムが表面に噴出する焼結不良が確実に抑制され、発熱体1において安定した強度や通電発熱性等の性能を確保できる。このため、炭素粉3としては黒鉛粉が適する。
【0035】
無機酸化物材料の粉4は、アルミナ(Al2O3)及びシリカ(SiO2)、アルミナとシリカとの複合酸化物、並びに、アルミニウムのケイ酸塩のうちの少なくとも1種を含有するものであり、この無機酸化物材料の粉としては、例えば、アルミナ粉末及びシリカ粉末を使用することもできるし、ムライト(Al2O3・3SiO2)粉、コージライト(2MgO・2Al2O3・5SiO2)粉、βスポジューメン(Li2O・Al2O3・4SiO2)等のアルミナとシリカとの複合酸化物の粉末や、カオリン(Al2Si2O5(OH)4)等のアルミニウムのケイ酸塩の鉱物粉末や、蛙目粘土、木節粘土、長石、陶石等のアルミナ(Al2O3)及びシリカ(SiO2)やこれらの化合物が含有される鉱物粉末等を使用することもできる。
【0036】
なお、この無機酸化物材料の粉4にはレーザ回折・散乱法によって測定した中位径が5μm〜30μmの範囲内であり、ふるい試験法によって測定した粒子径が100μm未満とし、小径粒子と大径粒子の取合せによって充填性を向上させるのが望ましい。また、無機酸化物材料の粉4の中位径が5μm未満の微細粉されたものを得るのにはコストがかかるうえに、無機酸化物材料の粉4の中位径が5μm未満であると、熱による成分変化が生じやすくなる可能性があり、得られる発熱体1において安定した高強度や通電発熱性等の性能を確保できない可能性がある。一方、無機酸化物材料の粉4の中位径が30μmを超えると、無機酸化物材料の粉4が均一に分散混同され難くてその分布に偏りが生じやすくなる可能性があり、得られる発熱体1において安定した高強度や通電発熱性等の性能を確保できない可能性がある。無機酸化物材料の粉4のふるい試験法によって測定した粒子径が100μm以上の場合においても、同様に、無機酸化物材料の粉4が均一に分散混同され難くてその分布に偏りが生じやすくなる可能性があり、得られる発熱体1において安定した高強度や通電発熱性等の性能を確保できないことになる。より好ましくは、レーザ回折・散乱法によって測定した無機酸化物材料の粉4の中位径が10μm〜20μmの範囲内であり、ふるい試験法によって測定した粒子径が70μm未満である。
【0037】
また、本実施の形態1においては、有機化合物粉5が混合されているが、有機化合物粉5としては、焼成過程で焼失するものであればよく、具体的には、大鋸屑(おがくず)、間伐材のチップ、小径木、製材端材、樹皮等の木屑を粉砕機で微粉砕した所謂「木粉」や、椰子殻・胡桃殻や、穀物粉や、熱硬化性樹脂の粒子や、紙、合成繊維、木綿(デニム生地の繊維等を含む)・麻・絹・稲藁等の天然繊維や、精製セルロース(CMC)等を微粉砕したもの等が使用できる。なお、「有機化合物」とは、『炭素の酸化物や金属の炭酸塩など少数の簡単なもの以外のすべての炭素化合物の総称。』(長倉三郎他・編「岩波理化学辞典(第5版)」1392頁,1998年2月20日株式会社岩波書店発行)である。
【0038】
特に、有機化合物粉5として木粉は、粉砕が容易であり安価に入手できるため適している。この木粉には、木材を切る際に出る切り屑である大鋸屑、木材に鉋をかける際に生ずる削り屑である鉋屑、木片を薄くスライスしてできる薄片である木片チョップ、間伐材等のチップ、小径木、製材端材、樹皮等の木屑を粉砕機で微粉砕したもの、即ち、木材を細かく粉砕した粉が使用されるが、ウィスカー状(極細の繊維状または髭状)のものを用いるのが好ましい。ウィスカー状の木粉を使用することで金属アルミニウム粉2、炭素粉3、及び無機酸化物材料の粉4の原料がウィスカーのヒケ状の隙間に絡みつくため、原料の充填性が高くなると共に、成形固化の強度が増す。
【0039】
なお、この有機化合物粉5には、レーザ回折・散乱法によって測定した中位径が80μm〜120μmの範囲内であり、ふるい試験法による粒子径が200μm未満であるものを用いることが好ましい。小径粒子と大径粒子の取合せによって充填性が向上するからである。また、有機化合物粉5の中位径が80μm未満の微細粉されたものを得るにはコストが掛かり、一方で、有機化合物粉5の中位径が120μmを超えると、有機化合物粉5が均一に分散混合され難くて焼失による空隙の分布に偏りが生じやすくなり、得られる発熱体1において安定した高強度が確保されない。また、有機化合物粉5のふるい試験法による粒子径が200μm以上の場合においても、有機化合物粉5が均一に分散混合され難くて焼失による空隙の分布に偏りが生じやすくなり、得られる発熱体1において安定した高強度が確保されない可能性がある。より好ましくは、レーザ回折・散乱法によって測定した有機化合物粉5の中位径が50μm〜100μmの範囲内であり、ふるい試験法によって測定した粒子径が150μm未満である。
【0040】
そして、本実施の形態1では、金属アルミニウム粉2、炭素粉3、無機酸化物材料の粉4、及び有機化合物粉5に、水及び/またはバインダ6が混合されることによって、焼結原料混合物7が得られる。なお、この水及び/またはバインダは、水のみを単独で用いても良いし、バインダのみを単独で用いても良く、水とバインダの両方を併用しても良いという意味である。
【0041】
因みに、「有機バインダ」としては、例えば、合成樹脂、澱粉、合成糊、砂糖等を用いることができる。また、合成樹脂には熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂があり、熱可塑性樹脂としてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、アクリル樹脂、ポリウレタン系樹脂等を用いることができ、熱硬化性樹脂としてはフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリオール樹脂、イソシアネート樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタンプレポリマー等を用いることができる。なお、中でも、ポリオール系樹脂とイソシアネート系樹脂とは常温で反応して強固な結合を形成し、特に、イソシアネート系樹脂は、有機化合物粉5等における水酸基(−OH)と反応して強固なウレタン結合を形成するため、これらの樹脂を使用して焼結原料混合物7を成形したものはとても強固で緻密な状態のものとなる。
【0042】
「無機バインダ」としては、セメント等の水硬性材料、磁器(タイル)・陶器の原料であるベントナイト等の粘土、ρ−アルミナ(Al2O3・nH2O:n≒0.5)、ケイ酸ナトリウム、水溶性アルカリケイ酸、(株)ジャパンナノコート製のシリカバインダ、グランデックス(株)製のシリカバインダである汎用バインダFJ294等を用いることができる。
なお、有機バインダは、加熱過程において焼失し空隙となり、無機バインダは、焼失せずに焼成されることになる。
【0043】
また、これら原料の混合には、精密分散混合機が用いられ、金属アルミニウム粉2、炭素粉3、無機酸化物材料の粉4、及び有機化合物粉5が均一に分散混合されて焼結原料混合物7となっている。なお、精密分散混合機としては、周速5μm/秒〜80m/秒の範囲内、より好ましくは、周速20m/秒〜30m/秒の範囲内の高速攪拌分散機を用いるのが好ましく、このような高速攪拌分散機としては、例えば、ホソカワミクロン(株)製の横型タービュライザ(登録商標)等がある。
【0044】
次に、本実施の形態1においては、この焼結原料混合物7が、成形工程において、圧力を加えて成形され(ステップS2)、強固で緻密な固形状態の成型体8となる。
ここで、成形工程においては、例えば、焼結原料混合物7をプレス成形金型に投入し所定圧力のプレスで成形するプレス成形と、焼結原料混合物7を耐圧性の型枠に入れ所定圧力で押し出して成形する押出成形等が可能である。
【0045】
なお、プレス成形の場合には、プレス圧力は、10kg/cm2〜300kg/cm2の範囲内とするのが好ましい。プレス成形の圧力が10kg/cm2未満であると、焼結原料混合物7が十分に圧縮されないため成型体8の強度が弱くなり後述の焼成過程において破損することになる。また、プレス成形の圧力が300kg/cm2を超えると、焼結原料混合物7に圧力が掛かり過ぎて高密度となり、得られる発熱体1の抵抗値が小さくなって通電発熱性が損なわれる。好ましくは、50kg/cm2〜200kg/cm2の範囲内である。特に、水分量が多いほど低圧力での成形が可能となる。しかし、抵抗値及び複合成分、水分量によっては、10kg/cm2〜300kg/cm2の範囲外の使用も有り得る。
【0046】
そして、プレス成形の場合、例えば、後述するように、凹凸を有する金型や曲線部を有する金型枠型等を使用し、成形によって焼結原料混合物7の意匠面に凹凸を形成したり、焼結原料混合物7を曲線部を有する形状に成形したりと所望形状に成形することが可能である。ハニカム状等複雑な形状に成形することが可能である。一方、押出成形の場合には、焼結原料混合物7を曲面形状の筒状・棒状や螺旋状等複雑な形状に成形することが可能である。因みに、図2(a)が射出成型したもの、図2(b)が押出成型したものである。
【0047】
また、特に、無機酸化物材料の粉4として粘土質鉱物粉を用いた場合には、水6を少量混合するだけで容易に原料同士が接着されてまとまった状態となり、成形工程においては常温で加圧するだけで、更には低圧力の成形で、成型体8は強固なものとなる。よって、高圧力や加熱装備のプレス装置を必ずしも用いなくても良く、低コスト化を図ることができる。更に、無機酸化物材料の粉4としての粘土質鉱物粉が、成形性や保形性等の確保に有利に機能して、所望形状の成形が容易にできる。なお「常温」とは、JIS Z 8703で規定されるように、20℃±15℃(5℃〜35℃)の範囲内の温度をいう。
【0048】
因みに、常温の加圧によって成形できる場合には、外部からの均一な加熱が不要であるため、プレス成形によって、厚い成型体8(例えば、150トンのプレス機で約20mm厚まで)を得ることも可能である。更には、加熱機構が不要であることから、プレス成形機及び金型の構造を簡単にして、広い面積の成型体8(例えば、1000mm×2000mm)を得ることも可能である。なお、このときのプレス成形機としては、例えば、150トン以上の粉末成形プレス機が使用できる。このプレス機によれば、成形途中にガス抜きが出来る機構が付いているため、成形によって高強度のものが安定して得られる。
勿論、本発明を実施する場合においては、加熱加圧によって、焼結原料混合物7を成形することも可能である。殊に、無機酸化物材料の粉4に粘土質鉱物粉が使用された場合には、これが成形性または保形性等の確保に有利に機能することから、水やバインダを混合せずとも加熱加圧によって成形することが可能である。
【0049】
なお、本発明を実施する場合、陶器の製造のように、金属アルミニウム粉2、炭素粉3、無機酸化物材料の粉4、及び有機化合物粉5に、水及び/またはバインダ6を多く混同して、スラリー状の焼結原料混合物7として石膏型に流して固めたのちに、成形工程(ステップS2)に供することも可能である。更に、セラミックや磁器(タイル)の製造のように、焼結原料混合物7をスプレードライヤーによって乾燥させた後、成形工程(ステップS2)に供することも可能である。いずれにせよ、後述する焼成過程において形状が保持される程度に固化された状態のものが作製できれば、原料同士を接着する手段やバインダの種類は特に限定されない。
【0050】
続いて、本実施の形態1においては、この成型体8が、焼成工程において、温度制御電気炉内にてアルミニウムの溶融点より高い温度で焼成される(ステップS3)。
焼成工程の昇温プログラムは、各原料の種類、粒子径、配合量や、発熱体1において必要とされる抵抗値、発熱温度等によって予め実験によって最適値が設定される。
【0051】
このようにして、本実施の形態1に係る発熱体1が得られる。
具体的には、図2(a)に示すように、直方体状の発熱体10(発熱体1)は、直方体状の抵抗体部11と、その抵抗体部11の両端に埋設した端子12,13とからなる。この端子12,13は、焼結原料混合物7を形成した後、型内に端子12及び端子13を配置し、成型工程で一体化させたものである。この端子12,13は、ステンレス製であり、焼結工程S3で溶融しない材料として、低抵抗材料として選択されたものである。
また、図2(b)は、円筒状の発熱体20(発熱体1)は、円筒形状の抵抗体部21と、その抵抗体部21の両端の表面に巻回した端子22,23とからなる。この端子22,23は、銅製であり、焼結工程S3で形成した抵抗体部21に対して所定の圧力を加えながら巻回されたものである。
【0052】
なお、本実施の形態1の発熱体10では埋設端子とし、発熱体20では巻回端子としたが、本発明を実施する場合には、発熱体10または発熱体20の端部表面に電極を張り合わせてもよいし、強圧する構造としてもよい。いずれにせよ、端子は接触抵抗が低い状態で通電できるものとするのが望ましい。
【0053】
ここで、こうして得られた本実施の形態1に係る発熱体1(10,20)のX線回折(WAXS分析)によるスペクトルを図3に、また、SEM−EDXによるスペクトル及びBSE(反射電子顕微鏡)を含む走査型電子顕微鏡(SEM:2次電子像)写真を図4乃至図19に示す。なお、EDXは2μmのスポットによる点分析である。
図3乃至図19に示されるように、本実施の形態1に係る発熱体1(直方体状の発熱体10、円筒状の発熱体20)は、アルミニウム(Al)や、ケイ素(Si)や、アルミナ(Al2O3)や、二酸化ケイ素(SiO2)や、アルミナ(Al2O3)と二酸化ケイ素(SiO2)の複合酸化物またはアルミニウム酸化物とケイ素酸化物の複合酸化物が主成分である。
【0054】
また、図4乃至図26のBSE(反射電子顕微鏡)を含む走査型電子顕微鏡(SEM:2次電子像)写真に示すように、本実施の形態1に係る発熱体1は、開口した空隙が分布しており、多孔質である。そして、この発熱体1にエアコンプレッサによる圧縮空気をエアガンで吹き付けると、圧縮空気が発熱体1を通り抜けることから、本実施の形態1に係る発熱体1は、通気性を有する。これは、多数の空隙が連通しているためと思われる。
ここで、この空隙の大きさは、ガス吸着式細孔分布測定器で測定した結果、数μm〜数十μmであったが、原料の粒度分布や寸法形状や配合量、また、成形時の圧力等によって空隙の大きさや空隙率は制御可能である。
そして、本発明者らの実験研究によって、空隙率が5%〜50%の範囲内にあることで、抵抗発熱体としての利用において十分な強度や通電発熱性が確保できることが確認されている。即ち、空隙率が5%未満であると、発熱体1の抵抗値が低く、通電発熱性が損なわれる。一方、空隙率が50%を超えると、抵抗発熱体としての利用において強度が足りず、通電性も損なわれる。
【0055】
このようにして、金属アルミニウム(Al)、金属シリコン(Si)、アルミナ(Al2O3)、シリカ(SiO2)、並びに、アルミナとシリカとの複合酸化物またはアルミニウム酸化物とケイ素酸化物との複合酸化物を主成分とし、5%〜50%の範囲内の空隙を有する多孔質材料に形成してなる発熱体1となる。空隙の比率は、形成した乾燥状態の発熱体1の体積及び重量を測定し、水を含浸させた状態の重量を測定し、再び乾燥させて重量を測定し、その重量の変化を気孔率に置き換えて測定した。
【0056】
そして、このようにして得られた本実施の形態1に係る発熱体1(発熱体10、20)は、通電によって容易に抵抗発熱した。特に、発熱体1の全面で発熱した。
また、本実施の形態1に係る発熱体1は軽量であると共に、アルミニウムより硬くて摩耗にも強く、各原料を混合して成形したものよりもその機械的強度は増大しており、高い機械的強度を有していた。
【0057】
ここで、このような特性の発熱体1が得られるのは、炭素粉3が混合されていることで、アルミニウム粉2が炭素粉3に覆われ、炭素粉3が燃焼することでアルミニウムの周囲は還元雰囲気に近い状態となるため、アルミニウムの酸化が防止され、また、アルミニウムの溶融点(660.4℃)に達しても、アルミニウムが溶融して表面に噴出することがなく、焼成により、焼結原料混合物7が複合化したためと推測される。
より具体的には、上述の如く、この発熱体はアルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、アルミナ(Al2O3)、二酸化ケイ素(SiO2)、並びにアルミナ(Al2O3)と二酸化ケイ素(SiO2)の複合酸化物またはアルミニウム酸化物とケイ素酸化物との複合酸化物が主成分となっているが、特に、焼成によって、溶融したアルミニウムのネットワークが形成され、また、シリコンが生成するという構造変化が起こったことで通電発熱性を有するものとなったと思われる。なお、金属シリコンは以下のような反応によって生成されたものと推測される。
SiO2+C→Si+CO2
SiO2+C→Si+2CO
2Al+3SiO2→3Si+Al2O3
なお、得られた発熱体1に通電したときに、560℃以上になると赤熱して表面に溶融物が噴出し始めたことから、アルミニウム2と無機酸化物材料4からのシリカ(SiO2)や生成したシリコン(Si)とが反応結合してAl−Si合金(融点:577℃)が生成されている可能性もある。
【0058】
因みに、本発明者らの実験研究により、炭素粉3を用いずに焼成した場合、温度制御電気炉内の温度が600℃以上になるとアルミニウム2(融点:660.4℃)が溶融して表面に噴出する焼結不良となり表面に多数の窪みが形成されたアルミニウムの溶融物が生成されてしまい、上述のような発熱体1を製造することはできないことが確認されている。しかし、本発明においては、700℃以上の高温になってもアルミニウム2が溶融して表面に噴出する焼結不良が生じることはない。
【0059】
ここで、発熱体1の通電による発熱の様子について詳細に図27乃至図29を参照して説明する。
まず、発熱体1の通電による温度変化の様子について調べるために、本実施の形態1に係る発熱体1の配合として、表1の配合内容で、図1のフローチャートにしたがって発熱体1を製造した。
【0060】
【表1】
【0061】
なお、表1に示される配合材料のうち、金属アルミニウム粉2としては、ミナルコ(株)製の#260S(Al:99wt%)でふるい試験法による粒子径が75μm未満(200メッシュアンダー)のものを用いた。この金属アルミニウム粉2について日機装(株)のレーザ回折式粒度分布測定装置マイクロトラックで測定したところ中位径は45μmであった。
【0062】
炭素粉3としては、西村黒鉛(株)製の天然の鱗状黒鉛粉1099M(固定炭素:99%でふるい試験法による粒子径が150μm未満(100メッシュアンダー)のものを用いた。この黒鉛粉について日機装(株)製のレーザ回折式粒度分布測定装置マイクロトラックで測定したところ中位径は75μmであった。
【0063】
無機酸化物材料の粉4には、(株)ヤマス製の土岐口特級蛙目粘土粉(SiO2:48.77%、Al2O3:34.40%、Fe2O3:1.35%、TiO2:0.95%、K2O:0.85%、MgO:0.38%、CaO:0.16%、Na2O:0.16%等)で、ふるい試験法による粒子径が65μm未満(250メッシュアンダー)のものを用いた。この蛙目粘土粉について日機装(株)製のレーザ回折式粒度分布測定装置マイクロトラックで測定したところ中位径は10μmであった。
【0064】
有機化合物粉5としては、スギの間伐材・小径木・製材端材・樹皮・大鋸屑等の木屑を、破砕機(木材用クラッシャー)で粗粉砕して、この粗粉砕木粉を、熱風乾燥機によって水分20重量部以下に熱風乾燥し、微粉砕機で微粉砕してなる木粉を使用した。ここで、微粉砕機としては、河本鉄工(株)製のミクロンコロイドミルを使用して、粉砕タービン羽の周速を50m/秒〜80m/秒として、微粉砕を行った。このようにして得られた木粉はウィスカー状であり、ふるい試験法による粒子径が150μm未満(100メッシュアンダー)で、日機装(株)製のレーザ回折式粒度分布測定装置マイクロトラックで測定したところその中位径は100μmであった。
【0065】
そして、これら金属アルミニウム粉2、炭素粉3としての黒鉛粉、無機酸化物材料の粉4としての蛙目粘土粉、有機化合物粉5としての木粉に、これら原料が比重の違いによって移動が生じない量(重力沈降しない量)の水6を加え、精密分散混合機であるホソカワミクロン(株)製の横型タービュライザ(登録商標)TCX−8を用いてこれら原料の混合を行い焼結原料混合物7とした。
【0066】
更に、ここでは、表1の配合内容で作製された焼結原料混合物7は押出成形し、1000℃〜1200℃の範囲内の温度で焼成して、厚み(T)5mm×幅(W)35mm×長さ(L)210mmの発熱体1とした。
ここで、焼成の温度が1000℃〜1200℃の範囲内とは、本発明者らが鋭意実験研究を重ねた結果、上述の配合材料を焼成する場合、1000℃未満では、十分な焼成が行われずに粉状態のものが得られ焼結不良となってしまうことが確認されたことから、焼成温度の下限値を1000℃とし、一方で、1200℃を超えると、発熱体の通電性が損なわれることが確認されたことから、焼成温度の上限値を1200℃としたものである。
【0067】
そして、製造された発熱体1の長さ方向の両端の端子間に10Vの電圧をかけ、所定部位の経時的な温度測定を行った。その測定結果のグラフを図27(a)に示す。更に、通電解除後における経時的な温度測定も行った。その測定結果のグラフを図27(b)に示す。
なお、参考までに、通電時における電流、抵抗値、電気抵抗率について、図27(a)としてグラフ下段の表に示す。表において、電流は電圧10Vを端子間に加えた場合の測定値であり、抵抗値は電圧及び電流の測定値から計算式
抵抗値=電圧/電流
によって算出したものである。また、電気抵抗率(比抵抗)も計算式
電気抵抗率=抵抗値/(長さ/断面積)
によって算出したものである。
【0068】
図27(a)のグラフに示すように、通電すると、すぐに全体席の温度が上昇(発熱)して7分前後で完全に温度が上昇し、その後も高温(定温)状態が維持されることが分かった。また、図27(b)のグラフに示すように、通電解除直後からすぐに温度が急激に減少し、約5分前後で元の温度状態に戻ることが分かった。
このように、本実施の形態1に係る発熱体1は、体積の大きさに比較して通電による昇温速度が極めて速く、また、通電解除による降温速度も極めて速いものである。
なお、図27(a)の表に示したように、本実施の形態1に係る発熱体1の電気抵抗率は約49×10-8Ω・m乃至約56×10-8Ω・mであり、アルミニウムの電気抵抗率が2.65×10-8Ω・mからしても、本実施の形態1に係る発熱体1の電気抵抗率は極めて高いものである。ニクロムは1.5×10-6Ω・mであるから、それに近い値である。
【0069】
また、図27(a)のグラフに示すように、一定の電圧による連続通電のもとでは、次第に温度上昇がなくなり発熱温度は一定の状態となることが確認された。そこで、本実施の形態1に係る発熱体1の熱伝導率及び比熱を測定したところ、熱伝導率が7W/m・Kで、比熱が0.74kJ/Kg・Kであった。アルミニウムの熱伝導率が236W/m・Kで、比熱が0.90kJ/Kg・Kあることからすると、本実施の形態1に係る発熱体1は熱伝導が極めて低いものである。
【0070】
そして、本実施の形態1に係る発熱体1においては、発熱している際に水を吹きつけても割れることもなく、また、この発熱体1に熱勾配(温度分布)がある場合においても、発熱時に割れることはなかった。
したがって、本実施の形態1に係る発熱体1は、急激な温度変化による熱衝撃にも強く、急速加熱や急速冷却が可能である。なお、このことは、本実施の形態1に係る発熱体1の熱伝導が低いことにその一因があると考えられる。
また、この発熱体は、直接抵抗加熱であり、上述の如く、多孔質であることから、熱効率が高いものである。
よって、本実施の形態1に係る発熱体1は、抵抗発熱体としての使用に好適である。
なお、この発熱体1に水を注ぐと、吸水したことから、本実施の形態1に係る発熱体1は、吸水性をも有している。
【0071】
ここで、本発明者らの実験研究によれば、原料の粒度分布や寸法形状や配合量によって、また、成形時の圧力等によって発熱体1の抵抗値が変化することが確認された。その一因は、原料の粒度分布や寸法形状や配合量、また、成形時の圧力によって発熱体1の緻密度が変化するためと思われる。具体的には、例えば、原料に粗い粒子を用いた場合、細かい粒子を用いた場合よりも抵抗値が大きくなったり、成形時におけるプレス圧力が小さい程、抵抗値が大きくなったりした。
【0072】
よって、本実施の形態1に係る発熱体1によれば、原料の粒度分布や寸法形状や配合量、また、成形時の圧力調節等によって発熱体1の緻密度を変化させることにより、発熱体1の抵抗値を制御することが可能である。因みに、本発明者らの実験研究により、発熱体1の緻密度を高めると、発熱体1の抵抗値が低くなることが確認されている。したがって、加熱したい所望の位置のみの発熱を高くできる。
【0073】
特に、本実施の形態1に係る発熱体1によれば、原料に有機化合物粉5が用いられており、焼成過程において、この有機化合物粉5が焼失することによってその部分が空隙となり、発熱体1の緻密性に大きく影響する。このため、有機化合物粉5の添加量を調節することで、発熱体1の抵抗値の制御が容易にできる。
【0074】
念のため、本実施の形態1に係る発熱体1の配合として、表2の配合内容で各原料の配合量を様々変えて製造した実施例1乃至実施例7に係る発熱体1の抵抗値や発熱性について表2に示す。
ここでは、表2に示した配合内容で作製された焼結原料混合物7は、それぞれ、150kg/cm2のプレス圧力でプレス成形し、1100℃の焼成温度で焼成して発熱体1とした。
そして、交流スライダーダック電源(直流安定化電源)を使用し、各発熱体1の長さ方向の両端に幅10mmの端子により通電(V)したときの、電流(A)、抵抗値(Ω)をそれぞれ測定した。なお、表2において、電流(A)は直接電流計で、抵抗値(Ω)はテスタの抵抗レンジによって測定した測定値である。また、発熱温度は、赤外線サーモグラフィー(熱画像計測装置:(株)チノー社製 携帯用小形熱画像カメラ CPA−017)によって確認したものである。
【0075】
【表2】
【0076】
表2に示したように、各原材料の配合量・配合比によって抵抗値が変化することから、各原材料の配合量を調節することで発熱体1の抵抗値を制御できることが分かる。また、電圧を変化させると、発熱温度も変化することから、発熱温度は通電量によって決定され、本実施の形態1に係る発熱体1は通電により抵抗発熱していることが分かる。
【0077】
なお、表2から、無機酸化物材料の粉4の量が多いほど、発熱体1の抵抗値が高くなることが分かる。そして、本発明者らの実験研究によれば、100重量部の金属アルミニウム粉2に対して、無機酸化物材料の粉4が60重量部〜150重量部の範囲内であれば、発熱体1において抵抗発熱体としての使途に適した抵抗値・通電発熱性を確保できることが確認されている。
【0078】
更に、本発明者らの実験研究によれば、焼結原料混合物7において、金属アルミニウム粉2の含有量が35重量%〜70重量%の範囲内であり、炭素粉3の含有量が2重量%〜15重量%の範囲内であり、無機酸化物材料の粉4の含有量が25重量%〜65重量%の範囲内であるのが好ましい。
【0079】
焼結原料混合物7において、金属アルミニウム粉2の含有量が35重量%未満であると、金属アルミニウム粉2が少なすぎて、発熱体1の通電性が損なわれる可能性がある。一方、金属アルミニウム粉2の含有量が70重量%を超えると、金属アルミニウム粉2に対して炭素粉3が極めて少なくなり、焼成過程において溶融したアルミニウムが表面に噴出する焼結不良が生じる可能性がある。
また、炭素粉3の含有量が2重量%未満であると、金属アルミニウム粉2に対して炭素粉3が極めて少な過ぎ、焼成過程において溶融したアルミニウムが表面に噴出する焼結不良が生じる可能性がある。一方、炭素粉の含有量が15重量%を超えると、炭素粉3が多過ぎて発熱体1の強度及び純度が低下し、抵抗発熱体としての使途に適した強度や通電発熱性が得られない可能性がある。
更に、無機酸化物材料の粉4の含有量が25重量%未満であると、無機酸化物材料の粉4が少なすぎて、発熱体1の抵抗値が小さくなり、抵抗発熱体としての使途に適した通電発熱性が損なわれる可能性がある。一方、無機酸化物材料の粉4の含有量が65重量%を超えると、無機酸化物材料の粉4が多過ぎて、発熱体1の通電性が損なわれる恐れがある。
【0080】
なお、より好ましくは、焼結原料混合物7において、金属アルミニウム粉2の含有量が40重量%〜65重量%の範囲内であり、炭素粉3の含有量が5重量%〜10重量%の範囲内であり、無機酸化物材料の粉4の含有量が30重量%〜65重量%の範囲内である。
【0081】
ところで、表2において、電流(A)、抵抗値(Ω)の測定値において測定幅があるのは、部位によって抵抗値が多少異なるためである。
そして、本発明者らの実験研究によれば、長さ方向両端から中心部分に向かって抵抗値・発熱温度が高くなる傾向があることが確認されている。
参考までに、所定の圧力によるプレス成形によって厚み(T)5mm×幅(W)35mm×長さ(L)210mmの平板状とした発熱体1において、長さ方向両端に幅10mmの端子による通電を行い、発熱体1全体の温度分布を赤外線サーモグラフィー(熱画像計測装置:(株)チノー社製 携帯用小形熱画像カメラ CPA−017)によって測定した温度分布写真を図28に示す。
図28に示すように、この発熱体1は、長さ方向両端から中心部分に向かって温度が高くなっていて、長さ方向両端は温度が低くなっている。したがって、この発熱体1によれば、端子を両端に接続して通電を行う製品として使用した場合に、端子の過加熱による通電不良やショート、更には、焼損を防止することができ、製品として長時間の安全な発熱を維持できる。
【0082】
また、本発明者らの実験研究によって、焼成温度を様々調節することで、発熱体1の抵抗値が変化することが判明している。これは、焼成温度によって焼結密度(焼成過程における粒子同士の密度)が変化するためと思われる。したがって、焼成温度を調節することによっても、発熱体1の抵抗値を制御することが可能である。
なお、その他、発熱体1は、その断面の大きさや長さ等の寸法形状によっても抵抗値が変化することから、その寸法形状を調節することによっても、発熱体1の抵抗値を制御することができる。
【0083】
更に、このように、本実施の形態1に係る発熱体1によれば、その抵抗値は緻密度、即ち、圧縮圧によって影響されることから、焼結原料混合物7を成形する際に、その緻密度分布を調節することにより、発熱体1において抵抗分布の制御が可能となる。即ち、部位によって異なる発熱温度の設定ができ、特定部位を特定温度に発熱させることが可能である。
【0084】
なお、焼結原料混合物7を成形する際、その緻密度分布を調節する方法としては、例えば、成形時の金型・枠型形状や押出成形等による成形形状の調節、成形時の原料充填量の調節、成形時の部分的な圧力調節、圧縮面に形成した複数多数個の突起等が挙げられる。
具体的には、例えば、プレス成形の際に凹凸を有する金型を使用して焼結原料混合物7をプレス成形することが挙げられる。これによって、意匠面に凹凸部が形成されて、係る凹部と凸部とで緻密度が異なる成型体8を得ることができる。そして、この凹部と凸部とで緻密度が異なる成型体8を焼成することによって得られる発熱体1は、凹部と凸部とで抵抗値が大きく異なり、通電による発熱温度が大きく異なったものとなる。
【0085】
また、プレス成形の際に曲線部を有する金型枠の形状を使用して、焼結原料混物7をプレス成形することによって、曲線部で緻密度が変化した成型体8を得ることができる。そして、この成型体8を焼成してなる発熱体1は、曲線部で抵抗値が大きく変化し、通電による発熱温度が部位によって大きく異なるものとなる。
【0086】
更に、プレス成形金型に焼結原料混合物7の充填率を変化させて充填しプレス成形することによって、また、焼結原料混合物7の厚みが部位によって変化するようにプレス成形することによって、充填量や厚みの差によって緻密度が変化することから、これを焼成してなる発熱体1も、部位によって抵抗値が大きく変化し、通電による発熱温度が部位によって大きく異なったものとなる。参考までに、中央部の厚み(T)が5.5mmで、長さ方向両端部の厚み(T)が4.5mmと厚みに差をつけた発熱体1(幅(W)45mm×長さ(L)130mm)の写真と、この発熱体1に30Vで45秒通電したときの赤外線サーモグラフィー(熱画像計測装置:(株)チノー社製 携帯用小形熱画像カメラ CPA−017)によって測定した温度分布の写真を図29に示す。図29に示されるように、厚みが大きい中央部付近で発熱温度が高くなっていて、厚みが小さい長さ方向両端部では、発熱温度が低くなっており、部位によって発熱温度の制御が可能である。
その他にも、成形時に部分的に圧力を変えて成形することによっても緻密度を変化させることができることから、発熱体1において、特定部位を特定温度に発熱させることが可能である。
【0087】
また、押出成形の場合には、複雑な立体形状の成型体8を容易に形成できることから、発熱体1の緻密度を部位によって変化させることが容易にできる。したがって、発熱体1において、部位によって抵抗値を異にする(変化させる)ことが容易にでき、特定部位を特定の温度に発熱させることが容易に可能である。
【0088】
次に、本実施の形態1に係る発熱体1の応用分野(使用用途)について説明する。
このように本実施の形態1に係る発熱体1は、通電性を有し、電気抵抗性が高く直接抵抗発熱特性を示すことから、抵抗発熱体として使用できる。
より具体的には、例えば、電気暖房発熱体、電熱器、電気温水器、加湿器等の各種発熱体(熱源)としての使用が可能である。殊に、本実施の形態1に係る発熱体1は、その全面から発熱することから、面状発熱体としての利用も可能である。勿論、電磁誘導加熱(IH)の調理器としての使用も可能である。
また、各種発熱体としての使用において、抵抗発熱体としての発熱体1は、上述の如く、熱伝導が低く、通電量によって発熱温度を一定に保つことができることから、低温から高温まで幅広い温度範囲で使用でき、温度制御も容易にできる。
【0089】
そして、抵抗加熱式であることに加え、上述の如く、体積の大きさに比較して通電による昇温速度や通電解除による降温速度が速いことから、従来の各種発熱体と比較して、熱効率がよく省電力化が可能であり、安全性も高い。殊に、電熱器等においては、発熱体1の直接抵抗発熱体としての使用により、従来の間接抵抗加熱式である電熱器等と比較して、熱効率が極めて高いものとなり、省電力化を図ることができる。また、従来の面状発熱体等が金属やセラミックにヒータ線を被覆したもの(シースヒータ)であって煩雑かつ高コストなうえに、低熱効率であるのに対し、直接抵抗発熱体としての発熱体1の使用においては、簡易的で熱効率が極めて高いものとなり、省電力化を図ることができる。そして、発熱体1の昇温速度や通電解除による降温速度が速いという特性は、特に、焼入れ焼鈍用や工業製品の加熱用発熱体として有望である。
【0090】
更に、本実施の形態1に係る発熱体1によれば、各原料は入手しやすく安価な材料であり、非酸化条件下等の高い製造コストがかかる特別な条件下で製造されるものでもなく、また、上述のように直接抵抗加熱のため、低コスト化が可能である。したがって、従来の各種発熱体と比較して、低コスト化を図ることができる。また、軽量で機械的強度が高いことから、小型化が可能である。
加えて、本発明者らの実験研究によれば、本実施の形態1に係る発熱体1は550℃を超えるまでは変色(赤熱)せず、抵抗値の経年変化が確認できない程度に少ないこと、また、濃塩酸に浸漬しても強度や電気的特性等の変化がないこと、更には、高温の発熱状態下で水滴を滴下しても断線しないこと等が確認されており、焼損しにくく、化学的にも安定であることから、上記電気材料としての具体的用途に特に好適に使用することができ、商品としての長寿命化も期待できる。
【0091】
また、本実施の形態1に係る発熱体1によれば、原料の粒度分布や寸法形状や配合量の調節、また、成形時の圧力調節等によって、更には、焼成温度の調節等によって、発熱体1の抵抗値の制御が可能となることから、抵抗発熱体として各用途に応じた発熱温度の制御が可能である。
更には、成形時の部分的な圧力調節や、成型時の金型形状等による成形形状の調節、成形時の充填量の調節等によって、発熱体1の抵抗分布の制御ができ、発熱による温度分布の制御設定が可能である。そして、この発熱による温度分布の制御が可能であることを利用し、例えば、発熱体1を焼き菓子等の食品加工用発熱体として使用することで、食品の所望の部位に焼き焦げを付けたりすることができる。
【0092】
なお、通電によって発熱した状態の発熱体1に水を掛けたり水を噴霧したりしたところ、この発熱体1から温熱の水蒸気が発生した。このことから、本実施の形態1に係る発熱体1は、例えば、加湿器、水蒸気発生装置等としての利用も可能である。また、例えば、電気暖房発熱体として使用される発熱体1において、一方面に送風しながら他方面に水を噴射することで、電気暖房発熱体としての発熱体1より温熱の水蒸気を発生させることができることから、過乾燥防止効果が期待できる電気暖房発熱体としての使用も考えられる。因みに、水掛け等による発熱体1からの微細な水蒸気の発生は、発熱体1が多孔質で通気性を有する(連通した気孔を有する)ことに起因すると思われる。また、この発熱体1が多孔質で通気性を有することを利用して、例えば、熱風発生器や乾燥装置やアルコール等の蒸留用発熱体としての使用も期待できる。
【0093】
更に、本発明者らの実験研究によれば、発熱体1は遠赤外線を発生していることが確認されていることから、発熱体1は遠赤外線による発熱体効果をも期待できる。
特に、遠赤外線を放射する遠赤外線放射材料としては、金属材料等も知られているが、化学的にも安定なセラミックス材料がある。また好ましくは、その中でも、遠赤外線の放射率が高いものがある。なお、「遠赤外線」についての明確な定義はなく、それの波長範囲はそれを扱う分野等においてまちまちであるが、ここでは、セラミックス分野において一般的であるように、3μm程度以上の波長を有する赤外線を「遠赤外線」という。
【0094】
そのようなセラミックス遠赤外線放射材料については、種々のものがその放射率及び放射特性と共に知られている。例えば、アルミナ(Al2O3)、ジルコニア(ZrO2)、チタニア(TiO2)、シリカ(SiO2)、ジルコン(ZrSiO4)、マグネシア(MgO)、イットリア(Y2O3)、コージライト(2MgO・2Al2O3・5SiO2)、βスポジューメン(Li2O・Al2O3・4SiO2)、ムライト(Al2O3・3SiO2)、チタン酸アルミニウム(Al2O3・TiO2)等であり、これらは、一般に白色を呈している。
【0095】
また、上記の白色系の他に、セラミックス遠赤外線放射材料としては、有色の全赤外域で放射率が高いセラミックス遠赤外線放射材料がある。そのような有色系のセラミックス材料としては、例えば、酸化銅(Cu2O,CuO)、酸化コバルト(CoO、Co3O4)、酸化ニッケル(NiO)、酸化マンガン(MnO2)、酸化鉄(Fe2O3)、酸化クロム(Cr2O3)、酸化錫(SnO2)等の遷移金属の酸化物、或いは、炭化ケイ素(SiC)、炭化ジルコニウム(ZrC)、炭化タンタル(TaC)等の炭化物等が挙げられ、これらの多くは、窯業用顔料としても一般に用いられているものである。また、これらは2種以上の組合わせで高効率の赤外線放射が得られ、例えば、MnO2−Fe2O3−CuO−CoO、或いはCoO−Fe2O3−Cr2O3−MnO2等の一体の焼成物は高効率赤外線放射体と呼ばれるものであり、黒色を呈し、「黒体」に近い赤外線の放射特性が得られる。
【0096】
加えて、ゼーベック効果の起電力が生じていることも確認されていることから、それを利用した熱感知センサー等への用途も期待できる。特に、厚み(T)5mm×幅(W)35mm×長さ(L)210mmの平板状とした発熱体1から、0.3V程度の電圧が検出されている。したがって、5本程度の発熱体1の検出電圧を加算する方向に接続すれば、発光ダイオードの点灯が容易になる。このことから、電力の供給を終了してから5本程度からなる発熱体1のその時の温度が高いか、低いかを表示させることができる。
なお、この特性は、負荷電力の供給には無関係である。
【0097】
このように、本実施の形態1に係る発熱体1は、金属アルミニウム粉2と、アルミニウム2の溶融点より低い温度では溶融しない炭素粉3と、アルミナ及びシリカ、アルミナとシリカとの複合酸化物、並びに、アルミニウムのケイ酸塩のうちの少なくとも1種を含有する無機酸化物材料の粉4と、有機化合物5と、水及び/またはバインダ6とが混合されてなる焼結原料混合物7を、圧力を加えて成形し、アルミニウム2の溶融点より高い温度で焼成してなるものであり、金属アルミニウム(Al)、金属シリコン(Si)、並びに、アルミナ(Al2O3)、シリカ(SiO2)、及び、アルミナとシリカとの複合酸化物またはアルミニウム酸化物とケイ素酸化物との複合酸化物を主成分とし、5%〜50%の範囲内の空隙を有する多孔質材料に形成してなるものである。
【0098】
したがって、本実施の形態1に係る発熱体1によれば、機械的強度が高く、また、通電により抵抗発熱するものとなる。
特に、圧力を加えて成形することによって、成型体8は強固で緻密な固形状態となることから、この状態で焼成することによって得られる本実施の形態1に係る発熱体1は、強度が極めて高いものとなる。
【0099】
また、本実施の形態1に係る発熱体1によれば、体積が大きい割には通電による昇温速度及び通電解除による降温速度が速くて、急激な温度変化による熱衝撃にも強く、急速加熱や急速冷却が可能である。更に、直接抵抗加熱であり、しかも多孔質であることから、熱効率を高めることが可能である。また、酸、アルカリ等の化学的にも強靭である。
【0100】
更には、製造過程における抵抗制御が容易である。即ち、原料の粒度分布や寸法形状や配合量を調節したり、また、成形時の圧力調節をしたりして発熱体1の緻密度を調節することによって、更には、焼成温度を調節して焼結密度を調節することによって、発熱体1の抵抗値を制御して通電による発熱温度を制御することが可能である。また、成型時の金型形状等による成形形状の調節、成形時の充填量の調節、成形時の部分的な圧力調節等で発熱体1の抵抗分布を調節することによって、発熱体1において部位によって異なる発熱温度の設定ができ、特定部位を特定の温度に発熱させることができる。
よって、抵抗発熱体としての使用に好適であり、特に、面で加熱する発熱体等の使途に適する。
このようにして、機械的強度が高く、かつ、通電発熱性を有し、抵抗発熱体として好適に使用可能な発熱体1となる。
【0101】
[実施の形態2]
【0102】
次に、本実施の形態2に係る発熱体について、図30を参照して説明する。
本実施の形態2に係る発熱体1は、図30のフローチャートに示すように、上述した実施の形態1とほぼ同様の製造工程を経て、得られるものである。異なるのは、金属粉を混合した点である。その他は、上記実施の形態1と同じであるから、その詳細な説明を省略する。
【0103】
即ち、本実施の形態2に係る発熱体1は、金属アルミニウム粉2、炭素粉3、無機酸化物材料の粉4、有機化合物粉5、金属粉9と、水及び/またはバインダ6とが混合されてなる焼結原料混合物7を、圧力を加えて成形し、アルミニウム2の溶融点より高い温度で焼成することによって得られるものである。
【0104】
このようにして得られる本実施の形態2に係る発熱体1も、機械的強度が高く、通電によって容易に発熱するが、金属粉9を添加してその配合量を調節することで容易に発熱体1の抵抗値を制御でき、発熱温度の制御が容易となる。
ここで、金属粉9としては、例えば、鉄粉や銅粉等が使用できるが、100%の純度のものでなく、無機物等の不純物が僅かに含まれたものや、リサイクルのものでも使用可能であり、更には、アルミニウム等の合金粉末等を使用することも可能である。因みに、金属粉9は、レーザ回折・散乱法によって測定した中位径が45μm〜150μmの範囲内であり、ふるい試験法によって測定した粒子径が200μm未満であるのが好ましい。小径粒子と大径粒子の取合せによって充填性が向上するからである。なお、より好ましくは、レーザ回折・散乱法によって測定した鉄粉の中位径が75μm〜100μmの範囲内であり、ふるい試験法によって測定した粒子径が150μm未満である。
【0105】
参考までに本実施の形態2に係る発熱体1の配合として、表3の上段の配合内容で、図30のフローチャートに従って実施例8及び実施例9に係る発熱体1を製造したときの抵抗値を表3の下段に示す。なお、表3に示される配合材料のうち鉄粉末9以外のものについては、上述の表1で使用した配合材料と同様のものを使用した。また、鉄粉末9としては、ヘガネスジャパン(株)製のASC100.29(Fe:99wt%)でふるい試験法による粒子径が150μm未満(100メッシュアンダー)のものを用いた。この鉄粉末9について日機装(株)のレーザ回折式粒度分布測定装置マイクロトラックで測定したところ中位径が75μmであった。
【0106】
【表3】
【0107】
鉄粉末9が混合されてなる本実施の形態2に係る発熱体1においては、鉄粉末9を混合しないときと比べて、抵抗値が高くて通電による発熱温度が高くなる傾向にあった。
そして、本実施の形態2においては、鉄粉末9の粒度分布や寸法形状や配合量を調節することによって、発熱体1の抵抗値を容易に制御できて、通電による発熱温度を容易に制御することができた。
【0108】
なお、上記実施の形態1及び実施の形態2においては、原料に木粉等の有機化化合物5を使用しているが、これは本発明に必須の配合成分ではない。しかし、木粉等の有機化化合物5が混合されている場合には、成形固化の強度を向上させることができ、発熱体1の強度を向上させることが可能である。また、有機化化合物5は焼成過程において焼失し空隙となることから、その配合量を調節することで、発熱体1における空隙率を容易に制御することができ、更には、発熱体1の抵抗値を容易に制御することが可能である。
【0109】
なお、本発明の実施の形態で挙げている数値は、その全てが臨界値を示すものではなく、ある数値は実施に好適な好適値を示すものであるから、上記数値を若干変更してもその実施を否定するものではない。
【符号の説明】
【0110】
1、10、20 発熱体
2 金属アルミニウム粉
3 炭素粉
4 無機酸化物材料の粉
7 焼結原料混合物
8 成型体
【技術分野】
【0001】
本発明は、原料に金属アルミニウムを用いて焼成した発熱体に関するもので、特に、通電による抵抗発熱性を有し、抵抗発熱体として好適に使用可能な発熱体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属や金属酸化物・窒化物等の粉末を焼成してなる焼結体は、その緻密性から様々な分野での利用可能性があり、従来から多くの技術が開発されてきていた。
特に、金属材料としてのアルミニウム材料は、軽量かつ安価であり、加工性も良いことから、従来から焼結体を製造する原材料としてアルミニウム材料が検討されてきた。
しかし、アルミニウム材料は極めて酸化し易くてその表面に安定で硬い酸化皮膜が形成され易いため、これをそのまま焼結させても機械的強度の高い焼結体を得ることは困難である。
【0003】
ここで、本出願人は、先に、金属アルミニウム粉を使用した焼結体の発明に係る特許出願をした(特許文献1)。この特許文献1に記載の焼結体の発明は、アルミニウム微粒子とゼオライト微粒子と有機バインダ及び/または無機バインダとを含有し、これらが均一に混合された混合物を、常温でプレス成形し、非酸化雰囲気において1200℃〜1800℃の範囲内の温度で焼結したものであり、これによって、優れた機械的強度を有する焼結体が得られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特願2010−179397
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献1の発明においては、1200℃〜1800℃の範囲内の温度で焼結したことから、得られる焼結体は主にアルミナ質であると予測され、通電発熱はなく、抵抗体、抵抗発熱体等の用途に適した導電性は備えられていなかった。このため、アルミニウム材料を使用した焼結体として応用分野の拡大を図ることはできなかった。
【0006】
ところで、従来から使用されている発熱体として、ニクロム合金、カンタル合金等の金属材料や、炭化ケイ素(SiC)等のセラミック材料からなるものが開発されている。
しかし、金属材料からなる発熱体は、液体加熱用の発熱体等として使用する場合において、金属の周囲にマグネシア等の絶縁物を配設し、更に、全体を金属シースで包む必要があることから、また、金属線によって面放熱させていたことから、発熱効率が低かった。一方、セラミック材料からなる発熱体においては、脆くて急激な温度変化による熱衝撃にも弱く、急速加熱や急速冷却が困難であった。
【0007】
そこで、本発明は、かかる不具合を解決すべくなされたものであって、機械的強度が高く、かつ、通電発熱性を有し、抵抗発熱体として好適に使用可能な発熱体の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発熱体は、金属アルミニウム(Al)、金属シリコン(Si)、アルミナ(Al2O3)、シリカ(SiO2)、並びにアルミナとシリカとの複合酸化物またはアルミニウム酸化物とケイ素酸化物との複合酸化物を主成分とし、5%〜50%の範囲内の空隙を有する多孔質材料に形成してなるものである。
【0009】
ここで、上記5%〜50%の範囲内の空隙は、形成した乾燥状態の発熱体の体積及び重量を測定し、水を含浸させた状態の重量を測定し、再び乾燥させて重量を測定し、その重量の変化を気孔率に置き換えたものである。及び「パラフィン浸透装置(ULVAC DA−15D)」により真空に脱気したところにパラフィンを含浸させて、その重さの変化から算出したものも、結果的に大きな差は生じなかった。したがって、ここでは前者、後者の区別なく説明する。
【0010】
上記5%〜50%の範囲内の空隙は、体積率で5%〜50%の範囲内の空隙を有することを意味し、この5%〜50%との数値は、本発明者らが、鋭意実験研究を重ねた結果、空隙が5%〜50%の範囲内においては、抵抗発熱体としての使用において、十分な強度及び通電発熱性を確保できることを見出し、この知見に基づいて設定されたものである。なお、上記5%〜50%の範囲内は、厳格に5%〜50%の範囲内であることを要求するものではなく、通常、約5%〜約50%の範囲内で使用するのが望ましいという値である。当然、誤差を含む概略値であり、数割の誤差を否定するものではない。
【0011】
請求項2の発熱体の前記多孔質材料は、金属アルミニウム粉(粉末)と、前記アルミニウムの溶融点より低い温度では溶融しない炭素粉と、アルミナ及びシリカ、アルミナ及びシリカの複合酸化物、並びに、アルミニウムのケイ酸塩のうちの少なくとも1種を含有する無機酸化物材料からなる粉末とが混合されてなる混合物を、前記アルミニウムの溶融点より高い温度で焼成することによって得られるものである。
【0012】
ここで、上記金属アルミニウム粉は、通常、アトマイズ法(噴霧式)によって製造された不規則な形状(針状、紡錘形状等)のものが使用される。
また、上記炭素粉は、通常、熱伝導率が低く、高温下でも前記金属アルミニウム粉とは反応しないものであるが、ここでは、前記金属アルミニウム粉の溶融点(668℃)より低い温度では溶融しないものであればよく、例えば、黒鉛、カーボンブラック、活性炭、炭素繊維等の粉状物が挙げられる。
更に、上記無機酸化物材料からなる粉末は、アルミナ(Al2O3)及びシリカ(SiO2)、アルミナとシリカとの複合酸化物、並びに、アルミニウムのケイ酸塩のうちの少なくとも1種を含有するものであり、例えば、アルミナ粉末及びシリカ粉末が一緒に使用されたり、アルミナ及びシリカやこれらの化合物を含有する鉱物粉末等が使用されたりする態様がある。即ち、上記無機酸化物材料の粉末には、アルミナ粉及びシリカ粉の併用態様の他に、アルミニウム酸化物及びケイ素酸化物、前記アルミニウム酸化物と前記ケイ素酸化物の複合酸化物、アルミニウムのケイ酸塩のうちの少なくとも1種を含有する陶磁器用の粘土粉等の単独使用の態様があり、本発明を阻害する成分でなければ、他の成分が含まれていてもよい。
【0013】
請求項3の発熱体は、前記炭素粉が黒鉛粉であるものである。
ここで、上記黒鉛(グラファイト、石墨)は、常圧で安定な炭素同素体の鉱物であり、炭素6員環が連なる層状構造を有し、融点が非常に高いものである。粉末化した黒鉛粉には、天然黒鉛を用いるのが一般的で、中でも鱗状黒鉛を用いるのが最も一般的であるが、その他にも土状黒鉛等の天然黒鉛や鱗状天然黒鉛粉を長柱状に造粒した長柱状造粒黒鉛等の使用も可能である。
【0014】
請求項4の発熱体は、前記アルミナ及びシリカ、アルミナとシリカとの複合酸化物、並びにアルミニウムのケイ酸塩のうちの少なくとも1種を含有する無機酸化物材料として、粘土質鉱物を用いたものである。
【0015】
請求項5の発熱体は、前記多孔質材料が、前記混合物を圧力を加えて所望形状に成形した後、焼成することによって得られたものである。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の発明に係る発熱体は、金属アルミニウム(Al)、金属シリコン(Si)、アルミナ(Al2O3)、シリカ(SiO2)、並びに、アルミナとシリカとの複合酸化物またはアルミニウム酸化物とケイ素酸化物との複合酸化物を主成分とし、5%〜50%の範囲内の空隙を有する多孔質材料に形成してなる。
【0017】
金属アルミニウムの粉末を使用し、これを焼成することによって、二次元または三次元的に構成し、機械的強度が高く、かつ、通電発熱性を有し抵抗発熱体として使用可能なものは、これまでに存在していない。
本発明者らは、鋭意実験研究の結果、金属アルミニウムの粉末等を使用し特殊な製造方法によって、かかる特性を有する発熱体を製造することに成功した。そして、この発熱体は、金属アルミニウム(Al)、金属シリコン(Si)、アルミナ(Al2O3)、シリカ(SiO2)、並びに、アルミナとシリカとの複合酸化物またはアルミニウム酸化物とケイ素酸化物との複合酸化物を主成分とし、空隙を有する多孔質材料からなるものである。
【0018】
ここで、多孔質材料の空隙が5%未満であると、抵抗値が小さく、通電による発熱性が損なわれる。一方、空隙が50%を超えると、抵抗発熱体としての使用において、強度が足りず、また、通電性も損なわれる。したがって、多孔質材料の空隙は5%〜50%の範囲内であることが必要である。
このような構成の多孔質材料からなる発熱体は、機械的強度が高く、また、通電により抵抗発熱し、抵抗発熱体として使用可能である。
特に、本発明者らが発明した発熱体は、体積が大きい割には通電による昇温速度及び通電解除による降温速度が速くて、急激な温度変化による熱衝撃にも強く、急速加熱や急速冷却が可能である。また、この発熱体は、直接抵抗加熱であり、しかも多孔質であることから、熱効率を高めることが可能である。また、酸等の化学的にも強靭である。
したがって、抵抗発熱体としての使用に好適であり、特に、面で加熱する発熱体等の使途に適する。
【0019】
請求項2の発明に係る発熱体の前記多孔質材料は、金属アルミニウム粉と、前記アルミニウムの溶融点より低い温度では溶融しない炭素粉と、アルミナ及びシリカ、アルミナとシリカとの複合酸化物、並びに、アルミニウムのケイ酸塩のうちの少なくとも1種を含有する無機酸化物材料の粉とが混合されてなる混合物を、前記アルミニウムの溶融点より高い温度で焼成することによって得られる。
【0020】
ここで、炭素粉が混合されていることによって、アルミニウム粉が炭素粉に覆われ、炭素粉が燃焼することでアルミニウムの周囲は還元雰囲気に近い状態となるため、アルミニウムの酸化が防止され、また、アルミニウムの溶融点(660.4℃)に達しても、アルミニウムが溶融して表面に噴出することがなく、焼成によって上記混合物が複合化される。
これによって、金属アルミニウム(Al)、金属シリコン(Si)、アルミナ(Al2O3)、シリカ(SiO2)、並びに、アルミナとシリカとの複合酸化物またはアルミニウム酸化物とケイ素酸化物との複合酸化物を主成分とし、5%〜50%の範囲内の空隙を有する発熱体となる。
【0021】
そして、この発明に係る発熱体によれば、原料の粒度分布や寸法形状や配合量、焼成温度等を調節することによって抵抗値を制御することができる。
したがって、請求項1の効果に加えて、製造過程における抵抗制御が容易にできる。
【0022】
請求項3の発明に係る発熱体によれば、前記炭素粉は黒鉛粉であり、炭素粉としての黒鉛粉は、金属アルミニウム粉の表面に付着しやすいことから、焼成過程において、溶融したアルミニウムが表面に噴出する焼結不良が確実に抑制される。したがって、請求項1または請求項2に記載の効果に加えて、安定した高強度や通電発熱性等の性能を確保でき、高い品質を確保することができる。
【0023】
請求項4の発明に係る発熱体によれば、前記アルミナ及びシリカ、アルミナとシリカとの複合酸化物、並びにアルミニウムのケイ酸塩のうちの少なくとも1種を含有する無機酸化物材料として、粘土質鉱物を用いたことから、請求項1乃至請求項3に記載の効果に加えて、成形性や保形性等が向上し、所望形状の形成が容易にできる。
【0024】
請求項5の発明に係る発熱体によれば、前記多孔質材料は、前記混合物を圧力を加えて所望形状に成形した後、焼成することによって得られたものである。
ここで、金属アルミニウム粉と、炭素粉と、無機酸化物材料の粉とが混合されてなる混合物を、圧力を加えて成形することによって、これらの混合物は強固で緻密な固形状態となる。そして、この状態で焼成することによって、より高強度の発熱体を得ることができる。また、成形時の圧力調節等をすることにより、容易に抵抗値を制御できることから、製造過程における抵抗制御も容易である。
更には、成型時の金型形状等による成形形状の調節、成形時の充填量の調節、成形時の部分的な圧力調節等で発熱体の抵抗分布を調節することによって、特定部位を特定の温度に発熱させることも可能である。
したがって、請求項1乃至請求項4に記載の効果に加えて、強度の向上を図ることができる。また、抵抗制御がより容易に可能である
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は本発明の実施の形態1に係る発熱体の製造方法を示すフローチャートである。
【図2】図2は本発明の実施の形態1に係る発熱体の成形例を示すもので、図2(a)は直方体状の発熱体であり、図2(b)は円筒状の発熱体の斜視図である。
【図3】図3は本発明の実施の形態1に係る発熱体のX線回析(発熱体を粉砕して測定)によるスペクトル図である。
【図4】図4は本発明の実施の形態1に係る厚み15mmの発熱体のSEM−EDX(エネルギ分散型X線分光法)によるBSE(反射電子顕微鏡)写真におけるスペクトルの検出位置を示す図(a)、同じく厚み15mmの発熱体のSEM−EDXによるSEM写真(走査型電子顕微鏡)におけるスペクトルの検出位置を示す図(b)である。
【図5】図5は図4(a)のBSE写真及び図4(b)のSEM写真におけるスペクトルの検出位置から検出したスペクトルを示す図である。
【図6】図6は本発明の実施の形態1に係る厚み15mmの発熱体のSEM−EDXによるSEM写真におけるスペクトルの検出位置を示す図である。
【図7】図7は図6のSEM写真におけるスペクトルの検出位置から検出したスペクトルを示す図である。
【図8】図8は本発明の実施の形態1に係る厚み30mmの発熱体のSEM−EDXによるSEM写真におけるスペクトルの検出位置を示す図(a)及びBSE写真におけるスペクトルの検出位置を示す図(b)である。
【図9】図9は図8(a)のSEM写真及び図8(b)のBSE写真におけるスペクトルの検出位置から検出したスペクトルを示す図である。
【図10】図10は本発明の実施の形態1に係る厚み30mmの発熱体のSEM−EDXによるSEM写真におけるスペクトルの検出位置を示す図(a)及びBSE写真におけるスペクトルの検出位置を示す図(b)である。
【図11】図11は図10(a)のSEM写真及び図10(b)のBSE写真のSEM写真におけるスペクトルの検出位置から検出したスペクトルを示す図である。
【図12】図12(a)のSEM写真及び図12(b)のBSE写真は本発明の実施の形態1に係る厚み30mmの発熱体のSEM−EDXによるSEM写真におけるスペクトルの検出位置を示す図(a)及びBSE(反射電子顕微鏡)写真におけるスペクトルの検出位置を示す図(b)である。である。
【図13】図13は図12のSEM写真におけるスペクトルの検出位置から検出したスペクトルを示す図である。
【図14】図14は本発明の実施の形態1に係る厚み30mmの発熱体のBSE写真におけるスペクトルの検出位置を示す図である。
【図15】図15は図14のBSE写真におけるスペクトルの検出位置から検出したスペクトルを示す図である。
【図16】図16は本発明の実施の形態1に係る厚み30mmの発熱体のSEM−EDXによるSEM写真におけるスペクトルの検出位置を示す図である。
【図17】図17は図16のSEM写真におけるスペクトルの検出位置から検出したスペクトルを示す図である。
【図18】図18は本発明の実施の形態1に係る厚み30mmの発熱体のSEM−EDXによるSEM写真におけるスペクトルの検出位置を示す図である。
【図19】図19は図18のSEM写真におけるスペクトルの検出位置から検出したスペクトルを示す図である。
【図20】図20は本発明の実施の形態1に係る発熱体の微細構造を示すSEM写真であり、厚み15mmの実施物の発熱体の割断面を示す両端スケール間を1mmとする図(a)、同じくSEM写真であり、厚み15mmの実施物の発熱体の割断状態を示す両端スケール間を100μmとする図(b)である。
【図21】図21は本発明の実施の形態1に係る発熱体の微細構造を示すSEM写真であり、厚み15mmの実施物の発熱体の割断面を示す両端スケール間を100μmとする図(a)、BSE写真であり、厚み15mmの実施物の発熱体の割断状態を示す両端スケール間を100μmとした写真の図(b)である。
【図22】図22は本発明の実施の形態1に係る発熱体の微細構造を示すSEM写真であり、厚み15mmの実施物の発熱体の割断面を示す両端スケール間を50μmとする図(a)、同じくSEM写真であり、厚み15mmの実施物の発熱体の割断状態を示す両端スケール間を50μmとした写真の図(b)である。
【図23】図23は本発明の実施の形態1に係る発熱体の微細構造を示すSEM写真であり、厚み15mmの実施物の発熱体の割断面を示す両端スケール間を20μmとする図(a)、同じくSEM写真であり、厚み15mmの実施物の発熱体の割断状態を示す両端スケール間を3μmとした写真の図(b)である。
【図24】図24は本発明の実施の形態1に係る発熱体の微細構造を示すSEM写真であり、厚み30mmの実施物の発熱体の割断状態を示す両端スケール間を500μmとする図(a)、同じくSEM写真であり、厚み30mmの実施物の発熱体の割断状態を示す両端スケール間を50μmとした写真の図(b)である。
【図25】図25は本発明の実施の形態1に係る発熱体の微細構造を示すBSE写真であり、厚み30mmの実施物の発熱体の割断面を示す両端スケール間を50μmとする図(a)、SEM写真であり厚み30mmの実施物の発熱体の割断状態を示す両端スケール間を30μmとした写真の図(b)である。
【図26】図26は本発明の実施の形態1に係る発熱体の微細構造を示すSEM写真であり、厚み30mmの実施物の発熱体の割断面を示す両端スケール間を20μmとする図(a)、同じくSEM写真であり、厚み30mmの実施物の発熱体の割断状態を示す両端スケール間を20μmとした写真の図(b)である。
【図27】図27は本発明の実施の形態1に係る発熱体の通電による温度変化を示すグラフ及びその下は電気特性値を示す表(a)であり、また、通電解除による温度変化を示すグラフ(b)である。
【図28】図28は、本発明の実施の形態1に係る発熱体の実施物として、プレス成形してなる平板状の発熱体の通電による発熱温度分布を示す写真(サーモグラフィ)である。
【図29】図29は、本発明の実施の形態1に係る発熱体の実施物として、長さ方向の中央部と両端部で厚みに差をつけた発熱体の写真(a)と、その通電による発熱温度分布を示す写真(サーモグラフィ)(b)である。
【図30】図30は本発明の実施の形態2に係る発熱体の製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
なお、各実施の形態において、同一の記号及び同一の符号は同一または相当する機能部分を意味し、各実施の形態相互の同一の記号及び同一の符号は、それら実施の形態に共通する機能部分であるから、ここでは重複する詳細な説明を省略する。
【0027】
[実施の形態1]
以下、本発明の実施の形態に係る発熱体について、図面を参照しながら説明する。なお、実施の形態において、同一記号及び同一符号は、実施の形態の同一または相当する機能部分を意味し、実施の形態相互との同一記号及び同一符号は、それら実施の形態に共通する機能部分であるから、ここでは重複する詳細な説明を省略する。
まず、本発明の実施の形態1に係る発熱体について、図1乃至図29を参照して説明する。
最初に本発明の実施の形態1に係る発熱体の製造方法について説明する。
本実施の形態1に係る発熱体1は、金属アルミニウム粉2、炭素粉3、及び、無機酸化物材料の粉4を主に使用して製造されたものである。
【0028】
具体的には、本発明の実施の形態1においては、図1のフローチャートに示されるように、最初に、焼結原料混合工程にて、金属アルミニウム粉2、炭素粉3、無機酸化物材料の粉4、更には、有機化合物粉5、水及び/またはバインダ6が混合され、焼結原料混合物7となる(ステップS1)。
【0029】
ここで、金属アルミニウム粉2としては、市販の金属アルミニウム粉末を用いることができ、このような金属アルミニウム粉は、ミナルコ(株)、日本軽金属(株)、東洋アルミニウム(株)、大和金属粉工業(株)等から発売されている。また、金属アルミニウム粉2には、100%アルミニウムでなく、無機物等の不純物が僅かに含まれたものや、リサイクルのアルミニウムでも使用可能であり、更には、鉄や銅等の金属を僅かに含有したアルミニウム合金の粉末等を使用することも可能である。
【0030】
なお、この金属アルミニウム粉2には、レーザ回折・散乱法によって測定した中位径が30μm〜75μmの範囲内であり、ふるい試験法によって測定した粒子径が150μm未満であるものを用いるのが好ましい。つまり、小径粒子と大径粒子の取合せによって充填性を向上させるためである。また、金属アルミニウム粉2の中位径が30μm未満であると、焼成過程において金属アルミニウム粉2が低温で溶融しやすくて表面に噴出する恐れがあり、一方、金属アルミニウム粉2の中位径が75μmを超えると、炭素粉3に覆われない部分が増大して酸化され易くなり、通電発熱性が損なわれる可能性がある。金属アルミニウム粉2のふるい試験法によって測定した粒子径が150μm以上の場合においても、炭素粉3に覆われない部分が増大して酸化され易くなり、通電発熱性が損なわれる可能性がある。より好ましくは、レーザ回折・散乱法によって測定した金属アルミニウム粉2の中位径が35μm〜65μmの範囲内であり、ふるい試験法によって測定した粒子径が100μm未満である。
【0031】
因みに、JIS Z 8901「試験用粉体及び試験用粒子」の本文及び解説の用語の定義によれば、中位径とは、粉体の粒径分布において、ある粒子径より大きい個数(または質量)が、全粉体のそれの50%を占めるときの粒子径(直径)、即ち、オーバサイズ50%の粒径であり、通常、メディアン径または50%粒子径といいD50と表わされる。定義的には、平均粒子径と中位径で粒子群のサイズを表現されるが、ここでは、商品説明の表示、レーザ回折・散乱法によって測定した値である。
そして、この「レーザ回折・散乱法によって測定した中位径」とは、レーザ回折式粒度分布測定装置を用いてレーザ回折・散乱法によって得られた粒度分布において積算重量部が50%となる粒子径(D50)をいう。
【0032】
炭素粉3は、金属アルミニウム粉2の溶融点より低い温度では溶融しないものであり、本実施の形態1においては、炭素粉3として、黒鉛粉を用いた。この黒鉛粉には、市販の黒鉛粉を用いることができ、このような黒鉛粉は、西村黒鉛(株)、日本黒鉛工業(株)、伊藤黒鉛工業(株)、(株)中越黒鉛工業所等から発売されている。市販の黒鉛粉には、鱗状(鱗片状)黒鉛や土状黒鉛等の天然黒鉛、鱗状天然黒鉛粉を長柱状に造粒した長柱状造粒黒鉛等の人造黒鉛が存在するが、中でも、一般的に純度が高いとされる天然の鱗状黒鉛を用いるのが好ましい。鱗状黒鉛を用いることで、金属アルミニウム粉2に絡んで付着し易く、金属アルミニウムの溶融により金属アルミニウム粉2が表面に噴出する焼結不良を効果的に抑制することができるからである。
【0033】
なお、この炭素粉3には、レーザ回折・散乱法によって測定した中位径が60μm〜90μmの範囲内であり、ふるい試験法によって測定した粒子径が200μm未満であるものを用いるのが好ましい。小径粒子と大径粒子の取合せによって充填性が向上するからである。また、炭素粉3の中位径が60μm未満であると、焼成過程において炭素粉3が液状化し易くて、アルミニウムが表面に噴出し易くなる。一方、炭素粉3の中位径が90μmを超えると、炭素粉3が均一に分散混合され難くなって、金属アルミニウム粉2において炭素粉3に覆われない部分が増大して酸化され易くなり、通電発熱性が損なわれる。炭素粉3のふるい試験法によって測定した粒子径が200μm以上の場合においても、金属アルミニウム粉2において炭素粉3に覆われない部分が増大して酸化され易くなり、通電発熱性が損なわれる。より好ましくは、レーザ回折・散乱法によって測定した炭素粉3の中位径が70μm〜80μmの範囲内であり、ふるい試験法によって測定した粒子径が150μm未満である。
【0034】
なお、本発明を実施する場合には、炭素粉3としては、金属アルミニウム粉2の溶融点より低い温度では溶融しないものであればよく、黒鉛粉の他に、例えば、カーボンブラック、炭素繊維、活性炭等の粉末が挙げられる。しかし、黒鉛粉は、金属アルミニウム粉2の表面に付着しやすい(絡みやすい)ため、焼成過程において、溶融したアルミニウムが表面に噴出する焼結不良が確実に抑制され、発熱体1において安定した強度や通電発熱性等の性能を確保できる。このため、炭素粉3としては黒鉛粉が適する。
【0035】
無機酸化物材料の粉4は、アルミナ(Al2O3)及びシリカ(SiO2)、アルミナとシリカとの複合酸化物、並びに、アルミニウムのケイ酸塩のうちの少なくとも1種を含有するものであり、この無機酸化物材料の粉としては、例えば、アルミナ粉末及びシリカ粉末を使用することもできるし、ムライト(Al2O3・3SiO2)粉、コージライト(2MgO・2Al2O3・5SiO2)粉、βスポジューメン(Li2O・Al2O3・4SiO2)等のアルミナとシリカとの複合酸化物の粉末や、カオリン(Al2Si2O5(OH)4)等のアルミニウムのケイ酸塩の鉱物粉末や、蛙目粘土、木節粘土、長石、陶石等のアルミナ(Al2O3)及びシリカ(SiO2)やこれらの化合物が含有される鉱物粉末等を使用することもできる。
【0036】
なお、この無機酸化物材料の粉4にはレーザ回折・散乱法によって測定した中位径が5μm〜30μmの範囲内であり、ふるい試験法によって測定した粒子径が100μm未満とし、小径粒子と大径粒子の取合せによって充填性を向上させるのが望ましい。また、無機酸化物材料の粉4の中位径が5μm未満の微細粉されたものを得るのにはコストがかかるうえに、無機酸化物材料の粉4の中位径が5μm未満であると、熱による成分変化が生じやすくなる可能性があり、得られる発熱体1において安定した高強度や通電発熱性等の性能を確保できない可能性がある。一方、無機酸化物材料の粉4の中位径が30μmを超えると、無機酸化物材料の粉4が均一に分散混同され難くてその分布に偏りが生じやすくなる可能性があり、得られる発熱体1において安定した高強度や通電発熱性等の性能を確保できない可能性がある。無機酸化物材料の粉4のふるい試験法によって測定した粒子径が100μm以上の場合においても、同様に、無機酸化物材料の粉4が均一に分散混同され難くてその分布に偏りが生じやすくなる可能性があり、得られる発熱体1において安定した高強度や通電発熱性等の性能を確保できないことになる。より好ましくは、レーザ回折・散乱法によって測定した無機酸化物材料の粉4の中位径が10μm〜20μmの範囲内であり、ふるい試験法によって測定した粒子径が70μm未満である。
【0037】
また、本実施の形態1においては、有機化合物粉5が混合されているが、有機化合物粉5としては、焼成過程で焼失するものであればよく、具体的には、大鋸屑(おがくず)、間伐材のチップ、小径木、製材端材、樹皮等の木屑を粉砕機で微粉砕した所謂「木粉」や、椰子殻・胡桃殻や、穀物粉や、熱硬化性樹脂の粒子や、紙、合成繊維、木綿(デニム生地の繊維等を含む)・麻・絹・稲藁等の天然繊維や、精製セルロース(CMC)等を微粉砕したもの等が使用できる。なお、「有機化合物」とは、『炭素の酸化物や金属の炭酸塩など少数の簡単なもの以外のすべての炭素化合物の総称。』(長倉三郎他・編「岩波理化学辞典(第5版)」1392頁,1998年2月20日株式会社岩波書店発行)である。
【0038】
特に、有機化合物粉5として木粉は、粉砕が容易であり安価に入手できるため適している。この木粉には、木材を切る際に出る切り屑である大鋸屑、木材に鉋をかける際に生ずる削り屑である鉋屑、木片を薄くスライスしてできる薄片である木片チョップ、間伐材等のチップ、小径木、製材端材、樹皮等の木屑を粉砕機で微粉砕したもの、即ち、木材を細かく粉砕した粉が使用されるが、ウィスカー状(極細の繊維状または髭状)のものを用いるのが好ましい。ウィスカー状の木粉を使用することで金属アルミニウム粉2、炭素粉3、及び無機酸化物材料の粉4の原料がウィスカーのヒケ状の隙間に絡みつくため、原料の充填性が高くなると共に、成形固化の強度が増す。
【0039】
なお、この有機化合物粉5には、レーザ回折・散乱法によって測定した中位径が80μm〜120μmの範囲内であり、ふるい試験法による粒子径が200μm未満であるものを用いることが好ましい。小径粒子と大径粒子の取合せによって充填性が向上するからである。また、有機化合物粉5の中位径が80μm未満の微細粉されたものを得るにはコストが掛かり、一方で、有機化合物粉5の中位径が120μmを超えると、有機化合物粉5が均一に分散混合され難くて焼失による空隙の分布に偏りが生じやすくなり、得られる発熱体1において安定した高強度が確保されない。また、有機化合物粉5のふるい試験法による粒子径が200μm以上の場合においても、有機化合物粉5が均一に分散混合され難くて焼失による空隙の分布に偏りが生じやすくなり、得られる発熱体1において安定した高強度が確保されない可能性がある。より好ましくは、レーザ回折・散乱法によって測定した有機化合物粉5の中位径が50μm〜100μmの範囲内であり、ふるい試験法によって測定した粒子径が150μm未満である。
【0040】
そして、本実施の形態1では、金属アルミニウム粉2、炭素粉3、無機酸化物材料の粉4、及び有機化合物粉5に、水及び/またはバインダ6が混合されることによって、焼結原料混合物7が得られる。なお、この水及び/またはバインダは、水のみを単独で用いても良いし、バインダのみを単独で用いても良く、水とバインダの両方を併用しても良いという意味である。
【0041】
因みに、「有機バインダ」としては、例えば、合成樹脂、澱粉、合成糊、砂糖等を用いることができる。また、合成樹脂には熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂があり、熱可塑性樹脂としてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、アクリル樹脂、ポリウレタン系樹脂等を用いることができ、熱硬化性樹脂としてはフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリオール樹脂、イソシアネート樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタンプレポリマー等を用いることができる。なお、中でも、ポリオール系樹脂とイソシアネート系樹脂とは常温で反応して強固な結合を形成し、特に、イソシアネート系樹脂は、有機化合物粉5等における水酸基(−OH)と反応して強固なウレタン結合を形成するため、これらの樹脂を使用して焼結原料混合物7を成形したものはとても強固で緻密な状態のものとなる。
【0042】
「無機バインダ」としては、セメント等の水硬性材料、磁器(タイル)・陶器の原料であるベントナイト等の粘土、ρ−アルミナ(Al2O3・nH2O:n≒0.5)、ケイ酸ナトリウム、水溶性アルカリケイ酸、(株)ジャパンナノコート製のシリカバインダ、グランデックス(株)製のシリカバインダである汎用バインダFJ294等を用いることができる。
なお、有機バインダは、加熱過程において焼失し空隙となり、無機バインダは、焼失せずに焼成されることになる。
【0043】
また、これら原料の混合には、精密分散混合機が用いられ、金属アルミニウム粉2、炭素粉3、無機酸化物材料の粉4、及び有機化合物粉5が均一に分散混合されて焼結原料混合物7となっている。なお、精密分散混合機としては、周速5μm/秒〜80m/秒の範囲内、より好ましくは、周速20m/秒〜30m/秒の範囲内の高速攪拌分散機を用いるのが好ましく、このような高速攪拌分散機としては、例えば、ホソカワミクロン(株)製の横型タービュライザ(登録商標)等がある。
【0044】
次に、本実施の形態1においては、この焼結原料混合物7が、成形工程において、圧力を加えて成形され(ステップS2)、強固で緻密な固形状態の成型体8となる。
ここで、成形工程においては、例えば、焼結原料混合物7をプレス成形金型に投入し所定圧力のプレスで成形するプレス成形と、焼結原料混合物7を耐圧性の型枠に入れ所定圧力で押し出して成形する押出成形等が可能である。
【0045】
なお、プレス成形の場合には、プレス圧力は、10kg/cm2〜300kg/cm2の範囲内とするのが好ましい。プレス成形の圧力が10kg/cm2未満であると、焼結原料混合物7が十分に圧縮されないため成型体8の強度が弱くなり後述の焼成過程において破損することになる。また、プレス成形の圧力が300kg/cm2を超えると、焼結原料混合物7に圧力が掛かり過ぎて高密度となり、得られる発熱体1の抵抗値が小さくなって通電発熱性が損なわれる。好ましくは、50kg/cm2〜200kg/cm2の範囲内である。特に、水分量が多いほど低圧力での成形が可能となる。しかし、抵抗値及び複合成分、水分量によっては、10kg/cm2〜300kg/cm2の範囲外の使用も有り得る。
【0046】
そして、プレス成形の場合、例えば、後述するように、凹凸を有する金型や曲線部を有する金型枠型等を使用し、成形によって焼結原料混合物7の意匠面に凹凸を形成したり、焼結原料混合物7を曲線部を有する形状に成形したりと所望形状に成形することが可能である。ハニカム状等複雑な形状に成形することが可能である。一方、押出成形の場合には、焼結原料混合物7を曲面形状の筒状・棒状や螺旋状等複雑な形状に成形することが可能である。因みに、図2(a)が射出成型したもの、図2(b)が押出成型したものである。
【0047】
また、特に、無機酸化物材料の粉4として粘土質鉱物粉を用いた場合には、水6を少量混合するだけで容易に原料同士が接着されてまとまった状態となり、成形工程においては常温で加圧するだけで、更には低圧力の成形で、成型体8は強固なものとなる。よって、高圧力や加熱装備のプレス装置を必ずしも用いなくても良く、低コスト化を図ることができる。更に、無機酸化物材料の粉4としての粘土質鉱物粉が、成形性や保形性等の確保に有利に機能して、所望形状の成形が容易にできる。なお「常温」とは、JIS Z 8703で規定されるように、20℃±15℃(5℃〜35℃)の範囲内の温度をいう。
【0048】
因みに、常温の加圧によって成形できる場合には、外部からの均一な加熱が不要であるため、プレス成形によって、厚い成型体8(例えば、150トンのプレス機で約20mm厚まで)を得ることも可能である。更には、加熱機構が不要であることから、プレス成形機及び金型の構造を簡単にして、広い面積の成型体8(例えば、1000mm×2000mm)を得ることも可能である。なお、このときのプレス成形機としては、例えば、150トン以上の粉末成形プレス機が使用できる。このプレス機によれば、成形途中にガス抜きが出来る機構が付いているため、成形によって高強度のものが安定して得られる。
勿論、本発明を実施する場合においては、加熱加圧によって、焼結原料混合物7を成形することも可能である。殊に、無機酸化物材料の粉4に粘土質鉱物粉が使用された場合には、これが成形性または保形性等の確保に有利に機能することから、水やバインダを混合せずとも加熱加圧によって成形することが可能である。
【0049】
なお、本発明を実施する場合、陶器の製造のように、金属アルミニウム粉2、炭素粉3、無機酸化物材料の粉4、及び有機化合物粉5に、水及び/またはバインダ6を多く混同して、スラリー状の焼結原料混合物7として石膏型に流して固めたのちに、成形工程(ステップS2)に供することも可能である。更に、セラミックや磁器(タイル)の製造のように、焼結原料混合物7をスプレードライヤーによって乾燥させた後、成形工程(ステップS2)に供することも可能である。いずれにせよ、後述する焼成過程において形状が保持される程度に固化された状態のものが作製できれば、原料同士を接着する手段やバインダの種類は特に限定されない。
【0050】
続いて、本実施の形態1においては、この成型体8が、焼成工程において、温度制御電気炉内にてアルミニウムの溶融点より高い温度で焼成される(ステップS3)。
焼成工程の昇温プログラムは、各原料の種類、粒子径、配合量や、発熱体1において必要とされる抵抗値、発熱温度等によって予め実験によって最適値が設定される。
【0051】
このようにして、本実施の形態1に係る発熱体1が得られる。
具体的には、図2(a)に示すように、直方体状の発熱体10(発熱体1)は、直方体状の抵抗体部11と、その抵抗体部11の両端に埋設した端子12,13とからなる。この端子12,13は、焼結原料混合物7を形成した後、型内に端子12及び端子13を配置し、成型工程で一体化させたものである。この端子12,13は、ステンレス製であり、焼結工程S3で溶融しない材料として、低抵抗材料として選択されたものである。
また、図2(b)は、円筒状の発熱体20(発熱体1)は、円筒形状の抵抗体部21と、その抵抗体部21の両端の表面に巻回した端子22,23とからなる。この端子22,23は、銅製であり、焼結工程S3で形成した抵抗体部21に対して所定の圧力を加えながら巻回されたものである。
【0052】
なお、本実施の形態1の発熱体10では埋設端子とし、発熱体20では巻回端子としたが、本発明を実施する場合には、発熱体10または発熱体20の端部表面に電極を張り合わせてもよいし、強圧する構造としてもよい。いずれにせよ、端子は接触抵抗が低い状態で通電できるものとするのが望ましい。
【0053】
ここで、こうして得られた本実施の形態1に係る発熱体1(10,20)のX線回折(WAXS分析)によるスペクトルを図3に、また、SEM−EDXによるスペクトル及びBSE(反射電子顕微鏡)を含む走査型電子顕微鏡(SEM:2次電子像)写真を図4乃至図19に示す。なお、EDXは2μmのスポットによる点分析である。
図3乃至図19に示されるように、本実施の形態1に係る発熱体1(直方体状の発熱体10、円筒状の発熱体20)は、アルミニウム(Al)や、ケイ素(Si)や、アルミナ(Al2O3)や、二酸化ケイ素(SiO2)や、アルミナ(Al2O3)と二酸化ケイ素(SiO2)の複合酸化物またはアルミニウム酸化物とケイ素酸化物の複合酸化物が主成分である。
【0054】
また、図4乃至図26のBSE(反射電子顕微鏡)を含む走査型電子顕微鏡(SEM:2次電子像)写真に示すように、本実施の形態1に係る発熱体1は、開口した空隙が分布しており、多孔質である。そして、この発熱体1にエアコンプレッサによる圧縮空気をエアガンで吹き付けると、圧縮空気が発熱体1を通り抜けることから、本実施の形態1に係る発熱体1は、通気性を有する。これは、多数の空隙が連通しているためと思われる。
ここで、この空隙の大きさは、ガス吸着式細孔分布測定器で測定した結果、数μm〜数十μmであったが、原料の粒度分布や寸法形状や配合量、また、成形時の圧力等によって空隙の大きさや空隙率は制御可能である。
そして、本発明者らの実験研究によって、空隙率が5%〜50%の範囲内にあることで、抵抗発熱体としての利用において十分な強度や通電発熱性が確保できることが確認されている。即ち、空隙率が5%未満であると、発熱体1の抵抗値が低く、通電発熱性が損なわれる。一方、空隙率が50%を超えると、抵抗発熱体としての利用において強度が足りず、通電性も損なわれる。
【0055】
このようにして、金属アルミニウム(Al)、金属シリコン(Si)、アルミナ(Al2O3)、シリカ(SiO2)、並びに、アルミナとシリカとの複合酸化物またはアルミニウム酸化物とケイ素酸化物との複合酸化物を主成分とし、5%〜50%の範囲内の空隙を有する多孔質材料に形成してなる発熱体1となる。空隙の比率は、形成した乾燥状態の発熱体1の体積及び重量を測定し、水を含浸させた状態の重量を測定し、再び乾燥させて重量を測定し、その重量の変化を気孔率に置き換えて測定した。
【0056】
そして、このようにして得られた本実施の形態1に係る発熱体1(発熱体10、20)は、通電によって容易に抵抗発熱した。特に、発熱体1の全面で発熱した。
また、本実施の形態1に係る発熱体1は軽量であると共に、アルミニウムより硬くて摩耗にも強く、各原料を混合して成形したものよりもその機械的強度は増大しており、高い機械的強度を有していた。
【0057】
ここで、このような特性の発熱体1が得られるのは、炭素粉3が混合されていることで、アルミニウム粉2が炭素粉3に覆われ、炭素粉3が燃焼することでアルミニウムの周囲は還元雰囲気に近い状態となるため、アルミニウムの酸化が防止され、また、アルミニウムの溶融点(660.4℃)に達しても、アルミニウムが溶融して表面に噴出することがなく、焼成により、焼結原料混合物7が複合化したためと推測される。
より具体的には、上述の如く、この発熱体はアルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、アルミナ(Al2O3)、二酸化ケイ素(SiO2)、並びにアルミナ(Al2O3)と二酸化ケイ素(SiO2)の複合酸化物またはアルミニウム酸化物とケイ素酸化物との複合酸化物が主成分となっているが、特に、焼成によって、溶融したアルミニウムのネットワークが形成され、また、シリコンが生成するという構造変化が起こったことで通電発熱性を有するものとなったと思われる。なお、金属シリコンは以下のような反応によって生成されたものと推測される。
SiO2+C→Si+CO2
SiO2+C→Si+2CO
2Al+3SiO2→3Si+Al2O3
なお、得られた発熱体1に通電したときに、560℃以上になると赤熱して表面に溶融物が噴出し始めたことから、アルミニウム2と無機酸化物材料4からのシリカ(SiO2)や生成したシリコン(Si)とが反応結合してAl−Si合金(融点:577℃)が生成されている可能性もある。
【0058】
因みに、本発明者らの実験研究により、炭素粉3を用いずに焼成した場合、温度制御電気炉内の温度が600℃以上になるとアルミニウム2(融点:660.4℃)が溶融して表面に噴出する焼結不良となり表面に多数の窪みが形成されたアルミニウムの溶融物が生成されてしまい、上述のような発熱体1を製造することはできないことが確認されている。しかし、本発明においては、700℃以上の高温になってもアルミニウム2が溶融して表面に噴出する焼結不良が生じることはない。
【0059】
ここで、発熱体1の通電による発熱の様子について詳細に図27乃至図29を参照して説明する。
まず、発熱体1の通電による温度変化の様子について調べるために、本実施の形態1に係る発熱体1の配合として、表1の配合内容で、図1のフローチャートにしたがって発熱体1を製造した。
【0060】
【表1】
【0061】
なお、表1に示される配合材料のうち、金属アルミニウム粉2としては、ミナルコ(株)製の#260S(Al:99wt%)でふるい試験法による粒子径が75μm未満(200メッシュアンダー)のものを用いた。この金属アルミニウム粉2について日機装(株)のレーザ回折式粒度分布測定装置マイクロトラックで測定したところ中位径は45μmであった。
【0062】
炭素粉3としては、西村黒鉛(株)製の天然の鱗状黒鉛粉1099M(固定炭素:99%でふるい試験法による粒子径が150μm未満(100メッシュアンダー)のものを用いた。この黒鉛粉について日機装(株)製のレーザ回折式粒度分布測定装置マイクロトラックで測定したところ中位径は75μmであった。
【0063】
無機酸化物材料の粉4には、(株)ヤマス製の土岐口特級蛙目粘土粉(SiO2:48.77%、Al2O3:34.40%、Fe2O3:1.35%、TiO2:0.95%、K2O:0.85%、MgO:0.38%、CaO:0.16%、Na2O:0.16%等)で、ふるい試験法による粒子径が65μm未満(250メッシュアンダー)のものを用いた。この蛙目粘土粉について日機装(株)製のレーザ回折式粒度分布測定装置マイクロトラックで測定したところ中位径は10μmであった。
【0064】
有機化合物粉5としては、スギの間伐材・小径木・製材端材・樹皮・大鋸屑等の木屑を、破砕機(木材用クラッシャー)で粗粉砕して、この粗粉砕木粉を、熱風乾燥機によって水分20重量部以下に熱風乾燥し、微粉砕機で微粉砕してなる木粉を使用した。ここで、微粉砕機としては、河本鉄工(株)製のミクロンコロイドミルを使用して、粉砕タービン羽の周速を50m/秒〜80m/秒として、微粉砕を行った。このようにして得られた木粉はウィスカー状であり、ふるい試験法による粒子径が150μm未満(100メッシュアンダー)で、日機装(株)製のレーザ回折式粒度分布測定装置マイクロトラックで測定したところその中位径は100μmであった。
【0065】
そして、これら金属アルミニウム粉2、炭素粉3としての黒鉛粉、無機酸化物材料の粉4としての蛙目粘土粉、有機化合物粉5としての木粉に、これら原料が比重の違いによって移動が生じない量(重力沈降しない量)の水6を加え、精密分散混合機であるホソカワミクロン(株)製の横型タービュライザ(登録商標)TCX−8を用いてこれら原料の混合を行い焼結原料混合物7とした。
【0066】
更に、ここでは、表1の配合内容で作製された焼結原料混合物7は押出成形し、1000℃〜1200℃の範囲内の温度で焼成して、厚み(T)5mm×幅(W)35mm×長さ(L)210mmの発熱体1とした。
ここで、焼成の温度が1000℃〜1200℃の範囲内とは、本発明者らが鋭意実験研究を重ねた結果、上述の配合材料を焼成する場合、1000℃未満では、十分な焼成が行われずに粉状態のものが得られ焼結不良となってしまうことが確認されたことから、焼成温度の下限値を1000℃とし、一方で、1200℃を超えると、発熱体の通電性が損なわれることが確認されたことから、焼成温度の上限値を1200℃としたものである。
【0067】
そして、製造された発熱体1の長さ方向の両端の端子間に10Vの電圧をかけ、所定部位の経時的な温度測定を行った。その測定結果のグラフを図27(a)に示す。更に、通電解除後における経時的な温度測定も行った。その測定結果のグラフを図27(b)に示す。
なお、参考までに、通電時における電流、抵抗値、電気抵抗率について、図27(a)としてグラフ下段の表に示す。表において、電流は電圧10Vを端子間に加えた場合の測定値であり、抵抗値は電圧及び電流の測定値から計算式
抵抗値=電圧/電流
によって算出したものである。また、電気抵抗率(比抵抗)も計算式
電気抵抗率=抵抗値/(長さ/断面積)
によって算出したものである。
【0068】
図27(a)のグラフに示すように、通電すると、すぐに全体席の温度が上昇(発熱)して7分前後で完全に温度が上昇し、その後も高温(定温)状態が維持されることが分かった。また、図27(b)のグラフに示すように、通電解除直後からすぐに温度が急激に減少し、約5分前後で元の温度状態に戻ることが分かった。
このように、本実施の形態1に係る発熱体1は、体積の大きさに比較して通電による昇温速度が極めて速く、また、通電解除による降温速度も極めて速いものである。
なお、図27(a)の表に示したように、本実施の形態1に係る発熱体1の電気抵抗率は約49×10-8Ω・m乃至約56×10-8Ω・mであり、アルミニウムの電気抵抗率が2.65×10-8Ω・mからしても、本実施の形態1に係る発熱体1の電気抵抗率は極めて高いものである。ニクロムは1.5×10-6Ω・mであるから、それに近い値である。
【0069】
また、図27(a)のグラフに示すように、一定の電圧による連続通電のもとでは、次第に温度上昇がなくなり発熱温度は一定の状態となることが確認された。そこで、本実施の形態1に係る発熱体1の熱伝導率及び比熱を測定したところ、熱伝導率が7W/m・Kで、比熱が0.74kJ/Kg・Kであった。アルミニウムの熱伝導率が236W/m・Kで、比熱が0.90kJ/Kg・Kあることからすると、本実施の形態1に係る発熱体1は熱伝導が極めて低いものである。
【0070】
そして、本実施の形態1に係る発熱体1においては、発熱している際に水を吹きつけても割れることもなく、また、この発熱体1に熱勾配(温度分布)がある場合においても、発熱時に割れることはなかった。
したがって、本実施の形態1に係る発熱体1は、急激な温度変化による熱衝撃にも強く、急速加熱や急速冷却が可能である。なお、このことは、本実施の形態1に係る発熱体1の熱伝導が低いことにその一因があると考えられる。
また、この発熱体は、直接抵抗加熱であり、上述の如く、多孔質であることから、熱効率が高いものである。
よって、本実施の形態1に係る発熱体1は、抵抗発熱体としての使用に好適である。
なお、この発熱体1に水を注ぐと、吸水したことから、本実施の形態1に係る発熱体1は、吸水性をも有している。
【0071】
ここで、本発明者らの実験研究によれば、原料の粒度分布や寸法形状や配合量によって、また、成形時の圧力等によって発熱体1の抵抗値が変化することが確認された。その一因は、原料の粒度分布や寸法形状や配合量、また、成形時の圧力によって発熱体1の緻密度が変化するためと思われる。具体的には、例えば、原料に粗い粒子を用いた場合、細かい粒子を用いた場合よりも抵抗値が大きくなったり、成形時におけるプレス圧力が小さい程、抵抗値が大きくなったりした。
【0072】
よって、本実施の形態1に係る発熱体1によれば、原料の粒度分布や寸法形状や配合量、また、成形時の圧力調節等によって発熱体1の緻密度を変化させることにより、発熱体1の抵抗値を制御することが可能である。因みに、本発明者らの実験研究により、発熱体1の緻密度を高めると、発熱体1の抵抗値が低くなることが確認されている。したがって、加熱したい所望の位置のみの発熱を高くできる。
【0073】
特に、本実施の形態1に係る発熱体1によれば、原料に有機化合物粉5が用いられており、焼成過程において、この有機化合物粉5が焼失することによってその部分が空隙となり、発熱体1の緻密性に大きく影響する。このため、有機化合物粉5の添加量を調節することで、発熱体1の抵抗値の制御が容易にできる。
【0074】
念のため、本実施の形態1に係る発熱体1の配合として、表2の配合内容で各原料の配合量を様々変えて製造した実施例1乃至実施例7に係る発熱体1の抵抗値や発熱性について表2に示す。
ここでは、表2に示した配合内容で作製された焼結原料混合物7は、それぞれ、150kg/cm2のプレス圧力でプレス成形し、1100℃の焼成温度で焼成して発熱体1とした。
そして、交流スライダーダック電源(直流安定化電源)を使用し、各発熱体1の長さ方向の両端に幅10mmの端子により通電(V)したときの、電流(A)、抵抗値(Ω)をそれぞれ測定した。なお、表2において、電流(A)は直接電流計で、抵抗値(Ω)はテスタの抵抗レンジによって測定した測定値である。また、発熱温度は、赤外線サーモグラフィー(熱画像計測装置:(株)チノー社製 携帯用小形熱画像カメラ CPA−017)によって確認したものである。
【0075】
【表2】
【0076】
表2に示したように、各原材料の配合量・配合比によって抵抗値が変化することから、各原材料の配合量を調節することで発熱体1の抵抗値を制御できることが分かる。また、電圧を変化させると、発熱温度も変化することから、発熱温度は通電量によって決定され、本実施の形態1に係る発熱体1は通電により抵抗発熱していることが分かる。
【0077】
なお、表2から、無機酸化物材料の粉4の量が多いほど、発熱体1の抵抗値が高くなることが分かる。そして、本発明者らの実験研究によれば、100重量部の金属アルミニウム粉2に対して、無機酸化物材料の粉4が60重量部〜150重量部の範囲内であれば、発熱体1において抵抗発熱体としての使途に適した抵抗値・通電発熱性を確保できることが確認されている。
【0078】
更に、本発明者らの実験研究によれば、焼結原料混合物7において、金属アルミニウム粉2の含有量が35重量%〜70重量%の範囲内であり、炭素粉3の含有量が2重量%〜15重量%の範囲内であり、無機酸化物材料の粉4の含有量が25重量%〜65重量%の範囲内であるのが好ましい。
【0079】
焼結原料混合物7において、金属アルミニウム粉2の含有量が35重量%未満であると、金属アルミニウム粉2が少なすぎて、発熱体1の通電性が損なわれる可能性がある。一方、金属アルミニウム粉2の含有量が70重量%を超えると、金属アルミニウム粉2に対して炭素粉3が極めて少なくなり、焼成過程において溶融したアルミニウムが表面に噴出する焼結不良が生じる可能性がある。
また、炭素粉3の含有量が2重量%未満であると、金属アルミニウム粉2に対して炭素粉3が極めて少な過ぎ、焼成過程において溶融したアルミニウムが表面に噴出する焼結不良が生じる可能性がある。一方、炭素粉の含有量が15重量%を超えると、炭素粉3が多過ぎて発熱体1の強度及び純度が低下し、抵抗発熱体としての使途に適した強度や通電発熱性が得られない可能性がある。
更に、無機酸化物材料の粉4の含有量が25重量%未満であると、無機酸化物材料の粉4が少なすぎて、発熱体1の抵抗値が小さくなり、抵抗発熱体としての使途に適した通電発熱性が損なわれる可能性がある。一方、無機酸化物材料の粉4の含有量が65重量%を超えると、無機酸化物材料の粉4が多過ぎて、発熱体1の通電性が損なわれる恐れがある。
【0080】
なお、より好ましくは、焼結原料混合物7において、金属アルミニウム粉2の含有量が40重量%〜65重量%の範囲内であり、炭素粉3の含有量が5重量%〜10重量%の範囲内であり、無機酸化物材料の粉4の含有量が30重量%〜65重量%の範囲内である。
【0081】
ところで、表2において、電流(A)、抵抗値(Ω)の測定値において測定幅があるのは、部位によって抵抗値が多少異なるためである。
そして、本発明者らの実験研究によれば、長さ方向両端から中心部分に向かって抵抗値・発熱温度が高くなる傾向があることが確認されている。
参考までに、所定の圧力によるプレス成形によって厚み(T)5mm×幅(W)35mm×長さ(L)210mmの平板状とした発熱体1において、長さ方向両端に幅10mmの端子による通電を行い、発熱体1全体の温度分布を赤外線サーモグラフィー(熱画像計測装置:(株)チノー社製 携帯用小形熱画像カメラ CPA−017)によって測定した温度分布写真を図28に示す。
図28に示すように、この発熱体1は、長さ方向両端から中心部分に向かって温度が高くなっていて、長さ方向両端は温度が低くなっている。したがって、この発熱体1によれば、端子を両端に接続して通電を行う製品として使用した場合に、端子の過加熱による通電不良やショート、更には、焼損を防止することができ、製品として長時間の安全な発熱を維持できる。
【0082】
また、本発明者らの実験研究によって、焼成温度を様々調節することで、発熱体1の抵抗値が変化することが判明している。これは、焼成温度によって焼結密度(焼成過程における粒子同士の密度)が変化するためと思われる。したがって、焼成温度を調節することによっても、発熱体1の抵抗値を制御することが可能である。
なお、その他、発熱体1は、その断面の大きさや長さ等の寸法形状によっても抵抗値が変化することから、その寸法形状を調節することによっても、発熱体1の抵抗値を制御することができる。
【0083】
更に、このように、本実施の形態1に係る発熱体1によれば、その抵抗値は緻密度、即ち、圧縮圧によって影響されることから、焼結原料混合物7を成形する際に、その緻密度分布を調節することにより、発熱体1において抵抗分布の制御が可能となる。即ち、部位によって異なる発熱温度の設定ができ、特定部位を特定温度に発熱させることが可能である。
【0084】
なお、焼結原料混合物7を成形する際、その緻密度分布を調節する方法としては、例えば、成形時の金型・枠型形状や押出成形等による成形形状の調節、成形時の原料充填量の調節、成形時の部分的な圧力調節、圧縮面に形成した複数多数個の突起等が挙げられる。
具体的には、例えば、プレス成形の際に凹凸を有する金型を使用して焼結原料混合物7をプレス成形することが挙げられる。これによって、意匠面に凹凸部が形成されて、係る凹部と凸部とで緻密度が異なる成型体8を得ることができる。そして、この凹部と凸部とで緻密度が異なる成型体8を焼成することによって得られる発熱体1は、凹部と凸部とで抵抗値が大きく異なり、通電による発熱温度が大きく異なったものとなる。
【0085】
また、プレス成形の際に曲線部を有する金型枠の形状を使用して、焼結原料混物7をプレス成形することによって、曲線部で緻密度が変化した成型体8を得ることができる。そして、この成型体8を焼成してなる発熱体1は、曲線部で抵抗値が大きく変化し、通電による発熱温度が部位によって大きく異なるものとなる。
【0086】
更に、プレス成形金型に焼結原料混合物7の充填率を変化させて充填しプレス成形することによって、また、焼結原料混合物7の厚みが部位によって変化するようにプレス成形することによって、充填量や厚みの差によって緻密度が変化することから、これを焼成してなる発熱体1も、部位によって抵抗値が大きく変化し、通電による発熱温度が部位によって大きく異なったものとなる。参考までに、中央部の厚み(T)が5.5mmで、長さ方向両端部の厚み(T)が4.5mmと厚みに差をつけた発熱体1(幅(W)45mm×長さ(L)130mm)の写真と、この発熱体1に30Vで45秒通電したときの赤外線サーモグラフィー(熱画像計測装置:(株)チノー社製 携帯用小形熱画像カメラ CPA−017)によって測定した温度分布の写真を図29に示す。図29に示されるように、厚みが大きい中央部付近で発熱温度が高くなっていて、厚みが小さい長さ方向両端部では、発熱温度が低くなっており、部位によって発熱温度の制御が可能である。
その他にも、成形時に部分的に圧力を変えて成形することによっても緻密度を変化させることができることから、発熱体1において、特定部位を特定温度に発熱させることが可能である。
【0087】
また、押出成形の場合には、複雑な立体形状の成型体8を容易に形成できることから、発熱体1の緻密度を部位によって変化させることが容易にできる。したがって、発熱体1において、部位によって抵抗値を異にする(変化させる)ことが容易にでき、特定部位を特定の温度に発熱させることが容易に可能である。
【0088】
次に、本実施の形態1に係る発熱体1の応用分野(使用用途)について説明する。
このように本実施の形態1に係る発熱体1は、通電性を有し、電気抵抗性が高く直接抵抗発熱特性を示すことから、抵抗発熱体として使用できる。
より具体的には、例えば、電気暖房発熱体、電熱器、電気温水器、加湿器等の各種発熱体(熱源)としての使用が可能である。殊に、本実施の形態1に係る発熱体1は、その全面から発熱することから、面状発熱体としての利用も可能である。勿論、電磁誘導加熱(IH)の調理器としての使用も可能である。
また、各種発熱体としての使用において、抵抗発熱体としての発熱体1は、上述の如く、熱伝導が低く、通電量によって発熱温度を一定に保つことができることから、低温から高温まで幅広い温度範囲で使用でき、温度制御も容易にできる。
【0089】
そして、抵抗加熱式であることに加え、上述の如く、体積の大きさに比較して通電による昇温速度や通電解除による降温速度が速いことから、従来の各種発熱体と比較して、熱効率がよく省電力化が可能であり、安全性も高い。殊に、電熱器等においては、発熱体1の直接抵抗発熱体としての使用により、従来の間接抵抗加熱式である電熱器等と比較して、熱効率が極めて高いものとなり、省電力化を図ることができる。また、従来の面状発熱体等が金属やセラミックにヒータ線を被覆したもの(シースヒータ)であって煩雑かつ高コストなうえに、低熱効率であるのに対し、直接抵抗発熱体としての発熱体1の使用においては、簡易的で熱効率が極めて高いものとなり、省電力化を図ることができる。そして、発熱体1の昇温速度や通電解除による降温速度が速いという特性は、特に、焼入れ焼鈍用や工業製品の加熱用発熱体として有望である。
【0090】
更に、本実施の形態1に係る発熱体1によれば、各原料は入手しやすく安価な材料であり、非酸化条件下等の高い製造コストがかかる特別な条件下で製造されるものでもなく、また、上述のように直接抵抗加熱のため、低コスト化が可能である。したがって、従来の各種発熱体と比較して、低コスト化を図ることができる。また、軽量で機械的強度が高いことから、小型化が可能である。
加えて、本発明者らの実験研究によれば、本実施の形態1に係る発熱体1は550℃を超えるまでは変色(赤熱)せず、抵抗値の経年変化が確認できない程度に少ないこと、また、濃塩酸に浸漬しても強度や電気的特性等の変化がないこと、更には、高温の発熱状態下で水滴を滴下しても断線しないこと等が確認されており、焼損しにくく、化学的にも安定であることから、上記電気材料としての具体的用途に特に好適に使用することができ、商品としての長寿命化も期待できる。
【0091】
また、本実施の形態1に係る発熱体1によれば、原料の粒度分布や寸法形状や配合量の調節、また、成形時の圧力調節等によって、更には、焼成温度の調節等によって、発熱体1の抵抗値の制御が可能となることから、抵抗発熱体として各用途に応じた発熱温度の制御が可能である。
更には、成形時の部分的な圧力調節や、成型時の金型形状等による成形形状の調節、成形時の充填量の調節等によって、発熱体1の抵抗分布の制御ができ、発熱による温度分布の制御設定が可能である。そして、この発熱による温度分布の制御が可能であることを利用し、例えば、発熱体1を焼き菓子等の食品加工用発熱体として使用することで、食品の所望の部位に焼き焦げを付けたりすることができる。
【0092】
なお、通電によって発熱した状態の発熱体1に水を掛けたり水を噴霧したりしたところ、この発熱体1から温熱の水蒸気が発生した。このことから、本実施の形態1に係る発熱体1は、例えば、加湿器、水蒸気発生装置等としての利用も可能である。また、例えば、電気暖房発熱体として使用される発熱体1において、一方面に送風しながら他方面に水を噴射することで、電気暖房発熱体としての発熱体1より温熱の水蒸気を発生させることができることから、過乾燥防止効果が期待できる電気暖房発熱体としての使用も考えられる。因みに、水掛け等による発熱体1からの微細な水蒸気の発生は、発熱体1が多孔質で通気性を有する(連通した気孔を有する)ことに起因すると思われる。また、この発熱体1が多孔質で通気性を有することを利用して、例えば、熱風発生器や乾燥装置やアルコール等の蒸留用発熱体としての使用も期待できる。
【0093】
更に、本発明者らの実験研究によれば、発熱体1は遠赤外線を発生していることが確認されていることから、発熱体1は遠赤外線による発熱体効果をも期待できる。
特に、遠赤外線を放射する遠赤外線放射材料としては、金属材料等も知られているが、化学的にも安定なセラミックス材料がある。また好ましくは、その中でも、遠赤外線の放射率が高いものがある。なお、「遠赤外線」についての明確な定義はなく、それの波長範囲はそれを扱う分野等においてまちまちであるが、ここでは、セラミックス分野において一般的であるように、3μm程度以上の波長を有する赤外線を「遠赤外線」という。
【0094】
そのようなセラミックス遠赤外線放射材料については、種々のものがその放射率及び放射特性と共に知られている。例えば、アルミナ(Al2O3)、ジルコニア(ZrO2)、チタニア(TiO2)、シリカ(SiO2)、ジルコン(ZrSiO4)、マグネシア(MgO)、イットリア(Y2O3)、コージライト(2MgO・2Al2O3・5SiO2)、βスポジューメン(Li2O・Al2O3・4SiO2)、ムライト(Al2O3・3SiO2)、チタン酸アルミニウム(Al2O3・TiO2)等であり、これらは、一般に白色を呈している。
【0095】
また、上記の白色系の他に、セラミックス遠赤外線放射材料としては、有色の全赤外域で放射率が高いセラミックス遠赤外線放射材料がある。そのような有色系のセラミックス材料としては、例えば、酸化銅(Cu2O,CuO)、酸化コバルト(CoO、Co3O4)、酸化ニッケル(NiO)、酸化マンガン(MnO2)、酸化鉄(Fe2O3)、酸化クロム(Cr2O3)、酸化錫(SnO2)等の遷移金属の酸化物、或いは、炭化ケイ素(SiC)、炭化ジルコニウム(ZrC)、炭化タンタル(TaC)等の炭化物等が挙げられ、これらの多くは、窯業用顔料としても一般に用いられているものである。また、これらは2種以上の組合わせで高効率の赤外線放射が得られ、例えば、MnO2−Fe2O3−CuO−CoO、或いはCoO−Fe2O3−Cr2O3−MnO2等の一体の焼成物は高効率赤外線放射体と呼ばれるものであり、黒色を呈し、「黒体」に近い赤外線の放射特性が得られる。
【0096】
加えて、ゼーベック効果の起電力が生じていることも確認されていることから、それを利用した熱感知センサー等への用途も期待できる。特に、厚み(T)5mm×幅(W)35mm×長さ(L)210mmの平板状とした発熱体1から、0.3V程度の電圧が検出されている。したがって、5本程度の発熱体1の検出電圧を加算する方向に接続すれば、発光ダイオードの点灯が容易になる。このことから、電力の供給を終了してから5本程度からなる発熱体1のその時の温度が高いか、低いかを表示させることができる。
なお、この特性は、負荷電力の供給には無関係である。
【0097】
このように、本実施の形態1に係る発熱体1は、金属アルミニウム粉2と、アルミニウム2の溶融点より低い温度では溶融しない炭素粉3と、アルミナ及びシリカ、アルミナとシリカとの複合酸化物、並びに、アルミニウムのケイ酸塩のうちの少なくとも1種を含有する無機酸化物材料の粉4と、有機化合物5と、水及び/またはバインダ6とが混合されてなる焼結原料混合物7を、圧力を加えて成形し、アルミニウム2の溶融点より高い温度で焼成してなるものであり、金属アルミニウム(Al)、金属シリコン(Si)、並びに、アルミナ(Al2O3)、シリカ(SiO2)、及び、アルミナとシリカとの複合酸化物またはアルミニウム酸化物とケイ素酸化物との複合酸化物を主成分とし、5%〜50%の範囲内の空隙を有する多孔質材料に形成してなるものである。
【0098】
したがって、本実施の形態1に係る発熱体1によれば、機械的強度が高く、また、通電により抵抗発熱するものとなる。
特に、圧力を加えて成形することによって、成型体8は強固で緻密な固形状態となることから、この状態で焼成することによって得られる本実施の形態1に係る発熱体1は、強度が極めて高いものとなる。
【0099】
また、本実施の形態1に係る発熱体1によれば、体積が大きい割には通電による昇温速度及び通電解除による降温速度が速くて、急激な温度変化による熱衝撃にも強く、急速加熱や急速冷却が可能である。更に、直接抵抗加熱であり、しかも多孔質であることから、熱効率を高めることが可能である。また、酸、アルカリ等の化学的にも強靭である。
【0100】
更には、製造過程における抵抗制御が容易である。即ち、原料の粒度分布や寸法形状や配合量を調節したり、また、成形時の圧力調節をしたりして発熱体1の緻密度を調節することによって、更には、焼成温度を調節して焼結密度を調節することによって、発熱体1の抵抗値を制御して通電による発熱温度を制御することが可能である。また、成型時の金型形状等による成形形状の調節、成形時の充填量の調節、成形時の部分的な圧力調節等で発熱体1の抵抗分布を調節することによって、発熱体1において部位によって異なる発熱温度の設定ができ、特定部位を特定の温度に発熱させることができる。
よって、抵抗発熱体としての使用に好適であり、特に、面で加熱する発熱体等の使途に適する。
このようにして、機械的強度が高く、かつ、通電発熱性を有し、抵抗発熱体として好適に使用可能な発熱体1となる。
【0101】
[実施の形態2]
【0102】
次に、本実施の形態2に係る発熱体について、図30を参照して説明する。
本実施の形態2に係る発熱体1は、図30のフローチャートに示すように、上述した実施の形態1とほぼ同様の製造工程を経て、得られるものである。異なるのは、金属粉を混合した点である。その他は、上記実施の形態1と同じであるから、その詳細な説明を省略する。
【0103】
即ち、本実施の形態2に係る発熱体1は、金属アルミニウム粉2、炭素粉3、無機酸化物材料の粉4、有機化合物粉5、金属粉9と、水及び/またはバインダ6とが混合されてなる焼結原料混合物7を、圧力を加えて成形し、アルミニウム2の溶融点より高い温度で焼成することによって得られるものである。
【0104】
このようにして得られる本実施の形態2に係る発熱体1も、機械的強度が高く、通電によって容易に発熱するが、金属粉9を添加してその配合量を調節することで容易に発熱体1の抵抗値を制御でき、発熱温度の制御が容易となる。
ここで、金属粉9としては、例えば、鉄粉や銅粉等が使用できるが、100%の純度のものでなく、無機物等の不純物が僅かに含まれたものや、リサイクルのものでも使用可能であり、更には、アルミニウム等の合金粉末等を使用することも可能である。因みに、金属粉9は、レーザ回折・散乱法によって測定した中位径が45μm〜150μmの範囲内であり、ふるい試験法によって測定した粒子径が200μm未満であるのが好ましい。小径粒子と大径粒子の取合せによって充填性が向上するからである。なお、より好ましくは、レーザ回折・散乱法によって測定した鉄粉の中位径が75μm〜100μmの範囲内であり、ふるい試験法によって測定した粒子径が150μm未満である。
【0105】
参考までに本実施の形態2に係る発熱体1の配合として、表3の上段の配合内容で、図30のフローチャートに従って実施例8及び実施例9に係る発熱体1を製造したときの抵抗値を表3の下段に示す。なお、表3に示される配合材料のうち鉄粉末9以外のものについては、上述の表1で使用した配合材料と同様のものを使用した。また、鉄粉末9としては、ヘガネスジャパン(株)製のASC100.29(Fe:99wt%)でふるい試験法による粒子径が150μm未満(100メッシュアンダー)のものを用いた。この鉄粉末9について日機装(株)のレーザ回折式粒度分布測定装置マイクロトラックで測定したところ中位径が75μmであった。
【0106】
【表3】
【0107】
鉄粉末9が混合されてなる本実施の形態2に係る発熱体1においては、鉄粉末9を混合しないときと比べて、抵抗値が高くて通電による発熱温度が高くなる傾向にあった。
そして、本実施の形態2においては、鉄粉末9の粒度分布や寸法形状や配合量を調節することによって、発熱体1の抵抗値を容易に制御できて、通電による発熱温度を容易に制御することができた。
【0108】
なお、上記実施の形態1及び実施の形態2においては、原料に木粉等の有機化化合物5を使用しているが、これは本発明に必須の配合成分ではない。しかし、木粉等の有機化化合物5が混合されている場合には、成形固化の強度を向上させることができ、発熱体1の強度を向上させることが可能である。また、有機化化合物5は焼成過程において焼失し空隙となることから、その配合量を調節することで、発熱体1における空隙率を容易に制御することができ、更には、発熱体1の抵抗値を容易に制御することが可能である。
【0109】
なお、本発明の実施の形態で挙げている数値は、その全てが臨界値を示すものではなく、ある数値は実施に好適な好適値を示すものであるから、上記数値を若干変更してもその実施を否定するものではない。
【符号の説明】
【0110】
1、10、20 発熱体
2 金属アルミニウム粉
3 炭素粉
4 無機酸化物材料の粉
7 焼結原料混合物
8 成型体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属アルミニウム(Al)、金属シリコン(Si)、アルミナ(Al2O3)、シリカ(SiO2)、並びに、アルミナとシリカとの複合酸化物またはアルミニウム酸化物とケイ素酸化物との複合酸化物を主成分とし、
5%〜50%の範囲内の空隙の多孔質材料に形成してなる発熱体。
【請求項2】
前記多孔質材料は、金属アルミニウム粉と、前記アルミニウムの溶融点より低い温度では溶融しない炭素粉と、アルミナ及びシリカ、アルミナとシリカとの複合酸化物、並びに、アルミニウムのケイ酸塩のうちの少なくとも1種を含有する無機酸化物材料の粉とが混合されてなる混合物を、前記アルミニウムの溶融点より高い温度で焼成することによって得ることを特徴とする請求項1に記載の発熱体。
【請求項3】
前記炭素粉は、黒鉛粉であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の発熱体。
【請求項4】
前記アルミナ及びシリカ、前記アルミナとシリカとの複合酸化物、並びにアルミニウムのケイ酸塩のうちの少なくとも1種を含有する無機酸化物材料として、粘土質鉱物を用いたことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1つに記載の発熱体。
【請求項5】
前記多孔質材料は、前記混合物を圧力を加えて所望形状に成形した後、焼成することによって得られたことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1つに記載の発熱体。
【請求項1】
金属アルミニウム(Al)、金属シリコン(Si)、アルミナ(Al2O3)、シリカ(SiO2)、並びに、アルミナとシリカとの複合酸化物またはアルミニウム酸化物とケイ素酸化物との複合酸化物を主成分とし、
5%〜50%の範囲内の空隙の多孔質材料に形成してなる発熱体。
【請求項2】
前記多孔質材料は、金属アルミニウム粉と、前記アルミニウムの溶融点より低い温度では溶融しない炭素粉と、アルミナ及びシリカ、アルミナとシリカとの複合酸化物、並びに、アルミニウムのケイ酸塩のうちの少なくとも1種を含有する無機酸化物材料の粉とが混合されてなる混合物を、前記アルミニウムの溶融点より高い温度で焼成することによって得ることを特徴とする請求項1に記載の発熱体。
【請求項3】
前記炭素粉は、黒鉛粉であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の発熱体。
【請求項4】
前記アルミナ及びシリカ、前記アルミナとシリカとの複合酸化物、並びにアルミニウムのケイ酸塩のうちの少なくとも1種を含有する無機酸化物材料として、粘土質鉱物を用いたことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1つに記載の発熱体。
【請求項5】
前記多孔質材料は、前記混合物を圧力を加えて所望形状に成形した後、焼成することによって得られたことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1つに記載の発熱体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図5】
【図7】
【図9】
【図11】
【図13】
【図15】
【図17】
【図19】
【図27】
【図30】
【図4】
【図6】
【図8】
【図10】
【図12】
【図14】
【図16】
【図18】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図28】
【図29】
【図2】
【図3】
【図5】
【図7】
【図9】
【図11】
【図13】
【図15】
【図17】
【図19】
【図27】
【図30】
【図4】
【図6】
【図8】
【図10】
【図12】
【図14】
【図16】
【図18】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図28】
【図29】
【公開番号】特開2013−4366(P2013−4366A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−135517(P2011−135517)
【出願日】平成23年6月17日(2011.6.17)
【出願人】(398012801)株式会社ネイブ (26)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月17日(2011.6.17)
【出願人】(398012801)株式会社ネイブ (26)
【Fターム(参考)】
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