説明

相互乗り入れ用車両及び装置

【課題】 簡単な構造で、標準軌路線と狭軌路線の相互乗り入れ車両及び装置を提供する
【解決手段】 一車軸に標準軌路線用の車輪2個と狭軌路線用の車輪2個、合計4個の車輪を設けた鉄道車両であって、標準軌路線用レールと狭軌路線用レールを重複させることにより四線軌条とした軌間変換区間を設け、かつ、標準軌路線の分岐部においては、狭軌路線用車輪がレールに接することなく通過できるようにポイント部に隙間を設け、狭軌路線の分岐部においては、標準軌路線用車輪がレールに接することなく通過できるようにポイント部に隙間を設けたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線路の幅(以下ゲージという)が異なる標準軌路線と狭軌路線を相互に乗り入れする車両、及び、相互乗り入れするための軌間変換区間を有する相互乗り入れ装置、並びに、該車両が通過できる標準軌用分岐器及び狭軌用分岐器に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、標準軌路線用車両が狭軌路線に乗り入れする場合、狭軌路線のゲージを標準軌のゲージに改造するか、三線軌条に改造する例があった。最近では軌間可変電車(以下「フリーゲージトレイン」という)が開発中である(例えば、非特許文献1参照)。
【非特許文献1】四国運輸局、“運輸おたずねコーナー:フリーゲージトレインとは”、[平成18年2月14日検索]、インターネット<URL:http://www.skt.mlit.go.jp/qa/data2001.htm>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
これらには次のような欠点があった。
狭軌路線の線路を標準軌に改造するには高い建設費用がかかり、三線軌条も同様である。また、フリーゲージトレインは、軌間変換装置上を通過する際に、時速10km以下で走る必要があり、連結車両が多くなるほど運行時間が長くなるなどの欠点がある。また、フリーゲージトレインでは車軸方向に車輪の可動機構を有するため構造が複雑になり故障要因の増加、安全性の低下が懸念される。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の欠点を解決するため、本発明の標準軌路線・狭軌路線相互乗り入れ用車両は、一車軸10に標準軌用車輪11a及び11b並びに狭軌用車輪21a及び21bを設けたことを特徴とする。
【0005】
標準軌路線から狭軌路線への乗り入れ又は狭軌路線から標準軌路線への乗り入れのための相互乗り入れ装置として標準軌レールと狭軌レールとが互いに重複する軌間変換区間を設けた。軌間変換区間は、分岐器のない直線部において標準軌レール32a及び32b並びに狭軌レール42a及び42bで構成する四線軌条構造とした。
【0006】
標準軌路線用分岐器においては、ポイント35a、35b及び36aを設け、各ポイントがそれぞれ支点35ca、35cb及び36caを支点として35aa、35bb及び36aaの位置に可逆的に移動できる構造とし、かつ、狭軌用車輪が通過できる隙間を設けた。
【0007】
狭軌路線用分岐器においては、ポイント45a、45b及び46aを設け、各ポイントがそれぞれ支点45ca、45cb及び46caを支点として45aa、45bb及び46aaの位置に可逆的に移動できる構造とし、かつ、標準軌用車輪が通過できる隙間を設けた。
【発明の効果】
【0008】
本発明による車両と相互乗り入れ装置を例えば在来線への乗り入れが必要な新幹線に採用すると、在来路線の線路の改造は相互乗入れ部と分岐器の改造及び新幹線の分岐器の改造に限られ、在来線全線に亘って新幹線ゲージへ改造すること、又は、三線軌条へ改造することに較べて、建設費用の大幅に削減が図れる。
【0009】
本発明によれば、車輪を車軸に固定する方式は確立された従来の技術を利用したものであり、構造が簡単な上、安全性、耐久性等信頼性の高い相互乗り入れ用車両を提供できる。
【0010】
本発明によれば、相互乗り入れにあたり、速度を落とすことなく通常の走行速度で軌間変換区間を通過するだけで、標準軌路線から狭軌路線へ、又は、狭軌路線から標準軌路線への乗り入れが完了するため、軌間変換に伴う運行時間の増加を避けられる。
【0011】
急勾配の上り坂や下り坂、停止・発進の頻度が高い駅や操車場では、四線軌条とすれば、車輪と軌条の間の接触面が増し摩擦力が増大し、スリップ対策等安全対策が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【実施例1】
【0012】
以下本発明の最良の実施形態を図面に基づき説明する。
図1は、本案請求項1による車両を標準軌の新幹線と狭軌の在来線を相互乗り入れできるミニ新幹線に利用した実施例を示す。図1(a)はミニ新幹線車両が新幹線用線路を走行している状況を示す。図1(b)はミニ新幹線車両が在来線用線路を走行している状況を示す。図1(c)は、新幹線車両が新幹線用線路を走行している状況を示す。
実施例1では標準軌用車輪の直径と狭軌用車輪の直径が同じで標準軌路線と狭軌路線とを相互乗り入れする場合の例を示す。
【0013】
図2は実施例1の一車軸四輪の例である。図2において、車軸10に標準軌用車輪11a及び11b並びに狭軌用車輪21a及び21bを設けた。図2は標準軌用車輪と狭軌用車輪の直径が同じ場合であって、各車輪は、標準軌用車輪11a及び11bは標準軌ゲージに適合し、狭軌用車輪21a及び21bは狭軌ゲージに適合するよう車軸10に固定されている。
【0014】
標準軌路線で分岐器のない区間を走行するときは、図1(a)において標準軌用車輪11a及び11bがそれぞれ標準軌レール31a及び31b上を走行し、狭軌用車輪21a及び21bはそれぞれ標準軌レール31a及び31bの内側で空転し走行する。
【0015】
同様に狭軌路線で分岐器のない区間を走行するときは、図1(b)において狭軌用車輪21a及び21bがそれぞれ狭軌レール41a及び41b上を走行し、標準軌用車輪11a及び11bはそれぞれ狭軌レール41a及び41bの外側で空転し走行する。
【0016】
図3(a)は、線路直線部における軌間変換区間であって、相互乗り入れ装置を示す平面図、図3(b)はA−A断面図である。軌間変換区間は標準軌レール31a及び31bと狭軌レール41a及び41bが重複する区間で、標準軌レールにおいては32a及び32bで、狭軌レールにおいては42a及び42bで互いに重複する。
【0017】
標準軌路線から狭軌路線への乗り入れは次の通りである。標準軌レール31a及び31b上を図3(a)上方から走行してきた標準軌用車輪11a及び11bは、標準軌レール重複部32a及び32bへ移動し、狭軌用車輪21a及び21bは狭軌レールの重複部42a及び42bに接する。同時に標準軌用車輪11a及び11bは標準軌レール重複部32a及び32bから離れ、狭軌用車輪21a及び21bは狭軌レール41a及び41b上を図3(a)下方へ走行し、該車両は標準軌路線から狭軌路線への乗り入れを完了する。
一編成に装着されている他の車輪も同様である。
【0018】
狭軌路線から標準軌路線への乗り入れは次の通りである。狭軌レール41a及び41b上を図3(a)下方から走行してきた狭軌用の車輪21a及び21bは、狭軌レール重複部42a及び42bへ移動し、標準軌用車輪11a及び11bは標準軌レールの重複部32a及び32bに接する。同時に狭軌用車輪21a及び21bは狭軌レール重複部42a及び42bから離れ、標準軌用車輪11a及び11bは標準軌レール31a及び31b上を図3(a)上方へ走行し、該車両は狭軌路線から標準軌路線への乗り入れを完了する。
一編成に装着されている他の車輪も同様である。
【0019】
次に、標準軌用分岐器を走行する場合について説明する。図4は標準軌用分岐器の平面図を示す。図4では枕木を省略してある。図4(a)において、同図下方から走行してきた標準軌用の車輪11a及び11bはポイント35a、35b及び36aを通過し、同図上方へ直進する。狭軌用車輪は各ポイントの隙間を通過し標準軌レールに接することなく通過する。それぞれのポイントが支点35ca、35cb及び36caを支点として、図4(b)における35aa、35bb及び36aaの位置に移動し、狭軌用車輪は同図左斜め上方向へ通過する。この場合、狭軌用車輪は各ポイントの隙間を走行し標準軌レールに接することなく通過する。
【0020】
図5は狭軌用分岐器の平面図を示す。図5では枕木を省略してある。狭軌用分岐器を走行する場合は、図5(a)において、同図下方から走行してきた狭軌用の車輪21a及び21bはポイント45a、45b及び46aを通過し、同図上方へ直進する。標準軌用車輪は各ポイントの隙間を通過し狭軌レールに接することなく通過する。それぞれのポイントが支点45ca、45cb及び46caを支点として、図5(b)における45aa、45bb及び46aaの位置に移動し、狭軌用車輪は同図左斜め上方向へ通過する。この場合、標準軌用車輪は各ポイントの隙間を走行し狭軌レールに接することなく通過する。
【実施例2】
【0021】
図6は、本案請求項5の場合の一車軸四輪の例である。実施例2では狭軌用車輪の直径が標準軌用車輪の直径よりも小さい場合で、図6において、車軸10に標準軌用車輪11a及び11b並びに狭軌用小車輪22a及び22bを設ける。標準軌用車輪11a及び11bは標準軌ゲージに適合し、狭軌用小車輪22a及び22bは狭軌ゲージに適合するよう車軸10に固定されている。
【0022】
図7は、実施例2の場合の軌間変換区間部を示す図であって、相互乗り入れ装置の例である。図7(a)は線路直線部における軌間変換区間を示す平面図、図7(b)は図7(a)の側面図、図7(c)はA−A断面図を示す。軌間変換区間では、標準軌レールにおいては32a及び32bで、狭軌レールにおいては43a及び43bで互いに重複する。
狭軌用小車輪22a及び22bの直径は標準軌用車輪11a及び11bの直径よりも小さいため、軌間変換区間において、標準軌レール32a及び32bの高さと狭軌レール43a及び43bの高さには差があり、直径の差に応じて狭軌レールが標準軌レールよりも高い。
【0023】
実施例2の場合の標準軌路線から狭軌路線への乗り入れについて説明する。標準軌レール31a及び31b上を図7(a)上方から走行してきた標準軌用車輪11a及び11bは、標準軌レールの重複部32a及び32bへ移動し、狭軌用小車輪22a及び22bは狭軌レールの重複部43a及び43bに接する。同時に標準軌用車輪11a及び11bは標準軌レール重複部32a及び32bから離れ、狭軌用小車輪22a及び22bは、狭軌レール41a及び41b上を図7(a)下方へ走行し、該車両は標準軌路線から狭軌路線への乗り入れを完了する。
一編成に装着されている他の車輪も同様である。
【0024】
狭軌路線から標準軌路線への乗入れは次の通りである。狭軌レール41a、41b上を図7(a)下方から走行してきた狭軌用小車輪22a及び22bは、狭軌レール重複部43a及び43bへ移動し、標準軌用車輪11a及び11bは標準軌レールの重複部32a及び32bに接する。同時に狭軌用小車輪22a及び22bは狭軌レール重複部43a及び43bから離れ、標準軌用車輪11a及び11bは、標準軌レール31a及び31b上を図7(a)上方へ走行し、該車両は狭軌路線から標準軌路線への乗り入れを完了する。
一編成に装着されている他の車輪も同様である。
【0025】
相互乗り入れ車両が標準軌用分岐器を通過する方法は実施例1の図4の場合と同様であり、同車両が狭軌用分岐器を通過する方法は実施例1の図5の場合と同様である。
【実施例3】
【0026】
実施例2では狭軌用車輪の直径が標準軌用車輪の直径よりも小さい場合について述べたが、実施例3では、逆に、標準軌用車輪の直径が狭軌用車輪の直径よりも小さい場合を述べる。図は省略するが、同様に各車輪の直径に応じて軌間変換区間部のレールの高さを設定することにより、相互乗り入れ装置が可能であり、該車両は標準軌路線と狭軌路線間の相互乗り入れができる。分岐部の通過も実施例1の場合と同様である。
【産業上の利用の可能性】
【0027】
新幹線と在来線の相互乗入れの他、本発明は、ゲージが異なるJRと私鉄、私鉄と地下鉄、私鉄同士等の相互乗り入れにも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】 (a)ミニ新幹線車両の新幹線用線路走行状態(b)ミニ新幹線車両の在来線用線路走行状態(c)新幹線走行状態
【図2】 実施例1の一車軸四輪を示す図
【図3】 (a)実施例1の軌間変換区間軌条平面図(b)図3(a)のAA断面図
【図4】 (a)標準軌用の分岐器の平面図(直進の場合)(b)標準軌用の分岐器の平面図(分岐の場合)
【図5】 (a)狭軌用の分岐器の平面図(直進の場合)(b)狭軌用の分岐器の平面図(分岐の場合)
【図6】 実施例2の一車軸四輪を示す図
【図7】 (a)実施例2の軌間変換区間軌条平面図(b)図7(a)の側面図(c)図7(a)のAA断面図
【符号の説明】
【0029】
10 車軸
11a 標準軌用車輪
11b 標準軌用車輪
21a 狭軌用車輪
21b 狭軌用車輪
22a 狭軌用小車輪
22b 狭軌用小車輪
31a 標準軌レール
31b 標準軌レール
32a 標準軌レール軌間変換区間部
32b 標準軌レール軌間変換区間部
35a 標準軌レールポイント部
35b 標準軌レールポイント部
36a 標準軌レールポイント部
35ca 標準軌レールポイント部支点
35cb 標準軌レールポイント部支点
36ca 標準軌レールポイント部支点
37 標準軌用枕木
38 標準軌用枕木軌間変換区間部
41a 狭軌レール
41b 狭軌レール
42a 狭軌レール軌間変換区間部
42b 狭軌レール軌間変換区間部
43a 狭軌レール狭軌小車輪軌間変換区間部
43b 狭軌レール狭軌小車輪軌間変換区間部
45a 狭軌レールポイント部
45b 狭軌レールポイント部
46a 狭軌レールポイント部
45ca 狭軌レールポイント部支点
45cb 狭軌レールポイント部支点
46ca 狭軌レールポイント部支点
47 狭軌用枕木

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲージが異なる路線どうしで相互に乗り入れする鉄道車両において、一車軸に標準軌用車輪11a及び11b並びに狭軌用車輪21a及び21bを設けた車軸10を有する鉄道車両であって、標準軌用車輪の直径と狭軌用車輪の直径が同じである鉄道車両。
【請求項2】
請求項1による車両が走行する標準軌レール31a及び31b並びに狭軌レール41a及び41bが互いに重複する区間であって、標準軌レール32a及び32b並びに狭軌レール42a及び42bからなる軌間変換区間を設けた標準軌路線と狭軌路線との相互乗り入れ装置。
【請求項3】
請求項1による車両が走行する標準軌用分岐器において、ポイント35a、35b及び36aを有し、それぞれのポイントが35ca、35cb及び36caを支点としてそれぞれ35aa、35bb及び36aaの位置に可逆的に移動できて、それぞれのポイントの開いた隙間を狭軌用車輪が通過できる標準軌用分岐器。
【請求項4】
請求項1による車両が走行する狭軌用分岐器において、ポイント45a、45b及び46aを有し、それぞれのポイントが45ca、45cb及び46caを支点としてそれぞれ45aa、45bb及び46aaの位置に可逆的に移動できて、それぞれのポイントの開いた隙間を標準軌用車輪が通過できる狭軌用分岐器。
【請求項5】
請求項1において、狭軌用車輪22a及び22bの直径が、標準軌用車輪11a及び11bの直径より小さい車輪、又は、標準軌用車輪の直径が、狭軌用車輪の直径より小さい車輪を設けた車軸10を有する鉄道車両。
【請求項6】
請求項2による相互乗入れ装置の軌間変換区間において、請求項5による車両の車輪の大きさに応じて、標準軌レール32a及び32bと狭軌レール43a及び43bの高さが異なる軌間変換区間を設けた標準軌路線と狭軌路線との相互乗り入れ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−44584(P2008−44584A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−246106(P2006−246106)
【出願日】平成18年8月16日(2006.8.16)
【出願人】(593158478)
【Fターム(参考)】