説明

相変化材料を含むエネルギー伝達システム

【課題】低いコストで熱貯蔵システムの容量を増大する。
【解決手段】エネルギーの吸収、一時貯蔵および放出を行うエネルギー伝達システムにおいて、当該エネルギー伝達システムが相変化材料を入れる第1の容器と、外部エネルギー源に接続可能であって前記相変化材料に熱エネルギーを充填する発熱エレメントと、外部熱機関に接続可能であって前記相変化材料から熱エネルギーを抽出する熱抽出エレメントとを有するように構成し、前記発熱エレメントでは前記外部エネルギー源により供給されるエネルギーが使用され、前記外部熱機関が抽出された熱エネルギーを電気エネルギーに変換するようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱エネルギーの一時貯蔵の分野に関する。特に、本発明はエネルギーの吸収、一時貯蔵および放出を行うエネルギー伝達システムに関する。さらに、本発明はこのようなエネルギー伝達システムを2つ含んだエネルギー伝達設備に関する。さらに、本発明はエネルギーを吸収し、一時貯蔵し、放出する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
風力タービンや太陽発電プラント、潮力発電プラントのような種々の代替エネルギー源からの電力生産は連続的ではない。電力生産は風速(風力タービンの場合)、絶縁(太陽発電プラントの場合)、波の高さや方向(潮力発電プラントの場合)のような環境パラメータに依存する。エネルギー生産とエネルギー需要との間に相関はほとんどないか、全くない。
【0003】
電力生産と電力需要とが相関しないという問題を解決する1つの公知のアプローチは、生産されたが需要されていないエネルギーを一時的に貯蔵し、貯蔵されたエネルギーを高い需要があるときに放出するというものである。過去には、エネルギーを一時的に貯蔵する多くの異なる方法が提案されてきた。提案された方法としては、例えば以下のものがある。
【0004】
(a)機械的なエネルギー貯蔵方法、例えば揚水貯蔵、圧縮空気貯蔵およびフライホイール
(b)化学的なエネルギー貯蔵方法、例えば電気化学バッテリおよび有機分子貯蔵
(c)磁気エネルギー貯蔵
(d)熱エネルギー貯蔵
【0005】
熱エネルギー貯蔵に関しては、水が高い熱容量を有していることが知られている。原理上は、水を熱貯蔵材または熱貯蔵媒体に用いて効率的な熱貯蔵が可能である。しかし、洗練された圧力容器を使用しない限り、水による熱容量貯蔵の最高温度は100℃(摂氏100度)に制限される。大容量貯蔵のためには圧力容器のコストが法外に高いので、水を熱貯蔵材として使用するのは最高温度が100℃の場合に限られる。しかし、100℃の最高温度では、貯蔵された熱エネルギーを要求に応じて放出する熱機関、例えば蒸気ターボ発電機が有効な熱力学的効率で動作するには全く低すぎる。したがって、実際には大容量エネルギー貯蔵に水の高い熱容量の利点を活かすことはできない。
【0006】
代替的な熱貯蔵媒体としては、固体と溶融塩がある。固体は関連する熱機関の熱力学的効率が良くなる高温にまで熱することができる。しかし、固体は一般に熱容量が低いため、大体積が必要になり、エネルギー密度が低くなる。溶融塩は一般に固体よりも熱容量が高く、液相では揚水できるという利点も有しているため、強力熱交換器を備えた低損失貯蔵タンクを構成するのが容易である。しかし、溶融塩は400℃を遥かに超えた温度では一般に不安定であり、そのため関連する熱機関の熱力学的効率が制限されてしまうという欠点を有している。さらに溶融塩は、結晶塩の伝導率の低さのため、初期融解と意図しない凝固が生じたときの再融解とが非常に難しいという欠点も有している。
【0007】
固体の低エネルギー密度の問題に対する1つの解決手段は、関係する動作温度で相変化する材料を使用することである。熱貯蔵サイクルの温度範囲内で、つまり、貯蔵材料温度がTi(最低の開始温度または初期温度に相当する)からTf(最高の終了温度または最終温度に相当する)まで上昇する間に相変化しない材料に貯蔵される熱ないし熱エネルギーの量Qは以下の式(1)によって計算することができる。
【0008】

【0009】
ここで、mは熱貯蔵材料の質量であり、Cp(T)は熱貯蔵材料の比熱容量であり、熱力学の基本によれば、温度Tの関数である。
【0010】
熱貯蔵材料の比熱容量が明白には温度に依存していないとすれば、温度の上昇と貯蔵される熱の量との間には直線的な関係が存在する。熱貯蔵サイクルの間に熱変化しない材料または媒体の場合、材料が融解または凝固するときに余分なエネルギーが吸収または放出される。融解と凝固のプロセスは図6に示されている実質的に一定の温度において生じる。このような材料は相変化材料(PCM)と呼ばれる。図6には、PCMが固体から液体そしてまた固体へ、または液体から固体へと相変化するときに、どのくらいの熱がPCMによって吸収または放出されるのかが示されている。具体的には、温度Tiにおいて固相で開始した場合、PCMの温度はまず熱入力量hに従って近似的に線形に上昇する。温度が融解温度Tmに達すると、温度は融解熱または溶融熱Δhmが吸収され、PCMがすべて液体になるまでしばらく一定にとどまる。その後、液体PCMの温度は再び熱入力量hに従って線形に上昇する。勾配dT/dhは液相と固相とでは異なっている。勾配dt/dhは固体PCMまたは液体PCMの比熱容量に相応している。
【0011】
熱貯蔵のためには、高い融解熱を有するPCM材料を使用するのが好ましい。そうすれば、相変化によって、すなわちPCMが固体から液体、液体から固体へと変化するときに、さらなるエネルギー貯蔵容量が得られる。PCMの温度がTiからTfまで上昇するとき、PCMに貯蔵される熱量Qは次の式(2)によって計算することができる。なお、PCMの融解温度TmはTiとTfの間にある。
【0012】

【0013】
ここで、mはまたPCMの質量であり、Cps(T)とCpl(T)は固体PCMと液体PCMそれぞれの比熱容量であり、ΔhはPCMの潜熱ないし融解熱である。
【0014】
公知の熱貯蔵システムに関する1つの問題は、長期(時)にわたって風力発電地帯で生産されたエネルギーを貯蔵する場合のような大規模エネルギー貯蔵の場合、公知の熱貯蔵システムの容量では不十分であることにある。公知の熱貯蔵システムをそのような目的のために十分な容量を有するシステムにまでスケールアップするコストは比較的高いので、経済的な理由から、スケールアップされたシステムは魅力的でなくなる。さらに、スケールアップされた熱貯蔵システムでは、貯蔵されたエネルギーを回収するのが困難であり、費用対効果も良くない。
【0015】
それゆえに、熱貯蔵能力が改善されたシステムおよび方法に対する需要が存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の課題は低いコストで熱貯蔵システムの容量を増大することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題は、エネルギーの吸収、一時貯蔵および放出を行うエネルギー伝達システムにおいて、当該エネルギー伝達システムが相変化材料を入れる第1の容器と、外部エネルギー源に接続可能であって前記相変化材料に熱エネルギーを充填する発熱エレメントと、外部熱機関に接続可能であって前記相変化材料から熱エネルギーを抽出する熱抽出エレメントとを有するように構成し、前記発熱エレメントでは前記外部エネルギー源により供給されるエネルギーが使用され、前記外部熱機関が抽出された熱エネルギーを電気エネルギーに変換するようにすることにより解決される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1の実施形態に従ったエネルギー貯蔵伝達システムの主要な構成要素を示す。
【図2】本発明の第2の実施形態に従ったエネルギー貯蔵伝達システムの主要な構成要素を示す。
【図3】本発明の第3の実施形態に従ったエネルギー貯蔵伝達システムの主要な構成要素を示す。
【図4】図3のエネルギー貯蔵伝達システムの熱絶縁材に組み込まれた誘導コイルを示す。
【図5】本発明の第4の実施形態に従ったエネルギー貯蔵伝達システムに接続された蒸気発電プラントを示す。
【図6】PCMが固体から液体そしてまた固体へ、または液体から固体へと相変化を被るときに、どのくらいの熱がPCMによって吸収または放出されるのかを示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の第1の側面では、エネルギーの吸収、一時貯蔵および放出を行うエネルギー伝達システムが提供される。このエネルギー伝達システムは、(a)相変化材料を収容する第1の容器、(b)外部エネルギー源に接続可能で、相変化材料に熱エネルギーを充填することのできる発熱エレメント、および(c)外部熱機関に接続可能で、相変化材料から熱エネルギーを抽出することのできる熱抽出エレメントを含んでいる。なお、発熱エレメントでは外部エネルギー源から供給されるエネルギーが使用され、外部熱機関は抽出された熱エネルギーを電気エネルギーに変換するものである。
【0020】
上記エネルギー伝達システムは、外部エネルギー源から供給されたエネルギーが相変化材料(PCM)内に熱エネルギーの形態で一時的に貯蔵できることに基づいている。後の時点で電気エネルギーへの需要があれば、貯蔵された熱エネルギーの少なくとも幾分かが外部熱機関へ放出される。
【0021】
上記エネルギー伝達システムによれば、余剰エネルギーを用いて、とりわけ、電気需要が低いときに例えば1つもしくは複数の風力タービンおよび/または1つもしくは複数の太陽発電プラントによって生産された余剰電気エネルギーを用いてPCMに熱エネルギーを充填することで、余剰電気を熱エネルギーまたは熱として貯蔵することができる。さらに、上記エネルギー伝達システムによれば、電力生産に使用するために、貯蔵されたエネルギーを外部熱機関へ放出および伝達することができる。適切な外部熱機関としては、例えば蒸気タービンが挙げられる。PCMから外部熱機関へ熱エネルギーを供給するステップは、PCMからの熱エネルギーの供給または放出と見なすことができる。
【0022】
熱エネルギーは単相エネルギー貯蔵プロセスでは温度変化によってしか貯蔵することができない。これは温度変化の範囲がPCMの融点を含んでいないということを意味する。熱エネルギーは代替的に2相エネルギー貯蔵プロセスで貯蔵することもできる。この場合、エネルギーは1つまたは2つの上記単相エネルギー貯蔵プロセスの他にさらに潜在エネルギー貯蔵プロセスにおいても貯蔵される。これは相応する温度変化の範囲がPCMの融点を含んでいるということを意味する。いずれのエネルギー貯蔵プロセスを用いるのが好ましいのかは、具体的な使用場面と、特に貯蔵目的で上記エネルギー伝達システムに入力されるエネルギー量とに依る。
【0023】
原理的には3相エネルギー貯蔵プロセスも可能である。これは温度変化の範囲がPCMの融点とPCMの沸点の両方を含んでいることを意味する。
【0024】
好ましくは、外部エネルギー源が電気エネルギーを供給し、発熱エレメントがこの電気エネルギーを熱エネルギーに変換する。
【0025】
さらに、PCMへの熱エネルギーの充填がPCMの温度上昇をもたらさないことも可能である。これはエネルギー吸収が始まった時点で既にPCMが相変化の起こる温度を有している場合である。この場合、充填された熱エネルギーはPCMの少なくとも一部の相変化にしか使用されない。
【0026】
機械的に安定したエネルギー伝達システムを得るためには、もちろん第1の容器はどのような熱貯蔵サイクルの最高温度におけるPCMよりも高い融解温度を有する材料から作られなければならない。
【0027】
また、熱エネルギーを効率的にPCMに挿入するために、2つまたはそれより多くの発熱エレメントを使用してもよい。同じことは効率的な熱抽出についても言える。熱抽出は2つまたはそれより多くの熱抽出エレメントを用いて行ってよい。
【0028】
本発明の1つの実施形態によれば、相変化材料は金属、特にアルミニウムを含む。その結果、有利なことにPCMは比較的高い融点を持つ。具体的には、アルミニウムはおよそ660℃の融点と比較的高い潜熱係数を有する。したがって、アルミニウムは上記エネルギー伝達システムの材料に適している。さらに、融点の高さのおかげで、適切な容器と絶縁材料、ならびに融点付近の温度範囲内で最適に動作する発熱エレメントおよび熱抽出エレメントを実現し、余剰ポテンシャルを潜在エネルギーの貯蔵に利用することができる。
【0029】
もちろん、上記エネルギー伝達システムのPCMとして使用するのに適した他の材料も存在している。具体的には、200〜800℃の融点を有するPCMが上記エネルギー伝達システムのPCMの良い候補である。
【0030】
本発明の別の実施形態によれば、第1の容器は少なくと部分的に鉄合金から作られている。鉄合金を使用することで、有利には、比較的低い融点のPCMを安全に入れるのに適した機械的特性が第1の容器に与えられる。上記のPCMは例えば鉄よりも融点の低いアルミニウムであってよい。
【0031】
本発明の別の実施形態によれば、発熱エレメントはインダクタを含んでいる。これは発熱エレメントが例えばコイルや少なくともコイルの一部のようなインダクタ素子であるか、このようなインダクタ素子を含んでいることを意味する。
【0032】
誘導加熱は導電性材料を電磁誘導によって熱するプロセスである。これにより、導電性または金属性材料の内部に渦電流が発生し、材料のオーム性抵抗が材料の加熱をもたらす。PCMに熱エネルギーを入れるために誘導加熱を使用することは可用性の高い非常に効率的なプロセスである。一般に、発熱エレメントのインダクタは電気エネルギーで駆動される。
【0033】
本発明の別の実施形態によれば、エネルギー伝達システムはさらに、(a)少なくとも部分的に第1の容器を包囲する第2の容器と、(b)第1の容器と第2の容器の間に配置された熱絶縁材を含んでいる。
【0034】
これにより、有利には、第1の容器ないしPCMと上記エネルギー伝達システムの周囲環境との間に良好な熱絶縁が実現できる。その際、いったん貯蔵のためにPCMにエネルギーが供給されると、熱絶縁材のおかげで、PCMに熱エネルギーを貯蔵する間エネルギーは徐々にしか周囲環境へ失われない。
【0035】
本発明の別の実施形態によれば、熱絶縁材は複合セラミックス材料を含む。これにより、有利には、PCMに貯蔵された熱エネルギーは周囲環境に放出されず、絶縁材は上記エネルギー伝達システムの適切なPCMの温度範囲内で使用される材料に適した材料特性を有する。
【0036】
上記の複合セラミックス材料は例えばセラミックス材料の2つの層の間に配置される気泡セラミックス材料であってよい。なお、気泡部分のセラミックス材料は層のセラミックス材料と同じでもよいし、異なっていてもよい。
【0037】
本発明の別の実施形態によれば、発熱エレメントの少なくとも発熱部分は物理的に相変化材料と接触している。このため、有利には、熱エネルギーをPCMに挿入する前に余分な熱分配中間媒体を暖める必要がない。したがって、余分な熱分配中間媒体へのエネルギー損失を事実上防ぐことができ、発熱部分によって発生させられた熱のすべてがPCMに伝達される。好ましくは、発熱エレメント全体がPCMと物理的に接触している。
【0038】
発熱部分とPCMとが物理的に接触しているため、熱エネルギーをPCMに挿入するに当たって、公知の信頼できる技術を用いることができる。熱エネルギーの挿入は例えば発熱抵抗器や電気抵抗ヒータを用いて行うことができる。
【0039】
本発明の別の実施形態によれば、熱抽出エレメントの少なくとも抽出部分は物理的に相変化材料と接触している。PCMと熱抽出エレメントが直接物理的に接触しているため、有利には、放出されたエネルギーを利用のために外部熱機関へとさらに分配する手段にPCMから放出された熱エネルギーを伝達するプロセスにおいて、実質的にまったく損失が生じない。
【0040】
本発明の別の実施形態によれば、熱抽出エレメントは外部熱機関の気液ループである。なお、外部熱機関は電力生産システムの一部である。電力生産システムは蒸気タービンであってよい。蒸気タービンは発電に用いることができる。
【0041】
熱抽出エレメントを気液ループとして実現することにより、上記エネルギー伝達システムは電力生産システムと密に結合する。これにより、放出された熱エネルギーの利用は高い利用率を持つように最適化される。さらに、放出された熱エネルギーは公知の技術で利用することもできる。
【0042】
好ましくは、蒸気タービンの動作媒体は水である。この場合、気液ループは気水ループと呼ばれる。
【0043】
本発明の別の実施形態によれば、電力生産システムは気水ループ内の流体の流れを制御する制御機構を含んでいる。
【0044】
この制御機構により、PCMから放出され、ループ内を移動する流体を介して外部熱機関に伝達される熱エネルギーの量が制御できる。外部熱機関において流体は電力生産システムの駆動および/または電力生産システムの非常に高温な構成要素の冷却に使用することができる。
【0045】
流体は特に、気水ループ内を流れる蒸気および/または液体、特に水であってよい。
【0046】
本発明の別の実施形態によれば、外部エネルギー源により供給されるエネルギーは電気エネルギーであり、エネルギー伝達システムはさらに、外部エネルギー源により供給される電気エネルギーに関する電圧および/または電流の周波数を制御する周波数コントローラを含む。
【0047】
つまり、上記エネルギー伝達システムは外部エネルギー源から電気エネルギーを受け取ることができる。そのため、余剰電気を熱エネルギーとして貯蔵するためにPCMに熱エネルギーを充填するに当たって、需要が低いときに例えば風力タービンや太陽発電プラントによって生産された余剰電気を非常に簡単に利用することができる。さらに、発熱エレメントに印加される電気エネルギーの周波数を制御することにより、PCMの最適な加熱ないし熱エネルギー充填が達成される。
【0048】
発熱エレメントが上で述べたインダクタを含んでいれば、つまり、発熱エレメントが誘導発熱エレメントであるならば、熱の深さおよび効果は印加される電力の周波数に依存し、熱エネルギーの最適な挿入を実現するために相応に調節が可能である。
【0049】
本発明の別の側面では、エネルギーの吸収、一時的な貯蔵および放出を行うエネルギー伝達設備が提供される。このエネルギー伝達設備は(a)上で述べた通りの第1のエネルギー伝達システムと(b)上で述べた通りの第2のエネルギー伝達システムを含む。第1のエネルギー伝達システムと第2のエネルギー伝達システムは互いに並列に配置される。
【0050】
上記エネルギー伝達設備の基礎をなす考えは、上記のようなエネルギー伝達システムを2つ以上相互に接続することで、エネルギー貯蔵とエネルギー伝達の連結したシステムを提供することができるというものである。上記のエネルギー伝達システムを2つ以上連結することにより、主要なエネルギー貯蔵伝達システムを特定のタスクと要求に合わせることができる。例えば特定の主要エネルギー貯蔵伝達システムが上記エネルギー伝達システムのうちの1つを超す容量を有することが必要ならば、これらのシステムを2つ以上連結して連結された主要システムの総容量を高めることができる。
【0051】
2つのエネルギー伝達システムを並列に配置するというのは、構造的または幾何学的に並列に配置するという意味ではなく、機能的に並列に配置するということである。つまり、2つのエネルギー伝達システムは外部エネルギー源に直接接続可能であり、また2つのエネルギー伝達システムは外部熱機関に直接接続可能である。
【0052】
本発明の1つの実施形態によれば、(a)第1のエネルギー伝達システムの発熱エレメントと第2のエネルギー伝達システムの発熱エレメントは相互に接続されており、さらには外部エネルギー源に接続可能であり、および/または(b)第1のエネルギー伝達システムの熱抽出エレメントと第2のエネルギー伝達システムの熱抽出エレメントは相互に接続されており、さらには外部熱機関に接続可能である。
【0053】
発熱エレメントに関しては、個々の発熱エレメントは、例えば外部エネルギー源から供給されるエネルギーを種々の発熱エレメントに等しく分配する並列接続で、外部源に接続することができる。熱抽出エレメントに関しては、個々の熱抽出エレメントは例えば並列接続で外部源に接続することができる。
【0054】
本発明の別の側面では、エネルギーの吸収、一時的な貯蔵および放出のための方法が提供される。この方法は、(a)発熱エレメントによって相変化材料に熱エネルギーを充填し、(b)熱エネルギーを相変化材料の中に一時的に貯蔵し、(c)外部熱機関に接続された熱抽出エレメントによって相変化材料から熱エネルギーを抽出し、(d)抽出された熱エネルギーを外部熱機関に伝達し、(e)伝達された熱エネルギーを外部熱機関によって電気エネルギーに変換することから成る。なお、相変化材料は第1の容器の中に入っており、発熱エレメントは外部エネルギー源に接続されており、外部エネルギー源からエネルギーを受け取る。
【0055】
また上記の方法は、余剰エネルギーはある一定の時間にわたって貯蔵することができ、エネルギー需要がより高いときに取り出して伝達し、変換することができるという考えに基づいている。言い換えれば、PCMを加熱するまたはPCMに熱エネルギーを充填するステップ(a)と、PCMから熱エネルギーを抽出するステップ(b)は、異なる時点に実行されるということである。
【0056】
さらに、上記の方法はPCMの部分的な相変化しか起きないという条件のもとでも実行することができる。部分的な相変化とは、PCMに熱エネルギーを充填したときおよび/またはPCMを加熱したときにPCMが完全には融解しないということを意味している。したがって、PCMからエネルギーを抽出する際、PCM全体が固化しているわけではない。
【0057】
PCMから抽出された熱エネルギーはさらに住居および/または工場の暖房および冷房のような単純な直接加熱プロセスに使用してもよい。
【0058】
これまで種々の課題に関連して本発明の実施形態を説明してきた。特に、いくつかの実施形態については装置に関する請求項を参照して説明したが、他の実施形態については方法に関する請求項を参照して説明した。しかし、当業者であれば、以上の記載と以下の記載とから、特に断りがなければ、1つの課題に属する特徴の任意の組合せに加えて、異なる課題に関連する特徴の任意の組合せも、特に装置に関する請求項に記載の特徴と方法に関する請求項に記載の特徴の任意の組合せも、本明細書に開示されているものと見なせることが分かるはずである。
【0059】
本発明の上で述べた側面および更に別の側面は以下に示す実施例から明らかであり、これら実施例を参照して説明される。以下では実施例を参照して本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【実施例】
【0060】
図示された例は概略である。複数の図において、類似または同一の構成要素には同じ参照番号を付してある。簡単のために、以前の図を参照して既に説明された同一の構成要素は後の図に含まれていても再度説明しない。
【0061】
図1には、本発明の第1の実施形態に従ったエネルギー貯蔵伝達システム100の主要な構成要素が示されている。PCM115を入れた第1の容器110は第2の容器120によって包囲されている。2つの容器110,120は少なくとも部分的に熱絶縁材125により互いから絶縁されている。
【0062】
少なくとも1つの発熱エレメント130が外部エネルギー170からエネルギーを受け取る。発熱エレメント130が受け取ったエネルギーはPCM115の加熱に使われる。ここで説明する実施形態によれば、供給されるエネルギーは電気エネルギーであり、この電気エネルギーが発熱エレメント130によって熱エネルギーに変換される。さらに、少なくとも1つの熱抽出エレメント140が外部熱機関180に熱エネルギーを供給する。供給されたこの熱エネルギーは電気の生産に使われる。
【0063】
図1に示されている実施例から、発熱エレメント130はPCM115と直接物理的に接続されていることが分かる。このため、例えば、発熱エレメント130が伝熱ヒータ、例えば抵抗加熱エレメントの形態の伝熱ヒータである場合およびPCM115が適切な熱伝導性を有する材料を含むまたはこのような材料である場合に、発熱エレメント130からPCM115への効率的な熱伝達が可能である。
【0064】
抵抗加熱エレメントには、ACまたはDC電圧(およびもちろん相応するACまたはDC電流)としてエネルギーが供給される。
【0065】
図2には、本発明の第2の実施形態に従ったエネルギー貯蔵伝達システム200の主要な構成要素が示されている。図2から、発熱エレメント130はPCM115と直接物理的に接続されていないことが分かる。これは、エレメント130が少なくとも1つの誘導加熱エレメントを含んでいる場合に、PCM115に熱を伝達する効率的な方法である。この場合、エネルギーは好ましくはAC電圧として発熱エレメント130に供給される。その際、ACの周波数は電力系統の周波数としてよい。使用される周波数を適合させるために、周波数コントローラ235が設けられている。この周波数コントローラ235を用いれば、AC電圧の周波数は電力系統の周波数以外の周波数にスケーリングすることが可能である。さまざまな実施形態のために、動作中に周波数を交替させてもよい。
【0066】
本発明のさらに別の実施形態では、発熱エレメント130は電力系統に直接接続されていてよい。この場合、電力系統上の余剰エネルギーをシステム200に供給することができる。
【0067】
発熱エレメント130は複数の下位エレメントに分割されていてもよい。また、発熱エレメント130および/または相応する下位エレメントは例えば銅からなる1つまたは複数の誘導コイルとしてよい。
【0068】
さらには、発熱エレメント130が、例えば空気を通したり、冷却水のような冷却流体を当てることにより、能動的に冷却されるようにしてもよい。
【0069】
図3には、本発明の第3の実施形態に従ったエネルギー貯蔵伝達システムの主要な構成要素が示されている。図3から分かるように、PCM115から熱エネルギーを抽出するために使用される少なくとも1つの熱抽出エレメント140は、PCM115と直接物理的に接触しないように配置することができる。
【0070】
図4には誘導コイル432が示されている。この誘導コイル432は、例えば図3に示されているエネルギー貯蔵伝達システム300の熱絶縁材125に組み込まれる。誘導コイル432の巻線は加熱されるPCM115に直接物理的に接触しておらず、耐熱材412によって隔てられている。
【0071】
図5には、本発明の第4の実施形態に従ったエネルギー貯蔵伝達システム500に接続された蒸気発電プラントが示されている。図5から分かるように、少なくとも1つの熱抽出エレメント140はPCM115に接続されており、外部熱機関にエネルギーを供給する。なお、外部熱機関は上記実施形態によれば蒸気タービン580である。
【0072】
蒸気タービン580は電気の生産に使用される。熱抽出エレメント140に水が供給され、PCM115により加熱される。PCM115の温度が水の沸点よりも高くなると、蒸気が発生し、蒸気タービン580に供給される。蒸気は蒸気タービン580に入って膨張し、羽根を押す。これにより発電機582の発電機軸が回転し、電流が生成される。蒸気は蒸気タービン580を通過した後、復水器585によって水に変換される。この水は図示されていないポンプによって冷水として熱伝達エレメント140に戻され、上記の熱力学的サイクルが繰り返される。
【0073】
発生した電流ないし発生した電力は電力系統590に供給される。
【0074】
上記において説明した本発明の実施形態を要約すると、以下のようになる:本明細書中に開示されているシステムおよび方法は、外部源からのエネルギーを相変化材料(PCM)に貯蔵し、貯蔵されたエネルギーの少なくとも一部を外部熱機関に放出することに関している。PCMの温度変化の範囲がPCMの融点を含んでいない顕在エネルギー貯蔵プロセスの場合、エネルギーは温度変化によってしか貯蔵することができない。代替的および/または付加的に、PCMの温度変化の範囲がPCMの融点を含んでいる潜在エネルギー貯蔵プロセスでエネルギーを貯蔵してもよい。いずれのエネルギー貯蔵プロセスを用いるのが好ましいのかは、貯蔵目的でシステムに入力されるエネルギー量に依る。いったん貯蔵のためにPCMにエネルギーを供給した後は、PCMを少なくとも部分的に包囲している熱絶縁材のおかげで、貯蔵期間中、限られたエネルギーしか周囲環境に放出されない。PCMは融解熱の高い物質であるため、PCMが相変化したときに吸収または放出される熱を利用してエネルギーを貯蔵および放出することができる。一般に、エネルギー貯蔵は固体固体間、固体液体間、固体気体間および液体気体間の相変化のいずれかを通して達成される。しかし実際には、固体から液体および液体から固体への変化が現在は好まれている。エネルギー貯蔵プロセス中、PCMは初め顕熱貯蔵材として振る舞う、つまり、PCMの温度は熱を吸収するにつれて上昇する。温度がPCMの融点に達すると、PCMは完全に液体になるまで実質的に一定の温度で大量の熱を吸収する。エネルギーの放出はPCMが固化する逆プロセスによって為される。PCMとしてどの材料を使用するのが好ましいかは、具体的なタスクと材料の特性、例えば(a)融点が所望の動作範囲内にあること、(b)融解潜熱が高いこと、(c)伝導性が高いこと、(d)相転移の際の体積変化速度、(e)化学的安定性および/または(f)価格に依る。PCMは有機でも無機でもよい。本発明の様々な実施形態において、PCMはシリコン(Si)または好ましくはアルミニウム(Al)である。
【0075】
本明細書中、"〜を含む"なる語はそれ以外の要素を有することを排除せず、"1つの"なる語は当該の要素が複数個設けられることを排除しない。異なる実施形態に関して説明した要素を組み合わせてもよい。また、請求項中の参照記号は特許請求の範囲を限定するものではないことに留意すべきである。
【符号の説明】
【0076】
100,200,300,500 エネルギー伝達システム
110 第1の容器
115 相変化材料
120 第2の容器
125 熱絶縁材
130 発熱エレメント
140 熱抽出エレメント
170 外部エネルギー源
180 外部熱機関
235 周波数コントローラ
412 耐熱材
432 誘導コイル
580 蒸気タービン
582 発電機
585 復水器
590 電力系統

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エネルギーの吸収、一時貯蔵および放出を行うエネルギー伝達システムにおいて、当該エネルギー伝達システム(100,200,300,500)が
・相変化材料(115)を入れる第1の容器(110)と、
・外部エネルギー源(170)に接続可能であって前記相変化材料(115)に熱エネルギーを充填する発熱エレメント(130)と、
・外部熱機関(180)に接続可能であって前記相変化材料(115)から熱エネルギーを抽出する熱抽出エレメント(140)と
を有しており、
前記発熱エレメント(130)では前記外部エネルギー源(170)により供給されるエネルギーが使用され、前記外部熱機関(180)は抽出された熱エネルギーを電気エネルギーに変換する、ことを特徴とするエネルギー伝達システム。
【請求項2】
前記相変化材料(115)は金属、特にアルミニウムを含んでいる、請求項1記載のエネルギー伝達システム。
【請求項3】
前記第1の容器(110)は少なくとも部分的に鉄合金からできている、請求項1または2記載のエネルギー伝達システム。
【請求項4】
前記発熱エレメント(130)はインダクタ(432)を含んでいる、請求項1から3のいずれか1項記載のエネルギー伝達システム。
【請求項5】
前記第1の容器(110)を少なくとも部分的に包囲する第2の容器(120)と、
前記第1の容器(110)と前記第2の容器(120)の間に配置された熱絶縁材(125)と
をさらに有する、請求項1から4のいずれか1項記載のエネルギー伝達システム。
【請求項6】
前記熱絶縁材(125)は複合セラミックス材料を含んでいる、請求項1から5のいずれか1項記載のエネルギー伝達システム。
【請求項7】
前記発熱エレメント(130)の少なくとも加熱部分が前記相変化材料(115)と物理的に接触している、請求項1から6のいずれか1項記載のエネルギー伝達システム。
【請求項8】
前記熱抽出エレメント(140)の少なくとも熱抽出部分が前記相変化材料(115)と物理的に接触している、請求項1から7のいずれか1項記載のエネルギー伝達システム。
【請求項9】
前記熱抽出エレメントは前記外部熱機関(180)の気液ループ(140)であり、前記外部熱機関(180)は電力生産システムの一部である、請求項1から8のいずれか1項記載のエネルギー伝達システム。
【請求項10】
前記電力生産システムは前記気液ループ(140)内の流体の流れを制御する制御機構を含んでいる、請求項9記載のエネルギー伝達システム。
【請求項11】
前記外部エネルギー源(170)により供給されるエネルギーは電気エネルギーであり、前記エネルギー伝達システムはさらに、前記外部エネルギー源(170)により供給される電気エネルギーに関連した電圧および/または電流の周波数を制御する周波数コントローラ(235)を含んでいる、請求項1から10のいずれか1項記載のエネルギー伝達システム。
【請求項12】
エネルギーの吸収、一時貯蔵および放出を行うエネルギー伝達設備において、
当該エネルギー伝達設備が
・請求項1から11のいずれか1項記載の第1のエネルギー伝達システム(100,200,300,500)と、
・請求項1から11のいずれか1項記載の第2のエネルギー伝達システム(100,200,300,500)と
を含んでおり
前記第1のエネルギー伝達システム(100,200,300,500)と前記第2のエネルギー伝達システム(100,200,300,500)が互いに並列に配置されている、
ことを特徴とするエネルギー伝達設備。
【請求項13】
前記第1のエネルギー伝達システム(100,200,300,500)の発熱エレメント(130)と前記第2のエネルギー伝達システム(100,200,300,500)の発熱エレメント(130)が互いに接続されていて、かつ外部エネルギー源(170)に接続可能である、かつ/または、前記第1のエネルギー伝達システム(100,200,300,500)の熱抽出エレメント(140)と前記第2のエネルギー伝達システム(100,200,300,500)の熱抽出エレメント(140)が互いに接続されていて、かつ外部熱機関(180)に接続可能である、請求項12記載のエネルギー伝達設備。
【請求項14】
エネルギーを吸収し、一時的に貯蔵し、放出するための方法において、
・相変化材料(115)に熱エネルギーを充填するステップと、
・前記熱エネルギーを前記相変化材料(115)に一時的に貯蔵するステップと、
・外部熱機関(180)に接続された熱抽出エレメント(140)により前記相変化材料(115)から熱エネルギーを抽出するステップと、
・抽出した熱エネルギーを前記外部熱機関(180)に伝達するステップと、
・伝達された熱エネルギーを前記外部熱機関(180)により電気エネルギーに変換するステップと
を有しており、
相変化材料に熱エネルギーを充填する前記ステップにおいて、前記相変化材料(115)は第1の容器(110)の中に入っており、熱エネルギーは発熱エレメント(130)によって前記相変化材料(115)に挿入され、前記発熱エレメント(130)は外部エネルギー源(170)に接続されており、当該外部エネルギー源(170)からエネルギーを受け取る、ことを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−193720(P2011−193720A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−54575(P2011−54575)
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【出願人】(390039413)シーメンス アクチエンゲゼルシヤフト (2,104)
【氏名又は名称原語表記】Siemens Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】Wittelsbacherplatz 2, D−80333 Muenchen, Germany