説明

直接染料の水溶液

本発明は、a)アニオン性またはカチオン性の直接染料5〜30重量%、b)式(1)(式中、Mは、水素、アルカリ金属またはアルカリ土類金属、アンモニウムまたはC1〜C4アルキルもしくはC2〜C4ヒドロキシアルキルでモノ−、ジ−、トリ−もしくはテトラ−置換されたアンモニウム、あるいはこれらの混合物を表す)の化合物0.01〜5重量%、c)無機酸または有機酸0〜10重量%、d)さらなる添加剤0〜20重量%、およびe)100%にするのに必要な水の量を含み、ただし式(2)(式中、Kは、アセトアセトアニリド、ピリドン、ピラゾロンまたはピリミジン系のカップリング成分の残基であり、そしてMは、前記定義の通りである)の直接染料は除外する水性の染料溶液、その製造方法、および紙を染色するためのその使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貯蔵安定な、アニオン性染料およびカチオン性または塩基性染料の両方の直接染料の濃厚水溶液、その製造方法、および紙を染色するためのその使用に関する。
【0002】
WO 03/064539 A1には、ジアゾ成分として2−(4−アミノフェニル)−6−メチルベンゾチアゾール7−スルホン酸系の特定のアゾ染料の貯蔵安定な液状組成物が開示されている。この組成物の重要な成分は、実際にはこのジアゾ成分であり、これがどうやら、さもなければ後続の溶液からの染料の沈殿を招く液晶の形成を妨げることにより機能しているようである。したがって、貯蔵安定な染料の溶液を提供するために、2−(4−アミノフェニル)−6−メチルベンゾチアゾール7−スルホン酸の、フォーミュレーション・エイド(formulation aid)としての添加は、この構造単位が対象の染料中にも含まれる場合だけ、機能することができることが予期される。
【0003】
しかし、驚くべきことには、これはその場合であることが見出されず、そして明らかに関係がない染料の広大な範囲の貯蔵安定な組成物の製造において、2−(4−アミノフェニル)−6−メチルベンゾチアゾール7−スルホン酸が、実際には極めて有効なフォーミュレーション・エイドとして機能することは見出されていない。それらの貯蔵安定性のほかに、得られた溶液は、驚くほど低い動的粘度を示し、この特性は特に紙の染色におけるその使用をさらに推奨する。
【0004】
したがって、本発明は、
a)アニオン性またはカチオン性の直接染料5〜30重量%、好ましくは10〜25重量%、
b)式(1):
【0005】
【化3】

【0006】
(式中、Mは、水素、アルカリ金属またはアルカリ土類金属、アンモニウムまたはC1〜C4アルキルもしくはC2〜C4ヒドロキシアルキルでモノ−、ジ−、トリ−もしくはテトラ−置換されたアンモニウム、あるいはこれらの混合物を表す)の化合物0.01〜5重量%、好ましくは0.1〜2重量%、
c)無機酸または有機酸0〜10重量%、
d)さらなる添加剤0〜20重量%、および
e)100%にするのに必要な水の量
を含み、ただし式(2):
【0007】
【化4】

【0008】
(式中、Kは、アセトアセトアニリド、ピリドン、ピラゾロンまたはピリミジン系カップリング成分の残基であり、
そしてMは、前記定義の通りである)の直接染料は除外する、水性の染料溶液に関する。
【0009】
本発明の溶液がアニオン性染料の溶液である場合には、これらの直接染料は、好ましくは、少なくとも1個のスルホン酸基および/またはカルボン酸基を含有する染料から選択され、次の染料の種類:金属フリーまたは金属モノアゾ、ジスアゾおよびポリアゾ染料、ピラゾロン、チオキサントン、オキサジン、スチルベン、ホルマザン、アントラキノン、ニトロ、メチン、トリフェニルメタン、キサントン、ナフタザリン、スチリル、アザスチリル、ナフトペリノン、キノフタロン、およびフタロシアニン染料から誘導される。
【0010】
アニオン性直接染料の代表的な例が、カラーインデックスインターナショナル、第4版オンライン(url: http:/www.colour-index.org)に列記されており、C.I.ダイレクトイエロー1〜177、C.I.ダイレクトオレンジ1〜122、C.I.ダイレクトレッド1〜277、C.I.ダイレクトバイオレッド1〜108およびC.I.ダイレクトブルー1〜313から選択することができるが、ただし式(2)の染料は、除外する。
【0011】
本発明の溶液がカチオン性染料の溶液である場合には、これらのカチオン性直接染料は塩基性染料である。これらのいわゆる塩基性染料は、次の種類:アクリジン、アントラキノン、アジン、アゾメチン、アゾスチリル、モノ−、ビス−およびポリアゾ、ベンズイミダゾール、ベンゾチアゾール、シアニン、ジ−およびトリアリールメタン、ケトンイミン、メタンおよびポリメチン、ナフトスチリル、ニトロ、オキサジンおよびジオキサジン、フタロシアニン、キノリン、キノフタロン、チアジン、チアゾールおよびキサンテン誘導体から選択される。
【0012】
カチオン性直接染料の代表的な例が、カラーインデックスインターナショナル、第4版オンライン(url: http:/www.colour-index.org)に列記されており、C.I.ベーシックイエロー1〜108、C.I.ベーシックオレンジ1〜69、C.I.ベーシックレッド1〜118、C.I.ベーシックバイオレッド1〜51およびC.I.ベーシックブルー1〜164から選択することができる。
【0013】
本発明は、特定の染料、たとえばC.I.ベーシックイエロー99および106、C.I.ベーシックレッド111、C.I.ベーシックブルー100および153、C.I.ダイレクトイエロー11、50および84、C.I.ダイレクトオレンジ29および102、C.I.ダイレクトレッド23、80、81、239、254および262、C.I.ダイレクトバイオレッド9、35および51ならびにC.I.ダイレクトブルー75、86、87、199、290および301の溶液に特に有効である。
【0014】
本発明の組成物が有機酸または無機酸を含有する場合には、特に適切なそれらの酸は、たとえば、塩酸、硫酸、リン酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、グルコン酸、メタンスルホン酸、クエン酸、コハク酸、乳酸、グルタミン酸、アジピン酸またはマンデル酸から選択することができる。これらの任意の酸を、単独でまたは酸混合物で用いることができるが、ギ酸が最も好ましい。
【0015】
本発明の組成物への酸の添加は場合によるが、好ましくは、酸は、組成物の合計重量に基づいて、1〜10重量%、最も好ましくは1〜5%の量で含まれる。
【0016】
本発明による染料溶液は、さらに、成分d)としてさらなる添加剤、たとえば水溶性の有機可溶化剤を含有することができ、その例は、尿素、ホルムアミド、ε−カプロラクタム、糖、たとえばデキストリン、マルトースまたはラクトース、カルボキシセルロース、たとえばキサンタン、ジメチルホルムアミド、1,2−ジアミノプロパン、1−フェノキシ−2−プロパノールおよび多価アルコール、たとえばエチレングリコールまたはグリセロールであり、これらの中ではε−カプロラクタムおよび1−フェノキシ−2−プロパノールが好ましい。本発明の溶液に含有できるさらなる添加剤は、たとえば、ヒドロトロピー剤、粘度調節剤、分散剤、殺微生物剤およびpH調整剤である。
【0017】
pH調整剤として、一般的であって、通常染料組成物のpH調整に用いる酸、塩基または緩衝液を用いることができ、たとえば鉱酸、たとえば塩酸、硫酸もしくはリン酸、たとえば炭素原子数1〜6の低分子量脂肪族カルボン酸、たとえばギ酸、酢酸、乳酸もしくはクエン酸、または塩基、たとえばアルカリ金属の水酸化物もしくは炭酸塩、または脂肪族の低分子量アミン、たとえば上述した酸基の対応する塩形成に使用できるもの、その中でアンモニアまたはトリエタノールアミンが好ましい。緩衝液として、たとえば、リン酸一ナトリウムもしくはリン酸二ナトリウム、酢酸ナトリウムまたは硫酸アンモニウムを使用することができる。
【0018】
したがって、濃厚染料溶液のpHは、対象の特定の染料に依存して必要に応じて調整することができる。しかし、好ましくは、溶液のpHは一般に、3〜11の範囲内にあり、カチオン性染料の場合、4〜6の範囲が好ましく、一方、アニオン性染料の場合、pH値6〜8が好ましい。
【0019】
好ましくは、水溶液は、微生物の悪影響から保護するために通常使用されるような公知の製品、主として微生物の成長を妨げる製品または殺微生物剤も、特に殺カビ剤も含有する。これらは低濃度で、たとえば、0.01〜1%、特に0.05〜0.5%の範囲で使用できる。
【0020】
このような添加剤の本発明の組成物への添加は場合によるが、好ましくは、それらは、組成物の合計重量に基づいて、1〜20重量%、最も好ましくは1〜10%の量で含まれる。
【0021】
別の態様では、本発明は、本染料溶液の製造方法に関し、この方法は、染料と、水、式(1)の化合物、望ましいならば、成分c)およびd)の混合物とを、室温〜90℃の温度で、好ましくは30〜60℃で攪拌し、必要ならば、ろ過することを含む。
【0022】
好ましくは、本発明の染料は、製造に続いて、粗ろ過ケークを洗浄して無機塩を除去するか、または膜分離法、たとえば精密ろ過または限外ろ過により、まず精製する。
【0023】
好ましくは、アニオン性染料は、容易に水に溶解する塩の形態で含まれる。したがって、適切な塩は、アルカリ金属塩、たとえば、リチウム、カリウム、特にナトリウム塩またはアンモニウム塩、モノ−、ジ−、トリ−もしくはテトラC1〜C4アルキルアンモニウム塩またはC2〜C4ヒドロキシアルキルアンモニウム塩あるいはこれらの混合物である。
【0024】
同様に、カチオン性染料の場合、対イオンは、十分な水への溶解性を確実にするようであるべきである。この場合好ましい塩は、たとえば、ハロゲン化物、特に塩化物、硫酸塩、メト硫酸塩、特に低級脂肪族のカルボン酸塩、たとえばギ酸塩、酢酸塩および乳酸塩である。
【0025】
本発明の組成物は、天然または合成材料、特にセルロースの材料を、任意の望ましい色合いで染色するのに適切である。特に、本組成物は、紙および板紙の染色に適切である。
【0026】
したがって、別の態様では、本発明は、紙を前記定義の液体組成物で処理することにより、紙を染色するための本発明の溶液の使用に関する。本液体配合物は、場合により水で希釈後、紙または板紙を染色するために用い、これによりこれらの材料を、たとえば、パルプ中で、はけ塗りもしくは浸漬により、またはコーティングもしくは噴霧で紙表面に塗布することにより、または連続的な染色プロセスでの用途で染色することができ、これにより本発明の液体組成物で染色した紙または板紙は、本発明のさらに別の態様である。
【0027】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、これらは本質的に限定するものではない。特記しない限り、部および%は重量部および重量%である。
【0028】
実施例1
ε−カプロラクタム100部、2−(4−アミノフェニル)−6−メチルベンゾチアゾール7−スルホン酸10部、ギ酸30部および水260部を含む混合物を攪拌し、40℃に加熱した。次に、前もってpH9.0で沈殿させ、洗浄して無機塩を含まない、式(101):
CuPC{[SO2NH(CH322-3SO3H}1-2 (101)
(式中、PCは、フタロシアニンを表す)の染料C.I.ベーシックブルー100 37.5%を含有する湿ったろ過ケーク600部を加えた。60℃で2時間攪拌後、混合物を冷却し、ろ過して、式(101)の染料22.5%、ε−カプロラクタム10%、2−(4−アミノフェニル)−6−メチルベンゾチアゾール7−スルホン酸1%およびギ酸3%を含有する溶液を得た。
【0029】
得られた溶液は、5℃で300mPasの動的粘度を示し、−10〜50℃での数ヶ月の期間にわたる貯蔵に対して安定であり、そして水で容易に希釈できる。
【0030】
上述の実施例において同等の粘度および貯蔵安定性を得るために、2−(4−アミノフェニル)−6−メチルベンゾチアゾール7−スルホン酸1%は、ベンジルアルコール5%で置換する必要があるであろう。
【0031】
実施例2
合成から直接に得られた生成物の限外ろ過により得た、染料C.I.ダイレクトオレンジ102の無塩濃厚物を、十分な量の2−(4−アミノフェニル)−6−メチルベンゾチアゾール7−スルホン酸で処理し、15%に希釈後、0.3%含有する溶液を得るようにした。これにより動的粘度は、25℃で175から36mPasに低下し、得られた組成物は、−10〜50℃で、6ヶ月以上の期間にわたる貯蔵の間、沈降の兆候を示さなかった。
【0032】
比較において、同じ濃厚物を、5%のε−カプロラクタムで処理し、対応するように希釈した場合、得られた溶液は同等の動的粘度を示すが、わずか1週間貯蔵後に沈降の明らかな兆候を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)アニオン性またはカチオン性の直接染料5〜30重量%、
b)式(1):
【化1】


(式中、Mは、水素、アルカリ金属またはアルカリ土類金属、アンモニウムまたはC1〜C4アルキルもしくはC2〜C4ヒドロキシアルキルでモノ−、ジ−、トリ−もしくはテトラ−置換されたアンモニウム、あるいはこれらの混合物を表す)の化合物0.01〜5重量%、
c)無機酸または有機酸0〜10重量%、
d)さらなる添加剤0〜20重量%、および
e)100%にするのに必要な水の量
を含み、ただし式(2):
【化2】


(式中、Kは、アセトアセトアニリド、ピリドン、ピラゾロンまたはピリミジン系のカップリング成分の残基であり、そして
Mは、前記定義の通りである)の直接染料は除外する、水性の染料溶液。
【請求項2】
アニオン性直接染料が、少なくとも1個のスルホン酸基および/またはカルボン酸基を含有する染料から選択され、次の染料の種類:金属フリーまたは金属モノアゾ、ジスアゾおよびポリアゾ染料、ピラゾロン、チオキサントン、オキサジン、スチルベン、ホルマザン、アントラキノン、ニトロ、メチン、トリフェニルメタン、キサントン、ナフタザリン、スチリル、アザスチリル、ナフトペリノン、キノフタロン、およびフタロシアニン染料から誘導される、請求項1記載の水性の染料溶液。
【請求項3】
カチオン性直接染料がいわゆる塩基性染料であり、次の種類:アクリジン、アントラキノン、アジン、アゾメチン、アゾスチリル、モノ−、ビス−およびポリアゾ、ベンズイミダゾール、ベンゾチアゾール、シアニン、ジ−およびトリアリールメタン、ケトンイミン、メタンおよびポリメチン、ナフトスチリル、ニトロ、オキサジンおよびジオキサジン、フタロシアニン、キノリン、キノフタロン、チアジン、チアゾールおよびキサンテン誘導体から選択される請求項1記載の水性の染料溶液。
【請求項4】
請求項1記載の染料溶液の製造方法であって、染料と、水、式(1)の化合物、望ましいならば、請求項1記載の成分c)およびd)の混合物とを攪拌し、必要ならば、ろ過することを含む方法。
【請求項5】
紙の染色のための、請求項1記載の水性の染料溶液の使用。
【請求項6】
請求項1記載の水性の染料溶液で染色した紙。

【公表番号】特表2008−540785(P2008−540785A)
【公表日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−511675(P2008−511675)
【出願日】平成18年5月8日(2006.5.8)
【国際出願番号】PCT/EP2006/062115
【国際公開番号】WO2006/122891
【国際公開日】平成18年11月23日(2006.11.23)
【出願人】(396023948)チバ ホールディング インコーポレーテッド (530)
【氏名又は名称原語表記】Ciba Holding Inc.
【Fターム(参考)】