説明

目的タンパク質の分離または検出用タンパク質粒子およびその使用方法

【課題】 タンパク質粒子を用いた目的タンパク質の分離または検出方法の提供。
【解決手段】 分離源となる試料中の目的タンパク質と相互作用性のある特定のタンパク質を含有する担体タンパク質粒子からなり、該特定のタンパク質は、該目的タンパク質と、それらが相互に接触した際に結合可能となるように表面に呈示した状態で担体タンパク質粒子に包埋されており、該特定のタンパク質は試料中の目的タンパク質と相互に接触した際に結合することが可能であることを特徴とするタンパク質の分離または検出要素。目的タンパク質が各タンパク質から選択的に単離または検出される、分離源となる試料中の1以上のタンパク質を分離または検出する方法。この方法は、以下の工程を含む。(1)特定のタンパク質を表面に呈示した多角体である機能性多角体を形成する。(2)上記の機能性多角体を担体タンパク質粒子として用いて、分離源となる試料中の上記特定のタンパク質と相互作用性のある一群のタンパク質を吸着分離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、目的タンパク質を試料中から分離または検出するために用いるタンパク質粒子およびそれを用いた標的タンパク質の分離または検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質間相互作用を直接に利用して特定のグループのタンパク質を分離ないし検出する方法としては、一方のタンパク質を化学的に接着させた樹脂を調製し、それをカラムに充填して使用するのが一般的である。なお、ツーハイブリッドシステムなどタンパク質相互作用を検証する方法は知られているが、ある程度の量のタンパク質をまとめて取り出すような操作にはこれらのシステムは向かない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、タンパク質間相互作用を直接に利用して特定のグループのタンパク質を分離ないし検出する方法における樹脂(担体)をカラムに充填して使用する従来法は、以下のような問題点がある。
(1)樹脂に接着させるほうのタンパク質を、あらかじめよく精製しておかなければならない(精製に手間がかかり、タンパク質によっては収率も低い)。
(2)樹脂に接着できるタンパク質の量は必ずしも多くできない。
(3)接着させる操作が煩雑である。
(4)接着時にある程度のタンパク質の分解を免れることは難しい。
(5)繰り返し利用性にしばしば制限が多い。
【0004】
そこで、本発明は、利用したいタンパク質(目的タンパク質、あるいは標的タンパク質)を細胞から取り出し精製することが簡単にできること、さらに、上記(1)から(5)の問題点をすべてを解決した担体となるタンパク質粒子を提供することを目的とする。また、そのタンパク質粒子を用いた目的タンパク質の分離または検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の(1)〜(3)のタンパク質の分離または検出要素を要旨としている。
(1)分離源となる試料中の目的タンパク質と相互作用性のある特定のタンパク質を含有する担体タンパク質粒子からなり、該特定のタンパク質は、該目的タンパク質と、それらが相互に接触した際に結合可能となるように表面に呈示した状態で担体タンパク質粒子に包埋されており、該特定のタンパク質は試料中の目的タンパク質と相互に接触した際に結合することが可能であることを特徴とするタンパク質の分離または検出要素。
(2)目的タンパク質を結合した単体から目的タンパク質を遊離させることが可能であることを特徴とする(1)のタンパク質の分離または分離または検出要素。
(3)担体タンパク質粒子が、特定のタンパク質として酵素、抗体、抗原、レセプターおよびサイカインからなる群から選ばれる一の機能性タンパク質を取り込ませた多角体である(1)または(2)のタンパク質の分離または検出要素。
【0006】
また、本発明は、以下の(4)〜(8)のタンパク質を分離または検出する方法を要旨としている。
(4)目的タンパク質が各タンパク質から選択的に単離または検出される、分離源となる試料中の1以上のタンパク質を分離または検出する方法。
この方法は、以下の工程を含む。
1)特定のタンパク質を表面に呈示した多角体である機能性多角体を形成する。
2)上記の機能性多角体を担体タンパク質粒子として用いて、分離源となる試料中の上記特定のタンパク質と相互作用性のある一群のタンパク質を吸着分離する。
(5)さらに、以下の工程を含む(4)のタンパク質を分離または検出する方法。
3)目的タンパク質を結合した単体から目的タンパク質を遊離させる。
(6)機能性多角体が、特定のタンパク質Aとして酵素、抗体、抗原、レセプターおよびサイカインからなる群から選ばれる一の機能性タンパク質を取り込ませた多角体である(4)または(5)のタンパク質を分離または検出する方法。
(7)機能性多角体が、カイコ細胞質多角体病ウイルス(BmCPV)由来の2種類の遺伝子であるポリヘドリンタンパク質の遺伝子およびVP3と呼ばれるタンパク質の遺伝子、またはそれを改変した遺伝子を用いて形成する(4)ないし(6)のいずれかのタンパク質を分離または検出する方法。
(8)VP3またはその特定の領域を任意のタンパク質と接続したキメラタンパク質を調製し、ポリヘドリンと共存させ、このキメラタンパク質が包埋されかつ表面に呈示された状態の多角体を形成する(7)のタンパク質を分離または検出する方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、特定のタンパク質を表面に呈示した多角体(機能性多角体)を形成させ、これを用いて、より簡便に、効率よく、相互作用性のある一群のタンパク質を吸着分離できる。タンパク質間相互作用による標的タンパク質の分離ないし検出のために用いるタンパク質粒子およびその使用方法を提供することができる。複数のタンパク質を含む試料から、特定のタンパク質(標的タンパク質)となんらかの強さで結合する性質を有するタンパク質を分離し、ないし検出する工程を含むすべての分野(例えば、診断薬、生物学的研究試薬など)に利用可能である。例えば、本発明のタンパク質を分離または検出する方法を含む、複合体混合物中のタンパク質の分離または検出するためのキットを提供することができる。
本発明により、利用したいタンパク質(目的タンパク質、あるいは標的タンパク質)を細胞から取り出し精製することが簡単にできること、さらに、タンパク質間相互作用を直接に利用して特定のグループのタンパク質を分離ないし検出する従来法の問題点をすべてを解決した担体となるタンパク質粒子を提供することができる。また、そのタンパク質粒子を用いた目的タンパク質の分離または検出方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明者は、タンパク質間相互作用を直接に利用して特定のグループのタンパク質を分離ないし検出する従来法の問題点を解決するため、鋭意検討を重ねた結果、酵素、抗体、抗原、レセプターおよびサイトカインからなる群から選ばれる機能性タンパク質(実施例3では変異型チオレドキシン、すなわちVP3の特定の領域を変異型チオレドキシンと接続したキメラタンパク質)を有する多角体を用いることにより、試料中から選択的に機能性タンパク質(変異型チオレドキシン)に相互作用する標的タンパク質(チオレドキシン)を分離できることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明のタンパク質の分離または検出要素は、分離源となる試料中の目的タンパク質と相互作用性のある特定のタンパク質を含有する担体タンパク質粒子からなり、該特定のタンパク質は、該目的タンパク質と、それらが相互に接触した際に結合可能となるように表面に呈示した状態で担体タンパク質粒子に包埋されており、該特定のタンパク質は試料中の目的タンパク質と相互に接触した際に結合することが可能であることを特徴とする。
【0009】
本発明の担体タンパク質粒子は、機能性タンパク質(実施例3ではVP3の特定の領域を変異型チオレドキシンと接続したキメラタンパク質)を有する多角体を用いる標的タンパク質分離用担体粒子である。
実施例で用いたチオレドキシン変異体とは、チオレドキシンの活性中心に存在する二つのシステインのうち、分子内側に位置するシステインがセリンに置換されている変異体をいう。チオレドキシンは、普遍的に存在するオキシドリダクターゼであり、酵素が持っているジスルフィド結合の還元を介してその活性を調節することで、細胞内の数多くの現象を調節している。チオレドキシン変異体は、例えば、ホウレンソウ葉緑体由来のf型のチオレドキシンであれば、117番目のシステインをいい、ホウレンソウ葉緑体由来のm型のチオレドキシンであれば、107番目のシステインをいう。使用するチオレドキシン変異体は、チオレドキシンと相互作用をするタンパク質をいい、このようなタンパク質は通常分子内にジスルフィド結合を持ち、チオレドキシンによる酸化還元によって酵素活性が制御されている。
【0010】
特定のタンパク質を表面に呈示した多角体である機能性多角体を形成するには、カイコ細胞質多角体病ウイルス(Bombyx mori Cytoplasmic Polyhedrosis Virus、以下BmCPVと記す)由来の2種類の遺伝子またはそれを改変した遺伝子を用いる。
ひとつは、ポリヘドリンタンパク質の遺伝子であって、このタンパク質は自己集合して強固なタンパク質の粒子を形成する性質がある。BmCPVのウイルスゲノムは10本に分節された二本鎖RNA(セグメント1〜10はS1〜S10と表記する)であり、多角体を構成する蛋白質である多角体蛋白質(ポリヘドリン、polyhedrin)はそのうちの最も小さいS10にコードされており、分子量は27kDa〜31kDaである。
【0011】
もうひとつは、VP3と呼ばれるタンパク質の遺伝子であって、このタンパク質の特定の領域はポリヘドリンと相互作用する。
BmCPVのウイルス粒子はVP1(151kDa), VP2(142kDa),VP3(130kDa),VP4(67kDa),VP5(33kDa)の5種類のタンパク質から構成されている。125Iを用いたBmCPVの標識実験から、VP1とVP3が外殻を構成している蛋白質であることがわかっている(Lewandowski et al.(1972) J. Virol.10,1053-1070)。ウサギの網状赤血球を用いたin vitro translation実験が行われ、ウイルスの外殻蛋白質であるVP1とVP3はそれぞれS1とS4にコードされているものと推定された(McCrae and Mertens (1983) Double-Stranded RNA Viruses, Elsevier Biomedicals, 35-41)。このBmCPVの外殻蛋白質の一つであるVP3をコードしているS4の解析によって、S4の全長3,259塩基で、14番目から16番目までの開始コドン(ATG)と3,185番目から3,187番目までの終了コドン(TAA)を持つ一つの大きなopen reading frame(ORF)持つことがわかった。このORFは1,057個のアミノ酸から構成されており、VP3の分子量は約130kDaであると推定された。
【0012】
これら2つのタンパク質を同時に存在させるとVP3を包埋し、かつその一部を表面に呈示した状態のタンパク質粒子(以下多角体と記す)が形成される。VP3またはその特定の領域を任意のタンパク質と接続したキメラタンパク質を調製し、ポリヘドリンと共存させると、このキメラタンパク質が包埋されかつ表面に呈示された状態の多角体が形成される(Ikeda et al., 2006, Proteomics, 6, 54-66)。
【0013】
本発明者らは、このことを利用して、特定のタンパク質を表面に呈示した多角体(機能性多角体)を形成させ、これを用いて、より簡便に、効率よく、相互作用性のある一群のタンパク質を吸着分離できることを発見した。
【0014】
カイコなどの細胞、あるいは無細胞発現系を使用して次の2つの遺伝子を発現させる。(1)ポリヘドリン遺伝子、(2)VP3の少なくとも多角体への包埋に必要な領域と任意のタンパク質の遺伝子を連結した遺伝子。
昆虫の培養細胞を利用する場合は、バキュロウイルス発現系に適したウイルスをあらかじめ調製する。適切な系を用いてこれらのタンパク質を発現させる。
次いでこの2種類のタンパク質を混合し適当な条件で相互作用させ機能性多角体を形成させる。特に昆虫細胞を利用する場合は、細胞内において機能性多角体が自動的に形成される。
形成された機能性多角体はもともと不溶性の粒子であるため、緩衝液中で遠心分離することで簡単に収集でき、以降の操作において洗浄も容易である。より高度に精製することは密度勾配遠心分離などにより可能である。
【0015】
このようにして調製した多角体を試料溶液(相互作用する相手のタンパク質を含む)中に入れ、適当な条件におくことで相互作用するタンパク質を機能性多角体に結合させる。
次いで適当な方法で機能性多角体を洗浄して未吸着のタンパク質を除去することで、機能性多角体とそれに相互作用したタンパク質を回収できる。
【0016】
機能性多角体からのタンパク質の分離(溶出)は、強度を高めた洗浄操作やSH基の関与する反応の利用など、対象タンパク質に適した操作によって行うことができる。
すなわち、本発明のタンパク質を分離または検出する方法は、上述の特定のタンパク質標的タンパク質分離用担体(機能性多角体)を利用したものであり、(1)分離源となる試料と特定のタンパク質標的タンパク質分離用担体(機能性多角体)を接触させ、試料中の特定のタンパク質標的タンパク質と前記担体(機能性多角体)とを結合させる工程と(2)特定のタンパク質標的タンパク質と結合した担体(機能性多角体)から特定のタンパク質標的タンパク質を分離させる工程とを含むものである。本発明の方法は、上記(1)及び(2)の工程を含むものであるが、これら以外の工程を含んでも構わない。例えば、(1)の工程の後には通常非特異的に結合したタンパク質を洗い流す操作を行うが、そのような操作を行うような工程を含むものも本発明の方法に含まれる。
【0017】
以上説明したとおり、本発明は、タンパク質間相互作用による標的タンパク質の分離ないし検出のために用いるタンパク質粒子およびその使用方法に関する。複数のタンパク質を含む試料から、特定のタンパク質(標的タンパク質)となんらかの強さで結合する性質を有するタンパク質を分離し、ないし検出する工程を含むすべての分野(例えば、診断薬、生物学的研究試薬など)に利用可能である。たとえば、本発明のタンパク質を分離または検出する方法を含む、複合体混合物中のタンパク質の分離または検出するためのキットを提供することができる。
【0018】
本発明の詳細を実施例で説明する。本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【実施例1】
【0019】
1)変異型チオレドキシン(Trx)を有する多角体の作製
硫酸ストレプトマイシンとペニシリンGを含むカイコ細胞用培地にSpodoptera frugiperda cell line IPLB-Sf21-AE(sf21細胞)を移植し、培養5日目の培養物を用いて、ウイルス作成キット(BD BaculoGold Transfection Kit, BD Bioscience)のプロトコールに従って組換えウイルスを作成した。
【0020】
このようにしてポリヘドリン遺伝子を発現させる組換えウイルスAcH29Sと、変異型チオレドキシン(Trx)遺伝子にVP3を連結した遺伝子を発現させる組換えウイルスAcVP3/Trxおよび包埋化シグナル配列sig52を連結した遺伝子を発現させる組換えウイルスAcTrx-Sigを用意した。
【0021】
これらを用いた多角体の生産スキームを図1に示した。ただし、本実施例にいうTrx遺伝子とは、チオレドキシンタンパク質の41位システイン残基をセリン残基に置換したチオレドキシン変異体をコードする遺伝子を意味する。
【0022】
培養4日目の細胞に上記2種の組換えウイルス(AcH29S、AcTrx-Sig52)を培地20 mlあたり50:200,100:200,150:150,50:100(μl)の比率でそれぞれ培養フラスコに加えて感染させ、27℃で6日間培養して各タンパク質をカイコ細胞に生産させた。
【0023】
多角体の形成が確認された細胞をPBSバッファー(pH7.5)中に10分間おき、次いでマイクロチューブミキサーで30分間ボルテクス処理することによって細胞を破壊した。
【0024】
破壊した細胞を遠心分離し得られた多角体沈殿物を回収し、PBSバッファーで洗浄することを数回繰り返したのち、このバッファーに懸濁し保存した。
【0025】
この懸濁液を遠心分離することによって多角体を集め、0.1 M炭酸ナトリウムバッファー(pH11)中に37℃で1時間おいて可溶化した。
【0026】
SDS電気泳動し、Trxの抗体を用いてウエスタンブロッティング解析した結果、Trxを含む多角体粒子がカイコ細胞内に形成されたことが確かめられた。
【0027】
図2には、AcTrx-Sig52を用いた場合の例を示した。Trxは約13kDaであり、sig52と連結した場合は約20kDaと予想されるため、sig52と連結したTrxが多角体に含めまれていることがわかった。図2中、(1)感染比150μl:150μl、(2)感染比50μl:200μl、(3)感染比50μl:100μl、(4)感染比100μl:200μl、P チオレドキシン(13 kDa)、 M 分子量マーカー 感染比は培養液20mlに加えたウイルス懸濁液量の比(AcH29S:AcTrx-Sig52)を意味する。
【0028】
2)変異型チオレドキシンを有する多角体を用いたチオレドキシンに相互作用するタンパク質の分離
ホウレンソウの葉脈と主脈を除去したもの約40 gを、200 mlの緩衝液(0.35 Mソルビトール、50 mM Tris-HCl(pH8.0)、5 mM EDTA、0.1%(v/v) 2-メルカプトエタノール、0.1% (w/v) BSA)中で、ホモジナイザーで破砕し、ミラクロスで濾過した。
濾過物を50 mlチューブに移し、4℃、756×gで15分間遠心し、上澄みを捨てた。
【0029】
沈殿物に6.5 mlの洗浄用緩衝液(0.35 Mソルビトール、50 mM Tris-HCl (pH8.0)、25 mM EDTA)を加え、同様に遠心分離して上澄みを捨て洗浄することを2回繰り返した。
【0030】
葉緑体が回収できたことを顕微鏡によって確認したのち、2mlの50 mM Tricine-KOH (pH8.0) に懸濁し、4℃に15分間保った。次いで、100,000×gで一時間遠心し、上清をストロマ画分として回収した。
【0031】
多角体を180μg/μl(タンパク質量として)になるようにPBSに懸濁させ、その20 μlを1.5 mlエッペンドルフチューブに入れた。4℃、20,600×gで10分間遠心分離し、上澄みを除去した。
【0032】
洗浄液(100 mM Tris-HCl(pH 8.0)、200 mM NaCl)に10 mMのDTTを加えたものを100 μl加え、ピペッティングにより懸濁し、室温(25℃)で30分間、ボルテクス処理した(以下、前処理)。また、10mMのDTTを加えなかったものを用意して比較した(以下、未処理)。
【0033】
処理後、4℃、20,600×gで10分間遠心分離し上澄みを除去した。洗浄液を500 μl加え、念入りにピペッティングして混和したのち、20,600×gで10分間遠心分離して上澄みを除去した。この操作を3回行って多角体を洗浄し、最後に10 μlの洗浄液に懸濁させてから、ストロマ画分(6 μg/μl)を10 μl加え、25℃で一時間ボルテクス処理した後、4℃、20,600×gで10分間遠心分離し、上澄みを除去した。
500 μlの洗浄液を加えピペッティングによって良く懸濁させ、4℃、20,600×gで10分間遠心分離し、上澄みを除去した。この操作を5回行い、多角体を洗浄した。
【0034】
4℃、20,600×gで10分間遠心分離し、上澄みを除いた後、10mMのDTTを加えた洗浄液20μlを入れて、25℃で30分間、ボルテクス処理し、再び4℃、20,600×gで10分間遠心分離し、上澄みを回収した(以下DTT溶出)。この上澄みをSDS電気泳動し、Rubisco activaseの抗体を用いてウエスタン解析した結果を図3に示した。この結果、AcVP3/TrxおよびAcTrx-Sigを用いて作成した多角体にRubisco activaseが結合すること、DTT処理によってその結合をはずし多角体からRubisco activaseを回収できた。
【0035】
また、本実施例では、Trxを含まない多角体(ポリヘドリン以外にVP3のみを含む「VP3多角体」、同様にVP3とEGFPを連結したものを含む「VP3/EGFP」、同様にSig52とEGFPを連結したものを含む「EGFP-Sig52」、およびポリヘドリンのみからなる多角体「P多角体」)と比較した。
【0036】
その結果、Trxを含む多角体特異的にRubisco activaseが回収できると証明された。DTT前処理の有無によらずRubisco activaseが回収できることから、結合場所は多角体上に十分な数で存在するか、または結合が特異的であると推定された。なお、このRubisco activaseのウエスタン解析では、図中のレーンCに示されるように2本のバンドが検出される。
【産業上の利用可能性】
【0037】
複数のタンパク質を含む試料から、特定のタンパク質(標的タンパク質)となんらかの強さで結合する性質を有するタンパク質を分離し、ないし検出する工程を含むすべての分野(例えば、診断薬、生物学的研究試薬など)に利用可能である。たとえば、本発明のタンパク質を分離または検出する方法を含む、複合体混合物中のタンパク質の分離または検出するためのキットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】チオレドキシン(Trx)を有する多角体の作製スキームを説明する図面である。
【図2】Trx-Sig52を用いて得られた多角体のTrx抗体によるウエスタン解析結果を示す図面に代わる写真である。(1)感染比150μl:150μl、(2)感染比50μl:200μl、(3)感染比50μl:100μl、(4)感染比100μl:200μl、P チオレドキシン(13 kDa)、M 分子量マーカー
【図3】ホウレンソウ葉緑体ストロマ画分と相互作用させた各種多角体DTT溶出液からのRubisco activaseの検出結果を示す図面に代わる写真である。(1)未処理P多角体のDTT溶出液、(2)前処理P多角体のDTT溶出液、(3)未処理VP3多角体のDTT溶出液、(4)前処理VP3多角体のDTT溶出液、(5)未処理VP3/EGFP多角体のDTT溶出液、(5)前処理VP3/EGFP多角体のDTT溶出液、C ホウレンソウのストロマ画分(0.05 μg/レーン)、M 分子量マーカー、(7)前処理VP3/Trx多角体のDTT溶出液、(8)未処理VP3/Trx多角体のDTT溶出液、(9)前処理Trx-Sig52多角体のDTT溶出液、(10)未処理Trx-Sig52多角体のDTT溶出液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分離源となる試料中の目的タンパク質と相互作用性のある特定のタンパク質を含有する担体タンパク質粒子からなり、該特定のタンパク質は、該目的タンパク質と、それらが相互に接触した際に結合可能となるように表面に呈示した状態で担体タンパク質粒子に包埋されており、該特定のタンパク質は試料中の目的タンパク質と相互に接触した際に結合することが可能であることを特徴とするタンパク質の分離または検出要素。
【請求項2】
目的タンパク質を結合した単体から目的タンパク質を遊離させることが可能であることを特徴とする請求項1のタンパク質の分離または検出要素。
【請求項3】
担体タンパク質粒子が、特定のタンパク質として酵素、抗体、抗原、レセプターおよびサイカインからなる群から選ばれる一の機能性タンパク質を取り込ませた多角体である請求項1または2のタンパク質タンパク質の分離または検出要素。
【請求項4】
目的タンパク質が各タンパク質から選択的に単離または検出される、分離源となる試料中の1以上のタンパク質を分離または検出する方法。
この方法は、以下の工程を含む。
(1)特定のタンパク質を表面に呈示した多角体である機能性多角体を形成する。
(2)上記の機能性多角体を担体タンパク質粒子として用いて、分離源となる試料中の上記特定のタンパク質と相互作用性のある一群のタンパク質を吸着分離する。
【請求項5】
さらに、以下の工程を含む請求項4のタンパク質を分離または検出する方法。
(3)目的タンパク質を結合した単体から目的タンパク質を遊離させる。
【請求項6】
機能性多角体が、特定のタンパク質Aとして酵素、抗体、抗原、レセプターおよびサイカインからなる群から選ばれる一の機能性タンパク質を取り込ませた多角体である請求項4または5のタンパク質を分離または検出する方法。
【請求項7】
機能性多角体が、カイコ細胞質多角体病ウイルス(BmCPV)由来の2種類の遺伝子であるポリヘドリンタンパク質の遺伝子およびVP3と呼ばれるタンパク質の遺伝子、またはそれを改変した遺伝子を用いて形成する請求項4ないし6のいずれかのタンパク質を分離または検出する方法。
【請求項8】
VP3またはその特定の領域を任意のタンパク質と接続したキメラタンパク質を調製し、ポリヘドリンと共存させ、このキメラタンパク質が包埋されかつ表面に呈示された状態の多角体を形成する請求項7のタンパク質を分離または検出する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−1610(P2008−1610A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−170486(P2006−170486)
【出願日】平成18年6月20日(2006.6.20)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年3月27日 日本農芸化学会主催の「日本農芸化学会大会」において文書をもって発表
【出願人】(000125347)学校法人近畿大学 (389)
【出願人】(301070357)株式会社プロテインクリスタル (3)
【Fターム(参考)】