説明

直流電源装置、および、これを備えたLED照明器具

【課題】LED照明の立ち上がりスピードを遅らせることにより、フラッシュランプのような不快感を与えず、安らぎ感を生じ得るLED照明を提供すること。
【解決手段】交流電流を全波整流し、LEDに対して並列接続された平滑コンデンサCを介して負荷電流を供給する直流電源装置であって、全波整流をスイッチング素子Qのオンオフ駆動によって直流電流に変換する変換回路2と、負荷電流値を検出する検出器Rと、スイッチング素子Qを制御する制御回路4を備える。制御回路4は、目標値を零からフル発光の電流値までn段階で変更するとともに、0.1秒以上、1.0秒以下の所定時間をn分割した分割期間ごとに目標値を1段階ずつ増やす。各分割期間において目標値と負荷電流値を比較してスイッチング素子のオン幅を補正する。補正後のオン幅でスイッチング素子を駆動することで所定時間を掛けてLEDの負荷電流を増やす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はAC−DC変換方式の回路構成を有する直流電源装置、および、これを用いたLED照明器具に関し、特に、LEDの発光開始からフル発光までの立ち上がり特性の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、LEDの性能が高くなってきており、寿命が長い等の理由で従来の照明器具がLEDを用いた照明器具に置き換えられる状態にある。今後LEDの性能がますます向上していけば、汎用の照明器具分野でLED照明器具がさらに採用されると期待される。
LED照明器具の電源装置として、回路効率を改善するためにフライバック方式を用いたAD−DC変換回路が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載のLED点灯装置は、商用交流電源(AC電源)をダイオードブリッジにより全波整流して直流電圧(DC)にする。そして、直流電圧を所定電圧の直流電力に電力変換してLED負荷に供給するようになっている。特許文献1では、変換回路に設けられたスイッチング素子をオンオフ駆動して、LED負荷側の電圧降下が所定値となるようにオンデューティー(オン幅)をフィードバック制御している。また、特許文献2には、オンデューティーをフィードバック制御する方法として、LED負荷電流と目標電流とを比較してオン幅を変更することが記載されている。
【0004】
また、LEDの負荷電流を変化させて調光を行う装置も知られている(例えば、特許文献3の図8参照)。LEDにスイッチング素子を直列接続し、これをオンオフ駆動してパルス状の負荷電流を供給する。オン幅を変更して、パルス状電流の波形の平均値を変化させることで、調光を行なっている。
【0005】
また、LEDに直接接続されたスイッチング素子をオンオフ駆動することによって、LEDの発光開始からフル発光までの立ち上がり時間を長くする方法も知られている(例えば、特許文献4および5参照)。特許文献4の図4によれば、LEDの輝度を徐々に高めるため、LED負荷に直接接続されたスイッチング素子を高速にオンオフさせることにより、直流電圧を鋸刃状に変化させ、電圧のピークを徐々に高めている。また、特許文献5の図2の回路によれば、LEDを徐々に明るくするため、LED負荷に直列接続されたトランジスタのベースバイアス電流を徐々に上げて、負荷電流を徐々に増やしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−130438号公報
【特許文献2】特許4017960号公報
【特許文献3】WO2009/054290号公報
【特許文献4】特開2002−93587号公報
【特許文献5】特許3586071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
LED照明は、白熱電球や熱陰極蛍光ランプ等と異なって加熱時間を必要とするフィラメントが存在しないので、フル発光までの立ち上がり時間が非常に短い。このため点灯開始直後に人の目の瞳孔の制御が追い付かず、網膜が強い光にさらされてしまう。その結果、フラッシュランプのような強烈な光が、人に不快感を与えてしまうという問題があった。
【0008】
LEDの立ち上がり時間を長くする方法として、特許文献4、5に記載の方法が提案されている。しかし、特許文献4に記載の方法では、LEDに直接接続されたスイッチング素子をオンオフ駆動することにより立ち上がり時間を長くしているが、立ち上がりの期間にLEDを高速に点滅させているため、LEDの負担が大きくなっている。また、特許文献5に記載の方法では、LEDに直接接続されたトランジスタのゲートをゆっくり開くことによって、ドレイン−ソース間を流れる負荷電流を徐々に大きくしている。このようにすると負荷電流値がトランジスタの特性に依存してしまい、長期間使用した場合などで、トランジスタの特性が変化した場合に、LEDの立ち上がり方が変わってしまうという問題が生じる。
【0009】
本発明は上述のような点に鑑みてなされたものであり、LED照明の立ち上がりスピードを白熱電球のような従来照明の立ち上がりスピードのレベルまで遅らせることにより、フラッシュランプのような不快感を与えず、安らぎ感を生じ得るLED照明を実現すること、および、立ち上がり中にLEDを高速に点滅させることなく立ち上がり時間を長くすることができ、立ち上がり特性の経年変化を生じにくい直流電源装置およびLED照明器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために本発明者は、スイッチング素子のオンオフ制御用マイクロ・コンピュータを用いて、所定時間を掛けて零からフル発光の負荷電流値まで徐々に増えていくパラメータ(目標値IM )を設定して、この目標値に実際に照明負荷を流れる電流(負荷電流値I)を追従させる制御システムを構築することに取り組んだ。本発明者が鋭意検討を進めた結果、徐々に増えていく目標値と検出される負荷電流値を比較し、その差分に応じてスイッチング素子のオンデューティー(オン幅P)を補正する制御システムを用いれば、所定時間を掛けて負荷照明が徐々に立ち上がることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明に係る直流電源装置は、交流電流を全波整流し、照明負荷に対して並列接続されたコンデンサを介して、該照明負荷に負荷電流を供給する直流電源装置であって、
前記全波整流後の整流電圧を一次巻線に対する一次電圧として受け、二次巻線の二次電圧を前記コンデンサに印加するトランス、前記一次巻線に直列接続されたスイッチング素子、および、前記二次巻線に直列接続されて整流した電流を前記コンデンサの正極に供給するダイオードを有し、前記コンデンサを充電する充電手段と、
前記照明負荷の負荷電流値を検出する電流検出手段と、
前記スイッチング素子のオンオフ駆動を制御する制御手段と、を備える。
【0012】
前記充電手段は、前記スイッチング素子がオン状態の時に、一次電圧により前記トランスのコアにエネルギーを蓄積し、オフ状態で該エネルギーを放出して二次電圧を誘起し、前記ダイオードを介して前記コンデンサを充電する。
また、前記制御手段は、負荷電流の目標値(IM )を定め、該目標値を零からフル発光に必要な電流値(IFULL)までn段階(nは自然数)で変更するとともに、0.1秒以上、1.0秒以下の所定時間を分割したn個の分割期間を用いて、該n個の分割期間に前記n段階の目標値を対応させて、前記目標値を1段階ずつ増やす目標値変更手段と、
照明負荷の発光開始からの時間が前記各分割期間を経過する都度、前記目標値と前記電流検出手段の検出値(I)を比較し、差分に応じて前記スイッチング素子のオン幅(P)を補正するオン幅補正手段と、
補正されたオン幅で前記スイッチング素子をオンオフ駆動する駆動手段とを有し、前記所定時間を掛けて前記照明負荷の負荷電流を増加させることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の直流電源装置では、前記目標値変更手段は、前記フル発光に必要な電流値(IFULL )をn等分した値を前記目標値(IM )の微小増分値(dI)に設定する増分値設定手段と、
前記所定時間をn等分した時間を待ち時間に設定する待ち時間設定手段と、
前記待ち時間が経過する都度、前記目標値を微小増分値ずつ増やす目標値更新手段と、を有し、
前記オン幅補正手段は、前記目標値更新手段により前記目標値が更新される毎に、前記目標値と前記検出値(I)を比較し、差分に応じて前記スイッチング素子のオン幅(P)を補正することが好ましい。
【0014】
さらに、本発明の直流電源装置では、前記オン幅補正手段は、前記電流検出手段の検出値(I)が目標値(IM )より小さければオン幅(P)を微小増減幅(dP)だけ増やし、該検出値が目標値と同じであればオン幅を変更せず、該検出値が目標値より大きければオン幅を微小増減幅だけ減らすことが好ましい。なお、本発明に係る自然数nは、10以上、100以下の範囲内のいずれかの値であることが好ましい。
【0015】
本発明のLED照明器具は、前記直流電源装置と、照明負荷としてのLED負荷とを備えることを特徴とする。
なお、本発明における照明負荷は、例えばLEDであるが、これに限られず、従来の電源装置を用いた場合に電源投入からフル発光までの立ち上がり時間が0.1秒未満となる照明負荷を指している。
【発明の効果】
【0016】
本発明の直流電源装置によれば、負荷電流の目標値(IM )を零からフル発光時に必要な電流値(IFULL )までn段階で増やすとともに、その目標値が最終値であるIFULL に達するまでの時間が0.1秒以上、1.0秒以下となるようにしている。そして、目標値を1段階ずつ増やす都度、目標値と負荷電流の検出値(I)を比較し、その差分に応じてスイッチング素子のオン幅を補正するから、負荷電流が目標値の変化に追従して増加する。従って、0.1秒以上、1.0秒以下という十分な時間を費やして、照明負荷に流れる電流値を零からフル発光時に必要な電流値まで徐々に増やすことができる。その結果、照明負荷の立ち上がりスピードを白熱電球のような従来照明の立ち上がりスピードのレベルまで遅らせることができ、人の目の瞳孔の制御がそれに追い付くので、フラッシュランプのような不快感が生じず、安らぎ感を生じ得る照明器具を実現できる。なお、所定時間の下限を0.1秒としたのは、スイッチング素子に流れる電流の最大値を抑えるためである。人の瞳孔が閉じる平均スピードは0.5秒であるが、立ち上がり時間を0.1秒以上にすれば、人に不快感を与えないで済む。
【0017】
また、本発明によれば、立ち上がり途中に照明負荷を点滅させることを行わないため、照明負荷への負担が大きくなることはない。さらに、既存の電力変換回路のスイッチング素子を用いて、立ち上がりスピードを遅らせる制御を実行できるので、電力変換回路が複雑にならない。
本発明の立ち上がりスピードを遅らせる制御を実行すれば、スイッチング素子に流れる電流値が小さくなり、スイッチング素子に掛かる負担を低減できる。
【0018】
例えば、フル発光時に必要な負荷電流値(IFULL )をn等分した値を1ループ当りの微小増分値(dI)とし、また、目標値が最終値であるIFULL に達するまでの時間をn等分して、これを1ループ当りの待ち時間とする。そして、1ループ毎に、目標値を微小増分値ずつ増やし、その目標値と負荷電流の検出値とを比較して、オン幅の補正を実行すればよい。このようなループ処理を繰り返し実行すれば、一定の割合で徐々に増える目標値に追従して、負荷電流を徐々に増やす制御が可能になる。
【0019】
また、目標値が各段階の値になった時に、オン幅の補正を実行するが、例えば、検出値が目標値を下回っていれば、オン幅(P)を微小増減幅(dP)だけ微増させ、目標値と同じであればオン幅を変えず、目標値を上回っていればオン幅(P)を微小増減幅(dP)だけ微減させるようにしてもよい。目標値は段階的に大きくなっていくが、オン幅は負荷電流の検出値に応じて増減しながら、徐々に大きくなっていくので、目標値の増加に対する負荷電流の追従性を確保できる。
また、オン幅の増減幅に呼応するスイッチング素子の電流の変化量が、経年変化や環境変化によってばらついたとしても、本発明では負荷電流値をフィードバックしてオン幅の補正を実行するので、経年変化や環境変化による照明負荷の立ち上がり特性の変化が生じにくい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態にかかるLED照明器具の全体回路図である。
【図2】前記LED照明器具の制御回路のシステム構成図である。
【図3】前記LED照明器具の制御回路のフローチャートである。
【図4】従来のLED照明器具の立ち上がり特性図である。
【図5】本実施形態のLED照明の立ち上がり特性図である。
【図6】従来のLED照明器具の立ち上がり時にスイッチング素子に流れる電流の波形図である。
【図7】本実施形態のLED照明の立ち上がり時にスイッチング素子に流れる電流の波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面に基づき本発明の好適な実施形態について説明する。図1に本実施形態に係るLED照明器具の全体構成を示す。LED照明器具は、交流電流を用いて直流電流を生成する直流電源装置10、および、直流電源装置10から負荷電流を供給されて点灯するLED負荷(以降LEDと示す)を有して構成されている。
【0022】
本発明のポイントとなる直流電源装置10の制御システムに関して詳しく説明する。直流電源装置10は、図1に示すように、ダイオードブリッジなどで構成される全波整流回路DBと、LEDに対して並列接続された平滑コンデンサC(電解コンデンサ)と、全波整流回路DBの後段に接続され整流電流を電力変換して平滑コンデンサCを充電する充電回路2と、この充電回路2を制御する制御手段4とを有する。充電回路2は、フライバック・コンバータと呼ばれ、平滑コンデンサCを介して一定電流をLEDに供給する。また、充電回路2は、力率改善回路としても機能し、全波整流回路DBに入力される交流電流を歪みのない正弦波に整形することができる回路である。
【0023】
充電回路2は、具体的にバイパスコンデンサCと、フライバック・トランスTと、スイッチング素子Qと、ダイオードDとを有する。バイパスコンデンサCは、全波整流回路DBの出力端同士を結ぶもので、全波整流回路DBからの整流電流を部分平滑するため、および、スイッチング素子Qのオンオフ駆動により断続された電流の影響がAC電源側に及ぶことを防止するために設けられている。トランスTは、全波整流後の整流電圧Vを一次電圧として二次電圧を平滑コンデンサCに印加するように設けられている。
【0024】
スイッチング素子Qは、トランスTの一次巻線T1aに直列接続されていて、オンオフ駆動により二次巻線T1bに二次電圧を誘起させる。スイッチング素子Qのドレイン側端子は、一次巻線T1aに接続され、Qのソース側端子は、全波整流回路DBの負極端子側であるグランドラインに接続されている。スイッチング素子QにはNチャネルのエンハンスメント形のMOSFETを使用する。制御回路4に設けられている駆動回路14からスイッチング素子Qのゲートに駆動電流が供給されてゲート電圧が生じると、ドレイン−ソース間に電流が流れる。この状態をスイッチング素子Qのオン状態という。一方、ゲートに駆動電流が供給されず、ドレイン電流が流れない状態をオフ状態という。
【0025】
ダイオードDは、二次巻線T1bに直列接続されて二次電流を整流し、整流後の二次電流を平滑コンデンサCの正極に供給する。
また、全波整流回路DBからの整流電圧の分圧VR2を検出するための抵抗R、Rの直列回路が、充電回路2のバイパスコンデンサCの端子間を結んでいる。
【0026】
充電回路2にはノイズ除去回路3が設けられている。ノイズ除去回路3は、ダイオードDおよびノイズ除去コンデンサCの直列回路と、抵抗Rとを有して構成されている。直列回路(DおよびC)は、トランスTの一次巻線の両端子を結ぶように接続されている。ここで、ダイオードDのアノード側端子は、一次巻線T1aとスイッチング素子Qの接続点につながれ、カソード側端子はノイズ除去コンデンサCに接続される。ノイズ除去コンデンサCおよび抵抗Rは並列回路を形成している。
【0027】
充電回路2は以上のように構成され、平滑コンデンサCに整流電流に基づくエネルギーを蓄積する。そして平滑コンデンサCに蓄積されたエネルギーによってLEDに負荷電流Iが供給されるようになっている。この充電回路2は本発明の充電手段に相当する。
【0028】
平滑コンデンサCの負極側とLEDとの結線上には、LEDに流れる負荷電流Iを検出するための抵抗Rが配設され、この抵抗Rが本発明の電流検出手段を構成する。
【0029】
制御回路4は、図2に示すように、マイクロ・コンピュータ(CPU)6と、整流電圧の分圧VR2の検出用のADコンバータ8と、負荷電流Iの検出用のADコンバータ12と、スイッチング素子Qに駆動電流を供給するFET駆動回路14と、ROM16およびRAM18を有し、スイッチング素子Qの駆動制御システムを構築している。
【0030】
ADコンバータ8は、分圧VR2の瞬時値の絶対値を検出する。本実施形態では、バイパスコンデンサCの端子電圧である整流電圧が抵抗R、Rによって分圧されて、ADコンバータ8が認識可能な電圧レベルに落とされる。ADコンバータ8は、分圧された電圧をアナログデータとして検出して、これをCPUで認識可能なデジタルデータ(数値)に変換し、これをCPUに向けて出力する。同様に、負荷電流Iは、ADコンバータ12でデジタルデータに変換されてCPUに入力される。
【0031】
CPUは、検出された分圧VR2に基づいてスイッチング周期を決定するとともに、抵抗Rを介して検出されたLEDの負荷電流値Iに基づいてオン幅P(オン状態の時間)を決定する。CPUは、決定されたスイッチング周期とオン幅Pの指令信号をMOSFET駆動回路14に送る。
【0032】
駆動回路14は、指令信号に基づいてスイッチング素子(MOSFET)Qを駆動する駆動電流を供給して、決定されたスイッチング周期とオン幅Pでスイッチング素子Qをオンオフ駆動させる。なお、駆動回路14は、スイッチング素子Qへの駆動電流を停止する間は、回路内で消費される電力がゼロとなるように設計されている。
【0033】
制御回路4は、以上のように構成され、LEDに流れる電流の定電流制御を行ないつつ力率改善制御も同時に実行するようにスイッチング素子Qのスイッチングを高周波数制御する。すなわち、制御回路4は、検出された負荷電流値Iが予め設定されている電流値に近づくようにスイッチング素子Qのスイッチングのオン幅Pを制御する。スイッチング素子Qのオン状態では、全波整流電流がトランスT1の磁性体に磁場のエネルギーとして蓄積され、オフ状態では二次側に誘起される二次電圧に基づいて電流が流れ、平滑コンデンサCが充電される。制御回路4によるオン幅Pの調整により、負荷電流Iの定電流制御が実行され、LEDの電流値を安定させている。
【0034】
また、制御回路4は、交流電源ACから流れ込む入力電流の電流波形を正弦波に近似させるために、スイッチング素子Qのスイッチングの周期(スイッチングのオン幅+スイッチングのオフ幅)を例えば整流電圧の分圧VR2の瞬時値に比例するように制御することで力率改善を行なっている。
【0035】
<LEDの立ち上がり時の負荷電流制御>
本発明で特徴的なことは、図2に示すように、上記の制御回路4をベースとしてCPUに目標値変更手段62およびオン幅補正手段64を設けて、LEDの立ち上がり時のオン幅Pを、検出される負荷電流値Iと目標値IMの比較結果に基づいて補正することにした点にある。
【0036】
CPUの目標値変更手段62は、負荷電流の目標値IM を定め、目標値IM を零からフル発光に必要な電流値IFULL までn段階(nは自然数)で変更する。また、目標値変更手段62は、0.1秒以上、1.0秒以下の所定時間を分割したn個の分割期間を用いて、目標値を前述のn段階の目標値に対応させて1段階ずつ増やす。
【0037】
オン幅補正手段64は、n個の分割期間において目標値IM と負荷電流値Iを比較し、その差分に応じてスイッチング素子Qのオン幅Pを補正する。このような制御回路4を用いれば、CPUで補正されたオン幅Pに基づいて、FET駆動回路14がスイッチング素子Qをオンオフ駆動するので、0.1秒以上、1.0秒以下の所定時間を掛けて負荷電流Iが徐々に増える。すなわち、負荷電流の目標値IM を零からフル発光時に必要な電流値IFULL までn段階で増やすとともに、目標値IM が最終の電流値IFULL に達するまでの時間を0.1秒以上、1.0秒以下にしている。そして、目標値IM を1段階ずつ増やす都度、目標値IM と負荷電流値Iを比較し、その差分に応じてスイッチング素子Qのオン幅Pを補正するから、負荷電流Iが目標値IM の変化に追従して増加する。
【0038】
本実施形態の直流電源装置10によれば、0.1秒以上、1.0秒以下という十分な時間を費やして、LEDに流れる負荷電流値Iを零からフル発光の電流値IFULL まで徐々に増やすことができる。その結果、LEDの立ち上がりスピードを白熱電球のような従来照明の立ち上がりスピードのレベルまで遅らせることができ、人の目の瞳孔の制御がそれに追い付くので、フラッシュランプのような不快感が生じず、安らぎ感を生じ得る照明器具を実現できる。
【0039】
ここで、目標値変更手段62の具体的な構成としては、図2に示すように、増分値設定手段66と、待ち時間設定手段68と、目標値更新手段72とを有して構成するとよい。増分値設定手段66は、フル発光に必要な電流値IFULL をn等分した値を1ループ当たりの微小増分値dIに設定する。フル発光の電流値IFULL は、LEDに流す負荷電流の最終値になる。本実施形態では、フル発光の電流値データIFULL は、予め、個々のLEDの特性に応じて設定され、この電流値を何等分するかのn値とともにROMに記憶されている。増分値設定手段66は、フル発光の電流値IFULLおよびn値を用いて微小増分値dIを定めてROMに記憶させる。
【0040】
待ち時間設定手段68は、上記のn値と用いて所定時間をn等分して、1ループ当たりの待ち時間を設定し、ROMに記憶させる。所定時間については、0.1秒以上、1.0秒以下の範囲から、個々のLED特性に応じて決定された設定値がROMに記憶されている。
【0041】
目標値更新手段72は、待ち時間が経過する都度、目標値IM を微小増分値dIずつ増やし、更新した目標値IM をRAMに記憶させる。
【0042】
オン幅補正手段64は、目標値更新手段72により目標値IM が更新される毎に、目標値IM と検出された負荷電流値Iを比較し、その差分に応じてスイッチング素子Qのオン幅Pを補正するようになっている。なお、オン幅補正手段64は、予めオン幅Pの補正値として微小増減幅dPを設定し、ROMに記憶させている。
【0043】
図3のフローチャートを用いて、CPU6の動作を説明する。電源オフの状態では、目標値IM が零に設定されている。まず、電源オン(S0)で、目標値IM を設定し、初期目標値を微小増分値dIにする(S1)。ここで、電源オンとは充電回路2に全波整流電圧が印加された時点を意味する。CPUは検出用ADコンバータ8からの分圧VR2のデータ変化に基づいて、充電回路2に全波整流電圧が印加された時点を認識できる。
【0044】
次に、現在の目標値IM とフル発光の電流値IFULL とを比較し(S2)、IM <IFULL であれば、目標値IM に微小増分値dIを加算する(S3)。一方、IM =IFULL またはIM >IFULL であれば、目標値IM を変更しないで次の処理に進む。
【0045】
次に、電流検出手段(抵抗R)からの負荷電流値Iを読み込む(S4)。そして負荷電流値Iと目標値IM とを比較する(S5)。ここでは、オン幅補正手段64が、電流検出手段で検出される負荷電流値Iが目標値IM より小さいと判断すれば、オン幅Pを微小増減幅dPだけ増やす(S6)。負荷電流値Iが目標値IM と同じであればオン幅Pを変更しない。負荷電流値Iが目標値IM より大きければオン幅Pを微小増減幅dPだけ減らす(S7)。オン幅補正手段64は補正したオン幅Pの信号をFET駆動回路14へ出力する。
【0046】
なお、CPU6は、目標値IM とフル発光の電流値IFULL との比較処理(S2)から、オン幅Pの補正処理(S5、S6、S7)までを1ループとして、待ち時間毎に繰り返し実行する。繰り返し処理は、CPUが電源オフの状態を認識するまで実行される。本実施形態では待ち時間を例えば10ミリ秒とした。この待ち時間の間隔で目標値IM を段階的に増やしても、時間間隔が微小であるため、目標値IM の変化に伴う光束の変化が人の目で検出されずに済む。このような理由で、待ち時間は、目標値IM の変化に伴う光束の変化を人の目が検出し難い程度の短時間に設定されるとよい。その上で、できる限り最大の時間間隔が得られるように待ち時間を設定するとよい。待ち時間を10ミリ秒として負荷電流制御を実行した場合に、電源投入からフル発光までの立ち上がり時間を0.1秒以上、1.0秒以下にするため、n値(自然数)を10以上、100以下の範囲で設定する。
【0047】
本実施形態によれば、フル発光時に必要な負荷電流値IFULL をn等分した値を1ループ当りの微小増分値dIとし、また、目標値IM が最終値の電流値IFULL に達するまでの時間をn等分して、これを1ループ当りの待ち時間としている。そして、1ループ毎に、目標値IM を微小増分値dIずつ増やし、その都度、目標値IM と負荷電流値Iを比較して、オン幅Pの補正を実行することができる。このようなループ処理を繰り返し実行すれば、目標値IM に追従するように負荷電流Iを一定の割合で徐々に増やすことができる。
【0048】
目標値IM が各段階の値になった時に、オン幅Pの補正を実行するが、図3のフローチャートのように負荷電流値Iが目標値IM を下回っていれば、オン幅Pを微小増減幅dPだけ微増させたり、目標値IM と同じであればオン幅Pを変えなかったり、目標値IM を上回っていればオン幅Pを微小増減幅dPだけ微減させたりする。このように、実際の負荷電流値Iをフィードバックしてオン幅Pを補正するので、負荷電流Iが目標値IM から大きく外れてしまうことがなく、目標値IM の変化に対する負荷電流Iの追従性が良好になる。
【0049】
図4、図5を用いて、本発明の直流電源装置10を用いた場合の効果を説明する。図4は、従来の直流電源装置10を用いてLEDを立ち上げた場合の、立ち上がり時の光束の変化を時間経過で示したグラフである。LEDは、フル発光までの立ち上がり時間が非常に短い特性があるので、その特性のままLEDを用いれば、図4のように非常に短時間で立ち上がりが完了する。これに対して図5は、本発明の直流電源装置10を用いてLEDを立ち上げた場合を同様に示したグラフである。本発明によれば、目標値変更手段62とオン幅補正手段64の動作により、立ち上がり時間を、白熱電球のような従来照明の立ち上がり時間のレベルまで延ばすことができる。
【0050】
また、本発明によれば、既存のAC−DC変換回路のスイッチング素子Qを用いて、立ち上がりスピードを遅らせる制御を実行できる。図6、図7を用いて、本発明の直流電源装置10を用いた場合のスイッチング素子Qの負担軽減効果について説明する。図6は、従来の直流電源装置を用いてLEDを点灯した場合の、立ち上がり途中のスイッチング素子Qに流れる電流値を時間経過で示したグラフである。従来タイプでは、立ち上がり途中での一周期が約19μ秒で、オン幅Pが約4.5μ秒となっており、オンデューティーは約24%である。そしてスイッチング素子に流れる最大電流値は3.44Aである。これに対して図7は、本発明の直流電源装置10を用いた場合を同様に示したグラフである。本発明によれば、立ち上がり途中での一周期が約13.5μ秒となり、従来より短周期ではあるが、オン幅Pが約2μ秒と従来よりも短く、オンデューティーが約15%となっている。その結果、スイッチング素子Qに流れる最大電流値は1.08Aとなり、従来の3.44Aと比べて約3分の1まで小さくなる。このように、オン幅Pを調整してLEDの立ち上がり時間を長くした場合に、スイッチング素子Qに流れる電流値を小さくすることができ、スイッチング素子Qの負担を軽減でき、装置の長寿命化を図ることができる。
【符号の説明】
【0051】
2 充電回路(充電手段)
4 制御回路(制御手段)
10 直流電源装置
14 FET駆動回路
62 目標値変更手段
64 オン幅補正手段
AC 交流電源
バイパスコンデンサ
ノイズ除去コンデンサ
平滑コンデンサ
DB 全波整流回路(ダイオードブリッジ)
ダイオード
LED LED負荷(照明負荷)
フライバック・トランス
スイッチング素子
抵抗(電流検出手段)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電流を全波整流し、照明負荷に対して並列接続されたコンデンサを介して、該照明負荷に負荷電流を供給する直流電源装置であって、
前記全波整流後の整流電圧を一次巻線に対する一次電圧として受け、二次巻線の二次電圧を前記コンデンサに印加するトランス、前記一次巻線に直列接続されたスイッチング素子、および、前記二次巻線に直列接続されて整流した電流を前記コンデンサの正極に供給するダイオードを有し、前記コンデンサを充電する充電手段と、
前記照明負荷の負荷電流値を検出する電流検出手段と、
前記スイッチング素子のオンオフ駆動を制御する制御手段と、を備え、
前記充電手段は、前記スイッチング素子がオン状態の時に、一次電圧により前記トランスのコアにエネルギーを蓄積し、オフ状態で該エネルギーを放出して二次電圧を誘起し、前記ダイオードを介して前記コンデンサを充電し、
前記制御手段は、負荷電流の目標値(IM )を定め、該目標値を零からフル発光に必要な電流値(IFULL )までn段階(nは自然数)で変更するとともに、0.1秒以上、1.0秒以下の所定時間を分割したn個の分割期間を用いて、該n個の分割期間に前記n段階の目標値を対応させて、前記目標値を1段階ずつ増やす目標値変更手段と、
照明負荷の発光開始からの時間が前記各分割期間を経過する都度、前記目標値と前記電流検出手段の検出値(I)を比較し、差分に応じて前記スイッチング素子のオン幅(P)を補正するオン幅補正手段と、
補正されたオン幅で前記スイッチング素子をオンオフ駆動する駆動手段とを有し、前記所定時間を掛けて前記照明負荷の負荷電流を増加させることを特徴とする直流電源装置。
【請求項2】
請求項1記載の直流電源装置において、前記目標値変更手段は、
前記フル発光に必要な電流値(IFULL )をn等分した値を前記目標値(IM )の微小増分値(dI)に設定する増分値設定手段と、
前記所定時間をn等分した時間を待ち時間に設定する待ち時間設定手段と、
照明負荷の発光開始からの時間が前記待ち時間ずつ経過する都度、前記目標値を微小増分値ずつ増やす目標値更新手段と、を有し、
前記オン幅補正手段は、前記目標値更新手段により前記目標値が増加する都度、前記目標値と前記検出値(I)を比較し、差分に応じて前記スイッチング素子のオン幅(P)を補正することを特徴とする直流電源装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の直流電源装置において、前記オン幅補正手段は、
前記電流検出手段の検出値(I)が前記目標値(IM )より小さければ前記オン幅(P)を微小増減幅(dP)だけ増やし、前記検出値が前記目標値と同じであれば前記オン幅を変更せず、前記検出値が前記目標値より大きければ前記オン幅を前記微小増減幅だけ減らすことを特徴とする直流電源装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の直流電源装置において、前記自然数nは10以上、100以下の範囲内のいずれかの値であることを特徴とする直流電源装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の直流電源装置と、照明負荷としてのLED負荷と、を備えることを特徴とするLED照明器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−185923(P2012−185923A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−46426(P2011−46426)
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(000126274)株式会社アイ・ライティング・システム (56)
【Fターム(参考)】