説明

直路式吊床版橋およびその構築方法

【課題】サグを小さくして道路縦断勾配を緩くできると共に橋台に作用する水平力を小さくすることが可能な直路式吊床版橋およびその構築方法を提供すること。
【解決手段】直路式吊床版橋において、吊床版を架設するための1次ケーブル3と橋体全体を支持する2次ケーブル13を備え、前記1次ケーブル3および2次ケーブル13は共に橋台2にて緊張定着され、吊床版本体には直接プレストレスを導入するケーブル9を配置し吊床版端部で緊張定着され、吊床版端部は、弾性支承に支持されて橋台2に固定されていない直路式吊床版橋とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外ケーブルを併用した直路式吊床版橋およびその構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
橋台や橋脚の間に張り渡したPC鋼材を、薄いコンクリートで包み込んで床版としたPC吊床版橋として、図11に示す直路式吊床版橋Aがあると共に、これに類似の床版橋として、図12に示す上路式吊床版橋Bがある(例えば、引用文献1〜3並びに非特許文献1参照)。
【0003】
直路式吊床版橋Aは、橋台間を張り渡したケーブル(1次ケーブル)を包み込んだ床版(吊床版)の上を、直接、人や車が通れるようにした構造であり、特徴的な構造として、路面にサグ(垂距)Sが残るようになる構造であり、撓みやすい構造である。他方、上路式吊床版橋Bは、吊床版20の上に鉛直材(またはトラス斜材)21を立て、鉛直材21の上に路面となる上床版22を載せた構造であり、特徴的な構造として、路面は水平になる。
前記の場合、図示を省略するが、直路式吊床版橋Aにおける吊床版内に配置されるプレストレス導入用PC鋼材は橋台2の背面において緊張定着され、同様に上路式吊床版橋Bにおける吊床版20内に配置されるプレストレス導入用PC鋼材は橋台2の背面において緊張定着される。また、上路式吊床版橋Bの上床版ケーブルは上床版22の橋軸方向端部で定着される。また、吊床版20の上に鉛直材21とコンクリート製上床版22が載るので、自重が重くなり、ケーブルあるいは橋台2さらには、アンカー材が負担する水平力が減らない(吊床版のサグを大きくすれば水平力は減るが自重が増えるので相殺されるため)という欠点があるが、全体剛性が、直路式吊床版橋Aの場合よりも剛性が大きいという利点を有している。本発明は前記の直路式吊床版橋に属する。
【0004】
従来の吊床版橋は、橋台間に張設されたPCケーブル上にプレキャスト床版を懸垂配置したのち、後打ちコンクリートを打設する方法が一般的である。
また従来、長支間対応の吊床版橋では、2次ケーブルとして外ケーブルを配置し、プレキャスト床版と外ケーブルとの間に鉛直材を設けることにより、橋台に作用する水平力を減少させることは知られている(前記特許文献2、5参照)。
【特許文献1】特許第2967874号公報
【特許文献2】特許第2979297号公報
【特許文献3】特許第3678719号公報
【特許文献4】特開平11−323841号公報
【特許文献5】特開平10−140521号公報
【非特許文献1】PC床版橋設計施工基準(案)P4,5,11 平成12年11月、社団法人プレストレスコンクリート技術協会
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、基本サグの設定は、吊床版橋において最も重要なものであり、サグは、ケーブル本数、橋台に作用する水平力とグランドアンカー本数、供用時の振動、耐風安定性、直路式床版橋の場合における最大縦断勾配、景観、排水計画などに影響を及ぼすので、重要な要素として検討される。
【0006】
吊り床版橋のサグ比(括弧内でサグによる道路縦断勾配を併記)は、吊支間の1/30(13.3%)〜1/50(8%)としているのが多く、前記の道路縦断勾配(サグ比を併記)で6.7%(1/60)以下、例えば、道路縦断勾配(サグ比)で3%(1/133.3)以下にすると、吊り床版の上面が、より水平面に近くなるために、歩行者の歩行が平易になり、バリアフリー化が図れる大きなメリットがある。
【0007】
しかし、前記のように吊り床版橋のサグ(道路縦断勾配)を吊支間の1/30(13.3%)〜1/50(8%)としているのは、次のような理由による。
吊床版端部の支持条件として、吊床版端部を橋台に固定する固定構造とした場合には、吊床版端部は、サグを小さくすると、吊床版のクリープ、乾燥収縮及び温度変化による橋台に作用する引張力(主に水平力)が大きくなり、構造として成立することが困難となるためである。
【0008】
また、床版架設用の1次ケーブルを解放して桁部材にプレストレスを導入することも知られている(例えば、特許文献4参照)が、これを直路式吊床版に適用した場合、完成系において吊床版自体は、直接ケーブルで吊られた状態ではなくなるため、ねじりに対する配慮が必要になる。
【0009】
前記のように、吊床版端部は、橋台に吊床版を固定する固定構造よりサグを小さくすると、クリープ、乾燥収縮及び温度変化による引張力が大きくなり、構造として成立することが困難となる問題があると共に、吊床版の構造を決定する上では、ねじりに対する安定性が必要となる。
本発明は前記の課題を解消することができ、サグを小さくして道路縦断勾配を緩くできると共に橋台に作用する水平力を小さくすることが可能な直路式吊床版橋およびその構築方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1発明の直路式吊床版橋では、直路式吊床版橋において、吊床版を架設するための1次ケーブルと橋体全体を支持する2次ケーブルを備え、前記1次ケーブルおよび2次ケーブルは共に橋台にて緊張定着され、吊床版本体には直接プレストレスを導入するケーブルを配置し吊床版端部で緊張定着され、吊床版端部は、橋台に固定されていないことを特徴とする。
また、第2発明では、第1発明の直路式吊床版橋において、1次ケーブルでサドルと吊床版が支持され、サドルと吊床版は隣接して配置されていることを特徴とする。
また、第3発明では、第1発明または第2発明の直路式吊床版橋において、2次ケーブルは、鉛直材を介して吊床版を支持していることを特徴とする。
第4発明では、第1発明から第3発明のいずれかの直路式吊床版橋において、吊床版端部は支承を介して橋台に支持されていることを特徴とする。
第5発明の直路式吊床版橋の構築方法においては、直路式吊床版橋の構築方法において、1次ケーブルで吊床版を架設し、2次ケーブルで橋体全体を支持し、前記1次ケーブルおよび2次ケーブルを橋台にて緊張定着した後、橋台上に支承を介して支持される吊床版端部の端部吊床版を構築し、吊床版本体に直接プレストレスを導入するケーブルを配置して吊床版端部で緊張定着し、端部吊床版を橋台に固定しないことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の直路式吊床版橋によると、従来のように端部吊床版は橋台に固定されることなく分離された状態であるので、従来の固定構造のように、床版橋のクリープ、乾燥収縮及び温度変化による橋台に作用する引張力が大きくなることはないため、橋台に作用する水平力を減らすことができ、またサグを小さくすることが可能となる。以上より、道路縦断勾配の小さい歩行者へのバリアフリーを高めた構造の直路式吊床版橋を提供することができる。
また、サグを例えば道路縦断勾配で3%程度に小さくした場合、吊床版端部を橋台に固定すると、2次ケーブルの緊張により、橋台に作用する水平力が大きくなったり、吊床版の端部で大きな曲げモーメントが生じたりするが、本発明では、吊床版端部を橋台から切り離し、分離した状態であるので、2次ケーブルの緊張により、橋台に作用する水平力や吊床版端部の曲げモーメントを増加させずに、吊床版内に配置するケーブルによりプレストレスを導入することができる。
また、本発明の直路式吊床版橋の構築方法によると、直路式吊床版橋の構築方法において、1次ケーブルで吊床版を架設し、2次ケーブルで橋体全体を支持し、前記1次ケーブルおよび2次ケーブルを橋台にて緊張定着した後、橋台上に支承を介して支持される吊床版端部の端部吊床版を構築し、吊床版本体に直接プレストレスを導入するケーブルを配置して吊床版端部で緊張定着し、端部吊床版を橋台に固定しないので、端部吊床版を橋台に固定しない構造の直路式吊床版橋を容易に構築することができる。また、1次ケーブルおよび2次ケーブルを橋台に緊張定着した後、端部吊床版を橋台に設置の支承上に設けるようにすればよいので、施工も容易であるなどの効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に、本発明を図示の実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0013】
図1(a)〜図9は、本発明の直路式吊床版橋1の一実施形態を示すものであって、各橋台2間に渡って、1次ケーブル3が緊張した状態で定着されていると共に、前記1次ケーブル3に、端部吊床版4(図8f参照)を除く多数のプレキャスト製の中間部吊床版5(図6参照)が直列に架設され、直列に配置された多数の中間部吊床版5の橋軸方向の端部には、橋台2上に設置された弾性支承装置6上に設置された吊床版端部としての端部吊床版4が、前記1次ケーブル3および弾性支承装置6に支持されるように設けられている。前記の吊床版端部としての端部吊床版4は橋台2から分離した状態で設けられ、端部吊床版4から橋台2に、床版橋のクリープ、乾燥収縮及び温度変化による橋台2に作用する引張力が大きくなることがないようにされている。
【0014】
前記の弾性支承装置6としては、公知のゴムのような弾性層を有する弾性支承装置が設置され、端部吊床版4および中間部吊床版5の鉛直荷重あるいは橋軸直角方向等の横方向の変動に対して弾性的に緩衝支承している。前記の弾性支承装置6以外の鋼製支承装置等の支承装置6としてもよい。
【0015】
前記の各中間部吊床版5および端部吊床版4には、図1(b)に示すように、1次ケーブル3に支持させるためのサドル7が、橋軸直角方向の床版幅方向に間隔をおいて複数設けられている。前記各サドル7は、それぞれ複数の1次ケーブル3上に載置するように配置されて、吊床版17を構成する各中間部吊床版5が1次ケーブル3により支持されている。前記の端部吊床版4は支承装置により支持され、端部吊床版4には、サドル7は適宜設けられる。
1次ケーブル3にサドル7側の下向き開口溝の下面を載置するようにしてもよく、図10に示すように、吊床版本体内に配置されたサドル7を1次ケーブル3に支持させる形態でもよい。また、サドル7は、吊床版本体5bに対して、図1および図5(a)に示すように外側に露出するように取付ける形態でもよい。
また、1次ケーブル3に中間部吊床版5または端部吊床版4を支持させる場合、図5(b)に示すように、吊床版の上面側の両側部に凹部23を形成し、それぞれの凹部23に、吊治具24を複数埋設配置されている形態でもよい。なお、前記吊治具24は、その下側に1次ケーブル3を挿通し、中間部吊床版5又は端部吊床版4を橋台2,2間に架設するために用いられ、吊床版架設後には、凹部23に打設される後埋め材としての後打ちコンクリート25によって埋設するようにしてもよい(ただし、吊床版4,5はプレストレス導入用ケーブル9の緊張定着前後において、図5(a)に示すように、1次ケーブル3に対して橋軸方向にスライド可能な構造にしておく必要がある)。前記の図5(b)ように1次ケーブル3を吊治具24の下側に挿通する形態でもよく、あるいは図5(c)に示すようにサドル7内に挿通する形態でもよい。
なお、図1等では、プレストレス導入用ケーブル9と1次ケーブル3とをわかりやすくするために、便宜上、1次ケーブル3を各中間部吊床版5および端部吊床版4の若干下側に記載し、橋軸方向に所定の長さのサドル7を単に丸で示している。
【0016】
各中間部吊床版5および端部吊床版4における前記床版幅方向には、間隔をおいて、ケーブル挿通孔8が、シースの埋め込み配置により形成され、前記各ケーブル挿通孔8内に配置されたプレストレス導入用ケーブル9は、端部吊床版4の端部において、緊張された状態で定着金具10により定着されている(図2参照)。
なお、図1および図3のように、サドル7を吊床版5の断面の外側に配置するようにしてもよいが、サドル7を吊床版5の中央寄りに配置すると架設時に不安定になるので、幅方向外側よりの中間部に配置する。
図5(c)の形態では、ケーブル挿通孔8を吊床版の幅方向中間部に配置し、サドル7を吊床版の幅方向端部側に配置しているが、図1および図3に示すようにケーブル挿通孔8を吊床版の幅方向中間部および両端部側に配置し、サドル7を吊床版の幅方向端部側に配置してもよい。
【0017】
多数の中間部吊床版5には、支持体11が設けられ、各中間部吊床版5と各支持体11とにより立体トラスが形成され、各支持体11は、鉛直材12a,12a,12b,12bと横材12dとを主要部として備えている(図3参照)。端部吊床版4は支持体11を備えていない点以外は中間部吊床版5と同様である。
【0018】
図3に示すように、前記の中間部吊床版本体5bのそれぞれ両側下面には支承具12e,12eを介して、鉛直材12a,12aが橋軸方向に回動可能に枢着されており、床版本体5bにおいて1次ケーブル3が配置されていない中央下面には支承具12f,12fを介して、鉛直材12b,12bが橋軸方向に回動可能に枢着されており、一対の鉛直材12aと12bとは下端部で一体化されていると共に横ピン接合27を介して同一の連結具12cにて橋軸方向に回動可能に枢着して相互に連結され、この連結具12cと12cとには横材12dが縦ピン接合28を介して回動可能に枢着され、さらに、連結具12cには2次ケーブル13を挿通するための2次ケーブル挿通孔14が形成されている。このように鉛直材12b,12bが中間部吊床版5の中央下面に枢着され、2次ケーブル13の作用と併せて中間部吊床版5の中央下面部分を下方から支持するようにされている。このように配置して相互に連結された鉛直材12a,12a,12b,12bは相互の間隔が所定長以上に保持されて、横材12dや中間部吊床版5と一体になり一つの施工ユニットを形成している。
前記のように、一対の縦ピン接合28を備えている構造とされているので、図3において各2次ケーブル13が橋軸方向に異なる方向の動作を許容する連結構造とされ、左右の各一対の鉛直材12a,12bは、これに追随して間隔を保持する構造とされている。
なお、鉛直材12b,12bおよび水平な横材12dは全方向に回動可能に取付けられていてもよいが、橋軸方向に回動可能な構造で取付けあるいは連結される構造、例えば、ピン構造が望ましい。
【0019】
前記支持体11における橋軸直角方向の両端下部には、2次ケーブル挿通孔14を有して、2次ケーブル13が挿通配置され、各2次ケーブル13の端部は、橋台2に緊張定着されている。1次ケーブル3と2次ケーブル13との両端は、上下方向(または図示を省略するが、水平方向)に所定長離間して橋台2に固定されている。
【0020】
前記のように、1次及び2次ケーブル3,13の固定端が所定長離隔されているので橋全体としての剛性が向上し、吊床版橋のねじれ振動数が高まり、ねじれ発散振動に対する抵抗力が向上する。
【0021】
また、本発明の直路式吊床版橋1においては、2次ケーブル13には緊張力が導入されるため、2次ケーブル13には引張応力が生じ、鉛直材12a,12a,12b,12bには2次ケーブル13から上方に向かう力が作用するが、特に、本発明では、中間部吊床版5の一体化を2次ケーブル13の緊張定着後で、かつ橋台から分離した状態で一体化されるため、2次ケーブル13の緊張定着あるいは1次ケーブルの緊張定着により、中間部吊床版5に橋軸方向の圧縮応力が作用することはなく、また床版を介して橋台2に橋軸方向の圧縮応力が作用することはない。すなわち、本発明では、1次ケーブル3の緊張定着および2次ケーブル13の緊張定着により、中間部吊床版5および端部吊床版4にプレストレスは導入されることはなく、1次ケーブル3の緊張定着および2次ケーブル13の緊張定着後に、中間部吊床版5および端部吊床版4内に配置される内ケーブルのプレストレス導入用ケーブル9のみが、前記の中間部吊床版5および端部吊床版4の目地部処理を施した後に直接、プレストレスが導入されて、プレストレスが導入された吊床版17とされている。
【0022】
さらに、本発明の直路式吊床版橋1において2次ケーブル13の撓み(サグ)を、図1に示したように、1次ケーブル3よりも大きく設定すれば、死荷重の一部を1次ケーブルより大きな撓み(サグ)を有する2次ケーブル13で負担することになるので、同一支間で同一荷重を受けるケーブル構造に作用する水平力はケーブルの撓み量に反比例して小さくなるという理由によって、橋台2やグランドアンカー16等の下部工に作用する総水平力を減少させることができる。
また、本発明では、吊床版端部は、橋台2から分離して弾性支承により支承しているため、完成系の吊床版17および路面のサグS1を小さくすることができ、道路縦断勾配を、例えば3%程度に小さくすることが可能になる。
【0023】
次に、本発明の直路式吊床版橋の構築工程について、説明する。
【0024】
図6〜図9は、本発明の直路式吊床版橋の構築工程を示すものであって、図示省略の地山上に、橋台2を構築し、それぞれの橋台2にはグランドアンカー16を設けて地山に支持させ、次いで、図6(a)に示すように、橋台2間に渡って、1次ケーブル3を張設し、1次ケーブル3の両端部を各橋台2に緊張した状態で定着する。
【0025】
次いで、図6(b)に示すように、1次ケーブル3に支持させるように、一方の橋台2から支持体11を備えた中間部吊床版5を他方の橋台2に向かって順次架設し、架設された中間部床版5相互は、適宜位置を固定する。
前記の中間部床版5の位置固定手段としては、例えば、図示省略の中間部吊床版5に設けるクランプ金具により位置を固定するようにすればよい。
【0026】
次いで、図7(c)に示すように、一方の橋台2から他方の橋台2に渡って、橋台2直上を除いた状態で支持体11を備えた中間部吊床版5を架設し位置を固定した後、図7(d)に示すように、一方の橋台2から他方の橋台2に渡って、各中間部吊床版5下部の鉛直材に係合するように、2次ケーブル13を架設する。なお、前記の2次ケーブル13の架設にあたっては、適宜、吊り足場(図示を省略した)を一方の橋台2から他方の橋台2に渡って架設し、前記吊り足場を利用して架設する。なお、前記の吊り足場は吊床版架設時に設置しておいてもよい。
【0027】
次いで、図8(e)に示すように、前記2次ケーブル13の緊張力を調整しながら、中間部吊床版5のサグを調整して、各2次ケーブル13の端部を橋台2に定着する。
【0028】
次いで、図8(f)に示すように、各橋台2上にそれぞれ弾性支承装置6を設置すると共に、弾性支承装置6の上面を型枠装置の一部と利用して、前記弾性支承装置6に支持させるようにコンクリート製の各端部吊床版4を吊床版端部として、端部側の中間部吊床版5に接続するように築造する。前記支承装置6における上面は、すべり支承面として橋軸方向にスライド可能に支承するようにしてもよい。したがって、橋台2と端部吊床版4との間には、橋軸方向の間隙が形成されており、必要に応じ、前記間隙に公知の橋軸方向の伸縮作用を有する伸縮継目材や伸縮装置を配置するようにしてもよい。
前記弾性支承装置6の上部には、適宜ボルトまたはアンカーボルトを設けて、端部吊床版4との一体化を図る。弾性支承装置6と橋台2とは、ボルト等により固定する。
前記の弾性支承装置6としては、タイプBの支承装置を使用するが、直路式吊床版橋の規模によっては、タイプAの支承装置としてもよい。
【0029】
次いで、プレストレス導入用ケーブル9を挿通配置可能なようにするために適宜シースを配置し、中間吊床版5間には目地材を設け、目地材の硬化した後に、図9(g)に示すように、各端部吊床版4およびこれらの間の中間部吊床版5に渡ってプレストレス導入用ケーブル9を挿通配置し、そのプレストレス導入用ケーブル9を緊張して、端部吊床版4に緊張定着する。このように、プレストレス導入用ケーブル9を橋台2背面に緊張定着しないで、端部吊床版4の端部で緊張定着することにより、橋台2にプレストレス導入用ケーブル9の緊張力による水平力が作用することはない。また、中間部吊床版5と端部吊床版4のサドル7と1次ケーブル3とは、サドル7の下向き開口凹部26下面が係合した状態で完成系とされている。
次いで、図9(h)に示すように、端部吊床版4および中間部吊床版5上の橋面を施工し、また、図10に示すように高欄15を施工して、直路式吊床版橋1の施工を完了する。
なお、中間部吊床版5と端部吊床版4のサドル7に1次ケーブル3を配置される形態(図2、図3、図10参照)では、サドル7の1次ケーブル配置用凹部または挿通孔がプラスチック製管等の支承部であるので、完成系において、充填材を充填しなくてもよい。
【0030】
前記実施形態では、(1)従来の直路式吊床版橋では吊床版と一体化された1次ケーブルであるが、1次ケーブル3をサドル7を介して外ケーブル化している。(2)また、1次ケーブル3よりさらにサグの大きい外ケーブルの2次ケーブル13で橋体全体(端部吊床版および中間部吊床版全体)を支持している。(3)さらに、従来、橋台2背面に定着していたプレストレス導入用ケーブル9を、橋台2背面に定着することなく、橋台2上に設置された支承装置6で支持された端部吊床版4に緊張状態で定着している。前記の(1)(2)(3)の3点から、橋体のサグの小さい場合でも、橋台2に作用する水平力を大幅に低減することができる。このように本発明では、橋台間に張り渡したPC鋼材を薄いコンクリートで包み込んだ吊床版上を人や車両が直接通れるようにした直路式吊床版橋において、橋台に作用する水平力を小さく抑え、かつねじれ振動に対する抵抗を高めたうえで、さらに縦断勾配(サグ)を小さくして歩行者へのバリアフリーを高めている。
【0031】
吊床版端部を橋台に固定する形態では、従来構造の場合では、サグを例えば道路縦断勾配で3%程度に小さくした場合、吊床版端部を橋台に固定すると、2次ケーブルの緊張により、橋台に作用する水平力が大きくなったり、吊床版の端部で大きな曲げモーメントが生じたりするが、前記のような本発明では、吊床版端部を橋台から切り離し、分離した状態であるので、2次ケーブルの緊張により、吊床版には水平力を増加させずに、吊床版内に配置するケーブルによりプレストレスを導入することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】(a)は本発明の直路式吊床版橋を示す概略側面図、(b)は床版および1次ケーブルおよび2次ケーブル並びにプレストレス導入用ケーブルの配置関係を示す縦断正面図である。
【図2】図1の一部を拡大して示す概略側面図である。
【図3】床版および鉛直材との関係を示す縦断正面図である。
【図4】図3を橋軸直角方向から見た側面図である。
【図5】1次ケーブルとサドルまたは吊床版の位置関係の各種形態を示すものであって、(a)は吊床版の外側にサドルを配置する形態、(b)は吊治具を配置する形態、(c)はサドルを吊床版に配置する形態を示す説明図である。
【図6】(a)および(b)は本発明の直路式吊床版橋の架設工程を示す概略側面図である。
【図7】(c)および(d)は本発明の直路式吊床版橋の架設工程を示す概略側面図である。
【図8】(e)および(f)は本発明の直路式吊床版橋の架設工程を示す概略側面図である。
【図9】(g)および(h)は本発明の直路式吊床版橋の架設工程を示す概略側面図である。
【図10】他の形態の床版および鉛直材との関係を示す縦断正面図である。
【図11】従来の直路式吊床版橋を示す概略側面図である。
【図12】上路式床版橋を示す概略側面図である。
【符号の説明】
【0033】
1 直路式吊床版橋
2 橋台
3 1次ケーブル
4 端部床版
5 中間部吊床版
6 支承装置
7 サドル
8 ケーブル挿通孔
9 プレストレス導入用ケーブル
10 定着金具
11 支持体
12a 鉛直材
12b 鉛直材
12c 連結具
12d 横材
12e 支承具
12f 支承具
13 2次ケーブル
14 2次ケーブル挿通孔
15 高欄
16 グランドアンカー
17 吊床版
20 吊床版
21 鉛直材
22 上床版
23 凹部
24 吊治具
25 後打ちコンクリート
26 下向き開口凹部
27 横ピン接合
28 縦ピン接合
A 直路式吊床版橋
B 上路式床版橋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直路式吊床版橋において、吊床版を架設するための1次ケーブルと橋体全体を支持する2次ケーブルを備え、前記1次ケーブルおよび2次ケーブルは共に橋台にて緊張定着され、吊床版本体には直接プレストレスを導入するケーブルを配置し吊床版端部で緊張定着され、吊床版端部は、橋台に固定されていないことを特徴とする直路式吊床版橋。
【請求項2】
1次ケーブルでサドルと吊床版が支持され、サドルと吊床版は隣接して配置されていることを特徴とする請求項1に記載の直路式吊床版橋。
【請求項3】
2次ケーブルは、鉛直材を介して吊床版を支持していることを特徴とする請求項1および請求項2に記載の直路式吊床版橋。
【請求項4】
吊床版端部は支承を介して橋台に支持されていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の直路式吊床版橋。
【請求項5】
直路式吊床版橋の構築方法において、1次ケーブルで吊床版を架設し、2次ケーブルで橋体全体を支持し、前記1次ケーブルおよび2次ケーブルを橋台にて緊張定着した後、橋台上に支承を介して支持される吊床版端部の端部吊床版を構築し、吊床版本体に直接プレストレスを導入するケーブルを配置して吊床版端部で緊張定着し、端部吊床版を橋台に固定しないことを特徴とする直路式吊床版橋の構築方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−248529(P2008−248529A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−89181(P2007−89181)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000103769)オリエンタル白石株式会社 (136)
【Fターム(参考)】