説明

皮革様シート状物の製造方法

【課題】極細繊維発生型繊維を用いたアルカリ脱海工程を含む人工皮革の製法において見られる染色時に生じる著しい物性低下を防ぎ、十分実用に耐えうる人工皮革を提供できる製法を提供すること。
【解決手段】主として極細繊維とポリウレタン樹脂からなる皮革様シート状物を製造するにあたり、以下の4工程を含むことを特徴とする皮革様シート状物の製造方法。
(1)アルカリ性水溶液による処理で極細繊維が発生する極細繊維発現型繊維を用いてシートを製造する工程。
(2)上記シートをアルカリ性水溶液で処理し、極細繊維を発生させる工程。
(3)極細繊維を発生せしめた後のシートに、ブロックイソシアネート化合物をシートに付与する工程。
(4)ポリウレタンを付与する工程。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、優れた強力、耐久性、柔軟性を兼ね備えた皮革様シート状物の製造方法に関する。さらに詳しくは、有機溶剤使用を極力抑えた、皮革様シート状物の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、極細繊維の持つ、良好な立毛形成性、セット性、耐湿性、染色堅牢性(湿潤)等を活かした天然皮革に勝るとも劣らない優れた人工皮革が知られている。
【0003】この製法として、まず、極細繊維発生型の複合繊維の1成分に極細繊維形成用成分を用い、他成分に有機溶媒で溶解可能な成分を用いた繊維でフェルトを作成する。次いで、このフェルトに通常有機溶媒としてジメチルホルムアミドを用いたポリウレタン溶液を付与した後、複合繊維の1成分を有機溶剤で溶解除去し極細繊維化するか、極細繊維化後ポリウレタンの溶液を付与する事により目的とするものが得られる。
【0004】しかるに、かかる方法では、複合繊維の1成分を除去するための有機溶媒や、ポリウレタンの有機溶媒を必要とする。かかる溶媒は潜在/顕在的に人体に及ぼす毒性、環境汚染の可能性を有しており、特に近年は地球環境保全の観点からかかる有機溶媒を使用しないですむ新たな製法が強く求められている。このため、極細繊維発生型の複合繊維の溶解除去成分としてアルカリ可溶型のポリマーを用い、この繊維でフェルトを形成後アルカリ水溶液で1成分を溶解除去する手段(以後、アルカリ脱海手段と略称する)が検討されている。
【0005】また、更に一歩進め、ポリウレタンを溶液タイプから、水系エマルションタイプのものを用い、全く有機溶媒を用いないプロセスの検討もなされている。しかるに、アルカリで1成分を溶解除去したフェルトを用いた場合、これにポリウレタンを付与して得られる生機段階では、ポリウレタンと繊維との適度な結合が形成されていて、しっかりした生機が得られるものの、染色するとこの結合が弱まり大幅に風合が柔軟化し、強度が低下し、耐摩耗性、耐疲労性の劣ったものとなり、実用には供し得ないものとなってしまっていた。
【0006】
【本発明が解決しようとしている課題】本発明は、極細繊維発生型繊維を用いたアルカリ脱海工程を含む人工皮革の製法において見られる上記染色時に生じる著しい物性低下を防ぎ、十分実用に耐えうる人工皮革を提供できる製法を提供するにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明は、次の手段により達成される。
【0008】主として極細繊維とポリウレタン樹脂からなる皮革様シート状物を製造するにあたり、以下の4工程を含んだ方法を用いる:(1)アルカリ性水溶液による処理でポリエステル系極細繊維発生型繊維を用いてシートを製造する工程。
(2)上記シートをアルカリ性水溶液で処理し、極細繊維を発生させる工程。
(3)極細繊維を発生せしめた後のシートに、ブロックイソシアネート化合物をシートに付与する工程。
(4)ポリウレタンを付与する工程。
【0009】かかる手段を適宜用いることにより、目的とするものが可能となる。
【0010】また、より効果的にはポリウレタン樹脂が、ブロックイソシアネート化合物と反応可能なカルボキシル基および/または水酸基を有するものを用いるのがよい。更にポリウレタン樹脂として水分散型ポリウレタン樹脂と上記手段とを組み合わせ用いることで完全非有機溶媒系プロセスが可能となる。
【0011】
【発明の実施の形態】以下、本発明につき詳細に説明する。
【0012】本発明で言う極細繊維発生型繊維とは、1成分が耐アルカリ溶解性を有し、他成分がそれよりもアルカリ溶解(分解)性が20倍以上、好ましくは40倍以上なる成分で構成された複合繊維である。
【0013】本発明に係る極細繊維の形態しては、特公昭48−22126号公報等に示されてしるような高分子相互配列体繊維、特公昭51−21041号公報、特公昭60−21904号公報に示された混合紡糸繊維、特開平9−310230号公報等で示された分割型複合繊維等、その他、星雲型、多層型、多島中空型などを基本とし、これらを組み合わせたもの、あるいは変形発展させたものなどであり、1成分を除去もしくは剥離することで0.3dtex以下の極細繊維が得られるものなどから適宜選択可能である。
【0014】かかる繊維を得るに当たってのポリマー成分の組み合わせとしては、極細繊維形成用の耐アルカリ成分には、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、共重合ポリエステル、ナイロン−6、ナイロンー6、6等のポリアミド、共重合ポリアミド等を好ましく用いることが出来る。また、アルカリ溶解性成分には、紡糸性がよくアルカリ水溶液に対する溶解性が高いもので有れば特に限定されず使用可能だが、具体的には、例えば、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなどと、5−ソディウムスルホイソフタル酸、ポリエチレングリコール、ドデヂルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ビスフェノールA化合物、イソフタル酸、アジピン酸、ドデカジオン酸、シクロヘキシルカルボン酸等を5−20モル%共重合した共重合ポリエステルが好ましい。
【0015】これらのうち、特に5−ソディウムスルホイソフタル酸を5〜20モル%共重合したポリエチレンテレフタレート共重合体を用いることが好ましい。またこれら共重合体は二元のみならず三元以上の多元共重合体であってもよい。かかるポリマーを組み合わせで定法に従い極細繊維発生型複合繊維を得る。この繊維を用い、シート化する。シート化するにあたりその形態としては、不織布、織物、編物等、特に限定されることはないが、風合いの点で不織布が好ましい。不織布形成のための手段は定法の手段が全て利用可能であり、また、スパンボンド法、メルトブロー法、フラッシュ紡糸法など紡糸直結で直接シート化する方法など目的に応じ随意可能である。シート化後ニードルパンチ、ウオータージェットパンチなど必要に応じ繊維絡合処理をおこないフェルトを形成する。
【0016】本発明は、かくして得たシート(フェルト)をアルカリで処理する。ここで言うアルカリとは、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、アンモニア塩等をさす。アルカリ脱海は、これらはの水溶液の中にシートを浸すことにより行う。この際、アルカリ水溶液の濃度、温度など状況に応じ適宜調整する事により、より良好な脱海が可能となる。また、アルカリ脱海をシートの表層のみで行わせる事も本発明の1つの好ましい態様である。即ち、極細繊維発生を表層近傍にのみ止める事により、内部が太い繊維として残るため、表面タッチが良く腰の有る独特なシートが得られる。これを達成するに当たってはアルカリ液がシート内部全体に行き渡らないようにするためポリビニルアルコールなどのような増粘剤を加え表面層にコートし表面層の一部のみを溶解するようにする。
【0017】本発明は、アルカリ脱海に先立ち、ポリウレタンと繊維との結合コントロールを行う目的でシートをあらかじめ高鹸化度ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースなどの熱水溶解性ポリマーを付与しておくのも推奨できる。本発明はかくして得られたシートに、ブロックイソシアネート化合物を付与する。ここで言うブロックイソシアネート化合物とは、末端をブロック剤でマスキングしたイソシアネート基を有する化合物を指す。具体的イソシアネート基を有する物としては、トリメチレンジイソシナネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、1,2−プロピレンジイソシアネート、1,2−ブチレンジイソシアネート、2,3―ブチレンジイソシアネート、1,3−ブチレンジイソシアネート、2,4,4−または2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,6−ジイソシアネートメチルカプロエートなどの脂肪族ジイソシアネート、例えば1,3−シクロペンタンジイソシアネート、1,4―シクロヘキサンジイソシナネート、1,3−シクロヘキサンジイソシアネート、3−イソシアナートメチルー3、5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート、4,4‘−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、メチル2,4−シクロヘキサンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサンなどの脂環族ジイソシアネート、例えばm−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、2,2‘−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルジイソシアネート、2,4−または2,6−トリレンジイソシアネートもしくはその混合物、4,4‘−トルイジンジイソシアネート、ジアニシジンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルエーテルジイソシナネートなどの芳香族ジイソシアネート、1,3―または1,4−ビス(1−イソシアネート−1−メチルエチル)ベンゼンもしくはその混合物などの芳香脂肪族ジイソシアネート、トリフェニルメタンー4,4'、4''―トリイソシアネート、1,3,5―トリイソシアナートベンゼン、2,4,6−トリイソシアネートトルエン等の有機テトライソシアネート等のポリイソシアネート単量体、上記ポリイソシアネート単量体から誘導されたダイマー、トリマー、ビューレット、アロフアネートなどの炭酸ガスと上記ポリイソシアネート単量体から得られる2,4,6−オキサジアジントリオン環を有するポリイソシアネートなどが挙げられる。
【0018】これらは単独または二種類以上を組み合わせて用いることができる。本発明の目的から特に好ましいのは、4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−または2,6−トリレンジイソシアネートおよびそれらの混合物である。イソシアネートのブロック剤として、例えばメタノール、エタノール等のアルコール系ブロック剤、フェノール、クレゾールなどのフェノール系ブロック剤、ホルムアルドキシム、アセトアルドキシム、メチルエチルケトキシム、メチルイソブチルケトキシム、シクロヘキサノンオキシム、アセトキシム、ジアセチルモノオキシム、ベンゾフェノンオキシム等のオキシム系ブロック剤、アセトアリニド、ε―カプロラクラム、γ―ブチロラクタム等の酸アミド系ブロック剤、マロン酸ジメチル、アセト酢酸メチル等の活性メチレン系ブロック剤、ブチルメルカプタン等のメルカプタン系ブロック剤、コハン酸イミド、マレイン酸イミド等の尿素系ブロック剤、N-フェニルカルバミン酸フェニル等のカルバミン酸系ブロック剤、ジフェニルアミン、アニリン等のアミン系ブロック剤、エチレンイミン、ポリエチレンイミン等のイミン系ブロック剤等が挙げられる。
【0019】かかるイソシアネートは溶液もしくはエマルションもしくはサスペンションの状態で付与するが、水に分散させる場合に用いる界面活性剤として、例えばドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、コハク酸ジアルキルエステルスルホン酸ナトリウムなどのアニオン系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル等のノニオン系界面活性剤、あるいはラウリルベタイン、ステアリンベタインの塩など、アルキルベタイン型の塩、ラウリル−β―アラニン、ラウリルジ(アミノエチル)グリシン、オクチルジ(アミノエチル)グリシンなどのアミノ酸型の両界面活性剤などがある。これらは単独でまたは二種類以上組み合わせて用いることができる。これらの中では、ノニオン系界面活性剤が好ましい。これらブロックイソシアネート化合物の2種以上を併用することも可能である。
【0020】また、ブロックイソシアネートの解離を調節する目的で触媒を添加してもかまわない。かかる触媒はブロックイソシアネートの解離を促進したい場合は、例えば亜鉛、錫、コバルト、鉄等のハロゲン化塩を用いることができるし、逆に解離を抑制して水分との反応を抑えたい場合には酢酸等の有機酸を用いることができる。
【0021】また、本発明のブロックイソシアネート化合物に用いるブロック剤の種類は、加工条件や加工方法により適宜選択することができるが、解離温度が100℃以下の場合は、ブロックイソシアネート水溶液または水分散液をシートに含浸した後、乾燥する際に、水分がまだ多く残っている状態でブロックが解離し、水と反応してイソシアネート基がつぶれてしまい、十分な効果が得られない場合がある。また、解離温度が200℃以上の場合は、極細繊維の結晶化や劣化が生じ、皮革様シート状物の発色性や物性、風合いを低下せしめる場合がある。従って、ブロックイソシアネートの解離温度は100℃以上200℃以下が好ましい。
【0022】これらブロックイソシアネート化合物の付与量は一概に決め難く状況に応じ適宜加減する必要があるが、一つの目安としてはシートの繊維重量100に対し2から30部となる。
【0023】付与後は適宜加熱し、繊維とブロックイソシアネート化合物との部分的反応を促進しておくか、次にポリウレタンを付与した後に加熱し反応を行わせても良い。加熱はイソシアネートのブロック剤が解離し、さらに、イソシアネート基が繊維および/またはポリウレタンのカルボキシル基/水酸基が反応しうる温度まで上げる必要がある。
【0024】また加熱時間は温度との絡みもありブロックイソシアネートの反応性、最終的には最終製品の物性や風合いを見て決定する必要がある。
【0025】本発明は、かくしてブロックイソシアネート化合物で処理されたシートにポリウレタンを付与する。本発明に使用するポリウレタン樹脂は、基本的にはいずれのものも使用可能だが、以下に示すような、ポリオール成分の一部にポリカーボネート系を含む、高分子ポリオール、ジイソシアネート、鎖伸長剤の各成分を適宜組み合わせて反応させて得られるポリウレタンを用いることが好ましい。ポリカーボネ−トジオールとしては、例えば1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール等のグリコールとジメチルカーボネ−ト、ジフェニルカーボネ−ト、ホスゲンとの反応により得られる化合物が挙げられる。
【0026】他のポリオール成分として、ポリエステルジオール、ポリエーテルジオールなどであり、これらを組み合わせた共重合体でもよい。ポリエステルジオールとして、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチルー1、5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ビスヒドロキシエトキシベンゼン、1,4−シクロヘキサンジオール、1、4−シクロヘキサンジメタノールA,ハイドロキシン等が挙げられ、特に限定されない。ポリエーテルジオールとして、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコールなどが挙げられ、特に限定はされない。上記低分子量活性水素含有物化合物としては、好ましくは分子量300以下に分子内に少なくとも二個以上の活性水素を含有する化合物で、例えばポリエステルポリオールの原料として用いたグリコール成分、グリセリン、トリメチロールチタン、トリメチロールプロパン等のポリヒドロキシ化合物があり、この他にさらにエチレンジアミン、ピペラジン、イソホロンジアミン、ヒドラジン類等のポリアミンが挙げられる。
【0027】ジイソシアネート成分としては、4,4’ジフェニルメタンジイソシアネート以外に2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、3,3−ジメトキシー4、4−フェニレンイソシアネートなどが挙げられ、特にこれらに限定されることはない。上記イソシアネート基と反応し得る活性水素含有化合物として、好ましくは平均分子量300〜10000、より好ましくは500〜5000の高分子活性水素含有化合物と、好ましくは平均分子量300以下の低分子量活性水素含有化合物に分けられる。鎖伸長剤としては特に制限はなく、通常のポリウレタン樹脂の製造に従来から使用されているものでよく、イソシアネート基と反応し得る水素原子を分子中に二個以上含有する分子量400以下の低分子化合物を用いることが好ましい。そのような鎖伸長剤として、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−へキサンジオールなどが挙げられる。これらを単独で使用してもよいし、二種類以上を併用してもよい。
【0028】本発明のポリウレタンは溶液タイプのものでも良いが、有機溶媒使用を最小限に押さえるという観点からするとエマルションタイプのものがより好ましい。エマルション系でも強制乳化型、自己乳化型いずれも良いが、強制乳化型の場合、下記に示すノニオン性界面活性剤をポリウレタン樹脂100重量部に対し、1〜10重量部の割合で含有するのが好ましい。ノニオン性界面活性剤が1部より少ないと、エマルションを長期に保存した場合に、相分離が発生し分散質が分離してクリーム状の沈殿物が発生し、再分散不能な凝固物が発生するといった保存安定性に問題を生じる。ノニオン系界面活性剤が10部より多いと、ゲル化の感度が不足し、加熱してもゲル化に要する時間が多くなる。
【0029】このようなノニオン系界面活性剤としては、親水基として水中でイオン解離しない水酸基やポリエーテル単位などを有している界面活性剤であり、一般に用いられているポリエチレングリコール型ノニオン系界面活性剤を挙げられる。ポリエチレングリコール型ノニオン系界面活性剤としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテルなどの高級アルコールエチレンオキサイド付加物;脂肪酸ポリエチレンオキサイドエステル、多価アルコール脂肪酸エステルエチレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0030】本発明のエマルションポリウレタンは、有機溶剤を含んでいても、有機溶剤を含まない完全水系であってもよいが、環境面および回収工程による生産性低下の面から有機溶剤を含まないものが好ましく使用される。さらに本発明に使用するエマルションポリウレタンに他の樹脂が併用されても感熱ゲル化性、保存安定性を損なうことがない限り、差し支えない。併用可能な樹脂として、例えば、天然ゴム、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、ポリブタジエン等が挙げられる。これらの樹脂は単独で使用しても、複数を併用して使用してもよい。さらに必要に応じて紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色剤等を添加することもできる。
【0031】エマルションポリウレタンを前記繊維基体に付与するに当たっては、基体に希釈したエマルションを含浸、または付与し乾熱凝固する方法、基体にそれを含浸後、湿熱凝固した後、加熱乾燥する方法、およびその組み合わせ、無機塩を溶解させた浴中または熱水浴中へ浸漬し凝固する方法があるが、特に限定することはない。また凝固する際、マイグレーション効果が大きいことから、予めエマルションポリウレタンに無機塩を添加する、あるいは増粘剤等を添加する方法もある。しかしこの処理だけでは、耐水性、かつ耐染色加工性が低いため、前記基体を90℃〜200℃の範囲で、1分から60分、好ましくは120℃〜150℃で2分から20分程度熱処理するのが良い。溶液タイプのポリウレタンを用いる場合はポリウレタン付与後湿式凝固した後乾燥する。
【0032】ポリウレタンの付与量は、繊維基材の重量に対して5〜150重量%、好ましく、10〜100重量%である。付与量が5重量%未満では得られるシート状物の充実感が不足し、皮革様の風合いが悪くなる傾向がある。一方付与量が150重量%を越えると得られるシート状物は硬くなり、皮革様の風合いが悪くなる傾向がある。
【0033】また、上記ポリウレタンの溶液または分散液にブロックイソシアネート化合物を添加し、ブロックイソシアネート化合物を付与する工程とポリウレタンを付与する工程を一度に行ってもかまわない。
【0034】本発明において、かくして得られたシートは必要に応じ熱処理し、場合に応じ公知のスライス機による半裁、バッフィングによる起毛、染色加工等を施し、目的の皮革様繊維シート状物を得ることができる。
【0035】
【実施例】本発明を実施例に基づき、更に詳細に説明する。以下の実施例中に示した物性値については、以下の方法に従って測定した。
(1) 破断強度テンシロン強伸度測定機を用いサンプル長さ15cm、幅は2cm、15cm/minの引っ張り速度で測定し、破断強度(N/cm)を求めた。
実施例15−ソディウムスルホイソフタル酸を8モル%共重合したポリエチレンテレフタレートを海成分として30部、島成分としてポリエチレンテレフタレートが70部からなる割合で、(1)フィラメント中に島成分が36島、平均繊度が3.8dtexの海島型繊維のステープルを用いてカード、クロスラッパーを通してウェブを作成した後、ニードルパンチを施し、不織布を作成した。この繊維基体にケン化度95のポリビニルアルコール水溶液を島成分に対し、30重量部含浸、乾燥処理した後、180℃の熱処理を施した。熱処理後の繊維基体に、40℃、10重量%水酸化ナトリウム水溶液に30分浸漬し海成分を除去した後、水洗、乾燥した。次に極細繊維化された基体に4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートの両末端を重亜硫酸でブロックしたイソシアネートに、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのノニオン系界面活性剤を添加したブロックイソシアネート液を基体100重量部に対し10重量部含浸、乾燥した。次に基体を水系ポリウレタン樹脂固形分が島成分に対し48重量部含まれるよう、12重量%の水系エマルションポリウレタンを含浸した直後にスチーム処理し、130℃の熱処理を5分間施した。次に基体内部のポリビニルアルコールを100℃の熱水で除去後、スライス機で半裁、バッフィングをし、分散染料を用い液流染色機を用い染色した。
【0036】染色前生機の破断強度は、61.7N/cm, 染色後品の破断強度は49N/cmであった。
比較例15−ソディウムスルホイソフタル酸を8モル%共重合したポリエチレンテレフタレートを海成分として30部、島成分としてポリエチレンテレフタレートが70部からなる割合で、(1)フィラメント中に島成分が36島含まれる形態であり、平均繊度が3.8dtexの海島型繊維のステープルを用いてカード、クロスラッパーを通してウェブを作成した後、ニードルパンチを施し、不織布を作成した。この繊維基体にポリビニルアルコール水溶液を島成分に対し、30重量部含浸、乾燥処理した後、180℃の熱処理を施した。熱処理後の繊維基体を、40℃、10重量%水酸化ナトリウム水溶液に30分浸漬することで海成分を除去した後、水洗、乾燥した。次に極細繊維化された基体に水系ポリウレタン樹脂固形分が島成分に対し48重量部含まれるよう、12重量%の水系ポリウレタン樹脂溶液を含浸した直後にスチーマー処理し、130℃の熱処理を5分間施した。次に基体内部のポリビニルアルコールを100℃の熱水で除去後、スライス機で半裁、バッフィングをし、分散染料を用い液流染色機を用い染色した。
【0037】染色前生機の破断強度は56.8N/cm、染色後品の破断強度は、29.4N/cmと非常に低かった。
【0038】
【発明の効果】本発明によれば、優れた破断強力、耐久性、柔軟性を兼ね備えた皮革様シート状物の製造方法を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】主として極細繊維とポリウレタン樹脂からなる皮革様シート状物を製造するにあたり、以下の4工程を含むことを特徴とする皮革様シート状物の製造方法。
(1)アルカリ性水溶液による処理で極細繊維が発生する極細繊維発現型繊維を用いてシートを製造する工程。
(2)上記シートをアルカリ性水溶液で処理し、極細繊維を発生させる工程。
(3)極細繊維を発生せしめた後のシートに、ブロックイソシアネート化合物をシートに付与する工程。
(4)ポリウレタンを付与する工程。
【請求項2】ポリウレタンが、ブロックイソシアネート化合物と反応可能なカルボキシル基および/または水酸基を有することを特徴とする請求項1に記載の皮革様シート状物の製造方法。
【請求項3】ポリウレタンがエマルションポリウレタンであることを特徴とする請求項1または2に記載の皮革様シート状物の製造方法
【請求項4】ブロックイソシアネート化合物の解離温度が100℃以上、200℃以下であることを特徴とする請求項1、2、3のいずれかに記載の皮革様シート状物の製造方法。

【公開番号】特開2003−89981(P2003−89981A)
【公開日】平成15年3月28日(2003.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−287131(P2001−287131)
【出願日】平成13年9月20日(2001.9.20)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】