直腸脱気管
【課題】前立腺がん治療における放射線照射に起因する直腸障害を軽減する医療用具を提供する。
【解決手段】前立腺がんの放射線治療時に直腸内に挿入して、直腸に照射される線量を減少させるために用いられる直腸脱気管;及び前記直腸脱気管と、該直腸脱気管の内径側に挿入しうる挿入用内筒とを含む、前立腺がん治療における放射線照射に起因する直腸障害を軽減するための医療用具。
【解決手段】前立腺がんの放射線治療時に直腸内に挿入して、直腸に照射される線量を減少させるために用いられる直腸脱気管;及び前記直腸脱気管と、該直腸脱気管の内径側に挿入しうる挿入用内筒とを含む、前立腺がん治療における放射線照射に起因する直腸障害を軽減するための医療用具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前立腺がんの放射線治療等に用いられる直腸脱気管に関する。
【背景技術】
【0002】
前立腺がんは日本人男性の悪性腫瘍の罹患者のうち5.4%、悪性腫瘍による死亡者の4.2%を占めており、近年増え続けている悪性腫瘍の代表的なものの一つである。
【0003】
前立腺がんの根治的治療として手術や放射線治療が行われる。前立腺がんの通常の放射線治療における生化学的無病生存率(血液の生化学検査結果を指標とした無病生存率)は低リスク群、中リスク群、高リスク群毎にそれぞれ87%、56%、37%といわれている。また放射線治療による有害事象のうち、最も頻度の高いGrade 2以上の直腸炎の頻度は10%とされている。
【0004】
最近では、陽子線治療など様々な新しい放射線治療の技術が現れ、治療効果の改善や毒性の軽減が図られているが、更に放射線治療の効果を向上させ、有害事象を減らすために、前立腺により高い線量を投与し、直腸など正常の臓器の線量を押さえることが必要である。
【0005】
前立腺がんの放射線治療では前立腺と時に精嚢(前立腺の後ろに位置する。)に放射線が照射される。CTなどでこれらの臓器を同定して照射する部位、体積を規定する。前立腺や精嚢の骨盤骨との相対的位置関係が大きく変動することが知られており、実際の治療では、前立腺と精嚢そのものの体積に5〜10mmの猶予を足した体積が照射(図1の点線で囲われる部分)されることになる。これにより直腸の照射される体積が増加し、障害の頻度が高くなる。
【0006】
前立腺の位置が変動する原因の一つとして、ガスや便による直腸の体積の変動(図2)が指摘されている。すなわち、直腸が充満していると、直腸の腹側面(前面)が前立腺の背面に押し付けられることになり、前立腺自体が前方へ変位してしまうため、放射線照射が必要な照射位置からのずれが生じることにより、効果的な照射ができなくなるばかりでなく、直腸に放射線が照射されてしまう恐れが発生する。
【0007】
前記、直腸体積の変動に伴う前立腺の前方への変位寸法の測定値としては、直腸体積が140mlのときの前立腺の前方への変位寸法が3.3mmであり、直腸体積が80mlのときの前立腺の前方への変位寸法が1.6mm、直腸体積が60mlのときの前立腺の前方への変位寸法が1.4mm、直腸体積が40mlのときの前立腺の前方への変位寸法が0.2mmというデータがあり、前立腺の前方への変位量は、直腸体積の増減による影響を受け易いことが確認されている。
【0008】
そこで、前立腺の背後に位置する直腸の体積を一定にするために、直腸内に60〜80ml程度に膨らませたバルーンを留置(図3)して治療する方法が知られている(非特許文献1)。
【0009】
この方法は前立腺の位置の再現性を高め、前立腺本体に小さい猶予を与えた体積で治療できるため、直腸の線量を減らすことが期待できるとされている。しかしながら、直腸内バルーンによって直腸内容積が増すため、直腸の腹側面(前面)を前立腺に押し付ける形になり、前立腺近傍の直腸の体積が大きくなることで処置による粘膜の損傷、不快感が生じる恐れがある。また、バルーンの体積が直腸体積よりも大き過ぎる場合には、前記直腸内のガス等の充満と同様に、前立腺の前方への変位による弊害や直腸への放射線照射の恐れも発生するため、あまり効果的ではないことが確認されている。
【0010】
尚、前記放射線治療時に問題となる直腸内にガスが充満している状態は、直腸近傍臓器の位置の変位を生じさせることになるため、前立腺がん治療以外の他の治療目的や治療計画においても、X線透視やCT撮影等における標準的な臓器の位置確認の妨げの原因にもなることから、直腸内のガスを簡便な操作により効率よく抜くことができる医療用具の開発が望まれている。
【0011】
【非特許文献1】van Lin EN, The effect of an endorectal balloon and off-line correction on the interfraction systematic and random prostate position variations: a comparative study, Int. J. Radiat. Oncol. Biol. Phys. 2005 Jan 1; 61(1):278-88.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、前立腺がん治療における放射線照射に起因する直腸障害を軽減する医療用具及び直腸内のガスを簡便な操作により効率よく抜くことができる医療用具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
直腸内腔容積が少なければ(図2、左)、直腸腹側面と前立腺との間に距離ができるため、前立腺への放射線等の照射が集中し効果的となり、直腸への照射線量も軽減できるが、排便やガスの状態は常時変動しており照射中にも変動することがある。本発明者は、治療計画時や治療開始時にX線透視でガスが多い(図2、右)ことに気づいた。しかしながら、意図的にガスを排泄させることは難しく、ガスを排泄できたとしても、ガス排泄とともに排尿してしまうことがあり、その結果、膀胱内容量が変動して前立腺の変位を生じてしまう危険がある。
【0014】
そこで、本発明者は、直腸に管を挿入(図4)して、直腸内容物を積極的に除去した状態で治療計画用CT撮影を可能とさせ、直腸への照射を防止し、放射線や陽子線等による効果的な治療を行う方法を開発した。すなわち、この方法で直腸内容物が少ない状態を再現できれば、前立腺の変位が最小限になり、かつ直腸を前立腺後壁から離した状態の治療が可能になる。また、この方法でも前立腺後壁と直腸腹側面(前面)との距離的猶予が少ない場合には、脱気管の先端部から中間部にかけての湾曲径を可変(湾曲を深くする。)させ、直腸後壁を後方(尾てい骨側)に押し出し、前立腺後面と直腸腹側面(前面)との間に距離をつくることを可能にする器具を開発した。
【0015】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)前立腺がんの放射線治療時に直腸内に挿入して、直腸に照射される線量を減少させるために用いられる直腸脱気管。
(2)可撓性材料からなる先端閉塞、基端開口のチューブ状物であり、チューブ壁面に脱気孔を有する前記(1)に記載の直腸脱気管。
(3)直腸内に挿入されたときにヒトの腹部側に位置する側に脱気孔が左右対称で並列に配されている前記(1)又は(2)に記載の直腸脱気管。
(4)可撓性材料からなる先端閉塞、基端開口のチューブ状物であり、直腸内に挿入されたときにヒトの腹部側に位置する側に脱気孔が左右対称で並列に配されている、直腸内に挿入して、直腸内のガスを抜くために用いられる直腸脱気管。
(5)可撓性材料が熱可塑性樹脂である前記(2)〜(4)のいずれかに記載の直腸脱気管。
(6)可撓性材料中に、造影剤を含有する前記(2)〜(5)のいずれかに記載の直腸脱気管。
(7)先端から90mmの範囲に複数の脱気孔を有する前記(2)〜(6)のいずれかに記載の直腸脱気管。
(8)先端から40〜90mmに配された第1湾曲部、第1湾曲部より30〜50mmに配された第1湾曲部とは逆方向の湾曲を持つ第2湾曲部及び第2湾曲部より30〜100mmに配された第2湾曲部とは逆方向の湾曲を持つ第3湾曲部が、S字型を形成するように配置されてなる曲線部を有する前記(1)〜(7)のいずれかに記載の直腸脱気管。
(9)第3湾曲部が直線部を含む前記(8)に記載の直腸脱気管。
(10)第1湾曲部の曲率半径が20〜60mm、第2湾曲部の曲率半径が10〜30mmである前記(8)又は(9)に記載の直腸脱気管。
【0016】
(11)第3湾曲部の曲率半径が10〜50mmである前記(10)に記載の直腸脱気管。
(12)第1湾曲部に複数の脱気孔を有する前記(8)〜(11)のいずれかに記載の直腸脱気管。
(13)直腸への挿入長さ及び/又は脱気孔の方向性を判別可能とさせる長さマーキングが長さ方向に沿って印字されている前記(1)〜(12)のいずれかに記載の直腸脱気管。
(14)前記(1)〜(13)のいずれかに記載の直腸脱気管と、該直腸脱気管の内径側に挿入しうる挿入用内筒とを含む医療用具。
(15)挿入用内筒が両端開口のチューブ状物である前記(14)に記載の医療用具。
(16)前立腺がん治療における放射線照射に起因する直腸障害を軽減するために用いられる前記(14)又は(15)に記載の医療用具。
(17)直腸内のガスを抜くために用いられる前記(14)又は(15)に記載の医療用具。
(18)前記(1)〜(13)のいずれかに記載の直腸脱気管と、直腸内に挿入された該直腸脱気管の内径側に挿入して用いられる内筒であって、造影剤を含有する可撓性材料からなる造影用挿入内筒とを含む医療用具。
(19)直腸内に挿入された前記(1)〜(13)のいずれかに記載の内径側に挿入して用いられる内筒であって、造影剤を含有する可撓性材料からなる造影用挿入内筒。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、前立腺がん治療における放射線照射に起因する直腸障害を軽減するとともに、直腸内のガスを簡便な操作により効率よく抜くことにより、直腸内にガスが充満していることにより発生する直腸近傍臓器の位置の変位を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の直腸脱気管は、前立腺がんの放射線治療時に直腸内に挿入して、直腸に照射される線量を減少させるために用いられるものであり、直腸に管を挿入して、直腸内容物を積極的に除去することにより、直腸内容物が少ない状態を再現して、前立腺の変位を最小限にするために用いられる医療用具である。
【0019】
したがって、本発明の直腸脱気管は、直腸内に挿入しうる形状であり、少なくとも1つの脱気孔を有するものであれば、形状は問わないが、脱気のみでは、前立腺後壁と直腸腹側面(前面)との距離的猶予が充分得られない場合にも、前立腺後面と直腸腹側面(前面)との間に距離をつくることを可能にする点から、脱気管の先端部から中間部にかけて曲線部を形成させることが好ましく、先端から第1湾曲部及び第2湾曲部がS字型を形成するように配置されてなる曲線部を形成させることが更に好ましく、第2湾曲部に続く位置に第2湾曲部とは逆方向の湾曲を持つ第3湾曲部を設けることが最も好ましい。また、前記曲線部において、第1湾曲部の曲率半径は、通常20〜60mm、好ましくは30〜45mm、第2湾曲部の曲率半径は、通常10〜30mm、好ましくは12〜20mm、第3湾曲部の曲率半径は、通常10〜50mm、好ましくは25〜40mmであり、第1湾曲部の長さは、通常40〜90mm、好ましくは60〜80mm、第2湾曲部の長さは、通常30〜50mm、好ましくは35〜45mm、第3湾曲部の長さは、通常30〜100mm、好ましくは50〜70mmである。なお、第3湾曲部は、完全な湾曲が形成されないものであってもよく、例えば曲率の途中から直線状に加工されているもの、あるいは直線部を含んでいるものでもよく、また、第2湾曲部から直接直線状に導かれる形状の直腸脱気管であってもよい。
【0020】
前記曲線部は、本発明の直腸脱気管を直腸内に挿入したときに、前立腺後面と直腸腹側面(前面)との間に5〜10mmの距離をつくることができるように設計することが好ましい。
【0021】
本発明の直腸脱気管の外径は、通常4〜14mm、好ましくは7〜10mmであり、内径は、通常2〜8mm、好ましくは3〜6mmであり、長さは、ヒトの直腸の長さ及び前立腺との位置関係、及び挿入操作性の関係から、通常100〜400mm、好ましくは150〜350mm、更に好ましくは220〜280mmである。
【0022】
本発明の直腸脱気管は、直腸への挿入のし易さ及び脱気の機能性の点から、先端閉塞、基端開口のチューブ状物であることが好ましい。
【0023】
本発明の直腸内に挿入して、直腸内のガスを抜くために用いられる直腸脱気管は、先端閉塞、基端開口のチューブ状物であるため、直腸へ挿入し易く、かつ直腸内のガスを簡便な操作により効率よく抜くことができる。
【0024】
本直腸脱気管のガス抜きは、直腸腹側面と前立腺との間に間隙を形成させることが目的であるため、直腸腹側面側(前立腺側)のガスを効率よく抜く必要がある。したがって、直腸脱気管の脱気孔の位置は、脱気管を直腸内に挿入したときにヒトの腹部側に位置する側にあることが好ましい。また、ガス抜き効果を高めるためには、脱気孔は、直腸脱気管が直腸内に挿入されたとき、ヒトの膀胱上部の位置と平行となる部分から始まり、ヒトの前立腺下部の位置と平行となる部分までの間に位置するように複数個設けることが好ましく、ヒトの腹部側から見て左右対称に設けることが更に好ましい。
【0025】
本発明の直腸脱気管は、前記の通り、脱気管を直腸内に挿入したときにヒトの腹部側に位置する複数個の脱気孔を有している方が効果的であり、脱気孔の数としては、臨床試験の結果から、4〜8個でもほぼ目的を達成する結果となったが、好ましくは6〜12個、更に好ましくは8〜12個の脱気孔を有している方が効率的である。脱気孔の大きさ、形状は、脱気効果が得られ、かつ直腸挿入時に患者に痛み等の不快感を与えないものであれば、特に制限はないが、直腸挿入方向に長手方向を有した長円形状であり、バリ等の副生成物がなく、表面が円滑性に優れていることが好ましい。脱気孔は、少なくとも先端付近、すなわち先端から90mmまでの位置、好ましくは第1湾曲部に複数、例えば4〜8個、好ましくは6〜12個、更に好ましくは8〜12個設けることが効果的である。
【0026】
本発明の直腸脱気管には、直腸への挿入長さ及び/又は脱気孔の方向性を判別可能とさせる長さマーキングを長さ方向に沿って印字することが好ましい。この長さマーキングは、脱気管を直腸に挿入したときにヒトの腹部側に位置される脱気孔とは反対側(脱気孔の裏側でヒトの背中側に位置される)に設けることが好ましい。通常、直腸脱気管の直腸内への挿入操作は、ヒトの背中側から行われるため、背中側から見て、脱気管の挿入長さや脱気孔の方向性が容易に判別可能となる。
【0027】
本発明の直腸脱気管を構成する材料としては、直腸内に挿入しうる強度を有し、かつ柔軟性に富み、表面円滑性に優れた材質であれば、特に制限はないが、前述した曲線部を設けた直腸脱気管を、該直腸脱気管の内径側に挿入用内筒を挿入してほぼ直線状に変形させ、直腸内に挿入し易くさせる点において、かつ、挿入用内筒を該直腸脱気管開口部側に移動した際の曲線復元性において、可撓性材料、例えば熱可塑性樹脂、或いはシリコーンゴム、ウレタンゴム他の加硫ゴム等の柔軟性を有する材料が好ましく、柔軟性、復元性、表面円滑性、及び後述する挿入用内筒に対する視認性(透明性)の点から、熱可塑性エラストマーが更に好ましい。
【0028】
前記熱可塑性エラストマーとしては、例えばポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、好ましくはポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーが挙げられる。
【0029】
可撓性材料、例えば熱可塑性樹脂の硬度は、好ましくはショアA80〜95、更に好ましくはショアA83〜90である。
【0030】
可撓性材料は、本発明の目的を損なわない限り、熱安定性、酸化防止性などを目的として、慣用の添加剤、例えば、無機充填剤(炭酸カルシウム、タルク、酸化チタン、シリカ、クレー、硫酸バリウム、炭酸マグネシウムなど)、無機又は有機繊維状物(ガラス繊維、カーボン繊維、アラミド繊維など)、安定剤(熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤)、粘着付与剤、帯電防止剤、滑剤、発泡剤、着色剤などを含んでいてもよい。
【0031】
また、本直腸脱気管の直腸への挿入状態をX線透視やCT撮影により造影可能とさせる造影剤を、主材料である可撓性材料に配合することにより、人体外部から挿入状態や位置確認が判別可能となる。ここで用いる造影剤は、X線透視やCT撮影用に造影用として用いられ、かつ、人体に有害でなく、人骨と同等の遮蔽効果が得られるものであれば制限はないが、通常、バリウム硫酸塩、硫酸アルミニウム、炭酸ビスマス、酸化ビスマス等の無機充填剤や、銀及びヨード等が用いられる。尚、造影のみが目的であれば、造影剤を直腸脱気管の材料中に配合せずに、金属製のワイヤをチューブ内に埋め込む方法や、当金属製のワイヤやガーゼ等を直腸脱気管内に挿入し造影させる方法を用いることも可能となる。
【0032】
本発明の直腸脱気管においては、前記選択肢の中から、人体に無害で造影効果が高く、主材料である可撓性材料への相溶性に優れ、主材料の柔軟性や機械特性を損なわせない理由により、造影剤として無機充填剤を用いる方法が好ましく、生体臨床用として認定され毒性がないことが保証されているバリウム硫酸塩を配合する方法が更に好ましい。バリウム硫酸塩の配合割合は、製品の大きさ(外径寸法)によっても異なるが、本発明の直腸脱気管へ配合させる場合には、X線透視又はCT撮影による判別効果、人骨相当のCT値、CT画像のハレーション防止の点から、主材料である可撓性材料に対して、通常1〜20質量%、好ましくは2〜10質量%、更に好ましくは4〜6質量%である。
【0033】
本発明の直腸脱気管は、好ましくは、樹脂原料をチューブ状に押出成形し、必要な長さに切断の後、先端を熱融着により半球状閉塞の状態に加工した後、熱とプレスによる側面側の脱気孔加工を行い、曲げ加工金型を用いて加熱及び急冷することにより曲線部を形成させることで、製造することができる。
【0034】
本発明の直腸脱気管を直腸内に挿入するには、該直腸脱気管の内径側に挿入用内筒を挿入し、曲線部を有する該直腸脱気管を、ほぼ直線状に変形させた状態で直腸内に挿入すればよい。次いで、挿入用内筒を直腸脱気管内で開口部側に必要量移動させた後、そのまま移動を停止した状態を保つことにより、直腸内のガスは脱気孔を経由して、ほぼ体外へ排出可能となる。ガスが抜け難い際は、挿入用内筒内径側より注射器等でガス抜きを行い、直腸内容物を減少させる。また、該直腸脱気管内で挿入用内筒を開口部側に移動させたり、抜き去ったりすることにより、直腸脱気管の曲線部は、挿入用内筒を挿入する前の状態に戻り、前立腺後面と直腸前面側との間の距離を十分つくることが可能となり、直腸前面が前立腺後面から離れた状態で固定され、直腸への放射線や陽子線の照射線量を減少させることができる。その結果、放射線や陽子線による直腸粘膜の損傷を抑制することができ、直腸障害等の弊害の発生が防止可能となる。
【0035】
前記挿入用内筒は、前記のことを可能にするものであれば、材料、形状等に制限はないが、挿入用内筒の材料としては、好ましくは、該直腸脱気管を直線状に変形させうるだけの十分な硬度があり、表面円滑性に優れ、摩擦抵抗が少ない、挿入性のよいフッ素樹脂や、シリコーン系樹脂及びエチレンビニルアルコール共重合樹脂(エチレン酢酸ビニル共重合けん化物:EVOH)が挙げられ、形状は、通常、両端開口のチューブ状物であるが、治療後の器具の後処理の観点からは、環境特性に優れたエチレンビニルアルコール共重合樹脂が特に好ましい。
【0036】
前記挿入用内筒は、樹脂を押出成形機によりチューブ状に成形し、必要な長さに切断することにより製造することができる。
【0037】
本発明の直腸脱気管は、通常、前記挿入用内筒と組み合わせた医療用具として製造販売されるが、直腸脱気管のみを単独で製造販売して、前記挿入用内筒としては、別途入手可能なものを適宜用いることも可能である。
【0038】
尚、直腸脱気管の直腸への挿入状態をX線透視やCT撮影で判別可能とする方法として、前記金属製ワイヤやガーゼを直腸脱気管内に挿入する方法を例示したが、本直腸脱気管においては、金属製ワイヤでは硬すぎて直腸脱気管の形状自体が損なわれる欠点があり、ガーゼの場合には、体内に残渣が残る恐れがあり採用することは不可能となる。
【0039】
そのため、本発明者は前記のように、直腸脱気管を形成する主原料にバリウム硫酸塩等の造影剤を配合させる方法を考案したが、治療現場においては、常にX線透視やCT撮影を必要とはしない場合があり、特に前記挿入マーキングが印刷された効果により、脱気管の方向性や挿入長さの認知が可能になったことから、全ての直腸脱気管自体に造影剤を配合させる必要もない場合も発生することが傾向として窺えた。
【0040】
そこで本発明者は、直腸脱気管を形成する主原料に造影剤を配合しない場合に、X線透視やCT撮影を可能とさせる方法として、前記金属製ワイヤの欠点を解消する代替案として、脱気管の形状に変化を及ぼさない造影用挿入内筒を考案した。すなわち、直腸脱気管と同等或いは若干硬めの可撓性材料、例えば熱可塑性樹脂中に造影剤を配合させた材料を用いて、脱気管内径よりも十分に細い外径を有したチューブを押出成形機により成形し、必要な長さにカットすることで、造影用挿入内筒は製作可能となる。
【0041】
本発明の造影用挿入内筒は、直腸脱気管を直腸内に挿入後、脱気管内に挿入されるため脱気管の形状に添った形態となり、X線透視やCT撮影の手法を用いることにより、人体外部から脱気管の挿入状態や位置確認が判別可能となる。造影用挿入内筒のチューブ外径は脱気管内径よりも十分に細ければよいが、通常1.2〜4.0mm、好ましくは1.5〜3.0mm、更に好ましくは、1.8〜2.5mmであり、造影用挿入内筒のチューブ内径は、ガス抜きに支障が生じない範囲で、前記外径に準じて、0.6〜2.0mmの中で選択される。本造影用挿入内筒の材料硬度は、脱気管の材料硬度よりも若干硬めの硬度の方が挿入の操作性がよく、通常ショアA83〜95が好ましく、更に好ましくは、ショアA85〜90である。また、造影用挿入内筒の主材料である可撓性材料へのバリウム硫酸塩等の造影剤の配合割合は、直腸脱気管よりもチューブ外径が細いため、配合比を高くすることが望ましく、主材料に対して、通常5〜20質量%、好ましくは10〜15質量%である。
【0042】
直腸脱気管の主材料に造影剤を配合していなくても、本発明の造影用挿入内筒を使用することにより、必要に応じてX線透視やCT撮影が可能となることから、利便性やコスト面(造影剤入り材料は高価)において好ましい。
【0043】
本発明の直腸脱気管は、前立腺がん治療に用いられる線量の集中性の高い陽子線治療における直腸障害(直腸粘膜の損傷)を軽減するばかりでなく、線量集中性の劣る、一般的な放射線治療(X線、γ線)による直腸障害の軽減にも大きく寄与すると考えられる。
【実施例】
【0044】
本発明をより具体的かつ詳細に説明するために以下に実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0045】
実施例1
(1)平均的直腸形状のモデルの作成
前立腺がん陽子線治療患者15例のCT画像をもとに、平均的直腸形状のモデルを作成した。前記15例の平均の直腸・肛門の湾曲、及び当該湾曲に基づき推定された直腸脱気管の望ましい湾曲を図5に示す。
【0046】
(2)直腸脱気管の製造
メディカル用ポリウレタン系熱可塑性エラストマー(硬度:ショアA85)、メディカル用ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(硬度:ショアA86)のそれぞれを用いて、単層押出成形機を使用して、外径8mm、内径4mmのチューブの成形を行った。その後、成形されたチューブを長さ250mmに切断した後、チューブ先端を熱融着により半球状閉塞(曲率半径4mm)の状態に加工し、先端閉塞、基端開口の直線状チューブの形状とした後、先端から10mm、25mm及び40mmの位置に、熱とプレス打ち抜き加工により各2個の脱気孔(幅2mm、長さ5mmの長円)の打ち抜き加工を行い、曲線成形前の直線状チューブを製作した(図6)。
【0047】
図5に示した直腸脱気管の望ましい湾曲に基づいて、先端から第1湾曲部(曲率半径40mm)、第2湾曲部(曲率半径18mm)及び第3湾曲部(曲率半径28mm)がS字型を形成するように曲線部を設けたアルミニウム製の曲げ金型を製造した(図7)。
【0048】
この曲げ金型内に前記直線状チューブをセットした後、恒温槽内に入れ、適正な温度条件下において一定時間加熱した後、冷却水により急冷することにより、前記の直線状チューブに曲げ成形加工が施され、先端から第1湾曲部(曲率半径40mm)、第2湾曲部(曲率半径18mm)及び第3湾曲部(曲率半径28mm)がS字型を形成するように配置されてなる曲線部を有する直腸脱気管を製造した。
【0049】
なお、前述の第3湾曲部に関しては、完全な湾曲が形成されないものであってもよく、例えば、図8のように曲率の途中から直線状に加工された直腸脱気管でもよく、また、第2湾曲部から直接直線状に導かれる形状の直腸脱気管であってもよい。
図6、7及び8において、数値の単位は特記されていない限り、mmである。
【0050】
(3)挿入用内筒の製造
挿入用内筒の樹脂原料は、必要硬度があり、表面円滑性に優れ、摩擦抵抗が少なく、環境特性にも優れたエチレンビニルアルコール共重合樹脂(エチレン酢酸ビニル共重合けん化物:EVOH 硬度:ロックウエルM88 エチレン共重合比率44mol%)を選択した。
【0051】
該EVOH樹脂を用いて、外径3.1mm、内径1.5mmのチューブを成形し、長さ約350mmに切断し、挿入用内筒を製造した。
【0052】
なお、切断長さについては、該直腸脱気管に対し、挿入用内筒の挿入や移動及び抜き去り時に操作性がよいものであればよく、特に限定されるものではない。また、前記挿入や移動時の操作性の改善を目的として、挿入用内筒の先端にテーパー加工やアール加工を加えることも効果的であれば行うことは可能となる。
【0053】
実施例2
(1)造影剤入り直腸脱気管の製造
メディカル用ポリウレタン系熱可塑性エラストマー(硬度:ショアA85)原料中に、X線透視やCT撮影を可能とさせる造影剤として、主材料に対する割合が1〜20質量%になるようにバリウム硫酸塩を配合した材料を用いて、単層押出成形機を使用して、外径8mm、内径4mmのチューブの成形を行った。押出成形されたチューブは成形ライン内の冷却水槽内で十分に冷却された後、予め、インクジェットプリンターにより、図10に示すように所定のピッチで長さマーキングの印刷を行った(図10)。長さマーキングが印刷されたチューブを、後工程で行われるチューブ先端閉塞加工後、図10に示すように、先端部「0」マークがチューブ先端部から丁度12mmの位置に配されるように、長さ調整を行いながら、チューブを長さ約250〜260mmの間で設定して切断した(図10)。
【0054】
その後、チューブ先端を熱融着により半球状閉塞(曲率半径4mm)の状態に加工し、先端閉塞、基端開口の直線状チューブの形状とした。このとき、前記長さマーキングの「0」印字位置は閉塞先端から、丁度12mmの位置にあり、チューブ全長が250mmになることが好ましい(図10)。先端閉塞加工されたチューブを、図9に示すように、長さマーキングの裏側方向より、先端から12mm、27mm、42mm、57mm及び72mmの位置に、熱とプレス打ち抜き加工により並列に各2個の脱気孔(幅2mm、長さ7mmの長円)の打ち抜き加工を行い、曲線成形前の直線状チューブを製作した(図9)。
【0055】
次いで、実施例1と同様にして、先端から第1湾曲部(曲率半径40mm)、第2湾曲部(曲率半径18mm)及び第3湾曲部(曲率半径28mm)がS字型を形成するように配置されてなる曲線部を設けたアルミニウム製の曲げ金型(図7)に、前記直線状のチューブ(図9、図10)をセットし、適正な加熱及び冷却条件を加えて、S字型を形成するように配置されてなる曲線部を有する直腸脱気管を製造した(図11)。
【0056】
(2)造影剤として配合するバリウム硫酸塩の配合比のX線透視、CT撮影に与える影響
前記(1)で製造した直腸脱気管を、実施例1(3)で製造した挿入用内筒を用いて直腸に挿入して、バリウム硫酸塩の配合比のX線透視、CT撮影に与える影響を試験した結果、主材料に対する割合が5質量%になるようにバリウム硫酸塩を配合した材料を用いてチューブを成形したものが、X線透視、CT撮影の結果最良の結果となった。また、CT値は800程度で、人骨とほぼ同等であり、判別し易い値が得られた。
【0057】
実施例3
(1)造影剤無配合の直腸脱気管の製造
実施例1で用いたメディカル用ポリウレタン系熱可塑性エラストマー(硬度:ショアA85)を用いて、単層押出成形機を使用して、外径8mm、内径4mmのチューブの成形を行った。成形チューブには、実施例2の(1)の造影剤入りチューブと同様にインクジェットプリンターによる、長さマーキングが印刷されており、実施例2の(1)の造影剤入り直腸脱気管と同様に、先端半球状閉塞加工、チューブ外周の脱気孔加工、及びS字型を形成するように配置されてなる曲線部を有する直腸脱気管(造影剤無配合)を製造した。
【0058】
(2)造影用挿入内筒の製造
ポリウレタン系熱可塑性エラストマー(硬度:ショアA88)原料中に、X線透視やCT撮影を可能とさせる造影剤として、主材料に対する割合が5〜20質量%になるようにバリウム硫酸塩を配合した材料を用いて、単層押出成形機を使用して、外径2.3mm、内径1.2mmのチューブの成形を行った。その後、本チューブを約300mmの長さにカットして、直腸脱気管内部に挿入される造影用挿入内筒を製造した。
【0059】
(3)造影用挿入内筒の効果
前記(1)で製造した直腸脱気管を、実施例1(3)の挿入用内筒を用いて直腸に挿入した後、前記(2)の造影用挿入内筒を直腸脱気管内に挿入したところ、実施例2と同様に直腸脱気管の挿入状況や位置関係の判別が可能となり、ガス抜き効果の差異も現れなかった。また、造影剤として配合したバリウム硫酸塩の配合比のX線透視、CT撮影に与える影響を試験した結果、主材料に対する割合が10〜15質量%になるようにバリウム硫酸塩を配合した材料を用いてチューブを成形したものが、判別効果が高く、CT画像のハレーションの発生もなく、最良の結果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】前立腺がんの放射線治療における照射部分と前立腺及び直腸との関係を示す図である。
【図2】ガスや便による直腸の体積の変動により前立腺の位置が変動する状態を示す図である。左の図は直腸を空にした状態を示し、右の図は直腸が充満した状態を示す。
【図3】直腸内にバルーンを留置して治療する方法の使用状態を示す図である。
【図4】本発明の直腸脱気管の使用状態を示す図である。
【図5】前立腺がん陽子線治療患者15例の平均の直腸・肛門の湾曲、及び当該湾曲を基づき推定された直腸脱気管の望ましい湾曲を示す図である。
【図6】実施例1で製造した直腸脱気管の曲線部を設ける前の直線状チューブを示す図であり、長円形状の孔加工部が脱気孔となり、直腸内に挿入されたときにヒトの腹部側に位置する。「5−0」及び「2−0」は、それぞれ、5mm未満及び2mm未満は不可で、5mm以上及び2mm以上必要であることを示し、「2−R1」は加工(成形)半径が1mmであることを示す。
【図7】実施例で用いた曲げ金型を示す図である。
【図8】第3湾曲部が完全な湾曲を形成しない曲げ金型を示す図である。
【図9】実施例2で製造した直腸脱気管の曲線部を設ける前の直線状チューブを示す図であり、長円形状の孔加工部が脱気孔となり、直腸内に挿入されたときにヒトの腹部側に位置する。「7−0」及び「2−0」は、それぞれ、7mm未満及び2mm未満は不可で、7mm以上及び2mm以上必要であることを示し、「2−R1」は加工(成形)半径が1mmであることを示す。
【図10】図9で示した直腸脱気管の長円形状の脱気孔が加工された側の裏側に、長さマーキングが予め印刷されている状態を示す図であり、直腸内に挿入されたときにヒトの背中側に位置する。文字高さは2.5mm、□は0.8mm角、印字色は黒色を用いている。
【図11】図9及び図10で示した曲線加工前の直線状チューブを、図7で示した曲げ金型内にセットし、加熱及び冷却工程を経て曲げ加工された直腸脱気管の完成図を示す。直腸内に挿入されたときに脱気孔が加工された側が、ヒトの腹部側に位置し、マーキングが印刷された側が、ヒトの背中側に位置する。文字高さは2.5mm、□は0.8mm角、印字色は黒色を用いている。図6の直線状チューブを加工した直腸脱気管も曲げ形状は同様となる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、前立腺がんの放射線治療等に用いられる直腸脱気管に関する。
【背景技術】
【0002】
前立腺がんは日本人男性の悪性腫瘍の罹患者のうち5.4%、悪性腫瘍による死亡者の4.2%を占めており、近年増え続けている悪性腫瘍の代表的なものの一つである。
【0003】
前立腺がんの根治的治療として手術や放射線治療が行われる。前立腺がんの通常の放射線治療における生化学的無病生存率(血液の生化学検査結果を指標とした無病生存率)は低リスク群、中リスク群、高リスク群毎にそれぞれ87%、56%、37%といわれている。また放射線治療による有害事象のうち、最も頻度の高いGrade 2以上の直腸炎の頻度は10%とされている。
【0004】
最近では、陽子線治療など様々な新しい放射線治療の技術が現れ、治療効果の改善や毒性の軽減が図られているが、更に放射線治療の効果を向上させ、有害事象を減らすために、前立腺により高い線量を投与し、直腸など正常の臓器の線量を押さえることが必要である。
【0005】
前立腺がんの放射線治療では前立腺と時に精嚢(前立腺の後ろに位置する。)に放射線が照射される。CTなどでこれらの臓器を同定して照射する部位、体積を規定する。前立腺や精嚢の骨盤骨との相対的位置関係が大きく変動することが知られており、実際の治療では、前立腺と精嚢そのものの体積に5〜10mmの猶予を足した体積が照射(図1の点線で囲われる部分)されることになる。これにより直腸の照射される体積が増加し、障害の頻度が高くなる。
【0006】
前立腺の位置が変動する原因の一つとして、ガスや便による直腸の体積の変動(図2)が指摘されている。すなわち、直腸が充満していると、直腸の腹側面(前面)が前立腺の背面に押し付けられることになり、前立腺自体が前方へ変位してしまうため、放射線照射が必要な照射位置からのずれが生じることにより、効果的な照射ができなくなるばかりでなく、直腸に放射線が照射されてしまう恐れが発生する。
【0007】
前記、直腸体積の変動に伴う前立腺の前方への変位寸法の測定値としては、直腸体積が140mlのときの前立腺の前方への変位寸法が3.3mmであり、直腸体積が80mlのときの前立腺の前方への変位寸法が1.6mm、直腸体積が60mlのときの前立腺の前方への変位寸法が1.4mm、直腸体積が40mlのときの前立腺の前方への変位寸法が0.2mmというデータがあり、前立腺の前方への変位量は、直腸体積の増減による影響を受け易いことが確認されている。
【0008】
そこで、前立腺の背後に位置する直腸の体積を一定にするために、直腸内に60〜80ml程度に膨らませたバルーンを留置(図3)して治療する方法が知られている(非特許文献1)。
【0009】
この方法は前立腺の位置の再現性を高め、前立腺本体に小さい猶予を与えた体積で治療できるため、直腸の線量を減らすことが期待できるとされている。しかしながら、直腸内バルーンによって直腸内容積が増すため、直腸の腹側面(前面)を前立腺に押し付ける形になり、前立腺近傍の直腸の体積が大きくなることで処置による粘膜の損傷、不快感が生じる恐れがある。また、バルーンの体積が直腸体積よりも大き過ぎる場合には、前記直腸内のガス等の充満と同様に、前立腺の前方への変位による弊害や直腸への放射線照射の恐れも発生するため、あまり効果的ではないことが確認されている。
【0010】
尚、前記放射線治療時に問題となる直腸内にガスが充満している状態は、直腸近傍臓器の位置の変位を生じさせることになるため、前立腺がん治療以外の他の治療目的や治療計画においても、X線透視やCT撮影等における標準的な臓器の位置確認の妨げの原因にもなることから、直腸内のガスを簡便な操作により効率よく抜くことができる医療用具の開発が望まれている。
【0011】
【非特許文献1】van Lin EN, The effect of an endorectal balloon and off-line correction on the interfraction systematic and random prostate position variations: a comparative study, Int. J. Radiat. Oncol. Biol. Phys. 2005 Jan 1; 61(1):278-88.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、前立腺がん治療における放射線照射に起因する直腸障害を軽減する医療用具及び直腸内のガスを簡便な操作により効率よく抜くことができる医療用具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
直腸内腔容積が少なければ(図2、左)、直腸腹側面と前立腺との間に距離ができるため、前立腺への放射線等の照射が集中し効果的となり、直腸への照射線量も軽減できるが、排便やガスの状態は常時変動しており照射中にも変動することがある。本発明者は、治療計画時や治療開始時にX線透視でガスが多い(図2、右)ことに気づいた。しかしながら、意図的にガスを排泄させることは難しく、ガスを排泄できたとしても、ガス排泄とともに排尿してしまうことがあり、その結果、膀胱内容量が変動して前立腺の変位を生じてしまう危険がある。
【0014】
そこで、本発明者は、直腸に管を挿入(図4)して、直腸内容物を積極的に除去した状態で治療計画用CT撮影を可能とさせ、直腸への照射を防止し、放射線や陽子線等による効果的な治療を行う方法を開発した。すなわち、この方法で直腸内容物が少ない状態を再現できれば、前立腺の変位が最小限になり、かつ直腸を前立腺後壁から離した状態の治療が可能になる。また、この方法でも前立腺後壁と直腸腹側面(前面)との距離的猶予が少ない場合には、脱気管の先端部から中間部にかけての湾曲径を可変(湾曲を深くする。)させ、直腸後壁を後方(尾てい骨側)に押し出し、前立腺後面と直腸腹側面(前面)との間に距離をつくることを可能にする器具を開発した。
【0015】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)前立腺がんの放射線治療時に直腸内に挿入して、直腸に照射される線量を減少させるために用いられる直腸脱気管。
(2)可撓性材料からなる先端閉塞、基端開口のチューブ状物であり、チューブ壁面に脱気孔を有する前記(1)に記載の直腸脱気管。
(3)直腸内に挿入されたときにヒトの腹部側に位置する側に脱気孔が左右対称で並列に配されている前記(1)又は(2)に記載の直腸脱気管。
(4)可撓性材料からなる先端閉塞、基端開口のチューブ状物であり、直腸内に挿入されたときにヒトの腹部側に位置する側に脱気孔が左右対称で並列に配されている、直腸内に挿入して、直腸内のガスを抜くために用いられる直腸脱気管。
(5)可撓性材料が熱可塑性樹脂である前記(2)〜(4)のいずれかに記載の直腸脱気管。
(6)可撓性材料中に、造影剤を含有する前記(2)〜(5)のいずれかに記載の直腸脱気管。
(7)先端から90mmの範囲に複数の脱気孔を有する前記(2)〜(6)のいずれかに記載の直腸脱気管。
(8)先端から40〜90mmに配された第1湾曲部、第1湾曲部より30〜50mmに配された第1湾曲部とは逆方向の湾曲を持つ第2湾曲部及び第2湾曲部より30〜100mmに配された第2湾曲部とは逆方向の湾曲を持つ第3湾曲部が、S字型を形成するように配置されてなる曲線部を有する前記(1)〜(7)のいずれかに記載の直腸脱気管。
(9)第3湾曲部が直線部を含む前記(8)に記載の直腸脱気管。
(10)第1湾曲部の曲率半径が20〜60mm、第2湾曲部の曲率半径が10〜30mmである前記(8)又は(9)に記載の直腸脱気管。
【0016】
(11)第3湾曲部の曲率半径が10〜50mmである前記(10)に記載の直腸脱気管。
(12)第1湾曲部に複数の脱気孔を有する前記(8)〜(11)のいずれかに記載の直腸脱気管。
(13)直腸への挿入長さ及び/又は脱気孔の方向性を判別可能とさせる長さマーキングが長さ方向に沿って印字されている前記(1)〜(12)のいずれかに記載の直腸脱気管。
(14)前記(1)〜(13)のいずれかに記載の直腸脱気管と、該直腸脱気管の内径側に挿入しうる挿入用内筒とを含む医療用具。
(15)挿入用内筒が両端開口のチューブ状物である前記(14)に記載の医療用具。
(16)前立腺がん治療における放射線照射に起因する直腸障害を軽減するために用いられる前記(14)又は(15)に記載の医療用具。
(17)直腸内のガスを抜くために用いられる前記(14)又は(15)に記載の医療用具。
(18)前記(1)〜(13)のいずれかに記載の直腸脱気管と、直腸内に挿入された該直腸脱気管の内径側に挿入して用いられる内筒であって、造影剤を含有する可撓性材料からなる造影用挿入内筒とを含む医療用具。
(19)直腸内に挿入された前記(1)〜(13)のいずれかに記載の内径側に挿入して用いられる内筒であって、造影剤を含有する可撓性材料からなる造影用挿入内筒。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、前立腺がん治療における放射線照射に起因する直腸障害を軽減するとともに、直腸内のガスを簡便な操作により効率よく抜くことにより、直腸内にガスが充満していることにより発生する直腸近傍臓器の位置の変位を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の直腸脱気管は、前立腺がんの放射線治療時に直腸内に挿入して、直腸に照射される線量を減少させるために用いられるものであり、直腸に管を挿入して、直腸内容物を積極的に除去することにより、直腸内容物が少ない状態を再現して、前立腺の変位を最小限にするために用いられる医療用具である。
【0019】
したがって、本発明の直腸脱気管は、直腸内に挿入しうる形状であり、少なくとも1つの脱気孔を有するものであれば、形状は問わないが、脱気のみでは、前立腺後壁と直腸腹側面(前面)との距離的猶予が充分得られない場合にも、前立腺後面と直腸腹側面(前面)との間に距離をつくることを可能にする点から、脱気管の先端部から中間部にかけて曲線部を形成させることが好ましく、先端から第1湾曲部及び第2湾曲部がS字型を形成するように配置されてなる曲線部を形成させることが更に好ましく、第2湾曲部に続く位置に第2湾曲部とは逆方向の湾曲を持つ第3湾曲部を設けることが最も好ましい。また、前記曲線部において、第1湾曲部の曲率半径は、通常20〜60mm、好ましくは30〜45mm、第2湾曲部の曲率半径は、通常10〜30mm、好ましくは12〜20mm、第3湾曲部の曲率半径は、通常10〜50mm、好ましくは25〜40mmであり、第1湾曲部の長さは、通常40〜90mm、好ましくは60〜80mm、第2湾曲部の長さは、通常30〜50mm、好ましくは35〜45mm、第3湾曲部の長さは、通常30〜100mm、好ましくは50〜70mmである。なお、第3湾曲部は、完全な湾曲が形成されないものであってもよく、例えば曲率の途中から直線状に加工されているもの、あるいは直線部を含んでいるものでもよく、また、第2湾曲部から直接直線状に導かれる形状の直腸脱気管であってもよい。
【0020】
前記曲線部は、本発明の直腸脱気管を直腸内に挿入したときに、前立腺後面と直腸腹側面(前面)との間に5〜10mmの距離をつくることができるように設計することが好ましい。
【0021】
本発明の直腸脱気管の外径は、通常4〜14mm、好ましくは7〜10mmであり、内径は、通常2〜8mm、好ましくは3〜6mmであり、長さは、ヒトの直腸の長さ及び前立腺との位置関係、及び挿入操作性の関係から、通常100〜400mm、好ましくは150〜350mm、更に好ましくは220〜280mmである。
【0022】
本発明の直腸脱気管は、直腸への挿入のし易さ及び脱気の機能性の点から、先端閉塞、基端開口のチューブ状物であることが好ましい。
【0023】
本発明の直腸内に挿入して、直腸内のガスを抜くために用いられる直腸脱気管は、先端閉塞、基端開口のチューブ状物であるため、直腸へ挿入し易く、かつ直腸内のガスを簡便な操作により効率よく抜くことができる。
【0024】
本直腸脱気管のガス抜きは、直腸腹側面と前立腺との間に間隙を形成させることが目的であるため、直腸腹側面側(前立腺側)のガスを効率よく抜く必要がある。したがって、直腸脱気管の脱気孔の位置は、脱気管を直腸内に挿入したときにヒトの腹部側に位置する側にあることが好ましい。また、ガス抜き効果を高めるためには、脱気孔は、直腸脱気管が直腸内に挿入されたとき、ヒトの膀胱上部の位置と平行となる部分から始まり、ヒトの前立腺下部の位置と平行となる部分までの間に位置するように複数個設けることが好ましく、ヒトの腹部側から見て左右対称に設けることが更に好ましい。
【0025】
本発明の直腸脱気管は、前記の通り、脱気管を直腸内に挿入したときにヒトの腹部側に位置する複数個の脱気孔を有している方が効果的であり、脱気孔の数としては、臨床試験の結果から、4〜8個でもほぼ目的を達成する結果となったが、好ましくは6〜12個、更に好ましくは8〜12個の脱気孔を有している方が効率的である。脱気孔の大きさ、形状は、脱気効果が得られ、かつ直腸挿入時に患者に痛み等の不快感を与えないものであれば、特に制限はないが、直腸挿入方向に長手方向を有した長円形状であり、バリ等の副生成物がなく、表面が円滑性に優れていることが好ましい。脱気孔は、少なくとも先端付近、すなわち先端から90mmまでの位置、好ましくは第1湾曲部に複数、例えば4〜8個、好ましくは6〜12個、更に好ましくは8〜12個設けることが効果的である。
【0026】
本発明の直腸脱気管には、直腸への挿入長さ及び/又は脱気孔の方向性を判別可能とさせる長さマーキングを長さ方向に沿って印字することが好ましい。この長さマーキングは、脱気管を直腸に挿入したときにヒトの腹部側に位置される脱気孔とは反対側(脱気孔の裏側でヒトの背中側に位置される)に設けることが好ましい。通常、直腸脱気管の直腸内への挿入操作は、ヒトの背中側から行われるため、背中側から見て、脱気管の挿入長さや脱気孔の方向性が容易に判別可能となる。
【0027】
本発明の直腸脱気管を構成する材料としては、直腸内に挿入しうる強度を有し、かつ柔軟性に富み、表面円滑性に優れた材質であれば、特に制限はないが、前述した曲線部を設けた直腸脱気管を、該直腸脱気管の内径側に挿入用内筒を挿入してほぼ直線状に変形させ、直腸内に挿入し易くさせる点において、かつ、挿入用内筒を該直腸脱気管開口部側に移動した際の曲線復元性において、可撓性材料、例えば熱可塑性樹脂、或いはシリコーンゴム、ウレタンゴム他の加硫ゴム等の柔軟性を有する材料が好ましく、柔軟性、復元性、表面円滑性、及び後述する挿入用内筒に対する視認性(透明性)の点から、熱可塑性エラストマーが更に好ましい。
【0028】
前記熱可塑性エラストマーとしては、例えばポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、好ましくはポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーが挙げられる。
【0029】
可撓性材料、例えば熱可塑性樹脂の硬度は、好ましくはショアA80〜95、更に好ましくはショアA83〜90である。
【0030】
可撓性材料は、本発明の目的を損なわない限り、熱安定性、酸化防止性などを目的として、慣用の添加剤、例えば、無機充填剤(炭酸カルシウム、タルク、酸化チタン、シリカ、クレー、硫酸バリウム、炭酸マグネシウムなど)、無機又は有機繊維状物(ガラス繊維、カーボン繊維、アラミド繊維など)、安定剤(熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤)、粘着付与剤、帯電防止剤、滑剤、発泡剤、着色剤などを含んでいてもよい。
【0031】
また、本直腸脱気管の直腸への挿入状態をX線透視やCT撮影により造影可能とさせる造影剤を、主材料である可撓性材料に配合することにより、人体外部から挿入状態や位置確認が判別可能となる。ここで用いる造影剤は、X線透視やCT撮影用に造影用として用いられ、かつ、人体に有害でなく、人骨と同等の遮蔽効果が得られるものであれば制限はないが、通常、バリウム硫酸塩、硫酸アルミニウム、炭酸ビスマス、酸化ビスマス等の無機充填剤や、銀及びヨード等が用いられる。尚、造影のみが目的であれば、造影剤を直腸脱気管の材料中に配合せずに、金属製のワイヤをチューブ内に埋め込む方法や、当金属製のワイヤやガーゼ等を直腸脱気管内に挿入し造影させる方法を用いることも可能となる。
【0032】
本発明の直腸脱気管においては、前記選択肢の中から、人体に無害で造影効果が高く、主材料である可撓性材料への相溶性に優れ、主材料の柔軟性や機械特性を損なわせない理由により、造影剤として無機充填剤を用いる方法が好ましく、生体臨床用として認定され毒性がないことが保証されているバリウム硫酸塩を配合する方法が更に好ましい。バリウム硫酸塩の配合割合は、製品の大きさ(外径寸法)によっても異なるが、本発明の直腸脱気管へ配合させる場合には、X線透視又はCT撮影による判別効果、人骨相当のCT値、CT画像のハレーション防止の点から、主材料である可撓性材料に対して、通常1〜20質量%、好ましくは2〜10質量%、更に好ましくは4〜6質量%である。
【0033】
本発明の直腸脱気管は、好ましくは、樹脂原料をチューブ状に押出成形し、必要な長さに切断の後、先端を熱融着により半球状閉塞の状態に加工した後、熱とプレスによる側面側の脱気孔加工を行い、曲げ加工金型を用いて加熱及び急冷することにより曲線部を形成させることで、製造することができる。
【0034】
本発明の直腸脱気管を直腸内に挿入するには、該直腸脱気管の内径側に挿入用内筒を挿入し、曲線部を有する該直腸脱気管を、ほぼ直線状に変形させた状態で直腸内に挿入すればよい。次いで、挿入用内筒を直腸脱気管内で開口部側に必要量移動させた後、そのまま移動を停止した状態を保つことにより、直腸内のガスは脱気孔を経由して、ほぼ体外へ排出可能となる。ガスが抜け難い際は、挿入用内筒内径側より注射器等でガス抜きを行い、直腸内容物を減少させる。また、該直腸脱気管内で挿入用内筒を開口部側に移動させたり、抜き去ったりすることにより、直腸脱気管の曲線部は、挿入用内筒を挿入する前の状態に戻り、前立腺後面と直腸前面側との間の距離を十分つくることが可能となり、直腸前面が前立腺後面から離れた状態で固定され、直腸への放射線や陽子線の照射線量を減少させることができる。その結果、放射線や陽子線による直腸粘膜の損傷を抑制することができ、直腸障害等の弊害の発生が防止可能となる。
【0035】
前記挿入用内筒は、前記のことを可能にするものであれば、材料、形状等に制限はないが、挿入用内筒の材料としては、好ましくは、該直腸脱気管を直線状に変形させうるだけの十分な硬度があり、表面円滑性に優れ、摩擦抵抗が少ない、挿入性のよいフッ素樹脂や、シリコーン系樹脂及びエチレンビニルアルコール共重合樹脂(エチレン酢酸ビニル共重合けん化物:EVOH)が挙げられ、形状は、通常、両端開口のチューブ状物であるが、治療後の器具の後処理の観点からは、環境特性に優れたエチレンビニルアルコール共重合樹脂が特に好ましい。
【0036】
前記挿入用内筒は、樹脂を押出成形機によりチューブ状に成形し、必要な長さに切断することにより製造することができる。
【0037】
本発明の直腸脱気管は、通常、前記挿入用内筒と組み合わせた医療用具として製造販売されるが、直腸脱気管のみを単独で製造販売して、前記挿入用内筒としては、別途入手可能なものを適宜用いることも可能である。
【0038】
尚、直腸脱気管の直腸への挿入状態をX線透視やCT撮影で判別可能とする方法として、前記金属製ワイヤやガーゼを直腸脱気管内に挿入する方法を例示したが、本直腸脱気管においては、金属製ワイヤでは硬すぎて直腸脱気管の形状自体が損なわれる欠点があり、ガーゼの場合には、体内に残渣が残る恐れがあり採用することは不可能となる。
【0039】
そのため、本発明者は前記のように、直腸脱気管を形成する主原料にバリウム硫酸塩等の造影剤を配合させる方法を考案したが、治療現場においては、常にX線透視やCT撮影を必要とはしない場合があり、特に前記挿入マーキングが印刷された効果により、脱気管の方向性や挿入長さの認知が可能になったことから、全ての直腸脱気管自体に造影剤を配合させる必要もない場合も発生することが傾向として窺えた。
【0040】
そこで本発明者は、直腸脱気管を形成する主原料に造影剤を配合しない場合に、X線透視やCT撮影を可能とさせる方法として、前記金属製ワイヤの欠点を解消する代替案として、脱気管の形状に変化を及ぼさない造影用挿入内筒を考案した。すなわち、直腸脱気管と同等或いは若干硬めの可撓性材料、例えば熱可塑性樹脂中に造影剤を配合させた材料を用いて、脱気管内径よりも十分に細い外径を有したチューブを押出成形機により成形し、必要な長さにカットすることで、造影用挿入内筒は製作可能となる。
【0041】
本発明の造影用挿入内筒は、直腸脱気管を直腸内に挿入後、脱気管内に挿入されるため脱気管の形状に添った形態となり、X線透視やCT撮影の手法を用いることにより、人体外部から脱気管の挿入状態や位置確認が判別可能となる。造影用挿入内筒のチューブ外径は脱気管内径よりも十分に細ければよいが、通常1.2〜4.0mm、好ましくは1.5〜3.0mm、更に好ましくは、1.8〜2.5mmであり、造影用挿入内筒のチューブ内径は、ガス抜きに支障が生じない範囲で、前記外径に準じて、0.6〜2.0mmの中で選択される。本造影用挿入内筒の材料硬度は、脱気管の材料硬度よりも若干硬めの硬度の方が挿入の操作性がよく、通常ショアA83〜95が好ましく、更に好ましくは、ショアA85〜90である。また、造影用挿入内筒の主材料である可撓性材料へのバリウム硫酸塩等の造影剤の配合割合は、直腸脱気管よりもチューブ外径が細いため、配合比を高くすることが望ましく、主材料に対して、通常5〜20質量%、好ましくは10〜15質量%である。
【0042】
直腸脱気管の主材料に造影剤を配合していなくても、本発明の造影用挿入内筒を使用することにより、必要に応じてX線透視やCT撮影が可能となることから、利便性やコスト面(造影剤入り材料は高価)において好ましい。
【0043】
本発明の直腸脱気管は、前立腺がん治療に用いられる線量の集中性の高い陽子線治療における直腸障害(直腸粘膜の損傷)を軽減するばかりでなく、線量集中性の劣る、一般的な放射線治療(X線、γ線)による直腸障害の軽減にも大きく寄与すると考えられる。
【実施例】
【0044】
本発明をより具体的かつ詳細に説明するために以下に実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0045】
実施例1
(1)平均的直腸形状のモデルの作成
前立腺がん陽子線治療患者15例のCT画像をもとに、平均的直腸形状のモデルを作成した。前記15例の平均の直腸・肛門の湾曲、及び当該湾曲に基づき推定された直腸脱気管の望ましい湾曲を図5に示す。
【0046】
(2)直腸脱気管の製造
メディカル用ポリウレタン系熱可塑性エラストマー(硬度:ショアA85)、メディカル用ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(硬度:ショアA86)のそれぞれを用いて、単層押出成形機を使用して、外径8mm、内径4mmのチューブの成形を行った。その後、成形されたチューブを長さ250mmに切断した後、チューブ先端を熱融着により半球状閉塞(曲率半径4mm)の状態に加工し、先端閉塞、基端開口の直線状チューブの形状とした後、先端から10mm、25mm及び40mmの位置に、熱とプレス打ち抜き加工により各2個の脱気孔(幅2mm、長さ5mmの長円)の打ち抜き加工を行い、曲線成形前の直線状チューブを製作した(図6)。
【0047】
図5に示した直腸脱気管の望ましい湾曲に基づいて、先端から第1湾曲部(曲率半径40mm)、第2湾曲部(曲率半径18mm)及び第3湾曲部(曲率半径28mm)がS字型を形成するように曲線部を設けたアルミニウム製の曲げ金型を製造した(図7)。
【0048】
この曲げ金型内に前記直線状チューブをセットした後、恒温槽内に入れ、適正な温度条件下において一定時間加熱した後、冷却水により急冷することにより、前記の直線状チューブに曲げ成形加工が施され、先端から第1湾曲部(曲率半径40mm)、第2湾曲部(曲率半径18mm)及び第3湾曲部(曲率半径28mm)がS字型を形成するように配置されてなる曲線部を有する直腸脱気管を製造した。
【0049】
なお、前述の第3湾曲部に関しては、完全な湾曲が形成されないものであってもよく、例えば、図8のように曲率の途中から直線状に加工された直腸脱気管でもよく、また、第2湾曲部から直接直線状に導かれる形状の直腸脱気管であってもよい。
図6、7及び8において、数値の単位は特記されていない限り、mmである。
【0050】
(3)挿入用内筒の製造
挿入用内筒の樹脂原料は、必要硬度があり、表面円滑性に優れ、摩擦抵抗が少なく、環境特性にも優れたエチレンビニルアルコール共重合樹脂(エチレン酢酸ビニル共重合けん化物:EVOH 硬度:ロックウエルM88 エチレン共重合比率44mol%)を選択した。
【0051】
該EVOH樹脂を用いて、外径3.1mm、内径1.5mmのチューブを成形し、長さ約350mmに切断し、挿入用内筒を製造した。
【0052】
なお、切断長さについては、該直腸脱気管に対し、挿入用内筒の挿入や移動及び抜き去り時に操作性がよいものであればよく、特に限定されるものではない。また、前記挿入や移動時の操作性の改善を目的として、挿入用内筒の先端にテーパー加工やアール加工を加えることも効果的であれば行うことは可能となる。
【0053】
実施例2
(1)造影剤入り直腸脱気管の製造
メディカル用ポリウレタン系熱可塑性エラストマー(硬度:ショアA85)原料中に、X線透視やCT撮影を可能とさせる造影剤として、主材料に対する割合が1〜20質量%になるようにバリウム硫酸塩を配合した材料を用いて、単層押出成形機を使用して、外径8mm、内径4mmのチューブの成形を行った。押出成形されたチューブは成形ライン内の冷却水槽内で十分に冷却された後、予め、インクジェットプリンターにより、図10に示すように所定のピッチで長さマーキングの印刷を行った(図10)。長さマーキングが印刷されたチューブを、後工程で行われるチューブ先端閉塞加工後、図10に示すように、先端部「0」マークがチューブ先端部から丁度12mmの位置に配されるように、長さ調整を行いながら、チューブを長さ約250〜260mmの間で設定して切断した(図10)。
【0054】
その後、チューブ先端を熱融着により半球状閉塞(曲率半径4mm)の状態に加工し、先端閉塞、基端開口の直線状チューブの形状とした。このとき、前記長さマーキングの「0」印字位置は閉塞先端から、丁度12mmの位置にあり、チューブ全長が250mmになることが好ましい(図10)。先端閉塞加工されたチューブを、図9に示すように、長さマーキングの裏側方向より、先端から12mm、27mm、42mm、57mm及び72mmの位置に、熱とプレス打ち抜き加工により並列に各2個の脱気孔(幅2mm、長さ7mmの長円)の打ち抜き加工を行い、曲線成形前の直線状チューブを製作した(図9)。
【0055】
次いで、実施例1と同様にして、先端から第1湾曲部(曲率半径40mm)、第2湾曲部(曲率半径18mm)及び第3湾曲部(曲率半径28mm)がS字型を形成するように配置されてなる曲線部を設けたアルミニウム製の曲げ金型(図7)に、前記直線状のチューブ(図9、図10)をセットし、適正な加熱及び冷却条件を加えて、S字型を形成するように配置されてなる曲線部を有する直腸脱気管を製造した(図11)。
【0056】
(2)造影剤として配合するバリウム硫酸塩の配合比のX線透視、CT撮影に与える影響
前記(1)で製造した直腸脱気管を、実施例1(3)で製造した挿入用内筒を用いて直腸に挿入して、バリウム硫酸塩の配合比のX線透視、CT撮影に与える影響を試験した結果、主材料に対する割合が5質量%になるようにバリウム硫酸塩を配合した材料を用いてチューブを成形したものが、X線透視、CT撮影の結果最良の結果となった。また、CT値は800程度で、人骨とほぼ同等であり、判別し易い値が得られた。
【0057】
実施例3
(1)造影剤無配合の直腸脱気管の製造
実施例1で用いたメディカル用ポリウレタン系熱可塑性エラストマー(硬度:ショアA85)を用いて、単層押出成形機を使用して、外径8mm、内径4mmのチューブの成形を行った。成形チューブには、実施例2の(1)の造影剤入りチューブと同様にインクジェットプリンターによる、長さマーキングが印刷されており、実施例2の(1)の造影剤入り直腸脱気管と同様に、先端半球状閉塞加工、チューブ外周の脱気孔加工、及びS字型を形成するように配置されてなる曲線部を有する直腸脱気管(造影剤無配合)を製造した。
【0058】
(2)造影用挿入内筒の製造
ポリウレタン系熱可塑性エラストマー(硬度:ショアA88)原料中に、X線透視やCT撮影を可能とさせる造影剤として、主材料に対する割合が5〜20質量%になるようにバリウム硫酸塩を配合した材料を用いて、単層押出成形機を使用して、外径2.3mm、内径1.2mmのチューブの成形を行った。その後、本チューブを約300mmの長さにカットして、直腸脱気管内部に挿入される造影用挿入内筒を製造した。
【0059】
(3)造影用挿入内筒の効果
前記(1)で製造した直腸脱気管を、実施例1(3)の挿入用内筒を用いて直腸に挿入した後、前記(2)の造影用挿入内筒を直腸脱気管内に挿入したところ、実施例2と同様に直腸脱気管の挿入状況や位置関係の判別が可能となり、ガス抜き効果の差異も現れなかった。また、造影剤として配合したバリウム硫酸塩の配合比のX線透視、CT撮影に与える影響を試験した結果、主材料に対する割合が10〜15質量%になるようにバリウム硫酸塩を配合した材料を用いてチューブを成形したものが、判別効果が高く、CT画像のハレーションの発生もなく、最良の結果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】前立腺がんの放射線治療における照射部分と前立腺及び直腸との関係を示す図である。
【図2】ガスや便による直腸の体積の変動により前立腺の位置が変動する状態を示す図である。左の図は直腸を空にした状態を示し、右の図は直腸が充満した状態を示す。
【図3】直腸内にバルーンを留置して治療する方法の使用状態を示す図である。
【図4】本発明の直腸脱気管の使用状態を示す図である。
【図5】前立腺がん陽子線治療患者15例の平均の直腸・肛門の湾曲、及び当該湾曲を基づき推定された直腸脱気管の望ましい湾曲を示す図である。
【図6】実施例1で製造した直腸脱気管の曲線部を設ける前の直線状チューブを示す図であり、長円形状の孔加工部が脱気孔となり、直腸内に挿入されたときにヒトの腹部側に位置する。「5−0」及び「2−0」は、それぞれ、5mm未満及び2mm未満は不可で、5mm以上及び2mm以上必要であることを示し、「2−R1」は加工(成形)半径が1mmであることを示す。
【図7】実施例で用いた曲げ金型を示す図である。
【図8】第3湾曲部が完全な湾曲を形成しない曲げ金型を示す図である。
【図9】実施例2で製造した直腸脱気管の曲線部を設ける前の直線状チューブを示す図であり、長円形状の孔加工部が脱気孔となり、直腸内に挿入されたときにヒトの腹部側に位置する。「7−0」及び「2−0」は、それぞれ、7mm未満及び2mm未満は不可で、7mm以上及び2mm以上必要であることを示し、「2−R1」は加工(成形)半径が1mmであることを示す。
【図10】図9で示した直腸脱気管の長円形状の脱気孔が加工された側の裏側に、長さマーキングが予め印刷されている状態を示す図であり、直腸内に挿入されたときにヒトの背中側に位置する。文字高さは2.5mm、□は0.8mm角、印字色は黒色を用いている。
【図11】図9及び図10で示した曲線加工前の直線状チューブを、図7で示した曲げ金型内にセットし、加熱及び冷却工程を経て曲げ加工された直腸脱気管の完成図を示す。直腸内に挿入されたときに脱気孔が加工された側が、ヒトの腹部側に位置し、マーキングが印刷された側が、ヒトの背中側に位置する。文字高さは2.5mm、□は0.8mm角、印字色は黒色を用いている。図6の直線状チューブを加工した直腸脱気管も曲げ形状は同様となる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前立腺がんの放射線治療時に直腸内に挿入して、直腸に照射される線量を減少させるために用いられる直腸脱気管。
【請求項2】
可撓性材料からなる先端閉塞、基端開口のチューブ状物であり、チューブ壁面に脱気孔を有する請求項1記載の直腸脱気管。
【請求項3】
直腸内に挿入されたときにヒトの腹部側に位置する側に脱気孔が左右対称で並列に配されている請求項1又は2記載の直腸脱気管。
【請求項4】
可撓性材料からなる先端閉塞、基端開口のチューブ状物であり、直腸内に挿入されたときにヒトの腹部側に位置する側に脱気孔が左右対称で並列に配されている、直腸内に挿入して、直腸内のガスを抜くために用いられる直腸脱気管。
【請求項5】
可撓性材料が熱可塑性樹脂である請求項2〜4のいずれか1項に記載の直腸脱気管。
【請求項6】
可撓性材料中に、造影剤を含有する請求項2〜5のいずれか1項に記載の直腸脱気管。
【請求項7】
先端から90mmの範囲に複数の脱気孔を有する請求項2〜6のいずれか1項に記載の直腸脱気管。
【請求項8】
先端から40〜90mmに配された第1湾曲部、第1湾曲部より30〜50mmに配された第1湾曲部とは逆方向の湾曲を持つ第2湾曲部及び第2湾曲部より30〜100mmに配された第2湾曲部とは逆方向の湾曲を持つ第3湾曲部が、S字型を形成するように配置されてなる曲線部を有する請求項1〜7のいずれか1項に記載の直腸脱気管。
【請求項9】
第3湾曲部が直線部を含む請求項8記載の直腸脱気管。
【請求項10】
第1湾曲部の曲率半径が20〜60mm、第2湾曲部の曲率半径が10〜30mmである請求項8又は9記載の直腸脱気管。
【請求項11】
第3湾曲部の曲率半径が10〜50mmである請求項10記載の直腸脱気管。
【請求項12】
第1湾曲部に複数の脱気孔を有する請求項8〜11のいずれか1項に記載の直腸脱気管。
【請求項13】
直腸への挿入長さ及び/又は脱気孔の方向性を判別可能とさせる長さマーキングが長さ方向に沿って印字されている請求項1〜12のいずれか1項に記載の直腸脱気管。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の直腸脱気管と、該直腸脱気管の内径側に挿入しうる挿入用内筒とを含む医療用具。
【請求項15】
挿入用内筒が両端開口のチューブ状物である請求項14記載の医療用具。
【請求項16】
前立腺がん治療における放射線照射に起因する直腸障害を軽減するために用いられる請求項14又は15記載の医療用具。
【請求項17】
直腸内のガスを抜くために用いられる請求項14又は15記載の医療用具。
【請求項18】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の直腸脱気管と、直腸内に挿入された該直腸脱気管の内径側に挿入して用いられる内筒であって、造影剤を含有する可撓性材料からなる造影用挿入内筒とを含む医療用具。
【請求項19】
直腸内に挿入された請求項1〜13のいずれか1項に記載の直腸脱気管の内径側に挿入して用いられる内筒であって、造影剤を含有する可撓性材料からなる造影用挿入内筒。
【請求項1】
前立腺がんの放射線治療時に直腸内に挿入して、直腸に照射される線量を減少させるために用いられる直腸脱気管。
【請求項2】
可撓性材料からなる先端閉塞、基端開口のチューブ状物であり、チューブ壁面に脱気孔を有する請求項1記載の直腸脱気管。
【請求項3】
直腸内に挿入されたときにヒトの腹部側に位置する側に脱気孔が左右対称で並列に配されている請求項1又は2記載の直腸脱気管。
【請求項4】
可撓性材料からなる先端閉塞、基端開口のチューブ状物であり、直腸内に挿入されたときにヒトの腹部側に位置する側に脱気孔が左右対称で並列に配されている、直腸内に挿入して、直腸内のガスを抜くために用いられる直腸脱気管。
【請求項5】
可撓性材料が熱可塑性樹脂である請求項2〜4のいずれか1項に記載の直腸脱気管。
【請求項6】
可撓性材料中に、造影剤を含有する請求項2〜5のいずれか1項に記載の直腸脱気管。
【請求項7】
先端から90mmの範囲に複数の脱気孔を有する請求項2〜6のいずれか1項に記載の直腸脱気管。
【請求項8】
先端から40〜90mmに配された第1湾曲部、第1湾曲部より30〜50mmに配された第1湾曲部とは逆方向の湾曲を持つ第2湾曲部及び第2湾曲部より30〜100mmに配された第2湾曲部とは逆方向の湾曲を持つ第3湾曲部が、S字型を形成するように配置されてなる曲線部を有する請求項1〜7のいずれか1項に記載の直腸脱気管。
【請求項9】
第3湾曲部が直線部を含む請求項8記載の直腸脱気管。
【請求項10】
第1湾曲部の曲率半径が20〜60mm、第2湾曲部の曲率半径が10〜30mmである請求項8又は9記載の直腸脱気管。
【請求項11】
第3湾曲部の曲率半径が10〜50mmである請求項10記載の直腸脱気管。
【請求項12】
第1湾曲部に複数の脱気孔を有する請求項8〜11のいずれか1項に記載の直腸脱気管。
【請求項13】
直腸への挿入長さ及び/又は脱気孔の方向性を判別可能とさせる長さマーキングが長さ方向に沿って印字されている請求項1〜12のいずれか1項に記載の直腸脱気管。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の直腸脱気管と、該直腸脱気管の内径側に挿入しうる挿入用内筒とを含む医療用具。
【請求項15】
挿入用内筒が両端開口のチューブ状物である請求項14記載の医療用具。
【請求項16】
前立腺がん治療における放射線照射に起因する直腸障害を軽減するために用いられる請求項14又は15記載の医療用具。
【請求項17】
直腸内のガスを抜くために用いられる請求項14又は15記載の医療用具。
【請求項18】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の直腸脱気管と、直腸内に挿入された該直腸脱気管の内径側に挿入して用いられる内筒であって、造影剤を含有する可撓性材料からなる造影用挿入内筒とを含む医療用具。
【請求項19】
直腸内に挿入された請求項1〜13のいずれか1項に記載の直腸脱気管の内径側に挿入して用いられる内筒であって、造影剤を含有する可撓性材料からなる造影用挿入内筒。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−212628(P2008−212628A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−314908(P2007−314908)
【出願日】平成19年12月5日(2007.12.5)
【出願人】(590002389)静岡県 (173)
【出願人】(593075418)株式会社アオイ (17)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年12月5日(2007.12.5)
【出願人】(590002389)静岡県 (173)
【出願人】(593075418)株式会社アオイ (17)
【Fターム(参考)】
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