説明

真空ポンプの運転方法

【課題】インバータによる制御範囲を下限側へ拡大し、より低い真空度の真空圧域においても省エネルギー運転ができる真空ポンプの運転方法を提供すること。
【解決手段】オイル潤滑のなされるギアを介して二つの回転軸が同期駆動される真空ポンプ10について、電動モータ20に供給する電力の周波数を調整するインバータ30によって、ロータの回転数を調整することで出力真空圧が設定真空圧になるように制御し、ロータの回転数にかかるインバータ30の制御による下限が、第一段階の下限周波数と、第二段階の下限周波数との少なくとも二段階に設定され、インバータ30の制御による下限を、真空ポンプ10の始動からギアのオイル潤滑が安定化するまでは第一段階の下限周波数とし、真空ポンプ10のギアのオイル潤滑が安定化した後からは第二段階の下限周波数とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二つの回転軸にそれぞれ設けられたロータをシリンダ内で非接触状態に回転させて真空圧力を発生させるように、電動モータの動力によってオイル潤滑のなされるギアを介して前記二つの回転軸が同期駆動される真空ポンプについて、前記電動モータに供給する電力の周波数を調整するインバータの制御によって前記ロータの回転数の制御ができる真空ポンプの運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ロータリーベーンポンプでは、回転数が低下するとブレードの飛び出し不良による機能低下の可能性があるため、インバータで回転数を制御して真空出力を制御する運転方法は採用されていない。このため、このロータリーベーンポンプでは、真空ポンプから出力される真空圧(出力真空圧)の調整には、バネ式の弁構造で設定真空圧以上になった際に空気を漏らすように開口して外気を吸気することが可能なバキュームコントローラが用いられている。
【0003】
このバキュームコントローラによれば、一定の真空圧に保持することができ、到達運転(締切運転)を防止するための安全弁としても機能する。しかし、このロータリーベーンポンプでは、常に一定の回転数を維持した状態で運転されるため、真空出力が小さくてよい場合に省エネルギーとなる運転をすることができない。
【0004】
これに対して、シリンダ内のロータが非接触状態で回転運動される構造の非接触型の真空ポンプにおいては、前述のような機能低下の可能性がないため、インバータによる回転数制御運転が可能になる。なお、非接触型の真空ポンプとしては、クローポンプ、ルーツポンプ、スクリュウポンプなどが挙げられる。
【0005】
インバータ制御がなされる真空ポンプとしては、例えば、ドライ真空ポンプの吸気口で実吸気圧力(出力真空圧)を検出した上、真空排気容量制御装置(コントローラ)で設定吸気圧力(設定真空圧)とを比較し、その比較の偏差を以てインバータの出力周波数、したがって、ポンプの回転数を制御するようにしたもの(特許文献1参照)が、提案されている。これによれば、ポンプによって真空チャンバを真空排気する際には、自動圧力調整バルブ(バキュームコントローラ)は不要とされ、また、実吸気圧力(出力真空圧)を到達圧力より高い圧力で使用する場合には、回転数の低下により省エネルギー効果を期待し得るものである。
【0006】
しかしながら、真空チャンバを設置しない仕様の場合に、非接触型の真空ポンプにおけるロータの回転数がインバータ制御による下限になっていて、出力真空圧が設定真空圧よりも高い真空度の場合には、インバータによって出力真空圧を低下させるように制御することができない。なお、圧縮空気と異なり、最大1気圧分の真空圧を、蓄えることは難しい。従って、排気流量が一定以上である場合に、真空チャンバを設置することは実質的に無意味になり、真空チャンバを設置することは稀である。
【0007】
インバータ制御において、真空ポンプのロータの回転数に下限を設定するのは、以下の理由による。ロータの回転数が下限を超えて低速になると、ギアがギアボックス内で貯留されたオイルをかき上げることで行われるオイル潤滑が十分になされない場合が生じ、電動モータの回転軸と真空ポンプのロータの回転軸とを連結するカップリングに固定された冷却用のファン(羽根車)の回転数も低速になって、冷却が十分になされない場合が生じるためである。
【0008】
また、本出願人によれば、先に、空気圧装置ステーションとして、真空ポンプやブロア等の負圧や正圧の空気圧を生じさせる空気圧装置と、その空気圧装置を複数収納できると共に閉鎖空間に収納することで防音する収納ボックスと、空気圧装置によって加熱された収納ボックス内を冷却すべく、収納ボックス内で実質的に下方から上方への一方向へ流れる冷却用空気流を発生させる送風装置とを具備する(特許文献2参照)ものが提案されている。これによれば、複数の空気圧装置を、集中的に収納して防音すると共に、好適に冷却して集中的に管理できる。しかし、この空気圧装置ステーションでは、インバータ制御による省エネルギー化については、検討されていなかった。
【0009】
さらに、先行技術として、脱気手段と真空ポンプとを真空吸引ラインを介して接続し、該真空ポンプにより前記脱気手段内の被脱気液を真空脱気する構成の脱気装置の運転方法であって、前記脱気手段内または前記真空吸引ライン内の真空圧力を検出し、該検出値に基づいて前記真空ポンプの回転数を制御し、前記検出値が予め設定した下限圧力値に到達すると、前記真空ポンプを高速運転から低速運転に切り換えるとともに、前記真空吸引ラインへ所定の空気を導入する(特許文献3参照)ものが提案されている。
【0010】
また、先行技術として、被脱気液を供給する圧送ポンプを備えた供給ラインと脱気液を取り出す排気ポンプを備えた排出ラインを接続してなる脱気塔に真空ポンプに連通する真空吸引ラインを接続した真空脱気装置において、前記排出ポンプに回転数を制御する制御器を備えた再生ポンプを用い、前記脱気塔に真空圧力計を設けるとともに前記真空吸引ラインに電磁弁を備えた吸気ラインを接続し、前記真空圧力計と前記電磁弁を回線を介して真空制御器に接続した真空脱気装置(特許文献4参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平05−231381号公報(第1頁)
【特許文献2】特開2007−127114号公報(第1頁)
【特許文献3】特開平10−253005号公報(特許請求の範囲、図1)
【特許文献4】特開平07−213805号公報(特許請求の範囲、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
真空ポンプの運転方法に関して解決しようとする問題点は、二つの回転軸にそれぞれ設けられたロータをシリンダ内で非接触状態に回転させて真空圧力を発生させるように、電動モータの動力によってオイル潤滑のなされるギアを介して前記二つの回転軸が同期駆動される真空ポンプについて、前記ロータのインバータ制御による回転数の下限は一つの所定値に設定されており、より低い真空度の設定真空圧については外気を導入して出力真空圧を低下させることになり、より優れた省エネルギー運転が難しいことにある。
そこで本発明の目的は、インバータによる制御範囲を拡大し、より低い真空度の真空圧域においても省エネルギー運転ができる真空ポンプの運転方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記目的を達成するために次の構成を備える。
本発明に係る真空ポンプの運転方法の一形態によれば、 二つの回転軸にそれぞれ設けられたロータをシリンダ内で非接触状態に回転させて真空圧力を発生させるように、電動モータの動力によってオイル潤滑のなされるギアを介して前記二つの回転軸が同期駆動される真空ポンプについて、前記電動モータに供給する電力の周波数を調整するインバータの周波数制御によって前記ロータの回転数の制御ができる真空ポンプの運転方法において、前記真空ポンプの真空出力側の流路における出力真空圧と設定真空圧とを比較して前記インバータによって前記ロータの回転数を調整することで前記出力真空圧が前記設定真空圧になるように制御し、前記ロータの回転数にかかる前記インバータの制御による下限が、第一段階の下限周波数と、該第一段階の下限周波数よりも低周波数となる第二段階の下限周波数との少なくとも二段階に設定され、前記インバータの制御による下限を、前記真空ポンプの始動から前記ギアのオイル潤滑が安定化するまでは前記第一段階の下限周波数とし、前記真空ポンプの前記ギアのオイル潤滑が安定化した後からは前記第二段階の下限周波数とする。
【0014】
また、本発明に係る真空ポンプの運転方法の一形態によれば、前記真空ポンプの始動から前記ギアのオイル潤滑が安定化するまでとは、所要の時間が経過すること及び/又はオイルの温度が所定値以上になることによって判断されることを特徴とすることができる。
また、本発明に係る真空ポンプの運転方法の一形態によれば、前記ロータの回転数が前記インバータの制御による下限になっていて、前記出力真空圧が前記設定真空圧よりも高い真空度の場合には、前記真空ポンプの真空出力側の流路に設けられた圧力調整弁において外気が吸気されるように開口を生じさせ、前記出力真空圧の真空度を低下させることで前記設定真空圧になるように制御することを特徴とすることができる。
【0015】
また、本発明に係る真空ポンプの運転方法の一形態によれば、前記圧力調整弁が、電磁開閉弁又は電磁比例制御弁であることを特徴とすることができる。
また、本発明に係る真空ポンプの運転方法の一形態によれば、前記真空ポンプが複数台設けられ、該真空ポンプの少なくとも一台について前記インバータによって回転数が調整されるように、前記インバータを制御するコントローラが用いられることを特徴とすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る真空ポンプの運転方法によれば、インバータによる制御範囲を下限側へ拡大し、より低い真空度の真空圧域においても省エネルギー運転ができるという特別有利な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る真空ポンプの運転方法及び真空ポンプユニットの形態例を示すブロック図である。
【図2】図1の形態例の制御方法を説明するフローチャート図である。
【図3】本発明に係る真空ポンプユニットの形態例を示す(a)は正面図、(b)は側面図である。
【図4】図3の形態例の平面図である。
【図5】図3の形態例の側面パネルを省略した組み立て斜視図である。
【図6】本発明に係る真空ポンプの形態例を示す断面図である。
【図7】本発明に係る真空ポンプの要部の形態例を示す断面図である。
【図8】本発明に係る真空ポンプの要部の形態例を示す斜視分解図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る真空ポンプの運転方法及び真空ポンプユニットの形態例を、添付図面(図1〜8)に基づいて詳細に説明する。
本発明に係る真空ポンプの運転方法及び真空ポンプユニットは、電動モータ20の駆動力によってシリンダ内のロータが非接触状態で回転運動される構造の真空ポンプ10において発生される真空出力を、電動モータ20に供給する電力の周波数を調整できるインバータ30によって制御ができるという機能をベースにしている。なお、シリンダとは、気体が吸入されて排気される空間を形成しているものであり、ロータとは、軸回転する回転体であって、例えば、クロー形、ルーツ形、スクリュウ形などの形態が挙げられる。
【0019】
真空ポンプ10は、図3、5〜8に示すように、二つの回転軸131、132(図7、8参照)にそれぞれ設けられたロータ130A、130B(図7、8参照)をシリンダ110(図3、5〜8参照)内で非接触状態に回転させて真空圧力を発生させるように、電動モータ20の動力によってオイル潤滑のギア137、137(図6〜8参照)を介して前記二つの回転軸が同期駆動される非接触型のポンプになっている。21はサイレンサであり、シリンダ110から排出される排気の流路の一部になっている(図3、5、6参照)。また、145はギアボックス(図3、6〜8参照)である。図6に示すように、15はポンプ同軸送風機構であり、15aは冷却用のファン(羽根車)であって、電動モータ20の回転軸と同軸に固定され、送風用ケーシング15b内に配されている。本形態例の冷却用のファン15aは、電動モータ20の回転軸と真空ポンプ10の一方のロータ130Aの回転軸131とを連結するカップリングに固定されている。ここで、本発明に係る真空ポンプ10の一例であるクローポンプの形態例について、図7、8に基づいて簡単に説明する。121は吸気口であり、シリンダ110の側周壁に開口している。122は排気口であり、シリンダ110の一方の端面を覆う一方のサイドプレート120Aに開口されている。また、二つのロータ130A、130Bは、片持ちの支持状態に軸受けされた各回転軸131、132の自由端側に固定されている。そして、各回転軸131、132を支持するベアリング134、134を含む軸受部135は、シリンダ110の他方の端面を塞ぐ他方のサイドプレート120Bの外側(シリンダ110とは反対側)に連続して設けられている。また、他方のサイドプレート120Bの外側におけるギアボックス145内で二つのギア137、137が噛合しており、二つのロータ130A、130Bが反対方向に同一速度で回転するように設けられている。ギアボックス145内にはオイルが封入されており、ギア回転による掻き上げによってギア137、137、軸受(ベアリング133、134)、オイルシール136にオイルを供給して潤滑する。なお、非接触型の真空ポンプとしては、クローポンプの他に、ルーツポンプ、スクリュウポンプなどが挙げられる。
【0020】
インバータ30は、電源(図示せず)に接続されており、後述するコントローラ60によって制御されるように接続されていると共に、電動モータ20へ周波数が調整された電力を供給できるように接続されている(図1参照)。
【0021】
このインバータ30によれば、定格の真空出力よりも実際に要求される真空出力が小さい場合に、真空ポンプ10(回転ポンプ)の回転数を下げて、真空圧力や排気流量の調整を適切に行うことができる。これによれば、電力の消費量を削減できるため省エネルギー化を実現でき、騒音の低下による静音化が可能になり、オイル温度や軸受温度の低下によって長寿命化が期待できると共にメンテナンス時間の延長化が期待できる。
【0022】
40は真空圧センサであり、真空ポンプ10の真空出力側の流路11における出力真空圧を計測するように設けられている。この真空圧センサ40としては、計測データ(計測圧力)を電気的信号によって出力できるものを用いることで、制御の自動化を適切に行うことができる。
【0023】
50は圧力調整弁であり、真空ポンプ10の真空出力側の流路11において外気が吸気されるように開口を生じさせることで出力真空圧の真空度を低下させるように作動する。
この圧力調整弁50としては、電磁開閉弁を用いることができる。これによれば、簡単な構成によって安価に、低い真空度の真空圧を出力するための制御の自動化が可能になる。さらに、この圧力調整弁50としては、電磁比例制御弁を用いることもできる。これによれば、低い真空度の真空圧を出力するための制御の自動化が可能になると共に、より精密な制御が可能になる。
【0024】
60はコントローラであり、真空圧センサ40によって計測された出力真空圧と設定真空圧とを比較してインバータ30によって真空ポンプ10のロータの回転数を調整することで出力真空圧が設定真空圧になるように制御し、ロータの回転数がインバータ30の制御による下限になっていて出力真空圧が設定真空圧よりも高い真空度の場合には圧力調整弁50を作動させて出力真空圧の真空度を低下させることで設定真空圧になるように制御するように設けられている。
【0025】
すなわち、以上の構成に係る真空ポンプユニットの形態例によれば、回転数制御(インバータ周波数制御)で圧力(出力真空圧)の調整が可能であるため、通常は回転数制御で調圧を行なう。これによって、省エネルギー化などの前述した効果を実現できる。
そして、低圧力域(要求される真空度が低い場合の出力真空圧の範囲)では、圧力調整弁50を動作させて調圧を行なうように構成されている。これによれば、真空ポンプユニットにおいて、より幅の広い出力真空圧の範囲での調圧が可能になり、使用者のニーズに幅広く対応できる。
【0026】
ところで、インバータ30で制御される周波数の下限は、例えば、20Hzに設定することができる。このように周波数の下限が設定される理由は、真空ポンプ10のオイル潤滑について、回転数が小さいとギアボックス内でのオイルの掻き揚げが少なくなって潤滑油不足となる可能性が生じ、真空ポンプ10の回転軸に固定された冷却用のファン(羽根車)15aによる冷却用の風量が低下して真空ポンプが過熱運転となる可能性が生じることにある。このため、下限周波数以下で調圧されるはずの低圧力域では、回転数制御(インバータ制御)による調圧が適切にできない可能性がある。従って、低圧力域では圧力調整弁50を作動させ、空気をリークさせる状態(外気を吸気する状態)として調圧を行なう。図1に示した形態例では、圧力調整弁50としての電磁開閉弁が、間欠動作を行なうように設けられている。なお、真空ポンプ10が過熱運転となることは、後述するような別置きの冷却ファン装置90などによって防止することが可能である。
【0027】
そして本発明によれば、ロータの回転数にかかるインバータ30の制御による下限が、第一段階の下限周波数と、その第一段階の下限周波数よりも低周波数となる第二段階の下限周波数との少なくとも二段階に設定されている。そして、インバータ30の制御による下限を、真空ポンプ10の始動から前記ギアのオイル潤滑が安定化するまでは第一段階の下限周波数とし、真空ポンプの前記ギアのオイル潤滑が安定化した後からは第二段階の下限周波数とするように、コントローラ60によって制御される。
【0028】
ロータの回転数の下限が少なくとも二段階に設定される場合、例えば、インバータ30の第一段階の下限周波数を20Hzとし、第二段階の下限周波数を15Hzとすることができる。また、前記真空ポンプの始動から前記ギアのオイル潤滑が安定化するまでとは、所要の時間が経過すること及び/又はオイルの温度が所定値以上になることによって判断されるタイミングとすることができる。例えば、通常は運転開始後の2時間程度でオイル温度が周囲温度に対して約50℃上昇して安定化するため、運転開始から2時間後を第一段階の下限周波数から第二段階の下限周波数へ移行する時期とすることができる。オイルの温度が安定化することで、オイルの粘度が安定化し、真空ポンプの安定的な運転が可能になるため、その温度を判断基準としてもよい。例えば、オイルの温度を直接的又は間接的に検出する温度センサを設け、その検出情報に基づいてロータの下限回転数を変化させるようにしてもよい。
【0029】
このようにインバータ30による周波数の制御範囲をその下限側について拡大し、ロータの下限回転数を引き下げることで、より低い真空度の真空圧域について省エネルギー運転ができる。また、ロータの下限回転数を引き下げることで、より低い真空度の真空圧域について、圧力調整弁の使用を低減できる。このように、圧力調整弁の使用を低減することで、余分な空気を吸うことがないため、省エネルギー運転ができる。
また、オイルの温度(油温)の安定を運転時間によって判断するように一定の時間を設定するタイマー制御では、より精密な制御は難しいが、より低コストで構成できる。また、油温の安定を温度センサの温度によって判定することで、より精密な制御を行うことができる。そして、温度センサの温度による判定では、時間での判定によれば安全率を考えた一定時間(例えば2時間)かかっていたものが、運転条件によってはその判定までの時間を短縮できるため、短時間で下限回転数を引き下げて省エネルギー運転に移行することができる。そして、ロータの回転数の下限が三段階以上に設定される場合、より精密な制御を行うことができる。
【0030】
70は安全弁であり、真空ポンプ10の真空出力側の流路11において出力真空圧が上限の設定真空圧よりも高くなった場合に外気が吸気されるように開口を生じさせることで出力真空圧の真空度を低下させるように作動する。
【0031】
この安全弁70によれば、制御系故障の最悪事態を想定し、安全装置としてバキュームコントローラと同じ構造のバネ式安全弁を用い、締切運転の防止を行なうことができる。従って、締切運転による回転必要トルクの増加で過電流が発生することを防止でき、安全な運転を確保できる。
【0032】
図3〜5に示すように、80は収納ボックスであり、真空ポンプ10を収納すると共に、本形態例ではインバータ30やコントローラ60等の電装部品を含む全ての構成要素を収納している。これにより、真空ポンプユニットがパッケージ化した形態になっている。また、この収納ボックス80によれば、真空ポンプ10を閉鎖空間に収納して遮音するため、防音ボックスになっている。
なお、本形態例では、二台の真空ポンプ10が収納されているが、一台のみを収納するようにしてもよいし、三台以上の複数台を収納するように構成してもよい。
【0033】
図3、4に示すように、90は冷却ファン装置であり、収納ボックス80内に設置され、冷却空気を流通させて真空ポンプ10を冷却するように設けられている。この冷却ファン装置90は、冷却空気として外気を利用し、図中の矢印のように外気を取り込んで排気することで流通させることができる。収納ボックス80の内空間が、冷却空気(外気)の好適な通路(流路)になっている。91は冷却空気の排気口であり、収納ボックス80の天板面に設けられている。
なお、収納ボックス80内に水冷式の冷却器などの冷却装置を設置すれば、冷却空気を循環させることも可能になる。
【0034】
このように、冷却ファン装置90によって真空ポンプ10を冷却できることで、前述したようなインバータ30で制御される周波数の下限をさらに低くして、真空ポンプ10のロータの回転数(回転速度)をさらに低速にすることや、その下限の設定を不要にすることが可能になる。すなわち、周波数の低下に伴って真空ポンプ10の回転軸に固定された冷却用のファン(羽根車)の回転数が低下することによる真空ポンプ10の過熱が、別に設置された冷却ファン装置90によって解消できるためである。これによれば、低圧力域で作動させる圧力調整弁50を不要にすることが可能になり、装置構成を簡略化できる。なお、オイル潤滑については、例えば、グリス封入型のベアリングを採用するなど、他の周知技術によって対応することが可能である。
【0035】
また、本形態例の収納ボックス80内には、高さ方向の中途部に真空ポンプ10が載置される載置台部81が少なくとも一段設けられている。本形態例では、二段の載置台部81が設けられている。そして、その載置台部81は、図5に示すように冷却空気の流れを許容するように開口部82を有している。
【0036】
このように複数段の載置台部81によって、複数の真空ポンプ10を立体的に好適に収納することができる。従って、それらの設置スペースを小さくできる効果がある。また、載置台部81には開口部82があるため、冷却空気がスムースに流れ、収納ボックス80内を好適に冷却できる。また、通気抵抗を低く抑えることができ、送風装置(冷却ファン装置90)の負担を軽減できる。
【0037】
さらに、本形態例の冷却ファン装置90は、収納ボックス80の上部に配置され、冷却空気が下方から上方へ流れるように設けられている(図3、4参照)。
このように冷却空気を下側から吸引して上側へ吐出するように設けられているため、各真空ポンプ10によって加熱された空気の上昇気流といっしょに、下から上への一方向の冷却空気の流れを好適に発生させることができる。つまり、対流現象と冷却ファン装置90による空気の流れを一致させて、効率良く送風することができる。
【0038】
冷却ファン装置90は、定速運転であることで上記の冷却効果を確実に得ることが可能であるが、真空ポンプ10の運転状況(回転数)や環境に連動して、回転数制御又はON−OFF制御をすることで、さらに省エネルギー化を図ることも可能である。
【0039】
また、本発明では、真空ポンプ10が複数台設けられ、その真空ポンプ10の少なくとも一台についてインバータ30によって回転数が調整できるように設けられ、コントローラ60が少なくとも一台のインバータ30に接続されて制御できるように設けることができる。本形態例では、図1に示すように、二台の真空ポンプ10、10が設けられ、それぞれがインバータ30、30に接続されて、コントローラ60によって制御されるように構成されている。
【0040】
このように複数台のインバータ30によって回転数が調整される複数台の真空ポンプ10を備えることで、台数制御を行なうことができる。
例えば、使用者による要求流量が一台の真空ポンプ10の定格量より少ないときは、一台の真空ポンプ10のみを稼働させればよく、要求される真空出力の増大に応じて二台目以降の真空ポンプ10を稼働させればよい。
なお、台数制御で運転中の真空ポンプ10の停止は、空気の流れがなく圧力を維持している場合に行なえばよい。また、空気が流れ、圧力が低下した場合には、まず運転中の真空ポンプ10の回転数を上げて圧力を上げ、それで十分でない場合に次の一台の真空ポンプ10を起動させるように制御すればよい。
【0041】
また、複数台の真空ポンプ10を台数制御できることで、一台の真空ポンプ10に異常があって運転できない場合は他の真空ポンプ10を運転させればよく、複数台のメンテナンス時期をずらすことが可能になるなど、相互に補完することが可能になる。
なお、定速の真空ポンプ10が一台と、インバータ制御による真空ポンプ10の組み合わせでは、定速の真空ポンプ10のフル運転と+α流量での運転の場合、+αの部分はインバータ周波数下限の圧力調整弁による制御を加えた運転となる可能性があるため、動力の無駄が生じる恐れがある。これに対して、インバータ制御による真空ポンプ10のみでの構成の場合は、上記のような無駄が生じないため、省エネルギー化を実現するためには有利である。
【0042】
次に、図2のフローチャートに基づいて、本形態例の真空ポンプの運転方法について説明する。
先ず、使用者が圧力の設定によって設定真空圧値がコントローラ60に入力され、運転スイッチ(SW)がONされる。
次に、真空ポンプ10の真空出力側の流路における出力真空圧(測定圧力)と設定真空圧(設定圧力)とを比較して、PID制御が開始され、インバータ30によって真空ポンプ10のロータの回転数を調整することで測定圧力が設定圧力になるように制御する。
【0043】
この制御において、本形態例では、真空ポンプ10のロータの回転数を決定するインバータ30によるモータ周波数の下限が、20Hzに設定されている。
PID制御の結果、測定圧力が設定圧力と等しくなった場合には、モータ周波数の決定がなされてポンプ運転がされ、外乱がない状態では運転が継続される。
【0044】
そして、PID制御によっても、測定圧力が設定圧力と等しくならない場合(測定圧力が設定圧力よりも高い真空度の場合)には、電磁弁(圧力調整弁50)が作動し、真空ポンプ10の真空出力側の流路11において外気が吸気されるように開口を生じさせ、出力真空圧(測定圧力)の真空度を低下させることで設定圧力になるように制御する。
なお、測定圧力が設定圧力の上限を超えた場合には、「安全弁動作」によって安全弁70が開くように設定されている。
【0045】
以上、本発明につき好適な形態例を挙げて種々説明してきたが、本発明はこの形態例に限定されるものではなく、発明の精神を逸脱しない範囲内で多くの改変を施し得るのは勿論のことである。
【符号の説明】
【0046】
10 真空ポンプ
11 真空出力側の流路
20 電動モータ
21 サイレンサ
30 インバータ
40 真空圧センサ
50 圧力調整弁
60 コントローラ
70 安全弁
80 収納ボックス
81 載置台部
82 開口部
90 冷却ファン装置
110 シリンダ
130A ロータ
130B ロータ
131 回転軸
132 回転軸
137 ギア
145 ギアボックス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二つの回転軸にそれぞれ設けられたロータをシリンダ内で非接触状態に回転させて真空圧力を発生させるように、電動モータの動力によってオイル潤滑のなされるギアを介して前記二つの回転軸が同期駆動される真空ポンプについて、前記電動モータに供給する電力の周波数を調整するインバータの周波数制御によって前記ロータの回転数の制御ができる真空ポンプの運転方法において、
前記真空ポンプの真空出力側の流路における出力真空圧と設定真空圧とを比較して前記インバータによって前記ロータの回転数を調整することで前記出力真空圧が前記設定真空圧になるように制御し、
前記ロータの回転数にかかる前記インバータの制御による下限が、第一段階の下限周波数と、該第一段階の下限周波数よりも低周波数となる第二段階の下限周波数との少なくとも二段階に設定され、
前記インバータの制御による下限を、前記真空ポンプの始動から前記ギアのオイル潤滑が安定化するまでは前記第一段階の下限周波数とし、前記真空ポンプの前記ギアのオイル潤滑が安定化した後からは前記第二段階の下限周波数とすることを特徴とする真空ポンプの運転方法。
【請求項2】
前記真空ポンプの始動から前記ギアのオイル潤滑が安定化するまでとは、所要の時間が経過すること及び/又はオイルの温度が所定値以上になることによって判断されることを特徴とする請求項1記載の真空ポンプの運転方法。
【請求項3】
前記ロータの回転数が前記インバータの制御による下限になっていて、前記出力真空圧が前記設定真空圧よりも高い真空度の場合には、前記真空ポンプの真空出力側の流路に設けられた圧力調整弁において外気が吸気されるように開口を生じさせ、前記出力真空圧の真空度を低下させることで前記設定真空圧になるように制御する請求項1又は2記載の真空ポンプの運転方法。
【請求項4】
前記圧力調整弁が、電磁開閉弁又は電磁比例制御弁であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の真空ポンプの運転方法。
【請求項5】
前記真空ポンプが複数台設けられ、該真空ポンプの少なくとも一台について前記インバータによって回転数が調整されるように、前記インバータを制御するコントローラが用いられることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の真空ポンプの運転方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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