説明

皮革様シート状物、皮革様シート状物の製造方法、及びそれを用いたボール

【課題】乾燥時とともに、湿潤時のグリッピー性や耐摩耗性にも優れ、かつ汗の過度の吸収の少ないボール用の皮革様シート状物を提供すること。
【解決手段】表面に凹凸を有するシート状物であって、極細繊維と高分子弾性体(A)とからなる基体層の片側表面に、基体層を構成する繊維に連続した立毛状の極細繊維とその極細繊維に接合した高分子弾性体(B)とからなる複合層が存在し、さらにシート状物表面の凸部頂上部には高分子弾性体(C)を主とする被覆層が存在し、かつ凸部頂上部と凹部谷底部の間の側面部には表面側から基体層へ達する貫通孔を有することを特徴とする。さらには、被覆層が2層以上の複層構造であり、かつ被覆層の表面側の層が粘着剤を含むことが好ましく、さらには粘着剤が、液状ゴム又はロジン樹脂であることや、その液状ゴムが、分子量800〜5000の合成液状ゴムであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮革様シート状物に関し、さらに詳しくはバスケット、ラグビー、アメリカンフットボール、ハンドボール等の球技ボールに適する皮革様シート状物、その製造方法およびそれを用いたボールに関する。
【背景技術】
【0002】
球技ボール用の表皮材としては、古くから天然皮革が用いられてきたが、近年取り扱いの容易さなどから皮革様シート状物、中でも繊維と高分子弾性体からなるいわゆる人工皮革と呼ばれる皮革様シート状物が広く用いられるようになってきている。しかし、耐摩耗性や汚れの付着を防止するために、人工皮革の表面には高分子弾性体からなる表皮層が一面に形成されていることが多いためにすべり易く、特にバスケット、ラグビー、アメリカンフットボールなどの手で扱うことが多い球技で手に汗が発生した場合には、すべりが発生しやすいという問題があった。
【0003】
このようなすべりを減少させ湿潤時のグリッピー性を向上させるための手段としては、例えば特許文献1では、立毛を有する人工皮革の表面にノンスリップ性を発揮する樹脂を非連続状に付与する方法が開示されている。しかしこのものは立毛部分で吸水性があるものの毛羽が最初から存在し、耐久性や耐摩耗性に欠け、またフィルム層が表面に形成されていないために汚れやすいという問題があった。また、表面の立毛部分が過度に吸水し、ボールが重くなるという問題があった。
【特許文献1】特開平9−250091号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、これら従来のシート状物ではなしえなかった、乾燥時とともに、湿潤時のグリッピー性や耐摩耗性にも優れ、かつ汗の過度の吸収、雨水の吸収によるシート状物の重量変化の少ない、特にバスケット、ラグビー、アメリカンフットボール、ハンドボール等の球技ボールに適した皮革様シート状物、その製造方法およびそれらを用いたボールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の皮革様シート状物は、表面に凹凸を有するシート状物であって、極細繊維と高分子弾性体(A)とからなる基体層の片側表面に、基体層を構成する繊維に連続した立毛状の極細繊維とその極細繊維に接合した高分子弾性体(B)とからなる複合層が存在し、さらにシート状物表面の凸部頂上部には高分子弾性体(C)を主とする被覆層が存在し、かつ凸部頂上部と凹部谷底部の間の側面部には表面側から基体層へ達する貫通孔を有することを特徴とする。さらには、極細繊維の繊度が0.0001〜0.05dtexであることや、複合層が2層以上の複層構造であり、各層の高分子弾性体(B)の基体層側が高分子弾性体(B1)、被覆層側が高分子弾性体(B2)からなること、さらには高分子弾性体(B2)がシリコン変性ポリウレタンであることが好ましい。
【0006】
また被覆層が2層以上の複層構造であり、かつ被覆層の表面側の層が粘着剤を含むことが好ましく、さらには粘着剤が、液状ゴム又はロジン樹脂であることや、その液状ゴムが、分子量800〜5000の合成液状ゴムであることが好ましい。
【0007】
表面の凹凸形状は、凸部頂上部の平均面積が0.5〜7mmであり、凹凸部の高低差が0.1mm以上であることが好ましく、また凹凸の側面部の貫通孔が1つの凸部あたり50個以上であることが好ましい。
【0008】
もう一つの本発明の皮革様シート状物の製造方法は、極細繊維と高分子弾性体(A)からなり、その片側表面に極細繊維立毛を有するシート状物に、高分子弾性体(B)からなる溶液を塗布し、エンボスロールにてシート状物表面を凹凸にし、凸部頂上部に高分子弾性体(C)を主とする溶液を塗布することを特徴とする。
【0009】
また別の本発明のボールは、別の本発明の皮革様シート状物をボール用ボディーの表面に貼り付けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、乾燥時とともに、湿潤時のグリッピー性や耐摩耗性にも優れ、かつ汗の過度の吸収、雨水の吸収によるシート状物の重量変化の少ない、特にバスケット、ラグビー、アメリカンフットボール、ハンドボール等の球技ボールに適した皮革様シート状物、その製造方法およびそれらを用いたボールが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の皮革様シート状物は、表面に凹凸を有するシート状物であって、その基体層は極細繊維と高分子弾性体(A)とから構成される。また、基体層には補強する目的で極細繊維以外の通常の繊度の繊維や、織編物からなるスクリムなどを併用することも好ましい。
【0012】
基体層を構成する極細繊維としては合成繊維であることが好ましく、特にはナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン12などのポリアミド繊維、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル繊維であることが好ましい。これらの極細繊維の繊度としては0.0001〜0.05dtexであることが好ましい。繊度が大きい場合、表面の平滑性を得ることが困難になり、面の粗さが商品価値を低下させる傾向にある。また、繊度が小さすぎる場合には工業的に安定して生産することが困難である。
【0013】
このような極細繊維は、例えば溶剤溶解性の異なる2成分以上の繊維形成性高分子重合体からなる海島型複合紡糸繊維、混合紡糸繊維あるいは分割型複合紡糸繊維を作成し、カード、クロスラッパー、ニードルパンチング、加熱プレスなどの工程を経た絡合繊維不織布から、溶剤抽出などで1成分を抽出除去するか、複合繊維を物理的にあるいは化学的手段を用いて分割して極細繊維を形成することができる。例えば極細繊維となる島成分をポリアミド繊維やポリエステル繊維とし、海成分を低密度ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレンなどを選定することが好ましい。
【0014】
このとき極細繊維とともに基体層に用いられる高分子弾性体(A)としては、ポリウレタンエラストマー、ポリウレエタンウレアエラストマー、ポリウレアエラストマー、ポリエステルエラストマー、合成ゴムなどを挙げることが出来るが中でもポリウレタン系エラストマーが好ましい。ポリウレタン系エラストマーとしてはポリエチレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコールなどのポリエーテル系ジオール、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペートなどのエステル系ジオール、ポリブチレンカーボネートジオール、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール、などのカーボネート系ジオール等の分子量800〜4000のポリマージオールと、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン4,4’ジイソシアネート、ヘキサメチレン1,6ジイソシアネート、3,3,5トリメチル5イソシアネート、メチルシクロヘキシルイソシアネートなどのジイソシアネート、エチレングリコール、テトラメチレングリコール、プロピレンジアミン、3,3,5トリメチル5アミノメチルシクロへキシルアミンなどの低分子鎖伸長剤を反応させたものを用いることができる。
【0015】
本発明の基体層は、例えば極細繊維となる前の混合紡糸繊維や複合紡糸繊維からなる繊維質基材に、高分子弾性体(A)の有機溶剤溶液、または水系エマルジョンを含浸し、次に繊維を極細化することなどによって得ることができるが、凹凸をシャープにするためには高分子弾性体(A)はDMFなどの有機溶剤溶液を用い、湿式含浸方法を採用することが好ましい。
【0016】
この時、基体層の高分子弾性体(A)の重量(R)の繊維質基材を構成する繊維の重量(F)に対する比(R/F)が、0.5〜1.5の範囲であることが好ましく、さらには0.6以上、特には0.65以上であることが好ましい。このR/F値が大きい場合には表面の凹凸形状がシャープになり、使用した場合の凹凸の変形が少ない傾向にある。特に円錐台形状エンボス柄などのような深い柄の維持性に好ましく、商品品位の優れたボールの加工が可能となる。R/Fを向上させるためには、含浸液中の高分子弾性体濃度を高くする必要があり、粘度が上昇する傾向にあるが、含浸液中で繊維質基材を複数のロールでニップするなどの強制的に圧入する方法を採用することで得ることが出来る。
【0017】
本発明のシート状物においてはその基体層の片側表面に、基体層を構成する繊維に連続した立毛状の極細繊維とその極細繊維に接合した高分子弾性体(B)とからなる複合層が存在することを必須とする。高分子弾性体(B)としては、前述した高分子弾性体(A)と同様なものを用いることができるが、ポリカーボネート系ポリウレタンであることが好ましい。立毛状の極細繊維は均質であることが好ましく、立毛にムラがない、例えば公知のスウェード調、ヌバック調の人工皮革と同様なものを基材として用いることが好ましい。
【0018】
また、この複合層が2層以上の複層構造であり、各層の高分子弾性体(B)の基体層側が高分子弾性体(B1)、被覆層側が高分子弾性体(B2)からなるものであることが好ましい。基体層側の高分子弾性体(B1)としては、特にはポリカーボネート系ソフトセグメントを持つ、脂肪族、脂環族、芳香族系のイソシアネートを用いたポリカーボネート系ポリウレタンであることが好ましく、その100%伸長モジュラスは60〜150kg/cm、さらには80〜130kg/cmであることが好ましい。固形分付着量としては1.5〜5g/mの範囲であることが好ましい。
【0019】
被覆層側の高分子弾性体(B2)も、ポリカーボネート系ソフトセグメントを持つ、脂肪族、脂環族、芳香族系のイソシアネートを用いたポリカーボネート系ポリウレタンであることが好ましいが、さらにはポリウレタン重量の5〜30重量%、さらには10〜20重量%のシリコンセグメントを導入したシリコン変性ポリウレタンであることが好ましい。ここでシリコン変性ポリウレタンを用いた場合、より凹凸が明確になり柄のシャープ性、維持性が良く、独特のぬめり感や触感を得ることができる。高分子弾性体(B2)の100%伸長モジュラスとしては60〜180kg/cm、さらには80〜130kg/cmであることが好ましい。固形分付着量としては5〜25g/mの範囲、さらには10〜20g/mの範囲であることが好ましい。
【0020】
本発明のシート状物は、その表面凹凸を構成する凸部頂上部には高分子弾性体(C)を主とする被覆層が存在し、かつ凸部頂上部と凹部谷底部の間の側面部には表面側から基体層へ達する貫通孔を有すること必須とする。さらには、被覆層が2層以上の複層構造であり、かつ被覆層の最表面側の層が粘着剤を含むことが好ましく、その粘着剤が、液状ゴム又はロジン樹脂であることや、液状ゴムが、分子量800〜5000の合成液状ゴムであることが好ましい。高分子弾性体(C)を主とする被覆層は、凸部頂上部以外の部分にも、表面から基体に達する貫通孔を完全に塞がない場合には存在しても良いが、基本的には無いことが好ましい。
【0021】
このような高分子弾性体(C)としては、先に述べた高分子弾性体(B)と同様なものを用いることができ、分子量800〜4000のポリカーボネートジオール、ポリエーテルジオール、ポリエステルジオールの単独あるいは2種以上の混合ジオールと、脂肪族、脂環族、芳香族系のイソシアネートを用いたポリウレタンエラストマーであることが好ましい。また100%伸長モジュラスとしては60〜130kg/cm、さらには80〜110kg/cmであることが好ましい。100%伸長応力が小さい場合には、グリッピー性は向上するが耐摩耗性が低下する傾向にあり、逆に100%伸長応力が大きい場合には、耐摩耗性は向上するがグリッピー性が低下する傾向にある。さらにはこの高分子弾性体(C)も2種以上の高分子弾性体から構成された複層構造であることが好ましく、その場合には高分子弾性体(C)も、複合層の高分子弾性体(B1)、(B2)と同様の成分を基体層側から高分子弾性体(C1)、(C2)として有することが好ましい。
【0022】
被覆層の表面側の層を構成する高分子弾性体(C2)は、通常のポリウレタンエラストマーであっても良いが、さらにはポリウレタン重量の5〜30重量%、さらには10〜20重量%のシリコンセグメントを導入したシリコン変性ポリウレタンであることが好ましく、特にはシリコン変性のポリカーボネート系脂肪族または脂環族の無黄変ポリウレタンエラストマーであることが好ましい。ここでこのようなシリコン変性ポリウレタンを用いた場合、耐摩耗性が向上し、独特のぬめり感や触感を得ることができる。
【0023】
また、被覆層の最表面側の層には粘着剤を含むことが好ましい。この場合、基体層側から、高分子弾性体(C1)が、高分子弾性体(C2)、及び粘着剤を含む高分子弾性体(C2)の3層以上の構造からなることが好ましい。これらの固形分付着量としては基体層側から高分子弾性体(C1)が1.5〜5g/mの範囲、高分子弾性体(C2)が(C1)と同量かそれより多い2〜8g/mの範囲、粘着剤を含む高分子弾性体(C2)が4〜20g/mの範囲であることが好ましい。
【0024】
この最表面側の層の高分子弾性体(C)に好ましく含まれる粘着剤としてはロジン樹脂や液状ゴムなどが挙げられ、単独または混合して用いることができる。なかでも液状ゴムである分子量1000〜4000の低分子量合成ゴムが好ましく、低分子量ポリブタジエン、低分子量アクリロニトリル・ブタジエン共重合物、低分子量ポリジシクロペンタジエンなどが特に好ましい。また、表面層における粘着剤の含有量は、高分子弾性体100重量部に対して5〜100重量部であることが好ましく、さらには10部〜85部、最も好ましくは20部〜70部である。添加量は要求される触感、グリッピー性のレベルで最適量を決める必要があるが、添加量が多すぎる場合には被膜層の強度低下、耐摩耗性の不足などを生じる傾向にある。またこの表皮側の層にシリカ等の艶調整剤、着色顔料、安定剤をブレンドすることも好ましく、表面のつやなどの質感を調整することができる。
【0025】
本発明のシート状物は表面に凹凸を有するものであるが、その凸部頂上部の平均面積が0.5〜7mmであり、凹凸部の高低差が0.1mm以上であることが好ましい。また、凹凸の側面部の貫通孔が1つの凸部あたり50個以上であることが好ましい。
【0026】
このような凹凸は、特に手でボールを把持して扱う、アメリカンフットボールやハンドボールに用いる場合に有効である。さらには該凹凸の凸部頂上部の合計面積がシート面積の20〜70%の割合で存在することが好ましく、その高低差は、0.15〜1.2mmであることが、特には0.2〜1.0mmであることがもっとも好ましい。ここでシート状物の面積とはシート状物自体の面積である表面側から見た時の投影面積をさし、表面に存在する凹凸を考慮した表面積とは異なるものである。ここで頂上部とは、表皮材の側面から凹凸を観察したときに、凸部頂上と谷底の距離の、頂上から1/10の部分を頂上部とする。このように凹凸部を有することにより、グリッピー性と耐久性が高い次元で達成される。
【0027】
さらに、グリッピー性を増加させるためには凸部が独立していることが好ましい。独立した凸部の各頂上部の平均面積としては0.5〜7mmであることが好ましく、さらには1.5〜4.0mmであることが好ましい。またその個数としては1cm当たり5〜100個程度であることが好ましい。さらには10〜60個/cmであることが好ましい。
【0028】
独立した凸部の形状としては、耐久性の面などから特に円錐台形状であることが好ましく、さらには円錐台形状凸部の頂上部の直径の大きさは0.8〜3.0mm、好ましくは1.2〜2.5mmであることが好ましい。
【0029】
本発明のシート状物は、凸部頂上部と凹部谷底部の間の側面部には表面側から基体層へ達する貫通孔を有することを必須とするが、さらには、一つの凸部あたり50個以上、特には100個以上の貫通孔が存在することが好ましい。また、耐防汚性などの観点からは1000個以下であることが好ましい。さらに側面部のなかでも頂上部に近いショルダー部分の孔の個数が多いことが好ましい。
【0030】
また孔の直径は0.5〜300μmであることが好ましく、さらには1〜200μm、特には100μm以下であることが好ましい。このような凹凸を有する本発明のシート状物は、側面部に多数の孔が存在することにより、耐久性を低下させずに湿潤時のグリッピー性を向上させることができる。
【0031】
ここで凸部頂上部、凹部谷底部、その間の側面部とは、表皮材の側面から凹凸を観察したときに、凸部頂上と凹部谷底の高低差の、頂上から1/10の部分を頂上部、谷底から2/10の部分を谷底部、その間の頂上から1/10〜8/10の部分を側面部とする。
【0032】
さらに凹凸を有するボール用表皮材では、側面部以外の凹部の谷底部にも孔が存在することが好ましい。
【0033】
本発明の皮革様シート状物は、このような開孔部が存在することにより、湿潤時にその表面の水膜が吸収され、湿潤時のグリッピー性を向上させることができ、また過度の吸水を抑制することにより、ボールを作成し使用した場合の重量増を効果的に抑えることが出来る。本発明のシート状物の吸水時間としては、240秒以上であることが好ましく、さらには300〜600秒の範囲であることが好ましい。
【0034】
このような本発明の皮革様シート状物は、例えば次のような皮革様シート状物の製造方法によって得ることができる。すなわち、極細繊維と高分子弾性体(A)からなり、その片側表面に極細繊維立毛を有するシート状物に、高分子弾性体(B)からなる溶液を塗布し、エンボスロールにてシート状物表面を凹凸にし、凸部頂上部に高分子弾性体(C)を主とする溶液を塗布する方法である。
【0035】
本発明の製造方法に用いるその片側表面に極細繊維立毛を有するシート状物としては、通常スウェード調と称される人工皮革を用いることができる。このようなシート状物は極細繊維形成性の海島あるいは分割型の、混合繊維あるいは複合繊維を用いた繊維集合体と高分子弾性体から構成されており、そしてその片側表面の極細繊維立毛は、極細繊維と高分子弾性体からなるシート状物の表面をサンドペーパー等で研磨することによって得ることができる。より具体的には例えば海島型の混合紡糸繊維からなる不織布にポリウレタン樹脂を含浸した繊維質基材の海成分を溶解除去することによって、繊維を極細化してシート状物を得、その表面を高分子弾性体の溶剤でかつ繊維の非溶剤でグラビア処理するなどして固定化し、その表面を研磨して極細繊維立毛を得ることが好ましい。例えば高分子弾性体がジメチルホルムアミド(以下DMFと記す)溶解性の湿式成形用のポリウレタンであった場合、80〜320メッシュのグラビアロールでDMFを塗布、乾燥し、極細繊維の根元を固定した後、240〜640メッシュのサンドペーパーを装着した研磨機で研磨を行うことが好ましい。
【0036】
ここでこの極細繊維立毛はその立毛の長さが0.01〜0.2mm、好ましくは0.1mm以下、特に好ましくは0.08mm以下である均一な立毛であることが好ましい。このような立毛は、極細繊維と高分子弾性体からなるシートの表面の極細繊維固定方法や、研磨条件などにより得ることができる。
【0037】
次に本発明の製造方法では、その片側表面に極細繊維立毛を有するシート状物に、高分子弾性体(B)からなる溶液を塗布することを必須とする。ここで高分子弾性体(B)としては前述した高分子弾性体(B)と同じ物であるが、この下塗り用の溶液は濃度8〜15重量%、粘度100〜200cpsの範囲であることが適当である。
【0038】
さらにこの高分子弾性体(B)の塗布は、極細繊維と高分子弾性体(B)からなる複合層は、前述した高分子弾性体(B1)と高分子弾性体(B2)の複層構造であることが好ましい。そのためには、高分子弾性体(B1)からなる溶液を塗布後、さらに高分子弾性体(B2)からなる溶液を塗布することが好ましい。この時高分子弾性体(B1)からなる溶液は、濃度8〜12重量%、粘度100〜180cpsであることが好ましく、塗布量としては20〜50g/m、さらには25〜35g/mの範囲であることが好ましい。例えば極細繊維立毛を有するシート状物に、50〜80メッシュのグラビアロールで1〜2ロール分グラビア塗布することによって得ることができる。また、高分子弾性体(B2)からなる溶液は、濃度8〜15重量%、粘度100〜250cpsであることが好ましく、塗布量としては100〜180g/mさらには160g/m以下の範囲であることが好ましい。高分子弾性体(B1)の塗布、乾燥後に70〜150メッシュのグラビアロールで2〜8ロール分、さらに好ましくは4〜6ロール分グラビア塗布することによって得ることができる。
【0039】
そして、本発明の皮革様シート状物の製造方法では高分子弾性体(B)からなる溶液を塗布した後、エンボスロールにてシート状物表面を凹凸にする。凹凸の柄としては、特にバスケットボール、アメリカンフットボール用には円錐台形状の凸部を有するものが好ましい。このように凹凸を有するエンボス柄を付与するには、目的とするシート状物の表面柄と逆の刻印を彫ったエンボスロールを用いて、シート状物をエンボスロールとバッキングロールとの間でプレスすることにより実施することができる。さらには金型の凹凸部の高低差としては0.2〜1.5mmであることが、もっとも好ましくは0.3〜1.0mmであることが好ましい。
【0040】
0.1mm以上の凹凸部を有する金型でエンボスすることにより、その凹凸の斜面となる側面の部分が伸ばされることにより、その表皮層の表面に孔を開けることができる。独立した凸部の頂上部から側面部にかけてシート状物には熱とともに大きなせん断力が働き、シート状物表面には表面側から基体層に達する貫通孔が発生する。さらにはその金型は、独立した凹部を有することが好ましく、さらには円錐台形状凸部と逆の雌型金型であることが好ましい。凸部の頂上部の大きさは、金型の形状を調整することで行うことが出来、凹凸部の高さは、金型の深さとエンボス加工時の圧力、温度、時間を調整して行うことが出来る。
【0041】
さらには、そのエンボスの条件は、コート層の高分子弾性体の軟化温度マイナス40℃〜プラス20℃であることが好ましく、さらにはマイナス20℃〜プラス10℃の温度範囲でシート状物をプレスすることが好ましい。例えば、高分子弾性体(B)として軟化温度180℃のシリコン変性ポリカーボネート系脂環族無黄変ポリウレタンを用いた場合、エンボスロール表面温度は140〜200℃の範囲が好ましく、特には180℃近辺が最適である。
【0042】
本発明の製造方法では、シート状物のエンボスによって生じた凸部頂上部には高分子弾性体(C)を主とする溶液を塗布する。ここで高分子弾性体(C)としては前述した高分子弾性体(C)と同じ物であるが、この上塗り用の溶液は濃度8〜13重量%、粘度100〜180cpsの範囲であることが適当である。この高分子弾性体(C)を主とする層により、独立した凸部の表面層の耐摩耗性の確保、汚れの付着防止、過度の吸水性の抑制、触感の改良(ぬめり感の付与)などを行うことができる。さらに顔料等を用いてこの塗布により独立した凸部の頂上部の色を変化させた場合、下塗りの高分子弾性体(B)からなる層との色調のコントラストを付け、これによりボールとしての品位を高めることができる。
【0043】
さらにこの高分子弾性体(C)の塗布は、この上塗りによる被覆層が2層以上の複層構造となることが好ましく、前述した高分子弾性体(C1)からなる溶液を塗布後、同量あるいはそれより多い量の高分子弾性体(C2)からなる溶液を塗布することが好ましい。さらには最表層に高分子弾性体(C)を主とし、粘着剤を含む溶液を塗布することが好ましい。この時、先に塗布する高分子弾性体(C1)(C2)からなる溶液は、濃度8〜13重量%、粘度100〜180cpsであることが好ましく、塗布量としては20〜40g/mの範囲であることが好ましい。例えばシート状物の凸部頂上部に、70〜110メッシュのグラビアロールで各1〜4ロール分グラビア塗布することによって得ることができる。後に塗布する高分子弾性体(C)を主とし粘着剤を含む溶液は、濃度8〜13重量%、粘度100〜180cpsであることが好ましく、塗布量としては20〜80g/mの範囲であることが好ましい。例えばシート状物の凸部頂上部に、グラビアロールで2〜6ロール分グラビア塗布することによって得ることができる。
【0044】
また、本発明の凹凸の頂上部に高分子弾性体からなる被覆層を塗布する場合には、円錐台形等の凸部側面部に形成させた貫通孔を閉塞しないように塗布することが必要である。表面に大きな凹凸が発生している本発明で用いるシート状物の場合、その側面に存在する開孔部は、頂上部、さらに谷部と比べ閉塞されにくいものの、シート厚さの70〜98%のクリアランスでグラビア塗布する方法をとることが好ましい。高分子弾性体を凸部の頂上部のみに塗布することにより、表面耐磨耗性を向上させ、汚れをつきにくい表皮材とすることが可能となった。
【0045】
そしてもう一つの本発明は、このようにして得られた皮革様シート状物をボール用ボディーに貼り付けたボールである。そのように、皮革様シート状物を圧力空気を入れ膨らませたボデイーに張り合わせることにより球技用ボールとすることが出来、バスケットボール、ラグビーボール、アメリカンフットボール、ハンドボール、等に好適に用いられる。
【実施例】
【0046】
以下本発明を実施例で詳細に説明する。なお本発明は実施例の範囲に制限されるものではなく、また特に断りのない限り部または%は、重量部、重量%をしめす。本発明の測定項目は下記により測定したものである。
【0047】
(1)伸長応力
JIS K 6301 2号型ダンベル試験片の厚さ0.1mmのフィルムを試料とし、恒速伸長試験機で伸長速度100%/minの条件で測定した。
【0048】
(2)乾摩擦係数
温度23℃、相対湿度60%の条件で24時間調湿した、表面に凸部を有する表皮材(幅 2.5cm、 長さ 5cm)を、ステンレス平滑板に表面を接触させて置き、500gの荷重をかけ、速度2m/minで動かしたときの摩擦力(F)を測定し、乾摩擦係数μd=F/500 をもとめた。なお、摩擦力(F)は試験片を動かしている時の平均値である。
【0049】
(3)湿潤摩擦係数
表面に凸部を有する表皮材(幅 2.5cm、長さ 5cm)の試験片を23℃の水に24時間つけた後、表面付着水をテイッシュペーパーでふき取り、ステンレス平滑板に表面を接触させて置き、500gの荷重をかけ、速度2m/minで動かしたときの摩擦力(F)(単位;g)を測定し、湿潤摩擦係数μw=F/500 を求めた。なお、摩擦力(F)は試験片を動かしている時の平均値である。
【0050】
(4)耐摩耗性
JIS L1079 6.15.3 C法(テーバー磨耗試験)に準拠して測定する。磨耗輪には280メッシュのサンドペーパーを装着したものを用い、加重は500gとし、100回磨耗させた後の試験片の表面損傷状態を、下記ランクで評価した。
5級:色変化も少なく目立たない。
4級:表面被覆層の損傷のみで外観上実用的には問題ない。
3級:多孔質コート層の一部が損傷している。(実用的には許容限界)
2級:多孔質コート層がかなり損傷し、一部基材層の繊維が露出。
1級:基材層もかなり損傷し、繊維等が露出。
【0051】
(5)凹凸部の頂上部、谷底部、側面部の孔数及びサイズ
表皮材の表面に存在する凸部頂上部、凹部谷底部、その間の側面部とは、表皮材の側面から凹凸を観察したときに、凸部頂上と凹部谷底の高低差の、頂上から1/10の部分を頂上部、谷底から2/10の部分を谷底部、その間の頂上から1/10〜8/10の部分を側面部とする。
実施例では下記のようにして、各凹凸における孔数とサイズを測定し、その平均値に1cm当たりの凸部の数を乗じて計算した。
凸部頂上部の孔数とサイズは、走査型電子顕微鏡により200倍で写真撮影し、異なる5点の凸部の頂上部について孔数、孔サイズを測定し0.5〜50μmの孔数とその平均値を求め表示した。
谷底部の孔数とサイズは、表皮材の谷底部に焦点を合わせ、走査型顕微鏡により200倍で写真撮影し、孔数、孔サイズを測定し0.5〜50μmの孔数とその平均値を求め、1cm当たりに換算して表示した。また独立した凸部を有する場合は、異なる5点の凸部周辺で測定し平均値を出した。
側面部の孔数とサイズの測定は、側面は立体的な凸部の側面となるので焦点がぼけるのを防ぐために、凸部を4等分又はそれ以上に縦割りにカットし、それぞれの凸部の側表面を、走査型電子顕微鏡により200倍で写真撮影したものを用いた。異なる5点の凸部について、孔数、孔サイズを測定し0.5〜50μmの孔数とその平均値を求め表示した。
【0052】
(6)基体層の立毛長さ
表面の立毛面を順目に毛慣らしし、走査型電子顕微鏡にて200倍の倍率で撮影し、表面の立毛の長さを10個について測定し、平均長さを求めた。
【0053】
(7)エンボスのシャープさ
エンボスを行った皮革様シート状物30cm四方のサンプルのエンボス柄と、エンボスロールの柄とを比較して評価した。
5級:柄がきれいに再現されており、品位が高い。
4級:再現性は良いが、品位が劣る。
3級:実用上許容範囲である。
2級:柄の再現性が不十分。
1級:柄の再現性に劣る。
【0054】
(8)エンボスの維持性
皮革様シート状物を用いて作成したバスケットボールを、10ゲームの試合に使用し、その後、エンボス柄の状態を5段階にて評価した。5級が、非常に良く、3級が、実用許容範囲で、1級が、不良である。
【0055】
(9)汚れにくさ
皮革様シート状物を用いて作成したバスケットボールを、10ゲームの試合に使用し、その後、ボールの汚れ状態を下記により評価した。
5級:汚れが無く良好。
4級:若干色差があるが問題ない。
3級:汚れがあるが実用上許容範囲である。
2級:汚れやや大きい。
1級:汚れ大、拭いても落ちにくい。
【0056】
(10)グリッピー性、触感
皮革様シート状物を用いて作成したバスケットボールを、乾燥状態、水に濡らした湿潤状態にし、選手にグリッピー性を評価させ、5段階にて評価した。5級が、非常に良く、3級が、実用許容範囲で、1級が、不良である。
【0057】
(11)吸水時間
皮革様シート状物の凸部頂上部に、高さ10mmの距離より、ビュウレットを用いて1滴(0.02cc)を滴下し、滴下直後から吸水するまでの時間を測定した。
【0058】
[実施例1]
(極細繊維と高分子弾性体からなる基体層)
ナイロン―6と低密度ポリエチレンを50/50で混合、エクストルーダーで溶融、混合し、290℃で混合紡糸し延伸、油剤処理、カットを行い4.5dtex、51mmの短繊維を得た。これをカード、クロスラッパー、ニードルロッカー、カレンダー工程を通し、重さ480g/m、厚さ1.6mm、見掛け密度0.3g/cmの絡合繊維質基材である不織布を得た。
【0059】
一方、含浸用の高分子弾性体(A)として、分子量2020のポリテトラメチレンエーテルグリコール、分子量1980のポリヘキサメチレンカーボネートジオールとの混合ジオール、ジフェニルメタン4,4’ジイソシアネート、エチレングリコール、をジメチルホルムアミドを溶剤として反応させた100%伸長応力60kg/cm、熱軟化温度180℃のポリウレタンエラストマー(固形分20%)を作成した。
【0060】
このポリウレタンエラストマー溶液 100部、多孔調整剤(ポリオキシエチレン変性シリコン:FG−10松本油脂製薬(株)製0.5部、低分子量セルロースプロピオネート0.5部、茶色顔料0.5部、を混合し基材含浸用の高分子弾性体溶液(含浸液)とした。
【0061】
次いで前記の繊維質基材を含浸液に浸漬、液中ニップロールを繰り返し通して含浸液と基材中の空気の置換を十分に行い、その後基材厚さの96%でスクイズし10%のDMF(ジメチルホルムアミド)を含有する20℃の凝固水中で凝固させ水洗乾燥した。得られたシートを90℃の熱トルエン中で圧縮、緩和を繰り返し混合紡糸繊維中の海成分であるポリエチレンを抽出、次いでこれを95℃の熱水中に浸漬、トルエンを共沸除去した。
【0062】
このものは平均繊度が0.003dtexの極細繊維からなる繊維質基材でナイロン−6繊維(F):含浸樹脂(R)の重量比は45:55で繊維重量に対する樹脂量比率(R/F)は1.22で繊維成分に対する樹脂充填比率が高いものを得た。
【0063】
(皮革様シート状物)
得られた基材の表面にDMFを200、及び180メッシュのグラビアロールで約35g/m塗布した。次いで600メッシュのサンドペーパーを装着した研磨機でバフし平均繊度0.003dtex立毛長0.06mmの極細繊維立毛を有したヌバック調シート状物をえた。
【0064】
次いで高分子弾性体(B1)を含む下塗り用樹脂(1)溶液として下記の塗布液を作成した。
下塗り用樹脂(1)
ポリカーボネート系脂環族無黄変ポリウレタン(100%伸長応力130kg/cm、固形分20%):100部
混合溶剤(MEK:IPA:DMF=5:4:1):100部
着色顔料(茶色):0.6部
【0065】
次いで高分子弾性体(B2)を含む下塗り用樹脂(2)溶液として下記の塗布液を作成した。
下塗り用樹脂(2)
シリコン変性ポリカーボネート系脂環族無黄変ポリウレタン(100%伸長応力65kg/cm、固形分20%):100部
混合溶剤(MEK:IPA:DMF=5:4:1):100部
着色顔料(茶色):0.6部
【0066】
下塗り樹脂(1)は70メッシュロール、1ロールで35g/m塗布し、下塗り樹脂(2)は70メッシュ3ロール、及び110メッシュ1ロールで計130g/m塗布した。
【0067】
次に下塗り終了後のシート状物の表面を、スチームを封入したエンボスロールを装着したエンボス機を用いロール表面温度180℃、押し圧350kg/m、処理速度1.5m/minで処理し、独立した凸部を有するシート状物を得た。エンボスロールとしては、円錐台形状の独立した凹部を24個/cm有し、転写した後の凸部の頂上部の最大径が1.8mm、凸部の裾部分の最大径が2.3mm、円錐台形の高さが0.6mmの形状の雌型金型を有する熱媒加熱可能なロールを作成し、使用した。
【0068】
エンボス後のシート状物は、円錐台形状凸部を持ち、その凸部の側面には1〜200μmの開孔が一つの凸部当たり平均500コ存在していた。またその開孔は側面の凸部側のショルダー部に多い分布を示していた。凸部頂上部には貫通孔は存在していなかった。
【0069】
この後、エンボスの頂上部にボールとしての品位と意匠性を付与するためにエンボス谷部の色とコントラストを持った塗料を塗布した。
【0070】
このとき高分子弾性体(C)として上塗り(1)に用いた樹脂は、下塗り塗料(1)で用いたポリカーボネート系脂環族無黄変ポリウレタン(100%伸長応力130kg/cm、固形分20%)であった。上塗り塗料(1)としては、下塗り塗料(1)の着色顔料に濃茶顔料を加えた樹脂濃度11%の塗料液を用い、WET目付け25g/mとなるように110メッシュのグラビアロールで1回塗布した。この後上塗り塗料(2)として下塗り塗料(2)に用いたシリコン変性カーボネート系無黄変ポリウレタンエラストマーの13%溶液を40g/m塗布した。
【0071】
次にボールとしての触感、グリッピー性、汚れやすさ、耐磨耗性などの主要特性を満たした表面に仕上げるためにグリッピー向上剤を含む上塗り塗料(3)を作成し、70メッシュのグラビアロールで3回塗布し膜状に60g/m塗布、乾燥した。
【0072】
上塗り塗料(3)
シリコン変性ポリカーボネート系無黄変ポリウレタン樹脂(100%伸長応力65kg/cm、固形分20%):100部
低分子量ポリブタジエン(分子量2000):15部
シリカ:0.3部
混合溶剤(MEK:IPA:DMF=5:4:1):343部
【0073】
得られた皮革様シート状物は吸水時間が300秒と適切であることにより、湿潤時のグリッピー性が充分に優れていた。この皮革様シート状物をアメリカンフットボールに加工し評価した結果、汗の付着状態でもすべりが少なくグリッピー性がよく、過度に吸水が起こらず、試合中のボールの重量増が少ないものであり、耐磨耗性も問題なかった。
得られた皮革様シート状物の基材特性を表1、表2に示した。
【0074】
[実施例2]
実施例1の基材用の含浸液をDMFで希釈した含浸液を用いた以外は、実施例1と同様にして皮革様シート状物を作成した。得られた基材層のR/F(樹脂/繊維比率)は実施例1の1.22に対し0.66であった。得られたシートは実施例1のものに比較するとエンボスのシャープ性に若干の差があるがボール材料として実用的に問題なく耐磨耗性、触感、グリッピー性に優れたものであった。得られた皮革様シート状物の基材特性を表1、表2に併せて示した。
【0075】
[実施例3]
実施例1で用いた混合紡糸繊維の代わりにナイロン−6/低密度ポリエチレンを50/50で混合、エクストルーダーで溶融し、パック内滞留時間を実施例1の1/3と短くした紡糸を行った。得られた混合紡糸繊維の島成分のナイロンー6の平均繊度は0.0005dtexであった。この繊維を用い実施例1と同様の加工を行った。得られた皮革様シート状物はボール材料として表面の品位があり、耐磨耗性、グリッピー性にとんでいた。得られた皮革様シート状物の基材特性を表1、表2に併せて示した。
【0076】
[実施例4]
実施例1の下塗り樹脂(2)に70メッシュ、2ロールを追加し、下塗り用樹脂(2)の塗布量を固形分で13g/mから18g/mに増加させ、その他の条件は実施例1に準拠して実施した。得られたシートは表面平滑性に富み、耐磨耗性もよく吸水速度も過大でなく要求特性を満たしていた。得られた皮革様シート状物の基材特性を表1、表2に併せて示した。
【0077】
[実施例5]
含浸液として分子量2000のポリへキサメチレンカーボネートジオールとジフェニルメタン4,4’ジイソシアネート、エチレングリコールとをジメチルホルムアミドを溶媒として反応させポリウレタンエラストマー(固形分濃度30%、100%伸長応力80kg/cm、熱軟化温度185℃)を得た。
【0078】
得られたポリウレタンエラストマーをDMFで希釈し、ポリウレタンを22%含有する含浸液を作成、この含浸液中で実施例1で使用した混合紡糸繊維不織布を浸漬し金属ロールで5回ニップ、緩和を繰り返した。これを実施例1と同様に95℃の熱トルエン中に浸漬、表面に刻印をつけたステンレス製ニップロールで圧縮、緩和を繰り返しポリエチレンを抽出除去、これを100℃の熱水中に浸漬トルエンを共沸除去した。このシートは繊維重量に対して1.4倍の含浸樹脂が充填されていた。
【0079】
このシートを用いて実施例と同様に加工処理を行い皮革様シート状物に加工した。得られたボール原反用の皮革様シート状物は、エンボス柄のシャープさ、ボールに加工した後に実用テストを繰り返したときの柄の維持性も非常に高く、触感、グリッピー性、が優れているにもかかわらず、吸水によるプレー中での重量変化も小さく、アメリカンフットボール用、バスケットボール用の表皮材として特に優れていた。得られた皮革様シート状物の基材特性を表1、表2に併せて示した。
【0080】
【表1】

【0081】
【表2】

【0082】
[比較例1]
実施例1で使用した混合紡糸繊維の代わりに0.2dtexのナイロンー6繊維が親糸1本中に19本存在する、海成分がポリエチレンである複合繊維(繊度4.5dtex、長さ51mm)を作成した。他の条件は実施例1に準拠し、シート状物を作成した。その結果を表1に示した。得られたシート状物は下塗り塗液で表面の立毛繊維が毛羽伏せ出来ず加工後も毛羽立ってあれておりボールとした後も品位に欠けていた。得られた皮革様シート状物の基材特性を表3、表4に示した。
【0083】
[比較例2]
実施例1で使用した含浸液の濃度を14%とした(ポリウレタンエラストマー20%液;100部、DMF;42.9部とする)以外は実施例1の条件に準拠し含浸基材、及び皮革様シート状物を作成した。得られた基材は繊維に対する樹脂比率が0.26と低く、最終的なシート状物のエンボス柄のシャープさに欠け、使用過程での柄の変形が大きくボール材料としては品位が劣っていた。得られた皮革様シート状物の基材特性を表3、表4に併せて示した。
【0084】
[比較例3]
実施例1でバフして得た立毛シートを下塗り樹脂の塗布を行うことなくバスケットボール用のエンボスを行った後、上塗り樹脂を塗布せずにグリッピー向上剤を含む仕上げ樹脂を40メッシュのグラビア刻印ロールで1回塗布した。このものは立毛面に樹脂皮膜が形成されておらず汚れやすく耐磨耗性も不十分であった。得られた皮革様シート状物の基材特性を表3、表4に併せて示した。
【0085】
[比較例4]
実施例1で得られた混合紡糸繊維から成る不織布に含浸樹脂を含浸後、含浸樹脂と同じ組成のポリウレタンエラストマーの15%溶液を基材表面に再塗布し湿式凝固を行い、表面にポリウレタン湿式多孔層を有するシートを得た。
このシートをバスケットがらのエンボスロールで表面温度160℃でプレスし独立した凸部を有するシートを得た。
エンボス後のシートは円錐台形状の凸部を持ち、凸部の側面には1〜20μmの開孔が1凸部あたり、平均2000個存在していた。
【0086】
ついで多孔層と同じポリウレタン樹脂組成のポリウレタンエラストマー100部,MEK:IPA:DMF=5:4:1の混合溶剤 200部、茶色顔料 1部、を混合、濃度10.3%、粘度140cpsの塗布液を作成、先に作成したエンボス済み原反にその頂上部に塗布した。
【0087】
更にこの被覆樹脂100部に同じ混合溶剤343部、茶系顔料0.6部、分子量2000のポリブタジエン、15部、シリカ 0.3部 を混合、溶解し粘着剤を含む被覆層用塗布液を塗布した。
【0088】
得られた皮革様シートは耐磨耗性、グリッピー性などはよいがボールとしたときの触感はまだ十分ではなかった。得られた皮革様シート状物の基材特性を表3、表4に併せて示した。
【0089】
【表3】

【0090】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に凹凸を有するシート状物であって、極細繊維と高分子弾性体(A)とからなる基体層の片側表面に、基体層を構成する繊維に連続した立毛状の極細繊維とその極細繊維に接合した高分子弾性体(B)とからなる複合層が存在し、さらにシート状物表面の凸部頂上部には高分子弾性体(C)を主とする被覆層が存在し、かつ凸部頂上部と凹部谷底部の間の側面部には表面側から基体層へ達する貫通孔を有することを特徴とする皮革様シート状物。
【請求項2】
極細繊維の繊度が0.0001〜0.05dtexである請求項1記載の皮革様シート状物。
【請求項3】
基体層の高分子弾性体(A)の重量(R)の不織布を構成する繊維の重量(F)に対する比(R/F)が、0.5〜1.5の範囲である請求項1または2に記載の皮革様シート状物。
【請求項4】
複合層が2層以上の複層構造であり、各層の高分子弾性体(B)の基体層側が高分子弾性体(B1)、被覆層側が高分子弾性体(B2)からなる請求項1〜3のいずれか1項記載の皮革様シート状物。
【請求項5】
高分子弾性体(B2)がシリコン変性ポリウレタンである請求項4記載の皮革様シート状物。
【請求項6】
被覆層が2層以上の複層構造であり、かつ被覆層の表面側の層が粘着剤を含む請求項1〜5のいずれか1項記載の皮革様シート状物。
【請求項7】
粘着剤が、液状ゴム又はロジン樹脂である請求項6記載の皮革様シート状物。
【請求項8】
液状ゴムが、分子量800〜5000の合成液状ゴムである請求項7記載の皮革様シート状物。
【請求項9】
凸部頂上部の平均面積が0.5〜7mmであり、凹凸部の高低差が0.1mm以上である請求項1〜8のいずれか1項記載の皮革様シート状物。
【請求項10】
側面部の貫通孔が1つの凸部あたり50個以上である請求項1〜9のいずれか1項記載の皮革様シート状物。
【請求項11】
極細繊維と高分子弾性体(A)からなり、その片側表面に極細繊維立毛を有するシート状物に、高分子弾性体(B)からなる溶液を塗布し、エンボスロールにてシート状物表面を凹凸にし、凸部頂上部に高分子弾性体(C)を主とする溶液を塗布することを特徴とする皮革様シート状物の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれか1項記載の皮革様シート状物をボール用ボディーの表面に貼り付けたことを特徴とするボール。

【公開番号】特開2006−89863(P2006−89863A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−274776(P2004−274776)
【出願日】平成16年9月22日(2004.9.22)
【出願人】(303000545)帝人コードレ株式会社 (66)
【Fターム(参考)】