説明

直鎖アルキル基を有する芳香族炭化水素の製造方法及び触媒

【課題】分岐したアルキル基を有する芳香族炭化水素から直鎖アルキル基を有する芳香族炭化水素を製造する方法であって、副反応を抑制し経済性に優れた製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】分岐したアルキル基を有する芳香族炭化水素を、アルカリ金属イオンとアルカリ土類金属イオンからなる群より選ばれる少なくとも1種以上のイオンとプロトン及びプロトン前駆体からなる群より選ばれる1種以上のイオンでイオン交換して得られる酸型ゼオライト触媒に接触させることを特徴とする直鎖アルキル基を有する芳香族炭化水素の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は分岐したアルキル基を有する芳香族炭化水素から直鎖アルキル基を有する芳香族炭化水素を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
直鎖アルキル基を有する芳香族炭化水素であるノルマルプロピルベンゼン、ノルマルブチルベンゼン、ノルマルペンチルベンゼンは、化学工業の原料として有用な物質である。しかしながら、これら直鎖を有する芳香族炭化水素は一般に分岐したアルキル基を有する芳香族炭化水素に比較して製造するのが困難である。即ち、アルキル基を有する芳香族炭化水素の一般的、かつ安価な製造法であるオレフィンによるアルキル化反応によっては工業的に得ることが極めて困難である。
【0003】
例えば、プロピレンでベンゼンをアルキル化すると主生成物はアルキル基が分岐したイソプロピルベンゼンであり、直鎖であるノルマルプロピルベンゼンは副生成物として微量生成される程度である。さらにイソプロピルベンゼンのアルキル基結合位置を変更しノルマルプロピルベンゼンに転化することは、イソプロピル基が安定的であるという理由から困難であった。このような事情はさらに炭素数が多くなっても同様であり、分岐数が少ない、アルキル基の分岐した側鎖が短い、または二級炭素で芳香環に結合したアルキル基芳香族炭化水素は得にくいことが知られている。
【0004】
従って、直鎖を有するアルキル基を有する芳香族炭化水素を得るには通常ノルマルアルキルハライドあるいはノルマルアルキルアルコールを用いて芳香族炭化水素をアルキル化する方法が採られている。しかしながら、この方法は原料試薬が高価であり、直鎖アルキル基を有する芳香族炭化水素の生成量が工業的に必ず満足のいくものでは無かった。その他の製造方法としては、アルカリ触媒を用いたエチレンによるトルエンのアルキル化反応が知られているがいずれも生成する直鎖アルキル基を有する芳香族炭化水素の収率が工業的製造方法として満足のいくものではない。
【0005】
そこで効率が良く安価な製造方法として、目的の直鎖を有するアルキル基と炭素数が同じである分岐したアルキル基を有する芳香族炭化水素と芳香族化合物とをゼオライトに接触させ直鎖アルキル基を有する芳香族炭化水素を製造する方法(特許文献1,2参照)が開示されている。
【0006】
また、ジャーナル・オブ・キャタリシス(Journal of Catalysis):146巻 523〜529ページ(1994)およびアプライド・キャタリシス(Applied Catalysis)A:108巻 187〜204ページ(1994)にゼオライト触媒存在下、気相反応で、トルエンをイソプロパノールおよびプロパノールでアルキル化した際に、反応初期に生成するメチルイソプロピルベンゼンが反応原料に含まれるトルエンあるいはベンゼンとトランスアルキレーションを起こし、ノルマルアルキルベンゼン類が生成することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭59−141525号公報
【特許文献2】特開2001−26557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記技術は依然として副反応による原料ロスが大きく直鎖アルキル基を有する芳香族炭化水素を工業的に製造するに満足できるものではない。よって本発明は、
分岐したアルキル基を有する芳香族炭化水素から直鎖アルキル基を有する芳香族炭化水素を製造する方法であって、副反応を抑制し経済性に優れた製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討を行った結果、分岐したアルキル基を持つ芳香族炭化水素をアルカリ金属イオンとアルカリ土類金属イオンからなる群より選ばれる少なくとも1種以上のイオンとプロトン及びプロトン前駆体からなる群より選ばれる1種以上のイオンでイオン交換して得られる酸型ゼオライト触媒に接触させることで、副反応を抑制し効率よく直鎖アルキル基を有する芳香族炭化水素を得られることを見出し、本発明に至った。
【0010】
すなわち、本発明は分岐したアルキル基を有する芳香族炭化水素を、アルカリ金属イオンとアルカリ土類金属イオンからなる群より選ばれる少なくとも1種以上のイオンとプロトン及びプロトン前駆体からなる群より選ばれる1種以上のイオンでイオン交換して得られる酸型ゼオライト触媒に接触させることを特徴とする直鎖アルキル基を有する芳香族炭化水素の製造方法およびそれに用いる触媒である。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、分岐したアルキル基を有する芳香族炭化水素から直鎖アルキル基を有する芳香族炭化水素を得る方法であって、副反応を抑制することで経済性に優れた製造方法を提供することが可能である。また、未反応物を回収し再度反応系に供給する場合、更に優れた経済性を有することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1〜4及び比較例1における転化率及び選択率を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は分岐したアルキル基を有する芳香族炭化水素を、アルカリ金属イオン又はアルカリ土類金属イオンからなる群より選ばれる少なくとも1種以上のイオンとプロトン及びプロトン前駆体からなる群より選ばれる1種以上のイオンでイオン交換して得られるゼオライトを含有する酸型触媒に接触させることを特徴とする直鎖を有する芳香族炭化水素の製造方法である。
【0014】
本発明でいう分岐したアルキル基を有する芳香族炭化水素における分岐したアルキル基とは、炭素鎖が直鎖状に繋がっているアルキル基以外すべてのアルキル基であり、少なくとも一つの炭素鎖が分岐しているものであればよく、そのアルキル基の中にヘテロ原子を含むものでも構わない。ここでいうヘテロ原子とは窒素、酸素、硫黄、ハロゲンが挙げられる。
【0015】
本発明が好ましく適用できる分岐したアルキル基を有する芳香族炭化水素における好ましいアルキル基の炭素数は3〜15であり、特に好ましくは炭素数が3〜8である。さらに該アルキル基以外に少なくとも一つ以上の異種の置換基を有してもかまわない。異種の置換基としては、メチル基、エチル基、ハロゲン基、ホルミル基、カルボキシル基、アルコキシル基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、ヒドロキシル基、シアノ基などが挙げられる。また、炭素数が3以上の分岐したアルキル基を有する芳香族の芳香環としては、ベンゼン環、ナフタレン環、フェナントレン環、アントラセン環などが挙げられるが、好ましくはベンゼン環である。
【0016】
具体的にはイソプロピルベンゼン、イソプロピルトルエン、イソプロピルエチルベンゼン、ジイソプロピルベンゼン、イソプロピルクロロベンゼン、イソプロピルブロムベンゼン、イソプロピルジクロロベンゼン、イソプロピルジブロムベンゼン、イソプロピルニトロベンゼン、イソプロピルアニソール、イソプロピルジフェニルエーテル、イソプロピルベンゾニトリル、イソプロピル安息香酸、イソプロピルベンズアルデヒド、イソプロピルベンジルアルコール、イソプロピルフェノール、sec−ブチルベンゼン、sec−ブチルトルエン、sec−ブチルエチルベンゼン、sec−ブチルイソプロピルベンゼン、ジsec−ブチルベンゼン、sec−ブチルクロロベンゼン、sec−ブチルブロムベンゼン、sec−ブチルジクロロベンゼン、sec−ブチルジブロムベンゼン、sec−ブチルニトロベンゼン、sec−ブチルアニソール、sec−ブチルジフェニルエーテル、sec−ブチルベンゾニトリル、sec−ブチル安息香酸、sec−ブチルベンズアルデヒド、sec−ブチルベンジルアルコール、sec−ブチルフェノール、イソブチルベンゼン、イソブチルトルエン、イソブチルエチルベンゼン、イソブチルイソプロピルベンゼン、ジイソブチルベンゼン、イソブチルクロロベンゼン、イソブチルブロムベンゼン、イソブチルジクロロベンゼン、イソブチルジブロムベンゼン、イソブチルニトロベンゼン、イソブチルアニソール、イソブチルジフェニルエーテル、イソブチルベンゾニトリル、イソブチル安息香酸、イソブチルベンズアルデヒド、イソブチルベンジルアルコール、イソブチルフェノール、tert−ブチルベンゼン、tert−ブチルトルエン、tert−ブチルエチルベンゼン、tert−ブチルイソプロピルベンゼン、ジtert−ブチルベンゼン、tert−ブチルクロロベンゼン、tert−ブチルブロムベンゼン、tert−ブチルジクロロベンゼン、tert−ブチルジブロムベンゼン、tert−ブチルニトロベンゼン、tert−ブチルアニソール、tert−ブチルジフェニルエーテル、tert−ブチルベンゾニトリル、tert−ブチル安息香酸、tert−ブチルベンズアルデヒド、tert−ブチルベンジルアルコール、tert−ブチルフェノール、イソペンチルベンゼン、イソペンチルトルエン、イソペンチルエチルベンゼン、イソペンチルイソプロピルベンゼン、ジイソペンチルベンゼン、イソペンチルクロロベンゼン、イソペンチルジクロロベンゼン、イソペンチルニトロベンゼン、イソペンチルアニソール、イソペンチルジフェニルエーテル、イソペンチルベンゾニトリル、イソペンチル安息香酸、イソペンチルベンズアルデヒド、イソペンチルベンジルアルコール、イソペンチルフェノール、ネオペンチルベンゼン、ネオペンチルベンゼン、ネオペンチルトルエン、ネオペンチルエチルベンゼン、ネオペンチルイソプロピルベンゼン、ジネオペンチルベンゼン、ネオペンチルクロロベンゼン、ネオペンチルジクロロベンゼン、ネオペンチルニトロベンゼン、ネオペンチルアニソール、ネオペンチルジフェニルエーテル、ネオペンチルベンゾニトリル、ネオペンチル安息香酸、ネオペンチルベンズアルデヒド、ネオペンチルベンジルアルコール、ネオペンチルフェノール、sec−ヘキシルベンゼン、sec−ヘキシルトルエン、sec−ヘキシルエチルベンゼン、sec−ヘキシルイソプロピルベンゼン、ジsec−ヘキシルベンゼン、sec−ヘキシルクロロベンゼン、sec−ヘキシルジクロロベンゼン、sec−ヘキシルニトロベンゼン、sec−ヘキシルアニソール、sec−ヘキシルジフェニルエーテル、sec−ヘキシルベンゾニトリル、sec−ヘキシル安息香酸、sec−ヘキシルベンズアルデヒド、sec−ヘキシルベンジルアルコール、sec−ヘキシルフェノール、sec−へプチルベンゼン、sec−へプチルトルエン、sec−へプチルエチルベンゼン、sec−へプチルイソプロピルベンゼン、ジsec−へプチルベンゼン、sec−へプチルクロロベンゼン、sec−へプチルジクロロベンゼン、sec−へプチルニトロベンゼン、sec−へプチルアニソール、sec−へプチルジフェニルエーテル、sec−へプチルベンゾニトリル、sec−へプチル安息香酸、sec−へプチルベンズアルデヒド、sec−へプチルベンジルアルコール、sec−へプチルフェノール、sec−オクチルベンゼン、sec−オクチルトルエン、sec−オクチルエチルベンゼン、sec−オクチルイソプロピルベンゼン、ジsec−オクチルベンゼン、sec−オクチルクロロベンゼン、sec−オクチルジクロロベンゼン、sec−オクチルニトロベンゼン、sec−オクチルアニソール、sec−オクチルジフェニルエーテル、sec−オクチルベンゾニトリル、sec−オクチル安息香酸、sec−オクチルベンズアルデヒド、sec−オクチルベンジルアルコール、sec−オクチルフェノール、イソプロピルナフタレン、ジイソプロピルナフタレンなどが挙げられる。なかでも、2級炭素の位置で芳香環と結合している分岐数2のアルキル基については、芳香環との結合位置を変更することで容易に直鎖のアルキル基にすることが可能であることから、より好ましくは、イソプロピルベンゼン、イソプロピルトルエン、イソプロピルエチルベンゼン、ジイソプロピルベンゼン、イソプロピルクロロベンゼン、イソプロピルブロムベンゼン、イソプロピルジクロロベンゼン、イソプロピルジブロムベンゼン、イソプロピルニトロベンゼン、イソプロピルアニソール、イソプロピルジフェニルエーテル、イソプロピルベンゾニトリル、イソプロピル安息香酸、イソプロピルベンズアルデヒド、イソプロピルベンジルアルコール、イソプロピルフェノール、sec−ブチルベンゼン、sec−ブチルトルエン、sec−ブチルエチルベンゼン、sec−ブチルイソプロピルベンゼン、ジsec−ブチルベンゼン、sec−ブチルクロロベンゼン、sec−ブチルブロムベンゼン、sec−ブチルジクロロベンゼン、sec−ブチルジブロムベンゼン、sec−ブチルニトロベンゼン、sec−ブチルアニソール、sec−ブチルジフェニルエーテル、sec−ブチルベンゾニトリル、sec−ブチル安息香酸、sec−ブチルベンズアルデヒド、sec−ブチルベンジルアルコール、sec−ブチルフェノール、sec−ヘキシルベンゼン、sec−ヘキシルトルエン、sec−ヘキシルエチルベンゼン、sec−ヘキシルイソプロピルベンゼン、ジsec−ヘキシルベンゼン、sec−ヘキシルクロロベンゼン、sec−ヘキシルジクロロベンゼン、sec−ヘキシルニトロベンゼン、sec−ヘキシルアニソール、sec−ヘキシルジフェニルエーテル、sec−ヘキシルベンゾニトリル、sec−ヘキシル安息香酸、sec−ヘキシルベンズアルデヒド、sec−ヘキシルベンジルアルコール、sec−ヘキシルフェノール、sec−へプチルベンゼン、sec−へプチルトルエン、sec−へプチルエチルベンゼン、sec−へプチルイソプロピルベンゼン、ジsec−へプチルベンゼン、sec−へプチルクロロベンゼン、sec−へプチルジクロロベンゼン、sec−へプチルニトロベンゼン、sec−へプチルアニソール、sec−へプチルジフェニルエーテル、sec−へプチルベンゾニトリル、sec−へプチル安息香酸、sec−へプチルベンズアルデヒド、sec−へプチルベンジルアルコール、sec−へプチルフェノール、sec−オクチルベンゼン、sec−オクチルトルエン、sec−オクチルエチルベンゼン、sec−オクチルイソプロピルベンゼン、ジsec−オクチルベンゼン、sec−オクチルクロロベンゼン、sec−オクチルジクロロベンゼン、sec−オクチルニトロベンゼン、sec−オクチルアニソール、sec−オクチルジフェニルエーテル、sec−オクチルベンゾニトリル、sec−オクチル安息香酸、sec−オクチルベンズアルデヒド、sec−オクチルベンジルアルコール、sec−オクチルフェノール、イソプロピルナフタレン、ジイソプロピルナフタレンなどが挙げられる。
【0017】
本発明において使用するゼオライトとしては、特に限定されないが、好ましくは、フォージャサイト型、モルデナイト型、ベータ型、MFI型ゼオライトを例示できる。本発明効果が顕著である点でさらに好ましくはMFI型ゼオライトである。
【0018】
本発明においてゼオライトは酸型体として用いる。酸型のゼオライトはよく知られるようにゼオライト中のカチオンとしてプロトンまたは2価以上の多価カチオンを有するものである。これらは通常ナトリウムなどの1価のアルカリ金属イオンを有するゼオライトのアルカリ金属の少なくとも一部をプロトンまたは多価カチオンでイオン交換するか、または焼成により、プロトンに転化するプロトン前駆体、例えばアンモニウムイオンなどでイオン交換後これを焼成することにより得られる。
【0019】
本発明におけるイオン交換はアルカリ金属イオンとアルカリ土類金属イオンからなる群より選ばれる少なくとも1種以上のイオンと、プロトン及びプロトン前駆体からなる群より選択される一種以上のイオンを含む水溶液で行う。好ましくはアルカリ金属イオンとアルカリ土類金属イオンからなる群より選ばれる少なくとも1種以上のイオンとプロトン前駆体から選択される群より選択される1種以上のイオンを含む水溶液で行う。さらに好ましくはアルカリ金属イオンからなる群より選ばれる少なくとも1種以上のイオンとプロトン前駆体から選択される群より選択される1種以上のイオンを含む水溶液で行う。
【0020】
アルカリ金属の具体例としては、周期表第1族元素であるLi、Na、K、Rb、Cs、アルカリ土類金属の具体例としては周期表第2属元素であり、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Raなどが挙げられる。ただし、本発明によるイオン種数は特に限定されるものではなく、一種または二種以上で用いることができる。
【0021】
上記イオン交換は、好ましくはアルカリ金属イオンとアルカリ土類金属イオンからなる群より選ばれる少なくとも1種以上のイオン及びアンモニウムイオンが共存した水溶液でイオン交換を行い、さらに好ましくはアルカリ金属イオンからなる群より選ばれる少なくとも1種以上のイオン及びアンモニウムイオンが共存した水溶液でイオン交換を行う。ただし、本発明によるイオン交換はアルカリ金属イオンとアルカリ土類金属イオンからなる群より選ばれる少なくとも1種以上のイオン及びアンモニウムイオンが共存した水溶液に限定されるものではない。例えばリチウムイオンによるイオン交換後にアンモニウムイオンによるイオン交換を行う、アンモニウムイオンを含む水溶液によるイオン交換後にリチウムイオンによるイオン交換を行うことも可能である。
【0022】
本発明において、ゼオライトは通常成型体として用いられる。成型方法は特に限定されないが、転動法、圧縮法、押出し法などの公知の方法が適用できる。また、成型の際必要ならば、アルミナゾル、粘土などのバインダーを加えることも可能である。このときゼオライトに対するバインダーの重量比率は特に限定されるものではない。
【0023】
なお、イオン交換処理はゼオライト成型前又は成型後のいずれの段階で行うことも可能であるが、イオン交換処理の容易さから粒径が大きい成型後の方が好ましい。このゼオライト成型体をプロトン前駆体によるイオン交換処理をしている場合は通常300〜700℃で焼成することにより酸型化して触媒とする。
【0024】
本発明において、トランスアルキル反応などの副反応を抑制するために炭素数が3以上の分岐したアルキル基を有する芳香族化合物とは異なる芳香族化合物を反応系に共存させることが好ましい。共存させる芳香族化合物としては、置換基のない芳香族化合物でもよいし、置換基があっても構わないが、芳香環に結合した水素が少なくとも一つ存在することが必要である。例えば、ベンゼン、ナフタレン、フェナントレン、アントラセン、トルエン、エチルベンゼン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、クロロトルエン、ジクロロトルエン、ブロモベンゼン、ジブロモベンゼン、ブロモトルエン、ジブロモトルエン、ブロモクロロベンゼン、安息香酸、ベンズアルデヒド、ニトロベンゼン、アニリン、アニソール、フェノール、ベンゾニトリルなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0025】
共存させる芳香族化合物の量は炭素数が3以上で、かつ分岐したアルキル基を有する芳香族化合物に対して0.1〜30.0(重量比)が好ましいが、目的化合物の生成液中の濃度を高く保つという点からより好ましくは0.1〜10.0が好ましい。
【0026】
本発明は液相反応で行うことが好ましい。反応を液相状態で行う場合、反応圧力を適宜設定する。従来のように反応を気相反応で行うと、副反応で生成する二量体等の高沸点化合物が触媒上に留まり、触媒活性を急速に低下させる傾向にあるのに対し、液相では、生成した高沸点化合物が反応液で触媒上から洗い流されるために、触媒活性の低下が抑制される。
【0027】
反応温度は通常150〜500℃であるが、特に200〜400℃が好ましい。反応圧力は液相を保持できる圧力であれば、特に限定されるものではない。
【0028】
触媒に対する原料の供給速度である重量空間速度(WHSV)は0.1〜40.0Hr−1であり、好ましくは0.1〜20.0Hr−1である。しかし、触媒活性を一定に保つためにはWHSVが高いと反応温度が高くなるので省エネの点から、より好ましくは0.1〜10.0Hr−1である。ここで、重量空間速度は、WHSV Hr−1=原料流量g・Hr−1/触媒量gで計算される値である。また、原料とは分岐したアルキル基を有する芳香族炭化水素、任意成分である芳香族化合物を共存させる場合は、分岐したアルキル基を有する芳香族炭化水素及び共存させる芳香族化合物を意味する。
【0029】
本発明により得られる目的の直鎖アルキル基を有する芳香族化合物は通常の蒸留法、晶析法、クロマトグラフィー法あるいは疑似移動床による吸着分離法などによって分離、精製することができる。なお、未反応の原料が回収される場合は、再度反応に利用することもできる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明の実施例を具体的に説明する。
【0031】
(ゼオライト合成)
カセイソーダ3.5g(NaOH含量96.0wt%、カーク社製)、酒石酸3.5g(酒石酸含量99.7wt%、カーク社製)を蒸留水127.2gに溶解した。この溶液にアルミン酸ソーダ2.4g(Al含量18.5wt%、NaOH含量26.1wt%、住友化学工業社製)を加えて均一な溶液とした。この混合液にケイ酸粉末20.5(SiO含量91.6wt%、NaOH含量0.27wt%、ニップルシールVN−3、東ソー・シリカ社製)を攪拌しながら、少しずつ加え均一なスラリー状水性反応混合物を調整した。反応混合物は攪拌しながら160℃で72時間保持して結晶化を行い、MFI型ゼオライト(SiO/Al44mol/mol)を合成した。
【0032】
(触媒成形)
上記方法で得られたゼオライト粉末30.0g(絶乾基準)にアルミナゲル(Al含量70wt%、CataloidAP(C−10)、日揮触媒化成社製)3.0g、アルミナゾル(Al含量10wt%、コロイダルアルミナ200、日産化学社製)24.0gを加え混練後、混練状態を見て適量の蒸留水を加えペースト状の混合物とした。これを0.6mmの孔があるスクリーンを通してヌードル状の成型体とした。この成型体をマルメライザーに入れ、成型体の角をとる処理をした後、120℃で一晩乾燥し、500℃、2時間空気中で焼成した。この焼成した成形品を用いて下記薬液処理を行い、触媒組成物A〜Eを得た。
【0033】
(薬液処理:触媒組成物A)
焼成した成型体25.0gに対して塩化アンモニウム(シグマ・アルドリッチ社製、1級品)5.0g、塩化リチウム(キシダ化学社製、1級品)1.3g、水50.0g(液固比2.0cm/g)を混合し、90℃、5回イオン交換を行い、十分水洗し、120℃で16時間乾燥後550℃で2時間空気中で焼成して酸型のゼオライトを含有する触媒組成物Aを得た。
【0034】
(薬液処理:触媒組成物B)
焼成した成型体25.0gに対して塩化アンモニウム(シグマ・アルドリッチ社製 1級品)5.0g、塩化ナトリウム(関東化学社製 1級品)2.8g、水50.0g(液固比2.0cm/g)を混合した以外は触媒組成物Aと同様の薬液処理操作を行った。
【0035】
(薬液処理:触媒組成物C)
焼成した成型体25.0gに対して塩化アンモニウム(シグマ・アルドリッチ社製、1級品)5.0g、塩化カリウム(片山化学工業社製、1級品)1.7g、水50.0g(液固比2.0cm/g)を混合した以外は触媒組成物Aと同様の薬液処理操作を行った。
【0036】
(薬液処理:触媒組成物D)
焼成した成型体25.0gに対して塩化アンモニウム(シグマ・アルドリッチ社製、1級品)5.0g、塩化カルシウム(関東化学社製、1級品)1.7g、水50.0g(液固比2.0cm/g)を混合した以外は触媒組成物Aと同様の操作を行った。
【0037】
(薬液処理:触媒組成物E)
焼成した成型体25.0gに対して塩化アンモニウム(シグマ・アルドリッチ社製、1級品)5.0g、水50.0g(液固比2.0cm/g)を混合した以外は触媒組成物Aと同様の操作を行った。
【0038】
実施例1
上記方法にて調整した触媒組成物A(絶乾基準)20gを5/8インチ(1.59cm)のステンレスチューブの反応管に充填し、内圧を4MPaGに保ちつつ、イソプロピルベンゼン(三井化学製)に対してベンゼン(関東化学社製 1級品)を1.5の重量比率で調整した原料を20g・Hr−1で反応管へ供給しWHSV1.0Hr−1で液相反応を行った。反応液評価はカラムにFFAP(60m×0.25mmφ)を使用したSHIMADZU製 GASCHROMATOGRAPH GC―14Bにより行った。結果を表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
転化率[%]=
反応したイソプロピルベンゼンの重量[g]/供給液中のイソプロピルベンゼンの重量[g]
選択率[%]=
反応液中のノルマルプロピルベンゼンの重量[g]/反応したイソプロピルベンゼンの重量[g]
収率[%]=
反応液中のノルマルプロピルベンゼンの重量[g]/供給液中のイソプロピルベンゼンの重量[g]
【0041】
実施例2
実施例1と同様の方法で触媒組成物Bの反応評価を行った。結果を表2に示す。
【0042】
【表2】

【0043】
実施例3
実施例1と同様の方法で触媒組成物Cの反応評価を行った。結果を表3に示す。
【0044】
【表3】

【0045】
実施例4
実施例1と同様の方法で触媒組成物Dの反応評価を行った。結果を表4に示す。
【0046】
【表4】

【0047】
比較例1
実施例1と同様の方法で触媒組成物Eの反応評価を行った。結果を表5に示す。
【0048】
【表5】

【0049】
図1は、実施例1〜4と比較例1で実施した反応における転化率及び選択率をプロットしたグラフである。図1より同一の転化率で触媒組成物A〜Eを比較すると、触媒組成物A〜D、特に触媒組成物A〜Cは選択率が高く副反応による原料ロスが小さく経済性が良いことが分かる。また、未反応物を回収することで再度反応系に供給する場合にはより効率的に生産することが可能となる。これらよりアルカリ金属イオン又はアルカリ土類金属イオンからなる群より選ばれる少なくとも1種以上のイオンとプロトン及びプロトン前駆体からなる群より選ばれる1種以上のイオンでイオン交換して得られる酸型ゼオライト触媒に、分岐したアルキル基を有する芳香族炭化水素を接触させて直鎖アルキル基を有する芳香族炭化水素を製造する際に、副反応生成物を顕著に抑制出来ることが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分岐したアルキル基を有する芳香族炭化水素を、アルカリ金属イオンとアルカリ土類金属イオンからなる群より選ばれる少なくとも1種以上のイオンとプロトン及びプロトン前駆体からなる群より選ばれる1種以上のイオンでイオン交換して得られる酸型ゼオライト触媒に接触させることを特徴とする直鎖アルキル基を有する芳香族炭化水素の製造方法。
【請求項2】
前記酸型ゼオライト触媒はアルカリ金属イオンとアルカリ土類金属イオンから選ばれる少なくとも1種以上のイオンとプロトン前駆体からなる群より選ばれる1種以上のイオンでイオン交換処理後、焼成することを特徴とする請求項1記載の芳香族炭化水素の製造方法。
【請求項3】
前記酸型ゼオライト触媒はアルカリ金属イオンからなる群より選ばれる少なくとも1種以上のイオンとプロトン前駆体からなる群より選ばれる1種以上のイオンでイオン交換処理後、焼成することを特徴とする請求項1記載の芳香族炭化水素の製造方法。
【請求項4】
分岐したアルキル基を有する芳香族炭化水素を、前記酸型ゼオライト触媒に液相で接触させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の芳香族炭化水素の
製造方法。
【請求項5】
前記ゼオライトはMFI型であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載の芳香族炭化水素の製造方法。
【請求項6】
前記分岐したアルキル基を持つ芳香族炭化水素はイソプロピルベンゼンであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか記載の芳香族炭化水素の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか記載の製造方法に用いる請求項1〜6のいずれかに記載のゼオライトを含有する酸型触媒。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2013−10727(P2013−10727A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−145910(P2011−145910)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】