説明

皮膚内部構造の鑑別方法

【課題】肌の美しさの最も重要な要素であるキメや肌色と皮膚内部構造との関係性を明らかにし、計測が容易な皮膚表面情報であるキメや肌色の情報を利用して、簡便且つ高精度に皮膚内部構造を鑑別する技術を提供する。
【解決手段】キメ及び/又は肌色等の皮膚表面情報を指標に、皮膚内部構造として共焦点レーザー顕微鏡を用いて計測されたパラメータを、多変量解析によって得られた推定式を利用して推定することを特徴とする、皮膚内部構造を鑑別する技術に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚の鑑別方法に関するものであり、より具体的には、皮膚表面情報を用いた皮膚内部構造の推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は、表皮、真皮及び皮下組織の3層から構成されている。さらに、表皮は角層、顆粒層、有棘層及び基底層の4層から構成され、一方、真皮は乳頭層、網状層から構成され、膠原線維(コラーゲン)、弾性線維(エラスチン)及び基質等が複合的に三次元状に広がった不均一なゲル状の構造を形成し、水分保持や皮膚粘弾性を支配する重要な役割を果たしている。乳頭層は基底層との境界において、乳頭構造を形成している。乳頭構造とは、基底層側からは真皮へ乳頭体(乳頭)が突き出し、乳頭からは表皮突起間に食い込むように、細かな結合線維、毛細血管や知覚神経末端からなり、表皮への栄養補給を行い、表皮からの情報をキャッチしている。乳頭構造は、年齢や紫外線暴露によってその波形の扁平化や消失が起こりタルミになりやすいことが知られている。また真皮は自在に伸縮するが、真皮と接している表皮は真皮と異なり、細胞が蜜に接しているシート状構造であるから、伸縮性が少ない。この少ない伸縮性を担保するのが皮膚表面にあるキメ構造であり、真皮と表皮の間の構造を緩衝するのが乳頭構造であることが知られている。したがって、乳頭構造と皮膚の表面構造(例えば、キメ、シワ、毛穴)と密接に関係している可能性が高く、乳頭層、乳頭構造及びその上下近傍の構造(以下は、皮膚内部構造と定義)を、精度良く計測・評価し、皮膚表面状態との関係を明らかにすることが切望されている。
【0003】
皮膚表面状態を知るために、皮膚より得られたレプリカ画像や皮膚の拡大写真を対象に、画像処理より得られた情報を利用してシワやキメを評価する試みが数多く開発され、例えば、かような技術として、レプリカ画像の凹凸の画素輝度を利用したシワ或いはその予兆の鑑別法(例えば特許文献1参照)や肌画像に好適な二値化と短直線マッチング処理との組合せを行って肌のキメ等を高精度に鑑別する表皮組織定量化法(例えば特許文献2参照)等の技術が開示されている。
【0004】
一方、皮膚内部構造を知るには、皮膚の解剖以外の非侵襲的計測が望ましく、例えば、伸縮による変形特性を計測できる「レジリオメーター」を利用した真皮コラーゲン線維束構造の乱れの鑑別法(例えば、特許文献3参照)が開示されている。さらに近年、共焦点レーザー顕微鏡による非侵襲且つ厚みのある生体試料の観察が可能となり、パソコンとの連動による三次元イメージ解析が可能になった。このため、共焦点レーザー顕微鏡より得られた情報を用いて、例えば、毛穴の目立ち具合を再現性良く評価する方法(例えば、特許文献4)や敏感肌の分類方法(例えば、特許文献5)等の技術が開示されている。しかし、かような共焦点レーザー顕微鏡は非常に高価格であり、操作が複雑であるため、百貨店など肌のカウンセリング現場で容易に目的とする計測を行うことは非常に困難な状況にある。また、かような毛穴や肌質以外の皮膚表面情報と皮膚内部構造との関係については明らかでなく、特に肌の美しさの重要な要素である「キメ」や「肌色」と皮膚内部構造との関係については、科学的な計測による体系的な検討は行なわれず、その関係性は全く知られてはいなかった。
【0005】
【特許文献1】特開2004−230117号公報
【特許文献2】特開2008−061892号公報
【特許文献3】特開2004−089617号公報
【特許文献4】特開2004−337317号公報
【特許文献5】特開2004−097436号公報
【特許文献6】特開昭60−053121号公報
【特許文献7】特開平02−046833号公報
【特許文献8】特開2006−061170号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような状況下で為されたものであり、肌の美しさの最も重要な要素である「キメ」や「肌色」と皮膚内部構造との関係性を明らかにし、計測が容易な皮膚表面情報である「キメ」や「肌色」の情報を利用して、簡便且つ高精度に皮膚内部構造を鑑別する技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この様な状況を鑑みて、本発明者らは、皮膚内部構造の鑑別法であって、「キメ」や「肌色」等の皮膚表面情報と皮膚内部構造との間に良好な相関関係が存し、皮膚表面情報を指標に皮膚内部構造を簡便且つ高精度に推定できることを見い出し、本発明を完成させるに至った。即ち、本発明は、以下に示す技術に関する。
【0008】
(1)皮膚内部構造の鑑別法であって、皮膚表面情報を指標に皮膚内部構造を推定することを特徴とする、皮膚内部構造の鑑別法。
(2)前記皮膚表面情報が、「キメ」及び/又は「肌色」から選択されることを特徴とする、(1)に記載の皮膚内部構造の鑑別法。
(3)前記皮膚内部構造が、共焦点レーザー顕微鏡を用いて計測されたパラメータであることを特徴とする、(1)又は(2)何れか記載の皮膚内部構造の鑑別法。
(4)前記推定方法が、多変量解析によって得られた推定式を用いることを特徴とする、(1)〜(3)何れか記載の皮膚内部構造の鑑別法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、非常に高価格な共焦点レーザー顕微鏡などを使用せず、皮膚表面情報を指標に、簡便且つ高精度に、皮膚内部構造を推定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(1)本発明の「キメ」を用いた皮膚内部構造の鑑別法
皮膚表面のキメの存在を考えた場合に、皮膚の伸縮性をキメのような構造で担保している可能性が高く、その伸縮性は乳頭構造によるものと考えられている。本願発明は、かような皮膚表面情報の一つである「キメ」と皮膚内部構造(乳頭構造及びその上下近傍の構造)との高い相関関係に基づく推定式を用いることを特徴とする。
【0011】
前記「キメ」の計測方法としては、十分な精度を有する方法であれば特段に限定を受けないが、皮膚の画像を直接処理するよりも、定法に従って皮膚のレプリカを作製して評価する方法が精度が高いことから好ましい。かようなレプリカからの「キメ」の評価方法として、皮溝パターンの抽出解析(例えば、特許文献6参照)や階調処理及び細線化処理等の画像処理(例えば、特許文献7、特許文献8参照)などの既に開示されている方法が利用できる。しかし、見た目の「キメ」との一致性が非常に高い方法である、十字二値化及び短直線マッチング処理の肌画像処理技術である表皮組織定量化法(例えば、特許文献2参照)が、より好ましく例示できる。
【0012】
前記皮膚内部構造の計測は、前述したように共焦点レーザー顕微鏡を使用することが好ましく、既に、オリンパス社やLucid社等から市販されているものを用いればよい。かような共焦点レーザー顕微鏡はパソコンとの連動により、リアルタイムに三次元イメージ画像の取得と解析が容易になっており、簡便に皮膚内部構造の解明に不可欠な乳頭形状や乳頭層下コラーゲン様構造を評価できる。このための具体的な画像の計測項目として、「乳頭高さ」、「乳頭数」及び「コラーゲン様構造」が存する(図1参照)。「乳頭高さ(C)]とは、一定画像範囲内の複数の乳頭の高さの平均値であり、具体的な計測方法として、例えば、「基底細胞層深さ(A)」、「乳頭の基底細胞層が消失する深さ(B)」を計測し、C=B−A、として算出すれば良い。「乳頭数」は、一定画像範囲内の乳頭の数を計測すればよい。また、「コラーゲン様構造」は、乳頭終了部+乳頭高さの1/2強の深さで、画像の順位付け又はスコア付けの評価を行えばよい。該順位付けは、例えば、コラーゲン様構造の等方性とコラーゲン様構造の線維の太さを基準に、繰り返して順位付けを行えばよい。また、該スコア付けの場合は、予め3〜7段階の評価基準写真を作製しておいて用いればよい。
【0013】
前記推定式の作製は、多変量解析のソフトウェアを利用して皮膚内部構造と皮膚表面情報との相関分析及び回帰分析を行えば良く、かようなソフトウェアとして、装置に付属したソフトウェア、SPSS社やSAS社等の市販されているソフトウェア或いはフリーソフトを用いることができる。
【0014】
(2)本発明の「肌色」を用いた皮膚内部構造の鑑別法
「肌色」に関与する因子として、毛細血管に於いての血液量(流速)や血液成分が存するが、毛細血管の構造・分布性も極めて重要である。即ち、毛細血管の吻合部は乳頭構造の中で、皮膚表面に対して垂直に位置し、乳頭構造の皮膚内での配列が毛細血管構造の分布に寄与している。言い換えれば、毛細血管が整然と配列することで、「肌色」に大きく影響するものと考えられる。本願発明は、かような皮膚表面情報の一つである「肌色」と皮膚内部構造との高い相関関係に基づく推定式を用いることを特徴とする。
【0015】
肌色の計測は、分光測色計又は色彩色差計を用いればよく、かような計測器として、例えば、コニカミノルタ社製のCMシリーズ等が例示できる。またデジタルカメラ等によって撮影された肌画像より画像処理ソフトウェアを使って肌色データを入手してもよく、かような方法として、例えば、ニコン社製ニコンD200デジタルカメラとアドベシステムズ社製Photoshop(登録商標)との組合せ等が好ましく例示できる。計測された肌色は任意の表示法によって表示でき、例えばRGB、マンセル(明度、色相及び彩度)、L*a*b*、XYZ、L*C*h或いはハンターLab等の表色系が挙げられる。取得した表色系のデータは、必要に応じて定法に従って変換式などによって他の任意のデータに変換して用いることもできる。これらの表色系において、視覚との対応が良好なことから、L*a*b*表色系のL*値が好ましく例示できる。
【0016】
以下に実施例を挙げて、本発明について更に詳細に説明を加えるが、本発明がこれら実施例にのみ限定を受けないことは言うまでもない。
【実施例1】
【0017】
(1)本発明の「キメ」を用いた皮膚内部構造の鑑別法
<方法>
20〜50代の29名の女性の頬部を対象に、洗顔後30分置いて、下記に示すような方法に従って、共焦点レーザー顕微鏡及びレプリカを用い、皮膚内部構造パラメータ及び「キメ」パラメータを算出した。次に、SAS社製のJMP(登録商標)Ver6.0を用いて相関分析及び重回帰分析を行って、皮膚内部構造を推定した(図2参照)。推定式を以下に示す。式1及び式2ともに、有意で且つ高い相関関係を示すことから、「キメ」パラメータを用いて、簡便且つ高精度に、皮膚内部構造を推定できることが分かる。
【0018】
<結果>
・「乳頭数」=−27.7*「皮溝間隔」−3.94*「歪度(90〜180°)」−0.22*「連結数合計」+96.97・・・(式1):(r=0.806,P<0.005)
・「コラーゲン様構造順位」=−51.64*「皮溝太さのバラツキ」+76.18*「皮溝間隔」+51.64*「皮溝平均太さ」−288.97・・・式(2):(r=0.781,P<0.001)
【0019】
<皮膚内部構造の解析>
・装置:共焦点レーザー生体顕微鏡;Lucid社製Vivascope(登録商標)1500
・画像採取条件:対象部位2mm*2mm
・皮膚内部構造パラメータ:「乳頭高さ」、「乳頭数」、「コラーゲン様構造順位(評価基準写真を参照に、1位〜29位を順位付け)」
【0020】
<「キメ」の解析>
処方Aに従って作製したレプリカ作成用の組成物を用いて、皮膚より透明なレプリカ標本を得た。次に、表皮組織定量化法(特許文献2参照)を用いて、以下のように定義される、皮溝の面積、平均太さ、分散、間隔、平行度、方向或いは密度等の「キメ」の30個の「キメ」パラメータを得た。代表的なパラメータを以下に示す。
・「皮溝面積」=対象とする処理すべき画像範囲における皮溝の占有面積或いはマッチング短直線の総本数
・「皮溝平均太さ」=(各マッチング開始点毎の皮溝太さの総和/開始点総数)
・「皮溝太さのバラツキ」=皮溝太さの太さと本数のヒストグラムより算出される標準偏差或いは分散
・「皮溝の平均間隔」=1/(皮溝の面積/皮溝の平均太さ)
・「皮溝の平行度」=皮溝の角度と本数のヒストグラムより算出されるピークの集中度及び分散
・「歪度(90〜180°)」=角度毎の短直線の、90〜180°のヒストグラムの歪度
・「太さ最頻数」=太さヒストグラムの最大値
・「連結数合計」=短直線連結度数データの合計値
【0021】
<処方A> 質量部
「ゴーセノールEG30」 5
1,3−ブタンジオール 2
エタノール 5
コハク酸ジエトキシエチル 2
流動パラフィン 6
フェノキシエタノール 0.5
「ルビスコールK90」 7
「ビニブランGV−5651」 1
カオリン 20
二酸化チタン 5
ポリオキシエチレン(20)セスキステアレート 0.5
POE・POPブロックコポリマー 1
ソルビタンセスキラウレート 0.5
ステアリン酸 0.1
水 44.4
【実施例2】
【0022】
(2)本発明の「肌色」を用いた皮膚内部構造の鑑別法
実施例1に於いて、分光測色計を用いて「肌色」パラメータを算出した。同様にして、相関分析及び重回帰分析を行って、皮膚内部構造を推定した(図3参照)。推定式を以下に示す。式3及び式4ともに、有意で且つ高い相関関係を示すことから、「キメ」及び「肌色」パラメータを用いて、簡便且つ高精度に、皮膚内部構造を推定できることが分かる。
【0023】
<結果>
・「乳頭数」=−0.1994*L*+0.55*a*−50.63*「皮溝間隔」:−2.57*「歪度(90〜180°)」+153.29・・・(式3):(r=0.843,P<0.005)
・「コラーゲン様構造順位」=1.02*b*−1.73*a*+65.51*「皮溝間隔」+46.17*「皮溝平均太さ」−148.6・・・(式4):(r=0.964,P<0.05)
【0024】
<「肌色」の解析>
・装置:分光測色計CM−2600d;コニカミノルタ社製
・「肌色」パラメータ:L*a*b*
【実施例3】
【0025】
<試験例>
実施例1で得られた(式1)、(式2)を用いて、乳頭数及びコラーゲン様構造順位を推定した結果を、共焦点レーザー顕微鏡による実測値と比較した。即ち、2名の女性被験者(A,B)を対象に、実施例1の方法に従って、「キメ」パラメータと皮膚内部構造を計測した。次に、「キメ」パラメータを(式1)、(式2)に代入して推定値を求めた。この結果を表1に示す。これより、推定値と実測値とが極めてよく一致しており、本願発明によって、簡便且つ高精度に皮膚内部構造を鑑別できることが分かる。
【0026】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明によって、簡易な機器により得た皮膚表面情報から、簡便且つ高精度に、皮膚内部構造(たるみ、老化度)を推定することができる。その結果を用いて、例えば、店頭やデパートなどで、肌や美容のカウンセリングや化粧品選択等、有用に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】共焦点レーザー顕微鏡の画像における皮膚内部構造パラメータを示す図である(図面代用写真)。
【図2】実施例1の結果で、皮膚内部構造パラメータと「キメ」パラメータとよる予測値(検量線)との関係を示す図である。
【図3】実施例2の結果で、皮膚内部構造パラメータと「肌色」及び「キメ」パラメータとよる予測値(検量線)との関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚内部構造の鑑別法であって、皮膚表面情報を指標に皮膚内部構造を推定することを特徴とする、皮膚内部構造の鑑別法。
【請求項2】
前記皮膚表面情報が、「キメ」及び/又は「肌色」から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の皮膚内部構造の鑑別法。
【請求項3】
前記皮膚内部構造が、共焦点レーザー顕微鏡を用いて計測されたパラメータであることを特徴とする、請求項1又は2何れか記載の皮膚内部構造の鑑別法。
【請求項4】
前記推定方法が、多変量解析によって得られた推定式を用いることを特徴とする、請求項1〜3何れか記載の皮膚内部構造の鑑別法。

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図1】
image rotate