説明

白血球中のアポトーシス顆粒球を増加せしめた血液の製造方法

【課題】 容易かつ安全に、白血球中におけるアポトーシス顆粒球の割合を増加せしめた血液の提供。
【解決手段】 体外に取り出した血液を温度37〜45℃にて0.5〜3時間温熱処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白血球中のアポトーシス(Apoptosis:寿命死・自然死)顆粒球を増加せしめた血液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生来免疫の主役である白血球中の顆粒球は永い間、細菌・寄生虫・異物等の喰食や抗原提示による抗体産生、そして補体やサイトカインの活性をもたらし生命を守って来た重要な免疫系である。しかしながら今日の社会や生活環境、医療等の進歩に伴い細菌の減少、寄生虫の絶滅等、本来顆粒球の重要な仕事の対象であった敵が非常に少なくなっている。それにも拘らず骨髄ではあいかわらず以前と同様、連日この様な顆粒球を沢山作り続けている。この産生と消費のバランスが崩れているのが現代と云っても過言ではない。そしてこのバランスを回復せんが為に細菌や寄生虫の代わりに花粉や自己の抗原等にその働き場を求め、その強烈な薬理作用、活性酸素、エラスターゼ(酵素)、サイトカイン(IL−I,TNF・・・)を産生し、自らの身体を傷つけ、かつ慢性的に炎症をもたらしいわゆる現代の難病、リューマチ、潰瘍性大腸炎、ベーチェット等の自己免疫疾患や癌に免疫不全を招来し、ある時は致死的にある時は長期に亘る病態を提示しているのが現状である。
【0003】
而して、斯かる顆粒球の活動を制御すべく、当該顆粒球を血液の体外循環によりカラムに吸着せしめて除去する方法が既に報告されている(例えば特許文献1参照)。
しかしながら、この方法の実施には、吸着用カラムの生産コストが高いと云う問題があると共に、そもそも体外循環であるが故に操作の複雑さ、安全性確保等の点で多くの問題があるのが実状であった。
【特許文献1】特開平2−193069号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記の如き従来の問題と実状に鑑みてなされたもので、より安価に、しかも操作性、安全性に優れた白血球中の顆粒球の活動を制御する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決すべく種々研究を重ねた結果、体外に取り出した血液を特定の温度で温熱処理すれば、白血球中の顆粒球がアポトーシスに至ることを見い出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、体外に取り出した血液を温度37〜45℃にて0.5〜3時間温熱処理することを特徴とする白血球中のアポトーシス顆粒球を増加せしめた血液の製造方法により上記課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、極めて容易に、しかも安全に、白血球中におけるアポトーシス顆粒球の割合が増加した血液を得ることができる。而して、当該血液を体外循環システム等にて癌等の患者の体内に戻すことにより、副作用なく、当該患者の病態を改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明においては、血液の温熱処理を温度37〜45℃にて行なう。この温度が37℃未満の場合には白血球中の顆粒球が殆どアポトーシスに至らず、他方温度が45℃を超える場合には血漿中のタンパク質の変性・凝集が生じる。
【0009】
また、本発明において、当該温熱処理の時間は0.5〜3時間である。この処理時間が0.5時間より短かい場合には白血球中の顆粒球が殆どアポトーシスに至らず、他方処理時間が3時間より長い場合には赤血球の変質や血小板の変性が進行し顆粒球以外の細胞や血液の基本的な機能を低下させる。
【0010】
尚、本発明における温熱処理は、当然に無菌状態にて行なわれる。
【実施例】
【0011】
以下実施例を挙げて本発明を更に説明する。
【0012】
実施例1
自他覚症状を持たない健常ボランティア2名(ドナーA,ドナーB)よりそれぞれ血液5mLを採取した。尚、採血はヘパリンナトリウム真空採血管(テルモ製)を使用して行なった。この採取した各ドナーの血液を、シリココートされたガラス採血管(テルモ製)にそれぞれ1mLずつに分けて、37℃の恒温槽に3時間静置した。
【0013】
実施例2
採取した血液を42℃の恒温槽に3時間静置した以外は実施例1と同様に処理した。
【0014】
比較例1
採取した血液を温熱処理することなく、家庭用冷蔵庫内(温度4℃)で3時間静置した以外は実施例1と同様に処理した。
【0015】
比較例2
採取した血液を温熱処理することなく、空調管理された実験室内(温度25℃)で3時間静置した以外は実施例1と同様に処理した。
【0016】
試験例
実施例1、2及び比較例1、2で処理した血液を、室温で1時間静置した後、血液スメア標本を作製し、ディフクイック(DiffQuick)染色で、顆粒球のアポトーシスに至った割合を形態学的にカウントした。アポトーシスは、クロマチンの濃縮、核の断片化、細胞の萎小化を伴う明らかなアポトーシスの形態を示す細胞のみをアポトーシス細胞として評価した。クロマチンの濃縮や核の異型を示しアポトーシス類似の形態を示す場合も、明らかにアポトーシスと判別できない場合は生顆粒球として計測した。また、挫滅し核の形態が明確でない顆粒球(細胞質のない顆粒で判別)はしなかった。計測数は、2枚のスメア標本を使用して、最低500個の顆粒球を観察した。ただし、アポトーシス細胞の割合が10%を超えない場合は、生顆粒球として500個を計測した。
その結果は表1のとおりであった。
【0017】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
体外に取り出した血液を温度37〜45℃にて0.5〜3時間温熱処理することを特徴とする白血球中のアポトーシス顆粒球を増加せしめた血液の製造方法。

【公開番号】特開2006−34881(P2006−34881A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−223239(P2004−223239)
【出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【出願人】(505208916)日本アダバイオ株式会社 (2)
【Fターム(参考)】