真偽判別可能な情報担持体
【課題】光源との角度に応じて観察される画像が変化する、意匠性の高い、真偽判別性に優れた情報担持体を提供する。
【解決手段】白色用紙等の基材上に、基材と異なる色を有し、かつ、カラーフリップフロップ性を備えた着色パールインキによる盛り上がりのある画線等によって第1の画像を形成し、第1の画像上に、下地の色を視認し得る透明ニスによって第2の画像を重ね合わせることで、拡散反射光領域の観察では、着色による第1の画像が視認され、正反射光領域の観察ではパール顔料の干渉色背景部と、透明ニス印刷部分から下地の着色が視認される画像部から成る第2の画像が視認される情報担持体を提供する。
【解決手段】白色用紙等の基材上に、基材と異なる色を有し、かつ、カラーフリップフロップ性を備えた着色パールインキによる盛り上がりのある画線等によって第1の画像を形成し、第1の画像上に、下地の色を視認し得る透明ニスによって第2の画像を重ね合わせることで、拡散反射光領域の観察では、着色による第1の画像が視認され、正反射光領域の観察ではパール顔料の干渉色背景部と、透明ニス印刷部分から下地の着色が視認される画像部から成る第2の画像が視認される情報担持体を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、観察角度によって視認画像が変化する効果を付与した情報担持体であり、特に、偽造防止効果を必要とするセキュリティ製品である銀行券、パスポート、有価証券、身分証明書、カード、通行券等の貴重印刷物の分野における偽造防止用又は真偽判別用の情報担持体にかかわるものである。
【背景技術】
【0002】
近年、セキュリティを要する貴重印刷物等には、新しい意匠性を持ち、偽造防止効果の高い偽造防止要素及び印刷技術が望まれている。このため、観察角度によって画像が変化するホログラム等の光学的なセキュリティ要素を貼付したものが多く存在するようになった。
【0003】
前述のような光学的な変化を示す偽造防止印刷物は、一般的に高価で特殊な装置及び材料を必要とするため、付加的な製造工程が必要になり、コスト的にも負荷が高くなるといった問題があった。
【0004】
そこで、本出願人は、以上のような問題点を解決するために、一般的で、かつ、比較的安価な材料及び簡単な印刷手段を使用し、特定の観察角度において、人の目に認識される情報が、観察角度を変化させることによって、全く別の情報に変化する偽造防止用情報担持体に係る発明を出願している(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
この特許文献1による偽造防止用情報担持体は、汎用の安価なアルミニウム粉末又は真鍮粉末を成分とした市販の銀色又は金色インキを用いて、一般的な印刷手段により、ホログラム的な効果を呈するセキュリティ画像を直接的に印刷物の基材に付与する構成を特徴とし、コストパフォーマンスに優れ、かつ、機械的な流通強度が優れた偽造防止及び真偽判別用印刷物である。
【0006】
この特許文献1で開示された偽造防止用情報担持体は、一つ目の効果として、基材上に適切な面積の疎密差を持つ二つの光輝性材料層により第1の画像が形成されているとき、拡散光が支配的な観察領域においては、二つの光輝性材料層の両者から観察者の目に到達する反射光量が互いに小さくなるため、第1の画像を容易に認識することが可能になる。一方、正反射光が支配的な観察角度領域では、二つの光輝性材料層の両者から観察者の目に到達する反射光量が共に極端に大きくなるため、第1の画像を視認することが難しくなる。
【0007】
さらに、特許文献1で開示された偽造防止用情報担持体は、二つ目の効果として、前述した面積率の極めて密な光輝性材料層に形成された第1の画像と、その光輝性材料に比較して可視光吸収性の高い色材料を用いて形成された面積率の極めて疎な色材料層を重ねた層による第2の画像は、拡散光が支配的な観察角度領域において、観察者の目に到達する反射光量が互いに小さくなるため、構成成分は異なっているにもかかわらず、二つの層からの色調及び明るさの差を視認することが難しく、同じ程度の刺激として人の目に観察されるため第2の画像は視認できない。
【0008】
一方、正反射光が支配的な観察角度領域では、光輝性材料のみの層から観察者の目に到達する反射光量は極端に大きくなるのに対して、可視光吸収性の高い色材料を光輝性材料層に重ねた層から観察者の目に到達する反射光量は相対的に小さくなるため、反射光量の差による色調差によって、第2の画像を容易に視認することが可能になる。
【0009】
また、本出願人は、平面配向性パール顔料を用いた盛り上がりのある画線を形成し、背景画像部とメッセージ画像部で画線角度を異なる構成とすることで、斜めから観察した場合にのみ、メッセージ画像部がポジからネガへ、又はネガからポジへと変化して出現する効果を有する真偽判別可能な印刷物にかかわる発明を出願している(例えば、特許文献2、特許文献3参照)。
【0010】
特許文献2及び特許文献3で開示された真偽判別可能な印刷物は、基材の表面に盛り上がりのある画線構造によって、背景画像とメッセージ画像が形成され、かつ、背景画像の画線パターンとメッセージ画像の画線パターンは異なる角度で形成されるために、拡散反射光が支配的な角度領域においては、メッセージ画像が肉眼にほとんど視認されず、拡散反射光から正反射光が支配的な角度領域に変化するに従って、盛り上がりを有する背景画像とメッセージ画像が入射光に対してそれぞれ異なった光の反射を成す構造となることから、メッセージ画像がネガ画像又はポジ画像として視認される効果を有する。
【0011】
また、特許文献4には、上質紙等の基材上にストライプ状のパール層を形成し、その上にパール層の拡散光が支配的な観察角度領域における視認色(紫色)と同系色の明度の高い刷色(グレー)による凹版印刷層の潜像画像を設け、拡散光が支配的な観察角度領域においては、パール層と凹版印刷層が同系色に観察されるため潜像が視認しづらいが、正反射光が支配的な観察角度領域においては、パール層が干渉色(金色)を放つため、干渉色を放たない凹版印刷層によるグレーの潜像画像が視認される潜像表示媒体が開示されている。
【0012】
【特許文献1】特許第3398758号公報
【特許文献2】特許第3718712号公報
【特許文献3】再公表特許W02003/013871号公報
【特許文献4】特開2003−182202
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1による発明は、二つの効果を重ね合わせることで、拡散光が支配的な観察角度領域においては第1の画像が視認でき、正反射光が支配的な観察角度領域においては第2の画像を確認できる偽造防止情報担持体を形成できるが、第1の画像を構成している光輝性材料層と、第2の画像を構成している色材料層を、同一ピッチで精密に刷り合わせる必要がある。したがって、第1の画像と第2の画像の刷り合わせを、常に適正な精度に管理しながら製造することが必要である。
【0014】
また、特許文献1記載の偽造防止情報担持体を形成するためには、第1の画像を構成する光輝性材料層と、第2の画像を構成している色材料層が、拡散光が支配的な観察角度領域において同色(近似色)に見えるような適切な面積の疎密差を見極めなければならない。それには、可視光吸収性の高い色材料の色彩の種類と面積率を何通りにも代えて印刷し、第1の画像から第2の画像へ最適なスイッチ性が得られるような、可視光吸収性の高い色材料の色彩と面積率を見極めるまでに、多大な労力を必要とする。
【0015】
また、最適な画像のスイッチ性を得るために、可視光吸収性の高い色材料による第2の画像の面積率は、15〜30%の特定の範囲で形成されなければならない。さらに、第1の画像の極めて密な光輝性材料層の上に規則性を合せて印刷することから、第2の画像は、観察環境によっては視認性が低下する場合があり、二つの画像の明瞭なスイッチ効果を得るには若干の問題があった。
【0016】
特許文献2記載の真偽判別可能な印刷物は、斜めから観察した場合にメッセージ部が光の入射角度に応じてネガ画像からポジ画像へ、又はポジ画像からネガ画像へと変化して出現するものの、真上から観察した場合には、メッセージ画像が認識できないだけでなく、メッセージ画像以外の有意画像を認識させることもできない。すなわち、二つの異なる画像をスイッチさせることは不可能であった。
【0017】
また、特許文献3記載の真偽判別可能な印刷物において、特許文献2の印刷物の構造を用いて、観察者にメッセージ画像と相関のない有意画像を視認させるためには、盛り上がりを有する画線を印刷する前に、あらかじめ低濃度のインキで第1の画像を形成しておく必要があった。また、前述の低濃度における第1の画像と、盛り上がりを有する画線によるメッセージ画像を鮮明にスイッチさせるために、メッセージ画像が視認される観察領域において第1の画像が消失しなければならず、そのためには、第1の画像は明度が高い(淡い)画像とする必要があり、第1の画像の視認性を低く抑える必要があった。
【0018】
また、特許文献4記載の潜像表示媒体は、拡散光が支配的な観察角度領域におけるパール層の色と凹版印刷層の色差が大きいと、潜像が視認されてしまうため、同系色にするための色調の調整が難しく、その効果も拡散光が支配的な観察角度領域においては画像を形成しておらず、正反射光が支配的な観察角度領域においてのみ、凹版印刷層で形成した潜像が視認されるため、二つの画像がスイッチすることもなくデザイン性に乏しい。凹版印刷層の画像部分では、下層のパール層の干渉色が透けないように、凹版印刷によって厚いマスク層を形成する必要があった。
【0019】
本発明は、人の目に認識される情報が、観察角度を変化させることによって、別の情報に変化するため、カラー複写機では再現不可能な情報担持体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の情報担持体は、基材上の一表面上の印刷画像領域全面に、基材と異なる色を有し、かつ、カラーフリップフロップ性を備えた材料を含む印刷用インキで、画像部と背景部の差が5%以上40%以下で形成された第1の画像と、第1の画像の表面上の少なくとも一部に透明性材料から形成された第2の印刷画像が重ね合せて形成されたことを特徴とする。
【0021】
本発明の第2の画像が、面積率100%のベタ画像又は面積率0%〜面積率100%の範囲内で階調表現された多階調画像であることを特徴とする情報担持体である。
【0022】
本発明の第1の画像を形成する印刷用インキに含まれるカラーフリップフロップ性を備えた材料が、二色性パール顔料、虹彩色パール顔料、鱗片状顔料、鱗片状マイカ顔料、鱗片状金属顔料、ガラスフレーク顔料又はコレステリック液晶顔料の少なくとも一つを含むことを特徴とする情報担持体である。
【0023】
本発明の第1の画像を形成する印刷用インキに含まれるカラーフリップフロップ性を備えた材料の配向性を向上させるために、顔料表面に撥水性及び撥油性を持たせる表面処理が施されていることを特徴とする情報担持体である。
【0024】
本発明の第1の画像を形成する印刷用インキに着色顔料を含むことで、拡散光領域の観察における第1の画像の視認性を向上させることを特徴とする情報担持体である。
【0025】
本発明の第1の画像が、印刷画像領域全面に35%〜80%の面積率の範囲で形成することを特徴とする情報担持体である。
【0026】
本発明の第1の画像が、盛り上がりのある画像要素で形成されており、盛り上がりのある画像要素の高さが、10μm〜150μmの範囲であることを特徴とする情報担持体である。
【0027】
本発明の第2の印刷画像を形成する透明性材料が、透明ニス、インキワニス、透明インキ又はメジウムインキのいずれかであることを特徴とする情報担持体である。
【0028】
本発明の第1の画像が、万線、波線、破線等の画線の大小、チェッカーフラッグ模様等の配列、円形網点、星型網点等の網点の大小又はこれら画像要素による面積率の差異で形成されていることを特徴とする情報担持体である。
【発明の効果】
【0029】
本発明は、以上の構成であることから次の効果が生じる。
本発明の情報担持体を可視光下で観察した場合、拡散反射光が支配的な観察角度領域では、画線の太細や画線の粗密による面積率の差異で形成された第1の画像が視認でき、正反射光が支配的な観察角度領域では、第1の画像上に透明な材料で重ねて形成された第2の画像が視認できる。
【0030】
本発明における情報担持体は、虹彩色パール顔料と着色顔料を混合したインキで印刷して画像を形成することから、正反射光が支配的な角度領域においてメタリックインキに特徴的な単なる明度変化のみでなく、虹彩色パール顔料の干渉による極めて大きな色相変化が生じ、インキ中の着色顔料の色と、パール顔料の干渉色との二つの色が観察角度の変化に応じて出現することから、潜像画像にも鮮やかな色相を付与することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明の実施形態について図面を用いて説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための最良の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他のいろいろな形態が実施可能である。
【0032】
図1は、本発明の情報担持体(1)を示す図であり、基材(2)である白色用紙上の枠内の印刷画像(3)に着色パールインキで印刷された図2に示すような第1の画像(4)が形成され、第1の画像(4)の上の印刷画像(3)内に透明性材料で印刷された図3に示すような第2の画像(5)が積層されて形成されており、観察する角度によって印刷画像(3)が変化する情報担持体(1)である。
【0033】
基材(2)は、白色用紙に限定するものではなく、上質紙、コート紙又はプラスチックカード等の印刷画像を担持できる平面を有していればよい。
【0034】
本明細書では、基材上の一定面積の印刷画像に、第1の画像(4)及び第2の画像(5)を形成する工程において、下地を被覆しうる割合を%で表した条件を面積率として説明する。
【0035】
図4は、第1の画像(4)とその部分拡大図であり、基材(2)である白色用紙上の印刷画像(3)に、表1に示す着色パールインキによって約10μmの高さで盛り上がりのある、一定ピッチ0.4mmの画線によってUV乾燥方式のスクリーン印刷で基材(2)上に形成されている。第1の画像(4)は、画像部(6)と背景部(7)から成り、画像部(6)は、画線幅0.3mmの太画線(面積率75%)で形成され、背景部(7)は、画線幅0.2mmの細画線(面積率50%)で形成され、画像部(6)と背景部(7)の間に面積率の差異を設けることで「鳳凰」画像(商標登録番号:3042101号)を形成している。
【0036】
【表1】
【0037】
表1に示す着色パールインキは、干渉色が金色の虹彩色パール顔料を含むパールインキに、黒色の着色顔料を微量加えて着色したパールインキである。着色パールインキは、基材と異なる色、例えば、黒色や他の濃い色を有する着色顔料をパールインキに加えることで、形成した画線が正反射した場合にパールの干渉色以外の色を吸収し、結果としてパールの干渉色をより強調させる効果があり、干渉色の視認性が高くなる。また、パール顔料のみを含有するインキで形成した画線が拡散反射した場合、パールの干渉効果が目視できないため、単にパール顔料そのものの色が視認されることとなる。そのため、基材の色とパール顔料の組み合わせによっては、画線の視認性が低くなることから、基材と異なる色の着色顔料を含有することで視認性を高めている。すなわち、この着色パールインキで形成された画線は、パールの干渉効果が目視できない拡散反射光が支配的な観察領域では「黒色」として視認され、正反射光が支配的な観察領域ではパールの干渉色である「金色」として視認される。
【0038】
図5は、情報担持体(1)と、光源(10)と、観察者の視点(11)の位置関係を示す図であり、例えば、本発明の情報担持体(1)の印刷表面に対し、45°から光が入射したときに、観察する視点の角度を−20°から80°まで変化させると、観察角度領域は、拡散光領域から正反射光領域となり、また、拡散光領域となる。そこで、一方の画像のみを特に顕著に視認できる二つの受光角度領域について、図4のA領域(受光角度−20°〜0°)を「拡散光領域」の観察、図4のB領域(受光角度40°〜50°)を「正反射光領域」の観察と定義する。
【0039】
前述の着色パールインキによる画線で形成された第1の画像(4)を拡散光領域で観察した場合、画像部(6)と背景部(7)の面積率の差が支配的となり、かつ、パール顔料による干渉は生じないため、黒色として視認され、「黒色の鳳凰」画像が視認される。
【0040】
正反射光領域で観察した場合、第1の画像(4)の画像部(6)と背景部(7)は、共にパールによる干渉が生じるため、図6に示すように第1の画像(4)が印刷された印刷画像(3)の領域全面が干渉色の金色となり、「金色の六角形」画像となる。
【0041】
第1の画像(4)を形成したのち、第1の画像(4)が印刷された印刷領域(3)内に、第2の画像(5)を、UV乾燥方式のウェットオフセット印刷で、低光沢な透明性材料(DIC製 OPニス マット)を用いて、透明性材料を用いて面積率100%のベタ画像で形成する。この第2の画像(5)を形成する透明性材料は、この透明ニスに限定されるものではなく、インキワニス、透明インキ又はメジウムインキ等の下地が視認できるインキであればよく、発光材料、赤外線吸収材料及び磁性材料等の機能性材料を含むことも可能である。
【0042】
第2の画像(5)は、透明な材料で形成されているため、情報担持体(1)を拡散光領域で観察した場合には、図7(a)に示すように第2の画像(5)は視認されずに、その下に印刷された第1の画像(4)の「黒色の鳳凰」画像が視認される。
【0043】
しかし、情報担持体(1)を正反射光領域で観察した場合には、透明性材料による第2の画像の画像部(8)は、パール顔料の干渉効果を上層の透明性材料が阻害してしまうために「黒色」に視認され、第2の画像の背景部(9)は透明性材料の印刷されない無地部であるため、パール顔料の干渉効果により「金色」に視認されることから、図7(b)に示す背景部(9)「金色」、画像部(8)「黒色」の「印字入り鳳凰」画像が視認される。
【0044】
すなわち、本発明は、観察する視点の角度を拡散光領域から正反射光領域へ変化させることによって、視認画像が図7(a)に示す「黒色の鳳凰」画像から、図7(b)に示す「背景金色の黒色印字入り鳳凰」画像に変換する情報担持体(1)を形成している。
【0045】
これは、本発明の情報担持体(1)の印刷画像(3)を、図8(a)に示す着色パールの太い画線のみで形成された画像要素1と、図8(b)に示す着色パールの細い画線のみで形成された画像要素2と、図8(c)に示す着色パールの太い画線の上に透明な材料が重なり合い、形成された画像要素3と、図8(d)に示す着色パールの細い画線の上に透明な材料が重なり合い、形成された画像要素4と、四つの画像領域に分割し、図5に示した拡散光領域を示す領域A及び正反射光領域を示す領域Bにおける画像要素1を基準値としたときの各画像要素の色差ΔEを示す図11により説明することができる。
【0046】
図9(a)、図9(b)、図10(c)、図10(d)は、それぞれ画像要素1、画像要素2、画像要素3、画像要素4と光源10の位置と測定装置の範囲を示した図である。画像要素1から画像要素4の各画像要素に対して45°の光源10から光を照射し、受光角度−20°から80°におけるL*a*b*を測定し、画像要素1を基準としたときの画像要素2、画像要素3、画像要素4の色差ΔEを比較したグラフが、図11の折れ線(12−2)、折れ線(12−3)、折れ線(12−4)である。測定装置は、変角分光測色システムGCMS−4型〔村上色彩技術研究所製〕を使用して測定した。
【0047】
(拡散光領域の観察)
図11の色差ΔEのグラフにおける受光角度−20°〜0°の拡散光領域においては、基準となる画像要素1に対して、画像要素2の折れ線12−2及び画像要素4の12−4の折れ線の色差ΔEが20程度と高く、画像要素1とは異なる色として視認されるのに対し、画像要素3の折れ線12−3の色差ΔEが2程度と低く、画像要素1と同程度に視認されているのがわかる。このことから、着色パールインキの太画線から成る画像要素1と、着色パールインキの太画線の上に透明ニスを積層した画像要素3は、第1の画像(3)の画像部(5)として同程度に視認され、着色パールインキの細画線から成る画像要素2と、着色パールインキの細画線の上に透明ニスを積層した画像要素4は画像要素1と同程度に色差ΔEが異なるため、第1の画像(3)の背景部(6)として視認されることがわかる。
【0048】
(正反射光領域の観察)
それに対し、図11の色差ΔEのグラフにおける受光角度40°〜50°の正反射光領域においては、基準となる画像要素1に対して、画像要素2の折れ線12−2の色差ΔEが20程度に対し、画像要素3の色差ΔEの折れ線12−3が70程度、画像要素4の色差ΔEの折れ線12−4が85程度と大きな値を示していることから、画像要素3及び画像要素4は、画像要素1とは大きく異なる色相として視認されるため、画像要素2は画像要素1に比較的近い色として視認される。このことから、正反射光領域の観察において、着色パールの太画線の上に透明ニスを積層した画像要素3と、着色パールの細画線の上に透明ニスを積層した画像要素4は、第2の画像の画像部(8)として視認され、着色パールインキの太画線から成る画像要素1と、着色パールの細画線から成る画像要素2は、第2の画像の背景部(9)として視認されることがわかる。
【0049】
すなわち、情報担持体(1)は、四つの画像要素によって図2及び図3に示すような二つの潜像画像が形成されており、具体的には、第1の画像(3)は、画像要素1と画像要素3から成る画像部(5)と、画像要素2と画像要素4から成る背景部(6)から構成され、拡散光領域の観察においては、画像要素1と画像要素3が画像部(5)として同程度に視認されるのに対し、画像要素2と画像要素4は、異なる色として視認されることから背景部(6)として視認される。一方、第2の画像(4)は、画像要素3と画像要素4から成る第2の画像(4)のベタ画像部と、画像要素1と画像要素2から成る第2の画像の無地背景部から構成されており、正反射光領域の観察においては、画像要素1と画像要素2が同程度に視認されるのに対し、画像要素3と画像要素4は異なる色として視認されることから、第2の画像として視認されるのである。よって、本発明の情報担持体(1)は、四つの画像要素の観察角度領域における視認性がそれぞれ異なるため、観察角度によって画像が変化するものである。
【0050】
第1の画像を形成する画線の面積率の差が適切でない場合、拡散反射が支配的な観察角度領域において、第1の画像(3)の情報部(5)と背景部(6)が目視上見分けが付かなくなったり、正反射が支配的な観察角度領域において第1の画像(3)が第2の画像(4)と混ざりあって出現することがある。第1の画像(3)と第2の画像(4)の明瞭なスイッチ効果を実現するためには、使用するインキに応じて第1の画像(3)を適切な面積率の範囲で、情報部と背景部で差異を設けて形成する必要がある。
【0051】
例えば、第1の画像(3)の画線幅が異なる三種類の印刷物を作製し、スイッチ効果の比較確認を行う。すべての印刷物において、画像部(6)の画線ピッチを0.4mm、画線幅を0.3mm(面積率75%)とし、背景部(5)の画線ピッチは、すべて0.4mmで、印刷物1の画線幅を0.15mm(面積率37.5%)、印刷物2の画線幅を0.20mm(面積率50%)、印刷物3の画線幅を0.25mm(面積率62.5%)と、三種類の印刷物を作製し、すべての印刷物の上に第2の画像(4)を透明な材料で形成して、視認性の確認を行った結果を表2に示す。表2は、第1の画像(3)の背景部(5)を構成する着色パールインキによる画線の幅を変えたときの第1の画像(3)及び第2の画像(4)の視認性の評価結果である。評価は、◎は極めて視認しやすい、○は視認しやすい、△は視認しにくい、×は視認できない、の四段階評価とした。
【0052】
【表2】
【0053】
各印刷物の視認性については、各印刷物の画像要素1を基準としたときの各画像要素の色差ΔEで説明することができる。印刷物1における画像要素1を基準値としたときの各画像要素における色差ΔEのグラフが図12、印刷物2における画像要素1を基準値としたときの各画像要素における色差ΔEのグラフは、本発明の最良の形態における情報担持体(1)と同じ図11、印刷物3における画像要素1を基準値としたときの各画像要素の色差ΔEのグラフが図13である。
【0054】
印刷物1は、印刷物2より背景部(6)の画線幅が細いため、図12のグラフの正反射光領域(図12のB領域)における折れ線(12−2′)が、印刷物2の正反射領域の(図11のB領域)の折れ線(12−2)に比べて高い値を示している。印刷物1は、正反射光領域において画像要素2の色と画像要素1の色との差異が広がり、画像要素1と同じ第2の画像の背景部として視認されにくくなっていることがわかる。
【0055】
また、印刷物3は、印刷物2より背景部(6)の画線幅が太いため、図13のグラフの拡散光領域(図13のA領域)における折れ線(12−2′′)の色差ΔEが4程度、折れ線(12−4′′)の色差ΔEが6程度であり、0に近い値、つまり基準となる画像要素1との色差が小さい結果となっている。印刷物3は、拡散光領域において、第1の画像の画像部(5)と背景部(6)の差を視認しづらくなっていることがわかる。
【0056】
また、スイッチ効果は、前述の条件の他に、パール顔料の配合割合やパール顔料の干渉色にも影響を受けるため、種類やパール顔料の配合の変更時には実施の形態で説明第1の画像に使用する着色顔料のした手順により、第1の画像の情報部(5)と背景部(6)の面積率の差異の条件を変えた印刷物を何通りか試作して、最適な条件を見い出す必要がある。
【0057】
使用するパール顔料については、二色性パール顔料、虹彩色パール顔料、鱗片状マイカ顔料、鱗片状金属顔料、ガラスフレーク顔料及びコレステリック液晶顔料等を用いても良い。パール顔料の粒子の大きさは、使用する印刷方式に応じて選択するものであるが、1〜50μmであって、5〜15μm程度の粒子がより好ましい。このように、いずれのパール顔料を用いても良いが、より鱗片状顔料の配向性(リーフィング効果)を向上させるためには、10μm〜150μmの盛り上がっている線画の表面で顔料が配向するような処理を施すことが望ましい。具体的には、例えば、特開2001−106937号公報に記載されたような撥水、撥油性処理等の表面処理を行うことで、印刷部の画線表面で顔料を配向させることができ、正反射光によるパールの干渉色をより鮮やかに出現させることが可能となる。
【0058】
また、本実施の形態においては、高い色彩変化の効果を引き出すために、比較的粒子径の大きなパール顔料を使用したことから、スクリーン印刷方式による盛り上がりのある画線で第1の画像を形成しているが、近年、粒子径の小さいパール顔料も開発されているため、画線に盛り上がりがなくても干渉光を出現させるインキであれば、本発明に画線の盛り上がりは必須ではない。よって、第1の画像を形成する印刷方式は、スクリーン印刷に限定されるものではなく、フレキソ印刷方式、グラビア印刷方式、凹版印刷方式及びオフセット印刷方式等でも実施可能である。また、第2の画像は、オフセット印刷方式に限定されるものではなく、フレキソ印刷方式、グラビア印刷方式、オフセット印刷方式及び凹版印刷方式等でも実施可能である。
【0059】
また、本実施の形態においては、着色顔料を含むパールインキを用いた実施の形態を説明したが、着色顔料を含まないパールインキを用いた場合、第1の画像の視認性は低くなるが、第2の画像における視認性は十分にあることから、前述の実施の形態に限定されることなく、特許請求の範囲記載の技術的範囲内であれば、適宜実施することが可能である。
【実施例】
【0060】
(実施例1)図14は、本発明の実施例1における情報担持体(1´)を示した図である。着色パールインキから成る第1の画像は、画像要素として、画線の太細ではなく、網点の大小を用いて形成し、第2の画像は、実施の形態同様に透明で低光沢な材料を用いて形成する例について説明する。
【0061】
図15に示した第1の画像と図16に示した第2の画像を用いて、図14に示す情報担持体(1´)を形成した。第1の画像の画像部(6´)と背景部(7´)は、所定の一定ピッチ0.50mmにおける円形の画素で形成されており、それぞれの円の直径が異なる。画像部(6´)を形成する円の直径は0.44mm(面積率61%)、背景部(7´)は直径0.40mm(面積率50%)で形成した。表3に示す着色パールインキを用いて一般的な上質紙である基材(2´)に第1の画像のスクリーン印刷を行った。
【0062】
【表3】
【0063】
基材(2´)上に第1の画像(4´)を形成した後、UV乾燥方式のウェットオフセット印刷で、透明な低光沢なスクリーンインキ(UV硬化型レイキュアーOP 十条ケミカル株式会社製)を用いて、図16に示した第2の画像(5´)を重ね合わせて形成した。 UV乾燥方式のウェットオフセット印刷で、低光沢な透明性材料(DIC製 OPニス マット)を用いて、透明性材料を用いて面積率100%のベタ画像で形成する。
【0064】
本実施例において、形成した情報担持体の目視上の効果について、図17(a)、図17(b)を用いて説明する。図17(a)は、拡散反射光が支配的な角度領域において本発明の情報担持体を観察した場合に、目視上、視認される画像であり、着色顔料が青色であることから、「青色の鳳凰画像」として第1の画像(4´)が認識される。図17(b)は、正反射光が支配的な観察角度領域において本発明の情報担持体を観察した場合に、目視上、視認される第2の画像(5´)であり、着色顔料が青色であり、パール顔料が金色であることから、「印字入り鳳凰」の画像部(8´)は「青色」で、その他の背景領域(9´)は「金色」で認識される。
【0065】
(実施例2)
図18は、本発明の実施例2における情報担持体(1´´)を示した図である。着色パールインキから成る第1の画像は、チェッカーフラッグ調の格子構造の一部に微細な画線を付与することで第1の画像の画像部を形成し、第2の画像は、実施の形態同様に透明な材料を用いて形成する例について図18から図21(b)までを用いて説明する。
【0066】
図19(a)に示す第1の画像(4´´)は、0.40mm×0.40mmのチェッカーフラッグ調の格子構造を成す背景画像(7´´)と、「研究所」という文字を表した画像部(6´´)とから形成されている。図19(b)は、図19(a)の枠線13´´部分の拡大図であり、0.40mm×0.40mmのチェッカーフラッグ調の格子構造(面積率50%)の格子空白部の一部に0.20mmの縦方向画線を追加(面積率75%)することで背景部(7´´)との面積率の差異を設け、画像部(6´´)を形成している。実施の形態で用いた表1に示す着色パールインキを用いて第1の画像のスクリーン印刷を基材(2´´)上に行った。
【0067】
図20に示す第2の画像(5´´)は、100%のベタで「NEXT」の文字画像を形成している。基材(2´´)上に第1の印刷画像(4´´)を形成した後、図20に示す第2の印刷画像(5´´)をUV乾燥方式のウェットオフセット印刷で、低光沢な透明性材料(DIC製 OPニス マット)を用いて、第1の印刷画像の領域内の上、中央に重ね合わせて図18に示す情報担持体を形成した。
【0068】
本実施例において、形成した情報担持体の目視上の効果について、図21(a)、図21(b)を用いて説明する。図21(a)は、拡散反射光が支配的な観察角度領域において本発明の情報担持体を観察した場合に、目視上視認される画像であり、着色顔料が黒色であることから、黒色の「研究所」画像として第1の画像(4´´)が認識される。図21(b)は、正反射光が支配的な観察角度領域で本発明の情報担持体を観察した場合に、目視上視認される第2の画像(5´´)であり、着色顔料が黒色で、パール顔料が金色であることから、画像部(8´´)は「黒色」で「NEXT」と視認され、その他の背景領域(9´´)は、「金色」で認識される。
【0069】
(実施例3)
図22は、本発明の実施例3における情報担持体(1´´´)を示した図である。第1の画像は、図23(a)に示す葛飾北斎の「凱風快晴(赤富士)」をモチーフとし、第2の画像は、図24に示す葛飾北斎の「神奈川県沖浪裏」の絵をモチーフとしている。第1の画像(4´´´)は、太さの異なる複数の画線を使い分けることで多階調画像を表現し、第2の画像(5´´´)は、0%〜100%の網点面積率を用いることで多階調画像を表現し、それぞれの階調表現が豊かな二つ画像を備えた情報担持体の例について説明する。
【0070】
一般的なコート紙である基材(2´´´)の上の全面に、表3に示した着色パールインキを用いて図23(a)に示した第1の画像(4´´´)をスクリーン印刷し、第1の画像(4´´´)の印刷領域上の全面に、図24に示した第2の画像(5´´´)を重ね合せて印刷し、図22に示す情報担持体(1´´´)を形成した。
【0071】
第1の画像(4´´´)の濃淡は、一定ピッチ0.4mmの画線幅の異なる四種類の画線で階調表現している。第1の画像(4´´´)の中で、富士山の雪や背景の雲を構成する最も淡い諧調を表現する画線の画線幅は、0.24mm(面積率60%)であり、空の諧調を構成するやや淡い諧調を表現する画線の画線幅は、0.28mm(面積率70%)であり、富士山中腹の山肌を構成するやや濃い諧調を表現する画線の画線幅は、0.30mm(面積率75%)であり、雲や富士山の輪郭、富士山裾野の森を表す最も濃い諧調を表現する画線の画線幅は、0.32mm(面積率80%)で形成している。図23(b)には、図23(a)の富士山山頂部の白抜き四角形部分を拡大したものであり、様々な画線幅の画線が入り混じっていることがわかる。
【0072】
図24に示す第2の画像(5´´´)は、網点面積率0%〜100%の多階調画像で表現した「神奈川県沖浪裏」の画像である。基材(2´´´)表面の全面に第1の画像(4´´´)を形成した後、図24に示す第2の画像(5´´´)をUV乾燥方式のウェットオフセット印刷で、透明な低光沢なオフセットインキ(DIC製 OPニス マット))を用いて、第1の画像(4´´´)の領域全域を被覆するように重ね合せて、図22に示す情報担持体(1´´´)を作製した。
【0073】
本実施例において、形成した情報担持体の目視上の効果について、図25(a)、図25(b)を用いて説明する。図25(a)及び図25(b)は、葛飾北斎の凱風快晴(赤富士)と同じく神奈川県沖浪裏の絵である。図25(a)は、拡散反射光が支配的な観察角度領域において本発明の情報担持体を観察した場合に、目視上、視認される画像であり、着色パールインキの着色顔料が青色であることから、「青色の凱風快晴(赤富士)」画像として第1の画像(4´´´)が認識される。図25(b)は、正反射光が支配的な観察角度領域において本発明の情報担持体を観察した場合に、目視上、視認される第2の画像(5´´´)であり、着色パールインキの着色顔料が青色であり、パール顔料が金色であることから、図中の濃い画像部分は青色、画像が淡くなるに従って青色が薄くなる代わりに干渉色の金色が濃くなり、無地部分は金色で表現された「神奈川県沖浪裏」の階調画像で認識される。
【0074】
以上のように、本発明においては、第1の画像(4´´´)及び第2の画像(5´´´)を多諧調画像化した場合でも、意匠性の高い二つの画像が鮮明にスイッチすることを確認した。実施例3における第1の画像は、面積率60%〜80%の範囲内で多階調表現された画像であるが、これに限定されるものではなく、どの面積率の範囲であっても、第1の画像の画像部と背景部の差が5%以上40%以下で表現された画像でさえあれば同様の効果を得られ、より好ましくは、面積率35%〜80%の範囲内において画像部と背景部の差が5%以上40%以下で表現された画像を形成することで明瞭な二つの画像のスイッチ効果を得られる。
【0075】
これらの実施例で作成された情報担持体は、カラー複写機で複写してもオリジナルの情報担持体とは全く視感性が異なり、干渉色及び観察角度による画像のスイッチを示すことはなく、本発明における情報担持体は、高い意匠性を有するだけではなく、カラーコピーによる偽造に対する防止効果にも優れていた。
【0076】
本実施例において、使用したパール顔料は同一であり、その干渉色は金色であるが、これに限定するものではなく、赤、青、緑やその他の干渉色でも何ら問題はない。また、着色顔料についてもデザインに応じて色相を選択することは可能である。ただし、前述のように、着色顔料の色は、濃い色を用いることが望ましい。また、パールの干渉効果自体は若干低くなるものの、パール顔料の干渉色と着色顔料の色の関係は、スイッチ性を高く保つという意味で補色に近い関係を成すことが望ましい。
【0077】
また、パール顔料自体が既に着色されて販売されている特殊なパール顔料を用いることでも、パール顔料と着色顔料の混合作業を省略して着色パールインキのカラーフリップフロップ性を再現することは可能であり、このインキと透明性材料の重ね合わせで印刷した情報担持体は、本発明の技術的範疇に入ることはいうまでも無い。ただし、このような特殊なパールインキは現時点では少なく、色相の選択性が極めて低いことから、顧客やデザイナーの意図した色を忠実に再現するためには、本発明で示す着色パールインキの作製手順のとおり、パール顔料と着色顔料を混合して適宜インキを作製する方法がより自由度が高い。
【0078】
加えて、通常の着色顔料インキで第1の画像を形成したのち、第1の画像上の同一位置に、無色パールインキで再び同一の第1の画像を形成し、最後に透明性材料で第2の画像を形成しても本発明と同様な効果を有する情報担持体は作製可能である。ただし、この方法は、工程が複雑になり、コストの増大や刷り合わせ精度の管理等の問題が生じることから、大量生産には適さず、好ましい形態ではない。着色パールインキ中の着色顔料に起因するインキの乾燥不良や堅牢性の不良等の諸問題が発生した場合には、着色顔料インキと、無色パールインキを別々に用いるこの方法で代替することも可能である。
【0079】
本発明では、第1の画像を、万線、円形の網点、チェッカーフラッグ模様等の画像要素で面積率の差異を形成しているが、これに限定されるものではなく、図26に示す波線、図27に示す破線等の画線及び図28に示す星型の網点等の円形以外における網点の画像要素で面積率の差異を形成してもよい。
【0080】
本発明を構成するうえで、第1の画像を形成する画像要素は、カラーフリップフロップ性を備えている必要がある。カラーフリップフロップ性とは、一般的なグロスインキや金インキ、銀インキ等が有する、光を反射した場合に明度のみが変化する明暗フリップフロップ性とは異なり、光を反射した場合に明度だけでなく、色相や彩度が大きく変化する効果のことである。
【0081】
本発明において、「低光沢な透明性材料」とは、光沢度(60°光沢度 株式会社村上色彩技術研究所デジタル光沢計GM−3D)が10以下である透明性材料のことであり、「高光沢な透明性材料」とは、光沢度が50以上の透明性材料のことである。しかしながら、光沢度の測定は、基材の影響を受けるため前述の値に限定しない。
【0082】
また、本発明の実施例では、第2の画像を「低光沢な透明性材料」で形成しているが、仮に第2の画像を「高光沢な透明性材料」で形成したとしても、情報担持体の正反射光領域の観察において、第2の画像を視認することはできる。その場合、第2の画像における背景部の干渉色と、画像部の透明性材料の光沢が、共に明度が高くなるため、画像部と背景部の明度差が少なくなり、結果的に視認性が低下するため、第2の画像は、「低光沢な透明性材料」で形成することが望ましい。
【0083】
また、第2の画像は、インキに限らず、下地が視認できる程度の透明性と厚みを持つラミネートフィルム等で形成することもできるが、工程が複雑になり、コストが増大することや、網点による多階調画像を形成できない等の問題があるため、好ましい形態ではない。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明の最良の形態における情報担持体(1)を示す図である。
【図2】本発明の最良の形態における第1の画像(4)を示す図である。
【図3】本発明の最良の形態における第2の画像(5)を示す図である。
【図4】(b)は、(a)に示す第1の画像(4)の白枠部分(13)の拡大図である。
【図5】情報担持体(1)と、光源(10)と、観察者の視点(11)の位置関係を示す図である。
【図6】第1の画像(4)のみを印刷した情報担持体を正反射光領域で観察したときの視認図である。
【図7】情報担持体(1)を観察する視点を変更したときの視認図を示す。
【図8】(a)は、印刷領域(3)内の着色パールの太い画線のみで形成された画像要素1を示す図である。(b)は、印刷領域(3)内の着色パールの細い画線のみで形成された画像要素2を示す図である。(c)は、印刷領域(3)内の着色パールの太い画線の上に透明な材料が重なり合い、形成された画像要素3を示す図である。(d)は、印刷領域(3)内の着色パールの細い画線の上に透明な材料が重なり合い、形成された画像要素4を示す図である。
【図9】(a)は、画像要素1の画線と、光源(10)と、観察者の視点(11)の位置関係を示す図である。(b)は、画像要素2の画線と、光源(10)と、観察者の視点(11)の位置関係を示す図である。
【図10】(c)は、画像要素3の画線と、光源(10)と、観察者の視点(11)の位置関係を示す図である。(d)は、画像要素4の画線と、光源(10)と、観察者の視点(11)の位置関係を示す図である。
【図11】本発明の最良の形態及び印刷物2における画像要素1を基準値としたときの各画像要素の色差ΔEを示すグラフである。
【図12】印刷物1における画像要素1を基準値としたときの各画像要素の色差ΔEを示すグラフである。
【図13】印刷物3における画像要素1を基準値としたときの各画像要素の色差ΔEを示すグラフである。
【図14】本発明の実施例1における情報担持体(1´)を示す。
【図15】本発明の実施例1における第1の画像(4´)を示す図である。
【図16】本発明の実施例1における第2の画像(5´)を示す図である。
【図17】情報担持体(1´)を観察する視点を変更したときの視認図を示す。
【図18】本発明の実施例2における情報担持体(1´´)を示す。
【図19】(a)は本発明の実施例2における第1の画像(4´´)であり、(b)は(a)に示す第1の画像(4´´)の黒枠部分(13´´)の拡大図である。
【図20】本発明の実施例2における第2の画像(5´´)を示す図である。
【図21】情報担持体(1´´)を観察する視点を変更したときの視認図を示す。
【図22】本発明の実施例3における情報担持体(1´´´)を示す。
【図23】(a)は本発明の実施例3における第1の画像(4´´´)であり、(b)は(a)に示す第1の画像(4´´´)の富士山山頂白枠部分(13´´´)の拡大図である。
【図24】本発明の実施例3における第2の画像(5´´´)を示す図である。
【図25】情報担持体(1´´´)を観察する視点を変更したときの視認図を示す。
【図26】(a)は画像要素を波線とした場合の第1の画像であり、(b)は白枠部分の拡大図である。
【図27】(a)は画像要素を破線とした場合の第1の画像であり、(b)は白枠部分の拡大図である。
【図28】(a)は画像要素を星型網点とした場合の第1の画像であり、(b)は黒枠部分の拡大図である。
【符号の説明】
【0085】
1 情報担持体
2、2´、2´´、2´´´ 基材
3 印刷画像
4、4´、4´´、4´´´ 第1の画像
5、5´、5´´、5´´´ 第2の画像
6 第1の画像の画像部
7 第1の画像の背景部
8 第2の画像の画像部
9 第2の画像の背景部
10 光源
11 視点
12−2、12−2´、12−2´´ 画像要素1を基準としたときの画像要素2の色差ΔEを示す折れ線
12−3、12−3´、12−3´´ 画像要素1を基準としたときの画像要素3の色差ΔEを示す折れ線
12−4、12−4´、12−4´´ 画像要素1を基準としたときの画像要素4の色差ΔEを示す折れ線
13、13´´、13´´´ 第1の画像の枠部分
A 拡散光領域
B 正反射光領域
【技術分野】
【0001】
本発明は、観察角度によって視認画像が変化する効果を付与した情報担持体であり、特に、偽造防止効果を必要とするセキュリティ製品である銀行券、パスポート、有価証券、身分証明書、カード、通行券等の貴重印刷物の分野における偽造防止用又は真偽判別用の情報担持体にかかわるものである。
【背景技術】
【0002】
近年、セキュリティを要する貴重印刷物等には、新しい意匠性を持ち、偽造防止効果の高い偽造防止要素及び印刷技術が望まれている。このため、観察角度によって画像が変化するホログラム等の光学的なセキュリティ要素を貼付したものが多く存在するようになった。
【0003】
前述のような光学的な変化を示す偽造防止印刷物は、一般的に高価で特殊な装置及び材料を必要とするため、付加的な製造工程が必要になり、コスト的にも負荷が高くなるといった問題があった。
【0004】
そこで、本出願人は、以上のような問題点を解決するために、一般的で、かつ、比較的安価な材料及び簡単な印刷手段を使用し、特定の観察角度において、人の目に認識される情報が、観察角度を変化させることによって、全く別の情報に変化する偽造防止用情報担持体に係る発明を出願している(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
この特許文献1による偽造防止用情報担持体は、汎用の安価なアルミニウム粉末又は真鍮粉末を成分とした市販の銀色又は金色インキを用いて、一般的な印刷手段により、ホログラム的な効果を呈するセキュリティ画像を直接的に印刷物の基材に付与する構成を特徴とし、コストパフォーマンスに優れ、かつ、機械的な流通強度が優れた偽造防止及び真偽判別用印刷物である。
【0006】
この特許文献1で開示された偽造防止用情報担持体は、一つ目の効果として、基材上に適切な面積の疎密差を持つ二つの光輝性材料層により第1の画像が形成されているとき、拡散光が支配的な観察領域においては、二つの光輝性材料層の両者から観察者の目に到達する反射光量が互いに小さくなるため、第1の画像を容易に認識することが可能になる。一方、正反射光が支配的な観察角度領域では、二つの光輝性材料層の両者から観察者の目に到達する反射光量が共に極端に大きくなるため、第1の画像を視認することが難しくなる。
【0007】
さらに、特許文献1で開示された偽造防止用情報担持体は、二つ目の効果として、前述した面積率の極めて密な光輝性材料層に形成された第1の画像と、その光輝性材料に比較して可視光吸収性の高い色材料を用いて形成された面積率の極めて疎な色材料層を重ねた層による第2の画像は、拡散光が支配的な観察角度領域において、観察者の目に到達する反射光量が互いに小さくなるため、構成成分は異なっているにもかかわらず、二つの層からの色調及び明るさの差を視認することが難しく、同じ程度の刺激として人の目に観察されるため第2の画像は視認できない。
【0008】
一方、正反射光が支配的な観察角度領域では、光輝性材料のみの層から観察者の目に到達する反射光量は極端に大きくなるのに対して、可視光吸収性の高い色材料を光輝性材料層に重ねた層から観察者の目に到達する反射光量は相対的に小さくなるため、反射光量の差による色調差によって、第2の画像を容易に視認することが可能になる。
【0009】
また、本出願人は、平面配向性パール顔料を用いた盛り上がりのある画線を形成し、背景画像部とメッセージ画像部で画線角度を異なる構成とすることで、斜めから観察した場合にのみ、メッセージ画像部がポジからネガへ、又はネガからポジへと変化して出現する効果を有する真偽判別可能な印刷物にかかわる発明を出願している(例えば、特許文献2、特許文献3参照)。
【0010】
特許文献2及び特許文献3で開示された真偽判別可能な印刷物は、基材の表面に盛り上がりのある画線構造によって、背景画像とメッセージ画像が形成され、かつ、背景画像の画線パターンとメッセージ画像の画線パターンは異なる角度で形成されるために、拡散反射光が支配的な角度領域においては、メッセージ画像が肉眼にほとんど視認されず、拡散反射光から正反射光が支配的な角度領域に変化するに従って、盛り上がりを有する背景画像とメッセージ画像が入射光に対してそれぞれ異なった光の反射を成す構造となることから、メッセージ画像がネガ画像又はポジ画像として視認される効果を有する。
【0011】
また、特許文献4には、上質紙等の基材上にストライプ状のパール層を形成し、その上にパール層の拡散光が支配的な観察角度領域における視認色(紫色)と同系色の明度の高い刷色(グレー)による凹版印刷層の潜像画像を設け、拡散光が支配的な観察角度領域においては、パール層と凹版印刷層が同系色に観察されるため潜像が視認しづらいが、正反射光が支配的な観察角度領域においては、パール層が干渉色(金色)を放つため、干渉色を放たない凹版印刷層によるグレーの潜像画像が視認される潜像表示媒体が開示されている。
【0012】
【特許文献1】特許第3398758号公報
【特許文献2】特許第3718712号公報
【特許文献3】再公表特許W02003/013871号公報
【特許文献4】特開2003−182202
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1による発明は、二つの効果を重ね合わせることで、拡散光が支配的な観察角度領域においては第1の画像が視認でき、正反射光が支配的な観察角度領域においては第2の画像を確認できる偽造防止情報担持体を形成できるが、第1の画像を構成している光輝性材料層と、第2の画像を構成している色材料層を、同一ピッチで精密に刷り合わせる必要がある。したがって、第1の画像と第2の画像の刷り合わせを、常に適正な精度に管理しながら製造することが必要である。
【0014】
また、特許文献1記載の偽造防止情報担持体を形成するためには、第1の画像を構成する光輝性材料層と、第2の画像を構成している色材料層が、拡散光が支配的な観察角度領域において同色(近似色)に見えるような適切な面積の疎密差を見極めなければならない。それには、可視光吸収性の高い色材料の色彩の種類と面積率を何通りにも代えて印刷し、第1の画像から第2の画像へ最適なスイッチ性が得られるような、可視光吸収性の高い色材料の色彩と面積率を見極めるまでに、多大な労力を必要とする。
【0015】
また、最適な画像のスイッチ性を得るために、可視光吸収性の高い色材料による第2の画像の面積率は、15〜30%の特定の範囲で形成されなければならない。さらに、第1の画像の極めて密な光輝性材料層の上に規則性を合せて印刷することから、第2の画像は、観察環境によっては視認性が低下する場合があり、二つの画像の明瞭なスイッチ効果を得るには若干の問題があった。
【0016】
特許文献2記載の真偽判別可能な印刷物は、斜めから観察した場合にメッセージ部が光の入射角度に応じてネガ画像からポジ画像へ、又はポジ画像からネガ画像へと変化して出現するものの、真上から観察した場合には、メッセージ画像が認識できないだけでなく、メッセージ画像以外の有意画像を認識させることもできない。すなわち、二つの異なる画像をスイッチさせることは不可能であった。
【0017】
また、特許文献3記載の真偽判別可能な印刷物において、特許文献2の印刷物の構造を用いて、観察者にメッセージ画像と相関のない有意画像を視認させるためには、盛り上がりを有する画線を印刷する前に、あらかじめ低濃度のインキで第1の画像を形成しておく必要があった。また、前述の低濃度における第1の画像と、盛り上がりを有する画線によるメッセージ画像を鮮明にスイッチさせるために、メッセージ画像が視認される観察領域において第1の画像が消失しなければならず、そのためには、第1の画像は明度が高い(淡い)画像とする必要があり、第1の画像の視認性を低く抑える必要があった。
【0018】
また、特許文献4記載の潜像表示媒体は、拡散光が支配的な観察角度領域におけるパール層の色と凹版印刷層の色差が大きいと、潜像が視認されてしまうため、同系色にするための色調の調整が難しく、その効果も拡散光が支配的な観察角度領域においては画像を形成しておらず、正反射光が支配的な観察角度領域においてのみ、凹版印刷層で形成した潜像が視認されるため、二つの画像がスイッチすることもなくデザイン性に乏しい。凹版印刷層の画像部分では、下層のパール層の干渉色が透けないように、凹版印刷によって厚いマスク層を形成する必要があった。
【0019】
本発明は、人の目に認識される情報が、観察角度を変化させることによって、別の情報に変化するため、カラー複写機では再現不可能な情報担持体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の情報担持体は、基材上の一表面上の印刷画像領域全面に、基材と異なる色を有し、かつ、カラーフリップフロップ性を備えた材料を含む印刷用インキで、画像部と背景部の差が5%以上40%以下で形成された第1の画像と、第1の画像の表面上の少なくとも一部に透明性材料から形成された第2の印刷画像が重ね合せて形成されたことを特徴とする。
【0021】
本発明の第2の画像が、面積率100%のベタ画像又は面積率0%〜面積率100%の範囲内で階調表現された多階調画像であることを特徴とする情報担持体である。
【0022】
本発明の第1の画像を形成する印刷用インキに含まれるカラーフリップフロップ性を備えた材料が、二色性パール顔料、虹彩色パール顔料、鱗片状顔料、鱗片状マイカ顔料、鱗片状金属顔料、ガラスフレーク顔料又はコレステリック液晶顔料の少なくとも一つを含むことを特徴とする情報担持体である。
【0023】
本発明の第1の画像を形成する印刷用インキに含まれるカラーフリップフロップ性を備えた材料の配向性を向上させるために、顔料表面に撥水性及び撥油性を持たせる表面処理が施されていることを特徴とする情報担持体である。
【0024】
本発明の第1の画像を形成する印刷用インキに着色顔料を含むことで、拡散光領域の観察における第1の画像の視認性を向上させることを特徴とする情報担持体である。
【0025】
本発明の第1の画像が、印刷画像領域全面に35%〜80%の面積率の範囲で形成することを特徴とする情報担持体である。
【0026】
本発明の第1の画像が、盛り上がりのある画像要素で形成されており、盛り上がりのある画像要素の高さが、10μm〜150μmの範囲であることを特徴とする情報担持体である。
【0027】
本発明の第2の印刷画像を形成する透明性材料が、透明ニス、インキワニス、透明インキ又はメジウムインキのいずれかであることを特徴とする情報担持体である。
【0028】
本発明の第1の画像が、万線、波線、破線等の画線の大小、チェッカーフラッグ模様等の配列、円形網点、星型網点等の網点の大小又はこれら画像要素による面積率の差異で形成されていることを特徴とする情報担持体である。
【発明の効果】
【0029】
本発明は、以上の構成であることから次の効果が生じる。
本発明の情報担持体を可視光下で観察した場合、拡散反射光が支配的な観察角度領域では、画線の太細や画線の粗密による面積率の差異で形成された第1の画像が視認でき、正反射光が支配的な観察角度領域では、第1の画像上に透明な材料で重ねて形成された第2の画像が視認できる。
【0030】
本発明における情報担持体は、虹彩色パール顔料と着色顔料を混合したインキで印刷して画像を形成することから、正反射光が支配的な角度領域においてメタリックインキに特徴的な単なる明度変化のみでなく、虹彩色パール顔料の干渉による極めて大きな色相変化が生じ、インキ中の着色顔料の色と、パール顔料の干渉色との二つの色が観察角度の変化に応じて出現することから、潜像画像にも鮮やかな色相を付与することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明の実施形態について図面を用いて説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための最良の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他のいろいろな形態が実施可能である。
【0032】
図1は、本発明の情報担持体(1)を示す図であり、基材(2)である白色用紙上の枠内の印刷画像(3)に着色パールインキで印刷された図2に示すような第1の画像(4)が形成され、第1の画像(4)の上の印刷画像(3)内に透明性材料で印刷された図3に示すような第2の画像(5)が積層されて形成されており、観察する角度によって印刷画像(3)が変化する情報担持体(1)である。
【0033】
基材(2)は、白色用紙に限定するものではなく、上質紙、コート紙又はプラスチックカード等の印刷画像を担持できる平面を有していればよい。
【0034】
本明細書では、基材上の一定面積の印刷画像に、第1の画像(4)及び第2の画像(5)を形成する工程において、下地を被覆しうる割合を%で表した条件を面積率として説明する。
【0035】
図4は、第1の画像(4)とその部分拡大図であり、基材(2)である白色用紙上の印刷画像(3)に、表1に示す着色パールインキによって約10μmの高さで盛り上がりのある、一定ピッチ0.4mmの画線によってUV乾燥方式のスクリーン印刷で基材(2)上に形成されている。第1の画像(4)は、画像部(6)と背景部(7)から成り、画像部(6)は、画線幅0.3mmの太画線(面積率75%)で形成され、背景部(7)は、画線幅0.2mmの細画線(面積率50%)で形成され、画像部(6)と背景部(7)の間に面積率の差異を設けることで「鳳凰」画像(商標登録番号:3042101号)を形成している。
【0036】
【表1】
【0037】
表1に示す着色パールインキは、干渉色が金色の虹彩色パール顔料を含むパールインキに、黒色の着色顔料を微量加えて着色したパールインキである。着色パールインキは、基材と異なる色、例えば、黒色や他の濃い色を有する着色顔料をパールインキに加えることで、形成した画線が正反射した場合にパールの干渉色以外の色を吸収し、結果としてパールの干渉色をより強調させる効果があり、干渉色の視認性が高くなる。また、パール顔料のみを含有するインキで形成した画線が拡散反射した場合、パールの干渉効果が目視できないため、単にパール顔料そのものの色が視認されることとなる。そのため、基材の色とパール顔料の組み合わせによっては、画線の視認性が低くなることから、基材と異なる色の着色顔料を含有することで視認性を高めている。すなわち、この着色パールインキで形成された画線は、パールの干渉効果が目視できない拡散反射光が支配的な観察領域では「黒色」として視認され、正反射光が支配的な観察領域ではパールの干渉色である「金色」として視認される。
【0038】
図5は、情報担持体(1)と、光源(10)と、観察者の視点(11)の位置関係を示す図であり、例えば、本発明の情報担持体(1)の印刷表面に対し、45°から光が入射したときに、観察する視点の角度を−20°から80°まで変化させると、観察角度領域は、拡散光領域から正反射光領域となり、また、拡散光領域となる。そこで、一方の画像のみを特に顕著に視認できる二つの受光角度領域について、図4のA領域(受光角度−20°〜0°)を「拡散光領域」の観察、図4のB領域(受光角度40°〜50°)を「正反射光領域」の観察と定義する。
【0039】
前述の着色パールインキによる画線で形成された第1の画像(4)を拡散光領域で観察した場合、画像部(6)と背景部(7)の面積率の差が支配的となり、かつ、パール顔料による干渉は生じないため、黒色として視認され、「黒色の鳳凰」画像が視認される。
【0040】
正反射光領域で観察した場合、第1の画像(4)の画像部(6)と背景部(7)は、共にパールによる干渉が生じるため、図6に示すように第1の画像(4)が印刷された印刷画像(3)の領域全面が干渉色の金色となり、「金色の六角形」画像となる。
【0041】
第1の画像(4)を形成したのち、第1の画像(4)が印刷された印刷領域(3)内に、第2の画像(5)を、UV乾燥方式のウェットオフセット印刷で、低光沢な透明性材料(DIC製 OPニス マット)を用いて、透明性材料を用いて面積率100%のベタ画像で形成する。この第2の画像(5)を形成する透明性材料は、この透明ニスに限定されるものではなく、インキワニス、透明インキ又はメジウムインキ等の下地が視認できるインキであればよく、発光材料、赤外線吸収材料及び磁性材料等の機能性材料を含むことも可能である。
【0042】
第2の画像(5)は、透明な材料で形成されているため、情報担持体(1)を拡散光領域で観察した場合には、図7(a)に示すように第2の画像(5)は視認されずに、その下に印刷された第1の画像(4)の「黒色の鳳凰」画像が視認される。
【0043】
しかし、情報担持体(1)を正反射光領域で観察した場合には、透明性材料による第2の画像の画像部(8)は、パール顔料の干渉効果を上層の透明性材料が阻害してしまうために「黒色」に視認され、第2の画像の背景部(9)は透明性材料の印刷されない無地部であるため、パール顔料の干渉効果により「金色」に視認されることから、図7(b)に示す背景部(9)「金色」、画像部(8)「黒色」の「印字入り鳳凰」画像が視認される。
【0044】
すなわち、本発明は、観察する視点の角度を拡散光領域から正反射光領域へ変化させることによって、視認画像が図7(a)に示す「黒色の鳳凰」画像から、図7(b)に示す「背景金色の黒色印字入り鳳凰」画像に変換する情報担持体(1)を形成している。
【0045】
これは、本発明の情報担持体(1)の印刷画像(3)を、図8(a)に示す着色パールの太い画線のみで形成された画像要素1と、図8(b)に示す着色パールの細い画線のみで形成された画像要素2と、図8(c)に示す着色パールの太い画線の上に透明な材料が重なり合い、形成された画像要素3と、図8(d)に示す着色パールの細い画線の上に透明な材料が重なり合い、形成された画像要素4と、四つの画像領域に分割し、図5に示した拡散光領域を示す領域A及び正反射光領域を示す領域Bにおける画像要素1を基準値としたときの各画像要素の色差ΔEを示す図11により説明することができる。
【0046】
図9(a)、図9(b)、図10(c)、図10(d)は、それぞれ画像要素1、画像要素2、画像要素3、画像要素4と光源10の位置と測定装置の範囲を示した図である。画像要素1から画像要素4の各画像要素に対して45°の光源10から光を照射し、受光角度−20°から80°におけるL*a*b*を測定し、画像要素1を基準としたときの画像要素2、画像要素3、画像要素4の色差ΔEを比較したグラフが、図11の折れ線(12−2)、折れ線(12−3)、折れ線(12−4)である。測定装置は、変角分光測色システムGCMS−4型〔村上色彩技術研究所製〕を使用して測定した。
【0047】
(拡散光領域の観察)
図11の色差ΔEのグラフにおける受光角度−20°〜0°の拡散光領域においては、基準となる画像要素1に対して、画像要素2の折れ線12−2及び画像要素4の12−4の折れ線の色差ΔEが20程度と高く、画像要素1とは異なる色として視認されるのに対し、画像要素3の折れ線12−3の色差ΔEが2程度と低く、画像要素1と同程度に視認されているのがわかる。このことから、着色パールインキの太画線から成る画像要素1と、着色パールインキの太画線の上に透明ニスを積層した画像要素3は、第1の画像(3)の画像部(5)として同程度に視認され、着色パールインキの細画線から成る画像要素2と、着色パールインキの細画線の上に透明ニスを積層した画像要素4は画像要素1と同程度に色差ΔEが異なるため、第1の画像(3)の背景部(6)として視認されることがわかる。
【0048】
(正反射光領域の観察)
それに対し、図11の色差ΔEのグラフにおける受光角度40°〜50°の正反射光領域においては、基準となる画像要素1に対して、画像要素2の折れ線12−2の色差ΔEが20程度に対し、画像要素3の色差ΔEの折れ線12−3が70程度、画像要素4の色差ΔEの折れ線12−4が85程度と大きな値を示していることから、画像要素3及び画像要素4は、画像要素1とは大きく異なる色相として視認されるため、画像要素2は画像要素1に比較的近い色として視認される。このことから、正反射光領域の観察において、着色パールの太画線の上に透明ニスを積層した画像要素3と、着色パールの細画線の上に透明ニスを積層した画像要素4は、第2の画像の画像部(8)として視認され、着色パールインキの太画線から成る画像要素1と、着色パールの細画線から成る画像要素2は、第2の画像の背景部(9)として視認されることがわかる。
【0049】
すなわち、情報担持体(1)は、四つの画像要素によって図2及び図3に示すような二つの潜像画像が形成されており、具体的には、第1の画像(3)は、画像要素1と画像要素3から成る画像部(5)と、画像要素2と画像要素4から成る背景部(6)から構成され、拡散光領域の観察においては、画像要素1と画像要素3が画像部(5)として同程度に視認されるのに対し、画像要素2と画像要素4は、異なる色として視認されることから背景部(6)として視認される。一方、第2の画像(4)は、画像要素3と画像要素4から成る第2の画像(4)のベタ画像部と、画像要素1と画像要素2から成る第2の画像の無地背景部から構成されており、正反射光領域の観察においては、画像要素1と画像要素2が同程度に視認されるのに対し、画像要素3と画像要素4は異なる色として視認されることから、第2の画像として視認されるのである。よって、本発明の情報担持体(1)は、四つの画像要素の観察角度領域における視認性がそれぞれ異なるため、観察角度によって画像が変化するものである。
【0050】
第1の画像を形成する画線の面積率の差が適切でない場合、拡散反射が支配的な観察角度領域において、第1の画像(3)の情報部(5)と背景部(6)が目視上見分けが付かなくなったり、正反射が支配的な観察角度領域において第1の画像(3)が第2の画像(4)と混ざりあって出現することがある。第1の画像(3)と第2の画像(4)の明瞭なスイッチ効果を実現するためには、使用するインキに応じて第1の画像(3)を適切な面積率の範囲で、情報部と背景部で差異を設けて形成する必要がある。
【0051】
例えば、第1の画像(3)の画線幅が異なる三種類の印刷物を作製し、スイッチ効果の比較確認を行う。すべての印刷物において、画像部(6)の画線ピッチを0.4mm、画線幅を0.3mm(面積率75%)とし、背景部(5)の画線ピッチは、すべて0.4mmで、印刷物1の画線幅を0.15mm(面積率37.5%)、印刷物2の画線幅を0.20mm(面積率50%)、印刷物3の画線幅を0.25mm(面積率62.5%)と、三種類の印刷物を作製し、すべての印刷物の上に第2の画像(4)を透明な材料で形成して、視認性の確認を行った結果を表2に示す。表2は、第1の画像(3)の背景部(5)を構成する着色パールインキによる画線の幅を変えたときの第1の画像(3)及び第2の画像(4)の視認性の評価結果である。評価は、◎は極めて視認しやすい、○は視認しやすい、△は視認しにくい、×は視認できない、の四段階評価とした。
【0052】
【表2】
【0053】
各印刷物の視認性については、各印刷物の画像要素1を基準としたときの各画像要素の色差ΔEで説明することができる。印刷物1における画像要素1を基準値としたときの各画像要素における色差ΔEのグラフが図12、印刷物2における画像要素1を基準値としたときの各画像要素における色差ΔEのグラフは、本発明の最良の形態における情報担持体(1)と同じ図11、印刷物3における画像要素1を基準値としたときの各画像要素の色差ΔEのグラフが図13である。
【0054】
印刷物1は、印刷物2より背景部(6)の画線幅が細いため、図12のグラフの正反射光領域(図12のB領域)における折れ線(12−2′)が、印刷物2の正反射領域の(図11のB領域)の折れ線(12−2)に比べて高い値を示している。印刷物1は、正反射光領域において画像要素2の色と画像要素1の色との差異が広がり、画像要素1と同じ第2の画像の背景部として視認されにくくなっていることがわかる。
【0055】
また、印刷物3は、印刷物2より背景部(6)の画線幅が太いため、図13のグラフの拡散光領域(図13のA領域)における折れ線(12−2′′)の色差ΔEが4程度、折れ線(12−4′′)の色差ΔEが6程度であり、0に近い値、つまり基準となる画像要素1との色差が小さい結果となっている。印刷物3は、拡散光領域において、第1の画像の画像部(5)と背景部(6)の差を視認しづらくなっていることがわかる。
【0056】
また、スイッチ効果は、前述の条件の他に、パール顔料の配合割合やパール顔料の干渉色にも影響を受けるため、種類やパール顔料の配合の変更時には実施の形態で説明第1の画像に使用する着色顔料のした手順により、第1の画像の情報部(5)と背景部(6)の面積率の差異の条件を変えた印刷物を何通りか試作して、最適な条件を見い出す必要がある。
【0057】
使用するパール顔料については、二色性パール顔料、虹彩色パール顔料、鱗片状マイカ顔料、鱗片状金属顔料、ガラスフレーク顔料及びコレステリック液晶顔料等を用いても良い。パール顔料の粒子の大きさは、使用する印刷方式に応じて選択するものであるが、1〜50μmであって、5〜15μm程度の粒子がより好ましい。このように、いずれのパール顔料を用いても良いが、より鱗片状顔料の配向性(リーフィング効果)を向上させるためには、10μm〜150μmの盛り上がっている線画の表面で顔料が配向するような処理を施すことが望ましい。具体的には、例えば、特開2001−106937号公報に記載されたような撥水、撥油性処理等の表面処理を行うことで、印刷部の画線表面で顔料を配向させることができ、正反射光によるパールの干渉色をより鮮やかに出現させることが可能となる。
【0058】
また、本実施の形態においては、高い色彩変化の効果を引き出すために、比較的粒子径の大きなパール顔料を使用したことから、スクリーン印刷方式による盛り上がりのある画線で第1の画像を形成しているが、近年、粒子径の小さいパール顔料も開発されているため、画線に盛り上がりがなくても干渉光を出現させるインキであれば、本発明に画線の盛り上がりは必須ではない。よって、第1の画像を形成する印刷方式は、スクリーン印刷に限定されるものではなく、フレキソ印刷方式、グラビア印刷方式、凹版印刷方式及びオフセット印刷方式等でも実施可能である。また、第2の画像は、オフセット印刷方式に限定されるものではなく、フレキソ印刷方式、グラビア印刷方式、オフセット印刷方式及び凹版印刷方式等でも実施可能である。
【0059】
また、本実施の形態においては、着色顔料を含むパールインキを用いた実施の形態を説明したが、着色顔料を含まないパールインキを用いた場合、第1の画像の視認性は低くなるが、第2の画像における視認性は十分にあることから、前述の実施の形態に限定されることなく、特許請求の範囲記載の技術的範囲内であれば、適宜実施することが可能である。
【実施例】
【0060】
(実施例1)図14は、本発明の実施例1における情報担持体(1´)を示した図である。着色パールインキから成る第1の画像は、画像要素として、画線の太細ではなく、網点の大小を用いて形成し、第2の画像は、実施の形態同様に透明で低光沢な材料を用いて形成する例について説明する。
【0061】
図15に示した第1の画像と図16に示した第2の画像を用いて、図14に示す情報担持体(1´)を形成した。第1の画像の画像部(6´)と背景部(7´)は、所定の一定ピッチ0.50mmにおける円形の画素で形成されており、それぞれの円の直径が異なる。画像部(6´)を形成する円の直径は0.44mm(面積率61%)、背景部(7´)は直径0.40mm(面積率50%)で形成した。表3に示す着色パールインキを用いて一般的な上質紙である基材(2´)に第1の画像のスクリーン印刷を行った。
【0062】
【表3】
【0063】
基材(2´)上に第1の画像(4´)を形成した後、UV乾燥方式のウェットオフセット印刷で、透明な低光沢なスクリーンインキ(UV硬化型レイキュアーOP 十条ケミカル株式会社製)を用いて、図16に示した第2の画像(5´)を重ね合わせて形成した。 UV乾燥方式のウェットオフセット印刷で、低光沢な透明性材料(DIC製 OPニス マット)を用いて、透明性材料を用いて面積率100%のベタ画像で形成する。
【0064】
本実施例において、形成した情報担持体の目視上の効果について、図17(a)、図17(b)を用いて説明する。図17(a)は、拡散反射光が支配的な角度領域において本発明の情報担持体を観察した場合に、目視上、視認される画像であり、着色顔料が青色であることから、「青色の鳳凰画像」として第1の画像(4´)が認識される。図17(b)は、正反射光が支配的な観察角度領域において本発明の情報担持体を観察した場合に、目視上、視認される第2の画像(5´)であり、着色顔料が青色であり、パール顔料が金色であることから、「印字入り鳳凰」の画像部(8´)は「青色」で、その他の背景領域(9´)は「金色」で認識される。
【0065】
(実施例2)
図18は、本発明の実施例2における情報担持体(1´´)を示した図である。着色パールインキから成る第1の画像は、チェッカーフラッグ調の格子構造の一部に微細な画線を付与することで第1の画像の画像部を形成し、第2の画像は、実施の形態同様に透明な材料を用いて形成する例について図18から図21(b)までを用いて説明する。
【0066】
図19(a)に示す第1の画像(4´´)は、0.40mm×0.40mmのチェッカーフラッグ調の格子構造を成す背景画像(7´´)と、「研究所」という文字を表した画像部(6´´)とから形成されている。図19(b)は、図19(a)の枠線13´´部分の拡大図であり、0.40mm×0.40mmのチェッカーフラッグ調の格子構造(面積率50%)の格子空白部の一部に0.20mmの縦方向画線を追加(面積率75%)することで背景部(7´´)との面積率の差異を設け、画像部(6´´)を形成している。実施の形態で用いた表1に示す着色パールインキを用いて第1の画像のスクリーン印刷を基材(2´´)上に行った。
【0067】
図20に示す第2の画像(5´´)は、100%のベタで「NEXT」の文字画像を形成している。基材(2´´)上に第1の印刷画像(4´´)を形成した後、図20に示す第2の印刷画像(5´´)をUV乾燥方式のウェットオフセット印刷で、低光沢な透明性材料(DIC製 OPニス マット)を用いて、第1の印刷画像の領域内の上、中央に重ね合わせて図18に示す情報担持体を形成した。
【0068】
本実施例において、形成した情報担持体の目視上の効果について、図21(a)、図21(b)を用いて説明する。図21(a)は、拡散反射光が支配的な観察角度領域において本発明の情報担持体を観察した場合に、目視上視認される画像であり、着色顔料が黒色であることから、黒色の「研究所」画像として第1の画像(4´´)が認識される。図21(b)は、正反射光が支配的な観察角度領域で本発明の情報担持体を観察した場合に、目視上視認される第2の画像(5´´)であり、着色顔料が黒色で、パール顔料が金色であることから、画像部(8´´)は「黒色」で「NEXT」と視認され、その他の背景領域(9´´)は、「金色」で認識される。
【0069】
(実施例3)
図22は、本発明の実施例3における情報担持体(1´´´)を示した図である。第1の画像は、図23(a)に示す葛飾北斎の「凱風快晴(赤富士)」をモチーフとし、第2の画像は、図24に示す葛飾北斎の「神奈川県沖浪裏」の絵をモチーフとしている。第1の画像(4´´´)は、太さの異なる複数の画線を使い分けることで多階調画像を表現し、第2の画像(5´´´)は、0%〜100%の網点面積率を用いることで多階調画像を表現し、それぞれの階調表現が豊かな二つ画像を備えた情報担持体の例について説明する。
【0070】
一般的なコート紙である基材(2´´´)の上の全面に、表3に示した着色パールインキを用いて図23(a)に示した第1の画像(4´´´)をスクリーン印刷し、第1の画像(4´´´)の印刷領域上の全面に、図24に示した第2の画像(5´´´)を重ね合せて印刷し、図22に示す情報担持体(1´´´)を形成した。
【0071】
第1の画像(4´´´)の濃淡は、一定ピッチ0.4mmの画線幅の異なる四種類の画線で階調表現している。第1の画像(4´´´)の中で、富士山の雪や背景の雲を構成する最も淡い諧調を表現する画線の画線幅は、0.24mm(面積率60%)であり、空の諧調を構成するやや淡い諧調を表現する画線の画線幅は、0.28mm(面積率70%)であり、富士山中腹の山肌を構成するやや濃い諧調を表現する画線の画線幅は、0.30mm(面積率75%)であり、雲や富士山の輪郭、富士山裾野の森を表す最も濃い諧調を表現する画線の画線幅は、0.32mm(面積率80%)で形成している。図23(b)には、図23(a)の富士山山頂部の白抜き四角形部分を拡大したものであり、様々な画線幅の画線が入り混じっていることがわかる。
【0072】
図24に示す第2の画像(5´´´)は、網点面積率0%〜100%の多階調画像で表現した「神奈川県沖浪裏」の画像である。基材(2´´´)表面の全面に第1の画像(4´´´)を形成した後、図24に示す第2の画像(5´´´)をUV乾燥方式のウェットオフセット印刷で、透明な低光沢なオフセットインキ(DIC製 OPニス マット))を用いて、第1の画像(4´´´)の領域全域を被覆するように重ね合せて、図22に示す情報担持体(1´´´)を作製した。
【0073】
本実施例において、形成した情報担持体の目視上の効果について、図25(a)、図25(b)を用いて説明する。図25(a)及び図25(b)は、葛飾北斎の凱風快晴(赤富士)と同じく神奈川県沖浪裏の絵である。図25(a)は、拡散反射光が支配的な観察角度領域において本発明の情報担持体を観察した場合に、目視上、視認される画像であり、着色パールインキの着色顔料が青色であることから、「青色の凱風快晴(赤富士)」画像として第1の画像(4´´´)が認識される。図25(b)は、正反射光が支配的な観察角度領域において本発明の情報担持体を観察した場合に、目視上、視認される第2の画像(5´´´)であり、着色パールインキの着色顔料が青色であり、パール顔料が金色であることから、図中の濃い画像部分は青色、画像が淡くなるに従って青色が薄くなる代わりに干渉色の金色が濃くなり、無地部分は金色で表現された「神奈川県沖浪裏」の階調画像で認識される。
【0074】
以上のように、本発明においては、第1の画像(4´´´)及び第2の画像(5´´´)を多諧調画像化した場合でも、意匠性の高い二つの画像が鮮明にスイッチすることを確認した。実施例3における第1の画像は、面積率60%〜80%の範囲内で多階調表現された画像であるが、これに限定されるものではなく、どの面積率の範囲であっても、第1の画像の画像部と背景部の差が5%以上40%以下で表現された画像でさえあれば同様の効果を得られ、より好ましくは、面積率35%〜80%の範囲内において画像部と背景部の差が5%以上40%以下で表現された画像を形成することで明瞭な二つの画像のスイッチ効果を得られる。
【0075】
これらの実施例で作成された情報担持体は、カラー複写機で複写してもオリジナルの情報担持体とは全く視感性が異なり、干渉色及び観察角度による画像のスイッチを示すことはなく、本発明における情報担持体は、高い意匠性を有するだけではなく、カラーコピーによる偽造に対する防止効果にも優れていた。
【0076】
本実施例において、使用したパール顔料は同一であり、その干渉色は金色であるが、これに限定するものではなく、赤、青、緑やその他の干渉色でも何ら問題はない。また、着色顔料についてもデザインに応じて色相を選択することは可能である。ただし、前述のように、着色顔料の色は、濃い色を用いることが望ましい。また、パールの干渉効果自体は若干低くなるものの、パール顔料の干渉色と着色顔料の色の関係は、スイッチ性を高く保つという意味で補色に近い関係を成すことが望ましい。
【0077】
また、パール顔料自体が既に着色されて販売されている特殊なパール顔料を用いることでも、パール顔料と着色顔料の混合作業を省略して着色パールインキのカラーフリップフロップ性を再現することは可能であり、このインキと透明性材料の重ね合わせで印刷した情報担持体は、本発明の技術的範疇に入ることはいうまでも無い。ただし、このような特殊なパールインキは現時点では少なく、色相の選択性が極めて低いことから、顧客やデザイナーの意図した色を忠実に再現するためには、本発明で示す着色パールインキの作製手順のとおり、パール顔料と着色顔料を混合して適宜インキを作製する方法がより自由度が高い。
【0078】
加えて、通常の着色顔料インキで第1の画像を形成したのち、第1の画像上の同一位置に、無色パールインキで再び同一の第1の画像を形成し、最後に透明性材料で第2の画像を形成しても本発明と同様な効果を有する情報担持体は作製可能である。ただし、この方法は、工程が複雑になり、コストの増大や刷り合わせ精度の管理等の問題が生じることから、大量生産には適さず、好ましい形態ではない。着色パールインキ中の着色顔料に起因するインキの乾燥不良や堅牢性の不良等の諸問題が発生した場合には、着色顔料インキと、無色パールインキを別々に用いるこの方法で代替することも可能である。
【0079】
本発明では、第1の画像を、万線、円形の網点、チェッカーフラッグ模様等の画像要素で面積率の差異を形成しているが、これに限定されるものではなく、図26に示す波線、図27に示す破線等の画線及び図28に示す星型の網点等の円形以外における網点の画像要素で面積率の差異を形成してもよい。
【0080】
本発明を構成するうえで、第1の画像を形成する画像要素は、カラーフリップフロップ性を備えている必要がある。カラーフリップフロップ性とは、一般的なグロスインキや金インキ、銀インキ等が有する、光を反射した場合に明度のみが変化する明暗フリップフロップ性とは異なり、光を反射した場合に明度だけでなく、色相や彩度が大きく変化する効果のことである。
【0081】
本発明において、「低光沢な透明性材料」とは、光沢度(60°光沢度 株式会社村上色彩技術研究所デジタル光沢計GM−3D)が10以下である透明性材料のことであり、「高光沢な透明性材料」とは、光沢度が50以上の透明性材料のことである。しかしながら、光沢度の測定は、基材の影響を受けるため前述の値に限定しない。
【0082】
また、本発明の実施例では、第2の画像を「低光沢な透明性材料」で形成しているが、仮に第2の画像を「高光沢な透明性材料」で形成したとしても、情報担持体の正反射光領域の観察において、第2の画像を視認することはできる。その場合、第2の画像における背景部の干渉色と、画像部の透明性材料の光沢が、共に明度が高くなるため、画像部と背景部の明度差が少なくなり、結果的に視認性が低下するため、第2の画像は、「低光沢な透明性材料」で形成することが望ましい。
【0083】
また、第2の画像は、インキに限らず、下地が視認できる程度の透明性と厚みを持つラミネートフィルム等で形成することもできるが、工程が複雑になり、コストが増大することや、網点による多階調画像を形成できない等の問題があるため、好ましい形態ではない。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明の最良の形態における情報担持体(1)を示す図である。
【図2】本発明の最良の形態における第1の画像(4)を示す図である。
【図3】本発明の最良の形態における第2の画像(5)を示す図である。
【図4】(b)は、(a)に示す第1の画像(4)の白枠部分(13)の拡大図である。
【図5】情報担持体(1)と、光源(10)と、観察者の視点(11)の位置関係を示す図である。
【図6】第1の画像(4)のみを印刷した情報担持体を正反射光領域で観察したときの視認図である。
【図7】情報担持体(1)を観察する視点を変更したときの視認図を示す。
【図8】(a)は、印刷領域(3)内の着色パールの太い画線のみで形成された画像要素1を示す図である。(b)は、印刷領域(3)内の着色パールの細い画線のみで形成された画像要素2を示す図である。(c)は、印刷領域(3)内の着色パールの太い画線の上に透明な材料が重なり合い、形成された画像要素3を示す図である。(d)は、印刷領域(3)内の着色パールの細い画線の上に透明な材料が重なり合い、形成された画像要素4を示す図である。
【図9】(a)は、画像要素1の画線と、光源(10)と、観察者の視点(11)の位置関係を示す図である。(b)は、画像要素2の画線と、光源(10)と、観察者の視点(11)の位置関係を示す図である。
【図10】(c)は、画像要素3の画線と、光源(10)と、観察者の視点(11)の位置関係を示す図である。(d)は、画像要素4の画線と、光源(10)と、観察者の視点(11)の位置関係を示す図である。
【図11】本発明の最良の形態及び印刷物2における画像要素1を基準値としたときの各画像要素の色差ΔEを示すグラフである。
【図12】印刷物1における画像要素1を基準値としたときの各画像要素の色差ΔEを示すグラフである。
【図13】印刷物3における画像要素1を基準値としたときの各画像要素の色差ΔEを示すグラフである。
【図14】本発明の実施例1における情報担持体(1´)を示す。
【図15】本発明の実施例1における第1の画像(4´)を示す図である。
【図16】本発明の実施例1における第2の画像(5´)を示す図である。
【図17】情報担持体(1´)を観察する視点を変更したときの視認図を示す。
【図18】本発明の実施例2における情報担持体(1´´)を示す。
【図19】(a)は本発明の実施例2における第1の画像(4´´)であり、(b)は(a)に示す第1の画像(4´´)の黒枠部分(13´´)の拡大図である。
【図20】本発明の実施例2における第2の画像(5´´)を示す図である。
【図21】情報担持体(1´´)を観察する視点を変更したときの視認図を示す。
【図22】本発明の実施例3における情報担持体(1´´´)を示す。
【図23】(a)は本発明の実施例3における第1の画像(4´´´)であり、(b)は(a)に示す第1の画像(4´´´)の富士山山頂白枠部分(13´´´)の拡大図である。
【図24】本発明の実施例3における第2の画像(5´´´)を示す図である。
【図25】情報担持体(1´´´)を観察する視点を変更したときの視認図を示す。
【図26】(a)は画像要素を波線とした場合の第1の画像であり、(b)は白枠部分の拡大図である。
【図27】(a)は画像要素を破線とした場合の第1の画像であり、(b)は白枠部分の拡大図である。
【図28】(a)は画像要素を星型網点とした場合の第1の画像であり、(b)は黒枠部分の拡大図である。
【符号の説明】
【0085】
1 情報担持体
2、2´、2´´、2´´´ 基材
3 印刷画像
4、4´、4´´、4´´´ 第1の画像
5、5´、5´´、5´´´ 第2の画像
6 第1の画像の画像部
7 第1の画像の背景部
8 第2の画像の画像部
9 第2の画像の背景部
10 光源
11 視点
12−2、12−2´、12−2´´ 画像要素1を基準としたときの画像要素2の色差ΔEを示す折れ線
12−3、12−3´、12−3´´ 画像要素1を基準としたときの画像要素3の色差ΔEを示す折れ線
12−4、12−4´、12−4´´ 画像要素1を基準としたときの画像要素4の色差ΔEを示す折れ線
13、13´´、13´´´ 第1の画像の枠部分
A 拡散光領域
B 正反射光領域
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材上の一表面上の印刷画像領域全面に、前記基材と異なる色を有し、かつ、カラーフリップフロップ性を備えた材料を含む印刷用インキで、画像部と背景部の面積率の差が5%以上40%以下で形成された第1の画像と、
前記第1の画像の表面上の少なくとも一部に透明性材料から形成された第2の印刷画像が重ね合せて形成されたことを特徴とする情報担持体。
【請求項2】
前記第2の画像が、面積率100%のベタ画像又は面積率0%〜面積率100%の範囲内で階調表現された多階調画像であることを特徴とする請求項1記載の情報担持体。
【請求項3】
前記カラーフリップフロップ性を備えた材料が、二色性パール顔料、虹彩色パール顔料、鱗片状顔料、鱗片状マイカ顔料、鱗片状金属顔料、ガラスフレーク顔料又はコレステリック液晶顔料の少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1又は2記載の情報担持体。
【請求項4】
前記印刷用インキに含まれる前記カラーフリップフロップ性を備えた材料の配向性を向上させるために、顔料表面に撥水性及び撥油性を持たせる表面処理が施されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項記載の情報担持体。
【請求項5】
前記第1の画像を形成する印刷用インキが、着色顔料を含むことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項記載の情報担持体。
【請求項6】
前記第1の画像は、前記印刷画像領域全面に35%〜80%の面積率の範囲で形成することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項記載の情報担持体。
【請求項7】
前記第1の画像は、盛り上がりのある画像要素で形成されており、前記盛り上がりのある画像要素の高さが、10μm〜150μmの範囲であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項記載の情報担持体。
【請求項8】
前記第2の印刷画像を形成する透明性材料は、透明ニス、インキワニス、透明インキ又はメジウムインキのいずれかであることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項記載の情報担持体。
【請求項9】
前記第1の画像は、万線、波線、破線、円形網点、星型網点又はチェッカーフラッグ模様のいずれかの画像要素による面積率の差異で形成されていることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項記載のいずれかに記載の情報担持体。
【請求項1】
基材と、
前記基材上の一表面上の印刷画像領域全面に、前記基材と異なる色を有し、かつ、カラーフリップフロップ性を備えた材料を含む印刷用インキで、画像部と背景部の面積率の差が5%以上40%以下で形成された第1の画像と、
前記第1の画像の表面上の少なくとも一部に透明性材料から形成された第2の印刷画像が重ね合せて形成されたことを特徴とする情報担持体。
【請求項2】
前記第2の画像が、面積率100%のベタ画像又は面積率0%〜面積率100%の範囲内で階調表現された多階調画像であることを特徴とする請求項1記載の情報担持体。
【請求項3】
前記カラーフリップフロップ性を備えた材料が、二色性パール顔料、虹彩色パール顔料、鱗片状顔料、鱗片状マイカ顔料、鱗片状金属顔料、ガラスフレーク顔料又はコレステリック液晶顔料の少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1又は2記載の情報担持体。
【請求項4】
前記印刷用インキに含まれる前記カラーフリップフロップ性を備えた材料の配向性を向上させるために、顔料表面に撥水性及び撥油性を持たせる表面処理が施されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項記載の情報担持体。
【請求項5】
前記第1の画像を形成する印刷用インキが、着色顔料を含むことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項記載の情報担持体。
【請求項6】
前記第1の画像は、前記印刷画像領域全面に35%〜80%の面積率の範囲で形成することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項記載の情報担持体。
【請求項7】
前記第1の画像は、盛り上がりのある画像要素で形成されており、前記盛り上がりのある画像要素の高さが、10μm〜150μmの範囲であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項記載の情報担持体。
【請求項8】
前記第2の印刷画像を形成する透明性材料は、透明ニス、インキワニス、透明インキ又はメジウムインキのいずれかであることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項記載の情報担持体。
【請求項9】
前記第1の画像は、万線、波線、破線、円形網点、星型網点又はチェッカーフラッグ模様のいずれかの画像要素による面積率の差異で形成されていることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項記載のいずれかに記載の情報担持体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【公開番号】特開2009−269309(P2009−269309A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−122383(P2008−122383)
【出願日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【出願人】(303017679)独立行政法人 国立印刷局 (471)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【出願人】(303017679)独立行政法人 国立印刷局 (471)
【Fターム(参考)】
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