説明

発酵促進基材および被処理物の処理方法

【課題】 汚泥状の塗料粕等の処理に利用される好気性微生物群を、手軽に提供できるようにする。
【解決手段】 本発明の発酵促進基材は、被処理物を微生物で処理できるように、好気性微生物群を繁殖させた菌繁殖資材と、被処理物に適宜な隙間を与える副資材とを備える。そして、これら菌繁殖資材と副資材とを混合して固めること、また、さらにその表面を乾燥させて、表面で好気性微生物群の繁殖を抑制していることはそれぞれ有効である。
本発明の被処理物の処理方法は、被処理物に発酵促進基材を投入して、被処理物の含水率を調整する含水率調整工程と、発酵促進基材に含まれる好気性微生物群の発酵熱で被処理物を形状変化させるとともに減量させる処理工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚泥状の塗料粕等の処理技術に関する。
【背景技術】
【0002】
車や家具等の素材には塗料が塗布され、これにより、素材が保護され美粧されている。しかし、塗料を素材に塗布する施設では、大量の塗料粕が汚泥状態で排出されており、その処理に莫大なコストや手間を掛けているのが現状である。このような事情から、本出願人は、好気性微生物による塗料粕汚泥の改良、原料化技術(特開2004−167468号公報)を開示し、好気性微生物の発酵熱を活用することにより、形状改良及び減量への処理コストが著しく低減できる経済効率の高い処理技術を開示している。他方、このような技術に関連して、特開平11−314095号公報には、塗装廃液の微生物処理装置が開示されている。この装置は、塗装廃液の廃液処理に有効な微生物が固定化される担体を微生物収容器に収容し、通気攪拌しながら栄養物を供給して前記微生物を増殖し、処理水槽内に塗装廃液を導入して処理することで有害汚濁物質を凝集させ、処理済み液を濾過手段で濾過して凝集物を取り除くものである。この公報には、微生物が固定化される担体が、多孔質セラミックス、発泡性樹脂、不織布等の多孔質材料であることが記載されている。
【特許文献1】特開2004−167468号公報
【特許文献2】特開平11−314095号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
汚泥状の塗料粕等を取り扱い易い形状とする際に利用される好気性微生物群を、手軽に提供できるようにする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
請求項1記載の発酵促進基材は、被処理物に混合させて利用される基材であって、被処理物を微生物で処理できるように、好気性微生物群を繁殖させた菌繁殖資材と、被処理物に適宜な隙間を与える副資材と、を備えていることを特徴とする。
請求項2記載の発明は、前記菌繁殖資材を中心にして前記副資材をその周囲に配設したことを特徴とする。
請求項3記載の発明は、前記菌繁殖資材に前記副資材を混ぜて混合物とし、該混合物を固めたことを特徴とする。
請求項4記載の発明は、前記混合物の表面を乾燥させ、表面で前記好気性微生物群の繁殖を抑制していることを特徴とする。
請求項5記載の発明は、前記副資材が、籾殻及び/又は木材チップであることを特徴とする。
請求項6記載の発明は、米ぬか、糖蜜の内、少なくとも1つを前記菌繁殖資材もしくは前記副資材に含ませたことを特徴とする。
請求項7記載の発明は、前記好気性微生物群が、前記被処理物を分解する微生物を含むことを特徴とする。
【0005】
請求項8記載の被処理物の処理方法は、被処理物に請求項1ないし7の何れかに記載の発酵促進基材を投入して前記被処理物の含水率を調整する含水率調整工程と、前記発酵促進基材に含まれる好気性微生物群の発酵熱で前記被処理物を形状変化させるとともに減量させる処理工程と、を含むことを特徴とする。
請求項9記載の発明は、前記被処理物が、汚泥状の塗料粕であることを特徴とする。
請求項10記載の発明は、前記被処理物を分解して繁殖する微生物が含まれるように、前記被処理物の処理後の残渣物を、前記発酵促進基材に含ませる製造工程が含まれていることを特徴とする。
請求項11記載の発明は、前記製造工程が、前記被処理物の処理後の残渣物から前記被処理物を分解する微生物を選別し、これを前記発酵促進基材に含ませていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の発酵促進基材は、好気性微生物群を繁殖させた菌繁殖資材と、被処理物に適宜な隙間を与える副資材とを備えていることにより、発酵促進基材を被処理物に混ぜて、被処理物に微生物の発酵熱を作用させることができる。そして、菌繁殖資材を中心にし、副資材をその周囲に配設した場合には、副資材が好気性微生物群を繁殖させた菌繁殖資材を保護し、且つ、取り扱いが容易な発酵促進基材となる。
また、菌繁殖資材に副資材を混ぜて混合物とし、該混合物を固めて発酵促進基材を構成することもでき、これにより、取り扱いが容易な発酵促進基材とすることもできる。このように菌繁殖資材に副資材を混ぜて混合物とした場合には、その混合物の表面を乾燥させ、表面で好気性微生物群の繁殖を抑制するのが良い。
副資材は、籾殻及び/又は木材チップであることにより、菌繁殖資材を保護し、且つ、被処理物に適宜な隙間を与えることができる。
菌繁殖資材もしくは副資材が、米ぬか、糖蜜の内、少なくとも1つを含むようになることで、好気性微生物群が活発に活動するようになる。
好気性微生物群が、被処理物を分解する微生物を含むことにより、被処理物に微生物の発酵熱を作用させる処理に加えて、被処理物の分解を微生物で促進させることができるようになるので、被処理物の処理性能が向上する。
【0007】
本発明の被処理物の処理方法において、含水率調整工程により、好気性微生物群が活発に活動できる条件が整えられ、これにより、好気性微生物群の発酵熱が利用できるものになる。すなわち、好気性微生物群の発酵熱で被処理物を形状変化させるとともに減量させる処理工程が達成される。そして、この方法は、塗料粕を燃焼させて処理する方法に比較して、化石燃料や電力の使用が節約できるものであり、地球環境の保全に役立つ。
また、このような処理方法は、汚泥状の塗料粕(被処理物)を処理する方法として、好適である。
被処理物の処理後の残渣物を、発酵促進基材に含ませる(製造工程)ことにより、被処理物を分解して繁殖する微生物を増殖させることができるので、被処理物を処理する機能を向上させることができる。
また、被処理物を分解して繁殖する微生物は、被処理物の処理後の残渣物から選別し、これを発酵促進基材に含ませることにより、優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の発酵促進基材および被処理物の処理方法について、図面を参照して詳述する。
図1に示す発酵促進基材10(第1の実施の形態)は、好気性微生物群が繁殖している菌繁殖部1(菌繁殖資材)を中央部に設けるとともに、その周囲に籾殻や木材チップを含む資材を配設した保護層2(副資材)を設け、全体を略球状に押し固めたものである。
すなわち、菌繁殖部1は微生物が好む栄養物を設けた領域であり、保護層2は籾殻や木材チップを圧縮することで固められているだけであるから微細空間が存在している。このような保護層2は、菌繁殖部1の周囲に設けられているので、汚泥状で投入される塗料粕に適宜な隙間を与えることのみならず、菌繁殖部1を保護している。これにより、発酵促進基材10は、微生物が好気的に繁殖できる環境を提供し、且つ、粘着性のある塗料粕を好適に処理することができるものとなっている。すなわち、発酵促進基材10は、菌繁殖部1および保護層2を備えることにより、微生物を増殖させた状態で保有することができ、且つ、このような発酵促進基材10を汚泥状の塗料粕とともに攪拌させることにより、塗料粕中であっても微生物が活発に活動できるように空間を提供する。これにより、微生物の発酵熱で塗料粕を短期間で細粒状に熱収縮させることができるものである。
【0009】
菌繁殖部1(菌繁殖資材)は、有機性廃棄物(生ゴミ、汚泥、家畜糞尿)に塗料粕を加え好気的に製造したものである。この菌繁殖部1は、微生物が繁殖する適度な温度および湿度を備えた環境で、有機性廃棄物を1日に10分程度攪拌した後に静置させて、2週間程度で製造したものである。菌繁殖部1を製造する際には、塗料粕を加えているので、汚泥状の塗料粕を処理する発酵促進基材10として、その機能が向上したものとなっている。尚、発酵促進基材10の全体的な形状は、図1に示すような球状に限定されるものでなく、全体を箱形状としてもよい。全体を箱形とした場合には、その中央部に菌繁殖部1を設けるようにする。但し、圧縮等の手段で、箱形の形状もしくは球状の形状が維持されるようにして取り扱いが便利なようにする。
【0010】
発酵促進基材10の含水率は、特に限定されるものではないが、例えば、含水率75%程度の汚泥状の塗料粕を処理する場合には、25%前後に調整されている発酵促進基材10が好適に利用される。25%前後に調整されている発酵促進基材10は、汚泥状の塗料粕(被処理物)と1対1(重量比)で混合された状態で、好気性微生物群が活発に活動できる含水率50%前後の混合物とすることができる。
この実施の形態における発酵促進基材10の場合、1対1で混合されることにより、汚泥状の塗料粕には、適度な隙間(空間)と適度な湿度が提供されるようになるので、好気性微生物群が活発に活動する環境が確保できる。すなわち、好気性微生物群が活発に活動すれば、その発酵熱を被処理物に作用させることができるようになるので、被処理物を発酵熱で処理できるようになる。因みに、好気性微生物群を活発に活動させるために、栄養物として糖蜜(もしくは廃糖蜜)を加えることは有効である。
【0011】
図2に示す発酵促進基材20(第2の実施の形態)は、好気性微生物群を繁殖させた菌繁殖資材と、米ぬか、籾殻、糖蜜(もしくは廃糖蜜)とを加えて混合したものであり、さらに、その混合物を成形機に投入してペレット状(円柱状)にしたものである。この実施の形態の発酵促進基材20は、ペレット状にした状態で、その形状が維持されるので、そのまま袋詰めにして商品化できるものであるが、時間の経過と共に、表面に菌糸が発生する。従って、成形機から排出された混合物の表面を乾燥させて、表面で好気性微生物群の繁殖を抑制している。
【0012】
第2の実施の形態における発酵促進基材20を、汚泥状の塗料粕の処理用に製造するには、先ず、有機性廃棄物(生ゴミ、汚泥、家畜糞尿)に塗料粕を加えて、微生物が繁殖する適度な温度および湿度を備えた環境で放置する。このような状態で2週間程度放置すると、含水率は当初55%前後であったものが40%前後となり、且つ、微生物は活発に活動するようになるので、これを発酵促進基材20の菌繁殖資材とする。この菌繁殖資材を製造する際には、上述した有機性廃棄物や塗料粕を単に放置するのではなく、時々(一日に10分程度)、攪拌して空気に接触させるようにし、好気性微生物群として繁殖させる。
【0013】
上述のように製造した菌繁殖資材(含水率40%)2000kgに、米ぬか(含水率12%)150kgと、籾殻(含水率12%)50kgと、廃糖蜜(含水率62%)50kgとを混合する。これにより、含水率39%の混合物2250kgを得る。次に、この混合物をスクリュー方式の成型機に投入する。この成型機は、紛体状のものをスクリューによって前方に送り込み、圧縮し、スクリュー先端に設けられた多孔を持つダイスの孔を通して成形するものである。
【0014】
含水率39%の混合物は、紛体状とは若干その形態が異なるとしても、これを成型機に投入してペレット状に固形化する。圧縮成形の段階で、混合物は高温となり、同時に含水率も低下する。このような状態は、好気性微生物群にとって、好ましい状態ではないが、固形化した後の微生物の増殖状況は良好で、2日目から、固形物表面に微生物の菌糸群が発生した。
【0015】
尚、混合物が固形化した状態で、その重量および含水率は低下し、重量は2100kg、含水率は34%となる。
発酵促進基材として求められる条件は、複合の微生物群の存在と保管、運搬、発酵機への投入の容易な形状であり、含水率は25%前後が好ましい。
従って、固形化した混合物(含水率34%)を2週間程度静置し、この間に含水率を25%前後にする。
【0016】
2週間程度静置しただけで、混合物の含水率は25%前後になる。しかし、その間に混合物の表面には、微生物の菌糸群が発生するので、見栄えが悪くなる。
そこで、混合物の表面を乾燥させる。混合物の表面を乾燥させる際には、好気性微生物群を死滅させないように、100℃程度の風を10分程度当てる。これにより、混合物の表面だけ乾燥させることができ、混合物の内部では好気性微生物群が活発に活動している発酵促進基材20とすることができる。
尚、含水率34%の混合物の表面を乾燥させることにより、汚泥状の塗料粕を好適に処理できる含水率25%前後の発酵促進基材20としてもよい。
【0017】
以上、この発酵促進基材20は、第1の実施の形態の発酵促進基材10と同様に、微生物を増殖させた状態で保有することができ、且つ、このような発酵促進基材20を汚泥状の塗料粕とともに攪拌させることにより、塗料粕中であっても微生物が活発に活動できるように空間を提供する。これにより、微生物の発酵熱で塗料粕を短期間(2週間程度)で細粒状に熱収縮させることができるものである。
【0018】
汚泥状の塗料粕を細粒状に熱収縮させると、その表面には多くの微生物が有機性廃棄物の残渣物とともに付着した状態になっている。この塗料粕に付着している微生物(もしくは残渣物)には、塗料粕を分解する微生物が含まれている。従って、塗料粕を分解する菌(もしくは残渣物)を、再度、発酵促進基材20の菌繁殖資材に含ませる。すなわち、有機性廃棄物の中に、塗料粕を分解する菌(もしくは残渣物)を混入させて菌繁殖資材を製造する。これにより、当初は、塗料粕を細粒状に熱収縮させるだけであったものが、次第に、好気性微生物群の中に、塗料粕を直接分解できる菌が含まれるようになるので、発酵促進基材20の機能が向上する。
尚、塗料粕を分解する微生物は、分解が進行している塗料粕の状況を視認することで、比較的容易に区別できるので、その微生物の選別に、さほど困難性を有しない。
【0019】
発酵促進基材10、20は、汚泥状の塗料粕を処理する用途に限定されることなく、熱収縮性材料の処理一般に適用可能である。この場合、処理される熱収縮性材料を原料として、これに有機性廃棄物を加えて菌繁殖資材を製造するのがよい。また、有機性廃棄物を直接処理する場合にでも、本発明の発酵促進基材10、20は、好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の発酵促進基材を示す説明図である。
【図2】本発明の発酵促進基材を示す説明図である。
【符号の説明】
【0021】
1 菌繁殖部
2 保護層
10、20 発酵促進基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物に混合させて利用される基材であって、被処理物を微生物で処理できるように、好気性微生物群を繁殖させた菌繁殖資材と、被処理物に適宜な隙間を与える副資材と、を備えていることを特徴とする発酵促進基材。
【請求項2】
前記菌繁殖資材を中心にして前記副資材をその周囲に配設したことを特徴とする請求項1に記載の発酵促進基材。
【請求項3】
前記菌繁殖資材に前記副資材を混ぜて混合物とし、該混合物を固めたことを特徴とする請求項1に記載の発酵促進基材。
【請求項4】
前記混合物の表面を乾燥させ、表面で前記好気性微生物群の繁殖を抑制していることを特徴とする請求項3に記載の発酵促進基材。
【請求項5】
前記副資材は、籾殻及び/又は木材チップであることを特徴とする請求項1ないし4の何れかに記載の発酵促進基材。
【請求項6】
米ぬか、糖蜜の内、少なくとも1つを前記菌繁殖資材もしくは前記副資材に含ませたことを特徴とする請求項1ないし5の何れかに記載の発酵促進基材。
【請求項7】
前記好気性微生物群は、前記被処理物を分解する微生物を含むことを特徴とする請求項1ないし6の何れかに記載の発酵促進基材。
【請求項8】
被処理物に請求項1ないし7の何れかに記載の発酵促進基材を投入して前記被処理物の含水率を調整する含水率調整工程と、
前記発酵促進基材に含まれる好気性微生物群の発酵熱で前記被処理物を形状変化させるとともに減量させる処理工程と、を含むことを特徴とする被処理物の処理方法。
【請求項9】
前記被処理物は、汚泥状の塗料粕であることを特徴とする請求項8に記載の被処理物の処理方法。
【請求項10】
前記被処理物を分解して繁殖する微生物が含まれるように、前記被処理物の処理後の残渣物を、前記発酵促進基材に含ませる製造工程が含まれていることを特徴とする請求項8または9に記載の被処理物の処理方法。
【請求項11】
前記製造工程は、前記被処理物の処理後の残渣物から前記被処理物を分解する微生物を選別し、これを前記発酵促進基材に含ませていることを特徴とする請求項10に記載の被処理物の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−284460(P2008−284460A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−131849(P2007−131849)
【出願日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【出願人】(399023763)農業リサイクルシステム合資会社 (2)
【Fターム(参考)】