説明

皮膚状態の測定装置及び測定方法

【課題】皮膚の老化状態を数値化して測定する。
【解決手段】皮膚変形により生じる反力を測定することにより皮膚の状態を測定する装置であって、皮膚の表面と接触する一対の接触子21と、該接触子を皮膚の表面に沿った方向に動作させる動力部22とを備えてなり、一対の接触子21を、動力部22の制御により、接触子間距離を縮めて皮膚を収縮させる接近動作ステップと、縮めた接触子間距離を維持する保持静止ステップと、縮めた接触子間距離を元に戻す復帰動作ステップとからなるサイクルにて複数回繰り返し動作させながら、皮膚収縮によって生じる反力に関するデータを取得し、取得したデータに基づき、皮膚収縮時の最大反力に対して保持静止ステップで最大反力がどれだけ保持されているかを表す反力保持率(M値)を求めて、連続する2サイクル間での反力保持率(M値)の増加率を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、老化状態などの皮膚の状態を測定するのに好適な測定装置及び測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、皮膚の老化度、ハリ、弾力性などの皮膚の状態を測定するために、様々な測定装置が提案されている。例えば、肌の老化現象の1つとして「たるみ」が挙げられるが、たるみを改善するという効果を明確にするために、様々な測定装置や評価方法が開発され、その定量化が行われている。一般に、これらの装置は、皮膚の粘弾性特性を測ることで、皮膚の状態を調べるものである。
【0003】
このような皮膚の状態の測定装置として、下記特許文献1には、皮膚変形により生じる反力(特許文献1では「応力」と称されている)を測定することにより、皮膚の表面及び内部構造の物性を測定する装置が開示されている。この装置は、測定対象である皮膚の表面と接触する一対の接触子と、該接触子を皮膚の表面に沿った方向に動作させる動力部と、接触子の運動によって生じる反力を検知する検知部と、検知したデータを処理する処理部とを備え、皮膚の表面と接触した接触子を、接触子間距離を縮める接近動作と、接触子間距離を維持する保持静止動作と、接触子間距離を元に戻す復帰動作からなるサイクルにて複数回繰り返し動作させるように構成されている。
【0004】
特許文献1では、老化やシワの形成に関連するパラメータとして、接近動作による収縮時の反力の最大値、保持静止動作において減衰する反力の最大値、復帰動作における収縮解放時に減衰する反力の最大値、及び、保持静止動作の維持時において反力が最大値からF2/e(F2=保持静止動作の維持時における減衰する反力の最大値、e=2.718)まで減衰するのにかかる時間が挙げられている。
【0005】
しかしながら、これらのパラメータは年齢やたるみとの相関が必ずしも十分に高いとは言えず、そのため、皮膚の老化状態を数値化して測定し評価する上で満足の行くものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3939984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上の点に鑑みてなされたものであり、年齢やたるみとの相関が高いパラメータを新たに見出し、該パラメータを算出することにより、皮膚の老化状態を数値化して測定することができる新規な測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討していく中で、たるんだ皮膚は力を加えたとき、加える前の状態に戻りにくくなっていると予測し、皮膚の戻りにくさを示す指標として、反力保持率の増加率という新たなパラメータを考え出した。そして、この反力保持率の増加率が年齢や見た目のたるみとの間に高い相関があることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明に係る皮膚状態の測定装置は、皮膚変形により生じる反力を測定することにより皮膚の状態を測定する装置において、測定対象である皮膚の表面と接触する一対の接触子と、少なくとも1つの前記接触子を皮膚の表面に沿った方向に動作させる動力部と、皮膚の表面に接触した前記一対の接触子を、前記動力部を制御することにより、接触子間距離を縮めて皮膚を収縮させる接近動作ステップと、縮めた接触子間距離を維持する保持静止ステップと、縮めた接触子間距離を元に戻す復帰動作ステップとからなるサイクルにて複数回繰り返し動作させながら、皮膚収縮によって生じる反力に関するデータを取得するデータ取得部と、取得した前記データに基づき、皮膚収縮時の最大反力に対して前記保持静止ステップで前記最大反力がどれだけ保持されているかを表す反力保持率を求めて、複数回の前記サイクルの内の2つのサイクル間での前記反力保持率の増加率を求めるデータ処理部と、を備えたものである。
【0010】
また、本発明に係る皮膚状態の測定方法は、皮膚変形により生じる反力を測定することにより皮膚の状態を測定する方法において、測定対象である皮膚の表面と接触する一対の接触子と、少なくとも1つの前記接触子を皮膚の表面に沿った方向に動作させる動力部と、を備えたプローブを用いて、皮膚の表面に接触した前記一対の接触子を、接触子間距離を縮めて皮膚を収縮させる接近動作ステップと、縮めた接触子間距離を維持する保持静止ステップと、縮めた接触子間距離を元に戻す復帰動作ステップとからなるサイクルにて複数回繰り返し動作させながら、皮膚収縮によって生じる反力に関するデータを取得し、取得した前記データに基づき、皮膚収縮時の最大反力に対して前記保持静止ステップで前記最大反力がどれだけ保持されているかを表す反力保持率を求めて、複数回の前記サイクルの内の2つのサイクル間での前記反力保持率の増加率を求めることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
上記反力保持率の増加率は年齢や見た目のたるみとの間に高い相関があるので、該反力保持率の増加率を算出することにより、皮膚の老化状態を客観的に数値化して測定することができ、老化状態の評価を行うことかできる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施形態に係る測定装置を模式的に示した構成図である。
【図2】実施例における測定部位を示す図である。
【図3】(a)は接触子の動作を示す説明図であり、(b)はこれにより得られた反力の波形の一例を示す図である。
【図4】図3(b)の反力の波形の一部を拡大した図である。
【図5】(a)はM値(反力保持率)の増加率と年齢との関係を示すグラフ、(b)はM値の増加率と見た目のたるみとの関係を示すグラフである。
【図6】(a)は1サイクル目のF値(最大反力)と年齢との関係を示すグラフ、(b)は2サイクル目のF値と年齢との関係を示すグラフ、(c)はF値の平均値と年齢との関係を示すグラフである。
【図7】(a)は1サイクル目のF値(最大反力)と見た目のたるみとの関係を示すグラフ、(b)は2サイクル目のF値と見た目のたるみとの関係を示すグラフ、(c)はF値の平均値と見た目のたるみとの関係を示すグラフである。
【図8】(a)は1サイクル目のM値と年齢との関係を示すグラフ、(b)は2サイクル目のM値と年齢との関係を示すグラフ、(c)はM値の平均値と年齢との関係を示すグラフである。
【図9】(a)は1サイクル目のM値と見た目のたるみとの関係を示すグラフ、(b)は2サイクル目のM値と見た目のたるみとの関係を示すグラフ、(c)はM値の平均値と見た目のたるみとの関係を示すグラフである。
【図10】(a)は1サイクル目のR値(立ち上がり応答率)と年齢との関係を示すグラフ、(b)は2サイクル目のR値と年齢との関係を示すグラフ、(c)はR値の平均値と年齢との関係を示すグラフである。
【図11】(a)は1サイクル目のR値と見た目のたるみとの関係を示すグラフ、(b)は2サイクル目のR値と見た目のたるみとの関係を示すグラフ、(c)はR値の平均値と見た目のたるみとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0014】
図1に示された実施形態に係る測定装置10は、皮膚を変形させることによって生じる反力を測定することにより、皮膚の老化状態を測定するものである。該測定装置10は、測定対象である皮膚の表面と接触する一対の接触子21と、少なくとも1つの接触子21を皮膚の表面に沿った方向に動作させる動力部としてのモータ22と、皮膚変形により生じる反力に関するデータを取得するデータ取得部32と、取得したデータに基づき反力保持率(以下、M値ということがある。)の増加率を求めるデータ処理部33とを備えてなる。測定装置10は、部品構成としては、特に限定するものではないが、一例として、図1に示すように、接触子21とモータ22と検知部23が1つのユニットであるプローブ20を構成し、上記データ取得部32及びデータ処理部33として機能する制御部31を持つ装置本体30に、該プローブ20が接続することで構成することができる。
【0015】
プローブ20の構成としては、基本的には上記特許文献1に記載のものと同様のものを用いることができる。すなわち、一対の接触子21は、その内の少なくとも1つが、皮膚表面に接触した状態で、皮膚表面に沿った方向に動作可能に構成されている。この例では、接触子21は、位置固定と位置合わせが可能な一対のアーム24の先端にそれぞれ取り付けられており、モータ22によりアーム24を動かすことで、接触子21間の距離を変化させることができるようになっている。一対の接触子21は、一方を固定とし他方を可動としてもよく、両方とも可動としてもよい。なお、測定に際しては、皮膚表面との滑りを防止するために、接触子21の先端に両面テープなどの滑り止め手段(不図示)を設けてもよい。
【0016】
動力部としてのモータ22は、上記接触子21を動かす動力源であり、モータ22により生じた回転運動はカムやプーリーなどによって直線運動に変換され、接触子21を皮膚表面に沿った方向に直線的に運動させる。
【0017】
検知部23は、接触子21の動作による皮膚変形によって生じる反力を検知する。すなわち、接触子21を動作させると、これに伴い皮膚が変形させられるので、該変形によって接触子21は皮膚から反発力を受ける。検知部23は、この反発力(即ち、反力)を検知するものであり、例えば歪み計などにより構成することができる。このようにして検知された反力は、電気信号として装置本体30に伝達される。
【0018】
装置本体30は、この例では、図1に示すように、データ取得部32、データ処理部33及び評価部34などとして作用する制御部31を備えるとともに、各種メモリ等からなる記憶部35と、スイッチやキーボード等からなる入力部36と、モニター等の表示部37とを備えてなる。なお、制御部31はマイクロコンピュータ等により構成してもよく、また、装置本体30の全体をパーソナルコンピュータで構成することもできる。あるいはまた、制御部31のうちデータ取得部32(又は、データ取得部32とデータ処理部33の一部)をマイクロコンピュータ等により1つのユニットとして構成し、データ処理部33(又は、データ処理部33の残部)及び評価部34についてはパーソナルコンピュータで構成して、前記ユニットと接続することにより、全体として上記制御部31としての機能を発揮するようにしてもよい。
【0019】
データ取得部32は、モータ22を制御することによって皮膚の表面に接触した一対の接触子21を動作させながら、皮膚変形により生じる反力に関するデータを検知部23を用いて取得する。モータ22を制御することによる接触子21の動作は、接触子間距離を縮める接近動作ステップと、縮めた接触子間距離を維持する保持静止ステップと、縮めた接触子間距離を元に戻す復帰動作ステップとからなるサイクルにて、該サイクルを複数回繰り返すというものである。より詳細には、復帰動作ステップの後に元の接触子間距離を維持する原点静止ステップを更に有し、原点静止ステップ後に次のサイクルの接近動作ステップを行う。上記接近動作ステップは、図1(a)に示す状態から、一対の接触子21間の距離が縮まるように少なくとも一方の接触子21を直線的に動作させて、図1(b)に示す状態とするステップであり、これにより、皮膚は一対の接触子21間で摘まれることによって膨れた状態に変形する。上記保持静止ステップは、図1(b)の状態を維持するステップであり、上記復帰動作ステップは、図1(b)の状態から図1(a)の状態に戻すステップであり、更に、上記原点静止ステップは、図1(a)の状態を維持するステップである。なお、サイクル数は、例えば2〜5回とすることができるが、皮膚に対する刺激を極力少なくするという点から、2回であることが特に好ましい。
【0020】
図3(a)は、サイクル数を2回とした場合における接触子21の動作パターンの一例を示す図である。この例では、まず、ゲイン調整用動作として、上記接近動作ステップと復帰動作ステップ(保持静止ステップはなし)を行った後に、原点静止ステップを行ってから、1サイクル目の接近動作ステップ、保持静止ステップ、復帰動作ステップ及び原点静止ステップを行い、次いで、2サイクル目の接近動作ステップ、保持静止ステップ、復帰動作ステップ及び原点静止ステップを行う。各サイクルにおける保持静止ステップの時間(静止時間)は、同じ時間に設定されることが好ましい。各サイクルにおける原点静止ステップの時間も、同じ時間に設定されることが好ましく、更に、保持静止ステップの時間と原点静止ステップの時間も同じであることが好ましい。図3(a)の例では、これらの時間は全てT0として、同一時間に設定している。これらの静止時間T0は、特に限定するものではないが、通常は1〜10秒の範囲内である。また、接触子間距離の初期値及びその収縮量Dならびに収縮速度は、特に限定されないが、通常は初期値が3〜10mm、収縮量Dが0.5〜5mm及び収縮速度0.5〜15mm/秒の範囲から選択される。
【0021】
このように接触子21を2サイクル連続して動作させることにより、図3(b)に示すような反力の時間変化を示す波形データが得られる。データ処理部33は、このような反力に関するデータに基づいて、接近動作ステップによる皮膚収縮時の最大反力(F値)に対して保持静止ステップで該最大反力(F値)がどれだけ保持されているかを表す反力保持率(M値)を求めるとともに、複数回のサイクルの内の2つのサイクル間での反力保持率(M値)の増加率を求める。この例では、サイクル数が2回であるので、1回目のサイクルでの反力保持率(M値)に対する2回目のサイクルでの反力保持率(M値)の増加率を算出する。
【0022】
図4は、図3(b)に示す反力の波形データのうち、1回目のサイクルでの波形データを拡大して示した図である。これに基づき、F値とM値について説明する。図4中、T1〜T4及びF1〜F4については以下の通りである。
T1:接近動作ステップの開始時(収縮を開始した時刻)
T2:接近動作ステップの終了時(最大収縮に到達した時刻)
T3:反力が最大値に到達した時刻
T4:保持静止ステップの終了時(収縮の解除を開始した時刻)
F1:接近動作ステップの開始時(T1)での反力の値
F2:保持静止ステップの終了時(T4)での反力の値
F3:接近動作ステップの終了時(T2)での反力の値
F4:反力の最大値
【0023】
最大反力であるF値は、接近動作ステップの開始時(T1)での反力の値(F1)に対して増加する皮膚収縮時の最大反力であり、次式により求められる。
F=F4−F1
【0024】
反力保持率であるM値は、最大反力であるF値が保持静止ステップでどの程度保持されているかを示す保持率であり、次式により求められる(式中、Fsは保持静止ステップで最終的に保持された反力であり、Fs=F2−F1である)。
【数1】

【0025】
M値の増加率は、次式により求められる(式中、M1は1回目のサイクルでのM値であり、M2は2回目のサイクルでのM値である。)。なお、M値の増加率は、次式の代わりに、単に1回目のサイクルでのM値に対する2回目のサイクルでのM値の比として求めてもよい(例えば、M値の増加率=(M2/M1)×100)。
【数2】

【0026】
評価部34では、上記で算出されたM値の増加率に基づいて皮膚の老化状態を評価する。このようにM値の増加率によって皮膚の老化度合を評価することができるのは、後記実施例で示されるように、M値の増加率が年齢やたるみと高い相関があるためである。詳細には、本発明者は、上記のように連続測定することによりM値がサイクルごとに増加していくことを見出した。M値が増加していくのは、図3(b)に示すように、サイクルごとに最大反力(F値)が減少していくためである。最大反力が減少する原因としては、測定する度に皮膚が測定前の状態に戻りにくくなっていることが考えられる。つまり、力を加えられた皮膚が、再び力を加えられたときに、力を加える前の状態に戻りにくくなっており、この戻りにくさがたるみと関連があるのではないかと考えた。そのため、M値の増加率をパラメータとして用いることで、たるみの状態を評価することができる。すなわち、M値の増加率が大きいほど、たるみが大きく、従って皮膚の老化度が進んでいることを示す。ここで、皮膚のたるみとは、主として重力によって皮膚がゆがめられて、そのゆがみに対して皮膚が戻ることができなくなった状態である。そのため、上記のように皮膚の戻りにくさの指標であるM値の増加率をパラメータとして用いることにより、皮膚のたるみ状態を有利に評価することができる。
【0027】
本実施形態では、このようにM値の増加率を、皮膚状態を評価する際のパラメータとして用いており、即ち、連続測定したときの物性の変化を利用した点に特徴がある。上記特許文献1に記載された従来技術でも、接近動作、静止保持動作及び復帰動作からなるサイクルを繰り返すことにより測定することが開示され、複数のサイクルで物性にばらつきが見られることが示唆されている。しかしながら、特許文献1では、このようなばらつきをなくすために、特定のサイクルでのデータを採用するものであり、具体的には最後のサイクルで得られた測定値に基づいて解析を実施するものである。そのため、本実施形態のように連続測定したときの物性の変化をそのまま利用する点は、特許文献1には何ら開示されておらず、M値の増加率についても沈黙しており、上記本実施形態の特徴を示唆するものではない。
【0028】
評価部34による評価方法としては、例えば、予め入力部36を介して入力され又は記憶部35に記憶されたM値の増加率と年齢及び/又はたるみとの関係に基づいて、上記で算出したM値の増加率を該関係に当てはめることで、肌年齢を算出したり、たるみの状態を数値化したりすることができる。該関係は、年齢やたるみ状態が様々な多数の個体についてM値の増加率を測定することにより得ることができる。
【0029】
また、例えば、同一の被験者に対して、予めM値の増加率を測定しておき、皮膚に何らかの処理を施した後に測定したM値の増加率を、予め測定しておいたM値の増加率と対比することにより、皮膚の老化度がどの程度改善されたかを評価することができる。例えば、今回測定したM値の増加率が、先に測定しておいたM値の増加率よりも小さければ、たるみが改善されていると評価することができ、先に測定しておいたM値の増加率と同じであったり、より大きい値であれば、たるみが改善されていないと評価することができる。
【0030】
次に、上記測定装置10を用いた皮膚の老化状態の測定方法について説明する。
【0031】
測定に際しては、プローブ20の上記一対の接触子21を、測定対象である皮膚の表面に接触させる。測定対象となる皮膚としては、例えば、顔面や腕などが挙げられ、特に限定されない。好ましくは、比較的肉厚があってたるみが生じやすい部分であり、例えば、口元などが挙げられる。
【0032】
次いで、皮膚の表面に接触させた一対の接触子21を、上記の動作パターンに従って、複数サイクル動作させる。詳細には、プローブ20に設けられた不図示のスイッチを押したり、装置本体30に設けられた入力部36としてのスイッチ等により、データ取得部32を機能させて、モータ22を制御し、一対の接触子21を上記動作パターンにて動作させる。また、このように動作させながら、検知部23によって、皮膚収縮によって生じる反力に関するデータを取得する。このようにして取得したデータは、一旦、記憶部35に格納される。
【0033】
その後、得られたデータに基づいて、データ処理部33により、上記M値の増加率を算出する。算出されたM値の増加率は、記憶部35に記憶させるとともに、表示部37に表示される。また、この例では、算出されたM値の増加率に基づいて皮膚の老化状態を評価してもよく、例えば、上記に従い、肌年齢を算出したり、たるみ状態を数値化したり、皮膚の老化度やたるみの改善効果を評価したりすることができる。これらの評価結果も、記憶部35に記憶させるとともに、表示部37に表示することができる。
【0034】
上記実施形態では、接触子の動作パターンを2サイクルとして、両者間でのM値の増加率を求めるようにしたが、サイクル数を3回以上として、例えば1サイクル目と3サイクル目の間や、2サイクル目と4サイクル目の間でのM値の増加率を求めてもよく、従って、M値の増加率は、複数回のサイクルの内の2つのサイクル間で適宜求めることができる。すなわち、M値の増加率として、n回目(但し、n≧1)のサイクルでのM値に対するn+a回目(但し、a≧1)のサイクルでのM値の増加率を算出することができる。なお、nの上限については特に限定しないが、通常は10回以下であり、より好ましくは5回以下である。好ましくは、2サイクル目と3サイクル目の間や、3サイクル目と4サイクル目の間のように、連続する2サイクル間でのM値の増加率(すなわち、nサイクル目のM値に対するn+1サイクル目のM値の増加率)を求めることであり、より好ましくは、上記実施形態のように1サイクル目と2サイクル目の間での増加率を求めることである。
【0035】
本実施形態に係る測定装置は、例えば、化粧品を販売するコーナーやエステティックサロンなどにおいて、お客様の皮膚の老化度やたるみ状態などを容易に数値化し、判別することができ、また、化粧品の塗布後やエステティックの施術後における老化状態の改善効果などを数値化するのに利用することもできる。また、化粧品などの新製品を開発する際に、開発品による皮膚の老化状態の改善効果を数値化することができ、客観的な製品評価に役立てることができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0037】
図1に示された上記実施形態に係る測定装置を用いて、20代6名、30代6名、40代7名、50代4名、60代2名の計25名の被験者に対し、皮膚の老化状態の測定を行った。
【0038】
詳細には、装置構成としては、有限会社アサヒバイオメッド製「スキングリップメータAS−GP1」をパーソナルコンピュータに接続したものを測定装置として用い、上記F値(最大反力)、M値(反力保持率)、及び下記式により求められるR値(立ち上がり応答率:負荷に対する皮膚の応答性)とともに、上記M値の増加率をパーソナルコンピュータで計算できるように構成した。
【数3】

【0039】
各被験者に対する測定部位は、図2に示すように口元であり、より詳細には、口角から側方(水平方向)に2cmの部位とした。被験者の測定部位を、株式会社アンズコーポレーション製「アトレージュAD+ フェイスウォッシュF」で洗浄し、測定環境下(室温:20±5℃、湿度50±10%)にて20分間馴化させた。
【0040】
測定装置の一対の接触子を上記測定部位における皮膚の表面に接触させて、図3(a)に示す動作パターンにて接触子を動作させることで、皮膚の状態を測定した。詳細には、接触子が口元部で縦(上下方向)に動くように、一対の接触子を上下に対向させて配置し、皮膚の表面を上下につまんで収縮させるようにした。一対の接触子は、互いに近づく方向に2本とも動くように設定した。測定は連続して2サイクル行い、測定前にゲイン調整用動作を行った。各サイクルにおける保持静止ステップの時間及び原点静止ステップの時間は、ともにT0=3秒とした。接触子間距離の初期値は7mm、収縮量Dは1mm(従って、最大収縮時の接触子間距離は6mm)とした。収縮速度は「スキングリップメータAS−GP1」の設定通りとした(8mm/秒程度)。
【0041】
なお、接触子が皮膚表面から滑らないように、接触子の先端には両面テープを貼り付けた。また、一対の接触子の左右両側には、測定範囲外の部分による影響を最小化するため、「スキングリップメータAS−GP1」においてプローブ先端に設けられた接触圧アダプタによるガードリングを設定した。
【0042】
以上の測定により、各被験者について、1サイクル目のF値、M値及びR値と、2サイクル目のF値、M値、R値と、F値、M値及びR値についての1サイクル目と2サイクル目の平均値と、1サイクル目のM値に対する2サイクル目のM値の増加率であるM値の増加率が、パラメータとして算出される。
【0043】
一方、各被験者について、口元の見た目のたるみをスコア化した。スコアは以下の1〜4の4段階であり、該基準に従って、5名の評価者が各被験者の顔面写真について目視評価し、その平均値を見た目たるみスコアとした。数値が大きいほど、重度のたるみ状態であることを示す。
スコア1…たるみがない
スコア2…口角からフェイスライン方向へ窪みが存在するが、口角のごく近くに限局されている
スコア3…口角からフェイスライン方向へ明確に窪みとたるみが存在し、その長さも長い
スコア4…口角からフェイスラインに向けて存在するたるみがシワとなっている。
【0044】
上記で算出した各パラメータと、年齢及び見た目のたるみスコアとの関係は、図5〜11に示す通りであった。図5は、M値の増加率と年齢又は見た目たるみスコアとの関係を、図6は、F値(各サイクル及び平均値)と年齢との関係を、図7は、F値(各サイクル及び平均値)と見た目たるみスコアとの関係を、図8は、M値(各サイクル及び平均値)と年齢との関係を、図9は、M値(各サイクル及び平均値)と見た目たるみスコアとの関係を、図10は、R値(各サイクル及び平均値)と年齢との関係を、図11は、R値(各サイクル及び平均値)と見た目たるみスコアとの関係を、それぞれ示す。
【0045】
上記測定結果に基づき、各パラメータと、年齢及び見た目たるみスコアとを比較し、相関係数をスピアマンの順位相関分析によって算出した。なお、スピアマンの順位相関係数は非正規分布で使用することができる相関分析法であり、この分析方法では、サンプルに2種類の順位がつけられている場合(例えば、ある集団の成績の順位と性格の順位)、その2通りの順位の間にどの程度の関連があるかを表す。相関係数は−1から+1までの値をとり、+1は二つのデータが完全に一致していること、−1は完全に逆であることを示す。相関係数の絶対値が1に近いほど何らかの相関が高い。順位相関係数の分析結果を下記表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
表1に示すように、M値の増加率については、年齢との間についても、また見た目のたるみスコアとの間についても、高い相関が見られた。なお、今回の被験者についての年齢と見た目のたるみスコアとの間の順位相関係数は「0.7614**」であり、年齢と見た目のたるみ状態との間で高い相関を持つ被験者集団であった。
【0048】
これに対し、その他のパラメータについては、年齢と相関があると従来考えられていたF値(最大反力)についても、またR値(立ち上がり応答率)についても、1サイクル目、2サイクル目及び平均値のいずれも、年齢や見た目のたるみとの間で相関は見られなかった。M値(反力保持率)については、1サイクル目のM値と平均値において年齢や見た目のたるみとの間にある程度の相関が見られたが、実施例に係るM値の増加率との間の方が明らかに相関が高かった。
【0049】
このことから、実施例に係るM値の増加率については、この値が大きいほど、年齢が高く、また、たるみが重度であるとの相関関係があり、従って、M値の増加率をパラメータとすることで、皮膚の老化の程度をより明確に示すことができ、客観的に数値化できることがわかる。
【符号の説明】
【0050】
10…測定装置 20…プローブ 21…接触子 22…モータ
23…検知部 30…装置本体 32…データ取得部
33…データ処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚変形により生じる反力を測定することにより皮膚の状態を測定する装置において、
測定対象である皮膚の表面と接触する一対の接触子と、
少なくとも1つの前記接触子を皮膚の表面に沿った方向に動作させる動力部と、
皮膚の表面に接触した前記一対の接触子を、前記動力部を制御することにより、接触子間距離を縮めて皮膚を収縮させる接近動作ステップと、縮めた接触子間距離を維持する保持静止ステップと、縮めた接触子間距離を元に戻す復帰動作ステップとからなるサイクルにて複数回繰り返し動作させながら、皮膚収縮によって生じる反力に関するデータを取得するデータ取得部と、
取得した前記データに基づき、皮膚収縮時の最大反力に対して前記保持静止ステップで前記最大反力がどれだけ保持されているかを表す反力保持率を求めて、複数回の前記サイクルの内の2つのサイクル間での前記反力保持率の増加率を求めるデータ処理部と、
を備えた皮膚状態の測定装置。
【請求項2】
前記データ処理部は、前記反力保持率の増加率として、n回目(但し、n≧1)のサイクルでの反力保持率に対するn+a回目(但し、a≧1)のサイクルでの反力保持率の増加率を算出することを特徴とする請求項1記載の測定装置。
【請求項3】
皮膚の老化状態を測定する装置である請求項1又は2記載の測定装置。
【請求項4】
前記皮膚の老化状態が皮膚のたるみであることを特徴とする請求項3記載の測定装置。
【請求項5】
皮膚変形により生じる反力を測定することにより皮膚の状態を測定する方法において、
測定対象である皮膚の表面と接触する一対の接触子と、少なくとも1つの前記接触子を皮膚の表面に沿った方向に動作させる動力部と、を備えたプローブを用いて、
皮膚の表面に接触した前記一対の接触子を、接触子間距離を縮めて皮膚を収縮させる接近動作ステップと、縮めた接触子間距離を維持する保持静止ステップと、縮めた接触子間距離を元に戻す復帰動作ステップとからなるサイクルにて複数回繰り返し動作させながら、皮膚収縮によって生じる反力に関するデータを取得し、
取得した前記データに基づき、皮膚収縮時の最大反力に対して前記保持静止ステップで前記最大反力がどれだけ保持されているかを表す反力保持率を求めて、複数回の前記サイクルの内の2つのサイクル間での前記反力保持率の増加率を求める
ことを特徴とする皮膚状態の測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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