説明

発熱具

【課題】使用者の動作に起因する位置ずれや剥がれが起こりにくい発熱具を提供する。
【解決手段】発熱具1は、空気との接触により発熱可能な被酸化性金属を含む発熱材料2を、通気性を有するシートを含む収容体3の収容部に収容してなる。収容部3から外方へ延出したシートの延出部分に、収容体3を使用者の肌に固定するための固定部7A,7B,7Cを形成する。これと共に長さ20〜40mmの複数のスリット8Aからなる伸長可能な部位を形成する。伸長可能な部位は、スリットの長手方向と同方向に延びる帯状に形成されている。その中央域に長さ20〜40mmのスリット8Aが形成されている。固定部は、連続に又は断続的に一方向へ延び且つその長さが5〜30cmであると共に、粘着力が0.5〜2N/15mmである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用者の肌に固定されて使用されるタイプの発熱具に関する。
【背景技術】
【0002】
使用者の肌に貼るタイプの使い捨てカイロを用いて、腰や背中の脊椎まわりを広く且つ簡便に温めたいという、腰や背中に対して深い悩みを持った人の要求がある。この種のタイプの使い捨てカイロにおいては、一般にカイロの表面にゴム系粘着剤、アクリル系粘着剤、シリコン系粘着剤などの、ホットメルト粘着剤等を用いて粘着剤層を形成し、該粘着剤層を介してカイロを使用者の肌や下着に取り付けている。例えば特許文献1には、温熱により治療を行うための皮膚貼付治療体が提案されている。
【0003】
しかし、身体の可動域、例えば膝や肘にカイロを取り付ける場合、使用者の身体の動きに起因して粘着剤が肌から剥がれやすくなり、カイロを適正な位置に保持固定しておくことが困難になる場合がある。そこで、上述の特許文献1に記載の皮膚貼付治療体においては、スリット状の切れ目部を設けることで、身体の動きに対する追従性を高める試みがなされている。しかし、上述の要求に応じるために、広い面積のカイロを背中や腰といった皮膚の伸び縮みの程度が大きな部位に取り付ける場合には、前記のスリット状の切れ目部を設けても、粘着剤の肌からの剥がれが著しくなる。ひとたび剥がれた粘着剤を貼り直すことは容易でないことから、使用中にわたって粘着剤の剥がれが起こらないようにすることが望ましい。この目的のために粘着剤の粘着力を強くすることも考えられるが、その場合には突っ張り感が強くなってしまう。
【0004】
【特許文献1】特開2004−121411号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、前述した従来技術が有する欠点を解消し得る発熱具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、空気との接触により発熱可能な被酸化性金属を含む発熱材料を、通気性を有するシートを含む収容体の収容部に収容してなり、
前記収容部から外方へ延出した前記シートの延出部分に、前記収容体を使用者の肌に固定するための固定部が形成されており、
前記固定部は、連続に又は断続的に一方向へ延び且つその長さが5〜30cmであると共に、粘着力が0.5〜2N/15mmである接着手段を有しており、
前記延出部分に、長さ20〜40mmの複数のスリットからなる伸長可能な部位を形成した発熱具を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の発熱具によれば、使用者の動作に起因して発熱具に伸びや捻れの力が加わっても、複数のスリットからなる伸長可能な部位がその力を吸収するので、発熱具の位置ずれや剥がれが起こりにくい。特にスリットの長さを特定の範囲にすることで、発熱具の剥がれが一層起こりづらくなる。従って本発明の発熱具は、これを大判タイプのものとなして背中や腰といった皮膚の伸び縮みの程度が大きな部位に取り付けたときにその効果が顕著なものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。本実施形態の発熱具は、所定温度に加熱された水蒸気の発生が可能なように構成されたものである。図1にはそのように構成された発熱具の平面図が示されている。図2は図1におけるIIa−IIa線断面図、IIb−IIb線断面図及びIIc−IIc線断面図である。図1及び図2に示す発熱具1は使用者の肌に固定されて使用されるものである。
【0009】
発熱具1は、平面視して、第1の方向(以下X方向という)に延びる一対の第1の縁部、及びそれと直交する方向である第2の方向(以下Y方向という)に延びる一対の第2の縁部とで画定される矩形をしている。第1の縁部と第2の縁部の長さは同じでもよく、或いは異なっていてもよい。発熱具1は扁平な形状をしている。発熱具1は、発熱材料2及び該発熱材料2を収容する収容体3を備えている。収容体3は扁平である。収容体3は、互いに同形である複数のシート材から構成されている。
【0010】
発熱具1は、収容体3の一辺が5〜30cm、例えば約17cmである大判タイプのものである。このような大判タイプの発熱具を使用者の肌に固定して使用する場合、身体の部位のうち、膝以外の屈曲する部位に発熱具1を固定するときには120〜140%の伸長性が必要になることが本発明者らの検討の結果判明した。また、発熱具を使用者の肌に固定するための固定手段である粘着剤の見かけの粘着力が1N/15mm程度の場合、発熱具における粘着剤間に位置する伸縮性の乏しい領域の長さが17cm以上であると、身体を屈曲することによって発熱具が剥がれてくることも本発明者らの検討の結果判明した。粘着剤の粘着力を強くすると、突っ張り感が生じてしまう。よって、発熱具の伸縮性が前記の値に満たない場合には、何らかの手段によって発熱具の伸長性を確保する必要がある。本発明者らが検討した結果、発熱具の所定位置にスリットを形成することで発熱具の伸長性を確保でき、一辺が5〜30cmの大判タイプの発熱具において以下の(1)−(3)の利点が生じることが判明した。
(1)人体の皮膚への固定機能。
(2)人体の動きへの追従性。
(3)スリットを発熱具の粘着部まで設け、粘着部で生じる水分(汗など)を蒸散させることに起因する固定機能の向上。
これら(1)−(3)の結果、(4)使用者の背中や腰の脊椎周りを広く温めたいという要求が満足される。以下、これらの利点について詳細に説明する。
【0011】
図2に示すように、収容体3においては、第1の透湿性シート3aと第2の透湿性シート3bとがX方向の両側部に位置する一対の第1接合部4Aにおいて互いに接合されている。またこれらのシート3a,3bは、Y方向の上下端部に位置する一対の第2接合部4Bにおいても互いに接合されている。これらの接合部4A,4Bによってシート3a,3bは、それらの周縁部において閉じた環状に接合されている。これに加え、これらのシート3a,3bは、Y方向の中央部において、X方向に延びる第3接合部4Cにおいても互いに接合されている。第3接合部4Cの両端はそれぞれ各第1接合部4Aと連結している。これらの接合部4A,4B,4Cによって、収容体3には2つの閉じた空間が形成される。この閉じた空間が発熱材料2の収容部5になっている。つまり発熱具1は発熱材料2を2個備えている。
【0012】
発熱具1の装着感を高める観点から、図2に示すように、第2の透湿性シート3bの外面には風合いの良好なシート材料である不織布3cが配されている。同様の観点から、第1の透湿シート3aの外面には不織布3dが配されている。第1の透湿シート3aと不織布3d、第2の透湿性シート3bと不織布3cは、接合部4A,4B,4Cでのみ接合されていても良いし、シート面内で部分的に接合されていても良い。
【0013】
第1の透湿性シート3a及び不織布3dは、発熱具1の使用時に、使用者の肌から遠い側に位置する第1の通気層10aとして作用するものである。一方、第2の透湿性シート3b及び不織布3cは、使用者の肌に近い側に位置する第2の通気層10bとして作用するものである。つまり、発熱具1は、両面通気性のものであり、第2の透湿性シート3b及び不織布3cの側が肌と対向するように使用者の身体に固定される。なお、本実施形態においては、第1の通気層10aは第1の透湿性シート3a及び不織布3dからなり、第2の通気層10bは第2の透湿性シート3b及び不織布3cからなるが、第1及び2の通気層10a,10bはそれぞれ透湿性シート3a,3bのみで構成されていてもよい。
【0014】
第1の透湿性シート3a及び不織布3d、並びに第2の透湿性シート3b及び不織布3cは、発熱具1のX方向において、収容部5から外方に延出しており、その延出部分が一対の第1フラップ部6Aを形成している。第1フラップ部6Aは、先に述べた第1接合部4Aによって形成されており、収容体3のY方向に延びている。なお、接合部4A、4B、4Cは、少なくとも3a、3d、3b、3cのうちの1つ以上の部材からなればよい。
【0015】
また、第1の透湿性シート3a及び不織布3d、並びに第2の透湿性シート3b及び不織布3bは、発熱具1のY方向において、収容部5から外方に延出しており、その延出部分が一対の第2フラップ部6Bを形成している。第2フラップ部6Bは、先に述べた第1接合部4Bによって形成されており、収容体3のX方向に延びている。
【0016】
前述の第1フラップ部6Aにおける、使用者の肌に近い側に位置する第2の通気層10bの表面を構成する不織布3cの面上には、発熱具1を使用者の肌に固定するための第1固定部7Aが設けられている。第1固定部7AはY方向に連続的に伸びている。同様に、第2フラップ部6Bにおける不織布3cの面上には、第2固定部7Bが2ヶ所設けられている。第2固定部7BはX方向に断続的に伸びている。更に、第3接合部4Cにおける不織布3cの面上には、第3固定部7Cが設けられている。第3固定部7CもX方向に断続的に伸びている。これらの固定部7A,7B,7Cは、何れも発熱材料2の収容部5よりも外方の位置に設けられている。換言すれば、これらの固定部7A,7B,7Cは、発熱具1の厚さ方向に関して、発熱材料2の直上に位置していない。固定部7A,7B,7Cは、その長さが5〜30cm、例えば約17cmになっている。
【0017】
このように、発熱具1においては、その四方の縁部のほとんどの部位が固定部になっており、しかもY方向の中央部においてX方向に延びる部位も固定部になっている。従って発熱具1を確実に使用者の肌に取り付けることが可能になり、またその剥がれも起こりづらくなる。
【0018】
ところで、上述のとおり発熱具1は大判タイプのものであり、それに形成されている固定部7A,7B,7Cもその長さが5〜30cmという長いものである。このような長さを有する固定部7A,7B,7Cを、使用者の身体の動きにかかわらず使用者の肌に固定するためには、固定部7A,7B,7Cに設けられている接着手段の粘着力を0.5〜2N/15mm、特に0.7〜1.5N/15mmに設定する必要のあることが本発明者らの検討の結果判明した。粘着力をこの範囲に設定することと、後述するスリットの形成によって、使用者に突っ張り感を与えることなく発熱具1を使用者の身体に首尾良く固定することが可能となる。固定部に施される粘着剤としては、当該技術分野において通常用いられているものと同様のものを用いることができる。例えば熱可塑性樹脂であるアクリル系樹脂や酢酸ビニル系樹脂などを用いることができる。これらの樹脂は非転着性であることが好ましい。これらの固定部7A,7B,7Cが粘着剤によって形成されている場合、発熱具1の使用前の状態においては、これらの固定部7A,7B,7Cは、表面が剥離処理された剥離シート(図示せず)によって保護されている。
【0019】
上述の粘着力は次のようにして測定される。測定の環境条件は20℃・40〜60%RHとする。被験者は健常な成人男性とする。被験者数は4人以上とする。被験者の前腕内側部は石鹸で十分に洗浄しておく。発熱具から粘着部を幅15mm×長さ20mm+長さ5mm(摘みしろ)の矩形の形状に切り出す。切り出された粘着部を、被験者の前腕内側部における肘と手首の中間点に貼り付ける。このとき、粘着部の長辺方向が、肘と手首を結ぶ方向と直交するように粘着部を貼り付ける。貼り付けは、15mm×20mmの範囲を1kgf/300mm2(デジタルフォースゲージ)で10秒間圧迫することで行う。粘着部の貼り付け後、1分放置する。1分経過後、プッシュプルゲージを粘着部の摘みしろに取り付ける。プッシュプルゲージを、約300mm/minで一定に移動させ180度剥離を行う。プッシュプルゲージで測定された最大値を測定値とする。測定値を被験者の数で平均し、その平均値をもって粘着力の値とする。
【0020】
第1固定部7Aが第1フラップ部6Aに設けられていることは上述の通りであるところ、第1フラップ部6Aは伸長可能な部位になっている。第1フラップ部6Aは、該第1フラップ部6Aの長手方向であるY方向と直交する方向、即ちX方向に伸長可能になっている。第1フラップ部6Aにおいては、該第1フラップ部6Aが伸長可能な部位は、第1固定部7Aの位置と一致している。換言すれば、第1フラップ部6Aにおいては、第1固定部7Aに伸長可能な部位が形成されている。
【0021】
また、第3固定部7Cが第3接合部4Cに設けられていることは上述の通りであるところ、第3接合部4Cも、上述の第1フラップ部6Aと同様に伸長可能な部位になっている。第3接合部4Cは、該第3接合部4Cの長手方向であるX方向と直交する方向、即ちY方向に伸長可能になっている。第3接合部4Cにおいては、該第3接合部4Cが伸長可能な部位は、第3固定部7Cの位置と一致している。換言すれば、第3接合部4Cにおいては、第3固定部7Cに伸長可能な部位が形成されている。
【0022】
本実施形態においては、第1フラップ部6A及び第3接合部4Cを伸長可能にする具体的な手段として、これらの部位に複数のスリットを形成している。詳細には次の通りである。
【0023】
まず第3接合部4Cについて説明すると、所定幅の帯状をなしている第3接合部4Cには、その長手方向であるX方向に複数のスリットが形成されている。これによって第3接合部4Cはその全域が伸長可能な部位になっている。第3接合部4Cは帯状に形成されているから、該伸長可能な部位も帯状に形成されていることになる。また、第3接合部4CはY方向の中央部においてX方向に向けて形成されているから、該伸長可能な部位は収容体3における略中央線に沿って位置していることになる。この帯状の伸長可能な部位は、スリットの長手方向と同じ方向に延びている。図3(a)には第3接合部4Cに形成されたスリットが開口して、第3接合部4CがY方向に伸長した状態が示されている。
【0024】
帯状の伸長可能な部位である第3接合部4Cにおいては、その中央域に形成されているスリット8Aと、中央域に隣接する左右の側部域に形成されているスリット8Bとではその長さが異なっている。具体的には、中央域に形成されているスリット8Aはその長さが20〜40mmに設定され、好ましくは25〜35mmに設定されている。本発明者らの検討の結果、スリット8Aを設けることによって形成される伸長可能な部位は、該スリット8Aの長さを前記の範囲内に設定することによって十分に伸長することが判明した。スリット8Aの長さが20mm未満では第3接合部4Cを十分に伸長させることができず、その結果、発熱具1が装着された使用者の動作に起因して該発熱具1が剥がれてしまう。伸長性を高める点からは、スリット8Aの長さは長いほど好ましいが、余りに長すぎると、発熱具1の装着時や、貼り直し時における取り扱い性が低下したり、外観の印象が低下したりする。これらを考慮してスリット8Aの長さの上限は40mmとする。
【0025】
複数のスリット8Aは第3接合部4Cの中央域において、一定間隔をおいて一列に配置されたスリット列が多列に配列されるように形成されている。スリット列の列数は、第3接合部4Cの幅(即ちY方向の長さ)にもよるが、2〜10列、特に3〜7列、であることが好ましい。スリット列の列間距離は、短いほど伸長性の向上に寄与するが、列間距離を余りに短くすることはスリット形成上容易でない。これらの観点から、列間距離は2〜10mm、特に3〜7mmであることが好ましい。スリット列における隣り合うスリット間の距離は、2〜10mm、特に3〜7mmであることが好ましい。各スリット列は、隣り合うスリット列間においてスリットが互い違いに配置されるように配列されていることが好ましい。例えば隣り合うスリット列間においてスリットが半ピッチずつずれるように配列されていることが好ましい。
【0026】
第3接合部4Cにおいては、そこに形成されている第3固定部7C、つまり粘着剤が施されている部位が伸長可能な部位になっている。粘着剤から構成されている固定部にスリットを設け、そこを伸長可能にすると、粘着剤による固定力が低下すると考えられるが、本発明者らの検討の結果、意外にも、粘着剤から構成される固定部に形成されるスリットの長さを前記の範囲内に設定することによって、粘着剤による固定力を損なうことなく、固定部を伸長可能にできることが判明した。このことから明らかなように、20〜40mmの長さのスリット8Aは、これを粘着剤からなる固定部に形成する場合に特に有利である。
【0027】
なお第3接合部4Cの中央域に形成される複数のスリット8Aは、それらの長さがすべて前記の範囲内に設定されていることを要せず、中央域に形成されているスリット8Aのうち、半分以上のものの長さが前記の範囲内に設定されていれば、所望とする効果が十分に奏される。
【0028】
第3接合部4Cの伸長性を高める観点からは、第3接合部4Cは長手方向の全域にわたって前記の長さのスリットが形成されることが望ましい。しかし、その場合には第3接合部4CのY方向における伸長の程度が甚だしくなり、例えば使用者の身体に一旦装着した発熱具を剥がして再び装着する場合の取り扱い性が悪くなることがある。そこで、中央域に隣接する左右の側部域においては、中央域に形成されたスリット8Aよりも長さの短いスリット8Bを形成して、第3接合部4Cの過度の伸長を防止することが好ましい。この観点から、側部域に形成されるスリット8Bの長さは、スリット8Aよりも短いことを条件として、5〜20mm、特に8〜15mmであることが好ましい。側部域に形成されたスリット8Bから構成されるスリット列の数やスリット列の列間距離、スリット列における隣り合うスリット間の距離は、中央域に形成されたスリット8Aと同様とすることができる。
【0029】
帯状の伸長可能な部位である第3接合部4Cは、その長手方向(図1中ではX方向)の各端部が、収容体3におけるY方向に延びる縁部までそれぞれ到達している。そして、該縁部における該伸長可能な部位が到達した位置には、略く字状のノッチ9が形成されている。ノッチ9は、Y方向に延びる一対の縁部のそれぞれに形成されている。各縁部には2つのノッチ9が形成されている。従って収容体3には合計で4つのノッチ9が形成されている。各縁部に形成された2つのノッチ9の間隔は、帯状の伸長可能な部位の幅、即ち第3接合部4Cの幅(=Y方向の長さ)とほぼ一致している。ノッチ9を形成することで、発熱具1の肌からの剥がれを一層効果的に防止することができる。
【0030】
第3接合部4Cと同様にスリットが形成されている第1フラップ部6Aは、第3接合部4Cの延びる方向と交差する方向、具体的には図1中、Y方向に延びている。第1フラップ部6Aに形成されているスリット8Cは、その長手方向が、第1フラップ部6Aの延びる方向と一致している。但し、スリット8Cは、第1フラップ部6AにおけるY方向の中央部には形成されていない。この部分には、X方向に延びるスリット8Bが形成されている。従って、第1フラップ部6Aには、Y方向の中央部を除き、X方向に伸長可能な帯状の伸長可能な部位が形成されている。図3(b)には第1フラップ部6Aに形成されたスリット8Cが開口して、第1フラップ部6Aが伸長した状態が示されている。第1フラップ部6Aは収容体3における相対向する縁部に位置しているから、第1フラップ部6Aに形成されている帯状の伸長可能な部位も、収容体3における相対向する縁部に位置することになる。
【0031】
第1フラップ部6Aに形成されているスリット8Cは、その長さが上述の通り20〜40mm、特に25〜35mmであることが好ましい。また、スリット列の数やスリット列の列間距離、スリット列における隣り合うスリット間の距離は、先に述べた第3接合部4Cに形成されたスリットと同様とすることができる。
【0032】
このように発熱具1には、(イ)Y方向の中央部においてX方向に延び且つY方向に伸長可能な第1の帯状の部位と、(ロ)X方向の左右両縁部においてY方向に延び勝つX方向に伸長可能な第2の帯状の部位とが形成されている。第1の帯状の部位の伸長方向と第2の帯状の部位の伸長方向とは互いに直交している。従って発熱具1は、X方向が使用者の身長方向と一致するように使用者に貼り付けられてもよく、或いはY方向が使用者の身長方向と一致するように使用者に貼り付けられてもよい。つまり、発熱具1には、その貼り付けに方向性がないという利点がある。その上、どのような方向に貼り付けた場合であっても、使用者の動作に起因して発熱具1に加わる伸びの力が、第1の帯状の部位及び/又は第2の帯状の部位によって吸収されるので、発熱具1の肌からの剥がれが効果的に防止される。
【0033】
図4には発熱具1を使用者の腰部に貼り付けた状態が示されている。この場合、発熱具1のY方向が、使用者の身長方向と一致するように発熱具1が貼り付けられている。腰部は、使用者の動作によって伸び縮みの程度が大きな部位であるが、本実施形態の発熱具1が以上の通りの構成を有していることによって、肌からの剥がれが起こりづらくなる。
【0034】
本実施形態の発熱具1は、収容体3内に収容された発熱シート2に含まれている被酸化性金属の酸化によって発生した熱によって、該発熱シート2に含まれている水分が加熱されて水蒸気となり、収容体3を通じて外部へ放出可能になされている。以下の説明においては、水蒸気を伴う熱を蒸気温熱という。既に説明した通り、本実施形態の発熱具1は、肌に近い側の面及び肌から遠い側の面の両方から空気が流入する両面通気性のものである。このような構成の発熱具1は、発熱温度にゆらぎが生じるものとなる。その結果、蒸気温熱に対して身体が馴化しづらく、長時間にわたり温感を使用者に実感させることができる。この理由は次の通りである。
【0035】
本実施形態の発熱具1を身体に取り付けた状態で使用者が動作をすると、発熱具1と身体との間の隙間が変化する。特に身体の可動域、例えば膝部、肘部、肩部等に発熱具1を取り付けた場合に、隙間の変化が大きくなる。発熱具1は両面通気性のものなので、発熱具1と身体との間の隙間が変化するとその変化に応じて第2の透湿性シート3b側、即ち肌に近い側に位置する面側から発熱具1へ流入する空気の量が変化する。その結果、発熱具1の発熱温度が変化してゆらぎが生じる。この場合、発熱具1が身体に密着してしまうと、肌に近い側に位置する面側からの空気の流入が遮断されて発熱反応が低下ないし停止して発熱温度が低下してしまう懸念がある。しかし本実施形態の発熱具1は、先に述べた通り両面通気性なので、肌から遠い側に位置する面側からの空気の流入が常に確保されているので、発熱温度の低下の懸念はない。
【0036】
特筆すべきは、本実施形態の発熱具1は、発熱温度にゆらぎを生じさせた上で、その平均発熱温度が、片面通気性である従来の発熱具の平均発熱温度と同程度になることである。これによって、必要十分な発熱温度を確保した上で、蒸気温熱による温感を持続させることができる。この目的のために、本実施形態の発熱具1においては、第1の通気層10aの透湿度をA(g/(m2・24hr))、第2の通気層10bの透湿度をB(g/(m2・24hr))としたとき、A及びBが以下の(1)〜(3)の式を満たすように各透湿性シート3a,3bが選択されることが好ましい。なお以下の説明において、シートの通気性を表す尺度として透湿度を用い、また透湿度というときには、JIS Z0208に従い測定されたものを意味する。
【0037】
(1)A+(1/3)B=200〜500g/(m2・24hr)
(2)A+B=200〜700g/(m2・24hr)
(3)B=100〜450g/(m2・24hr)
【0038】
式(1)は、発熱具1の平均温度に関するものである。発熱具1は両面通気性なので、発熱具1全体の通気性は、第1の通気層10aの透湿度と、第2の通気層10bの透湿度の和となる。しかし、肌に近い側に位置する第2の透湿性シート3bは、その一部が使用者の身体に接していて、そのすべての部分から空気が流入しづらい。そこで本実施形態においては、第2の通気層10bを通じて空気が流入する面積、即ち、空気の流入に寄与する面積は、発熱具1の使用時間にわたり平均して第2の通気層10bの全体の面積の1/3であると考え、第2の通気層10bの透湿度Bに係数1/3を乗じてある。式(1)の下限値を200g/(m2・24hr)とすることで、使用者に温感を実感させるに足る発熱温度を得ることができる。また式(1)の上限値を500g/(m2・24hr)とすることで、発熱具1への空気の流入が甚だしくなることが防止され、発熱温度の過度の上昇が防止される。皮膚平均温度を39〜42℃、発熱具の平均温度を40〜45℃に制御するには、式(1)の値は200〜500g/(m2・24hr)、特に200〜350g/(m2・24hr)であることが好ましい。
【0039】
式(2)は、発熱具1の最高温度に関するものである。式(1)に関して説明した通り、肌に近い側に位置する第2の通気層10bにおける空気流入についての平均寄与面積は1/3であるが、発熱具1の使用時間中に第1及び第2の通気層10a,10bの両面全体から空気が流入する場合がある。そのような場合には、発熱具1の平均温度を前記の式(1)でコントロールしても、突発的に温度が上昇してしまうことがある。突発的な温度上昇を防止する観点から、式(2)においては、発熱具1全体の透湿度、即ち第1の通気層10aの透湿度と、第2の通気層10bの透湿度の和によって、発熱具1の最高温度をコントロールしている。式(2)の上限値を700g/(m2・24hr)とすることで、突発的な温度上昇を防止することができる。また式(2)の下限値を200g/(m2・24hr)とすることで、使用者に温感を実感させるに足る発熱温度を得ることができる。突発的な発熱具の温度を50℃以下にするためには、式(2)の値は200〜700g/(m2・24hr)、特に200〜500g/(m2・24hr)であることが好ましい。
【0040】
式(3)は、先に説明した式(1)及び(2)と異なり、肌に近い側に位置する第2の通気層10bの透湿度のみ規定している。この理由は、式(3)が発熱具1の温度のゆらぎに関するものだからである。本実施形態の発熱具1においては、先に説明した通り、肌から遠い側に位置する第1の通気層10aによって空気の十分な流入を確保しつつ、肌に近い側に位置する第2の通気層10bを通じて流入する空気の量の変化を利用して発熱温度にゆらぎを生じさせている。従って、第2の通気層10bの透湿度を適切にコントロールすることで、発熱温度のゆらぎの幅を調整できる。式(3)の下限値を100g/(m2・24hr)とすることで、発熱温度のゆらぎの幅が過度に小さくならないので、使用者に蒸気温熱による温感の持続を実感させることができる。式(3)の上限値を450g/(m2・24hr)とすることで、ゆらぎの幅が過度に大きくなることが防止されるので、突発的な温度上昇を防止することができる。式(3)の値は100〜450g/(m2・24hr)、特に250〜400g/(m2・24hr)であることが好ましい。
【0041】
第1の通気層10aの透湿度そのものの値については特に制限はないが、前記の式(1)〜(3)との関係で100〜400g/(m2・24hr)、特に150〜300g/(m2・24hr)であることが好ましい。また、第1の透湿性シート3aと第2の透湿性シート3bとの透湿度に大小関係はなく、どちらが大きくてもよい。或いは両者の透湿度が同じであってもよい。
【0042】
なお、本実施形態においては、肌に近い側の面及び肌から遠い側の面の何れも、その面の全域が通気性を有しているが、発熱温度の制御等の理由により、当該面の一部に通気性を有していない領域を形成することがある。例えば、発熱具の一面が、透湿度x(g/(m2・24hr))の通気層から構成されていて、且つ該透湿性シートの面積のうちのy(%)を難透湿性シートで目張りして、通気性を有していない領域を形成する場合がある。その場合、当該面の透湿度はx×(100−y)/100となる。
【0043】
また本実施形態においては、第1の通気層10aは、第1の透湿性シート3a及び不織布3dからなり、不織布3cは第1の透湿性シート3aに比較して透湿度が十分に大きいから、第1の通気層10aの透湿度は、第1の透湿性シート3aの透湿度と実質的に同じになる。同様に、第2の通気層10bの透湿度は、第2の透湿性シート3bの透湿度と実質的に同じになる。
【0044】
透湿性シート3a,3bとしては、水蒸気及び空気は透過させるが水は透過させにくいフィルムが用いられる。透湿性シートとしては、炭酸カルシウムを練り込み延伸して作る微細孔型、繊維を漉くことによる抄紙型等が挙げられる。緻密性、内容物の漏れ防止性、温度制御等の理由により、微細孔型が主に用いられる。微細孔型の透湿性シートとしては、例えば微細孔を有するポリオレフィン系フィルムなどが挙げられる。
【0045】
収容体3に収容される発熱材料としては、発熱シートを用いることができる。或いは発熱粉体を用いることもできる。発熱シートは、被酸化性金属を含み、更に反応促進剤、繊維状物、電解質及び水を含んでいる。発熱粉体は、被酸化性金属を含み、更に反応促進剤、保水剤、電解質及び水を含んでいる。発熱具1と使用者の身体との間の隙間を確実に形成する観点からは発熱シートを用いることが好ましい。
【0046】
好ましい発熱シートは、60〜90重量%の被酸化性金属、5〜25重量%の反応促進剤及び5〜35重量%の繊維状物を含む成形シートに、該成形シート100重量部に対して、1〜15重量%の電解質を含む電解質水溶液が30〜80重量部含有されて構成されている。このような発熱シートの好ましい製造方法としては、例えば本出願人の先の出願に係る特開2003−102761号公報に記載の湿式抄造法が挙げられる。一方、好ましい発熱粉体は、30〜80重量%の被酸化性金属、1〜25重量%の反応促進剤、3〜25重量%の保水剤、0.3〜12重量%の電解質、20〜60重量%の水から構成されている。発熱シートや発熱粉体を構成する各種材料としては、当該技術分野において通常用いられているものと同様のものを用いることができる。また、前記の特開2003−102761号公報に記載の材料を用いることもできる。
【0047】
発熱材料は、収容部5の各接合部4A,4B,4Cで閉じられた面積に対し、0.05〜0.4g/cm2の充填割合で充填されていることが好ましい。発熱材料の充填割合がこの範囲内であれば、発熱材料の厚みが過度に薄くならず、放熱を抑制でき所望の温度を得ることができる。また、この範囲内であれば、蓄熱量が過度に大きくならず、ゆらぎにより上昇した温度を人体に速やか拡散することができ、火傷等が起こることを防止し得る。所望の温度を維持し、ゆらぎにより上昇した温度を速やかに人体に拡散するためには、充填割合は、特に0.07〜0.3g/cm2、特に0.1〜0.2g/cm2であることが好ましい。
【0048】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば前記実施形態においては、固定部の位置にスリットが形成されて該固定部が伸長可能になっていたが、これに代えて、スリットの形成により伸長可能になっている部位を、固定部とは別に設けてもよい。この場合には、対向する2つの固定部の間に、少なくとも一つの伸長可能な部位が位置するように、該部位を設ける。
【0049】
また前記実施形態の発熱具1はその輪郭が矩形状のものであったが、形状はこれに限られず種々の形状をとり得る。矩形以外の形状である場合、発熱具の一辺とは、該発熱具のうち最も長い部分の長さをいう。また前記実施形態の発熱具1は、発熱材料2を2個備えたものであったが、発熱材料の数はこれに限られない。
【0050】
また前記実施形態の発熱具1は、その収容体3の両面が通気性の素材から構成されていたが、これに代えて、使用者の肌に近い側の面のみを通気性となしてもよく、或いは逆に使用者の肌から遠い側の面のみを通気性となしてもよい。
【0051】
更に前記実施形態の発熱具1は、発熱シート2からなる発熱材料から発生し水蒸気を使用者の肌に適用するものであったが、これに代えて発熱具を、水蒸気は実質的に発生せず、熱のみが発生するタイプの形態となしてもよい。
【0052】
また前記実施形態においては、固定部7A,7B,7Cはその長さが何れも5〜30cmの範囲のものであったが、これらのうちの少なくとも一つの長さが5〜30cmの範囲であればよく、すべての固定部の長さがこの範囲を満たすことは要しない。
【0053】
また前記実施形態においては、固定部7A,7B,7Cはその粘着力が何れも0.5〜2N/15mmの範囲であったが、これらのうちの少なくとも一つの粘着力が0.5〜2N/15mmの範囲であればよく、すべての固定部の粘着力がこの範囲を満たすことは要しない。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の発熱具の一実施形態を示す平面図である。
【図2】図1におけるIIa−IIa線断面図、IIb−IIb線断面図及びIIc−IIc線断面図である。
【図3】図1に示す発熱具が伸長した状態を示す図である。
【図4】図1に示す発熱具の使用形態の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0055】
1 発熱具
2 発熱材料
3 収容体
3a 第1の透湿性シート
3b 第2の透湿性シート
4A 第1接合部
4B 第2接合部
4C 第3接合部
5 収容部
6A 第1フラップ部
6B 第2フラップ部
7A 第1固定部
7B 第2固定部
7C 第3固定部
8A,8B,8C スリット
10a 第1の通気層
10b 第2の通気層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気との接触により発熱可能な被酸化性金属を含む発熱材料を、通気性を有するシートを含む収容体の収容部に収容してなり、
前記収容部から外方へ延出した前記シートの延出部分に、前記収容体を使用者の肌に固定するための固定部が形成されており、
前記固定部は、連続に又は断続的に一方向へ延び且つその長さが5〜30cmであると共に、粘着力が0.5〜2N/15mmである接着手段を有しており、
前記延出部分に、長さ20〜40mmの複数のスリットからなる伸長可能な部位を形成した発熱具。
【請求項2】
前記伸長可能な部位が、スリットの長手方向と同方向に延びる帯状に形成されており、
帯状に形成された前記伸長可能な部位のうち、中央域に長さ20〜40mmの前記スリットが形成されており、
前記中央域に隣接する側部域に、該中央域に形成された前記スリットよりも長さの短いスリットが複数形成されている請求項1記載の発熱具。
【請求項3】
帯状に形成された前記伸長可能な部位が、前記収容体における略中央線に沿って位置している請求項2記載の発熱具。
【請求項4】
帯状に形成された前記伸長可能な部位の各端部が、前記収容体における縁部までそれぞれ到達しており、
該縁部における該伸長可能な部位が到達した位置に、略く字状のノッチが形成されている請求項3記載の発熱具。
【請求項5】
帯状に形成された前記伸長可能な部位と交差する方向に延び且つ複数のスリットからなる第2の伸長可能な部位が前記収容体に更に形成されており、
前記第2の伸長可能な部位は、前記収容体における相対向する縁部にそれぞれ形成されている請求項3又は4記載の発熱具。
【請求項6】
前記発熱材料が、被酸化性金属、反応促進剤及び繊維状物を含有し、抄造により形成された発熱シートからなる請求項1ないし5の何れかに記載の発熱具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−48991(P2008−48991A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−229857(P2006−229857)
【出願日】平成18年8月25日(2006.8.25)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】