説明

発芽玄米麹のγ−アミノ酪酸富化方法及びγ−アミノ酪酸富化発芽玄米麹

【課題】破砕処理されない麹菌を用いる発芽玄米麹のγ−アミノ酪酸富化方法及びGABAの含有量が富化されたγ−アミノ酪酸富化発芽玄米麹を提供すること。
【解決手段】(1)発芽玄米を水に浸漬して吸水させ、(2)その後、発芽玄米を水切りした後、蒸煮し、(3)蒸煮後、発芽玄米に種麹を植菌し、(4)麹菌が生育し始めたら、発芽玄米麹に散水して所定の水分量に維持させ、(5)所定温度で培養する、ことを特徴とする発芽玄米麹のγ−アミノ酪酸富化方法。製麹による発芽玄米100g当たりのγ−アミノ酪酸の含有量が100mg以上であることを特徴とするγ−アミノ酪酸富化発芽玄米麹。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、破砕処理されない麹菌を用いる発芽玄米麹のγ−アミノ酪酸の含有量を富化させる方法及びγ−アミノ酪酸富化発芽玄米麹に関する。
【背景技術】
【0002】
γ−アミノ酪酸(以下、GABAともいう)は、自然界に広く分布するアミノ酸の一種で、ほ乳類の中枢神経における抑制系の神経伝達物質として知られている。GABAは、生体内においてグルタミン酸が脱炭酸されて生成され、大脳基底膜、視床下部、黒質等に高濃度に存在し、血圧降下作用、精神安定作用、腎機能活性化作用、肝機能改善作用、肥満防止作用、アルコール代謝促進作用、排尿機能改善作用等の生理作用が知られている。
したがって、高齢化社会の到来や健康志向と相まって、今日、GABAは健康を増進、促進する成分として注目を集めている。
【0003】
従来、植物のγ−アミノ酪酸の富化方法に関する提案(特許文献1参照)、γ−アミノ酪酸富化発芽玄米の製造方法および該発芽玄米を含有する食品に関する提案(特許文献2参照)、麹菌を利用したγ−アミノ酪酸富化食品の製造方法に関する提案(特許文献3参照)等がある。
【特許文献1】特開2004−24229号公報
【特許文献2】特開2004−159617号公報
【特許文献3】特開平11−103825号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の発明は、麹菌を用いない発芽玄米以外の植物におけるγ−アミノ酪酸の富化方法に関する。特許文献2に記載の発明は、麹菌を用いない発芽玄米のγ−アミノ酪酸の富化方法に関する。特許文献3に記載の発明は、グルタミン酸及びその塩の含有割合の比較的高い食品素材に麹菌を添加し、その混合物を含水状態に維持し、更に該麹菌を破砕処理することによってもたらされる反応で該グルタミン酸と麹菌内に含まれるグルタミン酸デカルボキシラーゼとの反応を促し、食品素材中のグルタミン酸をγ−アミノ酪酸に変換するものであるが、破砕処理されない麹菌を用いることにより発芽玄米のγ−アミノ酪酸を富化させる具体的方法については明らかでない。
【0005】
本発明は、上記の事情に基づきなされたもので、破砕処理されない麹菌を用いる発芽玄米麹のγ−アミノ酪酸富化方法を提供することを課題とする。また、GABAの含有量が富化されたγ−アミノ酪酸富化発芽玄米麹を提供することを課題とする
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するための本発明は、(1)発芽玄米を水に浸漬して吸水させ、(2)その後、発芽玄米を水切りした後、蒸煮し、(3)蒸煮後、発芽玄米に種麹を植菌し、(4)麹菌が生育し始めたら、発芽玄米麹に散水して所定の水分量に維持させ、(5)所定温度で培養する、ことを特徴とする発芽玄米麹のγ−アミノ酪酸富化方法を要旨とする。麹菌が生育し始めたらとは、菌の生育に伴う発熱により品温が上昇し始め、発芽玄米の表面を菌糸が覆い白くなりだした状態をいう。また、この発明において、所定の水分量は発芽玄米麹の32.5〜60.0重量%としても良い。所定温度を25.0〜45.0℃としても良い。培養時間を種麹を植菌後、48〜96時間としても良い。培養の際に発芽玄米麹に通風させないこと、あるいは断続通風することとしても良い。
【0007】
また、本発明は、製麹された発芽玄米100g当たりのγ−アミノ酪酸の含有量が100mg以上であることを特徴とするγ−アミノ酪酸富化発芽玄米麹を要旨とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の麹菌を用いる発芽玄米麹のγ−アミノ酪酸富化方法は、GABAの含有量が富化された発芽玄米麹を製造できるので、高機能性の食品素材を効率的に製造できる。また、本発明のγ−アミノ酪酸富化発芽玄米麹は、GABAの含有量が富化されるので、高機能性の食品素材として様々な食品、飲料等に添加できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の発芽玄米麹のγ−アミノ酪酸富化方法は、まず発芽玄米を水に浸漬して吸水させる。水に浸漬させる時間は、16〜24時間が好ましい。この浸漬時間で十分に吸水させることができるからである。発芽玄米は、市販されているものを限定なく用いることができる。
【0010】
次いで、発芽玄米を水切りした後、蒸煮する。蒸煮は加圧下に行うのが好ましい。蒸煮後、発芽玄米に種麹を植菌する。麹菌は、市販されるものを限定なく用いることができる。本発明における種麹菌の添加量は、通常、原料の発芽玄米100kgに対して種麹菌30〜35gを用いるが、適宜、種麹菌の割合を増減しても良い。
【0011】
麹菌が生育し始めたら、発芽玄米麹に散水して所定の水分量に維持する。所定の水分量は、発芽玄米麹の32.5〜60.0重量%が好ましく、35.0〜47.5重量%がより好ましい。水分量が32.5〜60.0重量%の範囲内にあればGABAの含有量が高くなるからである。
【0012】
培養温度は、25.0〜45.0℃が好ましく、37.0〜42.5℃がより好ましい。25℃より低い温度と45.0℃より高い温度では種麹菌が十分に生育しないからである。種麹の植菌後の培養時間は48〜96時間が好ましく、64〜88時間がより好ましい。48時間より短いと麹菌の生育が不十分となり、96時間より長いとGABAの含有量が低下するからである。
【0013】
培養に際しては、発芽玄米麹に通風をしないことが好ましく、通風する場合は断続的に行うのが好ましい。通風は、通風手段を備えた製麹装置を用いることにより行うことができるが、これに限定されない。
【0014】
以上、説明した発芽玄米麹のγ−アミノ酪酸富化方法により得られる発芽玄米の100g当たりのγ−アミノ酪酸の含有量は、少なくとも70mg以上となる。また、水分量、培養温度、培養時間、通風条件を好適に設定することにより、発芽玄米麹は100mg以上、好ましくは120mg以上、より好ましくは150mg以上と高いGABAを含有させることができる。
【実施例】
【0015】
次いで、本発明を実施例を挙げて説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0016】
〔実施例1〕(発芽玄米麹の水分量とGABAの含有量)
発芽玄米は、山口県宇部産はいみのり(ドーマー社製)を使用した。6kgの発芽玄米を洗米後、水に24時間浸漬させ、発芽玄米に十分量吸水させた。その後、発芽玄米の水を切り、3気圧で20分間、蒸煮処理した。蒸煮後の発芽玄米6kgに対して種麹菌(ビオック社製、液化仕込み用種麹菌)7.876gを植菌した。
【0017】
植菌後、30〜35℃の蒸し米初発品温にて中型培養機を用い培養を開始した。24時間後には37〜39℃へと品温が上昇し、蒸煮した発芽玄米に麹菌が生育し始めた。該発芽玄米麹に散水した後、培養を継続し発芽玄米麹の水分量を測定した。散水は、植菌後24時間経過した6kgの発芽玄米麹を600gずつに分け、それぞれの発芽玄米麹に対して表1に示す各水分量となるように行い、それぞれを37℃で定温培養を行い、断続通風にて更に24時間培養を継続した。水分量は、5gの発芽玄米麹を採取して、乾燥機にて105℃で5時間乾燥させ、その乾燥後の重量から減量を水分量に換算して行った。
【0018】
【表1】

【0019】
培養終了後の発芽玄米麹を水分10重量%まで乾燥させ、各乾燥物のGABAの含有量を測定した。GABAの含有量の測定は、乾燥物を粉砕抽出したものを高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて行った。定量は、和光純薬社製のGABAをブランクとして、アミノ酸に蛍光物質を吸着させて出てくるアミノ酸−蛍光物質複合体を蛍光検出器(Gilson社製)にて行った。結果は、図1に示した。
【0020】
図1より、40.0重量%の水分量におけるGABAの含有量は168mgであり、最適な水分量は40.0重量%前後であることが明らかとなった。また、GABAの含有量は、水分量が32.5重量%の場合が83mgで、60.0重量%の場合が88mgであった。対照として示した散水しない場合の発芽玄米麹の水分量は30.0重量%と25.0重量%であり、GABAの含有量は各々65mgと47mgであった。GABAの生産は、グルタミン酸デカルボキシダーゼ(GAD)がグルタミン酸をGABAへ変換するさせるものであるが、上記の結果より適切な水分量が麹菌よりGADの生産を促進させ、GABAを多量に生産させるものと推測された。
【0021】
〔実施例2〕(発芽玄米麹の培養温度とGABAの含有量)
実施例1と同様に、24時間まで製麹を行い、散水により発芽玄米麹の水分量を40.0重量%に調整し、その後、表2に示す各培養温度で連続通風にて更に24時間培養を継続した。
【0022】
【表2】

【0023】
培養終了後の発芽玄米麹を水分10重量%まで乾燥させ、各乾燥物のGABAの含有量を実施例1と同様に測定した。結果は、図2に示した。
【0024】
図2より、39.0℃のGABA含有量は187mgで、最適な培養温度は39.0℃前後であった。
また、GABAの含有量は、25℃で73mg、42.5℃で148mgであった。GADの触媒反応の最適温度は、38℃付近であることが知られている。このことより、麹菌からのGADの生産を促進しながら、更にGADのグルタミン酸への反応速度を速めることによって発芽玄米中のGABA濃度を高めることができるものと推測された。
【0025】
〔実施例3〕(発芽玄米麹の通風条件とGABAの含有量)
実施例1と同様に、植菌後24時間経過した発芽玄米麹に散水し、水分量を40.0重量%にした。その後、表3に示す39℃の培養温度でそれぞれの発芽玄米麹に通風なし、断続通風、連続通風の条件下でそれぞれ更に24時間培養を継続した。
【0026】
【表3】

【0027】
培養終了後の発芽玄米麹を水分10重量%まで乾燥させ、各乾燥物のGABAの含有量を実施例1と同様に測定した。結果は、図3に示した。
【0028】
図3より、発芽玄米麹の培養は通風しない場合の方がGABAの含有量が高くなった。
通風する場合は断続的に行う方が連続して通風する場合よりGABAの含有量が高くなった。以上のことより発芽玄米麹の培養に際して断続通風が好ましく、通風しないことがより好ましいことが示唆された。
【0029】
〔実施例4〕(発芽玄米麹の培養時間とGABAの含有量)
水分量40重量%、培養温度39.0℃、通風なしの条件下で植菌後培養を104時間行い、0、24、48、64、72、88、96、104時間の各時間毎にそれぞれサンプリングした発芽玄米麹を水分10重量%まで乾燥させ、各乾燥物中のGABAの含有量を実施例1と同様に測定した。
なお、散水は実施例1と同様に植菌後24時間経過した発芽玄米麹に行った。結果は、図4に示した。
【0030】
図4より、培養時間は72時間を中心としてこの培養時間前後でGABAの含有量が高くなり、72時間では320mgまで増加した。また、64時間で294mg、88時間で235mgであった。一方、72時間より更に培養を継続することによって、GABAの含有量が次第に減少していった。
以上のことより、発芽玄米麹中のGABAの含有量を増加させるためには、ある一定以上の培養時間が必要である一方、培養時間が長すぎると逆に発芽玄米麹中のGABAの含有量が減少することが示唆された。
【0031】
〔実施例5〕(各条件下でのGABAの含有量)
実施例1と同様に発芽玄米に麹菌を植菌後24時間経過した発芽玄米麹を図5に示す各条件で更に24時間培養を継続した。
【0032】
図5より、水分量40重量%、培養温度39.0℃、通風なし最適な条件下でのGABAの含有量は、他の条件下でのGABAの含有量に比べ、顕著に高い含有量であった。これにより、本発明のGABA富化方法はGABAの生成に極めて優れることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】発芽玄米麹の水分量とGABAの含有量との関係を示すグラフである。
【図2】発芽玄米麹の培養温度とGABAの含有量との関係を示すグラフである。
【図3】発芽玄米麹の対する通風条件とGABAの含有量との関係を示すグラフである。
【図4】発芽玄米麹の培養時間とGABAの含有量との関係を示すグラフである。
【図5】各条件下でのGABAの含有量を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)発芽玄米を水に浸漬して吸水させ、(2)その後、発芽玄米を水切りした後、蒸煮し、(3)蒸煮後、発芽玄米に種麹を植菌し、(4)麹菌が生育し始めたら、発芽玄米麹に散水して所定の水分量に維持させ、(5)所定温度で培養する、ことを特徴とする発芽玄米麹のγ−アミノ酪酸富化方法。
【請求項2】
所定の水分量が発芽玄米麹の32.5〜60.0重量%である請求項1に記載の発芽玄米麹のγ−アミノ酪酸富化方法。
【請求項3】
所定温度が25.0〜45.0℃である請求項1又は請求項2に記載の発芽玄米麹のγ−アミノ酪酸富化方法。
【請求項4】
培養時間が種麹を植菌後、48〜96時間である請求項1〜請求項3のいずれかに記載の発芽玄米麹のγ−アミノ酪酸富化方法。
【請求項5】
培養の際に発芽玄米麹に通風させないこと、あるいは断続通風することを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の発芽玄米麹のγ−アミノ酪酸富化方法。
【請求項6】
製麹による発芽玄米100g当たりのγ−アミノ酪酸の含有量が100mg以上であることを特徴とするγ−アミノ酪酸富化発芽玄米麹。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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