説明

発現量定量方法

【課題】細胞に対する一過性の遺伝子導入の場合、発光関連遺伝子の発現量を定量するにあたって、安定発現株を作製する必要がなく、その結果、当該作製の時間や労力を省くことができる発現量定量方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明における発現量定量装置100は、発光タンパク質を発現する発光関連遺伝子と共に、当該発光タンパク質が発する発光の色とは異なる色の発光を発する異色発光タンパク質を発現する異色発光関連遺伝子がさらに導入されたサンプル102と、容器104と、ステージ106と、対物レンズ108と、結像レンズ109と、フィルター110と、CCDカメラ112と、情報通信端末114と、で構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光タンパク質を発現する発光関連遺伝子が導入されたサンプルを対象として、当該サンプルから発せられた発光の発光強度を測定し、測定した発光強度に基づいて発光関連遺伝子の発現量を定量する発現量定量方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ルシフェラーゼ遺伝子をレポーター遺伝子として細胞に導入し、ルシフェラーゼ活性を指標にしてルシフェラーゼ遺伝子の発現量を調べる際、ルシフェラーゼ遺伝子の上流や下流に目的のDNA断片を予め繋ぎ、当該ルシフェラーゼ遺伝子を細胞に導入することによって、ルシフェラーゼ遺伝子がDNA断片の転写に及ぼす影響を調べることができる。また、転写に影響を及ぼすと思われる転写因子などの遺伝子をルシフェラーゼ遺伝子などのレポーター遺伝子と共に発現ベクターに繋ぎ、当該発現ベクターを細胞に導入して共発現させることによって、当該遺伝子の遺伝子産物がレポーター遺伝子の発現に及ぼす影響を調べることができる。
【0003】
ここで、ルシフェラーゼ遺伝子などのレポーター遺伝子を細胞に導入する方法には例えばリン酸カルシウム法、リポフェクチン法、エレクトロポーション法などがあり、それぞれの方法は目的の細胞の種類によって使い分けられている。そして、細胞内に導入され発現しているルシフェラーゼの活性は、細胞溶解液をルシフェリン、ATP、マグネシウムなどを含む基質溶液と反応させ、ルシフェラーゼから発せられる発光の発光量を光電子増倍管を用いたルミノメーターで定量することによって測定されている。なお、発光量の測定は細胞を溶解した後に行われているので、ある時点における細胞内のルシフェラーゼ遺伝子の発現量は細胞全体の発現量の平均値として計測される。
【0004】
また、細胞に導入したルシフェラーゼ遺伝子の発現量を経時的に捉えるには、生きた細胞を用いる必要があり、且つ当該細胞が生きている状態で発光量を測定する必要がある。そのため、生きた細胞に導入したルシフェラーゼ遺伝子の発現量は、細胞を培養するインキュベーターにルミノメーターの機能を付け、全細胞集団から発せられる発光の発光量を細胞を培養しながら一定時間ごとに計測することによって経時的に測定されている。これにより、一定の周期性を持ったルシフェラーゼ遺伝子の発現リズムなどを計測することができ、細胞全体におけるルシフェラーゼ遺伝子の発現量の変化を経時的に捉えることができた。
【0005】
ところで、複数の細胞に対する一過性の遺伝子導入の場合、全ての細胞に遺伝子が導入されるわけではない。さらに、細胞に遺伝子が導入されたとしても、遺伝子の発現量は、遺伝子の導入効率などに因り細胞間で大きくばらついてしまう。そのため、これまでは、単一細胞からクローニングを行い、安定発現株を作製して、当該安定発現株に対してレポーターアッセイを行なっていた。また、細胞間での遺伝子の発現量のばらつきを補正する手法としては、非特許文献1に記載の手法がある。具体的には、ある基質に対して反応する目的のルシフェラーゼ遺伝子のプロモーターを持ったプラスミド以外に、別の基質に対して反応するルシフェラーゼ遺伝子をSV40など恒常的に働いているプロモーターの下流に融合したプラスミドをさらに細胞に導入して共発現させ、目的のルシフェラーゼの発光量をSV40支配下のルシフェラーゼの発光量で除すことで、ルシフェラーゼ遺伝子の発現量のばらつきを補正している。
【0006】
【非特許文献1】プロメガ株式会社(会社名)のホームページ「http://www.promega.co.jp/」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来技術では、安定発現株を作製しているが、当該作製には通常、数週間という時間を要してしまうので、ルシフェラーゼ遺伝子の発現量を定量するまでに多くの時間や労力を費やす、という問題点があった。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、細胞に対する一過性の遺伝子導入の場合、発光関連遺伝子の発現量を定量するにあたって、安定発現株を作製する必要がなく、その結果、当該作製に要する時間や労力を省くことができる発現量定量方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる請求項1に記載の発現量定量方法は、発光タンパク質を発現する発光関連遺伝子が導入されたサンプルを対象として、当該サンプルから発せられた発光の発光強度を測定する測定ステップと、前記測定ステップで測定した発光強度に基づいて前記発光関連遺伝子の発現量を定量する定量ステップと、を含む発現量定量方法であって、前記サンプルに対し、前記発光関連遺伝子を導入する際に共に、前記発光タンパク質が発する発光の色とは異なる色の発光を発する異色発光タンパク質を発現する異色発光関連遺伝子をさらに導入すること、を特徴とする。
【0010】
また、本発明にかかる請求項2に記載の発現量定量方法は、請求項1に記載の発現量定量方法において、前記サンプルが複数存在する場合、前記測定ステップでサンプルごとに測定した発光タンパク質の発光強度を、サンプルごとに測定した異色発光タンパク質の発光強度に基づいて補正する補正ステップ、をさらに含み、各サンプルに対し、前記発光関連遺伝子および前記異色発光関連遺伝子を導入し、前記定量ステップは、前記補正ステップで補正した発光タンパク質の発光強度に基づいて前記発光関連遺伝子の発現量をサンプルごとに定量すること、を特徴とする。
【0011】
また、本発明にかかる請求項3に記載の発現量定量方法は、請求項2に記載の発現量定量方法において、前記測定ステップ、前記補正ステップ、前記定量ステップを繰り返し実行することで、前記発光関連遺伝子の発現量をサンプルごとに経時的に定量すること、を特徴とする。
【0012】
また、本発明にかかる請求項4に記載の発現量定量方法は、請求項3に記載の発現量定量方法において、撮像範囲中に前記複数のサンプルを含む発光画像を撮像する発光画像撮像ステップ、をさらに含み、前記測定ステップは、前記発光画像撮像ステップで撮像した発光画像に基づいて、サンプルから発せられた発光タンパク質の発光強度および異色発光タンパク質の発光強度をサンプルごとに測定し、前記発光画像撮像ステップ、前記測定ステップ、前記補正ステップ、前記定量ステップを繰り返し実行することで、前記発光関連遺伝子の発現量をサンプルごとに経時的に定量すること、を特徴とする。
【0013】
また、本発明にかかる請求項5に記載の発現量定量方法は、請求項1から4のいずれか1つに記載の発現量定量方法において、前記サンプルは、組織、細胞、個体のいずれか1つであること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、発光タンパク質を発現する発光関連遺伝子が導入されたサンプルを対象として、当該サンプルから発せられた発光の発光強度を測定し、測定した発光強度に基づいて発光関連遺伝子の発現量を定量するにあたって、サンプルに対し、発光関連遺伝子を導入する際に共に、発光タンパク質が発する発光の色とは異なる色の発光を発する異色発光タンパク質を発現する異色発光関連遺伝子をさらに導入する。これにより、細胞に対する一過性の遺伝子導入の場合、発光関連遺伝子の発現量を定量するにあたって、安定発現株を作製する必要がなく、その結果、当該作製に要する時間や労力を省くことができる、という効果を奏する。
【0015】
また、本発明によれば、サンプルが複数存在する場合、各サンプルに対し、発光関連遺伝子および異色発光関連遺伝子を導入し、サンプルごとに測定した発光タンパク質の発光強度を、サンプルごとに測定した異色発光タンパク質の発光強度に基づいて補正し、補正した発光タンパク質の発光強度に基づいて発光関連遺伝子の発現量をサンプルごとに定量する。これにより、例えば、複数のサンプルの中から個々のサンプルを識別し、単一のサンプルにおける発光関連遺伝子の発現量を定量することができる、という効果を奏する。なお、サンプル102が複数存在していても、一枚(一つ)のデータとして取得し、データ解析はその後に行ってもよい。
【0016】
ここで、複数のサンプルを対象とする場合、従来技術では、各細胞から測定された遺伝子の発現量を補正するために、基質要求性の異なるルシフェラーゼ遺伝子をそれぞれ別々のプラスミドに持たせ、複数のプラスミドを細胞に導入しているが、1つのプラスミドであっても確実に細胞に導入されるわけではないので、ルシフェラーゼ遺伝子の導入を別々のプラスミドで行なうことに因り遺伝子の導入効率が低下してしまう。しかし、本発明では、具体的には、発光関連遺伝子と異色発光関連遺伝子とを1つのベクターに持たせ、当該ベクターをサンプルに導入するので、遺伝子の導入効率を従来に比べて改善することができる、という効果を奏する。
【0017】
また、従来技術では、基質要求性の異なる複数のルシフェラーゼ遺伝子を細胞に導入し、細胞に対して各基質を別々に加えて発光強度の測定を行なっているので、実験者の負担が大きかった。しかし、本発明では、基質要求性ではなく発光色の異なる複数の発光関連遺伝子をサンプルに導入しているので、サンプルに対して一種類の基質を加えるだけでよく、従来に比べて実験者の負担を軽減することができる、という効果を奏する。
【0018】
また、従来技術では、各細胞におけるルシフェラーゼ遺伝子の発現量を、全ての細胞におけるルシフェラーゼ遺伝子の発現量の平均値として測定していた。しかし、本発明では、各サンプルにおける発光関連遺伝子の発現量を発光色の違いに因り個別に定量することができる、という効果を奏する。
【0019】
また、本発明によれば、発光強度の測定、発光強度の補正、発現量の定量を繰り返し実行することで、発光関連遺伝子の発現量をサンプルごとに経時的に定量する。これにより、各サンプルにおける発光関連遺伝子の発現量の変動を経時的に測定することができる、という効果を奏する。
【0020】
ここで、従来技術では、基質要求性の異なる複数のルシフェラーゼ遺伝子を細胞に導入し、細胞に対して所定の時間ごとに各基質を別々に加えて発光強度の測定を行なっているので、実験者の負担が大きかった。しかし、本発明では、基質要求性ではなく発光色の異なる複数の発光関連遺伝子をサンプルに導入し、サンプルに対して一種類の基質を一度だけ加えればよいので、従来に比べて実験者の負担を軽減することができる、という効果を奏する。
【0021】
また、本発明によれば、撮像範囲中に複数のサンプルを含む発光画像を撮像し、撮像した発光画像に基づいて、サンプルから発せられた発光タンパク質の発光強度および異色発光タンパク質の発光強度をサンプルごとに測定し、発光画像の撮像、発光強度の測定、発光強度の補正、発現量の定量を繰り返し実行することで、発光関連遺伝子の発現量をサンプルごとに経時的に定量する。これにより、発光画像を介して、サンプルにおける発光関連遺伝子の発現量の変動を経時的に測定することができる、という効果を奏する。また、従来技術では、分光機能の付いたルミノメーターで複数の発光の発光強度を測定していたが、当該ルミノメーターは高価であった。しかし、本発明では、具体的には、CCDカメラで発光画像を撮像し、撮像した発光画像に基づいて複数の発光の発光強度を測定するので、各サンプルにおける発光関連遺伝子の発現量の経時的測定を比較的安価に実現することができる、という効果を奏する。
【0022】
また、本発明によれば、サンプルは、組織、細胞、個体のいずれか1つであるので、様々なサンプルを対象とすることができる、という効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に、本発明にかかる発現量定量方法の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0024】
まず、本発明を実施する発現量定量装置100の構成について、図1を参照して説明する。図1は、発現量定量装置100の全体構成の一例を示す図である。
【0025】
図1に示すように、発現量定量装置100は、サンプル102と、サンプル102を収納した容器104(具体的にはシャーレ)と、容器104を配置するステージ106と、対物レンズ108と、結像レンズ109と、フィルター110と、CCDカメラ112と、情報通信端末114と、で構成されている。
【0026】
サンプル102は、発光タンパク質を発現する発光関連遺伝子を導入する際に共に、当該発光タンパク質が発する発光の色とは異なる色の発光を発する異色発光タンパク質を恒常的に(常に)発現する異色発光関連遺伝子をさらに導入したものである。また、サンプル102は、生きたものであり、例えば、組織、細胞、個体などである。なお、サンプル102は、発光関連遺伝子を導入する際に共に、複数の異色発光関連遺伝子をさらに導入したものでもよい。また、サンプル102は、具体的には、以下の(工程1)および(工程2)で作製されたプラスミドベクターを導入したものでもよい。これにより、従来のように2種類のプラスミドを遺伝子導入する必要はなく、1回の遺伝子導入で発光強度の補正を行なうことができる。
(工程1)1つのプラスミドベクターの中に、SV40のような恒常的に働いているプロモーターを用いて、所定の色(例えば緑や赤など)の発光を発するルシフェラーゼを発現するルシフェラーゼ遺伝子を融合することで、当該ルシフェラーゼ遺伝子を恒常的に発現できるようにする。
(工程2)当該プラスミドベクターに、目的の遺伝子のプロモーターと、前記所定の色とは異なる色の発光を発するルシフェラーゼを発現するルシフェラーゼ遺伝子と、をさらに融合する。
【0027】
対物レンズ108は、具体的には、(開口数/倍率)2の値が0.02以上のものである。フィルター110は、サンプル102から発せられた発光をフィルター交換によって色別に分離する。CCDカメラ112は、対物レンズ108、結像レンズ109を介して当該CCDカメラ112のチップ面に投影されたサンプル102の発光画像を撮る。ここで、有限遠光学系では対物レンズ108の取り付け位置から接眼レンズまでの間隔に自由度がないが、無限遠光学系では対物レンズ108から結像レンズ109までの間隔に自由度があるため、種々の光学部品を鏡筒長の変化なしに組み込むことができる。なお、有限遠光学系の場合、結像レンズ109は必ずしも必要はない。また、CCDカメラ112は、情報通信端末114と有線または無線で通信可能に接続される。ここで、サンプル102が撮像範囲中に複数存在する場合、CCDカメラ112は、当該撮像範囲中に含まれる複数のサンプル102の発光画像を撮像してもよい。
【0028】
情報通信端末114は、具体的にはパーソナルコンピュータである。そして、情報通信端末114は、図4に示すように、大別して、制御部114aと、システムの時刻を計時するクロック発生部114bと、記憶部114cと、通信インターフェース部114dと、入出力インターフェース部114eと、入力部114fと、出力部114gと、で構成されており、これら各部はバスを介して接続されている。
【0029】
記憶部114cは、ストレージ手段であり、具体的には、RAMやROM等のメモリ装置、ハードディスクのような固定ディスク装置、フレキシブルディスク、光ディスク等を用いることができる。そして、記憶部114cは制御部114aの各部の処理により得られたデータなどを記憶する。
【0030】
通信インターフェース部114dは、情報通信端末114とCCDカメラ112との間における通信を媒介する。すなわち、通信インターフェース部114dは他の端末と有線または無線の通信回線を介してデータを通信する機能を有する。
【0031】
入出力インターフェース部114eは、入力部114fや出力部114gに接続する。ここで、出力部114gには、モニタ(家庭用テレビを含む)の他、スピーカやプリンタを用いることができる(なお、以下で、出力部114gをモニタとして記載する場合がある。)。また、入力部114fには、キーボードやマウスやマイクの他、マウスと協働してポインティングデバイス機能を実現するモニタを用いることができる。
【0032】
制御部114aは、OS(Operating System)等の制御プログラムや各種の処理手順等を規定したプログラムや所要データを格納するための内部メモリを有し、これらのプログラムに基づいて種々の処理を実行する。そして、制御部114aは、大別して、発光画像撮像指示部114a1と、発光画像取得部114a2と、測定部114a3と、補正部114a4と、定量部114a5と、で構成されている。
【0033】
発光画像撮像指示部114a1は、通信インターフェース部114dを介して、CCDカメラ112へ発光画像の撮像を指示する。発光画像取得部114a2は、CCDカメラ112で撮像した発光画像を、通信インターフェース部114dを介して取得する。
【0034】
測定部114a3は、サンプル102から発せられた発光タンパク質の発光強度および異色発光タンパク質の発光強度をサンプル120ごとに測定する。なお、測定部114a3は、発光画像取得部114a2で取得した発光画像に基づいて、サンプル102から発せられた発光タンパク質の発光強度および異色発光タンパク質の発光強度をサンプル102ごとに測定してもよい。補正部114a4は、測定部114a3でサンプル102ごとに測定した発光タンパク質の発光強度を、サンプル102ごとに測定した異色発光タンパク質の発光強度に基づいて補正する。定量部114a5は、測定部114a3で測定した発光タンパク質の発光強度または補正部114a4で補正した発光タンパク質の発光強度に基づいて、発光関連遺伝子の発現量をサンプル102ごとに定量する。
【0035】
以上の構成において、発現量定量装置100で行われる処理の一例を、図3を参照して説明する。なお、以下では、撮像範囲中に複数のサンプル102が存在する場合に、発光関連遺伝子の発現量をサンプル102ごとに経時的に測定する際の処理について説明する。
【0036】
まず、情報通信端末114は、発光画像撮像指示部114a1の処理で、通信インターフェース部114dを介して、CCDカメラ112へ発光画像の撮像を指示する(ステップSA−1)。つぎに、CCDカメラ112は、撮像範囲中に存在する複数のサンプル102の発光画像を撮像し、(ステップSA−2)、情報通信端末110へ送信する(ステップSA−3)。
【0037】
つぎに、情報通信端末114は、発光画像取得部114a2の処理で、CCDカメラ112で撮像した発光画像を、通信インターフェース部114dを介して取得すると共に、制御部114aの処理で、クロック発生部114bから時刻を取得し、発光画像と時刻とを対応付けて記憶部114cの所定の記憶領域に記憶する(ステップSA−4)。
【0038】
つぎに、情報通信端末114は、測定部114a3の処理で、ステップSA−4で取得した発光画像に基づいて、サンプル102から発せられた発光タンパク質の発光強度および異色発光タンパク質の発光強度をサンプル102ごとに測定する(ステップSA−5)。
【0039】
つぎに、情報通信端末114は、補正部114a4の処理で、ステップSA−5でサンプル102ごとに測定した発光タンパク質の発光強度を、サンプル102ごとに測定した異色発光タンパク質の発光強度に基づいて補正する(ステップSA−6)。例えば、サンプルA、サンプルBおよびサンプルCが存在する場合、まず、サンプルA、B、Cの中から、補正の際の基準とするサンプル(例えばサンプルB)を選択する。ついで、選択されなかった他のサンプル(例えばサンプルAおよびサンプルC)に対応する異色発光タンパク質の発光強度の値を、選択したサンプル(例えばサンプルB)に対応する異色発光タンパク質の発光強度に合わせるために、“「サンプルBの異色発光タンパク質の発光強度」÷「サンプルA(サンプルC)の異色発光タンパク質の発光強度」”を計算する。ついで、当該計算した値と、選択されなかった他のサンプル(例えばサンプルAおよびサンプルC)に対応する発光タンパク質の発光強度との積を算出することで、選択されなかった他のサンプル(例えばサンプルAおよびサンプルC)に対応する発光タンパク質の発光強度を、選択したサンプル(例えばサンプルB)を基準として補正する。もしくは、例えば、単純に、各サンプル毎に、“「発光タンパク質の発光強度」÷「異色発光タンパク質の発光強度」”を求めて比率としてデータを扱ってもよい。
【0040】
つぎに、情報通信端末114は、定量部114a5の処理で、ステップSA−6で補正した発光タンパク質の発光強度に基づいて、発光関連遺伝子の発現量を定量する(ステップSA−7)。
【0041】
そして、情報通信端末114は、制御部114aの処理で、上述したステップSA−1〜ステップSA−7を、例えば予め設定した時間間隔で所定の回数繰り返し実行する(ステップSA−8)ことで、サンプル102における発光関連遺伝子の発現量をサンプル102ごとに経時的に定量する。
【0042】
以上、詳細に説明したように、発現量定量装置100によれば、サンプル102に対し、発光関連遺伝子を導入する際に共に、異色発光関連遺伝子をさらに導入する。これにより、サンプル102に対する一過性の遺伝子導入の場合、発光関連遺伝子の発現量を定量するにあたって、安定発現株を作製する必要がなく、その結果、当該作製に要する時間や労力を省くことができる。また、一過性の発現段階でレポーターアッセイを実現することができる。
【0043】
また、発現量定量装置100によれば、サンプル102が複数存在する場合、サンプル102から発せられる発光タンパク質の発光強度および異色発光タンパク質の発光強度をサンプル102ごとに測定し、サンプル102ごとに測定した発光タンパク質の発光強度を、サンプル102ごとに測定した異色発光タンパク質の発光強度に基づいて補正し、補正した発光タンパク質の発光強度に基づいて発光関連遺伝子の発現量をサンプル102ごとに定量する。これにより、例えば、複数のサンプル102の中から個々のサンプル102を識別し、単一のサンプル102における発光関連遺伝子の発現量を定量することができる。なお、サンプル102が複数存在していても、一枚(一つ)のデータとして取得し、データ解析(具体的には、発光強度の補正や発現量の定量)はその後に行ってもよい。
【0044】
ここで、複数のサンプル102を対象とする場合、従来技術では、各細胞から測定された遺伝子の発現量を補正するために、基質要求性の異なるルシフェラーゼ遺伝子をそれぞれ別々のプラスミドに持たせ、複数のプラスミドを細胞に導入しているが、1つのプラスミドであっても確実に細胞に導入されるわけではないので、ルシフェラーゼ遺伝子の導入を別々のプラスミドで行なうことに因り遺伝子の導入効率が低下してしまう。しかし、発現量定量装置100によれば、具体的には、発光関連遺伝子と異色発光関連遺伝子とを1つのベクターに持たせ、当該ベクターをサンプル102に導入するので、遺伝子の導入効率を従来に比べて改善することができる。
【0045】
また、従来技術では、基質要求性の異なる複数のルシフェラーゼ遺伝子を細胞に導入し、細胞に対して各基質を別々に加えて発光強度の測定を行なっているので、実験者の負担が大きかった。しかし、発現量定量装置100によれば、基質要求性ではなく発光色の異なる複数の発光関連遺伝子をサンプル102に導入しているので、サンプル102に対して一種類の基質を加えるだけでよく、従来に比べて実験者の負担を軽減することができる。
【0046】
また、従来技術では、各細胞におけるルシフェラーゼ遺伝子の発現量を、全ての細胞におけるルシフェラーゼ遺伝子の発現量の平均値として測定していた。しかし、発現量定量装置100によれば、各サンプル102における発光関連遺伝子の発現量を発光色の違いに因り個別に定量することができる。
【0047】
また、発現量定量装置100によれば、発光強度の測定、発光強度の補正、発現量の定量を繰り返し実行することで、発光関連遺伝子の発現量をサンプル102ごとに経時的に定量する。これにより、各サンプル102における発光関連遺伝子の発現量の変動を経時的に測定することができる。
【0048】
ここで、従来技術では、基質要求性の異なる複数のルシフェラーゼ遺伝子を細胞に導入し、細胞に対して所定の時間ごとに各基質を別々に加えて発光強度の測定を行なっているので、実験者の負担が大きかった。しかし、発現量定量装置100によれば、基質要求性ではなく発光色の異なる複数の発光関連遺伝子をサンプル102に導入し、サンプル102に対して一種類の基質を一度だけ加えればよいので、従来に比べて実験者の負担を軽減することができる。
【0049】
また、発現量定量装置100によれば、撮像範囲中に複数のサンプル102を含む発光画像を撮像し、撮像した発光画像に基づいてサンプル102から発せられた発光タンパク質の発光強度および異色発光タンパク質の発光強度をサンプルごとに測定し、サンプル102ごとに測定した発光タンパク質の発光強度を、サンプル102ごとに測定した異色発光タンパク質の発光強度に基づいて補正し、補正した発光タンパク質の発光強度に基づいて発光関連遺伝子の発現量をサンプル102ごとに定量する。そして、発光画像の撮像、発光強度の測定、発光強度の補正、発現量の定量を繰り返し実行することで、発光関連遺伝子の発現量をサンプル102ごとに経時的に定量する。これにより、発光画像を介して、サンプルにおける発光関連遺伝子の発現量の変動を経時的に測定することができる。また、単一細胞の発光を撮像することによって、遺伝子導入の効率とは無関係に、一過性の遺伝子導入の段階で、細胞間の発現量の違いを補正することができる。また、従来技術では、分光機能の付いたルミノメーターで複数の発光の発光強度を測定していたが、当該ルミノメーターは高価であった。しかし、発現量定量装置100によれば、具体的には、CCDカメラで発光画像を撮像し、撮像した発光画像に基づいて複数の発光の発光強度を測定するので、各サンプル102における発光関連遺伝子の発現量の経時的測定を比較的安価に実現することができる。なお、複数のサンプル102でも、一つのデータとして取得してもよい。
【実施例】
【0050】
ここでは、上述した実施の形態における発現量定量装置100を用いて、図4に示すプラスミドベクターを導入した複数のHeLa細胞を対象として、各HeLa細胞におけるCBRの発光強度およびCBR遺伝子の発現量を経時的に測定する。
【0051】
まず、本実施例における実験プロトコルを説明する。
(1)本実施例で用いるプラスミドベクターを、(a)SV40プロモーター、(b)発光強度を補正するためのルシフェラーゼ遺伝子であるCBG99遺伝子(プロメガ株式会社製、発光色:緑)、(c)目的遺伝子であるHSP70Bのプロモーター、(d)CBG99遺伝子と発光色が異なるルシフェラーゼ遺伝子であるCBR遺伝子(プロメガ株式会社製、発光色:赤)、を融合して作製する。具体的には、本実施例で用いるプラスミドベクターを、図4に示すように、補正コントロール用のCBG99遺伝子をSV40プロモーターの下流に融合し、CBR遺伝子をHSP70Bのプロモーターと共に(繋げて)さらに融合して作製する。
(2)作製したプラスミドベクターをHeLa細胞に導入する(トランスフェクション)。
(3)HeLa細胞を35mmガラス底シャーレで一晩培養し、翌日、培養液に1MHEPESおよび発光基質を加えた後、熱ショック刺激(43℃、CO2:5%、60分)を与える。
(4)上述した実施の形態における発現量定量装置100を用いて、各HeLa細胞における2つのルシフェラーゼ(CBG99およびCBR)の発光強度をそれぞれ、熱ショック刺激後30分おきに経時的に測定する。具体的には、発現量定量装置100において、経時的に撮像した発光画像から、HeLa細胞ごとに、CBG99およびCBRからの発光の発光強度を数値化する。なお、当該測定は室温で行い、対物レンズは20倍の(油浸)ものを用い、発光画像の撮像において露出時間は5分であった。
【0052】
つぎに、実験結果について説明する。図5は、発現量定量装置100で測定した、各HeLa細胞における2つのルシフェラーゼ(CBG99およびCBR)の補正前の発光強度と、各HeLa細胞における2つのルシフェラーゼ(CBG99およびCBR)の補正後の発光強度と、を示す図である。各ルシフェラーゼの発光強度は、図5に示すように、プラスミドベクターが導入された細胞(細胞A〜細胞C)の間で大きくばらついた(図5における補正前の発光強度、および図6参照)。そこで、発現量定量装置100で、細胞BにおけるCBG99の発光強度を基準として、各細胞におけるCBRの発光強度を補正したところ(図5における補正後の発光強度、および図7参照)、細胞間のばらつきを適正に補正することができた。つまり、発現量定量装置100を用いて単一細胞の発光を2色で撮像することにより、遺伝子の導入効率とは無関係に、一過性の遺伝子導入の段階で、細胞間のルシフェラーゼ遺伝子の発現量の違いを補正することができた。よって、本実施例で用いたプラスミドベクターを用いれば、2種類のプラスミドを遺伝子に導入する必要なく、1回の遺伝子の導入で発光強度の補正を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
以上のように、本発明にかかる発現量定量方法は、生きたサンプルにおける発光関連遺伝子の発現量を定量する場合に有用であり、バイオ、製薬、医療など様々な分野で好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】発現量定量装置100の全体構成の一例を示す図である。
【図2】情報通信端末110の構成の一例を示すブロック図である。
【図3】発現量定量装置100で行われる処理の一例を示すフローチャートである。
【図4】実施例で用いたプラスミドベクターを示す図である。
【図5】発現量定量装置100で測定した、各HeLa細胞における2つのルシフェラーゼの補正前の発光強度と、各HeLa細胞における2つのルシフェラーゼの補正後の発光強度と、を示す図である。
【図6】発現量定量装置100で測定した各HeLa細胞におけるCBRの補正前の発光強度の経時的変動を示す図である。
【図7】発現量定量装置100で測定した各HeLa細胞におけるCBRの補正後の発光強度の経時的変動を示す図である。
【符号の説明】
【0055】
100 発現量定量装置
102 サンプル
104 容器(シャーレ)
106 ステージ
108 対物レンズ
109 結像レンズ
110 フィルター
112 CCDカメラ
114 情報通信端末
114a 制御部
114a1 発光画像撮像指示部
114a2 発光画像取得部
114a3 選定部
114a4 補正部
114a5 定量部
114b クロック発生部
114c 記憶部
114d 通信インターフェース部
114e 入出力インターフェース部
114f 入力部
114g 出力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光タンパク質を発現する発光関連遺伝子が導入されたサンプルを対象として、当該サンプルから発せられた発光の発光強度を測定する測定ステップと、前記測定ステップで測定した発光強度に基づいて前記発光関連遺伝子の発現量を定量する定量ステップと、を含む発現量定量方法であって、
前記サンプルに対し、前記発光関連遺伝子を導入する際に共に、前記発光タンパク質が発する発光の色とは異なる色の発光を発する異色発光タンパク質を発現する異色発光関連遺伝子をさらに導入すること、
を特徴とする発現量定量方法。
【請求項2】
前記サンプルが複数存在する場合、
前記測定ステップでサンプルごとに測定した発光タンパク質の発光強度を、サンプルごとに測定した異色発光タンパク質の発光強度に基づいて補正する補正ステップ、
をさらに含み、
各サンプルに対し、前記発光関連遺伝子および前記異色発光関連遺伝子を導入し、
前記定量ステップは、前記補正ステップで補正した発光タンパク質の発光強度に基づいて前記発光関連遺伝子の発現量をサンプルごとに定量すること、
を特徴とする請求項1に記載の発現量定量方法。
【請求項3】
前記測定ステップ、前記補正ステップ、前記定量ステップを繰り返し実行することで、前記発光関連遺伝子の発現量をサンプルごとに経時的に定量すること、
を特徴とする請求項2に記載の発現量定量方法。
【請求項4】
撮像範囲中に前記複数のサンプルを含む発光画像を撮像する発光画像撮像ステップ、
をさらに含み、
前記測定ステップは、前記発光画像撮像ステップで撮像した発光画像に基づいて、サンプルから発せられた発光タンパク質の発光強度および異色発光タンパク質の発光強度をサンプルごとに測定し、
前記発光画像撮像ステップ、前記測定ステップ、前記補正ステップ、前記定量ステップを繰り返し実行することで、前記発光関連遺伝子の発現量をサンプルごとに経時的に定量すること、
を特徴とする請求項3に記載の発現量定量方法。
【請求項5】
前記サンプルは、組織、細胞、個体のいずれか1つであること、
を特徴とする請求項1から4のいずれか1つに記載の発現量定量方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−296294(P2006−296294A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−122768(P2005−122768)
【出願日】平成17年4月20日(2005.4.20)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】