説明

皮膚紋理検出前処理剤及び皮膚紋理検出方法

【課題】水や雨等により濡れている表面に付着している皮膚紋理及び付着してから年月が経過した皮膚紋理であって、従来技術では検出が困難であるものについて、さらに明瞭に検出することができる皮膚紋理検出前処理剤及び皮膚紋理検出方法を提供する。
【解決手段】皮膚紋理検出前処理剤は、リン酸二水素塩と有機酸と水とを少なくとも含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、指紋、掌紋及び足紋等の皮膚紋理を検出するための皮膚紋理検出前処理剤及び皮膚紋理検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚紋理とは、指紋、掌紋、及び足紋等の無毛皮の指先、掌及び足裏に存在する皮膚の皺、又はこの皺の紋様が対象物に付着した跡のことをいう。この皺は皮膚の中にある汗腺の開口部の盛り上がりが連なって形成されたものであり、汗腺から分泌された汗や油分等により跡が構成される。汗腺の位置は個人によって異なるため、指紋をはじめとして、皮膚紋理は古くから個人識別の根拠として利用され、犯罪捜査などに用いられている。
【0003】
皮膚紋理の検出にあたっては、付着してからあまり時間が経過しておらず、乾燥した滑らかな表面に付着している皮膚紋理は比較的検出されやすい。一方、水や雨等により濡れている表面に付着している皮膚紋理又は付着してから年月が経過した皮膚紋理等は、検出が困難であるとされている。そこで、これらの皮膚紋理を検出するための技術について、研究が進められている。
【0004】
特許文献1には、鮮明に指紋を得るためにHLB(親水親油平衡)値が10〜20の界面活性剤と雲母チタン等の粉体とを水性溶媒に溶解分散させた指紋採取用液が記載されている。
【0005】
特許文献2には、従来採取が困難であった物品表面からより鮮明に指紋を採取するために、板状酸化チタン等の板状粉体をフッ素シリコーンで処理してなる指紋採取用粉体が記載されている。
【0006】
特許文献3には、明瞭な皮膚紋理を検出するために、低次酸化チタン粉体と非イオン性界面活性剤と酸性物質とを分散させて得られた皮膚紋理検出剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−27986号公報
【特許文献2】特開2004−223029号公報
【特許文献3】特許第4560586号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の指紋採取溶液は、粉体としては雲母チタンが適していることが記載されているが、雲母(マイカ)を酸化チタンでコーティングした雲母チタンでは、酸化チタンの表面状態が親水性であるため、粉体と指紋に含まれる油分との付着が弱く、年月が経過する等して指紋の油分が僅かとなった場合には、明瞭な指紋を検出することが困難であった。また、指紋が白色で検出されることから、視認性が悪いという問題があった。
【0009】
また、特許文献2に記載された指紋採取用粉体は、板状の酸化チタン粉体やチタンブラック粉体等に撥水性物質であるフッ素シリコーンを加えて混合し、これらの粉体の表面に撥水加工を施すことによって得られる。それゆえ、水や雨等により濡れている表面に付着している指紋については、採取することが困難であった。
【0010】
他方、特許文献3に記載された皮膚紋理検出剤は、水や雨等により濡れている表面に付着している皮膚紋理又は付着してから年月が経過した皮膚紋理を検出できるようにするために、本願発明者が発明したものである。本願発明者らは、この皮膚紋理検出剤の検出能力をさらに高めるために鋭意研究を行い、検体表面に付着している皮膚紋理及び検体表面の状態を調整することを見出した。
【0011】
本発明は上述した点に鑑み案出されたもので、その目的は、水や雨等により濡れている表面に付着している皮膚紋理及び付着してから年月が経過した皮膚紋理など、従来技術では検出が困難であるものについて、さらに明瞭に検出することができる皮膚紋理検出前処理剤及び皮膚紋理検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明の皮膚紋理検出前処理剤は、リン酸二水素塩と有機酸と水とを少なくとも含む。皮膚紋理検出前処理剤とは、皮膚紋理検出剤を用いて検体表面上の皮膚紋理を検出する前に、検体表面及び皮膚紋理の状態を調整するために使用するものである。
【0013】
本発明の皮膚紋理検出前処理剤を壁、床等の塗装面、金属、ガラス、プラスチック又は紙等の検体表面上に接触させると、検体表面に存在する金属イオンがキレート効果を有するリン酸二水素塩に捕捉される。それゆえ、検出環境や検体の素材等に存在する金属イオンの影響を受けることなく、皮膚紋理の検出を行うことができる。また、皮膚紋理検出前処理剤に配合された有機酸によって、検体表面及び皮膚紋理が好適に弱酸性に調整される。さらに、リン酸二水素塩も水に溶解して弱酸性を示すため、検体表面及び皮膚紋理が好適に弱酸性に調整される。このように、検体表面及び皮膚紋理の状態が調整されることにより、後に用いる皮膚紋理検出剤に含まれる低次酸化チタン粉体が皮膚紋理に付着しやすくなるものと考えられる。
【0014】
また、リン酸二水素塩は、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素アンモニウム、ピロリン酸二水素二ナトリウム、ピロリン酸二水素二カリウム及びピロリン酸二水素二アンモニウムからなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物であることが好ましい。水溶性で弱酸性を示し、安全性も高いリン酸二水素アルカリ金属塩及びリン酸二水素アンモニウムが好適に選択される。
【0015】
さらに、有機酸が、シュウ酸、クエン酸、酒石酸及びグルコン酸からなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物であることも好ましい。キレート効果を有する有機酸を選択することで、検出環境や検体の素材等に存在する金属イオンが捕捉されて金属イオンの影響が低減する。
【0016】
上記課題を解決するため、本発明の皮膚紋理検出方法は、皮膚紋理検出前処理剤を用いた皮膚紋理検出方法であって、皮膚紋理検出前処理剤を検体表面に接触させる工程と、低次酸化チタン粉体と非イオン性界面活性剤と酸性物質とを少なくとも含み酸性を呈する皮膚紋理検出剤を検体表面に接触させる工程とを含んでいる。
【0017】
本発明の皮膚紋理検出前処理剤を壁、床等の塗装面、金属、ガラス、プラスチック又は紙等の検体表面上に接触させることにより、検体表面に存在する金属イオンがキレート効果を有するリン酸二水素塩及び有機酸に捕捉される。それゆえ、検出環境や検体の素材等に存在する金属イオンの影響を受けることなく、皮膚紋理の検出を行うことができる。また、皮膚紋理検出前処理剤に配合された有機酸及びリン酸二水素塩により、検体表面及び皮膚紋理が好適に弱酸性に調整される。その後、低次酸化チタン粉体と非イオン性界面活性剤と酸性物質とを少なくとも含み、酸性を呈する皮膚紋理検出剤を検体表面に接触させると、皮膚紋理は汗腺から分泌された油分を有するところ、皮膚紋理検出剤中に含まれる黒色の低次酸化チタン粉体がこの皮膚紋理の油分に付着して皮膚紋理が検出される。低次酸化チタン粉体は、二酸化チタン粉体を還元焼成して一部の酸素を取り除くことで得られるため、低次酸化チタン粉体の表面に存在する水酸基は低減しており、表面状態は二酸化チタン粉体よりも親油性を示す。したがって、低次酸化チタン粉体が僅かな皮膚紋理の油分にも付着して皮膚紋理を検出する。その際、皮膚紋理検出前処理剤によって、検体表面及び皮膚紋理の状態及び環境が好適に調整されていることから、皮膚紋理検出剤のみでは検出が困難であるものについても、明瞭に検出することができる。
【0018】
また、皮膚紋理検出剤に配合されている非イオン性界面活性剤は低次酸化チタン粉体の分散性を高める効果を有する。非イオン性界面活性剤は、低次酸化チタン粉体が凝集してダマを作ること等を防ぎ、低次酸化チタン粉体の微粒子が液中で分散している状態を維持させる。それゆえ、皮膚紋理の油分に低次酸化チタン粉体の微粒子が付着し、鮮明な皮膚紋理が検出できる。また、皮膚紋理検出剤に配合された酸性物質が皮膚紋理検出剤を酸性に調整することにより、さらに鮮明な皮膚紋理が検出される。
【0019】
また、酸性物質として有機酸を用いることが好ましい。一般的に弱酸である有機酸によって、皮膚紋理検出剤が好適に酸性に調整される。
【0020】
さらに、有機酸として、シュウ酸、クエン酸、酒石酸及びグルコン酸からなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物を用いることが好ましい。キレート効果を有する有機酸を選択することで、検出環境下に存在する金属イオン等が捕捉されて金属イオン等の影響が低減する。それゆえ、検出環境や検体の素材等の影響を受けることなく、安定した皮膚紋理の検出を行うことができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、以下のような優れた効果を有する皮膚紋理検出前処理剤を提供することができる。
(1)検体表面と皮膚紋理の状態及び環境を皮膚紋理の検出に好適に調整することができる。
(2)人体に安全な物質で構成されており、取り扱いが容易である。
【0022】
本発明によれば、以下のような優れた効果を有する皮膚紋理検出方法を提供することができる。
(1)水や雨等により濡れている表面に付着している皮膚紋理又は付着してから年月が経過した皮膚紋理など、従来技術では検出が困難であるものについて、さらに明瞭に検出することができる。
(2)皮膚紋理検出前処理剤及び皮膚紋理検出剤のそれぞれを検体表面に噴霧、浸漬又は塗布することにより検出することができ、操作が簡便かつ容易である。
(3)皮膚紋理検出前処理剤及び皮膚紋理検出剤は人体に安全な物質で構成されており、取り扱いも容易である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0024】
皮膚紋理検出前処理剤に配合されるリン酸二水素塩とは、リン酸又は二リン酸の二水素塩であればよいが、水溶性であって、その水溶液が弱酸性を示す観点から、リン酸二水素アルカリ金属塩、リン酸二水素アンモニウム、ピロリン酸二水素アルカリ金属塩、ピロリン酸二水素アンモニウムが好ましい。さらに具体例を挙げると、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素アンモニウム、ピロリン酸二水素二ナトリウム、ピロリン酸二水素二カリウム及びピロリン酸二水素二アンモニウム等が好ましく、リン酸二水素アンモニウム、リン酸二水素ナトリウム及びリン酸二水素カリウムがより好ましい。これらのリン酸二水素塩は、単独で使用することもできるが、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0025】
次に、皮膚紋理検出前処理剤に配合される有機酸とは、この皮膚紋理検出前処理剤を酸性に調整できるものであればよく、特に限定されないが、シュウ酸、クエン酸、酒石酸、グルコン酸、リンゴ酸、グリコール酸、アジピン酸、コハク酸又は乳酸等が望ましく、1種以上を組み合わせて用いることもでき、これら有機酸等の塩とも組み合わせることができる。さらに、有機酸としてキレート効果を有するシュウ酸、クエン酸、酒石酸又はグルコン酸を選択することで、検出環境や検体の素材等に存在する金属イオンが捕捉されて金属イオンの影響が低減する。それゆえ、検出環境等の影響を受けることなく、安定した皮膚紋理の検出を行うことができる。また、これらのキレート効果を有する有機酸は、後に用いる皮膚紋理検出剤に含まれる低次酸化チタン粉体の一部ともキレート形成することにより親油性又は疎水性を呈し、低次酸化チタン粉体が皮膚紋理の油分に付着し易くなることも考えられる。
【0026】
上記皮膚紋理検出前処理剤は、有機酸及びリン酸二水素塩を配合することによって弱酸性を呈するように調整され、具体的には、皮膚紋理検出前処理剤のpH値が7以下となるように、有機酸が配合されていることが好ましい。検体である対象物を保護すると共に皮膚紋理検出効果を高める観点から、皮膚紋理検出前処理剤のpH値が3〜7の範囲となるように、有機酸が配合されることがより好ましく、pH値が4〜6の範囲となるように有機酸が配合されることがさらにより好ましい。有機酸はシュウ酸、クエン酸、酒石酸又はグルコン酸等の弱酸性物質であることが好ましく、皮膚紋理検出前処理剤のpHを弱酸で調整することにより、低次酸化チタン粉体を含む皮膚紋理検出剤の検出能力を高めると考えられる。
【0027】
上記皮膚紋理検出前処理剤におけるリン酸二水素塩の配合量は、リン酸二水素塩が少量だと皮膚紋理が検出されず、リン酸二水素塩が多量であると検体表面の全面が皮膚紋理検出剤と反応して黒くなる観点から、0.3w/v%〜10w/v%が好ましく、0.3w/v%〜3w/v%がさらに好ましい。また、有機酸の配合量については、皮膚紋理検出前処理剤のpHを所定の値に調整できればよく、有機酸の種類によっても異なるが、0.1w/v%〜10w/v%が好ましく、0.3w/v%〜5w/v%がさらに好ましい。
【0028】
皮膚紋理検出前処理剤を構成する水は、水道水等の水が好適に用いられる。具体的には、水に所定量のリン酸二水素塩と有機酸とを添加して混合することにより、皮膚紋理検出前処理剤が得られる。また、この皮膚紋理検出前処理剤には、水溶液の緩衝能の向上又は他の目的のために、さらに他の物質を添加してもよい。
【0029】
次に、上述の皮膚紋理検出前処理剤を用いた本発明の皮膚紋理検出方法について説明する。
【0030】
まず、皮膚紋理検出前処理剤を検体表面に接触させる工程について説明する。皮膚紋理が付着していると思われる壁、床等の塗装面、金属、ガラス、プラスチック又は紙等の検体表面に対し、本発明の皮膚紋理検出前処理剤を接触させる。接触は、本発明の皮膚紋理検出前処理剤をスプレーボトルに充填し、検体表面に噴霧すること、皮膚紋理検出前処理剤を充分に含ませた刷毛等で検体表面に塗布すること、皮膚紋理検出前処理剤をスポイト等で検体表面に垂らすこと、又は検体表面を皮膚紋理検出前処理剤を満たした容器に浸漬させること等により行われる。皮膚紋理検出前処理剤と検体表面とは十分に接触することが望ましく、接触時間としては検体表面の状況により異なるが、10秒以上が好ましく、30秒以上がより好ましい。
【0031】
本発明の皮膚紋理検出前処理剤を検体表面上に接触させることにより、検体表面に存在する金属イオンがキレート効果を有するリン酸二水素塩及び有機酸に捕捉される。それゆえ、検出環境や検体の素材等に存在する金属イオンの影響を受けることなく、皮膚紋理の検出を行うことができる。また、皮膚紋理検出前処理剤に配合された有機酸及びリン酸二水素塩により、検体表面及び皮膚紋理が好適に弱酸性に調整される。
【0032】
なお、検体表面に皮膚紋理検出前処理剤を接触させたのち、次の工程で皮膚紋理検出剤を使用する前に、水道水や脱イオン水、蒸留水等で検体表面を洗い流し、余剰の皮膚紋理検出前処理剤を除去してもよい。
【0033】
次に、皮膚紋理検出剤を検体表面に接触させる工程について説明する。皮膚紋理検出前処理剤が接触した検体表面に、低次酸化チタン粉体と非イオン性界面活性剤と酸性物質とを少なくとも含み酸性を呈する皮膚紋理検出剤を検体表面に接触させる。接触は、本発明の皮膚紋理検出剤をスプレーボトルに充填し、検体表面に噴霧すること、皮膚紋理検出剤を充分に含ませた刷毛等で検体表面に塗布すること、皮膚紋理検出剤をスポイト等で対象物に垂らすこと、又は検体表面を皮膚紋理検出剤を満たした容器に浸漬させること等により行われる。皮膚紋理検出剤と検体表面とは十分に接触することが望ましく、接触時間としては検体表面の状況により異なるが、10秒以上が好ましく、30秒以上がより好ましい。
【0034】
低次酸化チタン粉体と非イオン性界面活性剤と酸性物質とを少なくとも含み、酸性を呈する皮膚紋理検出剤を検体表面に接触させると、皮膚紋理は汗腺から分泌された油分を有するところ、皮膚紋理検出剤中に含まれる黒色の低次酸化チタン粉体がこの皮膚紋理の油分に付着して皮膚紋理が検出される。低次酸化チタン粉体は、二酸化チタン粉体を還元焼成して一部の酸素を取り除くことで得られるため、低次酸化チタン粉体の表面に存在する水酸基は低減しており、表面状態は二酸化チタン粉体よりも親油性を示す。したがって、低次酸化チタン粉体が僅かな皮膚紋理の油分にも付着して皮膚紋理を検出する。その際、皮膚紋理検出前処理剤によって、検体表面及び皮膚紋理の状態及び環境が検出に好適に調整されていることから、皮膚紋理検出剤のみでは検出が困難であるものについても、明瞭に検出することができる。
【0035】
ここで、低次酸化チタンとは、一般式TiOで示される酸窒化チタンや、一般式Ti2n−1で示される還元酸化チタン等のチタン系黒色顔料、いわゆるチタンブラックのことをいう。特に限定されないが、具体的には、チタンブラック12S、チタンブラック13M、チタンブラック13M−C(三菱マテリアル電子化成株式会社製品)、ティラックD(赤穂化成株式会社製品)等が挙げられる。本発明においては、粉体の表面状態が親油性の場合に皮膚紋理の油分への粉体の付着が容易となる観点から、低次酸化チタン粉体の表面状態につき、酸化チタン粉体より親油性を有するものが好適に用いられる。また、本発明に用いるチタンブラック等の低次酸化チタン粉体の粒子径は、皮膚紋理の油分への付着性及び分散性の観点から、0.01μm〜100μmであることが好ましく、更に0.02μm〜10μmであることが好ましい。
【0036】
さらに、皮膚紋理検出剤に配合されている非イオン性界面活性剤とは、チタンブラック等の低次酸化チタン粉体を液体中に充分に分散させることができるものであればよく、例えば、ソルビタンモノラウレート又はソルビタンモノパルミテート等のソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート又はポリオキシエチレンソルビタントリステアレート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル又はポリオキシエチレンステアリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル、テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット等のポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセロールモノステアレート等のグリセリン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコールモノラウレート又はポリエチレングリコールモノオレエート等のポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン誘導体、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルアミン並びにアルキルアルカノールアミド等が挙げられる。これらの非イオン性界面活性剤は、単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0037】
配合されている非イオン性界面活性剤のHLB値は、非イオン性界面活性剤の親水親油バランスが低次酸化チタン粉体と皮膚紋理の油分とを密着するように調整する観点から、8〜13.5であることが好ましい。さらに、非イオン性界面活性剤の親水親油バランスが低次酸化チタン粉体と皮膚紋理の油分とをさらにより密着するように調整する観点から、HLB値は8.6〜12.5であることがより好ましい。
【0038】
皮膚紋理検出剤に配合される酸性物質は、皮膚紋理検出剤を酸性に調整できるものであればよく、無機酸又は有機酸のいずれも使用することができるが、一般的に弱酸性物質であって、人体への影響も少ない観点から、有機酸が好ましい。有機酸としては、特に限定されないが、シュウ酸、クエン酸、酒石酸、グルコン酸、リンゴ酸、グリコール酸、アジピン酸、コハク酸又は乳酸等が望ましく、1種以上を組み合わせて用いることもでき、これら有機酸等の塩とも組み合わせることができる。さらに、有機酸としてキレート効果を有するシュウ酸、クエン酸、酒石酸又はグルコン酸を選択することで、検出環境下に存在する金属イオン等が捕捉されて金属イオン等の影響が低減し、検出環境等の影響を受けることなく、安定した皮膚紋理の検出を行うことができる。
【0039】
上記皮膚紋理検出剤は、酸性物質を配合することによって酸性を呈するように調整され、具体的には、皮膚紋理検出剤のpH値が4.5以下となるように、酸性物質が配合されていることが好ましい。検体である対象物を保護すると共に皮膚紋理検出効果を高める観点から、皮膚紋理検出剤のpH値が2.5〜4.5の範囲となるように、酸性物質が配合されることがより好ましく、pH値が3.0〜3.6の範囲となるように酸性物質が配合されることがさらにより好ましい。酸性物質はシュウ酸、クエン酸、酒石酸又はグルコン酸等の弱酸性物質であることが好ましく、皮膚紋理検出剤のpHを弱酸で調整することにより、低次酸化チタン粉体の分散性及び界面活性剤の効果を高めると考えられる。
【0040】
皮膚紋理検出剤を構成する液体は、低次酸化チタン粉体を分散させることができるものであればよいが、水道水等の水が好適に用いられる。具体的には、水に低次酸化チタン粉体と非イオン性界面活性剤とを添加して混合分散させることにより、分散液が得られる。また、この分散液には、分散性を向上又は他の目的のために、さらに水溶性又は不溶性の物質を添加してもよい。
【0041】
皮膚紋理検出剤における低次酸化チタン粉体の配合量は、低次酸化チタン粉体が少量だと皮膚紋理が検出されず、低次酸化チタン粉体が多量であると対象物全面が黒くなる観点から、1〜20重量%が好ましく、3〜10重量%がさらに好ましい。非イオン性界面活性剤の配合量については、非イオン性界面活性剤が少量だと分散性が弱く、非イオン性界面活性剤が多量であると溶解して気泡が立つ観点から、0.005重量%〜5重量%が好ましく、0.01重量%〜1重量%がさらに好ましい。また、酸性物質の配合量については、皮膚紋理検出剤のpHを所定の値に調整できればよく、酸性物質の性質によっても異なるが、0.05重量%〜10重量%が好ましく、0.1重量%〜5重量%がさらに好ましい。
【0042】
なお、上記の皮膚紋理検出剤により、検体表面上の皮膚紋理が検出された後には、検体表面に残存する余剰の皮膚紋理検出剤は、水道水等で洗い流すことによって除去される。皮膚紋理の油分と皮膚紋理検出剤中に含まれる低次酸化チタン粉体とが密着しているために、余剰の皮膚紋理検出剤のみを洗い流すことができる。それゆえ、検出された皮膚紋理の周囲汚染を防ぎ、検出される皮膚紋理を明瞭なものとすることができる。
【0043】
以下、実施例を用いて、本発明を詳細に説明する。
【実施例1】
【0044】
1.皮膚紋理検出前処理剤と皮膚紋理検出効果について
【0045】
適量の水にリン酸二水素カリウム0.5gとリン酸二水素アンモニウム0.5gとクエン酸1gとを添加して溶解させたのち、この溶液に水を加えて100mLとし、皮膚紋理検出前処理剤とした。次に、100mLの水に、チタンブラック(三菱マテリアル電子化成株式会社製品)7gとクエン酸1gとポリオキシエチレンアルキルエーテル(HLB値:8.6)0.05mLとを添加して混合し、皮膚紋理検出剤を作成した。
【0046】
あらかじめ水に濡らした鉄板に掌を押しつけ、指紋及び掌紋を鉄板に付着させた。台所用合成洗剤をスポンジに取って泡だてたのち、鉄板全体を洗剤のついたスポンジで洗い、多量の水で洗い流した。5分後、この鉄板に上述のように作成して得た皮膚紋理検出前処理剤をスプレーボトルを用いて全体に行き渡るように吹き掛けた。1分後、上述のように作成して得た皮膚紋理検出剤を入れた容器の中に鉄板を浸し、3分間静置した後、鉄板を取り出して水道水で洗い、余剰の皮膚紋理検出剤を洗い流した。鉄板上に検出された指紋及び掌紋の検出状況を目視で確認した(試験1)。また、上記同様の方法で準備した鉄板について、皮膚紋理検出前処理剤を使用せず、皮膚紋理検出剤のみで指紋及び掌紋の検出を試みたものについて、指紋及び掌紋の検出状況を目視で確認した(試験2)。検出状況の評価は以下4段階で行った。◎:指紋及び掌紋の紋様が明確に認められる、○:指紋及び掌紋の紋様が認められる、△:曖昧な部分を有するが、指紋等の紋様が一部認められる、×:指紋等の紋様が認められない。
【0047】
【表1】

【0048】
表1の結果より、皮膚紋理検出前処理剤で検体表面を処理したのちに皮膚紋理検出剤を用いることにより、皮膚紋理が付着した部分を洗剤で洗った後の検体表面からも、皮膚紋理の検出が可能となることがわかった。このように、皮膚紋理検出前処理剤を用いることにより、通常では検出が困難な状態にある皮膚紋理が検出可能となる。
【実施例2】
【0049】
2.皮膚紋理検出前処理剤に含まれる成分の配合と皮膚紋理検出効果について
【0050】
以下表2に示す配合で、適量の水にリン酸二水素塩や酸等を種々添加して溶解させたのち、溶液に水を加えて100mLとし、皮膚紋理検出前処理剤とした(試験No.1〜12)。次に、100mLの水に、チタンブラック(三菱マテリアル電子化成株式会社製品)7gとクエン酸1gとポリオキシエチレンアルキルエーテル(HLB値:8.6)0.05mLとを添加して混合し、皮膚紋理検出剤を作成した。
【0051】
あらかじめ水に濡らした鉄板に掌を押しつけ、指紋及び掌紋を鉄板に付着させた。台所用合成洗剤をスポンジに取って泡だてたのち、鉄板全体をスポンジで洗い、多量の水で洗い流した。5分後、この鉄板に上述のように作成して得た各皮膚紋理検出前処理剤をスプレーボトルを用いて全体に行き渡るように吹き掛けた。1分後、皮膚紋理検出剤を入れた容器の中に鉄板を浸し、3分間静置した後、鉄板を取り出して水道水で洗い、余剰の皮膚紋理検出剤を洗い流した。鉄板上に検出された指紋及び掌紋の検出状況を目視で確認した。評価は以下4段階で行った。◎:指紋及び掌紋の紋様が明確に認められる、○:指紋及び掌紋の紋様が認められる、△:曖昧な部分を有するが、指紋等の紋様が一部認められる、×:指紋等の紋様が認められない。
【0052】
【表2】

【0053】
表2の結果より、リン酸二水素塩水溶液について、塩酸等の無機塩ではなく、有機酸が配合されることにより、明瞭な皮膚紋理の検出が可能となることが分かった。さらに、配合されるリン酸二水素塩については、リン酸二水素アルカリ金属塩でもリン酸二水素アンモニウムでも明瞭な皮膚紋理の検出が可能となり、さらにリン酸二水素アンモニウムを選択することで、特に明瞭な皮膚紋理の検出が可能となることが分かった。
【0054】
本発明は、上記の実施形態又は実施例に限定されるものでなく、特許請求の範囲に記載された発明の要旨を逸脱しない範囲内での種々、設計変更した形態を技術的範囲に含まれるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸二水素塩と有機酸と水とを少なくとも含む皮膚紋理検出前処理剤。
【請求項2】
前記リン酸二水素塩は、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素アンモニウム、ピロリン酸二水素二ナトリウム、ピロリン酸二水素二カリウム及びピロリン酸二水素二アンモニウムからなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物であることを特徴とする請求項1に記載の皮膚紋理検出前処理剤。
【請求項3】
前記有機酸が、シュウ酸、クエン酸、酒石酸及びグルコン酸からなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物であることを特徴とする請求項1又2に記載の皮膚紋理検出前処理剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の皮膚紋理検出前処理剤を用いた皮膚紋理検出方法であって、前記皮膚紋理検出前処理剤を検体表面に接触させる工程と、低次酸化チタン粉体と非イオン性界面活性剤と酸性物質とを少なくとも含み酸性を呈する皮膚紋理検出剤を検体表面に接触させる工程とを含むことを特徴とする皮膚紋理検出方法。
【請求項5】
前記酸性物質として有機酸を用いることを特徴とする請求項4記載の皮膚紋理検出方法。
【請求項6】
前記有機酸として、シュウ酸、クエン酸、酒石酸及びグルコン酸からなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物を用いることを特徴とする請求項5記載の皮膚紋理検方法。

【公開番号】特開2012−95849(P2012−95849A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−246371(P2010−246371)
【出願日】平成22年11月2日(2010.11.2)
【特許番号】特許第4703778号(P4703778)
【特許公報発行日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【出願人】(510157410)ウラガコーポレーション株式会社 (2)
【Fターム(参考)】