直接波到来方向推定装置
【課題】 マルチパス環境下でも直接波の到来方向を正確に推定可能な直接波到来方向推定装置を提供する。
【解決手段】 指向性切換手段20は、アレーアンテナ10のバラクタダイオード11〜16に供給する制御電圧セットを変えてアレーアンテナ10の指向性をn個の方向に順次切換える。アレーアンテナ10は、各方向においてキャリア周波数が異なるm個の電波を発信源から受信する。方向推定手段40は、電波強度検出手段30によって検出された各方向におけるm個の電波に対応するm個の受信電波強度に基づいて電波の反射および/または回折の影響を抑制して各方向における受信電波強度を検出し、その検出したn個の受信電波強度のうち、最大の受信電波強度が得られる方向を直接波の到来方向と推定する。
【解決手段】 指向性切換手段20は、アレーアンテナ10のバラクタダイオード11〜16に供給する制御電圧セットを変えてアレーアンテナ10の指向性をn個の方向に順次切換える。アレーアンテナ10は、各方向においてキャリア周波数が異なるm個の電波を発信源から受信する。方向推定手段40は、電波強度検出手段30によって検出された各方向におけるm個の電波に対応するm個の受信電波強度に基づいて電波の反射および/または回折の影響を抑制して各方向における受信電波強度を検出し、その検出したn個の受信電波強度のうち、最大の受信電波強度が得られる方向を直接波の到来方向と推定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、コヒーレント波の直接波の到来方向を推定する直接波到来方向推定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
屋内および地下街等の電波がマルチパスを経由して伝搬する環境下では、複数の反射波が様々な方向から到来する。この場合、反射波と直接波とは、位相が異なるだけのコヒーレント波となる。
【0003】
このようなコヒーレント波からなる反射波および直接波の到来方向を推定する方法として、アンテナから放射するビームの方向を変えて電波を受信し、その受信した電波の受信電波強度が最大になる方向を直接波の到来方向と推定する方法が知られている(非特許文献1)。
【非特許文献1】古樋 知重、橋口 正哉、大平 孝、浅田 峯夫、岡田 敏美,”腕時計型マイクロ波ビーコンと携帯型電波到来方向探知機の雪中実験”,信学論(B),Vol.186−B,No.2,pp219−225,Feb.2003.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、非特許文献1に記載された到来方向推定方法では、電波のキャリア周波数が1個であるため、直接波の受信電波強度が反射波の受信電波強度よりも弱くなる領域が存在し、直接波の到来方向を正確に推定することが困難であるという問題がある。
【0005】
図15は、キャリア周波数が1個である場合における直接波および反射波の受信電力の分布を示す分布図である。図15において、縦軸は、受信電力を表し、横軸は、発信源と到来方向推定装置との距離を表す。また、太線は、直接波の受信電力の分布を表し、点線は、反射波の受信電力の分布を表す。更に、破線は、反射波がない場合の受信電力の分布を表す。
【0006】
図15から明らかなように、2.4m、3.5mおよび3.7〜3.8mにおいて、直接波の受信電力は、反射波の受信電力よりも大きく低下している。これは、マルチパス環境下においては、複数の反射波は、相互に干渉し、直接波よりも強くなることがあるからである。
【0007】
このように、電波のキャリア周波数を1個にした場合、直接波の受信電力よりも反射波の受信電力の方が強くなる領域が存在し、直接波の到来方向を正確に推定することが困難である。
【0008】
そこで、この発明は、かかる問題を解決するためになされたものであり、その目的は、マルチパス環境下でも直接波の到来方向を正確に推定可能な直接波到来方向推定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明によれば、直接波到来方向推定装置は、電波が反射および/または回折するマルチパス環境下において発信源から到来する直接波の到来方向を推定する直接波到来方向推定装置であって、アンテナ装置と、方向推定手段とを備える。アンテナ装置は、発信源の設置面に略平行な水平面内において指向性をn(nは2以上の整数)個の方向に切換えて各方向毎に発信源からのキャリア周波数が異なるm(mは2以上の整数)個の電波を受信する。方向推定手段は、指向性が1つの方向に設定されたときにアンテナ装置によって受信されたmの電波に対応するm個の受信電波強度に基づいて反射および/または回折の影響を抑制して1つの方向における受信電波強度を検出することによりn個の方向におけるn個の受信電波強度を検出し、その検出したn個の受信電波強度のうち受信電波強度が最大となる方向を直接波の到来方向と推定する。
【0010】
好ましくは、方向推定手段は、m個の受信電波強度のうち最大の受信電波強度を1つの方向における受信電波強度として検出する。
【0011】
好ましくは、方向推定手段は、m個の受信電波強度の平均値を1つの方向における受信電波強度として検出する。
【0012】
好ましくは、アンテナ装置は、給電素子と、少なくとも1つの無給電素子と、少なくとも1つの無給電素子に装荷された可変容量素子の容量を変化させ、指向性をn個の方向に切換える指向性切換手段とを含む。
【発明の効果】
【0013】
この発明による直接波到来方向推定装置は、アンテナ装置の指向性を複数の方向に順次切換え、各方向において発信源からキャリア周波数が異なる複数の電波を受信する。そして、直接波到来方向推定装置は、その受信したキャリア周波数が異なる複数の電波に対応する複数の受信電波強度に基づいて、電波の反射および/または回折の影響を抑制して各方向における受信電波強度を検出し、その検出した複数の方向における複数の受信電波強度のうち最大の受信電波強度が得られる方向を直接波の到来方向と推定する。
【0014】
したがって、この発明によれば、マルチパス環境下でも直接波の到来方向を正確に推定できる。
【0015】
また、この発明による直接波到来方向推定装置は、キャリア周波数が異なる複数の電波に対応する複数の受信電波強度のうち、最大の受信電波強度を各方向における受信電波強度として検出する。
【0016】
さらに、この発明による直接波到来方向推定装置は、キャリア周波数が異なる複数の電波に対応する複数の受信電波強度の平均値を各方向における受信電波強度として検出する。
【0017】
したがって、この発明によれば、簡単な構成によって電波の反射および/または回折の影響を抑制して直接波の到来方向を精度良く推定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0019】
図1は、この発明の実施の形態による到来方向推定装置の概略図である。図1を参照して、この発明の実施の形態による到来方向推定装置100は、アレーアンテナ10と、指向性切換手段20と、電波強度検出手段30と、方向推定手段40とを備える。なお、到来方向推定装置100は、電波が反射および/または回折するマルチパス環境下において発信源からの直接波の到来方向を推定する装置である。
【0020】
アレーアンテナ10は、アンテナ素子1〜7と、バラクタダイオード11〜16とを含む。アンテナ素子1〜7は、x軸、y軸およびz軸からなるxyz直交座標におけるz軸に沿ってx−y平面(所定平面)に配置される。なお、この発明においては、図1に示すx−y平面内における方角を示す方位角を有するコヒーレント波を到来方向推定の対象とする。即ち、発信源の設置面に略平行な水平面内における方位角を有するコヒーレント波を到来方向推定の対象とする。
【0021】
図2は、図1に示すx−y平面におけるアンテナ素子1〜7の平面配置図である。図2を参照して、アンテナ素子1〜6は、アンテナ素子7を中心にして等間隔に円形に配置される。
【0022】
再び、図1を参照して、アンテナ素子1〜6は、無給電素子であり、アンテナ素子7は、給電素子である。バラクタダイオード11〜16は、それぞれ、アンテナ素子1〜6と接地ノードとの間に接続される。これによって、無給電素子であるアンテナ素子1〜6には、可変容量素子であるバラクタダイオード11〜16がそれぞれ装荷される。
【0023】
このように、アレーアンテナ10は、1本の給電素子(アンテナ素子7)と、6本の無給電素子(アンテナ素子1〜6)とからなる7本のアンテナ素子が給電素子を中心にして円形に配置された構造からなる。
【0024】
指向性切換手段20は、バラクタダイオード11〜16に制御電圧セットCVL1〜CVL6を供給し、アレーアンテナ10の指向性を切換える。バラクタダイオード11〜16は、それぞれ、制御電圧CVL1〜CVL6によって容量(リアクタンス値)が変化する。指向性切換手段20は、各バラクタダイオード11〜16におけるリアクタンス値が“hi”または“lo”になるように各制御電圧CVL1〜CVL6の電圧値を決定し、制御電圧セットCVL1〜CVL6をバラクタダイオード11〜16へ供給する。
【0025】
この場合、指向性切換手段20は、バラクタダイオード11〜16におけるリアクタンス値xm1〜xm6のセットxmが表1に示すように変化するように制御電圧セットCVL1〜CVL6をバラクタダイオード11〜16へ供給する。
【0026】
【表1】
【0027】
リアクタンス値xm1が“lo”であり、リアクタンス値xm2〜xm6が“hi”であるとき(i=1)、アレーアンテナ10は、0度の方向(図2に示すx軸の正方向を0度の方向とする)に指向性があるビームパターンBP1を有する。
【0028】
また、リアクタンス値xm1,xm2が“lo”であり、リアクタンス値xm3〜xm6が“hi”であるとき(i=2)、アレーアンテナ10は、30度の方向に指向性があるビームパターンBP2を有する。
【0029】
さらに、リアクタンス値xm2が“lo”であり、リアクタンス値xm1,xm3〜xm6が“hi”であるとき(i=3)、アレーアンテナ10は、60度の方向に指向性があるビームパターンBP3を有する。
【0030】
以下、同様にして、リアクタンス値xm1〜xm6を表1に従って切換えたとき(i=4〜12)、アレーアンテナ10は、90度、120度、150度、180度、210度、240度、270度、300度および330度の方向に指向性があるビームパターンBP4〜BPM12を有する(図2参照)。
【0031】
このように、指向性切換手段20は、無給電素子であるアンテナ素子1〜6に装荷されたバラクタダイオード11〜16のリアクタンス値xm1〜xm6を変えることによってアレーアンテナ10の指向性を切換える。
【0032】
到来方向推定装置100が発信源(図示せず)からの直接波の到来方向を推定するとき、アレーアンテナ10は、その指向性を上述した12個の方向に順次切換え、各方向においてキャリア周波数が異なる16個の電波を発信源から受信する。
【0033】
電波強度検出手段30は、アレーアンテナ10が受信した電波をアレーアンテナ10の給電素子7から受け、その受けた電波の受信電波強度RSSIを検出して方向推定手段40へ出力する。
【0034】
より具体的には、電波強度検出手段30は、指向性が0度の方向に設定されたときアレーアンテナ10によって受信された16個の電波WV1_1〜WV1_16を給電素子7から受け、その受けた16個の電波WV1_1〜WV1_16に対応する16個の受信電波強度R1_1〜R1_16を検出して方向推定手段40へ出力する。
【0035】
また、電波強度検出手段30は、指向性が30度の方向に設定されたときにアレーアンテナ10によって受信された16の電波WV2_1〜WV2_16を給電素子7から受け、その受けた16個の電波WV2_1〜WV2_16に対応する16個の受信電波強度R2_1〜R2_16を検出して方向推定手段40へ出力する。
【0036】
以下、同様にして、電波強度検出手段30は、指向性がθ(60度、90度、120度、150度、180度、210度、240度、270度、300度および330度)の方向に設定されたときにアレーアンテナ10によって受信された16個の電波WVi_1〜WVi_16(i=3〜12)を給電素子7から受け、その受けた16個の電波WVi_1〜WVi_16に対応する16個の受信電波強度Ri_1〜Ri_16を検出して方向推定手段40へ出力する。
【0037】
方向推定手段40は、電波強度検出手段30から受信電波強度R1_1〜R1_16,・・・,R12_1〜R12_16を受ける。そして、方向推定手段40は、アレーアンテナ10の指向性が0度の方向、30度の方向、・・・、330度の方向の順序で切換えられることが予め解っているので、電波強度検出手段30から受けた受信電波強度R1_1〜R1_16,・・・,R12_1〜R12_16を各方向に対応付ける。即ち、方向推定手段40は、表2に示す受信電波強度テーブルを作成する。
【0038】
【表2】
【0039】
そして、方向推定手段40は、16個の受信電波強度Ri_1〜Ri_16(i=1〜12)に基づいて、電波の反射および/または回折による影響を抑制して各方向における受信電波強度Riを検出する。
【0040】
より具体的には、方向推定手段40は、16個の受信電波強度Ri_1〜Ri_16の平均値を演算することにより各方向における受信電波強度Riを検出する。
【0041】
そして、方向推定手段40は、検出した12個の受信電波強度R1〜R12のうち、最大の受信電波強度を直接波の到来方向と推定する。
【0042】
電波のキャリア周波数が異なれば、直接波と反射波との位相関係が変化するので、受信電波強度が弱くなる位置がキャリア周波数によって異なる。図3は、キャリア周波数が異なる3つの電波に対応する3つの受信電波強度のプロファイルである。図3において、縦軸は、受信電波強度を表し、横軸は、発信源との距離を表わす。そして、図3に示す受信電波強度のプロファイルは、アレーアンテナ10の指向性をある1つの方向に設定した場合のプロファイルである。
【0043】
受信電波強度R1〜R3は、それぞれ、キャリア周波数が異なる3つの電波WV1〜WV3に対応する受信電波強度である。受信電波強度R1〜R3は、最大となる距離および最小となる距離が相互に異なる。
【0044】
このように、キャリア周波数が異なれば、受信電波強度が弱くなる距離(位置)が異なる。
【0045】
受信電波強度R1〜R3の平均値Ravを演算すると、平均値Ravには、受信電波強度R1〜R3のように、強度が大きく低下する距離(位置)が存在しない。
【0046】
これは、強度が大きく低下する距離(位置)が相互に異なる受信電波強度R1〜R3を加算することによって、受信電波強度R1(またはR2またはR3)において強度が大きく低下する距離(位置)が他の受信電波強度R2,R3(またはR3,R1またはR1,R2)によって除去されるからである。
【0047】
したがって、キャリア周波数が異なる16個の電波WVi_1〜WVi_16に対応する受信電波強度Ri_1〜Ri_16の平均値Riを演算することにより、電波の反射および/または回折によって生じた受信電波強度の大きな低下を除去できる。つまり、16個の受信電波強度Ri_1〜Ri_16の平均値Riを演算することにより、電波の反射および/または回折による影響を抑制して各方向における受信電波強度を検出できる。
【0048】
図3は、発信源との距離に対して受信電波強度R1〜R3およびその平均値Ravがどのように変化するかを示すが、例えば、発信源との距離がx1である位置においてアレーアンテナ10が発信源からキャリア周波数が異なる3つの電波WV1〜WV3を受信する場合を想定する。
【0049】
この場合、受信電波強度R1は大きく低下し、受信電波強度R2,R3は大きく低下しないので、アレーアンテナ10は、電波WV1を受信電波強度が弱い電波として受信し、電波WV1,WV2を受信電波強度が強い電波として受信する。そして、電波WV1〜WV3に対応する受信電波強度R1〜R3の平均値を演算することによって、受信電波強度R1における大きな低下を受信電波強度R2,R3によって除去して距離(位置)x1での所定の方向における受信電波強度を検出できる。この方法を距離(位置)x1において、アレーアンテナ10の指向性を各方向に設定したときに適用すれば、距離(位置)x1における各方向に対する受信電波強度を、受信電波強度R1における大きな低下を受信電波強度R2,R3によって除去して検出できる。
【0050】
したがって、アレーアンテナ10が設置された各位置において、キャリア周波数が異なる複数の電波に対応する複数の受信電波強度の平均値を演算することは、電波の反射および/または回折の影響を抑制して受信電波強度を検出することに有効である。
【0051】
そこで、この発明においては、各方向においてアレーアンテナ10によって受信された16個の受信電波強度Ri_1〜Ri_16の平均値を演算して各方向における受信電波強度Riを検出することにしたものである。
【0052】
12個の方向における12個の受信電波強度のうち、受信電波強度が最大である方向を直接波の到来方向と推定することにしたのは、直接波は、発信源からアレーアンテナ10へ最短の経路を直進するので、壁、天井および床等によって多重反射される反射波および障害物等によって回折する回折波よりも受信電波強度が強くなるからである。
【0053】
なお、キャリア周波数が異なる複数の電波に対応する複数の受信電波強度の平均値を演算して各方向における受信電波強度を検出し、その検出した複数の受信電波強度のうち最大の受信電波強度が得られる方向を直接波の到来方向と推定する方法を「周波数スムージング法」と呼ぶ。
【0054】
この発明においては、方向推定手段40は、電波強度検出手段30から受けた受信電波強度R1_1〜R1_16,・・・,R12_1〜R12_16に基づいて、周波数スムージング法以外の方向によって直接波の到来方向を推定してもよい。
【0055】
即ち、方向推定手段40は、各方向における16個の受信電波強度Ri_1〜Ri_16のうち、最大の受信電波強度Ri_maxを各方向における受信電波強度Riとして検出し、その検出した12個の受信電波強度R1〜R12のうち、最大の受信電波強度が得られる方向を直接波の到来方向と推定する。なお、この方法を「周波数選択法」と呼ぶ。
【0056】
より具体的には、方向推定手段40は、受信電波強度R1_1〜R1_16のうち、最大の受信電波強度R1_maxを検出し、受信電波強度R2_1〜R2_16のうち、最大の受信電波強度R2_maxを検出し、以下、同様にして受信電波強度Ri_1〜Ri_16(i=3〜12)のうち、最大の受信電波強度Ri_maxを検出する。そして、方向推定手段40は、12個の受信電波強度R1_max〜R12_maxのうち、最大の受信電波強度(R1_max〜R12_maxのいずれか)が得られる方向を直接波の到来方向と推定する。
【0057】
各方向における16個の受信電波強度Ri_1〜Ri_16(i=1〜12)のうち、最大の受信電波強度Ri_maxを検出することは、電波の反射および/または回折の影響を抑制して受信電波強度を検出することに相当する。理由は、次のとおりである。
【0058】
上述したように、キャリア周波数が異なれば、直接波と反射波との位相関係が異なるため、各方向において受信電波強度Ri_1〜Ri_16が直接波と反射波とが重なり合った電波の受信電波強度として検出されたとしても、受信電波強度Ri_1〜Ri_16は、相互に異なる強度を有する。即ち、受信電波強度Ri_1〜Ri_16は、直接波と反射波との位相関係が逆である場合の強度(最小強度)から直接波と反射波とが同位相である場合の強度(最大強度)までの範囲に分布する。
【0059】
そして、受信電波強度Ri_1〜Ri_16のうち、最大の受信電波強度Ri_maxは、直接波の受信電波強度を強めるように直接波と反射波とが重なり合っている場合、または直接波の受信電波強度を弱めるように直接波と反射波とが重なり合っていても受信電波強度を弱める度合が最も小さい場合に検出される。
【0060】
したがって、16個の受信電波強度Ri_1〜Ri_16のうち、最大の受信電波強度Ri_maxを検出することは、電波の反射および/または回折の影響を抑制して受信電波強度を検出することに相当する。
【0061】
図4は、周波数スムージング法により直接波の到来方向を推定する動作を説明するためのフローチャートである。一連の動作が開始されると、到来方向推定装置100の指向性切換手段20は、i=1を設定し(ステップS1)、アレーアンテナ10の指向性を方向Di(i=1、即ち、0度の方向)に設定する(ステップS2)。
【0062】
そして、方向推定手段40は、j=1を設定する(ステップS3)。その後、発信源は、キャリア周波数fjの電波WVi_jをx−y平面においてオムニパターンで放射する。そして、アレーアンテナ10は、発信源からの電波WVi_jを受信し(ステップS4)、電波強度検出手段30は、アレーアンテナ10の給電素子7から電波WVi_jを受け、その受けた電波WVi_jの受信電波強度Ri_jを検出し(ステップS5)、その検出した受信電波強度Ri_jを方向推定手段40へ出力する。
【0063】
方向推定手段40は、電波強度検出手段30から受けた受信電波強度Ri_jを保持するとともに、j=16であるか否かを判定する(ステップS6)。そして、j=16でないとき、方向推定手段40は、j=j+1を設定する(ステップS7)。その後、ステップS6において、j=16であると判定されるまで、上述したステップS4〜ステップS7が繰返し実行される。
【0064】
ステップS6において、j=16であると判定されると、1つの方向における16個の受信電波強度Ri_1〜Ri_16が検出されたことになり(ステップS8)、方向推定手段40は、1つの方向(0度の方向)に対応付けて16個の受信電波強度Ri_1〜Ri_16を記憶する。
【0065】
その後、指向性切換手段20は、i=12であるか否かを判定し(ステップS9)、i=12でないとき、i=i+1を設定する(ステップS10)。そして、ステップS9において、i=12であると判定されるまで、上述したステップS2〜ステップS10が繰返し実行される。
【0066】
ステップS10において、i=12であると判定されると、12個の方向に対応して、16個の受信電波強度R1_1〜R1_16,・・・,R12_1〜R12_16が検出されたことになる(ステップS11)。
【0067】
そして、方向推定手段40は、受信電波強度R1_1〜R1_16,・・・,R12_1〜R12_16に基づいて、各方向における平均値Ri_aveを演算し(ステップS12)、その演算した12個の平均値R1_ave〜R12_aveのうち、最大の受信電波強度が得られる方向を直接波の到来方向と推定する(ステップS13)。これにより、一連の動作は終了する。
【0068】
図5は、周波数選択法により直接波の到来方向を推定する動作を説明するためのフローチャートである。図5に示すフローチャートは、図4に示すフローチャートのステップS12,S13をそれぞれステップS12A,S13Aに代えたものであり、その他は、図4に示すフローチャートと同じである。
【0069】
12個の方向に対応して、16個の受信電波強度R1_1〜R1_16,・・・,R12_1〜R12_16が検出されると(ステップS11)、方向推定手段40は、各方向において、受信電波強度Ri_1〜Ri_16のうち、最大の受信電波強度Ri_maxを検出する(ステップS12A)。
【0070】
即ち、方向推定手段40は、0度の方向において、受信電波強度R1_1〜R1_16のうち、最大の受信電波強度R1_maxを検出し、30度の方向において、受信電波強度R2_1〜R2_16のうち、最大の受信電波強度R2_maxを検出し、以下、同様にして、θ(60度、90度、120度、150度、180度、210度、240度、270度、300度および330度)の方向において、受信電波強度Ri_1〜Ri_16(i=3〜12)のうち、最大の受信電波強度Ri_max(i=3〜12)を検出する。
【0071】
そして、方向推定手段40は、12個の受信電波強度R1_max〜R12_maxをそれぞれ12個の方向における受信電波強度とし、12個の受信電波強度R1_max〜R12_maxのうち、最大の受信電波強度が得られる方向を直接波の到来方向と推定する(ステップS13A)。これにより、一連の動作は終了する。
【0072】
このように、この発明においては、到来方向推定装置100は、アレーアンテナ10の指向性を12個の方向に順次切換え、指向性を各方向に設定したときに発信源からキャリア周波数が異なる複数の電波を受信し、キャリア周波数が異なる複数の電波に対応する複数の受信電波強度に基づいて電波の反射および/または回折の影響を抑制して各方向における受信電波強度を検出する。そして、到来方向推定装置100は、複数の方向における複数の受信電波強度のうち、最大の受信電波強度が得られる方向を直接波の到来方向と推定する。
【0073】
上述した周波数スムージング法および周波数選択法による到来方向の推定をシミュレーションした結果について説明する。
【0074】
図6は、シミュレーションに用いた電波空間を示す模式図である。10m×10m×3mの直方体の部屋50の1つの隅Aをxyz座標の原点とした。アレーアンテナ10は、座標[x,y,1m]に設置され、発信源60は、座標[5m,5m,1m]に固定された。部屋50は、コンクリート壁によって囲まれている。
【0075】
そして、アレーアンテナ10の高さを1mに保持したまま、アレーアンテナ10をx−y平面内で順次移動させ、発信源60からの直接波の到来方向を推定した。
【0076】
シミュレーションの各条件を表3に示す。
【0077】
【表3】
【0078】
部屋50のコンクリート壁による電波の反射は、8回とし、フレネル係数で各反射波の振幅に重み付けを行なった。
【0079】
また、発信源60が放射する電波の周波数帯は、2404MHz〜2484MHzまでの範囲であり、キャリア周波数の個数は、1個、2個、4個、8個、16個および32個と変えられた。キャリア周波数が2個以上の場合、各キャリア周波数間の間隔は、等間隔に設定された。
【0080】
更に、発信源60は、水平面内無指向性、かつ、垂直偏波の電波を放射する。
【0081】
図7は、150度および180度の方向における図1に示すアレーアンテナ10のビームパターンを示す図である。アレーアンテナ10の指向性を150度の方向に設定する場合、バラクタダイオード11〜16の容量は、それぞれ、13.4[pF]、13.4[pF]、0.645[pF]、0.645[pF]、13.4[pF]、13.4[pF]に設定される。また、アレーアンテナ10の指向性を180度の方向に設定する場合、バラクタダイオード11〜16の容量は、それぞれ、13.4[pF]、13.4[pF]、13.4[pF]、0.59[pF]、13.4[pF]、13.4[pF]に設定される。
【0082】
図7に示すように、150度および180度の方向において、キャリア周波数を2404MHz〜2484MHzの範囲で変化させても、ビームパターンは殆ど同じである。即ち、アレーアンテナ10は、2404MHz〜2484MHzの範囲にキャリア周波数を有する電波をほぼ同じアンテナ特性によって受信可能である。
【0083】
表4に、3dBビーム幅、F/B比、および隣接ビーム識別度を示す。
【0084】
【表4】
【0085】
表4の結果から、2404MHz〜2484MHzの全周波数帯において概ね同じビームパターンになっていることがわかる。
【0086】
図8は、キャリア周波数が16個である場合における受信電力と距離との関係図である。図8において、縦軸は、受信電力、すなわち、受信電波強度を表わし、横軸は、アレーアンテナ10と発信源60との距離を表わす。
【0087】
図8における実線および複数の点線は、12個の方向を示す。そして、実線および複数の点線の各々は、上述した周波数スムージング法によって受信電波強度を求めたものである。
【0088】
その結果、アレーアンテナ10と発信源60との間の距離が2m〜4mの範囲において、実線によって表わされる受信電波強度は、点線によって表わされる受信電波強度以上である。したがって、実線によって表わされる受信電波強度が得られる方向が直接波の到来方向である。
【0089】
キャリア周波数が1個である場合、図15に示すように、アレーアンテナ10と発信源60との間の距離が2m〜4mの範囲において直接波の受信電波強度が反射波の受信電波強度よりも弱くなる領域が存在していたが、キャリア周波数が16個である場合には、アレーアンテナ10と発信源60との間の距離が2m〜4mの全範囲において、直接波の受信電波強度は、反射波の受信電波強度以上である。したがって、周波数スムージング法を用いることによって、反射波の影響を抑制して直接波の到来方向を推定できることがわかった。
【0090】
図9は、キャリア周波数が1個である場合の推定角度誤差分布図である。図10は、16個のキャリア周波数を用いた周波数選択法によって到来方向を推定した場合の推定角度誤差分布図である。図11は、16個のキャリア周波数を用いた周波数スムージング法によって到来方向を推定した場合の推定角度誤差分布図である。
【0091】
図9、図10および図11に示す場合においては、発信源60は、座標[5m,5m,1m]に固定され、アレーアンテナ10は、1mの高さを保持しながらx座標およびy座標が10cm毎に変えられた。したがって、図9、図10および図11におけるx−y平面の中心[50,50]に発信源60が設置されている。また、図9、図10および図11においては、白い部分は、角度誤差が15度以下であることを表わし、黒い部分は、角度誤差が15度よりも大きいことを表わす。
【0092】
キャリア周波数が1個である場合、2484MHzのキャリア周波数が用いられた。発信源60が2484MHzの電波を放射した場合、発信源60から2m以内の距離では、角度誤差が15度以下となる領域が大半を占めているが、発信源60から2m以上になると、角度誤差が15度以下である領域が減少し、大部分が発信源60の正しい方向を推定できなくなる(図9参照)。
【0093】
キャリア周波数が16個である周波数選択法を用いた場合、特定の領域および四隅は、角度誤差が大きいが、角度誤差が15度以下である領域は、キャリア周波数が1個である場合に比べ拡大している(図10参照)。
【0094】
更に、キャリア周波数が16個である周波数スムージング法を用いた場合、周波数選択法と同様に、特定の領域および四隅は、角度誤差が大きいが、角度誤差が15度以下である領域は、周波数選択法を用いた場合に比べ拡大している(図11参照)。
【0095】
このように、周波数選択法および周波数スムージング法を用いることによって、直接波の到来方向を精度良く推定できる。
【0096】
次に、累積確率と角度誤差との関係について説明する。図12は、周波数選択法を用いた場合における累積確率と角度誤差との関係図である。また、図13は、周波数スムージング法を用いた場合における累積確率と角度誤差との関係図である。
【0097】
図12および図13においては、キャリア周波数は、1個、2個、4個、8個、16個および32個と変えられた。また、図12および図13において、縦軸は、累積確率を表し、横軸は、角度誤差を表わす。
【0098】
周波数選択法を用いた場合、1個のキャリア周波数では、推定角度誤差が15度以内の累積確率は、30%であるが、キャリア周波数が増加するに伴って15度以内の累積確率は、改善される。そして、キャリア周波数が8個以上では、15度以内の累積確率は、ほぼ飽和し、32個のキャリア周波数では、15度以内の累積確率は42%となる(図12参照)。
【0099】
15度以内の累積確率が8個以上のキャリア周波数でほぼ飽和するのは、キャリア周波数の間隔が狭いため、受信電波強度の落ち込みが低減され難いためである。
【0100】
周波数スムージング法を用いた場合、キャリア周波数の増加に伴って15度以内の累積確率は、改善され、32個のキャリア周波数では、15度以内の累積確率は、60%に達する。そして、周波数スムージング法を用いた場合、15度以内の累積確率は、キャリア周波数が1個である場合に比べ2倍、周波数選択法に比べ1.4倍に改善される。また、15度以内の累積確率が8個以上のキャリア周波数でほぼ飽和する理由は、周波数選択法の場合と同じである。
【0101】
このように、キャリア周波数を増加することによって、推定角度誤差を低減できる。
【0102】
図14は、キャリア間隔を変えた場合の累積確率と角度誤差との関係図である。図14において、縦軸は、累積確率を表し、横軸は、角度誤差を表わす。また、キャリア周波数は8個に固定され、キャリア間隔は、0.5MHzから11.4MHzまでの範囲で変えられた。
【0103】
キャリア間隔の増加に伴って、累積確率は、改善され、5MHz以上で飽和する傾向を示す。
【0104】
これらの結果から、マルチパスの影響が大きい環境下では、ある程度、キャリア間隔を取り、周波数スムージング法を用いることによって、推定角度誤差を改善できることがわかった。
【0105】
上述したように、この発明による周波数スムージング法または周波数選択法を用いることによって、発信源60からの直接波の到来方向を反射波の影響を抑制して精度良く推定できる。
【0106】
なお、この発明においては、アレーアンテナ10は、7本のアンテナ素子からなるものに限らず、1本の給電素子と、1本以上の無給電素子とからなる2本以上のアンテナ素子から構成されていればよい。
【0107】
また、キャリア周波数は、多い方向が良いが図12および図13に示すようにキャリア周波数が2個以上において推定角度誤差が15度以下となる累積確率が改善されているので、キャリア周波数は、2個以上であればよい。
【0108】
更に、到来方向推定装置100は、アレーアンテナ10に限らず、複数のアンテナ素子を直線状に配列した指向性を切換え可能なアンテナを搭載していてもよく、指向性が切換え可能なアンテナであれば、どのようなアンテナを搭載していてもよい。
【0109】
更に、アレーアンテナ10および指向性切換手段20は、「アンテナ装置」を構成する。
【0110】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0111】
この発明は、マルチパス環境下でも直接波の到来方向を正確に推定可能な直接波到来方向推定装置に適用される。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】この発明の実施の形態による到来方向推定装置の概略図である。
【図2】図1に示すx−y平面におけるアンテナ素子の平面配置図である。
【図3】キャリア周波数が異なる3つの電波に対応する3つの受信電波強度のプロファイルである。
【図4】周波数スムージング法により直接波の到来方向を推定する動作を説明するためのフローチャートである。
【図5】周波数選択法により直接波の到来方向を推定する動作を説明するためのフローチャートである。
【図6】シミュレーションに用いた電波空間を示す模式図である。
【図7】150度および180度の方向における図1に示すアレーアンテナのビームパターンを示す図である。
【図8】キャリア周波数が16個である場合における受信電力と距離との関係図である。
【図9】キャリア周波数が1個である場合の推定角度誤差分布図である。
【図10】16個のキャリア周波数を用いた周波数選択法によって到来方向を推定した場合の推定角度誤差分布図である。
【図11】16個のキャリア周波数を用いた周波数スムージング法によって到来方向を推定した場合の推定角度誤差分布図である。
【図12】周波数選択法を用いた場合における累積確率と角度誤差との関係図である。
【図13】周波数スムージング法を用いた場合における累積確率と角度誤差との関係図である。
【図14】キャリア間隔を変えた場合の累積確率と角度誤差との関係図である。
【図15】キャリア周波数が1個である場合における直接波および反射波の受信電力の分布を示す分布図である。
【符号の説明】
【0113】
1〜7 アンテナ素子、10 アレーアンテナ、11〜16 バラクタダイオード、20 指向性切換手段、30 電波強度検出手段、40 方向推定手段、50 部屋、60 発信源、100 到来方向推定装置。
【技術分野】
【0001】
この発明は、コヒーレント波の直接波の到来方向を推定する直接波到来方向推定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
屋内および地下街等の電波がマルチパスを経由して伝搬する環境下では、複数の反射波が様々な方向から到来する。この場合、反射波と直接波とは、位相が異なるだけのコヒーレント波となる。
【0003】
このようなコヒーレント波からなる反射波および直接波の到来方向を推定する方法として、アンテナから放射するビームの方向を変えて電波を受信し、その受信した電波の受信電波強度が最大になる方向を直接波の到来方向と推定する方法が知られている(非特許文献1)。
【非特許文献1】古樋 知重、橋口 正哉、大平 孝、浅田 峯夫、岡田 敏美,”腕時計型マイクロ波ビーコンと携帯型電波到来方向探知機の雪中実験”,信学論(B),Vol.186−B,No.2,pp219−225,Feb.2003.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、非特許文献1に記載された到来方向推定方法では、電波のキャリア周波数が1個であるため、直接波の受信電波強度が反射波の受信電波強度よりも弱くなる領域が存在し、直接波の到来方向を正確に推定することが困難であるという問題がある。
【0005】
図15は、キャリア周波数が1個である場合における直接波および反射波の受信電力の分布を示す分布図である。図15において、縦軸は、受信電力を表し、横軸は、発信源と到来方向推定装置との距離を表す。また、太線は、直接波の受信電力の分布を表し、点線は、反射波の受信電力の分布を表す。更に、破線は、反射波がない場合の受信電力の分布を表す。
【0006】
図15から明らかなように、2.4m、3.5mおよび3.7〜3.8mにおいて、直接波の受信電力は、反射波の受信電力よりも大きく低下している。これは、マルチパス環境下においては、複数の反射波は、相互に干渉し、直接波よりも強くなることがあるからである。
【0007】
このように、電波のキャリア周波数を1個にした場合、直接波の受信電力よりも反射波の受信電力の方が強くなる領域が存在し、直接波の到来方向を正確に推定することが困難である。
【0008】
そこで、この発明は、かかる問題を解決するためになされたものであり、その目的は、マルチパス環境下でも直接波の到来方向を正確に推定可能な直接波到来方向推定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明によれば、直接波到来方向推定装置は、電波が反射および/または回折するマルチパス環境下において発信源から到来する直接波の到来方向を推定する直接波到来方向推定装置であって、アンテナ装置と、方向推定手段とを備える。アンテナ装置は、発信源の設置面に略平行な水平面内において指向性をn(nは2以上の整数)個の方向に切換えて各方向毎に発信源からのキャリア周波数が異なるm(mは2以上の整数)個の電波を受信する。方向推定手段は、指向性が1つの方向に設定されたときにアンテナ装置によって受信されたmの電波に対応するm個の受信電波強度に基づいて反射および/または回折の影響を抑制して1つの方向における受信電波強度を検出することによりn個の方向におけるn個の受信電波強度を検出し、その検出したn個の受信電波強度のうち受信電波強度が最大となる方向を直接波の到来方向と推定する。
【0010】
好ましくは、方向推定手段は、m個の受信電波強度のうち最大の受信電波強度を1つの方向における受信電波強度として検出する。
【0011】
好ましくは、方向推定手段は、m個の受信電波強度の平均値を1つの方向における受信電波強度として検出する。
【0012】
好ましくは、アンテナ装置は、給電素子と、少なくとも1つの無給電素子と、少なくとも1つの無給電素子に装荷された可変容量素子の容量を変化させ、指向性をn個の方向に切換える指向性切換手段とを含む。
【発明の効果】
【0013】
この発明による直接波到来方向推定装置は、アンテナ装置の指向性を複数の方向に順次切換え、各方向において発信源からキャリア周波数が異なる複数の電波を受信する。そして、直接波到来方向推定装置は、その受信したキャリア周波数が異なる複数の電波に対応する複数の受信電波強度に基づいて、電波の反射および/または回折の影響を抑制して各方向における受信電波強度を検出し、その検出した複数の方向における複数の受信電波強度のうち最大の受信電波強度が得られる方向を直接波の到来方向と推定する。
【0014】
したがって、この発明によれば、マルチパス環境下でも直接波の到来方向を正確に推定できる。
【0015】
また、この発明による直接波到来方向推定装置は、キャリア周波数が異なる複数の電波に対応する複数の受信電波強度のうち、最大の受信電波強度を各方向における受信電波強度として検出する。
【0016】
さらに、この発明による直接波到来方向推定装置は、キャリア周波数が異なる複数の電波に対応する複数の受信電波強度の平均値を各方向における受信電波強度として検出する。
【0017】
したがって、この発明によれば、簡単な構成によって電波の反射および/または回折の影響を抑制して直接波の到来方向を精度良く推定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0019】
図1は、この発明の実施の形態による到来方向推定装置の概略図である。図1を参照して、この発明の実施の形態による到来方向推定装置100は、アレーアンテナ10と、指向性切換手段20と、電波強度検出手段30と、方向推定手段40とを備える。なお、到来方向推定装置100は、電波が反射および/または回折するマルチパス環境下において発信源からの直接波の到来方向を推定する装置である。
【0020】
アレーアンテナ10は、アンテナ素子1〜7と、バラクタダイオード11〜16とを含む。アンテナ素子1〜7は、x軸、y軸およびz軸からなるxyz直交座標におけるz軸に沿ってx−y平面(所定平面)に配置される。なお、この発明においては、図1に示すx−y平面内における方角を示す方位角を有するコヒーレント波を到来方向推定の対象とする。即ち、発信源の設置面に略平行な水平面内における方位角を有するコヒーレント波を到来方向推定の対象とする。
【0021】
図2は、図1に示すx−y平面におけるアンテナ素子1〜7の平面配置図である。図2を参照して、アンテナ素子1〜6は、アンテナ素子7を中心にして等間隔に円形に配置される。
【0022】
再び、図1を参照して、アンテナ素子1〜6は、無給電素子であり、アンテナ素子7は、給電素子である。バラクタダイオード11〜16は、それぞれ、アンテナ素子1〜6と接地ノードとの間に接続される。これによって、無給電素子であるアンテナ素子1〜6には、可変容量素子であるバラクタダイオード11〜16がそれぞれ装荷される。
【0023】
このように、アレーアンテナ10は、1本の給電素子(アンテナ素子7)と、6本の無給電素子(アンテナ素子1〜6)とからなる7本のアンテナ素子が給電素子を中心にして円形に配置された構造からなる。
【0024】
指向性切換手段20は、バラクタダイオード11〜16に制御電圧セットCVL1〜CVL6を供給し、アレーアンテナ10の指向性を切換える。バラクタダイオード11〜16は、それぞれ、制御電圧CVL1〜CVL6によって容量(リアクタンス値)が変化する。指向性切換手段20は、各バラクタダイオード11〜16におけるリアクタンス値が“hi”または“lo”になるように各制御電圧CVL1〜CVL6の電圧値を決定し、制御電圧セットCVL1〜CVL6をバラクタダイオード11〜16へ供給する。
【0025】
この場合、指向性切換手段20は、バラクタダイオード11〜16におけるリアクタンス値xm1〜xm6のセットxmが表1に示すように変化するように制御電圧セットCVL1〜CVL6をバラクタダイオード11〜16へ供給する。
【0026】
【表1】
【0027】
リアクタンス値xm1が“lo”であり、リアクタンス値xm2〜xm6が“hi”であるとき(i=1)、アレーアンテナ10は、0度の方向(図2に示すx軸の正方向を0度の方向とする)に指向性があるビームパターンBP1を有する。
【0028】
また、リアクタンス値xm1,xm2が“lo”であり、リアクタンス値xm3〜xm6が“hi”であるとき(i=2)、アレーアンテナ10は、30度の方向に指向性があるビームパターンBP2を有する。
【0029】
さらに、リアクタンス値xm2が“lo”であり、リアクタンス値xm1,xm3〜xm6が“hi”であるとき(i=3)、アレーアンテナ10は、60度の方向に指向性があるビームパターンBP3を有する。
【0030】
以下、同様にして、リアクタンス値xm1〜xm6を表1に従って切換えたとき(i=4〜12)、アレーアンテナ10は、90度、120度、150度、180度、210度、240度、270度、300度および330度の方向に指向性があるビームパターンBP4〜BPM12を有する(図2参照)。
【0031】
このように、指向性切換手段20は、無給電素子であるアンテナ素子1〜6に装荷されたバラクタダイオード11〜16のリアクタンス値xm1〜xm6を変えることによってアレーアンテナ10の指向性を切換える。
【0032】
到来方向推定装置100が発信源(図示せず)からの直接波の到来方向を推定するとき、アレーアンテナ10は、その指向性を上述した12個の方向に順次切換え、各方向においてキャリア周波数が異なる16個の電波を発信源から受信する。
【0033】
電波強度検出手段30は、アレーアンテナ10が受信した電波をアレーアンテナ10の給電素子7から受け、その受けた電波の受信電波強度RSSIを検出して方向推定手段40へ出力する。
【0034】
より具体的には、電波強度検出手段30は、指向性が0度の方向に設定されたときアレーアンテナ10によって受信された16個の電波WV1_1〜WV1_16を給電素子7から受け、その受けた16個の電波WV1_1〜WV1_16に対応する16個の受信電波強度R1_1〜R1_16を検出して方向推定手段40へ出力する。
【0035】
また、電波強度検出手段30は、指向性が30度の方向に設定されたときにアレーアンテナ10によって受信された16の電波WV2_1〜WV2_16を給電素子7から受け、その受けた16個の電波WV2_1〜WV2_16に対応する16個の受信電波強度R2_1〜R2_16を検出して方向推定手段40へ出力する。
【0036】
以下、同様にして、電波強度検出手段30は、指向性がθ(60度、90度、120度、150度、180度、210度、240度、270度、300度および330度)の方向に設定されたときにアレーアンテナ10によって受信された16個の電波WVi_1〜WVi_16(i=3〜12)を給電素子7から受け、その受けた16個の電波WVi_1〜WVi_16に対応する16個の受信電波強度Ri_1〜Ri_16を検出して方向推定手段40へ出力する。
【0037】
方向推定手段40は、電波強度検出手段30から受信電波強度R1_1〜R1_16,・・・,R12_1〜R12_16を受ける。そして、方向推定手段40は、アレーアンテナ10の指向性が0度の方向、30度の方向、・・・、330度の方向の順序で切換えられることが予め解っているので、電波強度検出手段30から受けた受信電波強度R1_1〜R1_16,・・・,R12_1〜R12_16を各方向に対応付ける。即ち、方向推定手段40は、表2に示す受信電波強度テーブルを作成する。
【0038】
【表2】
【0039】
そして、方向推定手段40は、16個の受信電波強度Ri_1〜Ri_16(i=1〜12)に基づいて、電波の反射および/または回折による影響を抑制して各方向における受信電波強度Riを検出する。
【0040】
より具体的には、方向推定手段40は、16個の受信電波強度Ri_1〜Ri_16の平均値を演算することにより各方向における受信電波強度Riを検出する。
【0041】
そして、方向推定手段40は、検出した12個の受信電波強度R1〜R12のうち、最大の受信電波強度を直接波の到来方向と推定する。
【0042】
電波のキャリア周波数が異なれば、直接波と反射波との位相関係が変化するので、受信電波強度が弱くなる位置がキャリア周波数によって異なる。図3は、キャリア周波数が異なる3つの電波に対応する3つの受信電波強度のプロファイルである。図3において、縦軸は、受信電波強度を表し、横軸は、発信源との距離を表わす。そして、図3に示す受信電波強度のプロファイルは、アレーアンテナ10の指向性をある1つの方向に設定した場合のプロファイルである。
【0043】
受信電波強度R1〜R3は、それぞれ、キャリア周波数が異なる3つの電波WV1〜WV3に対応する受信電波強度である。受信電波強度R1〜R3は、最大となる距離および最小となる距離が相互に異なる。
【0044】
このように、キャリア周波数が異なれば、受信電波強度が弱くなる距離(位置)が異なる。
【0045】
受信電波強度R1〜R3の平均値Ravを演算すると、平均値Ravには、受信電波強度R1〜R3のように、強度が大きく低下する距離(位置)が存在しない。
【0046】
これは、強度が大きく低下する距離(位置)が相互に異なる受信電波強度R1〜R3を加算することによって、受信電波強度R1(またはR2またはR3)において強度が大きく低下する距離(位置)が他の受信電波強度R2,R3(またはR3,R1またはR1,R2)によって除去されるからである。
【0047】
したがって、キャリア周波数が異なる16個の電波WVi_1〜WVi_16に対応する受信電波強度Ri_1〜Ri_16の平均値Riを演算することにより、電波の反射および/または回折によって生じた受信電波強度の大きな低下を除去できる。つまり、16個の受信電波強度Ri_1〜Ri_16の平均値Riを演算することにより、電波の反射および/または回折による影響を抑制して各方向における受信電波強度を検出できる。
【0048】
図3は、発信源との距離に対して受信電波強度R1〜R3およびその平均値Ravがどのように変化するかを示すが、例えば、発信源との距離がx1である位置においてアレーアンテナ10が発信源からキャリア周波数が異なる3つの電波WV1〜WV3を受信する場合を想定する。
【0049】
この場合、受信電波強度R1は大きく低下し、受信電波強度R2,R3は大きく低下しないので、アレーアンテナ10は、電波WV1を受信電波強度が弱い電波として受信し、電波WV1,WV2を受信電波強度が強い電波として受信する。そして、電波WV1〜WV3に対応する受信電波強度R1〜R3の平均値を演算することによって、受信電波強度R1における大きな低下を受信電波強度R2,R3によって除去して距離(位置)x1での所定の方向における受信電波強度を検出できる。この方法を距離(位置)x1において、アレーアンテナ10の指向性を各方向に設定したときに適用すれば、距離(位置)x1における各方向に対する受信電波強度を、受信電波強度R1における大きな低下を受信電波強度R2,R3によって除去して検出できる。
【0050】
したがって、アレーアンテナ10が設置された各位置において、キャリア周波数が異なる複数の電波に対応する複数の受信電波強度の平均値を演算することは、電波の反射および/または回折の影響を抑制して受信電波強度を検出することに有効である。
【0051】
そこで、この発明においては、各方向においてアレーアンテナ10によって受信された16個の受信電波強度Ri_1〜Ri_16の平均値を演算して各方向における受信電波強度Riを検出することにしたものである。
【0052】
12個の方向における12個の受信電波強度のうち、受信電波強度が最大である方向を直接波の到来方向と推定することにしたのは、直接波は、発信源からアレーアンテナ10へ最短の経路を直進するので、壁、天井および床等によって多重反射される反射波および障害物等によって回折する回折波よりも受信電波強度が強くなるからである。
【0053】
なお、キャリア周波数が異なる複数の電波に対応する複数の受信電波強度の平均値を演算して各方向における受信電波強度を検出し、その検出した複数の受信電波強度のうち最大の受信電波強度が得られる方向を直接波の到来方向と推定する方法を「周波数スムージング法」と呼ぶ。
【0054】
この発明においては、方向推定手段40は、電波強度検出手段30から受けた受信電波強度R1_1〜R1_16,・・・,R12_1〜R12_16に基づいて、周波数スムージング法以外の方向によって直接波の到来方向を推定してもよい。
【0055】
即ち、方向推定手段40は、各方向における16個の受信電波強度Ri_1〜Ri_16のうち、最大の受信電波強度Ri_maxを各方向における受信電波強度Riとして検出し、その検出した12個の受信電波強度R1〜R12のうち、最大の受信電波強度が得られる方向を直接波の到来方向と推定する。なお、この方法を「周波数選択法」と呼ぶ。
【0056】
より具体的には、方向推定手段40は、受信電波強度R1_1〜R1_16のうち、最大の受信電波強度R1_maxを検出し、受信電波強度R2_1〜R2_16のうち、最大の受信電波強度R2_maxを検出し、以下、同様にして受信電波強度Ri_1〜Ri_16(i=3〜12)のうち、最大の受信電波強度Ri_maxを検出する。そして、方向推定手段40は、12個の受信電波強度R1_max〜R12_maxのうち、最大の受信電波強度(R1_max〜R12_maxのいずれか)が得られる方向を直接波の到来方向と推定する。
【0057】
各方向における16個の受信電波強度Ri_1〜Ri_16(i=1〜12)のうち、最大の受信電波強度Ri_maxを検出することは、電波の反射および/または回折の影響を抑制して受信電波強度を検出することに相当する。理由は、次のとおりである。
【0058】
上述したように、キャリア周波数が異なれば、直接波と反射波との位相関係が異なるため、各方向において受信電波強度Ri_1〜Ri_16が直接波と反射波とが重なり合った電波の受信電波強度として検出されたとしても、受信電波強度Ri_1〜Ri_16は、相互に異なる強度を有する。即ち、受信電波強度Ri_1〜Ri_16は、直接波と反射波との位相関係が逆である場合の強度(最小強度)から直接波と反射波とが同位相である場合の強度(最大強度)までの範囲に分布する。
【0059】
そして、受信電波強度Ri_1〜Ri_16のうち、最大の受信電波強度Ri_maxは、直接波の受信電波強度を強めるように直接波と反射波とが重なり合っている場合、または直接波の受信電波強度を弱めるように直接波と反射波とが重なり合っていても受信電波強度を弱める度合が最も小さい場合に検出される。
【0060】
したがって、16個の受信電波強度Ri_1〜Ri_16のうち、最大の受信電波強度Ri_maxを検出することは、電波の反射および/または回折の影響を抑制して受信電波強度を検出することに相当する。
【0061】
図4は、周波数スムージング法により直接波の到来方向を推定する動作を説明するためのフローチャートである。一連の動作が開始されると、到来方向推定装置100の指向性切換手段20は、i=1を設定し(ステップS1)、アレーアンテナ10の指向性を方向Di(i=1、即ち、0度の方向)に設定する(ステップS2)。
【0062】
そして、方向推定手段40は、j=1を設定する(ステップS3)。その後、発信源は、キャリア周波数fjの電波WVi_jをx−y平面においてオムニパターンで放射する。そして、アレーアンテナ10は、発信源からの電波WVi_jを受信し(ステップS4)、電波強度検出手段30は、アレーアンテナ10の給電素子7から電波WVi_jを受け、その受けた電波WVi_jの受信電波強度Ri_jを検出し(ステップS5)、その検出した受信電波強度Ri_jを方向推定手段40へ出力する。
【0063】
方向推定手段40は、電波強度検出手段30から受けた受信電波強度Ri_jを保持するとともに、j=16であるか否かを判定する(ステップS6)。そして、j=16でないとき、方向推定手段40は、j=j+1を設定する(ステップS7)。その後、ステップS6において、j=16であると判定されるまで、上述したステップS4〜ステップS7が繰返し実行される。
【0064】
ステップS6において、j=16であると判定されると、1つの方向における16個の受信電波強度Ri_1〜Ri_16が検出されたことになり(ステップS8)、方向推定手段40は、1つの方向(0度の方向)に対応付けて16個の受信電波強度Ri_1〜Ri_16を記憶する。
【0065】
その後、指向性切換手段20は、i=12であるか否かを判定し(ステップS9)、i=12でないとき、i=i+1を設定する(ステップS10)。そして、ステップS9において、i=12であると判定されるまで、上述したステップS2〜ステップS10が繰返し実行される。
【0066】
ステップS10において、i=12であると判定されると、12個の方向に対応して、16個の受信電波強度R1_1〜R1_16,・・・,R12_1〜R12_16が検出されたことになる(ステップS11)。
【0067】
そして、方向推定手段40は、受信電波強度R1_1〜R1_16,・・・,R12_1〜R12_16に基づいて、各方向における平均値Ri_aveを演算し(ステップS12)、その演算した12個の平均値R1_ave〜R12_aveのうち、最大の受信電波強度が得られる方向を直接波の到来方向と推定する(ステップS13)。これにより、一連の動作は終了する。
【0068】
図5は、周波数選択法により直接波の到来方向を推定する動作を説明するためのフローチャートである。図5に示すフローチャートは、図4に示すフローチャートのステップS12,S13をそれぞれステップS12A,S13Aに代えたものであり、その他は、図4に示すフローチャートと同じである。
【0069】
12個の方向に対応して、16個の受信電波強度R1_1〜R1_16,・・・,R12_1〜R12_16が検出されると(ステップS11)、方向推定手段40は、各方向において、受信電波強度Ri_1〜Ri_16のうち、最大の受信電波強度Ri_maxを検出する(ステップS12A)。
【0070】
即ち、方向推定手段40は、0度の方向において、受信電波強度R1_1〜R1_16のうち、最大の受信電波強度R1_maxを検出し、30度の方向において、受信電波強度R2_1〜R2_16のうち、最大の受信電波強度R2_maxを検出し、以下、同様にして、θ(60度、90度、120度、150度、180度、210度、240度、270度、300度および330度)の方向において、受信電波強度Ri_1〜Ri_16(i=3〜12)のうち、最大の受信電波強度Ri_max(i=3〜12)を検出する。
【0071】
そして、方向推定手段40は、12個の受信電波強度R1_max〜R12_maxをそれぞれ12個の方向における受信電波強度とし、12個の受信電波強度R1_max〜R12_maxのうち、最大の受信電波強度が得られる方向を直接波の到来方向と推定する(ステップS13A)。これにより、一連の動作は終了する。
【0072】
このように、この発明においては、到来方向推定装置100は、アレーアンテナ10の指向性を12個の方向に順次切換え、指向性を各方向に設定したときに発信源からキャリア周波数が異なる複数の電波を受信し、キャリア周波数が異なる複数の電波に対応する複数の受信電波強度に基づいて電波の反射および/または回折の影響を抑制して各方向における受信電波強度を検出する。そして、到来方向推定装置100は、複数の方向における複数の受信電波強度のうち、最大の受信電波強度が得られる方向を直接波の到来方向と推定する。
【0073】
上述した周波数スムージング法および周波数選択法による到来方向の推定をシミュレーションした結果について説明する。
【0074】
図6は、シミュレーションに用いた電波空間を示す模式図である。10m×10m×3mの直方体の部屋50の1つの隅Aをxyz座標の原点とした。アレーアンテナ10は、座標[x,y,1m]に設置され、発信源60は、座標[5m,5m,1m]に固定された。部屋50は、コンクリート壁によって囲まれている。
【0075】
そして、アレーアンテナ10の高さを1mに保持したまま、アレーアンテナ10をx−y平面内で順次移動させ、発信源60からの直接波の到来方向を推定した。
【0076】
シミュレーションの各条件を表3に示す。
【0077】
【表3】
【0078】
部屋50のコンクリート壁による電波の反射は、8回とし、フレネル係数で各反射波の振幅に重み付けを行なった。
【0079】
また、発信源60が放射する電波の周波数帯は、2404MHz〜2484MHzまでの範囲であり、キャリア周波数の個数は、1個、2個、4個、8個、16個および32個と変えられた。キャリア周波数が2個以上の場合、各キャリア周波数間の間隔は、等間隔に設定された。
【0080】
更に、発信源60は、水平面内無指向性、かつ、垂直偏波の電波を放射する。
【0081】
図7は、150度および180度の方向における図1に示すアレーアンテナ10のビームパターンを示す図である。アレーアンテナ10の指向性を150度の方向に設定する場合、バラクタダイオード11〜16の容量は、それぞれ、13.4[pF]、13.4[pF]、0.645[pF]、0.645[pF]、13.4[pF]、13.4[pF]に設定される。また、アレーアンテナ10の指向性を180度の方向に設定する場合、バラクタダイオード11〜16の容量は、それぞれ、13.4[pF]、13.4[pF]、13.4[pF]、0.59[pF]、13.4[pF]、13.4[pF]に設定される。
【0082】
図7に示すように、150度および180度の方向において、キャリア周波数を2404MHz〜2484MHzの範囲で変化させても、ビームパターンは殆ど同じである。即ち、アレーアンテナ10は、2404MHz〜2484MHzの範囲にキャリア周波数を有する電波をほぼ同じアンテナ特性によって受信可能である。
【0083】
表4に、3dBビーム幅、F/B比、および隣接ビーム識別度を示す。
【0084】
【表4】
【0085】
表4の結果から、2404MHz〜2484MHzの全周波数帯において概ね同じビームパターンになっていることがわかる。
【0086】
図8は、キャリア周波数が16個である場合における受信電力と距離との関係図である。図8において、縦軸は、受信電力、すなわち、受信電波強度を表わし、横軸は、アレーアンテナ10と発信源60との距離を表わす。
【0087】
図8における実線および複数の点線は、12個の方向を示す。そして、実線および複数の点線の各々は、上述した周波数スムージング法によって受信電波強度を求めたものである。
【0088】
その結果、アレーアンテナ10と発信源60との間の距離が2m〜4mの範囲において、実線によって表わされる受信電波強度は、点線によって表わされる受信電波強度以上である。したがって、実線によって表わされる受信電波強度が得られる方向が直接波の到来方向である。
【0089】
キャリア周波数が1個である場合、図15に示すように、アレーアンテナ10と発信源60との間の距離が2m〜4mの範囲において直接波の受信電波強度が反射波の受信電波強度よりも弱くなる領域が存在していたが、キャリア周波数が16個である場合には、アレーアンテナ10と発信源60との間の距離が2m〜4mの全範囲において、直接波の受信電波強度は、反射波の受信電波強度以上である。したがって、周波数スムージング法を用いることによって、反射波の影響を抑制して直接波の到来方向を推定できることがわかった。
【0090】
図9は、キャリア周波数が1個である場合の推定角度誤差分布図である。図10は、16個のキャリア周波数を用いた周波数選択法によって到来方向を推定した場合の推定角度誤差分布図である。図11は、16個のキャリア周波数を用いた周波数スムージング法によって到来方向を推定した場合の推定角度誤差分布図である。
【0091】
図9、図10および図11に示す場合においては、発信源60は、座標[5m,5m,1m]に固定され、アレーアンテナ10は、1mの高さを保持しながらx座標およびy座標が10cm毎に変えられた。したがって、図9、図10および図11におけるx−y平面の中心[50,50]に発信源60が設置されている。また、図9、図10および図11においては、白い部分は、角度誤差が15度以下であることを表わし、黒い部分は、角度誤差が15度よりも大きいことを表わす。
【0092】
キャリア周波数が1個である場合、2484MHzのキャリア周波数が用いられた。発信源60が2484MHzの電波を放射した場合、発信源60から2m以内の距離では、角度誤差が15度以下となる領域が大半を占めているが、発信源60から2m以上になると、角度誤差が15度以下である領域が減少し、大部分が発信源60の正しい方向を推定できなくなる(図9参照)。
【0093】
キャリア周波数が16個である周波数選択法を用いた場合、特定の領域および四隅は、角度誤差が大きいが、角度誤差が15度以下である領域は、キャリア周波数が1個である場合に比べ拡大している(図10参照)。
【0094】
更に、キャリア周波数が16個である周波数スムージング法を用いた場合、周波数選択法と同様に、特定の領域および四隅は、角度誤差が大きいが、角度誤差が15度以下である領域は、周波数選択法を用いた場合に比べ拡大している(図11参照)。
【0095】
このように、周波数選択法および周波数スムージング法を用いることによって、直接波の到来方向を精度良く推定できる。
【0096】
次に、累積確率と角度誤差との関係について説明する。図12は、周波数選択法を用いた場合における累積確率と角度誤差との関係図である。また、図13は、周波数スムージング法を用いた場合における累積確率と角度誤差との関係図である。
【0097】
図12および図13においては、キャリア周波数は、1個、2個、4個、8個、16個および32個と変えられた。また、図12および図13において、縦軸は、累積確率を表し、横軸は、角度誤差を表わす。
【0098】
周波数選択法を用いた場合、1個のキャリア周波数では、推定角度誤差が15度以内の累積確率は、30%であるが、キャリア周波数が増加するに伴って15度以内の累積確率は、改善される。そして、キャリア周波数が8個以上では、15度以内の累積確率は、ほぼ飽和し、32個のキャリア周波数では、15度以内の累積確率は42%となる(図12参照)。
【0099】
15度以内の累積確率が8個以上のキャリア周波数でほぼ飽和するのは、キャリア周波数の間隔が狭いため、受信電波強度の落ち込みが低減され難いためである。
【0100】
周波数スムージング法を用いた場合、キャリア周波数の増加に伴って15度以内の累積確率は、改善され、32個のキャリア周波数では、15度以内の累積確率は、60%に達する。そして、周波数スムージング法を用いた場合、15度以内の累積確率は、キャリア周波数が1個である場合に比べ2倍、周波数選択法に比べ1.4倍に改善される。また、15度以内の累積確率が8個以上のキャリア周波数でほぼ飽和する理由は、周波数選択法の場合と同じである。
【0101】
このように、キャリア周波数を増加することによって、推定角度誤差を低減できる。
【0102】
図14は、キャリア間隔を変えた場合の累積確率と角度誤差との関係図である。図14において、縦軸は、累積確率を表し、横軸は、角度誤差を表わす。また、キャリア周波数は8個に固定され、キャリア間隔は、0.5MHzから11.4MHzまでの範囲で変えられた。
【0103】
キャリア間隔の増加に伴って、累積確率は、改善され、5MHz以上で飽和する傾向を示す。
【0104】
これらの結果から、マルチパスの影響が大きい環境下では、ある程度、キャリア間隔を取り、周波数スムージング法を用いることによって、推定角度誤差を改善できることがわかった。
【0105】
上述したように、この発明による周波数スムージング法または周波数選択法を用いることによって、発信源60からの直接波の到来方向を反射波の影響を抑制して精度良く推定できる。
【0106】
なお、この発明においては、アレーアンテナ10は、7本のアンテナ素子からなるものに限らず、1本の給電素子と、1本以上の無給電素子とからなる2本以上のアンテナ素子から構成されていればよい。
【0107】
また、キャリア周波数は、多い方向が良いが図12および図13に示すようにキャリア周波数が2個以上において推定角度誤差が15度以下となる累積確率が改善されているので、キャリア周波数は、2個以上であればよい。
【0108】
更に、到来方向推定装置100は、アレーアンテナ10に限らず、複数のアンテナ素子を直線状に配列した指向性を切換え可能なアンテナを搭載していてもよく、指向性が切換え可能なアンテナであれば、どのようなアンテナを搭載していてもよい。
【0109】
更に、アレーアンテナ10および指向性切換手段20は、「アンテナ装置」を構成する。
【0110】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0111】
この発明は、マルチパス環境下でも直接波の到来方向を正確に推定可能な直接波到来方向推定装置に適用される。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】この発明の実施の形態による到来方向推定装置の概略図である。
【図2】図1に示すx−y平面におけるアンテナ素子の平面配置図である。
【図3】キャリア周波数が異なる3つの電波に対応する3つの受信電波強度のプロファイルである。
【図4】周波数スムージング法により直接波の到来方向を推定する動作を説明するためのフローチャートである。
【図5】周波数選択法により直接波の到来方向を推定する動作を説明するためのフローチャートである。
【図6】シミュレーションに用いた電波空間を示す模式図である。
【図7】150度および180度の方向における図1に示すアレーアンテナのビームパターンを示す図である。
【図8】キャリア周波数が16個である場合における受信電力と距離との関係図である。
【図9】キャリア周波数が1個である場合の推定角度誤差分布図である。
【図10】16個のキャリア周波数を用いた周波数選択法によって到来方向を推定した場合の推定角度誤差分布図である。
【図11】16個のキャリア周波数を用いた周波数スムージング法によって到来方向を推定した場合の推定角度誤差分布図である。
【図12】周波数選択法を用いた場合における累積確率と角度誤差との関係図である。
【図13】周波数スムージング法を用いた場合における累積確率と角度誤差との関係図である。
【図14】キャリア間隔を変えた場合の累積確率と角度誤差との関係図である。
【図15】キャリア周波数が1個である場合における直接波および反射波の受信電力の分布を示す分布図である。
【符号の説明】
【0113】
1〜7 アンテナ素子、10 アレーアンテナ、11〜16 バラクタダイオード、20 指向性切換手段、30 電波強度検出手段、40 方向推定手段、50 部屋、60 発信源、100 到来方向推定装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波が反射および/または回折するマルチパス環境下において発信源から到来する直接波の到来方向を推定する直接波到来方向推定装置であって、
前記発信源の設置面に略平行な水平面内において指向性をn(nは2以上の整数)個の方向に切換えて各方向毎に前記発信源からのキャリア周波数が異なるm(mは2以上の整数)個の電波を受信するアンテナ装置と、
前記指向性が1つの方向に設定されたときに前記アンテナ装置によって受信された前記mの電波に対応するm個の受信電波強度に基づいて前記反射および/または回折の影響を抑制して前記1つの方向における受信電波強度を検出することにより前記n個の方向におけるn個の受信電波強度を検出し、その検出したn個の受信電波強度のうち受信電波強度が最大となる方向を前記直接波の到来方向と推定する方向推定手段とを備える直接波到来方向推定装置。
【請求項2】
前記方向推定手段は、前記m個の受信電波強度のうち最大の受信電波強度を前記1つの方向における受信電波強度として検出する、請求項1に記載の直接波到来方向推定装置。
【請求項3】
前記方向推定手段は、前記m個の受信電波強度の平均値を前記1つの方向における受信電波強度として検出する、請求項1に記載の直接波到来方向推定装置。
【請求項4】
前記アンテナ装置は、
給電素子と、
少なくとも1つの無給電素子と、
前記少なくとも1つの無給電素子に装荷された可変容量素子の容量を変化させ、前記指向性を前記n個の方向に切換える指向性切換手段とを含む、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の直接波到来方向推定装置。
【請求項1】
電波が反射および/または回折するマルチパス環境下において発信源から到来する直接波の到来方向を推定する直接波到来方向推定装置であって、
前記発信源の設置面に略平行な水平面内において指向性をn(nは2以上の整数)個の方向に切換えて各方向毎に前記発信源からのキャリア周波数が異なるm(mは2以上の整数)個の電波を受信するアンテナ装置と、
前記指向性が1つの方向に設定されたときに前記アンテナ装置によって受信された前記mの電波に対応するm個の受信電波強度に基づいて前記反射および/または回折の影響を抑制して前記1つの方向における受信電波強度を検出することにより前記n個の方向におけるn個の受信電波強度を検出し、その検出したn個の受信電波強度のうち受信電波強度が最大となる方向を前記直接波の到来方向と推定する方向推定手段とを備える直接波到来方向推定装置。
【請求項2】
前記方向推定手段は、前記m個の受信電波強度のうち最大の受信電波強度を前記1つの方向における受信電波強度として検出する、請求項1に記載の直接波到来方向推定装置。
【請求項3】
前記方向推定手段は、前記m個の受信電波強度の平均値を前記1つの方向における受信電波強度として検出する、請求項1に記載の直接波到来方向推定装置。
【請求項4】
前記アンテナ装置は、
給電素子と、
少なくとも1つの無給電素子と、
前記少なくとも1つの無給電素子に装荷された可変容量素子の容量を変化させ、前記指向性を前記n個の方向に切換える指向性切換手段とを含む、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の直接波到来方向推定装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−53088(P2006−53088A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−236015(P2004−236015)
【出願日】平成16年8月13日(2004.8.13)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度独立行政法人情報通信研究機構、研究テーマ「自律分散型無線ネットワークの研究開発」に関する委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(393031586)株式会社国際電気通信基礎技術研究所 (905)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年8月13日(2004.8.13)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度独立行政法人情報通信研究機構、研究テーマ「自律分散型無線ネットワークの研究開発」に関する委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(393031586)株式会社国際電気通信基礎技術研究所 (905)
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