説明

発酵乳およびその製造方法

【課題】通常の発酵乳の製造方法と何ら変わらない方法で製造することが可能であり、乳難発酵性腸管由来乳酸菌の菌数やプロバイオティクス(腸管由来乳酸菌)の総菌数の含有率が高められた発酵乳を提供する。
【解決手段】以下の乳酸菌(A)及び(B)を含有し、乳酸菌(A)の菌数が少なくとも0.8×10CFU/ml、乳酸菌(A)と(B)との合計菌数が少なくとも4.8×10CFU/mlである発酵乳。
(A)1重量%の果糖を添加した脱脂乳に10CFU/mlになるように乳酸菌を接種し24時間培養した時の酸度が0.5重量%未満の乳酸酸度である性質を有する乳難発酵性腸管由来乳酸菌
(B)ラクトバチルス・ラムノーサス(Lactobacillus rhamnosus)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発酵乳およびその製造方法に関し、詳しくは、いわゆる乳難発酵性腸管由来乳酸菌を含有する発酵乳およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発酵乳や乳酸菌飲料は、良好な風味を有し、デザートとして広く消費者に飲食されている。また、これらは、便秘防止、下痢改善などの整腸作用、感染症の予防、免疫賦活作用など、健康上好ましい保健効果も有する健康食品として注目されている。発酵乳や乳酸菌飲料の保健効果は、どのような乳酸菌でも同じような効果を示すものではないと考えられている。
【0003】
近年、胃酸、胆汁酸に抵抗性を示し、人の腸管内で生存可能で、消化管内微生物叢を改善することにより宿主に対して有益な保健効果を示す乳酸菌は、プロバイオティクス(乳酸菌)と呼ばれるようになっている。その多くは、動物の腸管に生息する腸管由来乳酸菌である。代表的な腸管由来乳酸菌としては、Lactobacillus acidophilus(以下、LactobacillusはL.と表示する)、L.gasseri、L.johnsonii、L.crispatus、L.casei、L.paracasei、L.salivarius、L.rhamnosus等が知られている。そして、斯かる腸管由来乳酸菌を利用した乳酸菌製剤の製造法(特許文献1)や非加熱食肉製品(特許文献2)が提案されている。
【0004】
【特許文献1】特開平5−292947号公報
【特許文献2】特許第3034451号公報
【0005】
上記とは対照的に、これまで、一般的に発酵乳や乳酸菌飲料には、乳中での増殖に適した腸管由来乳酸菌以外の乳酸菌が好まれて使用されている。代表的なものとしては、L.bulgaricus、Streptococcus thermophilus、L.helveticus、Lactococcus等が知られている。これらの乳酸菌は、胃酸、胆汁酸により死滅し生きた状態で腸管に定着しないことから、前述の整腸作用、下痢予防作用、感染症予防作用、免疫賦活作用などの保健効果は、腸管由来乳酸菌よりも弱いと一般的に考えられている。
【0006】
本来、動物腸管内に生息する場合が多い腸管由来乳酸菌には、脱脂乳のような乳中での乳酸発酵が極めて悪い菌株が存在する。乳酸発酵が悪いと乳酸菌数が低いのみならず、乳酸酸度も低値となり、発酵乳の製造には適さない。このような乳難発酵性腸管由来乳酸菌は、脱脂乳などの乳中で増殖させて利用することが著しく困難である。また、酵母エキス、大豆エキス、乳タンパク分解物などの増殖促進材を添加することにより増殖する場合もあるが、その場合でも増殖促進剤によって風味が好ましくない状態になることがあり、その添加量は制限される。また、乳難発酵性腸管由来乳酸菌含有発酵乳の製造は、L.bulgaricusやStreptococcus thermophilusと混合培養することにより可能であるが、これらは、乳中での発酵に適しているために増殖が早くて競合作用を呈するため、乳難発酵性腸管由来乳酸菌の菌数や腸管由来乳酸菌の総菌数の含有率を高めることは期待できない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、その目的は、基本的には通常の発酵乳の製造方法と何ら変わらない方法で製造することが可能であり、乳難発酵性腸管由来乳酸菌の菌数やプロバイオティクス(腸管由来乳酸菌)の総菌数の含有率が高められた発酵乳およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、発酵乳製造において乳難発酵性腸管由来乳酸菌を高濃度に含有し、高い乳酸酸度と腸管由来乳酸菌総数を高濃度に含有させる方法について鋭意検討した結果、乳を主原料とするミックス(脱脂乳も含む)に乳難発酵性腸管由来乳酸菌とともにL.rhamnosusを添加することにより通常の発酵乳製造方法と何ら変わらない手順で、乳難発酵性腸管由来乳酸菌を高濃度に含有させ、また高い乳酸酸度を保ち、かつプロバイオティクス(腸管由来乳酸菌)の総数を増大させることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は次の通りである。
【0009】
(1)以下の乳酸菌(A)及び(B)を含有し、乳酸菌(A)の菌数が少なくとも0.8×10CFU/ml、乳酸菌(A)と(B)との合計菌数が少なくとも4.8×10CFU/mlであることを特徴とする発酵乳。
【0010】
(A)1重量%の果糖を添加した脱脂乳に10CFU/mlになるように乳酸菌を接種し24時間培養した時の酸度が0.5重量%未満の乳酸酸度である性質を有する乳難発酵性腸管由来乳酸菌
【0011】
(B)ラクトバチルス・ラムノーサス(Lactobacillus rhamnosus)
【0012】
(2)乳酸菌(A)が、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)TMC0356菌株(FERM−19232)である(1)に記載の乳酸菌。
【0013】
(3)乳酸菌(B)が、1重量%の果糖添加した脱脂乳に10CFU/mlになるように接種し、24時間培養した時の酸度が1.0重量%以上の乳酸酸度である性質を有するラクトバチルス・ラムノーサス(Lactobacillus rhamnosus)である(1)又は(2)に記載の発酵乳。
【0014】
(4)乳酸菌(B)の菌数が少なくとも4.0×10CFU/mlである(1)〜(3)の何れかに記載の発酵乳。
【0015】
(5)乳を主原料とする培養基で以下の乳酸菌(A)及び(B)を混合培養することを特徴とする請求項1に記載の発酵乳の製造方法。
【0016】
(A)1重量%の果糖を添加した脱脂乳に10CFU/mlになるように乳酸菌を接種し24時間培養した時の酸度が0.5重量%未満の乳酸酸度である性質を有する乳難発酵性腸管由来乳酸菌
【0017】
(B)ラクトバチルス・ラムノーサス(Lactobacillus rhamnosus)
【0018】
(6)乳酸菌(A)が、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)TMC0356菌株(FERM−19232)である(5)に記載の製造方法。
【0019】
(7)乳酸菌(B)が、1重量%の果糖添加した脱脂乳に10CFU/mlになるように接種し、24時間培養した時の酸度が1.0重量%以上の乳酸酸度である性質を有するラクトバチルス・ラムノーサス(Lactobacillus rhamnosus)である(5)又は(6)に記載の製造方法。
【0020】
(8)発酵乳中の乳酸菌(B)の菌数が少なくとも4.0×10CFU/mlである(5)〜(7)の何れかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、整腸効果、免疫賦活効果などの保健効果が期待される発酵乳として、基本的には通常の発酵乳の製造方法と何ら変わらない方法で製造することが可能であり、乳難発酵性腸管由来乳酸菌の菌数やプロバイオティクス(腸管由来乳酸菌)の総菌数の含有率が高められた発酵乳を提供することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
先ず、説明の便宜上、本発明に係る発酵乳の製造方法について説明する。本発明の製造方法は、特定の乳酸菌を組合せて使用する点以外は、通常の発酵乳の製造方法と同じである。すなわち、全乳または脱脂乳に脱脂粉乳などを加えて固形分を増やし、更に、安定剤、糖類などを添加し、乳酸菌で発酵させる、発酵乳の一般的な製造方法を採用することが出来る。
【0023】
本発明において、培養基としては、乳を主原料とする培養基である限り、従来公知の培養基を使用することが出来る。
【0024】
本発明において使用する乳酸菌(A)は、1重量%の果糖を添加した脱脂乳に10CFU/mlになるように乳酸菌を接種し24時間培養した時の酸度が0.5重量%未満の乳酸酸度である性質を有する乳難発酵性腸管由来乳酸菌である。
【0025】
乳酸菌(A)としては、上記の性質を有する限りその種類は特に限定されないが、ラクトバチルス属乳酸菌のうち、特に、本出願により、特開2004−277381にて既に提案されたラクトバチルス・アシドフィルス(L.acidophilus)TMC0356菌株が好適である。斯かる菌株は、上記の出願の明細書に記載された方法に従い、ラクトバチルス属乳酸菌の中から、以下に示す方法によって選抜することが出来る。
【0026】
すなわち、ヒトの消化管環境(胃酸による低pH、小腸での胆汁酸の存在)のモデル試験(耐酸性および耐胆汁性)を経て、生残性を有し、ヒト腸管由来の上皮様細胞Caco−2株(理研細胞銀行 RCB0988)と培養した際の培養細胞への付着菌数、炎症性サイトカインIL−6およびIL−8産生量を指標として選抜することが出来る。
【0027】
選抜したTMC0356菌株は、独立行政法人 産業技術総合研究所、特許生物寄託センターに寄託さており、その受託番号は「FERM P−19232」である。
【0028】
本発明において使用する乳酸菌(B)は、ラクトバチルス・ラムノーサス(L.rhamnosus)である。そして、好ましい乳酸菌(B)は、1重量%の果糖添加した脱脂乳に10CFU/mlになるように接種し、24時間培養した時の酸度が1.0重量%以上の乳酸酸度である性質を有するラクトバチルス・ラムノーサス(L.rhamnosus)である。
【0029】
乳酸菌(A)と乳酸菌(B)との使用条件は、得られる発酵乳において、乳酸菌(A)の菌数が少なくとも0.8×10CFU/ml、乳酸菌(A)と(B)との合計菌数が少なくとも4.8×10CFU/mlであり、好ましくは、発酵乳における乳酸酸度が少なくとも0.6重量%となるように、また、乳酸菌(B)の菌数が少なくとも4.0×10CFU/mlとなるように設定される。通常、乳酸菌(A):乳酸菌(B)の使用比率は1:1重量比である。
【0030】
次に、本発明の発酵乳について説明する。本発明の発酵乳は、例えば、上記のような製造方法で得られ、前述の乳酸菌(A)及び(B)を含有し、乳酸菌(A)の菌数が少なくとも0.8×10CFU/ml、乳酸菌(A)と(B)との合計菌数が少なくとも4.8×10CFU/mlであることを特徴とし、好ましい態様においては、発酵乳における乳酸酸度は少なくとも0.6重量%であり、また、乳酸菌(B)の菌数は少なくとも4.0×10CFU/mlである。なお、乳酸菌(A)及び(B)の上限は通常4.0×1010CFU/ml、乳酸菌(A)と(B)との合計菌数は通常8.0×1010CFU/ml、乳酸酸度の上限は通常2.2重量%である。
【0031】
本発明の発酵乳は、上記のように、乳難発酵性腸管由来乳酸菌の菌数やプロバイオティクス(腸管由来乳酸菌)の総菌数の含有率が高められているため、整腸効果、免疫賦活効果などの保健効果が期待される。
【実施例】
【0032】
以下、各種の試験結果に基づいて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0033】
試験例1(各種乳酸菌の培養試験):
【0034】
(1)乳酸菌:
L.acidophilus TMC0356(FERM P−19232)、L.rhamnosus LA−2(FERM BP−4442)、L.rhamnosus GG(American type culture collection :ATCC53103)、その他乳酸菌はJCM株(理化学研究所保存菌株)を使用した。
【0035】
(2)培養基:
9重量%脱脂粉乳、1重量%果糖、90重量%水から成る。通常、各成分を溶解し、121℃、15分間オートクレーブ滅菌して調製した発酵乳培養基を使用した。
【0036】
(3)培養方法および評価:
発酵乳培養基にMRS(ベクトン・ディッキンソン社製)培地で前培養した乳酸菌液を1重量%接種し10CFU/mlの乳酸菌数になるように調製した。2つの乳酸菌を混合培養する場合は、各乳酸菌数が10CFU/mlになるように調製した。37℃で24時間培養後、乳酸酸度(中和滴定法)、乳酸菌数(BCP平板培養法)を測定した。
【0037】
(4)培養試験A:
表1は、乳難発酵性腸管由来乳酸菌の代表例であるラクトバチルス アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)TMC0356菌株の単独培養試験の結果であるが、乳酸酸度が0.32重量%と低値であり乳成分も凝固せず発酵乳製造は不適であることを示している。
【0038】
【表1】

【0039】
(5)培養試験B:
表2は、腸管由来乳酸菌の代表例である各乳酸菌を接種した結果を示す。24時間培養後の乳酸酸度が1.0%の高値を示したのはL.rhamnosusのみであった。L.rhamnosusは他の腸管由来乳酸菌よりも乳を主成分とした培養基で高い乳酸酸度を示す場合が多いことが明らかである。
【0040】
【表2】

【0041】
(6)培養試験C:
表3は、乳難発酵性腸管由来乳酸菌の代表例であるL.acidophilusTMC0356とL.rhamnosusを混合培養した際の乳酸酸度を示す。混合培養した際の乳酸酸度は1重量%以上の高い乳酸酸度を示し発酵乳の製造に好適と考えられる。
【0042】
【表3】

【0043】
(7)培養試験D:
表4は、乳難発酵性腸管由来乳酸菌の代表例であるL.acidophilus TMC0356とL.rhamnosusを混合培養した際の乳酸菌数を示下す。乳難発酵性腸管由来乳酸菌は10CFU/ml以上を示し、かつ、腸管由来乳酸菌総数は10CFU/ml以上の高値を示し、プロバイオティクス発酵乳として好適となると考えられる。また、L.rhamnosusは整腸作用、腸内環境改善、抗変異原性、免疫賦活作用、感染症予防、人に有益な効果がもつことが知られており、その利用が期待される。
【0044】
【表4】

【0045】
実施例1:
脱脂粉乳(高梨乳業(株)製)270kg、砂糖60kg、果糖60kgを温水2550kgに溶解後、均質化し、115℃殺菌し、発酵乳培養基を調製した。「L.acidophilus TMC0356バルクスターター」30kgと「L.rhamnosus GG株 バルクスターター」30kgを接種し、37℃、24時間発酵させ、冷却し、発酵乳3000kgを得た。得られた発酵乳の乳酸酸度は1.0重量%であり、「L.acidophilus TMC0356」の菌数は3×10CFU/ml、「L.rhamnosus GG株」の菌数は2.7×10CFU/ml、腸管由来乳酸菌総数は3×10CFU/mlであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の乳酸菌(A)及び(B)を含有し、乳酸菌(A)の菌数が少なくとも0.8×10CFU/ml、乳酸菌(A)と(B)との合計菌数が少なくとも4.8×10CFU/mlであることを特徴とする発酵乳。
(A)1重量%の果糖を添加した脱脂乳に10CFU/mlになるように乳酸菌を接種し24時間培養した時の酸度が0.5重量%未満の乳酸酸度である性質を有する乳難発酵性腸管由来乳酸菌
(B)ラクトバチルス・ラムノーサス(Lactobacillus rhamnosus)
【請求項2】
乳酸菌(A)が、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)TMC0356菌株(FERM−19232)である請求項1に記載の乳酸菌。
【請求項3】
乳酸菌(B)が、1重量%の果糖添加した脱脂乳に10CFU/mlになるように接種し、24時間培養した時の酸度が1.0重量%以上の乳酸酸度である性質を有するラクトバチルス・ラムノーサス(Lactobacillus rhamnosus)である請求項1又は2に記載の発酵乳。
【請求項4】
乳酸菌(B)の菌数が少なくとも4.0×10CFU/mlである請求項1〜3の何れかに記載の発酵乳。
【請求項5】
乳を主原料とする培養基で以下の乳酸菌(A)及び(B)を混合培養することを特徴とする請求項1に記載の発酵乳の製造方法。
(A)1重量%の果糖を添加した脱脂乳に10CFU/mlになるように乳酸菌を接種し24時間培養した時の酸度が0.5重量%未満の乳酸酸度である性質を有する乳難発酵性腸管由来乳酸菌
(B)ラクトバチルス・ラムノーサス(Lactobacillus rhamnosus)
【請求項6】
乳酸菌(A)が、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)TMC0356菌株(FERM−19232)である請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
乳酸菌(B)が、1重量%の果糖添加した脱脂乳に10CFU/mlになるように接種し、24時間培養した時の酸度が1.0重量%以上の乳酸酸度である性質を有するラクトバチルス・ラムノーサス(Lactobacillus rhamnosus)である請求項5又は6に記載の製造方法。
【請求項8】
発酵乳中の乳酸菌(B)の菌数が少なくとも4.0×10CFU/mlである請求項5〜7の何れかに記載の製造方法。

【公開番号】特開2007−28920(P2007−28920A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−212775(P2005−212775)
【出願日】平成17年7月22日(2005.7.22)
【出願人】(395008506)ニューフード・クリエーション技術研究組合 (5)
【Fターム(参考)】