説明

真空検体採取容器

【課題】容器内に流入する検体の流入速度を抑制し、泡立ちの発生等を防止することができる真空検体採取容器を提供する。
【解決手段】一端が閉塞し、他の一端が開口している容器と、前記容器の開口端を着脱自在に密封し得る栓体とからなり、針管を刺入れ、検体を採取するために用いる内部が減圧された真空検体採取容器であって、前記栓体は、把持可能な頭部と、前記頭部から下垂して前記容器の開口端の内壁面に沿い、前記内壁面に嵌合応力を及ぼし得る足部とを有し、
前記頭部は、針管刺入可能な開口を有し、前記開口は、前記開口から前記足部に向かって奥まった位置に熱可塑性エラストマー又は熱硬化性エラストマーからなる針管刺入可能部を有し、少なくとも一つの舌状片が、前記針管刺入可能部を貫通する前記針管と相対する位置であって、前記針管から流入する検体が衝突するが、前記針管が刺入しないように離間した位置に設けられており、前記舌状片は、前記針管を前記針管刺入可能部に貫通して前記容器内に検体を流入させる際、前記検体が衝突することによって、前記検体の流入方向を変化させることができるように設けられている真空検体採取容器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器内に流入する検体の流入速度を抑制し、泡立ちの発生等を防止することができる真空検体採取容器に関する。
【背景技術】
【0002】
血液等の検体を採取するための密封容器としては、各種の真空検体採取容器が知られている。このような真空検体採取容器としては、例えば、真空採血管が最も一般的である。上記真空採血管としては、例えば、特許文献1に開示されたもの等が挙げられる。
【0003】
図6(a)〜(c)に特許文献1に開示された真空採血システムの一例を示した。この真空採血システムは、図6(a)に示した真空採血容器80と、図6(b)に示した真空採血用ホルダー83と、図6(c)に示した真空採血針85とからなる。真空採血容器80は、一端に開口を有する採血管82と、採血管82の開口を閉塞している栓体81とからなる。栓体81は、針穴シール性及びガスバリア性を備えた弾性材料からなる。また、真空採血用ホルダー83は、真空採血容器80が一端開口から挿入されるように構成されている。真空採血用ホルダー83の他端には、採血針保持穴84が設けられており、採血針保持穴84には雌ねじが形成されている。他方、真空採血針85は、両端に針先87、88を有する。針先87側には、雄ねじ部が形成されたハブ86が設けられている。ハブ86は、真空採血用ホルダー83の採血針保持穴84にねじ込まれ、固定されるように構成されている。
【0004】
図8は、特許文献1に開示された真空採血システムを用いて採血する方法を説明するための模式的斜視図である。図6及び図8を参照して採血工程を説明する。
採血に際しては、真空採血針85が、真空採血用ホルダー83の採血針保持穴84にねじ止めされる。次に、真空採血容器80が、ホルダー83内に挿入され、採血針85の針先87が栓体81を貫通しない程度に押し込まれ、針先87が一旦封止される。これは、針先88を血管に挿入した時に、針先87から血液が漏れるのを防止するためである。図8に示されているように、採血者は、採血針85、ホルダー83及び採血容器80が連結された構造全体を、被採血者の血管軸に沿った方向に寝かせるように手で保持しつつ、血管刺通側の針先88を血管に刺通する。次に、採血容器80をホルダー83内にさらに押し込むことにより、針先87が栓体81を貫通し、採血容器側と血管側の圧力差に応じて血液が採血容器80内に流入する。両側の圧力差がなくなると血液の流入が停止するため、その状態において、採血システム全体を移動させて針先88を血管から抜去する。
【0005】
採血針85は、いわゆるシングル採血針と呼ばれているものであり、1本の真空採血容器にのみ採血するときに用いられるものである。複数の採血容器に採血する場合には、このシングル採血針は用いることができない。即ち、採血容器を交換する際に針先88は血管に刺入されたままとしておかねばならないことから、シングル採血針を用いると針先87から血液が漏れてしまう。これに対して、図7に示した構造を有するマルチプル採血針89は、栓体刺通側の針先87に弾性鞘体90が外挿されており、針先87が気密的に被覆されており、血液の漏洩を防止し得るようにされている。
このようなマルチプル採血針89を用いる場合には、マルチプル採血針89とホルダー83とからなる組立て体を用意した後、血管にマルチプル採血針89の針先88を刺入する。しかる後、採血容器80がホルダー83内に挿入されて、採血容器80と血管とが連通される。
採血後には、例えば、生化学検査を行う場合には、血液の凝固完了を待って遠心分離を行うと、上清として血清が得られるので、栓体81を外して、ピペット等を用いて血清の一部を分取し、分析機器を用いて電解質、酵素、脂質等の種々の成分の濃度分析が行われる。残った検体は、栓体81によって採血容器を再び密封し、再検査のために冷蔵又は凍結され保存される。
【0006】
しかしながら、このような真空採血管を用いて採血を行った場合、血管側と採血管側の圧力差によって、血液を吸引採取するため、真空採血管内に、血液が高速で流入して、採血管底部に激しく衝突し、著しく泡立つことがしばしば起こる。
【0007】
このように血液と採血管底部とが激しく衝突すると、血液中の赤血球が破壊されたり、血小板が活性化されたりして、生化学検査値や血液凝固機能検査値に悪影響を及ぼすことがある。
また、血液が泡立ったまま凝固すると、赤血球が破壊されやすくなり、赤血球内容物が漏出して、生化学検査値等に悪影響を及ぼすことがある。これは、泡の部分に取り込まれた赤血球が乾きやすいためと考えられる。
【0008】
これに対して、例えば、特許文献2、3では、シリカとシリコーンオイルの混合物やポリオキシアルキレン変性シリコーンオイル等をゴム栓表面に塗布することによって、消泡を促進する方法が提案されている。
しかしながら、このような消泡効果を有する物質は、免疫学検査値に悪影響をもたらすことが知られているため、好ましくない。
【0009】
また、特許文献4では、側面から外周面に向かって針管より細い口径の通路を複数本有する特殊な円筒状構造物をゴム栓下部の窪みに収容することによって、血液の流入速度を減じる方法が提案されている。
この方法によれば、最初は、ゴム栓下部の窪みに完全に収容されることにより、この構造物の外周面に開口している通路が遮断されているが、ゴム栓を貫通しつつある針管の刃先が、徐々に円筒状構造物を採血管内部に向かって押し出すにつれ、円筒状構造物の通路が次第に露出し、血液が採血管内部に流入可能となる。採血管内外の圧力差が大きい初期には、露出している通路が少なく、圧力差が次第に小さくなるにつれて、露出する流路が増えるため、血液の流入速度を適度な範囲に制御できる。
【0010】
特許文献4に開示された方法の目的は、もともとは、血流が早すぎると、被採血者の血管が潰れてしまい、円滑な採血が行えなくなってしまうのを防ぐことにあるところ、血液の流入速度が抑制されれば、血液の採血管底部への激しい衝突や、泡立ちの回避にも有効であるようにも思われる。
【0011】
しかしながら、この方法では、ゴム栓を貫通する針管がこの構造物を採血管内部に押し出すためには、当該方法専用の通常よりも長い針管が必要となり、一般に流通している真空採血針との互換性に欠けるという問題があった。また、被採血者の血圧が低かったり、血管が細かったりした場合は、もともとの血流が弱いために、このような構造物中で生じる圧力損失に負けて、採血そのものが行えなくなってしまう恐れがあった。
【特許文献1】特開昭62−227316号公報
【特許文献2】特開昭60−145151号公報
【特許文献3】特開昭63−68138号公報
【特許文献4】特開昭57−86328号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、容器内に流入する検体の流入速度を抑制し、泡立ちの発生等を防止することができる真空検体採取容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、一端が閉塞し、他の一端が開口している容器と、前記容器の開口端を着脱自在に密封し得る栓体とからなり、針管を刺入れ、検体を採取するための内部が減圧された真空検体採取容器であって、前記栓体は、把持可能な頭部と、前記頭部から下垂して前記容器の開口端の内壁面に沿い、前記内壁面に嵌合応力を及ぼし得る足部とを有し、前記頭部は、針管刺入可能な開口を有し、前記開口は、前記開口から前記足部に向かって奥まった位置に熱可塑性エラストマー又は熱硬化性エラストマーからなる針管刺入可能部を有し、少なくとも一つの舌状片が、前記針管刺入可能部を貫通する前記針管と相対する位置であって、前記針管から流入する検体が衝突するが、前記針管が刺入しないように離間した位置に設けられており、前記舌状片は、前記針管を前記針管刺入可能部に貫通して前記容器内に検体を流入させる際、前記検体が衝突することによって、前記検体の流入方向を変化させることができるように設けられている真空検体採取容器である。
以下に本発明を詳述する。
【0014】
本発明者らは、鋭意検討した結果、真空検体採取容器において、所定の位置に舌状片を設けることによって、検体採取時に勢い良く流入してくる検体を、舌状片と衝突させ、検体の流入方向を容器本体の内壁面側に偏向し、内壁面に沿って穏やかに検体を流入させることができるため、泡立ち等の不具合の発生を防止することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
本発明の真空検体採取容器は、針管を刺入し、検体を採取するために用いるものであって、内部が減圧されている。このように減圧されていることによって、圧力差を利用して検体を容易に採取することが可能となる。
上記針管としては、採血等の通常の検体の採取に用いることができるものであれば特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。
【0016】
以下に、添付図面に示す実施形態に基づき本発明を詳述するが、本発明は当該実施形態のみに限定されるものではない。
図1は、本発明の真空検体採取容器の第一の実施形態を側面から見た部分切欠半断面図であり、真空検体採取容器1においては、容器本体2に栓体10が嵌合せしめられている。
図2aは栓体10を側面から見た部分切欠半断面図であり、図2bは栓体10の底面図である。図3は容器本体2を側面から見た部分切欠半断面図である。
【0017】
容器本体2は、一端が閉塞し、他の一端(開口端3)において開口している。
栓体10は、把持可能な頭部20と、容器本体2の開口端3を横断する隔壁部50とを有している。更に、隔壁部50から下垂して容器本体2の開口端3の内壁面4に沿い、かつ、内壁面4に嵌合応力を及ぼし得る足部30を有し、該足部30には容器本体2の内壁面4に接する部分に表面層32が設けられている。
隔壁部50の中央の開口部60には、開口部60から足部30に向かって奥まった位置に真空採血針の栓体刺通側の針管刺入可能部40が設けられている。また、足部30の下端近傍には、舌状片70が設けられている。
なお、本明細書において嵌合応力を及ぼし得るとは、栓体の着脱に摺動抵抗が伴うことを意味する。
【0018】
このような構造を有する真空検体採取容器1において栓体10を容器本体2に嵌合させると、栓体10の足部30の外径は窄まるような力を受け、容器本体2の内径は広がるような力を受ける。
【0019】
容器本体2を構成する材質としては特に限定されず、例えば、ガラス、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等が挙げられる。なかでも、透明性に優れていることが好ましいことから、ガラス、熱可塑性樹脂等が好ましい。特に、ガスバリア性に優れることから、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のエステル系熱可塑性樹脂が好適に用いられる。
【0020】
頭部20及び隔壁部50を構成する材質としては特に限定されず、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、アルミニウム等の金属、セラミックス等が挙げられる。なかでも、成形性に優れることから、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート等の熱可塑性樹脂が好適に用いられる。
【0021】
足部30は、頭部20及び隔壁部50と同様に熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、アルミニウム等の金属、セラミックス等からなるものであってもよいが、後述する針管刺入可能部40と同様に熱可塑性エラストマー又は熱硬化性エラストマーからなるものであることが好ましい。
【0022】
真空検体採取容器1は、針管刺入可能部40を有することによって、容器本体2から栓体10を外すことなく、針管を密封された容器本体2の内部に刺入して、検体を注入したり、中の検体を分取したりすることができる。
針管刺入可能部40は、熱可塑性エラストマー又は熱硬化性エラストマーからなる。このような針管刺入可能部40を有することによって、針穴シール性をより一層高めることができる。
【0023】
針管刺入可能部40を構成する熱可塑性エラストマーとしては特に限定されず、例えば、オレフィン系、スチレン系、エステル系、アミド系、ウレタン系等が挙げられる。これらの熱可塑性エラストマーは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
針管刺入可能部40を構成する熱硬化性エラストマーとしては特に限定されず、例えば、天然ゴム系、イソプレンゴム系、イソブチレン・イソプレンゴム系、スチレン・ブタジエンゴム系、ネオプレンゴム系、シリコンゴム系等が挙げられる。これらの熱硬化性エラストマーは、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
また、熱可塑性エラストマー、熱硬化性エラストマーを問わず、密封容器としての気密性を高めるために、イソブチレン・イソプレン系加硫ゴムの好ましくは10倍以下、より好ましくは6倍以下、更に好ましくは3倍以下の、酸素透過係数(25℃)を有するガスバリア性に優れたものが好適である。
針管刺入可能部40は、予め射出成形又は圧縮加硫成形したものをはめ込んでもよいし、インサート成形法により一体成形してもよい。
【0024】
針管刺入可能部40を構成する熱可塑性エラストマー又は熱硬化性エラストマーには、予めエチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、エチレン−メタクリル酸エステル共重合体や、好ましくは30以上、より好ましくは50以上、更に好ましくは70以上の高MFR値を有するポリエチレン、ポリプロピレン等が成形時の流動性改善剤として配合されていてもよい。この場合、流動性改善剤の配合量は20重量%以下であることが好ましい。20重量%を超えると、エラストマーとしての弾性的性質に悪影響を及ぼすことがある。より好ましくは10重量%以下、更に好ましくは5重量%以下である。
【0025】
針管刺入可能部40は、JIS硬度A又はASTMshore硬度Aが80以下であることが好ましい。80を超えると、針管刺入抵抗が増大することがある。より好ましくは60以下である。
【0026】
足部30は、少なくとも容器の内壁面に接する部位に熱可塑性エラストマー又は熱硬化性エラストマーからなる表面層32を有する。表面層32は、足部30と容器本体2との密封性を高めることができる。
表面層32を構成する熱可塑性エラストマー又は熱硬化性エラストマーとしては、針管刺入可能部40を構成する熱可塑性エラストマー又は熱硬化性エラストマーと同様のものを用いることができる。
【0027】
表面層32の表面には、栓体10を容器本体2に嵌合させる際の摩擦抵抗を低減するために、各種オイル、ワックス、脂肪酸/脂肪酸塩、脂肪酸アミド、界面活性剤、可塑剤、滑性無機微粉末、又は、滑性有機微粉末等の潤滑剤が塗布されていてもよい。また、予め表面層32を構成する熱可塑性エラストマー又は熱硬化性エラストマーにこれらの潤滑剤が配合されていてもよい。
【0028】
表面層32は、JIS硬度A又はASTMshore硬度Aが80以下であることが好ましい。80を超えると、栓体10の容器本体2への嵌合時の抵抗が増大したり、容器本体2の内面に対する密着性が低下したり、作業性や気密性に劣ることがある。より好ましくは60以下である。
【0029】
舌状片70は、針管刺入可能部40を貫通する上記針管と相対する位置であって、上記針管から流入する検体が衝突するが、上記針管が刺入しないように離間した位置に少なくとも一つ設けられている。すなわち、舌状片70は、前記針管を前記針管刺入可能部40に貫通して前記容器本体2内に検体を流入させる際、前記検体が衝突することによって、前記検体の流入方向を変化させることができるように設けられている。
【0030】
舌状片70は、針管刺入可能部40を貫通する上記針管と相対する位置に設けないと、流入した検体が舌状体に衝突せず、検体の流入方向を偏向させることができない。
本発明の真空検体採取容器を用いて、検体の採取を行う際、針管刺入可能部40を貫通した針管先端が、更に舌状片70に刺入すると、検体の流入そのものが遮断され、採血を行うことができなくなる。
一方、針管刺入可能部40と舌状片70との離間距離が大きすぎると、流入した検体中に舌状片が埋没し、検体の流入方向を偏向させることができないことがある。
舌状片70は、採血終了時に真空検体採取容器を垂直に立てた際に、血液面よりも高い位置に設けることが好ましい。
【0031】
本発明の真空検体採取容器は、舌状片70を有することによって、真空検体採取時に勢い良く流入してくる検体を、容器本体2の内壁面4側に流入方向を偏向せしめ、内壁面4に沿って穏やかに流入させることによって、検体の流入速度を抑制することができる。その結果、容器本体2内において検体の泡立ちの発生等を防止することができる。
本発明の真空検体採取容器を採血に用いた場合には、血液が勢い良く容器底部に直接衝突して泡立ったり、血液中の赤血球や血小板が破壊されたりすることを防止することができるため、各種の臨床血液検査への悪影響を与えることなく好適に使用することができる。
【0032】
舌状片70は、容器本体2の軸方向の投影面積において、該容器本体2の内部断面積未満となるが、血液が舌状片70を越えて容器本体2の底部側に円滑に流入し、かつ、舌状片70と針管刺入可能部40の下端面との間に貯留することがないようにするために、好ましい面積の下限は、容器本体2の内部断面積の1%、好ましい面積の上限は90%である。1%未満であると、流入する検体の流入方向を偏向することができず、泡立ち等の発生を防止することができないことがある。90%を越えると、すなわち、容器本体2底部側への検体流路面積が容器本体2の内部断面積の10%未満であると、例えば、採血を行った場合、採血終了後も、舌状片70周辺に血液が滞留しやすくなり、舌状片70周辺で凝固した血液が遠心分離によっても取り除かれず、血清を汚染する恐れがある。より好ましい下限は10%である。より好ましい上限は80%である。
【0033】
舌状片70は、流入する検体と衝突する舌状片面と、容器本体2の中心軸とのなす角度(狭角側)の好ましい下限が1度、好ましい上限が90度である。この範囲を超えると、流入する検体の向きを偏向させ、検体の泡立ち等を防止することができないことがある。流入する検体の向きを容器本体2の内壁面側に効率よく偏向させ、泡立ち等を防止するために、より好ましい下限は30度、更に好ましい下限は60度である。
【0034】
舌状片70は、頭部20等と同様に、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、アルミニウム等の金属、セラミックス等からなるものであってもよいが、針管刺入可能部と同様に上記熱可塑性エラストマー又は熱硬化性エラストマーからなるものであることが好ましい。上記熱可塑性エラストマー等からなることによって、舌状片は弾性変形することが可能となる。そのため、検体採取後に、栓体10を外さずに検体サンプリング針を栓体に刺入しても、舌状片が検体サンプリング針の侵入を妨げることはない。
【0035】
舌状片70は、単独で成形してもよく、頭部20、足部30、隔壁部50等とともに一体成形してもよい。
舌状片70を単独で成形した場合には、舌状片70を頭部20、足部30等に固定すればよい。舌状片70を頭部20等に固定する方法としては特に限定されず、接着、融着、嵌合等の従来公知の方法を用いることができる。
【0036】
本発明の真空検体採取容器において、容器本体2の内壁面4には、血液凝固促進剤、血液抗凝固剤、酵素阻害剤、検体保存安定剤等、種々の分析前処理剤が塗布されていてもよい。
従来は、検体採取後に、採取した検体と分析前処理剤とを転倒混和することによって、分析前処理剤を溶解又は分散させなければならなかった。これに対して、本発明の真空検体採取容器では、容器本体2に流入した検体は、舌状片70によって容器本体の内壁面4側に流入方向を偏向され、容器本体2の内壁面4に沿って流入する。そのため、容器本体2の内壁面4に分析前処理剤が塗布されていれば、検体採取とともに分析前処理剤の溶解又は分散を進行させることができ、検体採取後の転倒混和の労が軽減される。
【0037】
図4は、本発明の真空検体採取容器の第二の実施形態を側面から見た部分切欠半断面図である。真空検体採取容器6においては、容器本体7に栓体11が嵌合せしめられている。
図5aは、栓体11を側面から見た部分切欠半断面図であり、図5bは栓体11の底面図である。
栓体11は、円筒状の頭部21を有する。
針管刺入可能部41と、隔壁部と、該隔壁部から下垂して容器本体7の開口端の内壁面4に沿い、該内壁面4に嵌合応力を及ぼし得る足部と、舌状片71とは、一体成形されている。
【0038】
本発明の真空検体採取容器の第二の実施形態においては、舌状片71が針管刺入可能部41の下端近傍に一体成形されて設けられている。
本発明の真空検体採取容器の第二の実施形態においても、舌状片71は、針管刺入可能部41を貫通する上記針管と相対する位置であって、上記針管から流入する検体が衝突するが、上記針管が刺入しないように離間した位置に設けられている。すなわち、舌状片71は、前記針管を前記針管刺入可能部41に貫通して前記容器本体2内に検体を流入させる際、前記検体が衝突することによって、前記検体の流入方向を変化させることができるように設けられている。
【0039】
本発明の真空検体採取容器の第二の実施形態において、舌状片71は、上記熱可塑性エラストマー又は熱硬化性エラストマーからなるため、弾性変形することが可能である。そのため、血液等の検体を採取した後、サンプリングする際、栓体を外さずに容器本体7内に検体サンプリング針を栓体に刺入しても、舌状片71が検体サンプリング針の侵入を妨害することはない。
【0040】
容器本体7は、本発明の真空検体採取容器の第一の実施形態における容器本体2と同様の構成を有する。
頭部21は、本発明の真空検体採取容器の第一の実施形態における頭部20と同様の構成を有する。
針管刺入可能部41は、本発明の真空検体採取容器の第一の実施形態における針管刺入可能部40と同様の上記熱可塑性エラストマー又は熱硬化性エラストマーを用いて成形することができる。
舌状片71のその他の構成は、本発明の真空検体採取容器の第一の実施形態における舌状片70と同様の構成を有する。
【発明の効果】
【0041】
本発明によれば、容器内に流入する検体の流入速度を抑制し、泡立ちの発生等を防止することができる真空検体採取容器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0043】
(実施例1)
図4に示した真空検体採取容器と同様の構成を有する真空採血管を作製した。
表1に示した材料を用いて栓体を作製した。なお、栓体の構造及び寸法は図9に示す通りとした。
【0044】
【表1】

【0045】
ポリプロピレン(「サンアロマー」、荷重たわみ温度(0.45MPa):約95℃、サンアロマー社製)を使用して、栓体の頭部を射出成形した。
【0046】
次に、スチレン系熱可塑性エラストマー(「ラバロン」、JISA硬度:約50、三菱化学社製)を先に用意した頭部にインサートして針管刺入可能部、舌状片等を成形し、図9の栓体を作製した。
なお、熱可塑性エラストマーには、予め、脂肪酸アミド系の滑剤を1.0重量%配合した。
別途、ポリエチレンテレフタレート(「ダイヤナイト」、荷重たわみ温度(0.45MPa):約69℃、三菱レイヨン社製)を用いて、開口端部の内径10.7mm、外径13.2mm、全長100mm、容量7mLの採血管を射出成形し、これに減圧状態で栓体を打栓して、6mL採血用の真空採血管を作製した。
【0047】
(比較例1)
舌状片を設けなかったこと以外は、実施例1と同様の方法により、栓体及び真空採血管を作製した。
【0048】
(評価)
真空採血用ホルダーに真空採血用バタフライ針(Blood Collection Set、BECTON DICKINSON社製)を固定し、実施例1及び比較例1で作製した真空採血管を垂直に立てた状態で、0.05重量%のドデシル硫酸ナトリウムを溶解して得られた溶液を吸引した。
【0049】
(流れの向き)
真空採血管内の溶液の流れの向きについて、流れの先端が採血管内のどの位置に衝突したかを目視によって観察し、以下の基準で評価を行った。結果を表2に示す。
○:流れが真空採血管の内壁面に衝突した。
×:流れが真空採血管の底部に衝突した。
【0050】
(泡立ち)
真空採血管内の溶液の泡立ちの程度を目視によって観察し、以下の基準で評価を行った。結果を表2に示す。
○:泡立ちが軽微であった。
×:著しい泡立ちが生じた。
【0051】
【表2】

【0052】
従来の真空採血管と同様の構成を有する比較例1では、吸引された水流が、ほぼ真っ直ぐに採血管底部に衝突して、著しく泡立った。
これに対し、実施例1では、舌状片によって、吸引された水流の向きが明らかに偏向され、採血管頭部から40〜70mm下方の内壁面に衝突した後、内壁面に沿って、採血管底部に流下した。その結果、泡立ちが有意に抑制された。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明によれば、容器内に流入する検体の流入速度を抑制し、泡立ちの発生等を防止することができる真空検体採取容器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の真空検体採取容器の第一の実施形態を側面から見た部分切欠半断面図である。
【図2a】図1に示す真空検体採取容器の栓体を側面から見た部分切欠半断面図である。
【図2b】図1に示す真空検体採取容器の栓体の底面図である。
【図3】図1に示す真空検体採取容器の容器本体を側面から見た部分切欠半断面図である。
【図4】本発明の真空検体採取容器の第二の実施形態を側面から見た部分切欠半断面図である。
【図5a】図4に示す真空検体採取容器の栓体を側面から見た部分切欠半断面図である。
【図5b】図4に示す真空検体採取容器の栓体の底面図である。
【図6】従来の真空採血システムの基本的な構成を示す図である。
【図7】マルチプル採血針を示す側面図である。
【図8】真空採血システムを用いて採血する際の状態を示す斜視図である。
【図9】実施例1において作製した栓体の構造及び寸法を示す図である。
【符号の説明】
【0055】
1、6 真空検体採取容器
2、7 容器本体
3 開口端
4 内壁面
5 外壁面
10、11 栓体
20、21 頭部
30 足部
32 表面層
40、41 針管刺入可能部
50 隔壁部
60 隔壁開口部
61 針管刺入可能部の下端面
70、71 舌状片
80 真空採血容器
81 栓体
82 採血管
83 ホルダー
84 採血針保持穴
85 真空採血針
86 ハブ
87、88 針先
89 マルチプル採血針
90 弾性鞘体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端が閉塞し、他の一端が開口している容器と、前記容器の開口端を着脱自在に密封し得る栓体とからなり、針管を刺入れ、検体を採取するために用いる内部が減圧された真空検体採取容器であって、
前記栓体は、把持可能な頭部と、前記頭部から下垂して前記容器の開口端の内壁面に沿い、前記内壁面に嵌合応力を及ぼし得る足部とを有し、
前記頭部は、針管刺入可能な開口を有し、
前記開口は、前記開口から前記足部に向かって奥まった位置に熱可塑性エラストマー又は熱硬化性エラストマーからなる針管刺入可能部を有し、
少なくとも一つの舌状片が、前記針管刺入可能部を貫通する前記針管と相対する位置であって、前記針管から流入する検体が衝突するが、前記針管が刺入しないように離間した位置に設けられており、
前記舌状片は、前記針管を前記針管刺入可能部に貫通して前記容器内に検体を流入させる際、前記検体が衝突することによって、前記検体の流入方向を変化させることができるように設けられている
ことを特徴とする真空検体採取容器。
【請求項2】
足部又は舌状部は、熱可塑性エラストマー又は熱硬化性エラストマーからなることを特徴とする請求項1記載の真空検体採取容器。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3】
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【図4】
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【図5a】
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【図5b】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−302077(P2008−302077A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−152956(P2007−152956)
【出願日】平成19年6月8日(2007.6.8)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】