説明

真空ポンプ故障予知方法、真空ポンプ故障予知システム、及び真空ポンプ集中監視システム

ドライ真空ポンプの故障を予知することができる真空ポンプ故障予知方法、真空ポンプ故障予知システム、及び真空ポンプ集中監視システムが提供される。真空ポンプ故障予知方法は、真空ポンプのロータを回転させるモータの電流の積分値若しくは平均値が所定の警報設定値を超えたときに故障の発生を判定し、警報を発生する。ケーシングと該ケーシング内に回転自在に配置されたロータとを具備し、該モ一夕の回転により気体を吸込み吐出す真空ポンプの故障を予知する真空ポンプ故障予知システムにおいては、ロータは複数段を備え、ロ一夕段間に圧力センサを設ける。ロータを回転させるモータの電流の積分値若しくは平均値の計算を行い、該積分値若しくは平均値が所定の警報設定値を超えたときに真空ポンプの故障予知を行う故障予知部が設けられる。圧力センサで検出した圧力値に基づいて、故障予知部は故障予知計算方法を切り替え又は中断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロセスの反応副生成物が堆積するドライ真空ポンプの故障を予知するための真空ポンプ故障予知方法、真空ポンプ故障予知システム、及び真空ポンプ集中監視システムに関するものである。
【0002】
背景技術の説明
近年、半導体デバイスの高集積化にともない半導体ウェーハの大径化、液晶基板の大型化が進んでおり、半導体ウェーハや液晶基板の一枚当りの単価も高価になってきている。そのため、製造工程を安定化させ、製品歩留まりを高める必要がある。特にドライ真空ポンプのように製造プロセスに直接影響を与える機器については、その機器の安定稼働は重要な課題になってきている。
【0003】
半導体デバイス製造で使用されるLP−CVD(薄膜減圧化学気相成長法)のように一回の工程で多数のウェーハを一度に処理するバッチ処理装置の場合、処理中にドライ真空ポンプが突然停止してしまうと多数の半導体ウェーハがダメージを受けるため高額な損害を発生することがある。また、液晶においても基板面積が4mを越えるところまで大型化が進んでおり、基板の損傷による損害が非常に大きくなっている。これについては、特開2005−9337号公報参照。
【0004】
このような状況の中で、ドライ真空ポンプの故障を予知し、事前予防することで製品の損害を防ぐシステムの要求が高まりつつある。これに対して、現状では、こうした要求を満たすよう、集中監視システムが多数のドライ真空ポンプの運転管理を行っている。この現状の集中監視システムは、多数のドライ真空ポンプの運転状況を少数のコンピュータ(パソコン)で監視することはできるが、ドライ真空ポンプの故障を予知する機能は備えていない。
【0005】
発明の開示
本発明は上述の課題に鑑みて提案されたものであり、真空ポンプ故障予知方法、真空ポンプ故障予知システム、及び真空ポンプ集中監視システムを提供することを目的とする。
【0006】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の真空ポンプ故障予知方法は、真空ポンプの故障を予知するために、前記真空ポンプのロータを回転させるモータの電流の積分値若しくは平均値が所定の警報設定値を超えた時に故障を予知し警報を発生することを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の真空ポンプ故障予知方法は、請求項1に記載の真空ポンプ故障予知方法において、前記警報設定値を、前記モータの初期運転時の電流平均値に所定値αを加算した値にしたことを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の真空ポンプ故障予知方法は、請求項1又は2に記載の真空ポンプ故障予知方法において、前記真空ポンプの故障予知を、前記モータの電流値が単位時間当りに前記警報設定値を超えた回数で判断することにより行うことを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の真空ポンプ故障予知システムは、ケーシングと該ケーシング内に回転自在に配置されたロータとを具備し、該モ一夕の回転により気体を吸込み吐出す真空ポンプの故障を予知するシステムであって、前記ロータを複数段備え、該ロ一夕段間に圧力センサを設けると共に、前記ロータを回転させるモータの電流の積分値若しくは平均値の計算を行い該積分値若しくは平均値が所定の警報設定値を超えた時に前記真空ポンプの故障予知を行う故障予知部を設け、前記圧力センサで検出した圧力値によって、前記故障予知部で故障予知計算方法を切り替える若しくは中断することを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載の真空ポンプ故障予知システムは、請求項4に記載の真空ポンプ故障予知システムにおいて、前記故障予知部を前記真空ポンプの本体の制御部に設けることを特徴とする。
【0011】
請求項6に記載の真空ポンプ集中監視システムは、複数の真空ポンプをネットワークに接続するネットワークアダプタと、該複数のネットワークアダプタを集中監視する集中監視用コンピュータとを備え、前記ネットワークアダプタを介して各真空ポンプから送られて来るポンプデータを前記集中監視用コンピュータで監視する真空ポンプ集中監視システムである。この集中監視システムは、前記真空ポンプと前記アダプタとの間に、該真空ポンプの故障を予知する故障予知部を備えたポンプ故障予知アダプタを設けること、又は、前記ネットワークアダプタに前記真空ポンプの故障を予知する故障予知部を設けることを特徴とする。
【0012】
請求項7に記載の真空ポンプ集中監視システムは、請求項6に記載の真空ポンプ集中監視システムにおいて、前記ポンプ故障予知アダプタ又はネットワークアダプタが、真空ポンプのデータを蓄積するポンプデータ蓄積部を備え、前記故障予知部が該ポンプデータ蓄積部のポンプデータに基づいてポンプ故障の予知を行うことを特徴とする。
【0013】
請求項1乃至3に記載の真空ポンプ故障予知方法によれば、真空ポンプのロータを回転させるモータの電流の積分値若しくは平均値が所定の警報設定値を超えた時に故障を予知するので、簡単でしかも精度良く真空ポンプの故障を予知できる真空ポンプ故障予知方法を提供することができる。特に、請求項2に記載の発明は、モータの初期運転時の電流平均値に所定値αを加えて警報設定値を生成するので、モータの電流値がポンプの個体差により変化する場合でも、当該ポンプに合った警報設定値を設定できる。また、請求項3に記載の発明は、ポンプの故障をモータの電流値が単位時間当りに警報設定値を超えた回数で判断をするので、ポンプの故障が近づいた状態を精度良く検知できる。
【0014】
請求項4及び5に記載の真空ポンプ故障予知システムによれば、ロ一夕段間に圧力センサを設けると共に、ロ一夕を回転させるモ一タ電流の積分値若しくは平均値の計算を行い、該積分値若しくは平均値が所定の警報設定値を超えた時に真空ポンプの故障予知を行う故障予知部を設け、圧力センサで検出した圧力値によって、前記故障予知部で、故障予知計算方法を切り替える若しくは中断するので、ガス流入量の変動によりポンプ負荷も変動するドライ真空ポンプの故障を精度良く予知できる真空ポンプ故障予知システムを提供できる。
【0015】
請求項6及び7に記載の真空ポンプ集中監視システムによれば、真空ポンプと前記アダプタとの間に該真空ポンプの故障を予知する故障予知部を備えたポンプ故障予知アダプタを設けるか、又は、前記ネットワークアダプタに前記真空ポンプの故障を予知する故障予知部を設けたので、例えば既存の真空ポンプ集中監視システムに各真空ポンプの故障を予知する機能を持たせることが簡単に実現できる。
【0016】
発明を実施するための最良の形態
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。半導体デバイスや液晶基板の製造に使用されるドライ真空ポンプでは、プロセス排気の結果生じる反応副生成物がポンプ内に堆積しポンプが停止する例が多く見られる。特に反応副生成物が多量に発生する、液晶基板の製造工程で用いられるP−CVD(PIasma−CVD)や半導体デバイスの製造工程で用いられるLP−CVD等の重負荷プロセス用のドライ真空ポンプにおいては、この傾向が顕著である。本発明はこのような重負荷プロセス用のドライ真空ポンプの故障予知に好適な真空ポンプ故障予知方法、真空ポンプ故障予知システム、及び真空ポンプ集中監視システムを提供する。
【0017】
重負荷プロセス用ドライ真空ポンプの故障は、主に、ドライ真空ポンプに流入する反応副生成物がポンプ内部に堆積し、それによりロ一夕がロックされることによって起こる。反応副生成物がポンプ内部に堆積する場合、ロ一夕とケーシングとの間に付着した反応副生成物にロ一夕が摺動接触すると、徐々に負荷が増大し、ロ一夕を駆動するモータの電流値が少しずつ上昇して最終的には過負荷停止を起す。一方、反応副生成物の堆積によりポンプ内部の温度上昇を起す場合もあるので、温度によってポンプの故障を予知することが考えられる。しかし、温度は冷却水等の、反応副生成物以外の影響も受けるため、ポンプを駆動(ロ一夕を回転)するモータの電流値(以下、「ポンプ電流値」という)を使用するほうが、より直接的に、反応副生成物のポンプ内部への堆積を検知できる。以下、ポンプ電流値を監視してドライ真空ポンプの故障を予知する真空ポンプ故障予知方法を説明する。図4は、ポンプ電流に現れるパルスからメインポンプの故障を予知する方法を説明するための図である。
【0018】
重負荷プロセス用の真空ポンプは、大気圧から駆動するメインポンプと、メインポンプを補助する補助ポンプとして作動するブースタポンプとで構成される。メインポンプには図1に示す構成のスクリュー型のドライ真空ポンプが使用され、ブースタポンプには図2に示す構成のルーツ型のドライ真空ポンプが使用される。スクリュー型のドライ真空ポンプ10は、図1に示すように、ケーシング11内にスクリュー型のロ一夕12を配置した構造であり、ロータ12の主軸13は軸受14、15に回転自在に支持される。また、ルーツ型のドライ真空ポンプ20は、図2に示すように、ケーシング21内にルーツ型のロータ22を配置した構造であり、ロータ22の主軸23は軸受24、25に回転自在に支持される。
【0019】
スクリュー型のドライ真空ポンプ10では、図1に示すように、反応副生成物Mがケーシング11の吐出し側内面に堆積し、堆積した反応副生成物Mにスクリュー型のロータ12が摺動接触する。また、ルーツ型のドライ真空ポンプ20では、図2に示すように、反応副生成物Mがケーシング21の内面に堆積し、ケーシング側面に堆積した反応副生成物Mにルーツ型のロータ22の側面が摺動接触する。
【0020】
図3は、本発明に係る真空ポンプ故障予知方法の処理フローを示す図である。このフローにおいては、メインポンプであるスクリュー型のドライ真空ポンプと、ブースタポンプであるルーツ型のドライ真空ポンプとで、反応副生成物の堆積によるポンプ電流値の挙動が異なるため、個別の故障予知計算を行うようにしている。最初に、故障予知診断の基準となる警報設定値を決定し、その後、メインポンプ及びブースタポンプの故障予知計算を行う。なお、メインポンプがルーツ型の真空ポンプである場合には、そのための故障予知計算はブースタポンプと同様である。
【0021】
〔故障予知警報設定値の決定〕
先ず、ステップST1で、故障予知警報設定値を決定する。ポンプ電流値はポンプの個体差などによって変化する場合がある。そのため、個々のポンプの警報設定値を決定するために、初期運転時間のポンプ電流値の平均をとり、この平均電流値を初期電流値Isとする。次いで、初期電流値Isに所定値αを加算し、その和を警報設定値とする。すなわち、警報設定値=Is+αである。初期電流値Isはポンプ稼働開始後12時間のポンプ電流値の平均値を自動計算して求めることができる。また、+αの値は、メインポンプでは初期値電流Isの+10%程度に設定され、ブースタポンプでは初期値電流Isの+50%程度に設定される。メインポンプのポンプ電流値は、流入ガス量等の影響を受け難く、したがって比較的安定しているため、+αは+10%程度でよいが、ブースタポンプのポンプ電流値は流入ガス量の影響を受け易く、ポンプ電流値の変動が大きいため、+αを+50%程度に設定するのがよい。
【0022】
上記ステップST1で故障予知警報設定値を決定した後、ステップST2でメインポンプの故障予知計算を行う。続いてステップST3で、ステップST2での故障予知計算結果が警報設定値以下であるか、以上であるかを判定する。その結果が警報設定値以下であるときには、ステップST2に戻って処理を繰り返す。しかし、結果が警報設定値以上であるときには、次のステップST4で故障予知警報を出力する。さらに、ステップST1に続いてステップST5でブースタポンプの故障予知計算を行う。続いてステップST6で、ステップST5での計算結果が警報設定値以下か、以上かを判定する。警報設定値以下であれば、ステップST5に戻って処理を繰り返し、警報設定値以上であれば、次のステップST4で故障予知警報を出力する。
【0023】
〔メインポンプの故障予知〕
図4は、メインポンプの故障を予知する方法を説明するための図である。スクリュー型のドライ真空ポンプでは、図1に示すように、ケーシング11の内面に反応副生成物Mが堆積してきた場合、スクリュー型のロ一夕12は反応副生成物を掻き出す動作をする。このとき、瞬時的に負荷がかかるため、図4に示すように、ポンプ電流値Iが一時的に上昇する。即ち、ポンプ電流値Iは初期電流値Is+1Aを越え、パルス状のピーク電流値Ipとなる。内面への反応副生成物Mの付着量が増えてくると、反応副生成物Mの掻き出しによるピーク電流値Ipが頻繁に発生するようになり、最終的には、掻き出しきれない反応副生成物がロ一夕12とケーシング11との間に堆積するので、ロータ12が反応副生成物と摺動接触し、過負荷を起す。この挙動に着目して、ピーク電流値Ipの単位時間当り(図では60分当り)の発生回数に基づいて故障予知警報設定値を選定する。次いで、実際に発生するピーク電流値Ipの発生回数をカウントし、該カウント数が故障予知警報設定値以上になった場合に故障予知警報を出力する。
【0024】
〔ブースタポンプの故障予知〕
図5乃至図7は、ブースタポンプ故障予知を説明するための図である。ルーツ型のブースタポンプは、図2に示すように、ケーシング21の内面に反応副生成物Mが堆積してきた場合、ロータ22の側面がケーシング21の側面に堆積した反応副生成物Mに摺動接触する。このロータ22の側面とケーシング21の側面に堆積した反応副生成物Mとの摺動接触により、ポンプ電流値Iは、図6に示すように、徐々に上昇する。反応副生成物Mの付着量が増え、ロータ22の側面とケーシング21の側面との間の隙間が閉塞されると、ロータは摺動接触による過負荷状態となり、停止する。このため、図6に示すように、所定の積分時間(図6では1分間)にわたってポンプ電流値Iを積分してポンプ電流積分値Iを求める。このポンプ電流積分値Iが、故障予知警報設定値として設定したポンプ電流積分値(図6では、ポンプ電流積分初期値IIS+2Amin)に達し又は越えたときに、警報が生成される。
【0025】
ただし、ブースタポンプは、ポンプに流入するガス量の影響によってポンプ電流値Iが大きく変化する特性があるために、ポンプ電流値Iの上昇がガスの流入によるものか、反応副生成物Mの堆積によるものかを判断する必要がある。そこで、ポンプにガスが流入するとポンプ内部の圧力が上昇することに着目し、メインポンプのケーシング段間部(2段のロー夕で構成されているメインポンプの段間部)に圧力センサを設置して圧力センサの検出圧力値とポンプ電流値とを同時に監視して故障を判断することが望ましい。図5は、圧力センサの検出圧力値である、ポンプ内部圧力Pの変化とその検出方法とを説明する図である。
【0026】
ポンプ内部圧力値は、後述するように、故障予知計算の切換えに用いられる。流入ガスの量は成膜プロセス、クリーニングプロセス等プロセス工程により変動するので、図5に示すように、成膜プロセスのようにガス量の少ない工程でのポンプ内部圧力値より高いところに下側の圧力設定値PLOWを設定し、クリーニングプロセスのようにガス量の大きな工程でのポンプ内部圧力値より高いところに上側の圧力設定値PHIGHを設定する。
【0027】
(1)大気引き時
大気引き時などにはポンプ内圧力Pが極端に上昇し、ポンプ電流値Iも大きくなる。このような場合、ポンプ内圧力Pが圧力設定値PHIGH以上になったところで、反応副生成物によるポンプ電流値Iの上昇ではないと判断し、故障予知の計算をキャンセルする。
【0028】
(2)ポンプ内圧力Pが圧力設定値PL0W以下の場合
成膜ガス導入時等の、ガス量が比較的少なくてポンプ内圧力が圧力設定値PLOW以下の部分では、ポンプ電流値Iを一定時間にわたって積分して積分値Iを求め、該積分値Iが警報設定値(ポンプ電流積分初期値IIS+2Amin)以上になったときに警報を出力する(図6の検出方法A)。
【0029】
(3)ポンプ内圧力Pが圧力設定値PLOW以上の場合
クリーニングガス導入時等のガス量が多い場合には、ポンプ内圧力Pが大きく上昇し、ブースタポンプのポンプ電流値Iの変動も大きくなる。ポンプ内圧力Pが圧力設定値PLOW以上になったとき、上記(2)の積分計算を中止し、新たにポンプ電流値Iの積分を開始して警報設定値を再設定する。ポンプ電流値Iの積分値Iがこの警報設定値を越えたときに警報を出力する(図7の検出方法B)。
【0030】
〔真空ポンプ故障予知システム〕
次に、真空ポンプ故障予知システムについて説明する。図8は、現状のドライ真空ポンプ集中監視システムのシステム構成例を示す図である。ドライ真空ポンプDVP1、DVP2、…、DVPnは集中監視システム101の関連するLonアダプタ103と通信回線102で接続され、各Lonアダプタ103はネットワーク配線104で接続されている。また、ネットワーク配線104上には、複数の集中監視用コンピュータ(パソコン)105、105が接続されている。
【0031】
ドライ真空ポンプDVP1、DVP2、…、DVPnから、RS232C通信を行う通信回線102を介して各Lonアダプタ103ヘポンプデ一夕を送信し、取得したデータはネットワーク配線104を経由で集中監視用コンピュータ105に送られて蓄積される。一つのLonネットワークには最大3000台のドライ真空ポンプDVPが接続可能である。集中監視用コンピュータ105は、これらのドライ真空ポンプDVP1、DVP2、…、DVPnの運転情報(温度、電流値等)及び警報情報(アラーム・ワーニング)を表示し、半導体製造工場や液晶製造工場内に設置される真空ポンプを一括管理する。
【0032】
本発明に係る真空ポンプ故障予知システムの構築にあたっては、上記集中監視システムについて下記の点を考慮する必要がある。
(1)既存の集中監視システムに故障予知機能を追加する。
(2)ポンプの既存のソフトウエアを変更しない。
(3)パルス状に発生するメインポンプのピーク電流を捕らえるため、1秒程度毎のデータ収集が必要である。ポンプの経時変化を把握するために、この1秒程度毎のデータを1週間分以上保存できるようにする。
(4)故障予知結果を既設の集中監視システムの集中監視用コンピュータ105でモニタできる。
【0033】
上記(1)乃至(4)の点を満たすため、新たにドライ真空ポンプDVP1、DVP2、…、DVPnと各Lonアダプタ103との間に故障予知アダプタ106(点線で示す)を設置することが望ましい。
【0034】
〔真空ポンプ故障予知システムのシステム構成〕
図9は、ドライ真空ポンプDVPとLonアダプタとの間に設置する故障予知アダプタ106のシステム構成例を示す図である。図示するように、故障予知アダプタ106はポンプデ一夕蓄積部106aと、故障予知実行部106bと、データ作成部106cとを備えている。故障予知アダプタ106からドライ真空ポンプDVPに、1秒毎のポンプデータを要求し、この要求に応じて、ドライ真空ポンプDVPは1秒毎のポンプデータをポンプデータ蓄積部106aに送り、そこに蓄積する。同時に、故障予知実行部106bは、ポンプデータ蓄積部106aに蓄積されたポンプデータをもとに、図3の故障予知計算フローに基づいて、故障予知を行う。一方、故障予知アダプタ106は、Lonアダプタ103からの2秒毎のデータ要求に応答して、ポンプデ一夕蓄積部106aに蓄積されている最新データに故障予知実行部106bで作成された故障予知結果データを加算し、その結果のデータをLonアダプタ103に送る。
【0035】
上記の構成の故障予知アダプタ106は、図8の集中監視システムの各ドライ真空ポンプDVP1、DVP2、…、DVPnとそれに接続されたLonアダプタ103との間に接続される。集中監視システムは、故障予知アダプタ106から故障予知結果が送られてくると、集中監視用コンピュータ105上にメッセージを表示する。このとき、故障予知アダプタ106は、既存の集中監視システムと互換性のあるフォーマットで通信を行うので、ドライ真空ポンプDVP及びLonアダプタ103でソフトウエアを変更する必要がない。また、既存の集中監視システムでは、Lonネットワークのデータ通信時間の能力に限界があり、1秒毎にデータ収集するとなると、接続可能なポンプ台数が非常に少なくなる。このため、故障予知アダプタ106内のポンプデータ蓄積部106aにポンプデータを蓄積保存する構成としている。
【0036】
代わりに、ポンプデータ蓄積部、故障予知実行部、データ作成部からなる真空ポンプ故障予知部からなる故障予知アダプタを、図8の各Lonアダプタ103に設けてもよい。また、ポンプデータ蓄積部、故障予知実行部、データ作成部からなる真空ポンプ故障予知部を、ドライ真空ポンプDVP自体を制御する制御部(図示せず)に設け、個々のドライ真空ポンプDVPの故障予知システムを構成することも可能である。
【0037】
現状では、ポンプデータ量は1日当り約6メガバイトであり、1週間分以上のデータを蓄積するためには、故障予知アダプタ106は数十〜数百メガバイトのデータを保存することが必要になる。これを安価に実現するために、故障予知アダプタ106は、ポンプデータ蓄積部106aに、ディジタルカメラ等で使用される一般的なコンパクトフラッシュ(登録商標)メモリカード106dを使用することができる。さらに、保存形式に、パソコンで使用されているファイルシステムを採用し、採取したデータをそのままパソコンで閲覧できるようにすることも可能である。
【0038】
一つの実施の形態においては、故障予知アダプタ106は256メガバイトのメモリカードを搭載し、ドフイ真空ポンプDVPからの1秒毎のポンプデータを約6週間分保存できる。また、故障予知アダプタ106は、入出力用の2つのRS232C通信ポート、サービス用パソコンとの直接接続用の1つのRS232C通信ポート、状態表示用LED、及び、瞬時停電に備えて数秒間の電源瞬断をバックアップする電源等を具備している。故障予知のための警報設定値等は、故障予知アダプタ106に直結することができるパソコン上で走る専用のソフトアエアで変更することが可能である。
【0039】
上記の例はLonネットワークを用いた集中監視システムを示しているが、集中監視システムに対して任意の通信方法を適用できる。また、故障予知システムを構成する上で必要な規模に応じて、デ一夕保存量は可変である。
【0040】
本真空ポンプ故障予知システムの有効性を確認するために、実際に液晶のP―CVDプロセスにおいて使用されたドライ真空ポンプDVPの故障予知を実施した。ポンプ電流監視直後はメインポンプのポンプ電流は安定であったが、或る期間にわたって運転した後にはポンプ電流値にピーク電流が現れ始め、最終的にポンプ停止に至った。このピーク電流の回数の推移を図10に示す。図10に示すように、ポンプは運転開始から63日目に停止した。また、図10は、ポンプ停止前から(図では9日前から)ピーク電流の現れる回数が増大することを示している。このことから、メインポンプについては、ピーク電流の現れる回数が警報設定値を越えたときに警報を生成することにより故障予知が可能であることが確認できた。
【0041】
上記の例は、液晶のP−CVDプロセスにおいて使用されたドライ真空ポンプについて本発明に係る真空ポンプ故障予知システムを適用した実験結果を示したが、他にもポンプ内部に反応副生成物が堆積する重負荷プロセスが多数あり、これらのプロセスにおいても、本発明に係る真空ポンプ故障予知システムを用いることによりドライ真空ポンプの故障予知が可能であることは当然である。
【0042】
以上、本発明の若干の実施の形態を説明したが、本発明はこれらの実施の形態に限定されるものではない。特許請求の範囲及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】メインポンプに使用するスクリュー型のドライ真空ポンプの構成例を概略的に示す図である。
【図2】ブースタポンプに使用するルーツ型のドライ真空ポンプの構成例を概略的に示す図である。
【図3】本発明に係る真空ポンプ故障予知方法の処理フローを示す図である。
【図4】本発明に係る、メインポンプのポンプ電流のピーク発生回数による故障予知方法を説明する図である。
【図5】本発明に係る、ブースタポンプの内圧力による故障予知方法を説明する図である。
【図6】本発明に係る、ブースタポンプのポンプ電流積分値による故障予知方法を説明する図である。
【図7】本発明に係る、ブースタポンプのポンプ電流積分値及びポンプ内圧力による故障予知方法を説明する図である。
【図8】現状のドライ真空ポンプ集中監視システムのシステム構成例を示す図である。
【図9】本発明に係る真空ポンプ集中監視システムの故障予知アダプタの構成例を示す図である。
【図10】メインポンプにおけるピーク電流出現回数の推移を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空ポンプの故障を予知する真空ポンプ故障予知方法であって、
前記真空ポンプのロ一夕を回転させるモータの電流の積分値若しくは平均値が所定の警報設定値を超えたときに故障を予知して警報を発生することを特徴とする真空ポンプ故障予知方法。
【請求項2】
請求項1に記載の真空ポンプ故障予知方法であって、前記警報設定値は、前記モータの初期運転時の電流平均値と所定値αとの和であることを特徴とする真空ポンプ故障予知方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の真空ポンプ故障予知方法であって、前記真空ポンプの故障予知は前記モータの電流値が単位時間当りに前記警報設定値を超えた回数に基づいて決定されることを特徴とする真空ポンプ故障予知方法。
【請求項4】
ケーシングと該ケーシング内に回転自在に配置されたロ一夕を具備し、該ロータの回転により気体を吸込み吐出す真空ポンプの故障を予知する真空ポンプ故障予知システムであって、
前記真空ポンプが、
複数段の前記ロータと、
該ロータ段間に設けられた圧力センサと、
前記ロータを回転させるモータの電流の積分値若しくは平均値の計算を行い、該積分値若しくは平均値が所定の警報設定値を超えたときに前記真空ポンプの故障予知を行う故障予知部と、
を備えており、
前記故障予知部が、前記圧力センサで検出した圧力値に基づいて、故障予知計算方法を切り替える若しくは中断する
ことを特徴とする真空ポンプ故障予知システム。
【請求項5】
請求項4に記載の真空ポンプ故障予知システムであって、前記故障予知部を前記真空ポンプの本体の制御部に設けたことを特徴とする真空ポンプ故障予知システム。
【請求項6】
複数の真空ポンプをネットワークに接続するネットワークアダプタと、該複数のネットワークアダプタを集中監視する集中監視用コンピュータとを備え、前記ネットワークアダプタを介して各真空ポンプから送られて来るポンプデータを前記集中監視用コンピュータで監視する真空ポンプ集中監視システムであって、
前記真空ポンプと前記アダプタの間に該真空ポンプの故障を予知する故障予知部を備えたポンプ故障予知アダプタを設けるか、又は前記ネットワークアダプタに前記真空ポンプの故障を予知する故障予知部を設けたことを特徴とする真空ポンプ集中監視システム。
【請求項7】
請求項6に記載の真空ポンプ集中監視システムであって、
前記ポンプ故障予知アダプタ又はネットワークアダプタは、真空ポンプのデータを蓄積するポンプデータ蓄積部を備え、
前記故障予知部は該ポンプデータ蓄積部のポンプデータを基にポンプ故障の予知をすることを特徴とする真空ポンプ集中監視システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2008−534831(P2008−534831A)
【公表日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−544661(P2007−544661)
【出願日】平成18年4月7日(2006.4.7)
【国際出願番号】PCT/JP2006/307878
【国際公開番号】WO2006/109861
【国際公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】