白色腐朽菌の形質転換体の作出方法及び該方法により得られた形質転換体
【課題】 高分子リグニンの分解に優れた特性を示す、ウスキイロカワタケYK-624株由来リグニンペルオキシターゼ(YK-LiPs)を高生産する菌株の提供、及びYK-624由来株(UV-#64)に導入遺伝子を高発現させる手段の提供。
【解決手段】 ウスキイロカワタケYK-624株を親株とするウラシル要求性変異株UV-#64、これをホスト菌株として用いるYK-624株の形質転換体の作出方法、及び該方法により得られたYK-LiPsを高発現する遺伝子導入株(GPD-YKLiP1 No11, GPD-YKLiP2 No3)を、それぞれ提供する。
【解決手段】 ウスキイロカワタケYK-624株を親株とするウラシル要求性変異株UV-#64、これをホスト菌株として用いるYK-624株の形質転換体の作出方法、及び該方法により得られたYK-LiPsを高発現する遺伝子導入株(GPD-YKLiP1 No11, GPD-YKLiP2 No3)を、それぞれ提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は白色腐朽菌の形質転換体の作出方法に関し、詳しくはウスキイロカワタケYK-624株の形質転換体の作出方法、及び該方法を活用して作製されたYK-624株由来リグニンペルオキシダーゼを高生産する新菌株に関するものである。
【背景技術】
【0002】
白色腐朽菌は、難分解性芳香族高分子であるリグニンを高度に分解する唯一の生物である。白色腐朽菌はリグニンを分解する際、菌体外にリグニンペルオキシターゼやマンガンペルオキシダーゼといった酸化還元酵素を分泌するが、中でもリグニンペルオキシダーゼは、高分子リグニンを直接酸化分解する以外に、ダイオキシンなどの難分解性芳香族化合物を分解する能力を持つため、紙・パルプ産業における利用(バイオパルピング・バイオブリーチング)、バイオレメディエーションへの応用が期待されている。
また、植物系バイオマスは主にセルロース、ヘミセルロースとリグニンから構成されるが、リグニンを分解することによってセルロースがセルラーゼにより分解されやすい状態に変化する。そのため、リグニンペルオキシターゼは、セルロースの分解によるバイオエタノール生産プロセス、また飼料作物の脱リグニンによる消化性向上処理においても有用である。
【0003】
白色腐朽菌の代表的なものはPhanerochaete chrysosporium(和名無し、以下P. chrysosporium)であり、過去における高分子リグニン分解技術開発の多くは本菌を用いて行われてきた。また、カワラタケ、ヒラタケなどリグニンを強く分解する菌も多く知られているが、これらの菌は高分子リグニンを分解すると同時に、有用バイオマスであるセルロースを同量程度分解してしまうという欠点があった。
一方、本発明者は、屋久島から採取した百株以上の白色腐朽菌をスクリーニングした結果、高分子リグニンを選択的に分解する白色腐朽菌(選択的白色腐朽菌)Phanerochaete sordida(ウスキイロカワタケ、以下P. sordida)YK-624 株を見出した。高分子リグニンを多量に含むブナ材に28日間各種白色腐朽菌を培養した場合、P. chrysosporium、及びカワラタケは高分子リグニンをそれぞれ24%、27%分解したのに対し、P. sordida YK-624 株は41%分解した。一方、YK-624株のセルロースの分解量は、P. chrysosporium、及びカワラタケの1/4程度であった。
【0004】
また、リグニンペルオキシターゼにおける代表的なものはP. chrysosporiumが生産するLiPH8であり、従来ほとんどのリグニンペルオキシターゼ研究はこの酵素を用いて行われてきた。それに対しYK-624株は、LiPH8より高分子リグニンの分解能力に優れる新規リグニンペルオキシターゼ(YK-LiP1及びYK-LiP2)を生産する特徴がある。2量体リグニンモデル化合物を、LiPH8は24時間で約30%しか分解しないのに対し、YK-LiP1は約95%,YK-LiP2は約50%分解する能力を持つ。
しかしながら、YK-624株におけるYK-LiPs(YK-LiP1,2)の発現量は低いため、産業的に本菌を利用する上では、YK-LiPsを高発現する菌株の作出が望まれていた。
【0005】
なお、これまでにYK-624株から、同じくリグニン分解活性を示すマンガンペルオキシダーゼ遺伝子が特許公開されている(例えば、特許文献1参照)。また、同じく高分子リグニンの分解活性を示すヒラタケ由来マンガンペルオキシダーゼ遺伝子が特許公開されている(例えば、特許文献2参照)。
また、P. chrysosporiumに、代表的なリグニンペルオキシターゼであるLipH8を遺伝子導入法によって過剰発現させた報告がある(例えば、非特許文献1参照)。さらに、白色腐朽菌アラゲカワラタケにリグニンペルオキシターゼ等を発現させることを目的として開発された遺伝子導入系が特許公開されている(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
しかし、これらの菌種はリグニンとセルロースをほぼ同程度の割合で分解するため、脱リグニン処理時にセルロース分の目減りが避けられず、また特にクラフトパルプのバイオパルピングを行う上では、セルロースの分解は紙質の低下を引き起こす原因となる。そのため、YK-624株などの元来の選択的リグニン分解能力が高い菌種に、高分子リグニン分解能力に優れたリグニンペルオキシダーゼを発現させることが、植物系バイオマスの脱リグニン処理には特に望ましいと考えられていた。
【0007】
【特許文献1】特開2000−152786号公報
【特許文献2】特開平7−313156号公報
【特許文献3】特開2000−342275号公報
【非特許文献1】Appl Environ Microbiol. 65, 1670-1674 (1999)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
代表的な白色腐朽菌であるP.chrysosporiumや、カワラタケ、ヒラタケなど、リグニンを強く分解する菌は多く知られているが、これらの菌は高分子リグニンを分解すると同時に、有用バイオマスであるセルロースを同量程度分解してしまうという欠点があった。
そこで本発明においては、YK-LiPsの完全長アミノ酸配列を解読し、かつ、YK-624株に対する遺伝子導入系を新たに開発することによって、YK-LiPsを高生産する菌株を作製することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明ではまず、タンパク質として既に精製されていたYK-LiPのN-末端アミノ酸配列を解析し、その情報を元に縮重PCRを行うことによってcDNA配列の部分情報を取得した。その後3’-RACE、及び5’-RACE法によりYK-624 株のgenomic DNAから完全長YK-LiP遺伝子(YK-LiP1,YK-LiP2)をクローニングして、全塩基配列と推定アミノ酸配列を明らかにした(配列番号78,79)。
【0010】
次に、YK-624 株を含むP. sordida種では、形質転換系が既に確立している白色腐朽菌P. chrysosporiumと異なり分生子を形成せず、また子実体を形成させて胞子を回収する条件も見出されておらず、これまで遺伝子導入系の成功例がなかったため、YK-624 株における遺伝子導入系の構築を試み、安定した遺伝子導入技術を完成させた。
【0011】
また、P. sordidaで機能することが確認されている遺伝子発現ベクターもこれまで報告がなかったため、YK-624 株から構成的遺伝子GPDH(グリセロール3リン酸デヒドロゲナーゼ、GPDともいう。)の全長を新たにクローニングし、そのプロモーター、ターミネーター領域を用いることで、導入遺伝子を強く発現させる遺伝子発現ベクターを構築した(図10)。本ベクターは導入遺伝子を強く(全可溶性タンパク質の1.2%)発現させる能力を有していた(図12)。
【0012】
本発明者らは、上記遺伝子導入法、及び遺伝子発現ベクターを用いてYK-LiP1、YK-LiP2のgenomic DNAをYK-624 株に形質転換することにより、YK-LiP1、YK-LiP2遺伝子が導入された多数のクローンを得た(図13,14)。そして、それらのクローンの中から親株より高いリグニンペルオキシターゼ活性を示す菌株(YK-LiP1 No11、YK-LiP2 No3)を選抜することによって、本発明を完成させたのである(図15)。
【0013】
このように本発明は、元来のリグニン選択的分解性が高いP. sordida YK-624 株を生産菌として用いていること、選択的白色腐朽菌P. sordidaにおいて初めて遺伝子導入法、及び遺伝子発現ベクターを構築したこと、並びに代表的なリグニンペルオキシターゼLiPH8と比較して高分子リグニン分解力に優れるYK-LiP1、及びYK-LiP2を高発現させた点において新規性がある。
【0014】
すなわち、請求項1に記載の本発明は、ウスキイロカワタケYK-624株を親株とするウラシル要求性変異株UV-#64(NITE AP-344)である。
請求項2に記載の本発明は、配列番号69の塩基配列からなり、かつ、請求項1に記載のUV-#64株に導入することにより該UV-#64株をウラシル非要求性とすることができ、遺伝子導入系のマーカー遺伝子として機能する、YK-624株由来オロト酸ホスホリボシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子である。
請求項3に記載の本発明は、請求項2に記載の遺伝子を含むプラスミドである。
請求項4に記載の本発明は、配列番号75の塩基配列からなるDNAを含み、ウスキイロカワタケにおいて導入遺伝子を高発現する能力を有する遺伝子発現ベクターである。
請求項5に記載の本発明は、ホスト菌株として請求項1に記載のUV-#64株を用いる、YK-624株の形質転換体の作出方法である。
請求項6に記載の本発明は、ホスト菌株に、外来遺伝子と共に請求項3に記載のプラスミドを導入する、請求項5に記載の作出方法である。
請求項7に記載の本発明は、請求項4に記載の遺伝子発現ベクターを用いて外来遺伝子を導入する、請求項5又は6に記載の作出方法である。
請求項8に記載の本発明は、請求項1に記載のUV-#64株を親株とし、親株より高いYK-624株由来リグニンペルオキシダーゼ(YK-LiP1)生産能を示す新菌株GPD-YKLiP1 No11(NITE AP-342)である。
請求項9に記載の本発明は、請求項1に記載のUV-#64株を親株とし、親株より高いYK-624株由来リグニンペルオキシダーゼ(YK-LiP2)生産能を示す新菌株GPD-YKLiP2 No3(NITE AP-343)である。
請求項10に記載の本発明は、請求項3に記載のプラスミド及び/又は請求項4に記載の遺伝子発現ベクターを含む、YK-624株に対する遺伝子導入用キットである。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、選択的白色腐朽菌ウスキイロカワタケYK-624 株において、高分子リグニン分解能力に優れたYK-LiP1、YK-LiP2を高生産する菌株を得ることが可能になった。遺伝子導入を行わないYK-624株に対し、YK-LiP1、YK-LiP2をそれぞれ遺伝子発現ベクターpGPD-LiP1、pGPD-LiP2により強制発現させた菌株GPD-LiP1 No11、GPD-LiP2 No3では、液体培養上清における酵素活性が顕著に高いことにより本効果を確認した。
従来技術としてはP. chrysosporium、アラゲカワラタケ(Coriolus hirsutus)、ヒラタケ(Pleurotus ostreatus)等の白色腐朽菌にリグニンペルオキシターゼを生産させた例があるが、本発明は、リグニン分解に伴うセルロース分解度が元来低い選択的白色腐朽菌であるウスキイロカワタケYK-624株を用いている点で優位性がある。
また、本遺伝子導入法を用いることにより、YK-LiPs酵素以外にも任意の遺伝子をYK-624株に発現させることが可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、白色腐朽菌ウスキイロカワタケの形質転換体の作出方法を提供するものである。
【0017】
本発明の形質転換体の作出方法は、外来遺伝子を導入するホスト菌株として、ウスキイロカワタケYK-624株を親株とするウラシル要求性変異株を用いることを特色とする。
YK-624株のウラシル要求性変異株は、親株であるYK-624株の栄養菌糸からプロトプラストを作成し、これに紫外線を照射して変異導入を行った後、5−フルオロオロト酸を含む培地でプロトプラスト再生を行い、ウラシル要求性クローンを選抜することにより得ることができる。詳細な手法は実施例5,6に記載した。
【0018】
このようにして得られたウラシル要求性変異株は、ウラシル合成酵素であるオロト酸ホスホリボシルトランスフェラーゼ遺伝子URA3、URA5上に変異を有していたが、そのうちURA5のコード領域中に43塩基対の欠失変異を持つものをUV-#64株と命名した。このUV-#64株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託されており、受託番号はNITE AP-344である。
なお、UV-#64株の菌学的性質は、ウラシル要求性であること以外は、親株であるYK-624株と同じであった。また、菌の成長力等に目立った差違はなく、菌本来のYK-Lips生産力においても差は生じていない。
【0019】
本発明では、上記のUV-#64株をホスト菌株として用いて形質転換を行うが、その際の遺伝子導入法としては特に制限はなく、例えばポリエチレングリコール(PEG)法などが使用できる。
【0020】
また、遺伝子導入の際に、UV-#64株に目的遺伝子が入ったことを確認するための目印として、導入遺伝子と共に組み込まれるマーカー遺伝子としては、UV-#64株に導入することにより該UV-#64株をウラシル非要求性とすることができ、本発明の遺伝子導入系のマーカー遺伝子として機能するものであれば良い。例えば、ウスキイロカワタケ、P.chrysosporiumなどのPhanerochaete属菌や、アラゲカワラタケ、ヒラタケ等由来のオロト酸ホスホリボシルトランスフェラーゼURA5をコードする遺伝子を用いることができ、中でもYK-624株由来URA5(PsURA5)を含む遺伝子が好ましく、特にPsURA5が好適である(実施例7)。
なお、上記したマーカー遺伝子は、UV-#64株以外のウスキイロカワタケのウラシル要求性変異株に導入した場合にも、ホスト菌株をウラシル非要求性とすることができ、遺伝子導入系のマーカー遺伝子として機能し得る。
【0021】
本発明において上記マーカー遺伝子を使用するときは、当該マーカー遺伝子を含むプラスミドを作成し、これを目的の導入遺伝子を含む組換えベクター(遺伝子発現ベクター)と混合して、例えばプロトプラスト化した栄養菌糸にPEG法を用いて遺伝子導入する方法など、常法によりUV-#64株に導入すればよい(実施例16,17)。
ここで、マーカー遺伝子を含むプラスミドの作成方法は特に限定されず、用いるプラスミドも適宜選択できる。
【0022】
本発明の形質転換体の作出方法に用いる遺伝子発現ベクターとしては、ホスト菌株において導入遺伝子を発現させることができれば良く、特に導入遺伝子を高発現する能力を有するものが好ましい。例えば、ウスキイロカワタケ、特にYK-624株由来のグリセロール3リン酸デヒドロゲナーゼ(PsGPD)のように、ホスト菌株中で強く発現する遺伝子のプロモーター領域及びターミネーター領域を含むものが好適に用いられる。このような遺伝子発現ベクターの具体例として、実施例11,12において作成したpPsGPD-EGFPが挙げられる。
なお、上記遺伝子発現ベクターは、UV-#64株やYK-624株などのウスキイロカワタケをはじめ、P. chrysosporiumなどのPhanerochaete属菌や、アラゲカワラタケ、ヒラタケ等の近縁種をホスト菌株として使用する場合にも、当該ホストにおいて導入遺伝子を高発現する能力を有している。
【0023】
本発明において、上記遺伝子発現ベクターを用いてUV-#64株に目的の導入遺伝子を組み込むときは、常法により、遺伝子発現ベクターのプロモーター領域とターミネーター領域との間に、導入遺伝子を挟みこむようにして結合させる。具体的には、実施例14,15に記載の方法に準じて行うことができる。
【0024】
本発明の形質転換体の作出方法においてUV-#64株に導入する外来遺伝子は特に限定されないが、特にYK-624株が生産する高分子リグニンを選択的に分解するリグニンペルオキシダーゼYK-LiP1及びYK-LiP2が好適である。なお、YK-LiPs酵素は既に精製法が知られている(FEMS Microbiol Lett 246: 19-24)が、本発明において初めてその遺伝子が解明された(実施例3,4)。
【0025】
本発明の方法によって、UV-#64株に上記YK-LiP1及びYK-LiP2を形質転換して得られた新菌株を、それぞれGPD-YKLiP1 No11(以下、GL1 No11と略記することもある。)及びGPD-YKLiP2 No3(以下、GL2 No3と略記することもある。)と命名した(実施例18)。これらの形質転換株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託されており、受託番号はそれぞれNITE AP-342及びNITE AP-343である。
上記した本発明の形質転換体GL1 No11及びGL2 No3は、実施例18に示すように、親株と比べて顕著に高いリグニンペルオキシダーゼ(LiP)活性を有していたことから、親株よりも高いYK-LiP1及びYK-LiP2酵素生産能を有していることが分かった。
【0026】
本発明はまた、上記した本発明の遺伝子マーカーPsURA5を含むプラスミドpPsURA5、及び/又は上記した本発明のpPsGPD-EGFPの塩基配列を含む遺伝子発現ベクター、を含むYK-624株に対する遺伝子導入用キットを提供する。
当該遺伝子導入用キットには、上記遺伝子マーカー及び遺伝子発現ベクター以外にも、遺伝子導入に際し通常用いられる試薬や器具、手順説明書などを含んでいてもよい。
【実施例】
【0027】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
【0028】
実施例1(YK-LiPsタンパク質のN末端アミノ酸解析)
YK-LiPsタンパク質は、YK-624株の培養濾液より既報に従って精製した(FEMS Microbiol Lett 246:19-24)。精製したYK-LiPsタンパク質を2マイクログラム用い、laemmliの方法に従ってSDS-PAGE分析を行った(In "Methods in Carbohydrate Chemistry," Vol.1 (Academic Press), pp.338 (1962))。SDS-PAGEはミニスラブ電気泳動装置を用い、10%ポリアクリルアミドゲル、定電流(20mA)90分間の泳動を行った。PVDF膜(クリアブロット,ATTO)に転写後、MEMCODE STAIN FOR PVDF(Pierce)を用いて染色操作を行った。YK-LiPsタンパク質が転写された領域をカッターナイフで切り出しN末端解析を行った(アプロサイエンス社に依頼分析)。得られたN末端アミノ酸配列21残基はA(A/T)CSNG(A/K)TVS(A/D)ASCCAWF(A/D/N)VLであった(/は複数のアミノ酸が検出されたことを意味する)。
【0029】
実施例2(YK-LiPsタンパク質のN末端アミノ酸配列を元にしたdegenerate PCR解析(図1))
実施例1で得られたN末端アミノ酸配列の情報を元にdegenerate PCRを行った。プライマー1(P1:配列番号1)とプライマー2(P2:配列番号2)をフォワードプライマーとして用い、プライマー3(P3:配列番号3)をリバースプライマーとして用いた。なお、以下全てのプライマーはファスマックDNA合成事業部によって合成したものを用いた。PCR酵素にはHotStart Taq(QIAGEN)を用いた。以下、特に記載がない場合、PCR反応は全て本酵素を用いて行った。PCR反応の鋳型DNAとしては、実施例1の条件でYK-LiPsタンパク質を生産させるために培養(5日間)したYK-624株のRNAから合成したcDNAを用いた。RNAはRNeasy Mini kit(QIAGEN)を用いて精製した。以下、RNA精製は全てRNeasy Mini kitによって行った。cDNA合成は逆転写酵素Reverse Transcriptase XL AMV(TAKARA)を用いて行い、oligodT18を逆転写反応の1st strand cDNA合成反応に用いた。以下、特に記載がない場合、逆転写反応は全てReverse Transcriptase XL AMVを用いて行った。
【0030】
PCR操作によって得られた60bpサイズのDNA断片をpT7Blue T-Vector(Novagen)とDNA Ligation kit ver2.1(TAKARA)を用いてTAクローニングし、コンピテントセルDH5α(TOYOBO)に形質転換した。以下、特に記載がない場合、PCRによって得られたDNA断片のTAクローニングは全て本方法を用いて行った。出現した大腸菌クローンを単離し、それぞれからQIAprep Spin Miniprep Kit (QIAGEN)を用いてプラスミドを回収した。各プラスミドを鋳型としてBigDye Terminator ver3.1 (ABI)を用いてシークエンス反応を行い、ABI PRISM 310 Genetic Analyzer(ABI)を用いてクローニングした60bpのPCR産物を解析した。なお、以下DNA配列のシークエンスは全てBigDye Terminator ver3.1 とABI PRISM 310 Genetic Analyzerを用いて行った。
【0031】
回収したプラスミドをシークエンスした結果、プライマーセットP1-P3から生じたPCR産物はDNA配列1(DNA1)、プライマーセットP2-P3から生じたPCR産物はDNA配列2(DNA2)であったことから、YK-LiPs酵素は2種類の遺伝子の混合物であると予想された。DNA1をYK-LiP1断片、DNA2をYK-LiP2断片と命名した。
【0032】
実施例3(YK-LiP1全長のクローニング(図2))
YK-LiP1断片のDNA配列を元に、フォワードプライマー4(P4:配列番号4)、フォワードプライマー5(P5:配列番号5)を合成した。実施例2で記述したRNAから、プライマー6(P6:配列番号6)を逆転写反応の1st strand cDNA合成反応に用いて逆転写反応を行った。得られたcDNAを鋳型としてP4、及びP7(配列番号7)のセットを用いて3'-RACE PCR反応を行った。得られたPCR反応物を希釈してテンプレートとし、P5及びP7のセットを用いてnested PCRを行った。得られた約1100bpのPCR産物をTAクローニングし、シークエンスを行った結果、DNA配列3(DNA3)が得られた。DNA3から推定されるアミノ酸配列1をFASTA DNA解析プログラム(http://fasta.genome.jp/)によって分析した結果、既知のリグニン分解酵素と高い相同性を示したことから、DNA3がリグニン分解酵素の一部であることが示唆された。
【0033】
次にYK-LiP1の5'側をクローニングするため5'-RACE PCRを行った。実施例2で記述したRNAを用い、GeneRacer Kit(Invitorgen)を用いて5'-RACE PCRに用いるcDNAを合成した。リバースプライマー8(P8:配列番号8)、及びリバースプライマー9(P9:配列番号9)を合成し、まずフォワードプライマー10(P10:配列番号10)とP8のセットによって5'-RACE PCR反応を行った。得られたPCR反応物を希釈してテンプレートとし、P10及びP9のセットを用いてnested PCRを行った。得られた250bpのPCR産物をTAクローニングし、シークエンスを行った結果、DNA配列4(DNA4)が得られた。
【0034】
DNA4、及びDNA3の情報を元にフォワードプライマー11(P11:配列番号11)、リバースプライマー12(P12:配列番号12)を合成して、PCRエラーの少ないPCR酵素(Platinum Taq DNA polymerase, Invitrogen)を用いてPCR反応を行った。鋳型としては実施例2で合成したcDNA、及びYK-624から精製したgenomic DNAを用いた。それぞれ得られたPCR産物をTA クローニングし、3クローンずつ比較してPCR反応に伴う塩基配列の誤りがないことを確認した結果、最終的にDNA配列5(DNA5:配列番号65)及びDNA配列6(DNA6:配列番号66)を得て、これを完全長YK-LiP1 cDNA、及びYK-LiP1 genomic DNAとした。
【0035】
DNA配列5から推定されるアミノ酸配列2(配列番号78)は翻訳開始メチオニン、推定シグナル配列、及び実施例1によって得られたN末端21アミノ酸を含んでおり、これを YK-LiP1 アミノ酸配列とした。YK-LiP1 genomic DNAはYK-LiP1 cDNAとの比較により、8個のエキソン(図2のwhite boxで示す)、及び7個のイントロン、短い5'UTR(非翻訳領域)と3'UTRからなる1707bp長のDNAであった。
【0036】
実施例4(YK-LiP2 全長のクローニング(図3))
YK-LiP2断片のDNA配列を元に、フォワードプライマー13(P13:配列番号13),フォワードプライマー14(P14:配列番号14)を合成した。実施例2で記述したRNAから、P6を逆転写反応の1st strand cDNA合成反応に用いて逆転写反応を行った。得られたcDNAを鋳型としてP13、及びP7のセットを用いて3'-RACE PCR反応を行った。得られたPCR反応物を希釈してテンプレートとし、P14及びP7のセットを用いてnested PCRを行った。得られた約1100bpのPCR産物をTAクローニングし、シークエンスを行った結果、DNA配列7(DNA7)が得られた。DNA7から推定されるアミノ酸配列3をFASTA DNA解析プログラムによって分析した結果、既知のリグニン分解酵素と高い相同性を示したことから、DNA7がリグニン分解酵素の一部であることが示唆された。
【0037】
次にYK-LiP2の5'側をクローニングするため5'-RACE PCRを行った。実施例2で記述したRNAを用い、GeneRacer Kit(Invitorgen)を用いて5'-RACE PCRに用いるcDNAを合成した。リバースプライマー15(P15:配列番号15)、及びリバースプライマー16(P16:配列番号16)を合成し、まずフォワードプライマー10(P10)とP15のセットによって5'-RACE PCR反応を行った。得られたPCR反応物を希釈してテンプレートとし、P10及びP16のセットを用いてnested PCRを行った。得られた250bpのPCR産物をTAクローニングし、シークエンスを行った結果、DNA配列8(DNA8)が得られた。
【0038】
DNA8、及びDNA7の情報を元にフォワードプライマー17(P17:配列番号17)、リバースプライマー18(P18:配列番号18)を合成して、PCRエラーの少ないPCR酵素(Platinum Taq DNA polymerase, Invitrogen)を用いてPCR反応を行った。鋳型としては実施例2で合成したcDNA、及びYK-624から精製したgenomic DNAを用いた。それぞれ得られたPCR産物をTA クローニングし、3クローンずつ比較してPCR反応に伴う塩基配列の誤りがないことを確認した結果、最終的にDNA配列9(DNA9:配列番号67)及びDNA配列10(DNA10:配列番号68)を得て、これを完全長YK-LiP2 cDNA、及びYK-LiP2 genomic DNAとした。
【0039】
DNA配列9から推定されるアミノ酸配列4(配列番号79)は翻訳開始メチオニン、推定シグナル配列、実施例1によって得られたN末端21アミノ酸を含んでおり、これを YK-LiP2 アミノ酸配列とした。YK-LiP2 genomic DNAはYK-LiP2 cDNAとの比較により、9個のエキソン(図3のwhite boxで示す)、及び8個のイントロン、短い5'UTRと3'UTRからなる1727bp長のDNAであった。
【0040】
実施例5(YK-624株からのプロトプラスト調製法)
YK-624株を、500ml容三角フラスコ内にて液体培養した。培地はCYM(Glucose 20g/l, Polypeptone 0.2g/l, Yeast Extract 0.2g/l, KH2PO4 0.46g/l, K2HPO4 1.0g/l, MgSO4-7H2O 0.5g/l, Thiamine 0.1mg/l in distilled H2O 全て和光純薬)を使用し、100mlを三角フラスコに加えオートクレーブ(121℃,15min)して用いた。なお、以下全ての操作はオートクレーブ滅菌器具、及び溶液を用いて行った。また、以下全ての試薬は指定のない限り和光純薬より購入して使用した。
【0041】
まず三角フラスコ一本に、CYM寒天培地(CYM液体培地-1.5% 寒天)で培養したYK-624菌糸3片を植菌して液体培養を行った。なお、以下全ての菌培養は30℃で行った。培養7日後、液体培養菌糸全量をセルマスターCM-100(イウチ)によってホモジナイズし、三角フラスコ8本に分注して培養を継続した。培養4日後、液体培養菌糸全量をホモジナイズし、全量を16本の三角フラスコに分注して培養を継続した。培養1日後、菌糸体全量をブフナー漏斗とグラスフィルターによって吸引、回収した。
【0042】
回収した菌体を0.75M 硫酸マグネシウム緩衝液(0.75M MgSO4-7H2O, 20mM MES, pH6.3) 80mlに懸濁した。細胞壁溶解酵素であるLyzing Enzyme (Sigma)、及びCellulase Onozuka RS(Yakult)を最終濃度がそれぞれ3%になるように添加し、29℃で緩やかに18時間振盪した。振盪中に生じたプロトプラストを未溶解菌糸と分離するため、溶解液を15ml 遠心管に7.5mlずつ分注し、1.0 M ソルビトール緩衝液(1.0M Sorbitol, 10mM MES, pH6.3)5.5mlを重層した。4,000 × g, 30分の遠心分離により、重層した溶液の界面にプロトプラストが集積し、未溶解菌糸は全て沈殿した。プロトプラストのみをパスツールピペットで回収し、等容量の1.0 M ソルビトール緩衝液を加え遠心(2,000 × g, 15分)した。プロトプラストは全て沈殿したため上清を除き、15mlの1.0 M ソルビトール緩衝液を加え再度遠心(2,000 × g, 10分)した。沈殿したプロトプラストを1mlの1.0 M ソルビトール緩衝液に懸濁し、YK-624プロトプラスト標品とした。細胞数はヘマトメーターによって計数した。
【0043】
実施例6(YK-624株プロトプラストの変異処理によるウラシル要求性変異株作製(図4、図5))
YK-624株への遺伝子導入を行うことを目的として、YK-624株の栄養要求性(ウラシル要求性)変異株造成を行った(図4)。実施例5に準じて調製したYK-624株プロトプラスト106個を5mlの1.0 M ソルビトール緩衝液に懸濁し、6cm 細胞培養用シャーレ(イワキ)に移した。蓋はせず、直径1mm、長さ1cmの極小回転子とマグネチックスターラーを用いてプロトプラスト溶液を攪拌しながら、UVトランスイルミネーターの5cm下において260nm波長のUV光を照射した。光強度は0.75mW/cm2、照射時間は30秒であった。照射後、DNA修復酵素が機能することを防ぐため4℃、暗黒下で18時間静置した。
【0044】
1.0M濃度のSucroseを含むCYM液体培地に低融点アガロース(SeaPlaque Agarose, TAKARA)を加え1%とし、オートクレーブ後39℃に保ったものを再生培地とした。ウラシル要求性変異株のみが生育できるようにするため、5-FOA(5-フルオロオロト酸、和光純薬、最終濃度0.75mg/ml)、及びウラシル(和光純薬、最終濃度0.1mg/ml)を上記再生培地に加え、更に上記プロトプラスト懸濁液全量を加えて10cm 細胞培養用シャーレ10枚に分注した。7日間30℃で培養後、再生した約100株のプロトプラスト由来クローンを単離し、0.75mg/mlの5-FOAを含むCYM寒天培地(ウラシル含まず)に移して7日間培養した。
【0045】
各菌株を再度CYM寒天培地(ウラシル含まず)に植え継いで培養を継続した結果、ウラシル不含CYM寒天培地では全く生育せず、ウラシル0.1mg/mlを含むCYM寒天培地では良好に成長する菌株を見出し、これをUV-#64株とした(図5)。
【0046】
実施例6(YK-624株からのウラシル生合成遺伝子(オロト酸ホスホリボシルトランスフェラーゼ)全長クローニング(図6))
オロト酸ホスホリボシルトランスフェラーゼをYK-624株からクローニングするため、近縁担子菌のオロト酸ホスホリボシルトランスフェラーゼ遺伝子アミノ酸配列をCLASTAL-DNA解析プログラム(http://align.genome.jp/clustalw/)で比較し、保存性の高い領域を見出した。そのアミノ酸配列を元にプライマー19(P19:配列番号19)、プライマー20(P20:配列番号20)を設計してdegenerate PCRを行った。PCR反応のテンプレートには実施例2において合成したcDNAを用いた。得られたPCR産物をTAクローニングし、6クローンのシークエンスを行った結果、DNA配列11(DNA11)のみが得られた。DNA11から推定されるアミノ酸配列5をFASTAプログラムによって分析した結果、既知のオロト酸ホスホリボシルトランスフェラーゼと高い相同性を示したことから、DNA11がオロト酸ホスホリボシルトランスフェラーゼの一部であることが示唆され、本遺伝子をPs(Phanerochaete sordida)URA5断片と命名した。
【0047】
PsURA5の全長をクローニングするため、DNA11を元に、フォワードプライマー21(P21:配列番号21)、フォワードプライマー22(P22:配列番号22)を合成した。実施例3で合成したcDNAを鋳型として、P21、及びP7を用いて3'-RACE PCR反応を行った。得られたPCR反応物を希釈してテンプレートとし、P22及びP7を用いてnested PCRを行った。得られた約520bpのPCR産物をTAクローニングし、シークエンスを行った結果、DNA配列12(DNA12)が得られた。DNA12から推定されるアミノ酸配列6をFASTA DNA解析プログラムによって分析した結果、既知のオロト酸ホスホリボシルトランスフェラーゼと高い相同性を示したことから、PsURA5がオロト酸ホスホリボシルトランスフェラーゼの一部であることが示唆された。
【0048】
次にPsURA5の5'側をクローニングするためTAIL-PCRを行った。TAIL-PCRは既報(Microbiology 148 2797-809 (2002))に従い行った。リバースプライマー23, 24, 25(P23:配列番号23,P24:配列番号24,P25:配列番号25)を合成し、TAIL プライマーNGTCGASWGANAWGAA(P26:配列番号26)に対して、YK-624 genomic DNAを鋳型として3回のTAIL-PCRを行った。得られたPCR産物をTAクローニングし、DNA配列13(DNA13)を得た。
【0049】
同様に、PsURA5の3'側をクローニングするためにもTAIL-PCRを行った。フォワードプライマー27(P27:配列番号27)を合成し、プライマーP21、P22、P27を順次使用して3回のTAIL-PCRを、TAIL プライマーCANGCNWSGTNTSCAA(P28:配列番号28)に対して行った。得られたPCR産物をTAクローニングし、DNA配列14(DNA14)を得た。
【0050】
DNA13、及びDNA14を元にプライマー29、プライマー30(P29:配列番号29,P30:配列番号30)を合成し、正確性の高いPCR酵素(PrimeSTAR HS DNA Polymerase,TAKARA)を用いて、YK-624株のgenomic DNAからPsURA5全長を増幅した。得られた5kbp長のPCR産物をZero Blunt TOPO Cloning Kit for sequencing(Invitrogen)を用いて、クローニングプラスミドpCR4Blunt-TOPO中にクローニングした。4クローンから得られた配列をシークエンスした結果、PCRに伴う変異が全く存在しないクローンを得て、そのDNA配列15(DNA15:配列番号69)をPsURA5全長とした。また、PsURA5全長を含むプラスミドをpPsURA5として、実施例9における遺伝子導入マーカープラスミドとした。
【0051】
加えて、DNA15の配列情報を元にプライマー31、32(P31:配列番号31、P32:配列番号32)を合成し、実施例2において合成したcDNAを鋳型としてRT-PCRを行った結果DNA配列16(DNA16:配列番号70)を得て、これをPsURA5 cDNAとした。PsURA5 cDNAから推定されるアミノ酸配列7(配列番号80)は翻訳開始メチオニン、終止コドンを含む232アミノ酸からなり、これをPsURA5アミノ酸配列とした。PsURA5 genomic DNA(DNA15)は PsURA5 cDNAとの比較により、2個のエキソン(図6のwhite boxで示す)、及び1個のイントロンを含むことがわかった。
【0052】
実施例8(ウラシル要求性UV-#64株におけるPsURA5遺伝子のクローニング(図6))
実施例6で作製したUV-#64株における表現形(ウラシル要求性)の原因遺伝子を特定するため、ウラシル0.1mg/mlを含むCYM寒天培地で培養したUV-#64株よりRNAを回収し、実施例2の方法に準じてcDNAを合成した。次にプライマーP31、P32を用いてPsURA5のcDNAをPCR増幅した。増幅されたPCR産物をTAクローニングしてシークエンスした結果、DNA配列17(DNA17:配列番号71)を得た。DNA17をDNA16と比較した結果、翻訳領域中に43bpの欠失変異があることが確認されたため、UV-#64株におけるウラシル要求性はPsURA5の機能喪失にその原因があることが確認できた。
【0053】
実施例9(ウラシル要求性UV-#64株における遺伝子導入系構築(図7、図8))
実施例6で作製したUV-#64株の表現形(ウラシル要求性)は、PsURA5の機能喪失によりもたらされたことが実施例8によって示された。そのため、実施例7で得た完全長PsURA5(DNA15)を含むpPsURA5をマーカー遺伝子としてUV-#64株に導入し、UV-#64をウラシル非要求性にする遺伝子導入系を構築した(図7)。
【0054】
まず実施例5に準じて、UV-#64株よりプロトプラストを調製した。液体培養過程においては、CYM液体培地にウラシルを添加した(最終濃度0.1mg/ml)。得られたプロトプラスト(2×107細胞)にマーカー遺伝子pPsURA5を加え、CaCl2と共に氷上で10分間インキュベートした。その溶液組成を以下に示す(プロトプラスト2×107細胞, pPsURA5 1.25〜20μg, CaCl2 40mM, 1.0M Sorbitol, 10mM MES, pH6.2)。
【0055】
次に等volumeのポリエチレングリコール溶液(PEG4000 50%, 1.0M Sorbitol, 10mM MES, pH6.2)を添加し、穏やかに混合後氷上でインキュベートした。10分後、全量を実施例6に記載した再生培地(ウラシル不含)に加え、よく混合後10cm 細胞培養用シャーレ15枚に分注した。7日間30℃で培養後、再生したプロトプラスト由来クローンを単離し、CYM寒天培地(ウラシル不含)に移して培養を行った結果、ウラシル非要求性を示す多数のクローンを得た(図8)。
【0056】
実施例10(YK-624株由来GPD(グリセロール3リン酸デヒドロゲナーゼ)遺伝子のクローニング(図9))
多くの生物で強く、かつ構成的に発現することが知られているGPD(グリセロール3リン酸デヒドロゲナーゼ)遺伝子のプロモーター、ターミネーター領域を用いて、導入遺伝子を強く発現させる遺伝子発現ベクターを構築するため、YK-624株genomic DNAからのGPDクローニングを行った。
【0057】
GPDをYK-624株からクローニングするため、近縁担子菌のGPDアミノ酸配列をCLASTAL DNA解析プログラムで比較し、保存性の高い領域を見出した。そのアミノ酸配列を元にプライマー33(P33:配列番号33)、プライマー34(P34:配列番号34)を設計してdegenerate PCRを行った。PCR反応のテンプレートには実施例2において合成したcDNAを用いた。得られたPCR産物をTAクローニングし、6クローンのシークエンスを行った結果、DNA配列18(DNA18)のみが得られた。DNA18から推定されるアミノ酸配列8をFASTA DNA解析プログラムによって分析した結果、既知のGPDと高い相同性を示したことから、DNA配列18がGPD遺伝子断片であることが示唆され、本遺伝子をPs(Phanerochaete sordida)GPDと命名した。
【0058】
PsGPDの全長をクローニングするため、DNA配列18を元に、フォワードプライマー35(P35:配列番号35),フォワードプライマー36(P36:配列番号36)を合成した。実施例3で合成したcDNAを鋳型として、P35、及びP7を用いて3'-RACE PCR反応を行った。得られたPCR反応物を希釈してテンプレートとし、P36及びP7を用いてnested PCRを行った。得られた約670bpのPCR産物をTAクローニングし、シークエンスを行った結果、DNA配列19(DNA19)が得られた。DNA19から推定されるアミノ酸配列9をFASTA DNA解析プログラムによって分析した結果、既知のGPDと高い相同性を示したことから、DNA19がグリセロール3リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の一部であることが示唆された。
【0059】
次にPsGPDの5'側をクローニングするためTAIL-PCRを行った。TAIL-PCRは実施例7に準じて行った。リバースプライマー37、38、39(P37:配列番号37,P38:配列番号38,P39:配列番号39) を合成し、TAIL プライマーCANGCNWSGTNTSCAA(P40:配列番号40)に対して3回のTAIL-PCRを行った。鋳型にはYK-624 genomic DNAを用いた。得られたPCR産物をTAクローニングし、DNA配列20(DNA20)を得た。
【0060】
同様に、PsGPDの3'側をクローニングするためにもTAIL-PCRを行った。フォワードプライマー41(P41:配列番号41)を合成し、P35、P36、P41を順次使用して3回のTAIL-PCRを、TAIL プライマーGTNCGASWCANAWGTT(P42:配列番号42)に対して行った。鋳型にはYK-624 genomic DNAを用いた。得られたPCR産物をTAクローニングし、DNA配列21(DNA21)を得た。
【0061】
DNA20、及びDNA21を元にプライマー43、44(P43:配列番号43,P44:配列番号44)を合成し、正確性の高いPCR酵素(PrimeSTAR HS DNA Polymerase,TAKARA)を用いて、YK-624株のgenomic DNAからPsGPD全長を増幅した。得られた3.7kbp長のPCR産物をZero Blunt TOPO Cloning Kit for sequencing(Invitrogen)を用いて、クローニングプラスミドpCR4Blunt-TOPO中にクローニングした。4クローンから得られた配列をシークエンスした結果、PCRに伴う変異が全く存在しないクローンを得て、そのDNA配列22(DNA22:配列番号72)をPsGPD全長とした。また、DNA22を含むプラスミドをpPsGPDとした。
【0062】
加えて、DNA22の配列情報を元にプライマーP45、P46(P45:配列番号45,P46:配列番号46)を合成し、実施例2において合成したcDNAを鋳型としてRT-PCRを行った結果、DNA配列23(DNA23:配列番号73)を得て、これをPsGPD cDNAとした。PsGPD cDNAから推定されるアミノ酸配列10(配列番号81)は翻訳開始メチオニン、終止コドンを含む337アミノ酸からなり、これをPsGPDアミノ酸配列とした。PsGPD genomic DNA(DNA23)は PsGPD cDNAとの比較により、7個のエキソン(図9のwhite boxで示す)、及び6個のイントロンを含むことがわかった。
【0063】
実施例11(pPsGPDに由来する遺伝子導入ベクターの構築1(図10))
pPsGPDのpromoter、terminatorを用いて遺伝子導入ベクターを構築し、かつ構築した遺伝子導入ベクターが導入遺伝子をUV-#64株内で強く発現させる能力があることを実証するため、蛍光遺伝子であるEGFPを発現させるpPsGPD由来ベクターの構築を行った。
プライマー47(P47:配列番号47)-48(P48:配列番号48)のセット、及びプライマー49(P49:配列番号49)-50(P50:配列番号50)のセットを用い、PrimeSTAR HS DNA PolymeraseによってpPsGPDを鋳型としてPCRを行った。得られた両PCR産物(DNA24, DNA25)を混合し、プライマーP47-P50のセットで再度PrimeSTAR HS DNA Polymeraseを用いPCRを行った(図10の手順1)。PCR産物(DNA26)はZero Blunt TOPO Cloning Kit for sequencingを用いて、クローニングプラスミドpCR4Blunt-TOPO中にクローニングし、シークエンスを行った。その結果、PsGPDの翻訳終止コドンの直前に制限酵素Asc Iサイトが導入されたことを確認した。次に、DNA26に元々存在する2箇所の制限酵素Sac I サイトによって、DNA26を Sac I 分解しDNA インサートとした。pPsGPDも同様にSac I 分解してDNA アームとし、shrimp alkaline phosphatase(ベーリンガーマンハイム)を用いて脱リン酸処理した。上記DNA アームとDNAインサートをDNA ligase ver2.1を用いてライゲーション(図10の手順2)した結果、GPD翻訳領域の終止コドンの直前に制限酵素Asc Iサイトが導入されたpPsGPD(+Asc I)プラスミド(DNA配列27:配列番号74)が構築できた。
【0064】
実施例12(pPsGPDに由来する遺伝子導入ベクターの構築2(図10))
EGFP遺伝子(Clontec)のN末端側にアミノ酸リンカーを導入するため、プライマーP51(配列番号51)-P52(配列番号52)を用い、PrimeSTAR HS DNA PolymeraseによってPCR増幅を行った。得られたPCR産物(DNA28)を再度プライマーP53(配列番号53)-P52を用いてPCRを行った。その結果、長いアミノ酸リンカーGSGGGSGGGを持つ改変EGFP(L-EGFP)となった(DNA29)。さらに、DNA29をプライマー54-55のセット(P54:配列番号54,P55:配列番号55)で増幅した。その結果、EGFPの両端にAsc Iサイトが導入された(DNA30)。DNA30を含むクローニングプラスミドpCR4Blunt-TOPOをAsc Iで切断することにより、両端にAsc Iサイトを持つEGFP断片(DNA インサート)を作製した。次に実施例11で作製したpPsGPD(+Asc I)プラスミドも同様にAsc Iで分解し、生じたDNA断片をshrimp alkaline phosphataseを用いて脱リン酸処理してDNAアームを作製した。
【0065】
上記DNA アームとDNAインサートをDNA ligase ver2.1を用いてライゲーション(図10の手順3)した結果、新しいプラスミドpPsGPD-EGFP(DNA31:配列番号75)を得た。pPsGPD-EGFPはPsGPDの翻訳配列全長が、アミノ酸リンカー配列GSGGGSGGGを介してEGFPに結合した融合遺伝子であり、遺伝子導入の結果PsGPDとEGFPの融合タンパク質として細胞内において発現する設計となっている。
【0066】
実施例13(pGPD-EGFPのUV-#64株への遺伝子導入、及びEGFP発現の確認(図11,12))
実施例11、実施例12で構築した遺伝子導入ベクター(pPsGPD-EGFP)が、GPD promoter、GPD terminatorの作動によって強く導入遺伝子(EGFP)を発現する能力を有することを確認するため、UV-#64株への遺伝子導入(共形質転換)を行った。遺伝子導入方法は実施例9に準じ、マーカー遺伝子であるpPsURA5 5μgと共にpGPD-EGFPを20μg加えて形質転換操作を行った。得られたウラシル非要求性株24クローンの菌糸片を回収し、TE-Triton X100溶液(Tris-HCl 10mM, EDTA 1mM,Triton-X100 0.05% pH8.0)中で3回凍結融解を繰り返した。その溶液を鋳型として、EGFP遺伝子の部分配列を増幅するプライマーセットP56(配列番号56)、P57(配列番号57)(図10)のセットでPCRを行った。24クローン中12クローンからEGFP配列のPCR増幅(DNA32)が確認されたため、これらのクローンにおいてEGFP遺伝子が導入されていることが確認され、E1-E12までの名称を与えた。次に、マーカー遺伝子のみを導入して形質転換したクローン6株(C1-C6)を別途作製し、各菌株の菌糸片をそれぞれ200mg(湿重量)回収した。
【0067】
各菌糸片を液体窒素で凍結後、乳鉢で粉砕し、粉末全量をEGFP蛍光強度測定緩衝液に懸濁した。緩衝液組成を以下に示す(0.15M リン酸緩衝液, 1mM EDTA, 400倍希釈 protease inhibitor cocktail(Sigma), pH7.0, 4℃)。菌糸粉末懸濁液を遠心(10,000 × g, 5分)して上清を回収し、細胞可溶化液とした。細胞可溶化液中のEGFP蛍光強度はMithras LB940(ベルトールド)を用いて測定した。蛍光強度から各細胞可溶化液中のEGFPタンパク質量を定量するために、EGFPタンパク質標品(クロンテック)を用いて検量線を作製した。また、各細胞可溶化液中の総タンパク質量を定量した(Dcプロティンアッセイキット,Bio-Rad)。可溶化総タンパク質中に占めるEGFPタンパク質の量を算出した結果、最も強くEGFPを発現しているクローンE2においては、可溶化総タンパク質中1.2%がEGFPで占められていた(図11)。また、CYM寒天培地に生育しているクローンE2にEGFP励起光(485nm)を照射したところ、強い緑色蛍光が観察された(図12)。以上の結果より、pPsGPD-EGFPプラスミドにおけるGPD promoter、GPD terminator領域は、UV-#64株中で導入遺伝子を強く発現する能力を有することが示された。
【0068】
実施例14(YK-LiP1遺伝子発現ベクター(pGPD-YKLiP1)の作製(図13))
YK-624株由来菌株(UV-#64)に YK-LiP1を高発現する性質を付与するため、実施例13においてUV-#64中で機能することを確認したpPsGPD-EGFPプラスミドを用いてYK-LiP1を高発現させる遺伝子発現ベクターを作製した。pPsGPD-EGFP(DNA31)を鋳型として、PrimeSTAR HS DNA Polymeraseを用い、プライマーセットP58(配列番号58)-P59(配列番号59)によってGPD promoterの一部をPCR増幅した(DNA33)。別途、YK-LiP1 genomic DNA(DNA6)を鋳型として、PrimeSTAR HS DNA Polymeraseを用い、プライマーセットP60(配列番号60)-P61(配列番号61)によってPCR増幅した(DNA34)。得られた両PCR産物(DNA33, DNA34)を混合し、プライマーP58-P61のセットで再度PrimeSTAR HS DNA Polymeraseを用いPCRを行った(図13の手順1)。PCR産物はZero Blunt TOPO Cloning Kit for sequencingを用いて、クローニングプラスミドpCR4Blunt-TOPO中にクローニングし、シークエンスを行った。その結果、GPD promoterの一部配列とYK-LiP1 genomic DNAがin frameで融合し、かつYK-LiP1 終止コドンの直後に制限酵素Asc I サイトが導入されたことを確認した(DNA35)。
【0069】
次に、GPD promoterに元々存在する制限酵素Nde I サイトと新たに導入された制限酵素Asc I サイトによって、DNA35を Nde I-Asc I分解しDNA インサートとした。pPsGPD-EGFPも同様にNde I-Asc I分解してDNA アームとし、shrimp alkaline phosphataseを用いて脱リン酸処理した。上記DNA アームとDNAインサートをDNA ligase ver2.1を用いてライゲーション(図13の手順2)した結果、GPD promoterとGPD terminatorに結合したYK-LiP1 genomic DNAを含むDNA配列(DNA36:配列番号76)を持つpCR4Blunt-TOPOプラスミドの構築に至った。このプラスミドをpGPD-YKLiP1と命名した。
【0070】
実施例15(YK-LiP2遺伝子発現ベクター(pGPD-YKLiP2)作製(図14))
YK-624株由来菌株(UV-#64)に YK-LiP2を高発現する性質を付与するため、実施例13においてUV-#64中で機能することを確認したpPsGPD-EGFPプラスミドを用いてYK-LiP2を高発現させる遺伝子発現ベクターを作製した。pPsGPD-EGFP(DNA31)を鋳型として、PrimeSTAR HS DNA Polymeraseを用い、プライマーセットP58-P62(P62:配列番号62)によってGPD promoterの一部をPCR増幅した(DNA37)。別途、YK-LiP2 genomic DNA(DNA10)を鋳型として、PrimeSTAR HS DNA Polymeraseを用い、プライマーセットP63(配列番号63)-P64(配列番号64)によってPCR増幅した(DNA38)。得られた両PCR産物(DNA37, DNA38)を混合し、プライマーP58-P64のセットで再度PrimeSTAR HS DNA Polymeraseを用いPCRを行った(図14の手順1)。PCR産物はZero Blunt TOPO Cloning Kit for sequencingを用いて、クローニングプラスミドpCR4Blunt-TOPO中にクローニングし、シークエンスを行った。その結果、GPD promoterの一部配列とYK-LiP2 genomic DNAがin frameで融合し、かつYK-LiP2終止コドンの直後に制限酵素Asc I サイトが導入されたことを確認した(DNA39)。
【0071】
次に、GPD promoterに元々存在する制限酵素Nde I サイトと新たに導入された制限酵素Asc I サイトによって、DNA39を Nde I-Asc I分解しDNA インサートとした。pPsGPD-EGFPも同様にNde I-Asc I分解してDNA アームとし、shrimp alkaline phosphataseを用いて脱リン酸処理した。上記DNA アームとDNAインサートをDNA ligase ver2.1を用いてライゲーション(図14の手順2)した結果、GPD promoterとGPD terminatorに結合したYK-LiP2 genomic DNAを含むDNA配列(DNA40:配列番号77)を持つpCR4Blunt-TOPOプラスミドの構築に至った。このプラスミドをpGPD-YKLiP2と命名した。
【0072】
実施例16(YK-LiP1遺伝子発現ベクターが導入されたUV-#64株の作製)
YK-624株由来菌株(UV-#64)に YK-LiP1を高発現する性質を付与するため、実施例14において開発したpGPD-YKLiP1ベクターの遺伝子導入を行った。遺伝子導入方法は実施例9に準じ、マーカー遺伝子であるpPsURA5 5μgと共にpGPD-YKLiP1ベクターを20μg加えて形質転換操作を行った。得られたウラシル非要求性株25クローンの菌糸片を回収し、TE-Triton X100溶液(Tris-HCl 10mM, EDTA 1mM,Triton-X100 0.05% pH8.0)中で3回凍結融解を繰り返した。その溶液を鋳型として、pGPD-YKLiP1ベクターの部分配列を増幅するプライマー(P9,P45)のセットでPCRを行った。25クローン中11クローンからPCR増幅が確認されたため(DNA41)、これらのクローンにおいてpGPD-YKLiP1ベクターが導入されていることが確認された。
【0073】
実施例17(YK-LiP2遺伝子発現ベクターが導入されたUV-#64株の作製)
YK-624株由来菌株(UV-#64)に YK-LiP2を高発現する性質を付与するため、実施例15において開発したpGPD-YKLiP2ベクターの遺伝子導入を行った。遺伝子導入方法は実施例9に準じ、マーカー遺伝子であるpPsURA5 5μgと共にpGPD-YKLiP2ベクターを20μg加えて形質転換操作を行った。得られたウラシル非要求性株52クローンの菌糸片を回収し、TE-Triton X100溶液(Tris-HCl 10mM, EDTA 1mM,Triton-X100 0.05% pH8.0)中で3回凍結融解を繰り返した。その溶液を鋳型として、pGPD-YKLiP2ベクターの部分配列を増幅するプライマーセット(P16,P45)でPCRを行った。52クローン中32クローンからPCR増幅が確認された(DNA42)ため、これらのクローンにおいてpGPD-YKLiP2ベクターが導入されていることが確認された。
【0074】
実施例18(YK-LiP1、及びYK-LiP2遺伝子が導入されたUV-#64株のLiP活性測定(図15))
実施例16及び17にて得られた形質転換株GPD-YKLiP1 No11株(YK-LiP1遺伝子導入)及びGPD-YKLiP2 No3株(YK-LiP2遺伝子導入)のLiP活性を測定した。上記菌株をポテトデキストロース寒天培地にて30℃で3日間培養後、得られた菌体をコルクボーラーにて打ち抜き、菌体ディスク2個をMn欠損Kirk液体培地(1%グルコース,1.2 mM 酒石酸アンモニウム)10 mlとともにワーリングブレンダーにてホモジナイズし、これを100 ml容三角フラスコにて30℃で2日間静置培養を行った。得られた培養液を限外濃縮にて10倍に濃縮後、本濃縮液をLiP活性測定に供した。
【0075】
LiP活性の測定は(反応系1 ml)、20 mM コハク酸緩衝液(pH 3.0)に、1 mM ベラトリルアルコール(VA)及び酵素液を添加し、5分間プレインキュベート後、0.2 mM 過酸化水素を添加し反応を開始し、VAのベラトルアルデヒドへの酸化を310 nm(ε310 nm = 9.3 mM−1 cm−1)の吸光度の増加により求めた。その結果、野生株及びYK-LiPs遺伝子を導入していないコントロール株では全くLiP活性が検出されなかったのに対して、GL1 No11株では5.5 pkat/ml、GL2 No3株では2.2 pkat/mlのLiP活性が検出された。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、元来の選択的リグニン分解能力に優れるYK-624 株に改良を加え、高分子リグニン分解能力が高いYK-LiPs酵素を高生産する性質を付与した新規な菌株を提供することができ、パルプ漂白工程や、土壌浄化処理等への応用が見込まれる。また本発明は、YK-624株の形質転換系を提供することにより、YK-624株における有用物質の大量生産を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】YK-LiPsタンパク質のN末端アミノ酸配列を元にしたdegenerate PCR解析を示す図である(実施例2)。
【図2】YK-LiP1全長のクローニングを示す図である(実施例3)。図中、white boxはエキソンを示す。エキソン間の直線はイントロンを示す。5'-UTR、及び3'-UTRはそれぞれ5'、及び3'非翻訳領域を示す。poly-A siteはmRNAに対してポリアデニレーションが起きる部位を示す。
【図3】YK-LiP2全長のクローニングを示す図である(実施例4)。図中、white boxはエキソンを示す。エキソン間の直線はイントロンを示す。5'-UTR、及び3'-UTRはそれぞれ5'、及び3'非翻訳領域を示す。poly-A siteはmRNAに対してポリアデニレーションが起きる部位を示す。
【図4】YK-624株プロトプラストの変異処理によるウラシル要求性変異株の作製法を示す図である(実施例6)。
【図5】ウラシル要求性変異株の成長試験の結果を示す図である(実施例6)。YK-624(親株)、及びウラシル要求性変異株(UV-#64)をウラシル含有寒天培地、及び不含寒天培地に3箇所づつ植菌して3日培養した状態を示す。
【図6】YK-624株からのウラシル生合成遺伝子(オロト酸ホスホリボシルトランスフェラーゼ)全長クローニングを示す図である(実施例7)。図中、white boxはエキソンを示す。エキソン間の直線はイントロンを示す。shaded boxはUV-#64株において欠損している43 bpのDNA領域を示す。
【図7】ウラシル要求性UV-#64株における遺伝子導入系の構築法を示す図である(実施例9)。
【図8】ウラシル要求性UV-#64株における遺伝子導入系構築の結果を示す(実施例9)。マーカープラスミドは形質転換に用いられたpPsURA5の量を示す。形質転換効率は、再生クローン数に対する、形質転換実験に用いられたプロトプラストの個数の比率(%)を示す。
【図9】YK-624株由来GPD(グリセロール3リン酸デヒドロゲナーゼ)遺伝子のクローニングを示す図である(実施例10)。図中、white boxはエキソンを示す。エキソン間の直線はイントロンを示す。3'-UTRは3'非翻訳領域を示す。poly-A siteはmRNAに対してポリアデニレーションが起きる部位を示す。
【図10】pPsGPDに由来する遺伝子導入ベクターの構築を示す図である(実施例11,12)。図中、white boxはエキソンを示す。エキソン間の直線はイントロンを示す。3'-UTRは3'非翻訳領域を示す。poly-A siteはmRNAに対してポリアデニレーションが起きる部位を示す。Sac I、Asc I はそれぞれ制限酵素Sac I、及びAsc Iによって認識、切断される部位を示す。
【図11】pPsGPD-EGFP 遺伝子導入プラスミドによる導入遺伝子(EGFP)発現の結果を示す図である(実施例13)。図中、各white circleはそれぞれpPsGPD-EGFP 導入株(12株、E1-E12)、及びマーカー遺伝子のみ導入した対照株(C1-C6)のEGFP発現量(可溶性タンパク質中EGFPタンパク質重量 / 全可溶性タンパク質重量(%))を示す。
【図12】E2菌株におけるEGFP発現の可視化を示す図である(実施例13)。pPsGPD-EGFP 導入株(E2)及びマーカー遺伝子のみ導入した対照株(C1)にEGFP励起光(485nm)を照射し、生じた緑色蛍光を撮影した。
【図13】YK-LiP1遺伝子発現ベクター(pGPD-YKLiP1)の作製法を示す図である(実施例14)。図中、Nde I は制限酵素Nde Iによって認識、切断される部位を示す。
【図14】YK-LiP2遺伝子発現ベクター(pGPD-YKLiP2)の作製法を示す図である(実施例15)。図中、Nde I は制限酵素Nde Iによって認識、切断される部位を示す。
【図15】YK-LiP1、及びYK-LiP2遺伝子が導入されたUV-#64株のLiP活性測定結果を示す図である(実施例18)。各試験は3連で行い、平均値±標準偏差で表す。
【技術分野】
【0001】
本発明は白色腐朽菌の形質転換体の作出方法に関し、詳しくはウスキイロカワタケYK-624株の形質転換体の作出方法、及び該方法を活用して作製されたYK-624株由来リグニンペルオキシダーゼを高生産する新菌株に関するものである。
【背景技術】
【0002】
白色腐朽菌は、難分解性芳香族高分子であるリグニンを高度に分解する唯一の生物である。白色腐朽菌はリグニンを分解する際、菌体外にリグニンペルオキシターゼやマンガンペルオキシダーゼといった酸化還元酵素を分泌するが、中でもリグニンペルオキシダーゼは、高分子リグニンを直接酸化分解する以外に、ダイオキシンなどの難分解性芳香族化合物を分解する能力を持つため、紙・パルプ産業における利用(バイオパルピング・バイオブリーチング)、バイオレメディエーションへの応用が期待されている。
また、植物系バイオマスは主にセルロース、ヘミセルロースとリグニンから構成されるが、リグニンを分解することによってセルロースがセルラーゼにより分解されやすい状態に変化する。そのため、リグニンペルオキシターゼは、セルロースの分解によるバイオエタノール生産プロセス、また飼料作物の脱リグニンによる消化性向上処理においても有用である。
【0003】
白色腐朽菌の代表的なものはPhanerochaete chrysosporium(和名無し、以下P. chrysosporium)であり、過去における高分子リグニン分解技術開発の多くは本菌を用いて行われてきた。また、カワラタケ、ヒラタケなどリグニンを強く分解する菌も多く知られているが、これらの菌は高分子リグニンを分解すると同時に、有用バイオマスであるセルロースを同量程度分解してしまうという欠点があった。
一方、本発明者は、屋久島から採取した百株以上の白色腐朽菌をスクリーニングした結果、高分子リグニンを選択的に分解する白色腐朽菌(選択的白色腐朽菌)Phanerochaete sordida(ウスキイロカワタケ、以下P. sordida)YK-624 株を見出した。高分子リグニンを多量に含むブナ材に28日間各種白色腐朽菌を培養した場合、P. chrysosporium、及びカワラタケは高分子リグニンをそれぞれ24%、27%分解したのに対し、P. sordida YK-624 株は41%分解した。一方、YK-624株のセルロースの分解量は、P. chrysosporium、及びカワラタケの1/4程度であった。
【0004】
また、リグニンペルオキシターゼにおける代表的なものはP. chrysosporiumが生産するLiPH8であり、従来ほとんどのリグニンペルオキシターゼ研究はこの酵素を用いて行われてきた。それに対しYK-624株は、LiPH8より高分子リグニンの分解能力に優れる新規リグニンペルオキシターゼ(YK-LiP1及びYK-LiP2)を生産する特徴がある。2量体リグニンモデル化合物を、LiPH8は24時間で約30%しか分解しないのに対し、YK-LiP1は約95%,YK-LiP2は約50%分解する能力を持つ。
しかしながら、YK-624株におけるYK-LiPs(YK-LiP1,2)の発現量は低いため、産業的に本菌を利用する上では、YK-LiPsを高発現する菌株の作出が望まれていた。
【0005】
なお、これまでにYK-624株から、同じくリグニン分解活性を示すマンガンペルオキシダーゼ遺伝子が特許公開されている(例えば、特許文献1参照)。また、同じく高分子リグニンの分解活性を示すヒラタケ由来マンガンペルオキシダーゼ遺伝子が特許公開されている(例えば、特許文献2参照)。
また、P. chrysosporiumに、代表的なリグニンペルオキシターゼであるLipH8を遺伝子導入法によって過剰発現させた報告がある(例えば、非特許文献1参照)。さらに、白色腐朽菌アラゲカワラタケにリグニンペルオキシターゼ等を発現させることを目的として開発された遺伝子導入系が特許公開されている(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
しかし、これらの菌種はリグニンとセルロースをほぼ同程度の割合で分解するため、脱リグニン処理時にセルロース分の目減りが避けられず、また特にクラフトパルプのバイオパルピングを行う上では、セルロースの分解は紙質の低下を引き起こす原因となる。そのため、YK-624株などの元来の選択的リグニン分解能力が高い菌種に、高分子リグニン分解能力に優れたリグニンペルオキシダーゼを発現させることが、植物系バイオマスの脱リグニン処理には特に望ましいと考えられていた。
【0007】
【特許文献1】特開2000−152786号公報
【特許文献2】特開平7−313156号公報
【特許文献3】特開2000−342275号公報
【非特許文献1】Appl Environ Microbiol. 65, 1670-1674 (1999)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
代表的な白色腐朽菌であるP.chrysosporiumや、カワラタケ、ヒラタケなど、リグニンを強く分解する菌は多く知られているが、これらの菌は高分子リグニンを分解すると同時に、有用バイオマスであるセルロースを同量程度分解してしまうという欠点があった。
そこで本発明においては、YK-LiPsの完全長アミノ酸配列を解読し、かつ、YK-624株に対する遺伝子導入系を新たに開発することによって、YK-LiPsを高生産する菌株を作製することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明ではまず、タンパク質として既に精製されていたYK-LiPのN-末端アミノ酸配列を解析し、その情報を元に縮重PCRを行うことによってcDNA配列の部分情報を取得した。その後3’-RACE、及び5’-RACE法によりYK-624 株のgenomic DNAから完全長YK-LiP遺伝子(YK-LiP1,YK-LiP2)をクローニングして、全塩基配列と推定アミノ酸配列を明らかにした(配列番号78,79)。
【0010】
次に、YK-624 株を含むP. sordida種では、形質転換系が既に確立している白色腐朽菌P. chrysosporiumと異なり分生子を形成せず、また子実体を形成させて胞子を回収する条件も見出されておらず、これまで遺伝子導入系の成功例がなかったため、YK-624 株における遺伝子導入系の構築を試み、安定した遺伝子導入技術を完成させた。
【0011】
また、P. sordidaで機能することが確認されている遺伝子発現ベクターもこれまで報告がなかったため、YK-624 株から構成的遺伝子GPDH(グリセロール3リン酸デヒドロゲナーゼ、GPDともいう。)の全長を新たにクローニングし、そのプロモーター、ターミネーター領域を用いることで、導入遺伝子を強く発現させる遺伝子発現ベクターを構築した(図10)。本ベクターは導入遺伝子を強く(全可溶性タンパク質の1.2%)発現させる能力を有していた(図12)。
【0012】
本発明者らは、上記遺伝子導入法、及び遺伝子発現ベクターを用いてYK-LiP1、YK-LiP2のgenomic DNAをYK-624 株に形質転換することにより、YK-LiP1、YK-LiP2遺伝子が導入された多数のクローンを得た(図13,14)。そして、それらのクローンの中から親株より高いリグニンペルオキシターゼ活性を示す菌株(YK-LiP1 No11、YK-LiP2 No3)を選抜することによって、本発明を完成させたのである(図15)。
【0013】
このように本発明は、元来のリグニン選択的分解性が高いP. sordida YK-624 株を生産菌として用いていること、選択的白色腐朽菌P. sordidaにおいて初めて遺伝子導入法、及び遺伝子発現ベクターを構築したこと、並びに代表的なリグニンペルオキシターゼLiPH8と比較して高分子リグニン分解力に優れるYK-LiP1、及びYK-LiP2を高発現させた点において新規性がある。
【0014】
すなわち、請求項1に記載の本発明は、ウスキイロカワタケYK-624株を親株とするウラシル要求性変異株UV-#64(NITE AP-344)である。
請求項2に記載の本発明は、配列番号69の塩基配列からなり、かつ、請求項1に記載のUV-#64株に導入することにより該UV-#64株をウラシル非要求性とすることができ、遺伝子導入系のマーカー遺伝子として機能する、YK-624株由来オロト酸ホスホリボシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子である。
請求項3に記載の本発明は、請求項2に記載の遺伝子を含むプラスミドである。
請求項4に記載の本発明は、配列番号75の塩基配列からなるDNAを含み、ウスキイロカワタケにおいて導入遺伝子を高発現する能力を有する遺伝子発現ベクターである。
請求項5に記載の本発明は、ホスト菌株として請求項1に記載のUV-#64株を用いる、YK-624株の形質転換体の作出方法である。
請求項6に記載の本発明は、ホスト菌株に、外来遺伝子と共に請求項3に記載のプラスミドを導入する、請求項5に記載の作出方法である。
請求項7に記載の本発明は、請求項4に記載の遺伝子発現ベクターを用いて外来遺伝子を導入する、請求項5又は6に記載の作出方法である。
請求項8に記載の本発明は、請求項1に記載のUV-#64株を親株とし、親株より高いYK-624株由来リグニンペルオキシダーゼ(YK-LiP1)生産能を示す新菌株GPD-YKLiP1 No11(NITE AP-342)である。
請求項9に記載の本発明は、請求項1に記載のUV-#64株を親株とし、親株より高いYK-624株由来リグニンペルオキシダーゼ(YK-LiP2)生産能を示す新菌株GPD-YKLiP2 No3(NITE AP-343)である。
請求項10に記載の本発明は、請求項3に記載のプラスミド及び/又は請求項4に記載の遺伝子発現ベクターを含む、YK-624株に対する遺伝子導入用キットである。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、選択的白色腐朽菌ウスキイロカワタケYK-624 株において、高分子リグニン分解能力に優れたYK-LiP1、YK-LiP2を高生産する菌株を得ることが可能になった。遺伝子導入を行わないYK-624株に対し、YK-LiP1、YK-LiP2をそれぞれ遺伝子発現ベクターpGPD-LiP1、pGPD-LiP2により強制発現させた菌株GPD-LiP1 No11、GPD-LiP2 No3では、液体培養上清における酵素活性が顕著に高いことにより本効果を確認した。
従来技術としてはP. chrysosporium、アラゲカワラタケ(Coriolus hirsutus)、ヒラタケ(Pleurotus ostreatus)等の白色腐朽菌にリグニンペルオキシターゼを生産させた例があるが、本発明は、リグニン分解に伴うセルロース分解度が元来低い選択的白色腐朽菌であるウスキイロカワタケYK-624株を用いている点で優位性がある。
また、本遺伝子導入法を用いることにより、YK-LiPs酵素以外にも任意の遺伝子をYK-624株に発現させることが可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、白色腐朽菌ウスキイロカワタケの形質転換体の作出方法を提供するものである。
【0017】
本発明の形質転換体の作出方法は、外来遺伝子を導入するホスト菌株として、ウスキイロカワタケYK-624株を親株とするウラシル要求性変異株を用いることを特色とする。
YK-624株のウラシル要求性変異株は、親株であるYK-624株の栄養菌糸からプロトプラストを作成し、これに紫外線を照射して変異導入を行った後、5−フルオロオロト酸を含む培地でプロトプラスト再生を行い、ウラシル要求性クローンを選抜することにより得ることができる。詳細な手法は実施例5,6に記載した。
【0018】
このようにして得られたウラシル要求性変異株は、ウラシル合成酵素であるオロト酸ホスホリボシルトランスフェラーゼ遺伝子URA3、URA5上に変異を有していたが、そのうちURA5のコード領域中に43塩基対の欠失変異を持つものをUV-#64株と命名した。このUV-#64株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託されており、受託番号はNITE AP-344である。
なお、UV-#64株の菌学的性質は、ウラシル要求性であること以外は、親株であるYK-624株と同じであった。また、菌の成長力等に目立った差違はなく、菌本来のYK-Lips生産力においても差は生じていない。
【0019】
本発明では、上記のUV-#64株をホスト菌株として用いて形質転換を行うが、その際の遺伝子導入法としては特に制限はなく、例えばポリエチレングリコール(PEG)法などが使用できる。
【0020】
また、遺伝子導入の際に、UV-#64株に目的遺伝子が入ったことを確認するための目印として、導入遺伝子と共に組み込まれるマーカー遺伝子としては、UV-#64株に導入することにより該UV-#64株をウラシル非要求性とすることができ、本発明の遺伝子導入系のマーカー遺伝子として機能するものであれば良い。例えば、ウスキイロカワタケ、P.chrysosporiumなどのPhanerochaete属菌や、アラゲカワラタケ、ヒラタケ等由来のオロト酸ホスホリボシルトランスフェラーゼURA5をコードする遺伝子を用いることができ、中でもYK-624株由来URA5(PsURA5)を含む遺伝子が好ましく、特にPsURA5が好適である(実施例7)。
なお、上記したマーカー遺伝子は、UV-#64株以外のウスキイロカワタケのウラシル要求性変異株に導入した場合にも、ホスト菌株をウラシル非要求性とすることができ、遺伝子導入系のマーカー遺伝子として機能し得る。
【0021】
本発明において上記マーカー遺伝子を使用するときは、当該マーカー遺伝子を含むプラスミドを作成し、これを目的の導入遺伝子を含む組換えベクター(遺伝子発現ベクター)と混合して、例えばプロトプラスト化した栄養菌糸にPEG法を用いて遺伝子導入する方法など、常法によりUV-#64株に導入すればよい(実施例16,17)。
ここで、マーカー遺伝子を含むプラスミドの作成方法は特に限定されず、用いるプラスミドも適宜選択できる。
【0022】
本発明の形質転換体の作出方法に用いる遺伝子発現ベクターとしては、ホスト菌株において導入遺伝子を発現させることができれば良く、特に導入遺伝子を高発現する能力を有するものが好ましい。例えば、ウスキイロカワタケ、特にYK-624株由来のグリセロール3リン酸デヒドロゲナーゼ(PsGPD)のように、ホスト菌株中で強く発現する遺伝子のプロモーター領域及びターミネーター領域を含むものが好適に用いられる。このような遺伝子発現ベクターの具体例として、実施例11,12において作成したpPsGPD-EGFPが挙げられる。
なお、上記遺伝子発現ベクターは、UV-#64株やYK-624株などのウスキイロカワタケをはじめ、P. chrysosporiumなどのPhanerochaete属菌や、アラゲカワラタケ、ヒラタケ等の近縁種をホスト菌株として使用する場合にも、当該ホストにおいて導入遺伝子を高発現する能力を有している。
【0023】
本発明において、上記遺伝子発現ベクターを用いてUV-#64株に目的の導入遺伝子を組み込むときは、常法により、遺伝子発現ベクターのプロモーター領域とターミネーター領域との間に、導入遺伝子を挟みこむようにして結合させる。具体的には、実施例14,15に記載の方法に準じて行うことができる。
【0024】
本発明の形質転換体の作出方法においてUV-#64株に導入する外来遺伝子は特に限定されないが、特にYK-624株が生産する高分子リグニンを選択的に分解するリグニンペルオキシダーゼYK-LiP1及びYK-LiP2が好適である。なお、YK-LiPs酵素は既に精製法が知られている(FEMS Microbiol Lett 246: 19-24)が、本発明において初めてその遺伝子が解明された(実施例3,4)。
【0025】
本発明の方法によって、UV-#64株に上記YK-LiP1及びYK-LiP2を形質転換して得られた新菌株を、それぞれGPD-YKLiP1 No11(以下、GL1 No11と略記することもある。)及びGPD-YKLiP2 No3(以下、GL2 No3と略記することもある。)と命名した(実施例18)。これらの形質転換株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託されており、受託番号はそれぞれNITE AP-342及びNITE AP-343である。
上記した本発明の形質転換体GL1 No11及びGL2 No3は、実施例18に示すように、親株と比べて顕著に高いリグニンペルオキシダーゼ(LiP)活性を有していたことから、親株よりも高いYK-LiP1及びYK-LiP2酵素生産能を有していることが分かった。
【0026】
本発明はまた、上記した本発明の遺伝子マーカーPsURA5を含むプラスミドpPsURA5、及び/又は上記した本発明のpPsGPD-EGFPの塩基配列を含む遺伝子発現ベクター、を含むYK-624株に対する遺伝子導入用キットを提供する。
当該遺伝子導入用キットには、上記遺伝子マーカー及び遺伝子発現ベクター以外にも、遺伝子導入に際し通常用いられる試薬や器具、手順説明書などを含んでいてもよい。
【実施例】
【0027】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
【0028】
実施例1(YK-LiPsタンパク質のN末端アミノ酸解析)
YK-LiPsタンパク質は、YK-624株の培養濾液より既報に従って精製した(FEMS Microbiol Lett 246:19-24)。精製したYK-LiPsタンパク質を2マイクログラム用い、laemmliの方法に従ってSDS-PAGE分析を行った(In "Methods in Carbohydrate Chemistry," Vol.1 (Academic Press), pp.338 (1962))。SDS-PAGEはミニスラブ電気泳動装置を用い、10%ポリアクリルアミドゲル、定電流(20mA)90分間の泳動を行った。PVDF膜(クリアブロット,ATTO)に転写後、MEMCODE STAIN FOR PVDF(Pierce)を用いて染色操作を行った。YK-LiPsタンパク質が転写された領域をカッターナイフで切り出しN末端解析を行った(アプロサイエンス社に依頼分析)。得られたN末端アミノ酸配列21残基はA(A/T)CSNG(A/K)TVS(A/D)ASCCAWF(A/D/N)VLであった(/は複数のアミノ酸が検出されたことを意味する)。
【0029】
実施例2(YK-LiPsタンパク質のN末端アミノ酸配列を元にしたdegenerate PCR解析(図1))
実施例1で得られたN末端アミノ酸配列の情報を元にdegenerate PCRを行った。プライマー1(P1:配列番号1)とプライマー2(P2:配列番号2)をフォワードプライマーとして用い、プライマー3(P3:配列番号3)をリバースプライマーとして用いた。なお、以下全てのプライマーはファスマックDNA合成事業部によって合成したものを用いた。PCR酵素にはHotStart Taq(QIAGEN)を用いた。以下、特に記載がない場合、PCR反応は全て本酵素を用いて行った。PCR反応の鋳型DNAとしては、実施例1の条件でYK-LiPsタンパク質を生産させるために培養(5日間)したYK-624株のRNAから合成したcDNAを用いた。RNAはRNeasy Mini kit(QIAGEN)を用いて精製した。以下、RNA精製は全てRNeasy Mini kitによって行った。cDNA合成は逆転写酵素Reverse Transcriptase XL AMV(TAKARA)を用いて行い、oligodT18を逆転写反応の1st strand cDNA合成反応に用いた。以下、特に記載がない場合、逆転写反応は全てReverse Transcriptase XL AMVを用いて行った。
【0030】
PCR操作によって得られた60bpサイズのDNA断片をpT7Blue T-Vector(Novagen)とDNA Ligation kit ver2.1(TAKARA)を用いてTAクローニングし、コンピテントセルDH5α(TOYOBO)に形質転換した。以下、特に記載がない場合、PCRによって得られたDNA断片のTAクローニングは全て本方法を用いて行った。出現した大腸菌クローンを単離し、それぞれからQIAprep Spin Miniprep Kit (QIAGEN)を用いてプラスミドを回収した。各プラスミドを鋳型としてBigDye Terminator ver3.1 (ABI)を用いてシークエンス反応を行い、ABI PRISM 310 Genetic Analyzer(ABI)を用いてクローニングした60bpのPCR産物を解析した。なお、以下DNA配列のシークエンスは全てBigDye Terminator ver3.1 とABI PRISM 310 Genetic Analyzerを用いて行った。
【0031】
回収したプラスミドをシークエンスした結果、プライマーセットP1-P3から生じたPCR産物はDNA配列1(DNA1)、プライマーセットP2-P3から生じたPCR産物はDNA配列2(DNA2)であったことから、YK-LiPs酵素は2種類の遺伝子の混合物であると予想された。DNA1をYK-LiP1断片、DNA2をYK-LiP2断片と命名した。
【0032】
実施例3(YK-LiP1全長のクローニング(図2))
YK-LiP1断片のDNA配列を元に、フォワードプライマー4(P4:配列番号4)、フォワードプライマー5(P5:配列番号5)を合成した。実施例2で記述したRNAから、プライマー6(P6:配列番号6)を逆転写反応の1st strand cDNA合成反応に用いて逆転写反応を行った。得られたcDNAを鋳型としてP4、及びP7(配列番号7)のセットを用いて3'-RACE PCR反応を行った。得られたPCR反応物を希釈してテンプレートとし、P5及びP7のセットを用いてnested PCRを行った。得られた約1100bpのPCR産物をTAクローニングし、シークエンスを行った結果、DNA配列3(DNA3)が得られた。DNA3から推定されるアミノ酸配列1をFASTA DNA解析プログラム(http://fasta.genome.jp/)によって分析した結果、既知のリグニン分解酵素と高い相同性を示したことから、DNA3がリグニン分解酵素の一部であることが示唆された。
【0033】
次にYK-LiP1の5'側をクローニングするため5'-RACE PCRを行った。実施例2で記述したRNAを用い、GeneRacer Kit(Invitorgen)を用いて5'-RACE PCRに用いるcDNAを合成した。リバースプライマー8(P8:配列番号8)、及びリバースプライマー9(P9:配列番号9)を合成し、まずフォワードプライマー10(P10:配列番号10)とP8のセットによって5'-RACE PCR反応を行った。得られたPCR反応物を希釈してテンプレートとし、P10及びP9のセットを用いてnested PCRを行った。得られた250bpのPCR産物をTAクローニングし、シークエンスを行った結果、DNA配列4(DNA4)が得られた。
【0034】
DNA4、及びDNA3の情報を元にフォワードプライマー11(P11:配列番号11)、リバースプライマー12(P12:配列番号12)を合成して、PCRエラーの少ないPCR酵素(Platinum Taq DNA polymerase, Invitrogen)を用いてPCR反応を行った。鋳型としては実施例2で合成したcDNA、及びYK-624から精製したgenomic DNAを用いた。それぞれ得られたPCR産物をTA クローニングし、3クローンずつ比較してPCR反応に伴う塩基配列の誤りがないことを確認した結果、最終的にDNA配列5(DNA5:配列番号65)及びDNA配列6(DNA6:配列番号66)を得て、これを完全長YK-LiP1 cDNA、及びYK-LiP1 genomic DNAとした。
【0035】
DNA配列5から推定されるアミノ酸配列2(配列番号78)は翻訳開始メチオニン、推定シグナル配列、及び実施例1によって得られたN末端21アミノ酸を含んでおり、これを YK-LiP1 アミノ酸配列とした。YK-LiP1 genomic DNAはYK-LiP1 cDNAとの比較により、8個のエキソン(図2のwhite boxで示す)、及び7個のイントロン、短い5'UTR(非翻訳領域)と3'UTRからなる1707bp長のDNAであった。
【0036】
実施例4(YK-LiP2 全長のクローニング(図3))
YK-LiP2断片のDNA配列を元に、フォワードプライマー13(P13:配列番号13),フォワードプライマー14(P14:配列番号14)を合成した。実施例2で記述したRNAから、P6を逆転写反応の1st strand cDNA合成反応に用いて逆転写反応を行った。得られたcDNAを鋳型としてP13、及びP7のセットを用いて3'-RACE PCR反応を行った。得られたPCR反応物を希釈してテンプレートとし、P14及びP7のセットを用いてnested PCRを行った。得られた約1100bpのPCR産物をTAクローニングし、シークエンスを行った結果、DNA配列7(DNA7)が得られた。DNA7から推定されるアミノ酸配列3をFASTA DNA解析プログラムによって分析した結果、既知のリグニン分解酵素と高い相同性を示したことから、DNA7がリグニン分解酵素の一部であることが示唆された。
【0037】
次にYK-LiP2の5'側をクローニングするため5'-RACE PCRを行った。実施例2で記述したRNAを用い、GeneRacer Kit(Invitorgen)を用いて5'-RACE PCRに用いるcDNAを合成した。リバースプライマー15(P15:配列番号15)、及びリバースプライマー16(P16:配列番号16)を合成し、まずフォワードプライマー10(P10)とP15のセットによって5'-RACE PCR反応を行った。得られたPCR反応物を希釈してテンプレートとし、P10及びP16のセットを用いてnested PCRを行った。得られた250bpのPCR産物をTAクローニングし、シークエンスを行った結果、DNA配列8(DNA8)が得られた。
【0038】
DNA8、及びDNA7の情報を元にフォワードプライマー17(P17:配列番号17)、リバースプライマー18(P18:配列番号18)を合成して、PCRエラーの少ないPCR酵素(Platinum Taq DNA polymerase, Invitrogen)を用いてPCR反応を行った。鋳型としては実施例2で合成したcDNA、及びYK-624から精製したgenomic DNAを用いた。それぞれ得られたPCR産物をTA クローニングし、3クローンずつ比較してPCR反応に伴う塩基配列の誤りがないことを確認した結果、最終的にDNA配列9(DNA9:配列番号67)及びDNA配列10(DNA10:配列番号68)を得て、これを完全長YK-LiP2 cDNA、及びYK-LiP2 genomic DNAとした。
【0039】
DNA配列9から推定されるアミノ酸配列4(配列番号79)は翻訳開始メチオニン、推定シグナル配列、実施例1によって得られたN末端21アミノ酸を含んでおり、これを YK-LiP2 アミノ酸配列とした。YK-LiP2 genomic DNAはYK-LiP2 cDNAとの比較により、9個のエキソン(図3のwhite boxで示す)、及び8個のイントロン、短い5'UTRと3'UTRからなる1727bp長のDNAであった。
【0040】
実施例5(YK-624株からのプロトプラスト調製法)
YK-624株を、500ml容三角フラスコ内にて液体培養した。培地はCYM(Glucose 20g/l, Polypeptone 0.2g/l, Yeast Extract 0.2g/l, KH2PO4 0.46g/l, K2HPO4 1.0g/l, MgSO4-7H2O 0.5g/l, Thiamine 0.1mg/l in distilled H2O 全て和光純薬)を使用し、100mlを三角フラスコに加えオートクレーブ(121℃,15min)して用いた。なお、以下全ての操作はオートクレーブ滅菌器具、及び溶液を用いて行った。また、以下全ての試薬は指定のない限り和光純薬より購入して使用した。
【0041】
まず三角フラスコ一本に、CYM寒天培地(CYM液体培地-1.5% 寒天)で培養したYK-624菌糸3片を植菌して液体培養を行った。なお、以下全ての菌培養は30℃で行った。培養7日後、液体培養菌糸全量をセルマスターCM-100(イウチ)によってホモジナイズし、三角フラスコ8本に分注して培養を継続した。培養4日後、液体培養菌糸全量をホモジナイズし、全量を16本の三角フラスコに分注して培養を継続した。培養1日後、菌糸体全量をブフナー漏斗とグラスフィルターによって吸引、回収した。
【0042】
回収した菌体を0.75M 硫酸マグネシウム緩衝液(0.75M MgSO4-7H2O, 20mM MES, pH6.3) 80mlに懸濁した。細胞壁溶解酵素であるLyzing Enzyme (Sigma)、及びCellulase Onozuka RS(Yakult)を最終濃度がそれぞれ3%になるように添加し、29℃で緩やかに18時間振盪した。振盪中に生じたプロトプラストを未溶解菌糸と分離するため、溶解液を15ml 遠心管に7.5mlずつ分注し、1.0 M ソルビトール緩衝液(1.0M Sorbitol, 10mM MES, pH6.3)5.5mlを重層した。4,000 × g, 30分の遠心分離により、重層した溶液の界面にプロトプラストが集積し、未溶解菌糸は全て沈殿した。プロトプラストのみをパスツールピペットで回収し、等容量の1.0 M ソルビトール緩衝液を加え遠心(2,000 × g, 15分)した。プロトプラストは全て沈殿したため上清を除き、15mlの1.0 M ソルビトール緩衝液を加え再度遠心(2,000 × g, 10分)した。沈殿したプロトプラストを1mlの1.0 M ソルビトール緩衝液に懸濁し、YK-624プロトプラスト標品とした。細胞数はヘマトメーターによって計数した。
【0043】
実施例6(YK-624株プロトプラストの変異処理によるウラシル要求性変異株作製(図4、図5))
YK-624株への遺伝子導入を行うことを目的として、YK-624株の栄養要求性(ウラシル要求性)変異株造成を行った(図4)。実施例5に準じて調製したYK-624株プロトプラスト106個を5mlの1.0 M ソルビトール緩衝液に懸濁し、6cm 細胞培養用シャーレ(イワキ)に移した。蓋はせず、直径1mm、長さ1cmの極小回転子とマグネチックスターラーを用いてプロトプラスト溶液を攪拌しながら、UVトランスイルミネーターの5cm下において260nm波長のUV光を照射した。光強度は0.75mW/cm2、照射時間は30秒であった。照射後、DNA修復酵素が機能することを防ぐため4℃、暗黒下で18時間静置した。
【0044】
1.0M濃度のSucroseを含むCYM液体培地に低融点アガロース(SeaPlaque Agarose, TAKARA)を加え1%とし、オートクレーブ後39℃に保ったものを再生培地とした。ウラシル要求性変異株のみが生育できるようにするため、5-FOA(5-フルオロオロト酸、和光純薬、最終濃度0.75mg/ml)、及びウラシル(和光純薬、最終濃度0.1mg/ml)を上記再生培地に加え、更に上記プロトプラスト懸濁液全量を加えて10cm 細胞培養用シャーレ10枚に分注した。7日間30℃で培養後、再生した約100株のプロトプラスト由来クローンを単離し、0.75mg/mlの5-FOAを含むCYM寒天培地(ウラシル含まず)に移して7日間培養した。
【0045】
各菌株を再度CYM寒天培地(ウラシル含まず)に植え継いで培養を継続した結果、ウラシル不含CYM寒天培地では全く生育せず、ウラシル0.1mg/mlを含むCYM寒天培地では良好に成長する菌株を見出し、これをUV-#64株とした(図5)。
【0046】
実施例6(YK-624株からのウラシル生合成遺伝子(オロト酸ホスホリボシルトランスフェラーゼ)全長クローニング(図6))
オロト酸ホスホリボシルトランスフェラーゼをYK-624株からクローニングするため、近縁担子菌のオロト酸ホスホリボシルトランスフェラーゼ遺伝子アミノ酸配列をCLASTAL-DNA解析プログラム(http://align.genome.jp/clustalw/)で比較し、保存性の高い領域を見出した。そのアミノ酸配列を元にプライマー19(P19:配列番号19)、プライマー20(P20:配列番号20)を設計してdegenerate PCRを行った。PCR反応のテンプレートには実施例2において合成したcDNAを用いた。得られたPCR産物をTAクローニングし、6クローンのシークエンスを行った結果、DNA配列11(DNA11)のみが得られた。DNA11から推定されるアミノ酸配列5をFASTAプログラムによって分析した結果、既知のオロト酸ホスホリボシルトランスフェラーゼと高い相同性を示したことから、DNA11がオロト酸ホスホリボシルトランスフェラーゼの一部であることが示唆され、本遺伝子をPs(Phanerochaete sordida)URA5断片と命名した。
【0047】
PsURA5の全長をクローニングするため、DNA11を元に、フォワードプライマー21(P21:配列番号21)、フォワードプライマー22(P22:配列番号22)を合成した。実施例3で合成したcDNAを鋳型として、P21、及びP7を用いて3'-RACE PCR反応を行った。得られたPCR反応物を希釈してテンプレートとし、P22及びP7を用いてnested PCRを行った。得られた約520bpのPCR産物をTAクローニングし、シークエンスを行った結果、DNA配列12(DNA12)が得られた。DNA12から推定されるアミノ酸配列6をFASTA DNA解析プログラムによって分析した結果、既知のオロト酸ホスホリボシルトランスフェラーゼと高い相同性を示したことから、PsURA5がオロト酸ホスホリボシルトランスフェラーゼの一部であることが示唆された。
【0048】
次にPsURA5の5'側をクローニングするためTAIL-PCRを行った。TAIL-PCRは既報(Microbiology 148 2797-809 (2002))に従い行った。リバースプライマー23, 24, 25(P23:配列番号23,P24:配列番号24,P25:配列番号25)を合成し、TAIL プライマーNGTCGASWGANAWGAA(P26:配列番号26)に対して、YK-624 genomic DNAを鋳型として3回のTAIL-PCRを行った。得られたPCR産物をTAクローニングし、DNA配列13(DNA13)を得た。
【0049】
同様に、PsURA5の3'側をクローニングするためにもTAIL-PCRを行った。フォワードプライマー27(P27:配列番号27)を合成し、プライマーP21、P22、P27を順次使用して3回のTAIL-PCRを、TAIL プライマーCANGCNWSGTNTSCAA(P28:配列番号28)に対して行った。得られたPCR産物をTAクローニングし、DNA配列14(DNA14)を得た。
【0050】
DNA13、及びDNA14を元にプライマー29、プライマー30(P29:配列番号29,P30:配列番号30)を合成し、正確性の高いPCR酵素(PrimeSTAR HS DNA Polymerase,TAKARA)を用いて、YK-624株のgenomic DNAからPsURA5全長を増幅した。得られた5kbp長のPCR産物をZero Blunt TOPO Cloning Kit for sequencing(Invitrogen)を用いて、クローニングプラスミドpCR4Blunt-TOPO中にクローニングした。4クローンから得られた配列をシークエンスした結果、PCRに伴う変異が全く存在しないクローンを得て、そのDNA配列15(DNA15:配列番号69)をPsURA5全長とした。また、PsURA5全長を含むプラスミドをpPsURA5として、実施例9における遺伝子導入マーカープラスミドとした。
【0051】
加えて、DNA15の配列情報を元にプライマー31、32(P31:配列番号31、P32:配列番号32)を合成し、実施例2において合成したcDNAを鋳型としてRT-PCRを行った結果DNA配列16(DNA16:配列番号70)を得て、これをPsURA5 cDNAとした。PsURA5 cDNAから推定されるアミノ酸配列7(配列番号80)は翻訳開始メチオニン、終止コドンを含む232アミノ酸からなり、これをPsURA5アミノ酸配列とした。PsURA5 genomic DNA(DNA15)は PsURA5 cDNAとの比較により、2個のエキソン(図6のwhite boxで示す)、及び1個のイントロンを含むことがわかった。
【0052】
実施例8(ウラシル要求性UV-#64株におけるPsURA5遺伝子のクローニング(図6))
実施例6で作製したUV-#64株における表現形(ウラシル要求性)の原因遺伝子を特定するため、ウラシル0.1mg/mlを含むCYM寒天培地で培養したUV-#64株よりRNAを回収し、実施例2の方法に準じてcDNAを合成した。次にプライマーP31、P32を用いてPsURA5のcDNAをPCR増幅した。増幅されたPCR産物をTAクローニングしてシークエンスした結果、DNA配列17(DNA17:配列番号71)を得た。DNA17をDNA16と比較した結果、翻訳領域中に43bpの欠失変異があることが確認されたため、UV-#64株におけるウラシル要求性はPsURA5の機能喪失にその原因があることが確認できた。
【0053】
実施例9(ウラシル要求性UV-#64株における遺伝子導入系構築(図7、図8))
実施例6で作製したUV-#64株の表現形(ウラシル要求性)は、PsURA5の機能喪失によりもたらされたことが実施例8によって示された。そのため、実施例7で得た完全長PsURA5(DNA15)を含むpPsURA5をマーカー遺伝子としてUV-#64株に導入し、UV-#64をウラシル非要求性にする遺伝子導入系を構築した(図7)。
【0054】
まず実施例5に準じて、UV-#64株よりプロトプラストを調製した。液体培養過程においては、CYM液体培地にウラシルを添加した(最終濃度0.1mg/ml)。得られたプロトプラスト(2×107細胞)にマーカー遺伝子pPsURA5を加え、CaCl2と共に氷上で10分間インキュベートした。その溶液組成を以下に示す(プロトプラスト2×107細胞, pPsURA5 1.25〜20μg, CaCl2 40mM, 1.0M Sorbitol, 10mM MES, pH6.2)。
【0055】
次に等volumeのポリエチレングリコール溶液(PEG4000 50%, 1.0M Sorbitol, 10mM MES, pH6.2)を添加し、穏やかに混合後氷上でインキュベートした。10分後、全量を実施例6に記載した再生培地(ウラシル不含)に加え、よく混合後10cm 細胞培養用シャーレ15枚に分注した。7日間30℃で培養後、再生したプロトプラスト由来クローンを単離し、CYM寒天培地(ウラシル不含)に移して培養を行った結果、ウラシル非要求性を示す多数のクローンを得た(図8)。
【0056】
実施例10(YK-624株由来GPD(グリセロール3リン酸デヒドロゲナーゼ)遺伝子のクローニング(図9))
多くの生物で強く、かつ構成的に発現することが知られているGPD(グリセロール3リン酸デヒドロゲナーゼ)遺伝子のプロモーター、ターミネーター領域を用いて、導入遺伝子を強く発現させる遺伝子発現ベクターを構築するため、YK-624株genomic DNAからのGPDクローニングを行った。
【0057】
GPDをYK-624株からクローニングするため、近縁担子菌のGPDアミノ酸配列をCLASTAL DNA解析プログラムで比較し、保存性の高い領域を見出した。そのアミノ酸配列を元にプライマー33(P33:配列番号33)、プライマー34(P34:配列番号34)を設計してdegenerate PCRを行った。PCR反応のテンプレートには実施例2において合成したcDNAを用いた。得られたPCR産物をTAクローニングし、6クローンのシークエンスを行った結果、DNA配列18(DNA18)のみが得られた。DNA18から推定されるアミノ酸配列8をFASTA DNA解析プログラムによって分析した結果、既知のGPDと高い相同性を示したことから、DNA配列18がGPD遺伝子断片であることが示唆され、本遺伝子をPs(Phanerochaete sordida)GPDと命名した。
【0058】
PsGPDの全長をクローニングするため、DNA配列18を元に、フォワードプライマー35(P35:配列番号35),フォワードプライマー36(P36:配列番号36)を合成した。実施例3で合成したcDNAを鋳型として、P35、及びP7を用いて3'-RACE PCR反応を行った。得られたPCR反応物を希釈してテンプレートとし、P36及びP7を用いてnested PCRを行った。得られた約670bpのPCR産物をTAクローニングし、シークエンスを行った結果、DNA配列19(DNA19)が得られた。DNA19から推定されるアミノ酸配列9をFASTA DNA解析プログラムによって分析した結果、既知のGPDと高い相同性を示したことから、DNA19がグリセロール3リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の一部であることが示唆された。
【0059】
次にPsGPDの5'側をクローニングするためTAIL-PCRを行った。TAIL-PCRは実施例7に準じて行った。リバースプライマー37、38、39(P37:配列番号37,P38:配列番号38,P39:配列番号39) を合成し、TAIL プライマーCANGCNWSGTNTSCAA(P40:配列番号40)に対して3回のTAIL-PCRを行った。鋳型にはYK-624 genomic DNAを用いた。得られたPCR産物をTAクローニングし、DNA配列20(DNA20)を得た。
【0060】
同様に、PsGPDの3'側をクローニングするためにもTAIL-PCRを行った。フォワードプライマー41(P41:配列番号41)を合成し、P35、P36、P41を順次使用して3回のTAIL-PCRを、TAIL プライマーGTNCGASWCANAWGTT(P42:配列番号42)に対して行った。鋳型にはYK-624 genomic DNAを用いた。得られたPCR産物をTAクローニングし、DNA配列21(DNA21)を得た。
【0061】
DNA20、及びDNA21を元にプライマー43、44(P43:配列番号43,P44:配列番号44)を合成し、正確性の高いPCR酵素(PrimeSTAR HS DNA Polymerase,TAKARA)を用いて、YK-624株のgenomic DNAからPsGPD全長を増幅した。得られた3.7kbp長のPCR産物をZero Blunt TOPO Cloning Kit for sequencing(Invitrogen)を用いて、クローニングプラスミドpCR4Blunt-TOPO中にクローニングした。4クローンから得られた配列をシークエンスした結果、PCRに伴う変異が全く存在しないクローンを得て、そのDNA配列22(DNA22:配列番号72)をPsGPD全長とした。また、DNA22を含むプラスミドをpPsGPDとした。
【0062】
加えて、DNA22の配列情報を元にプライマーP45、P46(P45:配列番号45,P46:配列番号46)を合成し、実施例2において合成したcDNAを鋳型としてRT-PCRを行った結果、DNA配列23(DNA23:配列番号73)を得て、これをPsGPD cDNAとした。PsGPD cDNAから推定されるアミノ酸配列10(配列番号81)は翻訳開始メチオニン、終止コドンを含む337アミノ酸からなり、これをPsGPDアミノ酸配列とした。PsGPD genomic DNA(DNA23)は PsGPD cDNAとの比較により、7個のエキソン(図9のwhite boxで示す)、及び6個のイントロンを含むことがわかった。
【0063】
実施例11(pPsGPDに由来する遺伝子導入ベクターの構築1(図10))
pPsGPDのpromoter、terminatorを用いて遺伝子導入ベクターを構築し、かつ構築した遺伝子導入ベクターが導入遺伝子をUV-#64株内で強く発現させる能力があることを実証するため、蛍光遺伝子であるEGFPを発現させるpPsGPD由来ベクターの構築を行った。
プライマー47(P47:配列番号47)-48(P48:配列番号48)のセット、及びプライマー49(P49:配列番号49)-50(P50:配列番号50)のセットを用い、PrimeSTAR HS DNA PolymeraseによってpPsGPDを鋳型としてPCRを行った。得られた両PCR産物(DNA24, DNA25)を混合し、プライマーP47-P50のセットで再度PrimeSTAR HS DNA Polymeraseを用いPCRを行った(図10の手順1)。PCR産物(DNA26)はZero Blunt TOPO Cloning Kit for sequencingを用いて、クローニングプラスミドpCR4Blunt-TOPO中にクローニングし、シークエンスを行った。その結果、PsGPDの翻訳終止コドンの直前に制限酵素Asc Iサイトが導入されたことを確認した。次に、DNA26に元々存在する2箇所の制限酵素Sac I サイトによって、DNA26を Sac I 分解しDNA インサートとした。pPsGPDも同様にSac I 分解してDNA アームとし、shrimp alkaline phosphatase(ベーリンガーマンハイム)を用いて脱リン酸処理した。上記DNA アームとDNAインサートをDNA ligase ver2.1を用いてライゲーション(図10の手順2)した結果、GPD翻訳領域の終止コドンの直前に制限酵素Asc Iサイトが導入されたpPsGPD(+Asc I)プラスミド(DNA配列27:配列番号74)が構築できた。
【0064】
実施例12(pPsGPDに由来する遺伝子導入ベクターの構築2(図10))
EGFP遺伝子(Clontec)のN末端側にアミノ酸リンカーを導入するため、プライマーP51(配列番号51)-P52(配列番号52)を用い、PrimeSTAR HS DNA PolymeraseによってPCR増幅を行った。得られたPCR産物(DNA28)を再度プライマーP53(配列番号53)-P52を用いてPCRを行った。その結果、長いアミノ酸リンカーGSGGGSGGGを持つ改変EGFP(L-EGFP)となった(DNA29)。さらに、DNA29をプライマー54-55のセット(P54:配列番号54,P55:配列番号55)で増幅した。その結果、EGFPの両端にAsc Iサイトが導入された(DNA30)。DNA30を含むクローニングプラスミドpCR4Blunt-TOPOをAsc Iで切断することにより、両端にAsc Iサイトを持つEGFP断片(DNA インサート)を作製した。次に実施例11で作製したpPsGPD(+Asc I)プラスミドも同様にAsc Iで分解し、生じたDNA断片をshrimp alkaline phosphataseを用いて脱リン酸処理してDNAアームを作製した。
【0065】
上記DNA アームとDNAインサートをDNA ligase ver2.1を用いてライゲーション(図10の手順3)した結果、新しいプラスミドpPsGPD-EGFP(DNA31:配列番号75)を得た。pPsGPD-EGFPはPsGPDの翻訳配列全長が、アミノ酸リンカー配列GSGGGSGGGを介してEGFPに結合した融合遺伝子であり、遺伝子導入の結果PsGPDとEGFPの融合タンパク質として細胞内において発現する設計となっている。
【0066】
実施例13(pGPD-EGFPのUV-#64株への遺伝子導入、及びEGFP発現の確認(図11,12))
実施例11、実施例12で構築した遺伝子導入ベクター(pPsGPD-EGFP)が、GPD promoter、GPD terminatorの作動によって強く導入遺伝子(EGFP)を発現する能力を有することを確認するため、UV-#64株への遺伝子導入(共形質転換)を行った。遺伝子導入方法は実施例9に準じ、マーカー遺伝子であるpPsURA5 5μgと共にpGPD-EGFPを20μg加えて形質転換操作を行った。得られたウラシル非要求性株24クローンの菌糸片を回収し、TE-Triton X100溶液(Tris-HCl 10mM, EDTA 1mM,Triton-X100 0.05% pH8.0)中で3回凍結融解を繰り返した。その溶液を鋳型として、EGFP遺伝子の部分配列を増幅するプライマーセットP56(配列番号56)、P57(配列番号57)(図10)のセットでPCRを行った。24クローン中12クローンからEGFP配列のPCR増幅(DNA32)が確認されたため、これらのクローンにおいてEGFP遺伝子が導入されていることが確認され、E1-E12までの名称を与えた。次に、マーカー遺伝子のみを導入して形質転換したクローン6株(C1-C6)を別途作製し、各菌株の菌糸片をそれぞれ200mg(湿重量)回収した。
【0067】
各菌糸片を液体窒素で凍結後、乳鉢で粉砕し、粉末全量をEGFP蛍光強度測定緩衝液に懸濁した。緩衝液組成を以下に示す(0.15M リン酸緩衝液, 1mM EDTA, 400倍希釈 protease inhibitor cocktail(Sigma), pH7.0, 4℃)。菌糸粉末懸濁液を遠心(10,000 × g, 5分)して上清を回収し、細胞可溶化液とした。細胞可溶化液中のEGFP蛍光強度はMithras LB940(ベルトールド)を用いて測定した。蛍光強度から各細胞可溶化液中のEGFPタンパク質量を定量するために、EGFPタンパク質標品(クロンテック)を用いて検量線を作製した。また、各細胞可溶化液中の総タンパク質量を定量した(Dcプロティンアッセイキット,Bio-Rad)。可溶化総タンパク質中に占めるEGFPタンパク質の量を算出した結果、最も強くEGFPを発現しているクローンE2においては、可溶化総タンパク質中1.2%がEGFPで占められていた(図11)。また、CYM寒天培地に生育しているクローンE2にEGFP励起光(485nm)を照射したところ、強い緑色蛍光が観察された(図12)。以上の結果より、pPsGPD-EGFPプラスミドにおけるGPD promoter、GPD terminator領域は、UV-#64株中で導入遺伝子を強く発現する能力を有することが示された。
【0068】
実施例14(YK-LiP1遺伝子発現ベクター(pGPD-YKLiP1)の作製(図13))
YK-624株由来菌株(UV-#64)に YK-LiP1を高発現する性質を付与するため、実施例13においてUV-#64中で機能することを確認したpPsGPD-EGFPプラスミドを用いてYK-LiP1を高発現させる遺伝子発現ベクターを作製した。pPsGPD-EGFP(DNA31)を鋳型として、PrimeSTAR HS DNA Polymeraseを用い、プライマーセットP58(配列番号58)-P59(配列番号59)によってGPD promoterの一部をPCR増幅した(DNA33)。別途、YK-LiP1 genomic DNA(DNA6)を鋳型として、PrimeSTAR HS DNA Polymeraseを用い、プライマーセットP60(配列番号60)-P61(配列番号61)によってPCR増幅した(DNA34)。得られた両PCR産物(DNA33, DNA34)を混合し、プライマーP58-P61のセットで再度PrimeSTAR HS DNA Polymeraseを用いPCRを行った(図13の手順1)。PCR産物はZero Blunt TOPO Cloning Kit for sequencingを用いて、クローニングプラスミドpCR4Blunt-TOPO中にクローニングし、シークエンスを行った。その結果、GPD promoterの一部配列とYK-LiP1 genomic DNAがin frameで融合し、かつYK-LiP1 終止コドンの直後に制限酵素Asc I サイトが導入されたことを確認した(DNA35)。
【0069】
次に、GPD promoterに元々存在する制限酵素Nde I サイトと新たに導入された制限酵素Asc I サイトによって、DNA35を Nde I-Asc I分解しDNA インサートとした。pPsGPD-EGFPも同様にNde I-Asc I分解してDNA アームとし、shrimp alkaline phosphataseを用いて脱リン酸処理した。上記DNA アームとDNAインサートをDNA ligase ver2.1を用いてライゲーション(図13の手順2)した結果、GPD promoterとGPD terminatorに結合したYK-LiP1 genomic DNAを含むDNA配列(DNA36:配列番号76)を持つpCR4Blunt-TOPOプラスミドの構築に至った。このプラスミドをpGPD-YKLiP1と命名した。
【0070】
実施例15(YK-LiP2遺伝子発現ベクター(pGPD-YKLiP2)作製(図14))
YK-624株由来菌株(UV-#64)に YK-LiP2を高発現する性質を付与するため、実施例13においてUV-#64中で機能することを確認したpPsGPD-EGFPプラスミドを用いてYK-LiP2を高発現させる遺伝子発現ベクターを作製した。pPsGPD-EGFP(DNA31)を鋳型として、PrimeSTAR HS DNA Polymeraseを用い、プライマーセットP58-P62(P62:配列番号62)によってGPD promoterの一部をPCR増幅した(DNA37)。別途、YK-LiP2 genomic DNA(DNA10)を鋳型として、PrimeSTAR HS DNA Polymeraseを用い、プライマーセットP63(配列番号63)-P64(配列番号64)によってPCR増幅した(DNA38)。得られた両PCR産物(DNA37, DNA38)を混合し、プライマーP58-P64のセットで再度PrimeSTAR HS DNA Polymeraseを用いPCRを行った(図14の手順1)。PCR産物はZero Blunt TOPO Cloning Kit for sequencingを用いて、クローニングプラスミドpCR4Blunt-TOPO中にクローニングし、シークエンスを行った。その結果、GPD promoterの一部配列とYK-LiP2 genomic DNAがin frameで融合し、かつYK-LiP2終止コドンの直後に制限酵素Asc I サイトが導入されたことを確認した(DNA39)。
【0071】
次に、GPD promoterに元々存在する制限酵素Nde I サイトと新たに導入された制限酵素Asc I サイトによって、DNA39を Nde I-Asc I分解しDNA インサートとした。pPsGPD-EGFPも同様にNde I-Asc I分解してDNA アームとし、shrimp alkaline phosphataseを用いて脱リン酸処理した。上記DNA アームとDNAインサートをDNA ligase ver2.1を用いてライゲーション(図14の手順2)した結果、GPD promoterとGPD terminatorに結合したYK-LiP2 genomic DNAを含むDNA配列(DNA40:配列番号77)を持つpCR4Blunt-TOPOプラスミドの構築に至った。このプラスミドをpGPD-YKLiP2と命名した。
【0072】
実施例16(YK-LiP1遺伝子発現ベクターが導入されたUV-#64株の作製)
YK-624株由来菌株(UV-#64)に YK-LiP1を高発現する性質を付与するため、実施例14において開発したpGPD-YKLiP1ベクターの遺伝子導入を行った。遺伝子導入方法は実施例9に準じ、マーカー遺伝子であるpPsURA5 5μgと共にpGPD-YKLiP1ベクターを20μg加えて形質転換操作を行った。得られたウラシル非要求性株25クローンの菌糸片を回収し、TE-Triton X100溶液(Tris-HCl 10mM, EDTA 1mM,Triton-X100 0.05% pH8.0)中で3回凍結融解を繰り返した。その溶液を鋳型として、pGPD-YKLiP1ベクターの部分配列を増幅するプライマー(P9,P45)のセットでPCRを行った。25クローン中11クローンからPCR増幅が確認されたため(DNA41)、これらのクローンにおいてpGPD-YKLiP1ベクターが導入されていることが確認された。
【0073】
実施例17(YK-LiP2遺伝子発現ベクターが導入されたUV-#64株の作製)
YK-624株由来菌株(UV-#64)に YK-LiP2を高発現する性質を付与するため、実施例15において開発したpGPD-YKLiP2ベクターの遺伝子導入を行った。遺伝子導入方法は実施例9に準じ、マーカー遺伝子であるpPsURA5 5μgと共にpGPD-YKLiP2ベクターを20μg加えて形質転換操作を行った。得られたウラシル非要求性株52クローンの菌糸片を回収し、TE-Triton X100溶液(Tris-HCl 10mM, EDTA 1mM,Triton-X100 0.05% pH8.0)中で3回凍結融解を繰り返した。その溶液を鋳型として、pGPD-YKLiP2ベクターの部分配列を増幅するプライマーセット(P16,P45)でPCRを行った。52クローン中32クローンからPCR増幅が確認された(DNA42)ため、これらのクローンにおいてpGPD-YKLiP2ベクターが導入されていることが確認された。
【0074】
実施例18(YK-LiP1、及びYK-LiP2遺伝子が導入されたUV-#64株のLiP活性測定(図15))
実施例16及び17にて得られた形質転換株GPD-YKLiP1 No11株(YK-LiP1遺伝子導入)及びGPD-YKLiP2 No3株(YK-LiP2遺伝子導入)のLiP活性を測定した。上記菌株をポテトデキストロース寒天培地にて30℃で3日間培養後、得られた菌体をコルクボーラーにて打ち抜き、菌体ディスク2個をMn欠損Kirk液体培地(1%グルコース,1.2 mM 酒石酸アンモニウム)10 mlとともにワーリングブレンダーにてホモジナイズし、これを100 ml容三角フラスコにて30℃で2日間静置培養を行った。得られた培養液を限外濃縮にて10倍に濃縮後、本濃縮液をLiP活性測定に供した。
【0075】
LiP活性の測定は(反応系1 ml)、20 mM コハク酸緩衝液(pH 3.0)に、1 mM ベラトリルアルコール(VA)及び酵素液を添加し、5分間プレインキュベート後、0.2 mM 過酸化水素を添加し反応を開始し、VAのベラトルアルデヒドへの酸化を310 nm(ε310 nm = 9.3 mM−1 cm−1)の吸光度の増加により求めた。その結果、野生株及びYK-LiPs遺伝子を導入していないコントロール株では全くLiP活性が検出されなかったのに対して、GL1 No11株では5.5 pkat/ml、GL2 No3株では2.2 pkat/mlのLiP活性が検出された。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、元来の選択的リグニン分解能力に優れるYK-624 株に改良を加え、高分子リグニン分解能力が高いYK-LiPs酵素を高生産する性質を付与した新規な菌株を提供することができ、パルプ漂白工程や、土壌浄化処理等への応用が見込まれる。また本発明は、YK-624株の形質転換系を提供することにより、YK-624株における有用物質の大量生産を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】YK-LiPsタンパク質のN末端アミノ酸配列を元にしたdegenerate PCR解析を示す図である(実施例2)。
【図2】YK-LiP1全長のクローニングを示す図である(実施例3)。図中、white boxはエキソンを示す。エキソン間の直線はイントロンを示す。5'-UTR、及び3'-UTRはそれぞれ5'、及び3'非翻訳領域を示す。poly-A siteはmRNAに対してポリアデニレーションが起きる部位を示す。
【図3】YK-LiP2全長のクローニングを示す図である(実施例4)。図中、white boxはエキソンを示す。エキソン間の直線はイントロンを示す。5'-UTR、及び3'-UTRはそれぞれ5'、及び3'非翻訳領域を示す。poly-A siteはmRNAに対してポリアデニレーションが起きる部位を示す。
【図4】YK-624株プロトプラストの変異処理によるウラシル要求性変異株の作製法を示す図である(実施例6)。
【図5】ウラシル要求性変異株の成長試験の結果を示す図である(実施例6)。YK-624(親株)、及びウラシル要求性変異株(UV-#64)をウラシル含有寒天培地、及び不含寒天培地に3箇所づつ植菌して3日培養した状態を示す。
【図6】YK-624株からのウラシル生合成遺伝子(オロト酸ホスホリボシルトランスフェラーゼ)全長クローニングを示す図である(実施例7)。図中、white boxはエキソンを示す。エキソン間の直線はイントロンを示す。shaded boxはUV-#64株において欠損している43 bpのDNA領域を示す。
【図7】ウラシル要求性UV-#64株における遺伝子導入系の構築法を示す図である(実施例9)。
【図8】ウラシル要求性UV-#64株における遺伝子導入系構築の結果を示す(実施例9)。マーカープラスミドは形質転換に用いられたpPsURA5の量を示す。形質転換効率は、再生クローン数に対する、形質転換実験に用いられたプロトプラストの個数の比率(%)を示す。
【図9】YK-624株由来GPD(グリセロール3リン酸デヒドロゲナーゼ)遺伝子のクローニングを示す図である(実施例10)。図中、white boxはエキソンを示す。エキソン間の直線はイントロンを示す。3'-UTRは3'非翻訳領域を示す。poly-A siteはmRNAに対してポリアデニレーションが起きる部位を示す。
【図10】pPsGPDに由来する遺伝子導入ベクターの構築を示す図である(実施例11,12)。図中、white boxはエキソンを示す。エキソン間の直線はイントロンを示す。3'-UTRは3'非翻訳領域を示す。poly-A siteはmRNAに対してポリアデニレーションが起きる部位を示す。Sac I、Asc I はそれぞれ制限酵素Sac I、及びAsc Iによって認識、切断される部位を示す。
【図11】pPsGPD-EGFP 遺伝子導入プラスミドによる導入遺伝子(EGFP)発現の結果を示す図である(実施例13)。図中、各white circleはそれぞれpPsGPD-EGFP 導入株(12株、E1-E12)、及びマーカー遺伝子のみ導入した対照株(C1-C6)のEGFP発現量(可溶性タンパク質中EGFPタンパク質重量 / 全可溶性タンパク質重量(%))を示す。
【図12】E2菌株におけるEGFP発現の可視化を示す図である(実施例13)。pPsGPD-EGFP 導入株(E2)及びマーカー遺伝子のみ導入した対照株(C1)にEGFP励起光(485nm)を照射し、生じた緑色蛍光を撮影した。
【図13】YK-LiP1遺伝子発現ベクター(pGPD-YKLiP1)の作製法を示す図である(実施例14)。図中、Nde I は制限酵素Nde Iによって認識、切断される部位を示す。
【図14】YK-LiP2遺伝子発現ベクター(pGPD-YKLiP2)の作製法を示す図である(実施例15)。図中、Nde I は制限酵素Nde Iによって認識、切断される部位を示す。
【図15】YK-LiP1、及びYK-LiP2遺伝子が導入されたUV-#64株のLiP活性測定結果を示す図である(実施例18)。各試験は3連で行い、平均値±標準偏差で表す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウスキイロカワタケYK-624株を親株とするウラシル要求性変異株UV-#64(NITE AP-344)。
【請求項2】
配列番号69の塩基配列からなり、かつ、請求項1に記載のUV-#64株に導入することにより該UV-#64株をウラシル非要求性とすることができ、遺伝子導入系のマーカー遺伝子として機能する、YK-624株由来オロト酸ホスホリボシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子。
【請求項3】
請求項2に記載の遺伝子を含むプラスミド。
【請求項4】
配列番号75の塩基配列からなるDNAを含み、ウスキイロカワタケにおいて導入遺伝子を高発現する能力を有する遺伝子発現ベクター。
【請求項5】
ホスト菌株として請求項1に記載のUV-#64株を用いる、YK-624株の形質転換体の作出方法。
【請求項6】
ホスト菌株に、外来遺伝子と共に請求項3に記載のプラスミドを導入する、請求項5に記載の作出方法。
【請求項7】
請求項4に記載の遺伝子発現ベクターを用いて外来遺伝子を導入する、請求項5又は6に記載の作出方法。
【請求項8】
請求項1に記載のUV-#64株を親株とし、親株より高いYK-624株由来リグニンペルオキシダーゼ(YK-LiP1)生産能を示す新菌株GPD-YKLiP1 No11(NITE AP-342)。
【請求項9】
請求項1に記載のUV-#64株を親株とし、親株より高いYK-624株由来リグニンペルオキシダーゼ(YK-LiP2)生産能を示す新菌株GPD-YKLiP2 No3(NITE AP-343)。
【請求項10】
請求項3に記載のプラスミド及び/又は請求項4に記載の遺伝子発現ベクターを含む、YK-624株に対する遺伝子導入用キット。
【請求項1】
ウスキイロカワタケYK-624株を親株とするウラシル要求性変異株UV-#64(NITE AP-344)。
【請求項2】
配列番号69の塩基配列からなり、かつ、請求項1に記載のUV-#64株に導入することにより該UV-#64株をウラシル非要求性とすることができ、遺伝子導入系のマーカー遺伝子として機能する、YK-624株由来オロト酸ホスホリボシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子。
【請求項3】
請求項2に記載の遺伝子を含むプラスミド。
【請求項4】
配列番号75の塩基配列からなるDNAを含み、ウスキイロカワタケにおいて導入遺伝子を高発現する能力を有する遺伝子発現ベクター。
【請求項5】
ホスト菌株として請求項1に記載のUV-#64株を用いる、YK-624株の形質転換体の作出方法。
【請求項6】
ホスト菌株に、外来遺伝子と共に請求項3に記載のプラスミドを導入する、請求項5に記載の作出方法。
【請求項7】
請求項4に記載の遺伝子発現ベクターを用いて外来遺伝子を導入する、請求項5又は6に記載の作出方法。
【請求項8】
請求項1に記載のUV-#64株を親株とし、親株より高いYK-624株由来リグニンペルオキシダーゼ(YK-LiP1)生産能を示す新菌株GPD-YKLiP1 No11(NITE AP-342)。
【請求項9】
請求項1に記載のUV-#64株を親株とし、親株より高いYK-624株由来リグニンペルオキシダーゼ(YK-LiP2)生産能を示す新菌株GPD-YKLiP2 No3(NITE AP-343)。
【請求項10】
請求項3に記載のプラスミド及び/又は請求項4に記載の遺伝子発現ベクターを含む、YK-624株に対する遺伝子導入用キット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図13】
【図14】
【図15】
【図5】
【図12】
【図2】
【図3】
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【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図13】
【図14】
【図15】
【図5】
【図12】
【公開番号】特開2008−263862(P2008−263862A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−111735(P2007−111735)
【出願日】平成19年4月20日(2007.4.20)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年10月25日 糸状菌分子生物研究会発行の「第6回糸状菌分子生物学コンファレンス要旨集」に発表
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【出願人】(304023318)国立大学法人静岡大学 (416)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年4月20日(2007.4.20)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年10月25日 糸状菌分子生物研究会発行の「第6回糸状菌分子生物学コンファレンス要旨集」に発表
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【出願人】(304023318)国立大学法人静岡大学 (416)
【Fターム(参考)】
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