説明

白金凝集物およびその製造方法

組成物および該組成物を製造する方法、該組成物は、リポソームおよび活性白金化合物を含み、該リポソームは、1以上の脂質を含み、脂質に対する活性白金化合物の比率が高い。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本願は、2002年8月2日に出願された、米国仮特許出願第60/400,875号の優先権を主張する。
【0002】
リポソームおよび脂質複合体は、多くの生理活性物質およびコントラスト剤の治療的および診断的有効性を高め得る薬物送達システムとして長く認識されてきた。いくつかの異なる抗生物質およびX線コントラスト剤を用いた実験から、生理活性物質およびコントラスト剤をリポソームまたは脂質複合体でカプセル化することによって、より高レベルの安全性を備えた、より良好な治療活性またはより良好なコントラストが実現できることがわかった。生理活性物質のカプセル化システムとしてのリポソームおよび脂質複合体に関する研究によって、そのような生成物の開発および商品化の成功には、好適な特徴を持つ脂質小胞の大規模生産の再生可能な方法が必要であることが明らかになった。そこで、研究者たちは、必要な大きさおよび濃度、大きさのばらつき、そして重要なことには、閉じ込め容量をもち、可撓性脂質組成物の要件を備えた、リポソームまたは脂質複合体を一定に生成する方法を探究した。そのような方法は当然、医薬品について現在許容されている良好な製造プラクティスを尊重しながら、活性物質と脂質との比率が均一であるリポソームまたは脂質複合体を提供するはずである。探究の結果、そして、リポソームおよび脂質複合体の挙動が製造パラメータに関して多様であることから、多くの異なる製造方法がこれまでに提案されている。
【0003】
従来のリポソームおよび脂質複合体の調製方法は、いくつかのステップを含み、そこでは、二重層形成成分(典型的には、リン脂質またはリン脂質と他の脂質、例えば、コレステロールとの混合物)を、丸底フラスコ内で揮発性の有機溶媒または溶媒混合物に溶解し、次いで相分離を阻害する条件下(温度、圧力など)で溶媒を蒸発させる。溶媒除去後、通常、反応器の壁に付着した膜付着物の形状である乾燥脂質混合物は、溶解した緩衝剤、塩、品質改良剤、および閉じ込められる活性物質を含み得る水性媒体で水和される。リポソームまたは脂質複合体は、水性媒体の一部がリポソーム中でカプセル化されるように、水和ステップにおいて生じる。水和は、溶液を攪拌、超音波処理、もしくはマイクロ流動化によって活性化して、もしくは活性化せずに、またはポリカーボネートフィルターなどの1以上のフィルターを通して連続押し出しをして行うことができる。フリーのカプセル化されていない活性剤は、回収によって分離することができ、生成物は、濾過、滅菌、任意に凍結乾燥、およびパッキングすることができる。
【0004】
通常、この従来の方法における他のあらゆるステップ以上に、水和は、形成されるリポソームまたは脂質複合体のタイプ(大きさ、脂質層の数、閉じ込め容積)に影響を及ぼすことができる。水和および閉じ込めプロセスは、典型的に、乾燥脂質の膜が薄く保たれているとき、最も効率的である。これは、脂質の量が多いほど、必要とされる脂質の堆積表面が大きいことを意味する。ガラスビーズや他の不活性不溶性粒子を用いて、膜堆積物として使用可能な膜表面積を大きくすることができるとしても、その薄膜の方法は主として検査室手法である。
【0005】
溶媒の連続的な除去、スプレー乾燥、凍結乾燥、マイクロ乳化およびマイクロ流動化などを用いた、脂質の有機溶液を水性媒体に注入することを含むリポソームまたは脂質複合体の他の製造方法が、多くの文献または特許において提案されている。そのような特許としては、例えば、米国特許第4,529,561号および米国特許第4,572,425号があげられる。
【0006】
シスプラチン-cis-ジアミン-ジクロロ白金(II)は、癌の全身的治療に用いられる、より有効な抗腫瘍薬の1つである。この化学治療薬は、実験動物の腫瘍モデルおよび、子宮内膜、膀胱、卵巣および睾丸の腫瘍、ならびに頭頚部の扁平上皮癌などの、ヒト腫瘍の治療において非常に有効である(Surら、1983 Oncology 40 (5): 372-376;Steerenbergら、1988 Cancer Chemother
Pharmacol. 21 (4):299-307)。シスプラチンはまた、肺癌、SCLCおよびNSCLCの両方の治療にも広く用いられている(Schillerら、2001 Oncology 61 (Suppl 1):3-13)。他の活性白金化合物(以下において定義する)は、癌治療において有用である。
【0007】
他の癌の化学治療薬と同様、シスプラチンなどの活性白金化合物は、典型的に毒性が高い。シスプラチンの主な短所は、主要な用量依存的因子であるその極端な腎毒性、循環半減期が僅か数分という腎臓からの迅速な排出、およびその血漿タンパク質に対する強い親和性である(Freiseら、1982 Arch Int Pharmacodyn Ther. 258
(2):180-192)。
【0008】
活性白金化合物の毒性を最小限にするための試みとしては、化学療法、アナログの合成(Prestaykoら、1979 Cancer Treat Rev. 6(1):17-39;Weissら、1993
Drugs. 46 (3):360-377)、免疫治療およびリポソームへの閉じ込めの組み合わせがあった(Surら、1983;Weissら、1993)。シスプラチンを含み、リポソームに閉じ込められた抗新生物剤は、抗腫瘍活性を保持しながら、フリーな形状の物質と比較して毒性が低い(Steerenbergら、1987;Weissら、1993)。
【0009】
しかしながら、シスプラチンは、その生理活性物質の水溶性が室温で約1.0mg/mlと低く、脂溶性が低く、この両方の特性によって生理活性物質/脂質比率が低くなるため、リポソームまたは脂質複合体に効率的に閉じ込めることが困難である。
【0010】
シスプラチンを含有するリポソームおよび脂質複合体には、別の問題、すなわち、組成物の安定性の問題がある。特に、生理活性物質の力価の維持および貯蔵中のリポソーム中での生理活性物質の保持の問題が認識されており(Freiseら、1982;Gondalら、1993;Potkulら、1991 Am
J Obstet Gynecol. 164 (2):652-658;Steerenbergら、1988;
Weissら、1993)、また、シスプラチンを含有するリポソームの貯蔵寿命が4℃で数週間程度ということが報告されている(Gondalら、1993 Eur J Cancer. 29A (11):1536-1542;Potkulら、1991)。
【発明の開示】
【0011】
新規な形状の脂質が閉じ込められた白金、およびその製造方法を記載する。より詳細には、脂質に対する活性白金化合物の比率が高い、新規な形状の脂質複合体化された活性白金を記載する。記載されている方法は、この新規な形状の活性白金化合物の凝集物を形成するための新規な方法である。
【0012】
とりわけ、リポソームまたは脂質複合体および活性白金化合物を含む組成物であって、リポソームは、1以上の脂質を含有し、活性白金化合物と脂質との比率は、重量比で1:50〜1:2、または重量比で1:50〜1:5、または重量比で1:50〜1:10である組成物が提供される。活性白金化合物と脂質との比率は、例えば、重量比で1:25〜1:15とすることができる。1以上の脂質は、例えば、50〜100mol%DPPCと、0〜50mol%コレステロールとを含むことができる。1以上の脂質は、50〜65mol%DPPCと、35〜50mol%コレステロールを含むことができる。
【0013】
(a)活性白金化合物と、疎水性マトリックス輸送システムとを混合するステップ;(b)混合物を、第1の温度に設定するステップ;および(c)その後、混合物を、第1の温度よりも低い第2の温度に設定するステップを含む、白金凝集物を製造する方法であって、ステップ(b)および(c)は活性白金化合物のカプセル化を向上させるのに効果的である、白金凝集物を製造する方法もまた提供される。ステップ(b)は、典型的に加熱によって行われ、一方、ステップ(c)は、冷却によって行われる。別の実施態様において、サイクルは冷却ステップから数え始め、加温ステップに移行し、サイクルは2ステップ行われる。方法は、ステップ(b)および(c)を連続的に合計で2または3サイクル以上繰り返すことを含むことができる。活性白金化合物溶液は、活性白金化合物を食塩水に溶解して白金溶液を形成することによって作製することができる。疎水性マトリックス送達システムは、好ましくはリポソームまたは脂質複合体形成脂質を含む。白金凝集物を製造する方法は、さらに、ステップ(b)およびステップ(c)の全てが完了した後、(d)閉じ込められなかった活性白金化合物を、所望のリポソームまたは脂質複合体を保持すべく選択された分子量カットオフの膜を通す濾過によって除去し、閉じ込められなかった活性白金化合物を洗浄するための脂質に相溶性のリポソームまたは脂質複合体を添加することをさらに含むことができる。
【0014】
さらに本発明の方法によって製造された凝集物および本発明の組成物の医薬品製剤が提供される。製剤は、薬学的に許容される担体もしくは希釈剤を含み、または吸入もしくは注射による患者への送達に適用される。
【0015】
図面の簡単な説明:図1は、本発明の1リットルバッチの脂質複合体化されたシスプラチンの安定性を示す。
【0016】
発明の詳細な説明
本発明は、活性白金化合物シスプラチンではこれまで認められなかったような、脂質に対する生理活性物質の比率を非常に高くすることができる、新たな形状の脂質複合体化された活性白金化合物を含む。本発明の生理活性物質と脂質との比率は、重量比で1:5〜1:50である。より好ましくは、生理活性物質と脂質との比率は、重量比で1:10〜1:30である。最も好ましくは、生理活性物質と脂質との比率は、重量比で1:15〜1:25である。
【0017】
この活性白金化合物製剤の製造方法は、活性白金化合物と適切な疎水性マトリックスとを混合すること、およびその混合物に対して、2つの別個の温度を設定した1以上のサイクルを行うことを含むことができる。該方法は、活性白金化合物の凝集物を形成するものであると考えられている。
【0018】
水溶液中で、シスプラチンは、数ミクロンを超える結晶直径をもつ大きな結晶凝集物を形成する。脂質二重層のような両親媒性マトリクスシステムの存在下で、シスプラチン小凝集物が生じる。例えば、該凝集物は、脂質二重層の炭化水素コア領域において形成してもよい。該方法の加温サイクル中、シスプラチンは、二重層中よりもプロセス混合物の水性領域において、より高率で溶液に戻されると考えられる。複数回の冷却/加温サイクルを適用した結果、シスプラチンは、二重層中にさらに蓄積する。提案された理論に本発明を限定するわけではないが、シスプラチン凝集物は界面二重層領域のすぐ回りをより疎水性かつ簡潔なものにすることが実験からわかる。この結果、冷却および加温サイクルを繰り返すことで、活性白金化合物の高レベルの閉じ込めが行われることになる。
【0019】
前記製剤は、閉じ込め割合が著明に高い。閉じ込めがほぼ92%に達する場合もあることがわかっている。この量は、従来の水性閉じ込めで期待されていた最も効率的な閉じ込めである約2〜10%の閉じ込めをはるかに上回っている。本発明のこの効率性については実施例3において証明する。
【0020】
前記方法は、生理活性物質と疎水性マトリックス輸送システムを組み合わせること、および溶液をより高い温度とより低い温度の間でサイクルすることを含む。サイクルを複数回繰り返すことが好ましい。ステップを2回以上、もしくは3回以上行うことがより好ましい。サイクルの低温部は、例えば、−25℃〜25℃の温度を用いることができる。より好ましくは、該ステップは、−5℃〜5℃の温度、または1℃〜5℃の温度を用いることができる。製造の便宜上、および確実に所望の温度を確立するために、より低温および高温のステップを一定時間、例えば、約5〜300分または30〜60分間、持続することができる。加温ステップは、反応容器を4〜70℃に加温することを含む。より好ましくは、加温ステップは、反応容器を45〜55℃に加熱することを含む。上記温度範囲は、ジホスファチジルコリン(diphosphatidycholine)(DPPC)およびコレステロールを主に含む脂質組成物を用いる際に特に好適である。
【0021】
温度サイクルを考慮する別の方法は、サイクルの加温ステップと冷却ステップとの温度差に関する。この温度差は、例えば、25℃以上、例えば、25℃〜70℃、好ましくは、40℃〜55℃とすることができる。より低温およびより高温のステップの温度は、活性白金化合物の閉じ込めの増加に基づいて選択される。理論に拘束されるわけではないが、加工された混合物において、活性白金化合物の溶解性を実質的に高めるのに効果的な上側の温度を選択することは有用であると考えられる。好ましくは、加温ステップの温度は50℃以上である。該温度は、脂質組成物中の脂質の遷移温度前後に選択することもできる。
【0022】
該方法に適切な温度は、ある場合には、通常の実験によって決定され得るように、この方法に用いられる脂質組成物にしたがって変えてもよい。
【0023】
得られた活性白金錯体は、脂質に対する薬物の比率が高い、または非常に高い。該製剤は、吸入または注射による使用に供することができる。
【0024】
本開示の目的のために、下記の技術用語が用いられる。
【0025】
「溶媒注入」は、1以上の脂質を少量、好ましくは最少量のプロセス相溶性溶媒(process compatible
solvent)に溶解して、脂質懸濁液もしくは溶液(好ましくは溶液)を形成すること、次いで該溶液を、生理活性物質を含有する水性媒体に注入することを含む。典型的に、プロセス相溶性溶媒は、透析処理のような水性プロセスにおいて洗浄され得るものである。冷却/加温サイクルが行われた組成物は、溶媒注入、好ましくはエタノール注入によって形成されることが好ましい。溶媒としてアルコールが好ましい。溶媒注入の一種である「エタノール注入」は、1以上の脂質を少量、好ましくは最少量のエタノールに溶解し、脂質溶液を形成し、ついで該溶液を生理活性物質を含有する水性媒体に注入することを含む。「少」量の溶媒とは、注入プロセスにおいて、リポソームまたは脂質複合体を形成するのに適合する量である。
【0026】
「疎水性マトリクス輸送システム」は、上記溶媒注入法によって製造される脂質/溶媒混合物である。
【0027】
本発明において用いられる脂質は、合成、半合成または天然に存在する脂質であることができ、リン脂質、トコフェロール、ステロール、脂肪酸、糖脂質、負帯電脂質、陽イオン性脂質を含む。リン脂質としては、卵ホスファチジルコリン(EPC)、卵ホスファチジルグリセロール(EPG)、卵ホスファチジルイノシトール(EPI)、卵ホスファチジルセリン(EPS)、ホスファチジルエタノールアミン(EPE)、およびホスファチジン酸(EPA)などの脂質;その大豆対応物(soya counterpart)である、大豆ホスファチジルコリン(SPC)、SPG、SPS、SPI、SPEおよびSPA;その硬化卵および大豆対応物(例えば、HEPC、HSPC)、ステアリン酸修飾された(stearically modified)ホスファチジルエタノールアミン、コレステロール誘導体、カロチノイド、炭素数12〜26の鎖を含有する2および3のグリセロール位置における脂肪酸のエステル結合、およびコリン、グリセロール、イノシトール、セリン、エタノールアミンを含むグリセロールの1位置における異なる頭基(head group)から構成された他のリン脂質、ならびに対応するホスファチジン酸があげられる。これらの脂肪酸の鎖は、飽和であっても不飽和であってもよく、そのリン脂質は、異なる鎖長および異なる不飽和度の脂肪酸で構成してもよい。特に、製剤の組成物は、DPPC、天然に存在する肺表面活性剤の主要な構成要素を含むことができる。他の例としては、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)およびジミリストイルホスファチジルグリセロール(DMPG)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)およびジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)およびジステアロイルホスファチジルグリセロール(DSPG)、ジオレイルホスファチジル−エタノールアミン(DOPE)およびパルミトイルステアロイルホスファチジルコリン(PSPC)やパルミトイルステアロイルホスファチジルグリセロール(PSPG)のような混合リン脂質、トリアシルグリセロール、ジアシルグリセロール、セリン、スフィンゴシン、スフィンゴミエリンおよびモノオレイル−ホスファチジルエタノールアミン(MOPE)のような単一アシル化リン脂質(single asylated phospholipids)を含むことができる。
【0028】
「生理活性物質」は、細胞、ウイルス、組織、臓器または生物に作用して、細胞、ウイルス、組織、臓器または生物の機能に変化をもたらすことができる物質である。本開示において、想定される生理活性物質は、シスプラチンのような活性白金である。
【0029】
「活性白金」化合物は、配位白金を含有し、抗新生物活性を有する化合物である。さらなる活性白金化合物は、例えば、カルボプラチンおよびオキサリプラチンのようなDACH−白金化合物を含む。
【0030】
カプセル化は、主にリポソーム小胞形成中、シスプラチンを捕捉することによって達成されたことが実験の結果は強く示している。その結果はさらに、シスプラチンの濃度が溶解限度をはるかに超えて高いことから、シスプラチンの物理的状態が固体(凝集物)または脂質結合されていることを示している。結果はさらに、方法は、組成物を凍結する必要はないが、凍結より高い温度に冷却することによってより良好な結果が得られることを示している。結果はさらに、3サイクルによって達成される閉じ込め効率が、6サイクルの冷却および加温サイクルによって達成されるものと類似していることを示していた。このことは、高度に好ましいレベルの閉じ込めを達成するには3サイクルの温度処理で十分であることを示すものであった。
【0031】
結果はさらに、前記方法は、シスプラチンを閉じ込めるプロセス効率を高めながら、拡大され得ることを示している。したがって、本発明はさらに合計投与量200mL以上、400mL以上、もしくは800mL以上(適度に少量増加させている)に適合する量を提供するように行われる方法を提供する。他が全て同じであれば、生産量が多ければ、通常、小規模の方法に比べて効率が高くなると考えられる。そのような量が投与にとって適切であれば、量は貯蔵のために減少させることができることが認められている。
【0032】
結果はさらに、本発明の方法によって作製された脂質複合体化されたシスプラチンは、閉じ込められたシスプラチンを、漏れを最小限に抑えながら、1年以上の間保持することができることを示している。このことはさらに、該製剤のユニークさを証明するものであり、シスプラチンがリポソーム構造内に結合しており、容易に漏れ出すようなフリーな状態ではないことを示している。
【実施例】
【0033】
実施例1
70mgのDPPCおよび28mgのコレステロールを1mlのエタノール中に溶解し、0.9%食塩水中4mg/mlシスプラチン(10ml)に添加した。
【0034】
(i)サンプルのアリコート(50%)を4℃に冷却および50℃に加温することからなるサイクルを3回行うことによって処理した。試験管中のアリコートを冷凍によって冷却し、水浴にて加熱した。その結果閉じ込められなかったシスプラチン(フリーのシスプラチン)を透析処理によって洗浄した。
【0035】
(ii)サンプルの残りは、温度サイクルによって処理せず、透析処理によって直接洗浄した。
【0036】
【表1】

【0037】
実施例2
実施例1に記載したように、冷却/加温サイクルによって調製された、脂質複合体化されたシスプラチン(「HLL」シスプラチンまたは「高荷重リポソーム」シスプラチン)の膜二重層の剛性を、二重層の疎水性コア領域に挿入されたジフェニルヘキサトリエン(膜プローブ)の蛍光異方性によって測定した[Ref. Jahnig, F., 1979 Proc. Natl. Acad. Sci. USA 76
(12): 6361.]。二重層の水和は、TMA−DPH(トリメチルアミン−ジフェニルヘキサトリエン)の蛍光強度に及ぼすジュウテリウム同位体交換の影響によって評価した[Ref. Ho, C., Slater, S. J.,およびStubbs, C. D., 1995 Biochemistry 34: 6188.]。
【0038】
【表2】

【0039】
実施例3
1.0gのDPPCおよび0.4gのコレステロールを6mlのエタノール中に溶解した。60mgのシスプラチンを10mlの0.9%食塩水に65℃で溶解した。得られた脂質混合物1mlを得られたシスプラチン溶液10mlに添加した。脂質/シスプラチン懸濁液を約4℃に冷却し、その温度で約20分間保ち、50℃に加温し、その温度で20分間保った。加温期間中、Nガスを懸濁液中に発泡させることによって、エタノールを除去した。冷却および加温ステップをさらに5回繰り返した。
【0040】
【表3】

【0041】
実施例4
ホスファチジルコリン(PC)およびコレステロールを用いて(モル比で57:43)、リポソーム製剤を調製した。0.55ミリモルのPCおよび0.41ミリモルのコレステロールを2mlのエタノールに溶解し、20mlの4mg/mlシスプラチン溶液に添加した。各サンプルのアリコート(50%)を冷却および加温を3サイクル行って処理し、透析処理によって洗浄した。各サンプルの別の部分は、透析処理によって直接処理した。閉じ込めは、最終濃度および初期濃度から推定した。
【0042】
【表4】

【0043】
実施例5
脂質製剤(DPPC:コレステロール。比率5:2w/w)をエタノールに溶解し、シスプラチン溶液に添加した。製剤の一部を4℃に冷却し、55℃に加温するサイクルによって処理し、一方、したがって一部は処理しなかった。脂質/シスプラチン懸濁液をその後透析処理によって洗浄した。
【0044】
【表5】

【0045】
実施例6:本発明の捕捉されたシスプラチン小胞の量の測定
リポソーム内の閉じ込められたシスプラチンの濃度を測定することによって、リポソーム閉じ込めシスプラチンの性質を決定することを目的とした。
合計=Vリポソーム+V外部
【0046】
【表6】

【0047】
方法:1)実施例4に記載のようにして調製した2mlのHLLシスプラチンを遠心分離フィルターキットによって濃縮した。2)0.8mlの濃縮サンプルを回収し、1.2mlの1mg/ml二クロム酸塩を添加し、元の体積に戻した。0.8ml規定食塩+1.2mlの二クロム酸塩も対照として調製した。3)450nmでのAbsを測定して、二クロム酸塩の濃度の差を検出した。リポソームサンプルからの混濁を避けるために、両方のサンプルを遠心濾過によって濾過した。
結果:合計の6%がリポソームによって占められた。
リポソーム=1.53μL/μモル脂質(合計脂質39.3mM)
次に、Vリポソーム=V捕捉+V二重層
【0048】
二重層を測定するために、HLLシスプラチンの小胞の薄膜度を測定した。
【0049】
【表7】

【0050】
方法:0.5wt%蛍光プローブ脂質(NBD−PE)を添加するように修正された実施例9に記載の方法(1リットルバッチ)によってシスプラチン小胞を調製した。このプローブ脂質は、膜内外に均一に分散する。最も外側の膜の層(リポソームの表面)に位置するプローブの量と残りのプローブの量との比率を測定し、HLLシスプラチン中に何枚の脂質層が存在するかを測定した。リポソーム表面上に位置するプローブとリポソーム内部に位置するプローブとの比率を、物質ジチオナイトを減少させて、表面プローブのみを急冷することによって測定した。次いで、界面活性剤を用いてリポソームを破裂させることによって全体の急冷を行った。
結果:最も外側の二重層シェルは、合計脂質の40%を含有する。
【0051】
幾何学的計算に基づいて、最も外側の二重層シェルの%脂質は、二重層および三重層において、それぞれ52%および36%となるだろう。したがって、HLLシスプラチンの平均薄膜度は3であることが結論付けられた。
【0052】
三層小胞の場合、Vリポソーム/V捕捉の比率を測定したところ、1.2635であった。したがって、捕捉された量は、
捕捉 = Vリポソーム÷1.2635=1.53μL/μモル脂質÷1.2635
= 1.21μL/μモル脂質×39.3mM(合計脂質濃度)
= 47.6μL/Mlであった。
【0053】
捕捉された容積は、HLLシスプラチン1mLあたり47.6μLで、合計容積の4.76%であった。閉じ込められたシスプラチンがリポソーム水性成分内にあると想定すると、その局部的シスプラチン濃度は21.0mg/mlと推定されるだろう。この濃度は、室温においてシスプラチンの溶解限度より高いだけではなく、より有意義なことに、それは、初期荷重濃度(4mg/ml)よりも高かった。
【0054】
実施例7:冷却温度がHLLシスプラチンの閉じ込め効率に及ぼす影響
シスプラチンの最も高い閉じ込めを得るための最適冷却温度を見つけ、冷凍と解凍を避けることを目的とする。得られたデータは、製造方法を最適化する助けとなる。
【0055】
【表8】

【0056】
20mg/mlDPPC、8mg/mlコレステロールおよび4mg/mlシスプラチン懸濁液をエタノール注入によって調製した。サンプルを3つの等量のアリコートに分け、それを3つの異なる冷却温度で、6サイクルの冷却および加温を行うことによって処理した。温度サイクル処理後、サンプルを透析処理してフリーのシスプラチンを除去した。
【0057】
実施例8:温度サイクルの回数が閉じ込め効率に及ぼす影響
シスプラチンの最も効率的な閉じ込めのための、温度サイクルの最適回数を調べる。これは、最も効率的なシスプラチンの閉じ込めに必要な方法を決定する助けとなるであろう。
【0058】
【表9】

【0059】
前記実施例と同様にして、サンプルを調製した。冷却時、サンプルの温度は0℃とした。15分の冷却および15分の加温によって温度サイクルを行った。開始シスプラチン濃度は、4mg/mlであった。フリーのシスプラチンを透析処理によって除去した。
【0060】
実施例9:バッチスケールおよびプロセス効率
バッチサイズの変化に伴って、閉じ込め効率が変化したかどうかを測定する。実施例4に記載されているように20mLバッチを調製した。下記のステップにおいて1Lバッチを調製した。
1. 4グラムのシスプラチンを1リットルの注入グレード(injection grade)の0.9%塩化ナトリウムに65℃で溶解した。
2. 20グラムのDPPCおよび8グラムのコレステロールを120mLの無水エタノールに65℃で溶解した。
3. シスプラチン溶液を300rpm(65℃)で混合しながら、脂質溶液を、シスプラチン溶液中に、流入速度20mL/分で調節しながら供給(注入)した。
4. 注入後、シスプラチン/脂質分散液をプロピレングリコール/水浴を用いて−5℃〜0℃に冷却し、45分間保持した(冷却)。
5. 分散液を50℃に加温し15分間保持した(加温)。
6. ステップ4および5に記載の冷却/加温サイクルを2回以上行った(合計3サイクル)。
7. 分散液を洗浄して、ダイアフィルトレーションによってフリーのシスプラチンを除去した。透過液除去率は、17〜22mL/分であった。新鮮な無菌の0.9%塩化ナトリウム溶液を供給し、透過液を補償することによって分散容積(1L)を一定に保った。
【0061】
同じ方法で、但し、成分の20%を用いて200mLバッチを作製した。
【0062】
プロセス効率は、初期成分の脂質/薬物(wt/wt)比率を最終生成物の脂質/薬物比率で割ったものとして定義される。
【0063】
【表10】

【0064】
実施例10:閉じ込められた脂質複合体化されたシスプラチンの安定性
内部の含有物の漏れを調べるために一定時間、1リットルバッチのHLLシスプラチンの安定性をモニターした。得られた結果を図1に示す。
【0065】
本明細書において引用されている、特許や特許出願に限定されない、文献および引例を、その内容の全体を引用によって本明細書に援用する。それぞれの個別の文献または引例は、具体的かつ個別に本明細書に引用によって援用されるように示されている。本願が優先権を主張するあらゆる特許出願もまた、文献および引例について上記したような方法で引用によって援用される。
【0066】
本発明は、好ましい実施形態を強調して記載されているが、好ましい装置および方法における変更を用いてもよいことならびに、本発明は、ここに記載されているもの以外の他の方法でも実施し得ることは、当業者にとって自明である。したがって、本発明は、請求の範囲によって定義されているように本発明の精神および範囲を超えない範囲の変更を含むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】図1は、本発明の脂質複合体化されたシスプラチンの1リットルバッチの安定性を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リポソームまたは脂質複合体および閉じ込められた活性白金化合物を含む組成物であって、前記リポソームまたは脂質複合体は、1以上の脂質を含有し、前記活性白金化合物と脂質との比率は、重量比で1:50〜1:2である、組成物。
【請求項2】
前記活性白金化合物と脂質との比率は、重量比で1:50〜1:5である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記活性白金化合物と脂質との比率は、重量比で1:50〜1:10である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記活性白金化合物は、シスプラチンである、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記活性白金化合物と脂質との比率は、重量比で1:25〜1:15である、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記活性白金化合物は、シスプラチンである、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記1以上の脂質がDPPCを含む、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記1以上の脂質がコレステロールを含む、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記1以上の脂質は、50〜100[90?]mol%DPPCと、0〜50mol%コレステロールとを含む、請求項7に記載の組成物。
【請求項10】
前記1以上の脂質は、50〜65mol%DPPCと、35〜50mol%コレステロールとを含む、請求項7に記載の組成物。
【請求項11】
(a)活性白金化合物と、疎水性マトリックス輸送システムとを混合するステップ、
(b)前記混合物を、第1の温度に設定するステップ、および
(c)その後、前記混合物を、前記第1の温度よりも低い第2の温度に設定するステップを含む、白金凝集物を製造する方法であって、
前記ステップ(b)および(c)は、活性白金化合物のカプセル化を向上させるのに効果的である、白金凝集物を製造する方法。
【請求項12】
ステップ(b)とステップ(c)とを合計2サイクル以上連続的に繰り返すことをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記活性白金化合物溶液は、活性白金化合物を食塩水に溶解して白金溶液を形成することによって作製される、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記活性白金化合物は、シスプラチンである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記疎水性マトリックス輸送システムは、リポソームまたは脂質複合体形成脂質を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
前記1以上の脂質は、DPPCを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記1以上の脂質は、コレステロールをさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記疎水性マトリックス輸送システムは、1以上の脂質をエタノール中に溶解し、脂質溶液を形成し、該脂質溶液を活性白金化合物を含有する水性媒体に注入することによって作製される、請求項11に記載の方法。
【請求項19】
ステップ(b)とステップ(c)とを合計3サイクル以上連続的に繰り返すことをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項20】
前記ステップ(c)は、前記混合物を−25℃〜25℃の温度に設定することを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記ステップ(c)は、前記混合物を−5℃〜5℃の温度に設定することを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記ステップ(b)は、前記混合物を4℃〜75℃の温度に設定することを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
前記ステップ(b)は、前記混合物を45℃〜55℃の温度に設定することを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項24】
ステップ(b)と(c)の温度差は、25℃以上である、請求項11に記載の方法。
【請求項25】
ステップ(b)において設定された温度は、50℃以上である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
ステップ(b)において設定された温度は、50℃以上である、請求項11に記載の方法。
【請求項27】
請求項11に記載の方法で製造された、白金凝集物。
【請求項28】
請求項14に記載の方法で製造された、白金凝集物。
【請求項29】
請求項1に記載の組成物および薬学的に許容できる担体または希釈剤を含む、医薬品製剤。
【請求項30】
請求項1に記載の組成物を含む、患者による吸入に適用される医薬品製剤。
【請求項31】
請求項1に記載の組成物を含む、患者への注射に適用される医薬品製剤。
【請求項32】
ステップ(b)およびステップ(c)の全てが完了した後、(d)閉じ込められなかった活性白金化合物を、所望のリポソームまたは脂質複合体を保持すべく選択された分子量カットオフの膜を濾過させて除去し、閉じ込められなかった活性白金化合物を洗浄するための脂質に相溶性のリポソームまたは脂質複合体を添加することを、さらに含む請求項11に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2006−502233(P2006−502233A)
【公表日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−560279(P2004−560279)
【出願日】平成15年8月4日(2003.8.4)
【国際出願番号】PCT/US2003/024350
【国際公開番号】WO2004/054499
【国際公開日】平成16年7月1日(2004.7.1)
【出願人】(505042022)トランセーブ,インク. (1)
【氏名又は名称原語表記】TRANSAVE, INC.
【住所又は居所原語表記】7 Deer Park Drive, Suite N,Monmouth Junction, NJ 08852 (US).
【Fターム(参考)】