説明

発芽大麦の製造方法

【課題】発芽大麦の収率を向上させることができる発芽大麦の製造方法を実現する。
【解決手段】本発明の発芽大麦の製造工程では、第1精麦工程S1において発芽に必要な糊粉層を十分量確保し、発芽大麦の表面から外皮を主体に5〜25重量%だけ除去し、発芽工程S2において発芽させた後に、第2精麦工程S3において、残りの外皮を十分に除去する。第1精麦工程S1において外皮の一部が除去されているため、容易に外皮を剥離することができるため、玄芽に負荷される力を小さくすることができ、胚乳が破砕されにくくなるので、発芽大麦の収率を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、γ−アミノ酪酸(GABA)を豊富に含む発芽大麦の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大麦はビタミンや食物繊維を豊富に含んでいるため、白米に混ぜて食されてきた。近年、大麦を発芽させた発芽大麦にγ−アミノ酪酸(GABA)が豊富に含まれることがわかってきた。GABAはアミノ酸の一種であり、高血圧の抑制、精神安定などの効果で注目を浴びている。また、脳の血流改善(例えば、脳卒中の予防等)、腎臓・肝臓機能活性化、アルコール代謝促進、消臭、大腸がんの抑制などの効果についても期待されている。
【0003】
大麦は、水分添加により休眠状態が打破されると、胚から分泌されるホルモンにより、籾と胚乳の間に薄い膜状に存在する糊粉層における糖化酵素が活性化され、胚乳のでんぷん質が糖化して麦芽糖となり、これを養分として発芽する。
このように、大麦の発芽には糊粉層が必要であるため、通常、発芽大麦は、籾(外皮)がついたままの大麦を発芽させ、発芽後に精麦工程により外皮を除去して製造している(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−296247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
大麦は米と異なり籾が胚乳に強く結着しているため、精麦工程では回転砥石などを用いて外皮を研削することが一般的であるが、発芽大麦は、胚乳が糖化して分解するため、発芽前に比べて胚乳がもろくなるので、精麦工程では発芽大麦が砕けやすい。
これにより所定の寸法よりも小さく砕けた発芽大麦は、精選工程において選別され取り除かれるので、完成品としての収率が低くなってしまうとともに、外観もよくなく、食感を損ねるという問題があった。
【0006】
そこで、本発明では、発芽大麦の収率を向上させることができる発芽大麦の製造方法を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明では、精麦装置により、大麦の表面から外皮を主体に5〜25重量%を研削除去し、胚乳の一部を露出させる第1精麦工程と、前記第1精麦工程を経た大麦を発芽させる発芽工程と、前記発芽工程により発芽した大麦の残りの外皮を除去する第2精麦工程と、を備えた、という技術的手段を用いる。
【0008】
請求項1に記載の発明によれば、第1精麦工程において大麦を外皮の一部を発芽に必要な糊粉層は十分量確保した適切な量だけ除去し、発芽工程において発芽させた後に、第2精麦工程において、残りの外皮を十分に除去することができる。第1精麦工程S1において外皮の一部が除去されているため、容易に外皮を剥離することができるため、第2精麦工程において玄麦に負荷される力を小さくすることができ、胚乳が破砕されにくくなるので、発芽大麦の収率を向上させることができる。
【0009】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の発芽大麦の製造方法において、前記第2精麦工程を経た発芽大麦を所定の厚さに加熱圧扁する工程を更に備えた、という技術的手段を用いる。
【0010】
請求項2に記載の発明のように、第2精麦工程を経た発芽大麦を所定の厚さに加熱圧扁する工程を更に備えることにより、発芽大麦を発芽押麦とすることもできる。これによれば、白米に混ぜて食べたときの食感を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の発芽大麦の製造工程を示す説明図である。
【図2】重量減少率と発芽率との関係を示す説明図である。
【図3】第1精麦工程における精麦度合いによる外観の変化を示す説明図である。
【図4】本発明の発芽大麦の製造工程を経た大麦を従来の製造工程を経た大麦の外観と比較した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の発芽大麦の製造方法について、図を参照して説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0013】
発芽大麦は、図1に示すように、第1精麦工程S1、発芽工程S2、第2精麦工程S3、精選工程S4を経て製造される。
【0014】
まず、第1精麦工程S1は原料となる大麦を所定量用意し、精麦設備により外皮の一部を除去する。精麦設備としては公知の精麦設備を用いることができ、例えば、研磨力が強い横型精麦機を用いる。
第1精麦工程S1では、精麦の度合を発芽大麦の表面から外皮を主体に5〜25重量%だけ除去されるように条件設定する。これにより、外皮の一部が除去されて胚乳の一部が露出した状態となり、発芽に必要な糊粉層は十分量確保された状態の大麦が得られる。
【0015】
外皮を主体とした除去量が5%未満だと後述する第2精麦工程で、外皮を剥離しにくくなるため、大きな研削力を負荷しなければならなくなり、胚乳が破砕されやすくなる。また、除去量が25%を超えると糊粉層の量が不足し、後述する発芽工程S2における発芽率が低下してしまう。
【0016】
第1精麦工程S1は、1回の精麦動作として行ってもよいし、複数回の精麦動作によって外皮を徐々に削り取るように除去してもよい。
これによれば、大麦に負荷される力を小さくすることができるので、第1精麦工程S1において大麦が破砕することをより防止することができる。
【0017】
続く発芽工程S2では、第1精麦工程S1において外皮の一部が除去された大麦を発芽させる。本工程として、通常の大麦の発芽工程を採用することができ、例えば、十分な水分を含ませて、7℃で数時間保持し、休眠打破した後に、15℃で4日間保持して発芽させることができる。
【0018】
続く第2精麦工程S3では、発芽工程S2を経て発芽した大麦の残りの外皮を、十分に除去(例えば、95%以上)する。ここで、発芽した大麦は、糖化により胚乳がもろくなっているが、第1精麦工程S1において外皮の一部が除去されているため、容易に外皮を剥離することができる。これにより、玄麦に負荷される力を小さくすることができるため、胚乳が破砕されにくくなるので、発芽大麦の収率を向上させることができる。
【0019】
第2精麦工程S3では、胚乳に過大な力を負荷しないように、第1精麦工程S1より研削力が小さい精麦条件で研削を行うことが好ましい。精麦設備として、例えば、横型精麦機より研磨力が弱い条件で研削が可能な縦型精麦機を用いることができる。
【0020】
第2精麦工程S3は、1回の精麦動作として行ってもよいし、複数回の精麦動作によって外皮を徐々に削り取るように除去してもよい。
これによれば、胚乳に負荷される力を小さくすることができるので、第2精麦工程S3において胚乳が破砕することをより防止することができる。
【0021】
そして、精選工程S4において所定の大きさ以上の大麦のみを選別して、所定の寸法より大きい発芽押麦を完成品とする。
【0022】
上述の発芽大麦の製造工程では、第1精麦工程S1において大麦の外皮の一部を、発芽に必要な糊粉層を十分量確保して、適切な量だけ除去し、発芽工程S2において発芽させた後に、第2精麦工程S3において、残りの外皮を十分に除去する。第1精麦工程S1において外皮の一部が除去されているため、容易に外皮を剥離することができるため、玄芽に負荷される力を小さくすることができ、胚乳が破砕されにくくなるので、発芽大麦の収率を向上させることができる。
【0023】
(変更例)
外皮を除去した発芽大麦の中に水分を含ませるように加水調整し、発芽大麦の内部に水分が満遍なく浸透させた後に、加熱圧扁し、押麦としてもよい。これによれば、白米に混ぜて食べたときの食感を向上させることができる。
【0024】
(実施例1)
第1精麦工程における精麦の度合いを変化させ、大麦の重量及び表面状態の変化を調べた。
横型精麦機は、砥石の回転により大麦を外側から削る装置であり、この横型精麦機を長行程と呼ぶ。長行程による搗精加工を1〜4回と行い、その重量減を表1に示す。
表1に示すように、精麦操作回数が増加するにつれて、重量減が大きくなっている。図3に示すように、精麦操作回数の増加に伴い、外皮が除去されて重量が減少し、胚乳が露出する面積が増大している様子が認められる。
【0025】
【表1】

【0026】
次に、第1精麦工程を経た大麦の発芽試験を行い、第1精麦工程における重量減と発芽率との関係を調査した。発芽試験は、十分な水分を含ませて、7℃で数時間保持し、休眠打破した後に、15℃で4日間保持して発芽させることができる。図2に示すように、重量減の増加に応じて発芽率は低下したが、重量減が23%においても発芽率は85%と高い値を示した。
【0027】
(実施例2)
本発明の製造方法で作製した発芽大麦の収率を従来の製造方法で作製した発芽大麦と比較した。
実施例1の大麦について、発芽押麦を作製し、所定の寸法以上の大麦の収率を従来法による発芽押麦の収率と比較した。ここで、所定の寸法とは、8メッシュ(1インチ内)のふるいで残る寸法とした。
本実施例では、第1精麦工程は、横型精麦機による精麦工程とした。
従来の製造方法では、砕けた大麦の量が多く収率は約19%であったのに対し、本発明の方法では、砕けた大麦の量が大幅に減少し収率は61%となった。
以上より、高い発芽率を維持したまま、収率を向上させることができることが確認された。
また、図4に示すように、従来の製造方法では、所定の寸法以上のものであっても砕けて角ばった大麦が多かったが、本発明の方法では、ほとんどの大麦が原型を留めていた。これにより、外観がよくなり、食感も向上させることができた。
【0028】
(実施例3)
本発明の製造方法で作製した発芽大麦におけるGABAの含有量を従来の製造方法で作製した発芽大麦と比較した。発芽条件は、所定の休眠打破後、7℃で5日間保持し、続いて15℃で2日間保持し発芽させる発芽条件Aと、同じく休眠打破後、15℃で4日間保持し発芽させる発芽条件Bと、を採用した。
GABAの含有量は公知のアミノ酸分析法により測定した。表2に示すように、本発明の製造方法で作製した発芽大麦のGABAの含有量は、発芽条件A、Bともに、従来の製造方法で作製した発芽大麦の同等以上の含有量であった。これにより、GABAを多量に含有する発芽大麦を製造できることが確認された。
【0029】
【表2】

【0030】
[実施形態の効果]
本発明の発芽大麦の製造工程によれば、第1精麦工程S1において大麦の外皮の一部を、発芽に必要な糊粉層は十分量確保して、適切な量だけ除去し、発芽工程S2において発芽させた後に、第2精麦工程S3において、残りの外皮を十分に除去する。第1精麦工程S1において外皮の一部が除去されているため、容易に外皮を剥離することができるため、玄麦に負荷される力を小さくすることができ、胚乳が破砕されにくくなるので、発芽大麦の収率を向上させることができる。
【符号の説明】
【0031】
S1…第1精麦工程
S2…発芽工程
S3…第2精麦工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
精麦装置により、大麦の表面から外皮を主体に5〜25重量%を研削除去し、胚乳の一部を露出させる第1精麦工程と、
前記第1精麦工程を経た大麦を発芽させる発芽工程と、
前記発芽工程により発芽した大麦の残りの外皮を除去する第2精麦工程と、
を備えたことを特徴とする発芽大麦の製造方法。
【請求項2】
前記第2精麦工程を経た発芽大麦を所定の厚さに加熱圧扁する工程を更に備えたことを特徴とする請求項1に記載の発芽大麦の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−19709(P2012−19709A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−158382(P2010−158382)
【出願日】平成22年7月13日(2010.7.13)
【出願人】(500433225)学校法人中部大学 (105)
【出願人】(504147346)豊橋糧食工業株式会社 (2)
【Fターム(参考)】