説明

発芽玄米エキスの製造方法

【課題】 現在、上市されている米類発酵物または発芽米類に比べ、より豊富にアミノ酸類やビタミン類を含んだ機能性の高い米類発酵エキスを提供する。腐植物質水を使用することによって、発酵中の発芽玄米およびエキスの腐敗を防止することができるうえに、省エネによる製造コストの低減および環境にやさしい、発芽玄米エキスの製造方法を提供する。
【解決手段】 発芽させた玄米を加熱処理することなく、腐植物質水に浸漬し、常温域(例えば30℃)にて発芽玄米自身の持つ酵素により発酵させる。同様に、発芽させた玄米に加熱処理をすることなく、麹菌の胞子(もやし)を添加して麹米にし、それを腐植物質水に浸漬して、常温域(例えば30℃)にて麹液体発酵させることにより、発芽玄米自体の酵素による発酵力と麹菌の発酵力により、γ−アミノ酪酸等のアミノ酸類の増量を図る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発芽玄米エキスの製造方法、さらに詳しくは、発芽玄米を腐植物質水に浸漬して自家発酵をさせることにより、または発芽玄米に麹菌を植菌して麹米とし、これを腐植物質水に浸漬して発酵させることにより、玄米中の遊離アミノ酸やγ−アミノ酪酸(GABA)の量を増大させ、それら有用成分を抽出して、発芽玄米エキスを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、玄米を発芽させると、玄米に含まれるγ−アミノ酪酸等の遊離アミノ酸類が増加することが知られている。
【特許文献1】特開2004−344013号公報 特許文献1には、白米の数倍の植物繊維を有するとともに、発芽によりアミノ酸やビタミンB群が多くなり、各種病気の食事療法にも取り入れられている発芽玄米であるが、その食べづらさをなくし、かつ取り扱いを容易にした健康増進米が開示されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記特許文献1に記載の健康増進米は、炊飯あるいは蒸すなどの加熱処理をした水分含有率が25%前後の発芽玄米の一定量と、水分含有率が14%前後の白米の一定量を共に気密性の袋や容器などの収納部材に混合充填したものであるが、発芽玄米を加熱処理するため、発芽玄米自体に含まれるビタミン類等の栄養成分が破壊分解されてしまうと共に、熱エネルギーを必要とするため、製造コストが高くつくという問題があった。
【0004】
本発明の目的は、上記の従来技術の問題を解決し、γ−アミノ酪酸等の機能性有用成分をさらに増量させる製造方法を提供することである。発芽玄米を加熱処理しないため、原料の発芽玄米が本来持っているビタミン類や酵素が保持されることにより、現在、上市されている米類発酵物または発芽米類に比べ、より豊富にアミノ酸類やビタミン類を含んだ機能性の高い米類発酵エキスを提供することができ、さらに、腐植物質水を使用することによって、発酵中の発芽玄米およびエキスの腐敗を防止することができるうえに、省エネによる製造コストの低減および環境にやさしい製造が可能である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の点に鑑み鋭意研究を重ねた結果、発芽させた玄米を加熱処理することなく、腐植物質水に浸漬し、常温域(例えば30℃)にて発芽玄米自身の持つ酵素により発酵させることにより、γ−アミノ酪酸等のアミノ酸類の増量を図ることができ、また同様に、発芽させた玄米に蒸す等の加熱処理をすることなく、麹菌の胞子(もやし)を添加して麹米にし、それを腐植物質水に浸漬して、常温域(例えば30℃)にて麹液体発酵させることにより、発芽玄米自体の酵素による発酵力と麹菌の発酵力により、γ−アミノ酪酸等のアミノ酸類の増量を図ることができることを見い出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0006】
上記の目的を達成するために、請求項1の発芽玄米エキスの製造方法の発明は、発芽させた玄米を加熱処理することなく、腐植物質水に浸漬し、常温域にて、発芽玄米自身の持つ酵素により発酵させることにより、γ−アミノ酪酸等の有用成分を高濃度に含む発芽玄米エキスを製造することを特徴としている。
【0007】
請求項2の発芽玄米エキスの製造方法の発明は、発芽させた玄米を蒸すことなく、麹菌胞子を添加して麹米とし、それを腐植物質水に浸漬して、常温域にて、麹液体発酵させることにより、発芽玄米自体の酵素と麹菌酵素の発酵力により、γ−アミノ酪酸等の有用成分を高濃度に含む発芽玄米エキスを製造することを特徴としている。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1または2に記載の発芽玄米エキスの製造方法であって、常温域が、5〜45℃であることを特徴としている。
【0009】
請求項4の発明は、請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の発芽玄米エキスの製造方法であって、腐植物質水の濃度が、1g/100L(リットル)〜1g/10000Lであり、発芽玄米に対する腐植物質水の添加量が、発芽玄米10gに対し、腐植物質水10〜100mL(ミリリットル)であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発芽玄米エキスの製造方法の発明は、発芽させた玄米を加熱処理することなく、腐植物質水に浸漬し、常温域にて、発芽玄米自身の持つ酵素により発酵させることにより、γ−アミノ酪酸等の有用成分を高濃度に含む発芽玄米エキスを製造するもので、請求項1の発明によれば、発芽玄米を加熱処理しないため原料の発芽玄米が本来持っているビタミン類や酵素が保持されることにより、γ−アミノ酪酸等の機能性有用成分が、本発酵法により増量し、現在、上市されている米類発酵物または発芽米類に比べ、より豊富にアミノ酸類やビタミン類を含んだ機能性の高い米類発酵エキスを製造することができる。腐植物質水を使用することによってエキスの腐敗を防止することができ、また、原料を加熟しないで、常温にて発酵させるため、省エネとともに環境にやさしい製造が可能であるという効果を奏する。
【0011】
請求項2の発芽玄米エキスの製造方法の発明は、発芽させた玄米を蒸すことなく、麹菌胞子を添加して麹米とし、それを腐植物質水に浸漬して、常温域にて、麹液体発酵させることにより、発芽玄米自体の酵素と麹菌酵素の発酵力により、γ−アミノ酪酸等の有用成分を高濃度に含む発芽玄米エキスを製造する
もので、請求項2の発明によれば、さらに、麹菌胞子を添加し麹米にすることにより、発芽玄米自体の酵素と麹菌の酵素の発酵力により、γ−アミノ酪酸等の有用成分をより一層増量することができるという効果を奏する。
【0012】
請求項3の発明は、請求項1または2に記載の発芽玄米エキスの製造方法であって、常温域が、5〜45℃であることを特徴とするもので、請求項3の発明によれば、常温域を上記の範囲内に設定することにより、原料を含め、加熱工程が無いため、原料の発芽玄米が本来持っているビタミン類が保持されることにより、現在、上市されている米類発酵物または発芽米類に比べ、より豊富にアミノ酸類やビタミン類を含んだ機能性の高い米類発酵エキスを提供することができるという効果を奏する。
【0013】
請求項4の発明は、請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の発芽玄米エキスの製造方法であって、腐植物質水の濃度が、1g/100L〜1g/10000Lであり、発芽玄米に対する腐植物質水の添加量が、発芽玄米10gに対し、腐植物質水10〜100mLであるもので、請求項4の発明によれば、腐植物質水の濃度、および発芽玄米に対する腐植物質水の添加量を上記の範囲内に設定することにより、γ−アミノ酪酸等の機能性有用成分が、本発酵法により大幅に増量して、現在、上市されている米類発酵物または発芽米類に比べ、より豊富にアミノ酸類やビタミン類を含んだ機能性の高い米類発酵エキスを製造することができる。腐植物質水を使用することによってエキスの腐敗を防止することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
つぎに、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0015】
本発明による発芽玄米エキスの製造方法の1つは、発芽させた玄米を加熱処理することなく、腐植物質水に浸漬して、常温域にて、発芽玄米自身の持つ酵素により発酵させることにより、γ−アミノ酪酸等の有用成分を高濃度に含む発芽玄米エキスを製造するものである。
【0016】
上記の本発明の発芽玄米エキスの製造方法において、「腐植物質水」とは、つぎのようなものである。
【0017】
すなわち、腐植物質は、古代に堆積した動植物遺体が、比較的低温、低酸素の雰囲気の水中に長年月置かれた間に細菌やその他の微生物の働きによって酵素作用・分解・再合成が繰り返された結果、多種類の糖類・ァミノ酸・ビタミン・カルボン酸の他、鉄、アルミニウム・カルシウム等のミネラル分を含む極めて複雑な天然の腐植泥となったものである。その腐植泥が溶解した水を「腐植物質水」という。腐植泥の主成分である腐植酸は、数多くの酸性物質の集合体で、水溶液はpH2.5前後の値を示す。
【0018】
本発明の発芽玄米エキスの製造方法では、このような腐植物質水を使用することによって、エキスの腐敗を防止することができるとともに、加熱工程が無いため原料が本来持っている酵素やビタミン類が保持されることにより、γ−アミノ酪酸等の機能性有用成分が本発酵法により増量し、現在、上市されている米類発酵物または発芽米類に比べ、より豊富にアミノ酸類やビタミン類を含んだ機能性の高い米類発酵エキスを製造することができる。
【0019】
さらに、麹菌胞子を添加して麹米とし、腐植物質水に浸漬することにより、常温域にて、麹液体発酵させることにより、発芽玄米自体の酵素と麹菌の酵素の発酵力により、γ−アミノ酪酸等の有用成分をより一層増量することができる。
【0020】
そして、本発明の方法においては、原料を加熟しないこと、常温にて発酵させるため省エネおよび環境にやさしい製造が可能である。常温域は、5〜45℃であることが好ましい。
【0021】
本発明による発芽玄米エキスの製造方法において、腐植物質水の濃度が、1g/100L〜1g/10000L、好ましくは1g/1000L〜1g/5000Lであり、発芽玄米に対する腐植物質水の添加量が、発芽玄米10gに対し、腐植物質水10〜100mL、好ましくは腐植物質水20〜30mLである。
【0022】
ここで、腐植物質水の濃度が、1g/10000L未満であれば、腐敗を防止する効果が薄れるので、好ましくない。また、腐植物質水の濃度が、1g/100Lを超えると、発酵効果が弱くなり、好ましくない。
【0023】
また、発芽玄米に対する腐植物質水の添加量が、発芽玄米10gに対し、上記腐植物質水10mL未満であれば、抽出を効果的に行わせるのに必要な水量として不足するので、好ましくない。また、発芽玄米に対する腐植物質水の添加量が、発芽玄米10gに対し、上記腐植物質水100mLを超えると、エキスの濃度が薄くなり、好ましくない。
【0024】
本発明による発芽玄米エキスの製造方法のいま1つは、発芽させた玄米を蒸すことなく、麹菌胞子を添加して麹米とし、それを腐植物質水に浸漬して、常温域にて、麹液体発酵させることにより、発芽玄米自体の酵素と麹菌の酵素の発酵力により、γ−アミノ酪酸等の有用成分を高濃度に含む発芽玄米エキスを製造するものである。
【実施例】
【0025】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではな
い。
【0026】
実施例1
図1は、本発明による発芽玄米エキスの製造方法の実施形態の一例を示すフローシートである。
【0027】
まず、発芽させた玄米100gを加熱処理することなく、濃度1g/1000Lの腐植物質水(商品名リプロウォータ、東洋薬効研究所製)に、発芽玄米100gに対し、250m1相当の割合で浸漬し、常温域である30℃に保持して、発芽玄米自身の持つ酵素により3週間発酵させることにより、γ−アミノ酪酸等のエキスを製造し、アミノ酸成分1150mg/(発芽玄米100g)を抽出した。
【0028】
得られたアミノ酸成分を、アミノ酸アナライザー(商品名・L−8500、日立製作所社製)および元素分析装置ICP−OES(商品名・VISTA−MPX、セイコー&ヴァリアン社製)により分析したところ、γ−アミノ酪酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシン、およびアラニン等が含まれており、これらの成分の原料100g当たりの含有量(mg)を、下記の表1に示した。
【0029】
なお、具体的な数値の記載は省略したが、本発明の方法によれば、加熱工程が無いため、発芽玄米の原料が本来持っているビタミン類が破壊されることなく、充分に保持されていた。
【0030】
比較例1
比較のために、上記実施例1の場合と同様に実施するが、実施例1の場合と異なる点は、発芽させた玄米を腐植物質水に浸漬しなかった点にある。
【0031】
この発芽玄米を、上記実施例1の場合と同様に、30℃に保持して、発芽玄米自身の持つ酵素により発酵させたところ、2〜3日で腐敗し、アミノ酸成分を取得することはできなかった。
【表1】

【0032】
上記表1の結果から明らかなように、本発明の実施例1による発芽玄米エキスの製造方法によれば、γ−アミノ酪酸等の機能性有用成分が、本発酵法により大幅に増量し、また加熱工程が無いため原料が本来持っているビタミン類が保持されることにより、現在、上市されている米類発酵物または発芽米類に比べ、より豊富にアミノ酸類やビタミン類を含んだ機能性の高い米類発酵エキスを製造することができた。腐植物質水を使用することによってエキスの腐敗を防止することができ、また、原料を加熱しないで、常温にて発酵させるため、省エネおよび環境にやさしい製造が可能となった。
【0033】
実施例2
図2は、本発明による発芽玄米エキスの製造方法の実施形態のいま1つの例を示すフローシートである。
【0034】
まず、発芽させた玄米100gを室温で水に浸漬した後、蒸さないで、発芽玄米100gに対し、100mg相当の割合で種麹(商品名・醤油用旭菌、株式会社 菱六製)を植菌し、常温域である30℃に保持して、2日間培養させた。
【0035】
ついで、麹米化した発芽玄米を、濃度1g/1000Lの腐植物質水(商品名リプロウォータ、東洋薬効研究所製)に、発芽玄米100gに対し、250m1相当の割合で浸漬し、常温域である30℃に保持して、発芽玄米自身の持つ酵素および麹菌の酵素により3週間発酵させることにより、γ−アミノ酪酸等のエキスを製造し、アミノ酸成分2070mg/(発芽玄米100g)を抽出した。
【0036】
得られたアミノ酸成分を、アミノ酸アナライザー(商品名・L−8500、日立製作所)および元素分析装置ICP−OES(商品名・VISTA−MPX、セイコー&ヴァリアン社製)により分析したところ、γ−アミノ酪酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシン、およびアラニン等が含まれており、これらの成分の原料100g当たりの含有量(mg)を、下記の表2に示した。
【0037】
なお、具体的な数値の記載は省略したが、本発明の方法によれば、加熱工程が無いため、発芽玄米の原料が本来持っているビタミン類が破壊されることなく、充分に保持されていた。
【0038】
比較例2
比較のために、上記実施例2の場合と同様に実施するが、実施例2の場合と異なる点は、麹米化させた発芽玄米を腐植物質水に浸漬しなかった点にある。
【0039】
この麹米化させた発芽玄米を、上記実施例1の場合と同様に、30℃に保持して、発芽玄米自身の持つ酵素および麹菌の酵素により発酵させたところ、2〜3日で腐敗し、アミノ酸成分を取得することはできなかった。
【表2】

【0040】
上記表2の結果から明らかなように、本発明の実施例2による発芽玄米エキスの製造方法によれば麹菌胞子を添加し麹米とし、それを腐植物質水に浸漬させて、常温域にて、麹液体発酵させることにより、発芽玄米自体の酵素と麹菌の酵素の発酵力により、γ−アミノ酪酸等の有用成分をより一層増量することができた。また加熱工程が無いため原料が本来持っているビタミン類が保持されることにより、現在、上市されている米類発酵物または発芽米類に比べ、より豊富にアミノ酸類やビタミン類を含んだ機能性の高い米類発酵エキスを製造することができた。腐植物質水を使用することによってエキスの腐敗を防止することができ、また、原料を加熱しないで、常温にて発酵させるため、省エネおよび環境にやさしい製造が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明による発芽玄米エキスの製造方法の実施形態の一例を示すフローシートである。
【図2】本発明による発芽玄米エキスの製造方法の実施形態のいま1つの例を示すフローシートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発芽させた玄米を加熱処理することなく、腐植物質水に浸漬し、常温域にて、発芽玄米自身の持つ酵素により発酵させることにより、γ−アミノ酪酸等の有用成分を高濃度に含む発芽玄米エキスを製造することを特徴とする、発芽玄米エキスの製造方法。
【請求項2】
発芽させた玄米を蒸すことなく、麹菌胞子を添加して麹米とし、それを腐植物質水に浸漬して、常温域にて、麹液体発酵させることにより、発芽玄米自体の酵素と麹菌酵素の発酵力により、γ−アミノ酪酸等の有用成分を高濃度に含む発芽玄米エキスを製造することを特徴とする、発芽玄米エキスの製造方法。
【請求項3】
常温域が、5〜45℃であることを特徴とする、請求項1または2に記載の発芽玄米エキスの製造方法。
【請求項4】
腐植物質水の濃度が、1g/100L〜1g/10000Lであり、発芽玄米に対する腐植物質水の添加量が、発芽玄米10gに対し、腐植物質水10〜100mLであることを特徴とする、請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の発芽玄米エキスの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−153429(P2009−153429A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−334230(P2007−334230)
【出願日】平成19年12月26日(2007.12.26)
【出願人】(507422529)BI0−ROOT株式会社 (1)
【Fターム(参考)】