説明

直線往復機構を備えた試験機

【課題】被試験物に直線往復動を作用させる試験機の提案
【解決手段】試験機300の直線往復機構100は、クランク部材104に固定的に配設された内周太陽歯車102と、内周太陽歯車102のピッチ円直径の2分の1のピッチ円直径を有する遊星歯車131を内周太陽歯車102に噛み合わせつつ自転及び公転する遊星歯車部材103と、内周太陽歯車102の中心線と同軸に回転するようにクランクケース101に配設され、遊星歯車部材103を自転及び公転可能に支持するクランク部材104と、遊星歯車131の回転軸方向の無限遠点から見て遊星歯車131のピッチ円上において、遊星歯車部材103に配設され、クランク部材104の回転に伴って直線往復動する作用部147とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は被試験物に直線往復動を作用させる直線往復機構を備えた試験機に関し、例えば、摩擦試験機や疲労試験機に関する。
【背景技術】
【0002】
摩擦試験は、例えば、特許2850054号(特許文献1)や特開2007−177760号公報(特許文献2)に開示されているように、平板に被試験物を押し当てつつ摺動させることによって摩擦抵抗を測定する試験が提案されている。また、疲労試験では、例えば、特開2006−189288号公報(特許文献3)に記載されているように、被試験物に引張りや曲げ荷重を繰り返し作用させる機構において、直線往復機構が用いられる場合がある。
【0003】
このような場合、被試験物に直線往復動を作用させる機構には、ボールネジや、油圧シリンダとサーボ弁を組み合わせた機構が用いられる。かかる機構によれば、被試験物をより正確に直線往復動させることができる。
【0004】
また、例えば、特開2007−232026号公報(特許文献4)に開示されているように、シリンダ内でピストンが摺動した場合にシリンダに作用する力を測定する試験機もある。同公報では、ピストンは、シリンダ内に摺動可能に収容され、コンロッドを介してクランク軸に接続されている。そして、ピストンは、クランク軸の回転に伴ってシリンダに案内されつつ直線往復動する。
【0005】
また、摩擦試験機や疲労試験機に関する用途については開示されていないが、クランク軸の回転運動から直線往復動を得る直線往復機構について、LWJ株式会社によって、内歯の太陽歯車と外歯の遊星歯車とで構成した遊星歯車機構を利用し、直線往復動を生み出すクランク装置の提案がある(例えば、特許2683218号(特許文献5))。このクランク装置では、ピストンは、シリンダに案内されずとも直線往復動することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許2850054号
【特許文献2】特開2007−177760号公報
【特許文献3】特開2006−189288号公報
【特許文献4】特開2007−232026号公報
【特許文献5】特許2683218号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、摩擦試験機や疲労試験機では、被試験物に直線往復動を作用させる機構として、ボールネジを利用した機構や、油圧シリンダとサーボ弁を組み合わせた機構が知られている(例えば、特許文献2、特許文献3)。これらは被試験物に精度よく直線往復動を作用させることができる。このため、被試験物に直線往復動を作用させる摩擦試験機や疲労試験機として、より精度の高い試験結果が期待できる。
【0008】
しかしながら、本発明者の考えるところでは、ボールネジは、被試験物に直線往復動を作用させる機構として用いる場合、構造上、高速での運転に向かない。また、油圧シリンダとサーボ弁を組み合わせた機構は、ボールネジに比べると高速での運転に向くが、サーボ弁の制御に乱れが生じる点で限界があり、やはり直線往復動の速度をそれ程速くできない。このため、ボールネジを利用した機構や、油圧シリンダとサーボ弁を組み合わせた機構では、特に、高速での試験ができなかった。また、いずれも、精度を保つのに許容される速度の範囲がそれ程広くなく、速度を大きく変えて試験を行うことができない。この場合、許容される速度で試験を行い、その結果から演算等で高速で試験した場合の結果を予測することが行われていた。
【0009】
また、自動車の内燃機関に用いられるピストン−シリンダ機構の摩擦を調べる装置では、コンロッドを介してピストンをクランク軸に接続するとともに、ピストンをシリンダに案内させて直線往復動させる機構が用いられている(例えば、特許文献4)。かかる構造では、いわゆるサイドスラストなどを含めた摩擦損失などを検査する場合には有効である。しかしながら、純粋にピストンの直線往復動による、ピストンとシリンダとの摩擦を測定することはできない。
【0010】
また、特許文献5に示されているように、内歯の太陽歯車と外歯の遊星歯車とで構成した遊星歯車機構を利用し、直線往復動を生み出す直線往復機構の提案がある。しかし、かかる直線往復機構を摩擦試験機や疲労試験機などの試験機に利用した提案はされていない。
【0011】
そこで、本発明者は、摩擦試験機や疲労試験機など、被試験物に直線往復動を作用させる機構を備えた試験機について、新規な試験機を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る試験機は、被試験物に直線往復動を作用させる直線往復機構を備えている。かかる試験機の直線往復機構は、クランクケースと、クランクケースに固定的に配設された内周太陽歯車と、内周太陽歯車のピッチ円直径の2分の1のピッチ円直径を有する遊星歯車を内周太陽歯車に噛み合わせつつ自転及び公転する遊星歯車部材を備えている。さらに、この直線往復機構は、内周太陽歯車の中心線と同軸に回転するようにクランクケースに配設され、遊星歯車部材を自転及び公転可能に支持するクランク部材と、遊星歯車の回転軸方向の無限遠点から見て遊星歯車のピッチ円上において、遊星歯車部材に配設され、クランク部材の回転に伴って直線往復動する作用部とを備えている。この直線往復機構は、作用部を通じて被試験物に直線往復動を作用させることができる。かかる試験機は、摩擦試験機や疲労試験機などを構成することができる。また、被試験物に作用させる直線往復動の速度についても、一台の試験機で精度を保つことができる速度の範囲が広く、より多くの試験条件を実現できる。
【0013】
この場合、試験機は、クランク部材に回転駆動させる駆動装置を備えていてもよい。また、駆動装置は、例えば、サーボモータで構成することができる。サーボモータを用いる場合には、作用部を通じて被試験物に作用させる直線往復動の速度の変更が容易になる。
【0014】
作用部は、連接棒を介して被試験物に接続されていてもよい。この場合、連接棒が直線往復動するようにガイドする案内部を備えていてもよい。また、かかる案内部は、例えば、空気軸受で構成することができる。かかる空気軸受によれば、連接棒を非接触でガイドすることができる。これにより、被試験物により安定して直線往復動を作用させることができる。
【0015】
遊星歯車部材は、遊星歯車部材に作用する遠心力が釣り合い、かつ、遊星歯車部材の回転軸上の任意の位置で遊星歯車部材に作用する遠心力のモーメントが釣り合うように調整してもよい。この場合、さらにクランク部材は、クランク部材に作用する遠心力が釣り合い、かつ、クランク部材の回転軸上の任意の位置で前記クランク部材に作用する遠心力のモーメントが釣り合うように調整するとよい。この場合、直線往復機構の駆動によって生じる振動を極めて小さくすることができる。
【0016】
この場合、遊星歯車部材は、遊星歯車部材に作用する遠心力を釣り合わせ、かつ、遊星歯車部材の回転軸上の任意の位置で遊星歯車部材に作用する遠心力のモーメントを釣り合わせる第1バランサーを備えていてもよい。また、クランク部材は、クランク部材に作用する遠心力を釣り合わせ、かつ、クランク部材の回転軸上の任意の位置でクランク部材に作用する遠心力のモーメントを釣り合わせる第2バランサーを備えていてもよい。
【0017】
第1バランサー又は第2バランサーは交換可能に取り付けられていてもよい。この場合、第1バランサーは、遊星歯車部材の回転軸に対して径方向に取り付け位置が変更できるように構成してもよい。また、第1バランサーは、遊星歯車部材の回転軸に対して軸方向に取り付け位置が変更できるように構成してもよい。また、第1バランサーは、遊星歯車部材の軸方向端部に取り付けられてもよい。
【0018】
また、第2バランサーは、クランク部材の回転軸に対して径方向に取り付け位置が変更できてもよい。この場合、第2バランサーは、クランク部材の回転軸に対して軸方向に取り付け位置が変更できてもよい。
【0019】
また、かかる試験機は、被試験物を平板に対して直線往復動させる直線往復機構を備え、被試験物を平板に押し当てつつ移動させ、被試験物と平板との移動抵抗を検査する移動抵抗試験機に適用できる。また、かかる試験機は、被試験物に直線往復動に伴う力を作用させる直線往復機構を備えた疲労試験機に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係る移動抵抗試験機を示す機構図。
【図2】本発明の一実施形態に係る移動抵抗試験機の直線往復機構を示す側面図。
【図3】(a)は、遊星歯車部材の側面図であり、(b)は遊星歯車部材の正面図。
【図4】遊星歯車部材のバランスを示す図。
【図5】(a)は、クランク部材の側面図、(b)はクランク部材の正面図。
【図6】クランク部材に遊星歯車部材を組み付けた状態を示す側面図。
【図7】クランク部材のバランスを示す図。
【図8】本発明の一実施形態に係る疲労試験機を示す機構図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態に係る直線往復機構を備えた試験機を図面に基づいて説明する。
【0022】
ここでは、かかる試験機として、例えば、図1に示すように、被試験物310を平板320に押し当てつつ移動させ、被試験物310と平板320との移動抵抗を検査する移動抵抗試験機300を構成することができる。ここで、被試験物310は、直線往復機構100によって平板320に対して直線往復動させられる。なお、直線往復機構100については、後で詳細に述べる。
【0023】
この移動抵抗試験機300は、被試験物310を平板320に押し当てる押し当て機構330を備えている。かかる押し当て機構330は、圧力を調整することができる油圧機構でもよい。また、押し当て機構330に代えて所要の重量(錘)を被試験物310に載せてもよい。
【0024】
また、平板320は、被試験物310が移動する際の反力を受ける部材であり、力検出器340が接続されており、被試験物310が移動する際の反力が検出される。かかる力検出器340は、例えば、ロードセルを用いることができる。なお、この実施形態では、平板320は、複数のローラ360の上に載せられており、被試験物310が移動する際の反力が、力検出器340に作用する。また、被試験物310は、車輪を介して平板320の上を移動する形態でもよいし、平板320の上を摺動する形態でもよい。移動抵抗試験機300は、例えば、種々の材料について、所定の平板に押し当てつつ摺動させ、検出される抵抗値から当該材料の摩擦係数を求める摩擦試験機として構成することができる。この場合、被試験物310や平板320には、種々の材料を選択するとよい。また、被試験物310は、転がり動く試験物でもよく、例えば、タイヤの磨耗試験や、車輪や車軸の耐久試験を行う試験機を構成することもできる。
【0025】
ここで、直線往復機構100は、図1に示すように、クランクケース101と、内周太陽歯車102と、遊星歯車部材103と、クランク部材104と、作用部147とを備えている。この直線往復機構100は、後で具体的に述べるが、内歯の太陽歯車と外歯の遊星歯車とで構成した遊星歯車機構を利用して、直線往復動を生み出す機構が用いられている。この直線往復機構100は、クランク部材104を回転駆動させることで、作用部147を直線往復動させることができる。かかる直線往復機構によれば、作用部147に直線に沿って正確に往復動させることができ、また、ボールネジを用いた機構や、油圧シリンダを用いた機構など、他の機構に比べて、作用部147を直線往復動させる速度を速くでき、また速度変化の許容幅も大きい。
【0026】
以下、この直線往復機構100を説明する。
【0027】
≪直線往復機構100≫
図1では、かかる直線往復機構100及び移動抵抗試験機300は模式的に示されている。この実施形態では、直線往復機構100は、図2に示すように、クランクケース101と、内周太陽歯車102と、遊星歯車部材103と、クランク部材104とを備えている。なお、図1では、図2中のクランクケース101の右側面を正面にして、直線往復機構100の機構が模式的に示されている。
【0028】
≪クランクケース101≫
クランクケース101は、直線往復機構100の各部材を収容するケースである。この実施形態では、クランクケース101は、底を有する筒状の部材であり、図2では、底部111を左側に向け、開口112を右側に向けて横向きに配設されている。クランクケース101の内部には、クランク部材104や内周太陽歯車102など、直線往復機構100の各部材を収容するスペースが形成されている。クランクケース101の底部111の中心には、クランク部材104の軸部158を挿通させる挿通穴113が形成されている。クランクケース101の開口112と、底部111には、それぞれクランク部材104を回転自在に支持する軸受163、164が設けられている。また、クランクケース101の軸方向の中間位置には内周太陽歯車102が固定されている。
【0029】
≪内周太陽歯車102≫
内周太陽歯車102は、内周面に歯を有する内歯車である。この実施形態では、内周太陽歯車102は、クランクケース101の内周面の中間位置に形成された段差121に固定されている。
【0030】
≪遊星歯車部材103≫
遊星歯車部材103は、内周太陽歯車102と噛み合って自転及び公転する部材である。図3(a)は、この実施形態の遊星歯車部材103を示す側面図である。この遊星歯車部材103は、図3(a)に示すように、遊星歯車131と遊星軸132によって構成されている。
【0031】
遊星歯車131は、外周面に歯を有する外歯車であり、図1に示すように、内周太陽歯車102のピッチ円直径の2分の1のピッチ円直径を有している。すなわち、遊星歯車部材103のピッチ円103cの半径r1と、内周太陽歯車102のピッチ円102cの半径r2との比は、r1:r2=1:2の関係になっている。この遊星歯車131の中心部には、図3(a)に示すように、装着穴141が形成されており、遊星軸132に装着されている。
【0032】
遊星軸132は、図3に示すように、遊星歯車131が装着される装着軸部146と、作用部147と、第1カウンターウェイト148と、第1バランサー149とを備えている。
【0033】
装着軸部146は、遊星歯車131に装着される部位であり、遊星軸132の一端に設けられている。当該装着軸部146には遊星歯車131が装着されている。当該装着軸部146には、図示は省略するがスプライン又はキー係合が構成されている。これにより、遊星歯車131は遊星軸132に対して回転しないように装着されている。
【0034】
第1バランサー149は、遊星歯車部材103に作用する遠心力を釣り合わせ、かつ、遊星歯車部材103の回転軸c2上の任意の位置で遊星歯車部材103に作用する遠心力のモーメントを釣り合わせる部材である。この実施形態では、第1バランサー149は、交換可能に取り付けられており、装着軸部146の端面にねじ150によって取り付けられている。この第1バランサー149は、図3(a)(b)に示すように、装着軸部146の端面に取り付けられる基部149aと、略扇形の錘部149bとを備えている。この実施形態では、第1バランサー149は、扇形の錘部149bの円弧の中心が遊星歯車部材103の回転軸c2になるように取り付けられている。また、基部149aには、遊星歯車131に係合し、廻り止めをなす突起149cが設けられている。
【0035】
このように遊星軸132の一方の端部には、第1バランサー149が設けられている。遊星軸132の反対側の端部には、作用部147と第1カウンターウェイト148が設けられている。
【0036】
作用部147は、図1及び図3に示すように、遊星歯車131のピッチ円103c上(無限遠点から見て遊星歯車131のピッチ円103c上)に配設されている。この実施形態では、作用部147は、ピン状の部材であり、中心軸線c3が当該ピッチ円103cに直交するように設けられている。作用部147には、図1及び図2に示すように、被試験物310に連接される連接棒305が連結されている。
【0037】
第1カウンターウェイト148は、遊星歯車部材103の自転の慣性力を生じさせる。この実施形態では、第1カウンターウェイト148は、図3(a)(b)に示すように、略半円弧形状の部材であり、遊星歯車部材103の回転軸c2から径方向にずらして設けられている。また、第1カウンターウェイト148の重心は、遊星歯車部材103の回転軸c2を中心として、作用部147の中心軸線c3から周方向に180度ずれた位置に設けられている。
【0038】
≪遊星歯車部材103のバランス≫
図4は、この遊星歯車部材103のバランスを模式的に示す図である。この実施形態では、遊星歯車部材103は、図2に示すように、遊星歯車131と遊星軸132で構成されており、作用部147には動作部材200(この実施形態では、連接棒305及び被試験物310)が取り付けられている。この遊星歯車部材103は、遊星歯車部材103に作用する遠心力が釣り合い、かつ、遊星歯車部材103の回転軸c2上の任意の位置に作用する遠心力のモーメントが釣り合うように、バランスを調整している。すなわち、この遊星歯車部材103は、図4に示すように、モデル化できる。図4中、c2は遊星歯車部材103の回転軸を、M1は作用部147に連結される被試験物310に相当する質量体を、M2は第1カウンターウェイト148に相当する質量体を、M3は第1バランサー149に相当する質量体をそれぞれ示している。
【0039】
図4に示すモデルにおいて、遊星歯車部材103が回転した場合に、質量体M1(動作部材200)に作用する遠心力をF1、質量体M2(第1カウンターウェイト148)に作用する遠心力をF2、質量体M3(第1バランサー149)に作用する遠心力をF3とする。この遊星歯車部材103は、遠心力F1と、遠心力F2と、遠心力F3を釣り合わせている(F1+F2+F3=0(F1、F2、F3はベクトル量))。
【0040】
この場合、F1、F2、F3はそれぞれ「遠心力=質量×半径×(角速度)」の式で算出することができ、遠心力F1、F2、F3の方向は回転軸c2に対して径方向外向きに作用する。(角速度)は、各項に共通しているので除することができ、F1、F2、F3の各項の大きさは、質量×半径に置き換えることができる。さらに、この実施形態では、図2に示すように、動作部材200と第1バランサー149は、第1カウンターウェイト148に対して周方向において180°ずらして配設されている。このため、質量体M1(動作部材200)に作用する遠心力F1と質量体M3(第1バランサー149)に作用する遠心力F3は、質量体M2(第1カウンターウェイト148)に作用する遠心力F2に対して常に方向が反対になる。従って、この実施形態では、質量体M1(動作部材200)の質量をm1、半径距離をA1とし、質量体M2(第1カウンターウェイト148)の質量をm2、半径距離をA2とし、質量体M3(第1バランサー149)の質量をm3、半径距離をA3とした場合に、F1+F2+F3=0(F1、F2、F3はベクトル量)は、(m1×A1+m3×A3)−(m2×A2)=0となる。このように、遊星歯車部材103は、作用部147に動作部材200が取り付けられた状態で回転した場合に、遊星歯車部材103に作用する遠心力が釣り合っている。
【0041】
さらに、この実施形態では、遊星歯車部材103の回転軸c2上の任意の位置で、遊星歯車部材103に作用する遠心力(F1、F2、F3)のモーメントが釣り合っている。
【0042】
すなわち、図4に示すように、遊星歯車部材103の回転軸c2上の任意の位置O1から各遠心力F1、F2、F3が作用する位置までの軸方向の距離をそれぞれL1、L2、L3とする。この遊星歯車部材103は、F1×L1+F2×L2+F3×L3=0(F1、F2、F3はベクトル量)になっている。これにより、遊星歯車部材103が回転した場合に、当該回転軸c2上の任意の位置において回転軸c2に直交する軸回りに、遊星歯車部材103を回転させるように作用する力を小さく抑えることができる。
【0043】
この実施形態では、遊星歯車部材103は、上述したように、F1+F2+F3=0(F1、F2、F3はベクトル量)、及び、F1×L1+F2×L2+F3×L3=0(F1、F2、F3はベクトル量)になるように、第1バランサー149の重さを調整している。なお、実際には、各部材の重さや取り付け位置について製造上の公差が生じる。このため、第1バランサー149の重さを調整する際は、例えば、作用部147に、動作部材200に相当するダミーウエイトを配設し、クランク部材104に支持された状態と同様の状態で、遊星歯車部材103を回転自在に支持する。そして、遊星軸132をモータ等で回転させて、遊星歯車部材103に生じる振動が低減されるように、第1バランサー149の重さや取り付け位置を微調整するとよい。
【0044】
また、この実施形態では、第1バランサー149は、遊星歯車部材103の軸方向端部に取り付けられている。すなわち、この実施形態では、第1バランサー149は、遊星歯車部材103において、作用部147や第1カウンターウェイト148を取り付ける位置から軸方向に離れた端部に取り付けられている。この場合、第1バランサー149を取り付ける位置が、作用部147や第1カウンターウェイト148を取り付ける位置から軸方向に最も離れる。このため、作用部147や第1カウンターウェイト148の近傍位置では、第1バランサー149によって遊星歯車部材103に作用する遠心力のモーメントが大きい。このため、遊星歯車部材103の回転軸c2から同一の半径距離で第1バランサー149を遊星歯車部材103に取り付ける場合、遊星歯車部材103の他の位置に比べて、第1バランサー149を最も軽くできる。このように、遊星歯車部材103の軸端部に第1バランサー149を取り付けることによって、第1バランサー149を軽くできるから、直線往復機構100全体を軽くすることができる。
【0045】
遊星歯車部材103が回転した場合に、遊星歯車部材103に作用する遠心力が釣り合い、かつ、遊星歯車部材103の回転軸上の任意の位置に作用する遠心力のモーメントが釣り合うように調整された一例を図4に示すモデルで示す。例えば、図4に示すモデルにおいて、質量体M1、質量体M2、質量体M3は、それぞれ回転軸c2から重心までの半径距離(A1、A2、A3)が同じである。そして、質量体M2が回転軸c2に取り付けられた位置から質量体M1は右側へs、質量体M3は左側へ2sの距離にそれぞれ配設されている。この場合、例えば、質量体M1が2g、質量体M2が3g、質量体M3が1gである場合に、遊星歯車部材103に作用する遠心力F1、F2、F3が釣り合い、かつ、遊星歯車部材103の回転軸c2上の任意の位置に作用する遠心力F1、F2、F3のモーメントが釣り合う。なお、遊星歯車部材103に作用する遠心力が釣り合い、かつ、遊星歯車部材103の回転軸c2上の任意の位置に作用する遠心力のモーメントが釣り合う例は、この例に限定されない。実機では、各部材の重量が微妙に異なるので、遊星歯車部材103に作用する遠心力F1、F2、F3が釣り合い、かつ、遊星歯車部材103の回転軸c2上の任意の位置に作用する遠心力F1、F2、F3のモーメントが釣り合うように、実機毎にバランスを調整するとよい。
【0046】
≪クランク部材104≫
次に、この直線往復機構100におけるクランク部材104を説明する。クランク部材104は、図2に示すように、内周太陽歯車102の中心線c1と同軸に回転するようにクランクケース101に配設されている。そして、クランク部材104は、遊星歯車部材103を自転及び公転可能に支持している。図5は、クランク部材104の側面図である。図6は、クランク部材104に遊星歯車部材103が組み込まれた状態を示す側面図である。
【0047】
この実施形態では、クランク部材104は、図5(a)に示すように、片側が太く、反対側が細い軸部材である。片側の太い軸部151には、図5(a)(b)に示すように、上述した遊星歯車部材103を装着する装着穴152が形成されている。当該装着穴152の中心線は、クランク部材104の回転軸c1から遊星歯車131のピッチ円103cの半径r1の距離ずれており、遊星歯車131のピッチ円103cの中心線c2に一致している。また、このクランク部材104の中間部は当該太い軸部151よりも少し細く形成されている。当該中間部において、太い軸部151に形成された装着穴152の底部は、図中152aで示すように、クランク部材104の側面に開口している。
【0048】
この実施形態では、クランク部材104には、第2カウンターウェイト159と第2バランサー160が取り付けられている。第2カウンターウェイト159は、クランク部材104の太い軸部151が形成された片側の端面に取り付けられている。第2カウンターウェイト159は、クランク部材104の端面に応じた略半円弧形状を有した質量部材である。円弧の中心部には、装着穴152の中心線c2を中心とする円弧状の切り欠き159aが形成されている。
【0049】
第2バランサー160は、クランク部材104に作用する遠心力を釣り合わせ、かつ、クランク部材104の回転軸c1上の任意の位置でクランク部材104に作用する遠心力のモーメントを釣り合わせる部材である。この実施形態では、このクランク部材104は、図2に示すように、軸部158がクランクケース101の挿通穴113に挿通されて、軸受163、164を介してクランクケース101に対して回転自在に装着されている。また、この実施形態では、クランクケース101の外に伸びたクランク部材104の軸部158には、フライホイール170が取り付けられている。第2バランサー160は、フライホイール170の回転中心から径方向に離れた位置に取り付けられている。
【0050】
≪遊星歯車部材103とクランク部材104の取り付け構造≫
この実施形態では、図2に示すように、遊星歯車部材103は、軸受161、162を介在させてクランク部材104の装着穴152に回動自在に装着されている。詳しくは、遊星歯車部材103は、第1カウンターウェイト148及び作用部147が、クランク部材104の装着穴152から外に出た状態で、装着穴152に装着されている。遊星軸132の装着軸部146は、図2及び図6に示すように、クランク部材104の装着穴152の底部の開口152aに到達している。かかる装着軸部146に取り付けられた遊星歯車131の歯面は、クランク部材104の装着穴152の底部の開口152aからクランク部材104の外に露出している。
【0051】
なお、クランク部材104の端面に取り付けられた第2カウンターウェイト159には、図5に示すように、装着穴152の中心線c2を中心とする円弧状の切り欠き159aが形成されている。このため、遊星歯車部材103が回転しても、第1カウンターウェイト148及び作用部147は、第2カウンターウェイト159には干渉しない。
【0052】
≪クランクケース101への取り付け構造≫
遊星歯車部材103及びクランク部材104は、図2に示すように、クランクケース101に装着されている。クランク部材104は、軸受163、164を介在させて、クランクケース101に回動自在に装着されている。クランク部材104は、クランクケース101に固定された内周太陽歯車102のピッチ円102cの中心線c1と同軸で回転するように装着されている。遊星歯車131は、クランク部材104の装着穴152の底部の開口152aから露出しており、内周太陽歯車102に噛み合っている。
【0053】
移動抵抗試験機300は、図2に示すように、クランク部材104に回転駆動させる駆動装置220を備えていてもよい。この実施形態では、かかる駆動装置220としてサーボモータが用いられている。すなわち、この直線往復機構100のクランク部材104は、サーボモータ220からクランク部材104の軸部158に直線往復機構100を駆動させる動力が伝達される。これによって、クランク部材104が回転する。クランク部材104が回転すると、遊星歯車部材103は内周太陽歯車102と噛合しながら自転及び公転する。
【0054】
≪作用部の軌道≫
すなわち、遊星歯車部材103は、図1及び図2に示すように、クランク部材104の装着穴152に装着された軸受163、164によって支持されている。また、遊星歯車部材103は内周太陽歯車102と噛み合い、クランク部材104の回転に応じて自転しながら公転する。この直線往復機構100は、図1に示すように、遊星歯車131のピッチ円103cの半径r1と、内周太陽歯車102のピッチ円102cの半径r2との比は、r1:r2=1:2の関係になっている。このため、遊星歯車部材103は、1回公転する毎に2回自転する。
【0055】
遊星歯車部材103の遊星軸132から軸方向に突出した作用部147は、遊星歯車部材103の回転軸c2から径方向にピッチ円103cの半径r1分ずれた位置に配設されている。また上述のように、遊星歯車131のピッチ円103cの半径r1と内周太陽歯車102のピッチ円102cの半径r2との比が、r1:r2=1:2の関係になっている。さらに、作用部147が遊星歯車131の回転軸c2方向の無限遠点から見て遊星歯車131のピッチ円103c上に配設されている。このため、かかる作用部147は、遊星歯車部材103の自転及び公転に応じて、内周太陽歯車102のピッチ円102cの直径に沿って直線往復動する。
【0056】
模式的に示すと、図1に示すように、クランク部材104が図中の矢印の方向eに回転すると、遊星歯車部材103は矢印fの方向に回転し、作用部147は直線Lに沿って矢印gの方向に移動する。クランク部材104が逆方向に回転すると、遊星歯車部材103の回転方向も逆になり、作用部147は直線Lに沿って矢印gとは反対の方向に移動する。
【0057】
この実施形態では、作用部147には、連接棒305が取り付けられている。連接棒305は、図2に示すように、作用部147に直交するように連結されている。また、連接棒305は、作用部147が直線往復動する直線Lに沿って延びている。
【0058】
そして、連接棒305の先端に、当該移動抵抗試験機300の被試験物310が取り付けられている。ここで、作用部147が直線往復動する直線Lが、当該移動抵抗試験機300において被試験物310を往復動させるべき直線に沿うように、直線往復機構100を所定の位置に配置している。これにより、被試験物310を所定の直線Lに沿って適切に往復動させることができる。この場合、内周太陽歯車102のピッチ円102c、及び、遊星歯車131のピッチ円103cを大きくしたり、小さくしたりすることによって、被試験物310のストローク量を調整できる。
【0059】
また、この実施形態では、直線往復機構100は、クランク部材104に作用する遠心力が釣り合い、かつ、クランク部材104の回転軸c1上の任意の位置に作用する遠心力のモーメントが釣り合っている。すなわち、この直線往復機構100は、図7に示すように、モデル化できる。図7中、c1はクランク部材104の回転軸を、M11は遊星歯車部材103に相当する質量体を、M12は第2カウンターウェイト159に相当する質量体を、M13は第2バランサー160に相当する質量体をそれぞれ示している。
【0060】
図7に示すモデルにおいて、クランク部材104が回転した場合に、質量体M11(遊星歯車部材103)に作用する遠心力をF11、質量体M12(第2カウンターウェイト159)に作用する遠心力をF12、質量体M13(第2バランサー160)に作用する遠心力をF13とする。このクランク部材104は、遠心力F11と、遠心力F12と、遠心力F13を釣り合わせている(F11+F12+F13=0(F11、F12、F13はベクトル量))。さらに、この実施形態では、クランク部材104の回転軸c1上の任意の位置で、クランク部材104に作用する遠心力(F11、F12、F13)のモーメントが釣り合っている。
【0061】
すなわち、図7に示すように、クランク部材104の回転軸c1上の任意の位置O2から各遠心力F11、F12、F13が作用する位置までの軸方向の距離をそれぞれL11、L12、L13とする。このクランク部材104は、F11×L11+F12×L12+F13×L13=0(F11、F12、F13はベクトル量)になっている。これにより、クランク部材104が回転した場合に、当該回転軸c1上の任意の位置において回転軸c1に直交する軸回りに、クランク部材104を回転させるように作用する力を小さく抑えることができる。
【0062】
この実施形態では、クランク部材104は、上述したように、F11+F12+F13=0(F11、F12、F13はベクトル量)、及び、F11×L11+F12×L12+F13×L13=0(F11、F12、F13はベクトル量)になるように、第2バランサー160の重さを調整している。なお、実際には、各部材については、重さや取り付け位置について製造上の公差が生じる。第2バランサー160の重さを調整する際は、クランク部材104に遊星歯車部材103に相当するダミーウエイトを配設し、クランクケース101に支持された状態と同様の状態で、クランク部材104を回転自在に支持する。そして、クランク部材104をモータ等で回転させて、クランク部材104に生じる振動が低減されるように、第2バランサー160の重さや取り付け位置を微調整するとよい。
【0063】
また、この実施形態では、第2バランサー160は、フライホイール170に取り付けられている。フライホイール170は、クランク部材104の回転軸c1から離れているので、第2バランサー160の重さを軽くしても作用する遠心力が大きくなる。このため、より軽い第2バランサー160によって、クランク部材104に作用する遠心力が釣り合い、かつ、クランク部材104の回転軸c1上の任意の位置に作用する遠心力のモーメントを釣り合わせることができる。
【0064】
この直線往復機構100は、上述したように遊星歯車部材103に作用する遠心力が釣り合い、かつ、遊星歯車部材103の回転軸c2上の任意の位置に作用する遠心力のモーメントが釣り合っている。さらに、クランク部材104に作用する遠心力が釣り合い、かつ、クランク部材104の回転軸c1上の任意の位置に作用する遠心力のモーメントが釣り合っている。このため、遊星歯車部材103の回転軸c2及びクランク部材104の回転軸c1に偏った荷重が作用するのを小さく抑えることができる。これにより、直線往復機構100の駆動によって生じる振動を極めて小さくすることができる。
【0065】
≪移動抵抗試験機300≫
この移動抵抗試験機300では、直線往復機構100は、上述したように、クランクケース101と、内周太陽歯車102と、遊星歯車部材103と、クランク部材104と、作用部147とを備えている。そして、作用部147を通じて被試験物310を直線往復動させることができる。この場合、直線往復機構100は、被試験物310を正確に直線往復動させることができる。また、この直線往復機構100によれば、ボールネジを用いた機構や、油圧シリンダを用いた機構などの他の機構を用いた試験機に比べて、被試験物310の速度を速くできる。また、被試験物310を低速でも安定して直線往復動できるから、被試験物310の速度に自由度がある。被試験物310の速度は、直線往復機構100のクランク部材104に付与する回転速度を調整することによって変えることができる。このため種々の条件で所望の試験が行える。
【0066】
すなわち、この直線往復機構100は、サーボモータ220の回転速度を変えることによって、被試験物310の速度を変えることができる。これにより、被試験物310の速度について、種々条件を変えて試験を行うことができる。このため、低速で動作させた場合の被試験物310の移動抵抗や、高速で動作させた場合の被試験物310の移動抵抗を測定する試験を、一台の試験機で実現できる。
【0067】
また、上述した直線往復機構100は、遊星歯車部材103に作用する遠心力を釣り合わせ、かつ、遊星歯車部材103の回転軸c2上の任意の位置で遊星歯車部材103に作用する遠心力のモーメントを釣り合わせることができる。さらに、クランク部材104に作用する遠心力を釣り合わせ、かつ、クランク部材104の回転軸c1上の任意の位置でクランク部材104に作用する遠心力のモーメントを釣り合わせることができる。これによって、駆動時の振動を低減させることができる。また、直線往復機構100の駆動による振動の影響を小さくできる。
【0068】
この移動抵抗試験機300では、被試験物310を平板320に押し当てる押し当て機構330を備えており、押し当て機構330が被試験物310に作用させる力を調整することで、かかる移動抵抗試験の条件を変更できる。この移動抵抗試験機300は、上述したように、直線往復機構100から被試験物310に作用する振動を低減させることができるので、かかる押し当て機構330の力を適切に被試験物310に作用させることができる。従って、移動抵抗試験機300において、ボールネジを用いた機構や、油圧シリンダを用いた機構などの他の機構を用いた試験機に比べて、より精度の高い測定結果が期待できる。
【0069】
すなわち、かかる直線往復機構100によれば、振動を小さく抑えることができるので、例えば、被試験物310のストロークが50mm程度であれば、5000rpm程度の速度で被試験物310を動作させても、適切な試験が行える。これに対して、例えば、ボールネジ式の直線往復機構であれば、被試験物310のストロークが50mm程度であれば、300rpm程度の速度が限界である。また、油圧シリンダとサーボ弁を用いた機構であれば、被試験物310のストロークが50mm程度であれば、600rpm程度の速度が限界である。このように、上述した直線往復機構100は、移動抵抗試験機300において、高速運転を実現でき、また低速運転でも精度が保たれるので、精度を保ちつつ許容される速度の範囲が広い。
【0070】
以上のように、この移動抵抗試験機300は、被試験物310の速度についても、一台の試験機で精度を保つことができる速度の範囲が広く、より多くの試験条件を実現できる。また、直線往復機構100に起因する振動を低減させることができるので、高い精度が期待できる。従って、ボールネジを用いた機構や、油圧シリンダを用いた機構などの他の機構を用いた試験機では、到底実現できないような多くの試験条件を、一台の試験機で精度良く実現できる。
【0071】
なお、上述した実施形態では、直線往復機構100について好適な形態を例示した。直線往復機構100は、上述した実施形態に限定されない。例えば、上述した実施形態では、第1バランサー149や第2バランサー160は、それぞれ交換可能に取り付けられている。これによって、第1バランサー149と第2バランサー160の重さや取り付け位置を微調整することが可能である。しかし、これに限らず、第1バランサー149や第2バランサー160は、それぞれ遊星歯車やクランク部材に固定してもよい。すなわち、第1バランサーと第2バランサーの重さや取り付け位置を微調整することができなくても、上述したように遊星歯車やクランク部材に作用する遠心力を釣り合わせ、かつ、遊星歯車やクランク部材の回転軸上の任意の位置に作用する遠心力のモーメントを釣り合わせるように設計されたバランサーを備えていることによって、直線往復機構100の振動を小さく抑える一応の効果は得られる。
【0072】
また、第1バランサー149は、遊星歯車131の回転軸c2に対して径方向や軸方向に取り付け位置が変更できるようにしてもよい。これによって、遊星歯車131に作用する遠心力を釣り合わせ、かつ、遊星歯車131の回転軸c2上の任意の位置に作用する遠心力のモーメントを釣り合わせる調整が容易になる。また、第2バランサー160は、クランク部材104の回転軸c1に対して径方向や軸方向に取り付け位置が変更できるようにしてもよい。これによって、クランク部材104に作用する遠心力を釣り合わせ、かつ、クランク部材104の回転軸c1上の任意の位置に作用する遠心力のモーメントを釣り合わせる調整が容易になる。なお、第1バランサー149と第2バランサー160を用いずとも、十分に振動が抑えられる場合には、第1バランサー149と第2バランサー160を用いなくてもよい。
【0073】
また、上述した内周太陽歯車102、遊星歯車部材103、クランクケース101、クランク部材104などの具体的な形状や構造は、種々の変更が可能である。また、本実施形態では、作用部が連接棒に対して回動可能に連結されている構成を例示したが、かかる構成は本発明の一実施例を示すに過ぎない。
【0074】
以上、被試験物に直線往復動を作用させる直線往復機構を備えた試験機について、被試験物310を平板320に押し当てつつ移動させ、被試験物310と平板320との移動抵抗を検査する移動抵抗試験機300を例に挙げて説明した。なお、被試験物に直線往復動を作用させる直線往復機構を備えた試験機は、上記移動抵抗試験機300に限定されない。
【0075】
例えば、被試験物に直線往復動を作用させる直線往復機構を備えた試験機は、さらに、図8に示すように、疲労試験機400を構成することができる。この場合、直線往復機構100を介して被試験物410に直線往復動に伴う力を作用させるとよい。この実施形態では、かかる疲労試験機400について、ゴム材料410にせん断変形を繰り返し付与する疲労試験機を例に挙げて説明する。この場合、ゴム材料410は、平行に配設された一対の平板420、430に挟み、当該一対の平板420、430にそれぞれ接着するとよい。
【0076】
直線往復機構100の作用部147に連接棒405を介して、一方の平板420を接続し、当該一方の平板420を他方の平板430に対して、平行を維持しつつ相対的に直線往復動させるとよい。この実施形態では、平板420に付与される荷重をロードセル440で計測している。また、カウンター460でせん断力が付与された回数をカウントしている。かかるカウンター460は、例えば、直線往復機構100のクランク部材104の回転数を計測するものでもよい。この場合、ゴム材料410に亀裂や破断が生じるまでに、どの程度のせん断力が何回付与されたかを測定することができる。
【0077】
かかる疲労試験機400によれば、直線往復機構100は、図8に示すように、クランクケース101と、内周太陽歯車102と、遊星歯車部材103と、クランク部材104と、作用部147とを備えており、作用部147を通じて被試験物410を直線往復動させることができる。この場合についても、直線往復機構100は、サーボモータ(図示省略)の回転速度を変えることによって、被試験物410の速度を変えることができる。これにより、被試験物410の速度について、種々条件を変えて試験を行うことができる。また、疲労試験では、せん断力が数十万回程度にまで多くなる場合もある。この疲労試験機400によれば、直線往復機構100の速度を速くすることができるので、試験に要する時間をかなり短縮することができる。このように、上述した直線往復機構100はこのような疲労試験機400にも好適である。
【0078】
以上、疲労試験機400について一例を挙げて説明したが、疲労試験機400は、上記の形態に限定されない。例えば、被試験物410については、上述したゴム材料410に限定されず、種々の材料を被試験物410とすることができる。また、せん断変形の試験だけでなく、曲げ試験や、引張圧縮試験等にも適用できる。
【0079】
また、被試験物に直線往復動を作用させる直線往復機構を備えた試験機として、種々の形態300、400を例示した。この場合、作用部147は、連接棒305、405を介して、それぞれ被試験物310、被試験物410に接続されている。この場合、例えば、図1及び図8に示すように、連接棒305、405が直線往復動するようにガイドする案内部306、406を備えていてもよい。この場合、かかる案内部306、406は、すべり軸受や、空気軸受で構成するとよい。空気軸受306、406による場合は、例えば、連接棒305、405の外周を覆う外装部材と、当該外装部材306a、406aと連接棒305、405との間に圧縮空気を供給するコンプレッサ306b、406bとで構成してもよい。
【0080】
かかる空気軸受306、406によれば、連接棒305、405を非接触でガイドすることができる。また、このような案内部306、406を設けることにより、例えば、直線往復機構100を設置する際の誤差などにより、直線往復機構100の作用部147の軌道が、所定の直線Lからずれるような場合でも、連接棒305、405の軌道を適切に修正することができる。これにより、被試験物に直線往復動を作用させる直線往復機構を備えた試験機において、被試験物により安定して直線往復動を作用させることができる。
【0081】
以上のように、本発明に係る試験機は、例えば、図1又は図8に示すように、被試験物310、被試験物410に直線往復動を作用させる直線往復機構100を備えている。直線往復機構100は、上述したように、クランク部材104と、クランク部材104に固定的に配設された内周太陽歯車102と、内周太陽歯車102のピッチ円直径の2分の1のピッチ円直径を有する遊星歯車131を内周太陽歯車102に噛み合わせつつ自転及び公転する遊星歯車部材103とを備えている。さらに、この直線往復機構100は、内周太陽歯車102の中心線と同軸に回転するようにクランクケース101に配設され、遊星歯車部材103を自転及び公転可能に支持するクランク部材104と、遊星歯車131の回転軸方向の無限遠点から見て遊星歯車131のピッチ円上において、遊星歯車部材103に配設され、クランク部材104の回転に伴って直線往復動する作用部147とを備えている。そして、当該作用部147を通じて被試験物310、410に直線往復動を作用させている。
【0082】
この直線往復機構100によれば、クランク部材104を回転駆動させることによって、作用部147を直線往復動させることができる。この場合、被試験物310、410に作用させる直線往復動の速度に自由度があり、被試験物310、410に作用させる直線往復動について、種々の条件で所望の試験が行える。このように本発明に係る試験機では、被試験物に作用させる直線往復動の速度についても、一台の試験機で精度を保つことができる速度の範囲が広く、より多くの試験条件を実現できる。従って、ボールネジを用いた機構や、油圧シリンダを用いた機構などの他の機構を用いた試験機では、到底実現できないような多くの試験条件を、一台の試験機で実現できる。
【0083】
上記の実施形態では、本発明に係る試験機として、移動抵抗試験機300(図1参照)、疲労試験機400(図8参照)について、それぞれ一例を挙げたが、本発明に係る試験機はこれらに限定されず、被試験物に直線往復動を作用させる直線往復機構を備えた種々の試験機に適用できる。例えば、図示は省略するが、シリンダとピストンの摺動抵抗を測定する摺動抵抗試験機を構成することができる。この場合、例えば、直線往復機構によって、シリンダに対してピストンを直線往復動させ、この際に、シリンダに作用する力を検出するように構成するとよい。また、この直線往復機構は、被試験物を、例えば、10m/s程度の速度で直線往復動させることができる。このため、かかる被試験物によって、他の部材に衝撃を与えるように構成することによって、衝撃試験機を構成することもできる。
【0084】
以上、被試験物に直線往復動を作用させる直線往復機構を備えた試験機について、本発明に係る種々の実施形態を例示したが、本発明は、上記に例示される実施形態に限定されない。
【符号の説明】
【0085】
100 直線往復機構
101 クランクケース
102 内周太陽歯車
102c ピッチ円
103 遊星歯車部材
103c ピッチ円
104 クランク部材
111 底部
112 開口
113 挿通穴
121 段差
131 遊星歯車
132 遊星軸
141 装着穴
146 装着軸部
147 作用部
148 第1カウンターウェイト
149 第1バランサー
149a 基部
149b 錘部
149c 突起
151 軸部
152 装着穴
152a 開口
158 軸部
159 第2カウンターウェイト
160 第2バランサー
161、162 軸受
163、164 軸受
170 フライホイール
200 動作部材
220 サーボモータ(駆動装置)
300 移動抵抗試験機
305 連接棒
306、406 空気軸受(案内部)
306a、406a 外装部材
306b、406b コンプレッサ
310 被試験物
320 平板
330 押し当て機構
340 力検出器
360 ローラ
400 疲労試験機
405 連接棒
410 ゴム材料(被試験物)
420、430 平板
440 ロードセル
460 カウンター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被試験物に直線往復動を作用させる直線往復機構を備えた試験機において、
前記直線往復機構は、
クランクケースと、
前記クランクケースに固定的に配設された内周太陽歯車と、
前記内周太陽歯車のピッチ円直径の2分の1のピッチ円直径を有する遊星歯車を前記内周太陽歯車に噛み合わせつつ自転及び公転する遊星歯車部材と、
前記内周太陽歯車の中心線と同軸に回転するように前記クランクケースに配設され、前記遊星歯車部材を自転及び公転可能に支持するクランク部材と、
前記遊星歯車の回転軸方向の無限遠点から見て遊星歯車のピッチ円上において、前記遊星歯車部材に配設され、前記クランク部材の回転に伴って直線往復動する作用部と、
を備え
前記作用部を通じて前記被試験物に直線往復動を作用させる、直線往復機構を備えた試験機。
【請求項2】
前記クランク部材に回転駆動させる駆動装置を備えた、請求項1に記載された直線往復機構を備えた試験機。
【請求項3】
前記駆動装置はサーボモータである、請求項2に記載された直線往復機構を備えた試験機。
【請求項4】
作用部は、連接棒を介して前記被試験物に接続されており、
前記連接棒が直線往復動するようにガイドする案内部を備えた、請求項1から3までの何れか一項に記載された直線往復機構を備えた試験機。
【請求項5】
前記案内部は、空気軸受で構成された、請求項4に記載された直線往復機構を備えた試験機。
【請求項6】
前記遊星歯車部材は、前記遊星歯車部材に作用する遠心力が釣り合い、かつ、前記遊星歯車部材の回転軸上の任意の位置で前記遊星歯車部材に作用する遠心力のモーメントが釣り合い、
前記クランク部材は、前記クランク部材に作用する遠心力が釣り合い、かつ、前記クランク部材の回転軸上の任意の位置で前記クランク部材に作用する遠心力のモーメントが釣り合う、請求項1から5までの何れか一項に記載された直線往復機構を備えた試験機。
【請求項7】
前記遊星歯車部材は、前記遊星歯車部材に作用する遠心力を釣り合わせ、かつ、前記遊星歯車部材の回転軸上の任意の位置で前記遊星歯車部材に作用する遠心力のモーメントを釣り合わせる第1バランサーを備えている、請求項6に記載された直線往復機構を備えた試験機。
【請求項8】
前記クランク部材は、前記クランク部材に作用する遠心力を釣り合わせ、かつ、前記クランク部材の回転軸上の任意の位置で前記クランク部材に作用する遠心力のモーメントを釣り合わせる第2バランサーを備えている、請求項6に記載された直線往復機構を備えた試験機。
【請求項9】
前記第1バランサー又は第2バランサーは交換可能に取り付けられている、請求項7又は8に記載された直線往復機構を備えた試験機。
【請求項10】
前記第1バランサーは、遊星歯車部材の回転軸に対して径方向に取り付け位置が変更できる、請求項7に記載された直線往復機構を備えた試験機。
【請求項11】
前記第1バランサーは、遊星歯車部材の回転軸に対して軸方向に取り付け位置が変更できる、請求項7に記載の直線往復機構を備えた試験機。
【請求項12】
前記第1バランサーは、遊星歯車部材の軸方向端部に取り付けられている、請求項7に記載の直線往復機構を備えた試験機。
【請求項13】
前記第2バランサーは、クランク部材の回転軸に対して径方向に取り付け位置が変更できる、請求項8に記載の直線往復機構を備えた試験機。
【請求項14】
前記第2バランサーは、クランク部材の回転軸に対して軸方向に取り付け位置が変更できる、請求項8に記載の直線往復機構を備えた試験機。
【請求項15】
被試験物を平板に対して直線往復動させる直線往復機構を備え、前記被試験物を平板に押し当てつつ移動させ、前記被試験物と平板との移動抵抗を検査する移動抵抗試験機であって、
前記直線往復機構は、
クランクケースと、
前記クランクケースに固定的に配設された内周太陽歯車と、
前記内周太陽歯車のピッチ円直径の2分の1のピッチ円直径を有する遊星歯車を前記内周太陽歯車に噛み合わせつつ自転及び公転する遊星歯車部材と、
前記内周太陽歯車の中心線と同軸に回転するように前記クランクケースに配設され、前記遊星歯車部材を自転及び公転可能に支持するクランク部材と、
前記遊星歯車の回転軸方向の無限遠点から見て遊星歯車のピッチ円上において、前記遊星歯車部材に配設され、前記クランク部材の回転に伴って直線往復動する作用部と、
を備えており、
前記作用部を通じて前記被試験物を前記平板に対して直線往復動させる、移動抵抗試験機。
【請求項16】
被試験物に直線往復動に伴う力を作用させる直線往復機構を備えた、疲労試験機であって、
前記直線往復機構は、
クランクケースと、
前記クランクケースに固定的に配設された内周太陽歯車と、
前記内周太陽歯車のピッチ円直径の2分の1のピッチ円直径を有する遊星歯車を前記内周太陽歯車に噛み合わせつつ自転及び公転する遊星歯車部材と、
前記内周太陽歯車の中心線と同軸に回転するように前記クランクケースに配設され、前記遊星歯車部材を自転及び公転可能に支持するクランク部材と、
前記遊星歯車の回転軸方向の無限遠点から見て遊星歯車のピッチ円上において、前記遊星歯車部材に配設され、前記クランク部材の回転に伴って直線往復動する作用部と、
を備えており、
前記作用部を通じて前記被試験物を直線往復動させる、疲労試験機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−266266(P2010−266266A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−116321(P2009−116321)
【出願日】平成21年5月13日(2009.5.13)
【出願人】(392029971)LWJ株式会社 (7)
【出願人】(593001624)株式会社米倉製作所 (5)