説明

発熱印字体

【課題】箔押しや熱転写等する際に用いられ、通電すると発熱して印字を行う発熱印字体を提供する。
【解決手段】印字部1、支持ベース部2、電極部3からなる発熱印字体であって、前記印字部1は刻印部4と周辺部5からなり、この刻印部4の断面積が周辺部5の断面積よりも小さくした構造とする。なお、刻印部4の厚みを周辺部5の厚みよりも薄くして、刻印部4の断面積を周辺部5の断面積よりも小さくすることができる。更に、刻印部4の幅を周辺部5の幅よりも狭くして、刻印部4の断面積を周辺部5の断面積よりも小さくすることもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、箔押しや熱転写等する際に用いられ、通電すると発熱して印字を行う発熱印字体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、金属、ガラス、セラミックス等からなる各種の部品や商品に箔押しや熱転写等するのに、通電すると発熱して印字を行う発熱印字体を用いることが知られている。また本件出願人も、特許文献1に示すように、軟質材、硬質材を問わず鮮明な印影を得ることができる発熱印字体を開発し、先に出願している。
【0003】
特許文献1に示す発熱印字体は、印字部、支持ベース部、電極部からなるものであり、電極部へ通電することで印字部を発熱させ、箔押しや熱転写等するという基本的なものである。しかしながら、従来の発熱印字体では、印字部の発熱効率についてはほとんど考慮されていないものであり、また、印字部は印影のデザインのみが重要視される傾向があって、面積的には刻印部がその周辺部の面積に比べて大きくなっているのが普通であった。
この結果、刻印部の発熱効率が劣り、使用電力が大きくなるという問題点や、鮮明な印影を得るには長時間通電する必要があり作業性に劣るという問題点があった。
【特許文献1】特許第3521990号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記のような問題点を解決して、印字部の発熱効率を向上させることにより消費電力を小さくすることができるうえに、鮮明な印影を得ることができ、また面積的に印影のデザイン等の制限を受けることを極力抑えることができる発熱印字体を提供することを目的として完成されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するためになされた本発明の発熱印字体は、印字部、支持ベース部、電極部からなる発熱印字体であって、前記印字部は刻印部と周辺部からなり、この刻印部の断面積が周辺部の断面積よりも小さくしてあることを特徴とするものである。
【0006】
また、刻印部の厚みを周辺部の厚みよりも薄くして、刻印部の断面積を周辺部の断面積よりも小さくしたものを請求項2に係る発明とし、更に、刻印部の幅を周辺部の幅よりも狭くして、刻印部の断面積を周辺部の断面積よりも小さくしたものを請求項3に係る発明とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、印字部、支持ベース部、電極部からなる発熱印字体であって、前記印字部は刻印部と周辺部からなり、この刻印部の断面積が周辺部の断面積よりも小さくしてあるので、刻印部の抵抗値が大きくなり、この結果、発熱効率が向上し、短時間で鮮明な印影を得ることができることとなる。
【0008】
また、請求項2に係る発明では、刻印部の厚みを周辺部の厚みよりも薄くして、刻印部の断面積を周辺部の断面積よりも小さくしたので、平面的には刻印部の面積は小さくならないので、印影デザインのスペース的な制約を受けることがない。
【0009】
更に、請求項3に係る発明では、刻印部の幅を周辺部の幅よりも狭くして、刻印部の断面積を周辺部の断面積よりも小さくしたので、印字部の厚みを同一にすることができ、成形が容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、図面を参照しつつ本発明の好ましい実施の形態を示す。
図1は、本発明に係る発熱印字体の一例を示す斜視図、図2はその断面図であり、図において、1は印字部、2は支持ベース部、3は電極部である。また、前記印字部1は、刻印部4と周辺部5から構成されており、以上の構成は従来の発熱印字体と基本的に同じである。
【0011】
そして本発明では、前記印字部1は刻印部4と周辺部5からなり、この刻印部4の断面積が周辺部5の断面積よりも小さくしてある点に特徴を有する。
これは本発明者が、より小さな消費電力で、より鮮明な印影を得ることを目的として研究した結果、従来の発熱印字体1では、印字部の発熱効率についてはほとんど考慮されておらず、また印字部1は印影のデザインのみが重要視される傾向があって、面積的には刻印部4がその周辺部5の面積に比べて大きくなっている場合が大半であることが判明した。そこで本発明者は、刻印部4における発熱効率を向上させる研究をした結果、刻印部4の断面積を周辺部5の断面積よりも小さくすることで抵抗値を上げてやれば、簡単な構造で容易に発熱効率を向上させることができ、この結果、使用電力を小さくし、かつ鮮明な印影も得られるとの知見を得、本発明を完成するに至った。
【0012】
刻印部4の抵抗値を上げるには、図2に示すように、刻印部4の厚み(d1)を周辺部5の厚み(d2)よりも薄くして、刻印部4の断面積を周辺部5の断面積よりも小さくすればよい。
このような刻印部の成形は、文字金型で製作する場合は、キャビティの設計で任意の厚み寸法に調整すればよい。また、レーザで彫刻する場合は、前記文字金型をベタ印にして厚みを調整後、レーザで模様等を彫刻すればよい。
なお、刻印部4の断面積は、周辺部5の断面積に対して10〜50%の範囲となるように調整することが好ましい。また、成形性を勘案すると、30〜50%の範囲となるように調整することが、より好ましい。
【0013】
また、図3に示すように、刻印部4の幅(w1)を周辺部5の幅(w2)よりも狭くして、刻印部4の断面積を周辺部5の断面積よりも小さくしてもよい。
このような刻印部の成形は、文字金型で製作する場合は、キャビティの設計で任意の幅寸法に調整するか、あるいは、従来の文字金型で同一幅の印字体を製作した後に、裁断加工により任意の幅寸法に調整すればよい。
なお、図2に示すような、刻印部4の厚み(d1)を周辺部5の厚み(d2)よりも薄くして、刻印部4の断面積を周辺部5の断面積よりも小さくする技術と組み合わせれば、より大きな効果が得られることは勿論である。
【0014】
以下に、印字部1、支持ベース部2、電極部3について説明する。
本発明で使用する印字部は、カーボン含有シリコーンゴムに文字等を形成して作成される。カーボン含有シリコーンゴムとは、生シリコーンゴム、カーボン、架橋剤を混合し均一に分散させた混合物を、一定の圧力下で加熱して架橋させたものである。ここで使用できる生シリコーンは特に限定されないが、東芝シリコーン(株)社製TSE221−5U・TSE221−6U・TSE2122−6U・TSE270−6U・TSE260−5U・TSE261−5U・TSE2323−5U等や、信越化学工業(株)社製KE941−U・KE951−U・KE9611−U・KE765−U・KE540−U・KE552−U等や、東レダウコーニングシリコーン(株)社製SH745U・SH35U・SH52U・SH841U・SE1120U・SE1602U・SE4706U等を例示することができる。カーボンは粒径0.01〜0.3μmのものが好ましく用いられ、前記混合物中20〜60重量%の割合で配合される。なお、生シリコーンゴムにカーボンを分散させたシリコーンゴムとして市販されている、東芝シリコーン(株)社製YE3452UB・TCM5406U・TCM5407U・TCM5417U等や、信越化学工業(株)社製KE3603−U・KE3601SB−U・KE3611−U・KE3711−U・KE3801M−U等や、東レダウコーニングシリコーン(株)社製SE6758U・SE6765U・SE6770U・SRX539UT・DY38−008等を用いてもよい。架橋剤は、公知のパーオキサイドが使用でき、例えばベンゾイルパーオキサイド、2,4ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジターシャリーブチルパーオキサイド、2,5ジメチル2,5ジターシャリーブチルパーオキシヘキサン、パラクロロベンゾイルパーオキサイド、ターシャリーブチルクミルパーオキサイド、ターシャリーブチルパーベンゾエートなどを用いることができ、前記混合物中1〜5重量%の割合で配合できる。
また、前記カーボンとして、カーボンナノチューブを配合することもできる。カーボンナノチューブは、チューブ径0.4〜90nmのものが好ましく用いられ、具体的には、チューブ径0.4〜90nm・チューブ長1〜100μm・チューブ層5〜50の多層カーボンナノチューブ(MWNT)、又は、チューブ径0.4〜90nm・チューブ長0.01〜100μmの単層カーボンナノチューブ(SWNT)を用いることができる。当該カーボンナノチューブは、前記未架橋シリコーンゴム100重量部に対して、20〜80重量部の割合(20〜80phr)で配合される。配合量が少なすぎると十分に発熱しない発熱印字体となるし、配合量が多すぎると割れたり脆くなったり柔軟性が無くなったり物性的に劣る発熱印字体となるので好ましくない。
印字部は、前記混合物をシート状にして、凹状の文字等を彫った金型に入れ、加圧加熱して得る方法が一般的である。圧力は100〜200kg/cm2、温度は150〜200℃、加熱時間は5〜20分が適当である。本発明において印字部の厚さは0.1〜5mmにすることができるが、0.3〜3mmが最も好ましい。0.3mm以下では文字部分の成形が困難であり、3mm以上では発熱効率が低下するからである。
また、未架橋シリコーンゴム、カーボンナノチューブ、架橋剤、その他必要に応じて添加剤を加え、これを均一に分散した混合物をシート状に成形し、一定の圧力下で加熱して架橋させた後、彫刻機やレーザ加工機などで文字等を彫刻してもよい。架橋時の圧力は100〜200kg/cm2、温度は150〜200℃、加熱時間は5〜20分が適当である。
【0015】
また、前記支持ベース部2には、絶縁性、断熱性、耐熱性に優れた材質を使用する。特に、ガラス、セラミックス、フッ素ゴム、シリコーンゴム等が好ましく、一般の市販品を用いることができる。その他、ガラス繊維やアラミド繊維等からなる耐熱布や、使用条件によっては綿布も用いることができる。
【0016】
また、前記電極部3は、導電性のものであればよく、特に導電性の高い銅が好ましい。しかし、銅は熱伝導性も高いので極めて薄くして使用するか、プラスチックフィルムに銅を蒸着させたものを断熱材に巻くか、または断熱材に銅を直接蒸着して電極とする等の工夫が必要である。更に、接触抵抗を下げるために印字部1との接地面積を大きくすることが好ましい。
【0017】
前記印字部1と支持ベース部2と電極部3とは、接着剤によって接着一体化したり、クリップ等により挟みこんで挟着一体化したり、支持体により保持して一体化したりすることで容易に一体化することができる。また、一体化は、先ず二つを一体化した後に、更に残りの一つを一体化することも、3者を一度に一体化することも可能である。
【実施例】
【0018】
[実施例1]
本実施例の印字部は、チュ−ブ径40nm、粒径0.04μm、100gのカーボンナノチューブを生シリコーンゴム100g中に分散混練りさせた後、架橋剤として2,5ジメチル2,5ジターシャリーブチルパーオキシヘキサン1gを加え、再び混練りした混合物を厚さ1mmのシートにし(硬度は80であった。)、これを、直径8mmのベタ印文字を彫った金型に入れ、150kg/cm2、170℃で10分間加熱して作成した。そして離型した後、さらに200℃で4時間オーブンでアフターキュアを行い、これを一辺10mmの角型に切断した。これにより、刻印部4の厚み(d1)を1mm、周辺部5の厚み(d2)を2mmとした印字部1を得た。ここで、両電極間と直行する向きに切断した断面積は、刻印部4が8mm2、周辺部5が20mm2とした。
基底部は、市販のシリコーンゴムを適当な大きさに裁断して使用した。本実施例は、前記基底部の上に電極となる銅箔を接着し、更にその上に前記印字部を接着した後、三者を一体化して発熱印字体とした。
比較例1としては、次の発熱印字体を作成した。実施例1の刻印部4の厚み(d1)を1mm、周辺部5の厚み(d2)を1mmとし、両電極間と直行する向きに切断した断面積は、刻印部4が8mm2、周辺部5が10mm2とした。それ以外は、前記実施例1と全く同一の方法で発熱印字体を作成し、比較例1とした。
比較例2としては、次の発熱印字体を作成した。実施例1の刻印部4の厚み(d1)を2mm、周辺部5の厚み(d2)を1mmとし、両電極間と直行する向きに切断した断面積は、刻印部4が16mm2、周辺部5が10mm2とした。それ以外は、前記実施例1と全く同一の方法で発熱印字体を作成し、比較例2とした。
【0019】
[実施例2]
本実施例の印字部は、チュ−ブ径40nm、粒径0.04μm、100gのカーボンナノチューブを生シリコーンゴム100g中に分散混練りさせた後、架橋剤として2,5ジメチル2,5ジターシャリーブチルパーオキシヘキサン1gを加え、再び混練りした混合物を厚さ1mmのシートにし(硬度は80であった。)、これを、直径8mmのベタ印文字を彫った金型に入れ、150kg/cm2、170℃で10分間加熱して作成した。そして離型した後、さらに200℃で4時間オーブンでアフターキュアを行い、これを30×60mm(縦×横)の角型に切断した。その後、刻印部4の幅(w1)を12mm、周辺部5の幅(w2)を30mmに裁断加工して、印字部1を得た。
ここで、両電極間と直行する向きに切断した断面積は、刻印部4が12.0mm2、周辺部5が30mm2とした。
基底部は、市販のシリコーンゴムを適当な大きさに裁断して使用した。本実施例は、前記基底部の上に電極となる銅箔を接着し、更にその上に前記印字部を接着した後、三者を一体化して発熱印字体とした。
比較例3としては、次の発熱印字体を作成した。実施例2の刻印部4の幅(w1)が12mm、周辺部5の幅(w2)が12mmに裁断加工して、印字部1を得た。ここで、両電極間と直行する向きに切断した断面積は、刻印部4が12mm2、周辺部5が12mm2とした。それ以外は、前記実施例2と全く同一の方法で発熱印字体を作成し、比較例3とした。
比較例4としては、次の発熱印字体を作成した。実施例2の刻印部4の幅(w1)が30mm、周辺部5の幅(w2)が12mmに裁断加工して、印字部1を得た。ここで、両電極間と直行する向きに切断した断面積は、刻印部4が30mm2、周辺部5が12mm2とした。それ以外は、前記実施例2と全く同一の方法で発熱印字体を作成し、比較例4とした。
【0020】
実施例1、2および比較例1、2の発熱印字体を用いて、次のような捺印試験を行った。発熱印字体にリード線を接続し、15Vの電圧を印加し、印面部が130℃に到達する時間を測定した。次に、通電を停止し感熱紙(PLUS社製 Tree‘sOAワープロ用紙 感熱用スタンダードタイプ)に押印したときの印影を目視で確認した。試験環境は、温度20℃湿度65%で行った。
【0021】
実施例1、2および比較例1〜4の捺印試験結果を表1に示す。
【表1】

【0022】
以上の説明からも明らかなように、本発明は印字部、支持ベース部、電極部からなる発熱印字体であって、前記印字部は刻印部と周辺部からなり、この刻印部の断面積が周辺部の断面積よりも小さくしてある構造としたので、印字部の発熱効率を向上させて、捺印時間を短くすることができるという利点や、鮮明な印影を得ることができるという利点や、更には、面積的に印影のデザイン等の制限を受けることも極力抑えてデザイン性に優れた印影を実現することができるという利点等、種々の利点を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態を示す斜視図である。
【図2】図1の断面図である。
【図3】その他の実施の形態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0024】
1 印字部
2 支持ベース部
3 電極部
4 刻印部
5 周辺部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印字部、支持ベース部、電極部からなる発熱印字体であって、前記印字部は刻印部と周辺部からなり、この刻印部の断面積が周辺部の断面積よりも小さくしてあることを特徴とする発熱印字体。
【請求項2】
刻印部の厚みを周辺部の厚みよりも薄くして、刻印部の断面積を周辺部の断面積よりも小さくした請求項1に記載の発熱印字体。
【請求項3】
刻印部の幅を周辺部の幅よりも狭くして、刻印部の断面積を周辺部の断面積よりも小さくした請求項1または2に記載の発熱印字体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−226600(P2009−226600A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−71074(P2008−71074)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【出願人】(390017891)シヤチハタ株式会社 (162)
【Fターム(参考)】